説明

酸化型アルブミン低下剤

【課題】酸化型アルブミンの割合を低下させる薬剤等の提供。
【解決手段】イソロイシン、ロイシン、およびバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を含有する酸化型アルブミン低下剤,および血清アルブミン機能改善剤,あるいは生体内酸化還元状態改善剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内における酸化型アルブミンの割合を低下させる薬剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
血清アルブミンは生体内で最も多く存在する単純蛋白質であり、血漿膠質浸透圧の維持、種々の内因性・外因性物質の結合・輸送およびアミノ酸の供給源という3つの生理機能を有する。血清アルブミンが輸送する物質としては、トリプトファン、尿酸、グルタチオン、ATP、ビリルビン、サイロキシンやテストステロンなどのホルモン、銅や亜鉛などの金属イオン、ビタミンB6やビタミンCなどのビタミン、パルミチン酸やオレイン酸などの脂肪酸、抗生物質やアスピリンなどの薬剤などが幅広く知られている(渡邊明治編 臨床アルブミン学 (株)メディカルレビュー社)。
【0003】
血清アルブミンは、N末端から34番目に存在するシステイン残基のSH基が遊離の状態の還元型アルブミンと血中のシステインやグルタチオンなどとジスルフィド(S−S)結合した状態の酸化型アルブミンとの混合物として存在している。正常ヒト血清では還元型が約75%、酸化型が約25%の割合で存在するが、肝硬変患者(Watanabe,A.Nutrition 20:351,2004)、慢性腎不全患者、糖尿病患者や麻酔・手術時の患者では酸化型アルブミンの割合が増加していると報告されている(恵良聖一 臨床検査 48:501−511,2004)。
【0004】
酸化型アルブミンの増加は、生体内の酸化還元状態に関係することや、物質の結合・輸送に影響するものと推測されてはいるが、その病態意義については明らかにされていない。また、血液透析によって慢性腎不全患者の酸化型アルブミンが低下して還元型アルブミンが増加するとの報告(Sogami,M.Int.J.Peptide Protein Res 25:398,1985)はあるものの、酸化型アルブミンを低下させ還元型アルブミンを増加させるような薬剤や食品成分については全く知られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、酸化型アルブミンの病態意義を明らかにして、増加した酸化型アルブミン量の割合を低下させる薬剤等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸に増加した酸化型アルブミン量を低下させる作用、酸化型/還元型アルブミン比を改善する作用、血清アルブミン機能を改善する作用および生体内酸化還元状態を改善する作用があることを見出し、本発明を完成するに至った。したがって本発明は、以下の項目を包含する。
【0007】
(1)イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を含有する酸化型アルブミン低下剤。
(2)イソロイシン、ロイシン、及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸を含有する酸化型アルブミン低下剤。
(3)イソロイシン、ロイシン、バリンの重量比が1:1〜3:0.5〜2.0であることを特徴とする、上記(2)に記載の酸化型アルブミン低下剤。
(4)イソロイシン、ロイシン、バリンの重量比が1:1.5〜2.5:0.8〜1.5であることを特徴とする、上記(2)に記載の酸化型アルブミン低下剤。
(5)成人1日あたりの分岐鎖アミノ酸の投与量が全量で、1g〜50gである、上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の酸化型アルブミン低下剤。
(6)成人1日あたりの分岐鎖アミノ酸の投与量が全量で、3g〜30gである、上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の酸化型アルブミン低下剤。
(7)肝硬変、慢性腎不全、糖尿病、及び麻酔・手術時の患者から選ばれる少なくとも1種の患者用である、上記(1)〜(6)のいずれか1つに記載の酸化型アルブミン低下剤。
(8)イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を含有する酸化型/還元型アルブミン比改善剤。
(9)イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を含有する血清アルブミン機能改善剤。
