説明

酸化チタン/層状複水酸化物複合体及びその製造方法

【課題】親水性物質の吸着能力に優れた酸化チタン/層状複水酸化物複合体を提供する。
【解決手段】本発明の酸化チタン/層状複水酸化物複合体は、層状複水酸化物の層間に酸化チタンが挿入されている。このような酸化チタン/層状複水酸化物複合体は、(1)層状複水酸化物の層間に存在する炭酸イオンを除去する脱炭酸工程と、(2)炭酸イオンの一部又は全部が除去された層状複水酸化物(該層状複水酸化物の加熱焼成された脱炭酸酸化物を含む)とペルオキソチタン溶液とを混合して層状複水酸化物の層間に酸化チタンを挿入させて酸化チタン/層状複水酸化物複合体とするインターカレーション工程とを行うことによって得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化チタン/層状複水酸化物複合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカゲルやゼオライトや活性炭等、多孔体材料は、吸着剤、分離材料、触媒材料、触媒担体等に広く応用されている。それら多孔体の中でも、酸化チタン/粘土複合多孔体は、板状の層が間隔を空けて並びスリット状の細孔構造を形成し、さらにそのスリット状の層間に酸化チタン微粒子を包含するというユニークな構造を有しており、注目を集めている。
【0003】
酸化チタン/粘土複合多孔体は、粘土の平板結晶層の層間にナノサイズの酸化チタン微粒子が挿入された材料であり、粘土結晶層の内部表面が外部空間に通じている多孔体構造をとるため、大きな比表面積を有しており、高い吸着性能を示す(例えば特許文献1〜6参照)。このため、吸着材と触媒とを併せ持った機能性材料となり、室内空気中に含まれているホルマリン等の有害な有機物の吸着分解処理や、水中の汚染物質の処理等への利用が検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1〜6に示されているような酸化チタン/粘土複合多孔体では、トルエンのような疎水性物質には酸化チタンと比較して高い吸着性を示す。しかしながら、エタノールのような親水性物質の吸着性は酸化チタンと大きな差はなく(非特許文献1及び2)、親水性物質を吸着する吸着材としての能力は低いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−295222号公報
【特許文献2】特開昭61−295223号公報
【特許文献3】特開昭62−187107号公報
【特許文献4】特開平8−91825号公報(請求項1)
【特許文献5】特開平8−141391号公報
【特許文献6】特開平10−338516号公報
【特許文献7】特開2000−247638
【特許文献8】特開2005−255441
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ooka, C.; Yoshida, H.; Suzuki,K.; Hattori, T., Appl. Catal. A: General, 2004,260, 47.
【非特許文献2】Ooka,C.; Yoshida,H.; Suzuki,K.; Hattori, T.,Microporous and Mesoporous Mater., 2004, 67, 143.
【非特許文献3】Muhlebach, J.; Muller, K.; Schwarzenbach,G., Inorg. Chem., 1970, 9, 2381.
【非特許文献4】鈴木榮一、小野嘉夫、「ハイドロタルサイトのインターカレーション化学」、化学総説21「マイクロポーラスクリスタル」(日本化学会編、学会出版センター)、1994, 49.
【非特許文献5】Iyi, N; Sasaki, T., J. Colloid Interface Sci., 2008, 322, 237.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、親水性物質の吸着能力に優れた酸化チタン/層状複水酸化物複合体を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記従来の酸化チタン/粘土複合多孔体について、エタノールのような親水性物質の吸着性が低い理由について鋭意研究を行なった。その結果、特許文献1〜6に示されているような酸化チタン/粘土複合多孔体は、スメクタイト類を始めとするカチオン交換性の膨潤性粘土を使用しており、その細孔内が疎水性であるということに起因するのではないかと推定した。
【0009】
