説明

酸処理方法及び装置

【課題】 リグノセルロース系原料の濃酸処理による糖化プロセス及びリグノセルロース系原料からのリグノフェノール誘導体及び糖の回収プロセスにおける酸処理工程において、リグノセルロース系原料と酸との混合の初期に急激な粘度上昇及び局所的な昇温が起こるという問題点を解決する。
【解決手段】 本発明の一態様は、リグノセルロース系物質と酸とを混合してホロセルロースの糖化を行う酸処理方法、又は、リグノセルロース系物質にフェノール誘導体を収着させ、次に酸で処理することによってリグノフェノール誘導体を含む糖・酸混合液を得るプロセスにおける酸処理工程において、酸溶液を撹拌しながら、酸溶液中にリグノセルロース系物質又はフェノール誘導体収着リグノセルロース系物質を投入して混合を行い、この際、混合液が液状態を保持するように酸溶液へのリグノセルロース系物質又はフェノール誘導体収着リグノセルロース系物質の投入量を調整することを特徴とする方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロース系物質から、糖を回収したり、或いはリグノフェノール誘導体と糖とを効率的に分離・回収するプロセスにおける改良に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会においては石油などの化石資源の利用は不可欠なものとなっているが、化石資源は再生産が不可能であり、近い将来資源の枯渇が懸念されており、化石資源に代わる資源の一つとしてバイオマス資源に対する関心が高まっている。中でも木質系及び草本系のバイオマス資源は、地球上に膨大に存在し、短期間で生産することが可能で、適切な維持管理によって持続的に供給することが可能な点で注目されている。更に、木質系及び草本系のバイオマス資源は、資源として利用した後は、自然界で分解して新たなバイオマス資源として再生されるという点で、益々注目されるようになっている。しかしながら、木質系及び草本系のバイオマス資源(リグノセルロース系物質)の利用に関しては、これまで炭水化物(セルロース)をパルプとして分離回収したり、又はセルロース・ヘミセルロース(これらを総称してホロセルロースと呼ばれている)を酸で可溶化した後に、糖として回収する利用方法が主であり、同じく木質系及び草本系のバイオマス資源に含まれるリグニンは残さとして扱われることが殆どで、資源としては未利用であった。セルロースをパルプとして回収する方法では、リグノセルロース系物質をアルカリで蒸解することでセルロース繊維質とリグニンとを分離するが、この際にリグニンは素材としての利用が困難なまでに分断される。一方、リグノセルロース系物質中のセルロース・ヘミセルロースを酸で可溶化する方法では、パルプ工業と比較してリグニン成分の変質が少ないと考えられるが、酸による攻撃を受けて分解したリグニンがその反応性の高さから再縮合するため、高分子素材として利用するには不適当なものになってしまう。
【0003】
リグノセルロース系物質中のリグニンの有効な利用を図るためには、まずリグノセルロース系物質をその構成成分、即ちリグニンと、セルロース及びヘミセルロースとに分離することが必要である。この手法として、リグノセルロース系物質にフェノール誘導体を含浸させた後、酸を加えて、リグノセルロース系物質をリグノフェノール誘導体と炭水化物とに分離するという方法が提案された(特許文献1、非特許文献1、2)。ここで提案されている方法の概要を図1に示す。この方法によれば、乾燥木粉などのリグノセルロース系材料に、フェノール誘導体、例えばクレゾールを含浸させて溶媒和(木粉にクレゾールをしみ込ませ、クレゾールを木粉中のリグニンの近傍に定着させた状態:以下、場合によっては収着とも言う)させた後、濃酸(通常は硫酸)を添加してホロセルロース成分を酸加水分解によって脱結晶化及び低分子化(糖化)して水溶液化させる(酸処理)。この際、酸と接触して生じたリグニンの高反応性サイトのカチオンがフェノール誘導体によって攻撃され、フェノール誘導体が導入される。また、ベンジルアリールエーテル結合が解裂することによってリグニンが低分子化される。これにより、リグニンが低分子化されると共に、基本構成単位のベンジル位にフェノール誘導体が導入されたリグノフェノール誘導体が生成する。次に、反応系(ここでは酸による反応液全体、即ちリグノフェノール誘導体、糖、及び酸の混合液を指す)を過剰の水で希釈することにより酸反応を停止した後、不溶分を遠心分離によって集めてリグノフェノール誘導体(固相)を分離する。一方、遠心分離により液相として酸・糖の混合液が得られる。
【0004】
また、リグノセルロース系物質中の固体ホロセルロース成分を糖化して回収する方法においては、所定の大きさに微細化したリグノセルロース原料と濃酸(一般的には硫酸)を混合し、リグノセルロース原料中の固体ホロセルロース成分を酸加水分解によって脱結晶化及び低分子化して水溶液化させて、糖酸混合液として回収する。
【特許文献1】特開平2−233701号公報
【非特許文献1】「天然リグニンのフェノール誘導体−濃酸2相系処理法による機能性リグノフェノール誘導体の合成」、船岡他、熱硬化性樹脂、vol.15, No.2 (1994), p.7-17
【非特許文献2】「相分離反応系を応用するフェノール系リグニン素材の誘導とその機能」、船岡他、熱硬化性樹脂、vol.16, No.3 (1995), p.35-49
【0005】
上記のプロセスにおいて、リグノセルロース原料又はフェノール誘導体を収着させたリグノセルロース原料と酸との混合による酸処理においては、一般的には、所定量のリグノセルロース原料又はフェノール誘導体を収着させたリグノセルロース原料を先に混合反応槽に収容して、ここに所定量の濃酸を投入したり、又は濃酸を投入しながら攪拌機で混合するという手法が採用されている。
【0006】
