説明

酸性水製造方法及び酸性水製造装置

【課題】 電解質や添加物を加えることなく、簡易な構成の装置を用いて、短時間で、精製水、アルカリ性水、又は各種水溶液から酸性水を製造する。
【解決手段】 液体を容器に収め、電極に電磁波を供給し、電極のうち液体に接した部分でプラズマを発生させ、該液体を励起させて、酸性水を製造する酸性水製造方法。液体が収められた容器と、液体に接する位置に配置された電極と、この電極に電磁波を供給する電磁波供給路とを備え、電極のうち液体に接した部分にプラズマを発生させて酸性水を製造する酸性水製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性水を製造する方法、及び、その酸性水を製造するための酸性水製造装置に関し、特に、精製水又はアルカリ性水から酸性水を製造する酸性水製造方法及び酸性水製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酸性水は、pH7を中性としたときに、これよりも小さいpHの値を示す水をいう。
この酸性水は、pHによって、強酸性水、弱酸性水、微酸性水に分けることができ、それぞれ性状により用途が異なっている。
例えば、強酸性水は、消毒殺菌作用があることから、手洗用や内視鏡の洗浄などに使用されている。また、弱酸性水は、物を引き締める収れん作用を有していることから、アストリンゼントとして、洗顔剤や化粧水などに使用されている。
【0003】
この酸性水を製造する方法としては、次のものがある。
例えば、電解槽の室内の中央に隔膜を配置して電解槽を二室に分け、各分室のそれぞれに電極を挿入する。電解槽内に原水を供給し、電極間を通電すると、陰極室からアルカリ性水を、陽極室から酸性水をそれぞれ得ることができる(電気分解法。例えば、特許文献1参照。)。
また、他の方法としては、例えば、クエン酸等の弱酸を水に投入してpHを調整し酸性水を製造する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−245265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これまでの酸性水の製造方法においては、次のような問題があった。
例えば、電気分解法は、精製水に対して行うことはできず、必ず食塩NaClなどの電解質を入れて導電性を確保しなければならなかった。この酸性水は、高い塩素濃度を示し、滅菌力として高い効果を示すものの、過塩素酸イオンなどの影響が好ましくない傷口の洗浄などには必ずしも適しているとはいえなかった。
【0006】
また、電気分解法に用いる電解質は、高純度である必要があった。もし、電解質が低純度だとすると、予期しない電解生成物が混ざる可能性があった。
さらに、電気分解法では、強酸性水の製造を急速に行うことができなかった。
しかも、電気分解法は、電解槽の内部に隔膜を配置して電解槽を二室にし、各室に電極を設けた構成としなければならなかった。このように、隔膜で二本の電極を隔てた構成を採用しなかった場合、各電極で生成されるアルカリ性水と酸性水が中和してしまい、酸性水を製造することができなかった。
【0007】
一方、弱酸の投入方法は、pHが添加物の分量に依存し、多くの場合、複数種の酸を使用することから、調整が複雑になっていた。また、投入された有機酸自体の存在から用途が限定されていた。
【0008】
本発明は、上記の事情にかんがみなされたものであり、電解質や添加物を加えることなく、簡易な構成の装置を用いて、短時間で、精製水等から酸性水を製造可能とする酸性水製造方法及び酸性水製造装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するため、本発明の酸性水製造方法は、液中にプラズマを発生させ、該液体を励起させて、酸性水を製造する方法としてある。
【0010】
また、本発明の酸性水製造装置は、液体が収められた容器と、液体に接する位置に配置された電極と、この電極に電磁波を供給する電磁波供給路とを備え、電極のうち液体に接した部分にプラズマを発生させて酸性水を製造する構成としてある。
【発明の効果】
【0011】
本発明の酸性水製造方法及び酸性水製造装置によれば、液中にプラズマを発生させることで酸性水を製造できる。
また、同方法及び装置を用いて生成した酸性水は、精製水を原料としており、一切の電解質、添加剤、添加剤から生成した物質を含まないので、高い安全性が得られる。
【0012】
