説明

重合性組成物

【課題】耐水性、耐アルカリ性、耐熱性の良好な樹脂組成物の成分としてチオール化合物とエチレン性不飽和二重結合を有する化合物を含む重合性組成物を提供する。
【解決手段】一般式(1)


(式中、Aはn官能性の芳香族基を表わし、R炭素数1〜3のアルキル基を表わし、mは1〜4の整数であり、nは2〜4の整数である。)
で示される芳香族エーテル系多官能二級チオール化合物とエチレン性不飽和二重結合を有する化合物を含むことを特徴とする重合性組成物、及びその組成物を光重合して得られる硬化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なチオール化合物とエチレン性不飽和二重結合を有する化合物を含有する重合性組成物に関する。さらに詳しく言えば、特に機械的強度と硬化収縮率に優れた硬化物が得られる、新規な芳香族エーテル系多官能二級チオール化合物を含有する重合性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多官能チオール化合物はハロゲン系樹脂安定剤や感光性組成物、エポキシ樹脂硬化剤など各種工業分野で様々な用途に広く用いられている。このような多官能チオール化合物は、その化学構造から脂肪族エーテル系、脂肪族エステル系などに分類することができる。
【0003】
脂肪族エーテル系としては、東レ(株)製チオコール(登録商標)RLPやQE−340M、ADEKA(株)製EH−310、コグニス(株)製キャップキュア(登録商標)R3−800などが知られている。また、脂肪族エステル系としては、堺化学(株)製TMMP、ADEKA(株)製EH−317、ジャパンエポキシレジン(株)製QX−40、昭和電工(株)製カレンズMT(登録商標)RPE1、カレンズMT(登録商標)RBD1、カレンズMT(登録商標)RNR1などが知られている。
【0004】
多官能チオールの用途のうち、感光性組成物はコーティング、接着剤、印刷版、カラープルーフ、カラーフィルタ、ソルダーレジスト、光硬化インクなどさまざまな方面で用いられている。特に、近年、これらの用途を含め環境問題、省エネルギー、作業安全性、生産コスト等の観点から、常温で短時間で硬化すること及び溶剤が不要であること等の光硬化の特徴が注目され、感光性組成物について数多く研究、開発が進められている。
【0005】
さらに、コーティング分野においては、成形加工が容易で、耐衝撃性が高く、耐水性に優れた樹脂組成物の需要が高くなっている。
【0006】
多官能チオール化合物は、チオール・エン硬化型の樹脂組成物に使用した場合、酸素阻害がないこと、開始剤の使用量を少なくできること、硬化収縮が小さいこと、感度が高いことなどの特徴があることから、様々な用途が開発されている。しかしながら、従来の脂肪族エステル系多官能チオールはエステル構造を有しているため耐水性に劣るという欠点がある。また、特開平9−043907号公報(特許文献1)に開示されている従来の脂肪族エーテル系チオールは柔軟な構造のため、ガラス転移温度が低いという欠点がある。
【0007】
これらの欠点を解消するための検討が行われている。特開2007−70417号公報(特許文献2)には、ポリメルカプトカルボン酸アミドからなる光硬化モノマーが開示されており、従来のエステル系多官能チオール化合物の耐水性を向上させるために、アミド系多官能チオールとすることによりその欠点の解消を狙っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平09−043907号公報
【特許文献2】特開2007−70417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、高感度で酸素阻害がなく、機械的強度と硬化収縮率に優れた硬化物を得ることができる、新規なチオール化合物を含有する重合性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、メルカプト基に対してα位の炭素原子が置換基を有する構造を持つ芳香族エーテル型のチオール化合物を硬化剤とした重合成組成物に用いることにより上記課題が解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は下記の新規な多官能チオール化合物を含む重合性組成物及びその硬化物に関するものである。
[1] 一般式(1)
【化1】

(式中、Aはn官能性の芳香族基を表わし、R1炭素数1〜3のアルキル基を表わし、mは1〜4の整数であり、nは2〜4の整数である。)
で示される芳香族エーテル系多官能二級チオール化合物とエチレン性不飽和二重結合を有する化合物を含むことを特徴とする重合性組成物。
[2] 前記チオール化合物が、一般式(2)
【化2】

