説明

酸化安定性が向上された二重結合を有する有機物を含有する組成物

高度不飽和脂肪酸のような酸化しやすい二重結合を有する有機物に対して抗酸化剤としてゴマの抗酸化成分およびアスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルを添加する。 上記方法によれば、酸化安定性が向上された二重結合を有する有機物を含有する組成物を得ることができる。特に高度不飽和脂肪酸を構成成分として含有する油脂の酸化安定性を大幅に向上させることができる。食品、医薬品、飼料などに添加する際に取り扱いやすい、操作性、汎用性に優れた、酸化に対して安定した精製魚油を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、酸化安定性が向上された二重結合を有する有機物を含有する組成物に関する。詳細には、高度不飽和脂肪酸のような酸化しやすい二重結合を有する有機物に対して抗酸化剤としてゴマの抗酸化成分およびアスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルを添加した、酸化安定性の向上した組成物に関する。
本発明において高度不飽和脂肪酸とは、二重結合を3個以上有する脂肪酸である。
【背景技術】
近年、油脂類、特に高度不飽和脂肪酸を含有する油脂類に生理的作用があることが知られるようになり、健康指向から、食品や飼料への添加用等として広く利用されるようになってきた。エイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸は主として魚油に含まれる高度不飽和脂肪酸であるが、これらは高脂血症、高血圧の予防、皮膚の老化防止等の種々の作用を有することが見出され、健康増進のための食品素材、医薬品として利用されている。しかし、高度不飽和脂肪酸を含有する油脂類は酸化安定性が低い為に、添加できる食品に制限があるばかりでなく、食品等へ添加する際、その製造過程におけるわずかな酸化によっても臭いが発生するという問題があった。使用後に残った精製魚油の缶には窒素ガスを封入してから密閉する必要がある等、油脂の取り扱い自体にも配慮が必要であり、その使用、例えば製品の種類、流通温度、添加量等には自ずと制限があった。
例えば、ドコサヘキサエン酸やエイコサペンタエン酸は、乳児の脳や網膜の発達や記憶学習能に重要な働きをしており、母乳中にこれらの脂肪酸が含まれていることから、育児用調製乳にはドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸を含有する魚油が添加され市販されている。また、アラキドン酸は発育に重要な働きをしており、母乳中に含まれていることから、育児用調製乳にアラキドン酸を添加する試みがなされている。しかしながら、これらの高度不飽和脂肪酸を育児用調製乳に配合する場合には、高度不飽和脂肪酸の酸化に注意しなければ、酸化により酸化臭が発生するため、摂取しにくいどころか調製乳自体も変質してしまい、有毒化してしまう場合すら生じる。
エイコサペンタエン酸エチルエステルはカプセル剤が経口投与の医薬品として販売されている。また、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸を含有する精製魚油はやはりカプセル剤が健康食品として販売されている。酸化しやすいことからカプセル剤以外の利用は限られている。
これら油脂における酸化安定性向上の態様のひとつに粉末化があり、安定な油脂粉末を得るために油脂をマイクロカプセル中に封入して粉末化したり、サイクロデキストリンによって油脂を包装して粉末化する方法などが採用されている。しかし、製造作業が煩雑で生産性が悪く、また保存中等にカプセルの破壊事故が発生したり、食品、飼料等として使用し得るカプセルの種類が限られる等の問題がある。
また、従来、油脂の酸化安定性を向上させるために抗酸化剤が使用されている。その場合、複数の抗酸化剤を組み合わせたり、抗酸化剤とリン酸、クエン酸、アスコルビン酸のようなシネルギストとを添加することで抗酸化性が向上することも知られている。ところが、魚油のように非常に酸化安定性の低い油脂の場合では、一般に考えられる抗酸化剤とシネルギストの組み合わせだけでは酸化安定性の向上に限界があった。
油脂の酸化を防止するためにジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、没食子酸、没食子酸プロピル、トコフェロール類等が酸化防止剤として油脂類および油脂を含む食品用に認められている。医薬品等では合成抗酸化剤としてBHT、BHA、TBHQ、エトキシキン等が使用されている
ゴマ油は酸化に対して比較的安定であることから、ゴマには抗酸化成分が含有されていることは古くから知られており、セサモールをはじめ各種リグナン類等を含有することが知られている(特開昭58−132076号公報、食の科学、225(11)p.40−48(1996)、同、225(11)p.32−36(1996))。
セサモールは食品添加物として認められている油脂類および油脂を含む食品用の酸化防止剤であるが、魚油のように非常に酸化安定性の悪い油脂では効果が無いと報告されており(日本油脂株式会社、DHA高度精製抽出技術開発事業 平成4−8年度 結果概要(DHA高度精製抽出技術研究組合)P74−79(2002))、魚油の酸化安定性向上のためには使用されていない。
また、アスコルビン酸またはアスコルビン酸誘導体は食品添加物として認められている油脂類および油脂を含む食品用の酸化防止剤であるが、魚油のように非常に酸化安定性の悪い油脂では単独では効果が無く、トコフェロールとの組合せにおいてもなお、その効果は充分でない。
油脂の酸化防止のために、種々の抗酸化剤を組み合わせて使用することが試みられている。例えば、特開2002−142673号公報には没食子酸、水溶性抗酸化剤および油溶性抗酸化剤を親油性乳化剤で油中水型に乳化してなる親油性酸化防止剤が記載されている。水溶性抗酸化剤としてビタミンC、クエン酸、クロロゲン酸およびその誘導体、糖アミノ反応物、プロアントシアニジン、フラボン誘導体、茶抽出物、ブドウ種子抽出物およびルチンが、また、油溶性抗酸化剤としてトコフェロール、アスコルビン酸パルミテート、セサモール、γ−オリザノールが例示されている。
