説明

酸化物層でポリマー膜をコーティングするための方法および装置

ポリマー膜(1)のウェブは、回転可能なドラム(12)の助けを借りて、複数の炎帯状域を通して搬送されることにより、酸化物層、特にSiOXバリア層でコーティングされる。当該複数の炎帯状域は、ドラムの円周面に対して上方から半径方向に方向付けられており、この円周面上で支持および搬送されているウェブの幅全体にわたり、互いに対して或る距離を取って延在し、可燃性ガスと、酸化剤と、シリコン含有化合物とを含むガス混合物の供給を受ける。ここで、回転可能なドラムの円周面は、予め定められた温度まで冷却され、ウェブは、内炎領域の先端の区域を通って搬送される。上記の態様で生成された、バリア層を有するポリマー膜は、10nm未満の薄い層厚においても、極めて良好なバリア特性を有する。加えて、周辺圧力で実施される当該処理を、極めて簡素な設備で実施することができ、必要であれば、連続するロール間処理またはインライン処理で実施することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パッケージング技術の分野に位置付けられる。この発明は、対応する独立クレームのプリアンブルに従った方法および装置に関する。方法および装置は、酸化物層、特に、シリコン酸化物(SiOX)のバリア層でポリマー膜をコーティングする役割を果たす。
【背景技術】
【0002】
たとえばPET(ポリエチレンテレフタラート)、PA(ポリアミド)、PP(ポリプロピレン)、またはPE(ポリエチレン)のポリマー膜材料またはポリマーシート材料は、そのバリア特性を高めるために、すなわち、そのガス透過性、特に、酸素、水蒸気、二酸化炭素、および芳香化合物に対する透過性を減じるために、シリコン酸化物の薄いバリア層でコーティングされる。ポリマー膜は通常、たとえば1から100μmの厚さを有し、ポリマーシートはこれよりも厚い。以下において、ポリマー膜という用語は、極めて薄い材料だけでなく、シート材料と通常称される、より厚い材料をも含むように使用される。
【0003】
バリア層は、SiOXの組成を有し、水素、炭素、および/または窒素も含有し得る。コーティングされたポリマー膜は、多数のパッケージング用途、たとえば、ポリマー膜が内張りを形成する、飲料用のボール紙の角型パッケージに有用である。バリア層の透明性により、バリア層を透明なパッケージング材料、たとえば、小物袋用またはトレーの蓋用のシート材料にも使用することができる。
【0004】
最新技術によると、SiOXバリア層は、上で簡潔に述べたように、たとえばPECVD処理(プラズマ増速化学気相堆積処理)において、ポリマー膜上に堆積される。ここで、回転ドラムにより通常支持されるポリマー膜のウェブ(web)は、減圧で維持されるプラズマにより搬送され、有機シリコン化合物(ヘキサメチルジシロキサンもしくはHMDSO等)か、または、シリコンを含有する無機化合物(SiCl4、SiH4等)を含有する処理ガス混合物が、プラズマに供給される。有機シリコン化合物の分解によりプラズマ内に生じる反応性シリコンベースの粒子は、ポリマー膜の露出表面上に堆積されてバリア層を形成する。特に、ロールで供給されているポリマー膜のウェブをコーティングするために、処理における減圧は、高コストの設備を必要とし、この処理は、1つのロールを交換するごとに中断されなければならない(非連続処理またはバッチロール間処理)。
【0005】
バリア層を生成するために周囲圧力で実施されるプラズマ増速堆積処理(DBD処理または誘電体バリア放電処理)もまた、最新技術に属する。このような周囲圧力処理を実施するための装置が、減圧処理に必要とされる装置よりもはるかに簡素であることは明らかであり、処理を中断せずにロールを交換することができる(連続したロール間処理)。しかしながら、長期に及ぶ開発作業でも、周囲圧力プラズマ処理におけるエネルギおよび処理ガスの消費量を容認可能なレベルまで減らすことができず、高いパワー密度が必要であることにより、一定の高品質を有するコーティングされたポリマー膜の大量生産が、不可能とは言わないまでも極めて難しくなる。
【0006】
シリコンまたはアルミニウム酸化物のバリア層を生成するための他の公知の処理は、やはり減圧で実施される蒸着および反応性蒸着であり、したがって、上記の減圧PECVD処理と同じ欠点を有する。
