説明

酸化的エステル化で生成するグリセリン酸エステルおよび/またはそれから得られるグリセリン酸類を重縮合して得られる重合物とその製法

【課題】グリセリンを原料にしたグリセリン酸アルカリ塩の製法は公知だが、このグリセリン酸類をさらにポリエステルとする方法には副生塩の問題があり工業的には実施容易でない。再生可能資源として有用なグリセリンを原料に用いて、簡便な方法で有用なポリエステル縮合物を製造の提供。
【解決手段】グリセリンと1級アルコールを原料とし、金属を担体に担持してなる触媒の存在下、酸素酸化(酸化的エステル化)によってグリセリン酸エステルを製造する方法、および、こうして得られたグリセリン酸エステルおよび/またはそれから得られるグリセリン酸類を重縮合して得られるポリエステル縮合物とその製法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリセリンと1級アルコールを原料とし、金属を担体に担持してなる触媒の存在下、酸素酸化(酸化的エステル化)によってグリセリン酸エステルを製造する方法、および、得られたグリセリン酸エステルおよび/またはそれから得られるグリセリン酸類を重縮合して得られるポリエステル縮合物とその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
金担持触媒存在下に分子状酸素存在下アルコールからカルボン酸エステルを製造する方法がすでに知られている(特許文献1)。また、金属超微粒子触媒存在下1,2−ジオールと1級アルコールを原料にして酸素酸化(酸化的エステル化)することを特徴とするα−ヒドロキシカルボン酸エステルの製造方法も知られている(特許文献2)。さらに、グリセリンからグリセリン酸類、特にアルカリ塩を製造する方法についても知られている(非特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開平2003−93876号公報明細書
【特許文献2】特開平2004−43385号公報明細書
【非特許文献1】Chem.Commun.2002年p.696−697
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、CO2排出量の低減や、石油資源の高騰、化石資源が将来的には枯渇することから、植物資源等循環可能な資源を用いた有用物の合成が重要課題となっている。グリセリンは植物油からディーゼルオイルや高級アルコールを製造する際の副生成物として得られる再生可能資源である。
【0005】
最近活発になりつつある植物油利用に伴って、余剰にグリセリンが生産され、グルセリンの多くは燃料として処理されており、その有用な利用方法や用途が強く求められている。特に、ポリマー用途への適用は大きな波及効果が見込まれるため有望である。しかしながら、これまで、グリセリンを化学的に変換して有用なモノマー、および、さらには有用なポリマーを製造する方法がほとんど提案されていない。
【0006】
また、上記の特許文献3はグリセリン酸類を製造する方法に関する出願で、特にグリセリン酸のアルカリ塩の製造法であるが、得られるグリセリン酸のアルカリ塩をポリマーとするにはいったん酸型に変換することが必要であり、工業的には、通常、経済性や副生塩などの問題があって容易なことではない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、グリセリンと1級アルコールを原料とし、金属を担体に担持してなる触媒の存在下、酸素酸化(酸化的エステル化)によってグリセリン酸エステルを製造する方法、および、得られたグリセリン酸エステルおよび/またはそれから得られるグリセリン酸類を重縮合して得られるポリエステル縮合物とその製法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
最近活発になりつつある植物油利用に伴って、副生する余剰グリセリンの有用な利用方法が強く求められる状況にあって、本願は、グリセリンを簡便な方法で化学的に変換して有用なモノマーおよびポリマーを製造する有効な利用方法を提案している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(1)グリセリン酸エステルの製造方法
本発明のグリセリン酸エステルの製造方法は、グリセリンと1級アルコールを原料とし、金属を担体に担持してなる触媒(以下「担持型金属触媒」ということがある)の存在下、反応温度30〜120℃、反応圧力0.1〜5MPaの条件下に、酸素酸化によってグリセリン酸エステルを製造する方法である。
【0010】
本発明に用いる触媒は、活性成分である金属が担体に担持された触媒、すなわち担持型金属触媒である。活性成分である金属は、特に制限されないが、好ましくは貴金属であり、例えば、金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、白金などを例示することができ、その中で、金、パラジウム、ルテニウム、白金がより好ましい。