そして、さらに本発明者らは、カチオン交換性の膨潤性粘土と異なり、アニオン交換性を有する層状複水酸化物(LDH: Layered Double Hydroxide、ハイドロタルサイト様化合物とも呼ばれる)に注目した。なぜならば、層状複水酸化物は、水和性の高い金属水酸化物あるいは酸化物を多く含有しているため、親水性の層間表面を有しており、より表面親水性の高い酸化チタン/粘土複合多孔体となると期待できるからである。そして、鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の酸化チタン/層状複水酸化物複合体は、層状複水酸化物の層間に酸化チタンが挿入されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の酸化チタン/層状複水酸化物複合体では、酸化チタンと複合させる粘土化合物として層状複水酸化物を用いる。この層状複水酸化物は、インターカレーションによって層間に様々なアニオン種を挿入することができる。例えばペルオキソチタン溶液のようにチタンを含むアニオン種を含んだ溶液と層状複水酸化物とを接触させることによってインターカレーションを行なった後、加熱等の脱水処理を行なうことによって、層間に容易に酸化チタンを挿入することができる。こうして、酸化チタンが層間に挿入された酸化チタン/層状複水酸化物複合体は、層間距離が広がり、多孔性が大きくなり、このため比表面積も増大して、吸着量が増大する。しかも、層間内部の細孔表面は親水性であるため、親水性物質が容易に侵入することができ、親水性物質の吸着量が大きなものとなる。さらには、光照射した場合、層間内に吸着された物質が、層間内部に挿入された酸化チタンの光触媒機能により、光酸化分解されることが期待される。
【0012】
本発明において用いられる層状複水酸化物(Layered Double Hydroxide)とは、下記のように表される一般式をもつ不定比化合物をいう。
【0013】
【化1】

【0014】
ここで,M2+はMg,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Znなどの二価金属イオンを示し、M3+はAl,Cr,Fe,Co,Inなどの三価金属イオンを示し、Aはn価のアニオンを示す。左側括弧部分は、層状構造の骨格をなす部分であり、二価金属イオンの一部を三価金属イオンが置換(固溶)することによって正電荷を有しており、その電荷を補うために中間層へ陰イオンを取り込んで電気的中性を保つ構造となっている。また、中間層の残りの空間は親水性が高いため、通常、乾燥条件に応じた量の水分子を含んでいる。この中間層の陰イオンはCl-,NO3-,CO32-,カルボン酸などのn価の陰イオンであり、アニオン交換が可能とされている。
【0015】
このような層状複水酸化物は、天然産のもの(例えばハイドロタルサイト(Hydrotalcite)、マナッセイト(Manasseite)、モツコレアイト(Motukoreaite)、スティッヒタイト(Stichtite)、ショグレナイト(Sjogrenite)、バーバートナイト(Barbertonite)、パイロアウライト(Pyroaurite)、イオマイト(Iomaite)、クロロマガルミナイト(Chlormagaluminite)、ハイドロカルマイト(Hydrocalmite)、グリーン ラスト1(Green Rust1)、ベルチェリン(Berthierine)、タコバイト(Takovite)、リーベサイト(Reevesite)、ホネサイト(Honessite)、イヤードライト(Eardlyite)、メイキセネライト(Meixnerite)等)の他、人工的に合成されたものであってもよい。
【0016】
これらの層状複水酸化物の中でも、ハイドロタルサイト等のMg−Al系層状複水酸化物が好ましい。発明者らは、Mg−Al系層状複水酸化物の層間に酸化チタンが挿入された複合体は容易に合成することができ、酸化チタンの挿入によって確実に比表面積が大きくなることを確認している。そして、さらには、窒素ガス吸着測定によるBET法比表面積を110m/g以上とすることができ、MP法によるマイクロポア容積を0.01cm/g以上とすることができることを確認している。このような大きな比表面積や微細な細孔は、原料である層状複水酸化物粉体では認められず、層状複水酸化物層間に酸化チタン微粒子を複合化することによって得られる顕著な効果である。
【0017】
本発明の酸化チタン/層状複水酸化物複合体の酸化チタン含有量は、10質量%以上が好ましく、さらに好ましくは30質量%以上、最も好ましくは40質量%以上である。酸化チタン/層状複水酸化物複合体の酸化チタン含有量が10質量%未満では、層状複水酸化物層間の細孔構造が充分に発達せず、インターカレーションによる比表面積の増加も小さく、吸着材としての吸着量が小さくなる。ただし、酸化チタンの含有量が多いと、相対的に層状複水酸化物複合体の含有量が少なくなるため、親水性の発揮が損なわれ、親水性の汚染物質の吸着効果が損なわれ易くなる。このため、酸化チタンの含有量は90質量%以下が好ましく、さらに好ましくは80質量%以下、最も好ましくは70質量%以下である。
【0018】
また、層状複水酸化物の層間に挿入されている酸化チタンは、その全部又は一部が結晶化していることが好ましく、さらにアナターゼ型結晶構造であることが好ましい。酸化チタンの結晶構造はルチル型、アナターゼ型とブルッカイト型の3種類が知られているが、このうちアナターゼ型結晶構造を有する酸化チタンは多くの光触媒反応で高い反応活性を示している。このため、層状複水酸化物の層間に吸着された親水性の汚染物質を光触媒分解する機能に優れた複合体となる。
【0019】
本発明の酸化チタン/層状複水酸化物複合体は、以下のようにして製造することができる。すなわち、本発明の酸化チタン/層状複水酸化物複合体の製造方法は、層状複水酸化物あるいは加熱焼成により該層状複水酸化物の一部又は全部が酸化物となった化合物と、pHが3以上のペルオキソチタン溶液とを混合することにより、層状複水酸化物の層間に酸化チタンを挿入させて酸化チタン/層状複水酸化物とするインターカレーション工程を有することを特徴とする。
【0020】