日本栄養・食糧学会誌、44(6)p.493−498(1991)、同45(3)p.291−295(1992)、同45(3)p.285−290(1992)には植物油脂中のトコフェロールの熱分解に対する各種抗酸化剤の効果が比較検討されている。その各種抗酸化剤中に、セサモールとアスコルビン酸エステルを併用したものも含まれているが、他の抗酸化剤と比較して特に優れた効果が認められているわけではない。高度不飽和脂肪酸(不飽和結合が3つ以上)の室温等に保存したときに発生する酸化とは異なり、本文献では植物油(不飽和結合が3つ以下)の高温加熱時の油脂の酸化における効果を対象としており、対象物あるいは条件が異なっているためセサモールとアスコルビン酸エステルの併用による優れた効果を見出せなかったものと考えられる。また、抗酸化剤自体の熱安定性の影響も考えられる。
不飽和脂肪酸を含有する油脂類の需要は高まる一方であり、その取り扱いを含めた酸化安定性の問題は厳密な意味で解決することが強く望まれている。
【発明の開示】
本発明は、酸化安定性が格段に向上した二重結合を有する有機物、特に高度不飽和脂肪酸またはそのエステルを提供することを課題とする。
本発明者らは、油脂(高度不飽和脂肪酸を多く含む油脂、例えば、魚油等の水産動物油)の酸化安定性を向上させるために種々検討を重ねた結果、セサモールとアスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルを組み合わせて添加する事により、油脂の酸化安定性を格段に向上させることができることを見いだした。さらに、セサモール以外のゴマの抗酸化成分もアスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルを組み合わせることにより抗酸化作用が格段に上昇することを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、以下の(1)〜(13)に記載された組成物を要旨とする。
(1)抗酸化剤としてゴマの抗酸化成分およびアスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルを添加した、酸化安定性を有する、二重結合を有する有機物を含有する組成物。
(2)二重結合が活性メチレンを有する二重結合、または末端の二重結合である(1)の二重結合を有する有機物を含有する組成物。
(3)二重結合を有する有機物が高度不飽和脂肪酸、その塩、またはそのエステルである(1)の組成物。
(4)高度不飽和脂肪酸がエイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸のいずれか1種以上を含有する脂肪酸である(3)の組成物。
(5)高度不飽和脂肪酸のエステルが高度不飽和脂肪酸を構成成分として含有するトリグリセライドまたは高度不飽和脂肪酸の低級アルコールエステルである(3)または(4)の組成物。
(6)高度不飽和脂肪酸のエステルが精製魚油として含有される(3)または(4)の組成物。
(7)ゴマの抗酸化成分が電気化学検出器を用いた高速液体クロマトグラフで検出される、溶出時間が2.66,3.40,3.84,4.57,4.98,5.82,7.00,8.67,9.84,11.24,12.29,12.49,13.36,14.04,14.32,14.74,15.22,15.60,15.82,16.34,16.98,18.10,18.43,34.91分付近にピークを示す成分の少なくとも一つ以上を含むものである(1)ないし(6)いずれかの組成物。
(8)ゴマの抗酸化成分がゴマ、ゴマ油またはゴマ粕の溶媒、脂質、または、乳化剤のいずれか単独または混合溶媒による抽出物である(1)ないし(6)いずれかの組成物。
(9)ゴマの抗酸化成分が、セサモール、セサミノール、エピセサミノール、ピノレジノール、エピヒノレジノール、シリンガレジノール、サミン、セサモリノール、2,3−ジ(4’−ヒドロキシ3’−メトキシベンジル)−2−ブテン−4−オライド(2,3−di(4’−hydroxy−3’−methoxybenzyl)−2−buten−4−olide)から選ばれる少なくとも一つ以上を含有するものである(1)ないし(6)いずれかの組成物。
(10)アスコルビン酸脂肪酸エステルがアスコルビン酸パルミテート、またはアスコルビン酸ステアレートのいずれか1種以上を含有するものである(1)ないし(9)いずれかの組成物。
(11)アスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルを高度不飽和脂肪酸、その塩、またはそのエステルに対する可溶量以上の過剰量を添加したものである(1)ないし(10)いずれかの組成物。
(12)過剰量のアスコルビン酸を粉末または固形物として添加した(11)の外用組成物。
(13)さらに、トコフェロールを添加することを特徴とする(1)ないし(12)いずれかの組成物。
(14)(1)ないし(13)いずれかの組成物を含有する食品。
(15)(1)ないし(13)いずれかの組成物を含有する粉末油脂。
(16)(1)ないし(13)いずれかの組成物を含有する乳児用粉乳。
(17)(1)ないし(13)いずれかの組成物を含有する健康食品。
【発明の効果】
酸化安定性が低い活性メチレンを有する二重結合、または末端の二重結合を有する有機物、特に高度不飽和脂肪酸を含有する組成物の酸化安定性を格段に向上させることができる。従来、制限されていた医薬品、化粧品、食品等に高度不飽和脂肪酸含有組成物の添加を容易にし、また、添加量を増加することができる。本発明で使用するゴマ抗酸化成分、アスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステル共に長い食経験のある物質なので、食品に利用する場合にも安全な抗酸化剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、実施例1の油脂の酸素吸収量を示した図である。