【0007】
基板表面を炎に晒すことにより、当該表面を処理することがさらに公知である。このよ
うな処理は、ポリマー基板、ガラス基板、または金属基板の印刷面、ラッカー塗装面、または糊付け面に使用されるような親水面または接着性促進面を基板に与えるために行なわれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明の目的は、酸化物層、特に、シリコン酸化物のバリア層でポリマー膜をコーティングするための方法および装置を生じることであり、ここで、当該方法により生成される、コーティングされたポリマー膜は、公知の減圧PECVD処理でコーティングされた同様のポリマー膜と少なくとも同じ、良好なバリア特性を有し得、また、当該方法は、減圧処理の欠点を有し得ない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
これらの目的は、独立クレームで規定される方法および装置によって達成される。
原則として、この発明に従う方法は、炎により誘発される燃焼化学気相堆積処理(CCVD処理)であり、ここで、ポリマー膜は、コーティングされるべき膜表面に向けて方向付けられている炎に晒される。この炎には、可燃性ガスと、酸化剤ガス(空気、空気および酸素の混合物、または酸素等)と、炎の中で分解して所望の層の形態で堆積され得る反応性粒子を生じ得る化合物とを含むガス混合物が供給される。SiOXバリア層を堆積するために、分解性化合物は、シリコンを含有する無機化合物または有機化合物である(ヘキサメチルジシロキサン、SiCl4、SiH4等)。上記の態様において炎の中で分解する化合物は、プラズマ内で同じ態様で分解する化合物と実質的に同一の化合物である。
【0010】
CCVD処理を設計するにあたり、以下の所見を考慮すべきである。第1に、極めて短時間を超過して、過度に高い温度に晒すと、膜材料に熱損傷を生じ、したがってバリア品質を下げる。第2に、コーティングのバリア品質は、ポリマー膜が晒される炎領域の温度の上昇に伴って上がる。この2つの理由から、ポリマー表面は、好ましくは、高温の炎および炎領域に晒されるが、晒す時間は短時間に保たれ、複数の連続するコーティングステップが、冷却ステップと交互に実施される。この冷却ステップにおいて、ポリマー膜は、コーティングされるべき表面と対向する表面から冷却される。さらに、バリア品質が良好になるにつれ、連続するコーティングステップ間において反応性がより高く保たれ得、かつ、堆積された表面の汚染がより少なく保たれ得、すなわち、連続するコーティングステップ間の冷却ステップがより短く、かつ、膜基板の表面温度がより高く保たれることがわかっている。
【0011】
したがって、良好なバリア品質を得るために、コーティングは、交互に行なわれる複数の短いコーティングステップおよび冷却ステップにおいて実施され、これらのステップにおいて、膜材料の温度を、当該膜材料が熱損傷を受けず、必要な取扱いにより変形せず、かつ、できる限り狭い温度域に位置付けられる温度域内に保つ。すなわち、冷却温度は、ポリマー膜材料の融解温度をかなり下回るように選択され得る。このことは、以下の措置により、有利にも達成され得る。
【0012】
・適切に高い炎の温度を得るために、ポリマー膜は、内(還元性)炎領域(最も高い炎温度の区域)の先端の区域において炎の中を通され、炎に供給するためのガス混合物は、たとえば、1/14から1/28の比率、好ましくは1/20から1/25の比率、より一層好ましくは1/22の比率の、プロパン/空気混合物である(他の可燃性ガスを使用する場合の混合比は、理論上の化学量論性混合物に関して計算され得る)。
【0013】
・コーティングされるべき膜表面を高温に保つために、冷却温度は、損傷を伴わない膜の取扱いを可能にする最高温度で選択され、冷却ステップは、できるだけ短く、すなわち
、ちょうど、コーティングステップからコーティングステップへの温度上昇を防ぐのに十分な長さであるように保たれる。固有の膜材料の各々については、対応する実験により、最適冷却温度を求めることができる。
【0014】
