酸化鉄多孔体、それを用いた空気浄化材料及び酸化鉄多孔体の製造方法
【課題】空気浄化材料として利用した場合に空気中に含まれる揮発性有機化合物(例えばアセトアルデヒド)等の反応分子に対して十分に高度な浄化性能を有することが可能な酸化鉄多孔体を提供すること。
【解決手段】酸化鉄の一次粒子が凝集した凝集体からなり、
前記一次粒子の平均粒子径が2〜8nmであり、
前記凝集体の細孔の中心細孔直径が2〜10nmであり、
前記酸化鉄が、X線回折パターンにおいて結晶の(110)面に由来するピークと結晶の(300)面に由来するピークの2本のピークを示す2ラインフェリハイドライト相を有しており、
前記酸化鉄の全結晶相に対する前記2ラインフェリハイドライト相の含有比率が40質量%以上であり、且つ、
ケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛及びチタンの酸化物からなる不純物の総量が0.1質量%以下であること、
を特徴とする酸化鉄多孔体。
【解決手段】酸化鉄の一次粒子が凝集した凝集体からなり、
前記一次粒子の平均粒子径が2〜8nmであり、
前記凝集体の細孔の中心細孔直径が2〜10nmであり、
前記酸化鉄が、X線回折パターンにおいて結晶の(110)面に由来するピークと結晶の(300)面に由来するピークの2本のピークを示す2ラインフェリハイドライト相を有しており、
前記酸化鉄の全結晶相に対する前記2ラインフェリハイドライト相の含有比率が40質量%以上であり、且つ、
ケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛及びチタンの酸化物からなる不純物の総量が0.1質量%以下であること、
を特徴とする酸化鉄多孔体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化鉄多孔体、それを用いた空気浄化材料並びに酸化鉄多孔体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
広角X線パターンにおいて、d値が2.6オングストロームの位置のピーク(結晶の(110)面に由来するピーク)と、d値が1.5オングストロームの位置のピーク(結晶の(300)面に由来するピーク)との2本のブロードなピークを有する2ラインフェリハイドライト相を有する酸化鉄は、その表面に八面体のFe3+イオン種以外に正しい配位の少ない四面体のFe3+イオンが存在するという特性を有しており、様々な分野への応用が期待されている。
【0003】
このような2ラインフェリハイドライト相を有する酸化鉄の製造方法としては、例えば、1998年に発行されたChemical Reviewのvol.98の2549頁〜2586頁に記載の“Occurrence and Constitution of Natural and Synthetic Ferrihydrite, a Widespread Iron Oxyhydroxide”(非特許文献1)においては、鉄塩を含有する溶液に塩基を導入して沈殿物を形成せしめた後に沈殿物をろ過して乾燥することにより2ラインフェリハイドライト相を有する酸化鉄を得る方法が開示されている。また、非特許文献1においては、2ラインフェリハイドライト相を有する酸化鉄を、有機不純物、ヒ素、マンガン、銅、亜鉛及びその他の有毒な元素を吸着する廃水処理等の分野に利用することが記載されている。
【0004】
また、特開2005−2888439号公報(特許文献1)においては、Fe(III)塩類(例えばFeCl3、Fe2(SO4)3、FeClSO4、Fe(NO3)3)と、アルカリ性溶液(NaOH、KOH、NH3、Na2CO3、Ca(OH)2)との反応(Fe3++3OH−→Fe(OH)3)を利用して、Fe(OH)3を定量的に沈殿させた後に濾過、洗浄を行った後に乾燥してフェリハイドライトを得る方法が開示されており、得られたフェリハイドライトを排ガス中の望ましくない成分である硫化水素、メルカプタン、SOx、NOxの吸着させるために利用することが記載されている。
【0005】
また、特開2007−509832号公報(特許文献2)においては、鉄(III)の硝酸塩(Fe(NO3)3・9H2O)を水中でNaOHによって沈殿させた後、105℃のオーブンで14時間加熱してフェリハイドライト及びゲーサイトを生成し、これを水により洗浄し、濾過した後、真空状態の下で60℃で乾燥することにより、メソ多孔性の酸化鉄を得る方法が開示されており、かかる酸化鉄をNO、SO2等の除去触媒として利用することや、有機化学種、バクテリア、重金属及びその他の汚染物質を含む水のろ過剤として利用することが開示されている。
【0006】
更に、2008年に発行されたJournal of American Chemical Societyのvol.130の280頁〜287頁に記載の“Synthesis and magnetic investigations of ordered mesoporous two−line ferrihydrite”(非特許文献2)においては、テンプレートとしてメソポーラスシリカ(二次元のヘキサゴナルのメソポーラスシリカSBA−15あるいは三次元キュービックのメソポーラスシリカKIT−6)を用い、エタノール中で鉄(III)の硝酸塩(Fe(NO3)3・9H2O)をテンプレートともに撹拌した後、エタノールを蒸発させ、200℃で6時間焼成した後、得られた固形分を、エタノール中に鉄(III)の硝酸塩(Fe(NO3)3・9H2O)を含有する溶液中に添加し、撹拌し、再度エタノールを蒸発させて、得られた固形物を200℃で6時間焼成して多孔体前駆体を得た後、NaOHを用いて多孔体前駆体からテンプレートとしてのメソポーラスシリカを除去することにより、2ラインフェリハイドライトを有し且つメソ多孔性の構造を有する酸化鉄多孔体を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−2888439号公報
【特許文献2】特開2007−509832号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Chemical Review,“Occurrence and Constitution of Natural and Synthetic Ferrihydrite, a Widespread Iron Oxyhydroxide”,vol.98,1998年発行,2549頁〜2586頁
【非特許文献2】Harun Tuysuz et al.,Journal of American Chemical Society,“Synthesis and magnetic investigations of ordered mesoporous two−line ferrihydrite”,vol.130,2008年発行,280頁〜287頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1〜2及び非特許文献1〜2に記載のような従来の酸化鉄の製造方法を利用して得られる酸化鉄は、空気浄化材料として利用した場合に、揮発性有機化合物(VOC:例えばアセトアルデヒド)等の反応分子を浄化する性能が必ずしも十分なものとはならなかった。
【0010】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、空気浄化材料として利用した場合に空気中に含まれる揮発性有機化合物(例えばアセトアルデヒド)等の反応分子に対して十分に高度な浄化性能を有することが可能な酸化鉄多孔体、その酸化鉄多孔体を用いた空気浄化材料、並びに、その酸化鉄多孔体を簡便な工程で効率よく製造することが可能な酸化鉄多孔体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、先ず、上記従来技術(特許文献1〜2及び非特許文献1〜2)について検討した。先ず、上記特許文献1及び非特許文献1に記載のような従来の酸化鉄の製造方法においては、メソ多孔性構造を有する多孔体を得ることができず、酸化鉄の構造により空気浄化材料として利用した場合に十分に高度な浄化性能を得ることができないことが分かった。次に、上記特許文献2について検討したところ、かかる文献に記載のような従来の酸化鉄の製造方法においては、メソ多孔性の酸化鉄多孔体が得られるものの、このような酸化鉄多孔体は一次粒子が非常に高い濡れ性によって不規則に凝集した構造を有し、その細孔が粒子間の空間として形成されるものと推察され、細孔の均一性が低く、中心細孔直径は35nm程度のものとなり、更には、その細孔容積も0.09〜0.18cc/g程度の極めて低い値となる。また、このような酸化鉄多孔体は、その多孔体を構成する一次粒子のサイズを十分に小さなものとすることができず、その一次粒子の平均粒子径は8nm超となり、十分に小さな粒子が凝集した構造とすることもできなかった。そして、このような特許文献2に記載のような酸化鉄多孔体を空気浄化材料として利用した場合には、空気中の揮発性有機化合物を細孔内に十分に拡散させることができず、必ずしも十分な浄化性能が得られないことが分かった。なお、このような特許文献2に記載のような酸化鉄多孔体を200℃以上の温度で焼成した場合には、メソ多孔質構造のないものとなってしまう。次いで、非特許文献2について検討したところ、かかる文献に記載のような従来の酸化鉄の製造方法においては、メソ多孔性の酸化鉄多孔体が得られるものの、製造時にテンプレートとして用いたメソポーラスシリカに由来したケイ素の酸化物(二酸化ケイ素)が2重量%以上は含有されてしまうこと、更には、テンプレートを除去する際に用いたNaOHに由来したNaにより得られる酸化鉄多孔体の表面の不飽和配位サイトが被毒されてしまうことが分かった。そして、このような非特許文献2に記載のような酸化鉄多孔体においては、酸化鉄多孔体中に含有される不純物(二酸化ケイ素等)に由来して、空気浄化材料として利用した場合に必ずしも十分な揮発性有機化合物の除去性能が得られないことが分かった。なお、このような非特許文献2に記載のような従来の酸化鉄多孔体においては、二酸化ケイ素が含まれない場合には2ラインフェリハイドライト相が十分に形成されず、主にヘマタイトが形成されてしまう。また、このような非特許文献2に記載のような従来の酸化鉄の製造方法は、非常に煩雑な工程を得る必要があるばかりかコストの点でも必ずしも十分なものではない。
【0012】
次に、本発明者らは、上述のような検討結果に基づき、上記目的を達成すべく更に鋭意研究を重ねた結果、酸化鉄多孔体を、酸化鉄の一次粒子が凝集した凝集体からなるものとし、前記一次粒子の平均粒子径を2〜8nmとし、前記凝集体の細孔の中心細孔直径を2〜10nmとし、前記酸化鉄中の2ラインフェリハイドライト相の含有比率を40質量%以上とし且つケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛及びチタンの酸化物からなる不純物の総量を0.1質量%以下とすることにより、驚くべきことに、その酸化鉄多孔体を空気浄化材料として利用した場合に空気中に含まれる揮発性有機化合物(例えばアセトアルデヒド)等の反応分子に対して十分に高度な浄化性能が得られることを見出して本発明を完成するに至った。更に、本発明者らは、アルコール中にエトキシ基(親水性基)の個数が2〜200であり且つアルキル基(疎水性基)の炭素数が6〜20であるポリオキシエチレンアルキルエーテルからなる界面活性剤と鉄塩とを添加して反応液を調製し、その後、その反応液中に塩基を添加し、前記反応液のpHを4.5〜13に調整して前記界面活性剤と前記水酸化鉄との複合体を形成させた後、前記複合体を含有する前記反応液を密閉容器内に導入して20〜125℃の温度条件で加熱熟成し、その加熱熟成後の前記反応液から前記複合体を取り出し、前記複合体を極性溶媒により洗浄することにより、前記複合体から界面活性剤を除去して水酸化鉄の一次粒子の凝集した水酸化鉄多孔体を製造し、その水酸化鉄多孔体を乾燥させた後に200〜450℃の温度条件で焼成することにより、前記酸化鉄多孔体を効率よく製造することが可能となることを見出して本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の酸化鉄多孔体は、酸化鉄の一次粒子が凝集した凝集体からなり、
前記一次粒子の平均粒子径が2〜8nmであり、
前記凝集体の細孔の中心細孔直径が2〜10nmであり、
前記酸化鉄が、X線回折パターンにおいて結晶の(110)面に由来するピークと結晶の(300)面に由来するピークの2本のピークを示す2ラインフェリハイドライト相を有しており、
前記酸化鉄の全結晶相に対する前記2ラインフェリハイドライト相の含有比率が40質量%以上であり、且つ、
ケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛及びチタンの酸化物からなる不純物の総量が0.1質量%以下であること、
を特徴とするものである。
【0014】
上記本発明の酸化鉄多孔体においては、前記凝集体の細孔容積が0.25〜0.45cm3/gであることが好ましい。
【0015】
また、上記本発明の酸化鉄多孔体においては、前記凝集体の比表面積が140〜350m2/gであることが好ましい。
【0016】
さらに、上記本発明の酸化鉄多孔体においては、遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)を更に含有することが好ましく、かかる遷移金属がマンガン、セリウム、銀、ジルコニウム、イットリウム及びガリウムの中から選択される少なくとも1種の元素であることがより好ましい。
【0017】
本発明の空気浄化材料は、上記本発明の酸化鉄多孔体を備えることを特徴とするものである。
【0018】
本発明の酸化鉄多孔体の製造方法は、アルコール中に、親水性基としてのエトキシ基の個数が2〜200であり且つ疎水性基としてのアルキル基の炭素数が6〜20であるポリオキシエチレンアルキルエーテルからなる界面活性剤と、鉄塩とを添加して反応液を得る工程と、
前記反応液中に塩基を添加して前記反応液のpHを4.5〜13に調整することにより、前記反応液中において前記界面活性剤の周囲に水酸化鉄を析出させて、前記界面活性剤と前記水酸化鉄との複合体を得る工程と、
前記複合体を含有する前記反応液を密閉容器内に導入して20〜125℃の温度条件で加熱熟成する工程と、
前記加熱熟成後の前記反応液から前記複合体を取り出した後、前記複合体を極性溶媒により洗浄して前記複合体から界面活性剤を除去することにより、水酸化鉄の一次粒子の凝集した水酸化鉄多孔体を得る工程と、
前記水酸化鉄多孔体を乾燥させた後に200〜450℃の温度条件で焼成することにより、上記本発明の酸化鉄多孔体を得る工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0019】
また、上記本発明の酸化鉄多孔体の製造方法においては、前記界面活性剤の添加量が前記アルコールの総量に対して0.02〜50質量%であることが好ましい。
【0020】
また、上記本発明の酸化鉄多孔体の製造方法においては、前記塩基が、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、アルキル炭酸塩、アルキル炭酸水素塩、アルキルアミン、アルコキシド及び水酸化テトラアルキルアンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0021】
さらに、上記本発明の酸化鉄多孔体の製造方法においては、前記反応液を得る工程において、前記アルコール中に遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩を更に添加することが好ましく、前記遷移金属がマンガン、セリウム、銀、ジルコニウム、イットリウム及びガリウムの中から選択される少なくとも1種の元素であることがより好ましい。
【0022】
なお、本発明の酸化鉄多孔体、それを用いた空気浄化材料及び酸化鉄多孔体の製造方法によって上記目的が達成される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の酸化鉄多孔体は、平均粒子径が2〜8nmの酸化鉄の一次粒子が凝集した凝集体からなり、また、その酸化鉄において前記2ラインフェリハイドライト相の含有比率は40質量%以上である。このように、本発明の酸化鉄多孔体は、微細な粒子が凝集した構造となっている。このような平均粒子径が2〜8nmという微細なナノ粒子(一次粒子)と、そのナノ粒子の凝集によりメソ細孔が形成された多孔質構造を有する多孔体(二次粒子)との組合せは、これにより空気浄化材料として利用した場合の働きが二重機能的となるため、アセトアルデヒド等の揮発性有機化合物に対する吸着性能や触媒反応活性の向上に非常に効果的である。すなわち、先ず、本発明の酸化鉄多孔体においては、平均粒子径が2〜8nmという微細なナノ粒子(一次粒子)により非常に高度な比表面積が確保され、吸着及び触媒機能の活性サイトとして機能するフェリハイドライトの表面の不飽和配位サイトを十分に多く存在させることが可能となる。また、本発明の酸化鉄多孔体においては、ナノ粒子に特有の高い比表面積と、その粒子の凝集により形成される多くの粒界域(結晶粒子同士の境界面)とにより、凝集体の内部において電荷移動が容易となるため、2ラインフェリハイドライトの表面の不飽和配位サイト上で吸着、触媒反応が同調して起こり、多量の有害なガスを迅速に除去することが可能である。また、このようなナノ粒子(一次粒子)の凝集した凝集体(二次粒子)においては、中心細孔直径が2〜10nmの細孔が形成されているため、細孔内に入って来るゲスト分子に対して拡散障害の少ないスペースが提供され、空気中の揮発性有機化合物等を細孔内に十分に拡散させることが可能である。このように、本発明においては、酸化鉄多孔体中のメソ細孔の存在により、揮発性有機化合物等の反応分子を大量に吸着する多数の表面の吸着サイトが提供されるだけでなく、触媒作用において極めて重要な細孔内への反応分子の拡散障害も十分に抑制される。そのため、本発明の酸化鉄多孔体においては、酸化鉄多孔体の細孔内に入って来る反応分子を、十分に分散させて吸着でき、吸着除去性能が非常に高度なものとなる。これにより、本発明の酸化鉄多孔体は、空気浄化材料として利用した場合に揮発性有機化合物(例えばアセトアルデヒド)等に対して十分に高度な浄化性能を示すものと本発明者らは推察する。
【0023】
また、本発明の酸化鉄多孔体の製造方法においては、先ず、界面活性剤をテンプレートとして用いて、アルコール中において界面活性剤の周囲に水酸化鉄を析出させる。このようにして水酸化鉄が析出されると、水酸化鉄とテンプレート中の親水性基とが相互作用して水素結合が形成され、水酸化鉄と界面活性剤との複合体が形成される。そのため、本発明においては、水酸化鉄を析出させることで、界面活性剤の周囲を水酸化鉄の析出粒子が覆うような構造が生成される。また、本発明においては、溶媒としてアルコールを用いているため、溶媒により水酸化鉄とテンプレートとの水素結合相互作用の形成が阻害されることが十分に抑制される。一方、従来の水酸化鉄を析出沈殿させる方法において一般的に用いられる水を溶媒として用いた場合には、析出沈殿した水酸化鉄(その種類は主に水酸化第二鉄(Fe(OH)3)とオキシ水酸化鉄(FeOOH))は、その強い水素結合能のためにH2O分子を強く吸着する傾向にある。そのため、溶媒として水を用いた場合には、水分子が析出沈殿した水酸化鉄の外圏に水素結合を通して強く吸着される。このようにして水酸化鉄の外圏に強く吸着した水分子は、水酸化鉄とテンプレートとの相互作用を阻害する。そのため、溶媒に水を用いた場合には、テンプレートとの複合体は形成すること自体が困難であり、析出沈殿で生成された水酸化鉄のナノ粒子は凝集した塊となる。そして、溶媒に水を用いた場合に、得られた凝集体に対してテンプレート除去あるいは非常に低温での焼成を行った場合には、結晶性の高い酸化鉄、あるいは、メソ多孔質構造のないオキシ水酸化鉄が形成される。このように、本発明においては、水分子と比較して水酸化鉄に対する水素結合能が低いアルコールを溶媒として用いているため、溶媒に起因して水酸化鉄とテンプレートとの間の水素結合の形成が阻害されることは十分に抑制され、効率よく水酸化鉄と界面活性剤との複合体が形成され、形成されたナノ粒子が安定し、不均一な凝集が起こることがない。そのため、このようにして得られる複合体から界面活性剤を除去すると、その界面活性剤の形状に由来した非常に均一なメソ細孔(いわゆるシングルポア分布を持つメソ細孔)が形成された水酸化鉄多孔体が得られる。また、このような界面活性剤は、直接的な共有結合と比較すると弱い水素結合相互作用により結合されているため、水のような極性の溶媒を用いて洗浄することで、前記複合体から容易に除去される。更に、このようにして極性溶媒により洗浄して界面活性剤を除去して細孔を形成することで、より高い表面積を得ることも可能となる。また、このようにして得られたナノ粒子が凝集した凝集体(水酸化鉄多孔体)は少なくとも最高450℃まで焼成してもメソ細孔構造が保持されるものとなる。そのため、本発明においては、このようにして水酸化鉄多孔体を得た後に、その水酸化鉄多孔体を乾燥し、焼成することができる。そして、このようにして水酸化鉄多孔体を焼成することにより、細孔構造等を維持しながら酸化鉄の2ラインフェリハイドライト相を形成できるとともに、酸化鉄の一次粒子は平均粒子径が2〜8nmという十分に微細なナノ粒子となる。更に、このようにして焼成することにより、得られる酸化鉄は十分に脱水された状態のものとなると推察される。すなわち、通常、2ラインフェリハイドライト相が形成された酸化鉄は、一般に分子式:5Fe2O3・9H2O(全体の約17質量%が水分子である。)で表せられる(例えば、Chemical Review,vol.98,1998年発行,2549頁〜2586頁を参照)。しかしながら、本発明においては、上述のように焼成工程を経て2ラインフェリハイドライト相を有する酸化鉄が得られているため、焼成時に酸化鉄に水和している水分子が蒸発除去され、2ラインフェリハイドライト相を形成しつつもその酸化鉄が十分に乾燥された状態のものとなる。そのため、得られる酸化鉄に水和する水分子の量は大気中に含まれる水の量に由来することとなり、その水分子の含有量はほぼ5質量%以下程度になるものと推察される。そして、このようにして脱水された酸化鉄の2ラインフェリハイドライト相においては、水が配位していた表面サイトに揮発性有機化合物等の反応分子を吸着させることが可能であり、より多くの吸着活性サイトが得られるものと推察される。また、このような本発明の酸化鉄多孔体の製造方法によれば、基本的に、製造過程においてケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛及びチタンの酸化物が形成されるような原料を用いることがなく、かかる酸化物からなる不純物が酸化鉄中に含有されることがないため、得られる酸化鉄多孔体においては、ケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛及びチタンの酸化物からなる不純物に起因して触媒活性が低下することがない。また、このような本発明の酸化鉄多孔体の製造方法は、再現性の高い簡単な合成法でありながら、鉄塩として安価な無機鉄塩を利用できるとともにテンプレートに用いてる界面活性剤も入手が容易であり、従来の酸化鉄多孔体の製造方法と比較して作業性やコスト面においても十分に優位性が高い方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、空気浄化材料として利用した場合に空気中に含まれる揮発性有機化合物(例えばアセトアルデヒド)等の反応分子に対して十分に高度な浄化性能を有することが可能な酸化鉄多孔体、その酸化鉄多孔体を用いた空気浄化材料、並びに、その酸化鉄多孔体を簡便な工程で効率よく製造することが可能な酸化鉄多孔体の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例1で得られた酸化鉄多孔体の低角域のX線回折パターンを示すグラフである。
【図2】実施例1で得られた酸化鉄多孔体及び焼成前の粉末の広角域のX線回折パターンを示すグラフである。
【図3】実施例1で得られた酸化鉄多孔体の窒素吸着・脱着等温線を示すグラフである。
【図4】実施例1で得られた酸化鉄多孔体の細孔径分布曲線である。
【図5】実施例1で得られた酸化鉄多孔体の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図6】実施例6で得られた酸化鉄多孔体の低角域のX線回折パターンを示すグラフである。
【図7】実施例6で得られた酸化鉄多孔体の広角域のX線回折パターンを示すグラフである。
【図8】図7に示すX線回折パターンのスケールを変更して示すグラフである。
【図9】実施例6で得られた酸化鉄多孔体の窒素吸着・脱着等温線を示すグラフである。
【図10】実施例6で得られた酸化鉄多孔体の細孔径分布曲線である。
【図11】実施例7で得られた酸化鉄多孔体の低角域のX線回折パターンを示すグラフである。
【図12】実施例7で得られた酸化鉄多孔体の広角域のX線回折パターンを示すグラフである。
【図13】実施例7で得られた酸化鉄多孔体の窒素吸着・脱着等温線を示すグラフである。
【図14】実施例7で得られた酸化鉄多孔体の細孔径分布曲線である。
【図15】比較例1で得られた酸化鉄の低角域のX線回折パターンを示すグラフである。
【図16】比較例1で得られた酸化鉄の広角域のX線回折パターンを示すグラフである。
【図17】比較例1で得られた酸化鉄の窒素吸着・脱着等温線を示すグラフである。
【図18】比較例1で得られた酸化鉄の細孔径分布曲線である。
【図19】比較例2で得られた酸化鉄の低角域のX線回折パターンを示すグラフである。
【図20】比較例2で得られた酸化鉄の広角域のX線回折パターンを示すグラフである。
【図21】比較例2で得られた酸化鉄の窒素吸着・脱着等温線を示すグラフである。
【図22】比較例2で得られた酸化鉄の細孔径分布曲線である。
【図23】比較例3で得られた酸化鉄の低角域のX線回折パターンを示すグラフである。
【図24】比較例3で得られた酸化鉄の広角域のX線回折パターンを示すグラフである。
【図25】比較例3で得られた酸化鉄の窒素吸着・脱着等温線を示すグラフである。
【図26】比較例3で得られた酸化鉄の細孔径分布曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0027】
先ず、本発明の酸化鉄多孔体について説明する。すなわち、本発明の酸化鉄多孔体は、酸化鉄の一次粒子が凝集した凝集体からなり、
前記一次粒子の平均粒子径が2〜8nmであり、
前記凝集体の細孔の中心細孔直径が2〜10nmであり、
前記酸化鉄が、X線回折パターンにおいて結晶の(110)面に由来するピークと結晶の(300)面に由来するピークの2本のピークを示す2ラインフェリハイドライト相を有しており、
前記酸化鉄の全結晶相に対する前記2ラインフェリハイドライト相の含有比率が40質量%以上であり、且つ、
ケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛及びチタンの酸化物からなる不純物の含有量が0.1質量%以下であること、
を特徴とするものである。
【0028】