第2図は、実施例2の油脂の酸素吸収量を示した図である。
第3図は、実施例3の油脂の酸素吸収量を示した図である。
第4図は、実施例4の油脂の酸素吸収量を示した図である。
第5図は、実施例5の油脂の酸素吸収量を示した図である。
第6図は、実施例6のゴマ粕抽出物1の電気化学検出器を用いた高速液体クロマトグラフのチャートである。
第7図は、実施例6のサンプルの酸素吸収量の推移を示した図である。
第8図は、実施例7のサンプルのマロンジアルデヒド濃度の推移を示した図である。
第9図は、実施例7のサンプルのアルケナール類濃度の推移を示した図である。
第10図は、実施例8のサンプル(セサモール0.5%)の酸素吸収量と抗酸化剤の残存量の推移を示した図である。
第11図は、実施例8のサンプル(セサモール1.0%)の酸素吸収量と抗酸化剤の残存量の推移を示した図である。
第12図は、実施例8の4日後にアスコルビン酸パルミテートを追加した場合のサンプルの酸素吸収量と抗酸化剤の残存量の推移を示した図である。
第13図は、実施例9のサンプルのPVの推移を示した図である。
第14図は、BHTおよび本発明の抗酸化処方の抗酸化効果の比較を示した図面である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明で対象にする二重結合を有する有機物とは、室温で保存していても自動的に酸化する酸化されやすい有機物である。例えば、活性メチレンを有する二重結合、または末端の二重結合を有する有機物であり、不飽和脂質、高分子原料(モノマー)等が例示される。不飽和脂質の中でも特に二重結合を4つ以上有する高度不飽和脂肪酸は非常に酸化しやすく、従来の抗酸化剤では十分に酸化を抑制対応できないものであった。
本発明で対象にする高度不飽和脂肪酸またはそのエステルは、高度不飽和脂肪酸、高度不飽和脂肪酸の低級アルキルのエステル、高度不飽和脂肪酸を構成成分として含有するトリグリセライド等である。具体的には、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸などを多く含有する魚油等の水産動物油や、それをエステル化したエイコサペンタエン酸エチルエステル、ドコサヘキサエン酸エチルエステル等が例示される。また、高度不飽和脂肪酸とは不飽和度3以上の脂肪酸を意味する。特に、不飽和度4以上の脂肪酸において効果が顕著である。不飽和度3以上の高度不飽和脂肪酸としては、α−リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸などが例示される。また、本発明の高度不飽和脂肪酸類は、それら脂肪酸のメチルエステル、エチルエステル、トリグリセライド、ジグリセライド、モノグリセライド等のエステル型誘導体を含む。
エイコサペンタエン酸は、炭素数20で二重結合5個をもつ不飽和脂肪酸の総称であるが、天然物としては二重結合の位置が5,8,11,14,17で、すべてシス形の直鎖5価不飽和n−3系脂肪酸を指す。ドコサヘキサエン酸は、4,7,10,13,16,19位にシス二重結合をもつ炭素数22の直鎖ヘキサエン酸である。これらの天然物由来のEPA、DHAは、天然油脂、特にマグロ、カツオ、サバ、イワシ、タラ等の水産物油脂中にそれ自体として、あるいはそのグリセライド等の誘導体として含まれている。
本発明は、上記不飽和度3以上の高度不飽和脂肪酸を含む油脂の原料であれば何でも使用できる。高度不飽和脂肪酸を含む油脂の原料とは、イワシ、サバ、サンマ、マグロ、カツオ等の海産魚、微生物由来の脂質、オキアミ、エビ等の甲殻類、魚油、動植物油、遺伝子組替え体植物油等を原料とすることができる。
上記不飽和度3以上の高度不飽和脂肪酸を含む油脂を、ウィンタリング処理、酵素処理等で高度不飽和脂肪酸を濃縮する事ができる。または、上記不飽和度3以上の高度不飽和脂肪酸を含む油脂を脂肪酸またはアルコールとのエステル体とし、蒸留処理、尿素付加処理、カラム処理、酵素処理、超臨界二酸化炭素処理等を行い、高度不飽和脂肪酸を濃縮する事ができる。
本発明の抗酸化剤はすでに酸化したものを還元するものではないので、抗酸化剤を添加する前に、二重結合を有する有機物としては酸化物が除去された状態のものを使用する必要がある。高度不飽和脂肪酸、その塩、またはそのエステルの場合は、脱ガム、脱酸、脱色、脱臭等の処理をして酸化物が除去された状態にする必要があり、精製の程度はPVが3.0meq/kg以下、AVが1.0以下であり、かつ、官能的に無臭であるものが好ましい。
本発明の抗酸化剤は、酸化したものを還元する作用はないので、添加される有機物はできるだけ酸化物を除去した精製度の高いものを使用するのが望ましい。酸化による臭いはわずかな酸化により発生するので、抗酸化剤を添加する前に十分精製したものを使用する必要がある。精製魚油の場合では、PV3.0meq/kg以下、AV1.0以下であり、かつ、官能的に無臭になるよう精製したものを使用するのが好ましい。
本発明の組成物に含有される対象の一つである不飽和脂肪酸を構成成分とする油脂の酸敗にはその加水分解によるものと、酸化によるものとがある。酸化に伴う風味の劣変は酸化によって生じたヒドロペルオキシドの分解生成物によるもので、たとえば大豆油の酸化からプロピオンアルデヒド、2−ペンテナール、カプロンアルデヒド、アセトアルデヒド、クロトンアルデヒドなどが得られている。魚油が不快臭を有するのはその中の高度不飽和脂肪酸の酸化によるもので、酸化によって特有ななまぐさいにおいを発する。不飽和脂肪酸を含有する魚油、大豆油、アマニ油、ナタネ油などの精製油においては、酸化のごく初期においても不快臭を生じたり、色の劣化が生じることがある。この現象はモドリと呼ばれている。脱色植物精製油の色相のモドリはビタミンEの酸化生成物、クロマン−5,6−キノンによるものといわれる。本発明は不飽和脂肪酸のこれらの酸化を抑制するものであり、酸化安定性の低い動物油において特に顕著な効果が認められる。