良好なバリア特性を有するSiOXバリア層を有する、厚さが12μmのPET膜をコーティングするために、処理パラメータが以下のように選択され得ることが実験により示される。
【0015】
・ガス混合物:1/22の比率におけるプロパンおよび空気。
・冷却温度:50から120℃、
・膜表面が晒される炎領域:内炎領域の先端のいずれかの側において約5mm以下(好ましくは、内炎領域の先端を超えて約5mm以下)、
・コーティングステップの長さ:20から300ms
・冷却ステップの長さ:0.2から5s、
・シリコン含有化合物の供給:炎を1回通過するごとに、約2から20nmのSiOXの堆積を生じる、
・通過の数:2から10。
【0016】
異なる膜材料の各々、また、異なる膜厚の各々に対し、対応する実験を行なうことによって最適な処理パラメータを見出さなければならないことは明らかである。
【0017】
この発明に従った方法の上記の実施形態において、同一のガス混合物がすべてのコーティングステップ(炎の通過)において使用される。しかしながら、これは、この発明に従った方法に対する条件ではなく、この方法は、連続するコーティングステップにおいて異なるガス混合物を用いて実施することもできる。このようにして、ナノメートル層の積層の形態、たとえば、交互に重ねたSiOXおよびAlOXのナノメートル層の積層の形態で、層を生じることが可能になる。
【0018】
SiOXのバリアコーティングを生じるために、分解されるべき化合物は、シリコン含有化合物、たとえば、10重量%未満の濃度でガス混合物内に存在する、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、SiCl4、またはSiH4である。
【0019】
この発明に従った方法を実施するための装置の主要素は、ポリマー膜を支持するため、ポリマー膜を冷却するため、および、炎を通してポリマー膜を搬送するために備え付けられた支持面と、炎を維持し、その炎をコーティングされるべき膜表面に方向付けるための複数の手段とであり、維持しかつ方向付けるための当該手段は、ガス混合物供給手段に接続される。
【0020】
ウェブの形態のポリマー膜に関し、炎を維持しかつ方向付けるための当該手段は、各々がノズル行列(二次元行列または行)を含み、このノズル行列は、ウェブの幅全体に一定の幅を有して延在する炎帯状域(flame band)を維持するように設計されている。支持面は、回転ドラムの円周面であり、炎帯状域を維持しかつ方向付けるための手段は、上方から半径方向に、この円周面に対向するように配置される。ノズル行列のノズルは、好ましくは小さく(直径が約1mm)、ノズル行列内のノズルとノズルとの間の距離は、途切れない内炎領域を有する炎帯状域を生じるのに十分なだけ小さい(個々の炎の内炎領域は、接するか、または重複する)。
【0021】
この装置はさらに、ガス混合物を生成するための計量手段と、好ましくは、排気ガスを除去するための排気手段と、ロール間処理については、コーティングされるべき膜のウェブを繰出すため、および、コーティングされた膜を巻上げるための手段とを含む。この装
置は、好ましくは、適切な筐体内に位置付けられ、この適切な筐体は、コーティング処理を中断することなく、供給側および移送側の膜のロールを交換するために開くことが可能である。
【0022】
コーティングされるべきポリマー膜がウェブではなく、たとえば別個の膜片である場合、炎を通してポリマー膜を搬送するのではなく、コーティングされるべき表面全体にわたり、炎または炎帯状域を搬送することが有利であると考えられ、ここでは、1つのみの炎または炎帯状域の使用で済ませることができ、当該炎または炎帯状域を二度以上、膜表面上を通過させることができる。
【0023】
上記の処理および装置を用いるCCVD処理においてポリマー膜上に生成されたバリア層が、減圧PECVD処理で生成された同様のバリア層(層の厚さが10から30nm)よりも薄い層の厚さ(10nm未満)であっても、極めて良好なバリア特性を示すことがわかった。
【0024】
