説明

酸化亜鉛系円筒ターゲットおよびその製造方法

【課題】スパッタリング成膜時のアーキングやノジュールの発生を低減すると共に高出力成膜においても高い生産性を有する高密度で、なお且つ厚肉化を可能とする酸化亜鉛系円筒ターゲット及びその製造方法を提供する。
【解決手段】高温のプラズマジェット4中に酸化亜鉛粉末の昇華を抑えられる範囲内で酸化亜鉛系粉末をできるだけ長く滞在させて、その粉末の溶融度向上を図り、溶融粉末の溶着堆積後、すみやかに溶射ターゲットの表面温度を所定温度以下になるように冷却できる基板冷却配管構造を装着した溶射ガン7で酸化亜鉛系粉末を溶射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛系円筒スパッタリングターゲット等に使用されるのに適した酸化亜鉛系円筒ターゲットおよびそれを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜としてITO(Indium Tin Oxide)が代表的な材料として使用されているが、ITOの原料であるインジウムは希少金属で資源的な問題があるため、低コストな代替材料の開発が行われており、酸化亜鉛に酸化アルミニウムや酸化ガリウムを添加したものが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
また、生産性向上やコスト低減の観点からターゲットの利用効率が高く、高パワーでの成膜を可能とする方法として円筒ターゲットが注目されており、一般的な酸化亜鉛系円筒ターゲットの製造方法としては、酸化亜鉛系粉末を成形後焼結し、この焼結体を所定形状に加工した後、バッキングチューブにボンディングする方法がある。
【0004】
しかし、前記方法は製造プロセスが長く、特にバッキングチューブにボンディングするプロセスが煩雑で製造コストがかかるという問題がある。これに対して、線膨張係数がバッキングチューブとターゲット材料との間となる物質を介在させることによってクラックを防止したプラズマ溶射法が提案され、数mm程度の肉厚化が実現されている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
しかしながら、最近の高出力のスパッタにより成膜速度を高めると共にターゲット寿命によるメンテナンスサイクルを延長することで生産性の向上が要望されており、ターゲットとして使用するには十分な厚みを確保するまでは至っておらず、使用済みのターゲットを溶射で数mm程度肉盛りして再利用する方法が提案されているが(例えば、特許文献4参照)、溶射法によって高密度で肉厚な酸化亜鉛の円筒ターゲット及びその製造する方法は見出されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−258836号公報
【特許文献2】特開2007−280756号公報
【特許文献3】特開平07−11419号公報
【特許文献4】特開平11−269638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、スパッタリング成膜時のアーキングやノジュールの発生を低減するとともに高密度で、なお且つ厚肉化を可能とする酸化亜鉛系円筒ターゲット及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、高密度で且つ厚肉化した酸化亜鉛系円筒ターゲットを製造するためには、高温のプラズマジェット中に酸化亜鉛粉末の昇華を抑えられる範囲内で酸化亜鉛系粉末をできるだけ長く滞在させて、その粉末の溶融の度合いを向上させ、その状態で基板上に衝突溶着完了後すみやかに所定温度以下になるように冷却をする事が重要である事を見出した。これにより、高密度でなお且つ厚肉化した酸化亜鉛系円筒ターゲット及びその製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
なお、本発明中における酸化亜鉛系とは酸化アルミニウムまたは/および酸化ガリウムを含んでいてもよい酸化亜鉛のことを指す。
【0010】
以下、本発明の酸化亜鉛系円筒ターゲットについて詳細に説明する。
【0011】
本発明の酸化亜鉛系円筒ターゲットは、溶融粒子が扁平したスプラットの積み重なりで組織を形成している。スプラットとは、加熱粒子が基材上に衝突し、扁平および凝固が完了した粒子のことを指す。
【0012】
スプラットが堆積していく過程は図1に示したとおり、プラズマジェット4に供給された原料粉末5が溶融して溶融粒子3となり、溶融粒子3はバッキングチューブ1上に衝突して、扁平した状態で凝固する。扁平した状態で凝固した溶融粒子3はスプラット2としてバッキングチューブ1上に堆積していく。
