説明

酸化触媒およびこれを用いる酸化分解方法

【課題】圧力損失が小さく、圧力損失による触媒性能の低下を抑制し、半導体製造工業等において発生する各種ガスや、一般工場や家庭等において発生するアンモニアやアミン等の含窒素ガスを含む排ガス、ならびに火力発電所や各種工場等において発生する酸素を過剰に含む排ガスを、酸化分解する触媒と、これを用いた酸化分解方法を提供する。
【解決手段】所定の間隔を持って螺旋状に巻回するコイル状筒材11と該コイル状筒材11の軸方向に沿って接合された支柱12とを備えアルミナを主成分とする担体10に、Ru、Rh、Pd、Os、IrおよびPtから選ばれる1種以上の白金族元素が担持された酸化触媒であり、例えば、パーフルオロ化合物およびフロンを含むガス状含フッ素化合物を、上記触媒および酸素の共存下で、酸化分解する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造工業等において発生する各種ガスや、一般工場や家庭等において発生するアンモニアやアミン等の含窒素ガスを含む排ガス、ならびに火力発電所や各種工場等において発生する酸素を過剰に含む排ガスを酸化分解する触媒およびこれらの酸化分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体製造工業の製造工程においては、可燃性ガスや人体にとって有害なガスを含んだ各種排ガスが発生している。
各種排ガスの例としては、エッチングガスやCVDチャンバークリーニングガスに使用されるフッ化炭素、フッ化窒素、フッ化硫黄等のパーフルオロ化合物(特許文献1)、エッチング装置等から排出される一酸化炭素および水素(特許文献2)、成膜工程等で排出される酢酸n-ブチル等の揮発性有機化合物(特許文献3)、MOCVD(有機金属気相堆積法)や他のCVDプロセスから排出される有機金属化合物を含む有害ガス(特許文献4)がそれぞれ挙げられる。
【0003】
また、一般工場や家庭からは、アンモニアやアミン等の含窒素ガスを含む排ガスが排出され(特許文献5)、火力発電所や各種工場からは、炭化水素を含む酸素過剰な排ガスが排出されている(特許文献6)。
【0004】
従来から、上記した排ガスは、そのままでは可燃性ガスであったり、人体にとって有害なガスであるため、通常、大気中に排出する前にそれぞれ浄化処理を行わなければならなかった。浄化処理方法としては、排ガスを無毒なガスや物質に分解する手段が主に用いられ、そのため、触媒を用いた分解方法等が提案されてきた。中でも、酸化触媒を用いた酸化分解を用いると、排ガスを水や二酸化炭素まで分解することができるので、浄化処理方法として好ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000‐15060号公報
【特許文献2】特開2005‐131584号公報
【特許文献3】特開2007‐222750号公報
【特許文献4】特開2001‐219033号公報
【特許文献5】特開2006‐167493号公報
【特許文献6】特開平10‐314591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した排ガスを分解させる触媒を用いる排ガスの浄化処理方法は、一般に、触媒を固定床反応装置等の反応管に充填し、該反応管に排ガスを通じさせる方法で実施されるため、反応に際しては、反応管の入り口と出口とで圧力差、すなわち圧力損失が生じることがある。この場合の触媒の形状には、例えば、円柱状、円筒状、タブレット状、球状等が挙げられる。このように圧力損失が生じた場合、従来の触媒では、当該触媒が本来有する触媒性能(触媒活性、選択性、触媒寿命)を充分に発揮できなくなるといった問題も生じていた。
【0007】