本発明の対象となる二重結合を有する有機物のその他の例として、二重結合を有する高分子が基材成分として用いられている、医薬品を含有するテープ剤やパップ剤、傷絆創膏等が例示される。したがって、本発明は、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体等のゴム系高分子に使用することができる。これらのゴム系高分子に通常使用される抗酸化剤と併用しても構わない。
本発明で用いるゴマの抗酸化成分としては、ゴマに含まれるフェノールタイプの各種抗酸化物質を使用することができる。具体的には、セサモール、セサミノール、エピセサミノール、ピルジノール、エピヒノレジノール、シリンガレジノール、サミン、セサモリノール、2,3−ジ(4’−ヒドロキシ3’−メトキシベンジル)−2−ブテン−4−オライド(2,3−di(4’−hydroxy−3’−methoxybenzyl)−2−buten−4−olide)等が例示される。第6図のHPLCのチャートのピークは電気化学検出器を用いて検出されたピークなのでそれぞれが抗酸化成分を表している。このようにゴマには多くの抗酸化成分が含まれている。セサモール等は単独で用いて十分な効果を示すが、これらを混合物として用いるとさらに強い抗酸化作用が認められる。これらのゴマの抗酸化成分は単独で用いても、いくつかを組み合わせて使用しても構わない。
したがって、本発明で用いるゴマの抗酸化成分はゴマより高度に精製したものでも、軽度に精製したセサモールをはじめとする抗酸化成分と共にゴマ由来物質、ゴマリグナン類、トコフェロール類等を含有した物でもかまわない。または、化学的に合成された物でも良い。さらには、ごま油そのままでも、ごま油特有の匂いがすることに問題がなければ、使用することができる。
具体的には、ゴマ種子、ゴマ油あるいはゴマ油を絞った後のゴマ脱脂粕から上記抗酸化成分を抽出することができる。ゴマ油の脱臭時に蒸留された成分であるスカムから得ることもできる。抗酸化成分が増加していることから、焙煎ゴマが好ましいが、焙煎していないゴマにも一定の抗酸化成分が含まれているので使用することができる。ゴマ種子から抽出する場合は、主成分である中性脂質を圧搾、もしくはヘキサン等の非極性溶媒で除去するのが好ましい。ゴマ油そのままでも使用できるが、中性脂質の絶対量が多く、抗酸化成分の割合が少なくなるため用途が制限される。
本発明のゴマの抽出物としては、第6図のHPLSのピークで示されるような抗酸化成分を抽出できる方法であれば、どのような溶媒、脂質、乳化剤によって抽出したものでも使用できる。具体的には、ゴマ、ゴマ油またはゴマ粕を亜酸化窒素、アセトン、エタノール、エチルメチルケトン、グリセリン、酢酸エチル、酢酸メチル、ジエチルエーテル、シクロヘキサン、ジクロロメタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,2−トリクルルエテン、二酸化炭素、1−ブタノール、2−ブタノール、ブタン、1−プロパノール、2−プロパノール、プロパン、プロピレングリコール、ヘキサン、メタノール等の有機溶媒やトリグリセライド、ジグリセライド、モノグリセライド、食用油脂等の脂質、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の乳化剤によって抽出して得ることができる。さらに、溶媒留去後、再度有機溶媒等に溶解し、水との分配により水溶性成分を除く、濾過により不溶性成分を除くなどの操作をすることにより抗酸化成分を濃縮することができる。
本発明において、抗酸化剤の添加量は、保存条件、保存期間により増減することができる。ゴマの抗酸化剤の添加量は、セサモールの場合、高度不飽和脂肪酸に対して0.5%以上添加すると効果がある。1%以上添加するのが好ましい。アスコルビン酸脂肪酸エステルの高度不飽和脂肪酸に対する可溶量は0.1%程度が限度であるが、過剰に添加することで抗酸化作用の持続性が高まるので目的に応じて、適宜増加することができる。例えば、精製魚油にセサモールを1.0%、アスコルビン酸パルミテートを0.1%添加した場合、常温で開放した条件でも2〜3ヶ月間の保存が可能である。
本発明で用いるアスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルは、アスコルビン酸、アスコルビン酸パルミチン酸エステル、アスコルビン酸ステアリン酸エステル等のアスコルビン酸脂肪酸エステルを用いる事ができる。これらの他、アスコルビン酸の塩等も使用することができるが、脂質に対する溶解性が高いものが好ましい。
本発明の抗酸化剤のうち、アスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルは可溶量よりも多い過剰量を用いることで、さらに抗酸化作用の持続性を高めることができる。油脂に抗酸化剤を添加するときは溶解していなければ意味がないと考えられることから、飽和濃度以上添加することはされていないが、実施例11〜12に示したように本発明の抗酸化剤ではアスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルを過剰量添加することにより、飽和濃度添加した場合より抗酸化作用を持続することを可能にした。ゴマの抗酸化成分の添加量は同じでアスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルのみを過剰量添加するだけで効果がある。過剰量のアスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルは粉末状でも固形のいずれでも有効である。自然拡散しにくい条件で使用する際には、微粉末状にして均一に分散させるのが好ましい。
