説明

酸素富化空気の製造方法およびその装置

【課題】簡易な方法および装置により、エネルギーの無駄が少なく、かつ安価に酸素富化空気を製造することが可能な酸素富化空気の製造方法およびその装置を提供する。
【解決手段】原料空気を、包接水和物を形成する物質の水溶液中に分散させながら供給する分散・供給手段3と、前記分散・供給手段3で得られた、原料空気と包接水和物を形成する物質の水溶液との混合物を冷却して包接水和物を生成させる包接水和物生成手段4と、前記包接水和物生成手段4で生成された包接水和物と包接水和物を形成する物質の水溶液とにより形成される包接水和物のスラリーと、未反応の原料空気とを分離する分離手段5と、前記分離手段5で分離された包接水和物のスラリーを加温して酸素富化空気を放出させる放出手段7とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通常の大気中の酸素濃度より高い酸素濃度の空気、すなわち酸素富化空気の製造方法およびその製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸素は産業用、医療用などの幅広い分野で使用されている。例えば、ゴミ焼却炉や加熱のための各種燃焼炉では、近年、省エネルギー化の目的で、酸素濃度が30%程度の酸素富化空気が用いられる場合がある。ゴミ焼却炉や加熱のための各種燃焼炉で用いられる酸素富化空気としては、高濃度酸素は必ずしも必要ではなく、酸素濃度が30%程度の酸素富化空気を用いるだけで、火炎温度上昇による加熱効率向上、排ガス量減少による熱損失低減などの効果があり、通常の酸素濃度が約21%の大気を用いる場合と比較して、前記酸素富化空気を用いることで大きな省エネルギー効果があると言われている。
【0003】
従来、以下に示すような方法で酸素富化空気が製造されていた。
(1)深冷分離法、圧力変動吸着(PSA)法等で製造された純酸素、あるいは高純度酸素を空気で希釈して製造する方法(今福実、「酸素富化膜とその利用」、高圧ガス、1986、Vol.23、No.8、p.401−408(非特許文献1)参照)。
(2)PSA法により、高純度酸素ではなく、酸素富化空気を製造する方法(S.Sircar ,W.C.Kratz、「The oxy-rich pressure swing adsorption process for production of oxygen enriched air.」、1988、AIChE Symp. Ser.、Vol.84、No.264、p.141−144(非特許文献2)参照)。
(3)気体分離膜を使用して製造する方法(非特許文献1参照)。
【0004】
また、例えば、特開2003−138281号公報(特許文献1)には、包接水和物を利用した特定気体の分離濃縮技術について、アルキルアンモニウム塩をゲスト分子として含む中空の籠状結晶構造を持つ包接水和物を用いて、メタンと二酸化炭素を主成分とするバイオガスから硫化水素を除去するための方法および炭化水素からメタンを分離するための方法が提案されている。
【特許文献1】特開2003−138281号公報
【非特許文献1】今福実、「酸素富化膜とその利用」、高圧ガス、1986、Vol.23、No.8、p.401−408
【非特許文献2】S.Sircar ,W.C.Kratz、「The oxy-rich pressure swing adsorption process for production of oxygen enriched air.」、1988、AIChE Symp. Ser.、Vol.84、No.264、p.141−144
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記(1)の方法では、製造した純酸素、あるいは高純度酸素を空気で希釈しなければならないため、設備やエネルギーの無駄が多いという問題がある。
【0006】
また、上記(2)の方法では、以下のような問題がある。(イ)吸着剤を再生するために吸着した窒素を脱着する必要があり、窒素の用途がない限り、脱着に要するエネルギーが無駄になる、(ロ)通常の大気中の酸素濃度は窒素濃度の約1/4であるため、酸素富化空気の製造量の割には大量の空気を処理しなければならず大型の装置が必要となり、上記と同様に窒素の用途がない限り、設備とスペースが無駄になる、(ハ)吸着と脱着を繰り返すという基本的に間欠的なプロセスであるため、酸素富化空気の連続供給には少なくとも2基の吸着塔が必要であり、設備が大型化になる、等。
【0007】