この発明に従った方法の助けを借りて生成されたバリア層、または、コーティングされたポリマー膜はそれぞれ、最新技術に従って生成された同様の膜と同様に、食物または飲料用のパッケージにおける、ガスバリア(特に、酸素、窒素、二酸化炭素、水蒸気、または、アルコール、エチレン、および芳香化合物等の有機化合物に対するバリア)として適している。これらのバリア層は、透明無色であり、電子レンジの使用が可能であり、5から200nm、好ましくは5から20nmの厚さを有する。この発明に従った方法でコーティングされた、厚さが12μmのPET膜は、たとえば、1から3cm3/m2/日/原子の酸素透過率(OTR)を有する。少なくとも10nm/sの堆積速度が達成可能である。
【0025】
当業者は、上記の処理を、他の膜材料またはシート材料とともに使用するためだけでなく、たとえばアルミニウム酸化物、チタン酸化物、セリウム酸化物、他の希土類の酸化物、または混合酸化物の他の酸化物層を堆積するためにも適合させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
この発明に従った装置の方法および例示的な実施形態を、以下の図面に関連付けてより詳細に説明する。
【0027】
図1は、この発明に従った方法を示す。図1は、膜搬送の方向Fに平行な部分において、ポリマー膜1が支持面2上で支持されていることを示し、この支持面2は、適切な手段により、予め定められた温度(冷却温度)に保たれている。各々が複数のノズル5を有するノズル行列4.1、4.2、および4.3(各行列に付き1つのノズルが視認可能)から生じる炎3、特に、連続する炎帯状域3.1、3.2、および3.3は、ポリマー膜の幅全体に、たとえば、膜搬送の方向Fに対して垂直に延在する。ノズル5は、ノズル5にガス混合物(矢印S)を供給する供給手段に接続される。
【0028】
炎帯状域3.1、3.2、および3.3は、内炎領域6と外炎領域7とを含み、ここで、ノズル行列の個々のノズルから生じる個々の炎の内炎領域は、連続する内炎帯状域が膜1の幅全体に延在するように接するか、または重複し、個々の炎は、これらの連続する炎帯状域の外側端部において個々の小さな先端としてのみ視認可能である。各帯状域の内炎領域6を内包する外炎領域7は、(図1に示すように)隣接する炎帯状域の外炎領域7と集束することが考えられ、隣接する炎帯状域と炎帯状域との間に有利にも配置される排気手段に向けて(矢印E)連なり得る。
【0029】
炎帯状域は、図1に示すように、コーティングされるべきポリマー膜1に対して上方か
ら半径方向に方向付けられる。炎帯状域と炎帯状域との間に配置された積極的排気手段がない場合でさえも、消極的な排気は、矢印Eの方向に実質的に対応する方向を有し、このようにして、膜材料上および支持面2上にかかる熱負荷を減らす。
【0030】
積極的な排気は、コーティングステップとコーティングステップとの間における膜材料の冷却を不可能にすることが考えられる、炎近傍における所望しない熱の上昇を防止することができる。その一方で、積極的な排気が強力すぎると、炎の方向に対して所望しない強力な気流を生じ得、それにより、炎内で生じた活性粒子のかなりの部分が、コーティングされるべき膜表面から引離されてしまい、このことは、堆積速度を遅らせ、進捗の効率を下げる。上記の所望しない熱の上昇を防止し、それでもなお、容認可能な低レベルで積極的な排気を維持するために、交互に行なわれるコーティングステップと短い冷却ステップとのグループとグループとの間に、膜材料が周囲温度まで冷却される、1つの(または2つ以上の)より大きな冷却ステップを導入することが有利であると考えられる。このような処理を図3に示す。
【0031】
図1はまた、処理パラメータf(膜搬送の方向Fにおける炎帯状域の幅)、D(膜搬送の方向Fにおける炎帯状域と炎帯状域との間の距離)、およびd(内炎領域の先端とコーティングされるべき膜表面との間の距離)を示す。パラメータfおよびDを、膜の速度および支持面2の冷却能力に整合させて、コーティングステップおよび冷却ステップに対する所望の長さを生じ、それにより、膜材料の温度が上記の狭い温度域内に留まるようにする。上記のとおり、パラメータdは、好ましくは小さく(5mm未満)、好ましくは正である(コーティングされるべき表面が内炎領域の外側を通過する)が、負であってもよい(コーティングされるべき表面が、内炎領域の内側を通過する)。パラメータdは、ノズル5と支持面2との間の距離により、および、単位時間当たりに各ノズルを通って流れるガス混合物の量によって決まる。ここで、所定のノズル断面において、ノズル上方の内炎領域6の高さは、ノズルを通って流れるガス混合物の量にほぼ比例する。
