説明

酸性水中油型乳化組成物

【課題】 ジグリセリドを高濃度で含有しながら低温耐性、温度サイクル耐性、シェア耐性の全てを満たすことにより油水分離せず、なおかつマヨネーズ自体の風味、コク味が増強された酸性水中油型乳化組成物の提供。
【解決手段】 次の(A)、(B)、(C)及び(D):
(A)ジグリセリド含量が30質量%以上である油脂、
(B)卵黄、
(C)植物ステロール(PS)と植物ステロール脂肪酸エステル(PSE)の質量比がPSE/(PS+PSE)>0.3を満たし、かつPSEを構成する脂肪酸の80質量%以上が不飽和脂肪酸であるPS及びPSE、
(D)ポリグリセリン脂肪酸エステル
を含有する酸性水中油型乳化組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にマヨネーズ類、ドレッシング類に好適に使用される酸性水中油型乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ジグリセリドが肥満防止作用、体重増加抑制作用等を有することが明らかにされるに至り(特許文献1)、これを各種食品に配合する試みがなされている。そして、ジグリセリドを高濃度に含むグリセリド混合物を油相に用いれば、脂肪量を低減した場合においても豊かな脂肪感を有し、風味が良好な食用水中油型乳化組成物が得られることが報告されている(特許文献2)。
【0003】
また、酸性水中油型乳化組成物中の全リン脂質に対しその15%(リン量基準)以上をリゾリン脂質とすることにより、安定的な水中油型乳化組成物が得られることが報告されている(特許文献3)。しかし、酸性水中油型乳化組成物の油相としてジグリセリド高含有油を使用した場合、原料となる油脂を構成する脂肪酸の種類によっては、冷蔵庫内条件下(−5℃〜5℃)においてジグリセリドの一部が結晶化することにより乳化破壊を生じ、油水分離が発生する場合がある。そこで、低温耐性を向上させるために、特定範囲の乳化剤が結晶抑制剤として有効であることが報告されている(特許文献4)。
【0004】
ここで、水中油型乳化組成物に植物ステロールを添加した技術があるが(特許文献5)、これは流通時の振動負荷などでの乳化破壊の防止に関するものである。一般に、植物ステロール、植物ステロールエステルを溶解させた場合、油脂中でそれらが結晶化し易くなることが知られており、植物ステロールの結晶化を抑制する手法が報告されている(特許文献6及び7)。また、植物ステロール類を含有する酸性水中油型乳化物の安定化方法として酵素処理卵黄を用い、ジグリセリドも含む酸性水中油型乳化物の技術があるが(特許文献8及び9)、これらのジグリセリド濃度はいずれも低い。
【0005】
本発明者がジグリセリド含量の高い酸性水中油型乳化組成物の実用化に向けて、さまざまな使用場面を想定した試験を予め行ったところ、物性と風味の点で必ずしも十分ではない場合があった。即ち、マヨネーズ製品は開封後、腐敗防止の観点から冷蔵庫(−5〜5℃)に保管され、使用時には室温に戻され、使用後には再度冷蔵庫に戻されるという温度変化が幾度となく繰り返される。また、寒冷地において、夜間寒気にさらされたものが、昼間暖房により暖められるケースもある。このような温度変化に伴って、乳化状態が不安定化したり、風味が劣化する場合がある。また、これらの物性は、製造時の配管移送シェアや充填シェアの影響も受ける場合がある。
【0006】
更に、樹脂製の一般的なマヨネーズ容器に充填したマヨネーズ等の酸性水中油型乳化組成物は、使用するたびに押し圧(ボトル加圧シェア)が加わるため、場合によっては乳化が不安定化し、更には乳化破壊、離水等の品質低下が引き起こされることもあった。
【0007】
そのため、ジグリセリド含量の高い酸性水中油型乳化組成物には、使用時に繰り返し発生するボトル加圧シェアと温度変化に対し、物性と風味の点で高度な安定性を有することが求められる。しかし、上記乳化剤等の結晶抑制剤ではこれら全てを満たすことはできなかった。また、これらを多用したのでは、酸性水中油型乳化組成物の風味等に影響を与えるため好ましくない。
【特許文献1】特開平4−300828号公報
【特許文献2】特開平3−8431号公報
【特許文献3】特開2001−138号公報
【特許文献4】特開2002−176952号公報
【特許文献5】国際公開第03/047359号パンフレット