また、上記(3)の方法では、膜の耐久性が不十分であり、膜の交換等の保守費用がかさむという問題がある。
【0008】
なお、上記特許文献1には、原料として空気を用い酸素富化空気を製造する具体的な方法に関する記載は見当たらない。
【0009】
このように、酸素富化空気製造に関する従来の方法にはエネルギーの無駄、設備の大型化、保守費用がかさむ等の問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、簡易な方法および装置により、エネルギーの無駄が少なく、かつ安価に酸素富化空気を製造することが可能な酸素富化空気の製造方法およびその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、酸素富化空気の製造において、前記深冷分離法のような極低温を必要とせず、また、前記PSA法とは異なり連続的な製造が可能であり、さらに、前記気体分離膜を使用して製造する方法における膜の耐久性のような問題のない酸素富化空気製造技術を提供することが可能となった。
【0012】
つまり、簡易な装置で通常の大気から酸素富化空気を直接製造することが可能であり、エネルギー的にも費用の面でも効率の良い酸素富化空気製造技術を提供することが可能となった。
【0013】
すなわち、本発明は以下のような特徴を有している。
[1] 原料空気から酸素富化空気を製造する方法において、
原料空気を、包接水和物を形成する物質の水溶液中に分散させながら供給する分散・供給工程と、
前記分散・供給工程で得られた、原料空気と包接水和物を形成する物質の水溶液との混合物を冷却して包接水和物を生成させる包接水和物生成工程と、
前記包接水和物生成工程により生成された包接水和物と包接水和物を形成する物質の水溶液とにより形成される包接水和物のスラリーと、未反応の原料空気とを分離する分離工程と、
前記分離工程により分離された包接水和物のスラリーを加温して酸素富化空気を放出させる放出工程と
を備えていることを特徴とする酸素富化空気の製造方法。
[2] 放出工程により放出された酸素富化空気を、原料空気の全部又は一部として分散・供給工程に供給することを特徴とする請求項1に記載の酸素富化空気の製造方法。
[3] 分離工程により分離された未反応の原料空気を、分散・供給工程に供給される原料空気に混合することを特徴とする請求項2に記載の酸素富化空気の製造方法。
[4] 分散・供給工程に供給する原料空気を、微細気泡として包接水和物を形成する物質の水溶液中に分散させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の酸素富化空気の製造方法。
[5] 分散・供給工程に供給する原料空気を、エジェクターを介して包接水和物を形成する物質の水溶液中に分散させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の酸素富化空気の製造方法。
[6] 包接水和物を形成する物質が、アルキルアンモニウム塩を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の酸素富化空気の製造方法。
[7] 包接水和物を形成する物質が、アルキルホスホニウム塩、アルキルスルホニウム塩またはこれらの混合物を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の酸素富化空気の製造方法。
[8] 放出工程により包接水和物のスラリーから酸素富化空気を放出した後に残る包接水和物を形成する物質の水溶液の少なくとも一部を、分散・供給工程に戻す循環工程を備えていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の酸素富化空気の製造方法。
[9] 原料空気から酸素富化空気を製造する装置において、
原料空気を、包接水和物を形成する物質の水溶液中に分散させながら供給する分散・供給手段と、
前記分散・供給手段で得られた、原料空気と包接水和物を形成する物質の水溶液との混合物を冷却して包接水和物を生成させる包接水和物生成手段と、
前記包接水和物生成手段で生成された包接水和物と包接水和物を形成する物質の水溶液とにより形成される包接水和物のスラリーと、未反応の原料空気とを分離する分離手段と、
前記分離手段で分離された包接水和物のスラリーを加温して酸素富化空気を放出させる放出手段と
を備えていることを特徴とする酸素富化空気の製造装置。
[10] 請求項9に記載の酸素富化空気の製造装置を2つ以上配置して構成した酸素富化空気の製造装置であって、
