説明

酸化物超電導体原料粉末の製造方法

【課題】酸化物超電導体を構成する元素を均一に存在させることができ、かつ量産可能な、酸化物超電導体原料粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】この発明に係る酸化物超電導体原料粉末の製造方法は、酸化物超電導体を構成する元素を含む溶液から、溶媒を除去して、固体粉末を生成する工程(S3)を備える。また、固体粉末を高温炉内に飛散させて、上記元素の酸化物を生成する工程(S4)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、酸化物超電導体原料粉末の製造方法に関し、特に、酸化物超電導体を構成する元素が均一に存在する、酸化物超電導体原料粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化物超電導体原料粉末の製造方法として、スプレードライ法(またはフリーズドライ法)、および、噴霧熱分解法が提案されている(たとえば特許文献1および特許文献2参照)。
【0003】
スプレードライ法(またはフリーズドライ法)とは、以下のような方法である。始めに、酸化物超電導体の構成元素が含まれた硝酸塩水溶液を、スプレードライヤー(またはフリーズドライ)で乾燥して、硝酸塩粉末を合成する。この段階では溶液中の水分が蒸発するのみで、化学変化は起こらない。次に、硝酸塩粉末を熱処理炉(バッチ炉または、ベルト搬送式の連続炉など)で熱処理して、酸化物粉末を合成する。その後、酸化物粉末を粉砕混合する。このようなスプレードライ法(またはフリーズドライ法)によれば、100℃程度の熱風で乾燥できるので、大量処理が可能であり、大量の酸化物超電導体原料粉末を製造することができる。
【0004】
また噴霧熱分解法とは、酸化物超電導体の構成元素が含まれた硝酸塩水溶液を、含まれている全ての硝酸塩の分解温度以上である高温の反応炉内に噴霧して、一気に酸化物超電導体原料粉末を合成する方法である。噴霧熱分解法によれば、硝酸塩水溶液から一瞬で酸化物超電導体原料粉末を合成するため、分離凝集のない微細・均一な酸化物超電導体原料粉末を製造することができる。
【特許文献1】特開2006−45055号公報
【特許文献2】特開2006−240980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のスプレードライ法およびフリーズドライ法では、硝酸塩粉末を熱処理して酸化物粉末を合成する工程において、含まれている元素によって硝酸塩の分解温度が異なるため、元素の分離・凝集が起こる。熱処理が終了した後に酸化物粉末を粉砕混合するが、粉砕混合後も均一性は悪い。そのため、酸化物超電導体の超電導特性の向上に限界があるという問題があった。
【0006】
また、従来の噴霧熱分解法では、酸化物超電導原料粉末を量産できないという問題がある。つまり、反応炉において水分の蒸発と硝酸塩の熱分解とを一瞬で行なう必要があるが、硝酸塩水溶液の噴霧量が多いと反応炉内の温度が低下するため、噴霧量を抑える必要がある。また、反応炉内で水蒸気が大量に発生するために、反応炉内に乱流が発生し、炉壁に合成された酸化物粉末が付着、堆積するために、長時間安定に運転することができない。このように、酸化物超電導原料粉末の製造量を増やすことが難しいために、酸化物超電導原料粉末の製造コストが高くなっていた。
【0007】
それゆえに、この発明の主たる目的は、酸化物超電導体を構成する元素を均一に存在させることができ、かつ量産可能な、酸化物超電導体原料粉末の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る酸化物超電導体原料粉末の製造方法は、酸化物超電導体を構成する元素を含む溶液から、溶媒を除去して、固体粉末を生成する工程を備える。また、固体粉末を高温炉内に飛散させて、上記元素の酸化物を生成する工程を備える。