しかしながら、原料と酸の投入混合時間が長くなると反応時間差による反応系の不均一が生じる。反応系の不均一が生じると、ホロセルロースの糖化プロセスにおいては、過酸加水分解が起こり、糖の収率低下や、過加水分解物による不要成分の生成が起こる。また、リグノフェノール製造プロセスにおいては、リグノフェノールのスルフォン化現象を加速する等の問題がある。このため、リグノセルロース原料と酸との初期混合時間の短縮と全混合反応時間の管理が重要である。このため、初期混合時間は略15分以内とすることが望ましい。さらに、このリグノセルロース原料と酸との初期混合時には、ホロセルロースの脱結晶化反応が進行し、一時的に非常に強い粘性領域が発生し、高粘性の固体のような状態になる。いずれのプロセスの場合の混合においても、この脱結晶化反応の進行時に反応物を均一に混合するために高速且つ強力な攪拌混合が必要であり、ニーダーやナウタミキサーといった特殊な攪拌混合機が採用されている。これらの攪拌混合機は、本来、食品や医薬製造プロセスなどで使用されるものであり、設備価格が高い。また、強力な攪拌力を持つために強攪拌には向いているが、運転動力が大きく、強度も必要なため頑丈な設計になっている。また、強度面から金属材料を使用する必要があり、酸に対する耐蝕材質を多く使用しなければならず、さらに設備費を増加させる原因になっている。また、混合の完了後もある程度の処理反応時間をとることが好ましいため、その反応プロセス上、運転はバッチ方式が採用されている。しかしながら、これらの装置は、構造上及び設計上、大きさに限界があり、処理能力に限界がある。また、攪拌混合効率を保ちながらスケールアップをすることが難しく、実証試験結果から実用機へのスケールアップに多くのリスクを伴っている。また、リグノセルロース原料の嵩比重は0.1程度と非常に小さく、混合反応槽の実容量は原料容量で決定されるため、過剰な大きさの設備が必要になる。このため、混合槽の実質的な必要容量は混合反応後の液化容量に余裕を取る程度で良いが、実際にはこの5〜10倍の混合反応槽の容量が必要になっている。したがって、実用規模で処理能力を上げる必要がある場合は、混合反応槽を複数台数準備する必要がが発生し、更に設備費を増加させる原因になっている。
【0007】
また、前記に述べたホロセルロースの脱結晶化反応は、基本的には酸による加水分解反応であり、反応熱を発生する。高粘性の固体状のものを混合する場合、高速混合を行っても、流動性の高い液状に比較して局部的に温度上昇をもたらし、反応物に炭化等の変性を発生させる。この場合、反応槽に冷却機構を装備して、反応熱の除去を行っても、その効果は限定されており極めて少ない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記に説明したリグノセルロース系原料の濃酸処理による糖化プロセス及びリグノセルロース系原料からのリグノフェノール誘導体及び糖の回収プロセスにおける酸処理工程における問題点を解決するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の問題点を解決するための手段として、リグノセルロース系物質と酸とを混合してホロセルロースの糖化を行う酸処理方法において、酸溶液を撹拌しながら、酸溶液中にリグノセルロース系物質を投入して混合を行い、この際、混合液が液状態を保持するように酸溶液へのリグノセルロース系物質の投入量を調整することを特徴とする方法を提供する。また、本発明の他の態様は、リグノセルロース系物質にフェノール誘導体を収着させ、次に酸で処理することによってリグノフェノール誘導体を含む糖・酸混合液を得る方法であって、酸処理工程において、酸溶液を撹拌しながら、酸溶液中に、フェノール誘導体を収着させたリグノセルロース系物質を投入して混合を行い、この際、混合液が液状態を保持するように酸溶液へのフェノール収着リグノセルロース系物質の投入量を調整することを特徴とする方法を提供する。
【0010】
リグノセルロース系物質と酸とを混合して、リグノセルロース系物質中のホロセルロース成分(セルロースとヘミセルロース)を液化する処理において、当該技術において従来行われていたように、リグノセルロース系物質を混合反応槽に投入し、攪拌機で撹拌しながらそこに酸を投入すると、ホロセルロースが酸によって脱結晶化及び低分子化して可溶化する際に、一時的に非常に強い粘性領域が発生し、高粘性の固体が形成されるような状態になる。しかしながら、本発明方法では、まず、混合反応槽に酸を配置し、攪拌機で撹拌しながら、混合物が液状態を保つようにリグノセルロース系物質を制御しながら投入する。これによって、混合物の一過性の急激な粘度上昇領域が発生することを避けることができ、混合物の粘度上昇を極めて大幅に低減することができる。したがって、当該技術において従来行われていたように、非常に強力な撹拌力を持つニーダーやナウタミキサーなどの特殊な撹拌混合機を使用する必要がなく、汎用の混合攪拌機を用いて処理を行うことが可能である。また、常に液状態での混合が行われるので、混合物の局所的な温度上昇を避けることができ、炭化などの望ましくない副反応を抑制することができる。
【0011】
酸溶液へのリグノセルロース系物質の投入は、混合物が液状態を保つ限りにおいて、一定の速度で行ってもよいし、或いは初期に多く投入し、徐々に投入速度を減少させるという手法を採用することもできる。
【0012】
本発明によって処理することのできるリグノセルロース系物質としては、例えば間伐材、林地残材、製材屑、端材、建設廃材、草本、モミ殻、稲ワラ、古紙等を挙げることができる。木質系のリグノセルロース物質としては、スギ等の林地残材・製材屑などを好適に用いることができ、また、草本系のリグノセルロース物質としては、最近注目されているケナフのコア(心材)を粉砕したものなどを好適に用いることができる。これらの原料物質を、粉砕し、粒径を2mm以下に篩い分けて用いることが好ましい。
【0013】
酸処理において、酸としては、濃度65%以上の濃硫酸を用いることが好ましく。反応性を維持・継続するためには70〜75%の濃度の濃硫酸を用いることが好ましい。リグノセルロース系物質に対する酸の使用量は、リグノセルロース系物質の1倍〜10倍量が好ましく、2〜5倍量がより好ましい。なお、ここでの酸の「倍量」とは、絶乾のリグノセルロース系物質1kgに対する酸溶液の量(リットル数)を意味する。酸溶液中に、フェノール誘導体を収着させたリグノセルロース系物質を投入して混合を行う態様においては、フェノール誘導体を収着させる前の(即ち、収着させたフェノール誘導体の重量を含まない)絶乾のリグノセルロース系物質1kgに対する酸溶液の量(リットル数)を意味する。例えば「10倍量」とは、収着させたフェノール誘導体の重量を含まないリグノセルロース系物質1kgに対して酸溶液10Lを加えることを意味する。
【0014】
また、酸処理における酸の温度は、20〜45℃とすることが好ましく、30〜40℃とすることがより好ましい。
