説明

酸性ホスホリパーゼのクローニング、発現および用途

本発明は、本質的にリパーゼ活性を持たず、ホスホリパーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA配列であって、このDNA配列は、a)SEQ ID NO:1によるヌクレオチド配列を有するDNA配列、b)SEQ ID NO:1によるコード化配列を有するDNA配列、c)SEQ ID NO:2による蛋白質配列をコードするDNA配列、d)図7による制限マップを持ち、受託番号DSM22741で寄託されている、プラスミドpPL3940−Topo2.5によってコードされるDNA配列、e)a)、b)、c)またはd)によるDNA配列の1つとストリンジェント条件下で交雑するDNA配列、f)遺伝子コードの減成によりa)、b)、c)、d)またはe)のDNA配列と関係するDNA配列、およびg)a)〜f)による配列に対する相補鎖
から選択され、ここでDNA配列は好ましくはアスペルギルス、さらに好ましくはアスペルギルス フミガタスから誘導される、ことを特徴とする、上記DNA配列、ならびにa)上記の1つによるDNA配列のコードする部分によってコードされるポリペプチド、b)SEQ ID NO:2による配列または1つもしくはそれ以上のアミノ酸の置換、附加もしくは除去によって得られうる、それから誘導された配列を有するポリペプチド、c)SEQ ID NO:2のアミノ酸1〜299と少なくとも83%同一性を有する配列を有するポリペプチド、
d)(i)SEQ ID NO:1のヌクレオチド55〜1106、(ii)SEQ ID NO:1のヌクレオチド55〜1106に含有されるcDNA配列、(iii)少なくとも100ヌクレオチドの(i)または(ii)の部分配列、または(iv)(i)、(ii)もしくは(iii)の相補鎖とストリンジェント条件下で交雑する核酸配列によってコードされるポリペプチド、e)1つもしくはそれ以上のアミノ酸の置換、除去および/または挿入を含む、SEQ ID NO:2を有するポリペプチドの変異型、f)アミノ酸配列a)〜e)に対するアレリック変異型、から選ばれる、本質的にリパーゼ活性を有さず、ホスホリパーゼ活性を有するポリペプチドに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は実質的にリパーゼ活性のない、ホスホリパーゼ活性を持つポリペプチドをコードする新規DNA配列に関する。さらに、本発明は、実質的にリパーゼ活性のない、ホスホリパーゼ活性を持つ新規なポリペプチドに関する。これらのポリペプチドは、低分子量、高熱安定性および耐高温性を備えた酸性ホスホリパーゼである。さらに、これらのポリペプチドは広いpH範囲内で活性である。さらに、本発明は、例えば食用油の製造において、リン含有化合物を低減させるためにこれらのホスホリパーゼを使用すること、同様にパン改質剤、飼料添加剤、織物原料を加工する際の添加剤等としてこれらのホスホリパーゼを使用することにも関する。
【背景技術】
【0002】
粗植物油は、油の品質と貯蔵期間に影響を与え且つ貯蔵中の脂質の加水分解や酸化による変質によりそのさらなる加工を困難にする随伴物質(例えば遊離脂肪酸、ホスホリピッド、重金属、色素・・・)を含有する。それ故、粗植物油は、それを抽出した後、不純物を除去するために精製することが必要とされる。高品質の植物油を製造する際、精製工程は、脱ガム質、漂白工程および脱臭工程を包含する。
油を精製する方法の最初の工程は脱ガム質である。脱ガム質工程中にガム質物、初期ホスホリピッドが除去される。それらは油の味に悪い影響を与え且つ油精製方法のさらなる工程を妨げる。
リン含量は脱ガム質の程度の指標となるので、得られた脱ガム質油の品質は残存するリンの含量を求めることによって算定される。精製方法のさらなる工程のために、リンの残存量が10ppmより少ない脱ガム質油が求められる。
【0003】
ホスホリピッドは、複雑な、リン含有リピッドである。ホスファチジルコリンあるいはレシチンの如きホスホリピッドは、sn−1とsn−2の位置が脂肪酸でエステル化されそしてsn−3の位置がエステル結合リン酸基でエステル化されているグリセリン構造からなる。リン酸基は、それ自体が、例えば一級アルコール基でエステル化されていることもある。sn−1とsn−2の位置に、天然ホスホリピッドは、植物の場合、主に、ポリ不飽和のアシル鎖である、異なる脂肪酸鎖を含有する。2種類のホスホリピッド:水和しうるものと水和しえないもの、がある。ホスホリピッドを除去するために異なる方法が用いられる。
【0004】
最も簡単な方法は水脱ガム質である。この方法で水和しうるホスホリピッドは水の作用で洗い出されて油から除去される。粗油の種類と品質によって、脱ガム質油はこの方法の後でリンを80〜200ppm含有する。
酸性脱ガム質方法において油は酸で処理される。酸は非水和性ホスホリピッドを水和性ホスホリピッドに変換する。水和性ホスホリピッドは油不溶性となる。油不溶性スラリーが遠心分離あるいは濾過により油から除去されて形成される。この方法の後、油中に残存するリンの含量は約25〜100ppmである。
酵素的脱ガム質は、食用油からホスホリピッドを穏やかに除去するために、効率的な、費用効果の高い且つ環境に優しい方法を提供する。
【0005】
ホスホリパーゼは、ホスホリピッドを開裂させそしてその酵素開裂部位によりホスホリピッドをアシルヒドロラーゼ(ホスホリパーゼA1、A2およびB)とホスホジエステラーゼ(ホスホリパーゼCとD)に分解する酵素である。ホスホリパーゼA1(EC3.1.1.32)はホスホリピッド分子のsn−1位置で脂肪酸を加水分解しそしてホスホリパーゼA2(EC3.1.1.4)は、ホスホリピッドからsn−2エステル結合を特定的に開裂させる。反応生成物としてリゾホスホリピッドと遊離脂肪酸が生成される。ホスホリパーゼB(EC3.1.1.5)は脂肪酸をsn−1とsn−2の両方の位置で非特定的に開裂させる。ホスホリパーゼC(EC3.1.4.10)はグリセリンとリン酸基との間のリン酸エステル結合を加水分解してホスフェートモノエステルとジアシルグリセロールを形成する。ホスホリパーゼD(EC3.1.4.4)は末端ホスホジエステル結合の加水分解の触媒として作用して開裂生成物のホスファチジン酸(phosphatidic acid)とコリンを生成する。
牛および豚膵臓からおよびミツバチの毒素や幾つかのヘビ種からホスホリパーゼA2の抽出は既に知られている。ホスホリパーゼは、バクテリアやカビの如き微生物からも抽出されるしまた組換え技術によって十分な収率で製造することもできる。
【0006】
特許文献1で、効率的酵素的脱ガム質方法が初めて提供されている。この新規方法は、ホスホリピッドのsn−2位置で脂肪酸を開裂させる酵素ホスホリパーゼA2を初めて使用している。この方法は、リン含量72〜110ppmのダイズ油とナタネ油でテストされた。反応バッチは油に対し5重量%(w/w)まで水を含有しそして40℃または60℃で最大5時間5.0〜5.5のpH値で培養された。製造されたリゾホスホリピッドは遠心分離により油から除去することができる。この方法の後、脱ガム質オイルの残存リンの量は5ppmより少なくなっている。
この脱ガム質方法で、油は規定量の水と混合される。次いで、酵素含有水相と油相は酵素が働くように混合される。水の量は、ここでは、できるだけ少なくすべきである。多量の水を用いるとエネルギー消費量が増加し且つ処分費用も増加する。それ故、少ない水含量(2%)を用いる酵素的脱ガム質方法は、既にこの点で有利である。
【0007】
特許文献2に、ホスホリパーゼA1の作用で植物油の酵素的脱ガム質が4.0と5.0の間のpH値で行われることが記載されている。この方法を実施するに最適なpHは4.5と5.0の間にある。このpH範囲で、放出されたカルシウムおよび/またはマグネシウムイオンが反応緩衝剤の他の化学種(アニオン)と結合して反応装置の表面に沈着して装置を汚す難溶性塩を形成する。そのような汚れの除去と装置のクリーニングは骨の折れることである。装置の内壁の汚れを少なくするために、反応は好ましくは約4のpH値で実施される。しかしながら、酵素は、反応のpH値がさらに低下するならば、活性が低下しあるいは機能的に不活性となる。
【0008】
特許文献3は、アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)にホスホリパーゼAが食用油の脱ガム質用に見つけられたことが記載されている。
特許文献4は、分子量65kDaのホスホリパーゼが食用油の脱ガム質用に水含量5%で65℃までの温度でアスペルギルス フミガタス(Aspergillus fumigatus)中で用いられることが記載されている。
特許文献5は、油に関して15%の水含量で、60℃で6時間で油の脱ガム質のためにバチルス セレウス(Bacillus cereus)のホスホリパーゼCを使用することを記載している。この方法の後で、残存するリンの含量は5ppmより少なくなる。
特許文献6には、油の脱ガム質の方法の反応時間はホスホリパーゼA1またはA2とホスホリパーゼCとの反応で、それぞれ、30分間短くなることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許第0513709号
【特許文献2】米国特許公開第2007/134777号
【特許文献3】欧州特許第0904357号
【特許文献4】国際公開第2008/040466号パンフレット
【特許文献5】欧州特許第1788080号
【特許文献6】国際公開第2008/094847号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ホスホリパーゼは、食品工業および飼料工業において、例えばドウの製造のために、パン製品の製造のために、チーズ製品の収率を増加させるために、等々多方面で用いられている。このように、技術において使途広く用いられるホスホリパーゼの需要がある。
生物工学において、ホスホリパーゼはホスホリピッドの抽出用生物触媒として用いられる。ホスホリパーゼは極性脂質であり、それらの親油的および親水的構造の特徴により乳化剤として作用する。実施例は、改質レシチンの製造に、ソース、マヨネーズおよびサラダドレッシングの製造における食品乳化剤として、ミルク、ココアおよびコーヒー粉末の如きインスタント粉末の製造に、チョコレートの製造における流動改良剤として、および食品補助剤としての、ホスホリパーゼの用途である。製薬および化粧品工業において、ホスホリピッドとリゾホスホリピッドは、クリーム、ローション、ゲルおよびリポゾーム調合品の製造に用いられている。
【0011】
レシチンも同様に、ワニス、塗料、磁気テープ、特殊紙、レザーおよび編織布の製造のために必要とされる。ホスホリパーゼも、同様に、編織布工業において、色付けのようなさらなる工程が行われる前に、植物繊維をきれいにするための“生物洗滌”(bioscouring)用に用いられる。ホスホリパーゼの他の酵素と一緒になった混合物はここでも用いられる。他の酵素は、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ピクチナーゼ、プロテアーゼおよび酸化還元酵素の群から選択される。
このように、技術分野において、応用可能性の大きな且つ最大限に利用された分野を持つ、ホスホリパーゼの変わらない需要がある。
【0012】
本発明は、それ故、改良されたホスホリパーゼ性能を備えた蛋白質またはポリペプチドを提供することを目的とすることを基本とする。新規なホスホリパーゼは、特に、工学的方法に関連のあるリパーゼ活性を示すべきではない。特に、ホスホリパーゼ活性を持つ蛋白質は広いpH範囲に亘り活性であるべきであり且つ高度な耐温性であるべきである。