前記2つ以上配置した酸素富化空気の製造装置の上流側に位置する酸素富化空気の製造装置の放出手段で放出された酸素富化空気の全部又は一部を、下流側に位置する酸素富化空気の製造装置の分散・供給手段に原料空気として供給するように配置したことを特徴とする酸素富化空気の製造装置。
[11] 分離手段で分離された未反応の原料空気を、分散・供給手段に供給される原料空気に混合する未反応原料空気混合手段を備えたことを特徴とする請求項9又は10に記載の酸素富化空気の製造装置。
[12]分散・供給手段に供給する原料空気を、微細気泡として包接水和物を形成する物質の水溶液中に分散させる微細気泡発生手段を備えたことを特徴とする請求項9乃至11のいずれかに記載の酸素富化空気の製造装置。
[13]分散・供給手段に供給する原料空気を、包接水和物を形成する物質の水溶液中に分散させるためのエジェクターを備えたことを特徴とする請求項9乃至11のいずれかに記載の酸素富化空気の製造装置。
【0014】
[14]放出手段包接水和物のスラリーから酸素富化空気を放出した後に残る包接水和物を形成する物質の水溶液の少なくとも一部を、分散・供給手段に戻す循環手段を備えていることを特徴とする請求項9乃至14のいずれかに記載の酸素富化空気の製造装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡易な方法および装置により、エネルギーの無駄が少なく、かつ安価に酸素富化空気を製造する技術が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を用いて、本発明に係る酸素富化空気の製造方法およびその装置について、最良の形態の一例を説明する。
【0017】
図1は本発明に係る酸素富化空気の製造装置における第1の実施形態を示す概略構成図である。
【0018】
図1に示す酸素富化空気の製造装置は、包接水和物を形成する物質の水溶液2中に原料空気1を分散させながら供給する分散・供給手段3と、前記分散・供給手段3で得られた原料空気1と包接水和物を形成する物質の水溶液2との混合物を冷却して包接水和物を生成させる包接水和物生成手段4と、前記包接水和物生成手段4で生成された包接水和物と包接水和物を形成する物質の水溶液とにより形成される包接水和物のスラリーと、未反応の原料空気6とを分離する分離手段5と、前記分離手段5で分離された包接水和物のスラリーを加温して酸素富化空気9を放出させる放出手段7とを備えている。なお、図1では、原料空気1を分散・供給手段3に供給するためのブロワまたはコンプレッサ、水溶液2の移送のためのポンプ、および各種制御弁等は図示を省略している。
【0019】
以下、前記各手段について、詳しく説明する。
【0020】
[分散・供給手段3]
まず、分散・供給手段3では、原料空気1が包接水和物を形成する物質の水溶液2中に分散されながら供給されると共に、前記原料空気1の一部は水溶液2中に溶解する。
【0021】
ここで、前記原料空気1としては、通常の大気(酸素濃度約21%の空気)が用いられるが、それに限定されるものではなく、酸素濃度の濃縮を行う必要のあるどのような酸素濃度の空気でも原料空気として用いることができる。
【0022】
また、前記包接水和物を形成する物質(以下、「包接水和物形成物質」という。)としては、アルキルアンモニウム塩、アルキルホスホニウム塩、アルキルスルホニウム塩またはこれらの2以上の混合物を含むものを用いることができる。
【0023】
前記アルキルアンモニウム塩、アルキルホスホニウム塩、アルキルスルホニウム塩としては、それぞれ下記一般構造式(1),(2),(3)で表されるものを用いることができる。
【0024】
【化1】

【0025】
上記一般構造式(1),(2),(3)中において、R、R,R,Rは炭素数1〜5のアルキル基または水素を示し、その少なくとも一つはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、アミル基等のアルキル基である。また、Xは陰イオンを示し、例えば、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン等のハロゲンイオンや、硝酸イオン、ヒドロキシルイオン等である。
【0026】
また、前記水溶液2としては、前記包接水和物形成物質を2〜40質量%を含む水溶液を用いることが好ましい。
【0027】
