説明

酸化ガリウム粉末

【課題】IGZOの原料として、酸化インジウム粉末との均一混合性に優れた酸化ガリウム粉末を提供する。
【解決手段】嵩密度(AD)が0.40〜0.70g/cm3であることを特徴とする酸化ガリウム粉末を提案する。かかる酸化ガリウム粉末は、酸化インジウム粉末との嵩密度の差が小さいため、酸化インジウム粉末などと混合した際に均一に混合させることができ、均質な混合焼結体、例えばスパッタリングターゲットを作製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばIn−Ga−Zn複合酸化物(「IGZO」と称する)などのようなスパッタリングターゲット(焼結体)を製造するのに好適に用いることができる酸化ガリウム粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
IGZOは、電子ペーパーや液晶パネル、有機ELを駆動するTFTの半導体層材料として注目を集めている透明酸化物半導体の一種である。この材料から形成される薄膜は、可視光を透過するため、透明の膜をつくることができるばかりか、室温〜150℃といった低温プロセスで膜を形成できるため、プラスチック基板等、高温プロセスに適さない基板材料にも適用可能であるため様々な分野での利用が期待されている。
【0003】
IGZOからなる半導体膜は、スパッタリング法で形成されるのが一般的であり、この際スパッタリングターゲットとして用いられるのがIGZO焼結体である。
IGZO焼結体は、酸化ガリウム、酸化亜鉛、酸化インジウムなどの原料粉末を混合し、得られた混合粉末を加圧成形し、焼結して製造するのが一般的である。
【0004】
IGZO焼結体及びIGZO薄膜の性能に酸化ガリウム粉末の物性が影響するため、用途に応じて酸化ガリウム粉末を改良することが望まれていた。
【0005】
酸化ガリウムは、ガリウム塩溶液にアルカリを添加して中和することによって水酸化ガリウム(中間体)を沈澱生成させ、これを濾過乾燥した後焼成することによって製造するのが一般的である。
【0006】
酸化ガリウムに関しては、従来、例えば特許文献1の発明が、流動性に優れた酸化ガリウム粉末を製造するべく、ガリウムを陽極として電解することにより得られた水酸化ガリウムを仮焼して酸化ガリウム粉末を得る製法を提案している。
【0007】
また、特許文献2の発明は、塩素などの不純物の少ない酸化ガリウム粉末を製造するべく、溶融ガリウムメタルを入れた温水浴中に塩素ガスを吹き込み、塩化ガリウム水溶液とし、これを中和して得られる水酸化ガリウムを脱水・乾燥し、次いでばい焼、解砕する酸化ガリウム粉末の製造方法を提案している。
【0008】
特許文献3の発明は、ガリウム塩溶液にシュウ酸を加えて、シュウ酸の存在下で中和することによって水酸化ガリウム(中間体)を沈澱生成させ、これを濾過乾燥した後焼成することによって、比表面積(BET値)が3〜10m2/gであって、0.1〜10μmの範囲に粒子の99%(体積基準)が含まれる酸化ガリウム粉末を得ることを提案している。
【0009】
特許文献4の発明は、ガリウム塩溶液を硫酸イオンとアンモニウムイオンの共存下で中和して得られるガリウム化合物(ガリウム酸アンモニウム)を焼成して得られる酸化ガリウムを提案している。
【0010】
特許文献5の発明は、粒度分布が揃い、粒子形状が等方的である粒子を提供するべく、ガリウム塩の水溶液に硫酸イオンとアンモニウムイオンとを共存させて反応させることで、粒子形状が等方的な多面体形状を有するガリウム化合物(NH4Ga3(SO42(OH)6・H2O)粉末を得ることを提案している。
【0011】
特許文献6の発明は、ガリウム濃度、アルカリ濃度、反応終了pHを制御することにより水酸化ガリウムの粒径を任意の粒径に制御し、所定時間以上の熟成によって粒子の顆粒化を促進して粒度分布の揃った水酸化ガリウムを得て、この水酸化ガリウムを濾過、乾燥、焼成することによって目的の酸化ガリウム粉末、すなわち、粒径D50が0.8〜2.4μm、かつ、粒径比(D90−D10)/D50が1.0未満である酸化ガリウム粉末を得ることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平10−273318号公報
【特許文献2】特開平10−338522号公報
【特許文献3】特開平11−322335号公報
