説明

重なり部分を有する開き部を備えた袖付きニットウェアの編成方法

【課題】 身頃を形成する筒状編地に前後2層状の重なり部分を有する開き部を備えた袖付きニットウェアを、任意の風合いにするとともに、効率よく編成する。
【解決手段】一方の袖8aを筒状に編成した後、襟首部5側と裾6側とを結ぶ方向が針床の長手方向に対して平行となるようにして、身頃を形成する筒状編地1を一端側21から編み出し、後身頃2Bと右前身頃2Frを所定コース数編成し、実後前身頃2Frの開口部側端部22を伏目して編針から払い、続いて左前身頃2Flを右前身頃2Flと同じ編成領域において編成する。前後の身頃を所定コース数編成した後、他方の袖8bを編成するとともに筒状編地1を他端側24で伏目する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重なり部分を有する開き部を備えた袖付きニットウェアを編成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばカーディガンやジャケットなどの袖付きニットウェアでは、筒状に編まれる身頃のうち、前身頃は右前身頃と左前身頃とに分かれて開き部を形成している。これら左右の前身頃は、着用時に重ねられてボタンなどで固定される。横編機を用いてこのようなニットウェアを編成する方法として、後身頃および重なり部分を有する左右の前身頃とを針床上で前後3層状の編地として編成する方法がある。ただし、この方法では前後針床の編針を中間の編地の編成に割り当てる必要があり、各編地に対応する編針は互いに間隔が広がって、編地は編目の粗い風合いになる。
【0003】
これに対し、前後身頃の境界部を後身頃の編成に使用する針床上に位置させた状態で、C字状の引き返し編成を行う方法が特許文献1で開示されている。この編成方法によれば、左右の前身頃はその端部を互いに突き合わせた状態で重なり部分を形成することなく編針に係止されるので、任意の風合いの編地を編成することができる。
【特許文献1】国際公開第WO2006/129686号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記される従来の編成方法では、前後身頃の境界部を後身頃の編成に使用する針床側へ回し込んだ状態で編成するが、身頃と袖を接合する際には前後身頃の境界部を前後の針床間へ回し戻す工程を必要とする。開き部の重なり部分の幅が大きいほど回し込み量も大きくなるため、このような場合は接続の際の回し戻しにかかる編成時間も長くなる。
【0005】
本発明の目的は、重なり部分を有する開き部を備えた袖付きニットウェアを、任意の風合いにするとともに、効率よく編成することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の編成方法は、左右方向に延び、かつ前後方向に対向する少なくとも一対の針床を有する汎用の横編機を用いて、身頃を形成する筒状編地の前後一方の編地に開き部を有し、該開き部の両側の編地が前後2層状の重なり部分を形成する袖付きニットウェアを編成する方法であって、以下のステップを含むことを特徴とする。
(1)一方の袖を筒状に編成するステップ、
(2)前記一方の袖の編み終わりに続けて、襟首部側と裾側とを結ぶ方向が針床の長手方向に対して平行となるようにして、身頃を形成する筒状編地を一端側から編み出すステップ、
(3)開き部を有しない側の身頃の編地を一方の針床へ移しておいて、開き部の一方側の編地を所定コース数編成し、開き部の一方側の編地を他方の針床へ移しておいて、開き部を有しない側の身頃の編地を所定コース数編成するステップ、
(4)前記一方側の編地の最終コースの編目列を伏目して、編針から払うステップ、
(5)開き部の他方側の編地を前記一方側の編地と同じ編成領域で編成するステップ。
【0007】
また、発明の編成方法は、前記他方側の編地を、前記一方側の編地とは異なる編成領域で編み出して所定コース数の編成を行い、前記ステップ(4)の後で、前記一方側と同じ編成領域へ移動することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の編成方法は、前記ステップ(4)の後で、前記他方側の編地を前記一方側の編地と同じ編成領域で編み出すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の編成方法によれば、開き部の両側の編地が重なり部分を有する袖付きニットウェアの編成において、開き部の一方側の編地の最終コースの編目列を伏目して編針から払った後、引き続き前記一方側の編地と同じ編成領域において他方側の編地の編成を行うので、身頃の筒状編地は前後3層状の編地を形成せず、任意の風合いに編成できる。さらに、前後身頃の側端部は常に前後針床の間に位置するため、袖と身頃を接続するために身頃を回し込む必要がなく、効率よく編成できる。
