説明

重合性組成物、硬化物、および光学部材

【課題】鉛フリーはんだでのリフロー工程に耐える高耐熱性を有し、ハンドリング性の良い、樹脂製高屈折率レンズに好適な重合性組成物、およびその硬化物を提供する。
【解決手段】以下の成分Aおよび成分Bを含み、成分Aと成分Bの質量比が70:30〜95:5である、重合性組成物。
成分A:下記(I)式で表される硫黄含有(メタ)アクリレート


(式中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、R及びRはそれぞれ独立して酸素原子又は硫黄原子を含んでいてもよい炭素数1〜10の2価の炭化水素基を表し、X及びXはそれぞれ独立してハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜6のアルコキシ基を表し、Zは−SO−又は−S−を表し、m及びnはそれぞれ独立して1〜3の整数を表し、p及びqはそれぞれ独立して0〜4の整数を表す。)
成分B:アクリル当量が170以下である多官能(メタ)アクリレート

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は重合性組成物、硬化物、および光学部材に関する。より詳しくはコーティング、レンズ等の光学用途に使用可能であり、耐熱性に優れ、かつ実用上取扱いの容易な粘度を有する高屈折率の重合性組成物およびその硬化物、ならびに、該硬化物からなる光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学部材にはガラスが多く用いられている。また、高屈折率光学レンズは光学撮像装置の小型化、高解像度化、広角化に有効である。各種レンズで用いられているガラス製レンズは、比重が大きく耐衝撃性が弱いこと等から、各種用途において要望されている軽量、薄型化に十分対応できないこと、また、成形性、加工性にも問題があることから、軽量で機械的強度が高く、加工成形が容易な樹脂製レンズが注目されてきている。しかしながら、樹脂はガラスに比べて屈折率が低い、また耐熱性(ガラス転移温度)が低いため高耐熱性を必要とするはんだ付け等の実装工程では、手作業での工程となり、生産コストが高くなってしまう等の問題があり、高屈折率かつ高耐熱性の樹脂の要求が高まっている。
【0003】
また、最近では人体への有害性のために鉛の使用を規制する動きが世界的に広がっており、はんだ付け工程においても鉛フリーはんだへの移行が進んできている。鉛フリーのはんだとしては、Sn−Ag−Cu系(溶融温度217〜220℃)、Sn−Zn系(溶融温度189〜198℃)等が開発されてきたが、接続信頼性、作業性等の観点から、溶融温度が高いSn−Ag−Cu系はんだが主流となってきている。これにより、従来のSn−Pb共晶はんだ(溶融温度183℃)よりもはんだ付けの工程温度が30〜40℃高くなるため、部材にも更なる耐熱性が求められている。はんだ付け工程にはフロー法、リフロー法、手付け等があるが、部品の小型化、高密度実装化の進展に伴い、リフロー法が主流となってきている。このリフロー法では部品への急激な熱衝撃の緩和、フラックスの活性化促進、有機溶剤の気化等の目的でリフロー炉の中で基板と部品を100〜180℃で余熱するプレヒート工程があり、余熱時間は1〜2分である。この余熱工程の後に本加熱工程があるが、この工程は一般的には220〜260℃で数秒である。
【0004】
そのため、樹脂には最低限、余熱工程での変形を抑える耐熱性が必要である。
そこで、高耐熱性と高屈折率を兼ね備える樹脂の検討が種々行われている。
特許文献1、特許文献2では、硫黄含有ビス(メタ)アクリレート化合物と種々のモノマーを混合して屈折率1.6以上の硬化物を得られることが開示されている。しかし、該モノマー組成物の硬化物はガラス転移温度が200℃以下であり、十分な耐熱性が得られない。
【0005】
特許文献3では、硫黄含有メタクリレートとビニル系単量体との共重合による高屈折率硬化物が開示されており、屈折率1.6以上を達成しているが、いずれもガラス転移温度Tgは180℃未満であり、耐熱性が不十分である。
特許文献4では、高耐熱性の熱可塑性樹脂上に中間層と無機の反射防止膜を積層させることではんだリフロー工程に耐える光学部品を提供する方法が開示されているが、高耐熱性の熱可塑性樹脂は加工成形温度がはんだリフロー工程を上回る高温になるため、成形が困難になってくる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−97217号公報
【特許文献2】特開2009−120832号公報
【特許文献3】特開平2−113005号公報
【特許文献4】特開2008−216973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、鉛フリーはんだでのリフロー工程に耐える高耐熱性を有し、ハンドリング性の良い、樹脂製高屈折率レンズに好適な重合性組成物、およびその硬化物を提供する。即ち、高屈折率レンズに必要な屈折率と、ハンドリングの容易な粘度範囲を維持しながら、ガラス転移温度が200℃以上の高耐熱性を持つため、リフロー工程におけるレンズ形状の変形の問題を改善する重合性組成物、およびその硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討の結果、以下の成分Aおよび成分Bを所定比率で含有する重合性組成物が、高屈折率レンズに必要な屈折率と、ハンドリングの容易な粘度範囲とを有しつつ、かつガラス転移温度が200℃以上の高耐熱性を持つことを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1] 以下の成分Aおよび成分Bを含み、成分Aと成分Bの質量比が70:30〜95:5である、重合性組成物。
成分A:下記(I)式で表される硫黄含有(メタ)アクリレート
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、R及びR
それぞれ独立して酸素原子又は硫黄原子を含んでいてもよい炭素数1〜10の2価の炭化水素基を表し、X及びXはそれぞれ独立してハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜6のアルコキシ基を表し、Zは−SO−又は−S−を表し、m及びnはそれぞれ独立して1〜3の整数を表し、p及びqはそれぞれ独立して0〜4の整数を表す。)
成分B:アクリル当量が170以下である多官能(メタ)アクリレート
[2] 成分Bが下記(II−a)式または(II−b)式で表される、[1]に記載の重合性組成物。
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、Aは置換基を有していてもよく酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜15の非環式脂肪族炭化水素残基を表し、Rは水素原子又はメチル基を表し、rは3〜8の整
数を表す。)
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、Aは置換基を有していてもよい炭素数3〜15の環状炭化水素残基又は置換基を有していてもよい炭素数3〜15の複素環化合物残基を表し、Rは酸素原子、硫黄原子、又は炭素数1〜5の脂肪族炭化水素残基を表し、この脂肪族炭化水素残基は酸素原子を含んでいてもよく、かつ置換基を有していてもよい。Rは水素原子又はメチル基を表し、sは2〜6の整数を表す。)
[3] 上記式(I)で表される成分Aにおいて、Zがスルホニル基であることを特徴とする[1]または[2]に記載の重合性組成物。
[4] 重合開始剤を含む[1]〜[3]のいずれかに記載の重合性組成物。
[5] [1]〜[4]のいずれかに記載の重合性組成物を硬化させてなる硬化物。
[6] [5]に記載の硬化物からなる光学部材。
【発明の効果】
【0015】
本発明の重合性組成物を用いた硬化物は、高い屈折率と、ガラス転移温度が200℃以上の高耐熱性を有する。このため、高屈折率レンズ材料として用いた場合、リフロー工程におけるレンズ形状の変形の問題を大幅に改善することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0016】
I.重合性組成物
本発明の重合性組成物は、以下に説明する成分Aおよび成分Bを含み、成分Aと成分Bの質量比が70:30〜95:5であることを特徴とする。
I−1.成分A
本発明の重合性組成物が含有する成分Aは、下記一般式(I)で表される硫黄含有(メタ)アクリレートである。本発明の重合性組成物は成分Aの1種を単独で含んでいても、2種以上を任意の割合で含んでいてもよい。
【0017】
【化4】