本発明の酸化チタン/層状複水酸化物複合体の製造方法では、インターカレーション現象を利用したインターカレーション工程を行なう。すなわち、層状複水酸化物とpHが3以上のペルオキソチタン溶液とを反応させ、層状複水酸化物の層間に酸化チタンを挿入させて酸化チタン/層状複水酸化物とする。ペルオキソチタン溶液とは、水酸化チタンと過酸化水素水とを混合することにより水酸化チタンのOHの一部が過酸化状態とされたペルオキソチタンイオンを含有している液体をいう。このようなペルオキソチタン溶液は次のような化学式で示される、二核錯体アニオンTi25(OH)x(X-2)-(X>2)や、そのポリアニオン((Ti25q(OH)y(y-2q)-(q/y>2))等を含んでいると考えられている(非特許文献3)。このペルオキソチタン溶液は、金属や酸化物などからも合成することができる。
【0021】
また、「加熱焼成により該層状複水酸化物の一部又は全部が酸化物となった化合物」とは、非特許文献4に記載されているように、水を添加することにより一部でももとの層状複水酸化物へ戻ることのできる状態の化合物をいい、水を添加しても全くもとの層状複水酸化物へ戻ることのできない状態の化合物は含まない。
【0022】
ペルオキソチタン溶液は、非特許文献3によるとpHが3から9の領域で、また特許文献7によるとpHが3以上の領域で、チタンを含む二核錯体アニオンTi25(OH)x(X-2)-や、そのポリアニオンといったアニオン種を含有しており、このため、アニオン交換性を有する層状複水酸化物と、容易にアニオン交換をしてペルオキソチタンを層間に侵入させることができる。ペルオキソチタン溶液のpHが3未満の酸性領域ではペルオキソチタン種はカチオン種が主であり、本発明への使用には向かない。具体的には、難イオン交換性の炭酸イオンを層間に含まない層状複水酸化物あるいは炭酸イオンを層間に含んでいても炭酸イオンの一部または全部が除去乃至は他のアニオンに置換された層状複水酸化物と、pHが3以上のペルオキソチタン溶液との反応は、両者を単に混合するだけで容易に進行し、酸化チタン/層状複水酸化物複合体が得られる。混合の方法については特に制限はない。混合中の温度は室温でもよいが、インターカレーションを促進させるために、必要に応じて数十℃程度の加温をしてもよい。生成した酸化チタン/層状複水酸化物複合体は、濾過、遠心分離等の適当な方法で固形分を分離することにより採取することができる。こうして得られた層状複水酸化物の層間に侵入したペルオキソチタンは、徐々に酸素を放出して、酸化チタンとなる。あるいは、ここで、挿入工程後に加熱をすることにより、ペルオキソチタンから酸化チタンへの変換を促進させても良い。
【0023】
また、インターカレーション工程を行なう前に、層状複水酸化物の層間に存在する難イオン交換性の炭酸イオンの一部又は全部を除去する脱炭酸工程を行なうことが好ましい。炭酸イオンは層間に安定に存在し層状複水酸化物の層間への親和性が高く、炭酸イオンが層間に存在すると、他のイオンとのイオン交換が行われ難くなるため、ペルオキソチタン溶液のような他のアニオンによるイオン交換が困難となるからである。炭酸イオンを層間から除去する方法としては特に限定はないが、例えば、炭酸イオンを含む層状複水酸化物を非特許文献4に記載されているような500℃程度の加熱焼成を行い、水酸化物から脱炭酸酸化物に変化させた後、水溶液内で再生・再構築する方法や、特許文献8及び非特許文献5に記載されているように、層状複水酸化物中の炭酸イオンを塩化物イオンにイオン交換する方法等が挙げられる。ただし、層間に炭酸イオンを含まず、その他のアニオン(例えば硫酸イオン、硝酸イオン、フッ素イオン、塩素イオン、シュウ素イオン、ヨウ素イオン、水酸イオン等)を層間に含有している層状複水酸化物の場合、脱炭酸工程を行わずにそのまま次のインターカレーション工程を行って良い。また、炭酸イオンを層間に含んでいても、それに加えてその他の前記のようなアニオンも層間に含有している層状複水酸化物の場合は、この脱炭酸工程は必ずしも必要な工程ではなく、行っても行わなくてもよいが、行った方がより酸化チタン微粒子のインターカレーションが進んだ複合体が得られる。
【0024】
また、インターカレーション工程において、(仕込んだペルオキソチタン溶液の乾燥固形分質量)/(層状複水酸化物(加熱焼成により該層状複水酸化物の一部又は全部が酸化物となった化合物も含む)の仕込み質量)の値は1以上10未満であることが好ましく、さらに好ましくは2以上10未満である。
【0025】
また、ペルオキソチタン溶液は、水酸化チタンと過酸化水素水との混合物を加熱処理した加熱ペルオキソチタン溶液であることも好ましい。こうであれば、アナターゼ型結晶構造を有する酸化チタンが増大し、光触媒反応の活性が高くなるからである。加熱処理の温度は60℃以上が好ましく、さらに好ましいのは70℃以上であり、さらにさらに好ましいのは80℃以上である。また、高い温度で加熱するため、オートクレーブ等の耐圧容器を用いて加圧すること、あるいは電磁波加熱をすることも好ましい。こうであれば、100℃以上での加熱処理も可能となり、さらにアナターゼ型結晶構造を発達させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明で使用するペルオキソチタン溶液は、チタン塩にアルカリを作用させて水酸化チタンとし、さらにこうして得られた水酸化チタンに過酸化水素を作用させることによって得ることができる。チタン塩としては、四塩化チタンや硫酸チタンやシュウ酸チタン等が用いることができ、アルカリとしてはアンモニアや苛性ソーダ等を用いることができる。
