説明

酸化セルロースの製造方法

【課題】優れた分散性、透明性、耐熱性等を有し、機能性材料として有効に利用できる酸化セルロースの製造方法および酸化セルロース分散液を提供する。
【解決手段】セルロースと、ニトロキシラジカル誘導体(例えばTEMPO)、臭化アルカリ(例えば臭化ナトリウム)および酸化剤(例えば次亜塩素酸ナトリウム)を含む反応試薬とを反応させる工程を有する酸化セルロースの製造方法において、反応温度を0℃以上30℃以下に制御することを特徴とする酸化セルロースの製造方法および該方法により製造された酸化セルロースの分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースを出発原料とした酸化セルロースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、資源の枯渇や大気の二酸化炭素濃度の増加による温暖化や環境汚染、廃棄物問題などを背景に、製造時の化石資源の使用量が少なく、廃棄時において低エネルギーで処理でき二酸化炭素の排出が少ない、環境に配慮された材料の利用が注目されている。こうした中、化石資源を原料とせず、一部または全部を天然の植物などを原料とするバイオマス資源由来の材料や、環境中で分解されて水と二酸化炭素になるポリ乳酸に代表される生分解性材料の積極利用が期待されている。
【0003】
バイオマス材料の中でもその生産量の約半分を占めるセルロースは、その生産量の多さから有効利用が期待されている。さらに、高強度、高弾性率、極めて低い熱膨張係数を有しており、耐熱性に関して記述すると、ガラス転移点を持たず、230度と高い熱分解温度を示す。
【0004】
ところが、セルロースはその多量な生産量に対して材料としての利用が多いとは言えない。その理由の一つに水系や非水系溶剤への溶解性・分散性の低さがある。セルロースはブドウ糖の6員環であるD−グルコピラノースがβ‐(1→4)グルコシド結合したホモ多糖であり、C2位、C3位、C6位に水酸基を持つ。そのため、分子内、分子間に強固な水素結合を形成しており、水や一般的な溶剤に対して溶解しない。
【0005】
最も一般的なセルロースの利用法の一つにカルボキシメチル化がある。カルボキシル基がC2位、C3位、C6位の水酸基にランダムに導入され、その置換度により多置換度では水溶性で増粘剤として利用できるものから、低置換度では不溶性のカルボキシメチル化セルロース繊維と多様な材料が得られる。しかし、セルロースのカルボキシメチル化反応では多量の有機溶剤を使用し、毒性のあるモノクロロ酢酸を用いているため、環境汚染や廃液処理などへの問題がある。また、導入されるカルボキシル基は水酸基の位置に区別がないため、生成物は不均一な化学構造となる。
【0006】
一方、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカル(TEMPO)を触媒とした酸化反応を用いてセルロースを処理すると、セルロースのC6位の水酸基が選択的に酸化され、アルデヒド基を経由してカルボキシル基が導入される。さらに、カルボキシル基の導入量などを調整すると水中での様々な分散処理により透明な分散液が得られる。その際、セルロースはミクロフィブリルレベルまで解繊され、幅数nm〜数200nmのナノファイバー状に分散している。また、このTEMPO酸化反応では有機溶剤は使用せず、常温・常圧の温和な条件下、短時間で反応が完了するなど反応プロセスの環境適応性が極めて高い。セルロースをナノ分散体や液体状態として用いることができ、また環境への負荷が低いため、TEMPO酸化反応による処理及び酸化物はセルロースの新たな利用形態として期待されている。
【0007】
TEMPO酸化反応により得られた酸化セルロースは、ミクロフィブリルの表面に生成したカルボキシル基がアニオンとして分散媒中で荷電反発し浸透圧効果を示すため、ナノオーダーのミクロフィブリルが孤立しやすく透明な分散体が得られる。そのため、分散性を向上させるためにはカルボキシル基含有量を増大させることが有効となる。ところが、TEMPO酸化反応ではアルカリ水溶液中で反応させるため、酸化反応を活性化させるとセルロースのグルコシド結合部位がβ脱離を促進される。これに伴いセルロースの分解が進行する。
【0008】
一方、高分子材料の熱特性や力学特性を考慮したとき、分子量や分子量分布に大きく影響を受ける。天然高分子であるセルロースも同様であり、分子量や分子量分布を制御することは材料物性を制御する上で重要である。天然セルロースのように結晶性が高く、分子鎖が剛直な高分子では分子量が低下すると強度や耐熱性は低下しやすい。
【0009】
分散のしやすさは結晶化度や繊維長など原料パルプの初期特性により異なるが、分散液として酸化セルロースを用いる場合、分子量の制御と共にカルボキシル基含有量の制御が重要な要素となっている。そのため、セルロース骨格の分解を抑えつつ、カルボキシル基を導入し分散性が良好な酸化セルロースの製造方法が望まれている。
【0010】