そこで、本発明は、圧力損失が小さく、圧力損失による触媒性能の低下を抑制し、半導体製造工業等において発生する各種ガスや、一般工場や家庭等において発生するアンモニアやアミン等の含窒素ガスを含む排ガス、ならびに火力発電所や各種工場等において発生する酸素を過剰に含む排ガスを酸化分解する触媒と、これを用いた酸化分解方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、白金族元素を、アルミナを主成分とする担体に担持させた触媒が、排ガスの酸化分解に有効であり、かつ、この触媒の形状を、所定の間隔を持って螺旋状に巻回するコイル状の筒材に対し、その軸方向に沿って支柱を設けた形状とすれば、圧力損失を効果的に低減することができ、触媒が本来有する性能を充分に発現させることが可能になる、という新たな事実を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の酸化触媒は、以下の構成を有する。
(1)所定の間隔を持って螺旋状に巻回するコイル状筒材と該コイル状筒材の軸方向に沿って接合された支柱とを備えアルミナを主成分とする担体に、白金族元素が担持されてなることを特徴とする酸化触媒。
(2)前記触媒は複数の支柱を備えている、(1)記載の酸化触媒。
(3)白金族元素が、Ru、Rh、Pd、Os、IrおよびPtから選ばれる1種以上の元素である、(1)または(2)記載の酸化触媒。
(4)白金族元素がPdであり、その担持量が金属パラジウム換算で0.01〜50重量%である、(1)〜(3)のいずれかに記載の酸化触媒。
(5)前記アルミナの結晶形が、ベーマイト型、擬ベーマイト型、χ型、κ型、ρ型、η型、γ型、擬γ型、δ型、θ型およびα型から選ばれる1種以上である、(1)〜(4)いずれかに記載の酸化触媒。
(6)前記アルミナは、窒素吸着一点法によるBET比表面積測定において0.1m2/g以上のBET比表面積を有するものである、(1)〜(5)のいずれかに記載の酸化触媒。
(7)前記アルミナは、水銀圧入法による細孔容積測定において、極大細孔半径が0.001μm以上であり、かつ累積細孔容積が0.10mL/g以上であるものである、(1)〜(6)のいずれかに記載の酸化触媒。
【0010】
また、本発明に係る各種排ガスを酸化分解する方法は以下の構成を有する。
(8)パーフルオロ化合物およびフロンから選ばれる1種または2種以上の混合物であるガス状含フッ素化合物を、酸素の共存下、(1)〜(7)いずれかに記載の触媒の存在下で、酸化分解する方法。
(9)一酸化炭素および水素を含む排ガスを、酸素の共存下、(1)〜(7)いずれかに記載の触媒の存在下で、酸化分解する方法。
(10)酢酸n−ブチル等の揮発性有機化合物を含む排ガスを、酸素の共存下、(1)〜(7)いずれかに記載の触媒の存在下で、酸化分解する方法。
(11)有機金属化合物を含む排ガスを、酸素の共存下、(1)〜(7)いずれかに記載の触媒の存在下で、酸化分解する方法。
(12)アンモニアやアミン等の含窒素ガスを含む排ガスを、酸素の共存下、(1)〜(7)いずれかに記載の触媒の存在下で、酸化分解する方法。
(13)炭化水素を含み、酸素を還元性物質の完全酸化に必要な量よりも過剰に含む燃焼排ガスなどの排ガスを、酸素の共存下、(1)〜(7)いずれかに記載の触媒の存在下で、酸化分解する方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の酸化触媒は、前記した特定の触媒の形状により、圧力損失が小さく、圧力損失による触媒性能の低下を抑制し、且つ複数の支柱を備えることにより充分な強度と大きな表面積を確保することができる。そのため、本発明の触媒は、高い触媒性能が期待できる。このような本発明の酸化触媒の存在下で酸化分解することにより、各種排ガスを効率よく浄化処理できるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)は、本発明の担体の一実施形態を示す側面図であり、(b)は、(a)の担体を上側から見た上面図であり、(c)は、前記上面図に示すx−x線における断面図である。
【図2】(a)は、本発明の押出成形機の一実施形態における押出し孔部を示す拡大断面図であり、(b)は、(a)の押出成形機を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(酸化触媒の製造方法)
本発明の酸化触媒は、アルミナを主成分とする特定形状の担体に、白金族元素が担持されてなる。
本発明の酸化触媒における担体は、所定の間隔を持って螺旋状に巻回するコイル状筒材と該コイル状筒材の軸方向に沿って接合された複数の支柱とを備えた形状を有している。