(10)血清アルブミン機能が、トリプトファン結合能、ビリルビン結合能、脂肪酸結合能から選ばれる少なくとも1種である、上記(9)に記載の血清アルブミン機能改善剤。
【0008】
(11)イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を含有する生体内酸化還元状態改善剤。
(12)イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を含有する飲食品において、酸化型アルブミン低下作用を有する旨を表示することを特徴とする飲食品。
(13)イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を含有する飲食品において、生体内酸化還元状態改善作用を有する旨を表示することを特徴とする飲食品。
(14)有効量のイソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を被験体に投与することを含む、酸化型アルブミンの低下方法。
(15)有効量のイソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を被験体に投与することを含む、酸化型/還元型アルブミン比の改善方法。
(16)有効量のイソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を被験体に投与することを含む、血清アルブミン機能の改善方法。
(17)有効量のイソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を被験体に投与することを含む、生体内酸化還元状態の改善方法。
(18)酸化型アルブミン低下剤の製造における、イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸の使用。
(19)酸化型/還元型アルブミン比改善剤の製造における、イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸の使用。
(20)血清アルブミン機能改善剤の製造における、イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸の使用。
(21)生体内酸化還元状態改善剤の製造における、イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸の使用。
【0009】
(22)イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸および医薬として許容される担体を含有してなる医薬、ならびに当該医薬を、酸化型アルブミンの低下に使用し得るまたは使用すべきであることを記載した記載物を含む商業的パッケージ。
(23)イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸および医薬として許容される担体を含有してなる医薬、ならびに当該医薬を、酸化型/還元型アルブミン比の改善に使用し得るまたは使用すべきであることを記載した記載物を含む商業的パッケージ。
(24)イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸および医薬として許容される担体を含有してなる医薬、ならびに当該医薬を、血清アルブミン機能の改善に使用し得るまたは使用すべきであることを記載した記載物を含む商業的パッケージ。
(25)イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸および医薬として許容される担体を含有してなる医薬、ならびに当該医薬を、生体内酸化還元状態の改善に使用し得るまたは使用すべきであることを記載した記載物を含む商業的パッケージ。
(26)イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を含有する酸化型アルブミン低下用組成物。
(27)イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を含有する酸化型/還元型アルブミン比改善用組成物。
(28)イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を含有する血清アルブミン機能改善用組成物。
(29)イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を含有する生体内酸化還元状態改善用組成物。
【0010】