特許文献1では、酸化セルロースを製造しこれを用いたコーティング材としての応用について記載がある。ところが、製造方法について詳細な記載がなく、製造条件を変化させた際の酸化セルロースのカルボキシル基含有量と分子量やこれらに関する物性の差異についての言及がない。特に、酸化セルロースの製造方法と分散液としたときの液性について触れられていない。また、特許文献2では、微細化した酸化セルロースを合成樹脂などに添加して物理強度を付与する添加材としての応用について記載がある。ところが、セルロース繊維の繊維径やアスペクト比、カルボキシル基含有量などについて規定があるものの、酸化反応温度と生成物の物性についての言及がなく、温度制御による効果について触れられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−1728号公報
【特許文献2】特開2009‐197122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は以上のような背景技術を考慮してなされたもので、天然資源の産業利用を促進し、利用用途を拡大するための方法を提供することを課題とし、詳しくは、優れた分散性、透明性、耐熱性等を有し、機能性材料として有効に利用できる酸化セルロースの製造方法、該方法により得られた酸化セルロース、該酸化セルロースを用いてなる分散液およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明は、セルロースと、ニトロキシラジカル誘導体、臭化アルカリおよび酸化剤を含む反応試薬とを反応させる工程を有する酸化セルロースの製造方法において、反応温度を0℃以上30℃以下に制御することを特徴とする酸化セルロースの製造方法である。
請求項2に記載の発明は、反応温度が5℃以上20℃以下であることを特徴とする請求項1記載の酸化セルロースの製造方法である。
請求項3に記載の発明は、前記セルロースが結晶形I型を有する天然セルロースであることを特徴とする請求項1又は2記載の酸化セルロースの製造方法である。
請求項4に記載の発明は、前記ニトロキシラジカル誘導体が2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカル(TEMPO)であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の酸化セルロースの製造方法である。
請求項5に記載の発明は、前記臭化アルカリが臭化ナトリウムであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の酸化セルロースの製造方法である。
請求項6に記載の発明は、前記酸化剤に次亜塩素酸ナトリウムを含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の酸化セルロースの製造方法である。
請求項7に記載の発明は、請求項1から6のいずれかの方法により製造された酸化セルロースにおいて、カルボキシル基含有量が1.2mmol/g以上かつ平均重合度が300以上であることを特徴とする酸化セルロースである。
請求項8に記載の発明は、請求項1から6のいずれかの方法により製造された酸化セルロースを、分散媒に分散させる工程を有する酸化セルロース分散液の製造方法であって、ミキサー、高速ホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、グラインダー磨砕、凍結粉砕、メディアミルのうち少なくとも一つを用いて該分散を行なうことを特徴とする酸化セルロース分散液の製造方法である。
請求項9に記載の発明は、前記分散媒が、水を含むことを特徴とする請求項8記載の酸化セルロース分散液の製造方法である。
請求項10に記載の発明は、請求項1から6のいずれかの方法により製造された酸化セルロースの分散液又は請求項7に記載の酸化セルロースの分散液であって、前記分散液の固形分濃度を1%としたときに、前記分散液が、60%以上の光線透過率を有する(ただし、光路長1cm、波長600nmを測定条件とする)ことを特徴とする酸化セルロース分散液である。
請求項11に記載の発明は、請求項1から6のいずれかの方法により製造された酸化セルロースの分散液又は請求項7に記載の酸化セルロースの分散液であって、前記分散液の固形分濃度を1%としたときに、25℃における粘度が3000mPa・s(せん断速度10s‐1)以下であることを特徴とする酸化セルロース分散液である。
請求項12に記載の発明は、請求項8又は9の方法により製造された酸化セルロース分散液であって、そこに含まれる酸化セルロース繊維の平均繊維径が200nm以下であることを特徴とする酸化セルロース分散液である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、セルロース骨格の分解を抑えつつカルボキシル基を導入することが可能となり、優れた分散性、透明性、耐熱性等を有し、機能性材料として有効に利用できる酸化セルロースの製造方法、該方法により得られた酸化セルロース、該酸化セルロースを用いてなる分散液およびその製造方法を提供することができる。したがって本発明によれば、天然資源の産業利用を促進し、利用用途を拡大することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