さらに、同方法及び装置は、アルカリ性水を生成することなく、強酸性水のみを生成できるので、隔膜や電極が不要となり、同装置の構造を単純化、積層化できる。
しかも、液中にプラズマを発生させると、pHが急激に下がることから、短時間で酸性水を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態における酸性水製造装置の構成を示す概略側面図である。
【図2】マイクロ波電力の波形を示す波形図である。
【図3】同軸導波管と液中プラズマ源の構成を示す側面断面図である。
【図4】液中プラズマ源のうち支持部材の構成を示す外観斜視図である。
【図5】液中プラズマ源のうち電極付近の構成を示す側面断面図である。
【図6】本発明の実施形態における酸性水製造装置を用いて、精製水から酸性水を製造したときの液温及びpHの変化を示すグラフである。
【図7】本発明の実施形態における酸性水製造装置を用いて、アルカリ性水から酸性水を製造したときの液温及びpHの変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る酸性水製造方法及び酸性水製造装置の好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。
【0015】
[酸性水製造装置]
まず、本発明の酸性水製造装置の実施形態について、図1を参照して説明する。
同図は、本実施形態の酸性水製造装置の構成を示す正面図である。
【0016】
同図に示すように、酸性水製造装置1は、マイクロ波発振器10と、導波管20と、容器30と、液中プラズマ源40とを有している。
ここで、マイクロ波発振器10は、マグネトロンボックス11と、マイクロ波電源12と、マイクロ波電源コントローラ13とを有している。
マグネトロンボックス11は、マイクロ波を生成して出力する。
マイクロ波電源12は、マグネトロンボックス11にマイクロ波生成用の電力を供給する。
マイクロ波電源コントローラ13は、マイクロ波電源12に信号を送って、マイクロ波の出力などを調整・制御する。
【0017】
なお、図1においては、マグネトロンボックス11、マイクロ波電源12、マイクロ波電源コントローラ13をそれぞれ別構成で示したが、別構成に限るものではなく、これらを一体構成とすることができる。
また、マイクロ波は、一般に、波長が100μm〜1m、周波数が300MHz〜3THzの電磁波をいう。
【0018】
導波管20は、マイクロ波発振器10から出力されたマイクロ波を容器30へ伝搬する。
導波管20には、アイソレータ21、パワーメータ22、チューナ23などの立体回路を取り付けることができる。
アイソレータ21は、負荷から反射してきたマイクロ波が再びマグネトロンへ戻らないように、ダミーロードで吸収し、熱に変換する。
パワーメータ22は、出射、反射それぞれのマイクロ波電力を測定する。
【0019】
チューナ23は、負荷インピーダンスの整合を行なう。
チューナ23には、スリースタブチューナと、EHチューナがある。
スリースタブチューナは、三本のスタブを調整して、負荷の消費電力を最大にする。
EHチューナは、導波管20のE分岐とH分岐にプランジャを設け、これを出し入れすることで、チューニングをとる。
なお、酸性水製造装置1を実施する場合は、スリースタブチューナとEHチューナのいずれを用いてもよい。
【0020】
また、導波管20には、コーナ導波管24や終端プランジャ25などを用いることができる。
さらに、導波管20は、同軸導波管変換器26を有している。
この同軸導波管変換器26の構造については、後記の(液中プラズマ源)で詳述する。
【0021】
容器30は、液体を入れる器である。この容器30に収められた液体の中でプラズマを発生させる。
この容器30の側面32(図5参照)の一部には、液中プラズマ源40の支持体43(後述)を取り付けるための孔31(図5参照)が穿設されている。
支持体43は、後述するように、キャップ状に形成されており、スカート部43−1と天板部43−2とを有している。孔31は、天板部43−2とスカート部43−1の一部(天板部43−2の近傍)が嵌合可能な大きさに穿設されている。
【0022】
この容器30は、例えば、テフロン(登録商標)などの樹脂やガラスで形成することが望ましい。これは、容器30が金属で形成されていると、収められた液体が酸性水になるため、電池になって電気分解や腐食を起こす可能性があるからである。
