説明

酸素吸収剤

【課題】 特性が高い酸素吸収剤を提供する。
【解決手段】 不飽和カルボン酸の塩および酸素吸収促進剤を含み、不飽和カルボン酸の塩を構成する陽イオンが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、13族元素および14族元素からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素の陽イオンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素吸収剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食品などのように酸素による劣化が大きい物品を安定に保存するためには、酸素が少ない環境下で保存することが重要である。そのような保存を可能にするため、従来からさまざまな酸素吸収剤が提案されている(たとえば特許文献1〜4)。
【特許文献1】特開昭63−198962号公報
【特許文献2】特開平1−67252号公報
【特許文献3】特開平4−29741号公報
【特許文献4】特開2000−462号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の酸素吸収剤では、十分な特性が得られていなかった。たとえば、上記特許文献には不飽和脂肪酸の金属塩を用いる酸素吸収剤が記載されているが、それらは、いずれも金属塩でなければ得られない性質を積極的に利用するものではなかった。更に、金属塩の種類によっては、ハンドリング性、色相、安全性および経済性などが劣る場合があった。
【0004】
このような状況に鑑み、本発明は、特性が高い酸素吸収剤を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の酸素吸収剤は、不飽和カルボン酸の塩および酸素吸収促進剤を含み、前記不飽和カルボン酸の塩を構成する陽イオンが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、13族元素および14族元素からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素の陽イオンである。
【0006】
上記酸素吸収剤では、前記酸素吸収促進剤が、遷移金属塩、ラジカル発生剤および光触媒粒子からなる群より選ばれる少なくとも1つであってもよい。
【0007】
上記酸素吸収剤では、前記不飽和カルボン酸の分子量が3,000以下であってもよい。
【0008】
上記酸素吸収剤では、前記不飽和カルボン酸が、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、パリナリン酸、ダイマー酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、魚油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、大豆油脂肪酸、桐油脂肪酸、糖油脂肪酸、胡麻油脂肪酸、綿実油脂肪酸、菜種油脂肪酸およびトール油脂肪酸からなる群より選ばれる少なくとも1つであってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酸素吸収能、低臭気性、ハンドリング性、色相、安全性および経済性といった特性のうちのいくつかの特性が高い酸素吸収剤が得られる。本発明の酸素吸収剤では、不飽和脂肪酸を金属塩とし、その塩を構成する陽イオンを選択することによって、これらの特性のうちのいずれかを特に高めることが可能である。たとえば、不飽和脂肪酸の中には、特異臭を持つものや水溶性のものがある。これらを金属塩とし、塩の種類を選ぶことで、難溶性化、低揮発度化して、臭気を抑える効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の説明において特定の機能を発現する物質として具体的な化合物を例示する場合があるが、本発明はこれに限定されない。また、例示される材料は、特に記載がない限り、単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。
【0011】
以下、本発明の酸素吸収剤について説明する。本発明の酸素吸収剤は、不飽和カルボン酸の塩(以下、カルボン酸塩(A)という場合がある)および酸素吸収促進剤とを含む。カルボン酸塩(A)を構成する陽イオンは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、13族元素および14族元素(典型元素)からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素の陽イオンである。また、酸素吸収促進剤は、遷移金属塩、ラジカル発生剤および光触媒粒子からなる群より選ばれる少なくとも1つである。