本発明の方法においては、出発原料としてセルロースを使用する。該セルロースとしては、例えば、漂白又は未漂白クラフト木材パルプ、前加水分解済みクラフト木材パルプ、亜硫酸木材パルプ並びにこれらの混合物を用いることができ、これらを物理的、化学的処理した物質の何れを用いてもよい。好適には、結晶形I型を有する天然セルロースが望ましい。TEMPO酸化反応はI型の結晶形を有する天然のセルロースミクロフィブリルの表面のみを酸化し、カルボキシル基の導入によりミクロフィブリル表面間の水素結合を阻害することによって分散性を得ている。そのため、天然セルロースを用いることにより高い分散性と高密度に配向した高次構造を有するミクロフィブリルに起因した物理的安定性を得ることができる。
【0016】
酸化反応温度は0℃以上30℃以下に調整され、更に5℃以上20℃以下が好ましい。前記酸化反応の反応進行は温度に対して敏感であり、温度調整を行わないと外気温や反応熱による影響を受け、反応生成物の物性等について再現性が得られない。反応温度が高すぎるとセルロース骨格を形成するグルコシド結合が切断させるβ脱離が促進され、セルロースの分解が促進され分子量低下が進む。また反応速度が極端に早くなり、材料表面への酸化が急激に進行するなど反応が不均一になるとともに、試薬量や反応時間の管理など制御におけるハンドリングが困難になる。また、試薬や反応溶媒の分解や蒸発が進行するため、副反応が進行しやすく、系内の試薬や材料の濃度が変化しやすくなるため、生成物の再現性が得にくい。一方、反応温度が低すぎると反応が停滞し、反応時間が長期化する。
【0017】
試薬濃度や反応時間、反応温度など酸化反応条件により生成される酸化セルロースのカルボキシル基含有量や分子量は制御可能である。セルロース骨格の分解に関わる最も重要な要素の一つとして反応温度条件がある。一方で、分散媒中での酸化セルロースの分散性に関わる最も重要な要素の一つとしてセルロースに導入されたカルボキシル基含有量がある。これらを鑑み検討した結果、カルボキシル基含有量が1.2mmol/g以上かつ平均重合度が300以上である酸化セルロースは酸化反応による分解が抑えられ、かつ均一な分散液を調製する際に必要なエネルギーは軽微となる。
【0018】
さらに、上記のように調整した酸化セルロースは機械的処理によって容易に平均繊維径を200nm以下にすることができ、透明性を有するナノファイバーの分散液を得ることができる。
【0019】
このように製造した酸化セルロースは、300以上の重合度であっても、固形分濃度1%あるいはそれ以下の分散液において、光路長1cm、波長が600nmの光線透過率が60%以上を有することができる。
【0020】
また、このように製造した酸化セルロースは、300以上の重合度であっても、固形分濃度1%あるいはそれ以下の分散液において、25℃における粘度がせん断速度10s‐1において3000mPa・s以下に抑えることができる。
【0021】
酸化セルロースはミクロフィブリルの表面に生成したカルボキシル基が分散媒中で荷電反発し浸透圧効果を示すため、ナノオーダーのミクロフィブリルが孤立しやすく透明な分散体が得られる。酸化セルロースは水を分散媒とした時に最も安定的に分散状態を保持するため、分散媒として水を用いることが望ましい。ただし、分散状態や乾燥状態、液性制御など種種の目的に応じて分散媒としてアルコール類(エタノール、メタノール、イソプロパノール、tert−ブタノール)を始め、エーテル類、ケトン類を含んでもよい。また、分散方法としては、ミキサー、高速ホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、グラインダー磨砕、凍結粉砕、メディアミルの何れか或いはこれらを組み合わせて用いることができる。
【0022】
触媒として用いるニトロキシラジカル誘導体としては、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカル(TEMPO)が望ましい。このほかに、TEMPOの誘導体である4−アセトアミドTEMPO、4−カルボキシTEMPO、4−ホスホノオキシTEMPO等を用いることができる。
【0023】
TEMPOと共に用いる共酸化剤である臭化アルカリとしては、臭化ナトリウムが反応性が良好であり使用が望ましい。
【0024】
酸化剤としては、次亜ハロゲン酸やその塩、亜ハロゲン酸やその塩、過酸化水素、などを用いることができるが、次亜塩素酸ナトリウムを用いることが望ましい。
【実施例】
【0025】
以下に、本発明の実施例を説明する。なお、以下の実施例は本発明の一例であり、本発明はこれらの実施例には限定されない。
【0026】
実施例1
以下の手順により、セルロースのTEMPO酸化反応を行った。
【0027】
(1)試薬・材料