【0018】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、R及びR
それぞれ独立して酸素原子又は硫黄原子を含んでいてもよい炭素数1〜10の2価の炭化水素基を表し、X及びXはそれぞれ独立してハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜6のアルコキシ基を表し、Zは−SO−又は−S−を表し、m及びnはそれぞれ独立して1〜3の整数を表し、p及びqはそれぞれ独立して0〜4の整数を表す。)
<R及びR
一般式(I)において、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表す。
【0019】
<R及びR
一般式(I)において、R及びRは、それぞれ独立して酸素原子又は硫黄原子を含んでいても良い炭素数1〜10の2価の炭化水素基を表す。酸素原子又は硫黄原子を含んでいても良い炭素数1〜10の2価の炭化水素基としては、
−(CH)−、−(CH−、−CH(CH)−、−CH(CH)CH−、−CHCH(CH)−、−C(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH10−等の炭素数1〜10のアルキレン基;
−(C)−等の炭素数6〜10のアリーレン基;
−CHOCH−、−(CHO(CH−等の炭素数2〜10のエーテル結合を有する基;
−CHSCH−、−(CHS(CH−、−CHCH(CHSC)−等の炭素数2〜10のスルフィド結合を有する基
等が挙げられる。
【0020】
中でも耐熱性の点からは、−(CH)−、−(CH−、−CH(CH)−、−CHCH(CH)−、−C(CH−、−(CH−等の炭素数1〜5のアルキレン基、高屈折率の点からは、−CHSCH−、−(CHS(CH−等の炭素数2〜5のスルフィド結合を有する基が好ましく、特に−(CH−、−(CHS(CH−、が好ましい。
【0021】
<m及びn>
一般式(I)において、m及びnはそれぞれ独立して1〜3の整数を表す。好ましくは1〜2である。特に好ましくはm=n=1である。
<X及びX
一般式(I)において、X及びXはそれぞれ独立してハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜6のアルコキシ基を表す。
【0022】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられるが、屈折率の面から塩素、臭素、ヨウ素が好ましい。
炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。
【0023】
炭素数1〜6のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、i−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、i−ブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基等の直鎖状または分岐鎖状のアルコキシ基が挙げられる。
<p及びq>
一般式(I)において、p及びqはそれぞれ独立して0〜4の整数を表す。好ましくは0〜2であり、特に好ましくはp=q=0である。
【0024】
<Z>
一般式(I)において、Zは−SO−又は−S−を表す。耐熱性の点から、−SO−が好ましい。
<一般式(I)の具体例>
一般式(I)で表される硫黄含有(メタ)アクリレートの具体例としては、4,4’−ビス(β−(メタ)アクリロイルオキシメチルチオ)ジフェニルスルホン(R=R=−CH−)、4,4’−ビス(β−(メタ)アクリロイルオキシエチルチオ)ジフェニルスルホン(R=R=−(CH−)、4,4’−ビス(β−(メタ)アクリロイルオキシフェニルチオ)ジフェニルスルホン(R=R=−C−)、4,4’−ビス(β−(メタ)アクリロイルオキシエチルチオエチルチオ)ジフェニルスルホン(R=R=−(CHS(CH−)、4,4’−ビス(β−(メタ)アクリロイルオキシエチルチオ)−3,3’,5,5’−テトラブロモジフェニルスルホン(R=R=−(CH−、X=X=Br、p=q=2)、4,4’−ビス(β−(メタ)アクリロイルオキシエチルチオ)−3,3’,5,5’−テトラクロロジフェニルスルホン(R=R=−(CH−、X=X=Cl、p=q=2)等が挙げられる。これらの中でも4,4’−ビス(β−(メタ)アクリロイルオキシメチルチオ)ジフェニルスルホン(R=R=−CH−)、4,4’−ビス(β−(メタ)アクリロイルオキシエチルチオ)ジフェニルスルホン(R=R=−(CH−)が耐熱性の点から好ましい。
【0025】
<一般式(I)の合成方法>
一般式(I)の合成方法は、一般的なエステル合成法(日本化学会編、新実験科学講座、14、有機化合物の合成と反応(II)丸善、1977年刊)等に準拠して製造することができる。
代表的な製造方法としては、(i)下記(III)式で表される硫黄含有ポリオールと(
メタ)アクリル酸とのエステル化反応による方法(特開平4−108816号公報、特開2001−181258号公報)、
【0026】
【化5】

