説明

重合体の脱色方法、重合体の製造方法及び重合体

【課題】RAFT重合法により得られた重合体の着色を低減して実用上耐え得る重合体を得るための重合体の脱色方法を提供する。
【解決手段】可逆的付加−分裂連鎖移動重合法で合成された重合体を酸素存在下で加熱して脱色処理を施す。これにより、重合時に使用されるRAFT剤に起因する重合体中のジチオエステル基によるこの重合体の着色を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可逆的付加−分裂連鎖移動重合法で合成された重合体を脱色する脱色方法、前記脱色方法にて重合体を脱色する工程を含む重合体の製造方法、及びこの脱色方法にて脱色された重合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ラジカル重合法は簡便で汎用性のある重合法として工業的によく行われている。近年、ラジカル重合法の簡便さと汎用性を維持しながら、分子量分布、分子量と分子構造を容易に制御する重合法としてリビングラジカル重合法が採用されるようになってきている。リビングラジカル重合法は成長ラジカルを可逆的に安定なドーマント種に導く事を特徴とする重合方法であり、通常のラジカル重合法と比較して二分子停止反応が起こりにくく、分散度(Mw/Mn)が小さい重合体が得られるものであり、また、開始基と単量体の仕込み比により得られる重合体の分子量が決定されるので分子量の設定が容易となるものである。
【0003】
このリビングラジカル重合法は、ニトロキシド化合物等の安定ラジカルによる解離−結合機構によるものと、有機ハロゲン化合物のハロゲン原子を遷移金属錯体により引き抜く事で可逆的なラジカル化が起こる原子移動ラジカル重合法によるものと、ジチオエステル化合物等の連鎖移動剤(RAFT剤)へのラジカル付加と分裂が可逆的に起こり交換反応が起こる可逆的付加−分裂連鎖移動重合法(RAFT重合法)によるものに大別できるが、このうちRAFT重合法はカルボキシル基含有モノマーを含む系に適用できる点で汎用性があり、工業的にも有用である。
【0004】
また、このようなRAFT重合法により得られる重合体は、レジストインキ、感光性樹脂、接着剤、塗料、バインダー等の、種々の用途に使用することができる。例えば本出願人は、このようなRAFT重合法によって分散度1.8以下のアルカリ可溶性重合体を合成し、このアルカリ可溶性重合体を用いて、低タック性、光硬化性及び現像性に優れ、且つ解像性に優れるプリント配線板製造用アルカリ現像型感光性レジストインキ組成物を調製し、プリント配線板のレジスト膜形成等に利用することを提案している(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−25152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、RAFT重合法により得られた重合体は、RAFT剤に起因する末端のジチオエステルによる赤みの着色があることが実用化への障害となっている。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みて為されたものであり、RAFT重合法により得られた重合体の着色を低減して実用上耐え得る重合体を得るための重合体の脱色方法、当該脱色方法により重合体を脱色する工程を含む重合体の製造方法、及びこの脱色方法にて脱色された重合体を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る重合体の脱色方法は、可逆的付加−分裂連鎖移動重合法で合成された重合体を酸素存在下で加熱して脱色処理を施すことを特徴とする。これにより、重合時に使用されるRAFT剤に起因する重合体中のジチオエステル基によるこの重合体の着色を低減することができる。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1において、上記脱色処理における酸素源が、酸素を含む気体と、加熱により酸素を発生する化合物とのうち、少なくとも一方であることを特徴とする。このため、酸素を含む気体又は加熱により酸素を発生する化合物から供給される酸素を利用して、重合体の脱色を行うことができる。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1において、上記脱色処理における酸素源が、加熱により酸素を発生する化合物のみであることを特徴とする。このため、重合体の着色を更に低減することができる。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項3において、上記加熱により酸素を発生する化合物が、過酸化水素であることを特徴とする。このため、重合体の着色を更に低減することができる。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれか一項において、上記脱色処理における加熱温度が60℃以上であることを特徴とする。このため、重合体の着色を更に低減することができる。