【特許文献4】特開2002−20122号公報
【特許文献5】特開2002−20122号公報
【特許文献6】特開2004−142969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
スパッタリング法によって安定して均質なIGZO薄膜を製造するには、均質なIGZO焼結体をスパッタリングターゲットとして用いることが必要不可欠である。このような均質なIGZO焼結体を製造するためには、その原料である酸化ガリウム、酸化亜鉛、酸化インジウムなどの原料粉末を均一に混合する必要がある。中でも、3種類の原料の中で最も粒径の大きな酸化ガリウム粉末を均一に分散させることができる(「均一混合性」という)ことが重要となる。
【0014】
そこで本発明は、ターゲット材料、特にIGZOなどのように酸化インジウム粉末などと混合する用途に用いる酸化ガリウム粉末に関し、均一混合性に優れ、不純物量も少ない、新たな酸化ガリウム粉末を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、嵩密度が0.40〜0.70g/cm3であることを特徴とする酸化ガリウム粉末を提案する。
【0016】
本発明の酸化ガリウム粉末は、IGZOの原料などのように酸化インジウム粉末と混合する用途に従来一般的に用いられてきた酸化ガリウム粉末に比べ、嵩密度が低いため、酸化インジウム粉末との嵩密度の差(絶対値)を小さく、これらとの均一混合性に優れているという特徴を有している。よって、本発明の酸化ガリウム粉末と、酸化インジウム粉末などとを混合して混合粉末(「プレミックス粉体」ともいう)を得る際に、プレミックス粉体における酸化ガリウム粉末の均一混合性を高めることができ、より均質なIGZO焼結体を製造することができる。
さらに、単に嵩密度が低いだけではなく、圧縮度は逆に高いという特徴を有していれば、IGZO焼結体の焼結性を向上させることができるという効果も享受することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態の例(以下、「本実施形態」という)について説明するが、本発明が下記本実施形態に限定されるものではない。
【0018】
<本酸化ガリウム粉末>
本実施形態に係る酸化ガリウム粉末(以下、「本酸化ガリウム粉末」という)の嵩密度(AD)は、0.40〜0.70g/cm3であることが重要である。本酸化ガリウム粉末の嵩密度が0.40〜0.70g/cm3の範囲内であれば、前記プレミックス粉体における酸化ガリウム粉末の均一混合性を高めることができる。嵩密度が高過ぎると、個々の粒子が強く凝集し過ぎて個々の粒子の分散性が不十分になるばかりか、混合する他の金属粉との嵩密度の違いが大きくなるため、局所的に酸化ガリウムが偏って存在するようになりマクロなムラが発生してしまう。逆に、嵩密度が酸化インジウムと比べて極端に低い場合も、マクロなムラが生じてしまう。
かかる観点から、本酸化ガリウム粉末の嵩密度は0.45g/cm3以上、或いは0.65g/cm3以下であるのがさらに好ましい。
ここで、「嵩密度」とは、自然落下により粉末を一定容器に充填される単位体積当たり質量であり、JIS K 5101に準拠して測定することができる。
【0019】
本酸化ガリウム粉末の嵩密度(AD)を所望の範囲に調整する手段としては、一般的に一次粒子の調整や、得られた粉末を機械粉砕するなどの方法が挙げられる。例えば、一次粒子は小さいものの方がADは低く、また、得られた粉末をハンマーミルなどの解砕機で適度に処理することによりADは低くなる。他方、その解砕処理も回転数を必要以上に高めたり、繰り返し解砕処理を行ったりすると、かえってADは高くなることがある。
ただし、本酸化ガリウム粉末の場合には、強く凝集した乾燥体を焼成すると、焼成によって凝集がさらに強くなり、この状態で強引に解砕すると、粒子の破壊が進行してしまうばかりか、解砕機の摩耗により、FeやNiといった金属不純物が混入してしまう。そのため、本酸化ガリウム粉末の場合には、焼成する前の段階で、上記の如く適度に解砕すると共に、十分に解砕できなかった粒子を除外することで、粒子を破壊することなく十分に凝集を解された酸化ガリウム粉末を回収することができ、その結果、均一で、且つ一次粒子の形状を維持することができ、且つ微粉の発生しない乾燥体を得ることができるため、酸化ガリウム粉末の均一混合性を高めることができる。