【0013】
本発明において、スプラットの平均厚みは2μm以上10μm以下であり、好ましくは4μm以上8μm以下である。スプラットの平均厚みが2μm未満の場合には、サブミクロンの微細な酸化亜鉛粒子がターゲット中に巻き込まれた状態で溶射されているため、高密度化や肉厚化が容易ではない。平均厚みが10μmを超える場合には、溶融が不十分な状態となりやすいので、緻密なターゲットができない。スプラットの平均厚みは、ターゲットの厚み方向に対し水平な面(以下、断面と表記)がでるように切断後、断面をダイヤモンド砥粒で研磨後、研磨した断面を反射電子顕微鏡で観察し、積層したスプラットの平均厚みをインターセプト法により算出できる。具体的には、断面に任意の位置で厚み方向に直線を引き、その直線の長さ内に存在するスプラット粒子個数からスプラットの平均厚みを算出することができる。尚、測定するスプラット個数は200個以上とすることが好ましい。
【0014】
本発明の酸化亜鉛系円筒ターゲットは、相対密度が87%以上であり、89%以上であることがより好ましい。ターゲットの相対密度が87%未満では、緻密なスプラットの堆積ができていないため、オープンポアやマイクロクラックが多い。特にターゲット表面の冷却が不十分な場合には、酸化亜鉛の昇華凝固した粉末がターゲット内に巻き込まれ、フジツボ状の酸化亜鉛がターゲットに析出成長し、ターゲットの緻密性や均質性が大幅に低下する。また、表面凹凸が激しいため、成膜時にターゲット表面温度が上昇すると共にアーキングが発生し膜特性が安定しないだけでなく、成膜速度が低下しスパッタリングの生産性が悪化する。なお、相対密度はJIS規格(R1634)に準拠したアルキメデス法から求めた。
【0015】
本発明の酸化亜鉛系円筒ターゲットの厚みは7mm以上であることが好ましい。厚みが7mm未満の場合には、高出力で生産するとターゲットの寿命が大幅に低下してしまう。
【0016】
本発明の酸化亜鉛系円筒ターゲットの平均細孔径が600nm以下であることが好ましい。平均細孔径が600nmを超える場合には、スパッタ中にターゲット異常放電が発生しやすく、膜特性が安定しない。本発明においては、特に細孔径の大きさと量の関係が重要であり、安定した膜特性を得るためには、細孔径1μm以上の細孔容積が0.015mL/g以下であることが好ましい。更に好ましくは細孔径1μm以上の細孔容積が0.01mL/g以下である。
【0017】
本発明のターゲットを構成する結晶は平均粒径1μm以下の微細な結晶であることが好ましく、0.4μm以上1μm以下であることがより好ましい。平均結晶粒径が1μmを超える場合にはアーキングなどが発生しやすく、成膜時の膜特性が安定しない。平均結晶粒径は、ターゲットを所定の大きさに切断後その断面を研磨してその微細組織を反射型電子顕微鏡で観察後、インターセプト法により算出した平均結晶粒径である。
【0018】
本発明の酸化亜鉛系円筒ターゲットは、酸化アルミニウムまたは/および酸化ガリウムを0重量%以上5重量%以下が好ましく、0重量%以上3重量%以下であることがより好ましい。酸化アルミニウムまたは/および酸化ガリウムの含有量が5重量%を超えると透明導電膜の透明性が低下するため膜として使用することができない。
【0019】
本発明の酸化亜鉛系ターゲットは、添加した酸化アルミニウムまたは/および酸化ガリウムの分散性が0%以上30%以下の範囲にあることが好ましい。分散性が30%を超える場合には、酸化アルミニウムまたは/および酸化ガリウムの凝集体が多く、分散性が悪いため、膜抵抗率などの膜特性が悪化する。特に、酸化アルミニウムまたは/および酸化ガリウムの溶融が不十分な場合には、分散性が悪化する傾向にある。分散性は、ターゲットを所定の大きさに切断後その断面を研磨後、EPMA法により2.5mm x 2.5mmのエリアをAlまたは/およびGaの元素マッピングを行い、得られた256(ポイント)x256(ポイント)の分析値を統計処理することにより、その変動係数を算出し、それを分散性の指標とした。
【0020】
本発明の酸化亜鉛系円筒ターゲット中の熱伝導率は4W/(m・K)以上であることが好ましい。4W/(m・K)未満の場合には肉厚化に伴い、スパッタ中のターゲット表面温度が上昇し、ターゲットの割れや膜特性が不安定となる。
【0021】
次に、本発明の製造方法を詳細に説明する。
【0022】