【0011】
活性成分である金属は、担体に微粒子の状態で担持されていることが好ましい。金属の微粒子は、平均粒子径10nm以下が好ましく、6nm以下がさらに好ましく、5nm以下であることが特に好ましい。平均粒子径を6nm以下に規定することによって、より優れた触媒活性を達成することができる。平均粒子径の下限値は特に制限されないが、物理的安定性の見地より約1nm程度とすればよい。
【0012】
なお、金属微粒子の平均粒子径は、担体上の粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)による観察により任意に選んだ120個の粒子のうち1)大きい順に上から10個及び、2)小さい順に下から10個の合計20個を除いた100個の粒子径の算術平均値を示す。
【0013】
また、金属微粒子の粒子径分布の極大値が1〜6nm、特に1〜5nmの範囲にあることが好ましい。粒子径の分布は狭い方が好ましく、上記120個の粒子の粒子径の標準偏差(Standard Deviation)が2以下、特に1.5以下であることが好ましい。
【0014】
活性成分である金属の微粒子は、上に挙げた金属以外に、本発明の効果を妨げない範囲でその他の元素を1種以上含んでいてもよい。その他の元素としては、周期表(「化学分析便覧改訂5版」丸善(2001年))の第4周期から第6周期の1B族、2B族、3B族、4B族、5B族及び6B族ならびに8族の少なくとも1種を好適に用いることができる。
【0015】
具体的には、1B族としてCu、Ag、Au、2B族としてZn、Cd、Hg、3B族としてGa、In、Tl、4B族としてGe、Sn、Pb、5B族としてAs、Sb、Bi、6B族としてSe、Te、Po、8族としてFe、CO、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Ptが例示できる。これらの元素は、触媒性能としての活性や選択性を改善する場合がある。
【0016】
これら金属粒子を担持する担体としては、通常よく使用される市販担体等を使用することができ、特に限定されない。例えば、金属酸化物(ジリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、マグネシア等)、複合酸化物(シリカ・アルミナ、チタニア・シリカ、シリカ・マグネシア等)、ゼオライト(ZSM−5等)、メソポーラスシリケート(MCM−41等)、天然鉱物(粘土、珪藻土、軽石等)、炭素材料(活性炭、フラーレン、カーボンナノチューブ等)の各種担体を挙げることができる。
【0017】
本発明では、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、CO、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Sn、Pb、La及びCeの少なくとも1種の元素を含む酸化物からなる無機酸化物担体を好ましく用いることができる。
【0018】
上記酸化物は、単体元素の酸化物が2種以上混合された混合酸化物であってもよいし、あるいは複酸化物(又は複合酸化物)であってもよい。特に、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、CO、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Sn、Pb、La及びCeの少なくとも1種とSiとを含む無機酸化物担体を好ましく用いることができる。
【0019】
本発明触媒の比表面積(BET法)は通常10m2/g以上、特に50m2/g以上であることがより好ましく、100〜800m2/g程度のものが特に好ましい。比表面積が10m2/g未満では金微粒子を担持しにくく担持できても担持量が少ないか粒子径が大きくなり実用的には不適となり易い。触媒自体の形状・大きさは限定的でなく、最終製品の用途等に応じて適宜設定すればよい。
【0020】
本発明の触媒には、本発明の効果を妨げない限り、他の成分が含まれていてもよい。例えば、アルカリ金属(Na、Ka等)、アルカリ土類(Mg、Ca、Ba等)、希土類(La、Ce等)が含まれていてもよい。
【0021】
また、本発明の金含有液相反応用触媒のサイズは特に限定されないが、平均粒子径が1〜200μmの範囲にある事が好ましく、このことにより触媒の磨耗や破砕、また、金微粒子の反応液中への脱離や剥離などを抑制でき、しかも反応液からの触媒分離が容易に行える。
【0022】
本発明触媒の製造方法については、特に限定的でなく公知の方法を適用できる。公知の方法の内で特に、平均粒子径が1〜200μmの範囲にある担体に、金を含む金属微粒子を該担体上に担持する方法が実際的でありより好ましい。金を含む金属微粒子の担持方法も、例えば共沈法、析出沈殿法、含浸法、気相蒸着法等の公知の方法を利用できる。これらの方法の内で、共沈法、析出沈殿法等が好ましく、特に析出沈殿法が好ましい。