【0020】
なお、本酸化ガリウム粉末は、酸化インジウム粉末との嵩密度の差(絶対値)が0.15g/cm3以下であるのが好ましい。
混合する相手方の酸化インジウム粉末との嵩密度の差(絶対値)が0.15g/cm3以下であれば、酸化インジウム粉末との均一混合性がより一層優れたものとなり、当該酸化インジウム粉末と均一に混合することができる。下限値は特に制限するものではないが、酸化インジウム粉末との均一混合性の観点を考慮すると、混合する相手方の酸化インジウム粉末との嵩密度の差(絶対値)は0.10g/cm3以下であるのがさらに好ましい。
【0021】
本酸化ガリウム粉末のタップ密度(TD)は、0.80〜1.50g/cm3であるのが好ましい。
本酸化ガリウム粉末のタップ密度が0.80〜1.50g/cm3であれば、IGZO焼結体などのように酸化インジウム粉末などの他の粉末と混合して焼結させる焼結体の焼結密度を高めることができる。かかる観点から、本酸化ガリウム粉末のタップ密度は0.90g/cm3以上、或いは、1.40g/cm3以下であるのがさらに好ましい。
ここで、「タップ密度」とは、自然落下により粉末を一定容器に充填した後、容器にタップによる衝撃を加え、試料の体積変化がなくなったときの単位体積当たり質量であり、JIS K 5101に準拠して測定することができる。
【0022】
本酸化ガリウム粉末のタップ密度(TD)を調整する手段としては、粉体中の凝集体を少なくする必要がある。粉体中に凝集体が多い場合はタップ嵩密度が高くなってしまう。そのような粉体は、酸化インジウム粉末との混合時に、凝集体の部分が混合不良・分散不良を起こしてしまう。また、粒子径が小さすぎる場合、タップ嵩密度は低くなり好ましくない。
よって、本酸化ガリウム粉末の場合には、焼成する前の段階で、前述のように適度に解砕すると共に、十分に解砕できなかった凝集粒子を除外するのが好ましい。
【0023】
本酸化ガリウム粉末の圧縮度、すなわち{(タップ密度−嵩密度)/タップ密度}×100で示される圧縮度は40%以上であるのが好ましい。
かかる圧縮度が40%以上であれば、IGZO焼結体の焼結密度をさらに高めることができる。かかる観点から、本酸化ガリウム粉末の圧縮度は42%以上、中でも45%以上であるのがさらに好ましい。但し、現実的には60%程度が上限であると考えることができる。
本酸化ガリウム粉末の圧縮度を調整する手段としては、焼成する前の段階で、前述のように適度に解砕すると共に、十分に解砕できなかった凝集粒子を除外することにより、調整すればよい。
【0024】
本酸化ガリウム粉末の粒度分布、すなわちレーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積基準粒度分布によるD50は、0.50μm〜3.00μmであるのが好ましい。
本酸化ガリウム粉末の嵩密度を前記の如く規定することで、他のIGZO焼結体原料に対するマクロな分散性を高めることができる。すなわち、IGZO焼結体原料粉末全体に対して均一に分散させることができるようになる。そしてさらに、D50を規定することで、ミクロな分散性、すなわち各粒子の周囲における局所的な分散性を高めることができる。つまりD50が3.00μmより粗粒過ぎると、ミクロな分散性が悪くなり混合性が低下することになり、0.50μmより微粒過ぎると、嵩密度が小さくなり過ぎてしまうようになる。かかる観点から、本酸化ガリウム粉末のD50は、0.80μm以上であるのがより一層好ましく、中でも1.00μm以上、或いは、2.50μm以下であるのがさらに好ましい。
なお、D50は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積基準累積度数50%の粒子径の意味である。
【0025】
本酸化ガリウム粉末のD50は、中和熟成時のガリウム濃度を制御することで調整することができる。この際、ガリウム濃度が低い方が、粒子径は小さくなり、逆に高い場合、粒子径は大きくなる。焼成温度も多少影響し、高温焼成の方が粒子径は大きくなる傾向はあるが、酸化ガリウム粒子の特徴として、焼成の前後で粒径がほとんど変わらないという特徴がある。すなわち、中和熟成完了時点で、最終の焼成粉の粒子形状・粒子径はほぼ完成するため、中和熟成時の条件を調整するのが効果的である。