【0009】
この場合は、酸化物超電導体を構成する元素を含む溶液中で、各元素の原子レベルの微細混合を行なう。そのため溶液から溶媒が除去された固体粉末は、原子レベルの微細混合された状態である。このような固体粉末を、高温炉内に飛散させることによって、一瞬で酸化物超電導体を構成する各元素の酸化物を合成するため、酸化物超電導体を構成する金属元素成分の分離凝集のない、微細・均一な酸化物超電導体原料粉末を製造することができる。熱処理終了後の酸化物粉末を粉砕混合する必要もない。
【0010】
上記の溶液は、硝酸水溶液とすることができる。硝酸を用いることによって、不動態を形成せず、酸化物超電導体を構成する元素を溶液中に完全に溶解することができる。またその場合、高温炉内の温度は、溶液に含まれている全ての硝酸塩の分解温度以上とすれば、酸化物超電導体を構成する元素の酸化物を高温炉内で合成することができる。前工程で水分を除去した固体粉末を高温炉内に飛散させて酸化物粉末を生成するので、高温炉内では水分蒸発により奪われる熱がなく、その分、処理量を上げても炉内の高温を維持することができる。高温炉内での水蒸気の大量発生がないため、炉壁への酸化物粉末の付着、堆積が起こりにくく、長時間安定条件で運転することができる。したがって、酸化物超電導体原料粉末を量産可能である。なお、ここで高温炉とは、溶液に含まれている全ての硝酸塩の分解温度以上の加熱温度を実現できる加熱炉を意味している。上述のように、高温炉の内部温度は全ての硝酸塩の分解温度以上の温度に設定されていることが好ましい。
【0011】
好ましくは、酸化物を生成する工程では、固体粉末をキャリアガスと混合して高温炉内に飛散させる。この場合は、固体粉末を混合させたガスを高温炉中に噴出させることによって、固体粉末は高温炉中に霧状に噴出されるので、容易に固体粉末を高温炉内に飛散させることができる。キャリアガスとしては、乾燥した大気ガスを用いることができる。
【0012】
また好ましくは、固体粉末を生成する工程では、スプレードライまたはフリーズドライによって、溶液から溶媒を除去する。この場合は、スプレードライまたはフリーズドライによって、大量かつ安価に固体粉末を生成することができる。また、酸化物超電導体を構成する元素の固体の塩を機械的に混合する方法では、各元素を原子レベルで混合することは困難であるが、溶液中で一旦各元素の原子レベルの微細混合を行ない、その溶液から溶媒を除去して固体粉末を生成することによって、原子レベルで混合された固体粉末を得ることができる。その結果、微細・均一な酸化物超電導体原料粉末を生成することができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明の酸化物超電導体原料粉末の製造方法によれば、酸化物超電導体を構成する元素を酸化物超電導体原料粉末中に均一に存在させることができる。また酸化物超電導体原料粉末を量産可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面に基づいてこの発明の実施の形態を説明する。図1は、この発明の酸化物超電導体原料粉末の製造方法を示す流れ図である。図2は、固体粉末を生成する乾燥炉の構成を示す模式図である。図3は、酸化物超電導体原料粉末を生成する高温炉その他の装置構成を示す模式図である。図1〜図3を参照して、酸化物超電導体原料粉末の製造方法を説明する。
【0015】
図1に示すように、まず工程(S1)において、酸化物超電導体原料粉末を構成する元素を含む材料を準備する。酸化物超電導体は、たとえば、温度110Kで超電導現象を示すビスマス系の酸化物や、温度90Kで超電導現象を示すイットリウム系の酸化物などである。ビスマス系超電導体(たとえばBi2223、Bi2212など)の場合、材料として、ビスマス、鉛、ストロンチウム、カルシウムおよび銅を含む材料を準備する。たとえばBi、PbO、SrCO、CaCO、CuOの各材料粉末を準備してもよい。たとえばBi、Pb、Sr、Ca、Cuの固体金属でもよい。またたとえば、Bi(NO、Pb(NO、Sr(NO、Ca(NO、Cu(NOまたはこれらの水和物を準備してもよい。これらの材料に含まれる炭素成分は、溶解時に二酸化炭素として材料から除去することが可能であるが、炭素成分がより少なければ少ないほどなお好ましい。
【0016】
次に工程(S2)において、前工程で準備した材料の溶液を作成する。溶媒としては、材料の不動態を形成せず各材料を完全に溶解することができ、理論上炭素成分をゼロにできる、硝酸が好ましい。ただし溶媒は硝酸に限られるものではなく、硫酸、塩酸などの他の無機酸を用いてもよい。シュウ酸、酢酸などの有機酸を用いてもよい。さらに、酸だけでなく、材料を溶解させることが可能な成分であれば、アルカリ溶液を用いてもよい。
【0017】
たとえば、(Bi、Pb):Sr:Ca:Cuの比率が2:2:2:3となる元素比率を持つように、工程(S1)で準備した材料を調整して、硝酸水溶液に溶解させ、溶液中でイオン化させる。このときの溶液の温度は特に制限されるものではなく、ビスマスなどを十分に溶解させることができる温度であればよい。さらに、十分な溶解度を得るために、攪拌翼などで攪拌をしてもよい。
【0018】
このように、各材料を溶液中で完全に溶解させることによって、酸化物超電導体原料粉末を構成する各元素(ビスマス、鉛、ストロンチウム、カルシウムおよび銅)は、溶液中で原子レベルの微細混合が行なわれる。
【0019】
次に工程(S3)において、酸化物超電導体原料粉末を構成する元素を含む材料の溶液から、溶媒を除去する。たとえば、図2に示すスプレードライヤー10によって、溶媒を除去し、固体粉末2を生成することができる。図2に示すように、スプレードライヤー10は、乾燥室11と、乾燥室11内に溶液を噴霧するノズル12と、溶液から溶媒が除去されて(すなわち乾燥して)生成した固体粉末2を集め蓄える容器13とによって、構成される。
【0020】
酸化物超電導体原料粉末を構成するビスマス、鉛、ストロンチウム、カルシウムおよび銅の硝酸塩水溶液などの溶液は、流路16を通ってノズル12に流入する。ノズル12には、たとえば二流体ノズルを用いることができ、溶液は噴霧ガスとともに乾燥室11内に噴射され、噴霧17を形成する。噴霧ガスとしては、加圧した乾燥空気を用いることができ、窒素ガスを用いてもよい。二流体ノズルを用いると、溶液を直径100μm以下の微細な液滴として、乾燥室11内に噴霧することができる。また、処理量が二流体ノズルと比較して低いという課題はあるものの、超音波式噴霧器を用いることもでき、この場合は、より微細な液滴を得ることができる。
【0021】
スプレードライヤー10では、酸化物超電導体原料粉末を構成する元素が原子レベルで微細混合されている硝酸塩水溶液を、各構成元素が分離することなく均一に分散している状態を維持しつつ、乾燥させる必要がある。そのため、乾燥処理が行なわれるとき、固体粉末2の温度が安定した複合硝酸塩結晶が得られる温度域である90℃超110℃未満に維持されるように、乾燥室11の温度が制御される。固体粉末2の温度が90℃以下または110℃以上になると、構成元素のうち一部の硝酸塩が分解または融解して、凝集分離が起こる可能性が高くなるためである。
【0022】
乾燥室11内の温度は、200℃以上300℃以下となるように制御することができる。たとえば、矢印14に示すように熱風が乾燥室11内に給気され、乾燥室11内に噴霧された溶液(すなわち、噴霧17)に蒸発熱分の熱エネルギーを奪われた後の温風は、矢印15に示すように排気されることによって、乾燥室11内の温度を保つことができる。
【0023】