【0027】
さらに、具体的なペルオキソチタン溶液の調製法を示せば、例えば以下のとおりである。
四塩化チタンや硫酸チタンやシュウ酸チタン等のチタン塩の水溶液にアンモニアや苛性ソーダ等のアルカリ溶液を加え、水酸化チタン(別名オルトチタン酸)ゲルを沈殿させる。沈殿した水酸化チタンゲルをデカンテーション等の手段によって水洗し、分離する。この水酸化チタンゲルに過酸化水素水を添加するとOHの一部が過酸化状態になり、ペルオキソチタンイオンとして溶解、あるいは高分子鎖が低分子に分断された一種のゾル状態のペルオキソチタン溶液となり、余分な過酸化水素は水と酸素に分解する。ペルオキソチタン溶液のpHは3以上である必要があるが、さらに好ましくはpHが6から8である。このようにして得られた本発明で使用されるペルオキソチタン溶液は、例えば上記のような工程で合成されるTi25(OH)x(X-2)-(X>2)や、((Ti(OH)y(y-2q)-(q/y>2))等の化学式で表わされるチタン種を含有していると考えられる。
【0028】
本発明で使用するペルオキソチタン溶液の濃度についても制限はないが乾燥固形分換算の質量%で、2質量%以下が好ましく、さらに好ましくは1.7質量%以下である。このような溶液は、市販のペルオキソチタン溶液を使用しても差し支えなく、例えば鯤コーポレーション製のPTA85及びPTA170のような溶液をそのまま、あるいは適宜、希釈して用いることもできる。
【0029】
(脱炭酸工程)
また、本発明の酸化チタン/層状複水酸化物複合体の製造方法において、インターカレーション工程の前に脱炭酸工程を行なう場合の脱炭酸方法については特に制限はないが、例えば、次のように行なうことができる。すなわち、層間に炭酸イオンを含む層状複水酸化物を、非特許文献4に記載のように、500℃程度で加熱焼成して水酸化物から脱炭酸酸化物に変化させ、再度、水溶液中に分散して層状複水酸化物として再生させた後(あるいは水溶液中で再生と同時に)、ペルオキソチタン溶液と混合する方法を用いることができる。あるいは特許文献8や非特許文献5に記載されているように、層状複水酸化物中の炭酸イオンを水溶液中で塩化物イオンにイオン交換して脱炭酸体とした後にペルオキソチタン溶液と混合する方法を用いてもよい。
【0030】
(インターカレーション工程)
次に、インターカレーション工程として、脱炭酸した層状複水酸化物(加熱焼成により該層状複水酸化物の一部又は全部が酸化物となった化合物も含む)をペルオキソチタン溶液と混合する。混合方法としては、(1)層状複水酸化物の乾燥粉末をそのままペルオキソチタン溶液と混合してもよいし、(2)層状複水酸化物に水を加えて湿潤状態とし、これをペルオキソチタン溶液に投入混合してもよい。また、(3)層状複水酸化物を水に分散した懸濁液をペルオキソチタン溶液と混合してもよい。
【0031】
ペルオキソチタン溶液と、層状複水酸化物(加熱焼成により該層状複水酸化物の一部又は全部が酸化物となった化合物も含む)との混合比は、(仕込んだペルオキソチタン溶液の乾燥固形分質量)/(層状複水酸化物(加熱焼成により該層状複水酸化物の一部又は全部が酸化物となった化合物も含む)の仕込み質量)の値は1以上になることが好ましく、さらに好ましくは2以上である。(仕込んだペルオキソチタン溶液の乾燥固形分質量)/(層状複水酸化物の仕込み質量)が1未満であると、層状複水酸化物層間へのペルオキソチタン種の導入量が不十分であり、BET比表面積が110m/g以上には達せず、またMP法によるマイクロポア細孔容積が0.01cm/g以上とならず、細孔の発達が不十分となる。一方、(仕込んだペルオキソチタン溶液の乾燥固形分質量)/(層状複水酸化物(加熱焼成により該層状複水酸化物の一部又は全部が酸化物となった化合物も含む)の仕込み質量)の値が5を超える場合には、層間に挿入されない酸化チタンが増え、比表面積及び細孔容積の増加が小さくなり、単位質量あたりの吸着量が小さくなる。
【0032】
ペルオキソチタン溶液と層状複水酸化物との混合は、撹拌羽や攪拌子の回転等の通常の撹拌方法を用いればよく、超音波分散等のその他の手段で均質化してもよい。混合処理時の温度についても特に制限はなく、通常は室温で行い、必要に応じて数十℃程度の加温をしても差し支えない。
【0033】
次に、得られた混合懸濁液を脱水、濾過、遠心分離等の適当な手段によって固液分離し、酸化チタン/層状複水酸化物複合体の湿潤固形分を回収する。回収した湿潤固形分を自然乾燥、熱風乾燥、凍結乾燥、超臨界乾燥等の適当な乾燥手段によって乾燥させて、本発明の酸化チタン微粒子が層状複水酸化物の層間に導入された多孔質の酸化チタン/層状複水酸化物複合体を得る。
【実施例】
【0034】
以下、本発明をさらに具体的に示した実施例を比較例と比較しつつ詳細に説明する。
【0035】
<酸化チタン/層状複水酸化物複合体の調製>
(実施例1)