混合物が液状態を保つようにリグノセルロース系物質を制御しながら酸溶液中に投入する手法としては、例えば、混合液を目視で観察しながらリグノセルロース系物質を少量づつ液を撹拌しながら投入することができる。この際、リグノセルロース系物質の投入量が多すぎると、液面をリグノセルロース系物質が層状に覆うような状態となり、酸溶液中にリグノセルロース系物質が沈下しにくくなるので好ましくない。リグノセルロース系物質の投入量が更に多いと、投入したリグノセルロース系物質が高粘度の固体状となり、混合液の粘度が急激に上昇して撹拌混合に極めて大きな動力が必要になってしまう。リグノセルロース系物質の投入量が適切であると、投入したリグノセルロース系物質が速やかに酸溶液中に沈下し、酸による脱結晶化反応によって可溶化して酸溶液中に速やかに溶解する。
【0015】
また、本発明においてリグノセルロース系物質を制御しながら酸溶液中に投入する他の手法として、酸溶液を撹拌しながら、酸溶液中にリグノセルロース系物質を投入して混合を行う際に、混合液の粘度を測定して、粘度が所定値を超えて上昇しないようにリグノセルロース系物質の投入量を調整するという手法を採用することもできる。即ち、本発明の他の態様は、リグノセルロース系物質と酸とを混合してホロセルロースの糖化を行う酸処理方法において、酸溶液を撹拌しながら、酸溶液中にリグノセルロース系物質を投入して混合を行い、この際、混合液の粘度を測定して、粘度が所定値を超えて上昇しないようにリグノセルロース系物質の投入量を調整することを特徴とする方法に関する。また、本発明の他の態様は、リグノセルロース系物質にフェノール誘導体を収着させ、次に酸で処理することによってリグノフェノール誘導体を含む糖・酸混合液を得る方法であって、酸処理工程において、酸溶液を撹拌しながら、酸溶液中に、フェノールを収着させたリグノセルロース系物質を投入して混合を行い、この際、混合液の粘度を測定して、粘度が所定値を超えて上昇しないようにフェノール収着リグノセルロース系物質の投入量を調整することを特徴とする方法にも関する。
【0016】
混合液の粘度の測定は、例えば、混合攪拌機の負荷動力をモニターして、その上昇度合いによって検出することができる。混合攪拌機の負荷動力は、攪拌機の運転電流値によってモニターしてもよい。この場合、予備試験や経験などにより、混合攪拌機の負荷動力と混合液の粘度との関係を定めることができる。本態様によれば、例えば、混合攪拌機の負荷動力をモニターして混合撹拌運転を行いながら酸溶液中にリグノセルロース系物質を一定の速度で加え、負荷動力が所定値を超えて上昇したらリグノセルロース系物質の投入量を抑えるか又は投入を停止し、負荷動力が所定値以下に低下したらリグノセルロース系物質の投入量を増大又は再開させるという方法を採用することができる。
【0017】
本発明は、上述の方法を行うための装置にも関する。即ち、本発明の他の態様は、リグノセルロース系物質と酸とを混合してホロセルロースの糖化を行う酸処理方法において用いる反応装置であって、攪拌機を有する撹拌混合槽と、撹拌混合槽に酸溶液を投入する酸投入手段と、撹拌混合槽にリグノセルロース系物質を投入するリグノセルロース系物質投入手段と、撹拌混合槽内の混合液の粘度を測定する手段と、測定された混合液の粘度に応じてリグノセルロース系物質の投入量を制御する手段と、を含むことを特徴とする装置に関する。また、本発明の他の態様は、リグノセルロース系物質にフェノール誘導体を収着させ、次に酸で処理することによってリグノフェノール誘導体を含む糖・酸混合液を得るプロセスの酸処理工程において用いる反応装置であって、攪拌機を有する撹拌混合槽と、撹拌混合槽に酸溶液を投入する酸投入手段と、撹拌混合槽にフェノールを収着したリグノセルロース系物質を投入するフェノール収着リグノセルロース系物質投入手段と、撹拌混合槽内の混合液の粘度を測定する手段と、測定された混合液の粘度に応じてフェノール収着リグノセルロース系物質の投入量を制御する手段と、を含むことを特徴とする装置にも関する。
【0018】
本発明の一態様に係る装置の概要を図2に示す。リグノセルロース系物質の酸処理に用いる本発明の一態様に係る装置10は、撹拌混合槽11を具備する。撹拌混合槽11には、酸投入口12、リグノセルロース系物質投入口14、反応液排出口17が設けられており、撹拌混合槽の周囲には加温・冷却ジャケット16が配置されている。なお、加温・冷却ジャケットに代えて又はこれと組みあわせて、内部コイル式などの別方式の加温・冷却手段を採用することができる。また、撹拌混合槽11には、モーターM1に接続された撹拌装置13が配置されている。リグノセルロース系物質投入口14には、リグノセルロース系物質供給装置15が取り付けられている。図2には、スクリュー式フィーダー型の供給装置が示されているが、定量供給型のものであればよく、例えばプッシャー型の定量フィーダーを使用することもできる。フィーダーはモーターM2によって駆動される。
【0019】
まず、酸投入口12から所定温度に調整された所定量の酸溶液を撹拌混合槽11内に投入する。加温・冷却ジャケット16によって内容物の温度を一定に保ちながら、且つ撹拌装置13によって撹拌しながら、スクリュー式フィーダー15によってリグノセルロース系物質を投入口14より撹拌混合槽11内に定量供給する。且つ撹拌装置13を駆動するモーターM1の負荷動力(kW又はA)を測定器18でモニターし、負荷動力が所定の値を超えて上昇したら、制御装置19に信号を送り、スクリュー式フィーダー15を駆動するモーターM2の回転を弱めるか或いは停止することによって、リグノセルロース系物質の投入量を減少させるか或いは停止する。その後、負荷動力が所定の値以下に低下したら、スクリュー式フィーダー15を駆動するモーターM2の回転を再開するか或いは速くすることによって、リグノセルロース系物質の投入量を再開するか或いは増加させる。スクリュー式フィーダー15を駆動するモーターM2の回転速度は、制御装置19によって数段階に制御してもよいし、或いは無段階制御を行ってもよい。
【0020】
酸溶液へのリグノセルロース系物質の所定量の投入・混合が完了したら、その後一定時間撹拌混合を続けて、酸処理反応を十分に進行させることが好ましい。具体的には、リグノセルロース系物質の投入が完了した後、略4時間以内、より好ましくは略2時間以内、更に好ましくは略1時間以内撹拌混合を継続することが好ましい。
【0021】
撹拌混合が完了したら、得られた反応混合液を排出口17から回収する。
