説明

酸素濃度計測装置

【課題】酸素濃度により光特性が変化する酸素モニタ物質を用いて燃料電池セル中の酸素濃度を計測するとき温度の影響を除いた酸素濃度を得る。
【解決手段】燃料電池セルの酸素濃度測定領域における酸素濃度測定用蛍光の像と温度測定用赤外線の像を一致させるために両検出器のそれぞれ、又はどちらか一方に位置調整用のステージを設置する。これにより同一箇所の酸素濃度と温度が計測でき、温度補正を行なった酸素濃度を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池およびダイレクトメタノール形燃料電池の電池特性や電池寿命の研究・評価に使用する酸素濃度計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、固体高分子からなる電解質膜の一方の側にカソードである酸素極を配し、他方の側にアノードである燃料極を配したセルを用い、カソードに空気等の酸化剤ガスを、アノードに水素リッチな燃料ガスをそれぞれ供給し、水素と酸素から水を得る電池反応によって起電力を得ている。
【0003】
固体高分子形燃料電池を普及するには、コストをはじめ、いろいろな技術課題を解決する必要がある。例えば、燃料電池は運転時間の経過とともに電池性能が劣化するため、劣化に伴う電池寿命が重要な課題となっている。このような技術課題を解決するためには、燃料電池単セル内で生じている化学反応を解析する必要がある。
【0004】
このような観点からこれまでに発表されている研究のひとつに、カソード側セパレータの一部を光透過窓にした可視化単セルを形成し、セル内での加湿水や生成水の挙動を観測しているものがある。これによれば、電池の電圧特性、寿命特性が電池内部の加湿水や反応生成水の水分の影響を受けることから、単セル内での生成水の移動を直接観測することに意義があることが報告されている。(非特許文献1)。
【0005】
しかしながら、電池性能の変化に影響を与えるのは水分だけではない。水分以外に化学反応に影響を与える要因として、セル温度がある。また、電池反応は、酸素と水素とが結合して水を発生することであり、酸素の分布が大きな影響を与えると思われる。これまで、水分や温度を単独で可視化することは検討されていたが、燃料電池セル内での酸素分布の有効な計測手段が存在しなかったこともあって、酸素濃度分布については十分な検討がなされていない。
【0006】
しかし、特許文献1に燃料電池セル内での酸素濃度分布の計測装置が開示されている。
前記特許文献1によれば、酸素導入用カソード側セパレータおよび/又は燃料導入用アノード側セパレータに、酸素濃度により光特性が変化する酸素モニタ物質を固定し、前記酸素モニタ物質の変化を光学的に測定することによって酸素濃度分布を計測する方法が述べられている。
【0007】
図2に従来の装置例として、特許文献1における一実施例である燃料電池反応計測装置の概略構成を示す。燃料電池反応計測装置は、ステージユニット41と、共用ユニット42と、温度計測ユニット43と、赤外吸収計測ユニット44と、酸素濃度計測ユニット45とにより構成される。
【0008】
ステージユニット41は、燃料電池単セル11を載置するステージ機構51からなる。共用ユニット42は、凸面鏡と凹面鏡とが組み合わされたシュワルツシルド鏡53を用いた光学系と、多層膜からなるビームスプリッタ54、55と、ミラー56と、焦点を順次調整するリレー光学系レンズ57、58とにより構成される。
【0009】
ビームスプリッタ54は、波長範囲が5〜10μmの赤外線を透過し、それ以外の光線を反射する。これにより、燃料電池単セル11の温度を反映する黒体輻射(波長5μm以上の赤外線)が、温度計測ユニット43に導かれる。一方、水分、メタノール、メタノール酸化中間体、二酸化炭素の赤外吸収測定に用いる5μmより短波長光は反射され、ビームスプリッタ55において、蛍光と赤外光とに分離される。すなわち、波長範囲が1μm以下の光を透過し、1μm〜5μmの波長範囲の赤外光を反射する。
一方、酸素濃度の検出に用いられる蛍光は、ビームスプリッタ55を透過し、ミラー56で反射され、酸素濃度計測ユニット45に導かれる。また、リレー光学系レンズ57、58は、赤外吸収計測ユニット44、酸素濃度計測ユニット45に導かれる検出光の焦点位置を調整するものである。
【0010】
温度計測ユニット43は、温度計測用赤外線検出器63から構成される。また、赤外吸収計測ユニット44は、赤外光源71と、ビームスプリッタ72と、赤外吸収計測用赤外検出器73から構成される。また、酸素濃度計測ユニット45は、発光ルミネッセンス励起用のレーザ光源81と、ビームスプリッタ82と、酸素検出用蛍光検出器83から構成される。酸素検出用蛍光検出器83は発光ルミネッセンス強度を測定することで酸素濃度を計測することができる。
【0011】
いま、ステージ機構51上に燃料電池単セル11を載置し、赤外光源71からの赤外吸収測定用赤外光およびレーザ光源81からの励起光を照射すると、温度計測用赤外線検出器63、赤外吸収計測用赤外検出器73、酸素検出用蛍光検出器83によりそれぞれの温度データ、赤外吸収データ、酸素濃度データを同時かつ独立に測定することができる。