(式中、R1は炭素数1〜3のアルキル基を表わし、R2は水素原子または置換基を有してもよい炭素数1〜3のアルキル基を表わし、R3は、置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基または置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルコキシ基をを表わし、mは1〜4の整数であり、aは0または1〜2の整数であり、bは2〜4の整数であり、cは0または1〜2の整数であり、a+bは4である。)
で示される前記[1]に記載の重合性組成物。
[3] 前記チオール化合物が、一般式(3)
【化3】

(式中、R1は炭素数1〜3のアルキル基を表わし、R2は水素原子または置換基を有してもよい炭素数1〜3のアルキル基を表わし、R3は、置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基または置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルコキシ基を表わし、mは1〜4の整数であり、cは0または1〜2の整数である。)
で示される前記[1]に記載の重合性組成物。
[4] 前記チオール化合物が、一般式(4)
【化4】

(式中、R1は炭素数1〜3のアルキル基を表わし、R2は水素原子または置換基を有してもよい炭素数1〜3のアルキル基を表わし、R3は、置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基または置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルコキシ基を表わし、mは1〜4の整数であり、cは0または1〜2の整数である。)
で示される前記[1]に記載の重合性組成物。
[5] 前記チオール化合物が、一般式(5)
【化5】

(式中、Bは単結合または酸素原子を表わし、R1は炭素数1〜3のアルキル基を表わし、R3は、置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基または置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルコキシ基を表わし、mは1〜4の整数であり、cは0または1〜2の整数である。)
で示される前記[1]に記載の重合性組成物。
[6] 前記チオール化合物が、一般式(6)
【化6】

(式中、R1は炭素数1〜3のアルキル基を表わし、R2は水素原子または置換基を有してもよい炭素数1〜3のアルキル基を表わし、R3は、置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基または置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルコキシ基を表わし、aは0または1〜2の整数であり、bは2〜4の整数であり、cは0または1〜2の整数であり、a+bは4である。)
で示される前記[1]または[2]に記載の重合性組成物。
[7] 前記チオール化合物が、一般式(7)
【化7】

(式中、R2は水素原子または置換基を有してもよい炭素数1〜3のアルキル基を表わし、R3は、置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基または置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルコキシ基を表わし、aは0または1〜2の整数であり、bは2〜4の整数であり、cは0または1〜2の整数であり、a+bは4である。)
で示される前記[6]に記載の重合性組成物。
[8] エチレン性不飽和二重結合を有する化合物が、アクリル基、メタクリル基、アリル基、ビニルオキシ基、スチリル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を少なくとも2個有する化合物である前記[1]〜[7]のいずれかに記載の重合性組成物。
[9] 光重合開始剤を含む前記[1]〜[7]のいずれかに記載の重合性組成物。
[10] 重合禁止剤を含む前記[1]〜[9]のいずれかに記載の重合性組成物
[11] 二級アミンまたは三級アミンを含む前記[1]〜[7]のいずれかに記載の重合性組成物。
[12] 前記[1]〜[11]のいずれかに記載の重合性組成物を重合して得られる硬化物。
【発明の効果】
【0012】
本発明は新規なチオール化合物とエチレン性不飽和二重結合を有する化合物を含有する重合性組成物を提供したものである。高感度で酸素阻害がない本発明の重合性組成物を用いることにより、機械的強度と硬化収縮率に優れた硬化物を得ることができる。
【0013】
本発明の重合成組成物は、コーティング組成物、接着剤、光製版用レジスト、ソルダーレジスト、エッチングレジスト、カラーフィルターレジスト、ホログラム、光造形、UVインク等の用途分野に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[I]チオール化合物
本発明の重合性組成物で使用するチオール化合物は、特定のメルカプト基含有基を有するチオール化合物であって、前記メルカプト基含有基が、メルカプト基に対してα位の炭素原子が置換基を有する構造である下記一般式(1)で示される芳香族エーテル系化合物であることを特徴とする。
【化8】