また、本発明においては、予めリグノセルロース系物質と酸との特定の混合比に対するリグノセルロース系物質の適当な投入速度を予備実験などによって求めておき、求められた投入速度でリグノセルロース系物質を酸溶液に投入することもできる。例えば、本発明者らによる研究(後述の実施例)により、フェノール収着リグノセルロース系物質を、リグノセルロース系物質に対して2〜5倍量の酸溶液に撹拌しながら投入してリグノフェノール誘導体を含む糖・酸混合液を得る場合には、フェノール収着リグノセルロース系物質を酸溶液中に5分〜15分で投入して混合を行うことにより、混合液の粘度の上昇なしに酸処理プロセスを実施することができることが分かった。また、リグノセルロース系物質を2〜5倍量の酸溶液に撹拌しながら投入してホロセルロースの糖化を行う酸処理方法においても同様である。即ち、本発明の他の態様は、リグノセルロース系物質と酸とを混合してホロセルロースの糖化を行う酸処理方法において、リグノセルロース系物質の重量に対して2〜5倍量の酸溶液を撹拌しながら、酸溶液中にリグノセルロース系物質を、5分〜15分で投入して混合を行うことを特徴とする方法に関する。また、本発明の他の態様は、リグノセルロース系物質にフェノール誘導体を収着させ、次に酸で処理することによってリグノフェノール誘導体を含む糖・酸混合液を得る方法であって、酸処理工程において、リグノセルロース系物質の重量に対して2〜5倍量の酸溶液を撹拌しながら、酸溶液中にフェノールを収着したリグノセルロース系物質を、5分〜15分で投入して混合を行うことを特徴とする方法にも関する。リグノセルロース系物質の投入時間は、5分〜10分とすることがより好ましい。
【0022】
本発明方法により、次のような効果が得られる。
(1)常に低粘性液での処理が可能なため強力な攪拌機が不要になる。
(2)攪拌動力を大幅に低減することができる。
(3)攪拌機及び混合反応槽の要求強度を低減でき、樹脂材料での製作が可能になる。
(4)樹脂を耐酸材料に使用でき、高級特殊耐蝕金属の使用が不要になる。
(5)樹脂製の安価な槽の使用が可能になる。
(6)混合撹拌装置のスケールアップが容易である。
(7)リグノセルロース系物質の原料体積ではなく、酸容量および反応後の混合液量に基づいて装置の容量を決定することができるため、設備を大幅に小型化することができる。
(8)多台数設備でも容易に設置することができ、処理能力に対するライン化が容易になる。
(9)攪拌混合液の粘度検出などにより、原料投入制御の自動化が容易である。
(10)常に液状態での混合なので、反応物の局所的な温度上昇を避けることができ、簡単な温度調節機構の設置で効率良く冷却・加温の自動温度調整が可能である。
(11)以上のことから、設備費を大幅に低減することができる。
(12)溶解槽と反応槽を組み合わせることにより、設備の連続化が可能になる。
【0023】
本発明方法は、例えば、本件出願人が出願した国際特許出願PCT/JP2004/016222号に記載されているリグノフェノール誘導体の製造方法における酸処理工程に適用することができる。上記国際特許出願に記載されているリグノフェノール誘導体の製造方法を以下に説明する。
【0024】
図3は、上記国際特許出願で開示されたリグノセルロース系物質から酸・糖混合液とリグノフェノール誘導体とを分離するプロセスの全体の概要を示すフロー図である。かかる方法によれば、木材、草本材などのリグノセルロース系物質に、まず粉砕、乾燥等の前処理を行い(1)、必要に応じて脱脂処理を行う(2)。次に、リグノセルロース系物質にフェノール誘導体を添加・含浸(収着)させる(3)。残留有機溶剤を乾燥させた後(4)、酸によって処理して、リグノセルロース系物質の細胞膜を酸で膨潤・破壊する(5)。これにより、リグノセルロース系物質の構成要素であるセルロース、ヘミセルロース、リグニンは、酸による攻撃を受けて分解する。分解したリグニンは予め添加・含浸したフェノール誘導体と反応結合してリグノフェノール誘導体を含む疎水性の固形物となって酸による更なる分解から保護される。一方、セルロース、ヘミセルロースについては、酸によって低分子化、液化(糖化)が進行する。以下の説明においては、このようなプロセスで得られた反応液を「リグノセルロース系物質、フェノール誘導体及び酸の反応混合液」と称する。このようにして得られた反応混合液を、水による希釈を行うことなくそのまま遠心分離等の固液分離にかけることによって、リグノフェノール誘導体を含む疎水性の固形物と、セルロース、ヘミセルロースが液化(糖化)した酸溶液に分離する(6)。リグノフェノール誘導体を含む疎水性の固形物は、脱酸・洗浄(7)によって残留する酸を洗浄・除去した後、固形分を回収して乾燥工程(8)にかけて、リグノフェノール誘導体(9)を得る。
【0025】
酸処理後の反応混合液の固液分離(6)によって液相として得られる酸・糖混合液は、種々の方法による処理にかけて糖を回収することができる。
以下、各工程に関して詳細に説明する。
【0026】
原料前処理工程(1)
リグノセルロース系物質、例えば間伐材、林地残材、製材屑、端材、草本、モミ殻、稲ワラ等を粉砕する。木質系原料としては、スギ等の林地残材・製材屑などを好適に用いることができ、また、草本系原料としては、最近注目されているケナフのコア(心材)を粉砕したものなどを好適に用いることができる。粉砕後、粒径を2mm以下に篩い分けることで、後段のフェノール誘導体の含浸効果を高め、反応性を向上させるという効果があるので好ましい。また、含水率を15〜20%程度に乾燥させると、篩い分け時に玉等の発生が少なく、原料粉の収率が向上するので好ましい。
【0027】
脱脂処理(2)
リグノセルロース系物質の種類によっては、樹脂分等を含む場合がある。これが後段の反応過程で阻害物質とならないように、フェノール誘導体を添加する前にリグノセルロース系物質の樹脂分を除去(脱脂)することが好ましい。脱脂方法としては、例えば、撹拌槽内にリグノセルロース系物質と有機溶剤とを投入し、十分に混合・撹拌することによって行うことができる。有機溶剤で脱脂を行うことにより、リグノセルロース系物質中の水分を除去するという効果も得られる。この目的で用いることのできる有機溶剤としてはアセトン、ヘキサンなどを用いることができ、使用量としてはリグノセルロース系物質の1〜10倍量が好ましい。なお、ここで規定する「倍量」とは、木粉1kgに対する有機溶剤の量(リットル数)を意味し、例えば「10倍量」とは、木粉1kgに対して有機溶剤10Lを加えることを意味する。また、有機溶剤を加えた後に1〜12時間撹拌することによって脱脂を十分に行うことが好ましい。なお、上記のように、本処理は必須の工程ではなく、処理対象のリグノセルロース系物質が樹脂分等を含んでいない場合などには行う必要はない。なお、本脱脂工程で用いる有機溶剤と、次段のフェノール誘導体含浸工程で用いる有機溶剤とが異なるものである場合には、次段のフェノール誘導体含浸を行う前に、リグノセルロース系物質を乾燥して、脱脂で用いた有機溶剤を除去することが好ましいが、両工程で用いる有機溶剤が同じものである場合にはこの乾燥・除去工程は省略可能である。