本発明により提供される、イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を含有する薬剤及び飲食品は、酸化型アルブミンを低下させる効果、酸化型/還元型アルブミン比を改善する効果、血清アルブミン機能を改善する効果および生体内酸化還元状態を改善する効果があるため、酸化型アルブミンが増加することによって引き起こされる種々の疾患や弊害を改善できるため有用である。また、本発明の酸化型アルブミン低下剤は、アミノ酸を有効成分とすることから、安全性が高く、副作用がほとんどないため、医薬品及び飲食品として有利である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1は、実施例1における酸化型アルブミン比の推移を示すグラフである。
図2は、実施例2における酸化型アルブミン比を示す図である。
図3は、実施例2におけるL−トリプトファン結合率を示す図である。
図4は、実施例3における各アルブミンの発生ラジカル強度を示すチャートである。
図5は、実施例3における、酸化型アルブミン比に対するラジカル強度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態について説明する。
本発明における「酸化型アルブミン低下剤」とは、血清アルブミンの還元型:酸化型の存在比において、疾患やその他の要因により増加した酸化型アルブミンの割合を低下させる薬剤のことである。すなわち、正常時の生体内における酸化型アルブミンと還元型アルブミンとの存在割合は、ほぼ前者が25%、後者が75%であるところ、本発明の薬剤は酸化型アルブミンが増量した状態を正常の割合に、より具体的には25%に、あるいは25%に近づく方向に低下させる働きを有する。
【0013】
本発明の酸化型アルブミン低下剤は、生体内における酸化型アルブミンの割合が増加している患者に有用である。具体的には、肝硬変、慢性腎不全、糖尿病、および麻酔・手術時の患者などに対して有用である。
【0014】
また、本発明の酸化型アルブミン低下剤は、酸化型/還元型アルブミン比改善剤、血清アルブミン機能改善剤、および生体内酸化還元状態改善剤として使用されうる。
【0015】
ここで、酸化型/還元型アルブミン比とは、生体内における血清アルブミンの酸化型と還元型の比率のことをさし、正常時、この値は約2.5:7.5であるとされている。肝疾患、糖尿病、甲状腺疾患、ネフローゼ症候群、腎不全、加齢などにより酸化型が増加するとこの比率は変動する。すなわち、酸化型/還元型アルブミン比改善とは、これらの比率を正常時の比率に改善する、またはそれに近づけることをいう。
【0016】
血清アルブミン機能改善とは、血清アルブミンの有するトリプトファン結合能、ビリルビン結合能、脂肪酸結合能のうち少なくとも1つの機能を高めることである。
【0017】
血清アルブミンのトリプトファン結合率は90%以上であるのが正常とされており、これが著しく低下すると血液中に血清タンパク質非結合型で存在するトリプトファン濃度が上昇し、脳内でセロトニンへの変換速度が速まる。これに起因して易疲労感や脳症がもたらされる。
【0018】
血清アルブミンのビリルビン結合率は通常99%以上であるのが正常とされており、血中の非抱合型(間接)ビリルビンの肝臓への運搬を担っている。この数値が低下すると遊離型のビリルビン濃度が上昇し、脳内に移行し神経毒性を呈する。
【0019】
また、血清アルブミンのパルミチン酸やオレイン酸などの脂肪酸結合率は通常99%以上であるのが正常とされており、この数値が低下すると血中の遊離脂肪酸濃度が高まり、溶血などの毒性が現れる。
【0020】
すなわち、血清アルブミン機能改善とは、これらの数値を正常時の値に改善すること、またはそれに近づけることをいう。
【0021】
生体内酸化還元状態とは生体内の酸化反応と抗酸化反応(すなわち還元反応)のバランス状態のことである。種々の病態においてこのバランスが破綻し酸化傾向に傾いた結果、活性酸素やフリーラジカルなどの活性酸素種の発生を介する酸化ストレスが生じ、細胞や組織に障害を引き起こす。したがって生体内酸化還元状態改善とは、抗酸化防御機構を活性化させて過剰な酸化ストレスを消去し、正常な状態に戻すこと、又はそれに近づけることをいう。
【0022】
本発明の有効成分(分岐鎖アミノ酸)である、イソロイシン、ロイシンおよびバリンはそれぞれL−体、D−体、DL−体いずれも使用可能である。またイソロイシン、ロイシンおよびバリンはそれぞれ、遊離体のみならず、塩、水和物の形態でも使用することができる。
【0023】
塩の形態には酸付加塩や塩基との塩等を挙げることもでき、イソロイシン、ロイシンおよびバリンの医薬品又は飲食品として許容される塩を選択することが好ましい。イソロイシン、ロイシンおよびバリンにそれぞれ付加して医薬品又は飲食品として許容される塩を形成する酸としては、例えば、塩化水素、臭化水素、硫酸、リン酸塩等の無機塩、酢酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸又はモノメチル硫酸等の有機塩が挙げられる。イソロイシン、ロイシンおよびバリンの医薬品又は飲食品として許容される塩基との塩の例としては、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム等の金属の水酸化物あるいは炭酸化物や、アンモニア等の無機の塩基との塩、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、エタノールアミン、モノアルキルエタノールアミン、ジアルキルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機の塩基との塩が挙げられる。上記塩は水和物(含水塩)であってもよい。