このように、本発明の酸化鉄多孔体は酸化鉄の一次粒子が凝集した凝集体の構造を有するものである。このような酸化鉄の一次粒子は、平均粒子径が2〜8nmのものである。このような一次粒子の平均粒子径が前記下限未満では酸化鉄多孔体の調製が困難となり、他方、前記上限を超えると、比表面積が低下して、酸化鉄表面に存在する正しい配位の少ない四面体のFe3+イオンに由来する触媒の活性サイト(不飽和配位サイト)の量が不十分となり、空気浄化材料として利用した場合に十分に高度な浄化性能が得られなくなる。また、このような一次粒子の平均粒子径としては、調製の容易さや目的とする細孔構造を得るという観点から、2〜6nmであることがより好ましい。なお、ここにいう「粒子径」は、粒子が球形で無い場合には、原則として、その粒子の最小直径と最大直径との平均値をいう。また、「一次粒子の平均粒子径」は、X線回析(XRD)による測定を行い、シェラーの式:
D=0.9λ/βcosθ
(式中、Dは粒子径を示し、λは使用X線波長を示し、βは試料の回折線幅を示し、θは
回折角を示す)
を計算することにより求める。このような一次粒子の粒子径を確認する際におけるX線回折測定の方法としては、測定装置として理学電機社製の商品名「RINT2100」を用いて、スキャンステップ0.01°、発散及び散乱スリット1/2deg、受光スリット0.15mm、CuKα線、40kV、30mA、スキャンス速度2θ=4°/minの条件で測定する方法を採用する。また、結晶の(110)面に由来するピーク(2θ=35°付近)の回折線幅より粒子径を算出する。なお、このような粒子径の大きさは透過型電子顕微鏡(TEM)による観察により確認することもできる。
【0029】
また、このような酸化鉄の一次粒子の凝集体(酸化鉄多孔体)は、細孔の中心細孔直径が2〜10nmのものである。このような中心細孔直径が前記範囲にあると、空気浄化材料として利用した場合に反応分子が細孔内を容易に拡散するため、凝集体の外表面の活性サイトばかりか細孔内部の活性サイトにおいても反応分子の分解反応が容易に進行し、浄化性能が十分に向上される。ここで、このような中心細孔直径が上記下限未満になると反応分子が細孔内部に十分な速度で拡散されず、オゾン分解性能が低下する。他方、上記上限を超えると比表面積が低下して触媒活性が低下し、空気浄化性能が低下する。また、このような観点から、前記担体の中心細孔直径は2〜8nmであることがより好ましく、3〜6nmであることが更に好ましい。
【0030】
なお、ここにいう「中心細孔直径」とは、細孔容積(Vp)を細孔半径(Rp)で微分した値(d(Vp)/d(Rp))を細孔半径(Rp)に対してプロットした曲線(細孔径分布曲線)の最大ピークにおける細孔半径を2倍した値である。なお、細孔径分布曲線は、次に述べる方法により求めることができる。すなわち、先ず、前記凝集体を液体窒素温度(−196℃)に冷却して窒素ガスを導入し、定容量法あるいは重量法によりその吸着量を求め、次いで、導入する窒素ガスの圧力を徐々に増加させ、各平衡圧に対する窒素ガスの吸着量をプロットし、吸着等温線を得る。そして、前記吸着等温線を用い、Cranston−Inklay法、Pollimore−Heal法、BJH法等の計算法を採用することにより、細孔径分布曲線を求めることができる。
【0031】
また、このような凝集体においては、窒素吸着・脱着等温線に、相対圧力(P/P0)が0.4〜1の間で、IUPACで規定されているIV型のヒステリシスループが確認されるものであることが好ましい。このようなIUPACで規定されているIV型のヒステリシスループにより、凝集体がメソ細孔構造を有するものであることを確認できる。
【0032】
さらに、このような凝集体に形成されている細孔は、一次粒子が凝集されて形成される2次細孔である。このように細孔が2次細孔として形成されているため、かかる凝集体においては、細孔径、比表面積及び細孔容積が十分に増大され、反応分子を細孔内に拡散させる際に拡散抵抗が非常に小さくなり、反応分子が速やかに細孔内部に拡散する。そのため、細孔内部で、より多くの反応分子の吸着及び分解反応を引き起こすことが可能であり、空気浄化材料として利用した場合に十分に高度な性能が得られる。更に、本発明の酸化鉄多孔体は一次粒子が凝集された凝集体の構造をとるため、細孔構造が3次元細孔構造となり、より多くの細孔が形成されるとともに比表面積が増大されて、空気浄化材料として利用した際に浄化活性がより高度なものとなる。
【0033】
このような凝集体に形成されている細孔は、前記細孔径分布曲線における中心細孔直径の±40%(より好ましくは±30%)の範囲に全細孔容積の60%(より好ましくは75%)以上が含まれるという条件を満たすものであることが好ましい。このような条件を満たす場合、その凝集体は細孔の直径が非常に均一な凝集体であるといえる。そして、このように均一な細孔を有する凝集体においては、吸着の活性サイト(不飽和配位サイト)がより多く存在することとなる。なお、本発明の酸化鉄多孔体が、後述する本発明の酸化鉄多孔体の製造方法を利用して得られたものである場合には、細孔がテンプレートとしての界面活性剤に由来して形成されるため、上述のような条件を満たすものとなる。
【0034】
また、このような凝集体の細孔容積としては、0.25〜0.45cm3/gであることが好ましく、0.25〜0.41cm3/gであることがより好ましく、0.3〜0.41cm3/gであることが更に好ましい。このような凝集体の細孔容量が前記下限未満になると、細孔内へ反応基質を十分な速度で拡散させることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、反応基質の吸着性能が低下し、反応効率が低下する傾向にある。このような凝集体の細孔容積としては、凝集体を液体窒素温度(−196℃)に冷却して窒素ガスを導入し、定容量法あるいは重量法によりその飽和吸着量を求めて、その飽和吸着量から容積換算することにより求められる値を採用する。
【0035】
また、このような凝集体の比表面積としては、140〜350cm2/gであることが好ましく、150〜325m2/gであることがより好ましい。このような比表面積が前記下限未満では、酸化鉄多孔体中の不飽和サイトの量が十分なものとならず、空気浄化材料として利用した場合に十分な浄化性能が得られなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えるとメソ細孔構造だけでなくマイクロ細孔も形成される傾向にある。このような凝集体の比表面積は、前記吸着等温線からBET等温吸着式を用いてBET比表面積として算出する。
【0036】
また、このような凝集体(二次粒子)の粒子径は、600nm以下であることが好ましい。このような凝集体(二次粒子)の粒子径が前記上限を超えると、粒子表面から粒子内部へのガスの拡散が遅くなり、空気浄化性能が低下してしまう傾向にある。なお、このような凝集体(二次粒子)の粒子径は、透過型電子顕微鏡により測定することができる。
【0037】
さらに、このような凝集体においては、X線回折(XRD)パターンにおいて2θが0.5°〜3°の間に1本のピークが認められる。
【0038】
さらに、このような凝集体を形成する前記酸化鉄は、X線回折パターンにおいて結晶の(110)面に由来するピーク(d値が2.6オングストロームの位置におけるピーク)と、結晶の(300)面に由来するピーク(d値が2.6オングストロームの位置におけるピーク)の2本のピークを有する2ラインフェリハイドライト相の存在が確認されるものである。すなわち、「結晶の(110)面に由来するピーク」はX線回折パターンにおける2θが35.1°の位置のピークをいい、「結晶の(300)面に由来するピーク」はX線回折パターンにおける2θが60.4°の位置のピークをいい、このようなX線回折パターンにおける結晶の(110)面に由来するピークと結晶の(300)面に由来するピークとの2本のピークにより、酸化鉄中に2ラインフェリハイドライト相の存在することが確認できる。なお、このような酸化鉄中の2ラインフェリハイドライト相の存在を確認する際のX線回折測定の方法としては、測定装置として理学電機社製の商品名「RINT2100」を用いて、走査範囲10°〜80°、スキャンステップ0.01°、発散及び散乱スリット1/2deg、受光スリット0.15mm、CuKα線、40kV、30mA、スキャン速度2θ=4°/minの条件で測定する方法を採用する。また、ここにいう「ピーク」とは、ベースラインからピークトップまでの高さが100cps以上のものをいう。
【0039】
また、このような凝集体においては、酸化鉄の全結晶相に対する2ラインフェリハイドライト相の含有比率が40質量%以上である。このような2ラインフェリハイドライト相の含有比率が40質量%未満では、一次粒子の粒子径が8nmより大きくなってしまい(15nm以上となる傾向にある。)、2ラインフェリハイドライト相に由来する活性サイト(不飽和配位サイト)の量が十分なものとならず、空気浄化材料として利用した場合に、十分な浄化性能が得られなくなる。また、このような2ラインフェリハイドライト相の含有比率としては、40〜100質量%であることがより好ましく、80〜100質量%であることがより好ましい。なお、前記上限を超える酸化鉄は、その製造が困難である傾向にある。また、本発明において「酸化鉄の全結晶相に対する2ラインフェリハイドライト相の含有比率」は、以下のようにして求める。すなわち、先ず、測定装置としてBruker社製の商品名「D8 Advance」を用い、走査範囲15°〜145°、スキャンステップ0.05°/ステップ、発散スリット0.3°、CoKα線、CoKβ線除去用のFeフィルタを使用、40kV、35mA、スキャンスピード3°/minの条件で、CoKαのX線回折パターンを測定する。次に、Rietan−2000のソフトを用いて、前記CoKαのX線回折パターンにおける各ピークの結晶相を同定し、そのピーク面積をそれぞれ求めた後、各結晶相のピーク面積の総和(全面積)に対する2ラインフェリハイドライト相のピーク面積の比率を算出する。そして、このようにして算出される2ラインフェリハイドライト相のピーク面積の比率の値を、そのまま2ラインフェリハイドライト相の含有比率として採用する。なお、ここにいうCoKαのX線回折パターンの「ピーク」とは、ベースラインからピークトップまでの高さが100cps以上のものをいう。
【0040】
また、本発明の酸化鉄多孔体は、ケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛及びチタンの酸化物からなる不純物の総量(含有量の合計)が0.1質量%以下である。このような不純物の総量が前記上限を超えると、空気浄化材料に使用した場合に十分な性能を得ることができないばかりか、フェリハイドライト相の耐熱性が低下する。なお、このような不純物としての上記元素の酸化物としては、例えば、二酸化ケイ素等が挙げられる。更に、このような不純物の含有量の測定方法としては、高周波プラズマ発光分光分析装置(ICPS)により元素分析する方法を採用することができる。
【0041】
また、本発明の酸化鉄多孔体においては、TG/DTA(示差熱熱重量同時測定装置:リガク社製の商品名「Thermo plus TG8120」)を利用し、約13mgの試料を用いて、試料を100℃から300℃まで加熱して試料の重量変化を測定し、前記加熱前後の重量変化率を算出することにより得られる含水量が5質量%以下であることが好ましい。このような含水量の凝集体(酸化鉄多孔体)により、より高度な空気浄化活性が得られる傾向にある。なお、このような含水量の酸化鉄多孔体は、後述のような焼成工程を実施する本発明の酸化鉄多孔体の製造方法を利用することにより、容易に製造することができる。
【0042】
また、本発明の酸化鉄多孔体においては、遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)を更に含有することが好ましい。このように、遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)を含有することにより、調製時における焼成工程において、フェリハイドライト粒子の凝集と粒子サイズの肥大化を防ぎ、フェリハイドライト単独の場合と比べて比表面積を増大させることが可能となるため、空気浄化材料として利用した場合に、より高度な浄化性能が得られる傾向にある。なお、このように、酸化鉄多孔体中に遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)が含有される場合において、その遷移金属の形態は特に制限されず、例えば、前記遷移金属の原子が酸化鉄の一次粒子中の鉄原子と同形置換することにより酸化鉄の一次粒子の骨格を形成するようにして酸化鉄多孔体に含有されていてもよく、あるいは、酸化鉄の一次粒子の表面に前記遷移金属の酸化物として分散されることにより酸化鉄多孔体に含有されていてもよい。
【0043】
また、このような遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)としては、空気浄化性能向上の観点から、マンガン、セリウム、銀、ジルコニウム、イットリウム、ガリウムが好ましく、マンガン、セリウムがより好ましく、マンガンが特に好ましい。なお、このような遷移金属は、酸化鉄多孔体に1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて含有させてもよい。
【0044】
このように、本発明の酸化鉄多孔体に遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)を更に含有する場合、酸化鉄多孔体中の前記遷移金属の含有量は、鉄の全量に対するモル比([遷移金属]/[鉄])で0.01〜2であることが好ましく、0.2〜1であることがより好ましい。このような鉄と前記遷移金属とのモル比が前記下限未満では、前記遷移金属を含有していない酸化鉄多孔体の空気浄化性能と比較して、得られる酸化鉄多孔体の空気浄化性能の十分な向上が見込めなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えても空気浄化性能の更なる向上はなく、資源利用並びに製造コスト面でマイナスとなる傾向にある。なお、このような遷移金属の含有量の測定方法としては、高周波プラズマ発光分光分析装置(ICPS)により元素分析する方法を採用することができる。
【0045】
このような本発明の酸化鉄多孔体は、吸着物質や反応基質を細孔内に速やかに拡散することができ、吸収材、触媒、触媒担体等として好適に利用でき、特に、空気中の揮発性有機化合物(VOC)等の有害物質を除去するような空気浄化材料に好適に利用することができる。
【0046】
次に、本発明の酸化鉄多孔体を製造する方法として好適に採用することが可能な、本発明の酸化鉄多孔体の製造方法について説明する。
【0047】
本発明の酸化鉄多孔体の製造方法は、アルコール中に、親水性基としてのエトキシ基の個数が2〜200であり且つ疎水性基としてのアルキル基の炭素数が6〜20であるポリオキシエチレンアルキルエーテルからなる界面活性剤と、鉄塩とを添加して反応液を得る工程(第1工程)と、
前記反応液中に塩基を添加して前記反応液のpHを4.5〜13に調整することにより、前記反応液中において前記界面活性剤の周囲に水酸化鉄を析出させて、前記界面活性剤と前記水酸化鉄との複合体を得る工程(第2工程)と、
前記複合体を含有する前記反応液を密閉容器内に導入して20〜125℃の温度条件で加熱熟成する工程(第3工程)と、
前記加熱熟成後の前記反応液から前記複合体を取り出した後、前記複合体を極性溶媒により洗浄して前記複合体から界面活性剤を除去することにより、水酸化鉄の一次粒子の凝集した水酸化鉄多孔体を得る工程(第4工程)と、
前記水酸化鉄多孔体を乾燥させた後に200〜450℃の温度条件で焼成することにより、上記本発明の酸化鉄多孔体を得る工程(第5工程)と、
を含むことを特徴とする方法である。以下、第1〜第5工程を分けて説明する。
【0048】
(第1工程)
第1工程は、アルコール中に、親水性基としてのエトキシ基の個数が2〜200であり且つ疎水性基としてのアルキル基の炭素数が6〜20であるポリオキシエチレンアルキルエーテルからなる界面活性剤と、鉄塩とを添加して反応液を得る工程である。
【0049】
このようなアルコールは、前記反応液において溶媒として用いられるものである。本発明においては、反応液中の溶媒にアルコールを用いることにより、後述の第2工程において水酸化鉄を析出させる際に、界面活性剤と水酸化鉄が水素結合により複合化されることを阻害することがなく、界面活性剤と水酸化鉄との複合体をより効率よく製造することを可能とする。このようなアルコールとしては、前記複合体をより効率よく製造することが可能となるという観点から、炭素数が2〜6(より好ましくは2〜4)のアルキルアルコール、3〜6(より好ましくは3〜4)のアルケンアルコールが好ましく、中でも、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、アリルアルコール、2−プロパノール、ブタノールが特に好ましい。このようなアルコールは1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
また、前記界面活性剤は、親水性基としてのエトキシ基の個数が2〜200であり且つ疎水性基としてのアルキル基の炭素数が6〜20であるポリオキシエチレンアルキルエーテルである。このようなポリオキシエチレンアルキルエーテルに含まれるエトキシ基の個数が前記下限未満では、メソ細孔構造が得られなくなり、他方、前記上限を超えると、2ラインフェリハイドライト相を有する酸化鉄が得られなくなる。また、このようなポリオキシエチレンアルキルエーテルに含まれるエトキシ基の個数としては、同様の観点から、2〜100個であることがより好ましい。また、ポリオキシエチレンアルキルエーテルに含まれるアルキル基の炭素数が前記下限未満では、メソ細孔構造が得られなくなり、他方、前記上限を超えると、2ラインフェリハイドライト相を有する酸化鉄が得られなくなる。このようなアルキル基の炭素数としては、同様の観点から、12〜18であることがより好ましい。
【0051】
このような界面活性剤としては、エトキシ基の個数が2〜200であり且つアルキル基の炭素数が6〜20であるポリオキシエチレンアルキルエーテルであればよく、特に制限されず、市販の界面活性剤を用いてもよい。このような界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル(Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 58」:エトキシ基の数が20であり且つアルキル基の中の炭素原子の数は16である。)、ポリオキシエチレン(4)ラウリルエーテル(Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 30」)、ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル(Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 35」)、ポリオキシエチレン(2)セチルエーテル(Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 52」)、ポリオキシエチレン(10)セチルエーテル(Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 56」)、ポリオキシエチレン(2)ステアリルエーテル(Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 72」)、ポリオキシエチレン(10)ステアリルエーテル(Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 76」)、ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテル(Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 78」)、ポリオキシエチレン(2)オレイルエーテル(Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 92」)、ポリオキシエチレン(10)オレイルエーテル(Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 97」、ポリオキシエチレン(20)オレイルエーテル(Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 98」)、ポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテル(Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 700」)等が挙げられる。
【0052】
また、前記鉄塩としては、三価の鉄の塩が用いられる。このような鉄塩の種類としては、硝酸鉄(Fe(NO3)3)、ハロゲン化鉄(例えば、臭化鉄(FeBr3)、塩化鉄(FeCl3))及び有機鉄(例えば、酢酸鉄(III)、シュウ酸鉄(III)、鉄(III)アルコキシド(鉄エトキシド、鉄イソプロポキシド、鉄ブトキシド等))等が挙げられる。このような鉄塩の中でもより均一な細孔を有する凝集体を形成することが可能となるという観点から、塩化鉄(FeCl3)及び硝酸鉄(Fe(NO3)3)が好ましく、硝酸鉄(Fe(NO3)3)が特に好ましい。なお、鉄塩の種類を適宜変更することで、最終的に得られる酸化物中の2ラインフェリハイドライト相の含有比率を変更することが可能である。例えば、用いるアルコールや界面活性剤の種類や量等によっても異なるものではあるが、鉄塩としてFeCl3・9H2Oを用いた場合には、2ラインフェリハイドライト相とともにα−Fe2O3及びγ−Fe2O3を含む酸化鉄が得られる傾向にあり、鉄塩としてFe(NO3)3を用いた場合には、ほぼ100質量%の2ラインフェリハイドライト相からなる酸化鉄が得られる傾向にある。
【0053】
また、前記反応液は、前記アルコール中に前記界面活性剤及び前記鉄塩を添加することにより得られるものである。このような反応液を調製する方法としては特に制限されず、例えば、アルコール中に前記界面活性剤を添加し、撹拌して混合液を得た後に、その混合液中に鉄塩を添加し、撹拌することにより反応液を得る方法を採用してもよく、全ての成分を同時に混合して撹拌することにより反応液を得る方法を採用してもよい。なお、反応液の調製の際には、前記アルコール中に前記界面活性剤及び前記鉄塩がより均一に混合(分散)されるように、アルコール中に各成分を導入した後に十分に撹拌することが好ましい。また、このようにして反応液を調製する際の温度条件としては特に制限されず、20〜40℃とすることが好ましく、室温程度であることがより好ましい。
【0054】
さらに、前記反応液に添加する前記界面活性剤の量としては、前記アルコールの総量に対して0.02〜50質量%とすることが好ましく、1〜50質量%とすることがより好ましく、5〜45質量%とすることが特に好ましい。このような界面活性剤の含有量が前記下限未満では、界面活性剤が鉄塩中に十分に導入されず、細孔の形成が不完全となり、更には、不均一な細孔構造となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、界面活性剤が完全に溶解しない傾向にある。
【0055】
また、前記反応液に添加する鉄塩の量としては、前記界面活性剤に対するモル比([鉄塩]/[界面活性剤])が0.3〜60となる量であることが好ましく、1〜55となる量であることがより好ましい。このような鉄塩の添加量が前記下限未満では鉄塩に対する界面活性剤の量が過度に多くなり、未反応の界面活性剤の量が増大することから、一部にミクロポアが形成されて均一なメソ細孔を有する酸化鉄多孔体が得られなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、鉄塩に対する界面活性剤の量が過度に少なくなり、界面活性剤が鉄塩中に十分に導入されず、粒子が不均一となる傾向にある。
【0056】
また、前記反応液中のアルコールの量としては、前記反応液中の鉄塩0.01〜0.06モルに対して50〜300mlとなるようにすることが好ましい。このようなアルコールの量が前記下限未満では、鉄塩と界面活性剤とが十分に分散せず、2ラインフェリハイドライトではなくゲーサイト(geothite:針鉄鉱)が形成されてしまう傾向にあり、他方、前記上限を超えると、界面活性剤が鉄塩中に十分に導入されず、細孔が不均一となる傾向にある。
【0057】
また、前記反応液には遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩を更に添加してもよい。すなわち、本発明においては、前記アルコール中に前記界面活性剤及び前記鉄塩とともに遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩を更に添加してもよい。このように遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩を含有させた場合には、得られる酸化鉄多孔体中に前記遷移金属を含有させることが可能となる。
【0058】
このような遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩としては特に制限されないが、前記遷移金属の硝酸塩(硝酸マンガン、硝酸セリウム等)やハロゲン化物、有機塩(例えば、酢酸塩、シュウ酸塩、アルコキシド)等が挙げられる。また、このような遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)としては、空気浄化性能向上の観点から、マンガン、セリウム、銀、ジルコニウム、イットリウム、ガリウムが好ましく、マンガン、セリウムがより好ましく、マンガンが特に好ましい。なお、このような遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩は、酸化鉄多孔体に1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて含有させてもよい。
【0059】
また、このように反応液中に遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩を含有させる場合においても反応液を調製する方法は特に制限されず、例えば、アルコール中に前記界面活性剤を添加し、撹拌して混合液を得た後に、その混合液中に鉄塩を添加し、更に、遷移金属の塩を添加して撹拌することにより反応液を得る方法を採用してもよく、全ての成分を同時に混合して撹拌することにより反応液を得る方法を採用してもよい。また、このように反応液中に遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩を含有させる場合においても、前記反応液に添加する前記界面活性剤の量は、前記アルコールの総量に対して0.02〜50質量%とすることが好ましく、1〜50質量%とすることがより好ましく、5〜45質量%とすることが特に好ましい。
【0060】