【特許文献6】特開2003−226890号公報
【特許文献7】特開2003−160795号公報
【特許文献8】特開2002−171931号公報
【特許文献9】特開2002−206100号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、保存時の低温耐性に加え、使用時に繰り返し発生するボトル加圧シェアと温度変化に対し、物性と風味の点で高度な安定性を有する、ジグリセリドを高濃度で含有する酸性水中油型乳化組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
通常の油脂(即ちトリグリセリド)中に植物ステロール類を溶解させた場合、油脂中でそれらが結晶化し易くなることが知られており、植物ステロールの結晶化を抑制する手法が検討されていることは前述の通りである。ジグリセリドはトリグリセリドと異なり分子中にOH基を1つ多く有しているため、トリグリセリドより融点が高く、結晶化しやすいことが一般的に知られている。ここで、特定範囲のポリグリセリン脂肪酸エステルがジグリセリドの結晶化抑制効果を有することは前述の通りであるが、ジグリセリド高含有油に植物ステロール類を配合した場合に生ずる油脂全体の結晶化を防止することはできない。
【0010】
しかし本発明者は、本知見からは全く予想されない結果を得た。即ち、ジグリセリド高含有油脂と卵黄を用いた酸性水中油型乳化組成物において、ポリグリセリン脂肪酸エステルと特定組成の植物ステロール類を併用することにより、油脂全体の結晶化は防止できないにも関わらず、乳化物の低温耐性を向上させると同時に、加圧シェア耐性、温度変化耐性を有し、乳化物の物性が変化せず、更に乳化物自体の風味、特にコク味が向上することを見いだし、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明は、次の(A)、(B)、(C)及び(D):
(A)ジグリセリド含量が30質量%以上である油脂、
(B)卵黄、
(C)植物ステロール(PS)と植物ステロール脂肪酸エステル(PSE)の質量比がPSE/(PS+PSE)>0.3を満たし、かつPSEを構成する脂肪酸の80質量%以上が不飽和脂肪酸であるPS及びPSE、
(D)ポリグリセリン脂肪酸エステル
を含有する酸性水中油型乳化組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ジグリセリドを高濃度で含有する酸性水中油型乳化組成物でありながら低温耐性を有し、使用時に繰り返し発生するボトル加圧シェアと温度変化に対し、物性低下と風味劣化を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
マヨネーズ類、ドレッシング類等の酸性水中油型乳化組成物は、冷蔵庫等の低温で保存された場合でも、結晶化、固化が起こらないように、低融点油脂を使用することが好ましい。本発明において用いるジグリセリドも、低融点であることが好ましい。具体的には、構成脂肪酸残基の炭素数が8〜24、特に16〜22であることが好ましい。また不飽和脂肪酸残基の量は、全脂肪酸残基の55質量%(以下単に%と記載する)以上が好ましく、更に70〜100%、特に90〜100%、殊更93〜98%であるのが好ましい。ジグリセリドは、植物油、動物油等とグリセリンとのエステル交換反応、又は上記油脂由来の脂肪酸とグリセリンとのエステル化反応等任意の方法により得られる。反応方法は、アルカリ触媒等を用いた化学反応法、リパーゼ等の油脂加水分解酵素を用いた生化学反応法のいずれでもよい。
【0014】
本発明の酸性水中油型乳化組成物において、(A)油脂中のジグリセリド含量は、脂質代謝改善食品又は体脂肪蓄積抑制食品としての有効性、工業的生産性の観点から30%以上であり、好ましくは35〜100%、更に50〜99.9%、特に71〜95%であるのが望ましい。油脂には、ジグリセリド以外に、トリグリセリド、モノグリセリド、遊離脂肪酸等を含有させることができる。
【0015】
成分(A)油脂中のモノグリセリドの含量は、乳化性、風味、工業生産性の点から5%以下であるのが好ましく、更に0〜2%、特に0.1〜1.5%であるのが良い。モノグリセリドの構成脂肪酸は、工業的生産性の点でジグリセリドの構成脂肪酸と同じであるのが好ましい。
【0016】