【0032】
図2は、この発明に従った装置の第1の例示的な実施形態を極めて概略的に示す。この装置は、ポリマー膜1の擬似無端ウェブ上にバリア層を堆積するために備え付けられる。支持面2は、回転ドラム12の円周面である。ウェブ1は、供給ロール15から繰出され、回転ドラム12の上部の円周面2上で支持された状態で、炎帯状域(図示せず)を通過し、その後、製品ロール16上に巻かれる。ドラム12の円周面は、適切な態様で一定温度に保たれる。炎帯状域を生じるために、複数の(特に3つの)ノズル行列4.1、4.2、および4.3がドラム12の上方に配置される。これらのノズル行列は、ドラムの円周面(支持面2)から或る距離を取って、ドラム軸17に平行に延在する。これらのノズルは、円周面に向けて実質的に半径方向に上方から方向付けられており、ノズル行列は、それ自体公知の態様で、たとえば、供給マニホルドを介して、ガス供給器(矢印S)に接続される。
【0033】
図3は、この発明に従った装置のさらに別の例示的な実施形態を、同様に極めて概略的に示す。この装置は、図2に従った装置として、ロール間処理(ロールは図示せず)か、または、インライン処理に適する。インライン処理において、膜材料は、たとえば、当該膜材料が生成されかつ可能性として一方向に配向される装置(ブローイング装置または押出装置等)から当該装置に直接供給され(矢印S)、コーティングの後に移送されて(矢印R)、たとえば、当該膜材料が別のより厚い膜材料もしくはシート材料に貼り合わされるか、または2つのこのような材料間に貼り合わせられる装置に直接供給される。上記のインライン処理の利点は、コーティング処理から排気される熱が、コーティング装置の上流または下流のいずれかにある装置に供給され得る点である。
【0034】
図3に示す装置は、連続して配置される2つのドラム12および12′を含む。各ドラ
ム12および12′には、2つのノズル行列4.1および4.2と4.1′および4.2′とが備え付けられ、これらのノズル行列は、ドラムの上方に配置されて互いに間隔をあけて配置され、連続する2つのコーティングステップ間において短い冷却ステップを提供する。ここで、短い冷却ステップ中に、ウェブは、ドラムの円周面の温度に近い温度まで冷却される。2つのドラム12と12′との間の距離により、さらに上で述べたように、より長い冷却ステップが提供され、このより長い冷却ステップにおいて、ウェブは、周囲温度に近い温度まで冷却される。
【0035】
ドラム12および12′の両方には、さらに、1対のノズル行列の上流においてドラムの円周面に押圧されるように配置される加圧ローラ20および20′と、ノズル行列の下流においてドラムの円周面から離して配置される出口ローラ21および21′とが備え付けられる。圧力ローラは、ドラムの円周面とウェブとの間の空気を除去する役割を果たす。この空気は断熱材として作用するため、完全に除去されなければ、ウェブ材料の過熱を招き、それによって損傷を生じる。出口ローラ21および21′は、ウェブを周囲温度に近い温度まで冷却することを助ける。
【0036】
圧力ローラおよび出口ローラは、図2に示す1ドラムの装置にも適用可能である。
第1のドラム12と第2のドラム12′との間か、または、第1のドラム12の出口ローラ21と第2のドラム12′の圧力ローラ20′との間にそれぞれ、引張りローラ22が弾性の態様で配置され、それにより、引張りローラ22が、ドラム間のウェブを予め定められた張力で保持する。さらに、引張りローラは、2つのドラム間のウェブ経路と、それによる、より長い冷却ステップの長さとが特定のコーティング処理に適合され得るように、変位可能な態様で配置され得る。図3は、引張りローラ22の2つの位置を示しており、長く延びた線は、より長時間における、より長い冷却ステップを示すためのものであり、断続線は、より短時間における、より長い冷却ステップを示すためのものである。
【0037】