【0014】
まず、図面を用いて、本発明の触媒における担体の形状を詳しく説明する。図1(a)は、本発明の触媒における本発明の担体の一実施形態を示す側面図であり、図1(b)は、(a)の担体を上側から見た上面図であり、図1(c)は、前記上面図に示すx−x線における断面図である。
【0015】
図1に示す担体10は、コイル状筒材11と支柱12とからなる。コイル状筒材11は、成形材料を、所定の間隔をもって螺旋状に巻回するように1本の紐状に細長く押出したものであり、筒方向に貫通する孔(貫通孔)13を有する。コイル状筒材11を形成する紐状物の断面形状は、特に制限されるものではなく、例えば、半円形、円形、三角形等のいずれであってもよい。また、その太さは、螺旋状に巻回したときに隣接する同士が所定の間隔を保持することができる程度であれば、特に制限はない。ここで言う所定の間隔とは、特に限定されないが、通常、0.1〜10mm、好ましくは0.5〜5mm程度がよい。なお、この間隔は螺旋の全ての部分において同じである必要はない。
【0016】
コイル状筒材11の寸法は、特に制限されるものではないが、例えば、長さ(筒の高さ)は1〜50mm、好ましくは3〜30mm程度がよく、径(筒全体の外径)は1〜50mm、好ましくは3〜30mm程度がよく、貫通孔13の孔径は0.1〜49mm、好ましくは0.2〜48mm程度がよい。
なお、図1に示す担体10の場合、コイル状筒材11は、1本の紐状物が巻回した1重螺旋の形状を呈しているが、本発明の触媒における担体の他の実施形態においては、2本の紐状物が巻回した2重螺旋の形状であってもよいし、3本以上の紐状物が巻回した多重螺旋の形状であってもよい。ただし、その場合には、各紐状物が互いに接触しないよう所定の間隔をもって平行して螺旋状に巻回していることが望ましい。
【0017】
支柱12は、コイル状筒材11に対して、その軸方向(筒方向)に沿って4本接合されている。このとき、支柱12はコイル状筒材11の周囲にほぼ同じ間隔で設けられている。なお、支柱12の本数は、図1に示す担体10の場合4本としたが、充分な強度を確保するためには、支柱12の本数は複数であることが好ましい。
【0018】
支柱12の断面形状は、特に制限されるものではなく、例えば、(略)半円形、円形、三角形等のいずれであってもよいが、コイル状筒材11との接合を確実にするためには、例えば図1(b)に示すような略半円形のように、コイル状筒材11との接合面積を充分に確保できる形状が好ましい。
【0019】
支柱12の寸法は、特に制限されるものではないが、例えば、長さは1〜50mm、好ましくは3〜30mm程度がよく、太さは、例えば略半円形の場合には、半径が0.1〜12mm、好ましくは0.2〜11mm程度がよい。
【0020】
なお、支柱12は、コイル状筒材11の軸方向に沿って接合されているものであり、図1に示す担体10の場合、真鉛直に接合されているが、本発明の触媒における担体の他の実施形態においては、必ずしも真鉛直に接合されている必要はなく、コイル状筒材11が軸方向に有する複数の隙間を通るように設けられてさえいれば、多少斜めに傾いていても差し支えない。
【0021】
また、図1に示す担体10の場合、支柱12は、コイル状筒材11の外周に面して設けられているが、本発明の触媒における担体の他の実施形態においては、コイル状筒材11の内周に面して(すなわち、貫通孔13の内部に)支柱12を設けるようにしてもよい。
【0022】
本発明の担体は、例えば、以下に詳述する本発明の製造方法により製造することができるが、本発明の担体を製造する方法はこれに限定されるわけではない。
【0023】
本発明の担体の製造方法は、外周面に溝を有する第一のダイと、該第一のダイを嵌入し内周面に溝を有するリング状の第二のダイとを備えた押出成形機を用い、第一のダイと第二のダイのいずれか一方のみを回転させながら成形材料を押出すものである。
【0024】
以下、図面を用いて、本発明の担体の製造方法に用いられる本発明の押出成形機について詳しく説明する。図2(a)は、本発明の押出成形機の一実施形態における押出し孔部を示す拡大断面図であり、図2(b)は、図2(a)の押出成形機を示す概略断面図である。
【0025】
