説明

重合性化合物の製造方法

【課題】(メタ)アクリル酸エステル等の重合性化合物を製造する際に、攪拌手段の軸が有するフランジの上部において重合性化合物が重合したポリマーが生成するのを抑制する方法を提供する。
【解決手段】フランジを有する軸に攪拌翼が装着された攪拌手段により攪拌しながら、重合防止剤を含有する反応液中で、(メタ)アクリル酸エステル等の重合性化合物を製造するにあたり、前記フランジが前記反応液に浸漬している状態で、前記重合性化合物の合成反応を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、(メタ)アクリル酸エステルは、アルコールと(メタ)アクリル酸との脱水により所望の(メタ)アクリル酸エステルを得るエステル化反応、アルコールと(メタ)アクリル酸エステルとのアルコール交換により所望の(メタ)アクリル酸エステルを得るエステル交換反応、(メタ)アクリル酸に付加させ所望の(メタ)アクリル酸エステルを得る付加反応等により合成されている(特許文献1および2)。
【0003】
合成された(メタ)アクリル酸エステルは、洗浄抽出または蒸留操作等により精製され、製品化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−330320号公報
【特許文献2】特開2002−114740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような(メタ)アクリル酸エステルの合成および精製は、攪拌翼を装着した釜によって行われることが一般的である。
【0006】
ここで、(メタ)アクリル酸エステルを製造している状態を図3に示す。図3において、重合性化合物の合成反応を行う反応液5は、反応器1に投入されており、軸10の先端に攪拌翼20が装着された攪拌手段により攪拌される。攪拌手段の軸10は、図2に示すように、回転駆動部に接続されている上軸11と、攪拌翼20が装着された下軸12の2つに分割されており、上軸11と下軸12はフランジ30において接続されている。ただし、上軸11と下軸12との着脱を容易にするため、フランジ30は、軸10の高い位置に設けられているおり、当然に反応液の液面5bより高い位置となっている。
【0007】
しかし、このような状態で重合性化合物を製造していると、反応液中に重合防止剤を添加している場合であっても、フランジ30の上部に重合性化合物が重合したポリマーが付着してしまうことが判明した。
【0008】
本発明は、(メタ)アクリル酸エステル等の重合性化合物を製造する際に、攪拌手段の軸を有するフランジの上部において重合性化合物が重合したポリマーが生成するのを抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、フランジを有する軸に攪拌翼が装着された攪拌手段により攪拌しながら、重合防止剤を含有する反応液中で重合性化合物を製造する方法であって、前記フランジが前記反応液に浸漬している状態で、前記重合性化合物の合成反応を行うことを特徴とする重合性化合物の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、(メタ)アクリル酸エステル等の重合性化合物を製造する際に、攪拌手段の軸が有するフランジの上部において重合性化合物が重合したポリマーが生成するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】重合性化合物を製造している状態を示す概略構成図である。
【図2】攪拌手段のフランジを拡大した概略構成図である。
【図3】重合性化合物を製造している状態を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明では、フランジを有する軸に攪拌翼が装着された攪拌手段により攪拌しながら、重合防止剤を含有する反応液中で重合性化合物を製造する。
【0013】
製造する重合性化合物としては、例えば、熱重合性を有する化合物が挙げられる。重合性化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−ヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、3,3,5−トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、4−ターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、1−フェニルエチル(メタ)アクリレート、2−フェニルエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、メタリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、フタル酸2−メタクリロイルオキシエチル、ヘキサヒドロフタル酸2−メタクリロイルオキシエチル、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ペプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
【0014】
重合防止剤としては、上記重合性化合物を合成する際に、その重合を防止する化合物を用いることができ、重合性化合物の種類により適宜選択することができる。重合防止剤の具体例としては、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、tert−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−tert−ブチルハイドロキノン、2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、ハイドロキノンモノメチルエーテル、クレゾール、tert−ブチルカテコール等のフェノール化合物;N−イソプロピル−N’−フェニル−パラ−フェニレンジアミン、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−パラ−フェニレンジアミン、N−(1−メチルヘプチル)−N’−フェニル−パラ−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−パラ−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−2−ナフチル−パラ−フェニレンジアミン等のパラフェニレンジアミン類;チオジフェニルアミン、フェノチアジン等のアミン化合物;ジブチルジチオカルバミン酸銅、ジプロピルジチオカルバミン酸銅、ジエチルジチオカルバミン酸銅、ジメチルジチオカルバミン酸銅等のジアルキルジチオカルバミン酸銅塩類;ジフェニルジチオカルバミン酸銅等のジアリールジチオカルバミン酸銅塩類;ニトロソフェノール、N−ニトロソジフェニルアミン、亜硝酸イソアミル、N−ニトロソ−シクロヘキシルヒドロキシルアミン、N−ニトロソ−N−フェニル−N−ヒドロキシルアミンおよびそれらの塩等のニトロソ化合物;2,2,4,4−テトラメチルアゼチジン−1−オキシル、2,2−ジメチル−4,4−ジプロピルアゼチジン−1−オキシル、2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル、2,2,5,5−テトラメチル−3−オキソピロリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、6−アザ−7,7−ジメチル−スピロ(4,5)デカン−6−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−アセトキシピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−ベンゾイルオキシピペリジン−1−オキシル、4,4’,4’’−トリス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル)ホスファイト等のN−オキシル化合物;テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラプロピルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等のテトラアルキルチウラムジスルフィド類;メチレンブルー;が挙げられる。重合防止剤は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0015】
重合防止剤の量は、(メタ)アクリル酸エステル100質量部に対して、0.01〜1質量部が好ましい。重合防止剤の量が0.01質量部以上であれば、重合がより起きにくくなる。重合防止剤の量が1質量部以下であれば、精製時に重合防止剤の分離が容易になり、製品の品質向上につながるだけでなく、重合防止剤のコストを抑えることができる。
【0016】
操作温度は、特に限定されないが通常10〜180℃である。操作圧力は、加圧、常圧、減圧のいずれでもよい。
【0017】
本発明に係る方法により、(メタ)アクリル酸エステルのような重合性化合物を製造している状態を図1に示す。図1において、重合性化合物の合成反応を行う反応液5は、反応器1に投入されており、軸10の先端に攪拌翼20が装着された攪拌手段により攪拌される。攪拌手段の軸10は、図2に示すように、回転駆動部に接続されている上軸11と、攪拌翼20が装着された下軸12の2つに分割されており、上軸11と下軸12はフランジ30において接続されている。このような構成であれば、フランジ30における上軸11と下軸12との接続を外すことができ、例えば形状が異なる攪拌翼を装着した下軸に取り替えることができる。
【0018】
本発明では、フランジ30が反応液5に浸漬している状態で、重合性化合物の合成反応を行う。すなわち、フランジ30は、反応液5の液面5aより低い位置になっている。こうすることで、攪拌手段の軸が有するフランジの上部において重合性化合物が重合したポリマーが生成するのを抑制することができる。
【0019】
すなわち、フランジ30は円柱状の軸10から出っ張っているので、図3に示すように、フランジ30が重合性化合物の合成反応を行う反応液5の液面5bより高い位置にあると、攪拌に伴い反応液5が跳ね上がってフランジ30の上部に到達する場合や、加熱により気化した反応液5がフランジ30の上部で凝結する場合がある。特にフランジ30の上部にある反応液においては、気化した反応液が凝縮した場合、高沸点の重合防止剤の濃度が含まれていないため、反応液中の重合性化合物が重合したポリマーが生成しやすいと考えられる。それに対し、図1に示すように、フランジ30が重合性化合物の合成反応を行う反応液5の液面5aより低い位置にあると、フランジ30は重合防止剤を含む反応液5に常時浸漬した状態となるため、反応液中に重合性化合物が重合したポリマーは生成しにくくなる。
【0020】
なお、本発明に係る方法を実施するにあたっては、次のような条件とすることが好ましい。
【実施例】
【0021】
(実施例)
2−ヒドロキシエチルメタクリレートの合成
撹拌機付の高圧反応釜に、原料であるメタクリル酸の430.45質量部、触媒であるメタクリル酸鉄の3.44質量部および重合防止剤である2−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルの0.117質量部を仕込み、液温を反応温度である65℃まで昇温した。撹拌回転数110rpmで液を撹拌しながら、該液にエチレンオキシドの255.49質量部を2時間かけて滴下し、滴下終了後、(メタ)アクリル酸およびエチレンオキシドを含む液を110rpmの撹拌回転数で撹拌しながら65℃に4時間維持した。この間、攪拌翼のフランジ上部は、常に反応液に浸漬している状態であった。
【0022】
反応終了後、撹拌機の撹拌回転数を82rpmまで低減した後、反応液を撹拌機で82rpmの撹拌回転数で撹拌しながら、反応液に含まれるエチレンオキシドを気化させた。反応釜の圧力が常圧になった後、真空発生装置を駆動させて、反応釜内のガスを吸引することによって、反応釜内を減圧し、反応釜内のガスを脱気した。
【0023】
反応釜内に設けられた圧力計で測定される圧力が2kPaとなった時点で、脱気工程を終了させ、真空発生装置を停止した。
【0024】
1年間釜を洗浄することなく続けて反応を実施したが、攪拌翼のフランジの上部に重合物は見られなかった。
【0025】
(比較例)
攪拌翼のフランジ上部までの容量が実施例1で用いた攪拌翼のフランジ上部までの容量の1.5倍である攪拌機付の高圧反応釜を用いた以外は、実施例1と同様に2−ヒドロキシエチルメタクリレートの反応を行った。この間、攪拌翼のフランジ上部は、常に反応液に浸漬していない状態であった。
【0026】
2ヵ月後フランジの上部に重合物が発生したため、重合物除去のため運転を休止し、洗浄操作を実施した。
【符号の説明】
【0027】
1 反応器
5 反応液
5a 液面
5b 液面
10 軸
11 上軸
12 下軸
20 攪拌翼
30 フランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フランジを有する軸に攪拌翼が装着された攪拌手段により攪拌しながら、反応液中で重合性化合物を製造する方法であって、
前記フランジが前記反応液に浸漬している状態で、前記重合性化合物の合成反応を行うことを特徴とする重合性化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−116720(P2011−116720A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277409(P2009−277409)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】