説明

酸化触媒を含む再生可能な構造化プレート

本発明は、親水性および疎水性領域を含む構造化表面を有する再生可能なプレートを作製するための方法に関する。本発明によれば、再生可能なプレートの表面は、疎水性層で覆われ、写真のように露光され、プレートは、親水性酸化触媒を含有する材料で作製された層で覆われた基板を含む。疎水性層の露光領域を光によって加熱して、露光領域内の疎水性層が、下に存在する親水性酸化触媒を熱触媒作用によって露出させることにより分解させる。構造化表面を有しかつ前記方法によって作製されたプレートは、新しい構造を有するように、使用後に簡単な手法で再生することができる。このように得られた基板は、ミクロ構造を支持媒体に押圧するのに、またはサンプルに応じて生物学的またはその他の成分を結合させるのに、特に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性および疎水性領域を含み、かつこの親水性領域を形成する層が酸化触媒を含有する、構造化表面を有する再生可能なプレートを作製するための方法と、この方法から得ることができかつ構造化表面を有する再生可能なプレートと、これらのプレートを再生するための方法と、平版印刷法と、さらにこれらの再生可能な構造化プレートの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
表面の構造化は、興味ある技法であり、これを実現するための様々な方法がある。したがって、例えばフォトリソグラフィーでは、例えばマスクへの露光、レーザ記録、または2波長混合によって生成される可溶性領域を、感光性材料から溶出させることができ、それによって表面構造を実現することができる。オフセット印刷では、フォトリソグラフィー法を用いて表面の極性を変化させ、したがって湿潤性および非湿潤性領域(親水性/疎水性領域)が作製される。さらに、化学的表面改質を用いることにより、反応性基を表面に結合することができ、これを例えばレーザーアブレーションによって選択的に構造化することができる。したがって機能的表面構造を作製することができる。しかし、これらの方法全てに共通なのは、消去できないこと、即ち可逆的ではないことである。
【0003】
表面の親水性または疎水性を確立することも、技術的に重要であるが、その理由は、印刷プロセスでの使用の他にも、この目的のために大きく介入する必要なく、必要に応じて表面を親水性または疎水性にすることが必要な適用例が知られているからである。酸化物様材料の層は、しばしば親水性を示す。その一方で、シリコーン層で疎水性化された表面は、明らかな疎水的挙動を有し、水に対して100°よりも大きい接触角を形成する。金属、ガラス、またはセラミック表面も、薄い油膜で覆われた場合、同様に疎水性になる。
【0004】
上述のように、親水性および疎水性領域を含む表面構造化系は、例えば、材料が画像通りに受容媒体に転写される印刷プロセスで、使用することができる。その結果、例えば画像を印刷することができ、情報を記録することができ、または例えば回路基板などの構造を構築することができる。これらの表面構造化系の作製は、複雑であり費用がかかる。一般に、複雑な化学反応の連鎖および/またはエッチング段階を含む多段階プロセスが必要とされる。これは、作製時間が長く、関連する処分の問題と共に化学的需要が高いことも意味する。特に、マイクロおよびナノ構造の場合、必要とされる精度に起因してこれらの困難性が増大する。さらに、作製された後は、表面構造をもはや変更することがしばしばできなくなり、したがって、損傷した場合または印刷すべき画像を変更したい場合には、基板全体を廃棄しなければならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明による目的は、材料上への印刷に適した疎水性および親水性領域を含む表面構造を、簡単で経済的な素早い手法で作製することができ、またミクロン範囲の構造も正確に描くことができる方法を提供することである。特に、使用されるプレートは再生可能にすべきであり、即ちこの方法は、プレートの再使用が可能になるようにプレートを繰り返して再構造化することができるよう、画定された表面構造の可変で可逆的なデザインを可能にすべきである。
【0006】
本発明による目的は、意外なことに、コーティング系を疎水性にすることにより達成され、この系は、酸化触媒として効果的であり、かつ有機物質または有機疎水性基を含有する物質を含む表面に親水性酸化触媒を含むものであり、したがってこの表面を、水、水溶液または懸濁液で濡らすことはもはやできず、次いで得られた系を選択的に露光して、疎水性層の照射領域を局所的に加熱し、酸化触媒によって完全に酸化させ、したがって除去されるようにする。このように照射された領域は、下に存在する親水性酸化触媒が湿潤性の表面を有するので、やはり湿潤性である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって本発明によれば、親水性および疎水性領域を含む構造化表面を有する再生可能なプレートを作製するための方法が提供され、基板およびその上に存在する層を含みかつ無機酸化触媒を含有する材料を含む再生可能なプレートの表面は、疎水性層で被覆され、画像通りに露光され、触媒および層の露光領域が露光によって加熱されて、下に存在する親水性酸化触媒を剥き出しにすることにより疎水性層の露光領域が酸化的に分解するようになる。
【0008】
酸化触媒を用いることによって、意外なことに、室温で安定な疎水性層を、露光領域での画像通りの露光によって、酸化的に分解するのに十分に高い温度にまで加熱することが可能になり、それと同時に非露光領域は、分解しないように十分低い温度のままである。意外なことに、熱の選択性は非常に高いので、ナノメートル範囲の構造でさえ、それによって作製することができる。
【0009】
本発明による方法は、特に再生性によって区別され、即ち構造化表面を有するプレートは、意外なことに再生することができるが、その理由は、基板と、親水性酸化触媒を含有する材料を層とを含み、かつ疎水性層で構造化されているプレートは、その上に存在する疎水性領域から完全に独立しているからである。これは、疎水性領域が熱触媒酸化によって破壊される均一な露光によって、実現することができる。ここで熱触媒とは、酸化分解が、高温で触媒作用により生ずることを意味する。この酸化分解の結果、熱分解残渣をもたらす単純な熱分解とは対照的に、疎水性構成成分の残留物または残渣がプレート上には事実上残っていない。その結果、撥水性を与えかつ画像通りの露光によってさらに構造化するために、いかなる制約も受けずにプレートを再使用することができる。
【0010】
親水性酸化触媒を含有する層を有するプレートまたはシリンダは、当然ながら、疎水性層よりも不相応に大きい材料価値を有するので、プレートの再使用性または再生性は、経済的観点から特に重要なものである。
【0011】
画像通りの露光の結果、対応する画像またはパターンが、表面上の疎水性および親水性領域から形成される。後続の印刷では、表面上に得られた2次元パターンが特に適切である。
【0012】
得られたパターンは、任意の所望のパターンでよい。規則的または不規則なパターンが可能である。規則的な形とは、例えばドット、線、または領域であり、三角形や長方形、多角形、円、楕円などである。曲線または不規則な領域も、当然ながら可能である。個々の形の組合せによって、例えば数字、文字、画像、回路、またはその他の情報を再現するための、またはある特定の構造を構築するための、所望の全体的パターンを形成することができる。印刷されるパターンは、親水性領域または疎水性領域に対応させることができる。
【0013】
親水性層および疎水性層は、基板上に存在する。基板は、任意の適切な形を有することができる。例えば、印刷プレートまたは印刷ローラなどとして適切な、平らなまたは円筒状の基板として存在する。したがって、この記述および特許請求の範囲において、プレートは、シリンダまたはローラも含む。フラットな基板は、例えば円筒上に固定され得る。したがって本発明によるプレートは、任意の適切な都合の良い形、例えば平らでありまたは円筒状の形も同様にとることができる。基板は、この目的に適した任意の材料でよい。適切な材料の例は、金属または金属合金、ガラス、酸化物セラミックおよびガラスセラミックを含めたセラミック、紙、またはゴムを含めたプラスチックである。この基板は、シートの形をとってもよい。
【0014】
当然ながら、上述の材料を同様に使用することができる表面層を備えた基板も、可能である。表面層は、例えば金属化、エナメル加工、例えばエナメル加工された金属シート、セラミック層、またはコーティングでもよい。セラミック表面は、例えば、金属上にある、セラミック成分の薄いカバー材でもよい。基板は前処理されてもよい。例えばこの表面は、例えば市販のアルカリ性清浄剤で清浄化することができ、または例えばコロナ処理によってコーティング用に調製することができる。
