酸化的損傷を低減する方法
本発明は、その必要のある哺乳類、摘出臓器または細胞における酸化的障害の軽減方法を提供する。該方法は、有効量の芳香族カチオン性ペプチドを投与することを含む。該芳香族カチオン性ペプチドは、(a) 少なくとも1個の正味正電荷;(b) 最少で3個のアミノ酸;(c) 最大で約20個のアミノ酸;(d) 正味正電荷の最少数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)との間に、3pmがr+1以下の最大数であるという関係;(e) 芳香族基の最少数(a)と正味電荷の総数(pt)との間に、3aまたは2aがpt+1以下の最大数であるという関係(但し、aが1のときは、ptも1であり得る);および、(f) 少なくとも1個のチロシンまたはトリプトファンアミノ酸を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化的損傷を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミトコンドリアは酸化的リン酸化を介した主要なATP産生体として細胞の生存に必須である。しかし、ミトコンドリアの呼吸鎖は酸化的フリーラジカルの主たる供給源でもある。例えば、ラジカル生産はスーパーオキシドを形成するユビキノールのようなミトコンドリア電子担体と酸素との反応の結果として起こりえる。スーパーオキシドは不均化反応によって過酸化水素を生成し、これがヒドロキシルラジカルに分解し得る。更に、スーパーオキシドは一酸化窒素と反応して過酸化窒素および他の反応性酸化物を形成する。
加齢は反応性酸素種(ROS)生成の増加だけでなく内在性の抗酸化防御機構の低下とも関係している。ミトコンドリアは常にROSに曝露されているので特に酸化的ストレスに損傷を受けやすい。その結果、ミトコンドリア崩壊はしばしば加齢と関係している。
【0003】
ROSを含むフリーラジカルおよび反応性窒素種(RNS)は脂質、タンパク質、RNAおよびDNAを含む生体分子に種々の非特異的な損傷を与える。これらの分子のそのような損傷はアテローム性動脈硬化、子癇前症、アルツハイマー病、パーキンソン病および関節炎のような多くの臨床疾患に関係している。
抗酸化治療は加齢過程を遅らせることができるかもしれないし、上述した主要なヒト疾患および状態に有益かもしれない。しかしながら、in vivoで抗酸化分子をミトコンドリア送達するのが困難であるので具体的なミトコンドリア治療の開発は妨げられている。例えば、分子は初めに形質膜を通過して細胞質に取り込まれなければならず、次にミトコンドリアに選択的に向かわなければならない。
現在入手可能な抗酸化化合物のいずれもミトコンドリアを特異的に標的にすることができない。内在性の抗酸化因子、スーパーオキシドジスムターゼおよびカタラーゼは経口的にはあまり吸収されず、半減期が短く、血液−脳障壁を通過しない。天然の抗酸化物質(例えば、ビタミンE、コエンザイムQ、ポリフェノール)は水溶性でなく、細胞膜に蓄積する傾向があり、血液−脳障壁をゆっくりとしか通過できない。
従って、細胞膜を通過する抗酸化化合物による酸化的損傷を低減する改善された方法に対する需要がある。更に、抗酸化化合物が特異的にミトコンドリアを標的化するとしたら有益であろう。
【発明の開示】
【0004】
これらのおよび他の目的は哺乳動物において酸化的損傷を軽減する方法を提供する本発明によって達成される。本方法は、芳香族カチオン性ペプチドの有効量を哺乳動物に投与することを含む。前記芳香族カチオン性ペプチドは、(a)少なくとも1個の正味の正電荷を有し;(b)最小限3個のアミノ酸を有し;(c)最大約20個のアミノ酸を有し;(d)正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)との間に、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係を有し;(e)芳香族基の最小数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との間に、3aがpt+1以下の最大の数であるという関係を有し(ただし、aが1である場合は、ptも1であってよい);(f)少なくとも1個のチロシンまたはトリプトファンを含む。
【0005】
別の態様において、本発明は取り出した哺乳動物の器官における酸化的損傷を低減する方法を提供する。本方法は取り出した器官に芳香族カチオン性ペプチドの有効量を投与することを含む。前記芳香族カチオン性ペプチドは、a)少なくとも1個の正味の正電荷を有し;(b)最小限4個のアミノ酸を有し;(c)最大約20個のアミノ酸を有し;(d)正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)との間に、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係を有し;(e)芳香族基の最小数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との間に、2aがpt+1以下の最大の数であるという関係を有し(ただし、aが1である場合は、ptも1であってよい);(f)少なくとも1個のチロシンまたはトリプトファンを含む。
【0006】
更なる態様において、本発明は哺乳動物における酸化的損傷を低減する方法を提供する。前記方法は芳香族カチオン性ペプチドの有効量を哺乳動物に投与することを含む。前記芳香族カチオン性ペプチドは、(a)少なくとも1個の正味の正電荷を有し;(b)最小限3個のアミノ酸を有し;(c)最大約20個のアミノ酸を有し;(d)正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)との間に、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係を有し;(e)芳香族基の最小数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との間に、2aがpt+1以下の最大の数であるという関係を有し(ただし、aが1である場合は、ptも1であってよい);(f)少なくとも1個のチロシンまたはトリプトファンを含む。
【0007】
また更なる態様において、本発明は哺乳動物の取り出した器官における酸化的損傷を低減する方法を提供する。本方法は取り出した器官に芳香族カチオン性ペプチドの有効量を投与することを含む。前記芳香族カチオン性ペプチドは、(a)少なくとも1個の正味の正電荷を有し;(b)最小限3個のアミノ酸を有し;(c)最大約20個のアミノ酸を有し;(d)正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)との間に、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係を有し;(e)芳香族基の最小数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との間に、3aがpt+1以下の最大の数であるという関係を有し(ただし、aが1である場合は、ptも1であってよい);(f)少なくとも1個のチロシンまたはトリプトファンを含む。
【0008】
別の態様において、本発明は細胞における酸化的損傷を低減する方法を提供する。芳香族カチオン性ペプチドは以下の性質を有する:(a)少なくとも1個の正味の正電荷を有し;(b)最小限3個のアミノ酸を有し;(c)最大約20個のアミノ酸を有し;(d)正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)との間に、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係を有し;(e)芳香族基の最小数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との間に、3aがpt+1以下の最大の数であるという関係を有し(ただし、aが1である場合は、ptも1であってよい);(f)少なくとも1個のチロシンまたはトリプトファンを含む。
【0009】
さらなる態様において、本発明は細胞における酸化的損傷を低減する方法を提供する。芳香族カチオン性ペプチドは、(a)少なくとも1個の正味の正電荷を有し;(b)最小限3個のアミノ酸を有し;(c)最大約20個のアミノ酸を有し;(d)正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)との間に、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係を有し;(e)芳香族基の最小数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との間に、2aがpt+1以下の最大の数であるという関係を有し(ただし、aが1である場合は、ptも1であってよい);(f)少なくとも1個のチロシンまたはトリプトファンを含む。
【0010】
発明の詳細な説明
本発明はある種の芳香族カチオン性ペプチドが酸化的損傷を低減するという本発明者らによる驚くべき発見に基づいている。ROSおよびRNSのようなフリーラジカルは種々の非特異的損傷を脂質、タンパク質、RNAおよびDNAに与えるので酸化的損傷を低減することは重要である。フリーラジカルによって引き起こされる酸化的損傷は哺乳動物における種々の疾患および状態と関連している。
【0011】
ペプチド
本発明において有用な芳香族カチオン性ペプチドは水溶性で、かつ高度に極性である、これらの特性にもかかわらず、これらのペプチドは容易に細胞膜を通過する。
本発明において有用な芳香族カチオン性ペプチドはペプチド結合で接続された最小限3個のアミノ酸を有し、好ましくは最小限4個のアミノ酸を有する。
本発明の芳香族カチオン性ペプチド中に存在するアミノ酸の最大数はペプチド結合で接続した約20個のアミノ酸である。好ましくは、前記アミノ酸の最大数は約12、より好ましくは約9、最も好ましくは約6である。最適には、本ペプチド中に存在するアミノ酸の数は4である。
本発明において有用な芳香族カチオン性ペプチドのアミノ酸はいずれのアミノ酸であってもよい。本明細書において「アミノ酸」は少なくとも一つのアミノ基と少なくとも一つのカルボキシル基を有する一切の有機分子を言うために使用される。好ましくは、少なくとも一つのアミノ基はカルボキシル基に対してα位にある。
【0012】
前記アミノ酸は天然に存在するものでよい。天然に存在するアミノ酸には例えば通常哺乳動物のタンパク質中に見いだされる最も一般的な20種の左旋性(L)アミノ酸、すなわち、アラニン(Ala)、アルギニン(Arg)、アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、システイン(Cys)、グルタミン(Glu)、グルタミン酸(Glu)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、リジン(Lys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、およびバリン(Val)が含まれるが、これらに限定されない。
他の天然に存在するアミノ酸には、例えば、タンパク質合成とは関係しない代謝過程で合成されるアミノ酸が含まれる。例えば、アミノ酸オルニチンおよびシトルリンは尿素合成の際の哺乳動物の代謝において合成される。
【0013】
本発明において有用なペプチドは1以上の非天然アミノ酸を含み得る。この非天然アミノ酸はL-、右旋性(D)、またはそれらの混合物でもよい。最適には本ペプチドは天然に存在するアミノ酸を全く含まない。
非天然のアミノ酸は、典型的には生きた生物の通常の代謝過程において合成されず、タンパク質中に天然には存在しないアミノ酸である。更に、また本発明において有用な非天然のアミノ酸は一般的なプロテアーゼによっては認識されない。
非天然のアミノ酸は本ペプチドのいずれの位置にも存在し得る。例えば、非天然のアミノ酸はN-末端、C-末端またはN-末端とC-末端の間のいずれの位置にも存在し得る。
非天然のアミノ酸は、例えば、アルキル、アリール、またはアルキルアリール基を含んでもよい。アルキルアミノ酸の幾つかの例には、α-アミノ酪酸、β-アミノ酪酸、γ-アミノ酪酸、δ-アミノ吉草酸、およびε-アミノカプロン酸が含まれる。アリールアミノ酸の例にはオルト-、メタ-、およびパラ-アミノ安息香酸が含まれる。アルキルアリールアミノ酸のいくつかの例には、アミノフェニル酢酸、および、γ-フェニル-β-アミノ酪酸が含まれる。
【0014】
非天然アミノ酸には天然に存在するアミノ酸の誘導体も含まれる。天然に存在するアミノ酸の誘導体には、例えば、天然のアミノ酸に1以上の化学基を付加したものが含まれる。
例えば、フェニルアラニン若しくはチロシン残基の芳香環の2’、4’、5’または6’位、またはトリプトファン残基のベンゼン環の4’、5’、6’または7’位の1以上の位置に1以上の化学基を付加することができる。この基は芳香環に付加することのできるいずれの化学基でもよい。そのような基の例には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、またはt-ブチルのような分枝または非分枝C1-C4アルキル、C1-C4アリルオキシ(すなわちアルコキシ)、アミノ、C1-C4アルキルアミノおよびC1-C4ジアルキルアミノ(例えばメチルアミノ、ジメチルアミノ)、ニトロ、ヒドロキシル、ハロ(すなわち、フルオロ、クロロ、ブロモ、またはヨード)が含まれる。天然に存在するアミノ酸の非天然誘導体の具体的な例には、ノルバリン(Nva)、ノルロイシン(Nle)、およびヒドロキシプロリン(Hyp)が含まれる。
【0015】
本発明の方法において有用なペプチドの他の改変の別の例はペプチド中のアスパラギン酸またはグルタミン酸残基のカルボキシル基の誘導体化である。誘導体化の一つの例はアンモニアまたは一級若しくは二級アミン、例えば、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミンまたはジエチルアミンによるアミド化である。誘導体化の別の例にはエステル化、例えばメチル若しくはエチルアルコールによるエステル化が含まれる。
別のそのような改変にはリジン、アルギニン、またはヒスチジン残基のアミノ基の誘導体化が含まれる。例えば、そのようなアミノ基はアシル化することができる。いくつかの適切なアシル基には、例えばベンゾイル基、またはアセチルまたはプロピオニル基のような上述した任意のC1-C4アルキル基を含むアルカノイル基が含まれる。
【0016】
前記非天然アミノ酸は好ましくは一般的なプロテアーゼに抵抗性であり、より好ましくは非感受性である。プロテアーゼに抵抗性または非感受性の非天然アミノ酸の例には上述の天然に存在するいずれかのL-アミノ酸の右旋性(D-)型およびL-及び/又はD-非天然アミノ酸が含まれる。D-アミノ酸は通常タンパク質中には現れないが、細胞の通常のリボソームタンパク質合成機構以外の手段で合成されるある種のペプチド抗生物質中に見いだされる。本明細書において、D-アミノ酸は非天然アミノ酸であると考える。
プロテアーゼ感受性を最小限にするため、本発明の方法において有用なペプチドは、含まれるアミノ酸が天然に存在するか非天然性であるかに関わりなく、それらに含まれるアミノ酸は一般的なプロテアーゼによって認識される連続するL-アミノ酸が5個未満、好ましくは4個未満、より好ましくは3個未満、さらに好ましくは2個未満でなければならない。最適には、本ペプチドはD-アミノ酸のみを含み、L-アミノ酸を含まない。
【0017】
ペプチドがプロテアーゼ感受性のアミノ酸配列を含む場合、それらのアミノ酸の少なくとも一つは非天然D-アミノ酸であることが好ましく、それによってプロテアーゼ抵抗性が付与される。プロテアーゼ感受性配列の例には、エンドペプチダーゼおよびトリプシンのような一般的なプロテアーゼによって容易に切断される2以上の連続する塩基性アミノ酸が含まれる。塩基性アミノ酸の例にはアルギニン、リジン、およびヒスチジンが含まれる。
本芳香族カチオン性ペプチド中に存在するアミノ酸の少なくとも一つはチロシンまたはトリプトファン残基、またはそれらの誘導体であることが重要である。
また、本芳香族カチオン性ペプチドが生理的pHにおいてペプチド中のアミノ酸残基の総数に比較した正味の正電荷の最小数を有することも重要である。生理的pHにおけるこの正味の正電荷の最小数は以下ではpmと表される。ペプチド中のアミノ酸残基の総数は以下ではrと表される。
【0018】
以下で議論される正味の正電荷の最小数は生理的pHにおけるものである。本明細書において、用語「生理的pH」は哺乳動物の体の組織および器官の細胞中の正常なpHをいう。例えば、ヒトの生理的pHは通常およそ7.4であるが、哺乳動物の正常な生理的pHは約7.0〜約7.8のいずれでもあり得る。
本明細書において「正味の電荷」とはペプチド中のアミノ酸が保持する正電荷の数から負電荷の数を差し引いたたものである。本明細書において、正味の電荷は生理学的pHにおいて測定されることは言うまでもない。生理的pHにおいて正電荷を有する天然に存在するアミノ酸にはL-リジン、L-アルギニン、およびL-ヒスチジンが含まれる。生理的pHにおいて負電荷を有する天然に存在するアミノ酸にはL-アスパラギン酸およびL-グルタミン酸が含まれる。
典型的には、ペプチドはN-末端アミノ基に正電荷を有し、C-末端カルボキシル基に負電荷を有する。生理的pHにおいてはこれらの電荷は相殺し合う。正味の電荷を計算する例として、ペプチドTyr-Arg-Phe-Lys-Glu-His-Trp-Argは1個の負に荷電したアミノ酸(すなわちGlu)を有し、4個の正に荷電したアミノ酸(すなわち、2個のArg残基および1個のLys、1個のHis)。従って、上記ペプチドは3個の正味の正電荷を有する。
【0019】
本発明の一態様において、本芳香族カチオン性ペプチドは生理的pHにおける正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)との間に3pmがr+1以下の最大の数であるという関係を有する。この態様では、正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)との関係は以下の通りである。
【0020】
【0021】
別の態様において、本芳香族カチオン性プチドは生理的pHにおける正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)との間に2pmがr+1以下の最大の数であるという関係を有する。この態様では、正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)との関係は以下の通りである。
【0022】
ある態様において、正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)は等しい。他の態様において、本ペプチドは3個または4個のアミノ酸残基を有し、最小数1という正味の正電荷、好ましくは最小数2という正味の正電荷、より好ましくは最小数3という正味の正電荷を有する。
また、本芳香族カチオン性ペプチドが正味の正電荷の総数(pt)に比較した芳香族基の最小数を有することも重要である。芳香族基の最小数は以下ではaと称される。
芳香族基を有する天然のアミノ酸にはヒスチジン、トリプトファン、チロシンおよびフェニルアラニンが含まれる。例えば、ヘキサペプチドLys-Gln-Tyr-Arg-Phe-Trpは2個の正味の正電荷を有し(リジンおよびアルギニン残基による寄与)、3つの芳香族基(チロシン、フェニルアラニン、およびトリプトファン残基による寄与)を有する。
本発明の一態様において本発明の方法において有用な芳香族カチオン性ペプチドは芳香族基の最小数(a)と生理学的pHにおける正味の正電荷の総数(pt)との間に3aがpt+1以下の最大の数(ただし、ptが1である場合にはaも1であり得る)という関係を有する。この態様では、芳香族基の最小数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との間の関係は以下の通りである。
【0023】
【0024】
別の態様において、本芳香族カチオン性ペプチドは芳香族基の最小数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との間に、2aがpt+1以下の最大の数であるという関係を有する。この態様では、芳香族基の最小数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との間の関係は以下の通りである。
【0025】
【0026】
別な態様において、芳香族基の数(a)と正味の正電荷の総数(pt)は等しい。
カルボキシル基、特にC-末端アミノ酸のカルボキシル基は好ましくはアミド化され、例えばアンモニアによりアミド化されてC-末端アミドを形成している。あるいは、C-末端アミノ酸の末端カルボキシル基はいずれかの一級アミンまたは二級アミンによりアミド化されてもよい。前記一級アミンまたは二級アミンは、例えばアルキルアミン、特に分枝または非分枝C1-C4アルキルアミン若しくはアリールアミンであってよい。従って、本ペプチドのC-末端のアミノ酸はアミド、N-メチルアミド、N-エチルアミド、N,N-ジメチルアミド、N,N-ジエチルアミノ、N-メチル-N-エチルアミド、N-フェニルアミドまたはN-フェニル-N-エチルアミド基に変換されていてもよい。
本発明の芳香族カチオン性ペプチドのC-末端に現れないアスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸およびグルタミン酸残基の遊離のカルボキシル基も本ペプチド内のどこに存在しようとアミド化されてもよい。これらの内部位置におけるアミド化はアンモニアまたは上述のいずれの一級アミン若しくは二級アミンによってもよい。
【0027】
ある態様において、本発明の方法において有用な芳香族カチオン性ペプチドは2個の正味の正電荷と少なくとも1個の芳香族アミノ酸を有するトリペプチドである。特定の態様において、本発明の方法において有用な芳香族カチオン性ペプチドは2個の正味の正電荷と2個の芳香族アミノ酸を有するトリペプチドである。
本発明の方法において有用な芳香族カチオン性ペプチドには以下のペプチドの例が含まれるが、これらに限定されない:
【0028】
Lys-D-Arg-Tyr-NH2,
D-Tyr-Trp-Lys-NH2,
Trp-D-Lys-Tyr-Arg-NH2,
Tyr-His-D-Gly-Met,
Tyr-D-Arg-Phe-Lys-Glu-NH2,
Met-Tyr-D-Lys-Phe-Arg,
D-His-Glu-Lys-Tyr-D-Phe-Arg,
Lys-D-Gln-Tyr-Arg-D-Phe-Trp-NH2,
Phe-D-Arg-Lys-Trp-Tyr-D-Arg-His,
Gly-D-Phe-Lys-Tyr-His-D-Arg-Tyr-NH2,
Val-D-Lys-His-Tyr-D-Phe-Ser-Tyr-Arg-NH2,
Trp-Lys-Phe-D-Asp-Arg-Tyr-D-His-Lys,
Lys-Trp-D-Tyr-Arg-Asn-Phe-Tyr-D-His-NH2,
Thr-Gly-Tyr-Arg-D-His-Phe-Trp-D-His-Lys,
Asp-D-Trp-Lys-Tyr-D-His-Phe-Arg-D-Gly-Lys-NH2,
D-His-Lys-Tyr-D-Phe-Glu-D-Asp-D-His-D-Lys-Arg-Trp-NH2,
Ala-D-Phe-D-Arg-Tyr-Lys-D-Trp-His-D-Tyr-Gly-Phe,
Tyr-D-His-Phe- D-Arg-Asp-Lys-D-Arg-His-Trp-D-His-Phe,
Phe-Phe-D-Tyr-Arg-Glu-Asp-D-Lys-Arg-D-Arg-His-Phe-NH2,
