説明

酸化チタン系透明導電性基板の製造方法

【課題】特定の透明導電性膜作製用塗布液を用いて簡便な塗布法にて優れた導電性を有する酸化チタン系透明導電性膜を形成する透明導電性基板の製造方法を提供する。
【解決手段】チタン化合物およびニオブ化合物を含有した塗布液を、透明基板上に塗布し、塗布後24時間以内に、還元雰囲気下にて加熱によるアニールを施して、ニオブがドープされた酸化チタンからなる透明導電性膜を透明基板上に形成する酸化チタン系透明導電性基板の製造方法である。前記塗布液はチタン化合物、ニオブ化合物、無機酸、水およびアルコールを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な導電性を有する酸化チタン系透明導電性膜を備えた透明導電性基板を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、太陽電池や液晶表示装置に用いられる透明導電性基板としては、酸化インジウム錫(ITO)膜が汎用されている。しかし、原料のInが枯渇する可能性があり、資源的にもコスト的にもITOに替わる材料の探索が課題となっている。ITO代替として期待される透明導電材の一種として、ニオブやタンタルがドープされた酸化チタン系透明導電材が知られている。
【0003】
酸化チタン系透明導電膜を備えた透明導電性基板およびその製造方法として、チタン化合物に過酸化水素を反応させてペルオキシ化した反応生成物とニオブ化合物またはタンタル化合物に過酸化水素を反応させてペルオキシ化した反応生成物とを含む前駆体液を、透明基材上に塗布後、還元雰囲気下にてアニール処理を施すことにより、ニオブまたはタンタルがドープされた酸化チタンからなる透明導電性膜を形成する方法が提案されている(特許文献1参照)。この製造方法では、抵抗率が10-3Ω・cmオーダーの透明導電性基板が作製可能である。
しかし、上記前駆体液である塗布液には、チタン、ニオブのペルオキシ錯体が用いられているため、塗布液の常温での保存安定性は著しく低く、ペルオキシ前駆体の熱分解により、縮合度が刻々と変化する可能性がある。つまりは塗布液が常温で安定に保存できないといった問題点がある。
【0004】
すなわち、ペルオキシ錯体は、熱的安定性が低いため、十分に冷却していないと、増粘し、縮合が起こってポリマーが粒子として析出する、すなわち重合度が上がる傾向のあることが知られている(特許文献2参照)。
【0005】
一方、チタン有機化合物を出発原料とし、これに酸、水、アルコールを加えて加水分解と縮合反応脱水反応により酸化チタン薄膜を形成するいわゆるゾル−ゲル法は、有望な成膜方法であることが知られている。例えば、チタン有機化合物、水、酸およびアルコールを含むチタンゾルを塗布液として用いた酸化チタン薄膜の製法が提案されている(特許文献3参照)。
しかし、特許文献3では、沈殿やゲルが生成しない安定なチタンゾルが作製可能であり、酸化チタン薄膜が作製可能であるが、導電性の発現した膜の作製という提案には至っていない。
【0006】
また、チタン化合物と遷移元素化合物とを含有する溶液又は分散液を基材上に塗布し、ついで焼成して遷移元素がドープされたチタン酸化物の透明被膜を形成した後、この透明被膜を還元雰囲気下で加熱処理することにより、透明導電膜を製造する方法が提案されている(特許文献4参照)。
しかし、特許文献4に記載の方法で得られる透明導電膜は、抵抗率がせいぜい10-2Ω・cmのオーダーでしかない。そのため、より高い導電性を有する透明導電性膜を形成することが要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−135096号公報
【特許文献2】特開昭62−252319号公報
【特許文献3】特開平5−59562号公報
【特許文献4】特開2008-288196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、簡便な塗布法にて優れた導電性を有する酸化チタン系透明導電性膜を形成することができる透明導電性基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は下記の構成を有する。