【0012】
以下、カルボン酸塩(A)について説明する。カルボン酸塩(A)を構成するアルカリ金属としては、ナトリウムやカリウムなどが挙げられる。カルボン酸塩(A)を構成するアルカリ土類金属としては、たとえば、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、が挙げられる。アルカリ土類金属を用いたカルボン酸塩(A)は、アルカリ金属を用いたカルボン酸塩(A)に比べて水溶性が低いため、カルボン酸塩(A)の水への溶出を抑制することができる。なかでも、カルシウムは、安全衛生上無害であるという点で好ましい。
【0013】
カルボン酸塩(A)を構成する13族元素および14族元素としては、たとえばアルミニウムや鉛などが挙げられる。アルミニウムを用いたカルボン酸塩(A)は、カルシウムを用いたカルボン酸塩(A)よりも水に対する溶解度が低く且つ蒸気圧が低いため、樹脂に分散させたときでも、カルボン酸塩(A)の水への溶出や樹脂からのブリードアウトを抑制できる。さらに、アルミニウムのような中性金属を用いることによって、カルボン酸塩(A)の脱炭酸分解を抑制することができ、長期にわたって安定な酸素吸収剤が得られる。また、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびアルミニウムといった金属は、コバルトやマンガンなどに比べて安価であるという利点を有する。
【0014】
本発明において、カルボン酸塩(A)を構成するカルボン酸は、分子量が小さいことが好ましい。カルボン酸塩(A)を構成するカルボン酸の分子量は、好ましくは3,000以下であり、より好ましくは500以下である。分子量が3,000以下のカルボン酸に由来するカルボン酸塩(A)は、樹脂に分散させてシート状の酸素吸収剤を作製する場合に、容易に樹脂に分散させることができるという点で好ましい。
【0015】
カルボン酸塩(A)は炭素−炭素二重結合を含む。カルボン酸塩(A)は、モノカルボン酸の塩でもよいし、ジカルボン酸などのポリカルボン酸の塩であってもよい。カルボン酸塩(A)は、直鎖または鎖式の非環式化合物であってもよく、不飽和の脂環式構造を有する環式化合物であってもよい。側鎖を有する不飽和カルボン酸を用いた場合、酸素吸収に伴って側鎖の部分が分解して低分子物質(臭気物質)が発生する場合がある。酸素吸収に伴う低分子物質の発生を抑制するためには、直鎖の不飽和カルボン酸塩または脂環式構造を有する不飽和カルボン酸塩を用いることが好ましい。カルボン酸塩(A)を構成する不飽和カルボン酸としては、たとえば、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、パリナリン酸、ダイマー酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、魚油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、大豆油脂肪酸、桐油脂肪酸、糖油脂肪酸、胡麻油脂肪酸、綿実油脂肪酸、菜種油脂肪酸およびトール油脂肪酸からなる群より選ばれる少なくとも1つが挙げられる。これらの中でも、分子内に多数の二重結合を有するリノレン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸を用いることによって、酸素吸収能力が高い酸素吸収剤が得られる。
【0016】
カルボン酸塩(A)の例としては、アルカリ金属塩では、パルミトレイン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、リノール酸ナトリウム、リノレン酸ナトリウム、アラキドン酸ナトリウム、パリナリン酸ナトリウム、ダイマー酸ナトリウム、ドコサヘキサエン酸ナトリウム、エイコサペンタエン酸ナトリウム、魚油脂肪酸ナトリウム、アマニ油脂肪酸ナトリウム、大豆油脂肪酸ナトリウム、パルミトレイン酸カリウム、オレイン酸カリウム、リノール酸カリウム、リノレン酸カリウム、アラキドン酸カリウム、パリナリン酸カリウム、ダイマー酸カリウム、ドコサヘキサエン酸カリウム、エイコサペンタエン酸カリウム、魚油脂肪酸カリウム、アマニ油脂肪酸カリウム、大豆油脂肪酸カリウムなどが挙げられる。
【0017】
また、アルカリ土類金属を含有するカルボン酸塩(A)としては、パルミトレイン酸カルシウム、オレイン酸カルシウム、リノール酸カルシウム、リノレン酸カルシウム、アラキドン酸カルシウム、パリナリン酸カルシウム、ダイマー酸カルシウム、ドコサヘキサエン酸カルシウム、エイコサペンタエン酸カルシウム、魚油脂肪酸カルシウム、アマニ油脂肪酸カルシウム、大豆油脂肪酸カルシウム、パルミトレイン酸マグネシウム、オレイン酸マグネシウム、リノール酸マグネシウム、リノレン酸マグネシウム、アラキドン酸マグネシウム、パリナリン酸マグネシウム、ダイマー酸マグネシウム、ドコサヘキサエン酸マグネシウム、エイコサペンタエン酸マグネシウム、魚油脂肪酸マグネシウム、アマニ油脂肪酸マグネシウム、大豆油脂肪酸マグネシウム、パルミトレイン酸バリウム、オレイン酸バリウム、リノール酸バリウム、リノレン酸バリウム、アラキドン酸バリウム、パリナリン酸バリウム、ダイマー酸バリウム、ドコサヘキサエン酸バリウム、エイコサペンタエン酸バリウム、魚油脂肪酸バリウム、アマニ油脂肪酸バリウム、大豆油脂肪酸バリウムなどが挙げられる。