【0010】
また、本発明の編成方法によれば、開き部の両側の編地を異なる領域で編み出して編成し、一方側の編地を編み終えて編針から払った後、他方側の編地を前記一方側の編地の編成領域へ移動するので、一方側の編地が編み終わる前に他方側の編地をある程度まで編成することができ、編成時間を短縮することができる。
【0011】
また、本発明の編成方法によれば、開き部の両側の編地に関して、その一方側の編地を編み終えて編針から払った後、前記一方側と同じ編成領域で他方側の編地を編み出すので、編幅の狭い横編機を用いる場合や、針床長手方向に複数の編地を並べて同時に編成する場合でも、本件編成方法を実施することができる。
【0012】
なお、本発明における身頃を形成する筒状編地は、前後一方の編地に開き部を有するため、実質的には断面がU字状の編地となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に本発明の実施の形態を、図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に示す実施例では、左右方向に延び、かつ前後方向に対向する少なくとも一対の針床を有する汎用の横編機を用いて、重なり部分を有する開き部を備えたニットウェアの編成を行う。汎用の横編機は、前後の針床の少なくとも一方が左右にラッキング可能で、かつ前後の針床間で編目の目移しが可能であることが公知である。
【0014】
(実施例1)
図1は、本発明の編成方法により得られる袖付きニットウェアであるカーディガン(編地)の外観である。図1(a)は正面図であり、正面図におけるA−A´の断面形状を図1(b)に示す。両袖8a,8bは身頃2の両肩付近に接続されている。身頃2を形成する筒状編地は前身頃2Fと後身頃2Bとから成り、前身頃2Fは右前身頃2Frと左前身頃2Flとに別れてこれらの間に開き部3を有している。開き部3では、開き部の一端側の編地である右前身頃2Frと開き部の他端側の編地である左前身頃2Flとの一部が前後2層状に重なって、重なり部分4を形成する。重なり部分4には例えばボタンとボタンホールが設けられ、着用時に左右の前身頃を固定するために利用される。
【0015】
図2は本発明の編成方法の概略的な工程を示す図である。本実施例では、カーディガンを一方の袖口から編み出し、前身頃に開き部を形成しながら身頃を側面の一端から他端へ向けて編成していき、他方の袖口まで編成して形成する。なお、図中の左にある数字は工程数である。紙面の左右方向が横編機の針床の長手方向であり、図示しない前後の針床が編地を挟むように紙面の前後に位置するものとする。
【0016】
以下、図2を参照して本件発明の編成工程について説明する。前後の針床には編目を形成する編針の間に空き針を設けて、目移しや伏目に利用する。なお、理解を容易にするため、本実施の形態では身頃を形成する筒状編地は天竺編みで行うものとするが、リブ編みや柄を設けることも可能である。
【0017】
工程1では、袖口7aを筒状に編み出した後、袖8aを筒状に編成する。袖8aの最終コースの編目列を係止する編針と、袖8aの編幅に隣接する部分の前後針床の空き針とを用いて、身頃2を身頃の一端側21から編み出す。前記編み出しに続き、それぞれ異なる給糸口からの編糸を用いて、一方の針床の編針で開き部3の一方側の編地となる右前身頃2Frを、他方の針床の編針で後身頃2Bを所定コース数編成する。身頃2は襟首部5と裾6側に開口するように形成するとともに、肩部分では前後の身頃を接続する。一方の針床における右前身頃2Frの編成では、襟首部5付近で編幅を順次減らしてV首形状の一方側を形成していき、最終コースの編目列である開口部側端部22で公知の伏目を行って針床の編針から編地を払う。他方の針床における後身頃2Bの編成は、以降の工程においても継続して行う。なお、工程1では、前記説明した編地とは別に、他の編幅領域において開き部3の他方側の編地となる左前身頃2Flを編成する。開口部側端部23から編み出して、編幅を順次増やしてV首形状の他方側を形成しながら所定コース数の編成を行なう。
【0018】
工程2では、工程1で右前身頃2Frの編成に用いた編成領域の編針に対して、左前身頃2Flを目移しする。このとき、右前身頃2Frはすでに針床の編針から払われて前後針床の下方へ位置しており、前記編成領域において左前身頃2Frとの干渉は生じない。