【0023】
本発明のグリセリン酸エステルの製造方法は、金属を担体に担持してなる触媒と酸素の存在下にグリセリンと1級アルコールを反応させる。上記1級アルコールは、1級水酸基を有する限り特に制限されない。
【0024】
具体例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、1−ヘキサノール、1−オクタノールなどの炭素数1〜10の脂肪族1級アルコール;1,2−エチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、グリセリンなどの1級水酸基を有する炭素数2〜10の脂肪族多価アルコール;アリルアルコール、メタリルアルコール等の1級水酸基を有する炭素数3〜10の脂肪族不飽和アルコール;ベンジルアルコール等の芳香環を有するアルコール等が挙げられる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノールなどの炭素数1〜4の脂肪族1級アルコールを好適に使用でき、メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノールなどの1価アルコールが特に好ましい。これらの1級アルコールは、1種または2種以上で用いることができる。
【0025】
グリセリンと1級アルコールとの反応割合は特に限定されないが、グリセリンに対する1級アルコールのモル比は、通常1:1〜50程度であり、1:2〜20程度がより好ましい。上記範囲内とすることにより、より効率的にグリセリン酸エステルを製造することが可能になる。
【0026】
本発明のグリセリン酸エステルを製造する反応は、液相反応、気相反応等のいずれであってもよい。酸素(酸素ガス)は、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、二酸化炭素ガス等の不活性ガスで希釈されていてもよい。また、空気等の酸素含有ガスを用いることもできる。酸素含有ガスの反応系への供給方法は特に限定されず、公知の方法を採用できる。特に、液中へのバブリング等を好適に用いることができる。
【0027】
上記反応形態としては、連続式、回分式、半回回分式等のいずれであってもよく、特に限定されるものではない。触媒は、反応形態として回分式を採用する場合には、反応装置に原料とともに一括して仕込めばよい。また、反応形態として連増式を採用する場合には、反応装置に予め上記触媒を充填しておくか、あるいは反応装置を原料とともに触媒を連続的に仕込めばよい。触媒は、固定床、流動床、懸濁床等のいずれの形態であってもよい。
【0028】
上記触媒の使用量は、原料であるグリセリン、1級アルコールの種類、触媒の種類、反応条件等に応じて適宜決定すればよい。反応時間は特に限定されるものではなく、設定した条件により異なるが、通常は反応時間または滞留時間(反応器内滞留液量/液供給量)として0.5〜20時間程度、好ましくは1〜10時間程度とすればよい。
【0029】
反応温度は、通常0〜180℃程度、好ましくは20〜150℃程度、より好ましくは30〜120℃程度、最も好ましくは40〜110℃とすればよい。反応圧力は、通常は0.01〜10MPa(ゲージ圧)程度、特に、0.1〜5MPa程度の範囲内が好適であり、最も好ましくは0.5〜4MPaである。
【0030】
上記反応は溶媒の存在下で実施することができる。溶媒を用いることにより、目的とするグリセリン酸エステルを効率よく製造できる場合がある。使用できる溶媒としては、原料であるグリセリンと1級アルコールを溶解し、反応条件かで自ら反応しにくいものであればよい。
【0031】
上記の反応後は、反応系から触媒を分離した後、生成したグリセリン酸エステルを公知の分離精製手段を用いて回収すればよい。触媒の分離方法は公知の方法に従えばよい。例えば、反応系が触媒(固形分)と反応生成物(液状成分)からなる場合は、ろ過、遠心分離、セトラー、沈降層等の公知の固液分離方法を用いて触媒と反応生成物を分離することができる。
【0032】
さらに、目的物であるグリセリン酸エステルを反応液から単離する方法として、まず1級アルコールと水を留去した後、グリセリン酸エステルを蒸留により分離する方法を容易に実施可能な方法として例示できる。グリセリン酸エステルを蒸留すると、未反応のグリセリンは蒸留ボトムに含まれる。このとき回収される1級アルコールおよび未反応グリセリンを含む蒸留ボトムは、グリセリン酸エステルの製造に再利用することができる。このようにして高純度に精製されたグリセリン酸エステルはポリエステル原料として有用である。
【0033】
(1)ポリエステル縮合物とその製造方法