【0027】
(式中、R、R、X、X、Z、n、m、p及びqは前記定義に同じ。)
(ii)(III)式で表されるポリオールと(メタ)アクリル酸エステルとのエステル
交換反応による方法、(iii)(III)式で表されるポリオールと(メタ)アクリル酸
ハライドとの反応による方法、等が挙げられる。これらのうち、(i)及び(ii)の方法が実用的であり、好ましい。
【0028】
(i)のポリオールと(メタ)アクリル酸とのエステル化反応は、ポリオールの反応基1モルに対して、1〜1.3モルの(メタ)アクリル酸を用い、硫酸、塩酸、リン酸、フッ化硼素、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、カチオン型イオン交換樹脂等を触媒として、トルエン、ベンゼン、ヘプタン、ヘキサン等の溶媒の存在下、反応により生成する水を留去しながら行えばよい。
【0029】
また、(ii)のポリオールと(メタ)アクリル酸エステルとのエステル交換反応は、ポリオールの反応基1モルに対して、メタクリル酸メチルを1〜5モル用い、硫酸、p−トルエンスルホン酸、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、カリウムブトキシド等を触媒として、トルエン、ベンゼン、ヘプタン、ヘキサン等の溶媒の存在下、反応により生成するメタノールを留去しながら行えばよい。なお、これらの反応は重
合禁止剤の存在下に行うのが好ましく、重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、フェノチアジン、銅塩等を用いることができる。
【0030】
I−2.成分B
本発明の重合性組成物が含有する成分Bとは、アクリル当量が170以下である多官能(メタ)アクリレートである。ここでアクリル当量とは分子量を(メタ)アクリル基の数で除した値を示す。
成分Bのアクリル当量の下限としては、好ましくは50以上であり、より好ましくは60以上、特に好ましくは70以上である。また、アクリル当量が大き過ぎるとガラス転移温度200℃以上の耐熱性が得られなかったり、アクリル当量が小さ過ぎると硬化収縮が大
きくなる等の問題がある。アクリル当量が170以下である多官能(メタ)アクリレートは、好ましくは、更に下記一般式(II−a)または(II−b)式で表される。なお、本発明の重合性組成物は成分Bの1種を単独で含んでいても、2種以上を任意の割合で含んでいてもよい。
【0031】
I−2−1.一般式(II−a)で表される多官能(メタ)アクリレートについて
【0032】
【化6】

【0033】
(式中、Aは置換基を有していてもよく酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜15の非環式脂肪族炭化水素残基を表し、Rは水素原子又はメチル基を表し、rは3〜8の整数を表す。)
<A
一般式(II−a)において、Aは置換基を有していてもよく酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜15の非環式脂肪族炭化水素残基を表す。置換基を有していてもよく酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜15の非環式脂肪族炭化水素残基としては、炭素数1〜15で3〜8価であり、かつ、(II−a)式におけるアクリル当量が170以下であれば特に限定されないが、例えば下記(A1−1)式、(A1−2)式、(A1−3)式、のような構造が挙げられる。
【0034】
【化7】

【0035】
(式中、Rは水素原子、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、または置換基を有していてもよい炭素数1〜5の2価の脂肪族炭化水素残基を表す。R〜R11はそれぞれ独立して置換基を有していてもよい炭素数1〜5の2価の脂肪族炭化水素残基を表す。)
【0036】
【化8】

【0037】
(式中、R12は酸素原子、硫黄原子、又は置換基を有していてもよく、酸素原子、硫黄原子又は窒素原子を含んでいてもよい炭素数1〜5の2価の脂肪族炭化水素残基を表す。tは0又は1を表す。R13〜R18はそれぞれ独立して水素原子、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、または置換基を有していてもよく酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜5の2価の脂肪族炭化水素残基を表す。また、R13〜R18の3つ以上は置換基を有していてもよく酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜5の2価の脂肪族炭化水素残基である。)
【0038】
【化9】