さらに、ホスホリパーゼ活性を有する蛋白質の製造は、簡単な、費用効率がよく且つ商業的であるべきである。さらに、ホスホリパーゼ活性を持つ蛋白質の製造のために適切な、本発明による発現構造が提供されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的は、実質的にリパーゼ活性を持たず、ホスホリパーゼ活性を有するポリペプチドをコードする、DNA配列によって解決される。そのDNA配列は、a)SEQ ID NO:1によるヌクレオチド配列を有するDNA配列、b)SEQ ID NO:1によるコード化配列を有するDNA配列、c)SEQ ID NO:2による蛋白質配列をコードするDNA配列、d)図7による制限マップを持ち受託番号DSM22741で寄託されている、プラスミドpPL3949−Topo2.5によってコードされるDNA配列、e)a)、b)、c)またはd)によるDNA配列の1つとしてストリンジェント条件下で交雑するDNA配列、f)遺伝子コードの減成によりa)、b)、c)、d)またはe)によるDNA配列に関連するDNA配列およびg)a)〜f)による配列に対する相補鎖から選ばれることを特徴とする。
【0014】
本発明は、さらに、a)上記定義されたDNA配列のコード化部分によってコードされるポリペプチド、b)SEQ ID NO:2による配列または1つまたはそれ以上のアミノ酸が置換、付加もしくは除去されることによって得られる、上記配列から誘導される配列を持つポリペプチド、c)SEQ ID NO:2のアミノ酸1〜299と少なくとも83%の同一性を持つ配列を持つポリペプチド、d)(i)SEQ ID NO:1のヌクレオチド55〜1106、(ii)SEQ ID NO:1のヌクレオチド55〜1106に含有されるcDNA配列、(iii)少なくとも100ヌクレオチドからなる、(i)または(ii)の部分配列、または(iv)(i)、(ii)または(iii)の相補鎖とストリンジェント条件で交雑する核酸配列によってコードされるポリペプチド、e)1つまたはそれ以上のアミノ酸の置換、除去および/または挿入からなる、SEQ ID NO:2のポリペプチドの変異型、f)アミノ酸配列a)〜e)に対するアレリック変異型から選ばれる、実質的にリパーゼ活性のない、ホスホリパーゼ活性を持つポリペプチドに関する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】アスペルギルス フミガタスからの精製ホスホリパーゼのIEFゲル トラック1:等電性焦点校正キットからのマーカー蛋白質、pH2.5−6.5、トラック2−3:pl約4.1のホスホリパーゼ バンドが矢印で同定されている。
【図2】トリコダーマ リーゼイ RH32664中で発現される組換えホスホリパーゼについてのT 最適曲線
【図3】トリコダーマ リーゼイ RH32664中で発現される組換えホスホリパーゼについてのpH最適曲線
【図4A】アスペルギルス フミガタス RH3949からの染色体ホスホリパーゼ遺伝子のヌクレオチド配列とそれに由来するアミノ酸配列、イントロンはイタリック体で印刷されており、アミノ酸配列は太字で印刷されている(SEQ ID NO:1)
【図4B】アスペルギルス フミガタス RH3949からの染色体ホスホリパーゼ遺伝子のヌクレオチド配列とそれに由来するアミノ酸配列、イントロンはイタリック体で印刷されており、アミノ酸配列は太字で印刷されている(SEQ ID NO:1)
【図5】アスペルギルス フミガタス RH3949からの染色体ホスホリパーゼ遺伝子のヌクレオチド配列(SEQ ID NO:1)
【図6】アスペルギルス フミガタス RH3949からのホスホリパーゼ遺伝子のアミノ酸配列(SEQ ID NO:2)
【図7】ベクターpPL3949−Topo2.5の制限マップ
【図8】発現ベクターpAB500−PL3949の制限マップ
【発明を実施するための形態】
【0016】
さらに、本発明は、本発明におけるホスホリパーゼ活性を持つポリペプチドを表現し得る発現構造(expression constructs)またはホストに関する。さらに、本発明は、それぞれの発現プラスミドおよびベクターに関する。さらに本発明は、本発明によるポリペプチドを用いて植物油の脱ガム質を行うための方法ならびに本発明によるポリペプチドの食品工業の分野における、特にドウ、パン製品または日用品を製造するための使用あるいは動物栄養学における使用および編織布の原材料の加工、いわゆる洗滌または生物洗滌への使用に関する。
【0017】
さらなる態様によれば、本発明は、28〜30kDAの範囲の分子量、好ましくは約28.6kDaの分子量、広い至適pHおよび耐高温性を有しそしてアスペルギルス属の生物から単離することができることで特徴づけられる、実質的にリパーゼ活性のない、ホスホリパーゼ活性を持つポリペプチドに関する。
この点に関し耐高温性とは、2%の水含量の油脱ガム質法の条件下、60℃の温度で6時間後に、酵素がその活性を工業的に利用できる程度まで保持していることを意味する。酵素が残存するリンの含量がいわゆる技術的に重要でない油を生産する場合、酵素は、その活性を工業的に利用できる程度まで保持している。好ましくは、酵素的に脱ガム質された油の残存リンの含量が10ppm未満、より好ましくは5ppm未満である。
【0018】
驚くべきことに、低分子量のみならず、耐高温性を有する、実質的にリパーゼ活性を持たない、ホスホリパーゼ活性を持つポリペプチドをコードするDNA配列がアスペルギルス フミガタス(Aspergillus fumigatus)属の菌株から単離されることが見い出された。このホスホリパーゼは、約28.6kDaの見積り分子量を持つ、繊維状菌類から誘導され、レシチンから2つの脂肪酸の少なくとも1つを加水分解しうる、酸性ホスホリパーゼである。
【0019】
当該技術分野の水準で公知の、ホスホリパーゼ活性を持つポリペプチドと比較して、本発明によるホスホリパーゼは耐高温性(60℃)を有しそして、それ故2%の低含水率(油に対して)且つ4.0のpH値で、酵素的脱ガム質法で有益に用いられる。これは、酵素の不活性化ができるだけ起らないように、酵素的脱ガム質を行う脱ガム質法において、油の温度を最初は低くしてはならず、次いで水相から油相を分離するために用いられる遠心分離工程のために油の粘度を低下させるために、油の温度を再び高くしなければならないので、特に経済的である。本発明による、ホスホリパーゼ活性を持つポリペプチドの耐温性は、それぞれ食品技術や動物栄養学の分野および編織布加工の分野において、他の応用にも有利である。
当該技術分野の水準で公知のホスホリパーゼは本発明の範囲から除外される。
それ故、本発明によるエイ.フミガタスから誘導されたホスホリパーゼは3〜5の広いpH範囲で活性であり且つこの範囲で広い至適活性を示すことは特に有利である。それ故、本発明によるホスホリパーゼはそれらが本質的にリパーゼ活性を示さないという利点を持つだけではない。それらは、さらに、広いpH範囲に亘り酵素活性を発現ししかもそのため広いpH範囲に亘って用いられる。
【0020】
アルペルギルス フミガタスからのホスホリパーゼ活性(ホスホリパーゼA、B、CまたはD)を持つ酵素はこれまでにも幾つかの刊行物に述べられている(バーチら、臨床と周囲のアスペルギルス フミガタス単離体中の細胞外ホスホリパーゼ活性の比較 2004、Med Mycol 42(1):81−86;レメンテリアら、アスペルギルス フミガタス毒性に関与する遺伝子と分子、2005、Rev lberoam Micol 22(1):1−23)が、正確には特徴づけされていなかった。アスペルギルス フミガタスのゲノム配列から(ニールマンら、病原性およびアレルギー性繊維状菌アスペルギルス フミガタスのゲノム配列、2005、Nature,438(7071):1151〜6)、幾つかの仮定のホスホリパーゼ(A、B、C、D)およびリゾホスホリパーゼ遺伝子が用語“形式翻訳”’(conceptual translation)の下で誘導された。かくして、例えば241のアミノ酸を持つ1つの仮定ホスホリパーゼAと高い高分子量を持つ3つのリゾホスホリパーゼPIb1、PIb2およびPIb3が表示された。さらに、データベースは299のアミノ酸と約28.5kDa(GenBank EAL86100)の見積り分子量を持つ小さな仮定細胞外リパーゼのみならず409と587の間のアミノ酸を持つ幾つかのリパーゼを示している。
【0021】
シェンら(条件的菌アスペルギルス フミガタスからのホスホリパーゼBの特徴と発現 2004、FEMS Microbol Lett 239(1):87−93)はアスペルギルス フミガタスからの3つのホスホリパーゼB遺伝子のクローニングと特徴づけに成功した。633のアミノ酸を持つ分泌蛋白質AfPL1および630のアミノ酸を持つAfPL3は約68kDaの分子量を有する。蛋白質AfPL2は588のアミノ酸を持つサイトゾル蛋白質であり、約63kDaの分子量を有している。
さらに、633のアミノ酸を持つホスホリパーゼ(WO2008/040466)および611のアミノ酸を持つリゾホスホリパーゼ(WO2008/040465)はアスペルギルス フミガタスRH3949から単離された。
さらに、28〜30kDaの範囲の小さな分子量を持つ酸性ホスホリパーゼ(pl 4.1)は、アスペルギルス フミガタスRH3949のゲノム中に発見された。
【0022】
この“小さな”ホスホリパーゼの蛋白質配列方法において、最初の16のアミノ酸は、アスペルギルス フミガタスAf293からの299のアミノ酸を持つ仮定の細胞外リパーゼ(GenBank EAL86100)のN−末端配列とN−末端において93%同じであることを示した。RH3949からの“小さなホスホリパーゼ”の成熟した(AA30〜299)配列の仮定の細胞外リパーゼの配列との同一性は、しかしながら、ただの約82%である。これは、さらなるアスペルギルス フミガタス菌株(A1163)のゲノム中の比較部位においてAf293からの仮定のリパーゼとかなり高度の同一性を持つ配列が見つかっていたので、驚くべきことである(GenBank EDP1054)(フェドロバら、病原性:繊維状菌アスペルギルス フミガタス中のゲノム島 2008、PloS Genet.4.e1000046)。
【0023】
これに対してアスペルギルス フミガタスAf293(241のアミノ酸を持つホスホリパーゼ、GenBank EAL85761)とアスペルギルス フミガタスRH3949(pl4.1を持つホスホリパーゼ)からの2つのN−末端ホスホリパーゼ配列間には類似性は存在しない。
それ故、本発明によるホスホリパーゼは、アスペルギルス フミガタスはもちろんのこと、Af293の如き密に関連したアスペルギルス フミガタス菌のリパーゼとして注釈された配列からの公知のホスホリパーゼとは異なっている。
【0024】
本発明によれば、幾つかのオリゴヌクレオチド プライマーは、仮定の細胞外リパーゼ(GenBank EAL86100)のためのDNA配列データ(GenBank AAHF01000011)から誘導および合成された。
驚いたことに、本発明によるDNA配列は、菌株Af293のゲノム配列から誘導されたプライマーによってアスペルギルス菌株RH3949から単離され得ることが発見された(実施例4参照)。このことは、増幅のために用いられた菌株RH3949(周囲単離体)がAf293(臨床単離体)と表現型的に異なっており、それ故殆ど間違いなく遺伝子的(配列)にも異なっているために予測されなかった。このように、菌株Af293のゲノムDNA上のN2−3948とApal−3949に隣接する結合部位を持つ他のプライマー対によってRH3949からのホスホリパーゼ遺伝子を増幅させることは可能ではなかった。
