説明

酸素ポンプおよびその製造方法

【課題】常温常圧で動作し、大きな酸素運搬能力を容易に出しえ、電解質の漏出などの恐れが無い、酸素ポンプの提供。
【解決手段】多孔質のガス交換性の負極3と多孔質のガス交換性の正極2との間に二酸化マンガンと電解液のペーストを含浸したセパレータ1を挟み、集電構造を介して外部直流電源より両電極2,3に給電して、互いに隔離された気相の負極側から正極側に酸素の移動を行う構成としてある。この構成によれば、常温常圧で動作する水系溶剤を用い、極めて少ない量の電解質が含浸保持されるので、電解質の漏出など事故の問題が無い。また、構造的に薄くやわらかく、大面積にして酸素運搬能力を大きくすることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸素ポンプは、1対のガス交換電極の間に電解質を挟んだ電気化学的セルを構成し、両極間に直流通電することにより、ガス交換電極の負極側気相から酸素を電気化学的セル内に取り込み、ガス交換極の正極側気相に酸素を放出する酸素移送手段である。
【0003】
従来この分野には、水系電解質を用いるものと、セラミックの固体電解質を用いるものが存在する。例えば、特許文献1には水系電解質を用いた酸素ポンプが開示されている。一般に、水系電解質を用いる酸素ポンプは、常温常圧で動作する点で優れるが、多量の酸性溶液、またはアルカリ性溶液を電気化学的セル内に保持しており、破損時にこれが電気化学的セル内から流出する恐れがある。一方のセラミック系電解質を用いる例として、特許文献2がある。一般にセラッミック系の固体電解質を用いるものは、電解質の漏出などの恐れは無いものの、動作温度が高く、また電解質自体が薄く硬く脆い為に、大面積にして酸素運搬能力を大きくすることに向いていない。
【特許文献1】特公昭59−5673号公報
【特許文献2】特開2003−107043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記各酸素ポンプはそれぞれ一長一短があり、常温常圧で動作し、大きな酸素運搬能力を容易に出しえ、電解質の漏出などの恐れがない酸素ポンプは見られなかった。
【0005】
本発明はこのような点に鑑みてなしたもので、常温常圧で動作し、大きな酸素運搬能力を容易に出しえ、電解質の漏出など事故の問題が無い、酸素ポンプを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の酸素ポンプは、多孔質のガス交換性の負極と多孔質のガス交換性の正極との間に二酸化マンガンと電解液のペーストを含浸したセパレータを挟み、集電構造を介して外部直流電源より両電極に給電して、互いに隔離された気相の負極側から正極側に酸素の移動を行うようにしたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、以上のようにすることにより、常温常圧で動作し、面積を大きく取って大きな酸素運搬能力を容易に出しえ、電解質の漏出などの恐れが無い、酸素ポンプができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の請求項1記載の酸素ポンプは、多孔質のガス交換性の負極と多孔質のガス交換性の正極との間に二酸化マンガンと電解液のペーストを含浸したセパレータを挟み、集電構造を介して外部直流電源より両電極に給電して、互いに隔離された気相の負極側から正極側に酸素の移動を行う構成としてある。この構成によれば、常温常圧で動作する水系溶剤を用い、極めて少ない量の電解質が含浸保持されるので、電解質の漏出など事故の問題が無い。構造的に薄くやわらかく、大面積にして酸素運搬能力を大きくすることが可能である。
【0009】
本発明の請求項2記載の酸素ポンプは、正極負極に炭素微粉末を用いたものであり、セパレータに薄く塗布し、セパレータと電極との密着性がよくなる。
【0010】
本発明の請求項3記載の酸素ポンプは、集電構造にカーボンクロスを用いたものであり、カーボンクロスのやわらかさの大きな面積の酸素ポンプを作ることが可能で、酸素運搬能力を大きくできる。さらにカーボン繊維クロスの繊維を引き出すことにより、外部電源回路との接続が容易になる。
【0011】
本発明の請求項4記載の酸素ポンプでは、積層した膜状のセパレータ、両電極、集電構造の周囲末端を接着剤でモールドしたもので、面方向への気体の逃げと、正極負極間の気体の回りこみを規制する。
【0012】
本発明の請求項5記載の酸素ポンプは、多孔質膜に、二酸化マンガンと電解液のペーストを一旦含浸させた後乾燥し、その後、電極、集電構造を付加して、酸素ポンプ構造を組み立て、さらにその後、水蒸気による吸水で電解質溶液を再生して製造するものであり、乾燥状態で酸素ポンプ構造を組み立てることができ、製法が容易となる。