図4は、ノズル側から見た、ノズル行列4の例示的な実施形態を示す。ノズル5は、5本の平行な線状に互い違いに配置されており、ポリマー膜の移動方向Fに対して実質的に垂直に延在する。ノズルの行は、少なくとも、ポリマー膜の幅(移動方向Fに対して垂直)の長さだけ存在する。ノズルは、たとえば、1mmの直径を有し、膜搬送の方向Fにおいて、ノズル行列の幅または炎帯状域の幅はそれぞれ、たとえば約10mmである。
【0038】
図5から図7は、さまざまな処理パラメータに対する、バリア品質(特に、1バールの圧力差において1日当たり1平方メートルのポリマー膜を透過する酸素を立方センチメートルの単位で表わしたOTR値または酸素透過率)を示す。データは、この発明に従った処理においてSiOXバリア層でコーティングされた、厚さが12μmのPET膜から取った。
【0039】
図5は、支持面の設定温度に対するOTR値を示す。PET膜は、5つの連続する炎帯状域を通過した。このグラフは、OTRが、支持面の温度が約120℃の最適温度まで上昇するのに伴って低下して、より高いバリア品質に至り、その後、支持面の温度がさらに上昇するのに伴って再び上昇することを示す。このことは、バリア品質に関して最良の結果を得るために、支持面の設定温度は、できる限り高い方がよいこと、また、それを超えるとポリマー膜が熱損傷を受ける限界から遠く離れない方がよいことを示す。
【0040】
図6は、mmの単位で表わした、連続する炎帯状域間の距離D(距離Dに関しては図1を参照)に対する、OTR値の依存性を示す。ここでもまた、選択された設定に対して約150mmである、バリア品質に関する最適値が存在する。最適値よりも低い値では、ポリマー膜が炎帯状域の通過と通過との間で十分に冷却されず、最適値よりも上においては、炎の通過と通過との間に経過する時間が長くなり過ぎて、コーティングされるべき表面
の非活性化および/または汚染を生じることが明らかであり、このことが、より低いバリア品質を招くことは明らかである。
【0041】
図7は、mmの単位で表した、コーティングされるべき表面と内炎領域の先端との間の正の距離d(距離dについては図1を参照)、すなわち、ポリマー膜が通過する炎区域の炎温度に対する、OTR値の依存性を示す。内炎領域の先端とコーティングされるべき表面との間の距離が増大するにつれ、すなわち、ポリマー膜が通過する炎区域における炎温度が低下するにつれ、バリア品質が下がる(OTR値が上昇する)ことが明らかである。
【0042】
図8は、この発明に従った方法で生成されたSiOXバリア層を有し、かつ、厚さが12μmのPETポリマー膜のOTR値と、最新技術に従った減圧PECVD処理において生成されたバリア層を有する同様のポリマー膜のOTR値との比較を示す。これらのOTR値は、nmの単位で表したバリア層の厚さに依存することが示され、ここで、この発明に従って生成された膜に対する値には、三角形で標識が付けられ、PECVDにより生成された膜の値には、円形で標識が付けられている。このグラフは、最新技術に従ってコーティングされたポリマー膜と比較して、少なくとも10nm未満の範囲のバリア厚さに関し、この発明に従ったコーティング方法が、より薄い層厚でも同様のバリア品質を達成し得ることを明確に示している。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】この発明に従った方法の原理を示す図であり、この方法が、ポリマー膜上にSiOX(または他の酸化物層)のバリア層を堆積する役割を果たすことを示す図である。
【図2】この発明に従った装置の例示的な実施形態を極めて概略的に示す図であり、この実施形態が、ロール間処理においてポリマー膜の擬似無端ウェブをコーティングする役割を果たすことを示す図である。
【図3】この発明に従った装置のさらに別の例示的な実施形態を、同様に極めて概略的に示す図であり、この実施形態が、インライン処理またはロール間処理においてポリマー膜の擬似無端ウェブをコーティングする役割を果たすことを示す図である。
【図4】図2または図3に従った装置で使用されるノズル行列を示す図である。
【図5】さまざまな方法パラメータに依存する、この発明に従った方法でコーティングされかつ厚さが12μmのPETポリマー膜のバリア特性を示すグラフを示す図である。
【図6】さまざまな方法パラメータに依存する、この発明に従った方法でコーティングされかつ厚さが12μmのPETポリマー膜のバリア特性を示すグラフを示す図である。