本発明においてはゴマの抗酸化成分とアスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルに加えてトコフェロールを併用しても良い。トコフェロールはα、β、γ、δ−トコフェロール、あるいはmixトコフェロールのいずれでもよいが、δ−トコフェロールが好ましい。精製魚油をはじめとする高度不飽和脂肪酸またはその塩またはエステル等は製造の段階でトコフェロールを添加したものが多く市販されている。それらを原料とすればおのずとトコフェロールを含有することになる。トコフェロールの有無はゴマの抗酸化成分とアスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルの相乗効果に影響を与えない。
このゴマの抗酸化成分及びアスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルを添加することにより酸化安定性を向上させた油脂は単独でも十分に酸化安定性に優れているが、他の抗酸化剤を併用しても構わない。また、酸化安定性に優れた油脂(植物油脂等)と混合して使用することもできる。他の抗酸化剤としては、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、クエン酸イソプロピル、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等が挙げらる。食品に用いる場合に併用できる抗酸化剤としては、食品添加物に記載されているトコフェロール類、アオイ花抽出物、アズキ全草抽出物、アスペルギルステレウス抽出物、エチレンジアミン四酢酸カルシウム二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エラグ酸、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、エンジュ抽出物、γ−オリザノール、カテキン、カンゾウ油性抽出物、グアヤク脂、クエルセチン、クエン酸イソプロピル、クローブ抽出物、酵素処理イソクエルシトリン、酵素処理ルチン(抽出物)、酵素分解リンゴ抽出物、ゴマ油不けん化物、コメヌカ油抽出物、コメヌカ酵素分解物、L−システイン塩酸塩、ジブチルヒドロキシトルエン、食用カンナ抽出物、精油除去ウイキョウ抽出物、セイヨウワサビ抽出物、セサモリン、セージ抽出物、セリ抽出物、ソバ全草抽出物、単糖・アミノ酸複合物、チャ抽出物、テンペ抽出物、ドクダミ抽出物、ナタネ油抽出物、生コーヒー豆抽出物、ノルジヒドログアヤレチック酸、ヒマワリ種子抽出物、ピメンタ抽出物、フェルラ酸、ブチルヒドロキシアニソール、ブドウ種子抽出物、ブルーベリー葉抽出物、プロポリス抽出物、ヘゴ・イチョウ抽出物、ヘスペレチン、ペパー抽出物、ホウセンカ抽出物、没食子酸、没食子酸プロピル、メラロイカ精油、モリン、ヤマモモ抽出物、ユーカリ葉抽出物、リンドウ根抽出物、ルチン酵素分解物、ルチン(抽出物)、ローズマリー抽出物や、海外で使用が認められている、チオジプロピオン酸、チオジプロピオン酸ジステアリル、没食子酸オクチル、没食子酸ドデシル、第三ブチルヒドロキノン等が上げられる。
本発明の組成物は酸化安定性に優れているので、各種食品に添加することができる。例えば脱脂乳、牛乳カゼイン、牛乳タンパク質、乳糖、オリゴ等、ショ糖、デキストリンを温湯に溶解混合後、ビタミン・ミネラル類を溶解し水相とし、ここに本発明の油脂を添加し、ホモミキサー等にて混合し、ホモジナイザーで均質化する。得られた乳化液を常法により殺菌、濃縮、噴霧乾燥して調製粉乳が得られる。同様に各種粉末化基剤を用いて本発明の組成物を粉末油脂とすることもできる。食品に添加する場合は、食品の性質によって油脂のまま添加するか、粉末油脂として添加するかを決める。通常の食品に添加しても、健康食品、いわゆるサプリメントとしてカプセル、錠剤にしてもよい。
本願発明の詳細を実施例で説明する。本願発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
本実施例において、精製魚油、セサモール、アスコルビン酸パルミチン酸エステル、アスコルビン酸、δ−トコフェロールは以下のものを使用した。
精製魚油(δ−トコフェロール0.5重量%含有):日本水産株式会社製 DDオイルタイプ3(マグロ油を原料とし、脱ガム、脱酸、脱臭等の精製を行い、過酸化物価5meq/Kg以下、酸価1以下、色相ガードナー3以下まで精製を行った精製魚油)。
精製魚油(δ−トコフェロールを含有しない):日本水産株式会社製 DDオイルタイプ3の製造行程中、δ−トコフェロールを添加する前にサンプリングしたもの。
精製魚油(イワシ油):日本水産株式会社製 DDオイルタイプ2(イワシ油を原料とし、脱ガム、脱酸、脱臭等の精製を行い、過酸化物価5meq/Kg以下、酸価1以下、色相ガードナー3以下まで精製を行った精製魚油。EPA28重量%、DHA12重量%含有。δ−トコフェロール0.5重量%含有)。
セサモール:ナカライテスク株式会社製 セサモール(純度98%)
アスコルビン酸パルミテート:三共フーヅ株式会社製 アスコルビン酸パルミテート(純度95%以上)
アスコルビン酸:ナカライテスク株式会社製 L(+)−アスコルビン酸(純度99.5%)
δ−トコフェロール:和光純薬工業株式会社製 D−δ−トコフェロール(純度90%)
エイコサペンタエン酸エチルエステル:イワシ油を原料とし、金属ナトリウムを触媒としたエタノールとのエステル交換反応によりイワシ油エチルエステルとし、その後、精密蒸留、HPLCを用いて純度99%に精製した。
α−トコフェロール:和光純薬工業株式会社製 (±)−α−トコフェロール(純度98%)
【実施例1】
<セサモール+アスコルビン酸パルミチン酸エステル+δ−トコフェロールの効果の確認>
精製魚油(δ−トコフェロール0.5重量%含有)にそれぞれ以下の抗酸化剤を添加したサンプルを調製した。
・セサモール(1.0重量%)+アスコルビン酸パルミチン酸エステル(0.01重量%)
・セサモール(1.0重量%)のみ
・アスコルビン酸パルミチン酸エステル(0.01重量%)のみ
これらのサンプル3mLを30mL褐色瓶にいれセプタムにて密栓後、60℃にて保存を行い、2日後のヘッドスペースの酸素濃度をガスクロマトグラフィーにて測定し、油脂が吸収した(油脂と反応した)酸素量を算出した。結果を第1図に示した。精製魚油にセサモールとアスコルビン酸パルミチン酸エステルを併用することにより酸素の吸収量が抑制されており、セサモール、または、アスコルビン酸パルミチン酸エステルを単独で添加したものに比べて、精製魚油の酸化安定性を大きく向上させていることがわかる。