なお、テフロン(登録商標)で製造された容器30の外側に、ステンレス容器を備えたり、金属製の容器の内側にテフロン(登録商標)の塗装を施して使用することもできる。金属製の容器を使うことにより、マイクロ波の漏洩を防止できる。
【0023】
(液体への供給電力)
次に、液体に供給される電力について、説明する。
液体には、この液中にプラズマを発生させて酸性水を生成するための電力が供給される。
この電力は、直流パルスではなく、2.45GHz、5.8GHz、9.5GHz帯などの周波数スペクトルが単一のマイクロ波である。このため、共振構造、伝送路インピーダンスの最適化などにより、高い電力供給効率が可能となる。
【0024】
液中プラズマでは、従来技術として直流パルスによる放電の例がある。
直流パルスは、基本周波数およびその奇数倍のきわめて広範囲の周波数成分を含むので、伝送路および負荷(液体のインピーダンス)との完全な整合が難しく、結果として反射電力が大きく、負荷への電力供給効率は低くなる。
一方、駆動電力をマイクロ波にすることで、電極42への負荷を小さくできる。
すなわち、マイクロ波は単周波数なので、極めて効率的に電力を供給すること、および電極を誘電体で覆うなど無電極化することが可能になる。
マイクロ波は、理論的には無反射にすることも可能であり、この場合の負荷への電力供給効率は、マグネトロンの発振効率のみが最も大きな損失となるだけなので、電力効率は、70%近くになる。この数値は、他の方法と比較して極めて高い効率である。
【0025】
また、直流パルスにおいては、液体の導電率を制御する必要がある。これは、導電率が低い場合は液体に余計な電解質を混入する必要があること、あるいは、既に導電率が必要よりも高い場合にはプラズマを得ることができないことを意味する。
これに対して、マイクロ波は、水の大きな比誘電率(約80)と大きな誘電正接(約10)によりエネルギーを吸収させてプラズマを生じさせるので、このような導電率の制御は不要であり、よって、不純物を入れる必要もなく、多くの物質に適用できる。液体として、水が適当であることも、他方式に対する特長となる。
【0026】
マイクロ波電力は、図2に示すように、複数周期を一パルスとするパルス状であることが望ましい。
定常的にプラズマ放電可能なマイクロ波電力をプラズマ源に投入すると、その電力により激しい発熱が生じ、電極42が破壊する。しかるに、プラズマが生じるための電力は高く、試作機では、2kW以上のピークパワーを必要とした。この相反する要求を同時に実現するためには、電力供給はマイクロ波パルスであることが必要になる。
一方、マイクロ波パルスのパルス幅を1μ秒よりも短くすれば、プラズマはコロナ放電すなわち非熱平衡プラズマとなり、温度上昇が抑えられ、電極42の損耗は著しく少なくなる。しかし、液体に与えられるエネルギーは小さくなるため、反応速度が遅くなるか、または条件によっては酸性水が生成されない可能性がある。
【0027】
本実施形態においては、充分な効果を期待するために、電極の損耗が考えられるが、長いパルス幅、すなわち、パルス幅5msec、繰り返し周波数100Hz、のマイクロ波パルスを使用した。その結果、電極42は、損耗が確認されたが、プラズマ点火後、急激にpHが下がり始め、約250秒ほどで、精製水からpH4以下の酸性水を製造することができた。また、約300秒ほどで、アルカリ性水からpH7以下の酸性水を製造することができた。
【0028】
(液中プラズマ源)
次に、液中プラズマ源の構成について、図3〜図5を参照して説明する。
図3は、液中プラズマ源の構成を示す断面図である。図4は、液中プラズマ源を構成する支持部材を示した斜視図である。図5は、液中プラズマ源を構成する電極及びその周囲を拡大した要部拡大図である。
なお、本実施形態においては、同軸導波管変換器26の同軸管41が液中プラズマ源40に含まれるものとする。
【0029】
液中プラズマ源40は、導波管20を伝搬してきたマイクロ波を液体に供給するための装置である。
この液中プラズマ源40は、図3に示すように、同軸管41と、電極42と、支持体43と、封止部材44と、絶縁部材45とを有している。
同軸管41は、同軸導波管変換器26の一部を構成しており、導波管20からマイクロ波を受けて伝搬させる。
一般に、同軸導波管変換器26では、導波管20(管体26−1)と同軸管41とが垂直に接続されている。このため、マイクロ波は、管体26−1から同軸管41に伝わるときに、その伝搬方向を垂直方向に変えて伝わっていく。
【0030】