本発明の酸化亜鉛系ターゲットは酸化亜鉛系粉末の溶射時にターゲットを冷却するための基板冷却配管構造を設けることが重要である。本発明の緻密な酸化亜鉛系円筒ターゲットを製造するためには、酸化亜鉛系粉末をプラズマジェットに均一に原料粉末を導入し溶融状態とし、その溶融状態を保った状態で素早く溶着させることが肝要である。粉末の溶融を促進させるためには、プラズマの出力を高くする等により高温度の熱プラズマを形成する方法が考えられる。しかしながら、本発明のような酸化亜鉛系の場合には、酸化亜鉛の融点は1975℃、昇華点は1725℃という事から、高温下に長時間滞在させすぎると溶融する前に粉末が昇華してしまい溶着しない成分となる。また、昇華した酸化亜鉛は飛行中に冷却され微細な酸化亜鉛粒子を析出し、これが酸化亜鉛系ターゲットの表面に付着する。この付着物は酸化亜鉛系円筒ターゲットの密度を低下するだけでなく、溶融した酸化亜鉛系粒子の溶着を阻害するため、ターゲット表面にフジツボ状の凹凸やフジツボ内外周部での色調むらが発生する。更に、付着物がターゲット表面に残存するとターゲットの表面温度が上昇し、肉厚化の際にクラックの発生原因となることがわかった。そのため、本発明の酸化亜鉛系円筒ターゲットを製造するためには、酸化亜鉛系粉末の溶射時にターゲットを冷却するための基板冷却配管構造を設けることにより、ターゲットに付着した昇華凝固した微細な酸化亜鉛粉末を吹き飛ばすと共にターゲットの表面温度を下げてターゲットに残留する応力を低減することが重要である。
【0023】
本発明では、溶射時の酸化亜鉛系の溶着粒子が衝突するエリア以外のターゲットの表面の温度が200℃以下となるように、ターゲットを冷却するための基板冷却配管構造を設けることが好ましい。酸化亜鉛系の溶射では、下地層を設けたバッキングチューブを回転台に固定し、回転台を回転しながら溶射ガンを一定速度で走査して酸化亜鉛系溶融粉末を溶射する。この時、溶融した粒子は1000℃を超える高温状態であるため、基板冷却配管構造により溶射粒子を効果的に冷却する必要がある。
【0024】
本発明の酸化亜鉛系ターゲットに用いる粉末の平均粒径としては、20μm以上70μm以下であるものを用いる。好ましくは30μm以上50μm以下である。平均粒径が20μm未満の場合には、粉末が軽いためプラズマ内への導入がうまくいかず、粉末の溶融度が低下しターゲットの密度を高くすることが難しい。平均粒径が70μmを超えるとプラズマ中での粒子内外での溶融度に違いが発生し、緻密なターゲットを製造することができない。また、平均粒径が70μmを超える場合、溶融度を向上させるために高温のプラズマ内に長時間滞在する必要があるが、その場合酸化亜鉛の昇華がおこりやすく緻密なターゲットを製造することが難しい。
【0025】
本発明の酸化アルミニウムまたは/および酸化ガリウムを含む酸化亜鉛系粉末中のアルミニウムまたは/およびガリウムの分散性は0%以上30%以下の範囲にあることが望ましい。
【0026】
分散性が30%を超える場合には、酸化亜鉛粉末中に添加した酸化アルミニウムまたは/および酸化ガリウムの分散性が悪く、高品質なターゲットを製造することが困難となる。
【0027】
本発明の酸化亜鉛系粉末の形状は、プラズマ中に導入することにより溶融した状態であれば特に限定するものではなく、球状粒子または粉砕粉を使用することができる。
【0028】
本発明において酸化亜鉛系粉末の製造方法は特に限定しないが、酸化亜鉛と酸化アルミニウムまたは/および酸化ガリウムを所定量計量後、水中で分散混合し、ビーズミル粉砕後、スプレードライにより造粒乾燥する方法が挙げられる。
【0029】
本発明において円筒ターゲット基材(以下、バッキングチューブ)としては、SUS製,Ti製などの金属製が挙げられる。酸化亜鉛系円筒ターゲットを肉厚化する場合には、スパッタ放電時の熱膨張差によるターゲットに発生する応力を緩和するため、酸化亜鉛系円筒ターゲットとの熱膨張率が近いTi製が好ましい。バッキングチューブとターゲットとの密着性を向上させるため、バッキングチューブ表面をブラストして荒くしておくと良い。
【0030】
ブラスト材料としては特に限定はしないが市販の高純度な酸化アルミニウムが好ましい。また、本発明においてバッキングチューブと酸化亜鉛系ターゲットの密着性を向上させるために、展性のある金属を下地層として設けても良い。下地層の材質としては、ターゲットを構成する金属元素及びその合金を使用することができ、材料コストが安く展性に富むアルミニウムが好ましい。
【0031】
本発明の酸化亜鉛系粉末を溶射して製造する方法について、図2を用いて説明する。まず、プラズマガス6を溶射ガン7に供給し、溶射ガン7内部に対向して置かれた陰極と陽極の間に電圧をかけて直流アークを発生させることで、プラズマジェット4が発生する。次に、酸化亜鉛系粉末(原料粉末5)を空気などガス気流中とともにプラズマジェット4に供給してバッキングチューブ1に溶射する。