【0039】
(式中、R19およびR20はそれぞれ独立して、酸素原子、硫黄原子、又は置換基を有していてもよく、酸素原子、硫黄原子又は窒素原子を含んでいてもよい炭素数1〜5の2価の脂肪族炭化水素残基を表す。u、vはそれぞれ独立して0または1を表す。R21〜R28はそれぞれ独立して、水素原子、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、又は置換基を有していてもよく酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜5の2価の脂肪族炭化水素残基を表す。また、R21〜R28の3つ以上は置換基を有していてもよく酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜5の2価の脂肪族炭化水素残基である。)
の酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜15の脂肪族炭化水素残基が有していてもよい置換基としては、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、カルボニル基、カルボキシル基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0040】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等の炭素数1〜6の、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。
アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、i−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、i−ブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基等の炭素数1〜6の、直鎖状または分岐鎖状のアルコキシ基が挙げられる。
【0041】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられるが、屈折率の面から塩素、臭素、ヨウ素が好ましい。
(A1−1)式におけるR〜R11、(A1−2)式におけるR12〜R18および(A1−3)式におけるR19〜R28の酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜5の2価の脂肪族炭化水素残基としては、
−(CH)−、−(CH−、−CH(CH)−、−CH(CH)CH−、−CHCH(CH)−、−C(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−等の炭素数1〜5のアルキレン基;
−CHOCH−、−(CHO(CH−等の炭素数2〜5のエーテル結合を有する基
等が挙げられる。これらの炭素数1〜5の2価の脂肪族炭化水素残基は更に置換基を有していてもよく、このような置換基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基等の炭素数1〜4の、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、i−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、i−ブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基等の炭素数1〜4の、直鎖状または分岐鎖状のアルコキシ基等が挙げられる。
【0042】
(A1−1)式におけるR、(A1−2)式におけるR13〜R18および(A1−3)式におけるR21〜R28のアルキル基およびアルコキシ基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基等の炭素数1〜4の、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、i−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、i−ブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基等の炭素数1〜4の、直鎖状または分岐鎖状のアルコキシ基等が挙げられる。
【0043】
<R
一般式(II−a)において、Rは水素原子またはメチル基を表す。
<r>
一般式(II−a)において、rは3〜8の整数を表す。(メタ)アクリル基数が多すぎると、硬化収縮率や吸水率が増大する等の問題が考えられるため、好ましくは3〜5であり、特に好ましくは3または4である。
【0044】
<一般式(II−a)で表される多官能(メタ)アクリレートの具体例>
一般式(II−a)で表される多官能(メタ)アクリレートとしては、
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、
ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、
テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、
テトラメチロールメタンテトラ(メタアクリレート)、
ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、
ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、
ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、
等が挙げられる。
【0045】
中でも、耐熱性や吸水性、硬化収縮等の物性バランスの点からトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等が好ましい。
I−2−2.一般式(II−b)で表される多官能(メタ)アクリレートについて
【0046】
【化10】

【0047】
(式中、Aは置換基を有していてもよい炭素数3〜15の環状炭化水素残基又は置換基を有していてもよい炭素数3〜15の複素環化合物残基を表し、Rは酸素原子、硫黄原子、又は炭素数1〜5の脂肪族炭化水素残基を表し、この脂肪族炭化水素残基は酸素原子を含んでいてもよく、かつ置換基を有していてもよい。Rは水素原子又はメチル基を表し、sは2〜6の整数を表す。)
<A
一般式(II−b)において、Aは置換基を有していてもよい炭素数3〜15の環状炭化水素残基又は置換基を有していてもよい炭素数3〜15の複素環化合物残基を表す。
【0048】
炭素数3〜15の環状炭化水素残基、及び、炭素数3〜15の複素環化合物残基としては、炭素数3〜15で2〜6価であり、かつ、(II−b)式においてアクリル当量が170以下であれば特に限定されない。
環状炭化水素残基、及び、複素環化合物残基の基本骨格としては、例えば下記(A2−1)〜(A2−13)式のような構造が挙げられる。
【0049】
【化11】

【0050】
(式中、R29は酸素原子、硫黄原子、又は置換基を有していてもよく、酸素原子、硫黄原子又は窒素原子を含んでいてもよい炭素数1〜3の2価の脂肪族炭化水素残基を表す。)
【0051】
【化12】