この同軸管41は、同軸管構造で形成されており、同軸管外部導体41−1と、同軸管内部導体41−2とを有している。
同軸管外部導体41−1は、同軸導波管変換器26の管体26−1の表面から外方に向かって突設された管状部材である。この同軸管外部導体41−1の中心軸方向は、同軸導波管変換器26の管体26−1の中心軸に対して垂直方向である。
この同軸管外部導体41−1の内径は、特性インピーダンスが50Ωとなるような寸法にしてある。
特性インピーダンスは、管の内外径比により変更できる。負荷(プラズマ)に整合するよう調整することも可能である。
【0031】
同軸管内部導体41−2は、棒状又は筒状の部材であって、同軸管外部導体41−1の中空に、同軸管外部導体41−1と同軸で配置されている。
この同軸管内部導体41−2の一方の端部は、同軸導波管変換器26の管体26−1の内面(同軸管外部導体41−1が取り付けられている部分に対向する面)に当接している。また、他方の端部には電極42が延設されている。
なお、同軸管内部導体41−2の直径は、試作機においては10mmとしたが、必ずしも10mmが最適であるわけではなく、前述したように、適宜変更可能である。
【0032】
同軸管内部導体41−2が管体26−1に当接している部分には、支持部材50が取り付けられている。
支持部材50は、図3及び図4に示すように、第一支持部材51と、第二支持部材52とを有している。
第一支持部材51は、頂部が截断された截頭錐体の形状に形成されており、底部51−1が管体26−1の孔26−2に嵌合している。また、底部51−1の中央から頂部截断面(截頭面51−2)の中央に向かって直線状に貫通孔51−3が穿設されている。この貫通孔51−3には、同軸管内部導体41−2の一方の端部が嵌合する。
【0033】
この第一支持部材51が截頭錐体の形状に形成してあるのは、次の理由による。
方形導波管の伝送基本モードは、TEモードまたはTMモードである。一方、同軸線路の伝送基本モードは、TEMモードである。このように、方形導波管と同軸線路では、伝送モードが異なるが、同軸導波管変換器26は、それらの整合をとって、マイクロ波を伝搬可能にしている。
整合の手法には様々なものがあるが、本実施形態の同軸導波管変換器26は、第一支持部材51の形状により整合をとっている。
第一支持部材に関する公知の形状としてワイングラス形があるが、その曲線形状が複雑なために加工が困難であるという欠点がある。これに対し、本実施形態の第一支持部材51は、截頭錐体であり、加工が容易である。
【0034】
また、ワイングラス形は、平均電力1MW、あるいは尖頭値電力1MWといった大電力用変換器に用いられるが、そこまでの大電力を扱わない場合には、截頭錐体の形状でも発熱が生じず、実用的な整合をとることができる。これは、発明者が、平均電力500W〜1kW、尖頭値電力5kWにおいて電磁界シミュレーションを行なった結果、ワイングラス形と同等の電磁界分布が得られたことからわかった。
さらに、他の利点としては、第一支持部材51の表面にエッジがないことから、放電を防止できることが挙げられる。
しかも、スリースタブチューナ23を設けることで、さらに整合させることができる。
【0035】
第二支持部材52は、截頭錐体部52−1と、ネジ部52−2とを有している。
截頭錐体部52−1は、頂部が截断された截頭錐体の形状に形成されており、底部52−3の中心から頂部截断面(截頭面)の中央に向かって直線状に貫通孔52−4が穿設されている。
また、截頭錐体部52−1には、傾斜(テーパ)に沿って複数のスリット52−5が形成されており、一種のコレットチャックとなっている。スリット間にある歯部52−6は、貫通孔52−4に嵌合された同軸管内部導体41−2を支持する。
【0036】
ネジ部52−2は、截頭錐体部52−1の底部52−3から延設した円筒形状の部材であって、外周に雄ネジ52−7が形成されている。また、ネジ部52−2の中空52−8と截頭錐体部52−1の貫通孔52−4が連通している。
一方、第一支持部材51の截頭面51−2の中央には貫通孔51−3が穿設されており、この貫通孔51−3には、雌ネジ51−4が形成されている。これにより、第二支持部材52の雄ネジ52−7が、第一支持部材51の雌ネジ51−4に螺入することができ、この螺入により、第二支持部材52の貫通孔52−4及び中空52−8と、第一支持部材51の貫通孔51−3が連通する。
【0037】