溶液が硝酸塩水溶液である場合、固体粉末2は、酸化物超電導体原料粉末を構成するビスマス、鉛、ストロンチウム、カルシウムおよび銅の硝酸塩粉末である。溶液中に溶解した時点で、酸化物超電導体原料粉末を構成する元素は、原子レベルで微細混合されている。スプレードライによって溶液から溶媒を除去することによって、各元素は凝集分離することなく、固体粉末2中で均一に分散している状態が維持される。つまり、原子レベルで微細混合された硝酸塩粉末を生成することができる。従来の、単純に各元素の固体の硝酸塩を機械的に混合させる方法では、原子レベルの混合は不可能であった。
【0024】
なお、溶液から溶媒を除去する方法は、図2に示すスプレードライヤ−10に限られるものではない。たとえばフリーズドライ装置を用いて、溶液をフリーズドライさせて固体粉末2を生成することができる。溶液から溶媒を除去して乾燥状態の固体粉末2を生成できる方法であって、スプレードライ、フリーズドライの他の方法があれば、それでもよい。
【0025】
次に、工程(S4)において、固体粉末2の熱処理を行なう。具体的には、固体粉末を高温炉内に飛散させることによって、酸化物超電導体を構成するビスマス、鉛、ストロンチウム、カルシウムおよび銅を酸化させ、酸化物粉末を生成する。たとえば、図3に示す装置を用いることができる。図3において、前工程(S3)で生成された硝酸塩粉末は、粉末定量フィーダ20内に充填されている。粉末定量フィーダ20は供給口21を備え、硝酸塩粉末は供給口21から一定の間隔ごとに定量ずつ、ホッパ22に落下する。
【0026】
ホッパ22は下部のはき出し口において、移送管23に連結している。移送管23の内部には、矢印24に示すように、キャリアガスとしての圧縮空気が供給されている。ホッパ22のはき出し口から移送管23内部へ落下した硝酸塩粉末は、圧縮空気と混合して移送管23の内部を移動し、高温炉30に取り付けられたノズル32へ到達する。
【0027】
高温炉30には、たとえば周囲に熱源31を備える電気炉などを用いることができる。高温炉30の高さhは、硝酸塩の熱分解を完全に起こさせるために必要な通過時間(たとえば1秒以上30秒以下)を確保できる高さとすることができ、たとえば高さhを2mとすることができる。また、高温炉30の内部の少なくとも一部(たとえば炉の高さ方向の300mm)は、たとえば600℃以上850℃以下などの、硝酸塩粉末に含まれる全ての硝酸塩の分解温度以上に維持することができる。高温炉30内は、酸化物超電導体を構成する各元素の酸化反応の起こりやすい雰囲気に保つことができ、たとえば低酸素雰囲気(たとえば、酸素濃度0体積%超21体積%以下)に保つことができる。
【0028】
ノズル32は、高温炉30の上部に取り付けられている。圧縮空気によってノズル32まで搬送された硝酸塩粉末は、ノズル32を通って、圧縮空気と混合して高温炉30内に飛散する。このとき圧縮空気が乾燥していれば(たとえば含有する水分濃度が1体積%以下)、高温炉30内の温度を低下させる影響が小さくなるため好ましい。高温炉30内に飛散した硝酸塩粉末は、高温炉30内が硝酸塩の分解温度以上に維持されているために、硝酸塩の熱分解反応、および熱分解後の金属酸化物同士の反応を瞬時に起こす。そして、酸化物超電導体を構成する各金属元素成分の酸化物が分離凝集せず微細・均一に分散した粉末である、酸化物粉末を生成する。
【0029】
高温炉30内に飛散するのは固体の硝酸塩粉末であって、既に水分が除去されているので、高温炉30内では水分蒸発により奪われる熱がない。また、高温炉30内での水蒸気の大量発生がないため、硝酸塩粉末が酸化して生成した酸化物粉末の炉壁への付着、堆積が起こりにくい。
【0030】
高温炉30の下部にはホッパ部34が形成されており、ホッパ部34の下部のはき出し口は、移送管35へ連結している。移送管35の内部には、矢印36に示す希釈・冷却用乾燥空気が供給されている。ホッパ部34のはき出し口から移送管35の内部へ落下した酸化物粉末は、希釈・冷却用乾燥空気によって熱を奪われ冷却されながら、移送管35の内部を移動し、粉末回収器40の内部へ到達する。