遺伝子の増幅はアスペルギルス フミガタスRH3949のゲノムDNAからポリメラーゼ鎖反応(PCR)の助力により実施された。
【0025】
本発明によるホスホリパーゼの耐温性と広い至適pHは、当該技術分野の水準で記載されたホスホリパーゼの基準では驚くべきことであったし、予期できなかった。当該技術分野の水準で記載されているとおり、繊維状菌から誘導された天然産のホスホリパーゼはどれ1つとして、これらの性質を記載は疎か示唆すらもしていなかった。
本発明によるSEQ ID NO:2によるホスホリパーゼ配列は当該技術分野の水準のホスホリパーゼ配列と比較された。アミノ酸配列の部分的類似性は他のアスペルギルス菌株からの公知のアミノ酸配列すなわちアスペルギルス ツビンゲンシス(Aspergillus tubingensis)のリパーゼ(WO98/45453)あるいはアスペルギルス フォティダス(Aspergillus foetidus)からのリゾホスホリパーゼ(EP0808903)と60%、アスペルギルスニガーのホスホリパーゼ(WO03/097825、WO98/31790)と59%の類似性を持つことが発見された。
【0026】
SEQ ID NO:2の配列は、アスペルギルス フミガタスAf293からの細胞外リパーゼ(GenBank EAL86100)の仮定配列と82%と高い同一性を示している(ニールマンら、病原性およびアレルギー性繊維状菌アスペルギルス フミガタスの遺伝子配列、2005、Nature、438(7071):1151−6)。
驚いたことに、本発明によるアスペルギルス フミガタスRH3949から単離されたホスホリパーゼは、食用油の酵素的脱ガム質の条件下では、この方法と関連するリパーゼ活性を示さない。さらに、この酵素は、これまでに知られた他のアスペルギルス菌株からのホスホリパーゼに対し著しく広いpH至適範囲と耐高温性をもっている。すなわち、本発明による酵素は、油の中のトリグリセリド結合の如何なるあるいは単に重要でない部分をも加水分解しないので、食用油の酵素的脱ガム質の方法で有利に用いられる。
【0027】
さらに、本発明は、同様に、SEQ ID NO:2による配列と少なくとも83%の同一性を持つ配列を持った、実質的にリパーゼ活性のない、ホスホリパーゼ活性を持つポリペプチドに関するものでもある。好ましくは、本発明は、SEQ ID NO:2のアミノ酸1〜299と少なくとも83%の同一性を持つ配列を持った、ホスホリパーゼ活性を持つポリペプチドに関する。好ましくは、SEQ ID NO:2のアミノ酸1〜299との同一性の度合は少なくとも90%であり、より好ましくは少なくとも95%、さらに好ましくは少なくとも97%、特に好ましくは少なくとも98%である。但し、それぞれの配列は実質的にリパーゼ活性を持たずホスホリパーゼ活性を有するものとする。
【0028】
本発明によるホスホリパーゼ活性を持つポリペプチドは、如何なる重要なリパーゼ活性も持たないかあるいはむしろ実質的にリパーゼ活性を持っていない。本発明によるポリペプチドは、油の脱ガム質の工業的方法にとって不利益となるリパーゼ活性を実質的に有さない。すなわち、本発明のポリペプチドは脱ガム質されるべき油の中の脂肪分解的に開裂可能な化合物に対して実質的に如何なる活性も示さない。このことは、食用油の酵素的脱ガム質の条件下で、本発明によるホスホリパーゼはこの方法に関連のあるリパーゼ活性を示さないことを意味している。技術的に云えば、このことは、本発明によるホスホリパーゼ活性を持つポリペプチドは、リパーゼ基質としてのp−ニトロフェニルパルミテートを、わずかなおよび/または検知できない程度でしか加水分解しないことを意味している。本発明によるホスホリパーゼ活性を持つポリペプチドについて、ホスホリパーゼ活性対リパーゼ活性の比は好ましくは>1,000:1、より好ましくは5,000:1〜10,000:1、さらに好ましくは7,000:1、最も好ましくは7,500:1である。
【0029】
配列同一性の度合は、好ましくは、比較と関連し且つ他の配列中の“相当する”部分を持つ比較的短い配列の残基の数が決定されるようにして求められる。本発明の目的に対して、同一性は、好ましくは通常の計算法を用いて通常のやり方で求められる。本発明によれば、cDNA類またはそれぞれの成熟した蛋白質のアミノ酸が比較のために用いられる。同様に、好ましい同一配列部分は、本発明によれば公知のコンピュータープログラムによって、同族配列として求められる。その種のプログラムの例はプログラムパートAlign Plusを含みそしてサイエティフィック アンド エデュケイショナル ソフトウエア社(Scientific & Educational Software)、ダーハム、NC、USAによって配布されている、プログラム クローン マネージャー スート(program Clone Manager Suite)である。上記の如き、2つのDNA配列またはアミノ酸配列の比較は、それによって、ファストスキャン−マックススコア(FastScan−MaxScore)法あるいはニードルマン−ブンシュ(Needleman−Wunsch)法のいずれかにより、規定値を維持しつつ、選択局所調整(option local alignment)の下で実施される。特に、“比較2配列/ローカル ファストスキャン−マックススコア(Local Fast Scan−Max Score)/比較DNA配列”またはアミノ酸については“比較2配列/グローバル/比較アミノ酸としての配列”の機能を備えた、プログラムバージョンの“クローン マネージャー 7 アライン プラス5(Clone Manager 7 Align Plus5)”が本発明による同一性を計算するために用いられる。次の提供源から入手されたアルゴリズムが用いられた:ヒルシュベルグ、ディー.エス.1975、極大共通サブ配列を計算するための線状空間アルゴリズム、Commun Assoc Comput Mach 18:341−343;メイヤー、イー.ダブリュー.およびダブリュー.ミラー、1988、線状空間における最適調整、CABIOS 4:1、11〜17;チャオ、ケー−エム、ダブリュー.アール.ピアソンおよびダブリュー.ミラー、1992、特定対角バンド内の2配列の調整、CABIOS 8:5、481〜487。
【0030】
本発明は、さらに、ホスホリパーゼ活性を持つ上記ポリペプチドの付加分子および/または削除分子に関する。すなわち、本発明により改質された、ホスホリパーゼ活性を有するポリペプチドは、N−末端および/またはC−末端にさらなる配列を付加することによって長くすることができ、それによってかくして得られたアミノ酸配列は依然としてリパーゼ活性を実質的に持たず、ホスホリパーゼ活性を示さなければならない。それによる交雑分子はさらなる有利な性質を有して製造される。例えば、懸濁蛋白質またはそれらの天然の前駆形態が大きく分泌された蛋白質に添加され、それは分泌効率をさらに強める。さらに、他の酵素の活性配列セグメントが多様な特異性を備えた酵素を製造するために添加される。さらに、極性あるいは非極性配列がかくして得られた酵素の溶解性あるいは膜易動性に特に影響を与えるために添加される。
【0031】
ホスホリパーゼ活性を持つポリペプチドの配列セグメントも、本発明によれば、実質的にリパーゼ活性がなく、ホスホリパーゼ活性を維持したままで、削除することができる。突然変異、伸長および短縮はそれ自体公知の方法で且つ当該技術分野で公知の方法を利用して実施することができる。短縮されたポリペプチドは、原寸のポリペプチドと比較して増強された分泌高さによって特徴づけられることが多い。それらは、さらに、“圧縮された殻”を含有するだけなので、原寸ポリペプチドと比較してより高い熱安定性を示す。
そのような異形の製造は、一般に、当該技術分野で公知である。例えばポリペプチドのアミノ酸配列異形はDNAによる突然変異によって製造される。核酸配列の突然変異誘発と変化のための方法は当該技術分野でよく知られている(例えばトミックら、NAR、18:1656(1990)、ギーベルとスプルティス NAR、18:4947(1990)参照)。
【0032】
重要な蛋白質の生物学的活性に悪影響を与えない適切なアミノ酸置換の詳細は、デイホフら、蛋白質配列と構造の図解、Natl.Biomed.Res.Found.,ワシントン,D.C.(1978)によるモデルの中に見つけることができる。アミノ酸の、同様の性質を持つ他のアミノ酸による置換の如き保存的置換が好ましい。これらの置換は、一緒になって4つのサブグループを持つ2つの主なグループに分けられ、各サブグループにおける置換は、蛋白質の活性あるいは折りたたみに好ましくは影響を与えない、保存的置換と云われている。
【0033】
【表1】

【0034】
“蛋白質”“プペチド”および“ポリペプチド”という表現は実質的に互換可能に用いられる。ホスホリパーゼ活性を持つポリペプチドもしくは酵素またはホスホリパーゼはホスホリピッド例えばレシチンから脂肪酸を放出する触媒として作用する酵素のことをいっている。ホスホリパーゼ活性は、これらの基質の1つが用いられている、それ自体公知の測定法を使用することによって求められる。
【0035】
本発明によるポリペプチドに関して“ホスホリパーゼ”またはホスホリパーゼAの表現はホスホリパーゼA1活性とホスホリパーゼ活性A2を持つ酵素のことを云っている。ホスホリパーゼA1またはA2は、それによって、それぞれ、標準酵素EC分類により、EC3.1.1.32または3.1.1.4として定義されている。
ホスホリパーゼBまたはリゾホスホリパーゼは標準酵素EC分類EC3.1.1.5によるポリペプチドである。
【0036】
本発明は、同様に、ホスホリパーゼ活性を持つポリペプチドをコードする、SEQ ID NO:1による配列の突然変異形、修飾形または変異形からなる、DNA配列に関するものでもある。さらに、本発明は緩和もしくはストリンジェント条件下で上記配列を交雑する配列に関するものでもある。下記条件はストリンジェントであると見做される:デキストラン サルフェート溶液(Genescreen−Plus、デュポン)中、65℃で18時間の交雑、次いで65℃で30分間、それぞれ先ず6×SSCで、2回 2×SSCで、2回 2×SSCで、0.1%SDSでそして最後に0.2×SSCで、濾材を洗滌(膜移動および検出法、アマーシャム)。
【0037】
さらに、本発明は、遺伝子コードのみならずそのアレリック変異形の同義性による、本発明の上記配列に関係するDNA配列に関する。遺伝子コードの変異形はそれによって天然同義性または特に選ばれたコドン使用を生じる。天然産のアレリック変異形は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)または交雑技術の如き分子生物学の周知技術によって特定される。
【0038】
本発明は、本発明によるDNA配列を含有する、組換え原核生物のおよび/または真核生物のホストセルの、酵素の発現のみならず引き続く酵素の抽出を促進する条件下での成長を含む組換え技術を用いて、ホスホリパーゼ活性を持つポリペプチドを製造する方法に関するものでもある。本発明は、さらに、他の生物中の相当する酵素のみならずホストセルの形質転換をコードする類似の配列の検出のためのプローブを製造するための、本発明によるポリヌクレオチド配列の使用に関するものでもある。
【0039】
