説明

酸性乳飲料

【課題】 酸性乳飲料における乳成分の分離、凝固、沈殿を長期間抑制し、且つ、作業性や製造コストにおいて効率的である酸性乳飲料における乳成分の分散性改善剤、及びこれを用いて製造された酸性乳飲料を提供すること。
【解決手段】 粉末状であり、主構成脂肪酸がパルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸の1種以上を選択してなる、HLBが7〜11のポリグリセリン脂肪酸エステル及びペクチンを酸性乳飲料に添加することにより、上記問題を解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性乳飲料に関するものである。更に詳しくは、乳成分の分散性改善剤を添加することにより、乳成分の分離、凝固、沈殿が抑制され、長期間の保存安定性に優れた酸性乳飲料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、酸成分と乳成分とを含有する酸性乳飲料としては、牛乳、豆乳、加工乳等の液状乳、あるいは脱脂粉乳、全粉乳等の乳成分に乳酸菌や酵母等のスターターを接種して発酵させた発酵乳若しくは乳酸菌飲料又は乳成分に有機酸、果汁等の酸成分を加えた酸性乳等が知られている。これら酸性乳飲料は酸によって乳成分、特に蛋白が等電点以下となることにより凝固し、保存中に沈殿、分離し易いという問題があった。
【0003】
これら乳成分の凝固、沈殿を防止するために、ペクチン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等の増粘安定剤を添加する方法(特許文献1、2参照)、ペクチンとアラビアゴムを併用する方法(特許文献3参照)、ペクチンとセルロースを併用する方法(特許文献4参照)、カルボキシメチルセルロースナトリウムとジェランガムを併用する方法(特許文献5参照)等が開示されている。これらは粉末状であり、飲料製造時の作業性等の面では効率的であるが、これらの方法では、乳成分の凝固、沈殿を完全に抑制することはできず、充分な効果を得るためには添加量が多くなり、冷却時に増粘、ゲルセットを起こしてしまうという問題点があった。
【特許文献1】特公昭63−57021号公報
【特許文献2】特開平5−7458号公報
【特許文献3】特開平10−313781号公報
【特許文献4】特開2000−69907号公報
【特許文献5】特開2002−300849号公報
【0004】
また、酸性乳飲料に、乳化剤としてHLB13以上のショ糖脂肪酸エステルを混合、溶解する方法(特許文献6参照)が開示されている。しかし、この方法でも完全に乳成分の沈殿を抑制することはできず、ショ糖脂肪酸エステルの添加量によっては酸性乳飲料に苦みが感じられ、風味が低下するという問題があった。
【特許文献6】特公昭59−41709号公報
【0005】
更に、HLB9以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを添加する方法(特許文献7参照)が開示されている。この方法においても、ある程度酸性下における乳成分の沈殿を抑制することができるものの、その効果は不十分であり、且つ、粉末形状ではないため、製造時には一旦溶解させる工程を必要とし、作業性、製造コストを考慮した場合、必ずしも効率的であるとは言えないのが現状であった。
【特許文献7】特許3324775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解決するため、乳成分の分離、凝固、沈殿が抑制され、長期間の保存安定性に優れ、且つ、作業性や製造コストにおいて効率的である酸性乳飲料における乳成分の分散性改善剤、及びこれを用いて製造された酸性乳飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するために、本発明者等が鋭意研究を重ねた結果、粉末状であり、特定の脂肪酸組成を有するポリグリセリン脂肪酸エステル、即ち、主構成脂肪酸がパルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸の1種以上を選択してなる、HLBが7〜11のポリグリセリン脂肪酸エステル及びペクチンを酸性乳飲料に添加することによって、上記課題を解決できることを見出した。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、乳成分の分離、凝固、沈殿が長期間抑制され、ポリグリセリン脂肪酸エステルとペクチンを併用することにより、それぞれ単独で使用した場合よりも高い乳成分の分散安定効果を発揮する。また、併用することで増粘剤であるペクチンの添加量を従来の半分程度に抑えることができるため、増粘、ゲルセットを抑制することができる。更に、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びペクチンが共に粉末形状であるため製造工程において糖類や脱脂粉乳等と一緒に添加でき、煩雑な工程を必要とせず、作業性や製造コストにおいて効率的である酸性乳飲料における乳成分の分散性改善剤を提供することができる。