式中、Aはn官能性の芳香族基を表わし、nは2〜4の整数であり、R1は炭素数1〜3のアルキル基を表わし、mは1〜4の整数である。
【0015】
一般式(1)で示される芳香族エーテル系化合物は、後述するように下記一般式(8)
【化9】

(式中、Aはn官能性の芳香族基を表わし、nは2〜4の整数である。)
で示されるn個のフェノール性水酸基を有する化合物(多価フェノール化合物)から誘導される。
【0016】
一般式(1)で示されるチオール化合物は、好ましくは下記一般式(2)で示される。
【化10】

式中、R1は炭素数1〜3のアルキル基を表わし、R2は水素原子または置換基を有してもよい炭素数1〜3のアルキル基を表わし、R3は、置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基または置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルコキシ基をを表わし、mは1〜4の整数であり、aは0または1〜2の整数であり、bは2〜4の整数であり、cは0または1〜2の整数であり、a+bは4である。
【0017】
一般式(2)中のaは1〜2が好ましく、bは2〜3が好ましい。
一般式(2)で示される化合物の中でも、下記一般式(3)及び(4)で示される化合物が好ましい。
【化11】

式中、R1は炭素数1〜3のアルキル基を表わし、R2は水素原子または置換基を有してもよい炭素数1〜3のアルキル基を表わし、R3は、置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基または置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルコキシ基を表わし、mは1〜4の整数であり、cは0または1〜2の整数である。
【0018】
【化12】

式中、R1は炭素数1〜3のアルキル基を表わし、R2は水素原子または置換基を有してもよい炭素数1〜3のアルキル基を表わし、R3は、置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基または置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルコキシ基を表わし、mは1〜4の整数であり、cは0または1〜2の整数である。
【0019】
一般式(2)で示されるチオール化合物としては、下記一般式(5)で示される化合物も好ましい。
【化13】

式中、Bは単結合または酸素原子を表わし、R1は炭素数1〜3のアルキル基を表わし、R3は、置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基または置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルコキシ基を表わし、mは1〜4の整数であり、cは0または1〜2の整数である。
【0020】
一般式(2)〜(5)中のR1及びR2が表わす炭素数1〜3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基及びiso−プロピル基が挙げられ、メチル基、エチル基が好ましい。
一般式(2)〜(5)中のR3が表わす炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基及びiso−プロピル基、t−ブチル基などが挙げられ、メチル基、t−ブチル基が好ましい。
一般式(2)〜(5)中のR3が表わす炭素数1〜4のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、i―プロポキシ基、t−ブトキシ基などが挙げられ、メトキシ基、エトキシ基が好ましい。
一般式(2)〜(5)中のR3が表わす炭素数1〜4のアルキル基及び1〜4のアルコキシ基の置換基としては、メトキシ基、エトキシ基、水酸基が挙げられる。
【0021】
チオール化合物としては、上記一般式(2)において芳香族エーテル化合物の酸素原子とメルカプト基の間の炭素原子が2個の化合物である下記一般式(6)で示される化合物が反応性の高い原料を用いて製造できるため好ましい。
【化14】

式中、R1は炭素数1〜3のアルキル基を表わし、R2は水素原子または置換基を有してもよい炭素数1〜3のアルキル基を表わし、R3は、置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基または置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルコキシ基をを表わし、aは0または1〜2の整数であり、bは2〜4の整数であり、cは0または1〜2の整数であり、a+bは4である。
【0022】
チオール化合物としては、メルカプト基に対してα位の置換基がメチル基である一般式(7)で示される化合物が入手の容易な原料を用いることができるためさらに好ましい。
【化15】