【0012】
請求項6に係る重合体の製造方法は、可逆的付加−分裂連鎖移動重合法により重合体を合成する工程と、前記重合体を請求項1乃至5のいずれか一項に記載の脱色方法にて脱色する工程とを含むことを特徴とする。これにより、可逆的付加−分裂連鎖移動重合法を用いることで、ラジカル重合法の簡便さと汎用性を維持しながら分子量分布、分子量、分子構造が制御された重合体を容易に得ることができると共に、この重合体の着色を低減することができる。
【0013】
請求項7に係る重合体は、可逆的付加−分裂連鎖移動重合法で合成された重合体を、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の脱色方法にて脱色して成ることを特徴とする。これにより、可逆的付加−分裂連鎖移動重合法にて合成されることで分子量分布、分子量、分子構造が制御され、且つ着色が低減された重合体を得ることができるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、可逆的付加−分裂連鎖移動重合法を採用することでラジカル重合法の簡便さと汎用性を維持しながら分子量分布、分子量、分子構造が制御された重合体を得るにあたり、この重合体の、RAFT剤に起因するジチオエステル基による着色を低減し、重合体の実用性を向上することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0016】
RAFT重合法により得られるアクリル重合物等の重合体の用途としてはレジストインキ、感光性樹脂、接着剤、塗料、バインダー等を挙げることができる。このようなRAFT重合法により得られる重合体の一例として、下記のアルカリ可溶性重合体を挙げる。このアルカリ可溶性重合体はプリント配線板製造用のアルカリ現像型感光性レジストインキ組成物を構成する感光性樹脂として利用することができる。
【0017】
この重合体の合成に用いられるモノマーについては、共重合可能なエチレン性不飽和単量体であればよく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の直鎖、分岐或いは脂環式アルキル系(メタ)アクリレート類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール(アルキレングリコール単位数は例えば2〜23)のモノ(メタ)アクリレート類;メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート等のエチレングリコールエステル系(メタ)アクリレート類、及び同様なプロピレングリコール系(メタ)アクリレート類、ブチレングリコール系モノ(メタ)アクリレート類;ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノメチル(メタ)アクリレート、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート類;べンジル(メタ)アクリレート等の芳香族系の(メタ)アクリレート類;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−ターシャリーブチル(メタ)アクリルアミド、N−ターシャリーオクチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド類;スチレン、o−ビニルトルエン、m−ビニルトルエン、p−ビニルトルエン、α−メチルスチレン、o−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、o−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、m−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、p−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、p−ビニルベンジルアルコール等のビニル芳香族化合物類;マレイミド、N−ベンジルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド類;2−(メタ)アクリルアミドエタンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、3−(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸等のスルホン酸基含有(メタ)アクリレート類;その他にグリセロールモノ(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、ビニルエーテル類、(メタ)アリルアルコール、シアン化ビニリデン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ビニルピロリドン、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。
【0018】
また、複数個の共重合可能なエチレン性不飽和基を有する化合物もゲル化の起こらない範囲で少量使用できる。このような多官能性のものとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、トリビニルベンゼン等が挙げられる。これらは単独で又は組み合わせて用いることができ、レジストインキとした際のプリキュア後の塗膜の硬度及び最終的なレジストの硬度を調節するために、或いは分散性、溶解性、印刷性等、レジストインキの使用工程上の作業性の調節等のために用いられる。
【0019】
RAFT重合法では、ラジカル重合反応系にジチオエステル化合物に代表されるRAFT剤を投入することによりリビングラジカル重合を生じさせるものである。
【0020】
RAFT剤としては上記のように分子内にC=S不飽和基を有するジチオエステル類が用いられ、具体例としては下記構造式(1)に示すものを挙げることができる。
【0021】
【化1】

【0022】
ここで、構造式(1)中のRの例として下記構造式(1a)〜(1g)を、Zの例として(1h)〜(1o)を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
【化2】

【0024】
RAFT重合は、重合反応に供されるモノマーに必要に応じて適宜の重合開始剤が含有された通常のラジカル重合反応系中に上記のようなRAFT剤を投入することで行うことができ、またこのとき無溶剤若しくは溶媒中でRAFT重合を進行させることができる。
【0025】
溶媒を用いる場合には、例えば水、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、2−ブチルアルコール、ヘキサノール、エチレングリコール等の直鎖、分岐、2級あるいは多価のアルコール類;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;スワゾールシリーズ(丸善石油化学社製)、ソルベッソシリーズ(エクソン・ケミカル社製)等の石油系芳香族系混合溶剤;セロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類;カルビトール、ブチルカルビトール等のカルビトール類;プロピレングリコールメチルエーテル等のプロピレングリコールアルキルエーテル類;ジプロピレングリコールメチルエーテル等のポリプロピレングリコールアルキルエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、ブチルセロゾルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の酢酸エステル類;ジアルキルグリコールエーテル類等を用いることができる。このような有機溶剤は一種のみを用い或いは二種以上を適宜互いに組み合わせて使用することができる。
【0026】
また、反応温度は0℃〜200℃の範囲とすることができ、通常、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行われる。
【0027】
このように重合体をRAFT重合法により合成するにあたり、重合体中にアルカリ可溶性基を導入してアルカリ可溶型とする方法としては、分子内に一つのラジカル重合性二重結合と一つ以上のアルカリ可溶性基を併有する単量体をRAFT重合法により共重合する方法と、RAFT重合法により得られる重合体に予め適宜の反応性基を導入しておいて、これに上記反応性基と反応する官能基とアルカリ可溶性基を併有する化合物、若しくは上記反応性基と反応、結合することでカルボキシル基を生する化合物を反応させる方法とが挙げられる。ここで、アルカリ可溶性基としては、カルボキシル基、フェノール性水酸基、スルホン酸基、リン酸基等を挙げることができる。