【0019】
工程3では、工程2で目移しした左前身頃2Flと工程1で編成した後身頃2Bとを、それぞれ異なる給糸口の編糸を用いて肩部分で接続しながら所定コース数の編成を行う。身頃の他端側24において、袖8bを続けて編成開始するとともに、他の編幅領域では伏目を行って身頃2の編成を終える。そして、袖8bに終端に袖口7bを形成し、伏目して編み終える。
【0020】
以上、実施例1に示した編成方法によれば、重なり部分を有する開き部の両側の編地を同じ編成領域において個別に編成するので、特許文献1のように左右の前身頃を後身頃側に回して編成し、袖と接続する際に回し戻す工程を必要としない。これにより、任意の風合いの袖付きニットウェアを効率よく編成することができる。
【0021】
(実施例2)
次に、本発明の他の実施の形態について、図2を参照して以下に実施例2として説明する。実施例2は、前記した実施例1の方法と基本的には同様であり、実施例1では異なる編成領域で編み出した左右の前身頃(2Fr,2Fl)を、同じ編成領域で編み出すことを特徴とする。
【0022】
工程1では、身頃2を袖口7aから編み出し、右前身頃2Frを開口部側端部22で伏目して編針から払うまでの編成を、実施例1と同様に行う。このとき、左前身頃2Flの編成は行わない。続く工程2では、工程1で右前身頃2Frの編成に用いた編成領域の編針で、左前身頃2Flを開口部側端部23から編み出し、編幅を順次増やしてV首形状の他端側を形成しながら所定コース数編成する。そして工程3では、実施例1と同じ編成を行い、カーディガンの編成を終える。
【0023】
以上、実施例2に示した編成方法によれば、左右の前身頃を同じ編成領域で編成するため、身頃の編幅だけで袖付き編地を編成できるので、編幅の狭い横編機を用いる場合や、針床長手方向に複数の編地を並べて同時に編成する場合でも、本件編成方法を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明により編成される、重なり部分を有する開き部を備えたニットウェアを示す正面図である。
【図2】本発明の実施の一形態としての重なり部分を有する開き部を備えたニットウェアの概略的な編成の流れを示す図である。
【符号の説明】
【0025】
1 カーディガン
2 身頃
2F 前身頃
2Fr 右前身頃
2Fl 左前身頃
2B 後身頃
21 身頃の一端側
22 開口部側端部
23 開口部側端部
24 身頃の他端側
3 開き部
4 重なり部分
5 襟首部
6 裾
7a,7b 袖口
8a,8b 袖


【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右方向に延び、かつ前後方向に対向する少なくとも一対の針床を有する汎用の横編機を用いて、身頃を形成する筒状編地の前後一方の編地に開き部を有し、該開き部の両側の編地が前後2層状の重なり部分を形成する袖付きニットウェアを編成する方法であって、以下のステップを含むことを特徴とする編成方法;
(1)一方の袖を筒状に編成するステップ、
(2)前記一方の袖の編み終わりに続けて、襟首部側と裾側とを結ぶ方向が針床の長手方向に対して平行となるようにして、身頃を形成する筒状編地を一端側から編み出すステップ、
(3)開き部を有しない側の身頃の編地を一方の針床へ移しておいて、開き部の一方側の編地を所定コース数編成し、開き部の一方側の編地を他方の針床へ移しておいて、開き部を有しない側の身頃の編地を所定コース数編成するステップ、
(4)前記一方側の編地の最終コースの編目列を伏目して、編針から払うステップ、
(5)開き部の他方側の編地を前記一方側の編地と同じ編成領域で編成するステップ。
【請求項2】
前記他方側の編地を、前記一方側の編地とは異なる編成領域で編み出して所定コース数の編成を行い、前記ステップ(4)の後で、前記一方側と同じ編成領域へ移動することを特徴とする、請求項1の編成方法。
【請求項3】
前記ステップ(4)の後で、前記他方側の編地を前記一方側の編地と同じ編成領域で編み出すことを特徴とする、請求項1の編成方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−68118(P2009−68118A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234591(P2007−234591)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】