式中、R2は水素原子または置換基を有してもよい炭素数1〜3のアルキル基を表わし、R3は、置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基または置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルコキシ基をを表わし、aは0または1〜2の整数であり、bは2〜4の整数であり、cは0または1〜2の整数であり、a+bは4である。
【0023】
n個のフェノール性水酸基を有する化合物(多価フェノール化合物)としては、例えば
ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)イソブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロパン、ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、トリス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(2,4−ジヒドロキシフェニル)プロパン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルシクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、1,5−ジヒドロキシナフタレン、2,2,5,5−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、3,9−ビス(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、2,2−ビス(4−ヒドロキシテトラブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、2,2−ビス(4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル)プロパン、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−イソプロピルベンジル)−4−イソプロピルフェノール、ビス(2−ヒドロキシ−3−(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−5−メチル)メタン、トリス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1,3−トリス(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−6−メチルフェニル)ブタン等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0024】
本発明の重合組成物で用いるチオール化合物はメルカプト基を2〜4個有する多官能化合物であり、単官能化合物と比較して、光重合に関してより高感度の組成物を得ることができる。
【0025】
本発明の組成物で用いる上記一般式(1)の構造を有するチオール化合物の具体例としては、ビス(4−(2−メルカプトプロポキシ)フェニル)メタン、1,1−ビス(4−(2−メルカプトプロポキシ)フェニル)エタン、2,2−ビス(4−(2−メルカプトプロポキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(2−メルカプトプロポキシ)フェニル)ブタン、1,1−ビス(4−(2−メルカプトプロポキシ)フェニル)イソブタン、2,2−ビス(4−(2−メルカプトプロポキシ)−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(2−(2−メルカプトプロポキシ)−5−メチルフェニル)プロパン、ビス(2−(2−メルカプトプロポキシ)−5−メチルフェニル)メタン、2,2−ビス(4−(2−メルカプトプロポキシ)−3−t−ブチルフェニル)プロパン、トリス(4−(2−メルカプトプロポキシ)フェニル)メタン、1,1,1−トリス(4−(2−メルカプトプロポキシ)フェニル)エタン、テトラキス(4−(2−メルカプトプロポキシ)フェニル)メタン、ビス(4−(2−メルカプトブトキシ)フェニル)メタン、2,2−ビス(4−(2−メルカプトブトキシ)フェニル)プロパン、トリス(4−(2−メルカプトブトキシ)フェニル)メタン、2,2−ビス(2,4−ビス(2−メルカプトプロポキシ)フェニル)プロパン、9,9−ビス(4−(2−メルカプトプロポキシ)フェニル)フルオレン、4,4’−ビス(2−メルカプトプロポキシ)ジフェニルシクロヘキサン、4,4’−ビス(2−メルカプトプロポキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(2−メルカプトプロポキシ)ジフェニルエーテル、1,5−ビス(2−メルカプトプロポキシ)ナフタレン、2,2,5,5−テトラキス(4−(2−メルカプトプロポキシ)フェニル)ヘキサン、3,9−ビス(3−メトキシ−4−(2−メルカプトプロポキシ)フェニル−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、2,2−ビス(4−(2−メルカプトプロポキシ)テトラブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(2−メルカプトプロポキシ)フェニル)スルホン、1,3,5−トリス(2−メルカプトプロポキシ)ベンゼン、1,3,5−トリス(4−(2−メルカプトプロポキシ)フェニル)ベンゼン、2,2−ビス(4,4−ビス(4−(2−メルカプトプロポキシ)フェニル)シクロヘキシル)プロパン、2,6−ビス(2−(2−メルカプトプロポキシ)−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、2,6−ビス(2−(2−メルカプトプロポキシ)−5−イソプロピルベンジル)−4−イソプロピルフェノール、ビス(2−(2−メルカプトプロポキシ)−3−(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−5−メチル)メタン、トリス(4−(2−メルカプトプロポキシ)フェニル)フェニルメタン、1,1,3−トリス(3−t−ブチル−4−(2−メルカプトプロポキシ)−6−メチルフェニル)ブタン9,9−ビス(4−(2−メルカプトブトキシ)フェニル)フルオレン、4,4’−ビス(2−メルカプトブトキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(2−メルカプトブトキシ)ジフェニルエーテル、2,6−ビス(2−(2−メルカプトブトキシ)−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、ビス(2−(2−メルカプトブトキシ)−3−(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−5−メチル)メタン等が挙げられる。
【0026】
[II]チオール化合物の製造方法
本発明で使用する前記一般式(1)で示されるチオール化合物は、一般式(8)
【化16】