【0032】
本発明で使用する溶射ガンとしては、一般的な高電圧型のDCプラズマガンを用いることができ、例えば、Mettch社製AXIAL−III,Praxiar社製PLAZ−JETII、SulzerMetco社製TriplexProTM−200などを用いることができる。
【0033】
本発明のプラズマガス流量はプラズマジェット中に投入された粉末が溶融するための滞在時間を確保するために重要である。本発明のプラズマガス流量は90L/min.以上130L/min.以下であることが好ましい。プラズマガス流量が130L/min.を超えると線速度が高くなり滞在時間が短くなるため酸化亜鉛系粉末の溶融度が不十分となる。プラズマガス流量が90L/min.未満ではプラズマジェット中での溶融度は向上するが、線速度が遅くなるためプラズマジェット末端からターゲット表面に到達する時間が長くなり、溶融した粒子表面の冷却凝固が起こり、本発明に示すターゲット密度を達成することができない。また、プラズマジェット内での滞在時間が長くなるため、昇華が進み酸化亜鉛系円筒ターゲットの収率が悪化する。
【0034】
本発明のプラズマガス組成としては、酸化亜鉛系粉末の溶融性を高めるため、熱伝導性の高いガスとして窒素及び水素を用いる事が望ましい。プラズマガス中の水素のガス組成比率(体積%)は5%以上30%以下が好ましい。水素が5%未満の場合には、ガスの熱伝導率が低いため粉末の溶融性が低下し、緻密なターゲットを形成することができない。水素濃度が30%を超えるとプラズマ出力が不安定となるだけでなくプラズマ発生電極材料の消耗が増大するため実生産には不向きである。
【0035】
本発明の溶射距離は、溶射ガン出口からターゲットまでの距離で表され、その距離はプラズマジェットから飛び出した溶融粒子がターゲット表面に溶着されるまでの時間や温度と密接な関係があるためターゲットの高密度化、肉厚化にとって重要なパラメータである。本発明の溶射距離は、70mm以上100mm以下であることが好ましい。溶射距離が100mmを超える場合には、プラズマジェットから飛びした粒子は冷却固化されるため本発明にある緻密なターゲットを製造することができない。溶射距離が70mm未満の場合には、プラズマジェットからの距離が短いため、プラズマジェットの輻射熱によりターゲット温度が上昇し、ターゲット製造時またはターゲット製造終了後の冷却時にクラックが発生するため肉厚化ができない。
【0036】
本発明の溶射距離に対するプラズマジェット長さの比である相対溶射距離は、0.75以上0.95以下が好ましく、0.77以上0.90以下であることがさらに好ましい。相対溶射距離が0.75未満の場合には、溶融粒子の冷却が進行し本発明に記載されるような高密度なターゲットを製造することができない。また相対溶射距離が0.95を超える場合にはターゲット表面温度の上昇によりクラックが発生し肉厚化できない。
【0037】
本発明の酸化亜鉛系粉末のフィード方法は、特に限定しないが一般に言われている粉末を貯蔵するホッパーから空気などのガスの圧力を利用して定量的にガス流体と共にプラズマガス中にフィードする方法が挙げられる。プラズマガス中へのフィードする方法としては、溶射ガン出口側上部からプラズマガス流体内に向かってフィード方法(上部フィード法)が好ましい。上部フィード法ではフィードする粉末がプラズマジェット中心の高温部分に旨くフィードできるか肝要となる。そのため粉末をフィードするために使用する空気などのキャリアガス流量の最適範囲はフィードに用いる粉末粒子径やプラズマガス流量などによって変化する。
【0038】
本発明のキャリアガス流量は3L/min.以上12L/min.以下が好ましく、5L/min.以上9L/min.以下であることがさらに好ましい。キャリアガス流量が3L/min.未満の場合には、キャリアガス流量が少ないため粉末が旨くプラズマガス気流中に導入ができず、密度が低下するだけでなく、収率が悪化するため生産性が低下する。キャリアガス流量が12L/min.を超える場合には、プラズマガス気流を貫通する粉末が見られると共にキャリアガスの影響でプラズマジェットが垂れ下がる傾向となるため、密度や収率が低下する。
【0039】
本発明における粉末のフィード量の上限は特になく、生産性の観点から30g/min.以上あればよい。
【0040】
本発明の基板冷却配管構造において、配管から噴流した空気がターゲットと衝突する位置は、溶融粒子がターゲットに衝突する中心位置から20mm以上40mm以下の同心円状になるように基板冷却配管を配置することが好ましい。20mmより近い場合には、昇華した酸化亜鉛粒子の付着を完全に除去できず冷却効率が低下するため、高密度で厚肉なターゲットを製造することができない。40mmを超えると、冷却効果が大幅に低下するため、肉厚化できない。