【0012】
なお、燃料電池単セル11は、固体高分子からなる膜電極接合体12をカソード側セパレータ14と、アノード側セパレータ13で挟持し、さらにその外側に両面より密閉固定する導電性平板17、18より構成される。また、導電性平板17の一部に光透過窓16を備えることにより、カソード側セパレータ14内に固定された酸素濃度により光特性が変化する酸素モニタ15a〜15eの変化を光学的に測定可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−87691号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】第12回燃料電池シンポジウム講演予稿集、平成17年5月11日〜12日、2005年東京、78P〜81P、可視化単セル装置による固体高分子形燃料電池の水分移動解析、三菱電機株式会社先端技術総合研究所、重岡浩昭、吉岡省二、出版2005年度版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、酸素モニタ物質には酸素濃度により光特性が変化する白金ポルフィリン等の発光ルミネッセンス材料が使用されるが、これらの物質は励起光に対する蛍光量が温度によって変化することがわかっている。(参考として、図3に白金ポルフィリンの「発光量の温度依存性」の実験データを示す。)
【0016】
一方検査の対象である固体高分子形燃料電池(PEFC)およびダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)は作動温度が常温より高い100℃前後であり、かつ検査物内で温度分布を持っているため、検査物内での温度分布によって同じ酸素濃度でも発光する蛍光量が異なり、温度による補正を行なわないと正確な酸素濃度データを得ることができない。したがって、温度の影響を除いた酸素濃度の計測データを得ることが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
酸素濃度により光特性が変化する酸素モニタ物質をセル内に固定するとともに光透過窓を備えた燃料電池セルを計測対象とする酸素濃度計測装置において、前記燃料電池セルに励起光を照射する光源と、前記燃料電池セルの温度分布を光学的に測定する温度検出器と、前記温度検出器による温度分布測定と同時に前記酸素モニタ物質からの蛍光を測定して前記燃料電池セルの酸素濃度分布を光学的に測定する酸素濃度検出器と、前記温度検出器と前記酸素濃度検出器により得られる両方の分布測定結果を位置合わせするために、前記温度検出器あるいは前記酸素濃度検出器の少なくとも一方の位置を調整する位置調整用ステージを備えたものである。
【0018】
さらに本発明は、前記酸素モニタ物質が発する蛍光量の温度依存性を示す温度特性テーブルと、前記温度検出器によって得られた温度測定値と前記温度特性テーブルに基づいて温度による酸素濃度測定値への影響を除去する補正手段を備えることが望ましい。
【0019】
したがって本発明により、前記酸素モニタ物質を介して燃料電池セルの同一領域の温度と酸素濃度を測定できるので、温度補正を行った酸素濃度データを取得することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、燃料電池セル内での温度補正を行った酸素の分布を可視化することができる。すなわち、セル内での酸素の挙動や消費状況による酸素分布、あるいは酸素の漏れ分布を解析することができ、セル内での酸素分布とその経時変化を計測することができる。したがって、セル内の酸素分布を改善して電圧特性、寿命等の電池性能に優れた燃料電池開発をするための研究、セル評価に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施例である酸素濃度計測装置の構成の概要を示す図である。
【図2】従来の一実施例である燃料電池反応計測装置の構成の概要を示す図である。
【図3】白金ポルフィリンの「発光量の温度依存性」の実験データを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1に、本発明の一実施例である酸素濃度計測装置の構成の概要を示す。酸素濃度計測装置は、共用ユニット21と、温度計測ユニット22と、酸素濃度計測ユニット23、酸素濃度算出ユニット34および燃料電池単セル1により構成される。
【0023】
共用ユニット21は、ビームスプリッタ24、25と、照明系28およびに光源26より構成される。なお、照明系28は、光源の拡散角調整用レンズと、光源の均一化用拡散板と、蛍光および散乱光の抑制用のフィルタより構成される。
【0024】
ビームスプリッタ24は、波長範囲が5〜10μmの赤外線を透過し、それ以外の光線を反射する。これにより、燃料電池単セル1の温度を反映する黒体輻射(波長5μm以上の赤外線)が、温度計測用赤外線検出器31に導かれる。一方、発光ルミネッセンス材料で構成された酸素モニタ5a〜5eより発光した蛍光がビームスプリッタ25で反射され、酸素検出用蛍光検出器36に導かれ、酸素濃度の検出に用いられる。なお、温度計測用赤外線検出器31および酸素検出用蛍光検出器36は、レンズと光を感じる2次元の受光素子などで構成されたカメラである。