【0028】
上記例示したようなRAFT重合法により得られた重合体は、既述のようにRAFT剤として用いられるジチオエステル類によって、末端にジチオエステル基が存在する。このため重合体は赤みを帯びる。本発明では、このRAFT重合法により得られた重合体に対し、脱色処理を施すことにより赤みの着色を低減する。
【0029】
脱色処理は、重合体を酸素の存在下で加熱することにより行われる。かかる処理により着色が低減されるのは、酸素との反応により重合体中のジチオエステル基における硫黄原子が酸素原子と置き換わるためであると推察される。
【0030】
このときの加熱温度は適宜設定されるものであり、加熱温度が低くても長時間処理を行うことにより重合体の脱色を行うことができるが、効率良く脱色を行うためには加熱温度を好ましくは60℃以上、特に好ましくは80℃以上とするものであり、例えばこの加熱温度を80〜100℃の範囲とすることができる。
【0031】
このようにして重合体の脱色処理を行うにあたっての酸素源としては、雰囲気中の酸素分子や、過炭酸、過酢酸、過酸化水素等のような加熱により酸素(分子状酸素)を発生する化合物が挙げられ、これらのうち二以上の組み合わせても良い。
【0032】
雰囲気中の酸素分子を酸素源とする場合には、例えば重合体又はこの重合体を含む溶液を酸素分子を含む雰囲気に曝露しながら、この重合体を加熱することにより脱色処理を施すことができる。前記雰囲気における酸素濃度は重合体の脱色が効率よく進むように適宜設定されるが、好ましくは酸素を20%含む空気を使用することが効率的であり、また加熱温度は好ましくは60℃以上、更に好ましくは70℃以上とする。
【0033】
脱色処理にあたっては、重合体又はこの重合体を含む溶液を攪拌することにより重合体の全体に亘って酸素を供給することが望ましい。このとき、重合体又は重合体を含む溶液の周囲の雰囲気には、ジチオエステル基との反応により消費される酸素分子を補給するために、酸素ガスや空気等のような酸素を含む気体を連続的に吹き込むようにすることが好ましい。
【0034】
このように雰囲気中の酸素分子を酸素源とする場合の加熱時間は、加熱温度に応じて適宜設定されるものであるが、空気雰囲気中で加熱温度を80〜100℃の範囲とする場合には、加熱時間を好ましくは0.5時間以上、特に好ましくは1時間以上、更に好ましくは2時間以上とする。但し、このように雰囲気中の酸素分子を酸素源とする場合に、加熱開始後、時間の経過とともに赤みが減少するが、ある程度の時間を過ぎると、理由は明らかではないが褐色に呈色してくる。このため、このような褐色への呈色により重合体の着色が逆に増大する前に加熱を停止することが好ましい。褐色への呈色による着色の増大を防止するための具体的な加熱条件も加熱温度に応じて適宜設定されるが、例えば空気雰囲気中で脱色処理を行うことにより酸素供給源を空気のみとする場合に、加熱温度が80〜100℃の範囲であれば、加熱時間は4時間以下であることが好ましい。
【0035】
また、酸素源として加熱により酸素を発生する化合物を用いる場合には、重合体を含む溶液中に前記化合物を加えた状態で加熱処理を施すことができる。このとき、前記溶液を攪拌することによりこの溶液全体に亘って重合体に酸素を供給することが好ましい。前記化合物の溶液への添加量は適宜設定されるが、着色を十分に低減すると共に処理効率を向上するためには、重合体における末端のジチオエステル基1モルに対して、化合物から生じる理論的な酸素分子の発生量が5モル(酸素原子換算で10モル)以上となる量であることが好ましく、更に前記発生量が10モル(酸素原子換算で20モル)以上となる量であることが好ましい。また、この添加量の上限も特に制限されないが、前記発生量が20モルとなると脱色の効果がほぼ飽和するため、実用上の上限を20モル(酸素原子換算で40モル)に設定することができる。
【0036】
このように過炭酸、過酢酸、過酸化水素等といった加熱により酸素を発生する化合物、殊に過酸化水素を酸素源とする場合には、雰囲気中の酸素分子を酸素源とする場合のような褐色への呈色が生じなくなる。このため、脱色処理を窒素雰囲気等の不活性雰囲気で行うなどして、酸素源として前記化合物のみ、特に過酸化水素のみを用いるようにすると、重合体の脱色を著しく低減することができ、重合体をほぼ完全に脱色することも可能となる。更に、前記化合物を酸素源とすると、重合体のUV域での吸収も減少させることができ、このため、特にこの重合体が紫外線により硬化等する感光性樹脂である場合には感光性を向上することができる。
【0037】