(式中、Aはn官能性の芳香族基を表わし、nは2〜4の整数である。)
で示される化合物のn個のフェノール性水酸基を、一般式(9)
【化17】

(式中、R1は炭素数1〜3のアルキル基を表わし、mは1〜4の整数である。)
で示されるカルボニル基を持つアルコキシ基に置換する工程1、
前記カルボニル基を還元して水酸基に変換する工程2、及び
前記水酸基をメルカプト基に変換する工程3を含むことを特徴とする方法により製造することができる。
【0027】
工程1において、フェノール性水酸基をカルボニル基を持つアルコキシ基に置換する反応では、α位に脱離基を有するカルボニル化合物を使用し多価フェノール化合物との反応を塩基性条件下で行うことが、収率及び選択率の観点から好適である。
【0028】
工程1において、好ましく用いられカルボニル基を持つ化合物として、クロロアセトン、ブロモアセトン、ヨードアセトンからなる群から選ばれる少なくとも1種のハロゲン化アセトンが挙げられる。
【0029】
塩基性条件下で行うために使用する塩基性化合物は特に限定されないが、有機塩基、無機塩基を使用することができる。有機塩基としては三級アミンを好適に使用することができ、トリエチルアミン、ピリジン、トリエチレンジアミンなどを使用することができる。無機塩基としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウムなどを使用することができる。
【0030】
工程2において、カルボニル基を還元する方法としては、一般的に行われている還元反応を使用することができる。還元剤としては、水素、水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、ヒドラジンなどを使用することができる。還元反応において、還元触媒を使用することもできる。還元触媒としてはニッケル、パラジウム、白金、金、銅、コバルト、ロジウム、鉄、ルテニウムなどの金属及びこれら金属の硝酸塩、塩化物、有機酸塩などの化合物をそのままあるいは担体に担持させた状態で用いることができる。
【0031】
工程3の水酸基をメルカプト基に変換する工程は、以下に示す2つの経路、すなわち工程3−1と工程3−2を採ることができる。工程3−1は下記の3つの工程を含む。
水酸基をスルホン酸誘導体でスルホン酸エステル体とする工程3−1−1、
スルホン酸エステル体をチオ酢酸あるいはチオ酢酸金属塩でチオ酢酸エステル体とする工程3−1−2、
チオ酢酸エステル体を還元してメルカプト基に変換する工程3−1−3。
【0032】
工程3−1−1において、水酸基をスルホン酸誘導体でスルホン酸エステルとする工程では、スルホン酸誘導体として、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸クロライド、メタンスルホン酸クロライド、p−トルエンスルホン酸無水物、硫酸、硫酸水素ナトリウムなどを使用することができる。
【0033】
スルホン酸エステル体をチオ酢酸あるいはチオ酢酸塩でチオ酢酸エステル体とする工程3−1−2工程では、チオ酢酸塩としては、チオ酢酸ナトリウム、チオ酢酸カリウムを使用することができる。
【0034】
工程3−1−3において、チオ酢酸エステル体を還元してメルカプト基に変換する工程としては、一般的に行われている還元反応を使用することができる。還元剤としては、水素、水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、水素化ジイソブチルアルミニウムなどを使用することができる。還元反応において、還元触媒を使用することもできる。還元触媒としてはニッケル、パラジウム、白金、金、銅、コバルト、ロジウム、鉄、ルテニウムなどの金属及びこれら金属の硝酸塩、塩化物、有機酸塩などの化合物をそのままあるいは担体に担持させた状態で用いることができる。
【0035】
工程3−2は、下記の2つの工程を含む。
水酸基とチオ尿素を反応させることによりイソチオウレア誘導体とする工程3−2−1、及び
イソチオウレア誘導体を塩基と反応させた後、酸と反応させてメルカプト基に変換する工程3−2−2。
【0036】
工程3−2−1において、水酸基とチオ尿素を反応させることによりイソチオウレア誘導体とする工程では、チオ尿素を反応させる際に酸を添加することができる。添加する酸としては、硫酸、塩酸、臭化水素酸などを使用することができる。
【0037】
[III]エチレン性不飽和二重結合を有する化合物
本発明の重合性組成物で用いるエチレン性不飽和二重結合を有する化合物は特に限定されないが、前記チオール化合物との反応速度が速いことから、アクリル基、メタクリル基、アリル基、ビニルオキシ基、スチリル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する化合物が好ましく、さらに硬化速度が速く感度が高いことから、その官能基を分子内に2個以上有する化合物が好ましい。2個以上の官能基を有する化合物の場合、それらの官能基は同一であっても異なっていてもよい。