【0010】
(1)チタン化合物、ニオブ化合物、無機酸、水およびアルコールを含有した塗布液を透明基板上に塗布し、塗布後24時間以内に、還元雰囲気下にて加熱によるアニールを施して、ニオブがドープされた酸化チタンからなる透明導電性膜を透明基板上に形成することを特徴とする透明導電性基板の製造方法。
【0011】
(2)前記塗布液が、チタン化合物としてチタンアルコキシドを、ニオブ化合物としてニオブアルコキシドを、無機酸として塩酸および硝酸からなる群より選ばれる少なくとも一種を、アルコールとしてエタノールを、それぞれ含有するものである上記(1)に記載の透明導電性基板の製造方法。
【0012】
(3)塗布液中のニオブ/チタンのモル比が0.01〜0.7である上記(1)または(2)に記載の透明導電性基板の製造方法。
【0013】
(4)還元雰囲気下におけるアニール処理の加熱温度が、350〜1000℃である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の透明導電性基板の製造方法。
【0014】
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法によって得られた透明導電性基板。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、特定の透明導電性膜作製用塗布液を用いて、簡便な塗布法により、透明基板上に、抵抗率が10-3Ω・cm以下という優れた導電性を有する、ニオブがドープされた酸化チタンからなる透明導電性膜を形成できるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の透明導電性基板の製造方法においては、まず、膜形成材料として、チタン化合物とニオブ化合物を溶解させたアルコール溶液に、無機酸および水を添加した塗布液を得る。得られた塗布液は、大気下での長期間の保存後も低抵抗な導電膜が作製可能である。この塗布液に含まれたチタン化合物およびニオブ化合物は、加熱により、ニオブがドープされた酸化チタンとなる金属酸化物前駆体である。本発明においては、膜形成を、周期表のVA族に属する5価のニオブが酸化チタンにドープされた金属酸化物で行うことによって、良好な導電性を発現させる。
【0017】
前記塗布液は、チタン化合物およびニオブ化合物を順にアルコール中に所望の割合で溶解させて得られるものであってもよいし、チタン化合物とニオブ化合物とを予め所望の割合で混合した混合物をアルコールに溶解させることにより得られたものであっても良い。
【0018】
前記塗布液を得るに際し、チタン化合物とニオブ化合物との混合割合は、特に制限されないが、最終的に形成された酸化チタン膜におけるニオブ/チタンのモル比が0.01〜0.7となるようにすればよい。ニオブの含有量がこの範囲より少ないと、ドープ効果が不十分となり、導電性が低下するおそれがある。一方、ニオブの含有量がこの範囲より多くても、導電性の低下、膜の透明性の低下が生じるおそれがある。
【0019】
前記塗布液に用いることのできるアルコールとしては、特に制限はないが、不純物混入による導電性低下を懸念して、成膜した際に残留カーボン量の少ないアルコール、もしくはそれらの混合溶媒を用いるのが好ましい。そのため、揮発性のある程度高いアルコールを用いることが望ましく、具体的には、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、3−メトキシ−1−ブタノール、ジアセトンアルコール、2−エトキシエタノール等の炭素数1〜6の脂肪族低級アルコールが挙げられる。
【0020】
前記チタン化合物は、チタン源としてTi原子を含むものであれば特に制限はなく、例えば、塩化チタン(二塩化チタン、三塩化チタン、四塩化チタン等)、チタンアルコキシド(メトキシド、エトキシド、イソプロポキシド等)、硫酸チタニル、金属チタン、水酸化チタン(オルトチタン酸等)、オキシ硫酸チタン等を用いることができる。