【0013】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0014】
(実施の形態1)
図1は面状積層構造を示す断面図で、二酸化マンガンと電解液のペーストを含浸したセパレータ1の両面に、炭素微粉末を塗布して構成した正極2と負極3を配置し、その外部にカーボンクロスを密着設置して正極側集電電極4と正極側集電電極5とすることにより、積層された構造を形作り、面方向の終端部に接着剤を含浸・肉盛りしてモールド8として各構造を接続一体化する。外部に対する正極側電極取り出し部6と負極側電極取り出し部7は、そのカーボンクロスのカーボン繊維をモールド8より引き出し、外部直流電源(図示せず)に接続する。
【0015】
上記セパレータ1に願新させる電解液は塩化カルシウムの水溶液を用い、濃度は塩化カルシウム無水物として、30%から60%程度である。セパレータ1に塗布後、乾燥させて、両電極、両終電電極と積層し、面方向の終端部に接着剤を含浸・肉盛りしてモールド8を作り一体化する。なお、乾燥していない、濡れたセパレータでは、モールドを作ることが困難である。
【0016】
上記構成において、セパレータ1上の塩化カルシウムは強い潮解性をもち、大気から水蒸気を吸収して、30%から60%に収まり、元の湿潤状態に戻る。この範囲で電解液は不揮発性溶液として振る舞い、乾固することが無い。また、セパレータ1のほかに周囲の正極2と負極3の炭素微粉末や正極側集電電極4と正極側集電電極5のカーボンクロスが水溶液を保持するので、液垂れ漏れ出して逸失したり、周囲を汚すことが無い。
【0017】
酸素ポンプ運転の定常状態での動作では、外部直流電源より、直流電圧を印加すると、電流は正極側電極取り出し部6から正極側集電電極4を経て正極2に伝えられ、正極2の炭素微粉末表面で電解液と電荷を交換して酸素を発生し、次にセパレータに含浸した電解液中をイオン伝導により伝えられて負極3の炭素微粉末表面に達し、再び電荷を交換して電解液中に酸素を取り込み、さらに、負極側集電電極5、負極側電極取り出し部7を介して外部直流電源に戻り、全体としては閉回路ができる。このとき、気体状の酸素は、負極側気相10から負極3の炭素微粉末表面で電解液に取り込まれ、電解液中をイオン伝導に従って伝えられ、正極2の炭素微粉末表面で酸素に戻り、正極側気相9に排出されて、酸
素ポンプとしての酸素移動の機能が発揮される。
【0018】
さらに詳述すると、通電に従って、負極表面で二酸化マンガンの四価のマンガンは、負極から電子を受け取って還元され、二価マンガンイオンとなる。
【0019】
MnO + 4H + 2e → Mn + 2H
続いて、二価マンガンイオンは酸素で自動酸化されて四価の二酸化マンガンに戻ると共に溶液中の水素イオンから水を生成し、酸素が電解液中に取り込まれる。
【0020】
2Mn + O + 2HO → 2MnO + 4H
従って、負極の全反応では酸素と水素イオンが負極から電子を受け取って、水が生成したことになる。
【0021】
+ 4H + 4e → 2H
もう一方の正極表面では、水が電子を正極に与えて、酸素と水素イオンを生成する。
【0022】
2HO → O 4H + 4e
ここで、直接酸素運搬に関与しない塩化カルシウムも幾つかの機能をもつ。第一に大量のカルシウムイオンがあることで、負極3からの水素ガスの発生が抑えられる。カルシウムイオンが負極表面に電気的吸着し、カルシウムイオンのpHバッファラクションのために電極表面がアルカリ側に維持され、水素発生の平衡電位が低下して水素ガスが出にくくなる。第二に塩素イオンの存在下では、二価マンガンイオンの自動酸化が速くなり、酸素の取り込みが促進される。
【0023】
セパレータ1には、電池セパレータ、電解隔壁、限外濾過膜、ろ紙、不織布など多くの名称、材質、製法の表裏貫通した間隙を有する多孔質膜が存在し、これらが利用可能である。しかしながら、本発明のセパレータ1は、両電極間の電子伝導の絶縁のほか、負極側、正極側の気相の連通を遮断して、ガス分離を行う機能を担っており、このためにセパレータ内部の間隙は電解質溶液で満たされ、ガスの通過ができないものでなければならない。このためには、材質が撥水性で電解液をはじくものは不可であり、ポリエチレン製、ポリテトラフルオロカーボン製などの撥水性のものは、親水化処理がなされないと使用できない。また、目開きが大きいものは、親水的材質であっても液切れして気相が連通するので、目開きの小さなものが望ましいが、ペースト状の二酸化マンガンが、内部の間隙に浸入する目開きの広さが必要で、また浸入した二酸化マンガンが目を潰して実質目開きを小さくするので、かなり大きな目開きの多孔質膜でも気相の連通を阻止できる。ほぼ目開き100マイクロメートル以下の膜であれば、目的が達せられる。
