説明

重合プロセスでの静電気帯電を減らす方法

【課題】気相重合反応装置中に活性化された触媒を注入し、反応装置中にエチレンと任意成分のα-オレフィンコモノマーとを注入して、エチレンおよび任意成分のコモノマーを(共)重合してポリエチレン粉体を回収する階段を有する、エチレンの重合またはエチレンと3〜10の炭素原子を有するα-オレフィンコモノマーとの共重合方法。
【解決手段】上記の活性化された触媒が下記(a)〜(d)の段階から成る方法で作られる:(a) クロム化合物が沈着した担体を用意し、(b) 階段aで得られた生成物を脱水し、(c) 階段b で得られた生成物を少なくとも一種の蒸発したチタンアルコキシド化合物を含む乾燥した不活性ガス雰囲気中でチタン化し、(d) 階段c で得られた生成物を少なくとも500℃の温度で活性化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相重合反応装置中でエチレンを重合するか、エチレンと3〜10の炭素原子を有するα-オレフィンコモノマーとを共重合する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
静電気(statism)は大抵の重合プロセス、特に気相重合プロセス、特に流動床での気相重合プロセスで問題になることは知られている。事実、気相プロセスでのエチレンの重合では静電荷が生じ、反応装置の表面上に粉末が蓄積し、シーティング(sheeting)が生じたり、クラスト(crust)が形成される原因となる。
【0003】
「シーティング(sheeting)」とは反応装置の壁上に溶融した触媒と樹脂粒子が発生し、シート状に付着することを意味する。このシートは壁から剥がれることがある。その場合、シートが十分に大きいと反応装置中での閉塞の原因になる。反応装置の壁上に形成された溶融ポリマのシートが反応装置の壁に沿って流れ、反応装置の底部に溜まると、「ドローリング、垂れ、drooling」が起こり、それが反応装置中の分配プレートの閉塞の原因となり、流動性ロスの原因になる。
【0004】
反応装置中で静電荷が生じる主たる原因は、摩擦電気効果として知られる物理的プロセスによる非類似材料間の摩擦接触である。静電荷が生じる別の原因は静電荷の散逸不足、少量の帯電剤の導入および過大な触媒活性であることが公知方法では言及されている。気相でポリマーを生産する反応装置では触媒およびポリマー粒子と反応装置の壁との間の摩擦接触によって静電荷が生じる。この摩擦接触によって反応装置の研摩された金属壁から流動床中のポリマーまたは触媒粒子へ、あるいはその逆方向へ電荷の流れが生じる。電荷の流れは静電プローブを使用して測定できる。典型的な電荷の流れ(電流)は反応装置の表面積の1平方メートル当り0.1〜10マイクロアンペアである。この電流が非常に小さいが、時間の経過とともに反応装置中に比較的高いレベルの電荷が蓄積する。ポリマーおよび触媒の粒子は極めて絶縁性が高いため、この蓄積が可能になる。
【0005】
重合反応装置中の静電気の測定方法とその制御方法を記載した公知文献では、静電荷を除去し、微粉末を失活させるための添加剤を系中に噴射している。例えば、特許文献1では水の使用してシーティングを防止している。特許文献2はオレフィンポリマーの重合、特にメタロセン触媒を使用した時に静電荷を減らす方法を記載している。
【特許文献1】米国特許第US4,855,370号明細書
【特許文献2】国際特許公開第WO 02/30993号公報
【0006】
これら特許の方法では反応装置の出口でポリマーサンプルを採取し、その静電荷電を測定し、静電制御因子を反応装置に加える。特許文献3ではオレフィン重合の静電制御因子として水を使用する。特許文献4ではアルコール、酸素、一酸化窒素およびケトンを使用する。
【特許文献3】米国特許第US6,111,034号明細書
【特許文献4】米国特許第US 4,803,251号明細書
【0007】
特許文献5にはチタン化合物の蒸気を流動床に通して触媒をチタン化(チタネーション)する方法が記載されている。
しかし、この特許には気相重合反応装置中での静電気の問題に関する記載はない。
【特許文献5】米国特許第US 4,184,979号明細書
【0008】