図2に示す押出成形機20は、外周面に溝21aを有する第一のダイ21と、該第一のダイ21を嵌入し内周面に4つの溝22aを有するリング状の第二のダイ22とを備えている。詳しくは、第一のダイ21と第二のダイ22は、第二のダイ22に第一のダイ21を嵌入した状態で、ともに押出成形機20の前面に取り付けられており、この第一のダイ21が有する溝21aと第二のダイ22が有する溝22aとから成形材料が連続的に押し出されるようになっている。
【0026】
第一のダイ21およびその溝21a、第二のダイ22およびその溝22aの寸法は、特に制限されるものではないが、例えば、第一のダイ21の外径は0.6〜49mm、好ましくは1.6〜29mm程度がよく、溝21aの深さは、R0.2〜R12mm、好ましくはR0.7〜R7mm程度がよい。ここでRは曲率半径を示す(以下同じ)。また、第二のダイ22の外径は1〜150mm、好ましくは2〜100mm程度がよく、内径は0.6〜49mm、好ましくは1.6〜29mm程度がよく、溝22aの深さは、R0.2〜R12mm、好ましくはR0.7〜R7mm程度がよい。なお、図2に示す実施形態においては、溝22aの数は4個となっているが、これに限定されるわけではなく、溝21a、溝22aの数は、それぞれ得ようとする担体の支柱12の数、コイル状筒材11を形成する紐状物の本数、および支柱12がコイル状筒材11の外周面に配設されているか、内周面に配設されているかによって、適宜設定されるものである。
【0027】
さらに、押出成形機20は、前記第一のダイ21と前記第二のダイ22のいずれか一方を回転させる回転手段23をも備えている。この回転手段23は、特に制限されるものではなく、例えばモーターなど通常の回転手段を採用すればよい。具体的には、図2に示す実施形態においては、第一のダイ21に固定した回転軸23aをモーター23bで回転駆動させることにより、第一のダイ21を回転させるようになっている。この場合、第一のダイ21の溝21aから押出された成形材料によりコイル状筒材11が形成され、第二のダイ22の4つの溝22aから押出された成形材料により支柱12が形成されることとなり、得られる担体10は、図1に示すように、コイル状筒材11の外周面に支柱12を設けたものとなる。
【0028】
なお、図2に示す実施形態とは逆に、回転手段23が第二のダイ22を回転させるものである場合には、第一のダイ21の溝21aから押出された成形材料により支柱12が形成され、第二のダイ22の溝22aから押出された成形材料によりコイル状筒材11が形成されることとなり、得られる担体は、コイル状筒材11の内周面(すなわち、貫通孔13内)に支柱12を設けたものとなる。
【0029】
押出成形機20は、このほかに、第一および第二のダイ21、22から押し出された成形材料を切断する切断装手段24をも有している。この切断手段24にて所定長さに切断することにより、担体10が連続的に得られるのである。切断手段24は、特に制限されるものではなく、例えば、カッターナイフや2つのガイドローラ間に張りわたされた線材(ピアノ線など)等をモーター等で駆動させるといった従来公知の切断手段を採用すればよい。
【0030】
また、本発明の押出成形機には、溝21aと溝22aから押出される成形材料の押出し速度を制御するために、流量制御弁(図示せず)が設けられていてもよい。
【0031】
本発明において、前記担体はアルミナを主成分とする多孔性耐火物からなるものであり、具体的には前記担体材料の全重量の90重量%以上がアルミナであるのがよい。ここで、前記担体の主成分とするアルミナの結晶形は、ベーマイト型、擬ベーマイト型、χ型、κ型、ρ型、η型、γ型、擬γ型、δ型、θ型およびα型から選ばれる1種以上の結晶形をとることができる。
【0032】
前記担体は、水銀圧入法による細孔容積測定において極大細孔半径が0.001μm以上であり、且つ、累積細孔容積を0.10mL/g以上有するものであることが好ましい。極大細孔半径が0.001μm未満であったり、累積細孔容積が0.10mL/g未満であったりすると、充分な触媒活性が得られないおそれがある。
【0033】
前記担体は、窒素吸着一点法によるBET比表面積測定において0.1m2/g以上のBET比表面積を有するものであることが好ましい。