まず、脱炭酸工程として、合成炭酸型Mg−Al系層状複水酸化物(DHT−6、協和化学工業製)を500℃で焼成して脱炭酸した。次に、インターカレーション工程として、脱炭酸されたMg−Al系層状複水酸化物の加熱焼成酸化物粉末1gをペルオキソチタン溶液(PTA170、鯤コーポレーション製、pH:6.5、乾燥固形分濃度:1.7%)118mlに投入した。混合比は、(仕込んだペルオキソチタン溶液の乾燥固形分質量)/(加熱焼成酸化物の仕込み質量)の値が2となるようにした。この混合液を室温で攪拌し、均一な懸濁液とした。得られた懸濁液を遠心分離し、得られた固形分を水に分散し再度遠心分離するという洗浄過程を行い、分離された固形分を室温で乾燥し、乳鉢で破砕し、実施例1の酸化チタン/層状複水酸化物複合体を得た。
【0036】
(実施例2)
実施例2では、インターカレーション工程における仕込比として、脱炭酸した原料粉末1gに対しペルオキソチタン溶液(PTA170)177mlを加え、その他の条件は実施例1と同様とした。この混合比では(仕込んだペルオキソチタン溶液の乾燥固形分質量)/(加熱焼成酸化物の仕込み質量)の値が3となる。
【0037】
(実施例3)
実施例3では、インターカレーション工程における仕込比として、脱炭酸した原料粉末1gに対しペルオキソチタン溶液(PTA170)235mlを加え、その他の条件は実施例1と同様とした。この混合比では(仕込んだペルオキソチタン溶液の乾燥固形分質量)/(加熱焼成酸化物の仕込み質量)の値が4となる。
【0038】
(実施例4)
実施例4では、インターカレーション工程における仕込比として、脱炭酸した原料粉末1gに対しペルオキソチタン溶液(PTA170)530mlとし、その他の条件は実施例1と同様とした。この混合比では(仕込んだペルオキソチタン溶液の乾燥固形分質量)/(加熱焼成酸化物の仕込み質量)の値が9となる。
【0039】
(実施例5)
実施例5では、インターカレーション工程における仕込比として、脱炭酸した粉末1gに対しペルオキソチタン溶液(PTA170)59mlを加え、その他の条件は実施例1と同様とした。この混合比では(仕込んだペルオキソチタン溶液の乾燥固形分質量)/(加熱焼成酸化物の仕込み質量)の値が1となる。
【0040】
(比較例1)
比較例1では、合成炭酸型Mg−Al系層状複水酸化物(DHT−6、協和化学工業製)を焼成することなく(すなわち脱炭酸工程を施すことなく)、そのまま原料粉末として使用し、ペルオキソチタン溶液(PTA170)と混合した。その他の条件は実施例1と同様とした。
【0041】
(実施例6)
実施例6では、合成炭酸型Mg−Al系層状複水酸化物(DHT−6、協和化学工業製)を、非特許文献5に記載の方法と同様、水溶液中のイオン交換により塩素型層状複水酸化物に変換することにより、脱炭酸工程を行なった。詳細は以下のとおりである。
・脱炭酸工程
塩化ナトリウム:0.5mol、酢酸:0.025mol、酢酸ナトリウム:0.0225molを含む500mlの水溶液を調製し、そこへ合成炭酸型Mg−Al系層状複水酸化物1gを投入した。室温で攪拌した後、遠心分離を行い固形分を分離し得られた固形分を水に分散し再度遠心分離するという洗浄過程を行い、塩素型層状複水酸化物の湿潤物を得た。
・インターカレーション工程
次に、この湿潤物の全量をペルオキソチタン溶液(PTA85、鯤コーポレーション製、pH:6.2、乾燥固形分濃度:0.85%)294mlに投入した。この混合比では(仕込んだペルオキソチタン溶液の乾燥固形分質量)/(層状複水酸化物の仕込み質量)の値が2.5となる。この混合液を室温で攪拌し、均一な懸濁液とした。得られた懸濁液を遠心分離し、得られた固形分を水に分散し再度遠心分離するという洗浄過程を行い、分離された固形分を室温で乾燥し、乳鉢で破砕し、粉末を得た。
【0042】
(実施例7)
実施例7では、インターカレーション工程における仕込比として、塩素型層状複水酸化物の湿潤物の全量に対しペルオキソチタン溶液(PTA85)の混合量を588mlとし、その他の条件は実施例6と同様とした。この混合比では(仕込んだペルオキソチタン溶液の乾燥固形分質量)/(層状複水酸化物の仕込み質量)の値が5となる。
【0043】
(実施例8)
実施例8ではペルオキソチタン溶液(PTA85)を、予め95℃、12時間の加熱処理を施し、その他の条件は実施例6と同様(すなわち(仕込んだペルオキソチタン溶液の乾燥固形分質量)/(層状複水酸化物の仕込み質量)=2.5)とした。
【0044】
(実施例9)
実施例9ではペルオキソチタン溶液(PTA85)を、予め60℃、88時間の加熱処理を施し、その他の条件は実施例6と同様(すなわち(仕込んだペルオキソチタン溶液の乾燥固形分質量)/(層状複水酸化物の仕込み質量)=2.5)とした。
【0045】
<評 価>
以上のようにして得られた実施例1〜7の酸化チタン/層状複水酸化物複合体と、比較例1の粉末に対して、窒素吸着法によるBET法比表面積測定、MP法によるマイクロポア解析、X線回折測定及び蛍光X線分析法による酸化チタン含有量測定を行なった。
【0046】
(結 果)
実施例1〜9の酸化チタン/層状複水酸化物複合体及び比較例1で得られた粉末についての、窒素吸着法によるBET法比表面積・MP法マイクロポア容積及び蛍光X線分析法による酸化チタン含有量を表1に示す。また比較のため、実施例1〜9及び比較例1の調製に際し、使用した出発原料である合成炭酸型Mg−Al系層状複水酸化物(DHT−6、協和化学工業製)の測定結果も表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示すように、(仕込んだペルオキソチタン溶液の乾燥固形分質量)/(層状複水酸化物の仕込み質量)の値が2以上である実施例1〜4及び6〜9の酸化チタン/層状複水酸化物複合体は、168m/g以上の高い比表面積を示した。一方、出発原料の炭酸型層状複水酸化物(DHT−6、協和化学工業製)の比表面積は13m/gであり、脱炭酸していない炭酸型層状複水酸化物をそのまま原料として使用した比較例1の粉末の比表面積は25m/gと、極めて低い値であった。さらに脱炭酸した層状複水酸化物に対して等倍の質量比でペルオキソチタン溶液を作用させた実施例5の酸化チタン/層状複水酸化物複合体は127m/gであり、2倍以上の質量比でペルオキソチタンを作用させた実施例1〜4及び6〜9の粉末と比較して若干低い比表面積を示した。
