説明

重力センサを備えるトルクレンチ及びその回転角度を正確に計算する方法

【課題】重力センサを利用し、トルクレンチの角度を測定することができる上、手作業により発生する誤差を修正することができる重力センサを備えるトルクレンチ及びその回転角度を正確に計算する方法を提供する。
【解決手段】重力センサを備えるトルクレンチ300は、ワークにトルクを加えるレンチ本体310と、トルクが所定のトルク値より大きいか否かを測定するトルクセンサ321と、トルクが所定のトルク値より大きいとき、レンチ本体310の回転角度を測定し、角度値を生成する角度センサ322と、レンチ本体310の傾き角度を測定する重力センサ323と、傾き角度に基づいて角度値を修正し、正確な角度値を生成する処理ユニット324とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクレンチに関し、特に、重力センサを備えるトルクレンチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1を参照する。図1に示すように、ナット200を締結する際、ナット200にトルクレンチ100を取り付ける。ナット200に加えるトルク及び回転角度は、トルクレンチ100により計算することができるが、回転角度の計算結果は正確でないことがあった。
【0003】
図2(a)及び図2(b)を参照する。図2(a)及び図2(b)に示すように、一般に、ユーザがナット200にトルクレンチ100を取り付ける際、特に水平角度に注意して取り付けることはなかった。つまり、トルクレンチ100の側面に設けられた平面と、ナット200の頂部に設けられた平面とは、X−Z平面でずれている(即ち、ナット200の頂部に設けられた平面に対し、トルクレンチ100が上方又は下方に傾いている)。このずれた状態は、ナット200の中心点からトルクレンチ100上に設けられた角度センサまでの距離に変化を発生させるため、ユーザがトルクレンチ100を回転させる際、この半径の誤差により円周距離に誤差を発生させ、角度センサの測定に誤差を発生させることがあった。
【0004】
図3(a)及び図3(b)を参照する。図3(a)及び図3(b)に示すように、ユーザが実際にトルクレンチを使用する際、トルクレンチ100の側面に設けられた平面と、ナット200の頂部に設けられた平面とは、X−Z平面でずれるだけでなく、Y−Z平面上でもずれることがある。
【0005】
図4及び図5を参照する。図4及び図5に示すように、従来のトルクレンチを実際に使用する際、手作業では機械を用いたときのように安定かつ正確に用いることができない。そのため、図4に示すように、ユーザがトルクレンチ100を用いてナット200を角度αで回転させる場合、トルクレンチ100とナット200とを所定の角度に維持することができないことがあった。つまり、第1の角度α1で回転させるときの取り付け角度と、第2の角度α2で回転させるときの取り付け角度とが異なることがあった。ここで、α=α1+α2である。
【0006】
さらに詳細には、図5(a)及び図5(b)に示すように、ユーザが第1の角度α1で回転させる際、トルクレンチ100の側面に設けられた平面と、ナット200の頂部に設けられた平面とのなす角度はθ1であり、ユーザが第2の角度α2で回転させる際、トルクレンチ100の側面に設けられた平面と、ナット200の頂部に設けられた平面とのなす角度はθ2である。このように、特にユーザが異なった回転角度で腕を動かす際、変化が発生し易かったが、市販されている各種トルクレンチでは、手作業により発生した測定誤差を修正することができなかった。
【0007】
同様の問題は、ソケット式トルクレンチにも発生する。図6及び図7に示すように、トルクレンチ100の作動部101は、ナット200へ水平に取り付けられるが、トルクレンチ100の把持部102は、非所定角度βで傾いている。角度センサが把持部102に取り付けられている場合、傾きによる誤差が発生するが、作動部101に取り付けられている場合、傾きにより誤差が発生することを防ぐことができる。しかし、作動部101に角度センサを取り付ける場合、応力又は電気回路が占有する空間などを考慮しなければならないため柔軟性が低く、余計なコストがかかった。そのため、角度を測定する際に誤差が発生することを防ぐことができる方法が求められていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述の点に鑑みて為されたもので、その目的は、重力センサを利用し、トルクレンチの角度を測定する重力センサを備えるトルクレンチを提供することにある。
【0009】
本発明のもう一つの目的は、手作業により発生する誤差を修正し、回転角度を正確に計算する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決することのできる請求項1の発明は、ワークにトルクを加えるレンチ本体と、前記トルクが所定のトルク値より大きいか否かを測定するトルクセンサと、前記トルクが所定のトルク値より大きいとき、前記レンチ本体の回転角度を測定し、角度値を生成する角度センサと、前記レンチ本体の傾き角度を測定する重力センサと、前記傾き角度に基づいて前記角度値を修正し、正確な角度値を生成する処理ユニットと、を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明では、請求項1の発明において、前記正確な角度値を表示する表示ユニットをさらに備えることを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明では、請求項2の発明において、前記表示ユニットは、警告ランプを有することを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明では、請求項2の発明において、前記表示ユニットは、警報装置を有することを特徴とする。