なお、第一支持部材51の截頭面51−2の外縁の径は、第二支持部材52の底部52−3の外縁の径と同じである。これにより、第一支持部材51の雌ネジ51−4に第二支持部材52のネジ部52−2を螺入してもエッジが表れないので、放電を防止できる。
【0038】
電極42は、図5に示すように、胴部が円柱形状に形成されるとともに、一方の端部が円錐形状に形成されており、他方の端部に同軸管内部導体41−2の他方の端部が取り付けられている。電極42の一端を円錐形状とするにより、この先端46に電界を集中させ、電界強度を上げることができる。
そして、電極42の先端46を液中に露出させることで、この部分にプラズマを発生させることができる。
【0039】
この電極42は、金属などの導電体で形成されている。特に、先端46は、プラズマの熱を受け損傷するおそれがあるので、タングステンなど耐熱性の材料(高融点材料)で形成することが望ましい。ただし、必ずしも金属である必要はなく、例えば、誘電体を用いて作成することもできる。誘電体で電極42を作成すれば、金属が液中に露出しないので、金属不純物の混入を減少できる。
【0040】
支持体43は、同軸管外部導体41−1の一端(同軸導波管変換器26の管体26−1に接続していない方の端部)を蓋するように取り付けられたキャップ状部材である。
この支持体43は、スカート部43−1と、天板部43−2とを有している。
スカート部43−1の裾部43−3は、同軸管外部導体41−1の一端に接続している。
スカート部43−1のうち天板部43−2の近傍は、容器30の孔31に嵌合されたときに、天板部43−2とともに容器30の内部に露出する。この露出したスカート部43−1の外周にはネジ溝43−4が形成されている。ここに止めリング43−5を螺合することで、支持体43が容器30の側面32に固定される。
この孔31から露出した天板部43−2及びスカート部43−1の一部は、液体に浸される。
【0041】
また、支持体43は、中空部43−6を有している。中空部43−6は、同軸管外部導体41−1の中空と連通している。
この中空部43−6は、スカート部43−1の内面から天板部43−2の中央に向かって次第に内径が小さくなるように、先細りのテーパ状に形成されている。そして、天板部43−2の中央には、小さい孔43−7が穿設されている。これにより、この孔43−7から電極42の先端46が少し突出する。
【0042】
さらに、支持体43の天板部43−2の表面には、耐熱部材43−8が取り付けられている。
耐熱部材43−8は、プラズマ熱により支持体43が損耗し、孔43−7の径が大きくなるのを防ぐ。
【0043】
封止部材44は、支持体43の内面(中空部43−6の側面)と電極42との間に設けられた環状部材である。
この封止部材44は、電極42を支持するとともに、同軸管41の内部に液体が流入するのを防止する。
絶縁部材45は、支持体43の中空部43−6の側面と電極42との間であって、封止部材44と天板部43−2の孔43−7との間(つまり、容器30に液体を入れたときの封止部材44と液体との間)に設けられた環状部材である。
この絶縁部材45は、電極42を支持する機能と、液体が同軸管41や導波管20に侵入しないように封止する機能と、封止部材44がプラズマに直接暴露して熱的損傷を受けるのを防止する機能とを有している。これにより、封止部材44の寿命を延ばして、液中プラズマ源40の延命を可能とする。
【0044】
ここで、封止部材44と絶縁部材45について、さらに説明する。
封止部材44の材質は、変形して周囲の金属と密着する程度の弾力性があり、かつマイクロ波によって発熱しないように誘電損が小さい材質を使う必要がある。また、プラズマからの熱を多少受けるためにある程度の耐熱性を有することが望ましい。
そこで、弾力性のある柔らかい材料として、例えば、ゴム、PTFE(Polytetrafluoroethylene:ポリテトラフルオロエチレン)あるいは軟らかいプラスチック材料などが考えられる。しかし、これらの材料は一般に耐熱温度が低い。これらの耐熱温度が低い材料を本目的で使用すると、プラズマからの輻射熱、表面を走る沿面放電、中心電極の高温化などにより短時間で破壊され、水漏れ、酸性水への不純物混入などが生じる。一方、耐熱温度が高い材料は、ガラス、セラミックなどを代表として、固い材料が多く、金属と密着させて、水を封止するのには不向きである。
【0045】
また、絶縁部材45にセラミックなどを使い、ろう付けすることも考えられるが、本目的には適さない。