本発明のポリエステル縮合物の製造方法は、上記のごとく、グリセリンと1級アルコールを原料とし、金属を担体に担持してなる触媒の存在下、酸素酸化によって得られたグリセリン酸エステルを利用して重宿合することによりポリエステル縮合物を製造する方法である。
【0034】
本発明のグリセリン酸エステルを利用して重宿合するポリエステルの製造方法は、グリセリン酸エステルを直接に重縮合してもよいし、グリセリン酸エステルを系中で加水分解しながら重縮合してもよく、また、グリセリン酸エステルを加水分解してグリセリン酸にしてから得られたグリセリン酸を重縮合してもよい。
【0035】
本発明において製造されるポリエステル縮合物は、ハロゲン含有量が10ppm以下であるポリエステル縮合物である。本発明におけるポリエステル縮合物は、ハロゲンを含む原料を使用せずに製造されるため、基本的にハロゲンを含まないポリエステル縮合物が製造される。
【0036】
本発明のポリエステル縮合物とは、その重平均分子量の下限値は1,000、好ましくは2,000、より好ましくは4,000であって、上限値は100,000、好ましくは80,000、より好ましくは50,000のものである。
【0037】
本発明のポリエステル縮合物の用途としては、一般的な成形材料や熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。また、エポキシ基やイソシアネート基、シラノール基などの反応性官能基を有する化合物を併用する事、あるいは、不飽和結合などの反応性基を有する化合物を共重合する事により熱硬化性を付与する事もできる。これらの例のいずれにおいても、本発明のポリエステル樹脂を単独で用いても良いし、他の樹脂とブレンドしても良い。
【0038】
本発明の方法で製造されるポリエステル縮合物は、グリセリン酸エステルのみを重縮合させたグリセリン酸が繰り返し単位となるホモポリマー、あるいは、グリセリン酸エステルと、その他の水酸基やカルボキシル基などのエステル結合を形成可能な官能基を有する少なくとも一種のモノマーとともに重縮合させたコポリマー(共重合物)のいずれかの構造を有する。
【0039】
その他の水酸基やカルボキシル基を有するモノマーとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどの炭素数2〜10のジオール類、ポリエーテルポリオール類などのグリコール系ジオール類;コハク酸、マレイン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン酸などの炭素数2〜10の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸類、またはこれらの無水物やそのエステル類;グリコール酸、D−、L−、又はD,L−乳酸、3−ヒドロキシ酪酸、p−ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸類、またはそのエステル類やその環状2量体やオリゴマー等の誘導体;を挙げることができる。
【0040】
本発明で使用するグリセリン酸エステルとしては、グリセリン酸メチル、グリセリン酸エチル、グリセリン酸2,3−ジヒドロキシプロピル等を挙げられる。この中でも特に脱アルコールが容易で、かつ蒸留等により高純度品を得ることができるグリセリン酸メチルが好ましい。
【0041】
本発明において、グリセリン酸エステルからポリエステル縮合物を製造するに際して、主に3種の製法を採用することができる。(1)グリセリン酸エステルをそのままエステル交換反応で重縮合する方法、(2)水を加えて加水分解しながら生成するグリセリン酸の脱水縮合により重縮合する方法、(3)グリセリン酸エステルを加水分解していったんグリセリン酸とし、その後重縮合する方法、の3種である。
【0042】
まず、(1)グリセリン酸エステルをそのままエステル交換反応で重縮合する方法においては、通常、触媒を使用し、触媒の存在下に生成するアルコールは系外に追い出しながら重縮合反応を行い、これにより高分子量化が達成される。触媒としては、公知の縮合触媒またはエステル交換触媒を用いる事ができる。通常公知の縮合触媒としては、錫、亜鉛、アンチモン、鉛、アルカリ金属、及びそれらの化合物が挙げられる。エステル交換触媒としては、錫、ジルコニウム、ハフニウム、亜鉛、マグネシウム及びそれらの化合物があり、例えば酸化第一錫、塩化第一錫、塩化第二錫、酢酸第一錫、酢酸第二錫、オクタン酸錫、2−エチルヘキサン酸錫、トリフルオロメタンスルホン酸錫、ジブチル錫オキシド、ジスタノキサン、酢酸亜鉛、アセチルアセトナート亜鉛、酢酸マグネシウム、四塩化ジルコニウム、ジルコニウムアセチルアセトナート、四塩化ハフニウム等が挙げられる。これら縮合触媒またはエステル交換触媒触媒の量としては、特に制限はないが、通常、下限値は、0.0001重量%、上限値は、2重量%である。反応の最初から添加することもできるが、反応の途中から添加してもよい。
【0043】
次に、(2)水を加えて加水分解しながら生成するグリセリン酸の脱水縮合により重縮合する方法においては、通常、無触媒または触媒の存在下に生成するアルコールを系外に追い出しながら重縮合反応を行い、これにより高分子量化が達成される。このましい触媒としては、有機酸および/または無機酸が例示できる。有機酸は、炭素,水素,酸素よりなる元素より構成された酸性化合物であり、有機スルホン酸,有機スルフィン酸、有機カルボン酸が代表的に例示される。具体的にはp−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ヒドロキシベンゼンスルホン酸等の有機スルホン酸類、アニス酸、安息香酸、ギ酸、吉草酸、クエン酸、グリオキシル酸、グリコ−ル酸、グリセリンリン酸、グルタル酸、クロロ酢酸、クロロプロピオン酸、ケイ皮酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、乳酸、ピルビン酸、フマル酸、プロピオン酸、3ーヒドロキシプロピオン酸、マロン酸、酪酸、イソ酪酸、イミジノ酢酸、リンゴ酸、イセチオン酸、シトラコン酸、アジピン酸、イタコン酸、クロトン酸、シュウ酸、サリチル酸、グルコン酸、没食子酸、ソルビン酸、グルコン酸、pーオキシ安息香酸等の有機カルボン酸類が例示でき、好ましくは、有機スルホン酸が挙げられ、特に好ましくは、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸である。また本発明で用いられる無機酸は、無機物と水素より構成された酸性化合物であり、無機物として燐酸、硫黄、塩素の少なくとも1種を含む周期律表第3周期の元素を含有する無機酸、更に好ましくは、周期律表第3周期の元素を含有する飽和無機酸である。具体的には、二リン酸、トリポリリン酸、リン酸、硫酸、塩酸等が例示できる。
【0044】
さらに、(3)グリセリン酸エステルを加水分解していったんグリセリン酸とし、その後重縮合する方法においては、グリセリン酸エステルを加水分解することでグリセリン酸をいったん製造して、得られたグリセリン酸を脱水縮合によりポリエステル縮合物を製造する方法である。この方法においては、通常、無触媒または触媒の存在下に生成するアルコールを系外に追い出しながら重縮合反応を行い、これにより高分子量化が達成される。このましい触媒としては、(2)と同様の触媒が挙げられる。
【0045】
上記(1)〜(3)のポリエステル縮合物の製法における反応条件として、重縮合の反応温度は、通常50〜280℃、好ましくは100〜250℃、より好ましくは120〜230℃の温度範囲である。反応温度が低すぎると反応速度が遅くなり、また、反応温度が高すぎると原料のグリセリン酸エステルが系外に留出したり着色が起るなどの問題が生じ易くなる。反応温度は反応初期の低温から段階的、または連続的に高温に上げていくことが好ましい。そうすることによりグリセリン酸エステルが系外に留出せず、着色もなく、収率よくポリエステル縮合物を得ることができる。
【0046】
本発明において、重縮合の進行に伴い、アルコールが生成する。生成するアルコールはできるだけすみやかに反応系外に追い出すことが望ましい。生成するアルコールを効率よく系外に留去するために、精留塔などを使用して原料の留出を抑えつつアルコールのみを留去する、また、窒素ガスなどの不活性ガスを用いて効率よくアルコールを留去する、また、減圧下に反応を行うことによりアルコール留去を促進させる、等々を実施することができる。減圧条件については、好ましくは50kPa以下、より好ましくは20kPa以下である。
【0047】
発明の製造方法によれば、グリセリン酸エステルを原料として、ポリエステル縮合物を短時間で効率よく得ることができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
(重量平均分子量)
重量平均分子量は、東ソー株式会社製HLC−8220GPCを用い、HFIP(ヘキサフルオロイソプロパノール、1mol%トリフルオロ酢酸ナトリウム溶液)を溶媒に、カラムにTSKgel GMHHR−H(S)を2本用いて、温度40℃、0.35mL/分の流量溶出時間を測定し、ポリメタクリル酸メチル標準物質を検量線として、重量平均分子量を計算した。
【0049】
(実施例1)
内容積15mlのハステロイC276製オートクレーブに20wt%グリセリンメタノール溶液4.4gを仕込み、ここにPt/C(Pt5%、Johnson Matthey社製)触媒0.1gを加えた。空気を3MPaの圧力で封入した後、電磁式攪拌器で攪拌を行いながら、50℃まで昇温し16時間反応を行った。その後冷却して反応液から触媒を濾別した後、内容物をガスクロマトグラフィーを用いて分析した。その結果、グリセリン酸メチルの収率は16.5mol%であった。
【0050】
(実施例2)