また、前記反応液中に遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩を含有させる場合、前記反応液に添加する前記鉄塩と前記遷移金属の塩の総量は、前記界面活性剤に対するモル比(([鉄塩]+[遷移金属の塩])/[界面活性剤])が0.3〜60となる量であることが好ましく、1〜55となる量であることがより好ましい。このような鉄塩と前記遷移金属の塩との総量が前記下限未満では、前記鉄塩と前記遷移金属の塩の総量に対する前記界面活性剤の量が過度に多くなり、未反応の界面活性剤の量が増大することから、一部にミクロポアが形成されて均一なメソ細孔を有する酸化鉄多孔体が得られなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、前記鉄塩と前記遷移金属の塩の総量に対する前記界面活性剤の量が過度に少なくなり、界面活性剤が鉄塩中に十分に導入されず、粒子が不均一となる傾向にある。
【0061】
また、反応液中に遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩を含有させる場合においては、前記遷移金属の塩の量は、反応液中の前記鉄塩に対するモル比([遷移金属の塩]/[鉄塩])が0.01〜2となる量であることが好ましく、0.2〜1となる量であることがより好ましい。このような遷移金属の塩の添加量が前記下限未満では、前記遷移金属を含有していない酸化鉄多孔体の空気浄化性能と比較して、得られる酸化鉄多孔体の空気浄化性能の十分な向上が見込めなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えても得られる酸化鉄多孔体の空気浄化性能の更なる向上はなく、資源利用並びに製造コスト面でマイナスとなる傾向にある。
【0062】
また、反応液中に遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩を含有させる場合においては、前記反応液中のアルコールの量としては、前記反応液中の前記鉄塩及び前記遷移金属の塩の総モル数0.01〜0.06モルに対して、50〜300mlとなるようにすることが好ましい。このようなアルコールの量が前記下限未満では、前記鉄塩と、前記遷移金属の塩と、前記界面活性剤とが十分に分散せず、2ラインフェリハイドライトではなくゲーサイト(geothite:針鉄鉱)が形成されてしまう傾向にあり、他方、前記上限を超えると、界面活性剤が鉄塩中に十分に導入されず、細孔が不均一となる傾向にある。
【0063】
(第2工程)
第2工程は、前記反応液中に塩基を添加して前記反応液のpHを4.5〜13に調整することにより、前記反応液中において前記界面活性剤の周囲に水酸化鉄を析出させて、前記界面活性剤と前記水酸化鉄との複合体を得る工程である。
【0064】
このような塩基としては、前記反応液のpHを4.5〜13に調整することが可能なものであればよく、特に制限されないが、pHをより効率よく10以上とすることが可能であることから、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、アルキル炭酸塩、アルキル炭酸水素塩、アルキルアミン、アルコキシド、水酸化テトラアルキルアンモニウムが好ましく、中でも、洗浄工程や焼成工程において未反応物やその塩基に由来する副生成物(例えばNH4NO3)の除去を容易に行うことが可能であるという観点から、金属を含まない塩基を用いることがより好ましく、アンモニアを用いることが更に好ましい。また、このような塩基は水溶液として用いてもよい。なお、このような塩基は1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、このような塩基を反応液中に添加する方法は特に制限されず、例えば、前記塩基の水溶液を前記反応液中に滴下することにより添加する方法を採用してもよい。なお、このようにして水溶液を用いる場合には、水により複合体の形成が阻害されることを十分に防止するため、水の含有量をより少量とすることが好ましく、水溶液中の水の量が20質量%未満となるようにすることがより好ましい。
【0065】
また、このようにして用いる塩基の量は、塩基に由来して形成される副生成物(例えば、NaNO3、NH4NO3)の量をより減少させるという観点から、塩基の使用量自体もより少量とすることが好ましく、鉄塩に由来する陰イオンに対して塩基に由来する陽イオンが1〜1.2当量となる量とすることがより好ましい。
【0066】
また、第2工程においては、前記塩基を添加することにより前記反応液のpHを4.5〜13に調整する。このように反応液のpHを調整することにより水酸化鉄を析出させることが可能となる。このようなpHの値が4.5未満では水酸化鉄を十分に沈殿させることが困難であり、他方、前記上限を超えると、2ラインフェリハイドライトではなくゲーサイト(geothite:針鉄鉱)が一部に形成されてしまうとなる傾向にある。また、このようにして調整する前記反応液のpHの値としては、より効率よく水酸化鉄を析出させるという観点から、5〜13とすることがより好ましい。また、後述の焼成工程において、より高温での焼成(より好ましくは300℃以上の焼成)が可能となるという観点からは、前記反応液のpHの値を7.5〜10.5に調整することがより好ましい。このようにして塩基を添加するときの反応液の温度としては、10〜80℃とすることが好ましく、20〜40℃とすることがより好ましく、室温程度が特に好ましい。
【0067】
また、第二工程においては、前記反応液中において前記界面活性剤の周囲に水酸化鉄を析出させて、前記界面活性剤と前記水酸化鉄との複合体を得る。なお、このような複合体は以下のようにして形成されるものと推察される。すなわち、第二工程において、反応液中で水酸化鉄を析出させると、その水酸化鉄と、周囲に存在する界面活性剤の親水基との間に相互作用が働いて水素結合が形成され、水素結合により界面活性剤の周囲に水酸化鉄が結合する複合体が形成される。ここで、水と比較して極性の少ないアルコールからなる溶媒中において水酸化鉄を析出沈殿させることにより、その水酸化鉄の種類が主にオキシ水酸化鉄(Fe5HO84H2Oを含む)となり、平均粒子径が2〜8nmのオキシ水酸化鉄の一次粒子が形成されるものと推察される。そして、水酸化鉄の析出を進行させると、水酸化鉄(オキシ水酸化鉄)の一次粒子が水素結合相互作用によって界面活性剤の周囲を覆うようにして凝集(集合)し、水酸化鉄が水素結合相互作用によって安定化されて凝集した複合体が得られるものと推察される。
【0068】
なお、前記反応液が遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩を含有するものである場合においては、このような複合体は前記遷移金属を含有するものとなる。なお、このようにして複合体中に含有される前記遷移金属の形態は特に制限されず、例えば、前記遷移金属の原子が水酸化鉄の一次粒子中の鉄原子と同形置換することにより水酸化鉄の一次粒子の骨格を形成するようにして前記複合体中に含有されていてもよく、あるいは、水酸化鉄の一次粒子の表面に前記遷移金属の水酸化物として分散されることにより複合体中に含有されていてもよい。
【0069】
(第3工程)
前記複合体を含有する前記反応液を密閉容器内に導入して20〜125℃の温度条件で加熱熟成する。
【0070】
このように、第二工程により複合体を形成せしめた後においては、その複合体を含有する反応液は密閉容器内において加熱される。このようにして前記複合体を含有する反応液を密閉容器内で加熱熟成することにより、十分に水酸化鉄を析出させることが可能となり、水酸化鉄(オキシ水酸化鉄)の一次粒子がより均一に且つより緻密に集合した複合体(前記反応液が遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩を含有するものである場合においては前記遷移金属を含んだものとなる。)が形成され、最終的な目的物である2ラインフェリハイドライト相を有する酸化鉄多孔体の収率を向上させることが可能となる。
【0071】
このような密閉容器内における反応液の加熱熟成の際の加熱温度は20〜125℃である。このような加熱温度が前記下限未満ではエージングが起こり難くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、混合液中のミセル構造がこわれてしまい、2ラインフェリハイドライト相ではなく、他の結晶相(例えば、ヘマタイト、6ラインフェリハイドライト)が形成される傾向にある。このような加熱温度としては、同様の観点からより高い効果が得られることから35〜120℃であることが好ましく、40〜110℃であることがより好ましい。
【0072】
また、このような密閉容器内における加熱熟成の際の加熱熟成時間としては、1時間以上であることが好ましく、1時間以上6日間以下であることがより好ましい。このような加熱時間が前記下限未満では、エージング(熟成)が不十分となり、2ラインフェリハイドライトの微粒子と界面活性剤(テンプレート)とにより形成されるミセル構造(凝集体の構造)が不安定となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると2ラインフェリハイドライトが6ラインフェリハイドライトやゲーサイト(geothite)に一部に変化してしまう傾向にある。なお、このような反応液を密閉容器内に導入する際の密閉容器内のガス雰囲気としては、エージングを進行させる上で酸素が必要であるという観点から大気とすることが好ましい。また、このような密閉容器内での加熱の際の圧力条件としては特に制限されないが、溶媒の飛散防止や、形成されたミセル構造を保つといった観点から、密閉容器内での自然加圧下で行われることが好ましい。
【0073】
(第4工程)
第4工程は、前記加熱熟成後の前記反応液から前記複合体を取り出した後、前記複合体を極性溶媒により洗浄して前記複合体から界面活性剤を除去することにより、水酸化鉄の一次粒子の凝集した水酸化鉄多孔体を得る工程である。
【0074】
このようにして加熱後の前記反応液から前記複合体を取り出す方法は特に制限されず、公知のろ過の方法を採用することができる。そして、第4工程においては、このようにして反応液中から取り出した前記複合体を極性溶媒により洗浄して前記複合体から界面活性剤を除去する。このような極性溶媒としては特に制限されず、水、ジメチルスルホキシド、スルホラン、N−メチルピロリドン等が挙げられ、中でも、十分に界面活性剤を除去することが可能であり且つ安価であるという観点から、水が特に好ましい。
【0075】
なお、このような極性溶媒による洗浄により、以下のようにして前記複合体から界面活性剤が除去される。すなわち、複合体中に含まれる水酸化鉄中のオキシ水酸化物種(FeO−を含む。)は、前記界面活性剤の親水性基(C2H5O)の先頭グループ(C2H5OH)と比較的弱い水素結合を形成している。そのため、洗浄工程において極性溶媒を使用することにより、極性溶媒の強い水素結合能により、鉄のオキシ水酸化物種(FeO−)とテンプレートの親水性先頭(ROH)のグループの間の比較的弱い水素結合相互作用を簡単に壊すことができ、これにより前記複合体から界面活性剤を容易に除去することができる。また、このような洗浄工程において、副生成物として生成された他の塩類(例えば、NaNO3、NH4NO3等)も併せて除去することも可能である。なお、NH4NO3等は後述の焼成工程においても除去することが可能であるが、金属を含むNaNO3等は焼成により除去することは困難であるため、塩基として金属を含むものを使用した場合には、多量の極性溶媒を用いて十分に洗浄を行うことが好ましい。
【0076】
また、このような洗浄工程は、洗浄後に得られる水酸化鉄の一次粒子の凝集した水酸化鉄多孔体において、前記水酸化鉄多孔体の総量に対して界面活性剤の含有量が20質量%未満になるように洗浄することが好ましい。このような界面活性剤の含有量が前記上限を超えると、その後の工程で望ましい材料が得られ難く、最終工程の焼成後にγ−Fe2O3が形成されてしまう傾向にある。また、このような洗浄状態を達成するために、用いる極性溶媒の種類やその使用量等は適宜変更すればよい。
【0077】
なお、このような洗浄工程により得られる多孔体においては、前記界面活性剤が導入されていた位置に細孔が形成されており、その細孔の形状(細孔径や細孔容量等)が界面活性剤の形状に由来したものとなるため、非常に均一な細孔を有するものとなる。また、前記第2工程において用いる反応液が遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩を含有するものである場合においては、得られる水酸化鉄多孔体は前記遷移金属を含有するものとなる。
【0078】
また、このようにして得られた水酸化鉄多孔体を、第5工程を実施する前に、細孔内に残存している界面活性剤に由来する炭素成分等の有機化合物系不純物を除去するという観点から、アルコール中に再度含有させて撹拌することが好ましい。また、このような撹拌の際の時間としては6〜24時間であることが好ましい。このような撹拌時間が前記下限未満では炭素成分等の有機化合物系不純物の除去が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えても炭素成分等の有機化合物系不純物の除去効果は変わらない傾向にある。また、このようなアルコールは、前記反応液の溶媒に利用したアルコールと同様のものを使用できる。
【0079】
なお、このようにして得られる水酸化鉄多孔体は、X線回折パターンにおいて結晶の(110)面に由来するピーク(d値が2.6オングストロームの位置におけるピーク)と、結晶の(300)面に由来するピーク(d値が2.6オングストロームの位置におけるピーク)の2本のピークが確認される水酸化鉄(式:Fe5HO84H2Oで表されるオキシ水酸化鉄)を含有するものとなる。また、このようなX線回折パターンは、上述の酸化鉄中の2ラインフェリハイドライト相の存在を確認する際のX線回折測定の方法と同様の方法を採用して測定できる。
【0080】
(第5工程)
第5工程は、前記水酸化鉄多孔体を乾燥させた後に200〜450℃の温度条件で焼成することにより、上記本発明の酸化鉄多孔体を得る工程である。
【0081】
このような水酸化鉄多孔体を乾燥させる方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、常温で放置する方法、熱風を吹き付けて乾燥させる方法等適宜採用することができる。
【0082】
また、前記水酸化鉄多孔体を焼成する際の焼成温度条件は200℃〜450℃である。このような焼成温度が前記下限未満では、界面活性剤に由来する炭素成分等の有機化合物系不純物を十分に除去することができなくなり、他方、前記上限を超えると、得られる酸化鉄中の2ラインフェリハイドライト相の含有比率が40質量%未満のものとなってしまう。また、同様の観点から、前記焼成温度としては、250℃〜450℃とすることがより好ましく、300〜400℃とすることが特に好ましい。
【0083】
また、このような焼成工程における焼成時間としては1〜6時間とすることが好ましく、2〜3時間とすることがより好ましい。このような焼成時間が前記下限未満では、界面活性剤に由来する炭素成分等の有機化合物系不純物を十分に除去することができなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、メソ細孔構造の2ラインフェリハイドライトの一部からα−Fe2O3が形成されたり、得られる粒子の粒子径が大きくなる傾向にある。
【0084】
なお、このような焼成工程を、例えば、上記非特許文献2に記載のような従来の2ラインフェリハイドライト相を有する酸化鉄多孔体の製造方法において実施した場合には、得られる酸化鉄における2ラインフェリハイドライト相の含有量を40質量%以上とすることができない。これに対して、本発明においては、焼成に用いる前記水酸化鉄多孔体が、微細な水酸化鉄の一次粒子が凝集した構造を有するものであることから、上述のような焼成工程を施した後においても、得られる酸化鉄における2ラインフェリハイドライト相の含有量を40質量%以上とすることが可能となっている。
【0085】
このようにして第1工程〜第5工程を実施することにより、酸化鉄の一次粒子が凝集した凝集体からなり、前記一次粒子の平均粒子径が2〜8nmであり、前記凝集体の細孔の中心細孔直径が2〜10nmであり、前記酸化鉄が前記2ラインフェリハイドライト相を有しており、前記酸化鉄の全結晶相に対する前記2ラインフェリハイドライト相の含有比率が40質量%以上であり且つケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛及びチタンの酸化物からなる不純物の総量が0.1質量%以下である上記本発明の酸化鉄多孔体を得ることができる。なお、このような本発明の酸化鉄多孔体の製造方法を利用した場合には、上記本発明の酸化鉄多孔体として好適なものとして説明したもの(例えば上述のような数値範囲の細孔容積や比表面積を有するもの、前記反応液が遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩を含有するものである場合においては前記遷移金属を含有するもの)を得ることが可能であり、例えば、細孔が上記界面活性剤に由来して形成されるものであるため、得られる多孔体の中心細孔直径を2〜10nmとすることが可能なばかりか、得られる多孔体を、窒素吸着・脱着等温線において相対圧力(P/P0)が0.4〜1の間でIUPACで規定されているIV型のヒステリシスループが確認されるものとすることも可能である。また、このような本発明の酸化鉄多孔体の製造方法を利用した場合には、酸化鉄多孔体が焼成工程を経て得られていることから、得られる酸化鉄多孔体の含水量を極めて低くすることができ、上述のようなTG−DTA分析を行った場合に、含水量が5質量%以下となるような酸化鉄多孔体を得ることも可能である。なお、このようにして得られた酸化鉄多孔体の形状は特に制限されないが、例えば、粉砕等して粉末状にしてもよいし、各種形状(例えばペレット状)に成型してもよい。また、焼成前の段階において(第4工程において得られた水酸化鉄多孔体の状態において)、予め粉砕等して粉末状にしておいてもよい。
【0086】
以上、本発明の酸化鉄多孔体及び本発明の酸化鉄多孔体の製造方法について説明したが、以下、空気浄化材料について説明する。
【0087】
本発明の空気浄化材料は、上記本発明の酸化鉄多孔体を備えることを特徴とするものである。このような空気浄化材料は、上記本発明の酸化鉄多孔体を備えており、その酸化鉄多孔体の細孔内に吸着物質や反応基質を速やかに拡散することができるため、空気中の揮発性有機化合物(VOC)等の有害物質を速やかに除去することやCOを速やかに酸化することが可能である。
【0088】
このような本発明の空気浄化材料においては、上記本発明の酸化鉄多孔体そのものが空気浄化材料を構成していてもよく、或いは、上記本発明の酸化鉄多孔体を他の基材に担持せしめて、本発明の空気浄化材料として構成させてもよい。また、本発明の空気浄化材料においては、上記本発明の酸化鉄多孔体に貴金属等の触媒微粒子を担持せしめたものを用いてもよい。また、このような本発明の空気浄化材料の形状は、特に限定されず、例えばペレット状に成型してもよく、ハニカム状や波板状の基材等に担持してもよい。
【実施例】
【0089】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0090】
(実施例1)
先ず、300mlの1−プロパノール中に34.04gのポリオキシエチレン(20)セチルエーテル(界面活性剤:Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 58」)を添加し、混合して、1−プロパノール中に12.42質量%の界面活性剤が含有された混合液を得た。次に、前記混合液中にFe(NO3)3・9H2Oを添加し、2時間撹拌して、反応液を得た。なお、前記混合液中へのFe(NO3)3・9H2Oの添加量は、得られる反応液中でのFe(NO3)3・9H2Oと界面活性剤とのモル比([Fe(NO3)3・9H2O]:[界面活性剤])が0.06:0.03となるようにした。次いで、前記反応液を撹拌しながら、28質量%のアンモニア水溶液を前記反応液に対して滴下し、前記反応液のpHを7.5に調整し、更に3時間攪拌して、反応液中に沈殿物を析出せしめた。次いで、前記沈殿物の析出した反応液を容量が1Lの密閉型の容器に投入した後、その容器をオーブン内に導入して、前記容器内での自然加圧条件下、50℃の温度条件で3日間加熱熟成した。次に、前記加熱熟成後の前記反応液の中から沈殿物を濾過して取り出した後、その沈殿物を2.5Lの蒸留水で洗浄し、乾燥させた。このようにして乾燥させた沈殿物をめのう乳鉢中で粉砕して、粉末を得た。その後、前記粉末3gを100mlのエタノール中に添加し、24時間攪拌した。次に、前記エタノール中から前記粉末をろ過により取り出し、乾燥させた後、300℃の温度条件で3時間焼成して、酸化鉄多孔体を得た。なお、このような酸化鉄多孔体においては、その製造方法からケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛及びチタンの酸化物からなる不純物の総量が0質量%であることは明らかである。
【0091】
<XRD測定>
実施例1で得られた酸化鉄多孔体のX線回折パターンを、X線回折装置((株)リガク製、型番「RINT2100」)を用い、走査範囲0.5°〜5°の低角域においてはスキャン速度毎分1°、スキャンステップ0.01°、発散及び散乱スリット1/6deg、受光スリット0.15mm、CuKα線、40kV、30mAの条件で測定し、走査範囲10°〜80°の広角域においてはスキャン速度毎分4°、スキャンステップ0.01°、発散及び散乱スリット1/2deg、受光スリット0.15mm、CuKα線、40kV、30mAの条件で測定した。また、実施例1で得られた焼成前の粉末についても同様にして広角域のX線回折パターンを測定した。実施例1で得られた酸化鉄多孔体の低角域のX線回折パターンを図1に示し、実施例1で得られた酸化鉄多孔体及び焼成前の粉末の広角域のX線回折パターンを図2に示す。
【0092】
図1に示す低角のXRDパターンからも明らかなように、2θが0.5°〜3°の範囲にピークが見られ、メソ細孔構造を有することが確認された。また、図2に示すXRD測定データに基いて2θが33.1°付近の位置におけるピークからシェラーの式により酸化鉄の一次粒子の平均粒子径を求めたところ、一次粒子の平均粒子径は2.0nmであることが確認された。更に、図2に示す結果から、実施例1で得られた酸化鉄多孔体においては、結晶の(110)面に由来するピークと結晶の(300)面に由来するピークの2本のピークを示す2ラインフェリハイドライト相を含有することが確認された。また、図2に示すXRD測定データから、焼成前と焼成後とにおいて、十分に2ラインフェリハイドライト相が維持されていることが確認された。
【0093】
〈2ラインフェリハイドライト相の含有比率の測定〉
実施例1で得られた酸化鉄多孔体のCoKαのX線回折パターンを、測定装置としてBruker社製の商品名「D8 Advance」を用い、走査範囲15°〜145°、スキャンステップ0.05°/ステップ、発散スリット0.3°、CoKα線、CoKβ線除去用のFeフィルタを使用、40kV、35mA、スキャンスピード3°/minの条件で測定し、得られたCoKαのX線回折パターンに基づいて、Rietan−2000のソフトを用いて各ピークの結晶相を同定し、ピーク面積をそれぞれ求めた後、各結晶相のピーク面積の総和(全面積)に対する2ラインフェリハイドライト相のピーク面積の比率を算出して、2ラインフェリハイドライト相の含有比率を求めた。このような測定の結果、2ラインフェリハイドライト相の含有比率は全酸化鉄の結晶中に100質量%であることが確認された。
【0094】
〈細孔径分布曲線の測定〉
実施例1で得られた酸化鉄多孔体に対して、ガス吸着法細孔分布測定装置(日本ベル株式会社製、型番「BELSORP18」)を用いて窒素吸着・脱着等温線を測定し、BJH(Barrett−Joyner−Halenda)法により細孔径分布曲線を求めた。得られた窒素吸着・脱着等温線を図3に示し、細孔径分布曲線を図4に示す。なお、図4中のrpは細孔の半径を示し、Vpは細孔容積を示す。
【0095】
このような図3及び図4に示す測定データに基いて中心細孔直径、比表面積、細孔容積をそれぞれ求めたところ、中心細孔直径が4.8nmであり、比表面積が189m2/gであり、細孔容積0.37cm3/gであることが確認された。また、図3及び図4に示す測定データに基いて2次粒子の粒子径を求めたところ、20nm〜600nmの粒子であることが分かった。また、図4に示す結果から、中心細孔直径の±30%の範囲に全細孔容積の70%以上が含まれていることから、非常に均一な細孔径を有するものであることが確認された。また、図3に示す窒素吸着・脱着等温線からも明らかなように、相対圧P/P0の値が0.4〜1.0の範囲にある位置でIUPACで規定されるIV型のヒステリシス曲線を示すことが確認され、酸化鉄多孔体がメソ細孔構造を有することが確認された。
【0096】
<透過型電子顕微鏡による測定>
実施例1で得られた酸化鉄多孔体を透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製の商品名「JEM200CX」)により観察した。得られた透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図5に示す。
【0097】
図5に示す結果からも明らかなように、前記酸化鉄多孔体は、酸化鉄の一次粒子が凝集した凝集体からなるものあり、これにより2次細孔が形成されていることが確認された。また、このような図5に示すTEM写真からは、実施例1で得られた酸化鉄多孔体が2〜6nm程度の酸化鉄の一次粒子の凝集体であることが確認できる。
【0098】
<TG/DTA分析>
実施例1で得られた酸化鉄多孔体を13.071mg用い、TG/DTA(示差熱熱重量同時測定装置:リガク社製の商品名「Thermo plus TG8120」)により、酸化鉄多孔体を100℃から300℃まで加熱して重量変化を測定し、前記加熱前後の重量変化率を算出することにより、酸化鉄多孔体の含水量を測定した。このような測定の結果、実施例1で得られた酸化鉄多孔体の含水量は2.8質量%であった。
【0099】
(実施例2〜5)
焼成時の温度条件を、それぞれ、250℃(実施例2)、350℃(実施例3)、400℃(実施例4)、450℃(実施例5)に変更した以外は、実施例1と同様にして酸化鉄多孔体を得た。
【0100】
実施例2〜5で得られた酸化鉄多孔体に対して、実施例1と同様にXRD測定、細孔径分布曲線の測定、透過型電子顕微鏡による測定及びTG/DTA分析を行った。このような測定の結果、実施例2〜5で得られた酸化鉄多孔体においては、いずれも、広角域のXRDパターンにおいて結晶の(110)面に由来するピークと結晶の(300)面に由来するピークの2本のピークが確認され、2ラインフェリハイドライト相を含有することが確認された。また、実施例2〜5で得られた酸化鉄多孔体においては、いずれも、低角域のXRDパターンにおいて2θが0.5°〜3°の範囲にピークが確認されるとともに、窒素吸着・脱着等温線において相対圧P/P0の値が0.4〜1.0の範囲にある位置で、IUPACで規定されるIV型のヒステリシス曲線が確認され、酸化鉄多孔体がメソ細孔構造を有することが確認された。また、透過型電子顕微鏡による測定の結果、実施例2〜5で得られた酸化鉄多孔体は、いずれも、酸化鉄の一次粒子が凝集した凝集体からなるものであり、これにより2次細孔が形成されていることが確認された。また、このような測定により求めた一次粒子の平均粒子径、2ラインフェリハイドライト相の含有比率、中心細孔直径、細孔容積、比表面積の結果を表1に示す。なお、TG/DTA分析の結果、実施例2〜5で得られた酸化鉄多孔体は、いずれも含水量は5質量%以下であった。