【実施例2】
<セサモール+アスコルビン酸+δ−トコフェロールの効果の確認>
精製魚油(δ−トコフェロール0.5重量%含有)にそれぞれ以下の抗酸化剤を添加したサンプルを調製した。
・セサモール(1.0重量%)+アスコルビン酸(0.01重量%)
・アスコルビン酸(0.01重量%)のみ
これらのサンプル4mLを30mL褐色びんにいれ、実施例1と同様の保存試験を行った。結果を第2図に示した。精製魚油にセサモールとアスコルビン酸を併用することにより酸素の吸収量が抑制されており、アスコルビン酸を単独で添加したものに比べて、精製魚油の酸化安定性を大きく向上させていることがわかる。
【実施例3】
<セサモール、アスコルビン酸パルミチン酸エステルの用量依存性>
精製魚油(δ−トコフェロール0.5重量%含有)に抗酸化剤としてδ−トコフェロール:セサモール:アスコルビン酸パルミチン酸エステルをそれぞれ以下の比率で添加したサンプルを調製した。
・0.5%:0.5%:0.05%
・0.5%:0.5%:0.1%
・0.5%:1.0%:0.05%
・0.5%:1.0%:0.1%
これらのサンプルについて実施例2と同様の保存試験を11日間行った。結果を第3図に示した。この結果から、精製魚油に添加するセサモール、アスコルビン酸パルミチン酸エステル量を増加する事によって酸素の吸収量が抑制されており、用量依存的に精製魚油の酸化安定性を向上させることがわかる。
【実施例4】
<セサモール+アスコルビン酸パルミチン酸エステルの効果の確認>
精製魚油(δ−トコフェロールを含有しない)に抗酸化剤としてセサモール(1.0重量%)+アスコルビン酸パルミチン酸エステル(0.01重量%)を添加し、サンプルを調製した。このサンプルについて実施例1と同様の保存試験を行った。結果を第4図に示した。トコフェロール無しでも、セサモールおよびアスコルビン酸パルミチン酸エステルの併用により酸素の吸収が抑制され、精製魚油の酸化安定性を大きく向上させることがわかる。
【実施例5】
<ゴマ油抽出物+アスコルビン酸パルミチン酸エステル(0.1重量%)+δ−トコフェロールの効果の確認>
濃口ゴマ油8.23gにメタノール100mlを添加し、激しく攪拌後、メタノール層からメタノールを留去し0.28gのメタノール抽出物を得た。このメタノール抽出物にはセサモールが含まれている事を、薄層クロマトグラフにて確認した(薄層;Merck社 Kiesolgel 60 F254 0.25mm、展開溶媒;ヘキサン:ジエチルエーテル:酢酸=70:30:1、発色試薬;1,1−Diphenyl−2−picrylhydrazyl,Free Radical)。
精製魚油(δ−トコフェロール0.5重量%含有)にそれぞれ以下の抗酸化剤を添加したサンプルを調製した。
・上記ゴマ油メタノール抽出物(2.0重量%)+アスコルビン酸パルミチン酸エステル(0.1重量%)
・上記ゴマ油メタノール抽出物(2.0重量%)のみ
・アスコルビン酸パルミチン酸エステル(0.1重量%)のみ
これらのサンプルについて実施例2と同様の保存試験を行った。結果を第5図に示した。ゴマ油メタノール抽出物もセサモール同様に単独で添加しても効果は無く、アスコルビン酸パルミチン酸エステルと併用することにより酸素の吸収量を抑制し、精製魚油の酸化安定性を向上させることがわかる。
【実施例6】
<焙煎ゴマ粕抽出物+アスコルビン酸パルミチン酸エステル+δ−トコフェロールの効果の確認>
(1)焙煎ゴマ粕抽出物1
焙煎ごま粕1.0kgに95%エタノール2.0kgを添加し40℃で2時間激しく攪拌し、その後、焙煎ごま粕を濾過して抽出液を得た。濾過した焙煎ごま粕に再度95%エタノール1.5kgを添加し40℃で1時間激しく攪拌、濾過し、抽出液を得た。得られた2回分の抽出液を濃縮後、酢酸エチル240g、水80gを加え45℃にて1時間激しく攪拌した。攪拌後、水層を除去し、酢酸エチル層にプロピレングリコールモノオレート40gを加え、酢酸エチルを留去し、焙煎ゴマ粕抽出物1を58g(プロピレングリコールモノオレート40gを含むので実質焙煎ゴマ粕抽出物は18g)得た。
(2)焙煎ゴマ粕抽出物2
焙煎ごま粕1.0kgに95%エタノール2.0kgを添加し40℃で2時間激しく攪拌し、その後、焙煎ごま粕を濾過して抽出液を得た。濾過した焙煎ごま粕に再度95%エタノール1.5kgを添加し40℃で1時間激しく攪拌、濾過し、抽出液を得た。得られた2回分の抽出液にプロピレングリコールモノオレート40gを加え、95%エタノールを留去し、焙煎ゴマ粕抽出物を50g(プロピレングリコールモノオレート40gを含むので実質焙煎ゴマ粕抽出物は10g)得た。
(3)焙煎ゴマ粕抽出物3
焙煎ごま粕200gに95%エタノール300mlを添加し40℃で2時間激しく攪拌し、その後、焙煎ごま粕を濾過して抽出液を得た。濾過した焙煎ごま粕に再度95%エタノール300mlを添加し40℃で2時間激しく攪拌、濾過し、抽出液を得た。得られた2回分の抽出液を濃縮後、酢酸エチル150ml、水50mlを加え室温にて1時間激しく攪拌した。攪拌後水層を除去し、さらに酢酸エチルを留去し、焙煎ゴマ粕抽出物を9.0g得た。
焙煎ゴマ粕抽出物1について電気化学検出器を用いた高速液体クロマトグラフを測定した。測定条件は以下のとおりである。チャートを第6図に示す。電気化学検出器のピークなので、すべてのピークが抗酸化作用を有するものである。セサモール、ピノレシノールをはじめとして数多くの抗酸化成分が含まれていることが示された。
測定条件
カラム:TSK−gel ODS−80Ts4.6×150mm
溶離液:
0−5min. メタノール:水(2%1M酢酸アンモニウム緩衝液,pH4.4含)=40:60
10−17min.メタノール:水(2%1M酢酸アンモニウム緩衝掖,pH4.4含)=70:30
22−40min.メタノール:水(2%1M酢酸アンモニウム緩衝液,pH4.4含)=100:0
流速:1.0mIL/min.