【0049】
表1から分かるように、出発原料の層状複水酸化物は層間が開いていないため、そのマイクロポア容積は0.001cm/g未満とごく小さい。一方、実施例1〜9のマイクロポア容積は0.046cm/g以上の値を示し、層間が開いて細孔が発達していることが分かる。また比較例1の粉末は、ペルオキソチタンを作用させた層状複水酸化物が脱炭酸されていないため、マイクロポア容積は0.001cm/g未満と極めて小さかった。
【0050】
図1〜3に、実施例1〜9の酸化チタン/層状複水酸化物複合体、比較例1の粉末、及び、出発原料の層状複水酸化物(DHT−6、協和化学工業製)についてのMP法マイクロポア細孔分布曲線を示す。原料の層状複水酸化物のマイクロポア容積はごく小さい。実施例1及び2の粉末は細孔分布の極大を示す細孔分布直径が10.6〜10.7Åを示した。実施例3、4及び6、7の粉末は細孔直径が小さくなるにつれ細孔容積が大きくなり、極大値は9Å未満であり、発達したマイクロポアの存在を示している。一方、脱炭酸していない炭酸型層状複水酸化物をそのまま原料として使用した比較例1の粉末については、マイクロポア容積はごく小さい。また脱炭酸した層状複水酸化物に対して等倍の質量比でペルオキソチタン溶液を作用させた実施例5の粉末は、細孔分布が幅広く細孔容積から判断すると実施例1〜4及び6、7の粉末と比較すればマイクロポアの発達が少ないと推測される。実施例8及び9に関しては、実施例1〜7の粉末に比較してやや大きめのマイクロポアであるが、細孔容積から判断して充分に発達したマイクロポアを有している。
【0051】
図4〜8に実施例1〜9の酸化チタン/層状複水酸化物複合体の粉末、比較例1の粉末、出発原料の炭酸型層状複水酸化物(DHT−6、協和化学工業製)のX線回折パターンを示す。
【0052】
図4において原料の層状複水酸化物は2θ:11°付近に(003)回折線ピークを示している。一方、比較例1は(003)回折線ピークの強度はやや小さくなったものの、回折線の2θ角度の位置に変化はない。これは脱炭酸していない炭酸型層状複水酸化物を使用した場合には、酸化チタン分が層状複水酸化物の層間に入らず、層間が拡大していないことを示している。
【0053】
図5は、原料の炭酸型層状複水酸化物の加熱焼成による脱炭酸物に対し、ペルオキソチタンによる酸化チタン分の配合比を変えた合成物である実施例1〜5のX線回折パターンを示している。実施例1〜4では、仕込み質量比を2〜9に増加させるにつれ、2θ:11°付近の(003)回折線ピークが弱くなりやがて消失し、それに対応して2θ:5〜9°付近のピーク強度が大きくなっている。低角側に現れたこのピークは(003)回折線がシフトしたものであり、すなわち層間距離が拡大している証拠である。それに対し酸化チタン/層状複水酸化物の仕込み質量比が1である実施例5は、2θ:11°付近の原料層状複水酸化物の(003)回折線がごく弱くなっている。したがって何らかの変化は起きているだろうが、2θの低角度側に層間の拡大を示す(003)回折線は示されていない。したがって実施例5では、実施例2〜4と比較すると、層間への酸化チタンの導入が少ないと推測される。
【0054】
図6は、原料の炭酸型層状複水酸化物の塩素置換体に対し、ペルオキソチタンによる酸化チタン分の配合比を変えた合成物である実施例6及び7と原料の炭酸型層状複水酸化物のX線回折パターンを示している。実施例6及び7共、2θ:11°付近の(003)回折線を示しているが、その強度は原料の炭酸型層状複水酸化物に比べ、ごく小さい。また酸化チタン/層状複水酸化物の仕込み質量比がより大きい実施例7の方が実施例6よりも(003)回折線の強度が小さくなっていて、酸化チタン分の層間導入が進んでいることを示している。実施例6の2θ:11°付近の(003)回折線ピークはトップが割れた二重線を示している。この二重線は、非特許文献5によれば、高角側のやや小さいピークが炭酸型の層状複水酸化物による(003)回折線であり、低角側の比較的大きなピークが塩素置換型の(003)回折線であると記されている。したがって実施例6の合成においては原料に塩素置換体を使用したが、酸化チタン分の配合量が少ないためまだ未反応の塩素型の層状複水酸化物が部分的に残っており、また他の一部分は合成懸濁液中に少量含まれていた炭酸イオンが塩素イオンよりもペルオキソチタン種よりも層状複水酸化物へのイオン交換性が高いため、炭酸型に戻り合成物に残ったと説明できる。実施例7の2θ:11°付近の(003)回折線の2θ角度位置は実施例6の炭酸型のピークに一致している。したがって実施例7の合成においては、酸化チタン分の配合量が充分なため未反応の塩素置換体はほとんど残っていず、合成懸濁液中に少量含まれていた炭酸イオンのために炭酸型に戻ったごく一部の層状複水酸化物が回折ピークを示していると説明できる。