【0041】
本発明における基板冷却配管構造において、冷却エアのターゲットの水平方向のエア圧力(以下、水平圧力)が冷却効率を向上するうえで重要である。即ち、本発明において水平圧力Pは、図3に示すように基板冷却配管とターゲットの側面とがなす角をθ1、図4に示すように基板冷却配管とターゲット円周の法線とがなす角をθ2とし、基板冷却配管出口からの噴出する圧力をPとした場合、以下の式(1)で表すことができる。
【0042】
=P×(sinθ1+sinθ2)/2 (1)
水平圧力Pは、0.1MPa以上であることが好ましい。0.1MPa未満の場合には、ターゲットの冷却が十分にできない。
【0043】
本発明の基板冷却配管本数は、最低4本以上の偶数本を溶射ガンの外周部に装着する構造を有する。回転するターゲットを溶射ガンが上下動または左右動を繰り返しながら、ターゲットを製造するため、ターゲットの表面温度は、溶着する酸化亜鉛系粒子の位置によって変化する。そのため、基板冷却配管は、ターゲットの表面温度の変化に連動するように溶射ガン外周部に装着しておく必要がある。また、配管は溶融粒子がターゲットに衝突する中心からの同円状に極力対照的な位置に配置しておく方が良い。これにより、表面温度分布が均一化されやすく、温度分布の非対称性による割れを防止することができる。そのため、配管本数は4本以上の偶数本配置することが望ましい。
【発明の効果】
【0044】
本発明により、課題であったスパッタリング成膜中のアーキングが少ない酸化亜鉛系円筒ターゲットが得られる。また、酸化亜鉛系円筒ターゲットの肉厚化が可能ため低コストで生産性の高いスパッタリングターゲットを得る事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明のスプラットが堆積していく過程の一例を示した模式図である。
【図2】本発明の実施様態の一例を示した模式図である。
【図3】本発明の基板冷却配管の配置について側面から見た模式図である。
【図4】本発明の基板冷却配管の配置について上面から見た模式図である。
【図5】実施例1で製造した酸化亜鉛系ターゲットの反射電子顕微鏡写真である。
【図6】比較例2で製造した酸化亜鉛系ターゲットの反射電子顕微鏡写真である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0047】
なお、本発明で得られた酸化亜鉛系円筒ターゲットの評価は以下の通りである。
【0048】
(相対密度)
酸化亜鉛系円筒ターゲットを3cm角に切り出し、それをターゲット密度測定用試料とした。試料の乾燥重量(W1)、水中で煮沸冷却後の水中重量(W2)及び包水重量(W3)とし、密度測定時の温度から算出される水の密度(ρ)から、(2)式に基づき、かさ密度(ρ)を算出した。酸化亜鉛系の真密度は酸化亜鉛の真密度を5.606g/cm、酸化アルミニウムの真密度を3.97g/cm、酸化ガリウムの真密度を5.95g/cmとし、それぞれの重量比率より求めた。酸化亜鉛系の相対密度は、算出したかさ密度に対する酸化亜鉛系の真密度の割合を百分率にて表わした。測定方法は、JIS規格(R1634)に準拠する方法で実施した。
【0049】
ρ=W1/(W3−W2)×ρ (2)
(厚み測定)
円筒ターゲットの厚み測定は、酸化亜鉛系円筒ターゲットを溶射する前後の厚みをノギスにて5点計測し、その平均値から算出した。
(スプラット平均厚み)
ターゲットの厚み方向に対し水平な面(以下、断面と表記)がでるように切断後、断面をダイヤモンド砥粒で研磨後、研磨した断面を反射電子顕微鏡で観察し、積層したスプラットの平均厚みをインターセプト法から算出した。インターセプト法は断面に任意の位置で厚み方向に直線を引き、その直線の長さ内に存在するスプラット粒子個数が200個以上になるように複数の直線を引き、スプラットの平均厚みを算出した。
【0050】
(細孔径、細孔容積の測定)
ターゲットの細孔径及び細孔容積は、水銀圧入式の細孔分布測定装置(島津製作所製、商品名「オートポアIV9510」を使用した。試料と水銀の接触角は130°として
水銀導入圧力を変化させその時の圧入量の関係より、細孔径及び細孔容積を算出した。
【0051】
(分散性の測定)
ターゲットの分散性は、ターゲットを所定の大きさに切断しその断面を研磨後、EPMA法により2.5mm x 2.5mmのエリアをAlまたは/およびGaの元素マッピングを行い、得られた256(ポイント)x256(ポイント)の分析値を統計処理により酸化物換算での変動係数を算出し、それを分散性の指標とした。