【0015】
金属または金属合金の例は、ステンレス鋼を含めた鋼、クロム、銅、チタン、スズ、亜鉛、真鍮、およびアルミニウムである。ガラスの例は、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛結晶、およびシリカガラスである。例えば板ガラス、容器ガラスなどの中空ガラス、または実験室装置のガラスが可能である。例えばセラミックは、酸化物SiO、Al、ZrO、またはMgO、あるいはこれに対応する混合酸化物ベースのセラミックである。コーティングされた表面は、有機結合剤をベースにした通常のプライマーコートまたはワニスから形成してもよい。適切な場合には、基板そのものが親水性層でもよく、したがって疎水性層は、親水性表面特性を有する基板に直接塗布される。しかし親水性層は、別個の基板上に存在することが好ましい。
【0016】
親水性酸化触媒を含む層は、基板上に存在し、疎水性層は前記酸化触媒に塗布される。親水性/疎水性の概念は、化学の基本概念として当業者に非常によく知られている。疎水性物質は水を弾くのに対し、親水性物質は水を引き付ける。親水性の特徴は、例えば物質中のヒドロキシル、オキシ、カルボキシレート、スルフェート、またはスルホネート官能基、あるいはポリエーテル鎖によって形成することができる。疎水性の特徴は、典型的な場合、例えば物質中のアルキル基や芳香族基などの炭化水素基によって生成される。
【0017】
層の疎水性または親水性の特徴は、特に、層で使用される物質によって、また適切な場合にはその改質によって決定される。当業者がどの材料および加工方法を選択すべきかは、当業者に容易に明らかにされる。層の疎水性/親水性の特徴は、例えば、水または別の適切な溶媒との接触角によって、決定することができる。
【0018】
1つの層の親水性の特徴と、その他の層の疎水性の特徴との相違は、これら2つの層の一方に印刷される材料の十分な選択性が確実になるように、十分に大きいものであることしか必要としない。必要とされる調節は、当業者に知られている。親水性領域は、平滑面に関して測定した場合、水に対して30°以下の接触角を有し、一方、疎水性領域は、平滑面に関して測定した場合、水に対して85°以上の接触角を有することが好ましい。
【0019】
下層は、親水性酸化触媒を含有する材料からなり、その結果、親水性層は、少なくとも酸化触媒が存在する領域で得られる。酸化触媒は、触媒的に活性な化学種と、適切な場合には担体材料とを含む。酸化触媒の他に、この材料は、基板に対する酸化触媒の接着を確実にするためにまたは改善するために、結合剤を含有してもよい。
【0020】
下層は、1種または複数の親水性酸化触媒を含有し、これらは酸化物触媒であることが好ましい。酸化触媒は、長い間にわたって知られており、当業者なら、従来の酸化触媒を容易に選択することができる。総説は、例えばUllmanns Encyklopadie der technischen Chemie[Ullman’s Encyclopedia of Industrial Chemistry],第4版,Vol.13,第517〜570頁に見出され;酸化触媒の例は、第548頁の表15Fに示されており、以下に論じる酸化物触媒は、第530および531頁上にその概要が言及されている。酸化触媒は、具体的には無機酸化触媒である。
【0021】
酸化触媒は、熱活性化によって酸化反応を触媒することが可能である。選択された条件および材料に応じて、有機物質の酸化は、この有機物質が分解して揮発性または気化可能な断片(例えば低分子量カルボン酸、CO)が形成されるまで、触媒作用中に進行させることができる。
【0022】
適切な温度範囲は、当然ながら、存在する材料(例えば疎水性層)、触媒、および状態に依存し;一般に構成成分は、触媒分解反応が周囲温度で発生せずに加熱によってのみ、例えば分解反応に関しては40℃から60℃またはそれ以上の温度で生ずるように選択される。好ましくは分解反応の熱活性化のための温度は、100℃から900℃の範囲内であり、好ましくは100℃から700℃、特に好ましくは200℃から500℃の範囲内である。親水性および疎水性層に応じて、酸化触媒は、所望の温度範囲に関して適切な手法で選択することができる。酸化分解反応の選択性は、露光領域の非露光領域との間の温度差によって実現される。
【0023】
熱触媒的に活性な酸化触媒は、触媒的に活性な化学種を含む。触媒的に活性な化学種は、好ましくは酸化物であり、特に金属酸化物であり、特に遷移金属酸化物である。遷移金属は、通常通り、元素の周期律表の副族IからVIIIの元素、ランタニドおよびアクチニド元素を意味すると理解される。酸化触媒は、La、Ce、Ti、Zr、V、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Nb、Ta、AgおよびZnから選択された少なくとも1種の遷移金属の酸化物を含むことが好ましい。
【0024】
2種以上の遷移金属の酸化物からなる多成分系を、酸化触媒として使用することが好ましい。得られた構造は、複合物でもよく、種々の金属酸化物の金属酸化物混合物、または混合金属酸化物(少なくとも2種の異なる金属を有する酸化物)、またはこれらの混合物と、種々の酸化状態の金属を含んでもよい。時々、これらの構造は、全ての詳細に関して全く完全に明らかではない。
【0025】
上述の遷移金属の他に、酸化触媒は、活性を増大させる促進剤として、Bi、Sn、P、Sb、アルカリ金属、アルカリ土類金属などの追加の元素を含有してもよい。これらの促進剤または共触媒は、使用される遷移金属酸化物に対して例えば1から5重量%の量で使用することができる。適切な共触媒は、例えばK、Mg、Ca、Ba、およびSr塩と、Al、Si、およびSn酸化物である。適切な塩は、例えば、対応するハロゲン化物、水酸化物、硝酸塩、炭酸塩、リン酸塩、または炭酸塩である。使用される条件に応じて、使用される塩の陰イオンは、触媒中に存在するままでもよく、または洗い落しても変換してもよい。したがって、例えば硝酸塩は、窒素の酸化物として、焼成中に蒸発させることができ、おそらくは酸化物が後に残る。
【0026】
好ましい実施形態では、酸化触媒は、少なくとも2種の遷移金属の酸化物触媒と、適切な場合には促進剤とを含有する。好ましい酸化物触媒は、例えばMnおよびCeを、適切な場合には別の遷移金属と共に含有し、例えばMn/Co/Ce、Mn/Cu/Ce、Mn/Ni/Ce、Mn/Fe/Ce、Mn/Co/Ni/Ceの酸化物を含有する。別の好ましい酸化物触媒は、酸化物Cu/V/Laを含む。マンガンおよび銅を含有する酸化物触媒、例えばMn/Cu/Ceが特に好ましく、促進剤としてカリウムを有するMn/Cu/K酸化物がさらに好ましい。その他の酸化物触媒も、当然ながら促進剤を含有してよい。
【0027】
遷移金属酸化物では、金属酸化物の混合物中に、例えば下記の量の対応する金属酸化物があることが好ましい:Ce:1〜70重量%、V:5〜70重量%、Mn:20〜95重量%、Fe:20〜95重量%、Co:1〜50重量%、Ni:1〜50重量%、および/またはCu:1〜95重量%。個々の遷移金属酸化物の例は、CuO、CuO、V、MnO(軟マンガン鉱)、γ−MnO、Co、Co、CoO、およびCeOである。
【0028】
好ましい実施形態では、酸化触媒は担体材料も含む。担体材料は、一般に、触媒的に不活性であり、例えば広い表面積の形成に役立つ。そのような担体材料は、触媒の分野の当業者に知られており、従来の担体材料を使用することができる。担体材料の例は、アルミナ、シリカ、特にシリカゲル、活性炭、炭化ケイ素、二酸化チタン、酸化マグネシウム、様々なシリケートおよびゼオライトである。酸化物様担体材料を使用することが特に好ましい。担体の多孔率および比表面積は、当業者に知られている方法によって、必要に応じて調節することができる。
【0029】
酸化触媒は、Ullmanns Encyklopadie der technischen Chemie[Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry]からの上述の論文で概略的に説明されているように、当業者に知られている従来のプロセスによって調製することができる。酸化触媒は、例えば沈殿した触媒の形または含浸させた触媒の形をとってもよく、次いで乾燥または焼成などの別の処理ステップに供される。本発明において、好ましく使用される触媒は、触媒的に活性な化学種またはその前駆体の、担体材料への含浸と、適切な場合にはその他の処理段階によって得られるものである。
【0030】