その理由として、中心電極42は、高温になるために熱膨張が大きく、通常のろう付けではひずみにより破壊してしまう。この熱膨張による形状変化を吸収するためには複雑な構造を必要とするが、中心電極42が消耗品となるために、これは本目的には適さない。
さらに、封止部材44としてPTFEを用い、これをプラズマの放電部分から導波管20の方へ後退させれば、熱の問題は緩和できる。ただし、マイクロ波は、表皮効果により電極42の表面を伝わり、結果的に水へも伝播するため、電極42の先端46に伝播する前に減衰してしまう。
【0046】
そこで、発明者は、封止部材44としてプラスチックを用い、その液体側を絶縁部材45としてのセラミックで覆い保護するという二重構造を創作した。
プラスチックは、PTFEを使用する。これは、マイクロ波帯における誘電損が少なく、過大な誘電率がなく、なるべく高い耐熱性があるからである。ただし、これらの条件を満たす材料であれば、PTFEに限るものではない。
セラミックは、アルミナ(Al203)を使用する。これは、PTFEと同様にマイクロ波帯における誘電損が少なく、過大な誘電率がなく、高い耐熱性と機械的強度があるからである。このような構造にすることによって、電極42の先端46のみが液体に露出し、かつプラズマを長時間維持できる耐熱構造を実現することが可能となる。ただし、これらの条件を満たす材料であれば、アルミナに限るものではない。
【0047】
なお、導波管20(同軸導波管変換器26及び同軸管41を含む)は、電極42にマイクロ波(電磁波)を供給することから、「電磁波供給路」としての機能を有している。
【0048】
[酸性水製造方法]
次に、酸性水製造装置を用いて酸性水を製造する手順(酸性水製造方法)について、説明する。
マイクロ波電源12は、マグネトロンボックス11に電力を供給する。
マグネトロンボックス11は、マイクロ波電源12からの電力の供給を受けて、マイクロ波を生成し出力する。このマイクロ波は、マイクロ波電源コントローラ13で調整された値を示す。また、マイクロ波は、図2に示すように、複数周期を一パルスとするパルス状に形成されたものである。
【0049】
導波管20は、マグネトロンボックス11から出力されたマイクロ波を搬送し、同軸導波管変換器26の内部に設けられた同軸管41へ送る。
同軸管内部導体41−2の端部に取り付けられた電極42の先端46に、マイクロ波の電界が集中する。これにより、容器30に収められた液中にプラズマが発生する。
この発生したプラズマにより、液体が励起し、酸性水が生成される。
【0050】
[製造原料]
酸性化する液体(製造原料)としては、用途、汎用性の点で、精製水を挙げることができる。
精製水とは、水以外のものをほとんど含まない、純度の高い水をいう。
ただし、用途及び目的により、液体の成分は変化する。
例えば、強アルカリ性の廃液を中和処理するため、あるいは、農業用水を殺菌するために、酸性化するなどの応用が考えられる。
また、精製水の他に、例えば、アルカリ性物質を含有したアルカリ性水を挙げることができる。
【0051】
さらに、製造原料となる各種水溶液としては、例えば、殺菌を目的として、海水、農業用水、飲料水、ミネラルウォーターなどが挙げられる。
また、高付加価値を目的として、洗剤、化粧水、風呂の水(温泉水、肌の改善)などを挙げることができる。
【0052】
[酸性水の生成原理]
本実施形態は、マイクロ波液中プラズマ法によるプラズマ励起で精製水などの液体が酸性に偏る現象を利用するものである。
電気双極子に作用し水分子を集団として揺動するマイクロ波は、導電性を持たない精製水にも作用し、プラズマ励起が可能である。
プラズマ中で励起された水分子は、解離して励起された水素原子Hを生成する。このHは、さらに水素イオンHと電子eに分解する。eによる還元作用が働くのと同時にHの生成により液体は、酸性に傾く。
【0053】
液体のpHは、基本的には、Hイオンの濃度で決まるが、Hが液中で安定に存在するためには、同数の安定なカウンタイオンが必要である。このカウンタイオンの候補として、NO(NO、又は、NO)が考えられる。
これは、水中の溶存窒素が酸素と結び付いて発生すると推察され、このカウンタイオンは、割合安定している。
ただし、量は、非常に少なく、通常でも最大で十数ppm程度である。
このわずかな量でも、他に緩衝作用を有する混入物がなければ、pH3.5ぐらいまでは低下する。
【0054】