【0024】
正極2、負極3の電極材料の炭素微粉末は、カーボンブラック、グラファイトカーボン粉末、活性炭粉末などが使える。セパレータ1に塗布したときに薄層になって剥離しない微細なものがよく、その粒径は10マイクロメートル以下である。カーボンブラックのアセチレンブラックは安価に安定した微粒子状のものが入手でき、良好である。炭素の微粒子間は導電性がよく、セパレータと密着した電極が容易に作成される。
【0025】
カーボンクロスは、通常カーボン繊維の束を平織りにした布である。カーボン繊維には原料別の分類としてPAN系、ピッチ系、レーヨン系などがあり、弾性率などの機械的特性も種々のものがあるが、集電電極ためには特に原料・機械的特性を問わない。カーボンクロスはやわらかく、強度があり、大きな面積の酸素ポンプを作ることができ、酸素運搬能力を大きくできる。さらにカーボンクロスのカーボン繊維束を引き出し、圧着端子などで結束して、端子取り出し、外部電源回路との接続が容易になる。
【0026】
本発明の酸素ポンプでは、積層した膜状のセパレータ1、両電極2,3、集電構造の周囲末端を接着剤でモールドして、面方向への気体の逃げと、正極負極間の気体の回りこみを規制する。このために使える糊剤には、溶剤にネオプレンなどのゴムを溶解したゴム糊、シリコンコーンシーリング剤などが使え、電解液の水に耐性のものであればよい。モールドは面方向への気体の逃げと、正極負極間の気体の回りこみを規制する。
【0027】
このようにこの実施の形態の酸素ポンプは、常温常圧で動作する水系溶剤を用い、極めて少ない量の電解液が含浸保持されるので、電解質の漏出などの恐れが無い。構造的に薄くやわらかく、大面積にして酸素運搬能力を大きくすることが可能である。
【0028】
以下、実験例を説明する。
【0029】
実験に用いた酸素ポンプは、図2の構成を持ち、ポリエチレン製不織布セパレータ1は厚み0.38ミリメートル(日本バイリーン社製)、両電極2,3はアセチレンブラック(和光純薬社製)、カーボンクロス(三菱レイヨン社製)、モールド8はシリコーンシーラント(信越化学社製)で、円形有効直径30ミリメートル(有効面積7.0平方センチメートル)で、ガス出口12には、薄膜微小流量計を接続し、流量の観測ができるようにした。室温(約25℃)で実験を行い、1.2Vを印加して、0.7アンペアの電流が流れ、正極から0.022ミリリットル/秒のガスが流出し、電流とガス流量の化学量論的関係が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上のように、本発明の酸素ポンプは、常温常圧で動作し、大きな酸素運搬能力を容易に出しえ、電解質の漏出などの恐れが無いので、酸素製造分野、富酸素条件を必要とする燃焼、養魚、医療などの分野、低酸素条件を必要とする食料、食品保存の分野に応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態1における酸素ポンプの構成例を示す断面図
【図2】同酸素ポンプの実験例の構成を示す断面図
【符号の説明】
【0032】
1 セパレータ
2 正極
3 負極
4 正極側集電電極
5 負極側集電電極
6 正極側電極取り出し部
7 負極側電極取り出し部
8 モールド
9 正極側気相
10 負極側気相
11 正極側ケース
12 ガス出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質のガス交換性の負極と多孔質のガス交換性の正極との間に二酸化マンガンと電解液のペーストを含浸したセパレータを挟み、集電構造を介して外部直流電源より両電極に給電して、互いに隔離された気相の負極側から正極側に酸素の移動を行う酸素ポンプ。
【請求項2】
正極負極が炭素微粉末である請求項1記載の酸素ポンプ。
【請求項3】
集電構造がカーボンクロスである請求項1記載の酸素ポンプ。
【請求項4】
積層した多孔質膜、両電極、集電構造の周囲末端を接着剤でモールドした請求項1記載の酸素ポンプ。
【請求項5】
二酸化マンガンと電解液のペーストを多孔質膜状セパレータに含浸させた後乾燥させ、その後、前記多孔質膜状セパレータに、電極、集電構造を付加して、酸素ポンプ構造を組み立て、さらにその後、水蒸気による吸水で多孔質膜状セパレータの電解質溶液を再生する酸素ポンプの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−90004(P2010−90004A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262540(P2008−262540)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】