酸化触媒は、親水性であり、一般に、例えば粒子の形で層内に存在することができる。酸化触媒粒子の粒径は、要件に応じて選択することができる。好ましい実施形態では、酸化触媒は、IR波長範囲に曝すことによって加熱効果を高めるための、IR吸収物質である。
【0031】
完成した親水性酸化触媒の層の、好ましくは1重量%から100重量%、より好ましくは5重量%から70重量%、特に10重量%から25重量%であることが好ましい。
【0032】
下層は、酸化触媒のみからなるものでもよく、したがってこの層を基板に塗布させるためのコーティング組成物は、酸化触媒と、適切な場合には溶媒とのみからなる。下層を作製するためのコーティング組成物は、好ましくは、親水性酸化触媒の他に、この層と基板との接着、および/または層の強度を改善するための結合剤も含有する。使用することができる結合剤は、有機ポリマーであるが、結合剤は通常無機であり、特に有機的に改質された無機重縮合物またはその前駆体、および/またはナノスケール粒子である。有利な重縮合およびナノスケール粒子の組成物について、以下に述べる。結合剤は、ゾルの形で存在することが好ましい。
【0033】
無機または有機的に改質された無機重縮合物は、特に、ガラスまたはセラミック形成元素とも呼ばれる半金属または金属Mの縮合物であり、特に、元素の周期律表主族IIIからVおよび/または副族IIからV、およびMgからのものである。これらは好ましくは、元素Si、Al、B、Sn、Ti、Zr、Mg、V、またはZnであり、特に、Si、Al、Ti、Zr、およびMg、またはこれらの元素の2種以上の混合物である。その他の半金属または金属Mも、当然ながら組み込むことができ、特に元素の周期律表の主族IおよびII(例えばNa、K、およびCa)と、元素の周期律表の副族VIからVIII(例えばMn、Cr、Fe、およびNi)を組み込むことができる。ランタノイドを使用することも可能である。有機的に改質された無機重縮合物の場合、有機側基が縮合物中に存在する。
【0034】
結合剤は、ゾルゲル法によって、加水分解性化合物から得られることが好ましい。ゾルゲル法では、加水分解性化合物が通常は水と加水分解し、適切な場合には酸性または塩基性触媒を用いて加水分解し、また適切な場合には、少なくとも部分的に縮合する。加水分解および/または縮合反応は、前駆体として働くヒドロキシル基、オキソ基、および/またはオキソ架橋を有する化合物または縮合物の形成をもたらす。化学量論量の水を使用してもよいが、より少ない量またはより多い量でもよい。得られたゾルは、適切なパラメータ、例えば縮合度、溶媒、またはpHを用いて、コーティング組成物に望まれる粘度に調節することができる。ゾルゲル法のその他の詳細は、例えばC.J.Brinker,G.W.Scherer:”Sol−Gel Science−The Physics and Chemistry of Sol−Gel−Processing”,Academic Press,Boston,San Diego,New York,Sydney(1990)に記載されている。
【0035】
好ましく使用される結合剤は、ゾルゲル法によって得られた、有機的に改質された無機重縮合物またはその前駆体である。有機的に改質された無機重縮合物またはその前駆体は、ポリ有機シロキサンまたはその前駆体を含むことが好ましい。有機基は、適切な場合、架橋を可能にする官能基を含有し得る。有機的に改質された無機重縮合物をベースにしたコーティング組成物は、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるDE19613645、WO92/21729、およびWO98/51747に記載されている。
【0036】
有機的に改質された無機重縮合物は、加水分解性基の他に少なくとも1つの非加水分解性基も有する加水分解性化合物から形成される。縮合物を調製するために、少なくとも1つの非加水分解性基を有する加水分解性化合物のみ使用することが可能であるが、この化合物は、通常、非加水分解性基を持たない加水分解性化合物との混合物として使用される。
【0037】
したがって加水分解性基を有する化合物は、有機的に改質された無機重縮合物の調製のために、加水分解性出発化合物として使用してもよく、これらの化合物の少なくとも一部、例えば少なくとも10モル%は、非加水分解性基も含む。使用される加水分解性出発化合物の、好ましくは少なくとも50モル%、より好ましくは少なくとも60モル%は、少なくとも1つの非加水分解性基を含有する。非加水分解性基を含まない加水分解性化合物と、少なくとも1つの非加水分解性基を有する加水分解性化合物との比は、例えば5〜50:50〜95であり、好ましくは1:1から1:6であり、より好ましくは1:3から1:5であり、例えば1:4である。部分的に反応させたオリゴマーを使用することも可能であるが、記述される量は、常に、モノマー出発化合物に関する。
【0038】
加水分解性有機シランまたはそのオリゴマーは、少なくとも1つの非加水分解性基を有する加水分解性出発化合物として使用することが好ましい。好ましい結合剤は、重縮合物をベースにすることが相応に好ましく、例えばゾルゲル法によって得ることが可能なものであり、または一般式
SiX(4−a) (I)
の1つまたは複数のシランをベースにしたその前駆体であり(式中、基Rは、同一または異なっており、非加水分解性基であり、基Xは、同一または異なっており、加水分解性基またはヒドロキシル基であり、aは、値1、2、または3を有する。)、あるいはこれらから得られたオリゴマーである。値aは、1または2が好ましい。
【0039】
一般式(I)において、互いに同一でも異なってもよい加水分解性基Xは、例えば、水素またはハロゲン(F、Cl、BrまたはI)、アルコキシ(好ましくはC1〜6−アルコキシ、例えばメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、およびブトキシなど)、アリールオキシ(好ましくはC6〜10−アリールオキシ、例えばフェノキシなど)、アシルオキシ(好ましくはC1〜6−アシルオキシ、例えばアセトキシまたはプロピオニルオキシなど)、アルキルカルボニル(好ましくはC2〜7−アルキルカルボニル、例えばアセチルなど)、アミノ、モノアルキルアミノ、またはジアルキルアミノであって、好ましくは1から12個、特に1から6個の炭素原子を有するものである。好ましい加水分解性基は、ハロゲン、アルコキシ基、およびアシルオキシ基である。特に好ましい加水分解性基は、C1〜4アルコキシ基であり、特にメトキシおよびエトキシである。
【0040】
互いに同一でも異なってもよい非加水分解性基Rは、適切な場合には架橋を可能にする官能基を有する非加水分解性基Rでもよく、または好ましくは、そのような官能基を持たない非加水分解性基Rでもよい。
【0041】
官能基を持たない非加水分解性基Rは、例えばアルキル(好ましくは、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、およびtert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、またはシクロヘキシルなどのC1〜8−アルキル)、アルケニル(好ましくはC2〜6−アルケニル、例えばビニル、1−プロペニル、2−プロペニル、およびブテニルなど)、アルキニル(好ましくはC2〜6−アルキニル、例えばアセチレニルおよびプロパルギルなど)、アリール(好ましくはC6〜10−アリール、例えばフェニルおよびナフチルなど)、これらから得られたアルキルアリールおよびアリールアルキルである。基RおよびXは、適切な場合には、1つまたは複数の通常の置換基、例えばハロゲンやアルコキシなどを有することができる。
【0042】
好ましい例は、メチルトリ(m)エトキシシランなどのアルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、フェニルトリ(m)エトキシシランなどのアリールトリアルコキシシラン、およびジフェニルジ(m)エトキシシランなどのジアリールジアルコキシシランであり、アルキルは、特にC1〜8−アルキルであり、アルコキシは特に、メトキシまたはエトキシである。好ましい化合物は、メチルトリエトキシシラン(MTEOS)、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン(PTEOS)、またはジメチルジエトキシシランである。
【0043】
適切な場合には架橋を可能にする官能基を有する非加水分解性基Rは、おそらくは、官能基として例えば、エポキシド(例えばグリシジルまたはグリシジルオキシ)、ヒドロキシル、エーテル、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、任意選択で置換されたアニリノ、アミド、カルボキシル、アクリロイル、アクリロイルオキシ、メタクリル、メタクリロイルオキシ、メルカプト、シアノ、アルコキシ、イソシアナト、アルデヒド、アルキルカルボニル、酸無水物、およびリン酸基を含んでもよく、エポキシドおよびアミノ基が好ましい。これらの官能基は、酸素または−NH−基を割り込ませてもよいアルキレン、アルケニレン、またはアリーレン架橋基を介してケイ素原子に結合される。架橋基は、好ましくは1から18個、好ましくは1から8個、特に1から6個の炭素原子を含有する。
