説明

酸性鉱山廃水の水処理工程で発生する中和殿物の資源化方法

【課題】 再資源化には有害な砒素および硫黄分を鉱山廃水から得られる中和殿物から除去し、鉄関係の製錬における鉄の原料とする技術を開示する
【解決手段】 鉄成分と、砒素及び/又は硫黄成分を主に含有する酸性鉱山廃水の水処理工程で発生する中和殿物を、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム溶液でアルカリ性とした後に加熱、攪拌し、前記中和殿物中の砒素や硫黄を溶出した後の残渣を原料の一部として鉄製錬に利用する。加熱攪拌は常圧雰囲気下又は加圧雰囲気下で行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、酸性鉱山廃水などの水処理事業等で発生する中和殿物の、鉄関係の製錬における鉄の原料などへの資源化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
旧松尾鉱山新中和処理場における平成15年度の中和殿物発生量は、年間約4600t(乾燥重量)である。一日当たりの平均値にすると約12.6tとなる。現在、この中和殿物は貯泥ダムに堆積されており、既に溜まっている泥量は、水分0%の乾燥重量に換算すると約15万tと推定されている。水処理は今後も半永続的に行われるために、中和殿物も発生し続け、やがて新たな貯泥ダムの建設が必要になる。従って、新たな貯泥ダムに要する土地の確保や膨大な建設費が予想される。このように、中和殿物の処理処分はこの分野での大きな技術課題となっている。
【0003】
また、規模は異なるが旧松尾鉱山新中和処理場と同じような廃水処理場が国内に数十箇所存在する。この鉱山酸性廃水には鉄イオンのほか、砒素や硫酸イオンが含まれており、中和するとこれらが共同沈殿したり、塩基性硫酸塩となったりして中和殿物になる。
【0004】
【特許文献1】特開平06−190398号公報
【0005】
上記に引用した文献には、酸性廃水を中和処理した沈殿物を、容易に酸化鉄等の水不溶性安定化物にする技術が開示されている。しかしながら、安定化した成分は埋め立てることを目的とするものであって、これを再利用するという思想ではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来法によって生成された中和殿物は砒素などの含有量が高いので、セメントの骨材や焼き物の着色剤、鉄原料などへの有効な再利用に対する障害になっている。
【0007】
本発明は、従来の中和沈殿物の再利用の困難性を解消するものであって、再資源化には有害な砒素および硫黄分を中和殿物から除去し、鉄関係の製錬における鉄の原料とする技術を開示するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では上述した課題を解決するために、鉄成分と、砒素及び/又は硫黄成分を主に含有する酸性鉱山廃水の水処理工程で発生する中和殿物を、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム溶液でアルカリ性とした後に加熱、攪拌し、前記中和殿物中の砒素や硫黄を溶出した後の残渣を原料の一部として鉄製錬に利用するという一連の手段を用いた。ここで、中和殿物に必要な組成としては、鉄製錬を目的としているので、鉄成分は必須である。また、含有されている他の成分のうち、砒素は有毒性分であるから資源化原料にこれが含まれることは避けなければならない。また、硫黄についてはこれが含まれていると焼成時に硫黄酸化物が発生するので、鉄原料からは脱硫黄を行わなければならない。水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムは、最初に公知の手段によって得られた中和殿物をアルカリ性にする作用を行う。なお、請求項1において、鉄成分と、砒素及び/又は硫黄成分を主に含有するという意味は、中和殿物の含有成分としては絶対的にこれら3元素に限定されるという意味合いに解釈されることを避けるためである。言い換えると、採鉱された鉱物には微量にこれら以外の金属などが不可避的に含有される場合があるが、本発明の対象はこれらも含む。
【0009】
請求項2以下の具体的手段では、加熱攪拌の雰囲気を特定したものであるが、常圧雰囲気下又は加圧雰囲気下で行うことにより、より効率的な脱砒素及び脱硫黄を達成する。
【0010】
なお、中和殿物を得る公知の手段の一例としては、塩酸と硫酸の混酸を含む鉱山廃水は鉄や砒素を含有しており、第一鉄の第二鉄への酸化などの必要に応じて行われる前処理工程を経て、炭酸カルシウムや消石灰、生石灰などの中和剤を添加し、有害な重金属を固形物とすると同時に、pHを中性化する。具体的な構造としては、鉄成分はFe(OH)2やFe(OH)3という水酸化鉄になって殿物化される。このとき、その一部は硫黄を巻き込んでFe(OH)SO4という塩基性硫酸第二鉄になったり、共同沈殿によって砒素を吸着したりして水相から固相へ移し、これを除去する方法である。本発明で予想する事象は、砒素は共同沈殿によって固相に共存しているので、これを本発明方法によって除去することは必須であるが、硫黄については偶発的に巻き込むことが予測されるので、このようにして硫黄が入った場合には硫黄成分を除去するものである。ただし、経験上では中和条件によって殿物には硫黄を巻き込むことが多い。
【0011】
中和殿物からの砒素と硫黄の除去の具体的手段としては、水中の砒素の形態はIII価とV価であるが、その存在状態はEh-pHに依存して変化するので、発明者らは系のpHを変更することで砒素を吸着したり溶出したりできると考えた。これと同様に、中和殿物中の硫黄は、塩基性硫酸塩として存在するので、系をアルカリ性にすることで、水酸基と交換され溶出すると考えた。系の状態を変更する因子としては温度を、溶出反応の因子としては時間を設定した。
【発明の効果】
【0012】
以上述べた通り本発明の資源化方法は、従来技術が抱える問題点を解決し、次のような効果をもたらす。即ち、例えば、現在まで未利用でただ堆積されている旧松尾鉱山新中和処理場の中和殿物に所定量のNaOHを加え、加温し、2時間程度反応させることで、中和殿物中の砒素と硫黄が除去でき、殿物中の各々の含有量が0.1%以下となり、鉄関係の製錬における鉄原料として利用できるようになる。また、旧松尾鉱山新中和処理場と類似した成分の中和殿物は、これと同じ方法で資源化できる。さらに、廃水処理で現在最大の問題である中和殿物の処分場所の問題が軽減できる。
【0013】
一方、中和殿物から溶出した砒素は、酸化砒素(As2O3、As2O5)として濃縮し、化学薬品に使用することができる。また、水溶液中で溶出液の温度を333K以上に維持した状態で、スコロダイト(FeAsO4・2H2O)として砒素が溶出しない化合物として固定化できる。硫黄については、石膏として固定化や回収が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施の形態を添付した図面に従って説明する。
1)砒素溶出率とpHの関係
図1は、砒素溶出率と溶液のpH依存性を調べたものである。363Kの条件のもと、10%NaOHの水溶液をpH調整剤とし、そのpHをpH11〜pH13.5と変化させたときの結果を示す。砒素の溶出率は溶液pH12.5までは30%以下であったが、pHの上昇にともない砒素の溶出率の増加が確認でき、pH13以上で90%以上となった。これはpH6前後のとき、中和殿物中のFe(III)は砒素イオンと、Fe(OH)2+H2As(III)O3-の状態で吸着していたが、高温では酸素濃度が低くなりEhが低下し還元雰囲気となり、アルカリ性になるに従い、H2AsO3-から、HAsO32-、AsO33-のイオンに遊離し、さらに強アルカリ性の溶液では、OH-イオンとの競争吸着により再び溶液中に溶け出したと考えられる。
【0015】
2)砒素溶出率と温度の関係
図2は、砒素の溶出率に与える温度の影響を調べた結果を示している。砒素の溶出率は温度の上昇とともに高くなり、溶出率が温度298Kの約40%から、363Kの約99%に上昇した。
【0016】
3)砒素溶出率と溶出時間の関係
中和殿物からの砒素の溶出に及ぼす攪拌時間の影響を調べた結果を図3に示す。砒素の溶出率は溶出時間の延長とともに増加し、溶出試験を開始してから吸着している細孔中への拡散のため、2時間後にほぼ100%の溶出率に達した。
【0017】
4)オートクレーブを使った砒素の溶出
中和殿物に所定量のNaOHを加え、オートクレーブで0.2MPaの条件下393Kで1時間維持したところ、砒素の溶出率は約90%であった。
【0018】
5)資源化試験
表1の中和殿物を、表2の条件で処理し、表3のものを得た。表3のものの資源化を各種製錬所で調査したところ、鉄原料になり得るとの回答を得た。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
【表3】