【0052】
【化13】

【0053】
(式中、R30は酸素原子、硫黄原子、又は置換基を有していてもよく、酸素原子、硫黄原子又は窒素原子を含んでいてもよい炭素数1〜3の2価の脂肪族炭化水素残基を表す。)
ここで、R29、R30の酸素原子、硫黄原子又は窒素原子を含んでいても良い炭素数1〜3の2価の脂肪族炭化水素基としては、
−(CH)−、−(CH−、−CH(CH)−、−CH(CH)CH−、−CHCH(CH)−、−C(CH−、−(CH−等の炭素数1〜3のアルキレン基;
−CHOCH−、−(CHOCH−等の炭素数2〜3のエーテル結合を有する基;
−CHSCH−、−(CHSCH−等の炭素数2〜3のスルフィド結合を有する基;
−NHCOO−、−CHNHCOOCH−、等の炭素数1〜3のウレタン結合を有する基
等が挙げられる。
【0054】
また、R29、R30の炭素数1〜3の2価の脂肪族炭化水素基が有していてもよい置換基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基等が挙げられる。
なお、上述の炭素数3〜15の環状炭化水素残基、及び、複素環化合物残基の基本骨格の中でも、耐熱性の点から、脂環骨格、複素環骨格が好ましい。特にトリシクロデカン骨格、イソシアヌレート骨格等が好ましい。
【0055】
炭素数3〜15の環状炭化水素残基、及び、炭素数3〜15の複素環化合物残基が有していてもよい置換基としては、水酸基、アルキル基、アルコキシル基、カルボニル基、カルボキシル基、ハロゲン原子等が挙げられる。
<R
一般式(II−b)において、Rは酸素原子、硫黄原子、又は炭素数1〜5の脂肪族炭化水素残基を表す。ここで、脂肪族炭化水素残基は酸素原子を含んでいてもよい。
酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜5の脂肪族炭化水素残基としては、
−(CH)−、−(CH)2−、−CH(CH)−、−CH(CH)CH−、−CHCH(CH)CH−、−C(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−CH−C(CHCH−等のアルキレン基;
−CHOCH−、−(CHO(CH−、−CHCH(OH)CH−、−CHCH(OH)CH−等のエーテル結合を有する基
等が挙げられる。
【0056】
酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜5の脂肪族炭化水素残基は、更に置換基を有していてもよく、このような置換基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基等の炭素数1〜4の、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、i−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、i−ブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基等の炭素数1〜4の、直鎖状または分岐鎖状のアルコキシ基等が挙げられる。
【0057】
としては、中でも、酸素原子、−(CH)−、−(CH−が好ましい。
<R
一般式(II−b)において、Rは水素原子又はメチル基を表す。
<s>
一般式(II−b)において、sは2〜6の整数を表す。好ましくは2〜5であり、特に好ましくは2または3である。
【0058】
<一般式(II−b)であらわされる多官能(メタ)アクリレートの具体例>
一般式(II−b)で表される多官能(メタ)アクリレートとしては、
シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、
トリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、
トリシクロデカンジオールジ(メタ)アクリレート、
トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、
1,3−アダマンタンジオールジ(メタ)アクリレート、
1,3−アダマンタンジメタノールジ(メタ)アクリレート、
5−エチル−2−(ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−5−(ヒドロキシメチル)−1,3−ジオキサンのジ(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0059】
中でも、耐熱性や吸水性、硬化収縮等の物性バランスの点からトリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、トリシクロデカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレートが好ましい。
I−3.成分Aと成分Bの質量比
本発明の重合性組成物に含まれる成分Aと成分Bの質量比は、70:30〜95:5である。成分Aと成分Bの質量比は、耐熱性と屈折率のバランスの点から好ましくは、75:25〜95:5、更に好ましくは75:25〜90:10である。過度に成分Aが多いとガラス転移温度が下がり、耐熱性が劣ってしまう。過度に成分Bが多いと屈折率が下がり、高屈折率レンズとして有用ではなくなってしまう。
【0060】
I−4.重合開始剤
本発明の重合性組成物は、重合開始剤を含有していても良い。重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤を用いることができ、例えば、紫外線、可視光線等の活性エネルギー線の照射によりラジカルを発生する光重合開始剤、加熱によりラジカルを発生する熱重合開始剤が挙げられる。通常は光重合開始剤を用いるか、光重合開始剤と熱重合開始剤とを併用する。
【0061】
<光重合開始剤>
光重合開始剤としては、この用途に用い得ることが知られている公知の化合物を用いることができる。例えば、ベンゾフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパンー1−オン、2,6−ジメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド等が挙
げられる。これらの中でも、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイドが好ましい。これらの光重合開始剤は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0062】
光重合開始剤は、重合性組成物中のラジカル重合可能な化合物(成分Aおよび成分Bを含む)の合計を100質量部としたとき、通常0.01質量部以上、好ましくは0.02質量部以上、さらに好ましくは0.05質量部以上である。その上限は、通常10質量部以下、好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下である。光重合開始剤の添加量が多すぎると、重合が急激に進行し、硬化体の複屈折を大きくするだけでなく色相も悪化するおそれがある。一方、少なすぎると重合性組成物が十分に重合しないおそれがある。
【0063】
<熱重合開始剤>
熱重合開始剤としては、この用途に用い得ることが知られている公知の化合物を用いることができる。例えば、ハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等の一方の水素原子が炭化水素基で置換されているハイドロパーオキサイド、ジt−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン等のジアルキルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)等のパーオキシエステル、ベンゾイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート等のパーオキシカーボネート、パーオキシケタール、ケトンパーオキサイド等の過酸化物が挙げられる。
【0064】
中でも、ジクミルパーオキサイド、ジt−ブチルパーオキサイド、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、ジラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルハイドロパーオキサイド等が好ましい形態として挙げられる。これらの重合開始剤は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