前記包接水和物形成物質の水溶液2を冷却することにより、包接水和物が生成される。例えば、包接水和物形成物質としてアルキルアンモニウム塩の一種である臭化テトラn−ブチルアンモニウム((C4H9)4NBr:以下、「TBAB」と記す。)を用いる場合、水溶液中のTBABの質量濃度が6%の時は約4℃、10%では約6.7℃、20%では約9℃以下にそれぞれ冷却すると包接水和物が生成される。これらの包接水和物は、水分子で構成される籠状の構造内部に包接水和物形成物質が取り込まれてできたものであるが、それらが取り込まれている籠の周囲に、より小さい中空の12面体の籠状構造が存在すると考えられている。この12面体籠状構造と同程度、またはやや小さい分子サイズの気体が包接水和物形成物質の水溶液中に存在すると、包接水和物形成物質の包接水和物が生成される際に、その気体分子も前記12面体籠状構造に取り込まれることになる。その際、取り込まれる気体には、気体の種類による選択性があり、例えば、包接水和物形成物質の水溶液中に酸素と窒素が存在していると、酸素の方がより取り込まれやすい。この選択性は気体分子のサイズや、気体の水への溶解度に依存すると言われているが、そのメカニズムはまだよく分かっていない。なお、上述の気体分子の取り込みは、圧力が高ければ高いほど取り込み量は多くなるが、設備の耐圧構造化に伴う設備費や運転費等の経済性を考慮すると、0.1〜0.5MPa程度、より好ましくは0.2〜0.3MPa程度の圧力があれば十分であり、特段の高圧は不要である。
【0028】
また、前記分散・供給手段3で水溶液2中に供給される原料空気1は、微細気泡として水溶液2中に分散させることが好ましい。原料空気1を微細気泡として水溶液2中に分散させることにより、原料空気1と水溶液2との接触面積が大きくなり、原料空気1の水溶液2中への溶解がより促進されるからである。
【0029】
ここで、前記原料空気1を微細気泡として水溶液2中に分散させる手段としては、例えば、インライン静止混合器(スタティックミキサ)やベンチュリ方式の混合器等の微細気泡発生装置を前記分散・供給手段3に備える、あるいは前記分散・供給手段3を前記微細気泡発生装置とすることにより行うことができる。
【0030】
前記インライン静止混合器としては、例えば、
図2に示すような構成のものを用いることができる。図2に示すインライン静止混合器50は、入口側が大径で出口側が小径になった2段状の筒状体51からなり、この筒状体51の大径部51a中にガイドベーンと呼ばれる翼体53を有し、その先の小径部51b内に筒の内周面から中央に延びる複数のキノコ状の衝突体55を有している。このようなインライン静止混合器においては、混合器内に供給された水溶液2が翼体53によって旋回流となり、猛烈な遠心力によって外側へ押しやられ、それがキノコ状の衝突体55によってさらに強烈に攪拌され、その中に原料空気1が巻き込まれて超微細な気泡群に砕かれ、原料空気1と水溶液2とが分散、混合される。これによって、原料空気1と水溶液2との接触面積が大きくなり原料空気1は水溶液2中により効率よく溶け込む。
【0031】
また、前記ベンチュリ方式の混合器としては、ベンチュリに気液混相流体を流入させ、その出口拡大部で発生する衝撃波で気泡を破砕して微細気泡を発生させる方式がある。
【0032】
なお、前記原料空気1を微細気泡として水溶液2中に分散させる手段としては、上記の手段に限定されるものではなく、原料空気1を水溶液2中に微細な気泡、好ましくは平均直径が100μm程度またはそれ以下、より好ましくは平均直径が10μm程度またはそれ以下の気泡として水溶液2中に分散、供給させられるものであれば良い。
【0033】
また、本分散・供給手段3で包接水和物形成物質の水溶液2中に供給される原料空気1は、エジェクターにより前記水溶液2中に分散するようにしても良い。分散・供給手段3にエジェクターを設け、前記エジェクターに原料空気1と包接水和物形成物質の水溶液2とを通すことで、前記原料空気1と水溶液2とが強烈に攪拌され、原料空気1が超微細な気泡群に砕かれ、原料空気1と水溶液2とが分散、混合される。これによって、原料空気1と水溶液2との接触面積が大きくなり原料空気1は水溶液2中により効率よく溶け込む。
【0034】
[包接水和物生成手段4]
次に、包接水和物生成手段4では、前記分散・供給手段3で得られた原料空気1と包接水和物形成物質の水溶液2との混合物を冷却して包接水和物を生成させる。
【0035】
前記分散・供給手段3を出た原料空気1と包接水和物形成物質の水溶液2との混合物は包接水和物生成手段4内に流入し、ここで冷却されて包接水和物を生成すると共に、原料空気1の一部を包接水和物の12面体籠状構造の中に取り込む。上述したように、この際、前記包接水和物の12面体籠状構造の中には原料空気1中の酸素が優先的に取り込まれる。