実施例6及び7共、2θ:11°付近の(003)回折線の他に、2θ:2θ:5〜9°付近のピークが現れている。このことはやはり、実施例6及び7共、層状複水酸化物の層間に酸化チタンが導入されたことにより拡大されたことを示している。
【0055】
図7は、加熱処理をしたペルオキソチタン溶液を用いた実施例8、9及び出発原料の炭酸型層状複水酸化物(LDH)についてのX線回折パターンである。層状複水酸化物の(003)回折線に対応するピークは実施例8、9では小さくなっており、低角側に不明瞭なショルダーが現れている。このショルダーの中に、層間が拡大した(003)回折線ピークが存在しているものと考えられる。図8は、実施例6、8及び9に関する高角度領域のX線回折パターンである。この図から、加熱処理をしたペルオキソチタン溶液を用いた実施例8,9では、アナターゼ型結晶構造に由来するピーク(図中「A」で示したピーク)が現れており、図8及び図7から、アナターゼ型結晶構造の酸化チタンが層間に存在していることが分かった。
【0056】
図9に、表1に示した値を基に、酸化チタン/層状複水酸化物(該層状複水酸化物の加熱焼成脱炭酸酸化物も含む)の仕込み質量比と合成物の酸化チタン含有量の関係を示す。この図から、実施例1〜5のように、層状複水酸化物の加熱脱炭酸物を使用した場合には、(仕込んだペルオキソチタン溶液の乾燥固形分質量)/(層状複水酸化物の仕込み質量)の値がおよそ4付近で酸化チタン含有量の増加が頭打ちとなり、4を超えるとペルオキソチタン分を増やしても酸化チタン含有量の増加はわずかとなった。また層状複水酸化物の塩素置換体を使用し、(仕込んだペルオキソチタン溶液の乾燥固形分質量)/(層状複水酸化物の仕込み質量)の値を2.5とした実施例6の粉末並びに同様の塩素置換体を使用して値を5とした実施例7の酸化チタン/層状複水酸化物複合体では、酸化チタン含有量は75及び77質量%と高い含有量を示した。また予め加熱したペルオキソチタン溶液を使用し、(仕込んだペルオキソチタン溶液の乾燥固形分質量)/(層状複水酸化物の仕込み質量)の値を2.5とした実施例8及び9の酸化チタン/層状複水酸化物複合体では、酸化チタン含有量は61及び59質量%と高い含有量を示した。
【0057】
以上のように、実施例1〜7から得られた酸化チタン/層状複水酸化物複合体と、出発原料とした合成炭酸型Mg−Al系層状複水酸化物の粉末及び比較例1から得られた粉末の特性の比較から、細孔が充分に発達した酸化チタン/層状複水酸化物複合体を合成するためには、脱炭酸した層状複水酸化物を使用することが必要であること、ペルオキソチタン溶液を使用すること、さらには(仕込んだペルオキソチタン溶液の乾燥固形分質量)/(層状複水酸化物(加熱焼成により該層状複水酸化物の一部又は全部が酸化物となった化合物も含む)の仕込み質量)の値が1以上であることが好ましいことが明らかとなった。
【0058】
また実施例1〜5と実施例6及び7との比較から、炭酸イオンを層間に含む層状複水酸化物の脱炭酸の方法は加熱焼成法、イオン交換法のどちらでもよいことが明らかである。
【0059】
(光触媒性能測定)
実施例6、8及び9に関して、光触媒性能試験を行なった。試験は次のように行った。直径90mmのシャーレに酸化チタン/層状複水酸化物複合体の水分散体を拡げ、乾燥した。酸化チタン/層状複水酸化物複合体の乾燥物は、シャーレの底全体に皮膜状に付着した。乾燥後のシャーレ中の酸化チタン/層状複水酸化物複合体の量は、0.1gとなるように調節した。このシャーレを、まず、ブラックライトを用いて試験片に紫外線(1mW/cm2)を24時間照射した後、試験片をテドラーバッグ(容量5L)内に封入する。次に試験の対象となるアセトアルデヒドガスを所定の割合で含有する空気を3L注入し、暗所に放置する。この間、テドラーバッグ内の空気を所定時間ごとにシリンジで抜き取り、ガスクロマトグラフで対象ガスの濃度の経時変化を測定した。そして、ガス濃度がほとんど変化しなくなった時点の濃度を初期濃度とし、その時点からブラックライトによって紫外線(1mW/cm2)を照射し、アセトアルデヒド光触媒分解反応を行なった。アセトアルデヒドガスの初期濃度は70ppmとした。紫外線照射後のテドラーバッグ内のガス濃度をガスクロマトグラフで測定し、アセトアルデヒドの除去率を求めた。
【0060】
その結果、表2に示すように、95℃で12時間の加熱処理をしたペルオキソチタン溶液を用いた実施例8では、100分の紫外線照射でのアセトアルデヒドの除去率が83%と高かったのに対し、加熱処理をしていないペルオキソチタン溶液を用いた実施例6では、100分の紫外線照射を行っても、アセトアルデヒド除去率が13%と低かった。これは、前述したように、ペルオキソチタン溶液の加熱処理によって、光触媒活性の高いアナターゼ型結晶構造を有する酸化チタンが生成した(図8参照)ことによるものと考えられる。また実施例9のように、ペルオキソチタン溶液の加熱温度が60℃と低温であっても88時間のような長時間の加熱処理を施した溶液を用いれば、そのアセトアルデヒド除去率は実施例6に比較して改善された。
【0061】
【表2】

【0062】
この発明は上記発明の実施の態様及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施例1〜5の粉末、比較例1の粉末、さらに出発原料の層状複水酸化物(LDH)の窒素吸着測定におけるMP法マイクロポア細孔分布曲線である。