【0044】
アルキルアミノ基の場合のように、前記2価の架橋基および存在する任意の置換基は、例えば上述の1価のアルキル、アルケニル、またはアリール基から得られる。当然ながら、基Rは、複数の官能基を有してもよい。
【0045】
官能基を有するシランの例は、γ−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(GPTS)、γ−グリシジル−オキシプロピルトリエトキシシラン(GPTES)、3−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナトプロピルジメチルクロロシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTS)、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、N−[N’−(2’−アミノエチル)−2−アミノエチル]−3−アミノ−プロピルトリメトキシシラン、ヒドロキシメチルトリエトキシシラン、ビス(ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−ヒドロキシエチル−N−メチルアミノプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、および3−(メタ)−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランである。本発明により使用することができる、加水分解性シランのその他の例は、例えばEP−A−195493でも見出される。
【0046】
非加水分解性基を持たない適切な追加の化合物は、特に、下式の加水分解性シランである
SiX (II)
(式中、Xは、式(I)の場合のように定義される)。結合剤の調製に使用することができる加水分解性シランの例は、Si(OCH、Si(OC、Si(O−n−または−i−C、Si(OC、SiCl、HSiCl、Si(OOCCHである。これらのシランの中で、テトラアアルコキシシラン、特にテトラメトキシシランおよびテトラエトキシシラン(TEOS)が好ましい。
【0047】
有機的に改質された無機重縮合物は、好ましくはテトラアルコキシシランと、アルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、アリールトリアルコキシシラン、およびジアリールジアルコキシシランから選択された少なくとも1種のシランから形成され、メチルトリエトキシシラン(MTEOS)とTEOSの混合物が特に好ましい。有機的に改質された無機重縮合物は、例えば純粋なMTEOSから形成することもできる。
【0048】
式(II)のケイ素化合物に加え、または式(II)のケイ素化合物の代わりに使用することができる、非加水分解性基を持たないその他の加水分解性化合物は、特に、一般式MXを有する(式中、Mは上記にて定義された、Si以外のガラスまたはセラミック形成元素Mであり、Xは、加水分解性基またはヒドロキシルであり、2つの基Xは、オキソ基によって置換されることが可能であり、bは、元素の価数に対応し、一般に3または4である)。互いに同一でも異なってもよい加水分解性基Xの例は、水素、ハロゲン(F、Cl、Br、またはI、特にClまたはBr)、アルコキシ(例えば、C1〜6−アルコキシ、例えばメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、およびn−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、またはtert−ブトキシなど)、アリールオキシ(好ましくはC6〜10アリールオキシ、例えばフェノキシなど)、アルカリールオキシ、例えばベンゾイルオキシ、アシルオキシ(例えばC1〜6−アシルオキシ、好ましくはC1〜4−アシルオキシ、例えばアセトキシまたはプロピオニルオキシなど)、アミノおよびアルキルカルボニル(例えば、アセチルなどのC2〜7−アルキル−カルボニル)である。2または3個の基Xを、例えばグリコール、グリセロール、またはピロカテコールとのSi−ポリオール錯体の場合には互いに結合させてもよい。前記基は、適切な場合、ハロゲンやアルコキシなどの置換基を含有する。好ましい加水分解性基Xは、ハロゲン、アルコキシ基、およびアシルオキシ基である。
【0049】
使用することができるチタン化合物は、特に式TiXの加水分解性化合物である。ゾルゲル法によりコーティング組成物を調製するための、特定の好ましく使用されるチタネートは、TiCl、Ti(OCH、Ti(OC、Ti(2−エチル−ヘキシルオキシ)、Ti(n−OC、またはTi(i−OCである。元素Mの、使用可能な加水分解性化合物のその他の例は、Al(OCH、Al(OC、Al(O−n−C、Al(O−i−C、Al(O−n−C、Al(O−sec−C、AlCl、AlCl(OH)、Al(OCOC、ZrCl、Zr(OC、Zr(O−n−C、Zr(O−i−C、Zr(OC、ZrOCl、Zr(2−エチルヘキシルオキシ)、および錯化基を有するZr化合物、例えばβ−ジケトン、および(メタ)アクリロイル基、ナトリウムメチレート、酢酸カリウム、ホウ酸、BCl、B(OCH、B(OC、SnCl、Sn(OCH、Sn(OC、VOCl、およびVO(OCHなどである。
【0050】
結合剤としての、純粋な無機重縮合物または前駆体は、上記にて定義された式(II)または式MXの1種または複数の加水分解性化合物から、類似した手法で形成してもよい。
【0051】
ナノスケールの粒子は、単独でまたは前記重縮合物(縮合物とも呼ぶ)に加えて、結合剤として使用してもよい。ナノスケールの粒子は、上述の重縮合物と同じ組成を有してもよい。ソルゲル法では、例えば生成物は、選択された条件に応じて、時々重縮合物としてまたはナノスケール粒子の形で得ることができる。ナノスケール粒子のその他の例を、以下に記述する。
【0052】
以下、ナノ粒子とも呼ばれるナノスケールの固体粒子は、例えばプラスチックを含む有機ナノ粒子でもよく、または好ましくは無機ナノ粒子である。ナノ粒子は、好ましくは合金を含めた金属、金属化合物、特に金属カルコゲナイド、特に好ましくは酸化物および硫化物からなり、この場合の金属は、B、Si、およびGeも含む。1つのタイプのナノ粒子、またはナノ粒子の混合物を使用することが可能である。結合剤は、ナノスケール粒子と有機的に改質された無機重縮合物との組合せであることが有利と考えられる。
【0053】
その他のナノ粒子は、任意の所望の金属化合物を含んでもよい。例は、ZnO、CdO、SiO、GeO、TiO、ZrO、CeO、SnO、Al(特にベーマイト、AlO(OH)、また水酸化アルミニウムとして)、B、In、La、Fe、Fe、CuO、Ta、Nb、V、MoO、またはWOなどの、(必要に応じて水和した)酸化物;その他のカルコゲナイド、例えば硫化物(例えば、CdS、ZnS、PbS、およびAgS)、セレン化物(例えば、GaSe、CdSe、およびZnSe)、およびテルル化物(例えばZnTeまたはCdTe)など;AgCl、AgBr、Agl、CuCl、CuBr、Cdl、およびPblなどのハロゲン化物;CdCやSiCなどの炭化物;AlAs、GaAs、およびGeAsなどのヒ化物;InSbなどのアンチモン化物;BN、AlN、Si、およびTiなどの窒化物;GaP、InP、Zn、およびCdなどのリン化物;リン酸塩、ケイ酸塩、ジルコン酸塩、アルミン酸塩、スズ酸塩、および対応する混合酸化物である(YまたはEu含有化合物を含むルミネセンス顔料、スピネル、フェライト、または混合酸化物であって、ペロブスカイト構造を有するもの、例えばBaTiOやPbTiOなど)。
【0054】
ナノスケールの無機固体粒子は、好ましくは、Si、Ge、Al、B、Zn、Cd、Ti、Zr、Ce、Sn、In、La、Fe、Cu、Ta、Nb、V、Mo、またはWの酸化物または水和酸化物であり、Si、Al、B、Ti、およびZrが特に好ましい。酸化物または水和酸化物が、特に好ましく使用される。好ましいナノスケール無機固体粒子は、SiO、Al、ITO、ATO、AlOOH、Ta、ZrO、およびTiOであり、SiOが特に好ましい。
【0055】
これらのナノスケール粒子の調製は、通常の手法で行うことができ、例えば炎熱分解、プラズマ法、コロイド技法、ゾルゲル法、制御された核生成および成長プロセス、MOCVD法、およびエマルジョン法によって行うことができる。これらの方法は、文献に詳細に記述されている。ゾルゲル法は、上記にて説明した。