従来法の問題は、例えば最終樹脂の特性に悪影響を与えたり、触媒活性または最終生産物の特性を大きく変化させる添加剤の使用が必要である点にある。さらに、この種の添加剤は反応を乱すのを避けるために噴射速度を慎重に制御する必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、添加剤を使わずに、気相反応装置の静電荷の発生を防ぐ、および/または、減らす方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、静電荷を減らすために重合中に気相反応装置中に追加の材料を供給する必要がないか、追加の材料の量を減らすことができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
驚くことに、発明者は上記目的の少なくとも一つは本発明方法によって達成できるということを見出した。すなわち、気相重合反応装置中に活性化された触媒を注入し、反応装置中にエチレンと任意成分のα-オレフィンコモノマーとを注入して、エチレンおよび任意成分のコモノマーを(共)重合してポリエチレン粉体を回収する階段を有する、エチレンの重合またはエチレンと3〜10の炭素原子を有するα-オレフィンコモノマーとの共重合方法において、
上記の活性化された触媒が下記(a)〜(d)の段階から成る方法で作られることを特徴とする方法によって達成できる:
(a) クロム化合物が沈着した担体を用意し、
(b) 階段(a)で得られた生成物を脱水し、
(c) 階段(b) で得られた生成物を少なくとも一種の蒸発したチタンアルコキシド化合物を含む乾燥した不活性ガス雰囲気中でチタン化し、
(d) 階段(c) で得られた生成物を少なくとも500℃の温度で活性化する。
【0011】
本発明はさらに、下記(a)〜(d)の段階から成る方法で作られるクロム-ベース触媒の、エチレンの気相重合での使用を提供する:
(a) クロム化合物が沈着した担体を用意し、
(b) 階段(a)で得られた生成物を脱水し、
(c) 階段(b) で得られた生成物を少なくとも一種の蒸発したチタンアルコキシド化合物を含む乾燥した不活性ガス雰囲気中でチタン化し、
(d) 階段(c) で得られた生成物を少なくとも500℃の温度で活性化する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、気相重合反応装置中に活性化された触媒を注入し、反応装置中にエチレンと任意成分のα-オレフィンコモノマーとを注入して、エチレンおよび任意成分のコモノマーを(共)重合してポリエチレン粉体を回収する階段を有する、エチレンの重合またはエチレンと3〜10の炭素原子を有するα-オレフィンコモノマーとの共重合方法において、
上記の活性化された触媒が下記(a)〜(d)の段階から成る方法で作られることを特徴とする方法を提供する:
(a) クロム化合物が沈着した担体を用意し、
(b) 階段(a)で得られた生成物を脱水し、
(c) 階段(b) で得られた生成物を少なくとも一種の蒸発したチタンアルコキシド化合物を含む乾燥した不活性ガス雰囲気中でチタン化し、
(d) 階段(c) で得られた生成物を少なくとも500℃の温度で活性化する。
【0013】
従って、本発明は、特定のクロムタイプ触媒を使用することによって静電気の問題の少なくとも一部を解決でき、静電荷を減らすための特殊添加剤の使用を完全に避けるか、減少させることができる方法を提供する。
「エチレンの重合」とはエチレンの単独重合と、エチレンと3〜10の炭素原子を有するα-オレフィンコモノマーとの共重合を意味する。このことは必ずしも繰返して記載することはない。α-オレフィンコモノマーは1-ブテン、1-ヘキセンおよび1-オクテンから成る群の中から選択するのが好ましく、1-ヘキセンが最も好ましい。
【0014】