【0031】
希釈・冷却用乾燥空気は粉末回収器40から排出管44へ流れ、矢印45に示すように系外に排出される。酸化物粉末は、希釈・冷却用乾燥空気とともに粉末回収器40内を移動し、粉末回収器40の内部に設けられたフィルタ41によって捕捉される。そして酸化物粉末は、粉末回収器40の内部を落下し、粉末回収器40の下部に設置された回収容器42の内部に集め溜められる。
【0032】
このようにして、工程(S5)に示すように、粉末回収器40の回収容器42内に保持された酸化物粉末が回収され、酸化物超電導体の前駆体である酸化物超電導体原料粉末1として、酸化物超電導線材などの酸化物超電導体の製造に使用される。なお前駆体とは、出発原料と着目する生成物との中間の状態にある一連の物質を指すが、一般には1つ前の段階の物質をいう。
【0033】
以上説明したように、酸化物超電導体の前駆体である酸化物超電導体原料粉末1の製造に際し、溶液中で一旦各元素の原子レベルの微細混合を行ない、その溶液から溶媒を除去して、原子レベルで混合された固体粉末を生成する。原子レベルで混合された固体粉末2を高温炉30内に飛散させることによって、一瞬で酸化物超電導体を構成する各元素の酸化物を合成する。そのため、酸化物超電導体を構成する金属元素成分の分離凝集のない、微細・均一な酸化物超電導体原料粉末1を製造することができる。
【0034】
また、固体粉末2を高温炉30内に飛散させて酸化物粉末を生成するので、高温炉30内では水分蒸発により奪われる熱がなく、その分、処理量を上げても炉内の高温を維持することができる。高温炉30内での水蒸気の大量発生がないため、炉壁への酸化物粉末の付着、堆積が起こりにくく、長時間安定条件で運転することができる。よって、酸化物超電導体原料粉末1を量産可能である。
【0035】
このようにして製造された酸化物超電導体原料粉末を、熱伝導率の高い銀や銀合金などの金属からなるシース内に封入して、機械加工および熱処理を行なうことによって、酸化物超電導線材を製造することができる。酸化物超電導線材は、たとえば超電導ケーブル、超電導変圧器、超電導限流器、超電導電力貯蔵装置などの超電導機器に、使用することができる。
【実施例】
【0036】
以下、この発明の実施例について説明する。この発明の酸化物超電導体原料粉末の製造方法によって試料を作製し、超電導特性を明らかにする実験を行なった。また従来のスプレードライ法、噴霧熱分解法によって、比較例としての試料を作製した。実験に用いた試料の具体的な製造方法を以下に説明する。
【0037】
スプレードライ法
Bi:Pb:Sr:Ca:Cuの比率が1.78:0.35:2.0:2.0:3.0、比重が1.4g/ccとなる硝酸塩水溶液を準備し、図2に示すスプレードライ装置で90から110℃の間で乾燥処理して硝酸塩粉末を合成した。この硝酸塩粉末を電気炉で、780℃、8時間の熱処理を施した。熱処理で凝集した成分を微細に分散するため粉砕・混合処理を行い、更に780℃、8時間の熱処理を行って酸化物超電導原料粉末を製造した。
【0038】
噴霧熱分解法
Bi:Pb:Sr:Ca:Cuの比率が1.78:0.35:2.0:2.0:3.0、比重が1.4g/ccとなる硝酸塩水溶液を準備し、噴霧熱分解装置で、最高温度820℃の雰囲気に直接噴霧して乾燥・脱硝酸処理して酸化物粉末を合成した。この酸化物粉末を電気炉で、780℃、8時間の熱処理を施して酸化物超電導原料粉末を製造した。
【0039】
本発明法
Bi:Pb:Sr:Ca:Cuの比率が1.78:0.35:2.0:2.0:3.0、比重が1.4g/ccとなる複合硝酸塩水溶液を準備し、スプレードライ法で90から110℃の間で乾燥処理して硝酸塩粉末を合成した。この硝酸塩粉末を図3に示す固体粉末加熱装置で、最高温度800℃の雰囲気に圧縮空気と混合して飛散させて、硝酸塩を分解して酸化物粉末とした。この酸化物粉末を780℃、4時間の熱処理を施して、酸化物粉末に付着した水分、硝酸分を除去して、酸化物超電導原料粉末を製造した。