担体のBET比表面積が0.1m2/g未満であると、充分な量の触媒成分(白金族元素)を担持させ難くなるおそれがあると同時に、排ガスの酸化分解時に触媒の活性部位と原料との接触効率が低くなるため、触媒活性が不充分となる傾向がある。
【0034】
本発明の酸化触媒は、上述した担体に、白金族元素を担持させたものである。白金族元素はルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金から選ばれる金属であり、特にパラジウムを担持させたものが好ましい。
【0035】
パラジウムの担持量は、金属パラジウム換算で、触媒全重量に対して0.01〜50重量%、好ましくは0.01〜40重量%、更に好ましくは0.01〜20重量%であることがよい。パラジウムの担持量が0.01重量%未満であると、充分な触媒活性が得られないおそれがあり、一方、50重量%を超えると、触媒活性の低下を招くおそれがある。なお、担持されたパラジウムは担体上で通常、金属の形態で存在するのであり、前記担持量は金属としての重量である。また、他の白金族元素もパラジウムとほぼ同様の担持量でよい。
【0036】
担体にパラジウムを担持させる方法は、特に制限はないが、例えば、パラジウム塩、パラジウム化合物等を適当な溶媒に溶解したパラジウム溶液を、上記担体に接触もしくは含浸させる、ついで加熱処理(乾燥および焼成)、還元処理する方法を採用すればよい。加熱処理は通常空気中で行われ、また還元処理は通常気相中、水素によって加熱下に行われる。パラジウム溶液のパラジウム濃度や、接触もしくは含浸の処理回数は、最終的に所定量のパラジウムが担持されるように適宜設定すればよい。
パラジウム化合物としては、例えば酢酸パラジウム等の有機酸の水溶性塩、塩化パラジウム、塩化パラジウムナトリウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、テトラクロロパラジウム酸塩類、ジクロロジアンミンパラジウム、パラジウムのアンミン錯塩類、及びジニトロポリアンミンパラジウム類等の水溶性塩等が使用できる。
【0037】
<各種排ガスの酸化分解方法>
本発明に係る各種排ガスの酸化分解方法は、前記した本発明の酸化触媒の存在下、各種排ガスを、酸素の共存下にて、酸化分解するものである。
【0038】
本発明の酸化分解方法で採用しうる具体的手法は、後述する各反応式の酸化分解反応に基づく手法であれば特に制限されるものではなく、常法に従い適宜行えばよい。本発明の酸化触媒は、酸素の共存下にて、反応装置や容器に充填して各種排ガスの酸化分解方法に用いた際に、圧力損失が小さく、しかも大きな表面積を有しながら適度な強度をも兼ね備えるので、高い触媒性能を発揮し、効率よく各種排ガスを酸化分解することができる。
【0039】
(ガス状含フッ素化合物の酸化分解方法)
本発明に係るガス状含フッ素化合物の酸化分解方法は、前記した本発明の酸化触媒の存在下で、パーフルオロ化合物およびフロンから選ばれる1種または2種以上の混合物であるガス状含フッ素化合物を、酸素の共存下にて、酸化分解するものである。
【0040】
ガス状含フッ素化合物には、フロンと、フッ化窒素、フッ化炭素、フッ化硫黄、フッ化炭化水素等を総称するパーフルオロ化合物と呼ばれる化合物がある。
フロンは、地球温暖化の要因であることが懸念されているにも係わらず、各種製造現場特に半導体製造工場から大気に排出されており、また半導体製造現場におけるエッチング工程や洗浄工程で良く使用されているパーフルオロ化合物も、地球温暖化係数が二酸化炭素の1000倍以上と大きく、その大気への排出はフロン同様、今後規制される可能性が非常に高い化合物である。さらに、パーフルオロ化合物は、フロンに比して分解がより困難なことも問題となっている。
【0041】
パーフルオロ化合物およびフロンから選ばれる1種または2種以上の混合物であるガス状含フッ素化合物中の四フッ化メタン、六フッ化エタン、八フッ化プロパンの酸化分解の反応式は以下に示すものである。
(四フッ化メタンの分解) CF4 + 2H2O → CO2 + 4HF
(六フッ化エタンの分解) C26+1/2O2+3H20→ 2CO2+6HF
(八フッ化プロパンの分解)C38 + O2 + 4H2O → 3CO2+8HF