担体は珪素からなるのが好ましく、好ましくはシリカ-ベースの担体である。また、IIIa/IVa/Vaの酸化物をベースにするものでもよい。担体は好ましくは酸化珪素、例えば二酸化珪素や、チタン、アルミニウムおよび/またはリンの酸化物から成ることができる。シリカ-ベースの担体はアモルファスシリカを少なくとも50重量%含む。担体はシリカ担体またはシリカアルミナ担体であるのが好ましい。シリカアルミナ担体の場合、担体はアルミナの重量は多くとも15重量%である。本発明で使用するのに適した担体は少なくとも250m2/g、好ましくは少なくとも280m2/gで且つ600m2/g以下、好ましくは380m2/g以下、最も好ましくは350m2/g以下の表面積を有するアモルファスシリカから成るシリカ-ベースの担体である。比表面積はBET法を用いた周知のH2吸着で測定する。
【0015】
担体は一般に1〜3cm3/gの細孔容積を有する。1.3〜2.0cm3/gの細孔容積を有する担体が好ましい。この細孔容積は1000オングストローム以下の直径を有する細孔のためのBJH法を用いてH2脱着法で測定する。気孔率が小さすぎる担体はメルトインデックス能が失なわれ、活性が低下する原因となる。細孔容積が2.0cm3/g以上、特に2.5cm3/g以上の担体はその合成時およびクロム化合物を用いた変性時にコストのかかる特別な製造階段(例えば共沸乾燥)を必要とするため望ましくなく、しかも、この担体は触媒ハンドリング中、賦活中または重合での使用中に磨耗に対して敏感となり、微粉のポリマーが多量に生産されるため工業的なプロセスとしては有害である。
担体は公知の多数の方法、例えばゲル化法、沈降法および/または噴霧乾燥法で製造できるが、これらに限定されるものではない。粒度D50は一般に20マイクロメートル、好ましくは30マイクロメートル、さらに好ましくは35マイクロメートル以上で、且つ、150マイクロメートル以下、好ましくは100マイクロメートル以下、さらに好ましくは70マイクロメートル以下である。「D50」はそれよりより小さい粒径の粒子が50重量%で且つそれよりより大きい粒径の粒子が50重量%である粒径として定義される。粒度D90は200マイクロメートル以上、好ましくは150マイクロメートル以上、最も好ましくは110マイクロメートル以下である。「D90」はそれより小さい直径を有する粒子が90重量%で、それより大きい直径を有する粒子が10重量%である粒径として定義される。粒度D10は少なくとも5マイクロメートル、好ましくは少なくとも10マイクロメートルである。「D10」はそれより小さい直径を有する粒子が10重量%で、それより大きい直径を有する粒子が90重量%である粒径として定義される。粒度分布は、例えばマルヴァーンマスターサイザー(Malvern Mastersizer) 2000を使用して光回折粒度測定法を使用して求める。粒子の形態は流動化に適し、磨耗が低下するミクロ球形(microspheroidal)であるのが好ましい。
【0016】
触媒合成で使用する前に、担体を当業者に公知の方法で不活性ガス下で加熱または予備乾燥する。例えば窒素、その他の気体の存在下で約200℃で8〜16時間乾燥する。担体上にクロムを沈着させるために、シリカ-ベースの担体上の表面水酸基と化学反応可能な公知のクロム含有化合物を使うことができる。そうした化合物の例には硝酸クロム、クロム(III)酢酸塩、クロム(III)アセチルアセトネート、三酸化クロム、クロメートエステル、例えばt-ブチルクロメート、シリルクロメートエステルおよびリン含有エステルおよびこれらの混合物が含まれる。酢酸クロム、クロムアセチルアセトネートまたは三酸化クロムを使うのが好ましい。
【0017】
クロム-ベース触媒のクロム量は、チタン化したクロム-ベース触媒の重量を基にして0.1重量%、好ましくは0.2重量%から1.0重量%、好ましくは0.6重量%までのクロムである。
【0018】
クロム-ベース触媒は乾燥混合または非水含浸で製造できるが、可溶性クロム化合物、例えば酢酸クロム、クロムアセチルアセトネートまたはCrO3の水溶液でシリカを含浸して製造するのが好ましい。
【0019】
担持クロム-ベース触媒は段階(b)で水分を除去し、シリカまたはシリカ-ベースの担体から物理的に吸着された水を追い出すために前処理する。物理的に吸着された水を取り除くことによって、後のチタン化行程で導入されるチタン化合物と水との反応で生じる結晶質TiO2の発生を防ぐことができる。脱水階段は触媒を流動床中で乾燥した不活性雰囲気、例えば窒素雰囲気下で少なくとも250℃、好ましくは少なくとも270℃の温度に加熱することによって行うのが好ましい。脱水階段は一般に0.5〜2時間実行する。