このような化合物を酸素源とする場合の脱色処理における加熱時間は適宜設定されるものであるが、例えば加熱温度が80〜100℃の範囲であれば加熱時間を好ましくは0.5時間以上、特に好ましくは1時間以上とする。また、この加熱温度を2時間以上とすると赤みの着色をほぼ無くすると共にUV域での吸光を特に低減することができ、更にこの加熱温度を4時間以上とするとUV域での吸光をほぼ無くすることができる。
【実施例】
【0038】
以下に本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
[合成例1]
還流冷却器、温度計、窒素導入管、攪拌機を取り付けた200mlフラスコに、MFDG(ジプロピレングリコールモノメチルエーテル)を68.3g、メタクリル酸を5.7g、メチルメタクリレートを19.7g、スチレンを4.8g、ブチルメタクリレートを1.6g、クミルジチオベンゾエートを0.47g、アゾビスイソブチロニトリルを0.35gを加えて、窒素を吹き込みながら60℃で6時間加熱することによりRAFT重合を進行させ、重合体の32重量%溶液を得た。ガスクロマトグラフィーによる測定結果によると、モノマーの転化率は100%、重合体の数平均分子量Mnは11966、重量平均分子Mwは18053、分散度(Mw/Mn)は1.51であった。また、この重合体中のクミルジチオベンゾエートに起因するジチオエステル基の理論量の割合は0.0171mmol/gである。
【0040】
[実施例1]
三方コックを取り付けた直径18mm×長さ180mmの試験管に合成例1で得られた重合体溶液3.5g、MFDG3.5g、35重量%過酸化水素水溶液0.0583g(ジチオエステル基:過酸化水素=1モル:10モル)を仕込み、三方コックを介して試験管内に窒素を10分間供給して窒素置換をした後、封をし、オイルバスにて100℃で2時間加熱すると共にマグネチックスターラにて攪拌して、重合体溶液を得た。
【0041】
[実施例2]
三方コックを取り付けた直径18mm×長さ180mmの試験管に合成例1で得られた重合体溶液3.5g、MFDG3.5g、35重量%過酸化水素水溶液0.1167g(ジチオエステル基:過酸化水素=1モル:20モル)を仕込み、三方コックを介して試験管内に窒素を10分間供給して窒素置換をした後、封をし、オイルバスにて100℃で2時間加熱すると共にマグネチックスターラにて攪拌して、重合体溶液を得た。
【0042】
[実施例3]
三方コックを取り付けた直径18mm×長さ180mmの試験管に合成例1で得られた重合体溶液3.5g、MFDG3.5g、35重量%過酸化水素水溶液0.2333g(ジチオエステル基:過酸化水素=1モル:40モル)を仕込み、三方コックを介して試験管内に窒素を10分間供給して窒素置換をした後、封をし、オイルバスにて100℃で0.5時間加熱すると共にマグネチックスターラにて攪拌し、重合体溶液を得た。
【0043】
[実施例4]
三方コックを取り付けた直径18mm×長さ180mmの試験管に合成例1で得られた重合体溶液3.5g、MFDG3.5g、35重量%過酸化水素水溶液0.2333g(ジチオエステル基:過酸化水素=1モル:40モル)を仕込み、三方コックを介して試験管内に窒素を10分間供給して窒素置換をした後、封をし、オイルバスにて100℃で1時間加熱すると共にマグネチックスターラにて攪拌して、重合体溶液を得た。
【0044】
[実施例5]
三方コックを取り付けた直径18mm×長さ180mmの試験管に合成例1で得られた重合体溶液3.5g、MFDG3.5g、35重量%過酸化水素水溶液0.2333g(ジチオエステル基:過酸化水素=1モル:40モル)を仕込み、三方コックを介して試験管内に窒素を10分間供給して窒素置換をした後、封をし、オイルバスにて100℃で2時間加熱すると共にマグネチックスターラにて攪拌して、重合体溶液を得た。
【0045】
[実施例6]
三方コックを取り付けた直径18mm×長さ180mmの試験管に合成例1で得られた重合体溶液3.5g、MFDG3.5g、35重量%過酸化水素水溶液0.2333g(ジチオエステル基:過酸化水素=1モル:40モル)を仕込み、三方コックを介して試験管内に窒素を10分間供給して窒素置換をした後、封をし、オイルバスにて100℃で4時間加熱すると共にマグネチックスターラにて攪拌して、重合体溶液を得た。
【0046】
[実施例7]
三方コックを取り付けた直径18mm×長さ180mmの試験管に合成例1で得られた重合体溶液3.5g、MFDG3.5g、35重量%過酸化水素水溶液0.2333g(ジチオエステル基:過酸化水素=1モル:40モル)を仕込み、三方コックを介して試験管内に窒素を10分間供給して窒素置換をした後、封をし、オイルバスにて60℃で2時間加熱すると共にマグネチックスターラにて攪拌して、重合体溶液を得た。