【0028】
フェノール誘導体含浸(3)
次に、フェノール誘導体を有機溶剤中に混合した溶液を、リグノセルロース系物質と混合して十分に撹拌することによって、リグノセルロース系物質にフェノール誘導体を含浸(収着)させる。この目的で用いることのできるフェノール誘導体としては、p−クレゾール、m−クレゾール、o−クレゾール、これらの混合体並びにフェノールなどを挙げることができる。この含浸工程では、リグノセルロース系物質にフェノール誘導体を十分に分散して含浸させることが望ましく、そのためにはフェノール誘導体を有機溶剤に混合・溶解して溶剤中に十分に分散させた状態でリグノセルロース系物質と接触させることが好ましい。また、リグノセルロース系物質へのフェノール誘導体の含浸を効率的にするためには、フェノール誘導体を有機溶剤中に溶解した溶液を、脱脂処理後のリグノセルロース系物質1kgに対して8L〜12Lの割合(ここでは、これを8〜12倍量とする)、好ましくは10倍量程度の量加えることにより、リグノセルロース系物質をフェノール誘導体溶液中に十分に浸した状態で含浸工程を行うことが好ましい。また、リグノセルロース系物質と溶液とを、室温、例えば10℃〜50℃において1〜24時間撹拌することによって、含浸を十分に進行させることが好ましく、撹拌中に約30℃の温度に維持することがより好ましい。フェノール誘導体を溶解するために用いることのできる有機溶剤としては、アセトン、ヘキサンなどを挙げることができ、上述の脱脂工程を行う場合には、脱脂工程と同じ有機溶剤を使用することができる。有機溶剤中でフェノール誘導体とリグノセルロース系物質とを混合・撹拌するために用いることのできる装置としては、円錐型リボン混合機(大川原製作所社製のリボコーン)などを挙げることができる。本工程では、リグノセルロース系物質を入れた混合槽に、有機溶剤中に溶解したフェノール誘導体を加えることで混合を行うことができるが、その際、フェノール誘導体を加える前に、リグノセルロース系物質が入れられた混合槽内を減圧すると、リグノセルロース系物質粒子間隙へのフェノール誘導体の浸透性を高めたり、リグノセルロース系物質細胞壁へのフェノール誘導体の浸透性を高めることができるので好ましい。更には、リグノセルロース系物質にフェノール誘導体を含浸させる方法として、木材への防腐剤注入などで利用されている加圧注入法を用いることができる。これは、リグノセルロース系物質が入れられた注入槽内を減圧にした後、フェノール誘導体を加圧注入するという方法であり、この方法によれば、リグノセルロース系物質の細胞膜レベルにまでフェノール誘導体を浸透させることができる。なお、本工程において、「リグノセルロース系物質へのフェノール誘導体の含浸」とは、必ずしもリグノセルロース系物質の粒子の内部へフェノール誘導体を浸透させる必要はなく、リグノセルロース系物質粒子の表面にフェノール誘導体を極めて均等に分散して付着させるようにしてもほぼ同等の効果が得られる。本明細書においては、このような形態も「含浸」或いは「収着」に含めている。
【0029】
乾燥(4)
フェノール誘導体が溶解された有機溶剤溶液とリグノセルロース系物質とを十分に撹拌して含浸を行わせた後、減圧して低温で残留有機溶剤を蒸発させることによって、フェノール誘導体が含浸したリグノセルロース系物質を乾燥させる。特に、フェノール誘導体を溶解するための有機溶剤としてアセトンを用いる場合、アセトンは後段の酸処理で生成するリグノフェノール誘導体を溶解するため、リグノフェノール誘導体と酸・糖混合液との固液分離を阻害するので、酸処理工程の前にアセトンを十分に除去する必要がある。また、アセトンなどの有機溶剤中のフェノール誘導体を木粉などのリグノセルロース系物質と接触させると、フェノール誘導体を含んだ有機溶剤の液滴が木粉の表面上に分散した状態で付着する。この状態で有機溶剤を蒸発させると、フェノール誘導体がリグノセルロース系物質の表面上に均一に分散されて付着する。
【0030】
酸処理(5)
次に、フェノール誘導体を含浸したリグノセルロース系物質を酸で処理する。この酸処理工程において、上記に説明した本発明に係る方法を採用することができる。
【0031】
酸処理工程によって、酸と接触して生じたリグニンの高反応性サイトのカチオンがフェノール誘導体によって攻撃され、フェノール誘導体が導入される。また、ベンジルアリールエーテル結合が解裂することによってリグニンが低分子化される。これにより、リグニンが低分子化されると共に、基本構成単位のベンジル位にフェノール誘導体が導入されたリグノフェノール誘導体が生成する。また同時に、リグノセルロース系物質中のセルロース、ヘミセルロースは、酸によって液化(糖化)されて、酸溶液中に溶解する。このようにして得られるリグノフェノール誘導体、酸及び糖の混合液を、「リグノセルロース系物質、フェノール誘導体及び酸の反応混合液」と称する。
【0032】
固液分離(6)
上記のようにして得られたリグノセルロース系物質、フェノール誘導体及び酸の反応混合液を、固液分離工程にかけて、リグノフェノール誘導体を含む固相と、糖化したセルロース、ヘミセルロースが溶解した酸の液相とに分離する。かかる固液分離工程には、遠心分離を利用することができる。この目的に用いることのできる遠心分離機としては、無孔式底部排出型遠心分離機を用いることができる。無孔式底部排出型遠心分離機を用いれば、粘着質のリグノフェノール誘導体固形分を閉塞なく酸・糖混合液から分離することが可能であるので好適である。この際、10〜60分間遠心分離を行うことが好ましい。遠心分離により、リグノフェノール誘導体を含む疎水性の固形分と、セルロース、ヘミセルロースが糖化(液化)して溶解した酸溶液とが、その比重差によってそれぞれ遠心分離機のバスケット内で内側、外側の2相に分離する。遠心分離機の回転を止めると、外側の酸・糖溶液が自重で装置下部に設けられた排出口から排出される。酸・糖溶液が排出された後、バスケット内に残留するリグノフェノール誘導体を含む疎水性の固形物を、掻き取り装置などを利用して下部排出口から排出する。
【0033】