内容積15mlのハステロイC276製オートクレーブに20wt%グリセリンメタノール溶液4.3gを仕込み、ここにAu/La/SiO2(Au6%)触媒0.1gを加えた。 空気を3MPaの圧力で封入した後、電磁式攪拌器で攪拌を行いながら、70℃まで昇温し10時間反応を行った。その後冷却して反応液から触媒を濾別した後、内容物をガスクロマトグラフィーを用いて分析した。その結果、グリセリン酸メチルの収率は12.0mol%であった。
【0051】
(実施例3)
内容積15mlのハステロイC276製オートクレーブに20wt%グリセリンメタノール溶液4.3gを仕込み、ここにPb―Pd/Al/SiO2(Pd4%)触媒0.1gを加えた。 空気を3MPaの圧力で封入した後、電磁式攪拌器で攪拌を行いながら、94℃まで昇温し18時間反応を行った。その後冷却して反応液から触媒を濾別した後、内容物をガスクロマトグラフィーを用いて分析した。その結果、グリセリン酸メチルの収率は5.5mol%であった。
【0052】
(実施例4)
内容積15mlのハステロイC276製オートクレーブに20wt%グリセリンメタノール溶液4.3gを仕込み、ここにRu/ハイドロタルサイト(Ru18%)触媒0.1gを加えた。 空気を1MPaの圧力で封入した後、電磁式攪拌器で攪拌を行いながら、50℃まで昇温し18時間反応を行った。その後冷却して反応液から触媒を濾別した後、内容物をガスクロマトグラフィーを用いて分析した。その結果、グリセリン酸メチルの収率は1.2mol%であった。
【0053】
(実施例5)
上記酸化反応をスケールアップ実施し、反応混合物より蒸留により精製することで得られたグリセリン酸メチルを用いて重縮合を行った。得られたグリセリン酸メチル200.6g(1.67モル)と水60.0g(3.33モル)を300mlセパラブルフラスコに仕込み、110℃に加熱し、約65℃に保温したコンデンサーによってメタノールを除去した。3時間後、徐々に215℃まで昇温し、生成する水およびメタノールを系外へ除去した。215℃で1時間反応を継続すると重量平均分子量は4300であった。215℃を保ったまま1kPaに減圧し、さらに1時間反応を継続すると、うすい茶褐色で極めて粘度の高い液体が得られた。重量平均分子量は45,700であった。ハロゲン量を蛍光X線分析装置で測定した結果、10ppm以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本願によれば、再生可能資源として有用なグリセリンを原料に用いて、簡便な方法で生分解性を有する汎用性の高いポリエステル縮合物を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリンと1級アルコールを原料とし、金属を担体に担持してなる触媒の存在下、酸素酸化によって得られたグリセリン酸エステルを利用して重縮合することによりポリエステル縮合物を製造する方法。
【請求項2】
グリセリンと1級アルコールを原料とし、金属を担体に担持してなる触媒の存在下、酸素酸化によって得られたグリセリン酸エステルを加水分解しながら重縮合することによりポリエステル縮合物を製造する方法。
【請求項3】
(1)グリセリンと1級アルコールとを原料とし、金属を担体に担持してなる触媒の存在下、酸素酸化によりグリコール酸エステルを製造する工程、および、(2)上記工程(1)により得られたグリセリン酸エステルを利用して重縮合することによりポリエステルを製造する工程を有するポリエステル縮合物の製造方法。
【請求項4】
(1)グリセリンと1級アルコールとを原料とし、金属を担体に担持してなる触媒の存在下、酸素酸化によりグリコール酸エステルを製造する工程、(2)上記工程(1)より得られたグリセリン酸エステルを加水分解しながら重縮合することによりポリエステルを製造する工程を有するポリエステル縮合物の製造方法。
【請求項5】
グリセリンと1級アルコールを原料とし、金属を担体に担持してなる触媒の存在下、酸素酸化によって得られたグリセリン酸エステルを利用して重縮合することにより得られるハロゲン含有量が10ppm以下であるポリエステル縮合物。
【請求項6】
グリセリンと1級アルコールを原料とし、金属を担体に担持してなる触媒の存在下、反応温度30〜120℃、反応圧力0.1〜5MPaの条件下に、酸素酸化によってグリセリン酸エステルを製造する方法。
【請求項7】
金属が金、パラジウム、ルテニウム、白金のうちのいずれか1種を含み、金属が平均粒子径6nm以下の微粒子として担体に担持されていることを特徴とする請求項6記載のグリセリン酸エステルの製造方法。

【公開番号】特開2008−7533(P2008−7533A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−176162(P2006−176162)
【出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】