【0024】
また、水和物としては、例えば1〜6水和物などが挙げられる。これらの塩、水和物も本発明の権利に包含されるものである。
【0025】
本発明の酸化型アルブミン低下剤は、イソロイシン、ロイシン、バリンのいずれか1種以上が分岐鎖アミノ酸として含有されていれば良いが、イソロイシン、ロイシン、バリン全てが含有されていることが好ましい。より好ましくは、イソロイシン、ロイシン、バリンの重量比が1:1〜3:0.5〜2.0である。さらに好ましくは、イソロイシン、ロイシン、バリンの重量比が1:1.5〜2.5:0.8〜1.5である。最も好ましい重量比は1:2:1.2である。本発明薬剤の投与方法は、経口投与、または点滴投与、注射投与(経静脈投与)等の非経口投与(摂取)でも良く、特に限定しないが、有効成分がアミノ酸であることから経口投与であることが好ましい。
【0026】
本発明の酸化型アルブミン低下剤を経口投与する場合の投与量(摂取量)は、投与する患者の症状、年齢、投与方法によって異なるが、通常、1人あたり1日、イソロイシン1〜30g、ロイシン1〜30g、バリン1〜30gである。一般の成人の場合、好ましくは1人あたり1日、イソロイシン2〜10g、ロイシン2〜10g、バリン2〜10g、より好ましくは、イソロイシン2.5〜3g、ロイシン5〜6g、バリン3〜4gである。イソロイシン、ロイシン、バリン全てが含有されている場合は、成人1日あたりの投与量が全量で、1g〜50gであることが好ましい。より好ましくは成人1日あたりの投与量が全量で、3〜30gである。さらに好ましくは4〜25gである。
【0027】
一方、点滴投与、注射投与(経静脈投与)等、非経口投与(摂取)することも可能であり、その場合の投与量については、前記経口投与についての好ましい投与量(摂取量)範囲の10〜20分の1程度を投与することができる。
【0028】
経口投与剤としては、顆粒剤、細粒剤、錠剤、散剤、カプセル剤、チュアブル剤、液剤、懸濁剤など、また注射剤としては静脈直接注入用、点滴投与用などの医薬製剤一般の剤形を採用することができる。
【0029】
本発明の分岐鎖アミノ酸であるイソロイシン、ロイシン及びバリンは、それぞれが単独で、若しくは任意の2つの組み合わせで製剤化されてもよく、又は全てを含有する単一製剤としてもよい。別々に製剤化して投与する場合、それらの投与経路、投与剤形は同一であっても異なっていてもよく、また各々を投与するタイミングも、同時であっても別々であってもよい。併用する薬剤の種類や効果によって適宜決定する。
【0030】
本発明において、「重量比」とは製剤中のそれぞれの成分の重量比を示す。例えばイソロイシン、ロイシン及びバリンの各分岐鎖アミノ酸が1つの製剤中に含まれる場合には個々の含有量の比であり、各分岐鎖アミノ酸のそれぞれが単独で又は任意の2つの組み合わせで複数製剤中に含まれる場合には、各製剤に含まれる各分岐鎖アミノ酸の重量の比である。なお、本明細書中において各アミノ酸の重量は、遊離アミノ酸としてのものである。
【0031】
本発明の酸化型アルブミン低下剤は常法により製剤化することができる。製剤上の必要に応じて、例えば、乳糖、ブドウ糖、D−マンニトール、でんぷん、結晶セルロース、炭酸カルシウム、カオリン、ゼラチン等の担体や、溶剤、溶解補助剤、等張化剤等の通常の添加剤を適宜配合することができる。
【0032】
本発明の酸化型アルブミン低下剤は、特に医薬品又は飲食品(健康食品、栄養補助食品等を含む)として使用することができる。有効成分がアミノ酸であるため、安全性に優れており、飲食品の形態でも簡便に使用することができる。またこのような飲食品を保健機能食品として提供することも可能であり、この保健機能食品には、酸化型アルブミン低下作用を有する旨、または生体内酸化還元状態改善作用を有する旨の表示を付した飲食品、特に特定保健用食品なども含まれる。医薬品として使用する場合には、その形態は特に限定されるものではなく、上記製剤をそのまま使用しても良い。また飲食品の場合にも、その形態は特に限定されるものではなく、酸化型アルブミン低下剤の分岐鎖アミノ酸のみ、あるいは製剤の効果を発揮させるのに必要な量のみ、飲食品に含有させても良い。
【0033】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
[実施例1]
非代償性肝硬変患者に対する分岐鎖アミノ酸(BCAA)投与による酸化型アルブミン低下作用の検討