Phe-Tyr-Lys-D-Arg-Trp-His-D-Lys-D-Lys-Glu-Arg-D-Tyr-Thr,
Tyr-Asp-D-Lys-Tyr-Phe-D-Lys-D-Arg-Phe-Pro-D-Tyr-His-Lys,
Glu-Arg-D-Lys-Tyr-D-Val-Phe-D-His-Trp-Arg-D-Gly-Tyr-Arg-D-Met-NH2,
Arg-D-Leu-D-Tyr-Phe-Lys-Glu-D-Lys-Arg-D-Trp-Lys-D-Phe-Tyr-D-Arg-Gly,
D-Glu-Asp-Lys-D-Arg-D-His-Phe-Phe-D-Val-Tyr-Arg-Tyr-D-Tyr-Arg-His-Phe-NH2,
Asp-Arg-D-Phe-Cys-Phe-D-Arg-D-Lys-Tyr-Arg-D-Tyr-Trp-D-His-Tyr-D-Phe-Lys-Phe,
His-Tyr-D-Arg-Trp-Lys-Phe-D-Asp-Ala-Arg-Cys-D-Tyr-His-Phe-D-Lys-Tyr-His-Ser-NH2,
Gly-Ala-Lys-Phe-D-Lys-Glu-Arg-Tyr-His-D-Arg-D-Arg-Asp-Tyr-Trp-D-His-Trp-His-D-Lys-Asp、および、
Thr-Tyr-Arg-D-Lys-Trp-Tyr-Glu-Asp-D-Lys-D-Arg-His-Phe-D-Tyr-Gly-Val-Ile-D-His-Arg-Tyr-Lys-NH2。
【0029】
一態様において、本発明の方法において有用なペプチドはμ-オピオイドレセプターアゴニスト活性(すなわちμ-オピオイドレセプターを活性化する)を有する。μ-オピオイドレセプターの活性化は典型的には鎮痛効果を導く。
ある例において、μ-オピオイドレセプター活性を有する芳香族カチオン性ペプチドが好ましい。例えば、急性疾患および状態におけるような短期治療の際にはμ-オピオイドレセプターを活性化する芳香族カチオン性ペプチドを使用することが有益であろう。例えば、前記急性疾患および状態は中程度の又は重篤な痛みを伴い得る。これらの例においては、前記芳香族カチオン性ペプチドの鎮痛効果は患者または他の哺乳動物の治療計画において有益であろうが、μ-オピオイドレセプターを活性化しない芳香族カチオン性ペプチドも臨床的必要性に応じて鎮痛剤と併用してまたは併用せずに使用することができる。
【0030】
あるいは、他の例においてはμ-オピオイドレセプター活性を有しない芳香族カチオン性ペプチドが好ましい。例えば、慢性疾患または状態の治療のような長期治療の際には、μ-オピオイドレセプターを活性化する芳香族カチオン性ペプチドを使用することは禁忌かもしれない。これらの例では、ヒト患者または他の哺乳動物の治療計画において、芳香族カチオン性ペプチドの潜在的に有害な作用または副作用はμ-オピオイドレセプターを活性化する芳香族カチオン性ペプチドの使用を妨げるかもしれない。
前記潜在的に有害な作用には、鎮静状態、便秘、神経系抑鬱および呼吸抑制が含まれる。このような場合、μ-オピオイドレセプターを活性化しない芳香族カチオン性ペプチドが適切な治療薬であろう。
【0031】
急性疾患には心臓発作、卒中および外傷性損傷が含まれる。外傷性損傷には脳損傷および脊髄損傷が含まれる。
慢性疾患または状態には肝動脈疾患および以下に記載したようななんらかの神経変性性疾患が含まれる。
μ-オピオイドレセプター活性を有する本発明の方法において有用なペプチドは典型的にはN-末端(すなわち1番目のアミノ酸位置)にチロシンまたはチロシン誘導体を含むペプチドである。好ましいチロシン誘導体には、2'-メチルチロシン(Mmt);2',6'-ジメチルチロシン(2'6'Dmt);3',5'-ジメチルチロシン(3'5'Dmt);N, 2',6'-トリメチルチロシン(Tmt);および2'-ヒドロキシ-6'-メチルチロシン(Hmt)が含まれる。
具体的な好ましい態様において、μ-オピオイドレセプター活性を有するペプチドは式Tyr-D-Arg-Phe-Lys-NH2を有する(簡便のため、頭文字をとってDALDAと表され、本明細書ではSS-01と称される)。DALDAはチロシン、アルギニンおよびリジンの寄与による3個の正味の正電荷を有し、フェニルアラニンおよびチロシンの寄与による2つの芳香族基を有する。DLADAのチロシンは2',6'-ジメチルチロシンのようなチロシンの改変誘導体であってもよく、それによって式2',6'-Dmt-D-Arg-Phe-Lys-NH2を有する化合物(すなわち、Dmt1、本明細書ではSS-02と称される)を形成してもよい。
【0032】
μ-オピオイドレセプター活性を有しないペプチドは一般にチロシン残基またはチロシンの誘導体をそのN-末端(すなわちアミノ酸位置1番)に有しない。N-末端のアミノ酸はいずれの天然に存在するまたは天然に存在しない、チロシン以外のアミノ酸でよい。
一態様においてN-末端のアミノ酸はフェニルアラニンまたはその誘導体である。好ましいフェニルアラニンの誘導体には、2'-メチルフェニルアラニン(Mmp)、2',6'-ジメチルフェニルアラニン(Dmp)、N,2',6'-トリメチルフェニルアラニン(Tmp)、および2'-ヒドロキシ-6'-メチルフェニルアラニン(Hmp)が含まれる。他の好ましい態様において、N-末端のアミノ酸残基はアルギニンである。そのようなペプチドの例は、D-Arg-2'6'Dmt-Lyt-Phe-NH2(本明細書ではSS-31と称される)である。
他のμ-オピオイドレセプター活性を有しないペプチドは式Phe-D-Arg-Dmt-Lys-NH2を有する。あるいは、N-末端フェニルアラニンは2',6'-ジメチルフェニルアラニン(2'6'Dmp)のようなフェニルアラニンの誘導体でもよい。アミノ酸位置1番に2',6'-ジメチルフェニルアラニンを含むDALDAは式2',6'-Dmp-D-Arg-Dmt-Lys-NH2を有する。
【0033】
好ましい態様において、Dmt1-DALDA(SS-02)のアミノ酸配列はDmtがN-末端でないように再配置される。そのようなμ-オピオイドレセプター活性を有しない芳香族カチオン性ペプチドの例は式D-Arg-2'6'Dmt-Lys-Phe-NH2(SS-31)を有する。
DALDA、SS-31およびそれらの誘導体はさらに機能的アナログを含むこともできる。ペプチドがDALAまたはSS-31と同じ機能を有するならば、そのペプチドはDALAまたはSS-31の機能的アナログと考えられる。前記アナログはまた、例えば、一以上のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたDALDAまたはSS-31の置換変種であってもよい。
DALDAまたはSS-31の適切な置換変種には保存的アミノ酸置換体が含まれる。アミノ酸はその物理化学的性質によって以下のようにグループ分けすることができる:
(a)非極性アミノ酸:Ala(A)Ser(S)Thr(T)Pro(P)Gly(G);
(b)酸性アミノ酸:Asn(N)Asp(D)Glu(E)Gln(Q);
(c)塩基性アミノ酸:His(H)Arg(R)Lys(K);
(d)疎水性アミノ酸:Met(M)Leu(L)Ile(I)Val(V);および
(e)芳香族アミノ酸:Phe(F)Tyr(Y)Trp(W)His(H)。
【0034】
同じグループの別のアミノ酸によるペプチド中のアミノ酸の置換は保存的置換と称され、元のペプチドの物理化学的性質が保存されるであろう。対照的に、異なるグループの別のアミノ酸によるペプチド中のアミノ酸の置換は一般には元のペプチドの性質を変える可能性がより高い。
本発明の実施において有用なμ-オピオイドレセプターを活性化するアナログには表1に示す芳香族カチオン性ペプチドが含まれるがこれらに限定されない。
【0035】
表1
Dab = ジアミノ酪酸
Dap = ジアミノプロピオン酸
Dmt = ジメチルチロシン
Mmt = 2'-メチルチロシン
Tmt = N,2',6'-トリメチルチロシン
Hmt = 2'-ヒドロキシ,6'-メチルチロシン
dnsDap = β-ダンシル-L-α,β-ジアミノプロピオン酸
atnDap = β-アントラニロイル-L-α,β-ジアミノプロピオン酸
Bio = ビオチン
【0036】
μ-オピオイドレセプターを活性化しない、本発明の実施において有用なアナログの例には以下の表2の芳香族カチオン性ペプチドが含まれるが、これらに限定されない。
【0037】
表2
【0038】
表1および表2に示したアミノ酸はL-型でもD-型でもよい。
【0039】
酸化的損傷を低減する方法
上述した方法は、酸化的損傷の低減を必要とする哺乳動物における酸化的損傷を低減するのに有用である。酸化的損傷の低減を必要とする哺乳動物は酸化的損傷と関連した疾患、状態にあるまたは治療を受けた哺乳動物である。典型的には前記酸化的損傷は反応性酸素種(ROS)および/または反応性窒素種(RNS)のようなフリーラジカルによって引き起こされる。ROSおよびRNSの例にはヒドロキシラジカル(HO・)、スーパーオキシドアニオンラジカル(O2・-)、一酸化窒素(NO・)、過酸化水素(H2O2)、次亜塩素酸(HOCl)および過酸化亜硝酸(ONOO-)が含まれる。
一態様において、前記哺乳動物は酸化的損傷を伴う治療を受けている哺乳動物である。例えば、前記哺乳動物は再灌流を受けている哺乳動物である。再灌流とは血流が減少または遮断されたいずれかの器官若しくは組織への血流の回復を言う。再灌流の際の血流の回復は呼吸バーストを生じさせフリーラジカル形成を生じさせる。
【0040】
血流の減少または遮断は低酸素症または虚血のためであり得る。低酸素症または虚血の際の血流供給の損失または重篤な低下は、例えば、血栓塞栓性卒中、冠動脈硬化症または末梢血管疾患のためであり得る。
種々の器官及び組織が虚血または低酸素症にかかる。そのような器官には脳、心臓、腎臓、腸、および前立腺が含まれる。影響を受ける組織は典型的には、心筋、骨格筋または平滑筋のような筋肉である。例えば、心筋虚血または低酸素症は一般に動脈硬化または血栓性閉塞によって起こり、心動脈および毛細管血流供給による心臓組織への酸素デリバリーの低下又は損失を生じさせる。そのような心臓虚血または低酸素症は痛みと影響を受けた心筋の壊死を生じさせ、究極的には心不全を引き起こす。
【0041】
骨格筋または平滑筋における虚血若しくは低酸素症は同様な原因で起こりえる。例えば、腸の平滑筋における虚血または低酸素症も動脈硬化若しくは血栓性閉塞によって起こりえる。
血流の回復(再灌流)は当技術で知られたどの方法によっても生じ得る。例えば、虚血心臓組織の再灌流は血管形成、冠動脈バイパス移植、または血栓溶解剤の使用によって起こりえる。虚血/低酸素症および再灌流と関連した酸化的損傷が例えば心筋梗塞、卒中および出血性ショックと関連しているので、虚血/低酸素症および再灌流と関連した酸化的損傷の低減は重要である。
【0042】
別の態様において、前記哺乳動物は酸化的損傷と関連した疾患または状態にある哺乳動物であり得る。酸化的損傷は哺乳動物のいずれの細胞、組織または器官において起こりえる。細胞、組織または器官の例には、内皮細胞、上皮細胞、神経系細胞、皮膚、心臓、肺、腎臓および肝臓が含まれるがこれらに限定されない。例えば、脂質過酸化および炎症性過程は疾患又は病的状態について酸化的損傷と関連している。
脂質過酸化とは脂質の酸化的改変を言う。脂質は細胞の膜中に存在し得る。この膜脂質の改変は典型的には細胞の膜機能に変化および/または損傷を生じさせる。加えて、脂質過酸化は細胞にとって外来性である脂質又はリポタンパク質にも生じ得る。例えば、低密度リポタンパク質は脂質過酸化を受けやすい。脂質過酸化と関連した状態の例はアテローム性動脈硬化である。アテローム性動脈硬化は、例えば心臓発作および冠動脈疾患と関連しているので、アテローム性動脈硬化と関連した酸化的損傷を低減することは重要である。
【0043】
炎症性過程とは免疫系の活性化をいう。典型的には免疫系は抗原性物質によって活性化される。抗原性物質は免疫系によって認識されるいずれの物質でもあり得、自家由来小片および外部由来小片が含まれる。自家由来小片に対する炎症性過程によって起こる疾患または状態の例には関節炎および多発性硬化症が含まれる。外部由来小片の例にはウイルスおよびバクテリアが含まれる。
ウイルスは炎症性過程を活性化し酸化的損傷と関連した一切のウイルスであり得る。ウイルスの例にはA、B、C型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、インフルエンザウイルス、ウシ下痢ウイルスが含まれる。例えば、肝炎ウイルスは炎症性過程およびフリーラジカル形成を顕在化させ、それによって肝臓を損傷する。
前記バクテリアはいずれのバクテリアでもあり得る。それらにはグラム陰性またはグラム陽性バクテリアが含まれる。グラム陰性バクテリアはバクテリア壁中にリポ多糖を含む、グラム陰性バクテリアの例には、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、クレブシエラ・ニューモニアエ(Klebsiella pneumoniae)、プロテウス種(Proteus species)、シュードモナス・アエルギノサ(Pseudomonas aeruginosa)、セラチア(Serratia)およびバクテロイド(Bacteroides)が含まれる。グラム陽性バクテリアの例にはニューモコッカス類およびストレプトコッカス類が含まれる。
バクテリアによって起こる酸化的ストレス炎症性過程の例は敗血症である。典型的には、敗血症はグラム陰性バクテリアが血流に入ったときに起こる。
毒物によって起こる肝臓損傷は炎症性過程および酸化的ストレスと関連した別の病的状態である。例えば、毒物は肝細胞のアポトーシスおよび/または壊死を生じさせ得る。そのような毒物の例にはアルコール、および疾患または状態の治療のために摂取された処方薬および非処方薬のような医薬が含まれる。
【0044】
本発明の方法はいずれかの神経変性疾患または状態と関連した酸化的損傷を低減するために使用することができる。神経変性疾患は中枢神経系および末梢神経系のいずれの細胞、組織または器官にも影響を与えうる。そのような細胞、組織または器官の例には、脳、脊髄、ニューロン、ガングリア、シュワン細胞、星状細胞、オリゴデンドロサイトおよびミクログリアが含まれる。
神経変性状態は卒中または外傷性性脳損傷又は脊髄損傷のような急性の状態であり得る。他の態様において、神経変性疾患または状態は慢性の神経変性状態であり得る。慢性の神経変性状態においては、フリーラジカルは例えばタンパク質に損傷を与える。そのようなタンパク質の例はアミロイドβ-タンパク質である。フリーラジカルによる損傷と関連した慢性神経変性疾患にはパーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病および筋萎縮性側索硬化症(ルーゲーリッグ病としても知られている)が含まれる。
本発明の方法によって治療することのできる他の病的状態には子癇前症、糖尿病、および、黄斑変性症、しわのような加齢の何らかの徴候および加齢と関連したいずれかの徴候が含まれる。
【0045】
別の態様において、本発明において有用なペプチドは移植に先立って哺乳動物の器官における酸化的損傷を低減するためにも使用することができる。例えば、摘出した器官は、移植後に再灌流を受けると酸化的損傷を受けやすい。従って、本ペプチドは移植器官の再灌流による酸化的損傷を低減するために使用することができる。
前記摘出した器官は移植に適したいずれの器官でもあり得る。そのような器官には、心臓、肝臓、腎臓、肺、および膵島が含まれる。取り出された器官はこの技術で一般に使用される標準緩衝溶液のような適切な培地中に置かれる。
例えば、取り出された心臓は上述のペプチドを含む心筋保護溶液中に入れることができる。標準緩衝溶液中のペプチドの濃度は当業者であれば容易に決定することができる。そのような濃度は、例えば、約0.01nM〜約10μMの間、好ましくは約0.1nM〜約10μM、より好ましくは約1μM〜約5μM、更に好ましくは約1nM〜約100nである。
【0046】
更に別の態様において、本発明は細胞における酸化的損傷を低減する方法を提供する。酸化的損傷を必要とする細胞は一般には細胞膜またはDNAがフリーラジカル、例えばROSおよび/またはRNSによって損傷を受けた細胞である。酸化的損傷を受け得る細胞の例には、本明細書に記載した細胞が含まれる。これらの細胞の適切な例には、膵島細胞、探究、内皮細胞、神経細胞、幹細胞、その他が含まれる。
上記細胞は組織培養細胞であってもよい。あるいは、これらの細胞は哺乳動物から得たものでもよい。ある事例において、細胞は傷害の結果としての酸化的損傷によって損傷され得る。そのような傷害の例には、例えば疾病若しくは病的状態(例えば糖尿病等)または紫外線照射(例えば、太陽等)が含まれる。例えば、糖尿病の結果としての酸化的損傷によって損傷された膵島細胞は哺乳動物から得ることができる。
【0047】
上述のペプチドは当業者に知られたいずれの方法によっても細胞に投与することができる。例えば、本ペプチドは適切な条件下で細胞とインキュベーションすることができる。そのような条件は当業者によって容易に決定することができる。
酸化的損傷の低下のために、処置された細胞は再生することができるであろう。そのような再生された細胞は疾患または病的状態の治療処置として哺乳動物に戻すべく投与することができる。上述したように、そのような病的状態の一つは糖尿病である。
酸化的損傷は、哺乳動物、取り出した器官または細胞における酸化的損傷の量が、上述した芳香族カチオン性ペプチドの効果的量を投与した後に減少した場合、「低減」されたと考える。典型的には酸化的損傷が少なくとも約10%、好ましくは少なくとも約25%、より好ましくは少なくとも約50%、更に好ましくは少なくとも約75%、最も好ましくは少なくとも約90%減少した場合に、その酸化的損傷は低減されたと考える。
【0048】
ペプチドの合成
当技術でよく知られたいずれの方法によっても本発明の方法において有用なペプチドを化学的に合成することができる。タンパク質を合成するための適切な方法には、例えば、StuartとYougによる“Solid Phase Peptide Synthesis”第二版、Pierc Chemical Company (1984)、および“Solid Phase Peptide Synthesis”、Methods Enzymol. 289, Academic Press, Inc, New York(1997)に記載された方法が含まれる。
【0049】
投与の態様
本発明の方法において有用なペプチドは、酸化的損傷を低減させるための有効量で哺乳動物に投与される。前記有効量は前臨床試験および臨床試験の際に医者および臨床家によく知られた方法によって決定することができる。
本発明の方法において有用なペプチドの有効量、好ましくは医薬組成物中の有効量は医薬組成物投与のためによく知られた種々の方法のいずれによっても必要とする哺乳動物に投与することができる。
本ペプチドは全身的にも局所的にも投与することができる。ある実施態様において、本ペプチドは静脈内投与される。例えば、本発明の方法において有用な芳香族カチオン性ペプチドは静脈内急速ボーラス投与によって投与することができる。しかしながら、好ましくは、本ペプチドは定速度静脈内インフュージョンとして投与される。
本ペプチドは、例えば、血管形成または冠動脈バイパス手術の際に直接冠動脈に注入する、または冠動脈ステント上に塗布することができる。
【0050】
本ペプチドは経口的、局所的、経鼻的、筋肉内、皮下、または経皮的投与することもできる。好ましい態様において、本発明の芳香族カチオン性ペプチドの経皮的投与はイオン導入法による。イオン導入法では荷電したペプチドが電流によって皮膚を通過してデリバリーされる。
他の投与経路には、脳室内、またはくも膜下腔内投与が含まれる。脳室内投与とは脳室系への投与をいう。くも膜下腔内投与とは脊髄のくも膜下の空間内への投与をいう。従って、脳室内またはくも膜下腔内投与は中枢神経系の器官又は組織に影響を与える疾患又は状態のために好ましいであろう。好ましい態様において、くも膜下腔内投与は外傷性脊髄損傷のために利用される。
本発明の方法において有用なペプチドは、当技術において知られたように徐放によって哺乳動物に投与することもできる。徐放投与は特定の時間にわたって薬剤のある濃度を達成するための薬剤デリバリー方法である。この濃度は典型的には血清または血漿濃度によって測定される。制御放出によって化合物をデリバリーするための方法の記載はPCT出願、WO 03/083106に見ることができる。前記PCT出願は引用によりその全体が本明細書に取り込まれるものとする。
【0051】
当技術で知られたいずれの剤形も本発明の方法において有用な芳香族カチオン性ペプチドを投与するために適している。経口投与のためには、液体または固体製剤が使用できる。製剤型の幾つかの例には、錠剤、ゼラチンカプセル、ピル、トローチ、エリキシル剤、懸濁物、シロップ、カシェ剤、チューインガムその他が含まれる。本ペプチドは当業者には理解される適切な製薬的担体(ビヒクル)または賦形剤と混合することができる。担体および賦形剤の例には、スターチ、ミルク、ショ糖、ある種の粘土、ゼラチン、乳酸、ステアリン酸または真舟シウムまたはカルシウムステアレートを含むその塩、タルク、植物脂質または油、ガムおよびグリコールが含まれる。
全身的、脳室内、クモ膜下腔内、局所、経鼻、皮下または経皮投与のためには、本発明の芳香族カチオン性ペプチドの製剤は、ペプチドをデリバリーするために使用することのできる当技術で知られた、慣用される希釈剤、担体または賦形剤等を使用することができる。例えば、この製剤は以下の1以上を含むことができる:安定化剤、界面活性剤、好ましくは非イオン性界面活性剤、および場合によっては塩および/または緩衝剤。本ペプチドは水性溶液形態としてまたは凍結乾燥形態としてデリバリーすることができる。
【0052】
安定化剤は、例えば、グリシンのようなアミノ酸、またはシュークロース、テトラロース、ラクトースまたはデキストランのようなオリゴ糖であってよい。あるいは、安定化剤は、例えばマンニトールのような糖アルコール、またはそれらの組み合わせでもよい。好ましくは、安定化剤または安定化剤の組み合わせはペプチドの質量の約0.1質量%〜約10質量%を構成する。
界面活性剤は好ましくはポリソルベートのような非イオン性界面活性剤である。適切な界面活性剤の幾つかの例にはTween20、Tween80、Pluronic F-68のようなポリエチレングリコールまたはポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、約0.001%(w/v)〜約10%(w/v)である。
塩または緩衝剤は、例えば、それぞれ食塩、またはリン酸ナトリウム/カリウムのようないずれの塩または緩衝剤であってよい。好ましくは、前記緩衝剤は約5.5〜約7.5の範囲に医薬組成物のpHを維持する。前記塩および/または緩衝剤はまたヒトまたは動物への投与に適したレベルに浸透圧を維持するのにも有用である。前記塩または緩衝剤はだいたい約150mM〜約300mMという等張濃度で存在するのが好ましい。
【0053】
本発明の方法において有用なペプチドの製剤はさらに1以上の慣用的な添加物を含んでもよい。そのような添加物のいくつかの例には、例えばグリセロールのような安定化剤、例えば塩化ベンズアルコニウム(“quats”として知られる四級アンモニウム化合物の混合物)、ベンジルアルコール、クロレトンまたはクロロブタノールのような抗酸化剤、例えばモルフィン誘導体のような麻酔薬、または上述したような等張剤、その他が含まれる。酸化または他の損傷に対する更なる予防薬として、本医薬組成物は非透過性の栓で密封したバイアル中に窒素ガス下で保存することができる。
本発明によって処置される哺乳動物はいずれの哺乳動物であってもよく、それらには、例えば、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマのような家畜、イヌや猫のようなペット動物、ラット、マウス、ウサギのような実験動物が含まれる。好ましい態様において、この哺乳動物はヒトである。