天然セルロース: 漂白クラフトパルプ(フレッチャー チャレンジ カナダ「Machenzie」、結晶形I型を有する)
TEMPO: 市販品(東京化成工業(株)、98%)
次亜塩素酸ナトリウム: 市販品(和光純薬(株)、Cl:5%)
臭化ナトリウム: 市販品(和光純薬(株))
【0028】
(2)セルロースのTEMPO酸化反応
乾燥重量10gの漂白クラフトパルプを2Lのガラスビーカー中イオン交換水500ml中で一晩静置し、パルプを膨潤させた。これを温調付きウォーターバスにより10.0℃に温度調整し、TEMPO0.1gと臭化ナトリウム1gを添加して攪拌し、パルプ懸濁液とした。さらに攪拌しながらセルロース重量当たり5mmol/gの次亜塩素酸ナトリウムを添加した。この際、約1Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加してパルプ懸濁液のpHを約10.5に保持した。その後、3時間反応を行い、イオン交換水でパルプを十分に水洗した。
【0029】
(3)酸化セルロースの分散処理
得られた酸化セルロースをイオン交換水中で所定濃度となるように調整し、ミキサー(大阪ケミカル、アブソルートミル、14,000rpm)を用いて1時間処理し、微細化することにより透明なセルロース分散液を得た。
【0030】
実施例2
実施例1と同様にして酸化セルロースを作製した。反応温度を20℃とし、1時間反応を行った後、十分に水洗してサンプルとした。
【0031】
実施例3
実施例1と同様にして酸化セルロースを作製した。反応温度を5℃とし、10時間反応を行った後、十分に水洗してサンプルとした。
【0032】
実施例4
実施例1と同様にして酸化セルロースを作製した。反応温度を30℃とし、35分間反応を行った後、十分に水洗してサンプルとした。
【0033】
比較例1〜3
実施例1と同様にして酸化セルロースを作製した。反応温度、反応時間条件は表1に示した。
【0034】
[評価]
実施例1〜4及び、比較例1〜3で得られた酸化セルロース及びその水分散液について、酸化セルロースのカルボキシル基量、分子量、分散液の光透過率、レオロジー測定、フィルムの熱分解温度及び引張り弾性率の測定を次のように行った。なお、比較例3に関しては、24時間反応を行なったが、カルボキシル基の導入が非常に遅く、透明な分散液が得られなかった。
【0035】
[カルボキシル基量]
得られた酸化セルロースについて、含有されるカルボキシル基量は以下の方法にて算出した。化学処理したセルロースの乾燥重量換算0.2gをビーカーにとり、イオン交換水80mlを添加する。そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mlを加え、攪拌させながら0.1M塩酸を加えて全体がpH2.8となるように調整した。ここに自動滴定装置(東亜ディーケーケー(株)、AUT−701)を用いて0.1M水酸化ナトリウム水溶液を0.05ml/30秒で注入し、30秒毎の電導度とpH値を測定し、pH11まで測定を続けた。得られた電導度曲線から水酸化ナトリウムの滴定量を求め、カルボキシル基の含有量を算出した。
【0036】
[重合度]
得られた酸化セルロースについて、極限粘度から分子量の導出を行った。まず、前処理として以下の操作を行った。酸化セルロースの乾燥重量2gに対してこれを固形分10%の懸濁液になるようにイオン交換水を添加し、亜塩素酸ナトリウム1.81gと5M酢酸を20ml添加した。これを48時間室温中で攪拌しながら反応させ、十分に水洗することにより酸化反応により生成したアルデヒド基を酸化した。これを十分に乾燥させ、0.5Mの銅エチレンジアミン溶液にセルロース2mg/mlとなるよう溶液を調製する。溶液をキャノン‐フェンスケ型粘度計で流出速度を測定することにより極限粘度を求め、粘度式より導出する方法を用いた。導出した分子量をグルコース残基の分子量162で割り重合度を求めた。
【0037】
[光透過率]
ミキサーにより分散処理した酸化セルロース分散液について、光透過率を測定した。石英製のサンプルセルに気泡が混入しないように分散液を入れ、光路長1cmにおける波長600nmの光透過率を分光光度計(日本分光、NRS−1000)にて測定した。
【0038】
[せん断粘度]
酸化セルロース分散液について、得られた分散液のレオロジーをレオメータ(ティー・エイ・インスツルメント、AR2000ex)傾斜角1°のコーンプレートにて測定した。測定部を25℃に温調し、せん断速度を0.01〜100s−1について連続的にせん断粘度を測定し、10s−1のときの値を求めた。
【0039】
[フィルム熱分解温度]
酸化セルロース分散液について、動的粘弾性測定と同様にキャストフィルムを得た。示差熱熱重量同時測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー、EXSTAR TG/DTA7200)を使用し、空気雰囲気下において昇温速度10℃/min、温度範囲20℃〜300℃とし、熱分解温度を測定した。TG曲線の200℃付近の重量減少から熱分解温度を求めた。