【0020】
階段(c)で担持クロム-ベース触媒に一種または複数のチタン化合物を付ける。このチタン化合物は式:RnTi(OR’)m、(RO)nTi(OR’)mおよびこれらの混合物にすることができる。ここで、RおよびR’は1〜12の炭素原子を有するヒドロカルビル基で、互いに同一でも異なっていてもよく、mは1、2、3または4であり、m+nは4に等しい。このチタン化合物はチタンテトラアルコキシドTi(OR’)4であるのが好ましい。ここで、各R’は3〜5つの炭素原子を有するアルキルまたはシクロアルキル基で、互いに同一でも異なっていてもよい。これらの化合物の混合物を使用することもできる。チタン化は乾燥した不活性非酸化雰囲気流、例えば脱水階段で記載した雰囲気中にチタン化合物を少しづつ導入することで実行するのが好ましい。チタネーション階段は流動床中で実行するのが好ましい。チタン化階段では温度を上げて、チタン化合物が蒸発された形で存在するようにする。この温度は少なくとも250℃、好ましくは少なくとも270℃、より好ましくは270℃〜350℃にする。液体のチタン化合物を蒸発反応域へポンプ輸送することができる。
【0021】
このチタン化階段は、処理済みの触媒上に堆積したチタンの最終濃度がチタン化したクロム-ベース触媒の重量を基にして1.0重量%、好ましくは2.0重量%から4.0重量%、好ましくは5.0重量%までになるように制御できる。触媒中の所望のチタン含有量を得るのに必要なガス流体に導入するチタン化合物の総量は当業者が容易に計算できる。チタン化反応時間が0.5〜2時間となるようにチタン化合物の流速を少しづつ調節する。
【0022】
チタン化合物を導入した後に、ガス流体下で一般に0.75〜2時間かけて触媒をフラッシュすることができる。
【0023】
チタン化した触媒は次に賦活階段で酸化性気体、例えば乾燥空気中で、高い活性化温度で少なくとも2時間、好ましくは少なくとも4時間、最も好ましくは少なくとも6時間活性化される。一般に雰囲気を窒素(不活性ガス)から空気(酸化性気体)へ変える。そして、チタン化階段から賦活階段まで温度を次第に増加する。本発明の実施例では、階段(d)でのチタン化されたクロム-ベース触媒の賦活は500〜750℃の温度で実行される。活性化温度は500℃から、好ましくは525℃から850℃まで、好ましくは750℃まで、より好ましくは700℃まで、最も好ましくは650℃までにする。
【0024】
本発明のエチレン重合または共重合プロセスは気相で実行される。気相重合は一つ以上の流動床または攪拌ベッド反応装置で実行できる。気相はエチレンか、必要に応じて用いられる3〜10の炭素原子を有するα-オレフィンコモノマー、例えば1-ブテン、1-ヘキセン、4−メチル-1-ペンテン、1-オクテンまたはこれらの混合物と、不活性ガス、例えば窒素とから成る。また、必要に応じて金属アルキルや一種以上の他の反応制御剤、例えば水素を重合媒体中に注入することができる。また、静電荷を減少させるための添加剤、例えばアセトンおよび/または脂肪酸の化合物を従来法で使用される量未満の量で使用することもできるが、この種の添加剤を全く使用しないで済ますこともできる。
【0025】
反応装置の温度は一般に80、85、90または95℃から100、110、112または115℃までの温度に調節されるが、好ましくは90〜112℃の間、さらに好ましくは95〜112℃の間にする。気相ユニットがいわゆる凝縮モードまたはスーパー凝縮モードで運転される場合には炭化水素の希釈剤、例えばペンタン、イソペンタン、ヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサンまたはこれらの混合物を使用することもできる。
【0026】
反応装置中の静電荷は少なくとも一つの静電電圧計で測定できる。例えば反応装置の壁から放射方向に約25mm(1インチ)の所の気体液分配板プレートの上方位置の流体中に設けた13mm(1/2インチ)の球形電極で電圧を測定することができる。この種の測定値は下記文献に記載されている(実施例1参照)(この特許の内容は本明細書の一部を成す)。
【特許文献6】米国特許第US 4,855,370号明細書
【0027】