【0054】
実施例
実施例1:[Dmt1]DALDAは細胞膜を通過する
ヒト腸上皮細胞株(Caco-2)を用いて[3H][Dmt1]DALDAの細胞取込を調べ、SH-SY5Y(ヒト神経芽腫細胞)、HEK293(ヒト胚性腎細胞)およびCRFK細胞(腎上皮細胞)で確認した。コラーゲン被覆した12ウェルプレートで(5x105細胞/ウェル)単層細胞を3日間増殖させた。第4日に、細胞を予め加温したHBSSで2回洗浄し、250nM [3H][Dmt1]DALDAを含む0.2mlのHBSSと37℃および4℃にて1時間までの種々の時間インキュベーションした。
[3H][Dmt1]DALDAは5分という早い時間に細胞溶解物中に観察され、30分までに定常レベルに達した。1時間のインキュベーション後の細胞溶解物中に回収された[3H][Dmt1]DALDAの総量は全薬剤の約1%であった。[3H][Dmt1]DALDAの取込は37℃に比較して4℃では低かったが45分までに76.5%、1時間までに86.3%に達した。[3H][Dmt1]DALDAのインターナリゼーションはCaco-2細胞に限られず、SH-SY5Y、HEK239およびCRFK細胞でも観察された。[3H][Dmt1]DALDAの細胞内濃度は細胞外濃度よりもおよそ50倍高いと見積もられた。
【0055】
別の実験において、細胞を一定範囲の(1μM〜3mM)[3H][Dmt1]DALDA濃度で37℃にて1時間インキュベーションした。インキュベーション期間の終了時に細胞をHBSSで4回洗浄し、1%SDSを含む0.1N NaOHの0.2mlを各ウェルに加えた。細胞内容物をシンチレーションバイアルに移し放射活性を計測した。表面結合放射活性と内部取込放射活性とを区別するため、酸洗浄工程を含めた。細胞溶解の前に、細胞を0.2mlの0.2M酢酸/0.05M Naclと氷上にて5分間インキュベーションした。
Caco-2細胞への[3H][Dmt1]DALDAの取込は共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)によって[Dmt1]DALDAの蛍光アナログ(Dmt-D-Arg-Phe-dnsDap-NH2;式中、dnsDap=β-ダンシル-1-α,β-ジアミノプロピオン酸)を用いて確認した。細胞を上述のように増殖させ、ガラス底の培養皿(35mm)(MatTek Corp., Ashland, MA)上にプレーティングし2日間置いた。次に、培地を除去し、細胞を0.1μM〜1.0μMの前記蛍光ペプチドアナログを含む1mlのHBSSと共に37℃にて1時間インキュベーションした。次に、細胞を氷冷却HBSSで三回洗浄し、200μlのPBSで覆い、C-Apochromat 63x/1.2W補正対物レンズを備えたニコン共焦点レーザー走査顕微鏡を用いて室温にて10分以内に顕微鏡観察を行った。励起はUVレーザーにより340nmで行い、放射光は520nmで測定した。z-方向の光学切片は、2.0μmのフレームを5〜10個作製した。
CLSMにより、0.1μM[Dmt1,DnsDap4]DALDAとの37℃における1時間のインキュベーション後にCaco-2細胞へのDmt-D-Arg-Phe-dnsDap-NH2の取込が確認された。前記蛍光ペプチドの取込は37℃および4℃にて同様であった。蛍光は細胞質全体に拡散しているようであったが核からは完全に排除されていた。
【0056】
実施例2:ミトコンドリアへの[Dmt1]DALDAの標的化
[Dmt1]DALDAの細胞内分布を調べるために、蛍光アナログ[Dmt1,AtnDap4]DALDA(Dmt-D-Arg-Phe-atnDap-NH2;式中atn=β-アントラニロイル-1-α,β-ジアミノ-プロピオン酸)を調製した。このアナログはβ-アントラニロイル-1-α,β-ジアミノプロピロン酸を位置4のリジン残基の代わりに含んでいる。細胞を上記実施例1のように増殖させ、ガラス底の培養皿(35mm)(MatTek Corp., Ashland, MA)上にプレーティングし、2日間置いた。次に培地を除去し、37℃にて15分間〜1時間、0.1μMの[Dmt1,AtnDap4]DALDAを含む1mlのHBSSと細胞をインキュベーションした。
細胞はまたテトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM、25nM)、ミトコンドリア染色用色素とも37℃にて15分間インキュベーションした。次に細胞を氷冷却HBSSで三回洗浄し、200μlのPBSで覆い、C-Apochromat 63x/1.2W補正対物レンズを備えたニコン共焦点レーザー走査顕微鏡を用いて室温にて10分以内に顕微鏡観察を行った。
[Dmt1,AtnDap4]DALDAについては励起はUVレーザーにより350nmで行い、放射光は520nmで測定した。TMRMについては励起は536nmで行い、放射光は560nmで測定した。
CLSMにより、37℃にて15分間という短い時間でCaco-2への蛍光[Dmt1,AtnDap4]DALDAの取込が示された。色素の取込は核からは完全に排除されていたが、青色色素は細胞質内に筋状の分布を示した。ミトコンドリアはTMRMで赤く標識された。[Dmt1,AtnDap4]DALDAのミトコンドリアへの分布は[Dmt1,AtnDap4]DALDA分布とTMRM分布の重なりによって明らかになった。
【0057】
実施例3:SS-02およびSS-05による過酸化水素の除去(図1)
ルミノール-誘導化学発光で測定した、H2O2に対するSS-02およびSS-05(Dmt-D-Arg-Phe Orn-NH2)の効果。25μMルミノールおよび0.7IUホースラディッシュペルオキシダーゼをH2O2とペプチドの溶液に添加し、化学発光をChronologモデル560凝集検出器(Havertown, PA)で37℃にて20分間モニターした。
その結果、SS-02およびSS-05は用量依存的にルミノール応答を阻害し、これらのペプチドがH2O2を除去し得ることが示唆された。
【0058】
実施例4:脂質過酸化の抑制(図2)
リノール酸過酸化を水溶性イニシエーターABAP(2,2'-アゾビス(2-アミジノプロパン))で誘導し、脂質過酸化を共役ジエンの形成によって検出(236nmで分光光学的にモニター)した(B.Longoni, W.A. Pryor, P.Marchiafava, Biochem. Biophys. Res. Commun. 233, 778-780 (1997))。
5mMの0.5M ABAPと種々の濃度のSS-02を2.4mlリノール酸懸濁物中で自己酸化速度が定常的になるまでインキュベーションした。その結果、SS-02はリノール酸の過酸化を用量依存的に抑制することが示された。
種々のペプチドを100μMの濃度で添加した。データはジエン形成の勾配として表した。SS-20(Phe-D-Arg-Phe-Lys-NH2)、SS-21(シクロヘキシル-D-Arg-Phe-Lys-NH2)およびSS-22(Ala-D-Arg-Phe-Lys-NH2)を除いて他の全てのSSペプチドはリノール酸過酸化の速度を低下させた。SS-20、SS-21およびSS-22はチロシン残基もジメチルチロシン残基も含まないことに注意されたし。SS-01はDmtではなくTyrを含むがリノール酸過酸化の防止にはあまり効果的ではない。SS-29はDmt-D-Cit-Phe Lys-NH2であり、SS-30はPhe-D-Arg-Dmt-Lys-NH2であり、SS-32はDmt-D-Arg-Phe-Ahp(2-アミノヘプタン酸)-NH2である。
【0059】
実施例5:LDL酸化の抑制(図3)
ヒトLDL(低密度リポタンパク質)を保存血漿からあらたに調製した。LDL酸化は10mM CuSO4の添加により触媒的に誘導し、共役ジエンの形成を37℃にて5時間234nmで監視した(B.MoosmannとC.Behl, Mol Pharmacol 61, 260-268 (2002))。
(A)結果、SS-02は用量依存的にLDL酸化の速度を抑制した。
(B)種々のペプチドを100μMの濃度で添加した。SS-20(Phe-D-Arg-Phe-Lys-NH2)、SS-21(シクロヘキシル-D-Arg-Phe-Lys-NH2)およびSS-22(Ala-D-Arg-Phe-Lys-NH2)を除いて他の全てのSSペプチドはリノール酸の過酸化の速度を低下させた(共役ジエンの形成速度を低下させた)。SS-20、SS-21およびSS-22はチロシン残基もジメチルチロシン残基も含まないことに注意されたし。SS-29はDmt-D-Cit-Phe Lys-NH2であり、SS-30はPhe-D-Arg-Dmt-Lys-NH2であり、SS-32はDmt-D-Arg-Phe-Ahp(2-アミノヘプタン酸)-NH2である。
【0060】
実施例6:単離したマウス肝臓ミトコンドリアによる過酸化水素生成(図4)
ミトコンドリアはROS生成の主要供給源なので、基底状態およびアンチマイシン(複合体IIIの阻害因子)処理後の単離ミトコンドリアにおけるH2O2形成に対するSS-02の効果を調べた。肝臓をマウスから集め氷冷却バッファー中でホモゲナイズし、13800 x gで10分間遠心した。ペレットを一度洗浄し、0.3mlの洗浄バッファーに再懸濁し、使用時まで氷中に置いた。H2O2は従前に記載されたように(Y.Li, H.Zhu, M.A. Trush, Biochim. Biophys. Acta. 1428, 1-12 (1999))ルミノール化学発光を利用して測定した。0.1mgのミトコンドリアタンパク質をSSペプチドと共に(100μM)または非存在下で0.5mlのリン酸カリウムバッファー(100mM、pH8.0)に添加した。25mM ルミノールおよび0.7 IUホースラディッシュペルオキシダーゼを添加し、化学発光をChronologモデル560凝集検出器(Havertown, PA)で37℃にて20分間監視した。生成したH2O2の量を20分間のカーブ下の面積(AUC)として定量し、全てのデータはミトコンドリアのみで生成されたAUCに対して正規化した。
【0061】
(A)生成H2O2の量は10μM SS-02の存在下で有意に低下した。アンチマイシン(1μM)を添加すると単離ミトコンドリアによるH2O2の量が増加し、この増加は10μM Dmt1-DALDA(本明細書ではdDALDAとも称される)によって完全に阻止された。
(B)生成するH2O2の量はペプチドSS-02、SS-29、SS-30、SS-31によって有意に低下した。SS-21およびSS-22はH2O2生成に全く影響がなかった。SS-21およびSS-22はチロシンまたはジメチルチロシン残基を含まないことに注意されたし。アミノ酸Dmt(ジメチルチロシン)だけでもH2O2生成を阻害した。
【0062】
実施例7:SS-31は単離ミトコンドリアによるH2O2生成を抑制する(図5)
H2O2は従前に記載されたように(Y.Li, H.Zhu, M.A. Trush, Biochim. Biophys. Acta. 1428, 1-12 (1999))ルミノール化学発光を利用して測定した。0.1mgのミトコンドリアタンパク質をSS-31と共にまたは非存在下で0.5mlのリン酸カリウムバッファー(100mM、pH8.0)に添加した。25mM ルミノールおよび0.7 IUホースラディッシュペルオキシダーゼを添加し、化学発光をChronologモデル560凝集検出器(Havertown, PA)で37℃にて20分間監視した。生成したH2O2の量を20分間のカーブ下の面積(AUC)として定量し、全てのデータはミトコンドリアのみで生成されたAUCに対して正規化した。
(A)SS-31は単離ミトコンドリアによる自発的H2O2生成を用量依存的に低下させた。
(B)SS-31は単離ミトコンドリアにおけるアンチマイシンによって誘導されるH2O2生成を低下させた。
【0063】
実施例8:SS-02およびSS-31は細胞内ROSを低下させ細胞生存性を増大させた(図6)
請求項記載のペプチドが細胞全体に適用された場合に有効であることを示すため、N2A細胞を96ウェルプレートに1x 104/ウェルの密度でプレーティングし、2日間増殖させ、その後tBHP(0.5又は1mM)で40分間処理した。細胞を2回洗浄し、培地のみまたは種々の濃度のSS-02若しくはSS-31を含む培地中に4時間置いた。細胞内ROSはカルボキシ-H2DCFDA(Molecular Probes, Portland, OR)によって測定した。細胞死は細胞増殖アッセイ(MTTアッセイ、Promega, Madison,WI)によって評価した。
tBHPとインキュベーションすると細胞内ROSの用量依存的増加がもたらされ(A)、細胞生存性が低下した(BおよびC)。これらの細胞をSS-31またはSS-02とインキュベーションすると用量依存的に細胞内ROSが低下し(A)、細胞生存性が増加し(BおよびC)、EC50はnM範囲であった。
【0064】
実施例9:SS-31は細胞生存性の低下を防止する
神経系細胞N2AおよびSH-SY5Yを1x104/ウェルの密度で96ウェルプレート中にプレーティングし、2日間増殖させ、その後SS-31と共に(10-12M〜10-9M)若しくはSS-31無しででt-ブチルヒドロペルオキシド(tBHP)(0.05〜0.1mM)で24時間処理した。細胞死は細胞増殖アッセイ(MTTアッセイ、Promega, Madison,WI)によって評価した。
低用量のt-BHP(0.05〜0.1mM)によるN2A細胞およびSH-SY5Y細胞の24時間の処理は細胞生存率の低下を生じさせた。(A)0.05mM t-BHPはN2A細胞において50%の細胞生存率の低下を生じさせ、SH-SY5Y細胞においては30%の細胞生存率の低下を生じさせた。(B)0.1mM t-BHPはSH-SY5Y細胞においてより大きな細胞生存率の低下を生じさせた。細胞のSS-31による同時処理はt-BHP-誘導毒性の用量依存性低減をもたらした。1nMのSS-31によってt-BHPに対する完全な保護が達成された。
【0065】
実施例10:SS-31はカスパーゼ活性を低下させる(図8)
N2A細胞を96ウェルプレートで増殖させ、SS-31の存在下(10-11M〜10-8M)またはSS-31無しで37℃にて12〜24時間t-BHP(0.05mM)で処理した。全ての処理は四つ組で行った。N2A細胞をSS-31と共にまたはSS-31無しでt-BHP(50mM)と37℃にて12時間インキュベーションした。細胞剥離液(Accutase, Innovative Cell Technologies, Inc., San Diego, CA)により細胞を静かにプレートから浮き上がらせ、PBSで2回洗浄した。カスパーゼ活性はFLICAキット(Immunochemistry Technologies LLC, Bloomington, MN)を用いてアッセイした。業者の推奨に従って、細胞をPBS中に再懸濁し(約5x106細胞/ml)、汎-カスパーゼ阻害剤FAM-VAD-FMKで37℃にて5%CO2下で1時間標識し、光から保護した。次に細胞をリンスして結合していない試薬を除去し、固定した。緑色に対する標準放射光フィルター(FL1)を用いてレーザー走査サイトメーター(Beckman-Coulter XL, Beckman Coulter, Inc., Fullerton, CA)で細胞中の蛍光強度を測定した。各実験につき10,000の個別の事象を集め、オフライン解析用にリストモードファイルに保存した。
カスパーゼ活性化はアポトーシスカスケードの開始誘因事象であり、我々の結果により50mM t-BHPと12時間インキュベーションしたSH-SY5Y細胞におけるカスパーゼ活性の有意な増加が示され、その増加はSS-31の濃度増加によって用量依存的に阻止されることが示された。
【0066】
実施例11:SS-31はROS蓄積速度を低下させる(図9)
細胞内ROSは蛍光プローブDCFH-DA(5-(および -6)-カルボキシ-2',7'-ジクロロジヒドロフルオレセインジアセテート)を用いて評価した。DCFH-DAは受動的に細胞内に入り、脱アシルして非蛍光DCFHになる。DCFHはROSと反応してDCF(蛍光産物)となる。96ウェルプレート中のN2A細胞をHBSSで洗浄し10μMのDCFDAを37℃にて30分間装荷した。細胞をHBSSで3回洗浄し、0.1mMのt-BHPに単独で、またはSS-31と共に曝露した。DCFHのDCFへの酸化をリアルタイムで蛍光マイクロプレート読み取り器(Molecular Devices)を用いて励起用に485nmおよび放射用に530nmで監視した。
0.1mMのt-BHPで処理したN2A細胞におけるROS蓄積速度はSS-31の添加によって用量依存的に阻止された。
【0067】
実施例12:SS-31は酸化的損傷に曝露された細胞における脂質過酸化を抑制した(図10)
SS-31はt-BHPで処理したN2A細胞における脂質過酸化を抑制した。脂質過酸化はHNEミカエル付加物を測定することによって評価した。4-HNEは膜非飽和ポリ脂肪酸過酸化物の主要アルデヒド産物の一つである。N2A細胞をガラス底培養皿上に播き、1日後にSS-31(10-8〜10-10M)の存在下または非存在下でt-BHP処理(1mM、3h、37℃、5%CO2)した。次に細胞をPBSで2回洗浄し、PBS中の4%パラホルムアルデヒドで30分間室温にて固定し、PBSで3回洗浄した。細胞を次に透過処理し、ウサギ抗-HNE抗体で処理し続いて二次抗体(ヤギ抗-ウサギIgGビオチン結合体)で処理した。細胞をベクタシールド(Vectashield)に取り付けZeiss蛍光顕微鏡を用い、励起波長460±20nm、放射光用にロングパスフィルター505nmを用いて画像化した。
(A)未処理細胞;(B)1mM t-BHPで3時間処理した細胞;(C)1mM t-BHPと10nM SS-31で3時間処理した細胞。
【0068】
実施例13:SS-02は過酸化水素に曝露した細胞におけるミトコンドリア膜電位の損失を抑制する
Caco-2細胞をtBHP(1mM)でSS-01(0.1μM)の存在下または非存在下で4時間処理し、次にTMRMとインキュベーションし、LSCM下で調べた。対照細胞においては、ミトコンドリアは細胞質全体にわたる細い縞として明瞭に視覚化される。tBHPで処理した細胞においてはTMRM蛍光はずっと低下し、全体的な脱分極が示唆された。対照的にSS-02と同時処理するとtBHPによって引き起こされるミトコンドリア脱分極に対して保護された。
【0069】
実施例14:SS-31はt-BHPへの曝露によって生じるN2A細胞におけるミトコンドリア膜電位損失およびROS蓄積の増加を防止する(図11)
ガラス底培養皿中のN2A細胞を0.1mM t-BHP単独で、または1nMのSS-31と共に6時間処理した。次に細胞に10μmのジクロロフルオレセイン(ex/em=485/530)を37℃、5%CO2にて30分間装荷した。次に、細胞をHBSSによる3回の洗浄にかけ、20nMのMitotracker TMRM(ex/em=550/575nm)で37℃にて15分間染色し、共焦点レーザー操作顕微鏡で調べた。
t-BHPによるN2A細胞の処理によりTMRM蛍光の減損が生じたが、これはミドコンドリアの脱分極を示す。同時にDCF蛍光の増加も見られたが、これは細胞内ROSの増加を示す。1nM SS-31との同時処理はミトコンドリアの脱分極を防止し、ROS蓄積を低下させた。
【0070】
実施例15:SS-31は酸化的ストレスによって生じるアポトーシスを防止する(図12)
SH-SY5Y細胞を96ウェルプレートで増殖させ、SS-31(10-12M〜10-9M)の存在下または非存在下でt-BHP(0.025mM)により37℃にて4時間処理した。全ての処理は4つ組で行った。次に細胞を2mg/mlヘキスト33342で20分間染色し、4%パラホルムアルデヒドで固定し、Zeiss Acroplan X20対物レンズを備えたZeiss蛍光顕微鏡(Axiovert 200M)で画像化した。核形態は励起波長350±10nmおよび放射光用に400nmのロングパスフィルターを用いて評価した。全ての画像はMetaMorphソフトウエア(Universal Imaging Corp., West Chester, PA)を用いて処理および解析した。均一に染色された核は健全な生きたニューロンとして記録し、凝集または断片化した核はアポトーシス核として記録した。
SS-31は低用量のt-BHPによって誘導されるアポトーシスを防止する。アポトーシスは蛍光プローブヘキスト33342を用いて共焦点顕微鏡によって評価した。(A1)t-BHPで処理しない細胞の代表的な像。(A2)アポトーシス核の指標である、凝集、断片化したクロマチンを有する幾つかの細胞を示す代表的な像。(A3)0.025mM t-BHPで24時間処理した細胞の代表的な像。(A4)アポトーシス核を有する細胞の数の増加を示す蛍光画像。(A5)0.025mM t-BHPと1nM SS-31とで24時間処理した細胞の代表的な像。(A6)アポトーシス核を有する細胞の数の減少を示す蛍光画像。
(B)SS-31は低用量のt-BHP(0.05mM)の24時間処理によって引き起こされるアポトーシス細胞の割合を用量依存的に低下させる。
【0071】
実施例16:SS-31は短時間間隔の虚血−再灌流を施された心臓における脂質過酸化を防止する(図13)
単離したモルモットの心臓をランゲンドルフ装置中で逆行性に灌流し、種々の間隔の虚血-再灌流を行った。次に心臓を直ちに固定し、パラフィン中に包埋した。パラフィン切片中の4-ヒドロキシ-2-ノネノール(HNE)-修飾タンパク質の免疫組織化学的解析を抗-HNE抗体を用いて行った。
(A)(a)バッファー、(b)100nM SS-02、(c)100nM SS-20および(d)1nM SS-31で30分間有酸素的に灌流し、次に30分間虚血させ、前記ペプチドで90分間再灌流したモルモット心臓のパラフィン切片における4-ヒドロキシ-2-ノネノール(HNE)-修飾タンパク質の免疫組織化学的解析。組織切片を抗-HNE抗体とインキュベーションした。(e)バックグラウンド対照:一次抗体無しで染色した。
(B)バッファーで30分間有酸素的に灌流し、次に30分間虚血させ、(a)バッファー、(b)100nM SS-02、(c)100nM SS-20および(d)1nM SS-31で90分間再灌流したモルモット心臓のパラフィン切片における4-ヒドロキシ-2-ノネノール(HNE)-修飾タンパク質の免疫組織化学的解析。組織切片を抗-HNE抗体とインキュベーションした。(e)バックグラウンド対照:一次抗体無しで染色した。
【0072】
実施例17:長期の低温虚血とそれに続く温再灌流を受けた心臓においてSS-31は冠血流を増大させ脂質過酸化及びアポトーシスを低下させる(図14)
単離したモルモットの心臓をランゲンドルフ装置中でSS-31(1nM)を含むまたは含まない心筋保護溶液(St.Thomas液)で逆行性灌流を3分間行い、クランプし、4℃に18時間に保存した。続いて、この心臓をランゲンドルフ装置に再び取り付け、クレブス-ヘンゼライト(Krebs-Henselit)溶液で34℃にて90分間再灌流した。次に心臓を迅速に固定し、パラフィン包埋した。
(A)SS-31は18時間の低温虚血保存後の心臓における冠血流を有意に改善した。影を付けた部分は18時間の低温虚血である。
(B)SS-31(1nM)と共に(a)または無しで(b)保存したモルモット心臓のパラフィン切片におけるHNE-修飾タンパク質の免疫組織化学解析。(c)一次抗体無しで染色したバックグラウンド。
(C)SS-31は長期(18h)低温虚血後に温再灌流した単離モルモット心臓において内皮細胞および心筋細胞のアポトーシスを阻止する。アポトーシスはTUNEL染色(緑色)で評価し、核はDAPI(青色)で視覚化した。
【0073】
実施例18:SS-31はマウス膵臓から単離した膵島細胞の生存性を増大させる(図15)