【0052】
(平均結晶粒径)
平均結晶粒径は切り出したターゲットの研磨断面の反射電子顕微鏡観察写真を用いて、インターセプト法により算出した。
【0053】
(熱伝導率の測定)
熱流エネルギーを電気的な発熱量などとして与え、試料の2点間の温度勾配を測定することにより求められる定常法にて測定した。測定方法はASTMのE1530−04に準拠する方法で行い、測定装置は定常法熱伝導率測定装置(アルバック理工製、商品名「GH−1」)を使用した。
【0054】
(ターゲット表面温度の測定)
ターゲットの表面温度は、放射温度計をターゲット中央部にあて、溶射中の表面温度を2秒ごとにデータを取り込んだ。取り込んだ温度から溶射中の最大温度を読み取り、これをターゲット表面温度とした。
【0055】
(透過率の測定)
ターゲットをスパッタリングし、膜厚150nmの膜をガラス基板上に成膜して、この膜の透過率を分光光度計(HITACHI社製、商品名「U−4100」)を用いて測定後、JIS(RZ8701)に記載されている白昼光(D65)の相対分光分布値を用いてD65光での光透過率に換算した。
【0056】
実施例1
予め酸化アルミニウム(不二製作所製、商品名「フジランダムWA−60」)を用いてブラストした3インチΦのSUS製バッキングチューブを回転台の上に固定し、150rpmで回転しながら酸化亜鉛系ターゲットの原料を溶射した。酸化亜鉛系ターゲットの原料として、平均粒子径が45μmの酸化アルミニウム1.5重量%を含む酸化亜鉛を粉末供給器に仕込んだ。プラズマガスとしては10%の水素を含む窒素ガスを100L/min.の速度で流通して出力70kW(390A)の熱プラズマを用いた。また溶射距離は80mmとし、この時の相対溶射距離は0.88であった。また、原料粉末を60g/min.、原料粉末を供給するためのアルゴンガス流量は6L/min.にて溶射した。基板冷却配管としては、配管1本当たりのターゲット軸に対する水平圧力を0.3MPaとし、プラズマ中心からの距離が25mmΦとなる同心円状に4本、35mmΦとなる同心円状に4本、計8本を装着する条件で溶射した。溶射中のターゲットの最大表面温度は136℃であった。
【0057】
その結果、スプラット平均厚みが6.5μmで、相対密度90.2%で厚みが14mmの割れやクラックのないターゲットが得られた。ターゲットの細孔容積は0.021mL/gで平均細孔径は420nmであり、1μm以上の細孔径を有する細孔の容積は0.0069mL/gであった。ターゲットの平均結晶粒径は0.8μm、酸化アルミニウム含有量は2.2重量%、酸化アルミニウムの分散性は24.7%、熱伝導率は5.0W/(m・K)であった。このようなターゲットを4.5kW(32.8W/cm)、Arガス:40cm/min.、圧力:0.4Paで20hrスパッタ放電した結果、アーク数は118個であった。膜厚150nmで成膜した透明導電膜の透過率は87.8%であった。
【0058】
実施例2
プラズマガス流量が120L/min.、溶射距離90mmとする以外は実施例1と同様の方法で溶射した。基板冷却配管としては、配管1本当たりのターゲット軸に対する水平圧力を0.3MPaとし、プラズマ中心からの距離を25mmΦと35mmΦの同心円状にそれぞれ4本ずつ計8本を装着する条件で溶射した。溶射中のターゲットの表面温度は128℃であった。
【0059】
その結果、スプラット平均厚みが5.8μm、相対密度89.4%で厚みが14mmの割れやクラックのないターゲットが得られた。ターゲットの細孔容積は0.021mL/gで平均細孔径は465nmであり、1μm以上の細孔径を有する細孔の容積は0.0070mL/gであった。ターゲットの平均結晶粒径は0.7μm、酸化アルミニウム含有量は2.1重量%、酸化アルミニウムの分散性は25.5%、熱伝導率は5.0W/(m・K)であった。
【0060】
このようなターゲットを実施例1と同様な条件でスパッタ放電した結果、アーク数は138個であった。膜厚150nmで成膜した透明導電膜の透過率は89.0%であった。
【0061】
実施例3
15%Hを含む窒素ガスをプラズマガスとし、基板冷却配管1本当たりのターゲット軸に対する水平圧力が0.2MPaになるようにした事以外は実施例1と同様の方法で溶射した。なお、溶射中のターゲット最大表面温度は151℃であった。その結果、スプラット平均厚みは7.2μm、相対密度は90.7%、厚みが9mmのクラックのないターゲットが得られた。ターゲットの細孔容積は0.020mL/gで平均細孔径は400nmであり、1μm以上の細孔径を有する細孔の容積は0.0069mL/gであった。ターゲットの平均結晶粒径は0.6μm、酸化アルミニウム含有量は2.0重量%、酸化アルミニウムの分散性は26.1%、で、熱伝導率は5.2W/(m・K)であった。このようなターゲットを実施例1と同様な条件でスパッタ放電した結果、アーク数も124個と少なく、膜厚150nmで成膜した透明導電膜の透過率は88.3%であった。