【0014】
請求項5の発明では、請求項1の発明において、データ伝送インターフェイスをさらに備えることを特徴とする。
【0015】
請求項6の発明では、請求項1の発明において、記憶ユニットをさらに備えることを特徴とする。
【0016】
請求項7の発明では、トルクレンチに応用する回転角度を正確に計算する方法であって、角度センサを利用し、前記トルクレンチの開始時間後の回転角度を計算し、角度値を生成するステップと、重力センサを利用し、前記トルクレンチが回転するときの傾き角度を測定するステップと、前記傾き角度を利用して角度値を修正するステップと、を含むことを特徴とする。
【0017】
請求項8の発明では、請求項7の発明において、前記開始時間は、前記トルクレンチが加えるトルクが所定のトルク値に達する時間であることを特徴とする。
【0018】
請求項9の発明では、請求項8の発明において、トルクセンサにより前記トルクを測定するステップをさらに含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る重力センサを備えるトルクレンチ及びその回転角度を正確に計算する方法は、重力センサを利用し、トルクレンチの角度を測定することができる上、手作業により発生する誤差を修正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来のトルクレンチを使用するときの状態を示す平面図である。
【図2】(a),(b)は従来のトルクレンチを使用するときの状態を示す側面図である。
【図3】(a),(b)は従来のトルクレンチを使用するときの状態を示す斜視図である。
【図4】従来のトルクレンチを使用するときの状態を示す平面図である。
【図5】(a),(b)は従来のトルクレンチを使用するときの状態を示す斜視図である。
【図6】従来のソケット式トルクレンチを使用するときの状態を示す側面図である。
【図7】(a),(b)は従来のソケット式トルクレンチを使用するときの状態を示す側面図である。
【図8】本発明の一実施形態による重力センサを備えるトルクレンチを示す機能ブロック図である。
【図9】同上の詳細な機能ブロック図である。
【図10】(a)は本発明の一実施形態によるジャイロチップを示す回路図、(b)は本発明の一実施形態による重力センサを示す回路図である。
【図11】本発明の一実施形態による処理ユニットを示す回路図である。
【図12】本発明の一実施形態による回転角度を正確に計算する方法を示す流れ図である。
【図13】同上の詳細な流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図8を参照する。図8に示すように、本実施形態の重力センサを備えるトルクレンチ300は、レンチ本体310及び回路装置320を含む。回路装置320は、トルクセンサ321、角度センサ322、重力センサ323及び処理ユニット324を含む。レンチ本体310は、ワーク(例えば、ナット)にトルクを加えるために用いる。トルクセンサ321は、トルクが所定のトルク値より大きいか否かを検出するために用いる。角度センサ322は、所定のトルク値よりトルクが大きいとき、レンチ本体310の回転角度を測定し、角度値を生成するために用いる。重力センサ323は、レンチ本体310の傾き角度を測定するために用いる。処理ユニット324は、傾き角度に基づき、得た角度値を正確な角度値に修正するために用いる。これにより、本実施形態は、手作業により発生する誤差を修正し、ワークの回転角度を正確に測定することができる。
【0022】
さらに詳細には、図5に示すように、ユーザが第1の角度α1で回転させた後に力を抜き、所定のトルク値よりトルクが低くなったことをトルクセンサ321が検知したときに、角度センサ322に知らせて角度値が累計されないようにする。ユーザが所定のトルク値より大きなトルクを加える場合、角度センサ322によりレンチ本体310の回転角度を累計し続け、これにより、ナット200の回転角度を得る。ここで、重力センサ323は、角度θ1及び角度θ2から傾き角度の変化量を測定し、第2の角度α2の実測値を修正し、手作業により発生する誤差を修正することができる。
【0023】
図9を参照する。図9に示すように、重力センサを備えるトルクレンチ300は、正確な角度値を含むさまざまな情報を表示する表示ユニットを含む。さらに詳細には、表示ユニットは、モニタ325、警告ランプ326及び警報装置327を含んでもよい。重力センサを備えるトルクレンチ300は、例えば、所定のトルク値、正確な角度値などの様々なデータを記憶するために用いる記憶ユニット328を含んでもよい。さらに、重力センサを備えるトルクレンチ300は、有線通信又は無線通信により各種データを伝送するために用いるデータ伝送インターフェイス329を含んでもよい。さらに、重力センサを備えるトルクレンチ300は、ユーザがコマンド又はデータを入力するために用いる簡易な操作インターフェイス330を含んでもよい。
【0024】
図10(a)を参照する。図10(a)に示すように、角度センサは、一般にジャイロであり、利用可能なチップは、ST型式のLY503ALH、LY510ALH、LPR510AL、LPY510AL、LY5150ALH、LPY5150ALなどのチップでもよいし、ADI型式のADXRS610、ADXRS613などのチップでもよい。ジャイロチップの出力信号は、接点401により前述の処理ユニット324へ伝達される。