【0040】
[引張り弾性率]
酸化セルロース分散液について、ポリスチレン製の角型ケース中に所定量充填して50℃オーブンにて18時間加熱し、15μmのキャストフィルムを得た。得られたフィルムを切り出し、粘弾性測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー、EXSTAR DMS6100)を使用し、試験片10mm×20mmについて引張りモードにて周波数1Hz、昇温速度2℃/min、温度範囲20℃〜180℃とし、粘弾性測定を行った(50mN)。25℃におけるE’を求めた。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例1から4の製造方法によれば、カルボキシル基含有量が1.2mmol/g以上で、かつ平均重合度が300以上の酸化セルロースを得ることができた。また、実施例1から4の製造方法によって得られた酸化セルロースの分散液の光透過率は、含有する酸化セルロースの重合度が300以上であっても、60%以上の高い値をとることができ、かつせん断粘度を3000mPa・s以下に抑えることができた。さらに、実施例1から4のキャストフィルムは、比較例と比べて熱分解温度が高く、耐熱性に優れ、また、引張り弾性率が低く、フィルムがしなやかであり、曲げや貼り合わせなどの加工に対する耐性が強いという特徴を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースと、ニトロキシラジカル誘導体、臭化アルカリおよび酸化剤を含む反応試薬とを反応させる工程を有する酸化セルロースの製造方法において、反応温度を0℃以上30℃以下に制御することを特徴とする酸化セルロースの製造方法。
【請求項2】
反応温度が5℃以上20℃以下であることを特徴とする請求項1記載の酸化セルロースの製造方法。
【請求項3】
前記セルロースが結晶形I型を有する天然セルロースであることを特徴とする請求項1又は2記載の酸化セルロースの製造方法。
【請求項4】
前記ニトロキシラジカル誘導体が2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカル(TEMPO)であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の酸化セルロースの製造方法。
【請求項5】
前記臭化アルカリが臭化ナトリウムであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の酸化セルロースの製造方法。
【請求項6】
前記酸化剤に次亜塩素酸ナトリウムを含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の酸化セルロースの製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかの方法により製造された酸化セルロースにおいて、カルボキシル基含有量が1.2mmol/g以上かつ平均重合度が300以上であることを特徴とする酸化セルロース。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかの方法により製造された酸化セルロースを、分散媒に分散させる工程を有する酸化セルロース分散液の製造方法であって、ミキサー、高速ホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、グラインダー磨砕、凍結粉砕、メディアミルのうち少なくとも一つを用いて該分散を行なうことを特徴とする酸化セルロース分散液の製造方法。
【請求項9】
前記分散媒が、水を含むことを特徴とする請求項8記載の酸化セルロース分散液の製造方法。
【請求項10】
請求項1から6のいずれかの方法により製造された酸化セルロースの分散液又は請求項7に記載の酸化セルロースの分散液であって、前記分散液の固形分濃度を1%としたときに、前記分散液が、60%以上の光線透過率を有する(ただし、光路長1cm、波長600nmを測定条件とする)ことを特徴とする酸化セルロース分散液。
【請求項11】
請求項1から6のいずれかの方法により製造された酸化セルロースの分散液又は請求項7に記載の酸化セルロースの分散液であって、前記分散液の固形分濃度を1%としたときに、25℃における粘度が3000mPa・s(せん断速度10s‐1)以下であることを特徴とする酸化セルロース分散液。
【請求項12】
請求項8又は9の方法により製造された酸化セルロース分散液であって、そこに含まれる酸化セルロース繊維の平均繊維径が200nm以下であることを特徴とする酸化セルロース分散液。

【公開番号】特開2011−184648(P2011−184648A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54090(P2010−54090)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】