【0062】
実施例4
酸化ガリウムを2.0重量%含有する平均粒子径45μmの酸化亜鉛系粉末を原料として用い、実施例2と同様の方法で溶射した。得られたターゲットのスプラット平均厚みは5.4μm、相対密度は90.3%、厚みが14mmのクラックのないターゲットが得られた。ターゲットの細孔容積は0.020mL/gで平均細孔径は420nmであり、1μm以上の細孔径を有する細孔の容積は0.0069mL/gであった。平均結晶粒径は0.7μm、酸化ガリウム含有量は3.0重量%、酸化ガリウムの分散性は25.4%、熱伝導率は5.1W/(m・K)であった。スパッタ時のアーク数も198個、膜厚150nmで成膜した透明導電膜の透過率は87.9%であった。
【0063】
比較例1
基板冷却をしなかった以外は実施例1と同様な方法で溶射した。溶射中のターゲット表面温度は494℃であった。得られたターゲットはフジツボ状の突起を有する酸化亜鉛が析出し、表面凹凸が非常に激しいもので、フジツボ内部は黄色みのある色調を有しており、フジツボ外周部の緑白色とのまだら模様となり、円筒ターゲットとしては使用できないものが得られた。相対密度は76.6%で、ターゲットを肉厚化していくとフジツボ部が粗大化し、ターゲット厚み3mmするとターゲット表面がフジツボ部に覆われた状態であった。得られたターゲットのスプラット平均厚みは5.0μmであった。
【0064】
比較例2
使用した原料粉末は平均粒径80μmからなる1.5重量%の酸化アルミニウムを含む酸化亜鉛を用いた。プラズマガス流量150L/min.、100%N、溶射距離70mmの条件で溶射した。基板冷却配管は、ターゲット面上での溶射中心から距離が45mmφの同心円上に2本を1本当たりのターゲット軸に対する水平圧力が0.05MPaになるように配置して溶射した。溶射中の表面温度は327℃であった。得られたターゲットのスプラット平均厚みは14.9μm、相対密度は82.3%で、ターゲット厚みが3mmにおいてクラックが発生した。ターゲットの細孔容積は0.037mL/gで平均細孔径は700nmであり、1μm以上の細孔径を有する細孔の容積は0.021mL/gであった。平均結晶粒径は1.1μm、酸化アルミニウム含有量は2.2重量%、酸化アルミニウムの分散性は31.9%、熱伝導率は3.0W/(m・K)であった。
【0065】
比較例3
溶射距離110mm、ターゲット面上での溶射中心から距離が15mmφの同心円上に基板冷却配管配置を設置した以外は比較例2と同様な条件で溶射した。溶射中の表面温度は235℃であった。
【0066】
得られたターゲットのスプラットの平均厚みは18.5μm、相対密度は77.8%で、ターゲット厚みが9mmのものを得た。ターゲットの細孔容積は0.055mL/gで平均細孔径は970nmであり、1μm以上の細孔径を有する細孔の容積は0.040mL/gであった。平均結晶粒径は1.1μm、酸化アルミニウム含有量は2.1重量%、酸化アルミニウムの分散性は32.4%、で熱伝導率は2.8W/(m・K)であった。
【0067】
このようなターゲットを4.5kW、(32.8W/cm)、Arガス:40cm/min.、圧力:0.4Paで20hrスパッタ放電した結果、アーク数は1843個で、膜厚150nmで成膜した透明導電膜の透過率は86.8%であった。いずれの膜特性も本発明の実施例と比較して悪化している事がわかる。
【0068】
実施例1〜4、比較例1〜3で得られた結果を表1にまとめた。
【0069】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の酸化亜鉛系円筒ターゲットは、ノートパソコンや携帯電話の表示素子用電極、太陽電池用電極、プラズマディスプレイパネル用電極、などの透明導電膜用途に利用できるスパッタリング用円筒ターゲットを提供することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 バッキングチューブ
2 スプラット
3 溶融粒子
4 プラズマジェット
5 原料粉末
6 プラズマガス
7 溶射ガン
8 電源
9 基板冷却配管
10 酸化亜鉛系ターゲット