【0018】
また、アルミニウムを含有するカルボン酸塩(A)としては、たとえばパルミトレイン酸アルミニウム、オレイン酸アルミニウム、リノール酸アルミニウム、リノレン酸アルミニウム、アラキドン酸アルミニウム、パリナリン酸アルミニウム、ダイマー酸アルミニウム、ドコサヘキサエン酸アルミニウム、エイコサペンタエン酸アルミニウム、魚油脂肪酸アルミニウム、アマニ油脂肪酸アルミニウム、大豆油脂肪酸アルミニウムなどが挙げられる。
【0019】
これらのなかでも、酸素吸収能力に優れ、カルボン酸塩(A)の水への溶出を抑制でき、かつ安全衛生上無害であることを考慮するとリノレン酸カルシウム、ドコサヘキサエン酸カルシウム、エイコサペンタエン酸カルシウム、魚油脂肪酸カルシウムが好ましい。さらに、カルボン酸塩(A)の脱炭酸分解を抑制でき、長期にわたって安定な包装材を形成できることも考慮するとリノレン酸アルミニウム、ドコサヘキサエン酸アルミニウム、エイコサペンタエン酸アルミニウム、魚油脂肪酸アルミニウムがより好ましい。
【0020】
上記酸素吸収促進剤は、炭素−炭素二重結合を含むカルボン酸塩(A)の酸化を促進させるための物質である。カルボン酸塩(A)が酸化されることによって雰囲気中の酸素が消費される。酸素吸収促進剤として遷移金属塩を用いることによって、特に高い酸素吸収能が得られる。
【0021】
遷移金属塩を構成する遷移金属としては、たとえば、鉄、ニッケル、銅、マンガン、コバルト、ロジウム、チタン、クロム、バナジウム、およびルテニウムが挙げられる。これらの中でも、鉄、ニッケル、銅、マンガン、およびコバルトが好ましい。遷移金属塩を構成するアニオンとしては、たとえば、有機酸または塩化物由来のアニオンが挙げられる。有機酸としては、たとえば、酢酸、ステアリン酸、ジメチルジチオカルバミン酸、パルミチン酸、2−エチルへキサン酸、ネオデカン酸、リノール酸、トール酸、オレイン酸、樹脂酸、カプリン酸、およびナフテン酸が挙げられる。遷移金属塩は酸素吸収促進剤として使用することを目的として添加されるため、それを構成する有機酸は炭素−炭素二重結合を含むものであってもよいし、炭素−炭素二重結合を含まないものであってもよい。代表的な遷移金属塩としては、たとえば、2−エチルへキサン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、およびステアリン酸コバルトが挙げられる。なお、遷移金属塩として、イオノマー(ionomer)を用いてもよい。
【0022】
ラジカル発生剤としては、たとえば、N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシマレイン酸イミド、N,N’−ジヒドロキシシクロヘキサンテトラカルボン酸ジイミド、N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシテトラクロロフタル酸イミド、N−ヒドロキシテトラブロモフタル酸イミド、N−ヒドロキシヘキサヒドロフタル酸イミド、3−スルホニル−N−ヒドロキシフタル酸イミド、3−メトキシカルボニル−N−ヒドロキシフタル酸イミド、3−メチル−N−ヒドロキシフタル酸イミド、3−ヒドロキシ−N−ヒドロキシフタル酸イミド、4−ニトロ−N−ヒドロキシフタル酸イミド、4−クロロ−N−ヒドロキシフタル酸イミド、4−メトキシ−N−ヒドロキシフタル酸イミド、4−ジメチルアミノ−N−ヒドロキシフタル酸イミド、4−カルボキシ−N−ヒドロキシヘキサヒドロフタル酸イミド、4−メチル−N−ヒドロキシヘキサヒドロフタル酸イミド、N−ヒドロキシヘット酸イミド、N−ヒドロキシハイミック酸イミド、N−ヒドロキシトリメリット酸イミド、N,N−ジヒドロキシピロメリット酸ジイミドなどが挙げられる。これらの中でも、N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシマレイン酸イミド、N−ヒドロキシヘキサヒドロフタル酸イミド、N、N’−ジヒドロキシシクロヘキサンテトラカルボン酸ジイミド、N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシテトラブロモフタル酸イミド、N−ヒドロキシテトラクロロフタル酸イミドが特に好ましい。
【0023】