【0009】
また、本発明の内容としては、上記分散性改善剤を添加して製造された酸性乳飲料を含んでいる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明のポリグリセリン脂肪酸エステルは、使用する主構成脂肪酸が飽和脂肪酸である炭素数16のパルミチン酸、炭素数18のステアリン酸、炭素数22のベヘン酸の1種単独又は2種以上を組み合わせたエステルが使用できる。固体の形状を取ることができるのであれば、その他の脂肪酸、例えば炭素数が14のミリスチン酸等も使用できるが、なるべく使用しないことが好ましい。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルは2種以上併用することも可能である。
【0011】
本発明に使用するポリグリセリン脂肪酸エステルに使用するポリグリセリンとしては、水酸基価から算出した平均重合度が2〜20、好ましくは4〜10のものが望ましい。
【0012】
本発明のポリグリセリン脂肪酸エステルは、エステルのケン化価と使用した脂肪酸の中和価から算出したHLBが7〜11のものが好ましく、8〜10.5のものがより好ましい。HLBが7未満では酸性乳飲料に溶解し難く、11以上では本発明の効果が期待できないため好ましくなくない。
【0013】
本発明に使用するペクチンは粉末形状であれば、種類、由来等は特に限定されないが、エステル化度(D.E値)が50%以上のハイメトキシペクチンの使用が特に好ましい。
【0014】
本発明で使用するポリグリセリン脂肪酸エステル及びペクチンは粉末状であり、粒子径が500μm以下の粉末であることが好ましい。より好ましくは250μm以下である。粒子径が500μm以下であれば、酸性乳飲料に均一に、且つ短時間で分散溶解させることができ、均一に乳成分の分散性改善効果を付与できるが、500μmを超えると粒子径が大きいため、酸性乳飲料に短時間で溶解することができなきくなり好ましくない。また、その粉末化方法としては、凍結粉砕、冷却粉砕等の粉砕による方法、溶剤を使用した再結晶による方法、噴霧乾燥による方法等様々な方法があるが、粉末になるのであれば何れの方法でも構わない。
【0015】
本発明の酸性乳飲料に用いるポリグリセリン脂肪酸エステル及びペクチンの添加量は、乳飲料中、0.01〜1.0重量%、好ましくは0.02〜0.5重量%である。0.01重量%より少ないと所望の効果が得られ難く、1.0重量%を超えて用いても効果は頭打ちであり、使用量の増加に伴う効果の上昇は期待できず、特にペクチンの添加量を増やすと増粘するため好ましくない。また、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びペクチンの添加量は、等量でなくても良い。
【0016】
本発明の酸性乳飲料の分散性改善剤には、上記のポリグリセリン脂肪酸エステル及びペクチンの他に、各種の成分を含有することができる。その他の併用可能な成分としては、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、リゾレシチン、モノグリセライド、有機酸モノグリセライド、ソルビタン脂肪酸エステル等の乳化剤、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、グアーガム、カゼインナトリウム、カラヤガム、キチン、キトサン、アラビアガム、寒天、カラギーナン、ローカストビーンガム、タラガム、キサンタンガム、ジェランガム、カードラン、デキストラン、ゼラチン、水溶性大豆多糖類等の増粘安定剤が挙げられる。また、その効果を妨げない範囲において、果汁、糖類、甘味料、ミネラル、ビタミン等を加えることができる。
【0017】
本発明で言う酸性乳飲料とは、牛乳、豆乳、加工乳等の液状乳、あるいは脱脂粉乳、全粉乳等の乳製品を用いた飲料であり、必要に応じて、ブドウ糖、菓糖、オリゴ糖等の糖やクエン酸、乳酸、リンゴ酸等の酸及び油脂や香料、色素等を含むことができる。また、乳酸発酵により得られる発酵乳、乳製品乳酸菌飲料、殺菌乳酸菌飲料等、または乳酸発酵を行わずに上記原料にクエン酸、乳酸、リンゴ酸等の酸を添加した清涼飲料水等も全て包含する。また、これらの各成分の構成比率等も特に限定されない。