本発明はさらに、下記(a)〜(d)の段階から成る方法で作られるクロム-ベース触媒の、エチレンおよびα-オレフィンコモノマーの気相重合での使用を提供する:
(a) クロム化合物が沈着した担体を用意し、
(b) 階段(a)で得られた生成物を脱水し、
(c) 階段(b) で得られた生成物を少なくとも一種の蒸発したチタンアルコキシド化合物を含む乾燥した不活性ガス雰囲気中でチタン化し、
(d) 階段(c) で得られた生成物を少なくとも500℃の温度で活性化する。
【0028】
方法に関連して上記で説明した詳細および実施例は本発明の使用にも適用される。気相重合は流動床気相反応装置で実行するのが好ましい。
本発明はさらに、上記した方法で得られるポリエチレンのホモポリマーおよびコポリマーにも関するものである。ポリエチレンのホモポリマーおよびコポリマーは一般に中密度および高密度のポリエチレンである。樹脂の密度は一般に少なくとも0.918 g/cm3、好ましくは少なくとも0.930 g/cm3、さらに好ましくは0.934g/cm3である。
方法および使用に関連して説明した上記の詳細および実施例は本発明のポリエチレンにも適用される。
以下の本発明の実施例を説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
実験の部
本発明を示すために、4つの実施例と2つの比較例でエチレンを工業スケールの気相重合反応装置で重合した。全ての重合操作は同じ反応装置で実行した。
静電荷の蓄積はベッド電圧の測定値から求めた。ベッド電圧はベッド中に位置した球形電極に接続した静電電圧計で測定した。このデバイスは特許文献6(米国特許第US 4,855,370号明細書)に記載されている。結果は[図1]〜[図3]に示した。約0Vでのトレースは反応装置の静電荷を表す。
得られたポリエチレンはASTM D 1505-85規格で測定した密度に(g/cm3)と溶融指数で特徴付けた。メルトインデックスHLMIはASTM D 1238規格で190℃で21.6kgの荷重下測定したメルトインデックス、MI2はASTM D 1238規格で190℃で2.16kgの荷重下で測定したメルトインデックスで、結果はg/10分で表した。
【0030】
実施例1
出発材料はクロムを付けた回転楕円体のシリカ担体である。この出発材料の特性は以下の通り:Cr-含有量=0.56重量%、BET比表面積(N2吸着)=301m2/g、BJH細孔容積(N2脱着)=1.53ml/g、表面積/Cr比=53750m2/g Cr、D50=46マイクロメートル、D1=13マイクロメートル、D90=88マイクロメートル、微粉含有量(d < 31マイクロメートル)は約25重量%である。粒度分布は光回折粒度測定Malvern Mastersizer 2000を使用して測定した。
【0031】
出発触媒は以下の手順に従って工業的流動床アクティベータで製造した:
(1)約200kgの出発材料の固形物を流動床アクティベータに導入し、
(2)出発材料の固形物を窒素下に3時間で270℃まで加熱し、約2時間のこの温度を維持し、
(3)約41〜45kgのチタンテトライソプロポキシド(商品名TYZOR、(登録商標)TPTで入手可能)を流動床中次第に注入し(2時間以上270℃の温度を維持してチタン化合物を蒸発させる)、
(4)得られたチタン化触媒をさらに270℃で2時間の窒素流下に維持し、
(5)窒素を空気に変えてチタン化触媒を550℃まで加熱し、550℃を6時間維持し、
(6)活性化した触媒を360℃まで空気下で、それから窒素下で室温まで冷却し、
(7)活性化した触媒を窒素下に取出し、重合で使用するまで不活性ガス下で保存した。
【0032】
活性化した触媒を用いてエチレンを気相重してPE樹脂を製造した。反応条件は[表1]に示してある。ポリマ密度を制御するために1−ヘキセンをコモノマーとして使用した。メルトインデックスは当業者に知られている温度調節で制御し、水素を導入して制御した。密度が0.955g/cm3の樹脂が得られた。高荷重メルトインデックス(HLMI)は18.4g/10分である。[図1]に実施例1の静電電圧のトレースを時間の関数で示した。この図の電圧トレースは電位変動がほとんどないことを示している。これは静電気の問題が無いシステムであることを意味する。