前記ニオブ化合物は、ニオブ源としてNb原子を含むものであれば特に制限はなく、例えば、塩化ニオブ、ニオブアルコキシド(メトキシド、エトキシド等)、金属ニオブ、水酸化ニオブ等を用いることができる。
なお、上記のうち、チタンアルコキシドおよびニオブアルコキシドは、水分と接触すると直ちに反応する不安定な物質なので、乾燥(低湿度)雰囲気下で扱うことが好ましい。
【0021】
前記無機酸としては、塩酸、硝酸等を用いることができるが、塩酸が好ましい。水は、通常、無機酸の水溶液として塗布液に含有されるが、無機酸とは別に添加してもよい。
【0022】
前記塗布液の固形分濃度は、特に制限は無く、酸化物や水酸化物の沈殿およびゲル化が生じない固形分濃度であればよい。選択した溶媒や塗布方法によって最終的に形成される膜厚を考慮し、適宜固形分濃度を選択すればよく、通常、1〜30重量%、好ましくは5〜30重量%程度とすればよい。なお、ここでいう固形分濃度は、前駆体液を得る際に用いたチタン化合物およびニオブ化合物の合計重量が、塗布液の全重量中に占める割合(重量%)を意味するものである。
【0023】
前記塗布液を得るに際し、塗布液中の水/固形分(チタン化合物とニオブ化合物の和)のモル比を0.1〜10、好ましくは0.1〜5、より好ましくは0.1〜3、水/無機酸の当量比を2〜40、好ましくは2〜20、より好ましくは2〜10とすることにより、チタン酸化物、チタン水酸化物、ニオブ酸化物およびニオブ水酸化物の沈殿およびゲルの生成を防止できるので、透明な塗布液が得られる。塗布液中の水/固形分(チタン化合物とニオブ化合物の和)のモル比および水/無機酸の当量比を前記範囲とすることにより、一ヶ月以上粘度変化の無い塗布液が作製できる。
また、無機酸の添加により、通常発熱反応が生じるため、発熱による影響を低下させるには、無機酸添加時の塗布液の温度を20℃以下、好ましくは10℃以下、より好ましくは5℃以下にすることが望ましい。
【0024】
本発明の透明導電性基板の製造方法においては、次に、得られた前記塗布液を透明基材上に塗布し、特定条件下、アニール処理を施す。前記透明基材としては、熱が付加されるアニール処理工程における加熱温度において形状を維持しうるものであり、かつ透明性を有するものであれば、特に制限はない。例えば、各種ガラス等の無機材料、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、トリアセチルセルロース、ポリイミドなどのプラスチック類)等の高分子材料などで形成された板状物、シート状物、フィルム状物等を用いることができる。ただし、比較的高温でのアニール処理を実施することから、各種ガラス等の無機材料を使用するのがより好ましい。透明基材の可視光透過率は、通常、90%以上であるのが好ましく、95%以上であるのがより好ましい。
【0025】
前記塗布液を透明基材上に塗布する際の塗布方法は、均一にウェットコーティングできる方法であれば特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができ、例えばキャピラリーコート法、スピンコート法、スリットダイコート法、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、バーコーター法等を採用することができる。
【0026】
前記塗布液を塗布するに際し、塗布量は特に制限されるものではなく、例えば、最終的に形成される膜の厚み(ドライ膜厚)が10nm〜300nmとなるようにすればよい。最終的に形成されたドライ膜厚が前記範囲よりも小さいと、基材に凹凸が存在する場合などに部分的に塗布されにくい箇所や実際に塗布されていない箇所が生じるおそれがあり、一方、前記範囲よりも大きいと透明性が低下するおそれがある。なお、上記のような厚みに前駆体液を塗布する際には、1回の塗布作業で行ってもよいし、複数回の塗布作業を重ねて行うようにしてもよい。
【0027】