(A)SS-31はマウス膵臓から単離した膵島細胞においてミトコンドリア膜電位を改善する。膵臓をマウスから集め膵島細胞を標準的方法に従って調製した。ある実験ではSS-31(1nM)を単離操作に使用した単離バッファーの全てに添加した。ミトコンドリア膜電位はTMRM(赤色)を用いて測定し、共焦点顕微鏡によって視覚化した。
(B)SS-31はマウス膵臓から単離した膵島細胞においてアポトーシスを減少させ、生存性を増大させる。膵臓をマウスから集め膵島細胞を標準的方法に従って調製した。る実験ではSS-31(1nM)を単離操作に使用した単離バッファーの全てに添加した。アポトーシスをフローサイトメトリーによりアネクシンVを用いて確認し、ネクローシスはヨウ化プロピジウムによって確認した。
【0074】
実施例19:SS-31は酸化的損傷に対して膵島細胞を保護する(図16)
何も処理しない(a)、またはSS-31なしで25μM tBHPで処理(b)、または、1nMのSS-31と共に25μM tBHPで処理した(c)。ミトコンドリア膜電位はTMRM(赤色)で測定し、反応性酸素種は共焦点顕微観察を用いてDCF(緑色)によって測定した。
【0075】
実施例20:SS-31はパーキンソン病から保護する(図17)
MPTPは選択的に線条体ドーパミンニューロンを選択的に破壊する神経毒であり、パーキンソン病の動物モデルとして使用できる。MPP+はMPTPの代謝物であり、ミトコンドリアを標的とし、電子輸送鎖の複合体Iを阻害し、ROS産生を増大させる。培養細胞はMPTPを活性代謝物に代謝することができないので培養細胞研究にはMPP+が使用される。MPTPは動物実験に使用される。
(A)SS-31はMPP+毒性からドーパミン細胞を保護する。SN-4741細胞バッファー、50μ MMPP+または50μM MPP+と1nM SS-31で48時間処理し、アポトーシス事象をヘキスト33342を用いて蛍光顕微観察により決定した。凝集、断片化した核の数はMPP+処理によって有意に増加した。SS-31による同時処理はアポトーシス細胞の数を低下させた。
(B)SS-31はMPTPで処置したマウスにおけるドーパミンニューロンの損失を用量依存的に妨げた。3用量のMPTP(10mg/kg)を2時間間隔でマウス(n=12)に与えた。SS-31を各MPTP注射の30分前、および最後のMPTP注射の1時間および12時間後に投与した。1週間後に動物を犠牲にし、脳の線条体領域をチロシンヒドロキシラーゼ活性について免疫染色した。
(C)SS-31はMPTP処置したマウスにおいて線条体ドーパミン、DOPAC(3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸)およびHVA(ホモバニリン酸)レベルを用量依存的に増加させた。2時間間隔で3用量のMPTP(10mg/kg)をマウス(n=12)に投与した。SS-31を各MPTP注射の30分前、および最後のMPTP注射の1時間および12時間後に投与した。1週間後に動物を犠牲にし、ドーパミン、DOPACおよびHVAレベルを高圧液体クロマトグラフィーによって定量した。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1A】SS-02は用量依存的にH2O2を除去する。
【図1B】SS-05は用量依存的にH2O2を除去する。
【図2A】SS-02はABAPによって誘導されるリノール酸過酸化を用量依存的に抑制する。
【図2B】SS-02、SS-05、SS-29、SS-30、SS-31、SS-32およびDmtはABAPによって誘導されたリノール酸過酸化の速度を低下させる。
【図3A】SS-02は10mM CuSO4によって誘導されるLDL酸化を用量依存的に抑制する。
【図3B】SS-02、SS-05、SS-29、SS-30、SS-31、SS-32およびDmtはLDL酸化の速度を低下させた。
【図4A】基底状態およびアンチマイシン刺激後にルミノール化学発光測定によれば、SS-02は過酸化水素のミトコンドリア産生を抑制する。
【図4B】SS-02、SS-29、SS-30およびSS-31は単離ミトコンドリアによって産生される自発的過酸化水素生成を低下させた。
【図5A】SS-31は単離ミトコンドリアにおける過酸化水素の自発的生成を抑制する。
【図5B】SS-31はアンチマイシンによって刺激された過酸化水素生成を抑制する。
【図6A】SS-31はプロ-酸化剤t-ブチルヒドロペルオキシド(t-BHP;0.5mM)の高用量に曝露したN2A細胞の細胞内ROS(反応性酸素種)を用量依存的に減少させた。
【図6B】SS-31はプロ-酸化剤t-ブチルヒドロペルオキシド(t-BHP;0.5mM)の高用量に曝露したN2A細胞の細胞生存率を用量依存的に増加させた。
【図6C】SS-02も1mM t-BHPに曝露したN2A細胞の細胞生存率を用量依存的に増加させた。
【図7A】SS-31はSH-SY5Y神経系細胞において低用量のt-BHP(0.05〜0.1mM)による細胞生存率の低下を用量依存的に防止した。
【図7B】SS-31はN2A神経系細胞において低用量のt-BHP(0.05〜0.1mM)による細胞生存率の低下を用量依存的に防止した。
【図8】SS-31は、N2A細胞において12時間の低用量t-BHP処理後にカスパーゼ活性の増大を示す細胞の割合を用量依存的に低下させた。
【図9】SS-31は0.1mM t-BHPで処理したN2A細胞におけるROS蓄積速度を4時間にわたって用量依存的に低下させた。
【図10】SS-31は、1mM t-BHPに1時間曝露したN2A細胞によって生じる脂質過酸化を抑制した。(A)未処理細胞;(B)1mM t-BHPで3時間処理した細胞;(C)1mM t-BHPおよび10nM SS-31で3時間処理した細胞。
【図11】SS-31は、t-BHPに曝露したN2A細胞におけるミトコンドリア脱分極およびROS蓄積を防止した。
【図12A1】SS-31は、低用量t-BHPによって誘導されるアポトーシスを防止する。アポトーシスは蛍光プローブヘキスト33342を用いた共焦点顕微観察によって評価した。(A1)t-BHPで処理しない細胞の代表的な像。
【図12A2】SS-31は、低用量t-BHPによって誘導されるアポトーシスを防止する。アポトーシスは蛍光プローブヘキスト33342を用いた共焦点顕微観察によって評価した。(A2)アポトーシス核の指標である、凝集、断片化したクロマチンを有する幾つかの細胞を示す蛍光画像。
【図12B1】SS-31は、低用量t-BHPによって誘導されるアポトーシスを防止する。アポトーシスは蛍光プローブヘキスト33342を用いた共焦点顕微観察によって評価した。(B1)0.025mM t-BHPで24時間処理した細胞の代表的な像。
【図12B2】SS-31は、低用量t-BHPによって誘導されるアポトーシスを防止する。アポトーシスは蛍光プローブヘキスト33342を用いた共焦点顕微観察によって評価した。(A1)t-BHPで処理しない細胞の代表的な像。(B2)アポトーシス核を有する細胞の数の増加を示す蛍光画像。
【図12C1】SS-31は、低用量t-BHPによって誘導されるアポトーシスを防止する。アポトーシスは蛍光プローブヘキスト33342を用いた共焦点顕微観察によって評価した。(C1)0.025mM t-BHPおよび1nM SS-31で24時間処理した細胞の代表的な像。
【図12C2】SS-31は、低用量t-BHPによって誘導されるアポトーシスを防止する。アポトーシスは蛍光プローブヘキスト33342を用いた共焦点顕微観察によって評価した。(C2)アポトーシス核を有する細胞の数の減少を示す蛍光画像。
【図12D】SS-31低用量t-BHPによって誘導されるアポトーシスを防止する。アポトーシスは蛍光プローブヘキスト33342を用いた共焦点顕微観察によって評価した。(D)SS-31は低用量t-BHP(0.05mM)の24時間処理によって引き起こされたアポトーシス細胞の割合を用量依存的に低下させた。
【図13A】SS-02およびSS-31は短期間の虚血後に温再灌流を受けた単離モルモット心臓における脂質過酸化を低減した。(a)バッファー、(b)100nM SS-02、(c)100nM SS-20および(d)1nM SS-31で30分間有酸素的に灌流し、次に30分間虚血させ、対応するペプチドで90分間再灌流したモルモット心臓のパラフィン包埋切片における4-ヒドロキシ-2-ノネノール(HNE)-修飾タンパク質の免疫組織化学的解析。組織切片は抗-HNE抗体とインキュベーションした。(e)バックグラウンド対照:一次抗体無しで染色。
【図13B】SS-02およびSS-31は短期間の虚血後に温再灌流を受けた単離モルモット心臓における脂質過酸化を低減した。バッファーで30分間有酸素的に灌流し、次に30分間虚血させ、(a)バッファー、(b)100nM SS-02、(c)100nM SS-20および(d)1nM SS-31、で90分間再灌流したモルモット心臓のパラフィン包埋切片における4-ヒドロキシ-2-ノネノール(HNE)-修飾タンパク質の免疫組織化学的解析。組織切片は抗-HNE抗体とインキュベーションした。(e)バックグラウンド対照:一次抗体無しで染色。
【図14A】SS-31は長時間(18時間)低温虚血後に温再灌流した単離モルモット心臓における冠血流を有意に改善した。影を付けた領域は4℃にて18時間の虚血を表す。
【図14B】1nMのSS-31を含まない(a)または含む(b)心筋保護溶液(St. Thomas Solution)で3分間灌流し、次に低温(4℃)にて18時間虚血させたモルモットの心臓。(c)一次抗体で染色したバックグラウンド。心臓は次にバッファーで34℃にて90分間再灌流した。
【図14C】SS-31は、長時間(18h)低温虚血後に温再灌流した単離したモルモット心臓における内皮細胞および筋細胞のアポトーシスを阻止する。モルモット心臓を1nMのSS-31を含むまたは含まない心筋保護溶液(St. Thomas Solution)で3分間灌流し、次に18時間の低温虚血(4℃)下においた。次に心臓をバッファーで34℃にて90分間再灌流した。アポトーシスはTUNEL染色(緑色)で評価し、核はDAPI(青色)で視覚化した。
【図15A】SS-31は、ミトコンドリア膜電位測定によれば、マウス膵臓から単離した膵島細胞の生存性を改善する。全単離工程を通じて、使用するバッファーにSS-31(1nM)を添加した。ミトコンドリア膜電位はTMRM(赤色)を用いて共焦点顕微観察で測定した。
【図15B】SS-31は、フローサイトメトリー測定によれば、マウス膵臓から単離した膵島細胞におけるアポトーシスを低下させ生存性を増大させる。全単離工程を通じて、使用するバッファーにSS-31(1nM)を添加した。アポトーシスはアネクシンVにより、ネクローシスはヨウ化プロピジウムによって確認した。
【図16】SS-31は膵島細胞においてt-ブチルヒドロキシペルオキシド(tBHP)によって生じる酸化的損傷を低減する。マウス膵島細胞を、何も処理しない(a)、またはSS-31なしで25μM tBHPで処理(b)、または、1nMのSS-31と共に25μM tBHPで処理した(c)。ミトコンドリア膜電位はTMRM(赤色)で測定し、反応性酸素種は共焦点顕微観察を用いてDCF(緑色)によって測定した。
【図17A】SS-31はMPP+毒性からドーパミン細胞を保護する。SN-4741細胞バッファー、50μ MMPP+または50μM MPP+と1nM SS-31で48時間処理し、アポトーシス事象をヘキスト33342で蛍光顕微観察により決定した。凝集、断片化した核の数はMPP+処理によって有意に増加した。SS-31との同時処理はアポトーシス細胞の数を低下させた。
【図17B】SS-31はMPTPで処置したマウスにおけるドーパミンニューロンの損失を用量依存的に妨げた。3用量のMPTP(10mg/kg)を2時間間隔でマウス(n=12)に与えた。SS-31を各MPTP注射の30分前、および最後のMPTP注射の1時間および12時間後に投与した。1週間後に動物を犠牲にし、脳の線条体領域をチロシンヒドロキシラーゼ活性について免疫染色した(黒で示した)。
【図17C】SS-31はMPTP処置したマウスにおいて線条体ドーパミン、DOPAC(3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸)およびHVA(ホモバニリン酸)レベルを用量依存的に増加させた。2時間間隔で3用量のMPTP(10mg/kg)をマウス(n=12)に投与した。SS-31を各MPTP注射の30分前、および最後のMPTP注射の1時間および12時間後に投与した。1週間後に動物を犠牲にし、ドーパミン、DOPACおよびHVAレベルを高圧液体クロマトグラフィーによって定量した。
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化的損傷を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミトコンドリアは酸化的リン酸化を介した主要なATP産生体として細胞の生存に必須である。しかし、ミトコンドリアの呼吸鎖は酸化的フリーラジカルの主たる供給源でもある。例えば、ラジカル生産はスーパーオキシドを形成するユビキノールのようなミトコンドリア電子担体と酸素との反応の結果として起こりえる。スーパーオキシドは不均化反応によって過酸化水素を生成し、これがヒドロキシルラジカルに分解し得る。更に、スーパーオキシドは一酸化窒素と反応して過酸化窒素および他の反応性酸化物を形成する。
加齢は反応性酸素種(ROS)生成の増加だけでなく内在性の抗酸化防御機構の低下とも関係している。ミトコンドリアは常にROSに曝露されているので特に酸化的ストレスに損傷を受けやすい。その結果、ミトコンドリア崩壊はしばしば加齢と関係している。
【0003】
ROSを含むフリーラジカルおよび反応性窒素種(RNS)は脂質、タンパク質、RNAおよびDNAを含む生体分子に種々の非特異的な損傷を与える。これらの分子のそのような損傷はアテローム性動脈硬化、子癇前症、アルツハイマー病、パーキンソン病および関節炎のような多くの臨床疾患に関係している。
抗酸化治療は加齢過程を遅らせることができるかもしれないし、上述した主要なヒト疾患および状態に有益かもしれない。しかしながら、in vivoで抗酸化分子をミトコンドリア送達するのが困難であるので具体的なミトコンドリア治療の開発は妨げられている。例えば、分子は初めに形質膜を通過して細胞質に取り込まれなければならず、次にミトコンドリアに選択的に向かわなければならない。
現在入手可能な抗酸化化合物のいずれもミトコンドリアを特異的に標的にすることができない。内在性の抗酸化因子、スーパーオキシドジスムターゼおよびカタラーゼは経口的にはあまり吸収されず、半減期が短く、血液−脳障壁を通過しない。天然の抗酸化物質(例えば、ビタミンE、コエンザイムQ、ポリフェノール)は水溶性でなく、細胞膜に蓄積する傾向があり、血液−脳障壁をゆっくりとしか通過できない。
従って、細胞膜を通過する抗酸化化合物による酸化的損傷を低減する改善された方法に対する需要がある。更に、抗酸化化合物が特異的にミトコンドリアを標的化するとしたら有益であろう。
【発明の開示】
【0004】
これらのおよび他の目的は哺乳動物において酸化的損傷を軽減する方法を提供する本発明によって達成される。本方法は、芳香族カチオン性ペプチドの有効量を哺乳動物に投与することを含む。前記芳香族カチオン性ペプチドは、(a)少なくとも1個の正味の正電荷を有し;(b)最小限3個のアミノ酸を有し;(c)最大約20個のアミノ酸を有し;(d)正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)との間に、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係を有し;(e)芳香族基の最小数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との間に、3aがpt+1以下の最大の数であるという関係を有し(ただし、aが1である場合は、ptも1であってよい);(f)少なくとも1個のチロシンまたはトリプトファンを含む。
【0005】
別の態様において、本発明は取り出した哺乳動物の器官における酸化的損傷を低減する方法を提供する。本方法は取り出した器官に芳香族カチオン性ペプチドの有効量を投与することを含む。前記芳香族カチオン性ペプチドは、a)少なくとも1個の正味の正電荷を有し;(b)最小限4個のアミノ酸を有し;(c)最大約20個のアミノ酸を有し;(d)正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)との間に、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係を有し;(e)芳香族基の最小数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との間に、2aがpt+1以下の最大の数であるという関係を有し(ただし、aが1である場合は、ptも1であってよい);(f)少なくとも1個のチロシンまたはトリプトファンを含む。
【0006】
更なる態様において、本発明は哺乳動物における酸化的損傷を低減する方法を提供する。前記方法は芳香族カチオン性ペプチドの有効量を哺乳動物に投与することを含む。前記芳香族カチオン性ペプチドは、(a)少なくとも1個の正味の正電荷を有し;(b)最小限3個のアミノ酸を有し;(c)最大約20個のアミノ酸を有し;(d)正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)との間に、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係を有し;(e)芳香族基の最小数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との間に、2aがpt+1以下の最大の数であるという関係を有し(ただし、aが1である場合は、ptも1であってよい);(f)少なくとも1個のチロシンまたはトリプトファンを含む。
【0007】
また更なる態様において、本発明は哺乳動物の取り出した器官における酸化的損傷を低減する方法を提供する。本方法は取り出した器官に芳香族カチオン性ペプチドの有効量を投与することを含む。前記芳香族カチオン性ペプチドは、(a)少なくとも1個の正味の正電荷を有し;(b)最小限3個のアミノ酸を有し;(c)最大約20個のアミノ酸を有し;(d)正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)との間に、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係を有し;(e)芳香族基の最小数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との間に、3aがpt+1以下の最大の数であるという関係を有し(ただし、aが1である場合は、ptも1であってよい);(f)少なくとも1個のチロシンまたはトリプトファンを含む。
【0008】
別の態様において、本発明は細胞における酸化的損傷を低減する方法を提供する。芳香族カチオン性ペプチドは以下の性質を有する:(a)少なくとも1個の正味の正電荷を有し;(b)最小限3個のアミノ酸を有し;(c)最大約20個のアミノ酸を有し;(d)正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)との間に、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係を有し;(e)芳香族基の最小数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との間に、3aがpt+1以下の最大の数であるという関係を有し(ただし、aが1である場合は、ptも1であってよい);(f)少なくとも1個のチロシンまたはトリプトファンを含む。
【0009】
さらなる態様において、本発明は細胞における酸化的損傷を低減する方法を提供する。芳香族カチオン性ペプチドは、(a)少なくとも1個の正味の正電荷を有し;(b)最小限3個のアミノ酸を有し;(c)最大約20個のアミノ酸を有し;(d)正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)との間に、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係を有し;(e)芳香族基の最小数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との間に、2aがpt+1以下の最大の数であるという関係を有し(ただし、aが1である場合は、ptも1であってよい);(f)少なくとも1個のチロシンまたはトリプトファンを含む。
【0010】
発明の詳細な説明
本発明はある種の芳香族カチオン性ペプチドが酸化的損傷を低減するという本発明者らによる驚くべき発見に基づいている。ROSおよびRNSのようなフリーラジカルは種々の非特異的損傷を脂質、タンパク質、RNAおよびDNAに与えるので酸化的損傷を低減することは重要である。フリーラジカルによって引き起こされる酸化的損傷は哺乳動物における種々の疾患および状態と関連している。
【0011】
ペプチド
本発明において有用な芳香族カチオン性ペプチドは水溶性で、かつ高度に極性である、これらの特性にもかかわらず、これらのペプチドは容易に細胞膜を通過する。
本発明において有用な芳香族カチオン性ペプチドはペプチド結合で接続された最小限3個のアミノ酸を有し、好ましくは最小限4個のアミノ酸を有する。
本発明の芳香族カチオン性ペプチド中に存在するアミノ酸の最大数はペプチド結合で接続した約20個のアミノ酸である。好ましくは、前記アミノ酸の最大数は約12、より好ましくは約9、最も好ましくは約6である。最適には、本ペプチド中に存在するアミノ酸の数は4である。
本発明において有用な芳香族カチオン性ペプチドのアミノ酸はいずれのアミノ酸であってもよい。本明細書において「アミノ酸」は少なくとも一つのアミノ基と少なくとも一つのカルボキシル基を有する一切の有機分子を言うために使用される。好ましくは、少なくとも一つのアミノ基はカルボキシル基に対してα位にある。
【0012】
前記アミノ酸は天然に存在するものでよい。天然に存在するアミノ酸には例えば通常哺乳動物のタンパク質中に見いだされる最も一般的な20種の左旋性(L)アミノ酸、すなわち、アラニン(Ala)、アルギニン(Arg)、アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、システイン(Cys)、グルタミン(Glu)、グルタミン酸(Glu)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、リジン(Lys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、およびバリン(Val)が含まれるが、これらに限定されない。
他の天然に存在するアミノ酸には、例えば、タンパク質合成とは関係しない代謝過程で合成されるアミノ酸が含まれる。例えば、アミノ酸オルニチンおよびシトルリンは尿素合成の際の哺乳動物の代謝において合成される。
【0013】
本発明において有用なペプチドは1以上の非天然アミノ酸を含み得る。この非天然アミノ酸はL-、右旋性(D)、またはそれらの混合物でもよい。最適には本ペプチドは天然に存在するアミノ酸を全く含まない。
非天然のアミノ酸は、典型的には生きた生物の通常の代謝過程において合成されず、タンパク質中に天然には存在しないアミノ酸である。更に、また本発明において有用な非天然のアミノ酸は一般的なプロテアーゼによっては認識されない。
非天然のアミノ酸は本ペプチドのいずれの位置にも存在し得る。例えば、非天然のアミノ酸はN-末端、C-末端またはN-末端とC-末端の間のいずれの位置にも存在し得る。