【0036】
包接水和物の生成は発熱反応であるため、この包接水和物生成手段4は原料空気1と水溶液2との混合物を冷却できる構造のものである必要がある。ここで、この包接水和物生成手段4は冷却できる構造のものであればその形式には特に制限は無いが、冷却効率を高めるために、例えば、二重管式熱交換器や多管式熱交換器等と同様な形式とすることが好ましい。
【0037】
ここで、前記包接水和物形成物質としてTBABを用いる場合、包接水和物の生成に必要な温度は前述したように、水溶液中のTBABの質量濃度が6%の時は約4℃、10%では約6.7℃、20%では約9℃以下である。しかし、包接水和物の生成反応を早く進めるためには、これらよりも低い温度、例えば、前記温度よりもそれぞれ2〜3℃以上低い温度まで冷却することが好ましい。
【0038】
なお、図1に示す実施形態においては、前記分散・供給手段3とこの包接水和物生成手段4とを別々に設ける構成としているが、例えば、容器内の上部空間に原料空気1が存在するように構成した冷却装置付容器内の包接水和物形成物質の水溶液2を機械的に攪拌し、原料空気1を水溶液2中に混合、攪拌させると同時に冷却する方式とすることで、1つの装置として構成することができる。ここでは、原料空気1を包接水和物形成物質の水溶液2に十分に接触、溶解させ、包接水和物生成に伴う発熱を除去すれば良い。
【0039】
[分離手段5]
次に、分離手段5では、前記包接水和物生成手段4で生成された包接水和物と包接水和物形成物質の水溶液とにより形成される包接水和物のスラリーと、未反応の原料空気6とを分離する。
【0040】
前記包接水和物生成手段4の出口では、固体である包接水和物、気体である未反応の原料空気、および液体である未反応の包接水和物形成物質の水溶液からなる気固液三相流の状態となっている。ここで、前記固体である包接水和物と液体である未反応の包接水和物形成物質の水溶液とはスラリー(固液二相流体)となっている。
【0041】
前記包接水和物生成手段4から導出される気固液三相流の状態のものを分離手段5に導き、そこから未反応の原料空気6を分離する。なお、前記分離された未反応の原料空気6は、前記分散・供給手段に供給される原料空気1より酸素濃度は低くなるが、有害物質等は含まれないので大気中に放散することができる。
【0042】
前記分離手段5では、包接水和物と未反応の包接水和物形成物質の水溶液とによる包接水和物のスラリーと、未反応空気6とを分離するものであるが、その手段としては、例えば、サイクロンセパレーターを用いることにより行うことができる。
【0043】
[放出手段7]
次に、放出手段7では、前記分離手段5で分離された包接水和物のスラリーを加温して酸素富化空気9を放出させる。
【0044】
前記分離手段5を出た包接水和物と未反応の包接水和物形成物質の水溶液とによる包接水和物のスラリー(固液二相流体)は、放出手段7で加熱されて包接水和物が分解され、同時に前記包接水和物に取り込まれていた気体分子が気体として放出される。前記包接水和物から気体を放出させるために必要な加熱温度としては、前記包接水和物の生成に必要な温度以上が必要となる。
【0045】
例えば、包接水和物形成物質としてTBABを用いた場合には、前記包接水和物の生成に必要な温度としては、包接水和物生成前の水溶液中におけるTBABの質量濃度が6%の時は約4℃、10%では約6.7℃、20%では約9℃となる。しかし、包接水和物に取り込まれている気体の放出を速やかに進めるために、前記温度よりも高い温度、例えば20〜40℃程度の温度まで加熱することが好ましい。
【0046】
本放出手段7における加熱は、例えば、放出手段7に設けた加熱部71で行なうようにしても良い。前記加熱部71での加熱には、種々の加熱手段を用いることができるが、エネルギーの有効利用という観点から、包接水和物生成工程との間で熱交換を行い、生成熱を最大限に利用することが好ましい。更に不足する熱量については様々な排熱を利用することが可能であるが、例えば、前記包接水和物生成手段4で用いる冷却装置の排熱などを利用することも可能である。
【0047】
ここで、包接水和物のスラリーを加熱することで、本放出手段7における加熱部71の出口では、包接水和物形成物質の水溶液と包接水和物から放出された気体との気液二相流となる。そして、前記包接水和物から放出された気体は、例えば、前記加熱部71の下流側に設けられる酸素富化空気分離器72において分離される。なお、前記酸素富化空気分離器72は、図1に示すように放出手段7の一部として設けてもよく、また、別途の装置として設けても良い。