また、この固液分離には、フィルタ等の膜分離を利用することもできる。この場合、酸処理後の反応混合液を、フィルタを布設した濾過槽に導入し、液の自重若しくは減圧又は加圧によって、リグノフェノール誘導体を含む疎水性の固形物を、液化したセルロース、ヘミセルロースが溶解した酸溶液から濾過分離する。この際、濾過槽は、適当な量の液を貯めた後に濾過を行うことができるように貯留が可能な構造を有することが好ましい。このような構造の濾過槽を用いることにより、粘着質のリグノフェノール誘導体を含む疎水性の固形物の濾過ケーキの厚さを確保し、剥離・回収性を上げることができる。また、濾過の際に、減圧によって濾過・脱液した後、適当な時間加圧することで、固形分の脱液を向上させて、濾過ケーキの剥離性を向上することもできる。更に、平板状の濾布を使用することで、脱液後のリグノフェノール誘導体を含む固形分の剥離性を向上させて、濾布表面に残留する固形分を洗浄することも容易になる。濾布の洗浄水は、脱液後のリグノフェノール誘導体を含む固形分を後段で水分散する際の溶液として使用することができる。
【0034】
上述の固液分離処理によって得られるリグノフェノール誘導体を含む固形物は、後述する脱酸・洗浄工程及び乾燥工程を経て、リグノフェノール誘導体として回収することができる。一方、液相として分離回収される液化(糖化)したセルロース、ヘミセルロースを含む糖・酸溶液は、当該技術において公知の方法などを用いて酸と糖とを分離回収することができる。分離回収された糖は例えば乳酸発酵による生分解性プラスチック製造用の原材料などとして利用することができ、また、酸は上段の酸処理工程(5)に再利用することができる。本方法によれば、従来技術のように酸処理後の反応混合液を多量の水で希釈するのではなく、そのまま希釈することなく固液分離にかけて固相と液相とを分離回収するので、濃度の高い糖・酸溶液が得られ、その後の糖及び酸の分離・回収処理を効率的に行うことができる。また、糖・酸溶液を分離することによって回収される酸は、水で希釈されていないので、濃縮等の精製が少ない負荷で可能であり、精製した濃酸は前段の酸処理に再利用することが可能である。
【0035】
脱酸・洗浄(7)
上記の固液分離処理(6)で得られるリグノフェノール誘導体を含む固形物には、酸及び炭水化物の糖化物並びに未反応物が残留しているので、これを洗浄して残留物を除去する必要がある(脱酸・洗浄処理)。これは、従来行われているように、リグノフェノール誘導体を含む固形物を10倍量程度の水中に分散・撹拌させて、残留する酸等の成分を水側に移動させた後、静置して固形物を自然沈降させて、上澄み液を除去するという作業を適当回数繰り返すことによって行うことができる。固形物を水中に分散することによって、同時に、酸の濃度が希釈されて酸反応が停止する。
【0036】
乾燥(8)
リグノフェノール誘導体を含む固形物の脱酸・洗浄が終了したら、固形分を回収して乾燥する。リグノフェノール誘導体がアセトンに溶解する性質を利用して、回収されるリグノフェノール誘導体を含む固形物にアセトンを混合して、リグノフェノール誘導体のみを抽出し、抽出液を木材等の材料に含浸させて使用することが可能であるが、この場合、アセトンとの混合の際に水分が残留していると、リグノフェノール誘導体を含む固形物に残留する糖分が水分を介してアセトンに溶解し、純粋なリグノフェノール誘導体・アセトン溶液の生成が困難になる。したがって、リグノフェノール誘導体を含む固形物は、含水率5%以下程度にまで乾燥させることが好ましい。
【0037】
従来は、リグノフェノール誘導体を含む固形物の乾燥には、主として自然乾燥が用いられ、充分な乾燥を行うためには1週間〜数ヶ月の日数を要していた。本方法においては、乾燥に要する時間及びエネルギーを削減するため、まず、固形物を自然風乾燥又は温風送風乾燥することによって含水率50%以下に粗乾燥した後、含水率10%以下に高乾燥することが好ましい。粗乾燥の際のリグノフェノール誘導体の品温は60℃以下とすることが好ましく、リグノフェノール誘導体の品質向上の為には40℃以下とすることが好ましい。粗乾燥に際しては、固形物を吸水性物質の上に広げて、自然風又は温風乾燥を行うことが好ましい。高乾燥は、例えば、真空マイクロ波乾燥機を用いて、含水率50%以下に粗乾燥したリグノフェノール誘導体を含む固形分を、乾燥機の乾燥室内に投入し、室内を減圧して水の蒸発温度を40℃以下にした後、乾燥室内の固形物にマイクロ波を照射して含有水分に熱を与えて蒸発させることによって行うことができる。また、乾燥室内において、遠赤外線の照射を併用すると、更に乾燥効率を向上させることができる。
【0038】
以上の工程によって得られるリグノフェノール誘導体は、石油代替の高分子素材として、種々の分野で利用することが期待されている。
以下の実施例により本発明をより具体的に説明する。以下の記載は本発明の幾つかの実施例を記載するものであり、本発明はかかる記載によって限定されるものではない。
【0039】
実施例1
事前確認試験としてラボでの試験を行い、その効果を確認した。リグノセルロース系原料物質として、スギ間伐材を粒径0.2〜2mmに粉砕し、アセトンで脱脂した木粉を用いた。フェノールとしてp−クレゾールを使用し、原料木粉100g当り概ね30gのp−クレゾールを収着させた。
【0040】
500ccのビーカーに、攪拌機(ラボ試験用卓上攪拌機:モータ定格80W:攪拌翼及びシャフト等の接液部はテフロン(登録商標)ライニングが施されていた:回転数調整つまみ付き)をセットした。72%硫酸90mLをビーカーに入れ、約30℃に温浴制御した。攪拌機を起動し、回転数を180rpmに設定し、硫酸の飛散がなく、安定して攪拌されていることを確認した。
【0041】
p−クレゾールを収着した原料木粉39g(p−クレゾール収着前原料木粉30gに相当)を、ビーカーになるべく定量供給で投入した。原料木粉がすぐに酸溶液中に沈下し液状態で攪拌混合されていることを確認(視認)しながら木粉の投入を継続し、所定量の39g投入完了までの時間を測定した。木粉の投入は約5分で完了し、非常に早い投入が可能であった。また、木粉の酸溶液への溶け込み状態は非常に良好で、粘度上昇も見られず、攪拌機の回転数も低下することなく安定して維持していた。このことから、木粉に対して3倍量(フェノール収着前の木粉30gに対して酸溶液90mL)の硫酸溶液を使用して酸処理を行う場合、木粉原料の投入時間は約5分程度とすることが好適であることが分かった。木粉原料の投入完了後、さらに1時間攪拌混合を同条件で継続し、反応液を得た。得られた反応液は、従来の強攪拌の酸処理によって得られた反応液と比べ、観察上全く差はなく、濃緑色のきれいな液であり、粘性も十数センチポイズ程度であった。また、本方法によって得られた反応液からリグノフェノールの回収・精製及び糖の回収を行なったが、各収率、品質等において、従来の強攪拌の酸処理を行ったプロセスによって得られたものと比べて影響のある差は見られなかった。