非天然のアミノ酸は、例えば、アルキル、アリール、またはアルキルアリール基を含んでもよい。アルキルアミノ酸の幾つかの例には、α-アミノ酪酸、β-アミノ酪酸、γ-アミノ酪酸、δ-アミノ吉草酸、およびε-アミノカプロン酸が含まれる。アリールアミノ酸の例にはオルト-、メタ-、およびパラ-アミノ安息香酸が含まれる。アルキルアリールアミノ酸のいくつかの例には、アミノフェニル酢酸、および、γ-フェニル-β-アミノ酪酸が含まれる。
【0014】
非天然アミノ酸には天然に存在するアミノ酸の誘導体も含まれる。天然に存在するアミノ酸の誘導体には、例えば、天然のアミノ酸に1以上の化学基を付加したものが含まれる。
例えば、フェニルアラニン若しくはチロシン残基の芳香環の2’、4’、5’または6’位、またはトリプトファン残基のベンゼン環の4’、5’、6’または7’位の1以上の位置に1以上の化学基を付加することができる。この基は芳香環に付加することのできるいずれの化学基でもよい。そのような基の例には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、またはt-ブチルのような分枝または非分枝C1-C4アルキル、C1-C4アリルオキシ(すなわちアルコキシ)、アミノ、C1-C4アルキルアミノおよびC1-C4ジアルキルアミノ(例えばメチルアミノ、ジメチルアミノ)、ニトロ、ヒドロキシル、ハロ(すなわち、フルオロ、クロロ、ブロモ、またはヨード)が含まれる。天然に存在するアミノ酸の非天然誘導体の具体的な例には、ノルバリン(Nva)、ノルロイシン(Nle)、およびヒドロキシプロリン(Hyp)が含まれる。
【0015】
本発明の方法において有用なペプチドの他の改変の別の例はペプチド中のアスパラギン酸またはグルタミン酸残基のカルボキシル基の誘導体化である。誘導体化の一つの例はアンモニアまたは一級若しくは二級アミン、例えば、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミンまたはジエチルアミンによるアミド化である。誘導体化の別の例にはエステル化、例えばメチル若しくはエチルアルコールによるエステル化が含まれる。
別のそのような改変にはリジン、アルギニン、またはヒスチジン残基のアミノ基の誘導体化が含まれる。例えば、そのようなアミノ基はアシル化することができる。いくつかの適切なアシル基には、例えばベンゾイル基、またはアセチルまたはプロピオニル基のような上述した任意のC1-C4アルキル基を含むアルカノイル基が含まれる。
【0016】
前記非天然アミノ酸は好ましくは一般的なプロテアーゼに抵抗性であり、より好ましくは非感受性である。プロテアーゼに抵抗性または非感受性の非天然アミノ酸の例には上述の天然に存在するいずれかのL-アミノ酸の右旋性(D-)型およびL-及び/又はD-非天然アミノ酸が含まれる。D-アミノ酸は通常タンパク質中には現れないが、細胞の通常のリボソームタンパク質合成機構以外の手段で合成されるある種のペプチド抗生物質中に見いだされる。本明細書において、D-アミノ酸は非天然アミノ酸であると考える。
プロテアーゼ感受性を最小限にするため、本発明の方法において有用なペプチドは、含まれるアミノ酸が天然に存在するか非天然性であるかに関わりなく、それらに含まれるアミノ酸は一般的なプロテアーゼによって認識される連続するL-アミノ酸が5個未満、好ましくは4個未満、より好ましくは3個未満、さらに好ましくは2個未満でなければならない。最適には、本ペプチドはD-アミノ酸のみを含み、L-アミノ酸を含まない。
【0017】
ペプチドがプロテアーゼ感受性のアミノ酸配列を含む場合、それらのアミノ酸の少なくとも一つは非天然D-アミノ酸であることが好ましく、それによってプロテアーゼ抵抗性が付与される。プロテアーゼ感受性配列の例には、エンドペプチダーゼおよびトリプシンのような一般的なプロテアーゼによって容易に切断される2以上の連続する塩基性アミノ酸が含まれる。塩基性アミノ酸の例にはアルギニン、リジン、およびヒスチジンが含まれる。
本芳香族カチオン性ペプチド中に存在するアミノ酸の少なくとも一つはチロシンまたはトリプトファン残基、またはそれらの誘導体であることが重要である。
また、本芳香族カチオン性ペプチドが生理的pHにおいてペプチド中のアミノ酸残基の総数に比較した正味の正電荷の最小数を有することも重要である。生理的pHにおけるこの正味の正電荷の最小数は以下ではpmと表される。ペプチド中のアミノ酸残基の総数は以下ではrと表される。
【0018】
以下で議論される正味の正電荷の最小数は生理的pHにおけるものである。本明細書において、用語「生理的pH」は哺乳動物の体の組織および器官の細胞中の正常なpHをいう。例えば、ヒトの生理的pHは通常およそ7.4であるが、哺乳動物の正常な生理的pHは約7.0〜約7.8のいずれでもあり得る。
本明細書において「正味の電荷」とはペプチド中のアミノ酸が保持する正電荷の数から負電荷の数を差し引いたたものである。本明細書において、正味の電荷は生理学的pHにおいて測定されることは言うまでもない。生理的pHにおいて正電荷を有する天然に存在するアミノ酸にはL-リジン、L-アルギニン、およびL-ヒスチジンが含まれる。生理的pHにおいて負電荷を有する天然に存在するアミノ酸にはL-アスパラギン酸およびL-グルタミン酸が含まれる。
典型的には、ペプチドはN-末端アミノ基に正電荷を有し、C-末端カルボキシル基に負電荷を有する。生理的pHにおいてはこれらの電荷は相殺し合う。正味の電荷を計算する例として、ペプチドTyr-Arg-Phe-Lys-Glu-His-Trp-Argは1個の負に荷電したアミノ酸(すなわちGlu)を有し、4個の正に荷電したアミノ酸(すなわち、2個のArg残基および1個のLys、1個のHis)。従って、上記ペプチドは3個の正味の正電荷を有する。
【0019】
本発明の一態様において、本芳香族カチオン性ペプチドは生理的pHにおける正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)との間に3pmがr+1以下の最大の数であるという関係を有する。この態様では、正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)との関係は以下の通りである。
【0020】
【0021】
別の態様において、本芳香族カチオン性プチドは生理的pHにおける正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)との間に2pmがr+1以下の最大の数であるという関係を有する。この態様では、正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)との関係は以下の通りである。
【0022】
ある態様において、正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)は等しい。他の態様において、本ペプチドは3個または4個のアミノ酸残基を有し、最小数1という正味の正電荷、好ましくは最小数2という正味の正電荷、より好ましくは最小数3という正味の正電荷を有する。
また、本芳香族カチオン性ペプチドが正味の正電荷の総数(pt)に比較した芳香族基の最小数を有することも重要である。芳香族基の最小数は以下ではaと称される。
芳香族基を有する天然のアミノ酸にはヒスチジン、トリプトファン、チロシンおよびフェニルアラニンが含まれる。例えば、ヘキサペプチドLys-Gln-Tyr-Arg-Phe-Trpは2個の正味の正電荷を有し(リジンおよびアルギニン残基による寄与)、3つの芳香族基(チロシン、フェニルアラニン、およびトリプトファン残基による寄与)を有する。
本発明の一態様において本発明の方法において有用な芳香族カチオン性ペプチドは芳香族基の最小数(a)と生理学的pHにおける正味の正電荷の総数(pt)との間に3aがpt+1以下の最大の数(ただし、ptが1である場合にはaも1であり得る)という関係を有する。この態様では、芳香族基の最小数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との間の関係は以下の通りである。
【0023】
【0024】
別の態様において、本芳香族カチオン性ペプチドは芳香族基の最小数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との間に、2aがpt+1以下の最大の数であるという関係を有する。この態様では、芳香族基の最小数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との間の関係は以下の通りである。
【0025】
【0026】
別な態様において、芳香族基の数(a)と正味の正電荷の総数(pt)は等しい。
カルボキシル基、特にC-末端アミノ酸のカルボキシル基は好ましくはアミド化され、例えばアンモニアによりアミド化されてC-末端アミドを形成している。あるいは、C-末端アミノ酸の末端カルボキシル基はいずれかの一級アミンまたは二級アミンによりアミド化されてもよい。前記一級アミンまたは二級アミンは、例えばアルキルアミン、特に分枝または非分枝C1-C4アルキルアミン若しくはアリールアミンであってよい。従って、本ペプチドのC-末端のアミノ酸はアミド、N-メチルアミド、N-エチルアミド、N,N-ジメチルアミド、N,N-ジエチルアミノ、N-メチル-N-エチルアミド、N-フェニルアミドまたはN-フェニル-N-エチルアミド基に変換されていてもよい。
本発明の芳香族カチオン性ペプチドのC-末端に現れないアスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸およびグルタミン酸残基の遊離のカルボキシル基も本ペプチド内のどこに存在しようとアミド化されてもよい。これらの内部位置におけるアミド化はアンモニアまたは上述のいずれの一級アミン若しくは二級アミンによってもよい。
【0027】
ある態様において、本発明の方法において有用な芳香族カチオン性ペプチドは2個の正味の正電荷と少なくとも1個の芳香族アミノ酸を有するトリペプチドである。特定の態様において、本発明の方法において有用な芳香族カチオン性ペプチドは2個の正味の正電荷と2個の芳香族アミノ酸を有するトリペプチドである。
本発明の方法において有用な芳香族カチオン性ペプチドには以下のペプチドの例が含まれるが、これらに限定されない:
【0028】
Lys-D-Arg-Tyr-NH2,
D-Tyr-Trp-Lys-NH2,
Trp-D-Lys-Tyr-Arg-NH2,
Tyr-His-D-Gly-Met,
Tyr-D-Arg-Phe-Lys-Glu-NH2,
Met-Tyr-D-Lys-Phe-Arg,
D-His-Glu-Lys-Tyr-D-Phe-Arg,
Lys-D-Gln-Tyr-Arg-D-Phe-Trp-NH2,
Phe-D-Arg-Lys-Trp-Tyr-D-Arg-His,
Gly-D-Phe-Lys-Tyr-His-D-Arg-Tyr-NH2,
Val-D-Lys-His-Tyr-D-Phe-Ser-Tyr-Arg-NH2,
Trp-Lys-Phe-D-Asp-Arg-Tyr-D-His-Lys,
Lys-Trp-D-Tyr-Arg-Asn-Phe-Tyr-D-His-NH2,
Thr-Gly-Tyr-Arg-D-His-Phe-Trp-D-His-Lys,
Asp-D-Trp-Lys-Tyr-D-His-Phe-Arg-D-Gly-Lys-NH2,
D-His-Lys-Tyr-D-Phe-Glu-D-Asp-D-His-D-Lys-Arg-Trp-NH2,
Ala-D-Phe-D-Arg-Tyr-Lys-D-Trp-His-D-Tyr-Gly-Phe,
Tyr-D-His-Phe- D-Arg-Asp-Lys-D-Arg-His-Trp-D-His-Phe,
Phe-Phe-D-Tyr-Arg-Glu-Asp-D-Lys-Arg-D-Arg-His-Phe-NH2,
Phe-Tyr-Lys-D-Arg-Trp-His-D-Lys-D-Lys-Glu-Arg-D-Tyr-Thr,
Tyr-Asp-D-Lys-Tyr-Phe-D-Lys-D-Arg-Phe-Pro-D-Tyr-His-Lys,
Glu-Arg-D-Lys-Tyr-D-Val-Phe-D-His-Trp-Arg-D-Gly-Tyr-Arg-D-Met-NH2,
Arg-D-Leu-D-Tyr-Phe-Lys-Glu-D-Lys-Arg-D-Trp-Lys-D-Phe-Tyr-D-Arg-Gly,
D-Glu-Asp-Lys-D-Arg-D-His-Phe-Phe-D-Val-Tyr-Arg-Tyr-D-Tyr-Arg-His-Phe-NH2,
Asp-Arg-D-Phe-Cys-Phe-D-Arg-D-Lys-Tyr-Arg-D-Tyr-Trp-D-His-Tyr-D-Phe-Lys-Phe,
His-Tyr-D-Arg-Trp-Lys-Phe-D-Asp-Ala-Arg-Cys-D-Tyr-His-Phe-D-Lys-Tyr-His-Ser-NH2,
Gly-Ala-Lys-Phe-D-Lys-Glu-Arg-Tyr-His-D-Arg-D-Arg-Asp-Tyr-Trp-D-His-Trp-His-D-Lys-Asp、および、
Thr-Tyr-Arg-D-Lys-Trp-Tyr-Glu-Asp-D-Lys-D-Arg-His-Phe-D-Tyr-Gly-Val-Ile-D-His-Arg-Tyr-Lys-NH2。
【0029】
一態様において、本発明の方法において有用なペプチドはμ-オピオイドレセプターアゴニスト活性(すなわちμ-オピオイドレセプターを活性化する)を有する。μ-オピオイドレセプターの活性化は典型的には鎮痛効果を導く。
ある例において、μ-オピオイドレセプター活性を有する芳香族カチオン性ペプチドが好ましい。例えば、急性疾患および状態におけるような短期治療の際にはμ-オピオイドレセプターを活性化する芳香族カチオン性ペプチドを使用することが有益であろう。例えば、前記急性疾患および状態は中程度の又は重篤な痛みを伴い得る。これらの例においては、前記芳香族カチオン性ペプチドの鎮痛効果は患者または他の哺乳動物の治療計画において有益であろうが、μ-オピオイドレセプターを活性化しない芳香族カチオン性ペプチドも臨床的必要性に応じて鎮痛剤と併用してまたは併用せずに使用することができる。
【0030】
あるいは、他の例においてはμ-オピオイドレセプター活性を有しない芳香族カチオン性ペプチドが好ましい。例えば、慢性疾患または状態の治療のような長期治療の際には、μ-オピオイドレセプターを活性化する芳香族カチオン性ペプチドを使用することは禁忌かもしれない。これらの例では、ヒト患者または他の哺乳動物の治療計画において、芳香族カチオン性ペプチドの潜在的に有害な作用または副作用はμ-オピオイドレセプターを活性化する芳香族カチオン性ペプチドの使用を妨げるかもしれない。
前記潜在的に有害な作用には、鎮静状態、便秘、神経系抑鬱および呼吸抑制が含まれる。このような場合、μ-オピオイドレセプターを活性化しない芳香族カチオン性ペプチドが適切な治療薬であろう。
【0031】
急性疾患には心臓発作、卒中および外傷性損傷が含まれる。外傷性損傷には脳損傷および脊髄損傷が含まれる。
慢性疾患または状態には肝動脈疾患および以下に記載したようななんらかの神経変性性疾患が含まれる。
μ-オピオイドレセプター活性を有する本発明の方法において有用なペプチドは典型的にはN-末端(すなわち1番目のアミノ酸位置)にチロシンまたはチロシン誘導体を含むペプチドである。好ましいチロシン誘導体には、2'-メチルチロシン(Mmt);2',6'-ジメチルチロシン(2'6'Dmt);3',5'-ジメチルチロシン(3'5'Dmt);N, 2',6'-トリメチルチロシン(Tmt);および2'-ヒドロキシ-6'-メチルチロシン(Hmt)が含まれる。
具体的な好ましい態様において、μ-オピオイドレセプター活性を有するペプチドは式Tyr-D-Arg-Phe-Lys-NH2を有する(簡便のため、頭文字をとってDALDAと表され、本明細書ではSS-01と称される)。DALDAはチロシン、アルギニンおよびリジンの寄与による3個の正味の正電荷を有し、フェニルアラニンおよびチロシンの寄与による2つの芳香族基を有する。DLADAのチロシンは2',6'-ジメチルチロシンのようなチロシンの改変誘導体であってもよく、それによって式2',6'-Dmt-D-Arg-Phe-Lys-NH2を有する化合物(すなわち、Dmt1、本明細書ではSS-02と称される)を形成してもよい。
【0032】
μ-オピオイドレセプター活性を有しないペプチドは一般にチロシン残基またはチロシンの誘導体をそのN-末端(すなわちアミノ酸位置1番)に有しない。N-末端のアミノ酸はいずれの天然に存在するまたは天然に存在しない、チロシン以外のアミノ酸でよい。
一態様においてN-末端のアミノ酸はフェニルアラニンまたはその誘導体である。好ましいフェニルアラニンの誘導体には、2'-メチルフェニルアラニン(Mmp)、2',6'-ジメチルフェニルアラニン(Dmp)、N,2',6'-トリメチルフェニルアラニン(Tmp)、および2'-ヒドロキシ-6'-メチルフェニルアラニン(Hmp)が含まれる。他の好ましい態様において、N-末端のアミノ酸残基はアルギニンである。そのようなペプチドの例は、D-Arg-2'6'Dmt-Lyt-Phe-NH2(本明細書ではSS-31と称される)である。
他のμ-オピオイドレセプター活性を有しないペプチドは式Phe-D-Arg-Dmt-Lys-NH2を有する。あるいは、N-末端フェニルアラニンは2',6'-ジメチルフェニルアラニン(2'6'Dmp)のようなフェニルアラニンの誘導体でもよい。アミノ酸位置1番に2',6'-ジメチルフェニルアラニンを含むDALDAは式2',6'-Dmp-D-Arg-Dmt-Lys-NH2を有する。
【0033】
好ましい態様において、Dmt1-DALDA(SS-02)のアミノ酸配列はDmtがN-末端でないように再配置される。そのようなμ-オピオイドレセプター活性を有しない芳香族カチオン性ペプチドの例は式D-Arg-2'6'Dmt-Lys-Phe-NH2(SS-31)を有する。
DALDA、SS-31およびそれらの誘導体はさらに機能的アナログを含むこともできる。ペプチドがDALAまたはSS-31と同じ機能を有するならば、そのペプチドはDALAまたはSS-31の機能的アナログと考えられる。前記アナログはまた、例えば、一以上のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたDALDAまたはSS-31の置換変種であってもよい。
DALDAまたはSS-31の適切な置換変種には保存的アミノ酸置換体が含まれる。アミノ酸はその物理化学的性質によって以下のようにグループ分けすることができる:
(a)非極性アミノ酸:Ala(A)Ser(S)Thr(T)Pro(P)Gly(G);
(b)酸性アミノ酸:Asn(N)Asp(D)Glu(E)Gln(Q);
(c)塩基性アミノ酸:His(H)Arg(R)Lys(K);
(d)疎水性アミノ酸:Met(M)Leu(L)Ile(I)Val(V);および
(e)芳香族アミノ酸:Phe(F)Tyr(Y)Trp(W)His(H)。
【0034】
同じグループの別のアミノ酸によるペプチド中のアミノ酸の置換は保存的置換と称され、元のペプチドの物理化学的性質が保存されるであろう。対照的に、異なるグループの別のアミノ酸によるペプチド中のアミノ酸の置換は一般には元のペプチドの性質を変える可能性がより高い。
本発明の実施において有用なμ-オピオイドレセプターを活性化するアナログには表1に示す芳香族カチオン性ペプチドが含まれるがこれらに限定されない。
【0035】
表1
Dab = ジアミノ酪酸
Dap = ジアミノプロピオン酸
Dmt = ジメチルチロシン
Mmt = 2'-メチルチロシン
Tmt = N,2',6'-トリメチルチロシン
Hmt = 2'-ヒドロキシ,6'-メチルチロシン
dnsDap = β-ダンシル-L-α,β-ジアミノプロピオン酸
atnDap = β-アントラニロイル-L-α,β-ジアミノプロピオン酸
Bio = ビオチン
【0036】
μ-オピオイドレセプターを活性化しない、本発明の実施において有用なアナログの例には以下の表2の芳香族カチオン性ペプチドが含まれるが、これらに限定されない。
【0037】
表2
【0038】
表1および表2に示したアミノ酸はL-型でもD-型でもよい。
【0039】
酸化的損傷を低減する方法
上述した方法は、酸化的損傷の低減を必要とする哺乳動物における酸化的損傷を低減するのに有用である。酸化的損傷の低減を必要とする哺乳動物は酸化的損傷と関連した疾患、状態にあるまたは治療を受けた哺乳動物である。典型的には前記酸化的損傷は反応性酸素種(ROS)および/または反応性窒素種(RNS)のようなフリーラジカルによって引き起こされる。ROSおよびRNSの例にはヒドロキシラジカル(HO・)、スーパーオキシドアニオンラジカル(O2・-)、一酸化窒素(NO・)、過酸化水素(H2O2)、次亜塩素酸(HOCl)および過酸化亜硝酸(ONOO-)が含まれる。
一態様において、前記哺乳動物は酸化的損傷を伴う治療を受けている哺乳動物である。例えば、前記哺乳動物は再灌流を受けている哺乳動物である。再灌流とは血流が減少または遮断されたいずれかの器官若しくは組織への血流の回復を言う。再灌流の際の血流の回復は呼吸バーストを生じさせフリーラジカル形成を生じさせる。
【0040】
血流の減少または遮断は低酸素症または虚血のためであり得る。低酸素症または虚血の際の血流供給の損失または重篤な低下は、例えば、血栓塞栓性卒中、冠動脈硬化症または末梢血管疾患のためであり得る。
種々の器官及び組織が虚血または低酸素症にかかる。そのような器官には脳、心臓、腎臓、腸、および前立腺が含まれる。影響を受ける組織は典型的には、心筋、骨格筋または平滑筋のような筋肉である。例えば、心筋虚血または低酸素症は一般に動脈硬化または血栓性閉塞によって起こり、心動脈および毛細管血流供給による心臓組織への酸素デリバリーの低下又は損失を生じさせる。そのような心臓虚血または低酸素症は痛みと影響を受けた心筋の壊死を生じさせ、究極的には心不全を引き起こす。
【0041】
骨格筋または平滑筋における虚血若しくは低酸素症は同様な原因で起こりえる。例えば、腸の平滑筋における虚血または低酸素症も動脈硬化若しくは血栓性閉塞によって起こりえる。
血流の回復(再灌流)は当技術で知られたどの方法によっても生じ得る。例えば、虚血心臓組織の再灌流は血管形成、冠動脈バイパス移植、または血栓溶解剤の使用によって起こりえる。虚血/低酸素症および再灌流と関連した酸化的損傷が例えば心筋梗塞、卒中および出血性ショックと関連しているので、虚血/低酸素症および再灌流と関連した酸化的損傷の低減は重要である。
【0042】
別の態様において、前記哺乳動物は酸化的損傷と関連した疾患または状態にある哺乳動物であり得る。酸化的損傷は哺乳動物のいずれの細胞、組織または器官において起こりえる。細胞、組織または器官の例には、内皮細胞、上皮細胞、神経系細胞、皮膚、心臓、肺、腎臓および肝臓が含まれるがこれらに限定されない。例えば、脂質過酸化および炎症性過程は疾患又は病的状態について酸化的損傷と関連している。
脂質過酸化とは脂質の酸化的改変を言う。脂質は細胞の膜中に存在し得る。この膜脂質の改変は典型的には細胞の膜機能に変化および/または損傷を生じさせる。加えて、脂質過酸化は細胞にとって外来性である脂質又はリポタンパク質にも生じ得る。例えば、低密度リポタンパク質は脂質過酸化を受けやすい。脂質過酸化と関連した状態の例はアテローム性動脈硬化である。アテローム性動脈硬化は、例えば心臓発作および冠動脈疾患と関連しているので、アテローム性動脈硬化と関連した酸化的損傷を低減することは重要である。
【0043】
炎症性過程とは免疫系の活性化をいう。典型的には免疫系は抗原性物質によって活性化される。抗原性物質は免疫系によって認識されるいずれの物質でもあり得、自家由来小片および外部由来小片が含まれる。自家由来小片に対する炎症性過程によって起こる疾患または状態の例には関節炎および多発性硬化症が含まれる。外部由来小片の例にはウイルスおよびバクテリアが含まれる。