【0048】
前述したように、包接水和物中には酸素が優先的に取り込まれるため、本放出手段7において、前記加熱部71で包接水和物が加熱分解された時に放出され、前記酸素富化空気分離器72で分離された気体の酸素濃度は、原料空気の酸素濃度よりも高い酸素富化空気となる。
【0049】
また、本放出手段7により放出された酸素富化空気9を、原料空気の全部又は一部として分散・供給手段3に供給するようにしても良い。例えば、放出手段7により放出された酸素富化空気9を全て、原料空気1として分散・供給手段3に供給することにより、前記酸素富化空気9の酸素濃度をさらに高めることが可能となる。また、本放出手段7により放出された酸素富化空気9を、原料空気の一部として、通常の酸素濃度の空気と混合して分散・供給手段3に供給することで、酸素濃度を所定の値に調整した後の空気を原料空気として供給することができ、任意の濃度の酸素富化空気を製造することが可能となる。
【0050】
なお、前記酸素富化空気の循環の回数には特に制限は無く、循環回数を増やすことでさらに高濃度の酸素富化空気の製造が可能となる。
【0051】
図3は本発明に係る酸素富化空気の製造装置における第2の実施形態を示す概略構成図である。
【0052】
図3に示す酸素富化空気の製造装置は、図1に示す酸素富化空気の製造装置に対して、放出手段7で包接水和物のスラリーから酸素富化空気を放出した後に残る包接水和物形成物質の水溶液2の少なくとも一部を、分散・供給手段3に戻す循環手段8を備えたものである。なお、図3に示す、分散・供給手段3、包接水和物生成手段4、分離手段5、放出手段7は図1に示したものと同様であるので、ここでの説明を省略する。また、図3においては、原料空気1を分散・供給手段3に供給するためのブロワまたはコンプレッサ、水溶液2の移送のためのポンプ、および各種制御弁等は図示を省略している。
【0053】
以下、前記循環手段8について、説明する。
【0054】
[循環手段8]
循環手段8は、放出手段7で包接水和物のスラリーから酸素富化空気を放出した後に残る包接水和物形成物質の水溶液2の少なくとも一部を、分散・供給手段3に戻す。ここで、前記循環手段8としては、放出手段7から排出される水溶液2を分散・供給手段3に搬送するための配管、前記水溶液2を循環移送するためのポンプ、各種制御弁等により構成される。
【0055】
放出手段7で包接水和物のスラリーから酸素富化空気を放出した後に残る包接水和物形成物質の水溶液2は、変質等の問題がなく、循環再使用が可能である。そのため、循環手段8を備えることで、包接水和物形成物質の水溶液2を無駄にすることなく再利用可能となり、運転費の低減等の効果を有する。
【0056】
なお、前記循環手段8には、循環される前記水溶液2中の包接水和物形成物質の濃度を調整できるような手段、例えば、濃縮された水溶液中の包接水和物形成物質の濃度を下げるための、水等の溶媒を添加する手段等を設けても良い。これにより、循環する包接水和物形成物質の水溶液2の濃度を一定に保つことができ、酸素富化空気の製造を安定して行うことが可能となる。
【0057】
図4は本発明に係る酸素富化空気の製造装置における第3の実施形態を示す概略構成図である。
【0058】
図4に示す装置は、図3に示す酸素富化空気の製造装置を2つ処理の流れが一連となるように直列に2段配置して構成したものである。なお、以下の記載において、処理の流れに対して上流側に位置する酸素富化空気の製造装置を第一酸素富化空気製造装置、処理の流れに対して下流側に位置する酸素富化空気の製造装置を第二酸素富化空気製造装置と記す。
【0059】
ここで、前記第一及び第二酸素富化空気製造装置における分散・供給手段3a,3b、包接水和物生成手段4a,4b、分離手段5a,5b、放出手段7a,7b、循環手段8a,8bは、それぞれ図3に示す分散・供給手段3、包接水和物生成手段4、分離手段5、放出手段7、循環手段8と同様であるので、ここでの説明を省略する。また、図4においては、原料空気を分散・供給手段3a,3bに供給するためのブロワまたはコンプレッサ、水溶液2の移送のためのポンプ、および各種制御弁等は図示を省略している。
【0060】