本発明においては、塗布後の基板に対し、塗布後24時間以内に、還元雰囲気下にて加熱によるアニール処理を施す。これにより、膜を形成するニオブドープ酸化チタンはアモルファス相となり、引き続く、アナターゼ相への結晶転移とともに、結晶相中に酸素欠損を生じ、高い導電性を発現させることができる。基板への塗布から24時間経過後に上記アニール処理を行った場合には、高い導電性を発現させることが困難になる。
なお、塗布後24時間以内とは、塗布直後に上記アニール処理を行う場合も包含する。
【0028】
前記アニール処理の際の還元雰囲気には、特に制限はなく、例えば、窒素、一酸化炭素、アルゴンプラズマ、水素プラズマ、水素、真空、アンモニア、不活性ガス(アルゴン等)、あるいはこれらの混合ガスの雰囲気など、一般的な還元雰囲気であればよい。好ましくは、強還元性雰囲気である水素雰囲気(好ましくは水素ガス100%雰囲気)を採用するのがよい。
【0029】
前記アニール処理における加熱温度は、基板上に塗布されたニオブをドープした酸化チタンの結晶相が高い導電性を発現するアナターゼ型に変化し得る温度であればよく、ニオブの含有比率などに応じて適宜設定すればよい。アナターゼ結晶相に変化させるために必要な温度は、酸化チタンへのニオブのドープ量が多いほど高くなるのであり、アニール処理における加熱温度は、通常350℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは500℃以上である。
【0030】
アニール処理の加熱温度の上限は、アナタ−ゼ結晶相が、導電性の低いルチル結晶相に変化し始める温度未満であればよい。しかし、通常、酸素欠損を導入すると抵抗値の高いルチル相に変化しやすい傾向となるが、本発明においては、酸化チタンにドープしたニオブが、酸素欠損を導入してもアナターゼ相を安定化させる作用をなすため、ルチル結晶相に相転移して導電性が低下するおそれはほとんどない。従って、導電特性をより向上させたい場合、アニール処理温度は、導電特性が高くなる傾向にある高温の1000℃を上限として、好ましくは600℃以下の高い温度範囲で設定することが望ましい。
【0031】
具体的には、ニオブの含有比率(形成される透明導電性膜におけるニオブの含有比率)が20モル%である場合、前記アニール処理の加熱温度が600℃、加熱時間が30分程度で、良好な透明導電性膜が得られる。また、アニール処理の加熱温度の設定には、上記に加えて、使用する透明基材の耐熱温度も考慮される。例えば、無アルカリガラスを透明基材として用いる場合、軟化点が975℃であるから、通常950℃以下、好ましくは800℃以下で用いる。
【0032】
アニール処理時間(加熱時間)は、加熱温度等に応じて適宜設定すればよいが、通常、1分〜1時間程度であり、好ましくは3分〜30分程度である。
【0033】
塗布液を透明基材上に塗布後、上記還元雰囲気下でのアニール処理前に、室温において24時間以上放置すると、得られる透明導電性膜の抵抗値は増加する傾向にある。これは、透明基材上に塗布されたチタン、ニオブの前駆体が、基板上での熱分解により、縮合が進行し、ポリマーが大きな粒子として析出して、膜の均一性を低下させるためであり、その結果、導電性の低下が生じると推測される。従って、良好な導電性を得るためには、塗布液を塗布後、還元雰囲気下でのアニール処理前の、室温での放置時間は24時間以内であるのが好ましく、20時間以内であるのがより好ましい。
【0034】
以上のような方法によって、ニオブがドープされた酸化チタンからなる透明導電性膜が、透明基板上に形成される。この透明導電性膜は、アナターゼ型結晶相を有し、ニオブドープ酸化チタンの多結晶体からなる薄膜であり、高い導電性を発現するものである。具体的には、本発明の製造方法で得られた透明導電性基板は、抵抗率が10-3Ω・cm以下である。また、本発明により得られた透明導電性基板の透過率は、可視域で、通常65%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上である。なお、抵抗率は、例えば実施例で後述する方法によって測定することができる。
【0035】