ウイルスは炎症性過程を活性化し酸化的損傷と関連した一切のウイルスであり得る。ウイルスの例にはA、B、C型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、インフルエンザウイルス、ウシ下痢ウイルスが含まれる。例えば、肝炎ウイルスは炎症性過程およびフリーラジカル形成を顕在化させ、それによって肝臓を損傷する。
前記バクテリアはいずれのバクテリアでもあり得る。それらにはグラム陰性またはグラム陽性バクテリアが含まれる。グラム陰性バクテリアはバクテリア壁中にリポ多糖を含む、グラム陰性バクテリアの例には、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、クレブシエラ・ニューモニアエ(Klebsiella pneumoniae)、プロテウス種(Proteus species)、シュードモナス・アエルギノサ(Pseudomonas aeruginosa)、セラチア(Serratia)およびバクテロイド(Bacteroides)が含まれる。グラム陽性バクテリアの例にはニューモコッカス類およびストレプトコッカス類が含まれる。
バクテリアによって起こる酸化的ストレス炎症性過程の例は敗血症である。典型的には、敗血症はグラム陰性バクテリアが血流に入ったときに起こる。
毒物によって起こる肝臓損傷は炎症性過程および酸化的ストレスと関連した別の病的状態である。例えば、毒物は肝細胞のアポトーシスおよび/または壊死を生じさせ得る。そのような毒物の例にはアルコール、および疾患または状態の治療のために摂取された処方薬および非処方薬のような医薬が含まれる。
【0044】
本発明の方法はいずれかの神経変性疾患または状態と関連した酸化的損傷を低減するために使用することができる。神経変性疾患は中枢神経系および末梢神経系のいずれの細胞、組織または器官にも影響を与えうる。そのような細胞、組織または器官の例には、脳、脊髄、ニューロン、ガングリア、シュワン細胞、星状細胞、オリゴデンドロサイトおよびミクログリアが含まれる。
神経変性状態は卒中または外傷性性脳損傷又は脊髄損傷のような急性の状態であり得る。他の態様において、神経変性疾患または状態は慢性の神経変性状態であり得る。慢性の神経変性状態においては、フリーラジカルは例えばタンパク質に損傷を与える。そのようなタンパク質の例はアミロイドβ-タンパク質である。フリーラジカルによる損傷と関連した慢性神経変性疾患にはパーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病および筋萎縮性側索硬化症(ルーゲーリッグ病としても知られている)が含まれる。
本発明の方法によって治療することのできる他の病的状態には子癇前症、糖尿病、および、黄斑変性症、しわのような加齢の何らかの徴候および加齢と関連したいずれかの徴候が含まれる。
【0045】
別の態様において、本発明において有用なペプチドは移植に先立って哺乳動物の器官における酸化的損傷を低減するためにも使用することができる。例えば、摘出した器官は、移植後に再灌流を受けると酸化的損傷を受けやすい。従って、本ペプチドは移植器官の再灌流による酸化的損傷を低減するために使用することができる。
前記摘出した器官は移植に適したいずれの器官でもあり得る。そのような器官には、心臓、肝臓、腎臓、肺、および膵島が含まれる。取り出された器官はこの技術で一般に使用される標準緩衝溶液のような適切な培地中に置かれる。
例えば、取り出された心臓は上述のペプチドを含む心筋保護溶液中に入れることができる。標準緩衝溶液中のペプチドの濃度は当業者であれば容易に決定することができる。そのような濃度は、例えば、約0.01nM〜約10μMの間、好ましくは約0.1nM〜約10μM、より好ましくは約1μM〜約5μM、更に好ましくは約1nM〜約100nである。
【0046】
更に別の態様において、本発明は細胞における酸化的損傷を低減する方法を提供する。酸化的損傷を必要とする細胞は一般には細胞膜またはDNAがフリーラジカル、例えばROSおよび/またはRNSによって損傷を受けた細胞である。酸化的損傷を受け得る細胞の例には、本明細書に記載した細胞が含まれる。これらの細胞の適切な例には、膵島細胞、探究、内皮細胞、神経細胞、幹細胞、その他が含まれる。
上記細胞は組織培養細胞であってもよい。あるいは、これらの細胞は哺乳動物から得たものでもよい。ある事例において、細胞は傷害の結果としての酸化的損傷によって損傷され得る。そのような傷害の例には、例えば疾病若しくは病的状態(例えば糖尿病等)または紫外線照射(例えば、太陽等)が含まれる。例えば、糖尿病の結果としての酸化的損傷によって損傷された膵島細胞は哺乳動物から得ることができる。
【0047】
上述のペプチドは当業者に知られたいずれの方法によっても細胞に投与することができる。例えば、本ペプチドは適切な条件下で細胞とインキュベーションすることができる。そのような条件は当業者によって容易に決定することができる。
酸化的損傷の低下のために、処置された細胞は再生することができるであろう。そのような再生された細胞は疾患または病的状態の治療処置として哺乳動物に戻すべく投与することができる。上述したように、そのような病的状態の一つは糖尿病である。
酸化的損傷は、哺乳動物、取り出した器官または細胞における酸化的損傷の量が、上述した芳香族カチオン性ペプチドの効果的量を投与した後に減少した場合、「低減」されたと考える。典型的には酸化的損傷が少なくとも約10%、好ましくは少なくとも約25%、より好ましくは少なくとも約50%、更に好ましくは少なくとも約75%、最も好ましくは少なくとも約90%減少した場合に、その酸化的損傷は低減されたと考える。
【0048】
ペプチドの合成
当技術でよく知られたいずれの方法によっても本発明の方法において有用なペプチドを化学的に合成することができる。タンパク質を合成するための適切な方法には、例えば、StuartとYougによる“Solid Phase Peptide Synthesis”第二版、Pierc Chemical Company (1984)、および“Solid Phase Peptide Synthesis”、Methods Enzymol. 289, Academic Press, Inc, New York(1997)に記載された方法が含まれる。
【0049】
投与の態様
本発明の方法において有用なペプチドは、酸化的損傷を低減させるための有効量で哺乳動物に投与される。前記有効量は前臨床試験および臨床試験の際に医者および臨床家によく知られた方法によって決定することができる。
本発明の方法において有用なペプチドの有効量、好ましくは医薬組成物中の有効量は医薬組成物投与のためによく知られた種々の方法のいずれによっても必要とする哺乳動物に投与することができる。
本ペプチドは全身的にも局所的にも投与することができる。ある実施態様において、本ペプチドは静脈内投与される。例えば、本発明の方法において有用な芳香族カチオン性ペプチドは静脈内急速ボーラス投与によって投与することができる。しかしながら、好ましくは、本ペプチドは定速度静脈内インフュージョンとして投与される。
本ペプチドは、例えば、血管形成または冠動脈バイパス手術の際に直接冠動脈に注入する、または冠動脈ステント上に塗布することができる。
【0050】
本ペプチドは経口的、局所的、経鼻的、筋肉内、皮下、または経皮的投与することもできる。好ましい態様において、本発明の芳香族カチオン性ペプチドの経皮的投与はイオン導入法による。イオン導入法では荷電したペプチドが電流によって皮膚を通過してデリバリーされる。
他の投与経路には、脳室内、またはくも膜下腔内投与が含まれる。脳室内投与とは脳室系への投与をいう。くも膜下腔内投与とは脊髄のくも膜下の空間内への投与をいう。従って、脳室内またはくも膜下腔内投与は中枢神経系の器官又は組織に影響を与える疾患又は状態のために好ましいであろう。好ましい態様において、くも膜下腔内投与は外傷性脊髄損傷のために利用される。
本発明の方法において有用なペプチドは、当技術において知られたように徐放によって哺乳動物に投与することもできる。徐放投与は特定の時間にわたって薬剤のある濃度を達成するための薬剤デリバリー方法である。この濃度は典型的には血清または血漿濃度によって測定される。制御放出によって化合物をデリバリーするための方法の記載はPCT出願、WO 03/083106に見ることができる。前記PCT出願は引用によりその全体が本明細書に取り込まれるものとする。
【0051】
当技術で知られたいずれの剤形も本発明の方法において有用な芳香族カチオン性ペプチドを投与するために適している。経口投与のためには、液体または固体製剤が使用できる。製剤型の幾つかの例には、錠剤、ゼラチンカプセル、ピル、トローチ、エリキシル剤、懸濁物、シロップ、カシェ剤、チューインガムその他が含まれる。本ペプチドは当業者には理解される適切な製薬的担体(ビヒクル)または賦形剤と混合することができる。担体および賦形剤の例には、スターチ、ミルク、ショ糖、ある種の粘土、ゼラチン、乳酸、ステアリン酸または真舟シウムまたはカルシウムステアレートを含むその塩、タルク、植物脂質または油、ガムおよびグリコールが含まれる。
全身的、脳室内、クモ膜下腔内、局所、経鼻、皮下または経皮投与のためには、本発明の芳香族カチオン性ペプチドの製剤は、ペプチドをデリバリーするために使用することのできる当技術で知られた、慣用される希釈剤、担体または賦形剤等を使用することができる。例えば、この製剤は以下の1以上を含むことができる:安定化剤、界面活性剤、好ましくは非イオン性界面活性剤、および場合によっては塩および/または緩衝剤。本ペプチドは水性溶液形態としてまたは凍結乾燥形態としてデリバリーすることができる。
【0052】
安定化剤は、例えば、グリシンのようなアミノ酸、またはシュークロース、テトラロース、ラクトースまたはデキストランのようなオリゴ糖であってよい。あるいは、安定化剤は、例えばマンニトールのような糖アルコール、またはそれらの組み合わせでもよい。好ましくは、安定化剤または安定化剤の組み合わせはペプチドの質量の約0.1質量%〜約10質量%を構成する。
界面活性剤は好ましくはポリソルベートのような非イオン性界面活性剤である。適切な界面活性剤の幾つかの例にはTween20、Tween80、Pluronic F-68のようなポリエチレングリコールまたはポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、約0.001%(w/v)〜約10%(w/v)である。
塩または緩衝剤は、例えば、それぞれ食塩、またはリン酸ナトリウム/カリウムのようないずれの塩または緩衝剤であってよい。好ましくは、前記緩衝剤は約5.5〜約7.5の範囲に医薬組成物のpHを維持する。前記塩および/または緩衝剤はまたヒトまたは動物への投与に適したレベルに浸透圧を維持するのにも有用である。前記塩または緩衝剤はだいたい約150mM〜約300mMという等張濃度で存在するのが好ましい。
【0053】
本発明の方法において有用なペプチドの製剤はさらに1以上の慣用的な添加物を含んでもよい。そのような添加物のいくつかの例には、例えばグリセロールのような安定化剤、例えば塩化ベンズアルコニウム(“quats”として知られる四級アンモニウム化合物の混合物)、ベンジルアルコール、クロレトンまたはクロロブタノールのような抗酸化剤、例えばモルフィン誘導体のような麻酔薬、または上述したような等張剤、その他が含まれる。酸化または他の損傷に対する更なる予防薬として、本医薬組成物は非透過性の栓で密封したバイアル中に窒素ガス下で保存することができる。
本発明によって処置される哺乳動物はいずれの哺乳動物であってもよく、それらには、例えば、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマのような家畜、イヌや猫のようなペット動物、ラット、マウス、ウサギのような実験動物が含まれる。好ましい態様において、この哺乳動物はヒトである。
【0054】
実施例
実施例1:[Dmt1]DALDAは細胞膜を通過する
ヒト腸上皮細胞株(Caco-2)を用いて[3H][Dmt1]DALDAの細胞取込を調べ、SH-SY5Y(ヒト神経芽腫細胞)、HEK293(ヒト胚性腎細胞)およびCRFK細胞(腎上皮細胞)で確認した。コラーゲン被覆した12ウェルプレートで(5x105細胞/ウェル)単層細胞を3日間増殖させた。第4日に、細胞を予め加温したHBSSで2回洗浄し、250nM [3H][Dmt1]DALDAを含む0.2mlのHBSSと37℃および4℃にて1時間までの種々の時間インキュベーションした。
[3H][Dmt1]DALDAは5分という早い時間に細胞溶解物中に観察され、30分までに定常レベルに達した。1時間のインキュベーション後の細胞溶解物中に回収された[3H][Dmt1]DALDAの総量は全薬剤の約1%であった。[3H][Dmt1]DALDAの取込は37℃に比較して4℃では低かったが45分までに76.5%、1時間までに86.3%に達した。[3H][Dmt1]DALDAのインターナリゼーションはCaco-2細胞に限られず、SH-SY5Y、HEK239およびCRFK細胞でも観察された。[3H][Dmt1]DALDAの細胞内濃度は細胞外濃度よりもおよそ50倍高いと見積もられた。
【0055】
別の実験において、細胞を一定範囲の(1μM〜3mM)[3H][Dmt1]DALDA濃度で37℃にて1時間インキュベーションした。インキュベーション期間の終了時に細胞をHBSSで4回洗浄し、1%SDSを含む0.1N NaOHの0.2mlを各ウェルに加えた。細胞内容物をシンチレーションバイアルに移し放射活性を計測した。表面結合放射活性と内部取込放射活性とを区別するため、酸洗浄工程を含めた。細胞溶解の前に、細胞を0.2mlの0.2M酢酸/0.05M Naclと氷上にて5分間インキュベーションした。
Caco-2細胞への[3H][Dmt1]DALDAの取込は共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)によって[Dmt1]DALDAの蛍光アナログ(Dmt-D-Arg-Phe-dnsDap-NH2;式中、dnsDap=β-ダンシル-1-α,β-ジアミノプロピオン酸)を用いて確認した。細胞を上述のように増殖させ、ガラス底の培養皿(35mm)(MatTek Corp., Ashland, MA)上にプレーティングし2日間置いた。次に、培地を除去し、細胞を0.1μM〜1.0μMの前記蛍光ペプチドアナログを含む1mlのHBSSと共に37℃にて1時間インキュベーションした。次に、細胞を氷冷却HBSSで三回洗浄し、200μlのPBSで覆い、C-Apochromat 63x/1.2W補正対物レンズを備えたニコン共焦点レーザー走査顕微鏡を用いて室温にて10分以内に顕微鏡観察を行った。励起はUVレーザーにより340nmで行い、放射光は520nmで測定した。z-方向の光学切片は、2.0μmのフレームを5〜10個作製した。
CLSMにより、0.1μM[Dmt1,DnsDap4]DALDAとの37℃における1時間のインキュベーション後にCaco-2細胞へのDmt-D-Arg-Phe-dnsDap-NH2の取込が確認された。前記蛍光ペプチドの取込は37℃および4℃にて同様であった。蛍光は細胞質全体に拡散しているようであったが核からは完全に排除されていた。
【0056】
実施例2:ミトコンドリアへの[Dmt1]DALDAの標的化
[Dmt1]DALDAの細胞内分布を調べるために、蛍光アナログ[Dmt1,AtnDap4]DALDA(Dmt-D-Arg-Phe-atnDap-NH2;式中atn=β-アントラニロイル-1-α,β-ジアミノ-プロピオン酸)を調製した。このアナログはβ-アントラニロイル-1-α,β-ジアミノプロピロン酸を位置4のリジン残基の代わりに含んでいる。細胞を上記実施例1のように増殖させ、ガラス底の培養皿(35mm)(MatTek Corp., Ashland, MA)上にプレーティングし、2日間置いた。次に培地を除去し、37℃にて15分間〜1時間、0.1μMの[Dmt1,AtnDap4]DALDAを含む1mlのHBSSと細胞をインキュベーションした。
細胞はまたテトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM、25nM)、ミトコンドリア染色用色素とも37℃にて15分間インキュベーションした。次に細胞を氷冷却HBSSで三回洗浄し、200μlのPBSで覆い、C-Apochromat 63x/1.2W補正対物レンズを備えたニコン共焦点レーザー走査顕微鏡を用いて室温にて10分以内に顕微鏡観察を行った。
[Dmt1,AtnDap4]DALDAについては励起はUVレーザーにより350nmで行い、放射光は520nmで測定した。TMRMについては励起は536nmで行い、放射光は560nmで測定した。
CLSMにより、37℃にて15分間という短い時間でCaco-2への蛍光[Dmt1,AtnDap4]DALDAの取込が示された。色素の取込は核からは完全に排除されていたが、青色色素は細胞質内に筋状の分布を示した。ミトコンドリアはTMRMで赤く標識された。[Dmt1,AtnDap4]DALDAのミトコンドリアへの分布は[Dmt1,AtnDap4]DALDA分布とTMRM分布の重なりによって明らかになった。
【0057】
実施例3:SS-02およびSS-05による過酸化水素の除去(図1)
ルミノール-誘導化学発光で測定した、H2O2に対するSS-02およびSS-05(Dmt-D-Arg-Phe Orn-NH2)の効果。25μMルミノールおよび0.7IUホースラディッシュペルオキシダーゼをH2O2とペプチドの溶液に添加し、化学発光をChronologモデル560凝集検出器(Havertown, PA)で37℃にて20分間モニターした。
その結果、SS-02およびSS-05は用量依存的にルミノール応答を阻害し、これらのペプチドがH2O2を除去し得ることが示唆された。
【0058】
実施例4:脂質過酸化の抑制(図2)
リノール酸過酸化を水溶性イニシエーターABAP(2,2'-アゾビス(2-アミジノプロパン))で誘導し、脂質過酸化を共役ジエンの形成によって検出(236nmで分光光学的にモニター)した(B.Longoni, W.A. Pryor, P.Marchiafava, Biochem. Biophys. Res. Commun. 233, 778-780 (1997))。
5mMの0.5M ABAPと種々の濃度のSS-02を2.4mlリノール酸懸濁物中で自己酸化速度が定常的になるまでインキュベーションした。その結果、SS-02はリノール酸の過酸化を用量依存的に抑制することが示された。
種々のペプチドを100μMの濃度で添加した。データはジエン形成の勾配として表した。SS-20(Phe-D-Arg-Phe-Lys-NH2)、SS-21(シクロヘキシル-D-Arg-Phe-Lys-NH2)およびSS-22(Ala-D-Arg-Phe-Lys-NH2)を除いて他の全てのSSペプチドはリノール酸過酸化の速度を低下させた。SS-20、SS-21およびSS-22はチロシン残基もジメチルチロシン残基も含まないことに注意されたし。SS-01はDmtではなくTyrを含むがリノール酸過酸化の防止にはあまり効果的ではない。SS-29はDmt-D-Cit-Phe Lys-NH2であり、SS-30はPhe-D-Arg-Dmt-Lys-NH2であり、SS-32はDmt-D-Arg-Phe-Ahp(2-アミノヘプタン酸)-NH2である。
【0059】
実施例5:LDL酸化の抑制(図3)
ヒトLDL(低密度リポタンパク質)を保存血漿からあらたに調製した。LDL酸化は10mM CuSO4の添加により触媒的に誘導し、共役ジエンの形成を37℃にて5時間234nmで監視した(B.MoosmannとC.Behl, Mol Pharmacol 61, 260-268 (2002))。
(A)結果、SS-02は用量依存的にLDL酸化の速度を抑制した。
(B)種々のペプチドを100μMの濃度で添加した。SS-20(Phe-D-Arg-Phe-Lys-NH2)、SS-21(シクロヘキシル-D-Arg-Phe-Lys-NH2)およびSS-22(Ala-D-Arg-Phe-Lys-NH2)を除いて他の全てのSSペプチドはリノール酸の過酸化の速度を低下させた(共役ジエンの形成速度を低下させた)。SS-20、SS-21およびSS-22はチロシン残基もジメチルチロシン残基も含まないことに注意されたし。SS-29はDmt-D-Cit-Phe Lys-NH2であり、SS-30はPhe-D-Arg-Dmt-Lys-NH2であり、SS-32はDmt-D-Arg-Phe-Ahp(2-アミノヘプタン酸)-NH2である。
【0060】
実施例6:単離したマウス肝臓ミトコンドリアによる過酸化水素生成(図4)
ミトコンドリアはROS生成の主要供給源なので、基底状態およびアンチマイシン(複合体IIIの阻害因子)処理後の単離ミトコンドリアにおけるH2O2形成に対するSS-02の効果を調べた。肝臓をマウスから集め氷冷却バッファー中でホモゲナイズし、13800 x gで10分間遠心した。ペレットを一度洗浄し、0.3mlの洗浄バッファーに再懸濁し、使用時まで氷中に置いた。H2O2は従前に記載されたように(Y.Li, H.Zhu, M.A. Trush, Biochim. Biophys. Acta. 1428, 1-12 (1999))ルミノール化学発光を利用して測定した。0.1mgのミトコンドリアタンパク質をSSペプチドと共に(100μM)または非存在下で0.5mlのリン酸カリウムバッファー(100mM、pH8.0)に添加した。25mM ルミノールおよび0.7 IUホースラディッシュペルオキシダーゼを添加し、化学発光をChronologモデル560凝集検出器(Havertown, PA)で37℃にて20分間監視した。生成したH2O2の量を20分間のカーブ下の面積(AUC)として定量し、全てのデータはミトコンドリアのみで生成されたAUCに対して正規化した。
【0061】
(A)生成H2O2の量は10μM SS-02の存在下で有意に低下した。アンチマイシン(1μM)を添加すると単離ミトコンドリアによるH2O2の量が増加し、この増加は10μM Dmt1-DALDA(本明細書ではdDALDAとも称される)によって完全に阻止された。
(B)生成するH2O2の量はペプチドSS-02、SS-29、SS-30、SS-31によって有意に低下した。SS-21およびSS-22はH2O2生成に全く影響がなかった。SS-21およびSS-22はチロシンまたはジメチルチロシン残基を含まないことに注意されたし。アミノ酸Dmt(ジメチルチロシン)だけでもH2O2生成を阻害した。
【0062】
実施例7:SS-31は単離ミトコンドリアによるH2O2生成を抑制する(図5)
H2O2は従前に記載されたように(Y.Li, H.Zhu, M.A. Trush, Biochim. Biophys. Acta. 1428, 1-12 (1999))ルミノール化学発光を利用して測定した。0.1mgのミトコンドリアタンパク質をSS-31と共にまたは非存在下で0.5mlのリン酸カリウムバッファー(100mM、pH8.0)に添加した。25mM ルミノールおよび0.7 IUホースラディッシュペルオキシダーゼを添加し、化学発光をChronologモデル560凝集検出器(Havertown, PA)で37℃にて20分間監視した。生成したH2O2の量を20分間のカーブ下の面積(AUC)として定量し、全てのデータはミトコンドリアのみで生成されたAUCに対して正規化した。
(A)SS-31は単離ミトコンドリアによる自発的H2O2生成を用量依存的に低下させた。
(B)SS-31は単離ミトコンドリアにおけるアンチマイシンによって誘導されるH2O2生成を低下させた。
【0063】
実施例8:SS-02およびSS-31は細胞内ROSを低下させ細胞生存性を増大させた(図6)