【0025】
温度計測ユニット22は、温度計測用赤外線検出器31とステージ機構33より構成され、また酸素濃度計測ユニット23は、酸素検出用蛍光検出器36とステージ機構38より構成される。なお、ステージ機構33とステージ機構38は、温度計測用赤外線検出器31と酸素検出用蛍光検出器36の撮影像を合致させるために両検出器の位置調整を行なうものであり、X方向、Y方向および回転方向の動作が可能である。
【0026】
ところで、温度計測用赤外線検出器31と酸素検出用蛍光検出器36のそれぞれの測定は、測定領域が一致しているとは限らない。したがって、正確な酸素濃度を得るためには、前記測定領域を一致させることが必要であり、温度計測用赤外線検出器31と酸素検出用蛍光検出器36のそれぞれに、ステージ機構33、38が配設される。ステージ機構33、38により、燃料電池単セル1からの蛍光量を撮像する酸素濃度測定の像と赤外線にて温度を観測する温度測定の像を一致させるべく調整がなされる。なお、ステージ機構33、38は温度計測用赤外線検出器31と酸素検出用蛍光検出器36のどちらか一方に配設してもよく、ステージ機構を配設した検出器の像をステージ機構を配設しない検出器の像に合わせるべく調整してもよい。
【0027】
いま、燃料電池単セル1に、光源26から励起光を照射すると、温度計測用赤外線検出器31、酸素検出用蛍光検出器36により温度および酸素濃度を同時かつ独立に測定することができる。それらの温度データおよび酸素濃度データは、酸素濃度算出モジュール61および温度―蛍光量補正テーブル62から構成される酸素濃度算出ユニット34に送られ、酸素モニタを構成する発光ルミネッセンス材料の「発光量の温度依存性」データ(図3参照)より作成された温度―蛍光量補正テーブル62を使って、温度の影響を除去した酸素濃度を算出し、そのデータをもとに燃料電池単セル1の酸素濃度分布表および酸素濃度分布図等を作成することができる。
【0028】
なお、燃料電池単セル1は、固体高分子からなる膜電極接合体2をカソード側セパレータ4と、アノード側セパレータ3で挟持し、さらにその外側に両面より密閉固定する導電性平板7、8より構成される。また、導電性平板7の一部に光透過窓6を備えることにより、カソード側セパレータ4内に固定された酸素濃度により光特性が変化する酸素モニタ5a〜5eの変化を光学的に測定可能にする。
【符号の説明】
【0029】
1、11:燃料電池単セル
2、12:膜電極接合体(MEA)
3、13:アノード側セパレータ
4、14:カソード側セパレータ
5a〜5e:酸素モニタ
15a〜15e:酸素モニタ
6、16:光透過窓
7、8、17、18、:導電性平板
21、42:共用ユニット
22、43:温度計測ユニット
23、45:酸素濃度計測ユニット
24、25:ビームスプリッタ
54、55:ビームスプリッタ
72、82:ビームスプリッタ
26:光源
28:照明系
31、63:温度計測用赤外線検出器
33、38、51:ステージ機構
34:酸素濃度算出ユニット
36、83:酸素検出用蛍光検出器
41:ステージユニット
44:赤外吸収計測ユニット
53:シュワルツシルド鏡
56:ミラー
57、58:レンズ
61:酸素濃度算出モジュール
62:温度―蛍光量補正テーブル
71:赤外光源
73:赤外吸収計測用赤外検出器
81:レーザ光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素濃度により光特性が変化する酸素モニタ物質をセル内に固定するとともに光透過窓を備えた燃料電池セルを計測対象とする酸素濃度計測装置において、前記燃料電池セルに励起光を照射する光源と、前記燃料電池セルの温度分布を光学的に測定する温度検出器と、前記温度検出器による温度分布測定と同時に前記酸素モニタ物質からの蛍光を測定して前記燃料電池セルの酸素濃度分布を光学的に測定する酸素濃度検出器と、前記温度検出器と前記酸素濃度検出器により得られる両方の分布測定結果を位置合わせするために、前記温度検出器あるいは前記酸素濃度検出器の少なくとも一方の位置を調整する位置調整用ステージを備えることを特徴とする酸素濃度計測装置。
【請求項2】
前記酸素モニタ物質が発する蛍光量の温度依存性を示す温度特性テーブルと、前記温度検出器によって得られた温度測定値と前記温度特性テーブルに基づいて温度による酸素濃度測定値への影響を除去する補正手段を備えることを特徴とする請求項1記載の酸素濃度計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−151014(P2012−151014A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9459(P2011−9459)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】