成分(A)油脂中の遊離脂肪酸(塩)の含量は、乳化性、風味、工業的生産性の点で1%以下であるのが好ましく、更に0〜0.5%、特に0.05〜0.2%であるのが良い。
【0017】
成分(A)油脂中のトリグリセリドの含量は乳化性、風味、生理効果、工業的生産性の点で70%以下であるのが好ましく、更に0〜65%、特に0.1〜50%、殊更3.3%〜28.85%であるのが望ましい。
【0018】
本発明に用いる(B)卵黄は、生、凍結、粉末、加塩、加糖等任意の形態でよく、また卵白を含んだ全卵の形態で配合してもよい。組成物中の卵黄の含有量は、風味向上の観点から、液状卵黄換算で5〜20%であるのが好ましく、更に好ましくは7〜17%、特に好ましくは8〜15%、最も好ましくは10〜15%である。
【0019】
また、成分(B)卵黄は、一部又は全部が酵素処理されたものであることが、乳化安定性の点から好ましい。卵黄の酵素処理に用いる酵素としては、エステラーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼが好ましく、リパーゼ、ホスホリパーゼがより好ましく、ホスホリパーゼが特に好ましい。ホスホリパーゼの中でも、ホスホリパーゼA、すなわちホスホリパーゼA1及び/又はA2が最も好ましい。
【0020】
酵素処理された卵黄のうち、卵黄の全リン脂質に対するリゾリン脂質の質量比率(以下、リゾ比率と記載する)がリン量基準で15%以上であることが好ましく、更に25〜75%、特に29〜65%とすることが、乳化安定性の点から好ましい。リゾリン脂質は、上述のように卵黄由来であることが好ましいが、大豆由来のものを用いることもでき、また卵黄由来のものと大豆由来のものを併用することもできる。なお、卵黄の一部を酵素処理されたものとする場合は、酵素処理していない卵黄と、別途酵素処理したものを混合した後に、配合することが好ましい。
【0021】
酵素処理条件は、卵黄の全部に酵素処理卵黄を用いる場合、リゾ比率が15%以上となるような条件を適宜選択すればよい。具体的には、酵素添加量は、酵素活性が10000IU/mLの場合、卵黄に対して0.0001〜0.1%、特に0.001〜0.01が好ましい。反応温度は20〜60℃、特に30〜55℃が好ましい。反応時間は1時間〜30時間、特に5時間〜25時間が好ましい。また卵黄の一部に酵素処理卵黄を用いる場合、酵素未処理卵黄と酵素処理卵黄の合計のリゾ比率が上記範囲となるように酵素処理条件を選択すればよい。かかる酵素処理は、各原料を混合して乳化処理する以前の段階で行うことが好ましい。
【0022】
本発明においては、血中コレステロール低下作用を有する(C)植物ステロール及び植物ステロール脂肪酸エステルを配合する。ジグリセリドと成分(C)との併用により、脂質代謝改善食品としての有用性を更に高めることができる。植物ステロール(PS)とは遊離体のことで、例えばα−シトステロール、β−シトステロール、ブラシカステロール、スチグマステロール、エルゴステロール、カンペステロール等が挙げられる。また、植物ステロール脂肪酸エステル(PSE)は、上記植物ステロールと脂肪酸とのエステル化反応、上記植物ステロールと油脂又は部分グリセライドとのエステル交換反応により得られたものを用いることができるが、天然油脂からの抽出濃縮生成物なども挙げられる。本発明においては、これらのフェルラ酸エステル、配糖体、混合物を一種又は2種以上用いることができる。
【0023】
上記PSEを構成する脂肪酸は、温度変化耐性、加圧シェア耐性、融点、扱いやすさ、価格などの点から、大豆油脂肪酸、ナタネ油脂肪酸、ひまわり油脂肪酸、コーン油脂肪酸、分別物、これらの混合物などの植物油を由来とする脂肪酸であるのが好ましい。PSEの脂肪酸組成において、不飽和脂肪酸の含量は80%以上、好ましくは85〜100%、更に88〜99%、特に90〜98%であるのが好ましい。また、PSEの構成脂肪酸中、オレイン酸の含量は15〜75%であるのが好ましく、更に20〜70%、特に25〜65%であるのが好ましい。リノール酸の含量は10〜60%であるのが好ましく、更に12〜45%、特に15〜30%であるのが好ましい。リノレン酸の含量は0〜15%以下であるのが好ましく、更に1〜12%、特に3〜9%であるのが好ましい。