【実施例】
【0022】
旧松尾鉱山新中和処理場の貯泥ダムに堆積している中和殿物をNaOHなどの水溶液を使ってpHを13以上とし、加熱して363Kとしたままで、2時間穏やかに攪拌すると、95%以上の砒素と、ほぼ100%の硫黄が中和殿物から溶出した。砒素および硫黄の含有率が0.1%以下なら鉄関係の製錬における鉄原料として利用可能であり、上記の条件で処理した中和殿物は鉄原料となった。中和殿物から溶出した砒素は、酸化砒素(As2O3、As2O5)として濃縮し、化学薬品に使用することができる。また、水溶液中で溶出液の温度を333K以上に維持した状態で、スコロダイト(FeAsO4・2H2O)として砒素が溶出しない化合物として固定化できる。同様に本発明工程にて溶出した硫黄は、石膏として固定化や回収が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】中和殿物からの砒素の脱着に関するpHの影響を示したグラフ
【図2】中和殿物から砒素の脱着に関する温度の影響を示したグラフ
【図3】中和殿物から砒素の脱着に関する溶出時間の影響を示したグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄成分と、砒素及び/又は硫黄成分を主に含有する酸性鉱山廃水の水処理工程で発生する中和殿物を、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム溶液でアルカリ性とした後に加熱、攪拌し、前記中和殿物中の砒素や硫黄を溶出した後の残渣を原料の一部として鉄製錬に利用する酸性鉱山廃水の水処理工程で発生する中和殿物の資源化方法。
【請求項2】
加熱攪拌は常圧雰囲気下で行う請求項1記載の酸性鉱山廃水の水処理工程で発生する中和殿物の資源化方法。
【請求項3】
加熱攪拌は加圧雰囲気下で行う請求項1記載の酸性鉱山廃水の水処理工程で発生する中和殿物の資源化方法。
【請求項4】
加圧はオートクレーブによって行う請求項3記載の酸性鉱山廃水の水処理工程で発生する中和殿物の資源化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−328498(P2006−328498A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−155417(P2005−155417)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000224787)同和テクノエンジ株式会社 (7)
【Fターム(参考)】