熱重合開始剤は、重合性組成物中のラジカル重合可能な化合物(成分Aおよび成分Bを含む)の合計を100質量部としたとき、通常0.1質量部以上、好ましくは0.5質量部以上、さらに好ましくは0.8質量部以上である。その上限は、通常10質量部以下、好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは2質量部以下である。熱重合開始剤が多すぎると、成形型内で重合性組成物を光重合させた後、脱型して熱重合させるに際し重合が急激に進行し、得られる硬化物の複屈折を大きくするだけでなく色相も悪化するおそれがある。一方、少なすぎると熱重合が十分に進行しないおそれがある。
【0065】
光重合開始剤と熱重合開始剤とを併用する場合、その質量比は、通常「100:1」〜「1:100」(「光重合開始剤:熱重合開始剤」、以下、本段落において同様。)、好ましくは「10:1」〜「1:10」である。熱重合開始剤が少なすぎると重合が不十分となる場合があり、多すぎると着色のおそれがある。
I−5.その他の成分と配合量
本発明に用いる重合性組成物には、本発明の要旨を損なわない範囲で、成分A,B以外の成分を含んでいても良い。このような成分としては、成分A、B以外のラジカル重合可能な化合物、連鎖移動剤、シランカップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、光増感剤、染顔料、充填剤、離型剤、溶剤等が挙げられる。
【0066】
ラジカル重合可能な化合物としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、等の単官能(メタ)アクリレート化合物、スチ
レン、クロルスチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレンなどのスチレン系化合物、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の(メタ)アクリル酸誘導体等が挙げられる。
【0067】
連鎖移動剤としては、例えば、分子内に2個以上のチオール基を有する多官能メルカプタン化合物を用いることができる。メルカプタン化合物としては、例えばペンタエリスリトールテトラキス(β−チオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(β−チオグリコレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、トリメチロールプロパントリス(β−チオプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(β−チオグリコレート)、ジエチレングリコールビス(β−チオグリコレート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(β−チオプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(β−チオグリコレート)、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、トリス(2−(β−チオプロピオニルオキシ)エチル)トリイソシアヌレート、トリス(2−(β−チオグリコニルオキシ)エチル)トリイソシアヌレート、トリス(2−(β−チオプロピオニルオキシエトキシ)エチル)トリイソシアヌレート、トリス(2−(β−チオグリコニルオキシエトキシ)エチル)トリイソシアヌレート、トリス(2−(β−チオプロピオニルオキシ)プロピル)トリイソシアヌレート、トリス(2−(β−チオグリコニルオキシ)プロピル)トリイソシアヌレート、ベンゼンジメルカプタン、キシリレンジメルカプタン、4,4’−ジメルカプトジフェニルスルフィド等が挙げられる。
【0068】
シランカップリング剤としては、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。中でも、γ−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、γ−(メタクリロキシプロピル)メチルジメトキシシラン、γ−(メタクリロキシプロピル)メチルジエトキシシラン、γ−(メタクリロキシプロピル)トリエトキシシラン、γ−(アクリロキシプロピル)トリメトキシシラン等は、分子中にメタクリル基ないしアクリル基を有しており、本発明の重合性組成物中のラジカル重合可能な化合物(成分Aおよび成分Bを含む)と共重合させることができるので、好ましい。これらのシランカップリング剤は前述のラジカル重合可能な単量体の一種でもある。シランカップリング剤は重合性組成物中のラジカル重合可能な化合物(成分Aおよび成分Bを含む)の合計を100質量部としたとき、0.01〜30重量部の範囲で用いることができる。0.01重量部よりも少ない場合には十分な効果が得られず、また、30重量部よりも多い場合には透明性や屈折率等の光学特性が損なわれる恐れがある。好ましい使用量は0.1〜20重量部である。
【0069】
I−6.本発明の重合性組成物の特徴
本発明の重合性組成物の粘度は50℃で2000mPa・s以下である。更に好ましくは1500mPa・s以下、特に好ましくは1300 mPa・s以下である。粘度が高すぎると、気泡が抜けにくい、型への充填性が悪い等、作業性に問題が生じる。粘度の下限は特に限定されないが、粘度が低すぎると型の隙間に組成物が入り込み、製造工程に支障をきたす可能性があるため、50mPa・s以上が好ましい。本発明の重合性組成物の粘度は50℃でE型粘度計を用いて測定した値を指す。
【0070】
II.硬化物
II−1.硬化物の製造方法
本発明の重合性組成物から硬化物を製造する方法としては、光硬化、熱硬化等の手法が挙げられる。
<光硬化>
本発明の硬化物は、前述の重合性組成物を少なくとも一面が紫外線、可視光等の光を透過しうる材料で構成された成形型内に注入し、光照射して硬化させた後、脱型することにより得ることができる。光を透過しうる材料としては、透明性のよい樹脂を用いることもできるが、通常は光の照射を受けても劣化したり、変形したりしないようにガラスを用いるのが好ましい。成形型のキャビティの深さ(=製造する硬化物の厚さ)は通常10mm以下、好ましくは5mm以下であり、通常50μm以上、好ましくは200μm以上である。薄すぎると硬化物の機械的強度が小さく、成形するのが難しい。厚すぎると成形時に硬化物に歪みが発生するため、等方的な硬化物が得られない。
【0071】
照射する光の波長としては、光重合開始剤の吸収波長等にもよるが、100nm以上800nm以下、好ましくは200nm以上600nm以下、さらに好ましくは200nm以上500nm以下である。特に、波長200〜400nmの紫外線(UV)が好ましく用いられる。波長が短すぎると樹脂の劣化が促進する場合があり、長すぎると光重合開始剤が光を吸収しない場合がある。
【0072】
照射する光の照射量は、光重合開始剤がラジカルを発生させる範囲であれば任意であるが、紫外線等の光の照射量が少なすぎると重合が不十分で得られる硬化物の耐熱性、機械特性が十分に発現されず、一方、多すぎると得られる硬化物が黄変する等、光による劣化を生じるので、照度:10mW/cm以上5000mW/cm以下、時間:0.1秒間以上30分間以下、照射量:0.01J/cm以上10,000J/cm以下で照射するのが好ましい。
【0073】
紫外線等の光照射を複数回に分割して行うと、複屈折が小さい硬化物を得ることができる。紫外線等の光源としては、メタルハライドランプ、高圧水銀灯ランプ、無電極水銀ランプ、LED等が挙げられる。重合をすみやかに完了させる目的で、光重合と熱重合を同時に行ってもよい。
光照射により得られた硬化物は、さらに加熱してもよい。これにより重合反応を完結させ、さらに、重合時に発生した内部歪みを低減することが可能である。加熱温度は、硬化物の組成やガラス転移温度に合わせて適宜選択されるが、通常、ガラス転移温度付近かそれ以下の温度で行われ、好ましくは50℃以上300℃以下である。また、加熱時間は、1分間以上1週間以下、好ましくは30分間以上3日間以下、さらに好ましくは1時間以上1日間以下である。加熱温度が高すぎたり、加熱時間が長すぎたりすると得られる硬化物の色相が悪化するおそれがある。加熱時の雰囲気は、空気中、窒素やアルゴン等の不活性ガス中、真空中等で行うことができる。加熱は脱型後に行うことが好ましい。
【0074】
II−2.本発明の硬化物の特徴
<屈折率>