【0042】
実施例2
リグノセルロース系原料物質として、リグニンを多く含むケナフコアを乾燥し、平均粒径60メッシュに粉砕したものを用い、ケナフコア100g当り概ね15gのフェノールを収着させたフェノール収着リグノセルロース系物質に対して酸処理実験を行った。
【0043】
1000ccのポリエチレン製ビーカーに、攪拌機(ラボ試験用卓上攪拌機:モータ定格120W:攪拌翼及びシャフト等の接液部はテフロン(登録商標)ライニングされていた:回転数調整つまみ付き)をセットした。40℃に加温した72%硫酸300mLをビーカーに入れた。攪拌機を起動して、回転数を150rpmに設定し、実施例1と同様に硫酸の飛散がなく、安定して攪拌されていることを確認した。温浴を行っていなかったので、硫酸温度が約35℃であることを確認した。
【0044】
フェノールを収着させた原料ケナフコア粉115g(収着前原料ケナフコア粉100gに相当)を、定量供給でビーカーに投入した。原料粉がすぐに沈下して液状態で攪拌混合されていることを確認しながら投入を継続し、所定量の115g投入完了までの時間を測定した。時間は約3分程度で完了し、実施例1に比べても非常に早い投入が可能であった。また、原料粉の酸溶液への溶け込み状態は非常に良好で、粘度上昇も見られず、攪拌機の回転数も低下することなく安定して維持していた。このことから、リグノセルロース系物質としてケナフコア粉を用い、フェノールを収着させた場合においても、原料粉に対して3倍量(フェノール収着前のケナフコア粉100gに対して酸溶液300mL)の硫酸溶液を使用して酸処理を行う場合、木粉原料の投入時間は約3分程度とすることが好適であることが分かった。
【0045】
原料粉の投入完了後、さらに1時間攪拌混合を同条件で継続し、反応液を得た。得られた反応液は、従来の強攪拌の酸処理によって得られた反応液と比べ、観察上全く差はなく、濃紫色のきれいな液であり、粘性も十数センチポイズ程度であった。また、本方法によって得られた反応液からリグノフェノールの回収・精製及び糖の回収を行なったが、各収率、品質等において、従来の強攪拌の酸処理を行ったプロセスによって得られたものと比べて影響のある差は見られなかった。
【0046】
実施例3
実証レベルの処理量での確認を行うため、従来の実証機を転用して本発明の効果の確認を行った。従来法との比較を行うため、処理量の条件は従来方法の最大処理量に合わせた。用いるリグノセルロース系原料物質及び酸は実施例1と同じである。
【0047】
攪拌混合機として、攪拌混合槽と攪拌機が一体化した攪拌混合機で、一般に食品工業等で粘性の高い原料の混練に使用されるニーダー型混練機を用いた。屋外設置仕様で、電源方式は、AC200V、60Hz、3相であった。品名は密閉式練合装置であった。攪拌方式は、上部プラネラリー型であり、油圧昇降式の開閉方式であった。撹拌混合槽に温度調節用温水冷ジャケットが取り付けられている。装置の接液部の材質は、ハステロイC及びテフロン(登録商標)ライニングであった。プラネラリー攪拌機公称モータ動力は22kWであり、攪拌機構は、回転数が自転12〜120rpm、公転5〜50rpmで、回転数調節機構及び指示計が付いていた。撹拌羽根の形状はフック型であり、槽内には温度計が付属している。攪拌動力をモニターする手段として電流計が付属している。槽の内容量は280Lであり、標準液状仕込量は40L、装置重量は約6トンであった。
【0048】
まず、水運転での回転数と動力の関係を基本とするため、運転試験を行った。混合槽に水を100Lを投入し、攪拌機を起動し、回転数と動力(電流値)との関係のデータを採取した。
結果を下表に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
上記のデータ−から、無負荷時に対して、100Lの水負荷によって電流値が4A程度高くなることが分かる。
まず、以下のようにして従来法での酸処理運転を行った。原料の嵩比重をおおよそ0.1とすると、槽の内容量280Lが最大容量のため、原料の張込み量は約30kgが限度になる。このため、従来法による実証運転は、p−クレゾール収着木粉の投入量を15kg又は30kg(収着前木粉原料11.5kg及び23kgに相当)とした2つのケースで行った。温度調節用温水冷ジャケットに30℃の温水を通水して、装置全体を常時所定温度になるようにした。装置を開放し、所定量(15kgまたは30kg)のp−クレゾール収着木粉を投入し、槽を閉止した後、攪拌機を起動して所定量の硫酸を投入した。投入した硫酸の量は木粉量15kgの場合は35L、木粉量30kgの場合は69Lであった。いずれの場合においても、硫酸の投入は2分以内で行なった。
【0051】
攪拌機の設定回転数は、混合初期15分間は脱結晶化による高粘度領域で動力オーバーにならない回転数に設定し、この領域を過ぎて混合物が液化した状態となって以降は適切な速度に上げておよそ1時間攪拌混合を継続した。設定回転数と電流値との関係を下表に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
上記のデータから、混合槽にまず木粉を収容し、そこに酸を加えるという従来の酸処理方法では、混合初期15分間はホロセルロースの脱結晶化のために混合物が高粘度になっており、非常に強い攪拌動力が必要で、回転数を更にあげて攪拌効率を向上するにはさらなる動力と強固な攪拌機が必要になることが分かる。また、原料の処理量によって攪拌動力に影響を与えることも解かる。また、脱結晶化時の酸加水分解熱による温度上昇がみられ、槽に設置してある温度計で41℃まで上昇していた。これに対して、15分以降の液化状態では、回転数を上げても動力が減少し、処理量が倍半分になっても動力に影響が出ていない。また、前記の水100リッタのデータと比較しても同回転数で動力の差は出ておらず、液化した液の粘性が動力に影響しない程度まで低いことが推測できる。これは、使用している攪拌混合機が高粘性物質の混練に対応するため、非常に強固に設計されており、消費する攪拌動力の殆どが、これら攪拌機を運転するための機械的損失に使用されているためと推測できた。
【0054】
次に、同じ装置を用い、本発明方法を適用した酸処理運転を行った。