請求項記載のペプチドが細胞全体に適用された場合に有効であることを示すため、N2A細胞を96ウェルプレートに1x 104/ウェルの密度でプレーティングし、2日間増殖させ、その後tBHP(0.5又は1mM)で40分間処理した。細胞を2回洗浄し、培地のみまたは種々の濃度のSS-02若しくはSS-31を含む培地中に4時間置いた。細胞内ROSはカルボキシ-H2DCFDA(Molecular Probes, Portland, OR)によって測定した。細胞死は細胞増殖アッセイ(MTTアッセイ、Promega, Madison,WI)によって評価した。
tBHPとインキュベーションすると細胞内ROSの用量依存的増加がもたらされ(A)、細胞生存性が低下した(BおよびC)。これらの細胞をSS-31またはSS-02とインキュベーションすると用量依存的に細胞内ROSが低下し(A)、細胞生存性が増加し(BおよびC)、EC50はnM範囲であった。
【0064】
実施例9:SS-31は細胞生存性の低下を防止する
神経系細胞N2AおよびSH-SY5Yを1x104/ウェルの密度で96ウェルプレート中にプレーティングし、2日間増殖させ、その後SS-31と共に(10-12M〜10-9M)若しくはSS-31無しででt-ブチルヒドロペルオキシド(tBHP)(0.05〜0.1mM)で24時間処理した。細胞死は細胞増殖アッセイ(MTTアッセイ、Promega, Madison,WI)によって評価した。
低用量のt-BHP(0.05〜0.1mM)によるN2A細胞およびSH-SY5Y細胞の24時間の処理は細胞生存率の低下を生じさせた。(A)0.05mM t-BHPはN2A細胞において50%の細胞生存率の低下を生じさせ、SH-SY5Y細胞においては30%の細胞生存率の低下を生じさせた。(B)0.1mM t-BHPはSH-SY5Y細胞においてより大きな細胞生存率の低下を生じさせた。細胞のSS-31による同時処理はt-BHP-誘導毒性の用量依存性低減をもたらした。1nMのSS-31によってt-BHPに対する完全な保護が達成された。
【0065】
実施例10:SS-31はカスパーゼ活性を低下させる(図8)
N2A細胞を96ウェルプレートで増殖させ、SS-31の存在下(10-11M〜10-8M)またはSS-31無しで37℃にて12〜24時間t-BHP(0.05mM)で処理した。全ての処理は四つ組で行った。N2A細胞をSS-31と共にまたはSS-31無しでt-BHP(50mM)と37℃にて12時間インキュベーションした。細胞剥離液(Accutase, Innovative Cell Technologies, Inc., San Diego, CA)により細胞を静かにプレートから浮き上がらせ、PBSで2回洗浄した。カスパーゼ活性はFLICAキット(Immunochemistry Technologies LLC, Bloomington, MN)を用いてアッセイした。業者の推奨に従って、細胞をPBS中に再懸濁し(約5x106細胞/ml)、汎-カスパーゼ阻害剤FAM-VAD-FMKで37℃にて5%CO2下で1時間標識し、光から保護した。次に細胞をリンスして結合していない試薬を除去し、固定した。緑色に対する標準放射光フィルター(FL1)を用いてレーザー走査サイトメーター(Beckman-Coulter XL, Beckman Coulter, Inc., Fullerton, CA)で細胞中の蛍光強度を測定した。各実験につき10,000の個別の事象を集め、オフライン解析用にリストモードファイルに保存した。
カスパーゼ活性化はアポトーシスカスケードの開始誘因事象であり、我々の結果により50mM t-BHPと12時間インキュベーションしたSH-SY5Y細胞におけるカスパーゼ活性の有意な増加が示され、その増加はSS-31の濃度増加によって用量依存的に阻止されることが示された。
【0066】
実施例11:SS-31はROS蓄積速度を低下させる(図9)
細胞内ROSは蛍光プローブDCFH-DA(5-(および -6)-カルボキシ-2',7'-ジクロロジヒドロフルオレセインジアセテート)を用いて評価した。DCFH-DAは受動的に細胞内に入り、脱アシルして非蛍光DCFHになる。DCFHはROSと反応してDCF(蛍光産物)となる。96ウェルプレート中のN2A細胞をHBSSで洗浄し10μMのDCFDAを37℃にて30分間装荷した。細胞をHBSSで3回洗浄し、0.1mMのt-BHPに単独で、またはSS-31と共に曝露した。DCFHのDCFへの酸化をリアルタイムで蛍光マイクロプレート読み取り器(Molecular Devices)を用いて励起用に485nmおよび放射用に530nmで監視した。
0.1mMのt-BHPで処理したN2A細胞におけるROS蓄積速度はSS-31の添加によって用量依存的に阻止された。
【0067】
実施例12:SS-31は酸化的損傷に曝露された細胞における脂質過酸化を抑制した(図10)
SS-31はt-BHPで処理したN2A細胞における脂質過酸化を抑制した。脂質過酸化はHNEミカエル付加物を測定することによって評価した。4-HNEは膜非飽和ポリ脂肪酸過酸化物の主要アルデヒド産物の一つである。N2A細胞をガラス底培養皿上に播き、1日後にSS-31(10-8〜10-10M)の存在下または非存在下でt-BHP処理(1mM、3h、37℃、5%CO2)した。次に細胞をPBSで2回洗浄し、PBS中の4%パラホルムアルデヒドで30分間室温にて固定し、PBSで3回洗浄した。細胞を次に透過処理し、ウサギ抗-HNE抗体で処理し続いて二次抗体(ヤギ抗-ウサギIgGビオチン結合体)で処理した。細胞をベクタシールド(Vectashield)に取り付けZeiss蛍光顕微鏡を用い、励起波長460±20nm、放射光用にロングパスフィルター505nmを用いて画像化した。
(A)未処理細胞;(B)1mM t-BHPで3時間処理した細胞;(C)1mM t-BHPと10nM SS-31で3時間処理した細胞。
【0068】
実施例13:SS-02は過酸化水素に曝露した細胞におけるミトコンドリア膜電位の損失を抑制する
Caco-2細胞をtBHP(1mM)でSS-01(0.1μM)の存在下または非存在下で4時間処理し、次にTMRMとインキュベーションし、LSCM下で調べた。対照細胞においては、ミトコンドリアは細胞質全体にわたる細い縞として明瞭に視覚化される。tBHPで処理した細胞においてはTMRM蛍光はずっと低下し、全体的な脱分極が示唆された。対照的にSS-02と同時処理するとtBHPによって引き起こされるミトコンドリア脱分極に対して保護された。
【0069】
実施例14:SS-31はt-BHPへの曝露によって生じるN2A細胞におけるミトコンドリア膜電位損失およびROS蓄積の増加を防止する(図11)
ガラス底培養皿中のN2A細胞を0.1mM t-BHP単独で、または1nMのSS-31と共に6時間処理した。次に細胞に10μmのジクロロフルオレセイン(ex/em=485/530)を37℃、5%CO2にて30分間装荷した。次に、細胞をHBSSによる3回の洗浄にかけ、20nMのMitotracker TMRM(ex/em=550/575nm)で37℃にて15分間染色し、共焦点レーザー操作顕微鏡で調べた。
t-BHPによるN2A細胞の処理によりTMRM蛍光の減損が生じたが、これはミドコンドリアの脱分極を示す。同時にDCF蛍光の増加も見られたが、これは細胞内ROSの増加を示す。1nM SS-31との同時処理はミトコンドリアの脱分極を防止し、ROS蓄積を低下させた。
【0070】
実施例15:SS-31は酸化的ストレスによって生じるアポトーシスを防止する(図12)
SH-SY5Y細胞を96ウェルプレートで増殖させ、SS-31(10-12M〜10-9M)の存在下または非存在下でt-BHP(0.025mM)により37℃にて4時間処理した。全ての処理は4つ組で行った。次に細胞を2mg/mlヘキスト33342で20分間染色し、4%パラホルムアルデヒドで固定し、Zeiss Acroplan X20対物レンズを備えたZeiss蛍光顕微鏡(Axiovert 200M)で画像化した。核形態は励起波長350±10nmおよび放射光用に400nmのロングパスフィルターを用いて評価した。全ての画像はMetaMorphソフトウエア(Universal Imaging Corp., West Chester, PA)を用いて処理および解析した。均一に染色された核は健全な生きたニューロンとして記録し、凝集または断片化した核はアポトーシス核として記録した。
SS-31は低用量のt-BHPによって誘導されるアポトーシスを防止する。アポトーシスは蛍光プローブヘキスト33342を用いて共焦点顕微鏡によって評価した。(A1)t-BHPで処理しない細胞の代表的な像。(A2)アポトーシス核の指標である、凝集、断片化したクロマチンを有する幾つかの細胞を示す代表的な像。(A3)0.025mM t-BHPで24時間処理した細胞の代表的な像。(A4)アポトーシス核を有する細胞の数の増加を示す蛍光画像。(A5)0.025mM t-BHPと1nM SS-31とで24時間処理した細胞の代表的な像。(A6)アポトーシス核を有する細胞の数の減少を示す蛍光画像。
(B)SS-31は低用量のt-BHP(0.05mM)の24時間処理によって引き起こされるアポトーシス細胞の割合を用量依存的に低下させる。
【0071】
実施例16:SS-31は短時間間隔の虚血−再灌流を施された心臓における脂質過酸化を防止する(図13)
単離したモルモットの心臓をランゲンドルフ装置中で逆行性に灌流し、種々の間隔の虚血-再灌流を行った。次に心臓を直ちに固定し、パラフィン中に包埋した。パラフィン切片中の4-ヒドロキシ-2-ノネノール(HNE)-修飾タンパク質の免疫組織化学的解析を抗-HNE抗体を用いて行った。
(A)(a)バッファー、(b)100nM SS-02、(c)100nM SS-20および(d)1nM SS-31で30分間有酸素的に灌流し、次に30分間虚血させ、前記ペプチドで90分間再灌流したモルモット心臓のパラフィン切片における4-ヒドロキシ-2-ノネノール(HNE)-修飾タンパク質の免疫組織化学的解析。組織切片を抗-HNE抗体とインキュベーションした。(e)バックグラウンド対照:一次抗体無しで染色した。
(B)バッファーで30分間有酸素的に灌流し、次に30分間虚血させ、(a)バッファー、(b)100nM SS-02、(c)100nM SS-20および(d)1nM SS-31で90分間再灌流したモルモット心臓のパラフィン切片における4-ヒドロキシ-2-ノネノール(HNE)-修飾タンパク質の免疫組織化学的解析。組織切片を抗-HNE抗体とインキュベーションした。(e)バックグラウンド対照:一次抗体無しで染色した。
【0072】
実施例17:長期の低温虚血とそれに続く温再灌流を受けた心臓においてSS-31は冠血流を増大させ脂質過酸化及びアポトーシスを低下させる(図14)
単離したモルモットの心臓をランゲンドルフ装置中でSS-31(1nM)を含むまたは含まない心筋保護溶液(St.Thomas液)で逆行性灌流を3分間行い、クランプし、4℃に18時間に保存した。続いて、この心臓をランゲンドルフ装置に再び取り付け、クレブス-ヘンゼライト(Krebs-Henselit)溶液で34℃にて90分間再灌流した。次に心臓を迅速に固定し、パラフィン包埋した。
(A)SS-31は18時間の低温虚血保存後の心臓における冠血流を有意に改善した。影を付けた部分は18時間の低温虚血である。
(B)SS-31(1nM)と共に(a)または無しで(b)保存したモルモット心臓のパラフィン切片におけるHNE-修飾タンパク質の免疫組織化学解析。(c)一次抗体無しで染色したバックグラウンド。
(C)SS-31は長期(18h)低温虚血後に温再灌流した単離モルモット心臓において内皮細胞および心筋細胞のアポトーシスを阻止する。アポトーシスはTUNEL染色(緑色)で評価し、核はDAPI(青色)で視覚化した。
【0073】
実施例18:SS-31はマウス膵臓から単離した膵島細胞の生存性を増大させる(図15)
(A)SS-31はマウス膵臓から単離した膵島細胞においてミトコンドリア膜電位を改善する。膵臓をマウスから集め膵島細胞を標準的方法に従って調製した。ある実験ではSS-31(1nM)を単離操作に使用した単離バッファーの全てに添加した。ミトコンドリア膜電位はTMRM(赤色)を用いて測定し、共焦点顕微鏡によって視覚化した。
(B)SS-31はマウス膵臓から単離した膵島細胞においてアポトーシスを減少させ、生存性を増大させる。膵臓をマウスから集め膵島細胞を標準的方法に従って調製した。る実験ではSS-31(1nM)を単離操作に使用した単離バッファーの全てに添加した。アポトーシスをフローサイトメトリーによりアネクシンVを用いて確認し、ネクローシスはヨウ化プロピジウムによって確認した。
【0074】
実施例19:SS-31は酸化的損傷に対して膵島細胞を保護する(図16)
何も処理しない(a)、またはSS-31なしで25μM tBHPで処理(b)、または、1nMのSS-31と共に25μM tBHPで処理した(c)。ミトコンドリア膜電位はTMRM(赤色)で測定し、反応性酸素種は共焦点顕微観察を用いてDCF(緑色)によって測定した。
【0075】
実施例20:SS-31はパーキンソン病から保護する(図17)
MPTPは選択的に線条体ドーパミンニューロンを選択的に破壊する神経毒であり、パーキンソン病の動物モデルとして使用できる。MPP+はMPTPの代謝物であり、ミトコンドリアを標的とし、電子輸送鎖の複合体Iを阻害し、ROS産生を増大させる。培養細胞はMPTPを活性代謝物に代謝することができないので培養細胞研究にはMPP+が使用される。MPTPは動物実験に使用される。
(A)SS-31はMPP+毒性からドーパミン細胞を保護する。SN-4741細胞バッファー、50μ MMPP+または50μM MPP+と1nM SS-31で48時間処理し、アポトーシス事象をヘキスト33342を用いて蛍光顕微観察により決定した。凝集、断片化した核の数はMPP+処理によって有意に増加した。SS-31による同時処理はアポトーシス細胞の数を低下させた。
(B)SS-31はMPTPで処置したマウスにおけるドーパミンニューロンの損失を用量依存的に妨げた。3用量のMPTP(10mg/kg)を2時間間隔でマウス(n=12)に与えた。SS-31を各MPTP注射の30分前、および最後のMPTP注射の1時間および12時間後に投与した。1週間後に動物を犠牲にし、脳の線条体領域をチロシンヒドロキシラーゼ活性について免疫染色した。
(C)SS-31はMPTP処置したマウスにおいて線条体ドーパミン、DOPAC(3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸)およびHVA(ホモバニリン酸)レベルを用量依存的に増加させた。2時間間隔で3用量のMPTP(10mg/kg)をマウス(n=12)に投与した。SS-31を各MPTP注射の30分前、および最後のMPTP注射の1時間および12時間後に投与した。1週間後に動物を犠牲にし、ドーパミン、DOPACおよびHVAレベルを高圧液体クロマトグラフィーによって定量した。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1A】SS-02は用量依存的にH2O2を除去する。
【図1B】SS-05は用量依存的にH2O2を除去する。
【図2A】SS-02はABAPによって誘導されるリノール酸過酸化を用量依存的に抑制する。
【図2B】SS-02、SS-05、SS-29、SS-30、SS-31、SS-32およびDmtはABAPによって誘導されたリノール酸過酸化の速度を低下させる。
【図3A】SS-02は10mM CuSO4によって誘導されるLDL酸化を用量依存的に抑制する。
【図3B】SS-02、SS-05、SS-29、SS-30、SS-31、SS-32およびDmtはLDL酸化の速度を低下させた。
【図4A】基底状態およびアンチマイシン刺激後にルミノール化学発光測定によれば、SS-02は過酸化水素のミトコンドリア産生を抑制する。
【図4B】SS-02、SS-29、SS-30およびSS-31は単離ミトコンドリアによって産生される自発的過酸化水素生成を低下させた。
【図5A】SS-31は単離ミトコンドリアにおける過酸化水素の自発的生成を抑制する。
【図5B】SS-31はアンチマイシンによって刺激された過酸化水素生成を抑制する。
【図6A】SS-31はプロ-酸化剤t-ブチルヒドロペルオキシド(t-BHP;0.5mM)の高用量に曝露したN2A細胞の細胞内ROS(反応性酸素種)を用量依存的に減少させた。
【図6B】SS-31はプロ-酸化剤t-ブチルヒドロペルオキシド(t-BHP;0.5mM)の高用量に曝露したN2A細胞の細胞生存率を用量依存的に増加させた。
【図6C】SS-02も1mM t-BHPに曝露したN2A細胞の細胞生存率を用量依存的に増加させた。
【図7A】SS-31はSH-SY5Y神経系細胞において低用量のt-BHP(0.05〜0.1mM)による細胞生存率の低下を用量依存的に防止した。
【図7B】SS-31はN2A神経系細胞において低用量のt-BHP(0.05〜0.1mM)による細胞生存率の低下を用量依存的に防止した。
【図8】SS-31は、N2A細胞において12時間の低用量t-BHP処理後にカスパーゼ活性の増大を示す細胞の割合を用量依存的に低下させた。
【図9】SS-31は0.1mM t-BHPで処理したN2A細胞におけるROS蓄積速度を4時間にわたって用量依存的に低下させた。
【図10】SS-31は、1mM t-BHPに1時間曝露したN2A細胞によって生じる脂質過酸化を抑制した。(A)未処理細胞;(B)1mM t-BHPで3時間処理した細胞;(C)1mM t-BHPおよび10nM SS-31で3時間処理した細胞。
【図11】SS-31は、t-BHPに曝露したN2A細胞におけるミトコンドリア脱分極およびROS蓄積を防止した。
【図12A1】SS-31は、低用量t-BHPによって誘導されるアポトーシスを防止する。アポトーシスは蛍光プローブヘキスト33342を用いた共焦点顕微観察によって評価した。(A1)t-BHPで処理しない細胞の代表的な像。
【図12A2】SS-31は、低用量t-BHPによって誘導されるアポトーシスを防止する。アポトーシスは蛍光プローブヘキスト33342を用いた共焦点顕微観察によって評価した。(A2)アポトーシス核の指標である、凝集、断片化したクロマチンを有する幾つかの細胞を示す蛍光画像。
【図12B1】SS-31は、低用量t-BHPによって誘導されるアポトーシスを防止する。アポトーシスは蛍光プローブヘキスト33342を用いた共焦点顕微観察によって評価した。(B1)0.025mM t-BHPで24時間処理した細胞の代表的な像。
【図12B2】SS-31は、低用量t-BHPによって誘導されるアポトーシスを防止する。アポトーシスは蛍光プローブヘキスト33342を用いた共焦点顕微観察によって評価した。(A1)t-BHPで処理しない細胞の代表的な像。(B2)アポトーシス核を有する細胞の数の増加を示す蛍光画像。
【図12C1】SS-31は、低用量t-BHPによって誘導されるアポトーシスを防止する。アポトーシスは蛍光プローブヘキスト33342を用いた共焦点顕微観察によって評価した。(C1)0.025mM t-BHPおよび1nM SS-31で24時間処理した細胞の代表的な像。
【図12C2】SS-31は、低用量t-BHPによって誘導されるアポトーシスを防止する。アポトーシスは蛍光プローブヘキスト33342を用いた共焦点顕微観察によって評価した。(C2)アポトーシス核を有する細胞の数の減少を示す蛍光画像。
【図12D】SS-31低用量t-BHPによって誘導されるアポトーシスを防止する。アポトーシスは蛍光プローブヘキスト33342を用いた共焦点顕微観察によって評価した。(D)SS-31は低用量t-BHP(0.05mM)の24時間処理によって引き起こされたアポトーシス細胞の割合を用量依存的に低下させた。
【図13A】SS-02およびSS-31は短期間の虚血後に温再灌流を受けた単離モルモット心臓における脂質過酸化を低減した。(a)バッファー、(b)100nM SS-02、(c)100nM SS-20および(d)1nM SS-31で30分間有酸素的に灌流し、次に30分間虚血させ、対応するペプチドで90分間再灌流したモルモット心臓のパラフィン包埋切片における4-ヒドロキシ-2-ノネノール(HNE)-修飾タンパク質の免疫組織化学的解析。組織切片は抗-HNE抗体とインキュベーションした。(e)バックグラウンド対照:一次抗体無しで染色。
【図13B】SS-02およびSS-31は短期間の虚血後に温再灌流を受けた単離モルモット心臓における脂質過酸化を低減した。バッファーで30分間有酸素的に灌流し、次に30分間虚血させ、(a)バッファー、(b)100nM SS-02、(c)100nM SS-20および(d)1nM SS-31、で90分間再灌流したモルモット心臓のパラフィン包埋切片における4-ヒドロキシ-2-ノネノール(HNE)-修飾タンパク質の免疫組織化学的解析。組織切片は抗-HNE抗体とインキュベーションした。(e)バックグラウンド対照:一次抗体無しで染色。
【図14A】SS-31は長時間(18時間)低温虚血後に温再灌流した単離モルモット心臓における冠血流を有意に改善した。影を付けた領域は4℃にて18時間の虚血を表す。
【図14B】1nMのSS-31を含まない(a)または含む(b)心筋保護溶液(St. Thomas Solution)で3分間灌流し、次に低温(4℃)にて18時間虚血させたモルモットの心臓。(c)一次抗体で染色したバックグラウンド。心臓は次にバッファーで34℃にて90分間再灌流した。
【図14C】SS-31は、長時間(18h)低温虚血後に温再灌流した単離したモルモット心臓における内皮細胞および筋細胞のアポトーシスを阻止する。モルモット心臓を1nMのSS-31を含むまたは含まない心筋保護溶液(St. Thomas Solution)で3分間灌流し、次に18時間の低温虚血(4℃)下においた。次に心臓をバッファーで34℃にて90分間再灌流した。アポトーシスはTUNEL染色(緑色)で評価し、核はDAPI(青色)で視覚化した。
【図15A】SS-31は、ミトコンドリア膜電位測定によれば、マウス膵臓から単離した膵島細胞の生存性を改善する。全単離工程を通じて、使用するバッファーにSS-31(1nM)を添加した。ミトコンドリア膜電位はTMRM(赤色)を用いて共焦点顕微観察で測定した。
【図15B】SS-31は、フローサイトメトリー測定によれば、マウス膵臓から単離した膵島細胞におけるアポトーシスを低下させ生存性を増大させる。全単離工程を通じて、使用するバッファーにSS-31(1nM)を添加した。アポトーシスはアネクシンVにより、ネクローシスはヨウ化プロピジウムによって確認した。
【図16】SS-31は膵島細胞においてt-ブチルヒドロキシペルオキシド(tBHP)によって生じる酸化的損傷を低減する。マウス膵島細胞を、何も処理しない(a)、またはSS-31なしで25μM tBHPで処理(b)、または、1nMのSS-31と共に25μM tBHPで処理した(c)。ミトコンドリア膜電位はTMRM(赤色)で測定し、反応性酸素種は共焦点顕微観察を用いてDCF(緑色)によって測定した。
【図17A】SS-31はMPP+毒性からドーパミン細胞を保護する。SN-4741細胞バッファー、50μ MMPP+または50μM MPP+と1nM SS-31で48時間処理し、アポトーシス事象をヘキスト33342で蛍光顕微観察により決定した。凝集、断片化した核の数はMPP+処理によって有意に増加した。SS-31との同時処理はアポトーシス細胞の数を低下させた。
【図17B】SS-31はMPTPで処置したマウスにおけるドーパミンニューロンの損失を用量依存的に妨げた。3用量のMPTP(10mg/kg)を2時間間隔でマウス(n=12)に与えた。SS-31を各MPTP注射の30分前、および最後のMPTP注射の1時間および12時間後に投与した。1週間後に動物を犠牲にし、脳の線条体領域をチロシンヒドロキシラーゼ活性について免疫染色した(黒で示した)。