【図2】実施例6及び7の粉末、比較例1の粉末、さらに出発原料の層状複水酸化物(LDH)の窒素吸着測定におけるMP法マイクロポア細孔分布曲線である。
【図3】実施例8及び9の粉末、比較例1の粉末、さらに出発原料の層状複水酸化物(LDH)の窒素吸着測定におけるMP法マイクロポア細孔分布曲線である。
【図4】比較例1と出発原料の層状複水酸化物(LDH)のCuKα線によるX線回折パターンである。
【図5】実施例1〜5のCuKα線によるX線回折パターンである。
【図6】実施例6及び7の粉末、さらに出発原料の層状複水酸化物(LDH)のCuKα線によるX線回折パターンである。
【図7】実施例8及び9の粉末、さらに出発原料の層状複水酸化物(LDH)のCuKα線によるX線回折パターンである。
【図8】実施例6、8及び9の粉末のCuKα線によるX線回折パターンである。
【図9】酸化チタン/層状複水酸化物の仕込み質量比と合成物の酸化チタン含有量の関係を示す図である。(A)は原料の炭酸型層状複水酸化物を加熱脱炭酸した化合物を用いた場合(実施例1〜5)であり、(B)は原料の炭酸型層状複水酸化物を水溶液中のイオン交換法により塩素置換体にした層状複水酸化物を用いた場合(実施例6、7)であり、(C)は加熱処理をしたペルオキソチタン溶液を用いた場合(実施例8、9)である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の酸化チタン/層状複水酸化物複合体は高比表面積に起因する吸着性能を有し、また酸化チタン微粒子を含有していることから、吸着材、分離材、光触媒材料、環境浄化材料などの幅広い分野に利用されることが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状複水酸化物の層間に酸化チタンが挿入されていることを特徴とする酸化チタン/層状複水酸化物複合体。
【請求項2】
前記層状複水酸化物はMg−Al系層状複水酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の酸化チタン/層状複水酸化物複合体。
【請求項3】
前記層状複水酸化物はハイドロタルサイトであることを特徴とする請求項2に記載の酸化チタン/層状複水酸化物複合体。
【請求項4】
窒素ガス吸着測定によるBET法比表面積が110m/g以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の酸化チタン/層状複水酸化物複合体。
【請求項5】
MP法によるマイクロポア容積が0.01cm/g以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の酸化チタン/層状複水酸化物複合体。
【請求項6】
前記酸化チタンの含有量が10質量%以上であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の酸化チタン/層状複水酸化物複合体。
【請求項7】
前記酸化チタンの一部又は全部が結晶質酸化チタンとなっていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の酸化チタン/層状複水酸化物複合体。
【請求項8】
前記酸化チタンの一部又は全部がアナターゼ型結晶構造となっていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の酸化チタン/層状複水酸化物複合体。
【請求項9】
層状複水酸化物又は加熱焼成により該層状複水酸化物の一部又は全部が酸化物となった化合物と、pHが3以上のペルオキソチタン溶液とを混合することにより、層状複水酸化物の層間に酸化チタンを挿入させて酸化チタン/層状複水酸化物複合体とするインターカレーション工程を有することを特徴とする酸化チタン/層状複水酸化物複合体の製造方法。
【請求項10】
前記インターカレーション工程を行なう前に、層状複水酸化物の層間に存在する炭酸イオンの一部又は全部を除去する脱炭酸工程を行なうことを特徴とする請求項9記載の酸化チタン/層状複水酸化物複合体の製造方法。
【請求項11】
(仕込んだペルオキソチタン溶液の乾燥固形分質量)/(層状複水酸化物(加熱焼成により該層状複水酸化物の一部又は全部が酸化物となった化合物も含む)の仕込み質量)の値は1以上10未満であることを特徴とする請求項9又は10に記載の酸化チタン/層状複水酸化物複合体の製造方法。
【請求項12】
前記ペルオキソチタン溶液は、水酸化チタンと過酸化水素水との混合物を加熱処理した加熱ペルオキソチタン溶液であることを特徴とする請求項9乃至11のいずれか1項に記載の酸化チタン/層状複水酸化物複合体の製造方法。
【請求項13】
前記加熱処理は60℃以上でされていることを特徴とする請求項12に記載の酸化チタン/層状複水酸化物複合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−235437(P2010−235437A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49821(P2010−49821)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(591270556)名古屋市 (77)
【出願人】(000116622)愛知県 (99)
【Fターム(参考)】