【0056】
粒子は、粉末の形で、または分散剤中の分散液として直接使用してもよい。市販の分散液の例は、Bayer AG製の水性シリカゾル(Levasil(登録商標))、および日産化学製のコロイド状有機ゾル(IPA−ST、MA−ST、MEK−ST、MIBK−ST)である。例えば、Degussa製の発熱性シリカ(Aerosil製品)は、粉末として利用可能である。
【0057】
ナノスケール粒子は、その平均粒径(体積平均、測定値:可能な場合には、X線回折によるものであるが、そうでない場合には、動的レーザ光散乱による(超微粒子分析器(UPA)を使用して))が1μm未満であり、一般には500nm未満である。ナノスケール固体粒子は、好ましくは300nm以下の平均粒径、好ましくは200nm以下、特に50nm以下であり、かつ1nm超、好ましくは2nm超の平均粒径を有し、例えば1から20nmである。この材料は、粉末の形で使用してもよいが、ゾルまたは懸濁液の形で使用することが好ましい。
【0058】
ナノ粒子は、表面改質してもよい。ナノスケール粒子の表面改質は既知のプロセスであり、出願人によって、例えばWO93/21127(DE4212633)またはWO96/31572に記述された。表面改質粒子の調製は、基本的に、2つの異なる方法で実施することができ、即ち第1に、既に調製されたナノスケール粒子の表面改質によって、第2の、表面改質剤を用いてのこれら粒子の調製によって、実施することができる。
【0059】
適切な表面改質剤は、最初にナノ粒子の表面に存在する反応性基(例えばOH基など)と反応しまたは相互作用することができる、1つまたは複数の基を有する化合物である。表面改質剤は、例えば、ナノ粒子の表面に対して共有結合、配位結合(錯体形成)、およびイオン(塩様)結合を形成することができ、一方、双極子−双極子相互作用、水素架橋結合、およびファンデルワールス相互作用を純粋な相互作用の中の一例として挙げることができる。共有結合の形成が好ましい。
【0060】
無機および有機酸、塩基、キレート形成剤、錯化剤、例えばβ−ジケトン、タンパク質であって、錯体形成構造を有するもの、アミノ酸、またはシランは、ナノ粒子の表面改質に適切である。表面改質剤の特定の例は、飽和または不飽和モノおよびポリカルボン酸、対応する酸無水物、酸塩化物、エステル、および酸アミド、アミノ酸、タンパク質、イミン、ニトリル、イソニトリル、エポキシ化合物、モノおよびポリアミン、β−ジケトンなどのβ−ジカルボニル化合物、オキシム、アルコール、アルキルハロゲン化物、粒子の表面基と反応することができる官能基を有する金属化合物、例えば、上述の少なくとも1つの非加水分解性基と共に加水分解性基を有するシランである。表面改質剤に関するその他の特定の化合物は、例えば上述のWO93/21127およびWO96/31572に記載されている。
【0061】
ナノ粒子には、少なくとも1種のその他の金属または半金属をドープしてもよい。結合剤でのナノ粒子の使用は、好ましい実施形態であり、上述の重縮合物は、好ましくはナノ粒子の存在下で調製され、その結果、結合剤と重縮合物との間により強力は結合が実現される。ナノ粒子の結果として、層はより硬質になり、引っ掻き抵抗性がより高くなる。ナノ粒子は、コーティング組成物に別々に添加することもできる。上述のように、単一の結合剤としてナノ粒子を使用することが可能である。
【0062】
コーティング組成物に使用してもよい適切な溶媒は、水および有機溶媒の両方、または混合物である。これらは、コーティングの領域で使用される通常の溶媒である。適切な有機溶媒の例は、アルコール、好ましくは低級脂肪族アルコール(C〜C−アルコール)、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノールなど、ケトン、好ましくは低級ジアルキルケトン、例えばアセトンやメチルイソブチルイケトンなど、エーテル、好ましくは低級ジアルキルエーテル、例えばジエチルエーテルやジオールモノエーテルなど、アミド、例えばジメチルホルムアミドなど、テトラヒドロフラン、ジオキサン、スルホキシド、スルホン、またはブチルグリコール、およびこれらの混合物である。アルコールが好ましく使用される。高沸点溶媒を使用することも可能である。ゾルゲル法では、溶媒は、適切な場合にはアルコラート化合物からの加水分解によって形成された、アルコールでもよい。
【0063】
酸化触媒を含有する層のためのコーティング組成物の成分は、任意の所望の順序で合わせることができる。例えば、粉末、ゾル、または懸濁液の形をとる酸化触媒は、ゾルゲル法によって調製された結合剤ゾルに添加することができる。前記成分の他に、適切な場合には、コーティングの分野の当業者に知られているその他の添加剤を、必要に応じて添加してもよい。組成物は、酸化触媒粒子と結合剤ゾルとを含む分散液であることが好ましい。
【0064】
コーティング組成物による基板のコーティングでは、通常のコーティング方法、例えば浸漬、ロールコーティング、ナイフコータによるコーティング、フラッディング、ドローイング、スプレー、スピンコーティング、またはブラッシングを使用することが可能である。都合の良い塗布方法は、オフセットローラを用いた塗布である。塗布されたコーティング組成物は、適切な場合には乾燥し、硬化し、または高密度化する。
【0065】
特に、架橋性結合剤の場合には、層の熱または光化学的硬化が適切である。光化学的硬化の場合、UV光への露光が好都合である。架橋性基が無いと、親水性層は、熱処理によって高密度化しまたはベークされる。硬化、または高密度化、またはベーキングのための温度および所要時間は、当然ながら使用される材料に依存する。一般に、90から600℃の温度が、高密度化には好都合である。
【0066】
結合剤は、使用される場合は、接着の改善に役立ち、比および条件は、従来の既知の手法で選択され、親水性酸化触媒は、完成した層の表面に存在し、即ち酸化触媒の少なくとも一部は、完全に結合剤によって取り囲まれるわけではない。有機的に改質された無機重縮合物、および/または対応するナノスケール粒子は、結合剤として使用され、結合剤の有機成分は、コーティング手順の過程で(例えばベーキング中に)かつ/またはその後の本発明による方法での使用中に部分的または完全に分解する可能性があり、したがって、後に残る結合剤成分は、無機構成成分のみ有する可能性がある。
【0067】
得られた層は、ある多孔率を有する可能性があるが、それは、一般に触媒活性の改善がその多孔率に関連するからである。しかし、露光波長に応じて、散乱効果に注意を払うべきである。したがってコーティングは、便宜的には多孔質層である。層の適切な多孔率は、例えば、20m/gから250m/g、好ましくは30m/gから150m/g、特に40m/gから80m/gである、窒素を使用するBET法によって測定された層の比表面積を用いて特定することができる。
【0068】
親水性酸化触媒を含有する層は、1から100μm、好ましくは2から20μm、特に3から10μmの乾燥層厚を有することが好都合である。対照的に、そこに塗布された疎水性層は、極めて薄いことが好ましい。この層を、この文脈ではフィルムと呼んでもよい。疎水性層は、好ましくは100nm以下の層厚を有し、例えば50から100nmの範囲内である。さらに好ましくは、疎水性層が非常に薄い層でありまたは分子フィルムでもあり、即ち、親水性層の表面の疎水性層を形成する物質の、少なくとも1つの「層(stratum)」またはいくつかの「層(strata)」であり、例えば単分子、2分子、または3分子層である。したがって、撥水性を与えることは、体積に関してはそれほど重要ではない。
【0069】
疎水性層は、特に、親水性酸化触媒を含有する層に撥水性を与えることによって生成される。撥水性は、この目的のため、通常の手法で与えられることが好ましい。撥水性を与え、かつ業界で知られている全ての従来の物質を、撥水性のために使用することができる。これらは、例えば炭化水素、長いアルキル鎖を有する有機化合物またはその塩、有機ポリマー、またはこれらの混合物でもよい。撥水剤は、可能な限り無機基を含有すべきではない。したがって前記撥水剤は、純粋に有機物質であることが好ましい。撥水性を与える物質は、純粋な形で、または好ましくは塗布用の溶媒として使用することができる。撥水性を与える1種または複数の物質を、使用することができる。したがって疎水性層は、完全な酸化可能性および除去可能性を確実にするために、特に無機化合物または基を含まない。
【0070】