反応装置は特に制限されるものではなく、流通式(流動床、固定床)あるいはバッチ式、好ましくは多管ではない固定床流通式反応器等を用い、反応温度は、通常300〜1000℃、好ましくは400〜900℃とし、反応圧力は常圧〜1MPa、GHSV(ガス空間速度)は、50000h-1以下、好ましくは100〜10000h-1であるのがよい。
【0042】
反応ガス中に含まれる含フッ素化合物の濃度は、3容量%以下とするのが良い。また、3容量%以上含まれる場合には、空気、窒素等の希釈ガス添加して、濃度3容量%以下となるようにするのが良い。これは、反応ガス中に含まれる含フッ素化合物濃度が3容量%以上であると、触媒寿命に悪影響を与えることがあるからである。この他、反応ガス中には、酸素と水を含ませるが、このうち酸素は、パーフルオロ化合物の炭素を二酸化炭素および一酸化炭素に変換するために必要な量であれば特に制限はなく、空気が最も望ましい酸素源である。
水は、分解反応で生成するハロゲンをフッ化水素として触媒系外に排出するのに必要な成分であるだけでなく、アルミナ中のアルミニウムがフッ化アルミニウムとして触媒系外に逃散するのを抑制する働きをも有する。水の量は反応ガス中に含まれるハロゲン量と同量以上10倍以内すなわち、CF4であれば4〜40モル倍、C26であれば6〜60モル倍、C38であれば8〜80モル倍とすれば好適な結果を得ることができる。
【0043】
(一酸化炭素および水素を含む排ガスを酸化分解する方法)
本発明に係る一酸化炭素および水素を含む排ガスの酸化分解方法は、前記した本発明の酸化触媒の存在下、酸素の共存下で行うものである。
【0044】
半導体製造工程において種々のガスが使用されるようになり、これらの工程からはCOやH2といった可燃性ガスが排出されることが多い。COは、可燃性ガスである上に、毒性が強く人体に有害であるため、これを含むガスを大気中に放出する前に処理が必要である。またH2は有害ガスではないが、COと同じく可燃性ガスであり、処理が必要である。
【0045】
本発明に係る一酸化炭素および水素を含む排ガスの酸化分解方法は、CO及びH2を含む被処理ガスを、酸素の共存下で、酸化触媒と接触させることにより、被処理ガス中のCO及びH2は次式の反応によって酸化される。
一酸化炭素および水素を含む排ガス中の一酸化炭素、水素の酸化分解の反応式は以下に示すものである。
(一酸化炭素の分解) CO + 1/2O2 → CO2
(水素の分解) H2 + 1/2O2 → H2
反応装置は特に制限されるものではなく、流通式(流動床、固定床)あるいはバッチ式、好ましくは多管ではない固定床流通式反応器等を用い、反応温度は、室温〜300℃とし、反応圧力は常圧〜1MPa、GHSV(ガス空間速度)は、1〜20000h-1であるのがよい。
【0046】
本発明に係る一酸化炭素および水素を含む排ガスの酸化分解方法において、上述の酸化触媒によるCO及びH2の酸化は、酸素の共存下で行う。酸素の添加量としては、排ガス中に含まれるCO及びH2を酸化するために必要なO2量と等量、好ましくは等量の2倍量程度の酸素を被処理ガスに添加することが好ましい。酸素添加の手段としては、空気を排ガス中に混合することによって行うことができる。
【0047】
(酢酸n−ブチル等の揮発性有機化合物を含む排ガスの酸化分解方法)
本発明に係る酢酸n−ブチル等の揮発性有機化合物を含む排ガスの酸化分解方法は、前記した本発明の酸化触媒の存在下、酸素の共存下で行うものである。
【0048】
半導体工業における化合物半導体の成膜工程などで排出される酢酸n−ブチル等の揮発性有機化合物を含む排ガスは、人が高濃度の蒸気を吸入すると中毒を起こす恐れがあり、また、爆発混合ガスを形成したり、静電気を帯電しやすく着火の危険性がある可燃性ガスのため、酸化分解させる処理が必要である。
【0049】
本発明に係る酢酸n−ブチル等の揮発性有機化合物を含む排ガスの酸化分解方法は、酸素の共存下で、本発明の酸化触媒と接触させることにより、被処理ガス中の酢酸n−ブチルは次式の反応によって二酸化炭素と水に酸化される。
酢酸n−ブチル等の揮発性有機化合物を含む排ガス中の酢酸n−ブチルの酸化分解の反応式は以下に示すものである。
(酢酸n−ブチルの分解)