【0101】
【表1】
【0102】
(実施例6)
先ず、300mlの1−プロパノール中に46.7gのポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテル(界面活性剤:Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 700」、エチレン基の個数が100個、アルキル基の炭素数は18)を添加し、混合して、1−プロパノール中に16.3質量%の界面活性剤が含有された混合液を得た。次に、前記混合液中にFeCl3・9H2Oを添加し、2時間撹拌して、反応液を得た。なお、前記混合液中へのFeCl3・9H2Oの添加量は、得られる反応液中でのFeCl3・9H2Oと界面活性剤とのモル比([FeCl3・9H2O]:[界面活性剤])が0.06:0.03となるようにした。次いで、前記反応液を撹拌しながら、28質量%のアンモニア水溶液を前記反応液に対して滴下して前記反応液のpHを7.5に調整し、更に3時間攪拌して、反応液中に沈殿物を析出せしめた。次いで、前記沈殿物の析出した反応液を容量が1Lの密閉型の容器に投入した後、その容器をオーブン内に導入して、前記容器内での自然加圧条件下、50℃の温度条件で3日間加熱熟成した。次に、前記加熱後の前記反応液の中から沈殿物を濾過して取り出した後、その沈殿物を2.5Lの蒸留水で洗浄し、乾燥させた。このようにして乾燥させた沈殿物をめのう乳鉢中で粉砕して、粉末を得た。その後、前記粉末3gを100mlのエタノール中に添加し、24時間攪拌した。次に、前記エタノール中から前記粉末をろ過により取り出し、乾燥させた後、300℃の温度条件で3時間焼成して、酸化鉄多孔体を得た。なお、このような酸化鉄多孔体においては、その製造方法から、ケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛及びチタンの酸化物からなる不純物の総量は0質量%であることは明らかである。
【0103】
実施例6で得られた酸化鉄多孔体に対して、実施例1と同様にXRD測定、2ラインフェリハイドライト相の含有比率の測定、細孔径分布曲線の測定、透過型電子顕微鏡による測定及びTG/DTA分析を行った。このような測定の結果として、実施例6で得られた酸化鉄多孔体の低角域のX線回折パターンを図6に示し、実施例6で得られた酸化鉄多孔体の広角域のX線回折パターンを図7に示す。また、図7の広角域のX線回折パターンの2θを異なるスケールで記載し且つα−Fe2O3とγ−Fe2O3が示すX線回折パターンを参照線として記載したX線回折パターンを図8に示し、窒素吸着・脱着等温線を図9に示し、細孔径分布曲線を図10に示す。
【0104】
図6に示す低角のXRDパターンからも明らかなように、2θが0.5°〜3°の範囲にピークが見られ、メソ細孔構造を有することが確認された。また、図7に示す結果に基づいて、2θが33.1°付近の位置におけるピークからシェラーの式により酸化鉄の一次粒子の平均粒子径を求めたところ、一次粒子の平均粒子径は3.1nmであることが確認された。さらに、図7〜8に示す結果から、実施例6で得られた酸化鉄多孔体においては、XRDパターンにおいて結晶の(110)面に由来するピークと結晶の(300)面に由来するピークの2本のピークを有する2ラインフェリハイドライト相を含有すること、及び、α−Fe2O3とγ−Fe2O3とを含有することが確認された。また、実施例6で得られた酸化鉄多孔体についての2ラインフェリハイドライト相の含有比率の測定結果から、2ラインフェリハイドライト相の含有比率は全酸化鉄の結晶中に90質量%であり、残りがα−Fe2O3とγ−Fe2O3であることが確認された。また、窒素吸着・脱着等温線(図9)及び細孔径分布曲線(図10)のデータから、中心細孔直径が5.6nmであり、細孔容積が0.27cm3/gであり、比表面積が162m2/gであり、且つ、2次粒子径が100〜600nmの範囲にあることが確認されるとともに、中心細孔直径の±40%の範囲に全細孔容積の70%以上が含まれていることが確認され、非常に均一な細孔径を有するものであることが分かった。また、窒素吸着・脱着等温線において相対圧P/P0の値が0.4〜1.0の範囲にある位置でIUPACで規定されるIV型のヒステリシス曲線が確認され、酸化鉄多孔体がメソ細孔構造を有することが確認された。更に、透過型電子顕微鏡による測定の結果、実施例6で得られた酸化鉄多孔体は、酸化鉄の一次粒子が凝集した凝集体からなるものあり、これにより2次細孔が形成されていることが確認された。また、TG/DTA分析の結果、実施例6で得られた酸化鉄多孔体は、含水量が7.7質量%以下であった。
【0105】
(実施例7)
反応液を得る工程において混合液中にFe(NO3)3・9H2Oのみを添加する代わりに、混合液中にFe(NO3)3・9H2OとMn(NO3)3・6H2Oとを添加し、反応液中のFe(NO3)3・9H2OとMn(NO3)3・6H2Oと界面活性剤とのモル比([FeCl3・9H2O]:[Mn(NO3)3・6H2O]:[界面活性剤])が0.04:0.02:0.03となるようにした以外は、実施例1と同様にして、酸化鉄多孔体を得た。
【0106】
このようにして調製された酸化鉄多孔体においては、その製造方法から、ケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛及びチタンの酸化物からなる不純物の総量が0質量%であることは明らかである。また、このようにして調製された酸化鉄多孔体は、その製造方法からマンガン(Mn)を含有するものとなることが分かる。なお、このような酸化鉄多孔体を用いて高周波プラズマ発光分光分析装置(ICPS)により元素分析を行ったところ、マンガン(Mn)の含有量は、鉄の総量に対するモル比([Mn]:[Fe])が0.508:1となる量であった。
【0107】
また、このようにして実施例7で得られた酸化鉄多孔体に対して、実施例1と同様にXRD測定、2ラインフェリハイドライト相の含有比率の測定、細孔径分布曲線の測定、透過型電子顕微鏡による測定及びTG/DTA分析を行った。このような測定の結果として、実施例7で得られた酸化鉄多孔体の低角域のX線回折パターンを図11に示し、実施例7で得られた酸化鉄多孔体の広角域のX線回折パターンを図12に示す。また、窒素吸着・脱着等温線を図13に示し、細孔径分布曲線を図14に示す。
【0108】
図11に示す低角のXRDパターンからも明らかなように、2θが0.5°〜3°の範囲にピークが見られ、メソ細孔構造を有することが確認された。また、図12に示す結果に基づいて、2θが33.1°付近の位置におけるピークからシェラーの式により酸化鉄の一次粒子の平均粒子径を求めたところ、一次粒子の平均粒子径は2.0nmであることが確認された。さらに、XRD測定の結果から、実施例7で得られた酸化鉄多孔体においては、XRDパターンにおいて結晶の(110)面に由来するピークと結晶の(300)面に由来するピークの2本のピークを有する2ラインフェリハイドライト相を含有することが確認された。また、実施例7で得られた酸化鉄多孔体について、XRD測定の結果に基づいて2ラインフェリハイドライト相の含有比率を求めたところ、2ラインフェリハイドライト相の含有比率は全酸化鉄の結晶中に100質量%であることが確認された。また、窒素吸着・脱着等温線(図13)及び細孔径分布曲線(図14)のデータから、中心細孔直径は4.8nmであり、細孔容積が0.41cm3/gであり、比表面積が291m2/gであり、中心細孔直径の±40%の範囲に全細孔容積の71%以上が含まれていることが確認され、非常に均一な細孔径を有するものであることが分かった。また、窒素吸着・脱着等温線において相対圧P/P0の値が0.4〜1.0の範囲にある位置でIUPACで規定されるIV型のヒステリシス曲線が確認され、酸化鉄多孔体がメソ細孔構造を有することが確認された。更に、透過型電子顕微鏡及び高分解能透過電子顕微鏡による測定の結果、実施例7で得られた酸化鉄多孔体は、酸化鉄の一次粒子が凝集した凝集体からなるものあり、これにより2次細孔が形成されていることが確認されるとともに、主な一次粒子の粒子径は4〜6nmの範囲内にあり、2次粒子径が20〜300nmの範囲にあることが分かった。また、TG/DTA分析の結果、実施例7で得られた酸化鉄多孔体は、含水量が2.8質量%以下であった。
【0109】
(比較例1)
特開2005−288439号公報に記載されている方法に沿って、フェリハイドライト相を有する酸化鉄を調製した。すなわち、先ず、Fe(NO3)3・9H2O(0.06モル:24.24g)を300mlの蒸留水に溶解させた後、2時間攪拌して鉄塩の溶液を得た。次に、前記鉄塩の溶液を撹拌しながら、前記鉄塩の溶液に対して1MのNaOH水溶液をpHが7.5となるまで2mL/分のスピードで滴下し、更に1時間攪拌した。その後、前記溶液中に析出した沈殿物をろ過し、蒸留水で洗浄した後、75℃の温度条件で12時間乾燥して、比較のための酸化鉄を得た。
【0110】
比較例1で得られた酸化鉄に対して、実施例1と同様にXRD測定、2ラインフェリハイドライト相の含有比率の測定及び細孔径分布曲線の測定を行った。このような測定の結果として、比較例1で得られた酸化鉄の低角域のX線回折パターンを図15を示し、比較例1で得られた酸化鉄の広角域のX線回折パターンを図16に示し、窒素吸着・脱着等温線を図17に示し、細孔径分布曲線を図18に示す。
【0111】
図16に示す広角域のX線回折パターンに基づいて、2θが33.1°付近の位置におけるピークからシェラーの式により酸化鉄の一次粒子の平均粒子径を求めたところ、一次粒子の平均粒子径は1.7nmであることが確認された。また、図16から、比較例1で得られた酸化鉄においては2ラインフェリハイドライト相を有することが確認された。更に、2ラインフェリハイドライト相の含有比率は100質量%であることが確認された。しかしながら、比較例1で得られた酸化鉄においては、図15に示す低角域のXRDパターンにおいて、メソ多孔質を示すピークが確認されず、更に、窒素吸着・脱着等温線(図17)において、ヒステリシスが確認されず、BJHによる細孔分布曲線(図18)においてもメソ細孔分布が確認されなかった。このように、比較例1で得られた酸化鉄はメソ細孔構造を有するものとはならなかった。更に、このようにして得られた酸化鉄は、図17及び図18に示すデータから、比表面積が226m2/gであり、細孔容積0.13cm3/gであることが確認された。
【0112】
(比較例2)
2008年に発行されたJournal of American Chemical Societyのvol.130の280頁〜287頁の“Synthesis and magnetic investigations of ordered mesoporous two−line ferrihydrite”に記載された方法に沿って、フェリハイドライト相を有する酸化鉄を調製した。すなわち、先ず、20mLのエタノール中に0.8MのFe(NO3)3・9H2Oを溶解して得られた混合液に、2gのKIT−6(シリカ)を添加して、室温(25℃)で1時間攪拌して第一の反応液を得た。次に、前記第一の反応液中のエタノールを50℃の温度条件で蒸発させた後、200℃で6時間焼成して固形物を得た。次いで、その固形物を、20mLのエタノール中に0.8MのFe(NO3)3・9H2Oを溶解して得られた混合液中に添加し、室温(25℃)で1時間攪拌して第二の反応液を得た。その後、前記第二の反応液中のエタノールを50℃の温度条件で蒸発させた後、200℃で6時間焼成し、KIT−6(シリカ)と酸化鉄との複合体を得た。なお、この複合体中の酸化鉄の含有量は50質量%であった。次に、複合体中に存在するKIT−6(シリカ)をNaOH水溶液(複合体中の酸化鉄5gにつき2MのNaOH水溶液が150mlとなるような量を使用)中に浸漬して除去した後、得られた酸化鉄を水2L中に添加して洗浄し、ろ過する工程を、そのろ液のpHが7になるまで数回繰り返した後(水のトータル使用量2L)、ろ過し、50℃で乾燥させて、比較のための酸化鉄を得た。
【0113】
このようにして比較例2で得られた酸化鉄に対して、実施例1と同様にXRD測定、2ラインフェリハイドライト相の含有比率の測定及び細孔径分布曲線の測定を行った。このような測定の結果として、比較例2で得られた酸化鉄の低角域のX線回折パターンを図19を示し、比較例2で得られた酸化鉄の広角域のX線回折パターンを図20に示し、窒素吸着・脱着等温線を図21に示し、細孔径分布曲線を図22に示す。
【0114】
図20に示す広角域のXRDパターンから、シェラーの式により酸化鉄の一次粒子の平均粒子径を求めたところ、一次粒子の平均粒子径は2.7nmであることが確認された。また、図20から、比較例2で得られた酸化鉄においては2ラインフェリハイドライト相を有することが確認された。更に、2ラインフェリハイドライト相の含有比率が100質量%であることが確認された。更に、図19に示す低角域のXRDパターンにおいて2θが0.5°〜3°にピークが確認されるとともに、窒素吸着・脱着等温線(図21)において相対圧P/P0の値が0.4〜1.0の範囲にある位置でIUPACで規定されるIV型のヒステリシス曲線が確認され、比較例2で得られた酸化鉄がメソ細孔構造を有する多孔体であることが確認された。また、窒素吸着・脱着等温線(図21)及びBJHによる細孔分布曲線(図22)のデータから、中心細孔直径が3.8nmであり、比表面積が177m2/gであり、細孔容積0.33cm3/gであることが確認された。なお、このような比較例2で得られた酸化鉄の多孔体においては、細孔のテンプレートとしてKIT−6(シリカ)を用いており、高周波プラズマ発光分光分析装置(ICPS)により元素分析することにより測定される、酸化鉄の総量中のシリカ(二酸化ケイ素:酸性酸化物)の含有量が1.5質量%であることが確認された。
【0115】
(比較例3)
焼成時の温度条件を300℃から500℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較のための酸化鉄を得た。
【0116】
このようにして比較例3で得られた酸化鉄に対して、実施例1と同様にXRD測定、2ラインフェリハイドライト相の含有比率の測定及び細孔径分布曲線の測定を行った。このような測定の結果として、比較例3で得られた酸化鉄の低角域のX線回折パターンを図23に示し、比較例3で得られた酸化鉄の広角域のX線回折パターンを図24に示し、窒素吸着・脱着等温線を図25に示し、細孔径分布曲線を図26に示す。
【0117】
図24に示すXRDパターンの結果に基づいて、2θが33.1°付近の位置におけるピークからシェラーの式により酸化鉄の一次粒子の平均粒子径を求めたところ、酸化鉄の一次粒子の平均粒子径は17.3nmであることが確認された。また、図24から、比較例3で得られた酸化鉄はα−Fe2O3を含有することが確認された。更に、2ラインフェリハイドライト相の含有比率の測定結果から、α−Fe2O3の含有比率が100質量%であることが確認された。また、図23に示す低角域のXRDパターンにおいて2θが0.5°〜3°の位置にピークが確認されるとともに、窒素吸着・脱着等温線(図25)において相対圧P/P0の値が0.4〜1.0の範囲にある位置でIUPACで規定されるIV型のヒステリシス曲線が確認され、比較例3で得られた酸化鉄がメソ細孔構造を有する多孔体であることが確認された。また、窒素吸着・脱着等温線(図25)及びBJHによる細孔分布曲線(図26)のデータから、中心細孔直径が7.2nmであり、比表面積が97m2/gであり、細孔容積0.30cm3/gであることが確認された。
【0118】
(比較例4)
300mlの1−プロパノール中に34.04gのポリオキシエチレン(20)セチルエーテル(界面活性剤:Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 58」)を添加し、混合して、1−プロパノール中に12.42質量%の界面活性剤が含有された混合液を得た。次に、前記混合液中にFe(NO3)3・9H2Oを添加し、2時間撹拌して、反応液を得た。なお、前記混合液中へのFe(NO3)3・9H2Oの添加量は、得られる反応液中でのFe(NO3)3・9H2Oと界面活性剤とのモル比([Fe(NO3)3・9H2O]:[界面活性剤])が0.06:0.03となるようにした。次いで、前記反応液を撹拌しながら、46質量%のKOH水溶液を前記反応液に対して滴下し、前記反応液のpHを7.5に調整し、更に3時間攪拌して、反応液中に沈殿物を析出せしめた。次いで、前記沈殿物の析出した反応液を容量が1Lの密閉型の容器に投入した後、その容器をオーブン内に導入して、前記容器内での自然加圧条件下、50℃の温度条件で3日間加熱熟成した。次に、前記加熱熟成後の前記反応液の中か沈殿物を濾過して取り出した後、その沈殿物を2.5Lの蒸留水で洗浄し、乾燥させた。このようにして乾燥させた沈殿物をめのう乳鉢中で粉砕して、粉末を得た。その後、前記粉末3gを100mlのエタノール中に添加し、24時間攪拌した。次に、前記エタノール中から前記粉末をろ過により取り出し、乾燥させた後、475℃の温度条件で3時間焼成して、酸化鉄多孔体を得た。
【0119】
このようにして比較例4で得られた酸化鉄多孔体に対して、実施例1と同様にXRD測定、2ラインフェリハイドライト相の含有比率の測定及び細孔径分布曲線の測定を行った。このような測定結果から、比較例4で得られた酸化鉄の一次粒子の平均粒子径は8.5nmであることが確認された。また、比較例4で得られた酸化鉄においては、2ラインフェリハイドライト相の含有比率が90質量%であり、残りがα−Fe2O3及びγ−Fe2O3であることが確認された。また、低角域のXRDパターンにおいて2θが0.5°〜3°にピークが確認されるとともに、窒素吸着・脱着等温線において相対圧P/P0の値が0.4〜1.0の範囲にある位置でIUPACで規定されるIV型のヒステリシス曲線が確認され、比較例4で得られた酸化鉄多孔体がメソ細孔構造を有する多孔体であることが確認された。更に、窒素吸着・脱着等温線及びBJHによる細孔分布曲線のデータから、中心細孔直径が6.2nmであり、比表面積が153m2/gであり、細孔容積0.33cm3/gであることが確認された。
【0120】
(比較例5)
200mlの1−プロパノール中に34.04gのポリオキシエチレン(20)セチルエーテル(界面活性剤:Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 58」)を添加し、混合して、1−プロパノール中に17.54質量%の界面活性剤が含有された混合液を得た。次に、前記混合液中にFe(NO3)3・9H2Oを添加し、2時間撹拌して、反応液を得た。なお、前記混合液中へのFe(NO3)3・9H2Oの添加量は、得られる反応液中でのFe(NO3)3・9H2Oと界面活性剤とのモル比([Fe(NO3)3・9H2O]:[界面活性剤])が0.06:0.03となるようにした。次いで、前記反応液を撹拌しながら、28質量%のNH3水溶液を前記反応液に対して滴下し、前記反応液のpHを7.5に調整し、更に3時間攪拌して、反応液中に沈殿物を析出せしめた。次いで、前記沈殿物の析出した反応液を容量が1Lの密閉型の容器に投入した後、その容器をオーブン内に導入して、前記容器内での自然加圧条件下、50℃の温度条件で3日間加熱熟成した。次に、前記加熱熟成後の前記反応液の中か沈殿物を濾過して取り出した後、その沈殿物を2.5Lの蒸留水で洗浄し、乾燥させた。このようにして乾燥させた沈殿物をめのう乳鉢中で粉砕して、粉末を得た。その後、前記粉末3gを100mlのエタノール中に添加し、24時間攪拌した。次に、前記エタノール中から前記粉末をろ過により取り出し、乾燥させた後、475℃の温度条件で3時間焼成して、酸化鉄多孔体を得た。
【0121】
このようにして比較例5で得られた酸化鉄多孔体に対して、実施例1と同様にXRD測定、2ラインフェリハイドライト相の含有比率の測定及び細孔径分布曲線の測定を行った。このような測定結果から、比較例5で得られた酸化鉄の一次粒子の平均粒子径は7.0nmであることが確認された。また、比較例5で得られた酸化鉄においては、2ラインフェリハイドライト相の含有比率が65質量%であり、残りがα−Fe2O3であることが確認された。また、低角域のXRDパターンにおいて2θが0.5°〜3°にピークが確認されるとともに、窒素吸着・脱着等温線において相対圧P/P0の値が0.4〜1.0の範囲にある位置でIUPACで規定されるIV型のヒステリシス曲線が確認され、比較例5で得られた酸化鉄多孔体がメソ細孔構造を有する多孔体であることが確認された。更に、窒素吸着・脱着等温線及びBJHによる細孔分布曲線のデータから、中心細孔直径が10.2nmであり、比表面積が145m2/gであり、細孔容積0.30cm3/gであることが確認された。
【0122】
[空気浄化性能の評価]
実施例1及び実施例6〜7で得られた酸化鉄多孔体と比較例1〜5で得られた酸化鉄とを、それぞれ0.1g試料として用い、空気浄化性能の測定を行った。すなわち、先ず、ガス容器(5L)中に、試料(0.1g)を導入した後、前記ガス容器中のガス雰囲気を31.67ppmのアセトアルデヒドと20容量%の酸素と窒素(バランス)とからなるガス雰囲気とした。そして、室温(25℃)で3時間経過した後のガス容器内のガス中のアセトアルデヒド濃度をガスクロマトグラフ(島津GC−14B)によって測定した。また、試料を導入していないガス容器(5L)に対しても、同様にガス雰囲気を31.67ppmのアセトアルデヒドと20容量%の酸素と窒素(バランス)とからなるガス雰囲気とし、室温(25℃)で3時間経過した後のガス容器内のガス中のアセトアルデヒド濃度を測定した。そして、下記式:
[除去率(%)]=(1―[試料を導入したガス容器中のアセトアルデヒド濃度]/[試料を導入しなかったガス容器中のアセトアルデヒド濃度])×100
により、反応前、1時間後、3時間後、5時間後、24時間後のアセトアルデヒドの除去率を求めた。結果を表2に示す。
【0123】
【表2】
【0124】
表2に示す結果からも明らかなように、本発明の酸化鉄多孔体(実施例1及び実施例6〜7)においては、十分に高度なアセトアルデヒドの除去性能が得られており、空気浄化材料にしようした際に、十分に高度な性能を示すことが確認された。一方、比較のための酸化鉄(比較例1〜5)においては、いずれもアセトアルデヒドの除去性能が十分なものとはならなかった。このような結果から、2ラインフェリハイドライト相を有する酸化鉄のメソ多孔体であっても不純物(二酸化ケイ素)が1.5質量%含有された場合(比較例2)にはアセトアルデヒドの除去性能が十分とならないことが分かった。また、2ラインフェリハイドライト相を有する酸化鉄のメソ多孔体であっても、一次粒子の平均粒子径が8nmを超えている場合(比較例4)や中心細孔直径が10nmを超えている場合(比較例5)においてもアセトアルデヒドの除去性能が十分とならないことが分かった。
【0125】
さらに、表2に示す結果からも明らかなように、実施例7で得られた遷移金属を含有する酸化鉄多孔体においては、反応開始から1時間後に、アセトアルデヒドの除去率が100%となることが確認された。このような結果から、本発明の酸化鉄多孔体においては、遷移金属を含有させることによって、より高度なアセトアルデヒドの除去性能が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0126】
以上説明したように、本発明によれば、空気浄化材料として利用した場合に空気中に含まれる揮発性有機化合物(例えばアセトアルデヒド)等の反応分子に対して十分に高度な浄化性能を有することが可能な酸化鉄多孔体、その酸化鉄多孔体を用いた空気浄化材料、並びに、その酸化鉄多孔体を簡便な工程で効率よく製造することが可能な酸化鉄多孔体の製造方法を提供することが可能となる。このような本発明の酸化鉄多孔体は、吸着物質や反応基質を細孔内に速やかに拡散させることができるため、吸収材、触媒、触媒担体等として好適に利用でき、空気浄化材料に特に有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化鉄多孔体、それを用いた空気浄化材料並びに酸化鉄多孔体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
広角X線パターンにおいて、d値が2.6オングストロームの位置のピーク(結晶の(110)面に由来するピーク)と、d値が1.5オングストロームの位置のピーク(結晶の(300)面に由来するピーク)との2本のブロードなピークを有する2ラインフェリハイドライト相を有する酸化鉄は、その表面に八面体のFe3+イオン種以外に正しい配位の少ない四面体のFe3+イオンが存在するという特性を有しており、様々な分野への応用が期待されている。
【0003】
このような2ラインフェリハイドライト相を有する酸化鉄の製造方法としては、例えば、1998年に発行されたChemical Reviewのvol.98の2549頁〜2586頁に記載の“Occurrence and Constitution of Natural and Synthetic Ferrihydrite, a Widespread Iron Oxyhydroxide”(非特許文献1)においては、鉄塩を含有する溶液に塩基を導入して沈殿物を形成せしめた後に沈殿物をろ過して乾燥することにより2ラインフェリハイドライト相を有する酸化鉄を得る方法が開示されている。また、非特許文献1においては、2ラインフェリハイドライト相を有する酸化鉄を、有機不純物、ヒ素、マンガン、銅、亜鉛及びその他の有毒な元素を吸着する廃水処理等の分野に利用することが記載されている。
【0004】
また、特開2005−2888439号公報(特許文献1)においては、Fe(III)塩類(例えばFeCl3、Fe2(SO4)3、FeClSO4、Fe(NO3)3)と、アルカリ性溶液(NaOH、KOH、NH3、Na2CO3、Ca(OH)2)との反応(Fe3++3OH−→Fe(OH)3)を利用して、Fe(OH)3を定量的に沈殿させた後に濾過、洗浄を行った後に乾燥してフェリハイドライトを得る方法が開示されており、得られたフェリハイドライトを排ガス中の望ましくない成分である硫化水素、メルカプタン、SOx、NOxの吸着させるために利用することが記載されている。
【0005】
また、特開2007−509832号公報(特許文献2)においては、鉄(III)の硝酸塩(Fe(NO3)3・9H2O)を水中でNaOHによって沈殿させた後、105℃のオーブンで14時間加熱してフェリハイドライト及びゲーサイトを生成し、これを水により洗浄し、濾過した後、真空状態の下で60℃で乾燥することにより、メソ多孔性の酸化鉄を得る方法が開示されており、かかる酸化鉄をNO、SO2等の除去触媒として利用することや、有機化学種、バクテリア、重金属及びその他の汚染物質を含む水のろ過剤として利用することが開示されている。
【0006】