【図7】さまざまな方法パラメータに依存する、この発明に従った方法でコーティングされかつ厚さが12μmのPETポリマー膜のバリア特性を示すグラフを示す図である。
【図8】減圧PECVD処理でコーティングされた同様のポリマー膜との比較における、この発明に従った方法でコーティングされかつ厚さが12μmのPETポリマー膜のバリア特性(OTR対バリア層の厚さ)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物層でポリマー膜(1)のウェブをコーティングするための方法であって、
ドラム(12)の上側の円周面上において、コーティングされるべき表面が前記ドラムの前記円周面から外側を向いた状態で前記ウェブを支持するステップと、
前記ドラム(12)を回転させることにより、複数の連続する炎帯状域(3.1,3.2,3.3)を通して、前記ドラムの前記円周面上で前記支持されたウェブを搬送するステップとを含み、前記炎帯状域は、前記ドラムの前記円周面に向けて上方から半径方向に方向付けられ、前記ウェブの幅全体に互いに対して或る距離を取って延在し、可燃性ガスと、酸化剤と、前記炎帯状域内で分解されて前記表面上に堆積されるべき反応性粒子を生じる化合物とを含むガス混合物の供給を受けることによって維持され、前記方法はさらに、
前記ドラムの前記円周面を予め定められた温度に保つことにより、コーティングされるべき前記表面と対向する膜表面を冷却するステップを含む、方法。
【請求項2】
前記連続する炎帯状域(3.1,3.2,3.3)を通して前記ウェブを搬送する際に、コーティングされるべき膜表面が内炎領域(6)の先端の区域内に位置付けられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
コーティングされるべき前記膜表面は、内炎領域(6)の外側に、前記内炎領域(6)の前記先端から5mm以下の距離を取って位置付けられる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ドラム(12)の前記円周面に対して前記ウェブを押圧することにより、前記ウェブと前記円周面との間から空気が除去される、請求項1から3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記ガス混合物は、前記連続する炎帯状域間において上方に排気される、請求項1から4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記ウェブは、連続して配置された2つのドラム(12および12′)により支持され、複数の連続する炎帯状域を通して各ドラムの前記円周面により搬送される、請求項1から5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
前記ガス混合物は、1/14から1/28の比率でプロパンおよび空気を含む、請求項1から6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
前記酸化物層は、シリコン酸化物、アルミニウム酸化物、チタン酸化物、セリウム酸化物、希土類の酸化物、または混合酸化物のバリア層である、請求項1から7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
前記酸化物層は、シリコン酸化物層であり、分解されるべき前記化合物は、ヘキサメチルジシロキサン、SiCl4、またはSiH4である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
連続する炎帯状域に少なくとも2つの異なるガス混合物が供給される、請求項1から9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
分解可能な化合物の量は、堆積される層の厚さが1回の通過につき少なくとも2nmとなるように、前記炎帯状域(3.1,3.2,3.3)を通る前記ポリマー膜(1)の速度に整合される、請求項1から10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