【0025】
図10(b)を参照する。図10(b)に示すように、重力センサ(gravity sensor)に用いるチップは、ST型式のLIS202DL、LIS244AL、LIS331AL、LIS344AL、LIS344ALH、LIS3V02DLなどのチップでもよいし、ADI型式のADXL325、ADXL326、ADXL335、ADXL345、ADXL103、ADXL203などのチップでもよい。重力センサの出力信号は、接点402により前述の処理ユニット324へ伝達される。
【0026】
図11を参照する。図11に示すように、チップ型式MSP430−F427のマイクロプロセッサチップを例にすると、MSP430−F427チップは、接点403により、信号の接点401からジャイロ信号を受信し、接点404により、信号の接点402から重力センサの信号を受信し、接点405及び接点406により、トルクセンサの信号を受信する。
【0027】
図12を参照する。図12に示すように、本実施形態の回転角度を正確に計算する方法は、トルクレンチに応用することができる。回転角度を正確に計算する方法は、以下のステップ510〜530を含む。まず、ステップ510において、角度センサによりトルクレンチの開始時間後の回転角度を計算し、角度値を生成する。その後、ステップ520において、重力センサにより、トルクレンチが回転するときの傾き角度を測定する。続いて、ステップ530において、傾き角度に基づいて角度値を修正する。
【0028】
最後に図13を参照する。図13に示すように、本実施形態の回転角度を正確に計算する方法は、7つのステップを含む。まず、ステップ610において、トルク測定機能を実行し、ワークに加えるトルクレンチのトルク値を測定する。その後、ステップ620において、処理ユニット又は比較器を用い、トルクが所定のトルク値より大きいか否かを判断する。続いて、ステップ630において、トルクが所定のトルク値より大きいとき、角度測定機能を実行し、トルクレンチ本体の回転角度を計算し、ワークの回転角度を得る。ステップ640において、角度センサを用い、トルクレンチ本体が回転中であるか否かや傾きの発生の有無を判断し、傾いている場合、角度を測定する。その後、ステップ650において、傾き角度が回転角度に対して発生させた誤差を計算する。続いて、ステップ660において、角度センサが得た数値に基づいて回転角度値を修正し、正確な角度値を生成する。最後に、ステップ670において、モニタに正確な角度値を表示する。
【0029】
当該技術分野の当業者が実施できるように、本発明の好適な実施形態を前述の通り開示したが、これらは決して本発明を限定するものではない。本発明の主旨と領域を脱しない範囲内で各種の変更や修正を加えることができる。従って、本発明の特許請求の範囲は、このような変更や修正を含めて広く解釈されるべきである。
【符号の説明】
【0030】
100 トルクレンチ
101 作動部
102 把持部
200 ナット
300 重力センサを備えるトルクレンチ
310 レンチ本体
320 回路装置
321 トルクセンサ
322 角度センサ
323 重力センサ
324 処理ユニット
325 モニタ
326 警告ランプ
327 警報装置
328 記憶ユニット
329 データ伝送インターフェイス
330 操作インターフェイス
401 接点
402 接点
403 接点
404 接点
405 接点
406 接点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークにトルクを加えるレンチ本体と、
前記トルクが所定のトルク値より大きいか否かを測定するトルクセンサと、
前記トルクが所定のトルク値より大きいとき、前記レンチ本体の回転角度を測定し、角度値を生成する角度センサと、
前記レンチ本体の傾き角度を測定する重力センサと、
前記傾き角度に基づいて前記角度値を修正し、正確な角度値を生成する処理ユニットと、を備えることを特徴とする重力センサを備えるトルクレンチ。
【請求項2】
前記正確な角度値を表示する表示ユニットをさらに備えることを特徴とする請求項1記載の重力センサを備えるトルクレンチ。
【請求項3】
前記表示ユニットは、警告ランプを有することを特徴とする請求項2記載の重力センサを備えるトルクレンチ。
【請求項4】
前記表示ユニットは、警報装置を有することを特徴とする請求項2記載の重力センサを備えるトルクレンチ。
【請求項5】
データ伝送インターフェイスをさらに備えることを特徴とする請求項1記載の重力センサを備えるトルクレンチ。
【請求項6】
記憶ユニットをさらに備えることを特徴とする請求項1記載の重力センサを備えるトルクレンチ。
【請求項7】
トルクレンチに応用する回転角度を正確に計算する方法であって、
角度センサを利用し、前記トルクレンチの開始時間後の回転角度を計算し、角度値を生成するステップと、
重力センサを利用し、前記トルクレンチが回転するときの傾き角度を測定するステップと、
前記傾き角度を利用して角度値を修正するステップと、を含むことを特徴とする回転角度を正確に計算する方法。
【請求項8】
前記開始時間は、前記トルクレンチが加えるトルクが所定のトルク値に達する時間であることを特徴とする請求項7記載の回転角度を正確に計算する方法。
【請求項9】
トルクセンサにより前記トルクを測定するステップをさらに含むことを特徴とする請求項8記載の回転角度を正確に計算する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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