本発明によるポリペプチドをコードするDNA配列は、カビ、イースト、バクテリア、植物または哺乳動物のセルの如きホストセルを形質転換するのに用いられる。そのようにして形質転換されたセルは本発明によるホスホリパーゼの分泌によって特徴づけられる。そのようにして製造されたホスホリパーゼ酵素はホスホリピッドから脂肪酸を効果的に加水分解する。
【0040】
本発明は、本発明によるホスホリパーゼをコードするDNA配列を導入するためにあるいはホストセル中に開放読取りフレームを導入するために、用いられる発現カセットに関するものでもある。それらは、好ましくは、開放読取りフレームと結合している転写開始領域を含有する。その種の発現カセットは、開放読取りフレームおよび/または他のDNA例えば転写制御領域および/または選択可能なマーカー遺伝子を導入するための、種々の制限開裂部位を含有している。転写カセットは、転写の5’→3’方向に転写開始領域と翻訳開始領域、注目のDNA配列および転写停止領域ならびに微生物セル中で官能性である翻訳停止領域からなる。停止領域は転写開始領域に関して固有のものでも、注目のDNA配列に関して固有のものであってもあるいは他の源から誘導されたものであってもよい。
【0041】
“開放読取りフレーム”(ORF)という表現は、コード化配列の翻訳開始コドンと翻訳停止コドンとの間でコードされるアミノ酸配列のことを言っている。“開始コドン”および“停止コドン”という表現は、蛋白質合成(mRNA翻訳)の鎖開始と鎖停止とを特定する、コード配列中の3つの隣接するヌクレオチド(コドン)の1つの単位のことを言っている。
核酸に関して“作用結合”は、プロモーターの転写開始の適切な位置と方向において同じ核酸分子の部分としての化合物のことを言っている。プロモーターへの機能的結合におけるDNAはプロモーターの転写開始制御下に置かれている。コード化配列はセンス配向また非センス配向で調節配列と作用的に結合されている。ポリペプチドに関して、作用結合は同じポリペプチドの部分としての、すなわちペプチジル結合を介しての、結合のことを言っている。
【0042】
本発明によれば、いかなるプロモーターを用いることができる。プロモーターは、通常、コード化配列に対するヌクレオチド配列上流(5’)のことを言っておりそして正しい転写に必要なRNAポリメラーゼと他のファクターの認識を与えることによってコード化配列の表現を制御している。本発明により用いられるプロモーターは、最小のプロモーター、すなわちTATAボックスからの短いDNA配列と、調節エレメントが発現制御のために取付けられている転写開始部を特定する他の配列とを有している。
【0043】
本発明により用いられるプロモーターは、同様に、最小のプロモーターと調節エレメントを含有するヌクレオチド配列を含有することもでき、そしてコード化配列もしくは機能的RNAの表現を制御することができる。この種のプロモーター配列は上流に位置する近接した且つ末梢のエレメントからなり、それによって最後に名付けられたエレメントはしばしばエンハンサーと言われる。従って、エンハンサーはプロモーター活性を刺激し、そしてプロモーターに固有のエレメントまたはプロモーターの表現高さや組織特異性を改良するために挿入された異種エレメントであるDNA配列であることもできる。それは両方配向で機能しまたそれがプロモーターに対して上流または下流に位置しているに場合にも機能する。エンハンサーのみならず他の上流に位置するプロモーターエレメントもそれらの効果を仲介するDNA結合性蛋白質に配列特異的に結合する。プロモーターは、天然遺伝子からそっくりそのまま誘導することができ、また異なる複数の天然産プロモーターから誘導された異なる複数のエレメントからなることができ、あるいは合成DNAセグメントからなることさえ可能である。プロモーターは生理学的または進化と関連した条件への反応として転写開始の効率を制御する蛋白質ファクターの結合に関与するDNA配列を包含することもできる。
【0044】
プロモーターエレメント、特に不活性であるかあるいは上流活性化の非存在下で大きく低減されたプロモーター活性を持つTATAエレメントは最小のプロモーターまたはコアプロモーターと言われる。適切な転写ファクターまたは複数の適切な転写ファクターの存在下で、最小のプロモーターの機能が転写を可能とする。このように、最小のプロモーターまたはコアプロモーターだけは、転写開始に必要となる全ての基本的エレメント例えばTATAボックスおよび/または開始体からなる。
【0045】
本発明は、また、本発明のDNA配列を有するベクター構成体に関する。これらのベクター構成体は、二本鎖もしくは一本鎖の、線状もしくは環状の形態にある、プラスミド、コスミド(cosmid)、ファージまたは他のベクターを有し、それ自体を転写可能もしくは移動可能でありそして細胞ゲノム中に組込みによって原核生物のもしくは真核生物のホストを形質転換するかあるいは染色体外的に存在する(例えば複製原点を持つ自律的に複製するプラスミド)。
【0046】
細胞の形質転換のために用いられるベクター、プラスミド、コスミド、人工イースト染色体(YAC)、人工バクテリア染色体(BAC)およびDNAセグメントは、一般に本発明のホスホリパーゼをコードするDNA、およびcDNAの如き他のDNA、細胞中に導入されるべき遺伝子を有する。これらのDNA構成体は、プロモーター、エンハンサー、ポリリンカーの如きさらなる構造体あるいは同様に必要により調節遺伝子を有する。細胞導入のために選ばれるDNAセグメントまたは遺伝子の1つは、このようにして得られた形質転換された(組換え体)細胞中に発現され、隠蔽でき且つ選択できる性質に導きそして改良された表現型を備えた形質転換された細胞を与える、蛋白質をうまい具合にコードする。
【0047】
本発明で用いられるベクターの構造は上記記載と一般の熟練者の知識により当業者には知られている(例えば、サムブルークら、分子コローニング:実験室マニュアル(2版、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー プレス、プレインビュー、N.Y.(1989)参照)。
【0048】
本発明の発現カセットは調節配列の制御の下で、ホスホリパーゼをコードするポリヌクレオチドを導入するため、1つもしくは幾つかの制限部位を有する。発現カセットはポリヌクレオチドとポリヌクレオチドの正当な翻訳のために必要とされる調節配列とに調節可能に結合する停止シグナルを有する。本発明のポリヌクレオチドを有する発現カセットはキメラ性、すなわちその成分の少なくとも1つが他の成分の少なくとも1つに関して異種である、ことができる。発現カセットにおけるポリヌクレオチドの発現は、構築プロモーター、誘導プロモーター、制御プロモーター、ウィルスプロモーターまたは合成プロモーターの制御による。
【0049】
ベクターは既に制御成分例えばプロモーターを含有しているかあるいは本発明のDNA配列はそのような成分を含有するように処理される。用いられる適当なプロモーター成分は、当該技術分野で知られており、例えばトリコダーマ リーゼイについてcbh1プロモーターまたはcbh2プロモーター、アスペルギルス オリゼーについてアミイ(amy)プロモーター、アスペルギルスニガーについてキシル(xyl)プロモーター、glaAプロモーター、alcAプロモーター、aphAプロモーター、tpiAプロモーター、gpdAプロモーター、suclプロモーターおよびpkiAプロモーターである。酵母中で発現するために用いられる適当なプロモーター成分は、当該技術分野で知られており、例えばサッカロマイセス セルビシエ中で発現するためのpho5プロモーターまたはギャッププロモーターおよびピキア パストリス(Pichia pastoris)について例えばaoxlプロモーター、またはfmdプロモーターあるいはH.ポリモルファ(polymorpha)のためのmoxプロモーターである。
【0050】
細胞中に導入するのに適当なDNAは、本発明のDNAの他に、如何なる起源から誘導されあるいは単離されたDNAを、同様に含有することができる。誘導されたDNAの例は有用なフラグメントとして特定の生物中で同定されそして基本的に純粋な形態で化学的に合成されたDNA配列である。そのようなDNA配列の例は、例えば制限エンドヌクレアーゼの使用によって得られた適当なDNA配列である。それはさらに処理され例えば本発明により増幅されてもよい。標識遺伝子として用いられる、アスペルギルス ニドゥランス(nidulans)からのamdS遺伝子、その調節配列並びにポリリンカーはとりわけ特別である。
そのようなDNAは、通常組換えDNAと呼ばれている。すなわち、適当なDNAは完全に合成されたDNA、半合成DNA、生物学的起源から単離されたDNAおよび導入されたRNAから誘導されたDNAからなる。一般に、導入されたDNAは受容体DNAの遺伝子型の本来の部分ではないが、本発明によれば遺伝子は特定の遺伝子型から単離されてもよく、そしてその遺伝子の場合により変性され且つ引き続く多重複写体が、例えば特定の遺伝子産品の生産を増加させるために、同じ遺伝子型中に導入されてもよい。
【0051】
導入されたDNAは、バクテリア、イースト、菌類またはウイルスからのような遺伝子からのDNAを何ら制限なく含有する。導入されたDNAは改質されたもしくは合成された遺伝子、遺伝子の部分、あるいは同一もしくは異なる遺伝子型の遺伝子を含むキメラ性遺伝子を含有してもよい。これは、また、例えばプラスミド pUC18、pUC19のDNAを含有してもよい。
形質転換のために、本発明で用いられるDNAは、環状、線状、二本鎖または一本鎖であることができる。一般にこのDNAはプラスミドDNAの如きキメラ性DNAであり、調節配列が両側に配置されそして転質転換された細胞中に存在する組換えDNAの発現を裏付けるコード域も含有する。例えば、このDNAそれ自体は細胞中で活性であり、その細胞中とは異なる起源から誘導されるプロモーターを含有もしくは成ることができあるいは細胞すなわち形質転換対象細胞中に既に存在しているプロモーターを用いることもできる。
一般に、導入されるDNAは、DNAのサイズとともに増大する物理的、化学的または酵素的減成に対する感応性を最小とするために比較的小さく約30kb未満である。
【0052】
適当な発現ベクターの選択は宿主細胞に依存する。イースト発現ベクターまたは菌類発現ベクターは、複製源、適当なプロモーターとエンハンサーならびに必要なリボゾーム結合部位、ポリアデニル化部位、スプライスドナー部位とスプライス アクセプター部位、転写停止配列および非複写5’−両側配置性配列を含有することができる。
適当な宿主細胞の例は、アスペルギルス(Aspergillus)、リゾプス(Rhizopus)、トリコダーマ(Trichoderma)、ニューロスポラ(Neurospora)、ムコル(Mucor)、ペニシリウム(Penicillium)属等の菌類細胞例えばクルイベロマイセス(Kluyveromyces)、サッカロマイセス(Saccharomyces)、シゾサッカロマイセス(Shizosaccharomyces)、トリコスポロン(Trichosporon)、シュワニオマイセス(Schwanniomyces)、ハンセニュラ(Hansenula)、ピキア(Pichia)属等のイーストである。適当な宿主システムは、例えばアスペルギリ(Aspergill:例えばアスペルギルス ニガー(ATCC 9142)、アスペルギルス フィカウム(ficuum)(NRLL 3135)、もしくはトリコダーマ(例えばトリコダーマ リーゼイ QM6a)の如き菌類およびサッカロマイセス例えばサッカロマイセス セルヴィジェ、またはピキア例えばピキア パストリス、またはハンセニュラ例えばH.ポリモルファ(DSMZ 70277)の如きイーストである。そのような微生物は、確立された寄託機関例えばアメリカン タイプ カルチャー コレクション(ATCC)、セントラルビューロー フォル シメルカルチャー(CBS)またはドイッチェ サムルング ヒュル マイクロオーガニズメン ウント ゼルクルトゥレン GmbH(DSMZ)あるいは他の寄託機関から得ることができる。