堆積される酸化物層の全体厚さは、5から200nmの範囲内にある、請求項1から11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
前記ポリマー膜(1)は、PET、PA、PP、またはPEを含み、1から100μmの範囲の厚さを有する、請求項1から12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
酸化物層でポリマー膜(1)のウェブをコーティングするための装置であって、
円周面を有する回転可能なドラム(12)を備え、前記円周面は、予め定められた温度に維持されるために、また、前記ドラム(12)の上部の周囲で前記ウェブを支持および搬送するために備え付けられ、前記装置はさらに、
前記ドラム(12)の前記円周面に向けて上方から半径方向に複数の連続する炎帯状域(3.1,3.2,3.3)を方向付けるための手段を備え、前記炎帯状域は、支持および搬送されている前記ウェブの幅全体にわたり、互いに或る距離を取って延在し、前記装置はさらに、
可燃性ガスと、酸化剤と、炎(3)内で分解されて、コーティングされるべき膜表面上に堆積されるべき反応性粒子を生じる化合物とを含むガス混合物を前記炎帯状域(3.1,3.2,3.3)に供給するための手段を備え、
前記ドラム(12)、方向付けるための前記手段、および供給するための前記手段は、前記ドラムの前記円周面上で支持および搬送されている前記ウェブが、前記炎帯状域(3.1,3.2,3.3)を、その内炎領域(6)の先端の区域内において通過するように、互いに整合される、装置。
【請求項15】
方向付けるための前記手段の上流の位置において、前記ドラム(12)の前記円周面に対して押圧される圧力ローラ(20)をさらに備える、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記ドラム(12)の下流に配置される出口ローラ(21)をさらに備える、請求項14または15のいずれか1つに記載の装置。
【請求項17】
前記炎帯状域(3.1,3.2,3.3)を方向付けるための前記手段は、ノズル行列(4.1,4.2,4.3)である、請求項14から16のいずれか1つに記載の装置。
【請求項18】
前記ドラム(12)と同じ態様で備え付けられたさらに別のドラム(12′)と、前記2つのドラム(12および12′)間で弾性の態様で配置された引張りローラ(22)とをさらに備える、請求項14から17のいずれか1つに記載の装置。
【請求項19】
前記引張りローラ(22)は、変位可能であるように配置される、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
供給ロール(15)からコーティングされるべき前記ポリマー膜(1)の前記ウェブを繰出すための手段と、前記コーティングされたウェブを製品ロール(16)上に巻くための手段とをさらに備える、請求項14から19のいずれか1つに記載の装置。
【請求項21】
インライン処理でポリマー膜のウェブをコーティングするための、請求項14から19のいずれか1つに記載の装置の使用。
【請求項22】
前記インライン処理は、コーティングの前に前記ウェブを生成するステップ、および/または、コーティングの後に前記ウェブを少なくとも1つのさらに別のウェブに貼り合わせるステップを含む、請求項21に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−515037(P2009−515037A)
【公表日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−538245(P2008−538245)
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際出願番号】PCT/CH2006/000617
【国際公開番号】WO2007/051340
【国際公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(505118763)テトゥラ・ラバル・ホールディングス・アンド・ファイナンス・ソシエテ・アノニム (5)
【氏名又は名称原語表記】TETRA LAVAL HOLDINGS & FINANCE S.A.
【Fターム(参考)】