【0033】
実施例2
実施例1で作った活性化した触媒を用いてエチレンを気相重合してPE樹脂を製造した。反応条件は[表1]に示してある。ポリマの密度を制御するために1-ヘキセンをコモノマーとして使用した。得られた樹脂は0.952g/cm3の密度と、8.3g/10分の高荷重メルトインデックス(HLMI)とを有する。電圧トレースは実施例1と同じであった。
【0034】
実施例3
活性化された触媒を実施例1と同様にして製造したが、賦活温度を550℃の代わりに650℃にして実行した。活性化した触媒を用いてエチレンを気相重合してPE樹脂を製造した。反応条件は[表1]に示した。ポリマの密度を制御するために1-ヘキセンをコモノマーとして使用した。得られた樹脂は0.944g/cm3の密度と、16.0g/10分の高荷重メルトインデックス(HLMI)とを有する。電圧トレースは実施例1と同じであった。
【0035】
実施例4
活性化された触媒を実施例1と同様にして製造したが、賦活温度を550℃の代わりに750℃にして実行した。活性化した触媒を用いてエチレンを気相重合してPE樹脂を製造した。反応条件は[表1]に示した。ポリマの密度を制御するために1-ヘキセンをコモノマーとして使用した。得られた樹脂は0.946g/cm3の密度と、21.1g/10分の高荷重メルトインデックス(HLMI)とを有する。電圧トレースは実施例1と同じであった。
【0036】
【表1】

【0037】
比較例1
米国特許第US 3,324,101号明細書に記載の触媒Xを用いて生産運転を実行した。この触媒を使用して作られる目標樹脂は密度d=0.945 g/cm3およびHLMI=11.5 g/10分のHDPEである。[図2]は時間を関数とする静電電圧のトレースを示す。この図から分かるように触媒Xを使用した場合の結果では電圧変動と静電気充電/放電とがリンクしている。
【0038】
比較例2
米国特許第US 6,982,304号明細書に記載の触媒Y(実施例の触媒1)を用いて生産運転を実行した。触媒Yはシリカ担体にCr-化合物とチタン化合物とを含浸し、さらに流動床で空気下に高温度で活性化して作ったTi-含有触媒である。
この触媒を使用して作られる目標樹脂は密度d=0.951 g/cm3およびHLMI=24g/10分、MI2=0.23 g/10分のHDPEである。[図3]は時間を関数とする静電電圧のトレースを示す。この図から分かるように触媒Xを使用した場合の結果では電圧変動と静電気充電/放電とがリンクしている。
【0039】
重合装置は最初は比較例2に従った触媒Yを用いて運転した。次に、この触媒Yの代わりに実施例1の触媒を重合装置に導入した。実施例1の触媒はPE樹脂のセットを作るのに用いた。その後、再度触媒Yに戻した。その時にトレースは[図1]に示すものから[図3]に示すものへ戻った。このことは本発明を用いることで静電気の問題およびシーティングに関連する問題無しに気相重合を行なうことができるということを明らかに示している。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例1で時間を関数として静電電圧をトレースした図。
【図2】比較例1で時間を関数として静電電圧をトレースした図。
【図3】比較例2で時間を関数として静電電圧をトレースした図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相重合反応装置中に活性化された触媒を注入し、反応装置中にエチレンと任意成分のα-オレフィンコモノマーとを注入して、エチレンおよび任意成分のコモノマーを(共)重合してポリエチレン粉体を回収する階段を有する、エチレンの重合またはエチレンと3〜10の炭素原子を有するα-オレフィンコモノマーとの共重合方法において、
上記の活性化された触媒が下記(a)〜(d)の段階から成る方法で作られることを特徴とする方法:
(a) クロム化合物が沈着した担体を用意し、
(b) 階段(a)で得られた生成物を脱水し、
(c) 階段(b) で得られた生成物を少なくとも一種の蒸発したチタンアルコキシド化合物を含む乾燥した不活性ガス雰囲気中でチタン化し、
(d) 階段(c) で得られた生成物を少なくとも500℃の温度で活性化する。