【0053】
発現カセットは、5’−3’転写方向に本発明のポリヌクレオチドの転写開始域と翻訳開始域並びに試験管外もしくは試験管内で機能的である転写域と停止域を包含する。この停止域は転写開始域に関し天然のものであることができ、またポリヌクレオチドに関し天然であることもあるいは他の起源のものであることができる。調節配列は、コード配列の上流(5’非コード配列)、内側に(イントロン)位置するかあるいは下流(3’非コード配列)に位置することができ、そして転写、RNA処理または関連したコード配列の安定性および/または翻訳に影響することができる。調節配列は、エンハンサー、プロモーター、リプレッサー結合部位、翻訳先導配列、イントロンまたはポリアデニル化信号部位を何ら制限なく含有することができる。これらは天然および合成配列ならびに合成と天然配列の組合せである配列を含有することができる。
本発明により用いられるベクターは発現の増幅のための適当な配列を含有することもできる。
【0054】
本発明により用いられるプロモーターの例は真核細胞中での発現を制御する、公知のプロモーターである。線状菌類中で発現する能力を備えたプロモーターを用いることができる。でんぷんやセルロースによって強く誘発されるプロモーター例えばアスペルギルス属からのグルコアミラーゼもしくはα−アミラーゼのための、またはトリコダーマ属からのセルラーゼ(セルビオヒドロラーゼ)のためのプロモーター、ホスホグリセレートキナーゼ(PGK)やグリセロールアルデヒド−3−ホスフェート デヒドロゲナーゼ(GPD)の如きグリコール代謝経路中の酵素のためのプロモーター等がその例である。セロビオヒドロラーゼ−Iプロモーター、セロビオヒドロラーゼ−IIプロモーター、アミラーゼ プロモーター、グルコアミラーゼ プロモーター、キシラナーゼ プロモーターまたはエノラーゼプロモーターが好ましい。
【0055】
特別のプロモーターの使用に加えて、他の型の成分もトランス遺伝子(transgenes)に影響を与えることもある。イントロンがトラス遺伝子発現を増幅する能力を有することが特に実証された。
発現カセットは、さらなる成分例えば天然産亜鉛指蛋白質またはキメラ性亜鉛フィンガ蛋白質を包含する亜鉛フィンガ蛋白質の如き内因性もしくは外因性成分によって調節されうる成分を含有することができる。
本発明により用いられる発現カセットは、同様に、エンハンサー成分または上流プロモーター成分を含有することもできる。
【0056】
本発明による使用のためのベクターは、それがエンハンサー成分を含有するように構成される。本発明による構成は、転写を停止させそしてかくして得られるmRNAをポリアデニル化させる信号として作用する、3’DNA配列と共に関心のある遺伝子を含む。選択された宿主生物からの分泌を可能とする信号配列であれば使用することができる。好ましい信号配列は、アスペルギルス フミガタスからのホスホリパーゼ信号配列または線状菌類からの分泌のためにそれから誘導された信号配列である。
【0057】
特別な先導配列を用いることもできる。その理由は転写開始部位とコード配列の開始との間のDNA配列、つまり非翻訳先導配列は遺伝子発現に影響する。好ましい先導配列は付着された遺伝子の最適発現を制御する配列を含有する。すなわちそれは、mRNA安定性を増加させるかあるいは維持し且つ不適切な翻訳開始を妨げる好ましいコンセンサス先導配列を含有する。そのような配列の選択は当業者によく知られている。
形質転換体を同定する能力を改善するために、選択可能またはスクリーン可能なマーカー遺伝子は発現カセットに含まれていてもよい。そのようなマーカー遺伝子は当業者によく知られている。
【0058】
発現カセットまたはこの発現カセットを含有するベクター構成は宿主細胞中に導入される。宿主細胞中に構成を導入する、種々の技術が入手可能であり且つ当業者によく知られている。微生物細胞の形質転換は、ポリエチレングリコール、塩化カルシウム、ウイルス感染、DEAEデキストラン、ファージ感染、エレクトロポレーションおよび当該技術分野で知られた他の方法によって行うことができる。菌類の形質転換は、ペンチレらGene61:155−164、1987により行うことができる。イースト中への組換えベクターの導入はそれ自体知られた方法例えばエレクトロポレーション、スフェロプラスト、酢酸リチウムなどの使用により行うことができる。
【0059】
本発明の発現カセットまたはDNA配列を取得したら直ちに、適当な宿主組織中で暗号化されたポリペプチドを過発現させるために、それ自体知られた方法により、それをベクター中に導入する。しかしながら、そのようなDNA配列は、暗号化されたポリペプチドの過発現を得るために本発明の適当な宿主組織を形質転換するためにも用いることができる。
【0060】
本発明のDNA配列が適当な媒体中で適当な宿主細胞中で発現されれば直ちに、暗号化されたホスホリパーゼは、それが媒体中に分泌されれば媒体から、あるいはそれが細胞中に、例えば細胞壁間の空間に、存在するならば、宿主生物から、それ自体知られた方法により濃縮および/または単離される。培養媒体の不溶性部分とバイオマスを分離する公知の方法、その後ホスホリパーゼを濃縮する方法は濃縮ホスホリパーゼ溶液を製造するためにあるいはホスホリパーゼの乾燥品を調製するために用いられる。例えば、濾過法や遠心分離法が不溶性成分の除去に用いられ次いで濃縮のために超濾過法、あるいは交差流濾過法が用いられる。乾燥は凍結もしくは噴霧乾燥、顆粒化法、押出しあるいはその他の方法によって行われる。公知の蛋白質精製法が本発明のホスホリパーゼを単離するために用いられる。例えば、種々のクロマトグラフィーまたはゲルクロマトグラフィー法が単独であるいは組合せで用いられる。組換え製造法で用いられる宿主細胞に依存して、本発明の酵素はグリコシル化によって共有結合改質されてもよいし、されなくてもよい。真核細胞中において分泌された蛋白質のグリコシル化は蛋白折りたたみ、立体配座安定性、熱安定性および蛋白加水分解耐性の変調の基礎を提供する。ホスホリパーゼの特別が用途に関しては、その酵素のグリコシル化変形は非グリコシル化変形よりも好ましい。
【0061】
本発明は同様に、単離されたもしくは基本的に精製された核酸組成物および蛋白質組成物に関するものでもある。単離されたもしくは精製されたポリヌクレオチド/ポリペプチドまたはそれらのセグメントは、その自然環境から単離され且つさらなる使用に対して精製された形態で存在する、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドまたはそれらのセグメントのことを云う。単離されたポリ核酸セグメントまたはポリペプチドは精製された形態で存在することができあるいは遺伝子導入宿主細胞中の如き非自然環境中に存在することもできる。例えば、単離されたもしくは精製されたポリヌクレオチドセグメントまたは蛋白質またはその生物学的活性部分は、仮に組換え技術により製造されてもさらなる細胞物質や培養媒体を基本的に含んでいずあるいは化学的前駆体やその他の化学的化合物を基本的に含有していない。単離されたポリヌクレオチドは、好ましくは、その核酸が誘導される有機体のゲノム性DNA中の核酸(すなわち、核酸の5’端と3’端に局在化されている配列)を、自然に両側に配置している配列(好ましくは蛋白質暗号化配列)を含まない。例えば、別の態様によれば、単離された核酸分子は、その核酸が誘導される細胞のゲノム性DNA中の核酸分子を自然に両側に配置してる、約5kb、4kb、3kb、2kb、1kb、0.5kbまたは0.1kb未満のヌクレオチド配列を含有することができる。細胞物質を基本的に含まない蛋白質は約70%、50%、30%、20%、10%、5%(乾燥重量に関して)未満の汚染性蛋白質を持つ、蛋白質およびポリペプチドの組成物を含有する。もし、本発明の蛋白質またはその生物学的活性断片が組換え的に製造されるならば、培養媒体は約70%、50%、30%、20%、10%または5%(乾燥重量に関して)未満の化学的前駆体または非蛋白質様化学的物質を含有する。
【0062】
本発明は、同様に、本発明のポリペプチドを含有するホスホリパーゼ組成物に関するものでもある。ホスホリパーゼ組成物は一般に液体または乾燥物である。液体組成物はホスホリパーゼ酵素を精製されたあるいは豊富化された形態で含有する。しかしながら、安定剤および/またはグリセロール、ソルビトールもしくはモノプロピレングリコールの如き補助剤、塩、糖、保存剤、pH値調節剤および蛋白質の如き添加剤を添加してもよい。典型的な液体組成物は水性もしくは油性懸濁剤である。
【0063】
乾燥組成物は、酵素を含有するだけであってもよい、凍結乾燥された噴霧乾燥された、顆粒された、もしくは押出された組成物であることができる。乾燥組成物は、例えば食品もしくは飼料組成物と容易に混合されるかあるいは好ましくはプレミックスの一成分を形成する顆粒であることができる。好ましくは、酵素顆粒の粒径は混合物の他の成分のそれと適合する。これは、例えば加工食品、プレミックスあるいは動物飼料中に酵素を導入する安全且つ目的のある剤を可能とする。
乾燥組成物は、その利用におけるpH値の如きある種の条件を制御するために、塩、特にリン酸塩およびその脱水形態の如き他の添加剤ならびにポリ(ビニルピロリドン)の如き安定剤等を含有することもできる。
【0064】
本発明のこの態様による食品添加物は、加工食料品を製造するのと同様にして他の食品成分と一緒にすることができる。そのような他の食品成分は、1種またはそれ以上の酵素補助剤、ビタミン、ミネラルあるいは微量元素を含む。このようにして得られた、組合せの食品補助剤は、次いで加工食品を得るために、適当量で、穀物や植物蛋白の如き他の食品成分と混合される。これらの成分を加工食品に加工するにはそれ自体知られた加工装置によって行われる。
【0065】
本発明のホスホリパーゼ組成物は、好ましい態様で、食品もしくは動物飼料のための、または食品もしくは動物飼料の製造のためのプレステージの応用のための、あるいは繊維工業での応用のための、酵素1種またはそれ以上を有効量でさらに含有する。酵素は、好ましくは、アルファ−ガラクトシダーゼ、ベータ−ガラクトシダーゼ、ラッカーゼ、他のホスホリパーゼ、ホスファターゼ、エンドグルカナーゼ、特にエンド−ベータ−1,4−グルカナーゼ、エンド−ベータ−1,3(4)−グルカナーゼ、エンド−1,2−ベータ−グルカナーゼおよびエンド−1,3−アルファ−グルカナーゼ、セルラーゼ、キシロシダーゼ、ガラクタナーゼ、特にアラビノガラクタン−エンド−1,4−ベータ−ガラクトシダーゼおよびアラビノガラクタン−エンド−1,3−ベータ−ガラクトシダーゼ、ペクチン減成酵素、特にペクチナーゼ、ペクチンエステラーゼ、ペクチンリアーゼ、ポリガラクチュロナーゼ、アラバナナーゼ、ラムノガラクチュロナーゼ、ラムノガラクチュロナンアセチルエステラーゼ、ラムノガラクチュナン−アルファ−ラムノシダーゼ、ペクテートリアーゼおよびアルファ−ガラクチュロニダーゼ、マンナナーゼ、ベータ−マンノシダーゼ、マンナンアセチルエステラーゼ、キシランアセチルエステラーゼ、プロテアーゼ、キシラナーゼ、アラビノキシラナーゼ、脂肪分解性酵素例えばリパーゼ、ジガラクトンド−ジクリセロールエステラーゼおよびキュテナーゼ、ならびに他の酵素例えばラッカーゼやトランスグルタミナーゼから選ばれる。