11 溶射距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛系粉末を溶射して溶融扁平したスプラットを積み重ねた組織からなる酸化亜鉛系円筒ターゲットであって、前記スプラット平均厚みが2μm以上10μm以下であり、且つ前記酸化亜鉛系円筒ターゲットの相対密度が87%以上であることを特徴とする酸化亜鉛系円筒ターゲット。
【請求項2】
前記酸化亜鉛系円筒ターゲットの厚みが7mm以上であることを特徴とする請求項1記載の酸化亜鉛系円筒ターゲット。
【請求項3】
前記酸化亜鉛系円筒ターゲットの平均細孔径が600nm以下であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の酸化亜鉛系円筒ターゲット。
【請求項4】
前記酸化亜鉛系円筒ターゲットの1μm以上の細孔径を有する細孔の容積が0.015mL/g以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の酸化亜鉛系円筒ターゲット。
【請求項5】
前記酸化亜鉛系円筒ターゲットの平均結晶粒径が1.0μm以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の酸化亜鉛系円筒ターゲット。
【請求項6】
酸化アルミニウムまたは/および酸化ガリウムを0重量%以上5重量%以下含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の酸化亜鉛系円筒ターゲット。
【請求項7】
酸化アルミニウムまたは/および酸化ガリウムを含有する酸化亜鉛系円筒ターゲットにおいて、酸化アルミニウムまたは/および酸化ガリウムの分散性が0%以上30%以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の酸化亜鉛系円筒ターゲット。
【請求項8】
熱伝導率が4W/(m・K)以上であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の酸化亜鉛系円筒ターゲット。
【請求項9】
酸化アルミニウムまたは/および酸化ガリウムを含有してもよい酸化亜鉛系粉末のスラリーを粉砕後に乾燥造粒した、平均粒子径が20μm以上70μm以下である溶射原料粉末を、基板冷却配管構造でターゲットを冷却しながらプラズマ溶射することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の酸化亜鉛系円筒ターゲットの製造方法。
【請求項10】
溶射原料粉末の溶射時におけるターゲットの表面温度が200℃以下となるように基板冷却配管構造でターゲットを冷却しながらプラズマ溶射することを特徴とする請求項9に記載の酸化亜鉛系円筒ターゲットの製造方法。
【請求項11】
プラズマガス成分が窒素と水素からなり、その水素分圧が5%以上30%以下であり、且つプラズマガス流量が90L/min.以上130L/min.以下であることを特徴とする請求項9または10のいずれかに記載の酸化亜鉛系円筒ターゲットの製造方法。
【請求項12】
プラズマトーチ出口から溶射基材までの溶射距離が70mm以上100mm以下であることを特徴とする請求項9乃至11のいずれかに記載の酸化亜鉛系円筒ターゲットの製造方法。
【請求項13】
溶射距離に対するプラズマジェット長さの比が0.75以上0.95以下であることを特徴とする請求項9乃至12のいずれかに記載の酸化亜鉛系円筒ターゲットの製造方法。
【請求項14】
基板冷却配管構造において、基板冷却配管から噴流した空気がターゲットと衝突する位置が、溶融粒子がターゲットに衝突する中心からの距離が20mm以上40mm以下の同心円状になるように基板冷却配管が配置されることを特徴とする請求項9乃至13のいずれかに記載の酸化亜鉛系円筒ターゲットの製造方法。
【請求項15】
基板冷却配管構造において、基板冷却配管とターゲットの側面とがなす角をθ1、基板冷却配管とターゲット円周の法線とがなす角をθ2とし、基板冷却配管出口からの噴出する圧力をPとした時に(1)式で求められる水平圧力Pの値が0.1MPa以上であることを特徴とする請求項9乃至14のいずれかに記載の酸化亜鉛系円筒ターゲットの製造方法。
=P×(sinθ1+sinθ2)/2 (1)
【請求項16】
基板冷却配管構造において、基板冷却配管の本数が少なくとも4本以上の偶数本であることを特徴とする請求項9乃至15のいずれかに記載の酸化亜鉛系円筒ターゲットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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