光触媒粒子は、光の照射によって、カルボン酸塩(A)の酸化反応の触媒として機能する粒子である。光触媒粒子としては、たとえば、二酸化チタン、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化セリウム、チタン酸ストロンチウム、ニオブ酸カリウムの粒子が挙げられる。これらは、通常、粉末の形態で用いられる。これらの中でも、光触媒機能が高く、食品添加物としても認められており安全かつ安価であることから、二酸化チタンが好ましい。二酸化チタンはアナターゼ型であることが好ましく、二酸化チタン粉末の30重量%以上(より好ましくは50重量%以上)がアナターゼ型二酸化チタンであることが好ましい。アナターゼ型二酸化チタンを用いることによって、高い光触媒作用が得られる。
【0024】
本発明の酸素吸収剤に含まれるカルボン酸塩(A)および酸素吸収促進剤の量は、各成分の種類や目的に応じて調整される。カルボン酸塩(A)が不飽和モノカルボン酸塩であり酸素吸収促進剤が遷移金属塩である場合には、カルボン酸塩(A)100重量部に対する酸素吸収促進剤の量は、たとえば10-4重量部〜10重量部の範囲であり、好ましくは10-2重量部〜1重量部の範囲である。また、酸素吸収促進剤としてラジカル発生剤や光触媒を用いる場合には、カルボン酸塩(A)100重量部に対する酸素吸収促進剤の量は、たとえば0.1重量部〜100重量部の範囲であり、好ましくは1重量部〜10重量部の範囲である。
【0025】
本発明の酸素吸収剤は、カルボン酸塩(A)、酸素吸収促進剤、ならびに必要に応じて添加される添加剤および樹脂などの成分を混合することによって形成できる。各成分を混合する方法および混合の順序に特に限定はなく、全部の成分を同時に混合してもよいし、各成分を任意の順序で混合してもよい。
【0026】
混合の具体的な方法としては、たとえば、各成分を溶媒に溶解させて複数の溶液を作製し、これらの溶液を混合した後に溶媒を蒸発させる方法や、溶融した樹脂に他の成分を添加して混練する方法が挙げられる。
【0027】
酸素吸収剤を樹脂に分散させる場合、混練は、たとえば、リボンブレンダー、高速ミキサー、コニーダー、ミキシングロール、押出機、またはインテンシブミキサーを用いて行うことができる。
【0028】
本発明の酸素吸収剤の使用形態に特に限定はなく、粉末状のものを単独で使用してもよいし、何らかの担体に保持させても使用してもよいし、包装体で包装して使用してもよいし、樹脂などに分散させてシート状にして使用してもよい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。以下の方法で3種類の酸素吸収剤(サンプル1〜3)を作製し、評価した。
【0030】
(サンプル1)
リノレン酸24.00gと、水酸化カルシウム3.19gと、トルエン100mLとを混合し、4時間共沸脱水したのち、トルエンを留去した。得られた生成物を放冷したのち、減圧乾燥した。このようにして得られたリノレン酸カルシウム10.12gと、テトラヒドロフラン(THF)50mLと、ナフテン酸コバルト溶液(コバルトの含有率は6wt%)135mgとを混合したのち、THFを留去した。得られた混合物を、放冷したのち減圧乾燥した。このようにして、ナフテン酸コバルトとリノレン酸カルシウムとの混合物(サンプル1)を得た。
【0031】
(サンプル2)
リノレン酸24.00gと、水酸化ナトリウム3.45gと、トルエン100mlとを混合し、4時間共沸脱水したのち、トルエンを留去した。得られた生成物を放冷したのち、減圧乾燥した。このようにして得られたリノレン酸ナトリウム11.73gと、THF250mLと、ナフテン酸コバルト溶液(コバルトの含有率は6wt%)156mgとを混合したのち、THFを留去した。得られた混合物を、放冷したのち、減圧乾燥した。このようにして、ナフテン酸コバルトとリノレン酸ナトリウムとの混合物(サンプル2)を得た。
【0032】
(サンプル3)
リノレン酸24.00gと、水酸化ナトリウム3.45gと、トルエン100mlとを混合し、4時間共沸脱水したのち、トルエンを留去した。得られた生成物を放冷したのち、減圧乾燥した。乾燥させたリノレン酸ナトリウム塩12.86gと、水230mlとを混合し溶解させたところに、硫酸アルミニウム(14〜18水和物)2.44gと水20ml混合液を30分かけて添加した。沈殿した生成物を取り出し、60℃真空乾燥後に12.00gのリノレン酸アルミニウム(淡黄色)を取得した。このようにして得られたリノレン酸アルミニウム9.76gと、THF50mLと、ナフテン酸コバルト溶液(コバルトの含有率は6wt%)130mgとを混合したのち、THFを留去した。得られた混合物を、放冷したのち、減圧乾燥した。このようにして、ナフテン酸コバルトとリノレン酸アルミニウムとの混合物(サンプル3)を得た。
【0033】
(酸素吸収剤の酸素吸収能の評価)