【0018】
本発明の酸性乳飲料の好ましいpHは酸味の点から3.0〜4.5であり、より好ましくは3.5〜4.2である。pH4.5以上では清涼感がでず、風味上好ましくなく、pH3.0以下では酸味が強すぎるため好ましくない。また、pHの調整は適時乳酸発酵及び/又はクエン酸、乳酸、リンゴ酸等の添加により行うことができる。
【0019】
本発明の乳蛋白の分散性改善剤は、従来公知の方法により使用することができ、どのような方法でも構わないが、粉体の形状を生かし、砂糖、脱脂粉乳、全粉乳等と共に粉末添加することが望ましい。これにより、分散性改善剤を一旦溶解させる作業を省略でき、作業性や製造コストにおいて効率的である。
【0020】
本発明の酸性乳飲料は、保存性を高める目的で加熱殺菌して容器に充填され、最終製品とすることができる。この際の加熱殺菌条件は特に限定されないが、本発明の場合、高温で殺菌しても乳成分の凝集、沈殿が少ないという特徴があり、80℃以上の高温殺菌にも耐え得る。
【0021】
以下に実施例、試験例を示し、本発明を説明するが、その要旨を超えない限りこれらの実施例により限定されるものではない。
【0022】
<実施例1>
脱脂粉乳1.0部、ショ糖10.0部、クエン酸0.1部、クエン酸ナトリウム0.04部及び分散性改善剤として、デカグリセリンステアリン酸エステル粉末(HLB=10.0、粒子径200μm以下)0.1部、ハイメトキシペクチン(エステル化度75%、粒子径200μm以下)0.1部を50℃で撹拌した後、イオン交換水を加えて全量を100部とした。次いで、高圧ホモジナイザーを用いて60〜70℃の温度で150kg/50kgの圧力で均質化後、80℃にて20分間加熱殺菌を行い、酸性乳飲料を調製した。このもののpHは4.2であった。
【0023】
<実施例2>
分散性改善剤として、ヘキサグリセリンベヘン酸エステル粉末(HLB=7.5、粒子径200μm以下)0.1部、ハイメトキシペクチン(エステル化度75%、粒子径200μm以下)0.1部を添加した以外は、実施例1と同様にしてpH4.2の酸性乳飲料を調製した。
【0024】
<実施例3>
分散性改善剤として、テトラグリセリンパルミチン酸ステアリン酸混合脂肪酸エステル粉末(HLB=8.2、粒子径200μm以下)0.1部、ハイメトキシペクチン(エステル化度75%、粒子径200μm以下)0.1部を添加した以外は、実施例1と同様にしてpH4.2の酸性乳飲料を調製した。
【0025】
<比較例1>
分散性改善剤として、ヘキサグリセリンパルミチン酸ベヘン酸混合脂肪酸エステル粉末(HLB=6.5、粒子径200μm以下)0.2部を添加した以外は、実施例1と同様にしてpH4.2の酸性乳飲料を調製した。
【0026】
<比較例2>
分散性改善剤として、ハイメトキシペクチン(エステル化度75%、粒子径200μm以下)0.2部を添加した以外は、実施例1と同様にしてpH4.2の酸性乳飲料を調製した。
【0027】
<比較例3>
分散性改善剤を添加しない以外は実施例1と同様にして、pH4.2の酸性乳飲料を調製した。
[試験例]
【0028】
実施例1〜3、比較例1〜3で調製した酸性乳飲料の直後の増粘状態及び、5℃の恒温槽中に2週間後及び1ヶ月放置した後の乳成分の分散安定性を評価した。試験例の評価結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0030】
実施例、試験例で述べたように、本発明の乳成分の分散性改善剤により、乳成分の分離、凝固、沈殿が抑制され、長期間の保存安定性に優れた酸性乳飲料の提供が可能となるため、乳成分を含んだ様々な飲料の外観、風味の向上に寄与するところが大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳成分の分散性改善剤として、ポリグリセリン脂肪酸エステルとペクチンとを併用することを特徴とする酸性乳飲料
【請求項2】
ポリグリセリン脂肪酸エステルが粉末状であり、主構成脂肪酸がパルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸の1種以上を選択してなる、HLBが7〜11のポリグリセリン脂肪酸エステルである請求項1記載の酸性乳飲料

【公開番号】特開2006−6276(P2006−6276A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−191865(P2004−191865)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(390028897)阪本薬品工業株式会社 (140)
【Fターム(参考)】