【0066】
本発明のホスホリパーゼは種々に利用するために用いられる。例えばパン焼きや動物飼料にはもちろん菜種の如き再生可能なエネルギー源からの燃料の製造に、あるいは布原材料の加工に利用される。
好ましい利用は植物油の脱ガム質のための方法に本発明のホスホリパーゼを持つポリペプチドを用いることである。脱ガム質されるため食用油は、例えば本発明のポリペプチドで処理されそれによってホスホリピッドの大部分が加水分解され、引き続き加水分解されたホスホリピッドを含む水相が油から分離される。そのような方法はホスホリピッドを含有する植物油例えば大豆油、菜種油およびひまわり油の如き植物油の精製に特に適している。
【0067】
ホスホリパーゼ処理の前に、油は例えば湿潤精製により、ガム質物質を除去するための前処理をすることが好ましい。典型的には、油は本発明のホスホリパーゼを用いる、処理の初めにおいて、ホスホリピッドとしてのリンを50〜850ppm含有する。処理の後、リン含有量は典型的には2〜10ppmとなる。
ホスホリパーゼ処理は、一般にホスホリパーゼが水溶液中に、好ましくは平均粒径<10μmの滴の形態で、分散されるようにして行われる。水の量は、好ましくは、油に対して0.5〜5重量%(w/w)である。乳化剤は場合により添加してもよい。エマルジョンを保つために機械的に撹拌してもよい。ホスホリパーゼによる処理は約3.5〜約5.0の範囲のpH値で実施される。この方法のpH値は約3.5〜約5、好ましくは3.8〜4.5、最も好ましくは4.0〜4.2の範囲にある。酵素の能力発揮を最大とするためである。pH値は、例えばクエン酸、クエン酸緩衝液、リン酸または塩酸の添加によって調節される。適切な温度は一般に30℃〜70℃であり、好ましくは45℃〜65℃であり、最も好ましくは55〜62℃である。反応時間は典型的には1〜12時間、好ましくは2〜6時間である。適切な酵素量は一般に、油1kg当たり、通常120〜3,000ユニット、好ましくは250〜2,000ユニット、最も好ましくは750〜1,500ユニットである。
【0068】
ホスホリパーゼ処理はバッチ式例えばタンク中撹拌下で行うことができ、あるいは連続的に例えば一連のタンク式反応器中撹拌下で行うことができる。
ホスホリパーゼ処理は水相と油相の分離に引き続き行われる。分離は慣用手段例えば遠心分離によって行うことができる。水性溶液はホスホリパーゼを含有しそしてこの酵素はこの方法の経済性を改善するために再使用されることができる。
この処理はそれ自体知られた方法によって行うこともできる。
有利なことに、本発明のホスホリパーゼはドウ(パン生地)や焼パン製品を製造するのに用いることもでき、それによって本発明の有効量のポリペプチドがドウの中で作用する。本発明のホスホリパーゼ活性を有する、ポリペプチドを添加することによって、ドウやそのドウによって作られた焼きパン製品の1つまたは幾つかの性質は、本発明のホスホリパーゼ活性を有するポリペプチドが添加されないドウや焼きパン製品と比較して改善される。
【0069】
本発明のホスホリパーゼによるドウ調合には、ホスホリパーゼをドウそれ自体に、ドウを調製する成分に、および/またはドウを調製するドウ成分混合物に、添加することができる。本発明のホスホリパーゼ活性を有するポリペプチドは、かくしてドウ調製のいずれかの工程にそのままあるいは1つ、2つまたはそれ以上の工程に添加することもできる。ここで、有効量とは、ドウおよび/または焼きパン製品の注目する少なくとも1つの性質に予測しうる効果を起こすに十分なホスホリパーゼの量のことである。
【0070】
“改善された性質”という表現はここではドウおよび/またはドウ、特に本発明のホスホリパーゼが添加されなかったドウや製品に関してホスホリパーゼの効果により改善されたパン焼き製品から得られる製品の性質として定義される。改善された性質は例えば、改善されたドウ強度、改善されたドウ弾性、改善されたドウ安定性、低減されたドウ粘着性、改善されたドウ伸展性、改善されたドウ機械加工性、増加したパン焼き製品容量、パン焼きの製品の改善された団粒構造、パン焼き製品の改善された柔軟性、パン焼き製品の改善された香りおよび/またはパン焼き製品の遅延された老化が含まれる。これらの性質の測定方法は技術水準で公知である。
ドウはここで十分に混練またはロールされた固体である小麦粉および他の成分の混合物として規定される。ドウは、生でも混練されても、予め調理されてもプレベークされていてもよい。
【0071】
“焼きパン製品”という表現はここではドウによって調製されそして軟質であるかあるいはぱりっとしているかのいずれかである製品のことを云う。本発明のホスホリパーゼによって調製される焼きパン製品の例は、例えばパン(特に白パン、全麦パンまたはライ麦パン)、典型的にはフレンチバケット、パスタ、ピタパン、トルティーヤ、タコス、ケーキ、パンケーキ、クッキーペーストリー、調理パンおよび重ね焼きパン等々のパンやフランスパンの形態にあるパンである。
これらの焼きパン製品の製造において、本発明のホスホリパーゼ活性を有するポリペプチドおよび/または1種またはそれ以上のさらなる酵素がそれぞれの用途について好適な調合物中に、例えば乾燥品の形態で、液体としてあるいはプレミックスとして、添加されてもよい。さらに、1種またはそれ以上のさらなる酵素がドウに添加されてもよい。これらのさらなる酵素は如何なる起源のものでもよく、例えば哺乳類や植物から誘導されたものでもよい。好ましくは、それらは微生物起源のものであり、そして細菌や菌類に由来するものが特に好ましい。
【0072】
本発明の好ましい態様によれば、さらなる酵素は、α−アミラーゼ(イーストにより培養可能な砂糖を製造するためあるいは老化を遅延させるために適している)またはβ−アミラーゼ、シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ、ペプチダーゼ、特にエキソペプチダーゼ(芳香を増加させるのに適している)、トランスグルタミナーゼ、リパーゼ(ドウを軟らかくするためにドウやドウの1部中に存在する脂質の改質に適している)、ホスホリパーゼ(ドウを軟らかくするためにおよびドウ中のガス保持を改善するためにドウやドウの部分中に存在する脂質の改質に適している)、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、特にキシラナーゼ(ドウの展伸性を改善するペントサンの部分的加水分解に有用である)の如きペントサナーゼ、プロテアーゼ(グルテン軟化に有用である、特にデュラム小麦粉を用いた場合)、蛋白質ジスルフィドイソメラーゼ(例えばWO95/00636に開示されている蛋白質ジスルフィドイソメラーゼ)、グリコシルトランスフェラーゼ、パーオキシダーゼ(ドウの堅さを改善するために有用である)、ラッカーゼもしくはオキシダーゼ、例えばアルドーズオキシダーゼ、グルコオキシダーゼ、ピラノーズオキシダーゼ、リポキシゲナーゼまたはL−アミノ酸オキシダーゼ(ドウの堅さを改善するために有用である)であることができる。
このまたはこれらの場合によりさらに添加される酵素あるいは酵素類は、本発明のホスホリパーゼが活性を有するポリペプチドと別にあるいは一緒に、焼きパン用剤の成分あるいはドウ添加物として、場合により添加されてもよい。
【0073】
本発明は、同様に、そのようなドウの調製はもちろんこれらのドウから作られる相当する焼きパン製品の調製に関するものでもある。
本発明は、同様にドウおよび/またはドウから作られた焼きパン製品を調製するための、例えば粉体組成物の形態にある、プレミックスに関するものでもある。それにより、このプレミックスは本発明のホスホリパーゼ活性を有するポリペプチドを含有する。
【0074】
本発明のホスホリパーゼ活性を有するポリペプチドは動物飼料への添加物としても用いられる。飼料へのホスホリパーゼの添加は動物の飼料転換効率を改善する。すなわち、そのような飼料で養われた動物の生長は改善される。本発明のホスホリパーゼは、そのままあるいは飼料濃縮物として添加される。さらに、ホスホリパーゼは遺伝子移入された(transgenic)植物を経由して動物飼料に添加することもできる。その際、ホスホリパーゼは異種遺伝子発現によって合成される。そのような遺伝子移入植物を製造する方法はEP0449376に開示されている。
本発明のホスホリパーゼ活性を有するポリペプチドは、錦糸のような布素材の加工の際の洗滌工程において、繊維のさらなる処理を容易にするために用いることもできる。洗滌により得られる改良は染色中の動きのみならず繊維やそれから作られた布地のさらなる機械的および酵素的加工に影響を与える。
【0075】
微生物アスペルギルス フミガタスから単離されたホスホリパーゼの遺伝子は、ブラウンシュウエイグ D−38124、インホッフェンストラーゼ7Bのドイッチッェ サムルング フォン マイクロオルガニズメン ウント ツェルクルツレン ゲーエムベーハー(DSMZ)に、ブタペスト条約の規定に従って2009年7月2日に、受託番号DSM 22741のプラスミド pPL3949−Topo2.5中に寄託されている。
本発明は添付の図面に基づいてさらに記載される。
【実施例】
【0076】
参考例1
ホスホリパーゼ活性の決定
1ホスホリパーゼ単位(PLU)はホスファチジル コリンから標準条件で1分間当たり1μmolの脂肪酸を放出する酵素の量に相当する。
【0077】
試薬:
基質エマルジョン:
1gのエピクロン(Epikuron)200(ルーカスメイヤー社の大豆から誘導された精製ホスファチジル コリン、現在カーギル社で入手可能)、100mlの脱イオン水および5mlの0.32M CaCl溶液がウルトラ タラックス(Ultra Turrax)により24,000rpmで2分間ホモゲナイズされた。この基質エマルジョンは4℃から8℃で3〜4日間安定である。
他の溶液:
脱ミネラル水中の0.32MgCl溶液、新鮮3.3mMクエン酸−1水和物溶液、10mM KOH溶液、1%トリトンX100(フルカ社)溶液、
酵素溶液:
酵素調合物が脱イオン水中に溶解される。そのバッチ中の酵素濃度は2.5Ug−1を超えない。
操作:
本試験値
10ml 基質エマルジョン
10ml 1%トリトンX100溶液
5ml 3.3mMクエン酸−1水和物溶液
が25mlの広口エルレンマイヤー フラスコ中にピペットされそして40℃で10分間加熱された。pH値は約3.3−3.5に調節される。
0.1mlの酵素溶液を添加した後、分析バッチが40℃で10分間インキュベートされた。インキュベーション時間が終了したとき、溶液は10ml KOHでpH10.0まで滴定された。その際、最初の5mlのKOHは急激に加えられた(その間:約1分)。KOHの消費量が記録される。
空試験値
酵素母液が95℃で15分間加熱されて不活性化される。室温まで冷却したのち、さらなる処理は本試験値に関するものと同じである。空試験値のインキュベーションは必要がない。
評価
【0078】
【数1】

【0079】
KOH(ml) 空試験値と本試験値間の消費量の差
KOH(mol l−1) KOH溶液の濃度
Δt (min) インキュベーション時間
Cs (g ml−1) 試料の濃度
v (ml) 使用した容積

【0080】
参考例2
ホスホリパーゼの検出のための、pH3.5での高速試験
試薬:
基質エマルジョン
1gエピクロン−200が100mgのミリキュー(MilliQ)水および5mlの0.32M塩化カルシウム溶液と混合されそしてウルトラ−タラックスによってホモゲナイズされる(約24000rpmで約1−2分間)。