前記第一酸素富化空気製造装置の放出手段7aで放出された酸素富化空気の全部又は一部は、前記第二酸素富化空気製造装置の分散・供給手段3bに原料空気として供給される。前記第二酸素富化空気製造装置では、酸素富化空気が原料空気として供給されるので、第二酸素富化空気製造装置の放出手段7bで放出される酸素富化空気の酸素濃度は、前記第一酸素富化空気製造装置の放出手段7aで放出される酸素富化空気の酸素濃度よりさらに高い酸素濃度となる。
【0061】
図4に示す装置構成での酸素富化空気の製造は、上述の第1の実施形態における放出手段7で例示した、放出手段7により放出された酸素富化空気9を原料空気の全部又は一部として分散・供給手段3に供給するようにした場合と同様の効果を奏するが、上述の第1の実施形態における放出手段7で例示した場合と比較して、酸素富化空気の製造を連続して行うことが可能となるという効果も奏する。
【0062】
また、前記第一酸素富化空気製造装置の放出手段7aで放出された酸素富化空気に、通常の酸素濃度の空気を混合して前記第二酸素富化空気製造装置の分散・供給手段3bに供給することで、酸素濃度を所定の値に調整した後の空気を第二酸素富化空気製造装置に原料空気として供給することができ、第二酸素富化空気製造装置の放出手段7aからより高濃度の酸素富化空気を放出させることが可能となる。
【0063】
なお、図3においては、酸素富化空気製造装置を2段直列に接続して配置した場合について記載したが、3段以上接続した構成とすることも可能である。この場合、上流側(上段側)の製造装置で放出した酸素富化空気を下流側(下段側)の製造装置に原料空気として供給することで、さらに高い酸素濃度の酸素富化空気を製造することが可能となる。
【0064】
また、前記第二酸素富化空気製造装置の分離手段5bで分離された未反応の原料空気6bを配管等で導き、前記第一酸素富化空気製造装置の分散・供給手段3aに、原料空気の全部、又は、前記分散・供給手段3aに供給される原料空気と混合してその一部として供給することが好ましい。前記第二酸素富化空気製造装置の分離手段5bで分離された未反応の原料空気6bは、その酸素濃度が通常の空気の酸素濃度よりも高いため、再循環することにより酸素濃度の高い酸素富化空気を有効に活用でき、高濃度の酸素富化空気を効率良く製造することが可能となるからである。
【0065】
つまり、酸素富化空気製造装置を2段以上直列に接続して配置した場合、下流側(下段側)の製造装置の分離手段で分離された未反応の原料空気を、上流側(上段側)の製造装置に供給される原料空気の全部又は一部として循環使用することで、酸素濃度の高い未反応の酸素富化空気を有効に活用でき、高濃度の酸素富化空気を効率良く製造することが可能となる。
【実施例1】
【0066】
図1及び図2に示す装置構成において、包接水和物形成物質としてTBABを用いて酸素富化空気の製造を行った。ここで、包接水和物生成前の水溶液中におけるTBABの質量濃度は6.7%とした。
【0067】
以下に示す表1に、原料空気の酸素濃度に対して、放出手段7から放出される酸素富化空気の酸素濃度の測定結果の一例を示す。
【0068】
【表1】

【0069】
表1に示すように、上記装置を用いることで、原料空気より高濃度の酸素富化空気を製造することが可能であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に係る酸素富化空気の製造装置における第1の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本発明に係る分散・供給手段におけるインライン静止混合器を示す概略構成図である。
【図3】本発明に係る酸素富化空気の製造装置における第2の実施形態を示す概略構成図である。
【図4】本発明に係る酸素富化空気の製造装置における第3の実施形態を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0071】
1 原料空気
2 包接水和物形成物質の水溶液
3 分散・供給手段
4 包接水和物生成手段
5 分離手段
6 未反応の原料空気
7 放出手段
8 循環手段
9 酸素富化

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料空気から酸素富化空気を製造する方法において、
原料空気を、包接水和物を形成する物質の水溶液中に分散させながら供給する分散・供給工程と、
前記分散・供給工程で得られた、原料空気と包接水和物を形成する物質の水溶液との混合物を冷却して包接水和物を生成させる包接水和物生成工程と、
前記包接水和物生成工程により生成された包接水和物と包接水和物を形成する物質の水溶液とにより形成される包接水和物のスラリーと、未反応の原料空気とを分離する分離工程と、