更に、2008年に発行されたJournal of American Chemical Societyのvol.130の280頁〜287頁に記載の“Synthesis and magnetic investigations of ordered mesoporous two−line ferrihydrite”(非特許文献2)においては、テンプレートとしてメソポーラスシリカ(二次元のヘキサゴナルのメソポーラスシリカSBA−15あるいは三次元キュービックのメソポーラスシリカKIT−6)を用い、エタノール中で鉄(III)の硝酸塩(Fe(NO3)3・9H2O)をテンプレートともに撹拌した後、エタノールを蒸発させ、200℃で6時間焼成した後、得られた固形分を、エタノール中に鉄(III)の硝酸塩(Fe(NO3)3・9H2O)を含有する溶液中に添加し、撹拌し、再度エタノールを蒸発させて、得られた固形物を200℃で6時間焼成して多孔体前駆体を得た後、NaOHを用いて多孔体前駆体からテンプレートとしてのメソポーラスシリカを除去することにより、2ラインフェリハイドライトを有し且つメソ多孔性の構造を有する酸化鉄多孔体を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−2888439号公報
【特許文献2】特開2007−509832号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Chemical Review,“Occurrence and Constitution of Natural and Synthetic Ferrihydrite, a Widespread Iron Oxyhydroxide”,vol.98,1998年発行,2549頁〜2586頁
【非特許文献2】Harun Tuysuz et al.,Journal of American Chemical Society,“Synthesis and magnetic investigations of ordered mesoporous two−line ferrihydrite”,vol.130,2008年発行,280頁〜287頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1〜2及び非特許文献1〜2に記載のような従来の酸化鉄の製造方法を利用して得られる酸化鉄は、空気浄化材料として利用した場合に、揮発性有機化合物(VOC:例えばアセトアルデヒド)等の反応分子を浄化する性能が必ずしも十分なものとはならなかった。
【0010】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、空気浄化材料として利用した場合に空気中に含まれる揮発性有機化合物(例えばアセトアルデヒド)等の反応分子に対して十分に高度な浄化性能を有することが可能な酸化鉄多孔体、その酸化鉄多孔体を用いた空気浄化材料、並びに、その酸化鉄多孔体を簡便な工程で効率よく製造することが可能な酸化鉄多孔体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、先ず、上記従来技術(特許文献1〜2及び非特許文献1〜2)について検討した。先ず、上記特許文献1及び非特許文献1に記載のような従来の酸化鉄の製造方法においては、メソ多孔性構造を有する多孔体を得ることができず、酸化鉄の構造により空気浄化材料として利用した場合に十分に高度な浄化性能を得ることができないことが分かった。次に、上記特許文献2について検討したところ、かかる文献に記載のような従来の酸化鉄の製造方法においては、メソ多孔性の酸化鉄多孔体が得られるものの、このような酸化鉄多孔体は一次粒子が非常に高い濡れ性によって不規則に凝集した構造を有し、その細孔が粒子間の空間として形成されるものと推察され、細孔の均一性が低く、中心細孔直径は35nm程度のものとなり、更には、その細孔容積も0.09〜0.18cc/g程度の極めて低い値となる。また、このような酸化鉄多孔体は、その多孔体を構成する一次粒子のサイズを十分に小さなものとすることができず、その一次粒子の平均粒子径は8nm超となり、十分に小さな粒子が凝集した構造とすることもできなかった。そして、このような特許文献2に記載のような酸化鉄多孔体を空気浄化材料として利用した場合には、空気中の揮発性有機化合物を細孔内に十分に拡散させることができず、必ずしも十分な浄化性能が得られないことが分かった。なお、このような特許文献2に記載のような酸化鉄多孔体を200℃以上の温度で焼成した場合には、メソ多孔質構造のないものとなってしまう。次いで、非特許文献2について検討したところ、かかる文献に記載のような従来の酸化鉄の製造方法においては、メソ多孔性の酸化鉄多孔体が得られるものの、製造時にテンプレートとして用いたメソポーラスシリカに由来したケイ素の酸化物(二酸化ケイ素)が2重量%以上は含有されてしまうこと、更には、テンプレートを除去する際に用いたNaOHに由来したNaにより得られる酸化鉄多孔体の表面の不飽和配位サイトが被毒されてしまうことが分かった。そして、このような非特許文献2に記載のような酸化鉄多孔体においては、酸化鉄多孔体中に含有される不純物(二酸化ケイ素等)に由来して、空気浄化材料として利用した場合に必ずしも十分な揮発性有機化合物の除去性能が得られないことが分かった。なお、このような非特許文献2に記載のような従来の酸化鉄多孔体においては、二酸化ケイ素が含まれない場合には2ラインフェリハイドライト相が十分に形成されず、主にヘマタイトが形成されてしまう。また、このような非特許文献2に記載のような従来の酸化鉄の製造方法は、非常に煩雑な工程を得る必要があるばかりかコストの点でも必ずしも十分なものではない。
【0012】
次に、本発明者らは、上述のような検討結果に基づき、上記目的を達成すべく更に鋭意研究を重ねた結果、酸化鉄多孔体を、酸化鉄の一次粒子が凝集した凝集体からなるものとし、前記一次粒子の平均粒子径を2〜8nmとし、前記凝集体の細孔の中心細孔直径を2〜10nmとし、前記酸化鉄中の2ラインフェリハイドライト相の含有比率を40質量%以上とし且つケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛及びチタンの酸化物からなる不純物の総量を0.1質量%以下とすることにより、驚くべきことに、その酸化鉄多孔体を空気浄化材料として利用した場合に空気中に含まれる揮発性有機化合物(例えばアセトアルデヒド)等の反応分子に対して十分に高度な浄化性能が得られることを見出して本発明を完成するに至った。更に、本発明者らは、アルコール中にエトキシ基(親水性基)の個数が2〜200であり且つアルキル基(疎水性基)の炭素数が6〜20であるポリオキシエチレンアルキルエーテルからなる界面活性剤と鉄塩とを添加して反応液を調製し、その後、その反応液中に塩基を添加し、前記反応液のpHを4.5〜13に調整して前記界面活性剤と前記水酸化鉄との複合体を形成させた後、前記複合体を含有する前記反応液を密閉容器内に導入して20〜125℃の温度条件で加熱熟成し、その加熱熟成後の前記反応液から前記複合体を取り出し、前記複合体を極性溶媒により洗浄することにより、前記複合体から界面活性剤を除去して水酸化鉄の一次粒子の凝集した水酸化鉄多孔体を製造し、その水酸化鉄多孔体を乾燥させた後に200〜450℃の温度条件で焼成することにより、前記酸化鉄多孔体を効率よく製造することが可能となることを見出して本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の酸化鉄多孔体は、酸化鉄の一次粒子が凝集した凝集体からなり、
前記一次粒子の平均粒子径が2〜8nmであり、
前記凝集体の細孔の中心細孔直径が2〜10nmであり、
前記酸化鉄が、X線回折パターンにおいて結晶の(110)面に由来するピークと結晶の(300)面に由来するピークの2本のピークを示す2ラインフェリハイドライト相を有しており、
前記酸化鉄の全結晶相に対する前記2ラインフェリハイドライト相の含有比率が40質量%以上であり、且つ、
ケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛及びチタンの酸化物からなる不純物の総量が0.1質量%以下であること、
を特徴とするものである。
【0014】
上記本発明の酸化鉄多孔体においては、前記凝集体の細孔容積が0.25〜0.45cm3/gであることが好ましい。
【0015】
また、上記本発明の酸化鉄多孔体においては、前記凝集体の比表面積が140〜350m2/gであることが好ましい。
【0016】
さらに、上記本発明の酸化鉄多孔体においては、遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)を更に含有することが好ましく、かかる遷移金属がマンガン、セリウム、銀、ジルコニウム、イットリウム及びガリウムの中から選択される少なくとも1種の元素であることがより好ましい。
【0017】
本発明の空気浄化材料は、上記本発明の酸化鉄多孔体を備えることを特徴とするものである。
【0018】
本発明の酸化鉄多孔体の製造方法は、アルコール中に、親水性基としてのエトキシ基の個数が2〜200であり且つ疎水性基としてのアルキル基の炭素数が6〜20であるポリオキシエチレンアルキルエーテルからなる界面活性剤と、鉄塩とを添加して反応液を得る工程と、
前記反応液中に塩基を添加して前記反応液のpHを4.5〜13に調整することにより、前記反応液中において前記界面活性剤の周囲に水酸化鉄を析出させて、前記界面活性剤と前記水酸化鉄との複合体を得る工程と、
前記複合体を含有する前記反応液を密閉容器内に導入して20〜125℃の温度条件で加熱熟成する工程と、
前記加熱熟成後の前記反応液から前記複合体を取り出した後、前記複合体を極性溶媒により洗浄して前記複合体から界面活性剤を除去することにより、水酸化鉄の一次粒子の凝集した水酸化鉄多孔体を得る工程と、
前記水酸化鉄多孔体を乾燥させた後に200〜450℃の温度条件で焼成することにより、上記本発明の酸化鉄多孔体を得る工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0019】
また、上記本発明の酸化鉄多孔体の製造方法においては、前記界面活性剤の添加量が前記アルコールの総量に対して0.02〜50質量%であることが好ましい。
【0020】
また、上記本発明の酸化鉄多孔体の製造方法においては、前記塩基が、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、アルキル炭酸塩、アルキル炭酸水素塩、アルキルアミン、アルコキシド及び水酸化テトラアルキルアンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0021】
さらに、上記本発明の酸化鉄多孔体の製造方法においては、前記反応液を得る工程において、前記アルコール中に遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩を更に添加することが好ましく、前記遷移金属がマンガン、セリウム、銀、ジルコニウム、イットリウム及びガリウムの中から選択される少なくとも1種の元素であることがより好ましい。
【0022】
なお、本発明の酸化鉄多孔体、それを用いた空気浄化材料及び酸化鉄多孔体の製造方法によって上記目的が達成される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の酸化鉄多孔体は、平均粒子径が2〜8nmの酸化鉄の一次粒子が凝集した凝集体からなり、また、その酸化鉄において前記2ラインフェリハイドライト相の含有比率は40質量%以上である。このように、本発明の酸化鉄多孔体は、微細な粒子が凝集した構造となっている。このような平均粒子径が2〜8nmという微細なナノ粒子(一次粒子)と、そのナノ粒子の凝集によりメソ細孔が形成された多孔質構造を有する多孔体(二次粒子)との組合せは、これにより空気浄化材料として利用した場合の働きが二重機能的となるため、アセトアルデヒド等の揮発性有機化合物に対する吸着性能や触媒反応活性の向上に非常に効果的である。すなわち、先ず、本発明の酸化鉄多孔体においては、平均粒子径が2〜8nmという微細なナノ粒子(一次粒子)により非常に高度な比表面積が確保され、吸着及び触媒機能の活性サイトとして機能するフェリハイドライトの表面の不飽和配位サイトを十分に多く存在させることが可能となる。また、本発明の酸化鉄多孔体においては、ナノ粒子に特有の高い比表面積と、その粒子の凝集により形成される多くの粒界域(結晶粒子同士の境界面)とにより、凝集体の内部において電荷移動が容易となるため、2ラインフェリハイドライトの表面の不飽和配位サイト上で吸着、触媒反応が同調して起こり、多量の有害なガスを迅速に除去することが可能である。また、このようなナノ粒子(一次粒子)の凝集した凝集体(二次粒子)においては、中心細孔直径が2〜10nmの細孔が形成されているため、細孔内に入って来るゲスト分子に対して拡散障害の少ないスペースが提供され、空気中の揮発性有機化合物等を細孔内に十分に拡散させることが可能である。このように、本発明においては、酸化鉄多孔体中のメソ細孔の存在により、揮発性有機化合物等の反応分子を大量に吸着する多数の表面の吸着サイトが提供されるだけでなく、触媒作用において極めて重要な細孔内への反応分子の拡散障害も十分に抑制される。そのため、本発明の酸化鉄多孔体においては、酸化鉄多孔体の細孔内に入って来る反応分子を、十分に分散させて吸着でき、吸着除去性能が非常に高度なものとなる。これにより、本発明の酸化鉄多孔体は、空気浄化材料として利用した場合に揮発性有機化合物(例えばアセトアルデヒド)等に対して十分に高度な浄化性能を示すものと本発明者らは推察する。
【0023】
また、本発明の酸化鉄多孔体の製造方法においては、先ず、界面活性剤をテンプレートとして用いて、アルコール中において界面活性剤の周囲に水酸化鉄を析出させる。このようにして水酸化鉄が析出されると、水酸化鉄とテンプレート中の親水性基とが相互作用して水素結合が形成され、水酸化鉄と界面活性剤との複合体が形成される。そのため、本発明においては、水酸化鉄を析出させることで、界面活性剤の周囲を水酸化鉄の析出粒子が覆うような構造が生成される。また、本発明においては、溶媒としてアルコールを用いているため、溶媒により水酸化鉄とテンプレートとの水素結合相互作用の形成が阻害されることが十分に抑制される。一方、従来の水酸化鉄を析出沈殿させる方法において一般的に用いられる水を溶媒として用いた場合には、析出沈殿した水酸化鉄(その種類は主に水酸化第二鉄(Fe(OH)3)とオキシ水酸化鉄(FeOOH))は、その強い水素結合能のためにH2O分子を強く吸着する傾向にある。そのため、溶媒として水を用いた場合には、水分子が析出沈殿した水酸化鉄の外圏に水素結合を通して強く吸着される。このようにして水酸化鉄の外圏に強く吸着した水分子は、水酸化鉄とテンプレートとの相互作用を阻害する。そのため、溶媒に水を用いた場合には、テンプレートとの複合体は形成すること自体が困難であり、析出沈殿で生成された水酸化鉄のナノ粒子は凝集した塊となる。そして、溶媒に水を用いた場合に、得られた凝集体に対してテンプレート除去あるいは非常に低温での焼成を行った場合には、結晶性の高い酸化鉄、あるいは、メソ多孔質構造のないオキシ水酸化鉄が形成される。このように、本発明においては、水分子と比較して水酸化鉄に対する水素結合能が低いアルコールを溶媒として用いているため、溶媒に起因して水酸化鉄とテンプレートとの間の水素結合の形成が阻害されることは十分に抑制され、効率よく水酸化鉄と界面活性剤との複合体が形成され、形成されたナノ粒子が安定し、不均一な凝集が起こることがない。そのため、このようにして得られる複合体から界面活性剤を除去すると、その界面活性剤の形状に由来した非常に均一なメソ細孔(いわゆるシングルポア分布を持つメソ細孔)が形成された水酸化鉄多孔体が得られる。また、このような界面活性剤は、直接的な共有結合と比較すると弱い水素結合相互作用により結合されているため、水のような極性の溶媒を用いて洗浄することで、前記複合体から容易に除去される。更に、このようにして極性溶媒により洗浄して界面活性剤を除去して細孔を形成することで、より高い表面積を得ることも可能となる。また、このようにして得られたナノ粒子が凝集した凝集体(水酸化鉄多孔体)は少なくとも最高450℃まで焼成してもメソ細孔構造が保持されるものとなる。そのため、本発明においては、このようにして水酸化鉄多孔体を得た後に、その水酸化鉄多孔体を乾燥し、焼成することができる。そして、このようにして水酸化鉄多孔体を焼成することにより、細孔構造等を維持しながら酸化鉄の2ラインフェリハイドライト相を形成できるとともに、酸化鉄の一次粒子は平均粒子径が2〜8nmという十分に微細なナノ粒子となる。更に、このようにして焼成することにより、得られる酸化鉄は十分に脱水された状態のものとなると推察される。すなわち、通常、2ラインフェリハイドライト相が形成された酸化鉄は、一般に分子式:5Fe2O3・9H2O(全体の約17質量%が水分子である。)で表せられる(例えば、Chemical Review,vol.98,1998年発行,2549頁〜2586頁を参照)。しかしながら、本発明においては、上述のように焼成工程を経て2ラインフェリハイドライト相を有する酸化鉄が得られているため、焼成時に酸化鉄に水和している水分子が蒸発除去され、2ラインフェリハイドライト相を形成しつつもその酸化鉄が十分に乾燥された状態のものとなる。そのため、得られる酸化鉄に水和する水分子の量は大気中に含まれる水の量に由来することとなり、その水分子の含有量はほぼ5質量%以下程度になるものと推察される。そして、このようにして脱水された酸化鉄の2ラインフェリハイドライト相においては、水が配位していた表面サイトに揮発性有機化合物等の反応分子を吸着させることが可能であり、より多くの吸着活性サイトが得られるものと推察される。また、このような本発明の酸化鉄多孔体の製造方法によれば、基本的に、製造過程においてケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛及びチタンの酸化物が形成されるような原料を用いることがなく、かかる酸化物からなる不純物が酸化鉄中に含有されることがないため、得られる酸化鉄多孔体においては、ケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛及びチタンの酸化物からなる不純物に起因して触媒活性が低下することがない。また、このような本発明の酸化鉄多孔体の製造方法は、再現性の高い簡単な合成法でありながら、鉄塩として安価な無機鉄塩を利用できるとともにテンプレートに用いてる界面活性剤も入手が容易であり、従来の酸化鉄多孔体の製造方法と比較して作業性やコスト面においても十分に優位性が高い方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、空気浄化材料として利用した場合に空気中に含まれる揮発性有機化合物(例えばアセトアルデヒド)等の反応分子に対して十分に高度な浄化性能を有することが可能な酸化鉄多孔体、その酸化鉄多孔体を用いた空気浄化材料、並びに、その酸化鉄多孔体を簡便な工程で効率よく製造することが可能な酸化鉄多孔体の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例1で得られた酸化鉄多孔体の低角域のX線回折パターンを示すグラフである。
【図2】実施例1で得られた酸化鉄多孔体及び焼成前の粉末の広角域のX線回折パターンを示すグラフである。
【図3】実施例1で得られた酸化鉄多孔体の窒素吸着・脱着等温線を示すグラフである。
【図4】実施例1で得られた酸化鉄多孔体の細孔径分布曲線である。
【図5】実施例1で得られた酸化鉄多孔体の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図6】実施例6で得られた酸化鉄多孔体の低角域のX線回折パターンを示すグラフである。
【図7】実施例6で得られた酸化鉄多孔体の広角域のX線回折パターンを示すグラフである。
【図8】図7に示すX線回折パターンのスケールを変更して示すグラフである。
【図9】実施例6で得られた酸化鉄多孔体の窒素吸着・脱着等温線を示すグラフである。
【図10】実施例6で得られた酸化鉄多孔体の細孔径分布曲線である。
【図11】実施例7で得られた酸化鉄多孔体の低角域のX線回折パターンを示すグラフである。
【図12】実施例7で得られた酸化鉄多孔体の広角域のX線回折パターンを示すグラフである。
【図13】実施例7で得られた酸化鉄多孔体の窒素吸着・脱着等温線を示すグラフである。
【図14】実施例7で得られた酸化鉄多孔体の細孔径分布曲線である。
【図15】比較例1で得られた酸化鉄の低角域のX線回折パターンを示すグラフである。
【図16】比較例1で得られた酸化鉄の広角域のX線回折パターンを示すグラフである。
【図17】比較例1で得られた酸化鉄の窒素吸着・脱着等温線を示すグラフである。
【図18】比較例1で得られた酸化鉄の細孔径分布曲線である。
【図19】比較例2で得られた酸化鉄の低角域のX線回折パターンを示すグラフである。
【図20】比較例2で得られた酸化鉄の広角域のX線回折パターンを示すグラフである。
【図21】比較例2で得られた酸化鉄の窒素吸着・脱着等温線を示すグラフである。
【図22】比較例2で得られた酸化鉄の細孔径分布曲線である。
【図23】比較例3で得られた酸化鉄の低角域のX線回折パターンを示すグラフである。
【図24】比較例3で得られた酸化鉄の広角域のX線回折パターンを示すグラフである。
【図25】比較例3で得られた酸化鉄の窒素吸着・脱着等温線を示すグラフである。
【図26】比較例3で得られた酸化鉄の細孔径分布曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0027】
先ず、本発明の酸化鉄多孔体について説明する。すなわち、本発明の酸化鉄多孔体は、酸化鉄の一次粒子が凝集した凝集体からなり、
前記一次粒子の平均粒子径が2〜8nmであり、
前記凝集体の細孔の中心細孔直径が2〜10nmであり、
前記酸化鉄が、X線回折パターンにおいて結晶の(110)面に由来するピークと結晶の(300)面に由来するピークの2本のピークを示す2ラインフェリハイドライト相を有しており、
前記酸化鉄の全結晶相に対する前記2ラインフェリハイドライト相の含有比率が40質量%以上であり、且つ、
ケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛及びチタンの酸化物からなる不純物の含有量が0.1質量%以下であること、
を特徴とするものである。
【0028】
このように、本発明の酸化鉄多孔体は酸化鉄の一次粒子が凝集した凝集体の構造を有するものである。このような酸化鉄の一次粒子は、平均粒子径が2〜8nmのものである。このような一次粒子の平均粒子径が前記下限未満では酸化鉄多孔体の調製が困難となり、他方、前記上限を超えると、比表面積が低下して、酸化鉄表面に存在する正しい配位の少ない四面体のFe3+イオンに由来する触媒の活性サイト(不飽和配位サイト)の量が不十分となり、空気浄化材料として利用した場合に十分に高度な浄化性能が得られなくなる。また、このような一次粒子の平均粒子径としては、調製の容易さや目的とする細孔構造を得るという観点から、2〜6nmであることがより好ましい。なお、ここにいう「粒子径」は、粒子が球形で無い場合には、原則として、その粒子の最小直径と最大直径との平均値をいう。また、「一次粒子の平均粒子径」は、X線回析(XRD)による測定を行い、シェラーの式:
D=0.9λ/βcosθ
(式中、Dは粒子径を示し、λは使用X線波長を示し、βは試料の回折線幅を示し、θは
回折角を示す)
を計算することにより求める。このような一次粒子の粒子径を確認する際におけるX線回折測定の方法としては、測定装置として理学電機社製の商品名「RINT2100」を用いて、スキャンステップ0.01°、発散及び散乱スリット1/2deg、受光スリット0.15mm、CuKα線、40kV、30mA、スキャンス速度2θ=4°/minの条件で測定する方法を採用する。また、結晶の(110)面に由来するピーク(2θ=35°付近)の回折線幅より粒子径を算出する。なお、このような粒子径の大きさは透過型電子顕微鏡(TEM)による観察により確認することもできる。
【0029】
また、このような酸化鉄の一次粒子の凝集体(酸化鉄多孔体)は、細孔の中心細孔直径が2〜10nmのものである。このような中心細孔直径が前記範囲にあると、空気浄化材料として利用した場合に反応分子が細孔内を容易に拡散するため、凝集体の外表面の活性サイトばかりか細孔内部の活性サイトにおいても反応分子の分解反応が容易に進行し、浄化性能が十分に向上される。ここで、このような中心細孔直径が上記下限未満になると反応分子が細孔内部に十分な速度で拡散されず、オゾン分解性能が低下する。他方、上記上限を超えると比表面積が低下して触媒活性が低下し、空気浄化性能が低下する。また、このような観点から、前記担体の中心細孔直径は2〜8nmであることがより好ましく、3〜6nmであることが更に好ましい。
【0030】
なお、ここにいう「中心細孔直径」とは、細孔容積(Vp)を細孔半径(Rp)で微分した値(d(Vp)/d(Rp))を細孔半径(Rp)に対してプロットした曲線(細孔径分布曲線)の最大ピークにおける細孔半径を2倍した値である。なお、細孔径分布曲線は、次に述べる方法により求めることができる。すなわち、先ず、前記凝集体を液体窒素温度(−196℃)に冷却して窒素ガスを導入し、定容量法あるいは重量法によりその吸着量を求め、次いで、導入する窒素ガスの圧力を徐々に増加させ、各平衡圧に対する窒素ガスの吸着量をプロットし、吸着等温線を得る。そして、前記吸着等温線を用い、Cranston−Inklay法、Pollimore−Heal法、BJH法等の計算法を採用することにより、細孔径分布曲線を求めることができる。
【0031】
また、このような凝集体においては、窒素吸着・脱着等温線に、相対圧力(P/P0)が0.4〜1の間で、IUPACで規定されているIV型のヒステリシスループが確認されるものであることが好ましい。このようなIUPACで規定されているIV型のヒステリシスループにより、凝集体がメソ細孔構造を有するものであることを確認できる。
【0032】
さらに、このような凝集体に形成されている細孔は、一次粒子が凝集されて形成される2次細孔である。このように細孔が2次細孔として形成されているため、かかる凝集体においては、細孔径、比表面積及び細孔容積が十分に増大され、反応分子を細孔内に拡散させる際に拡散抵抗が非常に小さくなり、反応分子が速やかに細孔内部に拡散する。そのため、細孔内部で、より多くの反応分子の吸着及び分解反応を引き起こすことが可能であり、空気浄化材料として利用した場合に十分に高度な性能が得られる。更に、本発明の酸化鉄多孔体は一次粒子が凝集された凝集体の構造をとるため、細孔構造が3次元細孔構造となり、より多くの細孔が形成されるとともに比表面積が増大されて、空気浄化材料として利用した際に浄化活性がより高度なものとなる。
【0033】
このような凝集体に形成されている細孔は、前記細孔径分布曲線における中心細孔直径の±40%(より好ましくは±30%)の範囲に全細孔容積の60%(より好ましくは75%)以上が含まれるという条件を満たすものであることが好ましい。このような条件を満たす場合、その凝集体は細孔の直径が非常に均一な凝集体であるといえる。そして、このように均一な細孔を有する凝集体においては、吸着の活性サイト(不飽和配位サイト)がより多く存在することとなる。なお、本発明の酸化鉄多孔体が、後述する本発明の酸化鉄多孔体の製造方法を利用して得られたものである場合には、細孔がテンプレートとしての界面活性剤に由来して形成されるため、上述のような条件を満たすものとなる。
【0034】