【0047】
[実施例8]
三方コックを取り付けた直径18mm×長さ180mmの試験管に合成例1で得られた重合体溶液3.5g、MFDG3.5g、35重量%過酸化水素水溶液0.2333g(ジチオエステル基:過酸化水素=1モル:40モル)を仕込み、三方コックを介して試験管内に窒素を10分間供給して窒素置換をした後、封をし、オイルバスにて80℃で2時間加熱すると共にマグネチックスターラにて攪拌して、重合体溶液を得た。
【0048】
[実施例9]
三方コックを取り付けた直径18mm×長さ180mmの試験管に合成例1で得られた重合体溶液3.5g、MFDG3.5g、35重量%過酸化水素水溶液0.2333g(ジチオエステル基:過酸化水素=1モル:40モル)を仕込み、三方コックを介して試験管内に窒素を10分間供給して窒素置換をした後、封をし、オイルバスにて100℃で8時間加熱すると共にマグネチックスターラにて攪拌して、重合体溶液を得た。
【0049】
[実施例10]
三方コックを取り付けた直径18mm×長さ180mmの試験管に合成例1で得られた重合体溶液3.5g、MFDG3.5gを仕込み、三方コックを介して試験管内に空気を連続的に吹き込みながらオイルバスにて80℃で2時間加熱すると共にマグネチックスターラにて攪拌して、重合体溶液を得た。
【0050】
[実施例11]
三方コックを取り付けた直径18mm×長さ180mmの試験管に合成例1で得られた重合体溶液3.5g、MFDG3.5gを仕込み、三方コックを介して試験管内に空気を連続的に吹き込みながらオイルバスにて100℃で0.5時間加熱すると共にマグネチックスターラにて攪拌して、重合体溶液を得た。
【0051】
[実施例12]
三方コックを取り付けた直径18mm×長さ180mmの試験管に合成例1で得られた重合体溶液3.5g、MFDG3.5gを仕込み、三方コックを介して試験管内に空気を連続的に吹き込みながらオイルバスにて100℃で1時間加熱すると共にマグネチックスターラにて攪拌して、重合体溶液を得た。
【0052】
[実施例13]
三方コックを取り付けた直径18mm×長さ180mmの試験管に合成例1で得られた重合体溶液3.5g、MFDG3.5gを仕込み、三方コックを介して試験管内に空気を連続的に吹き込みながらオイルバスにて100℃で2時間加熱すると共にマグネチックスターラにて攪拌して、重合体溶液を得た。
【0053】
[実施例14]
三方コックを取り付けた直径18mm×長さ180mmの試験管に合成例1で得られた重合体溶液3.5g、MFDG3.5gを仕込み、三方コックを介して試験管内に空気を連続的に吹き込みながらオイルバスにて100℃で4時間加熱すると共にマグネチックスターラにて攪拌して、重合体溶液を得た。
【0054】
[実施例15]
三方コックを取り付けた直径18mm×長さ180mmの試験管に合成例1で得られた重合体溶液3.5g、MFDG3.5gを仕込み、三方コックを介して試験管内に空気を連続的に吹き込みながらオイルバスにて100℃で6時間加熱すると共にマグネチックスターラにて攪拌して、重合体溶液を得た。
【0055】
[実施例16]
三方コックを取り付けた直径18mm×長さ180mmの試験管に合成例1で得られた重合体溶液3.5g、MFDG3.5g、35重量%過酸化水素水溶液0.2333g(ジチオエステル基:過酸化水素=1モル:40モル)を仕込み、三方コックを介して試験管内に空気を連続的に吹き込みながら、オイルバスにて100℃で6時間加熱すると共にマグネチックスターラにて攪拌して、重合体溶液を得た。
【0056】
[比較例1]
合成例1で得られた重合体溶液3.5gにMFDG3.5gを加え、三方コックを介して試験管内に窒素を10分間吹き込んで窒素置換した後、封をし、室温で均一に攪拌し、重合体溶液を得た。これを標準品とした。
【0057】
[比較例2]
三方コックを取り付けた直径18mm×長さ180mmの試験管に合成例1で得られた重合体溶液3.5g、MFDG3.5gを仕込み、三方コックを介して試験管内に窒素を10分間吹き込んで窒素置換した後、封をし、オイルバスにて100℃で2時間加熱すると共にマグネチックスターラにて攪拌して、重合体溶液を得た。
【0058】
[吸光度測定]
各実施例及び比較例で得られた重合体溶液のUV−可視域の吸収スペクトルを島津製作所製分光光度計(UV−3100PC)にて測定した。このとき、石英セルを用い、光路長10mm、波長域300〜700nm、レファレンスをMFDGとした。
【0059】
このとき、吸光度は下記に式(1)により導出した。
【0060】
吸光度A=log10(I0/I)・・・(1)
0:入射光の強度
I:透過光の強度