分析のための基質エマルジョン10mlが10mlの1%のトリトンX−100溶液と5mlの3.3mMクエン酸溶液−1水和物溶液と混合される。
遊離脂肪酸、セミマイクロ試験(ベーリンガー)
(セミマイクロ試験は反応混合物A、反応混合物BおよびN−エチルマレイミド用試薬を含有している)。
操作
最初に、5μlの稀釈された酵素溶液が微量滴定板上に準備されそして0.1mlの基質エマルジョンと混合される。
この基質/酵素バッチは40℃で10分間水浴中でインキュベートされる。次いで、5μlのバッチが100μlの反応混合物Aに対し第2の微量滴定板中へピペットされそして40℃で5分間インキュベートされる。
インキュベーション時間が終了したのち、反応混合物BとN−エチルマレイミド溶液の1:1比の混合物5μlが添加され、そして再度40℃で5分間インキュベートされる。
反応バッチが赤色となればホスホリパーゼ活性がある。
【0081】
参考例3
遊離脂肪酸の含量の決定
試薬
エタノール(96%溶液)、トルエン
エタノールとトルエンが1:1の比(v/v)で混合される。
0.1Nエタノール性KOH
エタノール中の1%フェノールフタレン溶液
操作
約3gの水無し油がエルレンマイヤーフラスコ中に正確に小数点以下4桁まで秤量され、20mlのエタノール−トンエン混合物に溶解され、2〜3滴のフェノールフタレンと混合されそして赤色が継続するまで0.1NKOH溶液で滴定する。
評価
酸価は遊離脂肪酸の含有量の指標である。酸価は1kgの油中に含有される遊離脂肪酸の中和に必要な水酸化セリウムの量のことである。酸価(AN)は次式により計算される。
【0082】
【数2】

【0083】
a 用いたKOH溶液のml量
N KOHの規定度
E 秤量された脂肪のg量
56.1 KOHのg/molのモル質量
酸価は遊離脂肪酸(FFA)の含有量をパーセントで計算するために用いられる。
【0084】
【数3】

【0085】
282はオレイン酸のモル質量。
【0086】
参考例4
リパーゼの検出
オリーブ油寒天上のリパーゼの定性的検出はクーカーとジェガー(KoukerとJaeger)の方法(Applied,Environ,Microbiol.,59:211−213(1987))により同様に実施される。
リパーゼ活性の検出のため、1%オリーブオイルを用いて製られたトリブチリン(tributyrin)寒天(Fluka 91015)製の寒天板が用いられる。pH値は5.5に調節される。
リパーゼ活性の検出は、ウィンクラーとスタックマン(Winkler and Stuckmann(1979)(J.Bac.,138:663−670(1979))による、0.5Mクエン酸塩/リン酸塩緩衝液中に基質として乳化されたp−ニトロフェニルパルミテート、pH5.1(シグマ N2752)を用いて光度測定により行われる。
【0087】
実施例1
アルペルギルス フミガタス株RH3949からのホスホリパーゼの抽出
アスペルギルス フミガタスを50mlの媒体が充填された200mlの振盪フラスコ中、28℃、200rpm、5日間生長させた。媒体は0.5%エピクロン(Epicuron)200(ルーカス メイヤー)、0.5%コーン浸漬粉、0.2% NHNO、100mM KHPOおよび0.1%トリトンX100からなる。pH値は殺菌前にpH6に調節された。媒体は胞子懸濁物と一緒にインキュベートされた。5日後、培養液上澄が濾過により菌糸体から分離されそしてその液体中のホスホリパーゼ活性が測定された。
【0088】
実施例2
アスペルギルス フミガタス株RH3949からのホスホリパーゼの精製
工程1:アニオン交換体、マクロ プレップQ
ホスホリパーゼを精製するために、まず蛋白質の分離がアニオン交換体マクロ プレップ(Macro Prep)Qで行われた。
この目的のために、実施例1による培養液からの濃縮培養液上澄が、その蛋白質溶液が緩衝液Aとして同じ導電性を持つまで完全な脱塩水で稀釈された。次いで、蛋白質試料が1M NaOHでpH7に調節されそして緩衝液Aによって平衡化されたカラムに掛けられた。緩衝液Aでカラムを洗滌後、ホスホリパーゼが線状に増加するNaCl勾配0〜1Mで溶離された。ホスホリパーゼ活性を有するフラクションが合せられ、さらに精製された。
緩衝液A:5mM CaCl+20mM トリス−HCl、pH7.0
緩衝液B:5mM CaCl+20mM トリス−HCl、pH7.0+1M NaCl
工程2:HIC フェニルセファローズ6高速流低置換
工程1によるホスホリパーゼ活性を有する蛋白質試料が3.4M硫酸アンモニウム溶液と1:1の比で混合されそして1M NaOH溶液でpH7.0に調節された。試料を、同様に緩衝液Aで平衡化された、フェニルセファローズカラムに掛けたのち、ホスホリパーゼが硫酸アンモニウム勾配を減らしながら溶離された。
緩衝液A:5mM CaCl+20mM トリス−HCl、pH7.0+1.7M硫酸アンモニウム
緩衝液B:5mM CaCl+20mM トリス−HCl、pH7.0
工程3 ゲル濾過、セファローズ 12HR10/30
最後の精製工程として、蛋白質がゲル濾過カラムで分離された。この目的のために、工程2によるホスホリパーゼ試料が透析管(ナチュリン蛋白質ファース(Naturin protein farce))中完全な脱塩水に対して1.5時間透析され、引き続いて凍結乾燥された。凍結乾燥品は500μlの完全な脱塩水中に吸収された。それぞれ250μlずつ2段階でカラムに掛けられそして緩衝液Aで溶離された。
緩衝液A:5mM CaCl+20mM トリス−HCl、pH7.0
精製されたホスホリパーゼがIEFゲルに掛けられた。結果は図1に示されている。
バンドは同定のために切り出されそして記載された分析法によりホスホリパーゼ活性のために試験された。
【0089】
実施例3
N−末端蛋白質配列
スーペローズ(Superose)を経た最終精製工程の後、精製された蛋白質が元のゲル上に分離された。ホスホリパーゼ活性を有する蛋白質バンドが切り出されそして分子量を決定するためにSDSゲルに再び掛けられた。N−末端アミノ酸の決定のために、蛋白質バンドが元のゲルからPVDF膜(フルオトランス トランスファー メンブレン(Fluotrans Transfer Membrane))に移されそしてN−末端アミノ酸配列がクーマジー ステインニング法(Coomassie Staining Process)によりアミノ酸シークエンサー(アプライド バイオシステムズ モデル 470A(Applied Biosystems Model 470A))で決定された。
それらは、DVSAS VLQKL SLFAQY16(SEQ ID NO:3)である。
ホスホリパーゼ遺伝子のN−末端アミノ酸配列はアスペルギルス フミガタス株 Af293(GenBank EAL86100)からの細胞外リパーゼの遺伝子と高い配列類似性を有することが配列の比較からわかる。
【0090】
実施例4
アスペルギルス フミガタス株 RH3949からの染色体ホスホリパーゼ遺伝子のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるクローニング
ホスホリパーゼDNAの増幅のための異なるオリゴプライマーがアスペルギルス フミガタス リパーゼの染色体DNA配列のデータから誘導された。染色体DNA調合がハイネス.エム.ジェイ(Hynes,M.J)ら、(1983)Mol.Cell.Biol.、1430−1439の改良説明書に従って行われた。ホスホリパーゼ遺伝子の増幅はPCR法によって行われた。PCR生物はpCR2.1−TOPP プラスミド中にクローン化され且つ配列された。ここで、プラマー組 N2−3948と3949Apalは本発明のホスホリパーゼDNAを持つ遺伝子に結合することが示されている。
【0091】
【表2】

【0092】
100μlの反応バッチは、10μl 10×緩衝液(200mM トリス/HCl、pH8.4、500mM KCl)、3μl 50mM MgCl、2μl 10mM dNTP、50pMol オリゴプライマー(N2−3948と3949−Apal)それぞれ、約10ng染色体DNA、5U Taq DNA ポリメラーゼ(インビトロゲン(Invitrogen))を含有していた。このバッチは変性のために95℃/5分間、45サイクル(95℃/1分、45℃/1分、72℃/1分)で処理され、引き続き72℃/10分間処理された。
【0093】
PCR生成物はキアクイック(Qiaquick)カラムで精製されそしてpCR2.1−TOPOプラスミド中にクローン化された。配列後、本発明のホスホリパーゼDNA配列(図5、SEQ ID NO:1)を有する1つの形質転換体はpPL−3949−Topo2.5(図7)として言及される。
このホスホリパーゼをコードする開放読みとりフレームは299のアミノ酸を含む1052のヌクレオチドを含有する。このホスホリパーゼ遺伝子は3つのイントロンを含有する。
誘導されたN−末端アミノ酸配列は蛋白質配列によって決定されたペプチド配列に相当する(実施例3、SEQ ID NO:3)。
誘導された分子量約28.6kDaはSDS−PAGEによって決定された約29kDaに相当する(実施例8)。
【0094】
シグナル配列の決定は、ナカイとカネヒサによるコンピューター プログラム(PSORT)の助けにより実施された(1992、Genomics 14、897−911)。このプログラムによれば、このホスホリパーゼ遺伝子は21のアミノ酸のシグナル配列と8のアミノ酸のポリペプチドを有している。
【0095】
実施例5
発現ベクターpAB500−PL3949の構築
発現ベクターpAB500−PK3949中で、ホスホリパーゼ遺伝子はティー.リーゼイ(T.reesei)cbhlプロモーターとcbhlターミネーターの制限下にある。
プラスミドpAB500−PL3949の構築のために、ホスホリパーゼをコードする遺伝子はPCRによってプラスミドpPL3949.Topo2.5から増幅される。PCR生成物は、酵素Avrll/Paclで加水分解され、引き続きプラスミドpAB500のティー.リーゼイcbh1プロモーターの後のSpelとPacl開裂部位に挿入された。得られたプラスミドはpAB500−PL3949として言及される。
プラスミドpAB500の構築は次の工程により行われた。
さらなる開裂部位(cbhlプロモーターとcbhlターミネーター間のSacll部位中のSpelとPacl)を導入することによって、プラスミドpAB487がプラスミドpALK487から製造された(WO94/28117)。Spel−Pacl開裂部位はホスホリパーゼ遺伝子の直接クローニングのために用いられる。
そのプロモーターとそのターミネーターを包含するamdS遺伝子はPCRによってプラスミドp3SR2(GenBank 16371)から増幅された。PCR生成物はAsclとNrulで切断され、pAB487のAscl/Stul開裂部位に挿入され、それによってプラスミドpAB500が得られた。
【0096】
実施例6
ティー.リーゼイ(T.reesei)の形質転換
ティー.リーゼイの形質転換と処理のために用いられた技術はペンティレら(Penttila et al.)によるものである(1987.Gene61:155−164)。ティー.リーゼイRH32439はプラスミドpAB500−PL3949から単離された、線状発現カセットで形質転換された。
形質転換体は単一胞子単離法によって選択され且つ精製された。全ての形質転換体のうち、最も高い分泌能力を持つものが選ばれそしてさらに酵素物質の製造のために実施例7で用いられた。
【0097】