低アルブミン血症(血清アルブミン値3.5g/dL以下)を呈する非肝硬変患者の血清アルブミンについて、酸化型アルブミン比に及ぼすBCAAの投与効果を8週間に渡り検討した。対象はHCV(C型肝炎ウイルス)を成因とし、食事摂取量が十分で過去4週間以内にアミノ酸製剤を投与していない肝硬変患者(7例)とした。この際、アルブミン製剤や凍結血漿製剤を継続的に投与している患者、肝細胞癌を認める患者、血清中総ビリルビン値が3.0mg/dL以上の患者、肝性脳症を認める患者等は対象から除外した。
BCAAの投与は、イソロイシン、ロイシン、バリンの重量比が、1:2:1.2(イソロイシン:0.952g、ロイシン:1.904g、バリン:1.144g)であるリーバクト顆粒(登録商標、味の素株式会社)を1回1包(4.74g)、1日3回食後に経口投与し、2ヶ月間継続した。投与開始時、2週後、8週後にそれぞれ採血し、血清アルブミンの酸化型アルブミン比(HSA(ox)%)を測定した。
HSA(ox)%の測定は以下のように行った。全血約4mLを採血後、直ちに遠心分離をして血清を得た。これを0.45μmのフィルターにて濾過した後ドライアイスで凍結し、測定まで−80℃のディープフリーザーで保存した。サンプルはHPLC分析により分離し、還元型アルブミン由来ピークと酸化型アルブミンI型(可逆的)ピーク及び酸化型アルブミンII型(不可逆的)ピークのそれぞれのエリア面積を算出した。HSA(ox)%=(酸化型アルブミンI型+酸化型アルブミンII型)/(還元型アルブミン+酸化型アルブミンI型+酸化型アルブミンII型)×100とした。
その結果、図1に示すようにHSA(ox)%の推移は、39.7±11.1、36.2±8.1、33.1±9.0とリーバクト投与により経時的に低下し、8週後で有意であった。この際、血清アルブミン値(g/dL)の推移は3.3±0.2、3.4±0.2、3.4±0.3であり、有意な変化は認められなかった(図示せず)。
(*測定に関する参考文献:教育医学、第43巻、第4号、421〜431頁(1998))
【0035】
[実施例2]
L−トリプトファン結合力における酸化型アルブミン機能異常解析
酸化型アルブミン比の上昇がアルブミン機能へ与える影響について検討する目的で、肝硬変モデルラットの血漿を用いてアルブミンのL−トリプトファン結合率について解析した。
通常、血中の遊離型L−トリプトファンは90%以上がアルブミンに結合しているが、アルブミン非結合型L−トリプトファンは脳内でセロトニンに変換される。肝硬変患者ではしばしば肝性脳症を認められることから、アルブミンのL−トリプトファン結合率の変化に注目した。
肝硬変モデルラットは雄性SD系ラットに四塩化炭素を週2回継続的に18週投与して作製した25週齢のもの(n=2)を、コントロールとして10週齢の正常な同系ラット(n=2)を用いた。
エーテル麻酔下、下大静脈より採血し、抗凝固剤としてEDTAを用いて遠心分離により血漿を得た。血漿を37℃で20分間プレインキュベーションし、血漿1mL当たりL−トリプトファン溶液(10mM)を10μL添加してよく混合した(A)。A液を限外濾過チューブ(Millipore社、分子量30,000カット)に450μL分注後、3,000gで5分間37℃にて遠心し、濾液50μL(B)と未濾過液50μL(C)をそれぞれ得た。A及びBにそれぞれ等量の8%(w/v)TCA溶液を添加し混合した後、室温にて3,000gで5分間遠心して除蛋白上清を回収した。これに0.125%(v/v)ヘプタフルオロ酪酸(HFBA)溶液を4倍量添加して混合し、検量線作製した濃度範囲に入るように0.1%HFBAにて追加希釈した後、LC/MS法により各サンプル中のL−トリプトファン濃度を定量した。血漿アルブミンに対するL−トリプトファン結合率は、[1−(Trp濃度(B)/Trp濃度(A))]×100(%)で示した。回収率は、[Trp濃度(B)×50μL+Trp濃度(C)×400μL]/[Trp濃度(A)×450μL]×100(%)として算出した。
また、この際用いたA液の酸化型アルブミン比(RSA(ox)%)を測定し図2に示した。肝硬変モデルラットではRSA(ox)%が52.2であり、正常ラットの29.6に比べ有意に高値であった。
それぞれの血漿中のアルブミンに対するL−トリプトファン結合率は、正常ラットでは83%と高く、肝硬変ラットでは48%にまで低下していた(図3)。これにより、酸化型アルブミン比の増加によりアルブミンのL−トリプトファン結合率が低下し、血液中に血漿蛋白質非結合型で存在するトリプトファン濃度が上昇する可能性が示された。
【0036】
[実施例3]
酸化型アルブミンの抗酸化力評価実験
アルブミンの機能の一つである生体内酸化還元状態の改善作用が、酸化型アルブミン比の上昇により影響を受けるか検討する目的で、アルブミンの抗酸化力を測定した。評価には正常ヒト血漿より精製したアルブミン(HSA)から以下に示す3種類のHSA(ox)%を有すサンプルを調製して用いた。