CH3COOC49 + 8O2 → 6CO2 + 6H2
反応装置は特に制限されるものではなく、流通式(流動床、固定床)あるいはバッチ式、好ましくは多管ではない固定床流通式反応器等を用い、反応温度は、200〜400℃、好ましくは250〜350℃とし、反応圧力は常圧〜1MPa、GHSV(ガス空間速度)は、100〜1000h-1であるのがよい。
【0050】
処理することができる排ガスの成分としては、半導体工業では、酢酸n−ブチル以外にも、n−オクタン、乳酸エチル、テトラヒドロフランなどがある。いずれも常温で液体であり、他の分野においても、常温で液体の有機化合物であれば本発明で処理することができる。
【0051】
(有機金属化合物を含む排ガスの酸化分解方法)
本発明に係る有機金属化合物を含む排ガスの酸化分解方法は、前記した本発明の酸化触媒の存在下、酸素の共存下で行うものである。
【0052】
半導体工業における化合物半導体の反応工程、特に、MOCVD(有機金属気相堆積法)や他のCVD(化学気相成長、化学気相蒸着)プロセスにおいて、有機金属化合物を反応原料として用いる反応工程から排出される有機金属化合物を含む排ガスは、その液体原料、固体原料及びこれらの溶媒として用いる有機溶媒が、毒性が高いかあるいは安全性が確認されていないものが多い。そのため、使用後、上記の排ガスは、大気に放出するに先だって浄化処理する必要があった。
【0053】
本発明の酸化触媒は、酸素の共存下にて、有機金属化合物を含む有毒ガスを酸化分解することにより、浄化処理を行うものであり、有機金属化合物について特に制限されず、且つ、一般に浄化処理方法であった湿式法、燃焼法のように、装置の大型化、使用した吸収液の後処理、燃焼状態を維持するための高エネルギーコストといった問題も解決することが可能である。
【0054】
(アンモニアやアミン等の含窒素ガスを含む排ガスの酸化分解方法)
本発明に係るアンモニアやアミン等の含窒素ガスを含む排ガスの酸化分解方法は、前記した本発明の酸化触媒の存在下、酸素の共存下にて、酸化分解するものである。
【0055】
反応装置は特に制限されるものではなく、流通式(流動床、固定床)あるいはバッチ式、好ましくは多管ではない固定床流通式反応器等を用い、反応温度は、150〜500℃、好ましくは200〜400℃とし、反応圧力は常圧〜1MPa、GHSV(ガス空間速度)は、100〜50000h-1、好ましくは1000〜30000h-1であるのがよい。
【0056】
本発明の酸化触媒は、酸素の共存下、アンモニアやアミン等の含窒素ガスの他に、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、炭化水素類、一酸化炭素等の揮発性有機化合物(VOC)を含有した排ガス、例えば一般の工場や家庭から排出されるアンモニア及びアミン類等を含む排ガスの脱臭に用いることが可能である。特に、含窒素成分が1容量%以下、好ましくは0.1容量%以下、その他揮発性有機化合物成分を1容量%以下、好ましくは0.1容量%以下の排ガスの脱臭に用いると、本発明の効果が十分に発揮され得る。
【0057】
(炭化水素を含む酸素過剰な排ガスの酸化分解方法)
本発明に係る炭化水素を含む酸素過剰な排ガスの酸化分解方法は、前記した本発明の酸化触媒の存在下、炭化水素を含み、酸素を還元性物質の完全酸化に必要な量よりも過剰に含む燃焼排ガスなどの排ガスを、酸素の共存下にて、酸化分解するものである。
【0058】
炭化水素を含む酸素過剰な排ガスは、例えば火力発電所や各種工場から多く排出されており、上記の排ガスは人体や環境に悪影響を与えるため、浄化処理が必要である。
例えば、炭化水素は、人が炭化水素の蒸気を吸引することで、急性の神経症状を発生したり、シックハウス症候群など慢性症状を引き起こす場合があるため、有害であるし、最も単純な構造の炭化水素であるメタンは、地球温暖化に関与する温室効果ガスである。
【0059】
本発明に係る炭化水素を含む酸素過剰な排ガスの酸化分解方法は、炭化水素を含み、酸素を還元性物質の完全酸化に必要な量よりも過剰に含む燃焼排ガスなどの排ガスを、酸素の共存下で、前記した酸化触媒と接触させることにより、被処理ガス中の炭化水素は次式の反応によって酸化される。