サンプル1〜3の各0.5gをそれぞれ、(1)23℃で50%RHの室内、または(2)23℃で100%RHの室内で、容量260ccの瓶に入れて瓶を密封した。また、上記混合物0.5gを、(3)60℃で50%RHの室内、または(4)60℃で100%RHの室内で、容量260ccの瓶に水5ccとともに入れて瓶を密閉した。そして、一定期間ごとに瓶の中の酸素濃度を測定し、吸収された酸素の量を算出した。このとき、(1)および(2)の条件の瓶は23℃で保管し、(3)および(4)の瓶は60℃で保管した。測定結果を図1〜4に示す。図1〜4に示すように、サンプル1〜3の酸素吸収剤は、高湿度下で特に高い酸素吸収能を示した。ナトリウム塩の場合、低温条件では酸素吸収を示さない誘導期間があるが、高温条件では他の金属塩よりも良好な酸素吸収を示し、最大で270cc/g(60℃100%RH27日後)の酸素吸収を達成した。カルシウム塩の場合、測定時の温度/湿度の影響を大きく受けるが最大で141cc/g(60℃100%RH27日後)の酸素吸収を達成した。アルミニウム塩はカルシウム塩と同様に測定時の温度/湿度の影響を大きく受けるが最大で150cc/g(60℃100%RH27日後)の酸素吸収を達成した。
【0034】
(比較サンプル)
リノレン酸25.13gと、水酸化ナトリウム3.61g(水10gに溶解)と、トルエン100mlとを混合し、2時間共沸脱水したのち、トルエンを留去した。得られた生成物を減圧乾燥し、21.55gのリノレン酸ナトリウムを得た。このリノレン酸ナトリウム10.00gと水90gとを窒素雰囲気下で混合し、バス温50℃のバスで昇温した。この混合物に、硫酸第一鉄(7水和物)4.63gを水18ml(窒素バブリング済み)に溶解させた水溶液を30分かけて加えた。水溶液を加えると、時間の経過とともに沈殿物が黒く着色し、硫酸第一鉄水溶液を添加してから30分経過後には真っ黒になった。これは、鉄(II)が鉄(III)に酸化されたためであると考えられる。このように、リノレン酸の遷移金属塩を用いた比較サンプルでは、酸化劣化が激しいため、取り扱い性が悪いという問題および着色してしまうという問題があった。
【0035】
以上、本発明の実施形態について例を挙げて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の技術的思想に基づいて他の実施形態に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、酸素吸収が必要な分野、たとえば食品などを保存する際に用いられる酸素吸収剤として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の酸素吸収剤の特性の一例を示すグラフである。
【図2】本発明の酸素吸収剤の特性の他の一例を示すグラフである。
【図3】本発明の酸素吸収剤の特性のその他の一例を示すグラフである。
【図4】本発明の酸素吸収剤の特性のその他の一例を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和カルボン酸の塩および酸素吸収促進剤を含み、
前記不飽和カルボン酸の塩を構成する陽イオンが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、13族元素および14族元素からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素の陽イオンである酸素吸収剤。
【請求項2】
前記酸素吸収促進剤が、遷移金属塩、ラジカル発生剤および光触媒粒子からなる群より選ばれる少なくとも1つである請求項1に記載の酸素吸収剤。
【請求項3】
前記不飽和カルボン酸の分子量が3,000以下である請求項1または2に記載の酸素吸収剤。
【請求項4】
前記不飽和カルボン酸が、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、パリナリン酸、ダイマー酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、魚油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、大豆油脂肪酸、桐油脂肪酸、糖油脂肪酸、胡麻油脂肪酸、綿実油脂肪酸、菜種油脂肪酸およびトール油脂肪酸からなる群より選ばれる少なくとも1つである請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸素吸収剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−776(P2006−776A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−181177(P2004−181177)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】