本発明の製造方法により得られた透明導電性基板は、例えば、タッチパネル、液晶ディスプレイ、LED(発光素子)、有機ELディスプレイ、フレキシブルディスプレイ、プラズマディスプレイ等のディスプレイ電極、太陽電池の電極、窓ガラスの熱線反射膜、帯電防止膜等の用途に好適に用いられる。さらに、本発明の製造方法により得られた透明導電性は、屈折率が高いという特長を活かして、反射防止機能を有した帯電防止膜としても有効である。
【0036】
なお、上述した本発明の製造方法では、塗布液は透明基材上に直接塗布しているが、例えば液晶ディスプレイのようなデバイス等の透明電極用途においては、透明基材の上に着色膜(カラーフィルター)等の中間膜を介在させ、それらの上に直接前駆体液を塗布するようにしてもよく、このように透明基材と透明導電性膜との間に中間膜を介在させた態様も本発明に包含される。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例により限定されるものではない。
なお、各実施例において、塗布液の粘度変化、透明導電性基板の物性は以下の方法で測定した。
【0038】
<シート抵抗(表面抵抗)>
シート抵抗(Ω/□)は、抵抗率計(三菱化学(株)製「LORESTA−GP,MCP−T160」)を用いて、四端子四探針法により測定した。詳しくは、サンプルに4本の針状電極を直線状に置き、外側の二探針間に一定の電流を流し、内側の二探針間に生じる電位差を測定して、抵抗を求めた。測定は5cm角の成膜した基板内について9点測定を行い、測定値の平均をその膜の抵抗値とした。
【0039】
<抵抗率(比抵抗)>
抵抗率(Ω・cm)は、シート抵抗と膜厚(cm)とを乗算することにより算出した。
【0040】
<透過率>
透過率は、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光(株)製「V−670」)を用いて、波長190nm〜2700nmの範囲で測定した。
【0041】
<膜の表面観察>
膜表面の観察は、電解放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて行った。
【0042】
(実施例1)
まず、窒素雰囲気中でチタンテトライソプロポキシド2.00g、ニオブエトキシド0.56gを脱水エタノール27.68g中に溶解させ、アルコキシドが溶解したエタノール溶液を得た。溶液を入れたフラスコの周囲を氷水で2℃に冷却した後、溶液に濃度35重量%の塩酸水0.32gを攪拌下で一気に添加し、塩酸の添加によって溶液の急激な内温上昇が起こらないように制御した。塩酸添加終了後、内温上昇が停止し、再び液温が2℃になった時点で氷浴からはずし、室温にまで戻した。この間、攪拌は行っていた。この条件での塗布液作製により、チタン:ニオブ=80:20(モル比)、固形分濃度8.4重量%の塗布液が作製できた。
この塗布液を、透明基材{無アルカリガラス(コーニング社製の1737)、5cm角、厚さ0.7mm}上に、ドライ膜厚60nmとなるようにスピンコーターで1回塗布し、直ちに水素100%の還元雰囲気下にて600℃で30分間アニール処理を施して、透明導電性基板を得た。
得られた透明導電性基板は、シート抵抗が290Ω/□、抵抗率が1.74×10-3Ω・cmであり、透過率が可視域で70%、赤外域で60%であった。この透明性基板における導電性膜の結晶構造をFE−SEMで観察したところ、一つのグレインが500nmであるニオブがドープされた酸化チタンの多結晶体であった。
【0043】
(実施例2)
窒素雰囲気中でチタンテトライソプロポキシド2.00g、ニオブエトキシド0.56gを2−エトキシエタノール27.68g中に溶解させ、アルコキシドが溶解したアルコール溶液を得た。溶液を入れたフラスコの周囲を氷水で2℃に冷却した後、溶液に濃度35重量%の塩酸水0.32gを攪拌下で一気に添加し、塩酸の添加によって溶液の急激な内温上昇が起こらないように制御した。塩酸添加終了後、内温上昇が停止し、再び液温が2℃になった時点で氷浴からはずし、室温にまで戻した。この間、攪拌は行っていた。この条件での塗布液作製により、チタン:ニオブ=80:20(モル比)、固形分濃度8.4重量%の塗布液が作製できた。