本発明の硬化物の屈折率は、23℃、波長587.6nm光(d線)で測定した値において、通常1.590以上、好ましくは1.600以上、より好ましくは1.610以上である。屈折率の上限は特に限定されないが、通常2.000以下である。本発明において、硬化物の屈折率は、重合性組成物をガラス型内で14J/cm2の光を照射して0.5mm
厚に硬化し、減圧下で250℃1時間加熱処理を行った後に23℃50%で3日間保管し
た硬化物の屈折率を測定することで求めた値を指す。
【0075】
<ガラス転移温度>
本発明の硬化物のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは200℃以上、より好ましくは205℃以上、さらに好ましくは210℃以上である。また、通常300℃以下である。本発明において硬化物のガラス転移温度は、重合性組成物をガラス型内で14J/cm2の光
を照射して0.2mm厚に硬化し、減圧下で250℃1時間加熱処理した硬化物を、粘弾性測定装置により、引張りモードで周波数10Hz(正弦波)、昇温速度2℃/分で測定した際の損失正接tanδ(=貯蔵弾性率E’/損失弾性率E’’)が最大値を示す温度(主分散のピーク温度)を指す。
【0076】
III.光学部材
本発明の硬化物は、光学用コーティング剤、ハードコート剤、光学部材として使用することが可能であるが、中でも光学部材として使用することが好ましい。光学部材としては、光学レンズ、光学フィルム、光学フィルター、光学シート、光学薄膜、導光板、光導波路等が挙げられる。また、本発明の硬化物上にはハードコート層や、ARコート層、ガスバリア層、UVカット層、IRカット層等を積層することもできる。また、必要に応じてプラズマ処理や染色を施してもよい。
【実施例】
【0077】
次に実施例、比較例により本発明を更に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
(粘度の測定方法)
50℃に設定した恒温槽の水を循環させたE型粘度計VISCONIC、EHD型(東京計器社製)を用い、2mLディスポシリンジを用いて重合性組成物1mLを測り取り、気泡を含まないよう粘度計にセットし、10分間回転させた後の値を測定することで求めた。
【0078】
(屈折率の測定方法)
23℃となるように恒温槽の水を循環させた精密屈折率計KPR−2000(島津デバイス製造社製)を用いて、波長587.6nm光(d線)の屈折率を測定した。測定に際して用いる接触液は屈折率1.60から1.63の接触液のうち、最も硬化物の屈折率に近いものを使用した。
【0079】
(ガラス転移温度(Tg)の測定方法)
粘弾性スペクトロメータEXSTAR DMS6100(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて、形状が10mm幅×40mm長さ×0.2mm厚みのサンプルをチャック間距離20mm、窒素雰囲気、引張りモード、周波数10Hz(正弦波)、温度範囲5〜320℃、昇温速度2℃/分で測定した際の損失正接tanδ(=貯蔵弾性率E’/損失弾性率E’’)が最大値を示す温度(主分散のピーク温度)をガラス転移温度(Tg)とした。
【0080】
実施例1
4,4’−ビス(β−メタクリロイルオキシエチルチオ)ジフェニルスルホン(成分A) 100質量部に対して、2,4,6−トリメチルベンゾイルシフェニルフォスフィンオキサイド(BASF社製ルシリンTPO)1質量部を加えて50℃で均一になるまで攪拌し、成分Aを主成分とする組成物Aを得た。また、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(新中村化学工業社製A−TMMT。アクリル当量88)(成分B)100質量部に対して、2,4,6−トリメチルベンゾイルシフェニルフォスフィンオキサイド(BASF社製ルシリンTPO)1質量部を加えて50℃で均一になるまで攪拌し、成分Bを主成分とする組成物Bを得た。組成物Aと組成物Bを9対1の割合で混合し、50℃で均一になるまで攪拌し、成分Aと成分Bの質量比90:10の重合性組成物を得た。この重合性組成物を、直径80mm、厚み2mmの光学研磨ガラス上に0.5mm厚のシリコンス
ペーサーで作成した25mm角の型に注型し、上から直径80mm、厚み2mmの光学研磨ガラスで挟み、上下のガラスを4箇所、クリップで固定し、高圧水銀ランプを備えたUV照射機HANDY UV300(オーク製作所社製)を用いて12mW/cmで片面から7分照射し、上下を裏返して逆側の面から更に7分照射した。硬化後、ガラス型から硬化物を取り出し、端面を研磨機にて研磨し、真空ポンプで減圧にしながら250℃1時間加熱し、透明な屈折率測定用のサンプルを得た。この屈折率測定用サンプルは23℃50%の恒温恒湿室にて3日間調湿した後、屈折率を測定した。Tg測定用のサンプルは厚み0.2mmのシリコンスペーサーで作成した50mm×50mm角の型に注型した以外は上記と同様に硬化し、端面の研磨は行わずに、減圧下で250℃1時間加熱した後、レーザーカッターで10mm幅×40mm長さに切り出した。得られた重合性組成物の粘度と硬化物の屈折率、Tgを前述の方法で測定した。評価結果を表1に示す。
【0081】
実施例2
組成物Aと組成物Bの混合割合を8対2とし、成分Aと成分Bの質量比80:20の重合性組成物を得た以外は、実施例1と同様に行った。評価結果を表1に示す。
実施例3
組成物Aと組成物Bの混合割合を7対3とし、成分Aと成分Bの質量比70:30の重合性組成物を得た以外は、実施例1と同様に行った。評価結果を表1に示す。
【0082】
実施例4
成分Bにトリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学工業社製A−TMPT。アクリル当量99)を用い、組成物Aと組成物Bの混合割合を85対15とし、成分Aと成分Bの質量比85:15の重合性組成物を得た以外は、実施例1と同様に行った。評価結果を表1に示す。
【0083】
実施例5
組成物Aと組成物Bの混合割合を75対25とし、成分Aと成分Bの質量比75:25の重合性組成物を得た以外は、実施例4と同様に行った。評価結果を表1に示す。
実施例6
成分Bにトリシクロデカンジメタノールジメタクリレート(新中村化学工業社製A−DCP。アクリル当量152)を用い、成分Aと成分Bの質量比90:10の重合性組成物を得た以外は、実施例1と同様に行った。評価結果を表1に示す。
【0084】
実施例7
組成物Aと組成物Bの混合割合を8対2とし、成分Aと成分Bの質量比80:20の重合性組成物を得た以外は、実施例6と同様に行った。評価結果を表1に示す。
実施例8
組成物Aと組成物Bの混合割合を7対3とし、成分Aと成分Bの質量比70:30の重合性組成物を得た以外は実施例6と同様に行った。評価結果を表1に示す。
【0085】
実施例9
成分Bにトリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート(日立化成工業社製FA−731A。アクリル当量141)を用い、組成物Aと組成物Bの混合割合を85対15とし、成分Aと成分Bの質量比85:15の重合性組成物を得た以外は、実施例1と同様に行った。評価結果を表1に示す。
【0086】
実施例10
組成物Aと組成物Bの混合割合を75対25とし、成分Aと成分Bの質量比75:25の重合性組成物を得た以外は、実施例9と同様に行った。評価結果を表1に示す。
比較例1
重合性組成物を組成物Aのみ、とした以外は実施例1と同様に行った。評価結果を表1に示す。
【0087】
比較例2
組成物Aと組成物Bの混合割合を5対5とし、成分Aと成分Bの質量比50:50の重合性組成物を得た以外は、実施例6と同様に行った。評価結果を表1に示す。
比較例3
4,4’−ビス(β−メタクリロイルオキシエチルチオ)ジフェニルスルホン(成分A)の代わりに9,9−ビス(4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル)フルオレン(新中村化学工業社製A−BPEF)を用い、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート(新中村化学工業社製A−DCP。アクリル当量152)(成分B)を8対2の割合で測り取り、この組成物100質量部に対して2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(BASF社製ルシリンTPO)1質量部を加えて、85℃で加温しながら均一になるまで混ぜ、成分Aと成分Bの質量比80:20の重合性組成物を得た以外は、実施例1と同様に行った。評価結果を表1に示す。
【0088】
【表1】