NO以外に、スーパーオキサイドアニオン(O)も考えられるが、寿命が非常に短く、水中では過酸化水素水を生成する。もし、過酸化水素水になっている場合、過酸化マンガンを投入すると、酸素ガスが発生するはずである。ところが、過酸化マンガンを投入してもガスが発生しないので、スーパーオキサイドアニオン(O)がカウンタイオンとしてpHの低下に寄与することは考えにくい。
なお、純水が酸性化する現象は、一般に良く知られている二酸化炭素の混入以外に、超音波照射、マイクロ波照射(プラズマではなく電子レンジに水の入ったコップを入れた状態と同じ、ただ単に電磁波を水に照射するだけ)でも観測される。しかし、酸性化する速度は、本実施形態の方が格段に速い。
【0055】
[実施例]
(実施例1)精製水の酸性化
図1に示す酸性水製造装置を用意した。
容器30には、500mLの精製水を投入した。
マイクロ波発振器10より出力した周波数2.45GHzのマイクロ波を電極42の先端46に集中させて精製水に照射し、液中プラズマを励起した。
反応中の状態を追跡するため、pH計及び温度計をアプリケータ(容器30)に挿入し、液体のpHと液温を観測した。
【0056】
この観測で得られたpH及び液温の各値の変化を、図6に示す。
同図に示すように、pHは、マイクロ波の照射開始時点では、6程度であった。このpHは、プラズマ励起開始と同時に急速に減少し、60秒程で4を切り、3.7付近で一定となった。
一方、液温は、マイクロ波の照射開始時点では、27℃程度であった。この液温は、マイクロ波の供給にともなって上昇し、500秒後には、90℃に達した。
【0057】
この酸性水をポリエチレン容器に詰め、冷暗所に静置した。1週間後、pHを測定したところ、4.04であり酸性を維持していることが判明した。
さらに、この酸性水に対し水道水(東京都昭島市、測定時のpH7.6)を滴下してpH変化を確認した。
一律排水基準であるpH5.8より高い値とするには、酸性水に対して体積比20%の水道水を滴下すれば十分であった。
このように、酸性の保持ならびに中性化が容易であることが判明した。
【0058】
(実施例2)アルカリ性水の酸性化
図1に示す酸性水製造装置を用意した。
容器30には、500mLのアルカリ性水を投入した。
このアルカリ性水は、硫酸銅1gを溶かした水溶液に水酸化ナトリウムを滴下してpHを10弱に調整したものである。
マイクロ波発振器10より出力した周波数2.45GHzのマイクロ波を電極42の先端46に集中させて、この水溶液に照射し、液中プラズマを励起した。
反応中の状態を追跡するため、pH計及び温度計をアプリケータに挿入し、液体のpHと液温を観測した。
【0059】
この観測で得られたpH及び液温の各値の変化を、図7に示す。
同図に示すように、pHは、マイクロ波の照射開始時点では、9.9程度であった。このpHは、プラズマ励起開始時から処理時間に対して線形に減少し、プラズマ励起終了時にわずかに酸性となった。
これにより、アルカリ性の液体をプラズマ励起することで酸性にできることが判明した。
一方、液温は、マイクロ波の照射開始時点では、27℃程度であった。この液温は、マイクロ波の供給にともなって上昇し、440秒後には、93℃に達した。
この酸性水をポリエチレン容器に詰め、冷暗所に静置した。1週間後、pHを測定したところ、5.9であり処理後のpHを維持していることが判明した。
【0060】
この手段で得られた強酸性水は、高い安全性が確保されるため、精製水で希釈するなどして、弱酸性として、食品や容器の洗浄、手洗いなど様々な用途に応用可能である。
また、短時間で製造可能であるため、基本的に貯蓄の必要性がなく、必要とされる環境下で大量に製造でき、例えば災害現場などで清潔な洗浄水を確保する目的などに利用することができる。
さらに、製造した酸性水のpHに経時変化がほとんど見られないため、パックに詰めて携行することも可能である。
しかも、pH10のアルカリ性水溶液がpH7弱まで低下したことから、海水など弱アルカリ性水溶液を酸性化することが可能である。これは、タンカーのバラスト水の滅菌などの用途に応用可能である。
【0061】
以上説明したように、本実施形態の酸性水製造方法及び酸性水製造装置によれば、液中にプラズマを発生させることで、その液体から酸性水を製造できる。
また、同方法及び装置を用いて生成した酸性水は、精製水を原料としており、一切の添加剤ならびに添加剤から生成した物質を含まないので、高い安全性が得られる。
【0062】
さらに、同方法及び装置は、アルカリ性水を生成することなく、強酸性水のみを生成できるため、隔膜により酸性水とアルカリ性水を分離する必要がない。これにより、隔膜や電極が不要となるので、同装置の構造を単純化、積層化できる。