この塗布液を、実施例1と同じ透明基材上にドライ膜厚が60nmとなるようにスピンコーターで1回塗布し、直ちに水素100%の還元雰囲気下にて600℃で30分間アニール処理を施して、透明導電性基板を得た。
得られた透明導電性基板のシート抵抗は1137Ω/□、抵抗率が6.82×10-3Ω・cmであり、透過率が可視域で70%、赤外域で80%であった。
【0044】
(実施例3)
窒素雰囲気中でチタンテトライソプロポキシド4.03g、ニオブエトキシド1.13gを脱水エタノール55.36g中に溶解させ、アルコキシドが溶解したエタノール溶液を得た。溶液を入れたフラスコの周囲を氷水で2℃に冷却した後、溶液に濃度69重量%の硝酸0.57g、続いて超純水0.24gを攪拌下で一気に添加し、硝酸の添加によって溶液の急激な内温上昇が起こらないように制御した。硝酸添加終了後、内温上昇が停止し、再び液温が2℃になった時点で氷浴からはずし、室温にまで戻した。この間、攪拌は行っていた。この条件での塗布液作製により、チタン:ニオブ=80:20(モル比)、固形分濃度8.4重量%の塗布液が作製できた。
この塗布液を、実施例1と同じ透明基材上にドライ膜厚が60nmとなるようにスピンコーターで1回塗布し、直ちに水素100%の還元雰囲気下にて600℃で30分間アニール処理を施して、透明導電性基板を得た。
得られた透明導電性基板は、シート抵抗が931Ω/□、抵抗率が5.59×10-3Ω・cmであり、透過率が可視域で70%、赤外域で65%であった。
【0045】
(実施例4)
窒素雰囲気中でチタンテトライソプロポキシド4.00g、ニオブエトキシド0.80gを脱水エタノール51.90g中に溶解させ、アルコキシドが溶解したエタノール溶液を得た。溶液を入れたフラスコの周囲を氷水で2℃に冷却した後、溶液に濃度35重量%の塩酸水0.61gを攪拌下で一気に添加し、塩酸の添加によって溶液の急激な内温上昇が起こらないように制御した。塩酸添加終了後、内温上昇が停止し、再び液温が2℃になった時点で氷浴からはずし、室温にまで戻した。この間、攪拌は行っていた。この条件での塗布液作製により、チタン:ニオブ=85:15(モル比)、固形分濃度8.4重量%の塗布液が作製できた。
この塗布液を、実施例1と同じ透明基材上にドライ膜厚が60nmとなるようにスピンコーターで1回塗布し、直ちに水素100%の還元雰囲気下にて600℃で30分間アニール処理を施して、透明導電性基板を得た。
得られた透明導電性基板のシート抵抗は540.9Ω/□、抵抗率が3.25×10-3Ω・cmであり、透過率は可視域で70%、赤外域で65%であった。
【0046】
(実施例5)
窒素雰囲気中でチタンテトライソプロポキシド2.00g、ニオブエトキシド0.96gを脱水エタノール32.00g中に溶解させ、アルコキシドが溶解したエタノール溶液を得た。溶液を入れたフラスコの周囲を氷水で2℃に冷却した後、溶液に濃度35重量%の塩酸水0.37gを攪拌下で一気に添加し、塩酸の添加によって溶液の急激な内温上昇が起こらないように制御した。塩酸添加終了後、内温上昇が停止し、再び液温が2℃になった時点で氷浴からはずし、室温にまで戻した。この間、攪拌は行っていた。この条件での塗布液作製により、チタン:ニオブ=70:30(モル比)、固形分濃度8.4重量%の塗布液が作製できた。
この塗布液を、実施例1と同じ透明基材上にドライ膜厚が60nmとなるようにスピンコーターで1回塗布し、直ちに水素100%の還元雰囲気下にて600℃で30分間アニール処理を施して、透明導電性基板を得た。
得られた透明導電性基板のシート抵抗は365.5 Ω/□、抵抗率が2.19×10-3Ω・cmであり、透過率は可視域で70%、赤外域で65%であった。
【0047】
(実施例6)