【0089】
表1から、比較例1のように硫黄含有(メタ)アクリレートのみではTgが200℃以
下で耐熱性が悪いが、実施例1〜10のように成分Bの多官能(メタ)アクリレートを添加することにより、高屈折率を維持したまま、耐熱性を上げる効果が得られる。また、比較例2のように、成分Bを入れすぎると屈折率が低くなってしまい、比較例3のように硫黄含有(メタ)アクリレート以外の高屈折率モノマーを使用すると高屈折率、高耐熱性はあるが粘度が高く作業性が悪くなる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の重合性組成物により得られる光学部品は、光通信、光情報処理、メガネレンズ、カメラ、およびプロジェクターなどに好適に用いることができる。特にはんだリフロー工程等の高耐熱性を必要とする工程を通過する光学部品に好適に用いることができる。よ
り具体的には、LED用レンズ、リフローが可能なカメラレンズ、車載用レンズなどを挙げることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分Aおよび成分Bを含み、成分Aと成分Bの質量比が70:30〜95:5である、重合性組成物。
成分A:下記(I)式で表される硫黄含有(メタ)アクリレート
【化1】

(式中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、R及びRはそれぞれ独立して酸素原子又は硫黄原子を含んでいてもよい炭素数1〜10の2価の炭化水素基を表し、X及びXはそれぞれ独立してハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜6のアルコキシ基を表し、Zは−SO−又は−S−を表し、m及びnはそれぞれ独立して1〜3の整数を表し、p及びqはそれぞれ独立して0〜4の整数を表す。)
成分B:アクリル当量が170以下である多官能(メタ)アクリレート
【請求項2】
成分Bが下記(II−a)式または(II−b)式で表される、請求項1に記載の重合性組成物。
【化2】

(式中、Aは置換基を有していてもよく酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜15の非環式脂肪族炭化水素残基を表し、Rは水素原子又はメチル基を表し、rは3〜8の整数を表す。)
【化3】

(式中、Aは置換基を有していてもよい炭素数3〜15の環状炭化水素残基又は置換基を有していてもよい炭素数3〜15の複素環化合物残基を表し、Rは酸素原子、硫黄原子、又は炭素数1〜5の脂肪族炭化水素残基を表し、この脂肪族炭化水素残基は酸素原子を含んでいてもよく、かつ置換基を有していてもよい。Rは水素原子又はメチル基を表し、sは2〜6の整数を表す。)
【請求項3】
上記式(I)で表される成分Aにおいて、Zがスルホニル基であることを特徴とする請求項1または2に記載の重合性組成物。
【請求項4】
重合開始剤を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の重合性組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の重合性組成物を硬化させてなる硬化物。
【請求項6】
請求項5に記載の硬化物からなる光学部材。

【公開番号】特開2011−208092(P2011−208092A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79555(P2010−79555)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】