撥水剤の疎水性層に撥水性を与える物質の例は、パラフィン、ワックス、油脂、比較的長鎖の炭化水素、脂肪酸、オレイン酸、および石鹸である。ワックスの例は、カンデリラワックスやカルナバワックスなどの天然ワックス、モンタンエステルワックスなどの合成により改質されたワックス、またはポリアルキレンワックスなどの合成ワックスである。脂肪酸の例は、オレイン酸、パルミチン酸、および特にステアリン酸である。
【0071】
使用される溶媒は、水、および/または有機溶媒、例えば炭化水素、塩素化炭化水素、エーテル、エステル、ブタノール以上の高級アルコール、または上述の溶媒などでもよい。撥水性を与える物質は、好ましくは、溶媒に溶かした溶液またはエマルジョン/分散液、例えば水性エマルジョンを形成する。撥水性を与える物質および溶媒の他に、撥水剤はさらに、適切な場合には全てのタイプの金属触媒、乳化剤、および/またはポリマーを、可撓性付与剤として含有してもよい。
【0072】
撥水剤は、従来の手法で親水性層に塗布される。任意の適切な塗布方法、例えばラビングまたは上述のコーティング方法を使用することができる。一般に、溶媒を蒸発させるには、乾燥のみが行われる。層厚は、例えば溶媒中への希釈によって制御することができる。適切な場合、親水性層に対するより強力な結合のための熱処理も、行うことができる。しかし一般に、撥水性を与える物質が親水性層の表面基と共有結合を形成せず、そのような結合が実質的な副作用を全くもたらさない場合が好都合である。
【0073】
このように得られた基板は、画像通りに露光される。構造化は、例えばホログラフィー技法を介したマスク技法、例えば2波長混合、近接場光学(例えばナノリソグラフィー)によって、またレーザ書込み法によって行うことができる。例えばIR光、UV光、または可視範囲の光を、露光に使用することができ、レーザ光の使用が好ましい。レーザ光を使用する場合、市販のシステム(例えばレーザ彫刻器)を使用することができる。書込み速度または露光所要時間は、疎水性層の厚さに適合され、1秒未満からそれ以上に長い露光時間の範囲内でよい。
【0074】
適切なレーザは、COレーザであり、これは赤外線範囲で動作する。より最近になって、COレーザでは10μmまでの書込み幅を実現することが可能になった。したがって、任意の所望のパターンを、そのような表面に書き込むことができる。COレーザへの露光によって、露光部分を、比較的簡単な手法で所望の温度に加熱することができる。したがって、例えばCOレーザを用いて約300℃までの局所加熱を実現することができ、この局所加熱によって、露光部分では、空気中の酸素により疎水性層の酸化および分解がもたらされる。
【0075】
UVレーザの使用は、その一方で、比較的大きな加熱、例えば300℃よりも高い加熱が必要とされる場合にしばしば比較的適切ではなく、それはエネルギーカップリングが非常に低く、分解に十分な露光表面の加熱がしばしばほとんど実現可能ではないからである。しかし、UV範囲内で吸収される物質が、撥水剤と混合される場合、UVレーザ光線の吸収は著しく増大し、UV放射線は緩和プロセスによって熱に変換される。UV吸収剤も、可視範囲(VIS)の光に露光する場合に適切であるが、UV光が好ましい。そのような添加剤では、効率的な温度上昇、したがって熱的に活性化した酸化触媒作用も実施することができ、したがってそのような尺度を用いることにより、UVレーザも、書込みのために都合の良い手法で使用することができる。これらUVレーザの利点は、解像度がCOレーザよりもかなり良好であり、したがってさらに微細な線(約1μmに至る)を書き込むことができることである。
【0076】
別の有利な露光法は、近接場光学であり、これは例えばナノリソグラフィーに使用することができるものである。疎水性層内でのUV吸収剤の存在下、UVおよび/またはVIS光の範囲内での近接場光学法では、特に有利な手法で作用することが可能である。
【0077】
したがって、UV光および/またはVISの使用に関する好ましい実施形態では、疎水性層は、UV吸収剤、好ましくは有機UV吸収剤を含有する。UV吸収剤の例は、当業者に周知であり、場合に応じて適切なものを選択することができる。好ましい例は、ベンゾフェノンの誘導体、好ましくは2位および/または4位に存在する置換基(例えばヒドロキシルおよび/またはアルコキシ基);置換ベンゾトリアゾール、3位でフェニル置換されたアクリレート(ケイ皮酸誘導体)、およびサリチレートである。その他の好ましいUV吸収剤は、3−(5−イミダゾリル)アクリル酸(ウロカニン酸)やエルゴステロールなどの天然の物質である。完成した疎水性層内のUV吸収剤の濃度は、使用される場合は好ましくは0.1から10重量%であり、特に2から8重量%であり、より好ましくは3から5重量%である。
【0078】
構造化の解像幅は、露光波長のみによって決定され、特にレーザ光線の幅によって決定される。基本的に、UV/VIS範囲(nm範囲内)での近接場光学法を介した露光によって、非常に低い解像度を実現することも可能である。したがって本発明によれば、ミクロンおよび/またはナノメートル範囲の構造化を形成することが可能である。μm範囲のUV露光によって実現可能な構造化は、例えば、本の場合に必要とされる印刷品質に十分である。
【0079】
表面の露光の結果、画像通りに露光された領域での疎水性層の分解が、酸化触媒の作用と併せて結果的に生じた熱によって生じ、その下に存在する親水性酸化触媒が、この領域で剥き出しになる。このように、所望の構造が表面に形成される。
【0080】
構造は、好ましくはミクロ構造であり、即ちミクロン範囲の精細さを有する構造が、少なくともいくつかの領域で形成される。1つの理論に拘束されることを望むものではないが、疎水性層の分解では、内部に存在する撥水性を与える物質が酸化され、したがって分解され蒸発することが想定される。残留物を含まない分解が生ずることが好ましい。
【0081】
このように得られ、かつ構造化表面を有するプレートは、受容媒体上に構造を印刷するのに著しく適切である。この場合、疎水性または親水性である印刷材料が基板に塗布されるが、この材料は、親水性/疎水性の特性に起因して、基板の構造化表面の親水性/疎水性領域にのみ堆積される。当然ながら、親水性材料は、表面の親水性領域全体に分布し、疎水性材料は疎水性領域全体に分布する。次いで、圧力を都合良く使用して、材料を積んだ基板を受容媒体に接触させ、次いで、材料から受容媒体への画像通りの転写を行って、基板と受容媒体とを互いに切り離す。
【0082】
本発明による基板とは別に、この印刷プロセスは、従来の平版印刷プロセスの場合のように実施することができる。平版印刷プロセスの例は、リソグラフィーおよびオフセット印刷である。構造化プレートは、例えば印刷プレートまたは印刷ローラとして使用することができる。印刷材料は、例えばスプレー、浸漬、ナイフコーティング、または塗り拡げによって、あるいはロールを用いて塗布させてもよい。本発明の方法によれば、親水性から疎水性への変更を行うことによって、事実上任意の所望の液体からペースト状成分分への転写を実現することが可能である。
【0083】
印刷用の材料は、液体からペースト状のコンシステンシーを有する。例えば水溶液、懸濁液、またはペーストが可能である。印刷または転写の業界で知られている通常の材料を使用してもよい。これらは例えば、金属含有ペースト、セラミック含有ペースト、および半導体含有ペースト、または対応する懸濁液でもよい。積載された表面が受容媒体に押圧される場合、後者が、積載された表面に存在する成分と相互に作用して、構造の画像を対応する受容媒体上に生成することができるようになる。受容媒体に転写された材料を、乾燥し、硬化し、高密度化し、またはさらに別の手法で処理することができる。
【0084】
受容媒体は、例えば、超小型電子回路を生成するのに適切なものでもよい。これは例えば、プラスチック、例えばプラスチックフィルム、金属、紙、ガラス、またはセラミック表面でもよい。当然ながら、受容媒体の性質は、例えば親水性に関して、印刷用の材料に合わせて調整しなければならない。
【0085】
親水性領域を使用して、望ましくない反応を避けるために保護層としての別の親水性層で、剥き出しになった領域をオーバーコートすることもできる。次いで印刷のための実際の材料の固定化または堆積を、この第2の親水性層上に行うことができる。
【0086】
本発明の主題の特定の利点は、本発明のプレートの再生可能性にあり、したがって、既に構造化されたプレートも再構造化することができ、即ち構造化が可逆的であり、したがって価値あるプレートが再使用可能である。これは、いつでも可能であり、例えば摩耗、損傷の後、または印刷がなされるパターンの所望の変更の場合に可能である。
【0087】
再生は、例えば、適切な場合には使用後に、例えば残された印刷材料を除去するために表面を清浄化することによって、次いで表面全体にわたる表面構造の疎水性領域を除去することによって、有利な手法で実現される。次いでこのように剥き出しにされ、かつ親水性酸化触媒を含有する層を、疎水性層で再びコーティングすることができ、その結果、再生可能なプレートを新たな構造化タスクで使用することができるようになる。