1.還元型アルブミン:精製HSA。HSA(ox)%=21.5
2.酸化型アルブミン:HSA(red)の34番目のシステイン残基に人為的にシステインをジスルフィド結合させて作製。HSA(ox)%=92.0
3.保存後アルブミン:血漿を37℃で18時間インキュベーションし酸化型アルブミン比を上昇させた後に精製し作製。HSA(ox)%=45.6
アルブミンの抗酸化力は、in vitroでフェントン反応によりヒドロキシラジカルを発生させ、各種アルブミン共存下での発生ラジカル強度をESR(Electron Spin Resonance)測定機を用いて定量した。
試験管内で25μM FeSO、5mM DMPO(スピントラップ剤)、100μM DETAPAC(鉄イオンキレート剤)を混合し、10mg/mlの濃度で各種アルブミンを添加した。10秒後に0.5mM Hを添加しよく混合した後、45秒後より1分間発生するヒドロキシラジカルの強度をESR(JES−FR80S、JEOL社)で測定した。測定条件は以下の通り。
Power:1mW,Modulation Width:0.1mT,Frequency:100Hz,Center Field:335.5mT,Receiver Gain:79,Sweep Width:10mT,Time Constant:0.03sec,Sweep time:1min.
その結果、図4に示すように発生ラジカル強度は添加したアルブミンの種類により異なり、酸化型アルブミン比と相関したラジカル強度が得られた(図5)。これにより、酸化型アルブミンは還元型アルブミンに比べてヒドロキシラジカルの消去力が弱いことが示され、酸化型アルブミン比の上昇はアルブミン由来の抗酸化力の低下をもたらすことが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明により提供される、イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を含有する薬剤及び飲食品は、酸化型アルブミンを低下させる効果、酸化型/還元型アルブミン比を改善する効果、血清アルブミン機能を改善する効果および生体内酸化還元状態を改善する効果があるため、酸化型アルブミンが増加することによって引き起こされる種々の疾患や弊害を改善できるため有用である。また、本発明の酸化型アルブミン低下剤は、アミノ酸を有効成分とすることから、安全性が高く、副作用がほとんどないため、医薬品及び飲食品として有利である。
本出願は、日本で出願された特願2005−226967(出願日:2005年8月4日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。


【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を含有する酸化型アルブミン低下剤。
【請求項2】
イソロイシン、ロイシン、及びバリンの3種の分岐鎖アミノ酸を含有する酸化型アルブミン低下剤。
【請求項3】
イソロイシン、ロイシン、バリンの重量比が1:1〜3:0.5〜2.0であることを特徴とする、請求項2に記載の酸化型アルブミン低下剤。
【請求項4】
イソロイシン、ロイシン、バリンの重量比が1:1.5〜2.5:0.8〜1.5であることを特徴とする、請求項2に記載の酸化型アルブミン低下剤。
【請求項5】
成人1日あたりの分岐鎖アミノ酸の投与量が全量で、1g〜50gである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸化型アルブミン低下剤。
【請求項6】
成人1日あたりの分岐鎖アミノ酸の投与量が全量で、3g〜30gである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸化型アルブミン低下剤。
【請求項7】
肝硬変、慢性腎不全、糖尿病、及び麻酔・手術時の患者から選ばれる少なくとも1種の患者用である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の酸化型アルブミン低下剤。
【請求項8】
イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を含有する酸化型/還元型アルブミン比改善剤。
【請求項9】
イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を含有する血清アルブミン機能改善剤。
【請求項10】
血清アルブミン機能が、トリプトファン結合能、ビリルビン結合能、脂肪酸結合能から選ばれる少なくとも1種である、請求項9に記載の血清アルブミン機能改善剤。
【請求項11】
イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を含有する生体内酸化還元状態改善剤。