カラム温度:35℃
サンプル濃度:10−12mg/mL
サンプル溶解液:メタノール:エタノール:ヘキサン=5:4:1
注入量:10μL
電極1(還元電位):−1V
電極2(酸化電位):500mV
レンン:20μA
精製魚油(δ−トコフェロール0.5重量%含有)にそれぞれ以下の抗酸化剤を添加したサンプルを調製した。
・上記焙煎ゴマ粕抽出物1(1.0重量%)+アスコルビン酸パルミチン酸エステル(0.05重量%)
・上記焙煎ゴマ粕抽出物1(1.0重量%)+アスコルビン酸パルミチン酸エステル(0.1重量%)
・上記焙煎ゴマ粕抽出物1(1.0重量%)のみ
・アスコルビン酸パルミチン酸エステル(0.1重量%)のみ
・上記焙煎ゴマ粕抽出物2(1.0重量%)+アスコルビン酸パルミチン酸エステル(0.1重量%)
・上記焙煎ゴマ粕抽出物3(1.0重量%)、アスコルビン酸パルミチン酸エステル(0.1重量%)
これらのサンプルについて実施例2と同様の保存試験を行った。結果を第7図に示した。これら焙煎ゴマ粕抽出物もセサモール同様にアスコルビン酸パルミチン酸エステルと併用することにより酸素の吸収量を抑制し、精製魚油の酸化安定性を向上させることがわかる。
【実施例7】
<焙煎ゴマ粕抽出物+アスコルビン酸パルミチン酸エステル+δ−トコフェロールの効果の確認>
実施例6の焙煎ゴマ粕抽出物1(1.0重量%)+アスコルビン酸パルミチン酸エステル(0.1重量%)を添加したサンプル、および、焙煎ゴマ粕抽出物2(1.0重量%)+アスコルビン酸パルミチン酸エステル(0.1重量%)を添加したサンプルについて、各10mlを20ml褐色びんに入れ60℃にて開放保存を行い、保存中のマロンジアルデヒド、アルケナール類濃度の変化をSaftest,Inc.社のSafTestを用いて測定した。結果を第8図、第9図に示した。精製魚油に焙煎ゴマ粕抽出物およびアスコルビン酸パルミチン酸エステルを添加することにより、魚油の酸化分解物であり、さらに劣化魚油の臭気物質であるマロンジアルデヒド、アルケナール類の生成が高度に抑制されており、魚油が安定化されていることがわかる。
【実施例8】
実施例1のセサモールの代わりに焙煎ごま粕抽出物3からシリカゲルオープンカラム、ODS−HPLCにて得られたセサミノールを用いたところ、同様の効果を得た。
【実施例9】
実施例1のセサモールの代わりに焙煎ごま粕抽出物3からシリカゲルオープンカラム、ODS−HPLCにて得られたピノレジノールを用いたところ、同様の効果を得た。
【実施例10】
実施例1のセサモールの代わりに焙煎ごま粕抽出物3からシリカゲルオープンカラム、ODS−HPLCにて得られた2,3−ジ(4’−ヒドロキシ−3’−メトキシベンジル)−2−ブテン−4−オライドを用いたところ、同様の効果を得た。
【実施例11】
<過剰量のアスコルビン酸エステルの効果の確認>
精製魚油(δ−トコフェロール0.5重量%含有)にそれぞれ以下の抗酸化剤を添加したサンプルを調製した。
・セサモール(0.5%)+アスコルビン酸パルミテート(0.1%))
・セサモール(1.0%)+アスコルビン酸パルミテート(0.1%))
各サンプル4mLを30mL褐色びんに入れ、セプタムにて密栓後、60℃にて保存を行い、保存中の酸素濃度をガスクロマトグラフィーにて測定し、油脂と反応した(吸収した)酸素量を算出した。また、各抗酸化剤の残存量を電気化学検出器を用いたHPLCにて分析した。
それぞれの結果を第10図、第11図に示した。いずれの場合も、先ずアスコルビン酸パルミテートが消費(酸化)され、アスコルビン酸パルミテートが無くなると精製魚油、δ−トコフェロール、セサモールが同時に酸化し始めることが示された。したがって、抗酸化剤としてδ−トコフェロール+セサモール+アスコルビン酸パルミテートが存在している場合、アスコルビン酸パルミテートが残存している事が重要であると考えられた。このことを確認するために、第11図と同様の系において、4日目にアスコルビン酸パルミテートをさらに0.1%追加した場合の結果を第12図に示した。第11図ではアスコルビン酸パルミテートが無くなると油脂の酸化がはじまる(10日目あたり)が、同じ系で4日目にアスコルビン酸パルミテートを追加した第12図では油脂の酸化が10日目以降も抑制された。
これらの結果より、したがって、本発明の抗酸化の系においては、アスコルビン酸パルミテートが残存していることが重要であることが示された。
【実施例12】
<本発明のエイコサペンタエン酸エチルエステルに対する効果、および、過剰量のアスコルビン酸パルミテートの効果の確認>
純度99%のエイコサペンタエン酸エチルエステル(α−トコフェロール 0.2%含有)にそれぞれ以下の抗酸化剤を添加したサンプルを調製した。
・セサモール1.0%+アスコルビン酸パルミテート0.1%
・セサモール1.0%+アスコルビン酸パルミテート0.5%
これらのサンプルを60℃で保存し、過酸化物値(PV)を測定した。
結果を第13図に示した。溶解量のアスコルビン酸パルミテート(0.1%)を添加した場合に比べ、過剰量のアスコルビン酸パルミテート(0.5%)を添加した場合に抗酸化作用が持続した。
【実施例13】
<外用剤で一般的に用いられる抗酸化剤(t−ブチルヒドロキシトルエン(BHT))との比較>