【0088】
表面全体にわたる疎水性層の除去は、好ましくは2つの方法を用いることにより可能である。まず、熱接触分解によって表面から疎水性領域を完全に除去するために、表面を均一に露光することができる。したがってプレートからは、存在する全ての疎水性構成成分またはあらゆるUV吸収剤を無くすことができ、その結果、後に残される熱分解生成物などのいかなる残留物も無い状態で、完全に清浄になる。したがって、再生されたプレートは、制約を受けることなく再使用することができる。
【0089】
表面全体にわたる疎水性層の除去は、清浄剤を使用した溶解によって行うこともできる。適切な清浄剤は、例えば、撥水剤が可溶化する任意の有機溶媒、例えば、ヘキサンやベンゼン、トルエンなどの無極性溶媒、または界面活性剤を含有する洗浄剤である。当然ながら、清浄剤は、親水性触媒を含有する層を攻撃しないことを確実にすべきである。
【0090】
あるいは再生は、古い構造化の疎水性領域を除去することなく表面全体にわたって疎水性層を再び得るために、構造化表面に対して撥水剤を直接塗布させることにより、適切な場合には表面を清浄化した後で、簡単な手法により行うこともできる。
【0091】
表面全体にわたって撥水性をさらに与えた後、このように再生されたプレートは、別の画像パターンで再構造化するのに利用可能である。このように、無制限に繰返し可能な再使用が、可能である。
【0092】
本発明の使用は、一般に、印刷業における印刷プロセスから、基板に塗布させたある情報または構造を転写する転写技法にまで及ぶ。その他の適用例は、構造、特に、マイクロリアクタやスポットプレート、対応する親水性または疎水性領域が形成される組合せ適用例のための反応器などの、ミクロ構造の作製である。その他の適用例は、細胞またはその他の生物学的成分を所望の配置構成(アレイ)に保持するために、親水性または疎水性が使用される、ナノメートルまたはミクロン範囲の非常に微細な構造の作製にある。
【0093】
露光表面の純粋な親水性化の他に、露光によって剥き出しにされた親水性領域では、表面の化学変化(例えば官能基の導入)をもたらす適切な試薬を用いて反応を実施することも可能である。したがって、官能性シランのカップリングおよびそのさらに別の反応によって、事実上、任意の所望の表面機能を生成することが可能である。このように、例えばアミノ基を、露光領域に塗布させることができ(グラフト化)、さらに官能化の目的で、通常の化学反応をいったん受けることができ(例えばシッフ塩基反応または酸塩化物を介して)、または生物学的もしくはその他の成分のカップリングにも役立てることができる。
【0094】
これらの可逆的に構造化可能な表面の、好ましい可能性ある適用例は、例えば、ある細胞またはその他の生物学的成分の目標とされた固定化、特に酵素の固定化のための抗血栓性表面を作製するために、インプラントのために、可逆的な再書込み可能な印刷プレートおよび印刷ローラ(デジタル印刷)、特にオフセットローラの生成のために、リソグラフィー印刷プロセス用の石の構造化、微小光学およびセキュリティホログラム用のマスターの生成のために、μmからnm範囲の表面で選択可能な疎水性/親水性相互作用を有する層である。
【0095】
下記の実施例は、本発明をさらに説明するのに役立つ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0096】
1.結合剤の調製
結合剤を調製するために、メチルトリエトキシシラン1069.9g(6.0モル)とテトラエトキシシラン312.5g(1.5モル)との混合物を、2等分する。この2等分した一方に、シリカゾル(Levasil 300/30、Bayer製)246.8gを撹拌しながら添加する。エマルジョンの形成後(約30秒)、36重量強度%HClを5.60g添加する。短時間撹拌した後(30から50秒)、反応混合物は、加熱によって透明になる。ここに、先に調製したシラン混合物のもう一方を、全て一度に素早く添加する。間もなく反応混合物は、白色沈殿(NaCl)によって混濁する。次いで撹拌を、氷浴内で冷却しながら15分間行う。シラン加水分解生成物を、室温で12時間放置し、固体沈殿物からデカントし、このようにして保存可能なゾルが得られる。塩酸による活性化によって、使用前に加水分解度は0.8に調節される(8質量%、ゾル1g当たり酸0.108gを添加)。
2.酸化触媒およびコーティング懸濁液の調製
触媒的に活性な材料を、アルミナ粉末に硝酸溶液を含浸させることによって調製する。アルミナ(Nabalox(登録商標)NG100)100gに、硝酸マンガン22.97g、硝酸銅27.27g、および硝酸カリウム3.46gを水25gに溶かした溶液を含浸させ、乾燥炉内で乾燥し、440℃で1時間焼成する。アルミナ(Martoxid(登録商標)MR70)50gを、硝酸マンガン3.82g、硝酸銅4.53g、および硝酸カリウム0.57gを水10gに溶かした溶液を用いて、類似の手法で処理する。
【0097】
コーティング懸濁液は、NG100 10.5g、MR70 4.50g(重量は、含浸済みの酸化物を基にして得た)、および黒色無機顔料1.16g(酸化物への含浸として)、上記にて調製された結合剤8.25g、および活性化用の塩酸0.89gからなる。そこに2−ブトキシエタノール7.5gを添加する。完全な均質混合のために、NG100粉末以外の全ての成分(結合剤の活性化後)を、振盪混合機内にガラズビーズを添加しながら20分間完全に混合し、NG100を添加した後にさらに5分間振盪させる。
3.基板のコーティング
ステンレス鋼またはエナメル処理金属シート(Pemco(登録商標)52092)を、基板として使用した。予備清浄を、超音波浴内でイソプロパノール−KOH溶液を用いて行い(15分)、洗浄を脱塩水で行い、乾燥を乾燥炉内で行った。上記にて調製されかつ酸化触媒を含有する懸濁液を、噴霧によって塗布させ、乾燥炉内で20分間、80から100℃で乾燥する。次いで層をマッフル炉内で1時間、440℃で硬化する。
【0098】
ワックス層(ワックス、Aldrich製34,689−6)を、4.5mm/秒の速度の浸漬コーティング(115℃)によって、触媒作用によりコーティングされた基板に塗布させた。後続の、140℃で20分間の炉内処理を、ワックス層の厚さを調節するために行った。
4.書込み法による構造化
Universal Laser Systems製レーザシステムX2−600は、COレーザであり、走査移動またはベクター移動を可能にする2つの異なる動作モードを含む。走査移動モードでは、ある領域での彫り込みが可能であり、その場合構造化は、前後運動によって線ごとに行われる。ベクター移動モードでは、輪郭の構造化が可能になる。
【0099】
レーザシステムプリンタドライバは、0から100%までのある強度を、グラフィック描画に使用される各色に割り当てるので、レーザ強度は制御されるが、このとき100%は、レーザ出力50ワットに相当するものである。レーザは、比例的にパルス送出され、強度のパーセンテージはレーザパルスの持続時間に対応する(φ=127μmで)。基本的に、強度設定は、彫り込みの所望の深さに直接基づいている。線形強度設定により、彫り込みは、50%の強度に比べて100%の強度の場合に2倍の深さである。
【0100】
上記にて生成されたコーティング付き基板のワックス層を、出力5Wおよび速度50cm/秒のレーザシステムX2−6000に向けて露光した。所望の構造化は、レーザ露光中に発生した熱の結果、行われる。
5.得られた構造の評価
図1は、COレーザで露光された領域と露光されていない領域との間の境界を示す、走査型電子顕微鏡写真である。触媒的に活性な多孔質層に適用されたワックス層は、その露光領域が、熱触媒的に破壊されていることが示されている。
【0101】
この構造を、HOに対する接触角測定による表面エネルギーに基づいて、さらに評価した。予備実験では、酸化触媒を含有しかつ疎水性層が塗布されていない層について、HOに対し10°未満の接触角が測定された。構造化基板では、非露光領域に関して100°の接触角(HO)(ワックス層)が得られたが、露光領域の接触角(HO)は10°未満であった。
【0102】
露光領域は、触媒を含有しかつ疎水性層で処理されていない層と同じ接触角を有するので、ワックス層は、局所加熱(COレーザ露光)によって、露光領域が完全に分解されたことになる。
6.触媒的に活性な化学種を含まないコーティング