【0026】
本酸化ガリウム粉末は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積基準粒度分布によるD50に対する嵩密度の比率(AD/D50)が0.20〜0.60g/μm・cm3であるのが好ましい。
本酸化ガリウム粉末のAD/D50は、一次粒子レベルでの分散性を示す指標である。すなわち、AD/D50が高いということは、微粒子であるのに重く、マクロな分散性には優れていても、凝集しているために一次粒子レベルでの分散性には劣るという傾向があるため、0.60g/μm・cm3以下であるのが好ましく、特に0.55g/μm・cm3以下、中でも0.40g/μm・cm3以下であるのがより一層好ましい。
他方、本酸化ガリウム粉末のAD/D50の最小値は0.20g/μm・cm3程度であると考えられ、最も一次粒子レベルでの分散性に優れている。
【0027】
本酸化ガリウム粉末は、FeやNi等の不純物量を少ないことも特徴の一つである。焼成後の酸化ガリウム粉末は極めて硬いため、焼成後に解砕或いは粉砕を行うと、解砕機或いは粉砕機からFeやNi等の不純物が混入することになる。これに対し、本酸化ガリウム粉末は、焼成前の柔らかい段階で解砕を行うことにより、FeやNi等の不純物量を少なくすることができる。
かかる観点から、本酸化ガリウム粉末のFe及びNiそれぞれの含有量は、10ppm未満であるのが好ましく、特に5ppm未満であるのがさらに好ましい。
【0028】
(製造方法)
次に、本酸化ガリウム粉末の製造方法の一例について説明する。但し、あくまで一例であって、本酸化ガリウム粉末の製造方法が以下に説明する製造方法に限定されるものではない。
【0029】
本酸化ガリウム粉末は、硝酸塩、硫酸塩などのガリウム塩溶液をアルカリに添加して中和することによって水酸化ガリウム(中間体)を沈澱生成させ、これを洗浄濾過乾燥した後、機械的に解砕を行って分級した上で、焼成するようにして得ることができる。
【0030】
焼成後の酸化ガリウムは、極めて硬いために、粒度分布、タップ密度、嵩密度の調整が極めて困難であり、本発明が目的とする粒度分布、タップ密度、嵩密度に調整することはできないが、焼成前の乾燥体(ケーキ)の段階で機械的に解砕を行って粒度や凝集の程度を調整することにより、本発明が目的とする粒度分布、タップ密度、嵩密度に調整することができる。
焼成前に乾燥体(ケーキ)を解す(ほぐす)ことにより、焼成後の酸化ガリウム粉末の嵩密度を低くすることができ、かつ、タップ密度を高めることができる。これは、焼成前段階で粉体を解す(ほぐす)ことで、焼成時に発生する水蒸気が滞留することなく系外に放出され、同時に、粒子間に空隙を保有した状態で焼結が進行し、その結果、嵩密度が低くなるものと考えられる。また、空隙を保有した状態で焼結が進行するが、焼成前に粉体を解す(ほぐす)ことにより、粒子同士の空隙はタッピングなどの応力で容易に破壊され、タップ密度が高い粉体を得ることができる。
【0031】
焼成前に乾燥体(ケーキ)を解砕する程度は、手で解す程度の軽い解砕では解砕が十分ではなく、焼成時に凝集が起こって目的とする粒度分布、タップ密度、嵩密度に調整することができないため、例えばハンマーミル、ピンミルなどの高速回転型の解砕機や、ボールミルやビーズミルなどのメデイアを使用する解砕機、振動篩、ヘンシェルミキサーなどの機械的手段で解砕することが重要である。
なお、この粉体を解す(ほぐす)作用の程度、すなわち粉砕強度が弱過ぎると、十分に解れず、粒子間に空隙を十分に与えることができず、嵩密度が高いままである。その一方、粉砕強度が強過ぎても、嵩密度が高くなってしまうため、最適な範囲に制御する必要がある。
【0032】
上記製造方法において、ガリウム塩溶液をアルカリに添加して中和することによって水酸化ガリウム(中間体)を沈澱生成させる具体的な手段としては、例えばアンモニア水を加えてpH6〜9に調整することで、水酸化ガリウム(中間体)を沈澱生成させ、所定の温度で所定時間保持することにより水熱熟成すればよい。
この際、中和時のガリウム濃度やアンモニアの液温が粒径に影響するため、適宜調整するのが好ましい。
なお、中和にはアンモニア水以外にも、例えばアンモニア、水酸化ナトリウム、尿素などの他のアルカリを用いることもできる。
また、上記の水熱熟成において、熟成温度及び時間は、粒子の形状や形成度合に影響するため、70℃以上で4時間以上熟成することが好ましい。