一般的に用いられている抗酸化剤の1つであるt−ブチルヒドロキシトルエン(BHT)と本発明の抗酸化処方を比較した。精製魚油(イワシ油)(δ−トコフェロール0.5%含有)に対してBHT0.5%、1.5%、10.0%、またはセサモール1.0%、アスコルビン酸パルミテート0.5%を添加した。各サンプルの油脂4mLを30mL褐色びんに入れセプタムにて密栓後、37℃において保存し、経時的にヘッドスペースの酸素濃度をガスクロマトグラフィーにて測定し、油脂と反応した(吸収した)酸素量を算出した。
結果
BHTおよび本発明の抗酸化処方の抗酸化効果の比較を第14図に示した。本発明の抗酸化処方に含まれる抗酸化剤量の総和と同量(1.5%)のBHT添加サンプルより、また、圧倒的多量(10.0%)のBHT添加試料よりも本抗酸化処方の抗酸化効果が高いことが示された。
【産業上の利用可能性】
本発明により、従来の高度不飽和脂肪酸を含有する油脂より格段に酸化安定性にすぐれた油脂を提供することができる。それにより、健康目的で高度不飽和脂肪酸を食品、医薬品等に添加するに際し、容易に製造、保存することができ、また、添加する食品の種類、高度不飽和脂肪酸の添加量を増やすことができる。具体的には、EPA、DHAを含有する精製魚油を健康食品等に使用する場合において、汎用性の高い精製魚油を提供することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗酸化剤としてゴマの抗酸化成分およびアスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルを添加した、酸化安定性を有する、二重結合を有する有機物を含有する組成物。
【請求項2】
二重結合が、活性メチレンを有する二重結合、または末端の二重結合である請求項1の組成物。
【請求項3】
二重結合を有する有機物が高度不飽和脂肪酸、その塩、またはそのエステルである請求項1の組成物。
【請求項4】
高度不飽和脂肪酸がエイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸のいずれか1種以上を含有する脂肪酸である請求項3の組成物。
【請求項5】
高度不飽和脂肪酸のエステルが高度不飽和脂肪酸を構成成分として含有するトリグリセライドまたは高度不飽和脂肪酸の低級アルコールエステルである請求項3または4の組成物。
【請求項6】
高度不飽和脂肪酸のエステルが精製魚油として含有される請求項3または4の組成物。
【請求項7】
ゴマの抗酸化成分が電気化学検出器を用いた高速液体クロマトグラフで検出される、溶出時間が2.66,3.40,3.84,4.57,4.98,5.82,7.00,8.67,9.84,11.24,12.29,12.49,13.36,14.04,14.32,14.74,15.22,15.60,15.82,16.34,16.98,18.10,18.43,34.91分付近にピークを示す成分の少なくとも一つ以上を含むものである請求項1ないし6いずれかの組成物。
【請求項8】
ゴマの抗酸化成分がゴマ、ゴマ油またはゴマ粕の溶媒、脂質、または、乳化剤のいずれか単独または混合溶媒による抽出物である請求項1ないし6いずれかの組成物。
【請求項9】
ゴマの抗酸化成分が、セサモール、セサミノール、エピセサミノール、ピノレジノール、エピヒノレジノール、シリンガレジノール、サミン、セサモリノール、2,3−ジ(4’−ヒドロキシ3’−メトキシベンジル)−2−ブテン−4−オライド(2,3−di(4’−hydroxy−3’−methoxybenzyl)−2−buten−4−olide)から選ばれる少なくとも一つ以上を含有するものである請求項1ないし6いずれかの組成物。
【請求項10】
アスコルビン酸脂肪酸エステルがアスコルビン酸パルミテート、またはアスコルビン酸ステアレートのいずれか1種以上を含有するものである請求項1ないし9いずれかの組成物。
【請求項11】
アスコルビン酸またはアスコルビン酸脂肪酸エステルを高度不飽和脂肪酸、その塩、またはそのエステルに対する可溶量以上の過剰量を添加したものである請求項1ないし10いずれかの組成物。
【請求項12】
過剰量のアスコルビン酸を粉末または固形物として添加した請求項11の外用組成物。
【請求項13】
さらに、トコフェロールを添加することを特徴とする請求項1ないし12いずれかの組成物。
【請求項14】
請求項1ないし13いずれかの組成物を含有する食品。
【請求項15】
請求項1ないし13いずれかの組成物を含有する粉末油脂。
【請求項16】
請求項1ないし13いずれかの組成物を含有する乳児用粉乳。
【請求項17】
請求項1ないし13いずれかの組成物を含有する健康食品。

【国際公開番号】WO2004/048496
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【発行日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−554998(P2004−554998)
【国際出願番号】PCT/JP2003/014877
【国際出願日】平成15年11月21日(2003.11.21)
【出願人】(000004189)日本水産株式会社 (119)
【Fターム(参考)】