【図17C】SS-31はMPTP処置したマウスにおいて線条体ドーパミン、DOPAC(3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸)およびHVA(ホモバニリン酸)レベルを用量依存的に増加させた。2時間間隔で3用量のMPTP(10mg/kg)をマウス(n=12)に投与した。SS-31を各MPTP注射の30分前、および最後のMPTP注射の1時間および12時間後に投与した。1週間後に動物を犠牲にし、ドーパミン、DOPACおよびHVAレベルを高圧液体クロマトグラフィーによって定量した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の性質を有する芳香族カチオン性ペプチドの有効量を哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物において酸化的損傷を軽減する方法:
(a)少なくとも1個の正味の正電荷を有する;
(b)最小限3個のアミノ酸を有する;
(c)最大約20のアミノ酸を有する;
(d)正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)の間に、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係がある;
(e)芳香族基の最小数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との間に、3aがpt+1以下の最大の数であるという関係を有し、ただし、aが1である場合は、ptも1であってよく;および、
(f)少なくとも一つのチロシンまたはトリプトファンを含む。
【請求項2】
2pmがr+1以下の最大の数である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
aがptに等しい、請求項1記載の方法。
【請求項4】
ペプチドが最小限2個の正電荷を有する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
ペプチドが最小限3個の正電荷を有する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
ペプチドが水溶性である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
ペプチドが1以上のD-アミノ酸を含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
C-末端のアミノ酸のC-末端カルボキシル基がアミド化されている、請求項1記載の方法。
【請求項9】
ペプチドが1以上の非天然アミノ酸を含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
ペプチドが最小限4個のアミノ酸を有する、請求項1記載の方法。
【請求項11】
ペプチドが最大約12個のアミノ酸を有する、請求項1記載の方法。
【請求項12】
ペプチドが最大約9個のアミノ酸を有する、請求項1記載の方法。
【請求項13】
ペプチドが最大約6個のアミノ酸を有する、請求項1記載の方法。
【請求項14】
ペプチドがμ-オピオイドレセプターアゴニスト活性を有する、請求項1記載の方法。
【請求項15】
ペプチドがμ-オピオイドレセプターアゴニスト活性を有しない、請求項1記載の方法。
【請求項16】
ペプチドが式D-Arg-Dmt-Lys-Phe-NH2で表される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
ペプチドがN-末端にチロシン残基を含む、請求項14記載の方法。
【請求項18】
ペプチドが、N-末端に2’,6’-ジメチルチロシン残基を含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
ペプチドが、N-末端にD-アルギニン残基を含む、請求項15記載の方法。
【請求項20】
ペプチドが、N-末端にフェニルアラニン残基を含む、請求項15記載の方法。
【請求項21】
ペプチドがN-末端に2’,6’-ジメチルフェニルアラニン残基を含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
ペプチドが式Tyr-D-Arg-Phe-Lys-NH2(DALDA)で表される、請求項17記載の方法。
【請求項23】
ペプチドが式2’,6’-Dmt-D-Arg-Phe-Lys-NH2(Dmt1-DALDA)で表される、請求項18記載の方法。
【請求項24】
ペプチドが式Phe-D-Arg-Dmt-Lys-NH2で表される、請求項20記載の方法。
【請求項25】
ペプチドが式2’,6’-Dmp-D-Arg-Dmt-Lys-NH2で表される、請求項21記載の方法。
【請求項26】
ペプチドが経口的に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項27】
ペプチドが局所的に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項28】
ペプチドが経鼻的に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項29】
ペプチドが全身的に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項30】
ペプチドが静脈内投与される、請求項27記載の方法。
【請求項31】
ペプチドが皮下投与される、請求項1記載の方法。
【請求項32】
ペプチドが筋肉内投与される、請求項1記載の方法。
【請求項33】
ペプチドが脳室内投与される、請求項1記載の方法。
【請求項34】
ペプチドがくも膜下腔内投与される、請求項1記載の方法。
【請求項35】
ペプチドが経皮投与される、請求項1記載の方法。
【請求項36】
経皮投与がイオン導入による、請求項35記載の方法。
【請求項37】
哺乳動物が再灌流を受けている、請求項1記載の方法。
【請求項38】
再灌流が虚血の治療である、請求項1記載の方法。
【請求項39】
虚血が脳卒中のためである、請求項38記載の方法。
【請求項40】
哺乳動物が敗血症に罹っている、請求項1記載の方法。
【請求項41】
哺乳動物が炎症性疾患に罹っている、請求項1記載の方法。
【請求項42】
哺乳動物が関節炎に罹っている、請求項41記載の方法。
【請求項43】
哺乳動物が糖尿病に罹っている、請求項1記載の方法。
【請求項44】
哺乳動物が多発性硬化症に罹っている、請求項41記載の方法。
【請求項45】
哺乳動物が肝臓損傷を受けている、請求項1記載の方法。
【請求項46】
肝臓障害がウイルス感染によって引き起こされている、請求項45記載の方法。
【請求項47】
肝臓損傷が毒物によって引き起こされている、請求項45記載の方法。
【請求項48】
哺乳動物が神経変性疾患に罹っているまたは神経変性状態にある、請求項1記載の方法。
【請求項49】
神経変性疾患または状態がパーキンソン病である、請求項48記載の方法。
【請求項50】
神経変性疾患または状態がアルツハイマー病である、請求項48記載の方法。
【請求項51】
神経変性疾患または状態がハンチントン病である、請求項48記載の方法。
【請求項52】
神経変性疾患または状態が筋萎縮性側索硬化(ALS)である、請求項48記載の方法。
【請求項53】
哺乳動物がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項54】
以下の性質を有する芳香族カチオン性ペプチドの有効量を取り出した哺乳動物の器官に投与することを含む、取り出した哺乳動物の器官における酸化的損傷を軽減する方法:
(a)少なくとも1個の正味の正電荷を有する;
(b)最小限4個のアミノ酸を有する;
(c)最大約20のアミノ酸を有する;
(d)正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)の間に、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係がある;
(e)芳香族基の最小数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との間に、2aがpt+1以下の最大の数であるという関係があり、ただし、aが1である場合は、ptも1であってよく;および、
(f)少なくとも一つのチロシンまたはトリプトファンを含む。
【請求項55】
以下の性質を有する芳香族カチオン性ペプチドの有効量を哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物において酸化的損傷を軽減する方法:
(a)少なくとも1個の正味の正電荷を有する;
(b)最小限3個のアミノ酸を有する;
(c)最大約20のアミノ酸を有する;
(d)正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)の間に、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係がある;
(e)芳香族基の最小数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との間に、2aがpt+1以下の最大の数であるという関係があり、ただし、aが1である場合は、ptも1であってよく;および、
(f)少なくとも一つのチロシンまたはトリプトファンを含む。
【請求項56】
以下の性質を有する芳香族カチオン性ペプチドの有効量を取り出した哺乳動物の器官に投与することを含む、取り出した哺乳動物の器官における酸化的損傷を軽減する方法:
(a)少なくとも1個の正味の正電荷を有する;
(b)最小限3個のアミノ酸を有する;
(c)最大約20のアミノ酸を有する;
(d)正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)の間に、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係がある;
(e)芳香族基の最小数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との間に、3aがpt+1以下の最大の数であるという関係があり、ただし、aが1である場合は、ptも1であってよく;および、
(f)少なくとも一つのチロシンまたはトリプトファンを含む。
【請求項57】
以下の性質を有する芳香族カチオン性ペプチドの有効量を細胞に投与することを含む、細胞における酸化的損傷を軽減する方法:
(a)少なくとも1個の正味の正電荷を有する;
(b)最小限3個のアミノ酸を有する;
(c)最大約20のアミノ酸を有する;
(d)正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)の間に、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係がある;
(e)芳香族基の最小数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との間に、3aがpt+1以下の最大の数であるという関係があり、ただし、aが1である場合は、ptも1であってよく;および、
(f)少なくとも一つのチロシンまたはトリプトファンを含む。
【請求項1】
以下の性質を有する芳香族カチオン性ペプチドの有効量を哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物において酸化的損傷を軽減する方法:
(a)少なくとも1個の正味の正電荷を有する;
(b)最小限3個のアミノ酸を有する;
(c)最大約20のアミノ酸を有する;
(d)正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)の間に、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係がある;
(e)芳香族基の最小数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との間に、3aがpt+1以下の最大の数であるという関係を有し、ただし、aが1である場合は、ptも1であってよく;および、
(f)少なくとも一つのチロシンまたはトリプトファンを含む。
【請求項2】
2pmがr+1以下の最大の数である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
aがptに等しい、請求項1記載の方法。
【請求項4】
ペプチドが最小限2個の正電荷を有する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
ペプチドが最小限3個の正電荷を有する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
ペプチドが水溶性である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
ペプチドが1以上のD-アミノ酸を含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
C-末端のアミノ酸のC-末端カルボキシル基がアミド化されている、請求項1記載の方法。
【請求項9】
ペプチドが1以上の非天然アミノ酸を含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
ペプチドが最小限4個のアミノ酸を有する、請求項1記載の方法。
【請求項11】
ペプチドが最大約12個のアミノ酸を有する、請求項1記載の方法。
【請求項12】
ペプチドが最大約9個のアミノ酸を有する、請求項1記載の方法。
【請求項13】
ペプチドが最大約6個のアミノ酸を有する、請求項1記載の方法。
【請求項14】
ペプチドがμ-オピオイドレセプターアゴニスト活性を有する、請求項1記載の方法。
【請求項15】
ペプチドがμ-オピオイドレセプターアゴニスト活性を有しない、請求項1記載の方法。
【請求項16】
ペプチドが式D-Arg-Dmt-Lys-Phe-NH2で表される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
ペプチドがN-末端にチロシン残基を含む、請求項14記載の方法。
【請求項18】
ペプチドが、N-末端に2’,6’-ジメチルチロシン残基を含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
ペプチドが、N-末端にD-アルギニン残基を含む、請求項15記載の方法。
【請求項20】
ペプチドが、N-末端にフェニルアラニン残基を含む、請求項15記載の方法。
【請求項21】
ペプチドがN-末端に2’,6’-ジメチルフェニルアラニン残基を含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
ペプチドが式Tyr-D-Arg-Phe-Lys-NH2(DALDA)で表される、請求項17記載の方法。
【請求項23】
ペプチドが式2’,6’-Dmt-D-Arg-Phe-Lys-NH2(Dmt1-DALDA)で表される、請求項18記載の方法。
【請求項24】
ペプチドが式Phe-D-Arg-Dmt-Lys-NH2で表される、請求項20記載の方法。
【請求項25】
ペプチドが式2’,6’-Dmp-D-Arg-Dmt-Lys-NH2で表される、請求項21記載の方法。
【請求項26】
ペプチドが経口的に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項27】
ペプチドが局所的に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項28】
ペプチドが経鼻的に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項29】
ペプチドが全身的に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項30】
ペプチドが静脈内投与される、請求項27記載の方法。
【請求項31】
ペプチドが皮下投与される、請求項1記載の方法。
【請求項32】
ペプチドが筋肉内投与される、請求項1記載の方法。
【請求項33】
ペプチドが脳室内投与される、請求項1記載の方法。
【請求項34】
ペプチドがくも膜下腔内投与される、請求項1記載の方法。
【請求項35】
ペプチドが経皮投与される、請求項1記載の方法。
【請求項36】
経皮投与がイオン導入による、請求項35記載の方法。
【請求項37】
哺乳動物が再灌流を受けている、請求項1記載の方法。
【請求項38】
再灌流が虚血の治療である、請求項1記載の方法。
【請求項39】
虚血が脳卒中のためである、請求項38記載の方法。
【請求項40】
哺乳動物が敗血症に罹っている、請求項1記載の方法。
【請求項41】
哺乳動物が炎症性疾患に罹っている、請求項1記載の方法。
【請求項42】
哺乳動物が関節炎に罹っている、請求項41記載の方法。
【請求項43】
哺乳動物が糖尿病に罹っている、請求項1記載の方法。
【請求項44】
哺乳動物が多発性硬化症に罹っている、請求項41記載の方法。
【請求項45】
哺乳動物が肝臓損傷を受けている、請求項1記載の方法。
【請求項46】
肝臓障害がウイルス感染によって引き起こされている、請求項45記載の方法。
【請求項47】
肝臓損傷が毒物によって引き起こされている、請求項45記載の方法。
【請求項48】
哺乳動物が神経変性疾患に罹っているまたは神経変性状態にある、請求項1記載の方法。
【請求項49】
神経変性疾患または状態がパーキンソン病である、請求項48記載の方法。
【請求項50】
神経変性疾患または状態がアルツハイマー病である、請求項48記載の方法。
【請求項51】
神経変性疾患または状態がハンチントン病である、請求項48記載の方法。
【請求項52】
神経変性疾患または状態が筋萎縮性側索硬化(ALS)である、請求項48記載の方法。
【請求項53】
哺乳動物がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項54】
以下の性質を有する芳香族カチオン性ペプチドの有効量を取り出した哺乳動物の器官に投与することを含む、取り出した哺乳動物の器官における酸化的損傷を軽減する方法:
(a)少なくとも1個の正味の正電荷を有する;
(b)最小限4個のアミノ酸を有する;
(c)最大約20のアミノ酸を有する;
(d)正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)の間に、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係がある;
(e)芳香族基の最小数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との間に、2aがpt+1以下の最大の数であるという関係があり、ただし、aが1である場合は、ptも1であってよく;および、
(f)少なくとも一つのチロシンまたはトリプトファンを含む。
【請求項55】
以下の性質を有する芳香族カチオン性ペプチドの有効量を哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物において酸化的損傷を軽減する方法:
(a)少なくとも1個の正味の正電荷を有する;
(b)最小限3個のアミノ酸を有する;
(c)最大約20のアミノ酸を有する;
(d)正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)の間に、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係がある;
(e)芳香族基の最小数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との間に、2aがpt+1以下の最大の数であるという関係があり、ただし、aが1である場合は、ptも1であってよく;および、
(f)少なくとも一つのチロシンまたはトリプトファンを含む。
【請求項56】
以下の性質を有する芳香族カチオン性ペプチドの有効量を取り出した哺乳動物の器官に投与することを含む、取り出した哺乳動物の器官における酸化的損傷を軽減する方法:
(a)少なくとも1個の正味の正電荷を有する;
(b)最小限3個のアミノ酸を有する;
(c)最大約20のアミノ酸を有する;
(d)正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)の間に、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係がある;
(e)芳香族基の最小数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との間に、3aがpt+1以下の最大の数であるという関係があり、ただし、aが1である場合は、ptも1であってよく;および、
(f)少なくとも一つのチロシンまたはトリプトファンを含む。
【請求項57】
以下の性質を有する芳香族カチオン性ペプチドの有効量を細胞に投与することを含む、細胞における酸化的損傷を軽減する方法:
(a)少なくとも1個の正味の正電荷を有する;
(b)最小限3個のアミノ酸を有する;
(c)最大約20のアミノ酸を有する;
(d)正味の正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)の間に、3pmがr+1以下の最大の数であるという関係がある;
(e)芳香族基の最小数(a)と正味の正電荷の総数(pt)との間に、3aがpt+1以下の最大の数であるという関係があり、ただし、aが1である場合は、ptも1であってよく;および、
(f)少なくとも一つのチロシンまたはトリプトファンを含む。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図12A1】
【図12A2】
【図12B1】
【図12B2】
【図12C1】
【図12C2】
【図12D】
【図13A】
【図13B】
【図14A】
【図14b】
【図16】
【図4A】
【図11】
【図14C】
【図15A】
【図15B】
【図17A】
【図17B】
【図17C】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図12A1】
【図12A2】
【図12B1】
【図12B2】
【図12C1】
【図12C2】
【図12D】
【図13A】
【図13B】
【図14A】
【図14b】
【図16】
【図4A】
【図11】
【図14C】
【図15A】
【図15B】
【図17A】
【図17B】
【図17C】
【公表番号】特表2007−518818(P2007−518818A)
【公表日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−551350(P2006−551350)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【国際出願番号】PCT/US2005/002119
【国際公開番号】WO2005/072295
【国際公開日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(505294425)コーネル リサーチ ファウンデイション インコーポレイテッド (11)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【国際出願番号】PCT/US2005/002119
【国際公開番号】WO2005/072295
【国際公開日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(505294425)コーネル リサーチ ファウンデイション インコーポレイテッド (11)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]