【0033】
水酸化ガリウム(中間体)を洗浄濾過乾燥する手段としては、例えば純水を用いてデカンテーションを繰り返すなどして、例えば硝酸根等を洗浄除去した後、濾過等によって固液分離し、乾燥させて乾燥体(ケーキ)を得るようにすればよい。
この際、乾燥は水分を蒸発させることができればよいから、乾燥温度は100℃より若干高い程度で十分である。
【0034】
その後の焼成は、500℃以上の適宜温度で行えばよい。
水酸化ガリウムから酸化ガリウムに変化する温度領域は500℃程度であるため、500℃以上であればよいが、工業的な生産を考慮した場合、炉内の温度ムラなどの影響を考慮すると、700℃以上で行うのが好ましい。
また、焼成時間については、水酸化ガリウムから酸化ガリウムへ均一に転移させるために1時間以上とするのが好ましい。他方、長すぎても均一焼成の効果は変わらないので不経済であるため、長くとも10時間程度とするのが好ましい。
【0035】
(用途)
本酸化ガリウム粉末は、ターゲット材料、特にIGZOなどのように酸化インジウム粉末などと混合する用途に用いることができる。例えば、本酸化ガリウム粉末と、酸化インジウム粉末及び酸化亜鉛粉末とを混合して混合粉末(「プレミックス粉体」ともいう)を得、このプレミックス粉体を加圧成型した後、焼結してIGZO焼結体を製造することができる。
【0036】
(語句の説明)
本明細書において「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「好ましくYより小さい」の意を包含する。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0038】
<粒度測定>
酸化ガリウム粉末を少量ビーカーに取り、3%トリトンX溶液(関東化学製)を2、3滴添加し、粉末になじませてから、0.1%SNディスパーサント41溶液(サンノプコ製)50mLを添加し、その後、超音波分散器TIPφ20(日本精機製作所製、OUTPUT:8、TUNING:5)を用いて2分間分散処理して測定用サンプルを調製した。この測定用サンプルを、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置MT3300(日機装製)を用いて、体積累積基準D50を測定した。
【0039】
<嵩密度(AD)>
嵩密度は、JIS K 5101に準拠して、蔵持科学器械製作所製カサ比重測定器を使用して測定した。その際、いずれの粉末も粉砕してから3時間以内に測定を開始した。
【0040】
<タップ密度(TD)>
タップ密度は、JIS K 5101に準拠して、試料200gを用いてパウダーテスターPT−E型(ホソカワミクロン製)により測定した。
【0041】
<圧縮度>
上記のようにして測定された酸化ガリウム粉末の嵩密度(AD)及びタップ密度(TD)に基づき、次式により圧縮度(%)を算出した。
圧縮度={(タップ密度−嵩密度)/(タップ密度)}×100
【0042】
<不純物量の測定>
不純物量の測定は、試料5gを王水で溶解し、ICP発光分析装置にてFe及びNiを定量し、ppmオーダーで検出した。
【0043】
<均一混合性の評価>
実施例及び比較例で得られた酸化ガリウム粉末20gと、酸化インジウム粉末(D50:2.71μm、嵩密度0.60g/cm3)180gとを、筒井理化学器械社製透視式混合器「S−3」を用いて30分間混合し、任意に10箇所の粉末を各3gサンプリングし、それぞれ酸化ガリウムの割合を分析し、次の基準で酸化インジウム粉末に対する均一混合性を評価した。
なお、酸化ガリウムの含有量は、王水で溶解し、ICP発光分析装置にて定量した。
【0044】
◎:分析値の最大値と最小値の差が0.3%未満
○:分析値の最大値と最小値の差が0.3%以上0.6%未満
△:分析値の最大値と最小値の差が0.6%以上1.0%未満
×:分析値の最大値と最小値の差が1.0%以上
【0045】
(実施例1−3)
所定のGa濃度(表1参照)の硝酸ガリウム塩水溶液を、アンモニア水に加えてpH8に調整した後、攪拌しながら80℃にて8時間熟成させた。
反応終了後、純水によるデカンテーションを繰り返し、洗浄したのち、濾過により固液分離を行い、105℃にて、24時間乾燥させ、ガリウム含水水酸化物の乾燥体(ケーキ)を得た。