そして、この測定結果に基づき、赤色の着色の指標として波長502nmの吸光度を選択して、標準品(比較例1)の吸光度に対する、各実施例及び比較例での吸光度の低減率を、下記式(2)に従って導出した。
【0061】
低減率=(A0−An)/A0・・・(2)
0:標準品(比較例1)の重合体溶液の波長502nmでの吸光度。
【0062】
n:各実施例及び比較例で得られた重合体溶液の波長502nmでの吸光度。
【0063】
この結果を表1に示す。
【0064】
また、各実施例及び比較例で得られた重合体溶液を目視で観察して認識される外観色と、その外観色を無色に近いものから順に◎、○、△、▲、×と評価した結果とを示す。
【0065】
【表1】

【0066】
また、図1は、酸素源として過酸化水素を用いて100℃で加熱処理を施した実施例3〜6、9、並びに酸素源を供給せずに100℃で加熱処理を施しただけの比較例2に関する、吸光度の測定結果を示す。酸素源として過酸化水素を用いる場合に加熱時間を増大させるほど502nm付近の波長域の吸光度が低減されていることが確認できる。また、加熱時間を2時間以上とした実施例5,6,9では紫外域における吸光度が特に低減され、このうち加熱時間を4時間以上とした実施例6,9では吸光度の低減が著しいことが確認できる。
【0067】
図2は、酸素源として空気を用いて100℃で加熱処理を施した実施例11〜15、並びに比較例1に関する、吸光度の測定結果を示す。酸素源として空気を用いて加熱処理を施すことにより、502nm付近の波長域の吸光度が低減されていることが確認できる。但し、加熱時間が2時間を超えると実施例14,15のように紫外域付近での吸光度が上昇する傾向が生じ、加熱時間が6時間となった実施例15ではかすかな褐色の着色が生じた。
【0068】
図3は、酸素源として空気を用いた実施例15、酸素源として空気と過酸化水素とを併用した実施例16、並びに比較例1に関する、吸光度の測定結果を示す。過酸化水素とを併用した実施例16は、空気のみを用いた実施例15と比べると、紫外域付近での吸光度が低減されていることが、確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】実施例3〜6,9、並びに比較例2で得られた重合体溶液の吸光度スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図2】実施例11〜15、並びに比較例1で得られた重合体溶液の吸光度スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図3】実施例15,16、並びに比較例1で得られた重合体溶液の吸光度スペクトルの測定結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可逆的付加−分裂連鎖移動重合法で合成された重合体を酸素存在下で加熱して脱色処理を施すことを特徴とする重合体の脱色方法。
【請求項2】
上記脱色処理における酸素源が、酸素を含む気体と、加熱により酸素を発生する化合物とのうち、少なくとも一方であることを特徴とする請求項1に記載の重合体の脱色方法。
【請求項3】
上記脱色処理における酸素源が、加熱により酸素を発生する化合物のみであることを特徴とする請求項1に記載の重合体の脱色方法。
【請求項4】
上記加熱により酸素を発生する化合物が、過酸化水素であることを特徴とする請求項3に記載の重合体の脱色方法。
【請求項5】
上記脱色処理における加熱温度が60℃以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の重合体の脱色方法。
【請求項6】
可逆的付加−分裂連鎖移動重合法により重合体を合成する工程と、前記重合体を請求項1乃至5のいずれか一項に記載の脱色方法にて脱色する工程とを含むことを特徴とする重合体の製造方法。
【請求項7】
可逆的付加−分裂連鎖移動重合法で合成された重合体を、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の脱色方法にて脱色して成ることを特徴とする重合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−291059(P2008−291059A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135390(P2007−135390)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000166683)互応化学工業株式会社 (57)
【Fターム(参考)】