実施例7
振盪フラスコ中の培養による酵素溶液の製造
実施例6の発現カセットを持つ形質転換体が振盪フラスコ中でセルラーゼが誘発媒体上で培養された。6日間生育の後に得られた培養物濾液が酵素の特徴付け(実施例8)と油脱ガム質法の分析(実施例9)のために用いられた。
【0098】
実施例8
組換えホスホリパーゼの特徴付け
SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)による分子量の決定は本発明のホスホリパーゼについて約29kDaの分子量をもたらした。
組換えホスホリパーゼのN−末端配列化はクロマテック社(Chromatec、ドイツ国)により行われた。配列化により得られたアミノ酸配列はホスホリパーゼのN−末端配列(実施例3)に相当する。
MALD1−MSによる組換え蛋白質の同定はプロタゲン社(Protagen、ドイツ国)により行われた。この結果は本発明のホスホリパーゼの蛋白配列が正しいことを確認した。
酵素活性の温度依存性は、上記した決定法により異なる温度で決定された。ホスホリパーゼの至適温度は50℃である(図2参照)。
酵素活性の至適pH値は上記した決定法により異なるpH値で決定された。この目的のために、反応バッチ中のpH値はクエン酸を用いて調節された。
酵素はpH3〜5の広いpH範囲で活性である(図3参照)。
リパーゼ活性は上記した決定法により決定された。本発明によるエイ.フミガタス(A.fumigatus)ホスホリパーゼは、非常に低いリパーゼ活性を有する。計算によれば、ホスホリパーゼ活性対リパーゼ活性の比は7480:1であった(実験変動限界±10%)。
【0099】
実施例9
エイ.フミガタスRH3949からの遺伝子を持つ組換えトリコダーマ リーゼイ株の培養液上澄からの酵素による油の脱ダム質
200gの食用油(リン含量163.6ppmの大豆油1:リン含量161.6ppmの菜種油:リン含量592.8ppmの大豆油2およびリン含量81.1ppmの大豆油3)が400mlのガラスビーカー中で0.42mlの46%クエン酸溶液および水と混合された。これにより、全水含量は2%を超えなかった。反応混合物のpH値は7%NaOH溶液(0.6ml)を添加することによってpH4.0に調節された。本発明による酵素溶液(50U)を添加した後、反応バッチはウルトラ タラックス(Ultra Turrax)により24,000rpmで2分間混合された。引き続き、混合物が3ツ口丸底フラスコに充填され、そしておだやかに撹拌しながら(200rpm)、55℃もしくは60℃でインキュベートされた。
酵素溶液が添加された後120分して、それぞれ試料20mlが採取された。試料は4,300×gで5分間遠心分離されそして酸化マグネシウムを添加することにより850℃で灰化した後、リンppmで示される、ホスホリピッド含量が、油中830nmでリンモリブデン酸錯体として光度計で求められた。
【0100】
本発明のプラスミドpAB500−PL3949を含有する組換えトリコダーマ リーゼイ株はRH32664として言及される。
アスペルギルス フミガタスRH3949の組換え株に由来するホスホリパーゼによる、食用油の55℃もしくは60℃での脱ガム質法で得られた結果は表2に示されている。
この結果は、クエン酸を用いる水脱ガム質法と比較して本発明による酵素を用いる脱ガム質法での明瞭な脱ガム質効果を示している。僅か4時間後で残存リンの含量が10ppmよりも少なくなっている。
【0101】
【表3】

【0102】
実施例10
油脱ガム質法における遊離脂肪酸の含有量
油脱ガム質法における遊離脂肪酸の含有量の決定は参考例3に記載されたとおりに行われた。食用油は実施例9に記載されたとおりホスホリパーゼと混合されそして57℃で6時間培養された。ホスホリピッドの酵素的加水分解は脂肪酸を開裂させるホスホリパーゼによって引き起こされる。比較の理由のため、同じ分析が空値として純粋食用油を用いて行われた。
空値(BV)と比較して、試料中の遊離脂肪酸(FFA)の含有量は極く僅かに上昇しそして食用油をホスホリパーゼで57℃の温度で処理した後の差(ΔFFA)は0.18%である(第3表)。
【0103】
【表4】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
本質的にリパーゼ活性を持たず、ホスホリパーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA配列であって、このDNA配列は、
a)SEQ ID NO:1によるヌクレオチド配列を有するDNA配列、
b)SEQ ID NO:1によるコード化配列を有するDNA配列、
c)SEQ ID NO:2による蛋白質配列をコードするDNA配列、
d)図7による制限マップを持ち、受託番号DSM22741で寄託されている、プラスミドpPL3940−Topo2.5によってコードされるDNA配列
e)a)、b)、c)またはd)によるDNA配列の1つとストリンジェント条件下で交雑するDNA配列、
f)遺伝子コードの減成によりa)、b)、c)、d)またはe)のDNA配列と関係するDNA配列、および
g)a)〜f)による配列に対する相補鎖
から選択され、ここでDNA配列は好ましくはアスペルギルス、さらに好ましくはアスペルギルス フミガタスから誘導される、ことを特徴とする、上記DNA配列。
【請求項2】
請求項1による配列の1つの類似体を含有する核酸配列であって、この核酸配列は本質的にリパーゼ活性を有さず、ホスホリパーゼ活性を有するポリペプチドをコードし、そして
a)a)、d)、e)およびg)による配列の1つと少なくとも82%同一性を有し、または
b)b)、c)、e)、f)およびg)による配列の1つの少なくとも88%同一性を有し、または
c)ストリンジェント条件下でこれらの配列の1つと交雑し、または
d)これらの配列の1つのアレリック変異型であり、
e)a)〜d)による配列に対する相補鎖であり、そして
これらの配列はSEQ ID NO:1によるDNA配列の1つまたはそれ以上の核酸の置換、除去、挿入、附加もしくは突然変異により得られうる、ことを特徴とする、上記核酸配列。
【請求項3】
適当な宿主細胞中でホスホリパーゼ活性を有するポリペプチドの発現を指示するために用いられる1つまたはそれ以上の配列と作用可能に結合している、請求項1〜2の1つによる配列を含有する発現構造であって、ポリペプチドの発現を指示するために用いられる上記配列はアスペルギルス属のグルコアミラーゼプロモーターもしくはα−アミラーゼプロモーター、トリコダーマ属のセルラーゼ(セルビオヒドロラーゼ)プロモーター、ホスホグリセレート キナーゼもしくはグリセロールアルデヒド−3−ホスフェート ディヒドロゲナーゼの如きグリコース代謝経過中の酵素のためのプロモーター、キシラナーゼ プロモーターもしくはエノラーゼプロモーター、および場合によりさらに分泌先導配列を含有するこれらのプロモーターから選ばれるプロモーターが好ましい、上記発現構造。
【請求項4】
請求項3による発現構造によって形質転換されたことを特徴とする組換え宿主細胞。
【請求項5】
アスペルギルス属、リゾプス属、トリコダーマ属、ニューロスポラ属、ムコル属もしくはペニシリウム属の細菌細胞、またはクルイヴェロマイセス属、サッカロマイセス属、シゾサッカトマイセス属、トリコスポロン属、シュワニオマイセス属、ハンセニュラ属もしくはピキア属のイースト細胞から誘導されることを特徴とする請求項4による組換え宿主細胞。
【請求項6】
図7による制限マップを有し、受託番号DSM22741で寄託されているpPL3949−Topo2.5プラスミド。
【請求項7】
a)請求項1または2の1つによるDNA配列のコードする部分によってコードされるポリペプチド、
b)SEQ ID NO:2による配列または1つもしくはそれ以上のアミノ酸の置換、附加もしくは除去によって得られうる、それから誘導された配列を有するポリペプチド、
c)SEQ ID NO:2のアミノ酸1〜299と少なくとも83%同一性を有する配列を有するポリペプチド、
d)(i)SEQ ID NO:1のヌクレオチド55〜1106、
(ii)SEQ ID NO:1のヌクレオチド55〜1106に含有されるcDNA配列、
(iii)少なくとも100ヌクレオチドの(i)または(ii)の部分配列、または
(iv)(i)、(ii)もしくは(iii)の相補鎖
とストリンジェント条件下で交雑する核酸配列によってコードされるポリペプチド、
e)1つもしくはそれ以上のアミノ酸の置換、除去および/または挿入を含む、SEQ ID NO:2を有するポリペプチドの変異型、
f)アミノ酸配列a)〜e)に対するアレリック変異型、
から選ばれる、本質的にリパーゼ活性を有さず、ホスホリパーゼ活性を有するポリペプチド。
【請求項8】
28〜30kDaの範囲にある分子量を有し、レシチンの2つの脂肪酸の少なくとも1つを加水分解することができ、本質的にリパーゼ活性を示さず、高温耐性を有しそしてアスペルギルス属の生物体から単離し得る、ことを特徴とする、ホスホリパーゼ活性を有するポリペプチド。
【請求項9】
アスペルギルス フミガタスから単離されうることを特徴とする請求項8によるポリペプチド。
【請求項10】
配列SEQ ID NO:2に対する抗体と免疫学的に反応性であることを特徴とする、請求項9によるポリペプチド。
【請求項11】
SEQ ID NO:2による配列を含有することを特徴とするい、請求項8〜10のいずれかによるポリペプチド。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれかによるポリペプチドを添加剤とともに含有しそして場合により食品もしくは動物飼料用の1つもしくはそれ以上の酵素をさらに含有する、ことを特徴とする、ホスホリパーゼ組成物。
【請求項13】
請求項7〜11のいずれかによるポリペプチドまたは請求項12によるホスホリパーゼ組成物の、植物油の脱ガム質、ドウおよび/または焼きパン製品の製造または日用品の製造のため、動物飼料への添加物として、あるいは布地原材料の加工のため、の使用。
【請求項14】
請求項7〜11のいずれかによるホスホリパーゼ活性を有するポリペプチドを製造する方法であって、請求項4または5のいずれかによる宿主細胞がポリペプチドの発現を支える条件下で生育され、引き続いてポリペプチドが抽出される、上記方法。
【請求項15】
a)処理されるべき植物油が場合により前処理され、
b)請求項7〜11のいずれかによるポリペプチドまたは請求項12によるホスホリパーゼ組成物を含有する水溶液が上記場合により前処理された油に添加され、
c)b)による反応バッチが30℃と70℃の間の温度で1〜12時間加熱され そして
d)水相と油相が分離される
ことを特徴とする、植物油の脱ガム質方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2013−509165(P2013−509165A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535804(P2012−535804)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【国際出願番号】PCT/EP2010/066234
【国際公開番号】WO2011/051322
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(512110525)アーベー・エンザイムス・ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】