また、このような凝集体の細孔容積としては、0.25〜0.45cm3/gであることが好ましく、0.25〜0.41cm3/gであることがより好ましく、0.3〜0.41cm3/gであることが更に好ましい。このような凝集体の細孔容量が前記下限未満になると、細孔内へ反応基質を十分な速度で拡散させることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、反応基質の吸着性能が低下し、反応効率が低下する傾向にある。このような凝集体の細孔容積としては、凝集体を液体窒素温度(−196℃)に冷却して窒素ガスを導入し、定容量法あるいは重量法によりその飽和吸着量を求めて、その飽和吸着量から容積換算することにより求められる値を採用する。
【0035】
また、このような凝集体の比表面積としては、140〜350cm2/gであることが好ましく、150〜325m2/gであることがより好ましい。このような比表面積が前記下限未満では、酸化鉄多孔体中の不飽和サイトの量が十分なものとならず、空気浄化材料として利用した場合に十分な浄化性能が得られなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えるとメソ細孔構造だけでなくマイクロ細孔も形成される傾向にある。このような凝集体の比表面積は、前記吸着等温線からBET等温吸着式を用いてBET比表面積として算出する。
【0036】
また、このような凝集体(二次粒子)の粒子径は、600nm以下であることが好ましい。このような凝集体(二次粒子)の粒子径が前記上限を超えると、粒子表面から粒子内部へのガスの拡散が遅くなり、空気浄化性能が低下してしまう傾向にある。なお、このような凝集体(二次粒子)の粒子径は、透過型電子顕微鏡により測定することができる。
【0037】
さらに、このような凝集体においては、X線回折(XRD)パターンにおいて2θが0.5°〜3°の間に1本のピークが認められる。
【0038】
さらに、このような凝集体を形成する前記酸化鉄は、X線回折パターンにおいて結晶の(110)面に由来するピーク(d値が2.6オングストロームの位置におけるピーク)と、結晶の(300)面に由来するピーク(d値が2.6オングストロームの位置におけるピーク)の2本のピークを有する2ラインフェリハイドライト相の存在が確認されるものである。すなわち、「結晶の(110)面に由来するピーク」はX線回折パターンにおける2θが35.1°の位置のピークをいい、「結晶の(300)面に由来するピーク」はX線回折パターンにおける2θが60.4°の位置のピークをいい、このようなX線回折パターンにおける結晶の(110)面に由来するピークと結晶の(300)面に由来するピークとの2本のピークにより、酸化鉄中に2ラインフェリハイドライト相の存在することが確認できる。なお、このような酸化鉄中の2ラインフェリハイドライト相の存在を確認する際のX線回折測定の方法としては、測定装置として理学電機社製の商品名「RINT2100」を用いて、走査範囲10°〜80°、スキャンステップ0.01°、発散及び散乱スリット1/2deg、受光スリット0.15mm、CuKα線、40kV、30mA、スキャン速度2θ=4°/minの条件で測定する方法を採用する。また、ここにいう「ピーク」とは、ベースラインからピークトップまでの高さが100cps以上のものをいう。
【0039】
また、このような凝集体においては、酸化鉄の全結晶相に対する2ラインフェリハイドライト相の含有比率が40質量%以上である。このような2ラインフェリハイドライト相の含有比率が40質量%未満では、一次粒子の粒子径が8nmより大きくなってしまい(15nm以上となる傾向にある。)、2ラインフェリハイドライト相に由来する活性サイト(不飽和配位サイト)の量が十分なものとならず、空気浄化材料として利用した場合に、十分な浄化性能が得られなくなる。また、このような2ラインフェリハイドライト相の含有比率としては、40〜100質量%であることがより好ましく、80〜100質量%であることがより好ましい。なお、前記上限を超える酸化鉄は、その製造が困難である傾向にある。また、本発明において「酸化鉄の全結晶相に対する2ラインフェリハイドライト相の含有比率」は、以下のようにして求める。すなわち、先ず、測定装置としてBruker社製の商品名「D8 Advance」を用い、走査範囲15°〜145°、スキャンステップ0.05°/ステップ、発散スリット0.3°、CoKα線、CoKβ線除去用のFeフィルタを使用、40kV、35mA、スキャンスピード3°/minの条件で、CoKαのX線回折パターンを測定する。次に、Rietan−2000のソフトを用いて、前記CoKαのX線回折パターンにおける各ピークの結晶相を同定し、そのピーク面積をそれぞれ求めた後、各結晶相のピーク面積の総和(全面積)に対する2ラインフェリハイドライト相のピーク面積の比率を算出する。そして、このようにして算出される2ラインフェリハイドライト相のピーク面積の比率の値を、そのまま2ラインフェリハイドライト相の含有比率として採用する。なお、ここにいうCoKαのX線回折パターンの「ピーク」とは、ベースラインからピークトップまでの高さが100cps以上のものをいう。
【0040】
また、本発明の酸化鉄多孔体は、ケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛及びチタンの酸化物からなる不純物の総量(含有量の合計)が0.1質量%以下である。このような不純物の総量が前記上限を超えると、空気浄化材料に使用した場合に十分な性能を得ることができないばかりか、フェリハイドライト相の耐熱性が低下する。なお、このような不純物としての上記元素の酸化物としては、例えば、二酸化ケイ素等が挙げられる。更に、このような不純物の含有量の測定方法としては、高周波プラズマ発光分光分析装置(ICPS)により元素分析する方法を採用することができる。
【0041】
また、本発明の酸化鉄多孔体においては、TG/DTA(示差熱熱重量同時測定装置:リガク社製の商品名「Thermo plus TG8120」)を利用し、約13mgの試料を用いて、試料を100℃から300℃まで加熱して試料の重量変化を測定し、前記加熱前後の重量変化率を算出することにより得られる含水量が5質量%以下であることが好ましい。このような含水量の凝集体(酸化鉄多孔体)により、より高度な空気浄化活性が得られる傾向にある。なお、このような含水量の酸化鉄多孔体は、後述のような焼成工程を実施する本発明の酸化鉄多孔体の製造方法を利用することにより、容易に製造することができる。
【0042】
また、本発明の酸化鉄多孔体においては、遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)を更に含有することが好ましい。このように、遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)を含有することにより、調製時における焼成工程において、フェリハイドライト粒子の凝集と粒子サイズの肥大化を防ぎ、フェリハイドライト単独の場合と比べて比表面積を増大させることが可能となるため、空気浄化材料として利用した場合に、より高度な浄化性能が得られる傾向にある。なお、このように、酸化鉄多孔体中に遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)が含有される場合において、その遷移金属の形態は特に制限されず、例えば、前記遷移金属の原子が酸化鉄の一次粒子中の鉄原子と同形置換することにより酸化鉄の一次粒子の骨格を形成するようにして酸化鉄多孔体に含有されていてもよく、あるいは、酸化鉄の一次粒子の表面に前記遷移金属の酸化物として分散されることにより酸化鉄多孔体に含有されていてもよい。
【0043】
また、このような遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)としては、空気浄化性能向上の観点から、マンガン、セリウム、銀、ジルコニウム、イットリウム、ガリウムが好ましく、マンガン、セリウムがより好ましく、マンガンが特に好ましい。なお、このような遷移金属は、酸化鉄多孔体に1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて含有させてもよい。
【0044】
このように、本発明の酸化鉄多孔体に遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)を更に含有する場合、酸化鉄多孔体中の前記遷移金属の含有量は、鉄の全量に対するモル比([遷移金属]/[鉄])で0.01〜2であることが好ましく、0.2〜1であることがより好ましい。このような鉄と前記遷移金属とのモル比が前記下限未満では、前記遷移金属を含有していない酸化鉄多孔体の空気浄化性能と比較して、得られる酸化鉄多孔体の空気浄化性能の十分な向上が見込めなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えても空気浄化性能の更なる向上はなく、資源利用並びに製造コスト面でマイナスとなる傾向にある。なお、このような遷移金属の含有量の測定方法としては、高周波プラズマ発光分光分析装置(ICPS)により元素分析する方法を採用することができる。
【0045】
このような本発明の酸化鉄多孔体は、吸着物質や反応基質を細孔内に速やかに拡散することができ、吸収材、触媒、触媒担体等として好適に利用でき、特に、空気中の揮発性有機化合物(VOC)等の有害物質を除去するような空気浄化材料に好適に利用することができる。
【0046】
次に、本発明の酸化鉄多孔体を製造する方法として好適に採用することが可能な、本発明の酸化鉄多孔体の製造方法について説明する。
【0047】
本発明の酸化鉄多孔体の製造方法は、アルコール中に、親水性基としてのエトキシ基の個数が2〜200であり且つ疎水性基としてのアルキル基の炭素数が6〜20であるポリオキシエチレンアルキルエーテルからなる界面活性剤と、鉄塩とを添加して反応液を得る工程(第1工程)と、
前記反応液中に塩基を添加して前記反応液のpHを4.5〜13に調整することにより、前記反応液中において前記界面活性剤の周囲に水酸化鉄を析出させて、前記界面活性剤と前記水酸化鉄との複合体を得る工程(第2工程)と、
前記複合体を含有する前記反応液を密閉容器内に導入して20〜125℃の温度条件で加熱熟成する工程(第3工程)と、
前記加熱熟成後の前記反応液から前記複合体を取り出した後、前記複合体を極性溶媒により洗浄して前記複合体から界面活性剤を除去することにより、水酸化鉄の一次粒子の凝集した水酸化鉄多孔体を得る工程(第4工程)と、
前記水酸化鉄多孔体を乾燥させた後に200〜450℃の温度条件で焼成することにより、上記本発明の酸化鉄多孔体を得る工程(第5工程)と、
を含むことを特徴とする方法である。以下、第1〜第5工程を分けて説明する。
【0048】
(第1工程)
第1工程は、アルコール中に、親水性基としてのエトキシ基の個数が2〜200であり且つ疎水性基としてのアルキル基の炭素数が6〜20であるポリオキシエチレンアルキルエーテルからなる界面活性剤と、鉄塩とを添加して反応液を得る工程である。
【0049】
このようなアルコールは、前記反応液において溶媒として用いられるものである。本発明においては、反応液中の溶媒にアルコールを用いることにより、後述の第2工程において水酸化鉄を析出させる際に、界面活性剤と水酸化鉄が水素結合により複合化されることを阻害することがなく、界面活性剤と水酸化鉄との複合体をより効率よく製造することを可能とする。このようなアルコールとしては、前記複合体をより効率よく製造することが可能となるという観点から、炭素数が2〜6(より好ましくは2〜4)のアルキルアルコール、3〜6(より好ましくは3〜4)のアルケンアルコールが好ましく、中でも、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、アリルアルコール、2−プロパノール、ブタノールが特に好ましい。このようなアルコールは1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
また、前記界面活性剤は、親水性基としてのエトキシ基の個数が2〜200であり且つ疎水性基としてのアルキル基の炭素数が6〜20であるポリオキシエチレンアルキルエーテルである。このようなポリオキシエチレンアルキルエーテルに含まれるエトキシ基の個数が前記下限未満では、メソ細孔構造が得られなくなり、他方、前記上限を超えると、2ラインフェリハイドライト相を有する酸化鉄が得られなくなる。また、このようなポリオキシエチレンアルキルエーテルに含まれるエトキシ基の個数としては、同様の観点から、2〜100個であることがより好ましい。また、ポリオキシエチレンアルキルエーテルに含まれるアルキル基の炭素数が前記下限未満では、メソ細孔構造が得られなくなり、他方、前記上限を超えると、2ラインフェリハイドライト相を有する酸化鉄が得られなくなる。このようなアルキル基の炭素数としては、同様の観点から、12〜18であることがより好ましい。
【0051】
このような界面活性剤としては、エトキシ基の個数が2〜200であり且つアルキル基の炭素数が6〜20であるポリオキシエチレンアルキルエーテルであればよく、特に制限されず、市販の界面活性剤を用いてもよい。このような界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル(Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 58」:エトキシ基の数が20であり且つアルキル基の中の炭素原子の数は16である。)、ポリオキシエチレン(4)ラウリルエーテル(Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 30」)、ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル(Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 35」)、ポリオキシエチレン(2)セチルエーテル(Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 52」)、ポリオキシエチレン(10)セチルエーテル(Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 56」)、ポリオキシエチレン(2)ステアリルエーテル(Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 72」)、ポリオキシエチレン(10)ステアリルエーテル(Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 76」)、ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテル(Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 78」)、ポリオキシエチレン(2)オレイルエーテル(Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 92」)、ポリオキシエチレン(10)オレイルエーテル(Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 97」、ポリオキシエチレン(20)オレイルエーテル(Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 98」)、ポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテル(Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 700」)等が挙げられる。
【0052】
また、前記鉄塩としては、三価の鉄の塩が用いられる。このような鉄塩の種類としては、硝酸鉄(Fe(NO3)3)、ハロゲン化鉄(例えば、臭化鉄(FeBr3)、塩化鉄(FeCl3))及び有機鉄(例えば、酢酸鉄(III)、シュウ酸鉄(III)、鉄(III)アルコキシド(鉄エトキシド、鉄イソプロポキシド、鉄ブトキシド等))等が挙げられる。このような鉄塩の中でもより均一な細孔を有する凝集体を形成することが可能となるという観点から、塩化鉄(FeCl3)及び硝酸鉄(Fe(NO3)3)が好ましく、硝酸鉄(Fe(NO3)3)が特に好ましい。なお、鉄塩の種類を適宜変更することで、最終的に得られる酸化物中の2ラインフェリハイドライト相の含有比率を変更することが可能である。例えば、用いるアルコールや界面活性剤の種類や量等によっても異なるものではあるが、鉄塩としてFeCl3・9H2Oを用いた場合には、2ラインフェリハイドライト相とともにα−Fe2O3及びγ−Fe2O3を含む酸化鉄が得られる傾向にあり、鉄塩としてFe(NO3)3を用いた場合には、ほぼ100質量%の2ラインフェリハイドライト相からなる酸化鉄が得られる傾向にある。
【0053】
また、前記反応液は、前記アルコール中に前記界面活性剤及び前記鉄塩を添加することにより得られるものである。このような反応液を調製する方法としては特に制限されず、例えば、アルコール中に前記界面活性剤を添加し、撹拌して混合液を得た後に、その混合液中に鉄塩を添加し、撹拌することにより反応液を得る方法を採用してもよく、全ての成分を同時に混合して撹拌することにより反応液を得る方法を採用してもよい。なお、反応液の調製の際には、前記アルコール中に前記界面活性剤及び前記鉄塩がより均一に混合(分散)されるように、アルコール中に各成分を導入した後に十分に撹拌することが好ましい。また、このようにして反応液を調製する際の温度条件としては特に制限されず、20〜40℃とすることが好ましく、室温程度であることがより好ましい。
【0054】
さらに、前記反応液に添加する前記界面活性剤の量としては、前記アルコールの総量に対して0.02〜50質量%とすることが好ましく、1〜50質量%とすることがより好ましく、5〜45質量%とすることが特に好ましい。このような界面活性剤の含有量が前記下限未満では、界面活性剤が鉄塩中に十分に導入されず、細孔の形成が不完全となり、更には、不均一な細孔構造となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、界面活性剤が完全に溶解しない傾向にある。
【0055】
また、前記反応液に添加する鉄塩の量としては、前記界面活性剤に対するモル比([鉄塩]/[界面活性剤])が0.3〜60となる量であることが好ましく、1〜55となる量であることがより好ましい。このような鉄塩の添加量が前記下限未満では鉄塩に対する界面活性剤の量が過度に多くなり、未反応の界面活性剤の量が増大することから、一部にミクロポアが形成されて均一なメソ細孔を有する酸化鉄多孔体が得られなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、鉄塩に対する界面活性剤の量が過度に少なくなり、界面活性剤が鉄塩中に十分に導入されず、粒子が不均一となる傾向にある。
【0056】
また、前記反応液中のアルコールの量としては、前記反応液中の鉄塩0.01〜0.06モルに対して50〜300mlとなるようにすることが好ましい。このようなアルコールの量が前記下限未満では、鉄塩と界面活性剤とが十分に分散せず、2ラインフェリハイドライトではなくゲーサイト(geothite:針鉄鉱)が形成されてしまう傾向にあり、他方、前記上限を超えると、界面活性剤が鉄塩中に十分に導入されず、細孔が不均一となる傾向にある。
【0057】
また、前記反応液には遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩を更に添加してもよい。すなわち、本発明においては、前記アルコール中に前記界面活性剤及び前記鉄塩とともに遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩を更に添加してもよい。このように遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩を含有させた場合には、得られる酸化鉄多孔体中に前記遷移金属を含有させることが可能となる。
【0058】
このような遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩としては特に制限されないが、前記遷移金属の硝酸塩(硝酸マンガン、硝酸セリウム等)やハロゲン化物、有機塩(例えば、酢酸塩、シュウ酸塩、アルコキシド)等が挙げられる。また、このような遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)としては、空気浄化性能向上の観点から、マンガン、セリウム、銀、ジルコニウム、イットリウム、ガリウムが好ましく、マンガン、セリウムがより好ましく、マンガンが特に好ましい。なお、このような遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩は、酸化鉄多孔体に1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて含有させてもよい。
【0059】
また、このように反応液中に遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩を含有させる場合においても反応液を調製する方法は特に制限されず、例えば、アルコール中に前記界面活性剤を添加し、撹拌して混合液を得た後に、その混合液中に鉄塩を添加し、更に、遷移金属の塩を添加して撹拌することにより反応液を得る方法を採用してもよく、全ての成分を同時に混合して撹拌することにより反応液を得る方法を採用してもよい。また、このように反応液中に遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩を含有させる場合においても、前記反応液に添加する前記界面活性剤の量は、前記アルコールの総量に対して0.02〜50質量%とすることが好ましく、1〜50質量%とすることがより好ましく、5〜45質量%とすることが特に好ましい。
【0060】
また、前記反応液中に遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩を含有させる場合、前記反応液に添加する前記鉄塩と前記遷移金属の塩の総量は、前記界面活性剤に対するモル比(([鉄塩]+[遷移金属の塩])/[界面活性剤])が0.3〜60となる量であることが好ましく、1〜55となる量であることがより好ましい。このような鉄塩と前記遷移金属の塩との総量が前記下限未満では、前記鉄塩と前記遷移金属の塩の総量に対する前記界面活性剤の量が過度に多くなり、未反応の界面活性剤の量が増大することから、一部にミクロポアが形成されて均一なメソ細孔を有する酸化鉄多孔体が得られなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、前記鉄塩と前記遷移金属の塩の総量に対する前記界面活性剤の量が過度に少なくなり、界面活性剤が鉄塩中に十分に導入されず、粒子が不均一となる傾向にある。
【0061】
また、反応液中に遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩を含有させる場合においては、前記遷移金属の塩の量は、反応液中の前記鉄塩に対するモル比([遷移金属の塩]/[鉄塩])が0.01〜2となる量であることが好ましく、0.2〜1となる量であることがより好ましい。このような遷移金属の塩の添加量が前記下限未満では、前記遷移金属を含有していない酸化鉄多孔体の空気浄化性能と比較して、得られる酸化鉄多孔体の空気浄化性能の十分な向上が見込めなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えても得られる酸化鉄多孔体の空気浄化性能の更なる向上はなく、資源利用並びに製造コスト面でマイナスとなる傾向にある。
【0062】
また、反応液中に遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩を含有させる場合においては、前記反応液中のアルコールの量としては、前記反応液中の前記鉄塩及び前記遷移金属の塩の総モル数0.01〜0.06モルに対して、50〜300mlとなるようにすることが好ましい。このようなアルコールの量が前記下限未満では、前記鉄塩と、前記遷移金属の塩と、前記界面活性剤とが十分に分散せず、2ラインフェリハイドライトではなくゲーサイト(geothite:針鉄鉱)が形成されてしまう傾向にあり、他方、前記上限を超えると、界面活性剤が鉄塩中に十分に導入されず、細孔が不均一となる傾向にある。
【0063】
(第2工程)
第2工程は、前記反応液中に塩基を添加して前記反応液のpHを4.5〜13に調整することにより、前記反応液中において前記界面活性剤の周囲に水酸化鉄を析出させて、前記界面活性剤と前記水酸化鉄との複合体を得る工程である。
【0064】
このような塩基としては、前記反応液のpHを4.5〜13に調整することが可能なものであればよく、特に制限されないが、pHをより効率よく10以上とすることが可能であることから、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、アルキル炭酸塩、アルキル炭酸水素塩、アルキルアミン、アルコキシド、水酸化テトラアルキルアンモニウムが好ましく、中でも、洗浄工程や焼成工程において未反応物やその塩基に由来する副生成物(例えばNH4NO3)の除去を容易に行うことが可能であるという観点から、金属を含まない塩基を用いることがより好ましく、アンモニアを用いることが更に好ましい。また、このような塩基は水溶液として用いてもよい。なお、このような塩基は1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、このような塩基を反応液中に添加する方法は特に制限されず、例えば、前記塩基の水溶液を前記反応液中に滴下することにより添加する方法を採用してもよい。なお、このようにして水溶液を用いる場合には、水により複合体の形成が阻害されることを十分に防止するため、水の含有量をより少量とすることが好ましく、水溶液中の水の量が20質量%未満となるようにすることがより好ましい。
【0065】
また、このようにして用いる塩基の量は、塩基に由来して形成される副生成物(例えば、NaNO3、NH4NO3)の量をより減少させるという観点から、塩基の使用量自体もより少量とすることが好ましく、鉄塩に由来する陰イオンに対して塩基に由来する陽イオンが1〜1.2当量となる量とすることがより好ましい。
【0066】
また、第2工程においては、前記塩基を添加することにより前記反応液のpHを4.5〜13に調整する。このように反応液のpHを調整することにより水酸化鉄を析出させることが可能となる。このようなpHの値が4.5未満では水酸化鉄を十分に沈殿させることが困難であり、他方、前記上限を超えると、2ラインフェリハイドライトではなくゲーサイト(geothite:針鉄鉱)が一部に形成されてしまうとなる傾向にある。また、このようにして調整する前記反応液のpHの値としては、より効率よく水酸化鉄を析出させるという観点から、5〜13とすることがより好ましい。また、後述の焼成工程において、より高温での焼成(より好ましくは300℃以上の焼成)が可能となるという観点からは、前記反応液のpHの値を7.5〜10.5に調整することがより好ましい。このようにして塩基を添加するときの反応液の温度としては、10〜80℃とすることが好ましく、20〜40℃とすることがより好ましく、室温程度が特に好ましい。
【0067】