前記分離工程により分離された包接水和物のスラリーを加温して酸素富化空気を放出させる放出工程と
を備えていることを特徴とする酸素富化空気の製造方法。
【請求項2】
放出工程により放出された酸素富化空気を、原料空気の全部又は一部として分散・供給工程に供給することを特徴とする請求項1に記載の酸素富化空気の製造方法。
【請求項3】
分離工程により分離された未反応の原料空気を、分散・供給工程に供給される原料空気に混合することを特徴とする請求項2に記載の酸素富化空気の製造方法。
【請求項4】
分散・供給工程に供給する原料空気を、微細気泡として包接水和物を形成する物質の水溶液中に分散させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の酸素富化空気の製造方法。
【請求項5】
分散・供給工程に供給する原料空気を、エジェクターを介して包接水和物を形成する物質の水溶液中に分散させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の酸素富化空気の製造方法。
【請求項6】
包接水和物を形成する物質が、アルキルアンモニウム塩を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の酸素富化空気の製造方法。
【請求項7】
包接水和物を形成する物質が、アルキルホスホニウム塩、アルキルスルホニウム塩またはこれらの混合物を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の酸素富化空気の製造方法。
【請求項8】
放出工程により包接水和物のスラリーから酸素富化空気を放出した後に残る包接水和物を形成する物質の水溶液の少なくとも一部を、分散・供給工程に戻す循環工程を備えていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の酸素富化空気の製造方法。
【請求項9】
原料空気から酸素富化空気を製造する装置において、
原料空気を、包接水和物を形成する物質の水溶液中に分散させながら供給する分散・供給手段と、
前記分散・供給手段で得られた、原料空気と包接水和物を形成する物質の水溶液との混合物を冷却して包接水和物を生成させる包接水和物生成手段と、
前記包接水和物生成手段で生成された包接水和物と包接水和物を形成する物質の水溶液とにより形成される包接水和物のスラリーと、未反応の原料空気とを分離する分離手段と、
前記分離手段で分離された包接水和物のスラリーを加温して酸素富化空気を放出させる放出手段と
を備えていることを特徴とする酸素富化空気の製造装置。
【請求項10】
請求項9に記載の酸素富化空気の製造装置を2つ以上配置して構成した酸素富化空気の製造装置であって、
前記2つ以上配置した酸素富化空気の製造装置の上流側に位置する酸素富化空気の製造装置の放出手段で放出された酸素富化空気の全部又は一部を、下流側に位置する酸素富化空気の製造装置の分散・供給手段に原料空気として供給するように配置したことを特徴とする酸素富化空気の製造装置。
【請求項11】
分離手段で分離された未反応の原料空気を、分散・供給手段に供給される原料空気に混合する未反応原料空気混合手段を備えたことを特徴とする請求項9又は10に記載の酸素富化空気の製造装置。
【請求項12】
分散・供給手段に供給する原料空気を、微細気泡として包接水和物を形成する物質の水溶液中に分散させる微細気泡発生手段を備えたことを特徴とする請求項9乃至11のいずれかに記載の酸素富化空気の製造装置。
【請求項13】
分散・供給手段に供給する原料空気を、包接水和物を形成する物質の水溶液中に分散させるためのエジェクターを備えたことを特徴とする請求項9乃至11のいずれかに記載の酸素富化空気の製造装置。
【請求項14】
放出手段包接水和物のスラリーから酸素富化空気を放出した後に残る包接水和物を形成する物質の水溶液の少なくとも一部を、分散・供給手段に戻す循環手段を備えていることを特徴とする請求項9乃至14のいずれかに記載の酸素富化空気の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−117485(P2006−117485A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−308355(P2004−308355)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】