原料の収着木粉量と使用した硫酸量は上記従来法の最大のケースにあわせて、p−クレゾール収着収着木粉30kg、投入硫酸量69Lとした。即ち、収着前木粉量23kgに対して69Lであった(実施例1と同じく木粉に対して3倍量の酸)。実施例1の実験結果から、この量比で酸溶液中にp−クレゾール収着収着木粉を投入する場合、約5分程度で投入すれば良好な結果が得られることが分かっている。そこで、本実施例では多少の安全性を見込んで収着木粉の投入時間を10分間に設定することとした。
【0055】
上記と同じく温度調節用温水冷ジャケットに30℃の温水を通水して、装置全体を常時所定温度になるようにした。槽内に硫酸69Lを張り込み、攪拌機を起動して、最初から公転20rpm、自転42.5rpmで回転を設定した。この時の動力は33〜34Aであった。この状態で、定量供給装置によって収着木粉30kgを10分間で投入されるように定量供給し、電流値の変化と木粉の酸溶液への沈下状態を観察した。木粉の酸溶液への沈下状態は非常に良好で、原料木粉が混合液に触れると同時にすぐに液中に沈下し、均一に液化していくのが観測された。また、この間の動力は34A〜36Aと若干振れる傾向も見られたが、影響を受けているものとは思われなかった。木粉の沈下・液化の状態が非常に良好であったので、投入時間が10分から7分になるように供給量を増大した。投入完了後は電流値も従来法と同じく35A以下で安定しており、投入完了後1時間、引き続き攪拌混合を行い、終了後反応液を底部にある排出弁から排出した。この間、槽内温度はほぼ一定に30〜33℃に保たれており、局部的な温度上昇は無かった。
【0056】
反応液は、ラボ試験(実施例1)と同様に、観察上全く問題なく、濃緑色のきれいな液であった。また、得られた反応液からリグノフェノールの回収・精製及び糖の回収を行なったが、各収率、品質ともに良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】従来提案されているリグノセルロース系物質にフェノール誘導体を含浸させた後、酸を加えて、リグノセルロース系物質をリグノフェノール誘導体と炭水化物とに分離するプロセスの概要を示すフロー図である。
【図2】本発明の一態様に係る酸処理反応装置の概念を示す図である。
【図3】国際特許出願PCT/JP2004/016222号に記載されているリグノフェノール誘導体の製造プロセスの全体の概要を示すフロー図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグノセルロース系物質と酸とを混合してホロセルロースの糖化を行う酸処理方法において、酸溶液を撹拌しながら、酸溶液中にリグノセルロース系物質を投入して混合を行い、この際、混合液が液状態を保持するように酸溶液へのリグノセルロース系物質の投入量を調整することを特徴とする方法。
【請求項2】
リグノセルロース系物質にフェノール誘導体を収着させ、次に酸で処理することによってリグノフェノール誘導体を含む糖・酸混合液を得る方法であって、酸処理工程において、酸溶液を撹拌しながら、酸溶液中に、フェノール誘導体を収着させたリグノセルロース系物質を投入して混合を行い、この際、混合液が液状態を保持するように酸溶液へのフェノール収着リグノセルロース系物質の投入量を調整することを特徴とする方法。
【請求項3】
リグノセルロース系物質と酸とを混合してホロセルロースの糖化を行う酸処理方法において、酸溶液を撹拌しながら、酸溶液中にリグノセルロース系物質を投入して混合を行い、この際、混合液の粘度を測定して、粘度が所定値を超えて上昇しないようにリグノセルロース系物質の投入量を調整することを特徴とする方法。
【請求項4】
リグノセルロース系物質にフェノール誘導体を収着させ、次に酸で処理することによってリグノフェノール誘導体を含む糖・酸混合液を得る方法であって、酸処理工程において、酸溶液を撹拌しながら、酸溶液中に、フェノールを収着させたリグノセルロース系物質を投入して混合を行い、この際、混合液の粘度を測定して、粘度が所定値を超えて上昇しないようにフェノール収着リグノセルロース系物質の投入量を調整することを特徴とする方法。
【請求項5】
混合液の粘度の測定を、混合液の撹拌に用いる撹拌機の負荷動力を検出することによって行う請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
リグノセルロース系物質と酸とを混合してホロセルロースの糖化を行う酸処理方法において、リグノセルロース系物質の重量に対して2〜5倍量の酸溶液を撹拌しながら、酸溶液中にリグノセルロース系物質を、5分〜15分で投入して混合を行うことを特徴とする方法。
【請求項7】
リグノセルロース系物質にフェノール誘導体を収着させ、次に酸で処理することによってリグノフェノール誘導体を含む糖・酸混合液を得る方法であって、酸処理工程において、リグノセルロース系物質の重量に対して2〜5倍量の酸溶液を撹拌しながら、酸溶液中にフェノールを収着したリグノセルロース系物質を、5分〜15分で投入して混合を行うことを特徴とする方法。
【請求項8】
リグノセルロース系物質と酸とを混合してホロセルロースの糖化を行う酸処理方法において用いる反応装置であって、攪拌機を有する撹拌混合槽と、撹拌混合槽に酸溶液を投入する酸投入手段と、撹拌混合槽にリグノセルロース系物質を投入するリグノセルロース系物質投入手段と、撹拌混合槽内の混合液の粘度を測定する手段と、測定された混合液の粘度に応じてリグノセルロース系物質の投入量を制御する手段と、を含むことを特徴とする装置。
【請求項9】
リグノセルロース系物質にフェノール誘導体を収着させ、次に酸で処理することによってリグノフェノール誘導体を含む糖・酸混合液を得るプロセスの酸処理工程において用いる反応装置であって、攪拌機を有する撹拌混合槽と、撹拌混合槽に酸溶液を投入する酸投入手段と、撹拌混合槽にフェノールを収着したリグノセルロース系物質を投入するフェノール収着リグノセルロース系物質投入手段と、撹拌混合槽内の混合液の粘度を測定する手段と、測定された混合液の粘度に応じてフェノール収着リグノセルロース系物質の投入量を制御する手段と、を含むことを特徴とする装置。
【請求項10】
混合液の粘度の測定を撹拌機の負荷動力を検出することによって行う請求項8又は9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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