【0040】
以上の3種類の方法で製造した酸化物超電導原料粉末を用いてパウダー・イン・チューブ法で、幅4mm、厚み0.22mm、銀比1.7、85芯の銀被覆多芯テープ線材を製造した。
【0041】
各試料について、温度が77Kの液体窒素中で自己磁場下での臨界電流値Icの測定を実施した。臨界電流は通電4端子法で測定し、1μV/cmの発生電界で定義した。その結果、臨界電流密度は、スプレードライ法により作製した試料では39kA/cm、噴霧熱分解法により作製した試料では57kA/cm、本発明の製造方法により作製した試料では58kA/cmであった。
【0042】
一方、各試料について、酸化物超電導体原料粉末の、1時間あたりの生成量について調査した。その結果、1時間当たりの生成量は、スプレードライ法により作製した試料では2kg/hr、噴霧熱分解法により作製した試料では0.3kg/hr、本発明の製造方法により作製した試料では2kg/hrであった。
【0043】
以上のように、本願発明の製造方法により作製した試料は、比較例であるスプレードライ法により作製した試料に対し、酸化物超電導体原料粉末の単位時間あたり生成量は同等であるが、臨界電流値は約1.5倍となり大きく増加している。また、噴霧熱分解法により作製した試料に対し、臨界電流値はほぼ同等であるが、酸化物超電導体原料粉末の単位時間あたり生成量は6倍以上となり大きく上回っていることがわかる。したがって、この発明の製造方法によって得られる酸化物超電導体はより優れた超電導特性を有しており、かつ、この発明の製造方法では酸化物超電導体原料粉末を量産可能であることが示された。
【0044】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】この発明の酸化物超電導体原料粉末の製造方法を示す流れ図である。
【図2】乾燥炉の構成を示す模式図である。
【図3】酸化物超電導体原料粉末の製造装置の、高温炉他の装置構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0046】
1 酸化物超電導体原料粉末、2 固体粉末、10 スプレードライヤー、11 乾燥室、12 ノズル、13 容器、14,15 矢印、16 流路、17 噴霧、20 粉末定量フィーダ、21 供給口、22 ホッパ、23 移送管、24 矢印、30 高温炉、31 熱源、32 ノズル、34 ホッパ部、35 移送管、36 矢印、40 粉末回収器、41 フィルタ、42 回収容器、44 排出管、45 矢印。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物超電導体を構成する元素を含む溶液から溶媒を除去して固体粉末を生成する工程と、
前記固体粉末を高温炉内に飛散させて、前記元素の酸化物を生成する工程とを備える、酸化物超電導体原料粉末の製造方法。
【請求項2】
前記酸化物を生成する工程では、前記固体粉末をキャリアガスと混合して前記高温炉内に飛散させる、請求項1に記載の酸化物超電導体原料粉末の製造方法。
【請求項3】
前記固体粉末を生成する工程では、スプレードライまたはフリーズドライによって、前記溶液から前記溶媒を除去する、請求項1または請求項2に記載の酸化物超電導体原料粉末の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−23860(P2009−23860A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−187075(P2007−187075)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】