【請求項2】
担体がシリカ-ベースの担体である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
担体がシリカ担体である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
階段(b)を乾燥した不活性気体雰囲気中で少なくとも250℃の温度で実行する請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
階段(c)を少なくとも250℃の温度で実行する請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
階段(d)でのチタン化されたクロム-ベース触媒の賦活を酸化性雰囲気中で500〜850℃の温度で実行する請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
階段(d)でのチタン化されたクロム-ベース触媒の賦活を酸化性雰囲気中で525〜750℃の温度で実行する請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
担体が少なくとも250m2/gで且つ600m2/g以下の比表面積を有する請求項2〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
クロム濃度が、チタン化されたクロム-ベース触媒の重量を基にして少なくとも0.1重量%で且つ1.0重量%以下である請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも一種のチタンアルコキシド化合物がRnTi(OR')m、(RO)nTi(OR')mおよびこれらの混合物(ここで、RとR’は1〜12の炭素原子を有するヒドロカルビル基で、互いに同一でも異なっていてもよく、nは0〜3、mは1〜4、m+nは4に等しい)の中から選択される請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも一種のチタンアルコキシド化合物が一般式:Ti(OR’)4を有するチタンテトラアルコキシド(ここで、各R’は3〜5の炭素原子を有するアルキルまたはシクロアルキル基で、互いに同一でも異なっていてもよい)およびその混合物から成る群の中から選択れる請求項10に記載の方法。
【請求項12】
沈着したチタンの濃度が、チタン化したクロム-ベース触媒の重量を基にして1.0重量%〜5.0重量%である請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
下記(a)〜(d)の段階から成る方法で作られるクロム-ベース触媒の、エチレンの気相重合での使用:
(a) クロム化合物が沈着した担体を用意し、
(b) 階段(a)で得られた生成物を脱水し、
(c) 階段(b) で得られた生成物を少なくとも一種の蒸発したチタンアルコキシド化合物を含む乾燥した不活性ガス雰囲気中でチタン化し、
(d) 階段(c) で得られた生成物を少なくとも500℃の温度で活性化する。
【請求項14】
重合がエチレンの単独重合か、エチレンと3〜10の炭素原子を有するα-オレフィンコモノマーとの共重合である請求項13に記載の使用。
【請求項15】
気相重合が流動床気相重合反応装置中で実行される請求項13または14に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−533512(P2009−533512A)
【公表日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−504763(P2009−504763)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【国際出願番号】PCT/EP2007/053651
【国際公開番号】WO2007/118865
【国際公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(504469606)トータル・ペトロケミカルズ・リサーチ・フエリユイ (180)
【Fターム(参考)】