本発明の酸性水中油型乳化組成物において、成分(C)の含有量は、成分(A)に対して、遊離の植物ステロールに換算して1〜10%、更に1.2〜10%、特に2〜5%であるのが好ましい。また、植物ステロール(PS)と植物ステロール脂肪酸エステル(PSE)に対するPSEの質量比(PSE/(PS+PSE))は、0.3より大であるのがよく、更に0.7〜1、特に0.8〜1、殊更0.9〜0.99であるのが、風味、温度変化耐性、加圧シェア耐性の点で好ましい。また、成分(C)のPSを、成分(A)に対して0.001〜0.3%、更に0.01〜0.2%、特に0.05〜0.15%とするのが、風味、温度変化耐性、加圧シェア耐性の点で好ましい。
【0024】
本発明における(D)ポリグリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンの平均重合度が2〜12、構成脂肪酸の炭素数が12〜22、エステル化度70%以上、特に80%以上のものが好ましい。また、HLBが4.5未満、特に3.5未満であることが加圧シェア耐性、温度変化耐性の点から好ましい。本発明の酸性水中油型乳化組成物において、成分(D)の含有量は、成分(A)に対して、0.1〜5%であるのが好ましく、更に0.25〜3%、特に0.6〜2%、殊更0.7〜1.5%であるのが、風味、加圧シェア耐性、温度変化耐性の点で好ましい。
【0025】
本発明の酸性水中油型乳化組成物の水相には、水、米酢、酒粕酢、リンゴ酢、ブドウ酢、穀物酢、合成酢等の食酢、食塩、グルタミン酸ソーダ等の調味料、砂糖、水飴等の糖類、酒、みりん等の呈味量、各種ビタミン、クエン酸等の有機酸及びその塩、香辛料、レモン果汁等の各種野菜又は果実の搾汁液、キサンタンガム、ジェランガム、グァーガム、タマリンドガム、カラギーナン、ペクチン、トラガントガム等の増粘多糖類、馬鈴薯澱粉等の澱粉類、それらの分解物及びそれらを化工処理した澱粉類、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート等の合成乳化剤、大豆タンパク質、乳タンパク質、小麦タンパク質等、あるいはこれらタンパク質の分離物や分解物等のタンパク質系乳化剤、レシチン又はその酵素分解物等の天然系乳化剤、牛乳等の乳製品、各種リン酸塩等を配合することができる。本発明においては、目的とする組成物の粘度、物性等に応じて、これらを適宜配合できる。
【0026】
かかる水相のpHは、風味と保存性の観点から酸性であるが、2〜6であるのが好ましく、特に3〜5であるのが好ましい。水相のpH調整には、上記した食酢、有機酸、有機酸の塩類、果汁類等の酸味料を使用できる。
【0027】
油相と水相の質量比は、10/90〜80/20であるのが好ましく、更に20/80〜75/25、特に35/65〜72/28、殊更60/40〜70/30であるのが望ましい。
本発明の酸性水中油型乳化組成物としては、例えば日本農林規格(JAS)で定義されるドレッシング、半固体状ドレッシング、乳化液状ドレッシング、マヨネーズ、サラダドレッシング、フレンチドレッシング等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではなく、広くマヨネーズ類、マヨネーズ様食品、ドレッシング類、ドレッシング様食品といわれるものが該当する。
【0028】
本発明の酸性水中油型乳化組成物は、例えば以下の方法により製造することができる。まず(A)ジグリセリド含有油脂、(C)植物ステロール等、及び(D)ポリグリセリン脂肪酸エステルの油性成分を混合して油相を調製する。また、(B)卵黄、その他の水溶性原料を混合して水相を調製する。該水相に該油相を添加し、必要により予備乳化を行い、均質化することにより、酸性水中油型乳化組成物を得ることができる。均質機としては、例えばマウンテンゴウリン、マイクロフルイダイザー等の高圧ホモジナイザー、超音波式乳化機、コロイドミル、アジホモミキサー、マイルダー等が挙げられる。
このようにして製造された酸性水中油型乳化物は容器に充填され、容器入り乳化食品として、通常のマヨネーズ等と同様に使用することができる。例えば、タルタルソース等のソース、サンドイッチ、サラダの他、焼き物、炒め物、和え物といった調理に使用できる。