大気雰囲気中でチタンテトライソプロポキシド2.00g、ニオブエトキシド0.56gをエタノール22.70g中に溶解させ、アルコキシドが溶解したエタノール溶液を得た。続いて、濃度35重量%の塩酸0.32gを攪拌下で一気に添加した。この条件での塗布液作製により、チタン:ニオブ=80:20(モル比)、固形分濃度10重量%の塗布液が作製できた。
この塗布液を、実施例1と同じ透明基材上にスピンコーティング(150rpm×5sec、引き続き800rpm×20sec)を行い、直ちに水素100%の還元雰囲気下にて600℃で30分間アニール処理を施して、透明導電性基板を得た。
得られた透明導電性基板のシート抵抗は202.8Ω/□、抵抗率が1.5×10-3Ω・cmであり、透過率は可視域で70%、赤外域で60%であった。
【0048】
(実施例7)
大気雰囲気中でチタンテトライソプロポキシド2.00g、ニオブエトキシド0.56gをエタノール14.18g中に溶解させ、アルコキシドが溶解したエタノール溶液を得た。続いて、濃度35重量%の塩酸0.32gを攪拌下で一気に添加した。この条件での塗布液作製により、チタン:ニオブ=80:20(モル比)、固形分濃度15重量%の塗布液が作製できた。
この塗布液を、実施例1と同じ透明基材上にスピンコーティング(150rpm×5sec、引き続き800rpm×20sec)を行い、直ちに水素100%の還元雰囲気下にて600℃で30分間アニール処理を施して、透明導電性基板を得た。
得られた透明導電性基板のシート抵抗は203.9Ω/□、抵抗率が2.3×10-3Ω・cmであり、透過率は可視域で75%、赤外域で50%であった。
【0049】
(実施例8)
大気雰囲気中でチタンテトライソプロポキシド4.00g、ニオブエトキシド1.12gをエタノール55.36g中に溶解させ、アルコキシドが溶解したエタノール溶液を得た。続いて、濃度35重量%の塩酸0.64gを攪拌下で一気に添加した。この条件での塗布液作製により、チタン:ニオブ=80:20(モル比)、固形分濃度8.4重量%の塗布液が作製できた。
この塗布液を、実施例1と同じ透明基材上にドライ厚膜が60nmになるようにスピンコーティングで一回塗布し、直ちに水素3%の還元雰囲気下にて600℃で60分間アニール処理を施して、透明導電性基板を得た。
得られた透明導電性基板のシート抵抗は1171Ω/□、抵抗率が7.0×10-3Ω・cmであり、透過率は可視域で70%、赤外域で70%であった。
【0050】
(実施例9)
大気雰囲気中でチタンテトライソプロポキシド2.00g、ニオブエトキシド0.56gを3−メトキシ−1−ブタノール13.50g中に溶解させ、アルコキシドが溶解した溶液を得た。続いて、濃度35重量%の塩酸0.32gを攪拌下で一気に添加した。この条件での塗布液作製により、チタン:ニオブ=80:20(モル比)、固形分濃度16重量%の塗布液が作製できた。
この塗布液を、実施例1と同じ透明基材上にスピンコーティング(800rpm×60sec)を行い、直ちに水素100%の還元雰囲気下にて600℃で30分間アニール処理を施して、透明導電性基板を得た。
得られた透明導電性基板のシート抵抗は679Ω/□、抵抗率が3.2×10-3Ω・cmであり、透過率は可視域で70%、赤外域で70%であった。
【0051】
(実施例10)
大気雰囲気中でチタンテトライソプロポキシド2.00g、ニオブエトキシド0.56gを3−メトキシ−1−ブタノール6.80g中に溶解させ、アルコキシドが溶解した溶液を得た。続いて、濃度35重量%の塩酸0.32gを攪拌下で一気に添加した。この条件での塗布液作製により、チタン:ニオブ=80:20(モル比)、固形分濃度26重量%の塗布液が作製できた。
この塗布液を、実施例1と同じ透明基材上にスピンコーティング(800rpm×60sec)を行い、直ちに水素100%の還元雰囲気下にて600℃で30分間アニール処理を施して、透明導電性基板を得た。
得られた透明導電性基板のシート抵抗は485Ω/□、抵抗率が5.1×10-3Ω・cmであり、透過率は可視域で70%、赤外域で70%であった。
【0052】
(実施例11)