また、第二工程においては、前記反応液中において前記界面活性剤の周囲に水酸化鉄を析出させて、前記界面活性剤と前記水酸化鉄との複合体を得る。なお、このような複合体は以下のようにして形成されるものと推察される。すなわち、第二工程において、反応液中で水酸化鉄を析出させると、その水酸化鉄と、周囲に存在する界面活性剤の親水基との間に相互作用が働いて水素結合が形成され、水素結合により界面活性剤の周囲に水酸化鉄が結合する複合体が形成される。ここで、水と比較して極性の少ないアルコールからなる溶媒中において水酸化鉄を析出沈殿させることにより、その水酸化鉄の種類が主にオキシ水酸化鉄(Fe5HO84H2Oを含む)となり、平均粒子径が2〜8nmのオキシ水酸化鉄の一次粒子が形成されるものと推察される。そして、水酸化鉄の析出を進行させると、水酸化鉄(オキシ水酸化鉄)の一次粒子が水素結合相互作用によって界面活性剤の周囲を覆うようにして凝集(集合)し、水酸化鉄が水素結合相互作用によって安定化されて凝集した複合体が得られるものと推察される。
【0068】
なお、前記反応液が遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩を含有するものである場合においては、このような複合体は前記遷移金属を含有するものとなる。なお、このようにして複合体中に含有される前記遷移金属の形態は特に制限されず、例えば、前記遷移金属の原子が水酸化鉄の一次粒子中の鉄原子と同形置換することにより水酸化鉄の一次粒子の骨格を形成するようにして前記複合体中に含有されていてもよく、あるいは、水酸化鉄の一次粒子の表面に前記遷移金属の水酸化物として分散されることにより複合体中に含有されていてもよい。
【0069】
(第3工程)
前記複合体を含有する前記反応液を密閉容器内に導入して20〜125℃の温度条件で加熱熟成する。
【0070】
このように、第二工程により複合体を形成せしめた後においては、その複合体を含有する反応液は密閉容器内において加熱される。このようにして前記複合体を含有する反応液を密閉容器内で加熱熟成することにより、十分に水酸化鉄を析出させることが可能となり、水酸化鉄(オキシ水酸化鉄)の一次粒子がより均一に且つより緻密に集合した複合体(前記反応液が遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩を含有するものである場合においては前記遷移金属を含んだものとなる。)が形成され、最終的な目的物である2ラインフェリハイドライト相を有する酸化鉄多孔体の収率を向上させることが可能となる。
【0071】
このような密閉容器内における反応液の加熱熟成の際の加熱温度は20〜125℃である。このような加熱温度が前記下限未満ではエージングが起こり難くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、混合液中のミセル構造がこわれてしまい、2ラインフェリハイドライト相ではなく、他の結晶相(例えば、ヘマタイト、6ラインフェリハイドライト)が形成される傾向にある。このような加熱温度としては、同様の観点からより高い効果が得られることから35〜120℃であることが好ましく、40〜110℃であることがより好ましい。
【0072】
また、このような密閉容器内における加熱熟成の際の加熱熟成時間としては、1時間以上であることが好ましく、1時間以上6日間以下であることがより好ましい。このような加熱時間が前記下限未満では、エージング(熟成)が不十分となり、2ラインフェリハイドライトの微粒子と界面活性剤(テンプレート)とにより形成されるミセル構造(凝集体の構造)が不安定となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると2ラインフェリハイドライトが6ラインフェリハイドライトやゲーサイト(geothite)に一部に変化してしまう傾向にある。なお、このような反応液を密閉容器内に導入する際の密閉容器内のガス雰囲気としては、エージングを進行させる上で酸素が必要であるという観点から大気とすることが好ましい。また、このような密閉容器内での加熱の際の圧力条件としては特に制限されないが、溶媒の飛散防止や、形成されたミセル構造を保つといった観点から、密閉容器内での自然加圧下で行われることが好ましい。
【0073】
(第4工程)
第4工程は、前記加熱熟成後の前記反応液から前記複合体を取り出した後、前記複合体を極性溶媒により洗浄して前記複合体から界面活性剤を除去することにより、水酸化鉄の一次粒子の凝集した水酸化鉄多孔体を得る工程である。
【0074】
このようにして加熱後の前記反応液から前記複合体を取り出す方法は特に制限されず、公知のろ過の方法を採用することができる。そして、第4工程においては、このようにして反応液中から取り出した前記複合体を極性溶媒により洗浄して前記複合体から界面活性剤を除去する。このような極性溶媒としては特に制限されず、水、ジメチルスルホキシド、スルホラン、N−メチルピロリドン等が挙げられ、中でも、十分に界面活性剤を除去することが可能であり且つ安価であるという観点から、水が特に好ましい。
【0075】
なお、このような極性溶媒による洗浄により、以下のようにして前記複合体から界面活性剤が除去される。すなわち、複合体中に含まれる水酸化鉄中のオキシ水酸化物種(FeO−を含む。)は、前記界面活性剤の親水性基(C2H5O)の先頭グループ(C2H5OH)と比較的弱い水素結合を形成している。そのため、洗浄工程において極性溶媒を使用することにより、極性溶媒の強い水素結合能により、鉄のオキシ水酸化物種(FeO−)とテンプレートの親水性先頭(ROH)のグループの間の比較的弱い水素結合相互作用を簡単に壊すことができ、これにより前記複合体から界面活性剤を容易に除去することができる。また、このような洗浄工程において、副生成物として生成された他の塩類(例えば、NaNO3、NH4NO3等)も併せて除去することも可能である。なお、NH4NO3等は後述の焼成工程においても除去することが可能であるが、金属を含むNaNO3等は焼成により除去することは困難であるため、塩基として金属を含むものを使用した場合には、多量の極性溶媒を用いて十分に洗浄を行うことが好ましい。
【0076】
また、このような洗浄工程は、洗浄後に得られる水酸化鉄の一次粒子の凝集した水酸化鉄多孔体において、前記水酸化鉄多孔体の総量に対して界面活性剤の含有量が20質量%未満になるように洗浄することが好ましい。このような界面活性剤の含有量が前記上限を超えると、その後の工程で望ましい材料が得られ難く、最終工程の焼成後にγ−Fe2O3が形成されてしまう傾向にある。また、このような洗浄状態を達成するために、用いる極性溶媒の種類やその使用量等は適宜変更すればよい。
【0077】
なお、このような洗浄工程により得られる多孔体においては、前記界面活性剤が導入されていた位置に細孔が形成されており、その細孔の形状(細孔径や細孔容量等)が界面活性剤の形状に由来したものとなるため、非常に均一な細孔を有するものとなる。また、前記第2工程において用いる反応液が遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩を含有するものである場合においては、得られる水酸化鉄多孔体は前記遷移金属を含有するものとなる。
【0078】
また、このようにして得られた水酸化鉄多孔体を、第5工程を実施する前に、細孔内に残存している界面活性剤に由来する炭素成分等の有機化合物系不純物を除去するという観点から、アルコール中に再度含有させて撹拌することが好ましい。また、このような撹拌の際の時間としては6〜24時間であることが好ましい。このような撹拌時間が前記下限未満では炭素成分等の有機化合物系不純物の除去が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えても炭素成分等の有機化合物系不純物の除去効果は変わらない傾向にある。また、このようなアルコールは、前記反応液の溶媒に利用したアルコールと同様のものを使用できる。
【0079】
なお、このようにして得られる水酸化鉄多孔体は、X線回折パターンにおいて結晶の(110)面に由来するピーク(d値が2.6オングストロームの位置におけるピーク)と、結晶の(300)面に由来するピーク(d値が2.6オングストロームの位置におけるピーク)の2本のピークが確認される水酸化鉄(式:Fe5HO84H2Oで表されるオキシ水酸化鉄)を含有するものとなる。また、このようなX線回折パターンは、上述の酸化鉄中の2ラインフェリハイドライト相の存在を確認する際のX線回折測定の方法と同様の方法を採用して測定できる。
【0080】
(第5工程)
第5工程は、前記水酸化鉄多孔体を乾燥させた後に200〜450℃の温度条件で焼成することにより、上記本発明の酸化鉄多孔体を得る工程である。
【0081】
このような水酸化鉄多孔体を乾燥させる方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、常温で放置する方法、熱風を吹き付けて乾燥させる方法等適宜採用することができる。
【0082】
また、前記水酸化鉄多孔体を焼成する際の焼成温度条件は200℃〜450℃である。このような焼成温度が前記下限未満では、界面活性剤に由来する炭素成分等の有機化合物系不純物を十分に除去することができなくなり、他方、前記上限を超えると、得られる酸化鉄中の2ラインフェリハイドライト相の含有比率が40質量%未満のものとなってしまう。また、同様の観点から、前記焼成温度としては、250℃〜450℃とすることがより好ましく、300〜400℃とすることが特に好ましい。
【0083】
また、このような焼成工程における焼成時間としては1〜6時間とすることが好ましく、2〜3時間とすることがより好ましい。このような焼成時間が前記下限未満では、界面活性剤に由来する炭素成分等の有機化合物系不純物を十分に除去することができなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、メソ細孔構造の2ラインフェリハイドライトの一部からα−Fe2O3が形成されたり、得られる粒子の粒子径が大きくなる傾向にある。
【0084】
なお、このような焼成工程を、例えば、上記非特許文献2に記載のような従来の2ラインフェリハイドライト相を有する酸化鉄多孔体の製造方法において実施した場合には、得られる酸化鉄における2ラインフェリハイドライト相の含有量を40質量%以上とすることができない。これに対して、本発明においては、焼成に用いる前記水酸化鉄多孔体が、微細な水酸化鉄の一次粒子が凝集した構造を有するものであることから、上述のような焼成工程を施した後においても、得られる酸化鉄における2ラインフェリハイドライト相の含有量を40質量%以上とすることが可能となっている。
【0085】
このようにして第1工程〜第5工程を実施することにより、酸化鉄の一次粒子が凝集した凝集体からなり、前記一次粒子の平均粒子径が2〜8nmであり、前記凝集体の細孔の中心細孔直径が2〜10nmであり、前記酸化鉄が前記2ラインフェリハイドライト相を有しており、前記酸化鉄の全結晶相に対する前記2ラインフェリハイドライト相の含有比率が40質量%以上であり且つケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛及びチタンの酸化物からなる不純物の総量が0.1質量%以下である上記本発明の酸化鉄多孔体を得ることができる。なお、このような本発明の酸化鉄多孔体の製造方法を利用した場合には、上記本発明の酸化鉄多孔体として好適なものとして説明したもの(例えば上述のような数値範囲の細孔容積や比表面積を有するもの、前記反応液が遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩を含有するものである場合においては前記遷移金属を含有するもの)を得ることが可能であり、例えば、細孔が上記界面活性剤に由来して形成されるものであるため、得られる多孔体の中心細孔直径を2〜10nmとすることが可能なばかりか、得られる多孔体を、窒素吸着・脱着等温線において相対圧力(P/P0)が0.4〜1の間でIUPACで規定されているIV型のヒステリシスループが確認されるものとすることも可能である。また、このような本発明の酸化鉄多孔体の製造方法を利用した場合には、酸化鉄多孔体が焼成工程を経て得られていることから、得られる酸化鉄多孔体の含水量を極めて低くすることができ、上述のようなTG−DTA分析を行った場合に、含水量が5質量%以下となるような酸化鉄多孔体を得ることも可能である。なお、このようにして得られた酸化鉄多孔体の形状は特に制限されないが、例えば、粉砕等して粉末状にしてもよいし、各種形状(例えばペレット状)に成型してもよい。また、焼成前の段階において(第4工程において得られた水酸化鉄多孔体の状態において)、予め粉砕等して粉末状にしておいてもよい。
【0086】
以上、本発明の酸化鉄多孔体及び本発明の酸化鉄多孔体の製造方法について説明したが、以下、空気浄化材料について説明する。
【0087】
本発明の空気浄化材料は、上記本発明の酸化鉄多孔体を備えることを特徴とするものである。このような空気浄化材料は、上記本発明の酸化鉄多孔体を備えており、その酸化鉄多孔体の細孔内に吸着物質や反応基質を速やかに拡散することができるため、空気中の揮発性有機化合物(VOC)等の有害物質を速やかに除去することやCOを速やかに酸化することが可能である。
【0088】
このような本発明の空気浄化材料においては、上記本発明の酸化鉄多孔体そのものが空気浄化材料を構成していてもよく、或いは、上記本発明の酸化鉄多孔体を他の基材に担持せしめて、本発明の空気浄化材料として構成させてもよい。また、本発明の空気浄化材料においては、上記本発明の酸化鉄多孔体に貴金属等の触媒微粒子を担持せしめたものを用いてもよい。また、このような本発明の空気浄化材料の形状は、特に限定されず、例えばペレット状に成型してもよく、ハニカム状や波板状の基材等に担持してもよい。
【実施例】
【0089】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0090】
(実施例1)
先ず、300mlの1−プロパノール中に34.04gのポリオキシエチレン(20)セチルエーテル(界面活性剤:Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 58」)を添加し、混合して、1−プロパノール中に12.42質量%の界面活性剤が含有された混合液を得た。次に、前記混合液中にFe(NO3)3・9H2Oを添加し、2時間撹拌して、反応液を得た。なお、前記混合液中へのFe(NO3)3・9H2Oの添加量は、得られる反応液中でのFe(NO3)3・9H2Oと界面活性剤とのモル比([Fe(NO3)3・9H2O]:[界面活性剤])が0.06:0.03となるようにした。次いで、前記反応液を撹拌しながら、28質量%のアンモニア水溶液を前記反応液に対して滴下し、前記反応液のpHを7.5に調整し、更に3時間攪拌して、反応液中に沈殿物を析出せしめた。次いで、前記沈殿物の析出した反応液を容量が1Lの密閉型の容器に投入した後、その容器をオーブン内に導入して、前記容器内での自然加圧条件下、50℃の温度条件で3日間加熱熟成した。次に、前記加熱熟成後の前記反応液の中から沈殿物を濾過して取り出した後、その沈殿物を2.5Lの蒸留水で洗浄し、乾燥させた。このようにして乾燥させた沈殿物をめのう乳鉢中で粉砕して、粉末を得た。その後、前記粉末3gを100mlのエタノール中に添加し、24時間攪拌した。次に、前記エタノール中から前記粉末をろ過により取り出し、乾燥させた後、300℃の温度条件で3時間焼成して、酸化鉄多孔体を得た。なお、このような酸化鉄多孔体においては、その製造方法からケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛及びチタンの酸化物からなる不純物の総量が0質量%であることは明らかである。
【0091】
<XRD測定>
実施例1で得られた酸化鉄多孔体のX線回折パターンを、X線回折装置((株)リガク製、型番「RINT2100」)を用い、走査範囲0.5°〜5°の低角域においてはスキャン速度毎分1°、スキャンステップ0.01°、発散及び散乱スリット1/6deg、受光スリット0.15mm、CuKα線、40kV、30mAの条件で測定し、走査範囲10°〜80°の広角域においてはスキャン速度毎分4°、スキャンステップ0.01°、発散及び散乱スリット1/2deg、受光スリット0.15mm、CuKα線、40kV、30mAの条件で測定した。また、実施例1で得られた焼成前の粉末についても同様にして広角域のX線回折パターンを測定した。実施例1で得られた酸化鉄多孔体の低角域のX線回折パターンを図1に示し、実施例1で得られた酸化鉄多孔体及び焼成前の粉末の広角域のX線回折パターンを図2に示す。
【0092】
図1に示す低角のXRDパターンからも明らかなように、2θが0.5°〜3°の範囲にピークが見られ、メソ細孔構造を有することが確認された。また、図2に示すXRD測定データに基いて2θが33.1°付近の位置におけるピークからシェラーの式により酸化鉄の一次粒子の平均粒子径を求めたところ、一次粒子の平均粒子径は2.0nmであることが確認された。更に、図2に示す結果から、実施例1で得られた酸化鉄多孔体においては、結晶の(110)面に由来するピークと結晶の(300)面に由来するピークの2本のピークを示す2ラインフェリハイドライト相を含有することが確認された。また、図2に示すXRD測定データから、焼成前と焼成後とにおいて、十分に2ラインフェリハイドライト相が維持されていることが確認された。
【0093】
〈2ラインフェリハイドライト相の含有比率の測定〉
実施例1で得られた酸化鉄多孔体のCoKαのX線回折パターンを、測定装置としてBruker社製の商品名「D8 Advance」を用い、走査範囲15°〜145°、スキャンステップ0.05°/ステップ、発散スリット0.3°、CoKα線、CoKβ線除去用のFeフィルタを使用、40kV、35mA、スキャンスピード3°/minの条件で測定し、得られたCoKαのX線回折パターンに基づいて、Rietan−2000のソフトを用いて各ピークの結晶相を同定し、ピーク面積をそれぞれ求めた後、各結晶相のピーク面積の総和(全面積)に対する2ラインフェリハイドライト相のピーク面積の比率を算出して、2ラインフェリハイドライト相の含有比率を求めた。このような測定の結果、2ラインフェリハイドライト相の含有比率は全酸化鉄の結晶中に100質量%であることが確認された。
【0094】
〈細孔径分布曲線の測定〉
実施例1で得られた酸化鉄多孔体に対して、ガス吸着法細孔分布測定装置(日本ベル株式会社製、型番「BELSORP18」)を用いて窒素吸着・脱着等温線を測定し、BJH(Barrett−Joyner−Halenda)法により細孔径分布曲線を求めた。得られた窒素吸着・脱着等温線を図3に示し、細孔径分布曲線を図4に示す。なお、図4中のrpは細孔の半径を示し、Vpは細孔容積を示す。
【0095】
このような図3及び図4に示す測定データに基いて中心細孔直径、比表面積、細孔容積をそれぞれ求めたところ、中心細孔直径が4.8nmであり、比表面積が189m2/gであり、細孔容積0.37cm3/gであることが確認された。また、図3及び図4に示す測定データに基いて2次粒子の粒子径を求めたところ、20nm〜600nmの粒子であることが分かった。また、図4に示す結果から、中心細孔直径の±30%の範囲に全細孔容積の70%以上が含まれていることから、非常に均一な細孔径を有するものであることが確認された。また、図3に示す窒素吸着・脱着等温線からも明らかなように、相対圧P/P0の値が0.4〜1.0の範囲にある位置でIUPACで規定されるIV型のヒステリシス曲線を示すことが確認され、酸化鉄多孔体がメソ細孔構造を有することが確認された。
【0096】
<透過型電子顕微鏡による測定>
実施例1で得られた酸化鉄多孔体を透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製の商品名「JEM200CX」)により観察した。得られた透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図5に示す。
【0097】
図5に示す結果からも明らかなように、前記酸化鉄多孔体は、酸化鉄の一次粒子が凝集した凝集体からなるものあり、これにより2次細孔が形成されていることが確認された。また、このような図5に示すTEM写真からは、実施例1で得られた酸化鉄多孔体が2〜6nm程度の酸化鉄の一次粒子の凝集体であることが確認できる。
【0098】
<TG/DTA分析>
実施例1で得られた酸化鉄多孔体を13.071mg用い、TG/DTA(示差熱熱重量同時測定装置:リガク社製の商品名「Thermo plus TG8120」)により、酸化鉄多孔体を100℃から300℃まで加熱して重量変化を測定し、前記加熱前後の重量変化率を算出することにより、酸化鉄多孔体の含水量を測定した。このような測定の結果、実施例1で得られた酸化鉄多孔体の含水量は2.8質量%であった。
【0099】
(実施例2〜5)
焼成時の温度条件を、それぞれ、250℃(実施例2)、350℃(実施例3)、400℃(実施例4)、450℃(実施例5)に変更した以外は、実施例1と同様にして酸化鉄多孔体を得た。
【0100】
実施例2〜5で得られた酸化鉄多孔体に対して、実施例1と同様にXRD測定、細孔径分布曲線の測定、透過型電子顕微鏡による測定及びTG/DTA分析を行った。このような測定の結果、実施例2〜5で得られた酸化鉄多孔体においては、いずれも、広角域のXRDパターンにおいて結晶の(110)面に由来するピークと結晶の(300)面に由来するピークの2本のピークが確認され、2ラインフェリハイドライト相を含有することが確認された。また、実施例2〜5で得られた酸化鉄多孔体においては、いずれも、低角域のXRDパターンにおいて2θが0.5°〜3°の範囲にピークが確認されるとともに、窒素吸着・脱着等温線において相対圧P/P0の値が0.4〜1.0の範囲にある位置で、IUPACで規定されるIV型のヒステリシス曲線が確認され、酸化鉄多孔体がメソ細孔構造を有することが確認された。また、透過型電子顕微鏡による測定の結果、実施例2〜5で得られた酸化鉄多孔体は、いずれも、酸化鉄の一次粒子が凝集した凝集体からなるものであり、これにより2次細孔が形成されていることが確認された。また、このような測定により求めた一次粒子の平均粒子径、2ラインフェリハイドライト相の含有比率、中心細孔直径、細孔容積、比表面積の結果を表1に示す。なお、TG/DTA分析の結果、実施例2〜5で得られた酸化鉄多孔体は、いずれも含水量は5質量%以下であった。
【0101】
【表1】
【0102】
(実施例6)
先ず、300mlの1−プロパノール中に46.7gのポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテル(界面活性剤:Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 700」、エチレン基の個数が100個、アルキル基の炭素数は18)を添加し、混合して、1−プロパノール中に16.3質量%の界面活性剤が含有された混合液を得た。次に、前記混合液中にFeCl3・9H2Oを添加し、2時間撹拌して、反応液を得た。なお、前記混合液中へのFeCl3・9H2Oの添加量は、得られる反応液中でのFeCl3・9H2Oと界面活性剤とのモル比([FeCl3・9H2O]:[界面活性剤])が0.06:0.03となるようにした。次いで、前記反応液を撹拌しながら、28質量%のアンモニア水溶液を前記反応液に対して滴下して前記反応液のpHを7.5に調整し、更に3時間攪拌して、反応液中に沈殿物を析出せしめた。次いで、前記沈殿物の析出した反応液を容量が1Lの密閉型の容器に投入した後、その容器をオーブン内に導入して、前記容器内での自然加圧条件下、50℃の温度条件で3日間加熱熟成した。次に、前記加熱後の前記反応液の中から沈殿物を濾過して取り出した後、その沈殿物を2.5Lの蒸留水で洗浄し、乾燥させた。このようにして乾燥させた沈殿物をめのう乳鉢中で粉砕して、粉末を得た。その後、前記粉末3gを100mlのエタノール中に添加し、24時間攪拌した。次に、前記エタノール中から前記粉末をろ過により取り出し、乾燥させた後、300℃の温度条件で3時間焼成して、酸化鉄多孔体を得た。なお、このような酸化鉄多孔体においては、その製造方法から、ケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛及びチタンの酸化物からなる不純物の総量は0質量%であることは明らかである。
【0103】
実施例6で得られた酸化鉄多孔体に対して、実施例1と同様にXRD測定、2ラインフェリハイドライト相の含有比率の測定、細孔径分布曲線の測定、透過型電子顕微鏡による測定及びTG/DTA分析を行った。このような測定の結果として、実施例6で得られた酸化鉄多孔体の低角域のX線回折パターンを図6に示し、実施例6で得られた酸化鉄多孔体の広角域のX線回折パターンを図7に示す。また、図7の広角域のX線回折パターンの2θを異なるスケールで記載し且つα−Fe2O3とγ−Fe2O3が示すX線回折パターンを参照線として記載したX線回折パターンを図8に示し、窒素吸着・脱着等温線を図9に示し、細孔径分布曲線を図10に示す。
【0104】
図6に示す低角のXRDパターンからも明らかなように、2θが0.5°〜3°の範囲にピークが見られ、メソ細孔構造を有することが確認された。また、図7に示す結果に基づいて、2θが33.1°付近の位置におけるピークからシェラーの式により酸化鉄の一次粒子の平均粒子径を求めたところ、一次粒子の平均粒子径は3.1nmであることが確認された。さらに、図7〜8に示す結果から、実施例6で得られた酸化鉄多孔体においては、XRDパターンにおいて結晶の(110)面に由来するピークと結晶の(300)面に由来するピークの2本のピークを有する2ラインフェリハイドライト相を含有すること、及び、α−Fe2O3とγ−Fe2O3とを含有することが確認された。また、実施例6で得られた酸化鉄多孔体についての2ラインフェリハイドライト相の含有比率の測定結果から、2ラインフェリハイドライト相の含有比率は全酸化鉄の結晶中に90質量%であり、残りがα−Fe2O3とγ−Fe2O3であることが確認された。また、窒素吸着・脱着等温線(図9)及び細孔径分布曲線(図10)のデータから、中心細孔直径が5.6nmであり、細孔容積が0.27cm3/gであり、比表面積が162m2/gであり、且つ、2次粒子径が100〜600nmの範囲にあることが確認されるとともに、中心細孔直径の±40%の範囲に全細孔容積の70%以上が含まれていることが確認され、非常に均一な細孔径を有するものであることが分かった。また、窒素吸着・脱着等温線において相対圧P/P0の値が0.4〜1.0の範囲にある位置でIUPACで規定されるIV型のヒステリシス曲線が確認され、酸化鉄多孔体がメソ細孔構造を有することが確認された。更に、透過型電子顕微鏡による測定の結果、実施例6で得られた酸化鉄多孔体は、酸化鉄の一次粒子が凝集した凝集体からなるものあり、これにより2次細孔が形成されていることが確認された。また、TG/DTA分析の結果、実施例6で得られた酸化鉄多孔体は、含水量が7.7質量%以下であった。
【0105】
(実施例7)
反応液を得る工程において混合液中にFe(NO3)3・9H2Oのみを添加する代わりに、混合液中にFe(NO3)3・9H2OとMn(NO3)3・6H2Oとを添加し、反応液中のFe(NO3)3・9H2OとMn(NO3)3・6H2Oと界面活性剤とのモル比([FeCl3・9H2O]:[Mn(NO3)3・6H2O]:[界面活性剤])が0.04:0.02:0.03となるようにした以外は、実施例1と同様にして、酸化鉄多孔体を得た。