【請求項12】
イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を含有する飲食品において、酸化型アルブミン低下作用を有する旨を表示することを特徴とする飲食品。
【請求項13】
イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を含有する飲食品において、生体内酸化還元状態改善作用を有する旨を表示することを特徴とする飲食品。
【請求項14】
有効量のイソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を被験体に投与することを含む、酸化型アルブミンの低下方法。
【請求項15】
有効量のイソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を被験体に投与することを含む、酸化型/還元型アルブミン比の改善方法。
【請求項16】
有効量のイソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を被験体に投与することを含む、血清アルブミン機能の改善方法。
【請求項17】
有効量のイソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を被験体に投与することを含む、生体内酸化還元状態の改善方法。
【請求項18】
酸化型アルブミン低下剤の製造における、イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸の使用。
【請求項19】
酸化型/還元型アルブミン比改善剤の製造における、イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸の使用。
【請求項20】
血清アルブミン機能改善剤の製造における、イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸の使用。
【請求項21】
生体内酸化還元状態改善剤の製造における、イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸の使用。
【請求項22】
イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸および医薬として許容される担体を含有してなる医薬、ならびに当該医薬を、酸化型アルブミンの低下に使用し得るまたは使用すべきであることを記載した記載物を含む商業的パッケージ。
【請求項23】
イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸および医薬として許容される担体を含有してなる医薬、ならびに当該医薬を、酸化型/還元型アルブミン比の改善に使用し得るまたは使用すべきであることを記載した記載物を含む商業的パッケージ。
【請求項24】
イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸および医薬として許容される担体を含有してなる医薬、ならびに当該医薬を、血清アルブミン機能の改善に使用し得るまたは使用すべきであることを記載した記載物を含む商業的パッケージ。
【請求項25】
イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸および医薬として許容される担体を含有してなる医薬、ならびに当該医薬を、生体内酸化還元状態の改善に使用し得るまたは使用すべきであることを記載した記載物を含む商業的パッケージ。
【請求項26】
イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を含有する酸化型アルブミン低下用組成物。
【請求項27】
イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を含有する酸化型/還元型アルブミン比改善用組成物。
【請求項28】
イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を含有する血清アルブミン機能改善用組成物。
【請求項29】
イソロイシン、ロイシン、及びバリンから選ばれる少なくとも1種の分岐鎖アミノ酸を含有する生体内酸化還元状態改善用組成物。

【公開番号】特開2013−47233(P2013−47233A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−213237(P2012−213237)
【出願日】平成24年9月26日(2012.9.26)
【分割の表示】特願2007−529629(P2007−529629)の分割
【原出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【Fターム(参考)】