容器としては通常、マヨネーズ、ドレッシング等の酸性水中油型乳化食品に用いられるものであれば、いずれでも良い。特に、瓶に比べて使い勝手の良い可撓性容器、例えばプラスチック製のチューブ式容器が好ましい。プラスチック製容器の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン性酢酸ビニル、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性プラスチックの一種又は二種以上を混合して中空成型したものや、これらの熱可塑性プラスチックからなる層を二層以上に積層して中空成形したもの等を用いることができる。
【実施例】
【0029】
〔卵黄液の調製〕
食塩濃度10%の卵黄液750g、水150g及び食塩15gを混合し、反応温度で十分予備加熱した。次いで、卵黄液に対して表1に示す量のホスホリパーゼA2を添加して反応を行い、酵素処理卵黄(卵黄1、2)を得た。反応時間、反応温度、リゾ比率を表1に示す。尚、リゾ比率は以下の方法により求めた。まず反応物をクロロホルム/メタノール(3:1)混合溶媒により繰り返し抽出を行い、反応物中の全脂質を得た。得られた脂質混合物を薄層クロマトグラフィーに供した。一次元=クロロホルム:メタノール:水(65:25:49)、二次元=ブタノール:酢酸:水(60:20:20)による二次元薄層クロマトグラフィーにより分画した。分画した各種のリン脂質を分取し、リン脂質中のリン量を市販の測定キット(過マンガン酸塩灰化法、リン脂質テストワコー、和光純薬工業株式会社製)を用いて測定した。リゾ比率(%)は(リゾリン脂質画分中のリン質量/全リン脂質中のリン質量)×100により求めた。
【0030】
【表1】

【0031】
参考例1〜5
ジグリセリド高含有油に対して表2に示した物質を配合し、次いで−5℃で1日間静置後の外観を観察した。その結果を表2に示す。尚、植物ステロール脂肪酸エステルは米国Archer Daniels Midland Company製CardioAid-Sを用い、植物ステロール(フリー体(遊離体))はタマ生化学社製、フィトステロールFを用いた。その植物ステロール組成、及び脂肪酸組成を表3に示す。ここで、植物ステロール脂肪酸エステルの添加量は、フリー体に換算した質量とし、エステル体質量/1.68=フリー体質量より算出した。
【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
ジグリセリド高含有油、及びジグリセリド高含有油に対してポリグリセリン脂肪酸エステルと植物ステロール、及び/または植物ステロール脂肪酸エステルを加えたものは、いずれも−5℃において結晶化して凝固しており、ジグリセリド高含有油に対して結晶化抑制の効果は全く認められなかった。
【0035】
実施例1(本発明品1〜3、比較品1〜3)
表4に示す組成の油相及び水相を常法に従って調製した。次いで水相を撹拌しながら油相を予備乳化した後、コロイドミル(ストレートローター:PUC社製)を使用して3000r/min、クリアランス0.045mmで均質化し、体積平均乳化粒子径1.5〜2.8μmのマヨネーズを製造した。得られたマヨネーズについて各種評価を行った(試験例1〜5)。結果を表4に示す。
【0036】
試験例1(加圧シェア耐性物性評価)
製造したマヨネーズを加圧容器に詰め、圧力を負荷しながら(196kPa)内径4mm、長さ30cmの配管内を通して、加圧シェアを加えた。加圧シェア負荷前後の粘度を次法で測定した。次いでシェア負荷時の粘度低下率(%)を下式に従って求め、物性評価を行った。
粘度測定条件:20℃
BROOKFIELD社製DV−I型
No.6スピンドル、2r/min、30秒後測定。
粘度低下率=(シェア負荷後の粘度/シェア負荷前の粘度)×1000
【0037】
試験例2(ボトル加圧シェア耐性外観評価)
試験1で加圧シェアを負荷したマヨネーズを、プラスチック製チューブ式マヨネーズ容器(100mL)に約70体積%充填し、空気を排出し密閉した。この容器を繰り返し手で押し、500回押した後、チューブから搾り出した乳化物の外観を肉眼で観察し、下記基準に従って評価を行った。
評価基準
A:初期と変わらず、なめらかで光沢のある非常に良好な外観である。
B:僅かに肌が荒れるものの離水、離油は認められず、良好な外観である。
C:所々に離水、離油が認められ、不良な外観である。
【0038】
試験例3(低温耐性評価)