【0106】
このようにして調製された酸化鉄多孔体においては、その製造方法から、ケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛及びチタンの酸化物からなる不純物の総量が0質量%であることは明らかである。また、このようにして調製された酸化鉄多孔体は、その製造方法からマンガン(Mn)を含有するものとなることが分かる。なお、このような酸化鉄多孔体を用いて高周波プラズマ発光分光分析装置(ICPS)により元素分析を行ったところ、マンガン(Mn)の含有量は、鉄の総量に対するモル比([Mn]:[Fe])が0.508:1となる量であった。
【0107】
また、このようにして実施例7で得られた酸化鉄多孔体に対して、実施例1と同様にXRD測定、2ラインフェリハイドライト相の含有比率の測定、細孔径分布曲線の測定、透過型電子顕微鏡による測定及びTG/DTA分析を行った。このような測定の結果として、実施例7で得られた酸化鉄多孔体の低角域のX線回折パターンを図11に示し、実施例7で得られた酸化鉄多孔体の広角域のX線回折パターンを図12に示す。また、窒素吸着・脱着等温線を図13に示し、細孔径分布曲線を図14に示す。
【0108】
図11に示す低角のXRDパターンからも明らかなように、2θが0.5°〜3°の範囲にピークが見られ、メソ細孔構造を有することが確認された。また、図12に示す結果に基づいて、2θが33.1°付近の位置におけるピークからシェラーの式により酸化鉄の一次粒子の平均粒子径を求めたところ、一次粒子の平均粒子径は2.0nmであることが確認された。さらに、XRD測定の結果から、実施例7で得られた酸化鉄多孔体においては、XRDパターンにおいて結晶の(110)面に由来するピークと結晶の(300)面に由来するピークの2本のピークを有する2ラインフェリハイドライト相を含有することが確認された。また、実施例7で得られた酸化鉄多孔体について、XRD測定の結果に基づいて2ラインフェリハイドライト相の含有比率を求めたところ、2ラインフェリハイドライト相の含有比率は全酸化鉄の結晶中に100質量%であることが確認された。また、窒素吸着・脱着等温線(図13)及び細孔径分布曲線(図14)のデータから、中心細孔直径は4.8nmであり、細孔容積が0.41cm3/gであり、比表面積が291m2/gであり、中心細孔直径の±40%の範囲に全細孔容積の71%以上が含まれていることが確認され、非常に均一な細孔径を有するものであることが分かった。また、窒素吸着・脱着等温線において相対圧P/P0の値が0.4〜1.0の範囲にある位置でIUPACで規定されるIV型のヒステリシス曲線が確認され、酸化鉄多孔体がメソ細孔構造を有することが確認された。更に、透過型電子顕微鏡及び高分解能透過電子顕微鏡による測定の結果、実施例7で得られた酸化鉄多孔体は、酸化鉄の一次粒子が凝集した凝集体からなるものあり、これにより2次細孔が形成されていることが確認されるとともに、主な一次粒子の粒子径は4〜6nmの範囲内にあり、2次粒子径が20〜300nmの範囲にあることが分かった。また、TG/DTA分析の結果、実施例7で得られた酸化鉄多孔体は、含水量が2.8質量%以下であった。
【0109】
(比較例1)
特開2005−288439号公報に記載されている方法に沿って、フェリハイドライト相を有する酸化鉄を調製した。すなわち、先ず、Fe(NO3)3・9H2O(0.06モル:24.24g)を300mlの蒸留水に溶解させた後、2時間攪拌して鉄塩の溶液を得た。次に、前記鉄塩の溶液を撹拌しながら、前記鉄塩の溶液に対して1MのNaOH水溶液をpHが7.5となるまで2mL/分のスピードで滴下し、更に1時間攪拌した。その後、前記溶液中に析出した沈殿物をろ過し、蒸留水で洗浄した後、75℃の温度条件で12時間乾燥して、比較のための酸化鉄を得た。
【0110】
比較例1で得られた酸化鉄に対して、実施例1と同様にXRD測定、2ラインフェリハイドライト相の含有比率の測定及び細孔径分布曲線の測定を行った。このような測定の結果として、比較例1で得られた酸化鉄の低角域のX線回折パターンを図15を示し、比較例1で得られた酸化鉄の広角域のX線回折パターンを図16に示し、窒素吸着・脱着等温線を図17に示し、細孔径分布曲線を図18に示す。
【0111】
図16に示す広角域のX線回折パターンに基づいて、2θが33.1°付近の位置におけるピークからシェラーの式により酸化鉄の一次粒子の平均粒子径を求めたところ、一次粒子の平均粒子径は1.7nmであることが確認された。また、図16から、比較例1で得られた酸化鉄においては2ラインフェリハイドライト相を有することが確認された。更に、2ラインフェリハイドライト相の含有比率は100質量%であることが確認された。しかしながら、比較例1で得られた酸化鉄においては、図15に示す低角域のXRDパターンにおいて、メソ多孔質を示すピークが確認されず、更に、窒素吸着・脱着等温線(図17)において、ヒステリシスが確認されず、BJHによる細孔分布曲線(図18)においてもメソ細孔分布が確認されなかった。このように、比較例1で得られた酸化鉄はメソ細孔構造を有するものとはならなかった。更に、このようにして得られた酸化鉄は、図17及び図18に示すデータから、比表面積が226m2/gであり、細孔容積0.13cm3/gであることが確認された。
【0112】
(比較例2)
2008年に発行されたJournal of American Chemical Societyのvol.130の280頁〜287頁の“Synthesis and magnetic investigations of ordered mesoporous two−line ferrihydrite”に記載された方法に沿って、フェリハイドライト相を有する酸化鉄を調製した。すなわち、先ず、20mLのエタノール中に0.8MのFe(NO3)3・9H2Oを溶解して得られた混合液に、2gのKIT−6(シリカ)を添加して、室温(25℃)で1時間攪拌して第一の反応液を得た。次に、前記第一の反応液中のエタノールを50℃の温度条件で蒸発させた後、200℃で6時間焼成して固形物を得た。次いで、その固形物を、20mLのエタノール中に0.8MのFe(NO3)3・9H2Oを溶解して得られた混合液中に添加し、室温(25℃)で1時間攪拌して第二の反応液を得た。その後、前記第二の反応液中のエタノールを50℃の温度条件で蒸発させた後、200℃で6時間焼成し、KIT−6(シリカ)と酸化鉄との複合体を得た。なお、この複合体中の酸化鉄の含有量は50質量%であった。次に、複合体中に存在するKIT−6(シリカ)をNaOH水溶液(複合体中の酸化鉄5gにつき2MのNaOH水溶液が150mlとなるような量を使用)中に浸漬して除去した後、得られた酸化鉄を水2L中に添加して洗浄し、ろ過する工程を、そのろ液のpHが7になるまで数回繰り返した後(水のトータル使用量2L)、ろ過し、50℃で乾燥させて、比較のための酸化鉄を得た。
【0113】
このようにして比較例2で得られた酸化鉄に対して、実施例1と同様にXRD測定、2ラインフェリハイドライト相の含有比率の測定及び細孔径分布曲線の測定を行った。このような測定の結果として、比較例2で得られた酸化鉄の低角域のX線回折パターンを図19を示し、比較例2で得られた酸化鉄の広角域のX線回折パターンを図20に示し、窒素吸着・脱着等温線を図21に示し、細孔径分布曲線を図22に示す。
【0114】
図20に示す広角域のXRDパターンから、シェラーの式により酸化鉄の一次粒子の平均粒子径を求めたところ、一次粒子の平均粒子径は2.7nmであることが確認された。また、図20から、比較例2で得られた酸化鉄においては2ラインフェリハイドライト相を有することが確認された。更に、2ラインフェリハイドライト相の含有比率が100質量%であることが確認された。更に、図19に示す低角域のXRDパターンにおいて2θが0.5°〜3°にピークが確認されるとともに、窒素吸着・脱着等温線(図21)において相対圧P/P0の値が0.4〜1.0の範囲にある位置でIUPACで規定されるIV型のヒステリシス曲線が確認され、比較例2で得られた酸化鉄がメソ細孔構造を有する多孔体であることが確認された。また、窒素吸着・脱着等温線(図21)及びBJHによる細孔分布曲線(図22)のデータから、中心細孔直径が3.8nmであり、比表面積が177m2/gであり、細孔容積0.33cm3/gであることが確認された。なお、このような比較例2で得られた酸化鉄の多孔体においては、細孔のテンプレートとしてKIT−6(シリカ)を用いており、高周波プラズマ発光分光分析装置(ICPS)により元素分析することにより測定される、酸化鉄の総量中のシリカ(二酸化ケイ素:酸性酸化物)の含有量が1.5質量%であることが確認された。
【0115】
(比較例3)
焼成時の温度条件を300℃から500℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較のための酸化鉄を得た。
【0116】
このようにして比較例3で得られた酸化鉄に対して、実施例1と同様にXRD測定、2ラインフェリハイドライト相の含有比率の測定及び細孔径分布曲線の測定を行った。このような測定の結果として、比較例3で得られた酸化鉄の低角域のX線回折パターンを図23に示し、比較例3で得られた酸化鉄の広角域のX線回折パターンを図24に示し、窒素吸着・脱着等温線を図25に示し、細孔径分布曲線を図26に示す。
【0117】
図24に示すXRDパターンの結果に基づいて、2θが33.1°付近の位置におけるピークからシェラーの式により酸化鉄の一次粒子の平均粒子径を求めたところ、酸化鉄の一次粒子の平均粒子径は17.3nmであることが確認された。また、図24から、比較例3で得られた酸化鉄はα−Fe2O3を含有することが確認された。更に、2ラインフェリハイドライト相の含有比率の測定結果から、α−Fe2O3の含有比率が100質量%であることが確認された。また、図23に示す低角域のXRDパターンにおいて2θが0.5°〜3°の位置にピークが確認されるとともに、窒素吸着・脱着等温線(図25)において相対圧P/P0の値が0.4〜1.0の範囲にある位置でIUPACで規定されるIV型のヒステリシス曲線が確認され、比較例3で得られた酸化鉄がメソ細孔構造を有する多孔体であることが確認された。また、窒素吸着・脱着等温線(図25)及びBJHによる細孔分布曲線(図26)のデータから、中心細孔直径が7.2nmであり、比表面積が97m2/gであり、細孔容積0.30cm3/gであることが確認された。
【0118】
(比較例4)
300mlの1−プロパノール中に34.04gのポリオキシエチレン(20)セチルエーテル(界面活性剤:Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 58」)を添加し、混合して、1−プロパノール中に12.42質量%の界面活性剤が含有された混合液を得た。次に、前記混合液中にFe(NO3)3・9H2Oを添加し、2時間撹拌して、反応液を得た。なお、前記混合液中へのFe(NO3)3・9H2Oの添加量は、得られる反応液中でのFe(NO3)3・9H2Oと界面活性剤とのモル比([Fe(NO3)3・9H2O]:[界面活性剤])が0.06:0.03となるようにした。次いで、前記反応液を撹拌しながら、46質量%のKOH水溶液を前記反応液に対して滴下し、前記反応液のpHを7.5に調整し、更に3時間攪拌して、反応液中に沈殿物を析出せしめた。次いで、前記沈殿物の析出した反応液を容量が1Lの密閉型の容器に投入した後、その容器をオーブン内に導入して、前記容器内での自然加圧条件下、50℃の温度条件で3日間加熱熟成した。次に、前記加熱熟成後の前記反応液の中か沈殿物を濾過して取り出した後、その沈殿物を2.5Lの蒸留水で洗浄し、乾燥させた。このようにして乾燥させた沈殿物をめのう乳鉢中で粉砕して、粉末を得た。その後、前記粉末3gを100mlのエタノール中に添加し、24時間攪拌した。次に、前記エタノール中から前記粉末をろ過により取り出し、乾燥させた後、475℃の温度条件で3時間焼成して、酸化鉄多孔体を得た。
【0119】
このようにして比較例4で得られた酸化鉄多孔体に対して、実施例1と同様にXRD測定、2ラインフェリハイドライト相の含有比率の測定及び細孔径分布曲線の測定を行った。このような測定結果から、比較例4で得られた酸化鉄の一次粒子の平均粒子径は8.5nmであることが確認された。また、比較例4で得られた酸化鉄においては、2ラインフェリハイドライト相の含有比率が90質量%であり、残りがα−Fe2O3及びγ−Fe2O3であることが確認された。また、低角域のXRDパターンにおいて2θが0.5°〜3°にピークが確認されるとともに、窒素吸着・脱着等温線において相対圧P/P0の値が0.4〜1.0の範囲にある位置でIUPACで規定されるIV型のヒステリシス曲線が確認され、比較例4で得られた酸化鉄多孔体がメソ細孔構造を有する多孔体であることが確認された。更に、窒素吸着・脱着等温線及びBJHによる細孔分布曲線のデータから、中心細孔直径が6.2nmであり、比表面積が153m2/gであり、細孔容積0.33cm3/gであることが確認された。
【0120】
(比較例5)
200mlの1−プロパノール中に34.04gのポリオキシエチレン(20)セチルエーテル(界面活性剤:Sigma−Aldrich社製の商品名「Brij 58」)を添加し、混合して、1−プロパノール中に17.54質量%の界面活性剤が含有された混合液を得た。次に、前記混合液中にFe(NO3)3・9H2Oを添加し、2時間撹拌して、反応液を得た。なお、前記混合液中へのFe(NO3)3・9H2Oの添加量は、得られる反応液中でのFe(NO3)3・9H2Oと界面活性剤とのモル比([Fe(NO3)3・9H2O]:[界面活性剤])が0.06:0.03となるようにした。次いで、前記反応液を撹拌しながら、28質量%のNH3水溶液を前記反応液に対して滴下し、前記反応液のpHを7.5に調整し、更に3時間攪拌して、反応液中に沈殿物を析出せしめた。次いで、前記沈殿物の析出した反応液を容量が1Lの密閉型の容器に投入した後、その容器をオーブン内に導入して、前記容器内での自然加圧条件下、50℃の温度条件で3日間加熱熟成した。次に、前記加熱熟成後の前記反応液の中か沈殿物を濾過して取り出した後、その沈殿物を2.5Lの蒸留水で洗浄し、乾燥させた。このようにして乾燥させた沈殿物をめのう乳鉢中で粉砕して、粉末を得た。その後、前記粉末3gを100mlのエタノール中に添加し、24時間攪拌した。次に、前記エタノール中から前記粉末をろ過により取り出し、乾燥させた後、475℃の温度条件で3時間焼成して、酸化鉄多孔体を得た。
【0121】
このようにして比較例5で得られた酸化鉄多孔体に対して、実施例1と同様にXRD測定、2ラインフェリハイドライト相の含有比率の測定及び細孔径分布曲線の測定を行った。このような測定結果から、比較例5で得られた酸化鉄の一次粒子の平均粒子径は7.0nmであることが確認された。また、比較例5で得られた酸化鉄においては、2ラインフェリハイドライト相の含有比率が65質量%であり、残りがα−Fe2O3であることが確認された。また、低角域のXRDパターンにおいて2θが0.5°〜3°にピークが確認されるとともに、窒素吸着・脱着等温線において相対圧P/P0の値が0.4〜1.0の範囲にある位置でIUPACで規定されるIV型のヒステリシス曲線が確認され、比較例5で得られた酸化鉄多孔体がメソ細孔構造を有する多孔体であることが確認された。更に、窒素吸着・脱着等温線及びBJHによる細孔分布曲線のデータから、中心細孔直径が10.2nmであり、比表面積が145m2/gであり、細孔容積0.30cm3/gであることが確認された。
【0122】
[空気浄化性能の評価]
実施例1及び実施例6〜7で得られた酸化鉄多孔体と比較例1〜5で得られた酸化鉄とを、それぞれ0.1g試料として用い、空気浄化性能の測定を行った。すなわち、先ず、ガス容器(5L)中に、試料(0.1g)を導入した後、前記ガス容器中のガス雰囲気を31.67ppmのアセトアルデヒドと20容量%の酸素と窒素(バランス)とからなるガス雰囲気とした。そして、室温(25℃)で3時間経過した後のガス容器内のガス中のアセトアルデヒド濃度をガスクロマトグラフ(島津GC−14B)によって測定した。また、試料を導入していないガス容器(5L)に対しても、同様にガス雰囲気を31.67ppmのアセトアルデヒドと20容量%の酸素と窒素(バランス)とからなるガス雰囲気とし、室温(25℃)で3時間経過した後のガス容器内のガス中のアセトアルデヒド濃度を測定した。そして、下記式:
[除去率(%)]=(1―[試料を導入したガス容器中のアセトアルデヒド濃度]/[試料を導入しなかったガス容器中のアセトアルデヒド濃度])×100
により、反応前、1時間後、3時間後、5時間後、24時間後のアセトアルデヒドの除去率を求めた。結果を表2に示す。
【0123】
【表2】
【0124】
表2に示す結果からも明らかなように、本発明の酸化鉄多孔体(実施例1及び実施例6〜7)においては、十分に高度なアセトアルデヒドの除去性能が得られており、空気浄化材料にしようした際に、十分に高度な性能を示すことが確認された。一方、比較のための酸化鉄(比較例1〜5)においては、いずれもアセトアルデヒドの除去性能が十分なものとはならなかった。このような結果から、2ラインフェリハイドライト相を有する酸化鉄のメソ多孔体であっても不純物(二酸化ケイ素)が1.5質量%含有された場合(比較例2)にはアセトアルデヒドの除去性能が十分とならないことが分かった。また、2ラインフェリハイドライト相を有する酸化鉄のメソ多孔体であっても、一次粒子の平均粒子径が8nmを超えている場合(比較例4)や中心細孔直径が10nmを超えている場合(比較例5)においてもアセトアルデヒドの除去性能が十分とならないことが分かった。
【0125】
さらに、表2に示す結果からも明らかなように、実施例7で得られた遷移金属を含有する酸化鉄多孔体においては、反応開始から1時間後に、アセトアルデヒドの除去率が100%となることが確認された。このような結果から、本発明の酸化鉄多孔体においては、遷移金属を含有させることによって、より高度なアセトアルデヒドの除去性能が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0126】
以上説明したように、本発明によれば、空気浄化材料として利用した場合に空気中に含まれる揮発性有機化合物(例えばアセトアルデヒド)等の反応分子に対して十分に高度な浄化性能を有することが可能な酸化鉄多孔体、その酸化鉄多孔体を用いた空気浄化材料、並びに、その酸化鉄多孔体を簡便な工程で効率よく製造することが可能な酸化鉄多孔体の製造方法を提供することが可能となる。このような本発明の酸化鉄多孔体は、吸着物質や反応基質を細孔内に速やかに拡散させることができるため、吸収材、触媒、触媒担体等として好適に利用でき、空気浄化材料に特に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄の一次粒子が凝集した凝集体からなり、
前記一次粒子の平均粒子径が2〜8nmであり、
前記凝集体の細孔の中心細孔直径が2〜10nmであり、
前記酸化鉄が、X線回折パターンにおいて結晶の(110)面に由来するピークと結晶の(300)面に由来するピークの2本のピークを示す2ラインフェリハイドライト相を有しており、
前記酸化鉄の全結晶相に対する前記2ラインフェリハイドライト相の含有比率が40質量%以上であり、且つ、
ケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛及びチタンの酸化物からなる不純物の総量が0.1質量%以下であること、
を特徴とする酸化鉄多孔体。
【請求項2】
前記凝集体の細孔容積が0.25〜0.45cm3/gであることを特徴とする請求項1に記載の酸化鉄多孔体。
【請求項3】
前記凝集体の比表面積が140〜350m2/gであることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化鉄多孔体。
【請求項4】
遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)を更に含有することを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の酸化鉄多孔体。
【請求項5】
前記遷移金属がマンガン、セリウム、銀、ジルコニウム、イットリウム及びガリウムの中から選択される少なくとも1種の元素であることを特徴とする請求項4に記載の酸化鉄多孔体。
【請求項6】
請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の酸化鉄多孔体を備えることを特徴とする空気浄化材料。
【請求項7】
アルコール中に、親水性基としてのエトキシ基の個数が2〜200であり且つ疎水性基としてのアルキル基の炭素数が6〜20であるポリオキシエチレンアルキルエーテルからなる界面活性剤と、鉄塩とを添加して反応液を得る工程と、
前記反応液中に塩基を添加して前記反応液のpHを4.5〜13に調整することにより、前記反応液中において前記界面活性剤の周囲に水酸化鉄を析出させて、前記界面活性剤と前記水酸化鉄との複合体を得る工程と、
前記複合体を含有する前記反応液を密閉容器内に導入して20〜125℃の温度条件で加熱熟成する工程と、
前記加熱熟成後の前記反応液から前記複合体を取り出した後、前記複合体を極性溶媒により洗浄して前記複合体から界面活性剤を除去することにより、水酸化鉄の一次粒子の凝集した水酸化鉄多孔体を得る工程と、
前記水酸化鉄多孔体を乾燥させた後に200〜450℃の温度条件で焼成することにより、請求項1に記載の酸化鉄多孔体を得る工程と、
を含むことを特徴とする酸化鉄多孔体の製造方法。
【請求項8】
前記界面活性剤の添加量が前記アルコールの総量に対して0.02〜50質量%であることを特徴とする請求項7に記載の酸化鉄多孔体の製造方法。
【請求項9】
前記塩基が、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、アルキル炭酸塩、アルキル炭酸水素塩、アルキルアミン、アルコキシド及び水酸化テトラアルキルアンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項7又は8に記載の酸化鉄多孔体の製造方法。
【請求項10】
前記反応液を得る工程において、前記アルコール中に遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩を更に添加することを特徴とする請求項7〜9のうちのいずれか一項に記載の酸化鉄多孔体の製造方法。
【請求項11】
前記遷移金属がマンガン、セリウム、銀、ジルコニウム、イットリウム及びガリウムの中から選択される少なくとも1種の元素であることを特徴とする請求項10に記載の酸化鉄多孔体。
【請求項1】
酸化鉄の一次粒子が凝集した凝集体からなり、
前記一次粒子の平均粒子径が2〜8nmであり、
前記凝集体の細孔の中心細孔直径が2〜10nmであり、
前記酸化鉄が、X線回折パターンにおいて結晶の(110)面に由来するピークと結晶の(300)面に由来するピークの2本のピークを示す2ラインフェリハイドライト相を有しており、
前記酸化鉄の全結晶相に対する前記2ラインフェリハイドライト相の含有比率が40質量%以上であり、且つ、
ケイ素、アルミニウム、スズ、亜鉛及びチタンの酸化物からなる不純物の総量が0.1質量%以下であること、
を特徴とする酸化鉄多孔体。
【請求項2】
前記凝集体の細孔容積が0.25〜0.45cm3/gであることを特徴とする請求項1に記載の酸化鉄多孔体。
【請求項3】
前記凝集体の比表面積が140〜350m2/gであることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化鉄多孔体。
【請求項4】
遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)を更に含有することを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の酸化鉄多孔体。
【請求項5】
前記遷移金属がマンガン、セリウム、銀、ジルコニウム、イットリウム及びガリウムの中から選択される少なくとも1種の元素であることを特徴とする請求項4に記載の酸化鉄多孔体。
【請求項6】
請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の酸化鉄多孔体を備えることを特徴とする空気浄化材料。
【請求項7】
アルコール中に、親水性基としてのエトキシ基の個数が2〜200であり且つ疎水性基としてのアルキル基の炭素数が6〜20であるポリオキシエチレンアルキルエーテルからなる界面活性剤と、鉄塩とを添加して反応液を得る工程と、
前記反応液中に塩基を添加して前記反応液のpHを4.5〜13に調整することにより、前記反応液中において前記界面活性剤の周囲に水酸化鉄を析出させて、前記界面活性剤と前記水酸化鉄との複合体を得る工程と、
前記複合体を含有する前記反応液を密閉容器内に導入して20〜125℃の温度条件で加熱熟成する工程と、
前記加熱熟成後の前記反応液から前記複合体を取り出した後、前記複合体を極性溶媒により洗浄して前記複合体から界面活性剤を除去することにより、水酸化鉄の一次粒子の凝集した水酸化鉄多孔体を得る工程と、
前記水酸化鉄多孔体を乾燥させた後に200〜450℃の温度条件で焼成することにより、請求項1に記載の酸化鉄多孔体を得る工程と、
を含むことを特徴とする酸化鉄多孔体の製造方法。
【請求項8】
前記界面活性剤の添加量が前記アルコールの総量に対して0.02〜50質量%であることを特徴とする請求項7に記載の酸化鉄多孔体の製造方法。
【請求項9】
前記塩基が、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、アルキル炭酸塩、アルキル炭酸水素塩、アルキルアミン、アルコキシド及び水酸化テトラアルキルアンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項7又は8に記載の酸化鉄多孔体の製造方法。
【請求項10】
前記反応液を得る工程において、前記アルコール中に遷移金属(亜鉛及びチタンを除く)の塩を更に添加することを特徴とする請求項7〜9のうちのいずれか一項に記載の酸化鉄多孔体の製造方法。
【請求項11】
前記遷移金属がマンガン、セリウム、銀、ジルコニウム、イットリウム及びガリウムの中から選択される少なくとも1種の元素であることを特徴とする請求項10に記載の酸化鉄多孔体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図19】
【図20】
【図21】
【図23】
【図24】
【図25】
【図4】
【図5】
【図10】
【図18】
【図22】
【図26】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図19】
【図20】
【図21】
【図23】
【図24】
【図25】
【図4】
【図5】
【図10】
【図18】
【図22】
【図26】
【公開番号】特開2011−213572(P2011−213572A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240015(P2010−240015)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
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