このようにして得られたガリウム含水水酸化物の乾燥体(ケーキ)を、ヘンシェルミキサーを用いて、回転数800rpm、供給速度100g/min、スクリーンメッシュ目開き1mmにて解砕処理を行い、150meshの篩で分級し、篩上を回収した。
そして、得られたガリウム含水水酸化物の解砕物を、セラミック製の焼成容器(焼成匣鉢)に入れ、大気雰囲気、800℃にて3時間焼成を行い、酸化ガリウム粉末を得た。
【0046】
(比較例1)
実施例1において、ガリウム含水水酸化物の乾燥体(ケーキ)を、ヘンシェルミキサーを用いて解砕する代わりに、手で軽く解砕した。それ以外は実施例1と同様にして酸化ガリウム粉末を得た。
【0047】
(比較例2)
実施例1と同様にして得られたガリウム含水水酸化物の乾燥体(ケーキ)を、セラミック製の焼成容器(焼成匣鉢)に入れ、大気雰囲気、800℃にて3時間焼成を行い、酸化ガリウム塊を得た。
このようにして得られた酸化ガリウム塊を、ヘンシェルミキサーを用いて、回転数800rpm、供給速度100g/min、スクリーンメッシュ目開き1mmにて解砕処理を行い、150meshの篩で分級し、篩上で酸化ガリウム粉末を得た。
【0048】
(比較例3)
実施例1と同様にして得られたガリウム含水水酸化物の乾燥体(ケーキ)を、セラミック製の焼成容器(焼成匣鉢)に入れ、大気雰囲気、800℃にて3時間焼成を行い、酸化ガリウム塊を得た。このようにして得られた酸化ガリウム塊を手で軽く解して酸化ガリウム粉末を得た。
【0049】
【表1】

【0050】
(考察)
実施例及び比較例の嵩密度(AD)と均一混合性の評価とを対比すると、酸化ガリウム粉末の嵩密度(AD)が、0.40〜0.70g/cm3程度であれば、酸化インジウム粉末と均一に混合することができると考えられる。特に0.45g/cm3以上、或いは0.65g/cm3以下であるのが好ましいと考えることができる。
また、実施例及び比較例のAD/D50と均一混合性の評価とを対比すると、0.60g/μm・cm3以下であるのが好ましく、特に0.55g/μm・cm3以下、中でも0.40g/μm・cm3以下であるのがより一層好ましいと考えることができる。
さらに、実施例及び比較例の圧縮度を対比すると、40%以上であるのが好ましく、特に42%以上、中でも45%以上であるのがさらに好ましいと考えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
嵩密度(AD)が0.40〜0.70g/cm3であることを特徴とする酸化ガリウム粉末。
【請求項2】
レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積基準粒度分布によるD50に対する嵩密度の比率(AD/D50)が0.20〜0.60g/μm・cm3であることを特徴とする請求項1記載の酸化ガリウム粉末。
【請求項3】
{(タップ密度−嵩密度)/タップ密度}×100で示される圧縮度が40〜60%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化ガリウム粉末。
【請求項4】
タップ密度(TD)が0.80〜1.50g/cm3であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の酸化ガリウム粉末。
【請求項5】
レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積基準粒度分布によるD50が0.50μm〜3.00μmである請求項1〜4の何れかに記載の酸化ガリウム粉末。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の酸化ガリウム粉末を原料としてなるスパッタリングターゲット。


【公開番号】特開2011−213507(P2011−213507A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81432(P2010−81432)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【特許番号】特許第4649536号(P4649536)
【特許公報発行日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】