しかも、隔膜、電極、添加剤などが不要となるので、消耗品が少なくてすむことから、運転コストを低減できる。
【0063】
また、精製水の酸性化においては、短時間で例えば3分未満の処理が完了するため、電気分解法などに比べて、処理時間を短縮できる。
さらに、処理時間を短縮できることから、必要なときに必要な量を即時に製造できる。これにより、運転コストを低減できる。
【0064】
以上、本発明の酸性水製造方法及び酸性水製造装置の好ましい実施形態について説明したが、本発明に係る酸性水製造方法及び酸性水製造装置は上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、上述した実施形態では、容器を一つのみ備えた構成としたが、容器は、一つに限るものではなく、二つ以上備えることもできる。
【0065】
また、上述した実施形態では、導波管の構成は、図1に示した構成としたが、この構成に限るものではなく、液体にマイクロ波を供給できるものであれば、任意の構成とすることができる。
さらに、同軸導波管変換器は、発熱しやすいことから、冷却装置を備えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、電磁波によって励起された液中プラズマを用いて酸性水を製造する技術に関する発明であるため、液中プラズマを発生させて酸性水を製造する装置や機器に利用可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 酸性水製造装置
10 マイクロ波発振器
11 マグネトロンボックス
12 マイクロ波電源
13 マイクロ波電源コントローラ
20 導波管
21 アイソレータ
22 パワーメータ
23 チューナ
24 コーナ導波管
25 終端プランジャ
26 同軸導波管変換器
26−1 管体
26−2 孔
30 容器
31 孔
32 側面
40 液中プラズマ源
41 同軸管
41−1 同軸管外部導体
41−2 同軸管内部導体
42 電極
43 支持体
43−1 スカート部
43−2 天板部
43−3 裾部
43−4 ネジ溝
43−5 止めリング
43−6 中空
43−7 孔
43−8 耐熱部材
44 封止部材
45 絶縁部材
46 先端
50 支持部材
51 第一支持部材
51−1 底部
51−2 截頭面
51−3 貫通孔
51−4 雌ネジ
52 第二支持部材
52−1 截頭錐体部
52−2 ネジ部
52−3 底部
52−4 貫通孔
52−5 スリット
52−6 歯部
52−7 雄ネジ
52−8 中空

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液中にプラズマを発生させ、該液体を励起させて、酸性水を製造する
ことを特徴とする酸性水製造方法。
【請求項2】
前記液体が、精製水、アルカリ性水、又は各種水溶液である
ことを特徴とする請求項1記載の酸性水製造方法。
【請求項3】
電磁波を供給して前記プラズマを発生させる
ことを特徴とする請求項1又は2記載の酸性水製造方法。
【請求項4】
前記液体を容器に収め、
電極に前記電磁波を供給し、
前記電極のうち前記液体に接した部分で前記プラズマを発生させて、前記酸性水を製造する
ことを特徴とする請求項3記載の酸性水製造方法。
【請求項5】
前記電磁波が、マイクロ波を含み、
このマイクロ波が、1マイクロ秒のパルス幅で前記電極に供給される
ことを特徴とする請求項3又は4記載の酸性水製造方法。
【請求項6】
液体が収められた容器と、
前記液体に接する位置に配置された電極と、
この電極に電磁波を供給する電磁波供給路とを備え、
前記電極のうち前記液体に接した部分にプラズマを発生させて酸性水を製造する
ことを特徴とする酸性水製造装置。
【請求項7】
前記電磁波により発生した液中プラズマにより前記液体を励起して前記酸性水を製造する
ことを特徴とする請求項6記載の酸性水製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−188228(P2010−188228A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32777(P2009−32777)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(500036831)アリオス株式会社 (14)
【Fターム(参考)】