被処理ガス中の炭化水素の酸化分解の反応式は以下に示すものである。
(炭化水素の分解)
CnHm +(n + 1/4m)O2 → nCO2 + 1/2mH2
また、被処理ガスがメタンの場合、反応式は以下に示すものである。
(メタンの分解) CH4 + 2O2 → CO2 + 2H2
反応装置は特に制限されるものではなく、流通式(流動床、固定床)あるいはバッチ式、好ましくは多管ではない固定床流通式反応器等を用い、反応温度は、200℃〜350℃とし、反応圧力は常圧〜1MPa、GHSV(ガス空間速度)は、1000〜10000h-1であるのがよい。
【0060】
本発明に係る炭化水素を含む酸素過剰な排ガスの酸化分解方法において、被処理ガス中の酸素濃度が極端に低い場合には、反応速度が低下するので、体積基準の酸素濃度として、2%以上であり、かつガス中の炭化水素などの還元性成分の酸化当量の5倍以上の酸素が存在することが好ましい。このとき排ガス中の酸素濃度が十分高くないときには、あらかじめ所要の量の空気を混ぜてもよい。
【符号の説明】
【0061】
10 担体
11 コイル状筒材
12 支柱
13 貫通孔
20 押出成形機
21 第一のダイ
21a 第一のダイの溝
22 第二のダイ
22a 第二のダイの溝
23 回転手段
23a 回転軸
23b モーター
24 切断手段
25 流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔を持って螺旋状に巻回するコイル状筒材と該コイル状筒材の軸方向に沿って接合された支柱とを備えアルミナを主成分とする担体に、白金族元素が担持されてなることを特徴とする酸化触媒。
【請求項2】
前記触媒は複数の支柱を備えている、請求項1記載の酸化触媒。
【請求項3】
白金族元素が、Ru、Rh、Pd、Os、IrおよびPtから選ばれる1種以上の元素である、請求項1または2記載の酸化触媒。
【請求項4】
白金族元素がPdであり、その担持量が金属パラジウム換算で0.01〜50重量%である、請求項1〜3のいずれかに記載の酸化触媒。
【請求項5】
前記アルミナの結晶形が、ベーマイト型、擬ベーマイト型、χ型、κ型、ρ型、η型、γ型、擬γ型、δ型、θ型およびα型から選ばれる1種以上である、請求項1〜4いずれかに記載の酸化触媒。
【請求項6】
前記アルミナは、窒素吸着一点法によるBET比表面積測定において0.1m2/g以上のBET比表面積を有するものである、請求項1〜5のいずれかに記載の酸化触媒。
【請求項7】
前記アルミナは、水銀圧入法による細孔容積測定において、極大細孔半径が0.001μm以上であり、かつ累積細孔容積が0.10mL/g以上であるものである、請求項1〜6のいずれかに記載の酸化触媒。
【請求項8】
パーフルオロ化合物およびフロンから選ばれる1種または2種以上の混合物であるガス状含フッ素化合物を、酸素の共存下、請求項1〜7いずれかに記載の触媒の存在下で、酸化分解する方法。
【請求項9】
一酸化炭素および水素を含む排ガスを、酸素の共存下、請求項1〜7いずれかに記載の触媒の存在下で、酸化分解する方法。
【請求項10】
酢酸n−ブチル等の揮発性有機化合物を含む排ガスを、酸素の共存下、請求項1〜7いずれかに記載の触媒の存在下で、酸化分解する方法。
【請求項11】
有機金属化合物を含む排ガスを、酸素の共存下、請求項1〜7いずれかに記載の触媒の存在下で、酸化分解する方法。
【請求項12】
アンモニアやアミン等の含窒素ガスを含む排ガスを、酸素の共存下、請求項1〜7いずれかに記載の触媒の存在下で、酸化分解する方法。
【請求項13】
炭化水素を含み、酸素を還元性物質の完全酸化に必要な量よりも過剰に含む燃焼排ガスなどの排ガスを、酸素の共存下、請求項1〜7いずれかに記載の触媒の存在下で、酸化分解する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−110477(P2011−110477A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267862(P2009−267862)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】