試験1で加圧シェアを負荷したマヨネーズをプラスチック製チューブ式マヨネーズ容器(100mL)に満量まで充填し、−8℃の恒温槽に保存した。1日後、2日後、3日後にそれぞれ室温に取り出し、次いで約6時間静置した後、チューブから搾り出した乳化物の外観を肉眼で観察し、試験例2と同様の基準に従って評価を行った。
【0039】
試験例4(温度サイクル耐性)
試験1で加圧シェアを負荷したマヨネーズをプラスチック製チューブ式マヨネーズ容器(100mL)に満量まで充填した。これを12時間毎に一定条件で温度が変化する恒温槽(25℃で2時間保持後、30分で0℃に低下、次いで0℃で9時間保持した後、30分で25℃に上昇)に30日間保存した。保存後、室温に約6時間静置し、次いでチューブから搾り出した乳化物の外観を肉眼で観察し、試験例2と同様の基準に従って評価を行った。
【0040】
試験例5(熟成後風味評価)
試験1で加圧シェアを負荷したマヨネーズを、プラスチック製チューブ式マヨネーズ容器(100mL)に満量まで充填し、容器上部空間部分を窒素にて置換した後、密栓し、20℃にて保存した。一ヵ月保存後、マヨネーズ自体の風味評価、及び野菜サラダの風味評価(レタス10g、プチトマト2切れ、スライスきゅうり3枚に対しマヨネーズ約8gをかけて食した)を43名のパネルで行った。風味評価の基準は、10点を最もおいしいとし、1点を最もおいしくないとした10段階とした。このようにして得られた点数から平均点を求め、各サンプルの評点とした。
その結果、本発明品はいずれも比較品に対し、風味が優れていた。特に、比較品においては、コク味が乏しく、野菜を咀嚼していくと水っぽくなり、青臭みやエグ味が感じられたのに対し、本発明品は、コク味が強く、野菜を咀嚼していっても、青臭みやエグ味が低減され、おいしく食することができた。
【0041】
【表4】

【0042】
参考例で示された、低温耐性に対して全く向上効果がみられないジグリセリド高含有油脂組成物であっても、これを酸性水中油型乳化組成物とした本発明品は、配管移送シェア、充填シェアに相当する加圧シェア耐性、実際の使用時に相当する500回押し圧試験(ボトル加圧シェア耐性)、低温耐性、温度サイクル耐性のいずれの性能をも満たしており、さらに風味が優れていた。
一方、PS及び/またはPSEとポリグリセリン脂肪酸エステルの両者を含まない比較品はいずれも、加圧シェア負荷で粘度低下が著しかった。また、500回押し圧試験でも安定性が劣っており、温度サイクル耐性も劣っていた。さらにジグリセリド純度低下の影響としてジグリセリド高含有油の一部を大豆白絞油に置き換えた比較品では、乳化物の低温耐性が向上するものの、ボトル加圧シェア耐性、温度サイクル耐性の向上は見られず、また風味の向上もみられなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(A)、(B)、(C)及び(D):
(A)ジグリセリド含量が30質量%以上である油脂、
(B)卵黄、
(C)植物ステロール(PS)及び植物ステロール脂肪酸エステル(PSE)の質量比がPSE/(PS+PSE)>0.3を満たし、かつPSEを構成する脂肪酸の80質量%以上が不飽和脂肪酸であるPS及びPSE、
(D)ポリグリセリン脂肪酸エステル
を含有する酸性水中油型乳化組成物。
【請求項2】
卵黄の一部又は全部が、酵素処理されたものである請求項1記載の酸性水中油型乳化組成物。
【請求項3】
酵素がホスホリパーゼである請求項2記載の酸性水中油型乳化組成物。
【請求項4】
ホスホリパーゼにより処理された卵黄のうち、卵黄の全リン脂質に対するリゾリン脂質の比率がリン量基準で15質量%以上である請求項3記載の酸性水中油型乳化組成物。
【請求項5】
成分(C)を、成分(A)に対して、遊離の植物ステロールに換算して、1〜10質量%含むものである請求項1〜4のいずれか1項記載の酸性水中油型乳化組成物。
【請求項6】
成分(C)のPSを、成分(A)に対して0.001〜0.3質量%含むものである請求項1〜5のいずれか1項記載の酸性水中油型乳化組成物。

【公開番号】特開2006−87314(P2006−87314A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−273813(P2004−273813)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】