アルミナに、触媒的に活性な遷移金属酸化物を含浸させないこと以外は、上述の実施例と同じ方法で基板をコーティングする場合、疎水性層の熱触媒的分解は不可能であるので、構造化をレーザ露光によって行うことはできない。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】図1は、COレーザで露光された領域と露光されていない領域との間の境界を示す、走査型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性および疎水性領域を含む構造化表面を有する、再生可能なプレートを作製するための方法であって、基板およびその上に存在する層を含み、かつ親水性酸化触媒を含有する材料を含む再生可能なプレートの表面が、疎水性層でコーティングされ、画像通りに露光されており、該疎水性層は、疎水性層の露光領域が熱触媒的に分解するように、露光によって露光領域が加熱され、それによって、下に存在する親水性酸化触媒が露出される、方法。
【請求項2】
前記疎水性層がUV吸収剤を含み、前記表面が、UV光および/またはVIS光に露光され、あるいはUVおよび/またはVIS範囲の近接場光学を用いて露光され、その結果、疎水性層の露光領域が加熱され、熱触媒的に分解し、それによって、下に存在する親水性酸化触媒が露出されることを特徴とする、請求項1に記載の構造化表面を有する再生可能なプレートを作製するための方法。
【請求項3】
IR光に対する露光が行われることを特徴とする、請求項1に記載の構造化表面を有する再生可能なプレートを作製するための方法。
【請求項4】
レーザ光、特にUVレーザまたはCOレーザに対する露光が行われることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の構造化表面を有する再生可能なプレートを作製するための方法。
【請求項5】
マスク法、ホログラフィー法、近接場光学法(ナノリソグラフィー)、またはレーザ書込み法を、画像通りの露光に使用することを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の構造化表面を有する再生可能なプレートを作製するための方法。
【請求項6】
親水性酸化触媒を含む層を、その上面に位置する疎水性層を得るために、撥水剤の塗布によって疎水性にすることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の構造化表面を有する再生可能なプレートを作製するための方法。
【請求項7】
親水性酸化触媒を含む剥き出しの層が、保護層として別の親水性層でオーバーコートされ、または試薬との反応によって、任意の別の成分を結合することができる官能基を備えることを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の構造化表面を有する再生可能なプレートを作製するための方法。
【請求項8】
親水性酸化触媒を含む層が多孔質であることを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の構造化表面を有する再生可能なプレートを作製するための方法。
【請求項9】
親水性酸化触媒がIR吸収物質であることを特徴とする、請求項1から8のいずれかに記載の構造化表面を有する再生可能なプレートを作製するための方法。
【請求項10】
親水性酸化触媒を含有する材料が、さらに結合剤を含むことを特徴とする、請求項1から9のいずれかに記載の構造化表面を有する再生可能なプレートを作製するための方法。
【請求項11】
結合剤が、縮合物および/またはナノスケール粒子であってそれぞれの場合にテトラアルコキシシランと、アルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、アリールトリアルコキシシラン、およびジアリールジアルコキシシランから選択された少なくとも1種のシランとから好ましく形成される縮合物および/またはナノスケール粒子を含むことを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
酸化触媒が、触媒的に活性な成分として、遷移金属酸化物または遷移金属酸化物の混合物を含むことを特徴とする、請求項1から11のいずれかに記載の構造化表面を有する再生可能なプレートを作製するための方法。
【請求項13】
疎水性層が、パラフィン、ワックス、油、脂肪、炭化水素、石鹸、および/または脂肪酸、例えばステアリン酸またはオレイン酸を含み、あるいはこれらからなることを特徴とする、請求項1から12のいずれかに記載の構造化表面を有する再生可能なプレートを作製するための方法。
【請求項14】
疎水性層が、露光により加熱される間、実質的に酸化的に破壊されることを特徴とする、請求項1から13のいずれかに記載の構造化表面を有する再生可能なプレートを作製するための方法。
【請求項15】
a)基板を、粒子の形をした酸化触媒と、適切な場合には縮合物および/またはナノスケール粒子を含有する結合剤ゾルとを含む懸濁液でコーティングし、b)形成された層を撥水剤で覆うことを特徴とする、請求項1から14のいずれかに記載の構造化表面を有する再生可能なプレートを作製するための方法。
【請求項16】
親水性および疎水性領域を含む構造化表面を有する再生可能なプレートであって、基板と、親水性酸化触媒およびその上に存在する疎水性層を含有する材料の層とを含み、該疎水性層が、親水性酸化触媒を含有する層上に画像通りに構成され、その結果、疎水性領域および親水性領域を含む構造化表面が得られる、再生可能なプレートを構成する、プレート。
【請求項17】
疎水性層が、少なくとも1種のUV吸収剤を含有することを特徴とする、請求項16に記載の構造化表面を有する再生可能なプレート。
【請求項18】
請求項1から15の方法によって得ることが可能な、請求項16または請求項17に記載の構造化表面を有する再生可能なプレート。
【請求項19】
印刷プレートまたは印刷ローラであることを特徴とする、請求項16から18のいずれかに記載の構造化表面を有する再生可能なプレート。
【請求項20】
疎水性領域を、親水性および疎水性領域を有する構造化表面から、表面全体にわたって実質的に除去し、親水性酸化触媒を含有する剥き出しの層を、再生可能なプレートが新たな画像パターンによる構造化で再び利用可能になるように、疎水性層で再びコーティングすることを特徴とする、請求項16から19のいずれかに記載の再生可能なプレートを再生するための方法。
【請求項21】
疎水性領域が、
a)熱触媒分解によって疎水性領域を実質的に完全に除去するために、表面全体にわたって露光するステップと、
b)清浄剤を用いて構造化表面の疎水性領域を実質的に完全に切り離すステップと
によって除去されることを特徴とする、請求項20に記載の再生するための方法。
【請求項22】
親水性および疎水性領域を有する構造化表面を、再生可能なプレートが新たな画像パターンによる構造化で再び利用可能になるように、追加の疎水性層で表面全体に直接そのままコーティングすることを特徴とする、請求項16から19のいずれかに記載の再生可能なプレートを再生するための方法。
【請求項23】
a)その親水または疎水特性に従って親水性領域全体または疎水性領域全体に分布された、親水性または疎水性の材料を、請求項16に記載の構造化表面を有する再生可能なプレートに塗布し、
b)材料が積層された再生可能なプレートを、受容媒体と接触させ、該材料を、受容媒体に画像通りに転写する、
液状からペースト状のコンシステンシーを有する材料を印刷するための方法。
【請求項24】
プレートを、印刷プレートまたは印刷ローラとして使用することを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
オフセット印刷などの印刷のため、マイクロエレクトロニクスのため、抗血栓性表面としての生物学的コンポーネントの固定化のため、またはインプラントのための、請求項16に記載の構造化表面を有する再生可能なプレートの使用。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2008−545552(P2008−545552A)
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−512767(P2008−512767)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【国際出願番号】PCT/EP2006/004979
【国際公開番号】WO2006/125635
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(500449008)ライプニッツ−インスティトゥート フィア ノイエ マテリアーリエン ゲマインニュッツィゲ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクタ ハフトゥンク (22)
【Fターム(参考)】