大気雰囲気中でチタンテトライソプロポキシド2.00g、ニオブエトキシド0.56gをエタノール27.68g中に溶解させ、アルコキシドが溶解したエタノール溶液を得た。続いて、濃度35重量%の塩酸0.32gを攪拌下で一気に添加した。この条件での塗布液作製により、チタン:ニオブ=80:20(モル比)、固形分濃度8.4重量%の塗布液が作製できた。
この塗布液を、実施例1と同じ透明基材上にスピンコーティング(800rpm×60sec)を行い、直ちに水素100%の還元雰囲気下にて500℃で30分間アニール処理を施して、透明導電性基板を得た。
得られた透明導電性基板のシート抵抗は825Ω/□、抵抗率が4.9×10-3Ω・cmであり、透過率は可視域で70%、赤外域で75%であった。
【0053】
(試験例1)
塗布後アニール処理前の塗膜の保存安定性を評価した、すなわち実施例1で得られた塗布液を、実施例1と同じ透明基材上にドライ膜厚が60nmとなるようにスピンコーターで1回塗布し、室温において下記に示す放置時間を設けた後、水素100%の還元雰囲気下にて600℃で30分間アニール処理を施して、透明導電性基板を得た。得られた透明導電性基板のアニール処理前の熟成時間によらず、可視域で70%であり、赤外領域では、60%であった。各保存時間におけるシート抵抗(膜平均)および抵抗率を表1に示す。
【0054】
【表1】


表1から明らかなように、塗布後24時間以内、とりわけ17時間以内にアニール処理を施すことにより、低抵抗の透明導電性膜を透明基板上に形成することができることがわかる。
【0055】
(試験例2)
塗布液の保持安定性を評価した、すなわち実施例1で得られた塗布液を、大気中で下記に示す保持時間を設けた後、実施例1と同じ透明基材上にドライ膜厚が60nmとなるようにスピンコーターで1回塗布した。塗布後直ちに水素100%の還元雰囲気下にて600℃で30分間アニール処理を施して、透明導電性基板を得た。塗布液の大気中での保持時間によらず、可視域で70%であり、赤外領域では、60%であった。各保存時間におけるシート抵抗(膜平均)および抵抗率を表2に示す。
【0056】
【表2】


表2から明らかなように、本発明における塗布液は保存安定性に優れ、大気下での長い保存時間を設けた後も低抵抗な透明導電性膜を透明基板上に形成することができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
上記実施例から明らかな如く、本発明によれば、透明導電膜形成用塗布液として常に安定な導電特性を有する透明導電膜を、基板上に作製することが可能であるため、その産業上の価値は頗る大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン化合物、ニオブ化合物、無機酸、水およびアルコールを含有した塗布液を、透明基板上に塗布し、塗布後24時間以内に、還元雰囲気下にて加熱によるアニールを施して、ニオブがドープされた酸化チタンからなる透明導電性膜を透明基板上に形成することを特徴とする透明導電性基板の製造方法。
【請求項2】
前記塗布液が、チタン化合物としてチタンアルコキシドを、ニオブ化合物としてニオブアルコキシドを、無機酸として塩酸および硝酸からなる群より選ばれる少なくとも一種を、アルコールとしてエタノールを、それぞれ含有する請求項1に記載の透明導電性基板の製造方法。
【請求項3】
塗布液中のニオブ/チタンのモル比が0.01〜0.7である請求項1または2に記載の透明導電性基板の製造方法。
【請求項4】
還元雰囲気下におけるアニール処理の加熱温度が、350〜1000℃である請求項1〜3のいずれかに記載の透明導電性基板の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法によって得られた透明導電性基板。

【公開番号】特開2011−204667(P2011−204667A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241949(P2010−241949)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】