【0038】
本発明で用いるエチレン性不飽和二重結合を有する化合物の具体的な例としては、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、2,2−ビス(4−(2−アクリロイルオキシエチル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(2−メタクリロイルオキシエチル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アリルオキシフェニル)プロパン、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。本発明で用いるエチレン性不飽和二重結合を有する化合物の使用量としては、チオール化合物の官能基あたり二重結合の官能基が100〜1倍、好ましくは20〜5倍使用することができる。100倍よりも多い場合はチオールの添加効果が顕著に現れず、1倍よりも少ないと未反応のチオールが硬化物中に残るため硬化物の機械的特性が劣る。
【0039】
[IV]光重合開始剤
本発明の重合性組成物の成分として、光重合開始剤や熱重合開始剤のような重合開始剤を使用することができる。重合開始剤の添加量は、組成物全体に対して0.1〜10質量%、好ましくは1〜5質量%添加することが好ましい。重合開始剤を多く使用すると組成物の保存安定性が低くなり、重合開始剤が少ないと硬化性が悪くなる。光重合開始剤の具体的な例としては、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、p−ジメチルアセトフェノン、p−ジメチルアミノプロピオフェノン、ベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、メチルベンゾイルフォメート、p−イソプロピル−α−ヒドロキシイソブチルフェノン、α−ヒドロキシイソブチルフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどのカルボニル化合物、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントンなどの硫黄化合物などが挙げられ、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製,商品名「イルガキュア(登録商標)184」)を好適に用いることができる。これらの光重合開始剤は単独で使用してもよいし、2種以上組み合せて用いてもよい。
【0040】
熱重合開始剤の具体的な例としては、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキシド、t−ブチルハイドロパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ハイドロパーオキシド、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネートなどの過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、4,4’−アゾビス−4−シアノ吉草酸、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(1−アセトキシー1−フェニルエタン)、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩などのアゾ系開始剤などが挙げられる。
【0041】
[V]その他の添加剤
本発明の重合性組成物には、必要に応じて重合禁止剤を添加してもよい。重合禁止剤には、組成物の保存安定性を高くする効果があるが、多く入れすぎると硬化性が悪くなる。重合禁止剤の添加量は、組成物に対して10〜50000質量ppm添加することが好ましく、100〜5000ppm添加することがより好ましい。本発明で用いる重合禁止剤の具体例としては、ヒドロキノン、ヒドロキノンのモノエステル化物、N−ニトロソジフェニルアミン、フェノチアジン、p−t−ブチルカテコール、N−フェニルナフチルアミン、2,6−ジ−t−ブチル−p−メチルフェノール、クロラニール、ピロガロールなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0042】
本発明の重合性組成物には、必要に応じて二級あるいは三級アミンを添加してもよい。これらのアミンには、チオールとエチレン性不飽和二重結合を有する化合物との反応性を高くする効果がある。また、連鎖移動剤としての効果もある。本発明の重合性組成物に添加する二級あるいは三級アミンの添加量は特に限定しないが、組成物全体に対して0.1〜5質量%、好ましくは1〜5質量%添加することが好ましい。本発明で用いる二級あるいは三級アミンの具体例としては、ジエチルアミン、トリエチルアミン、字エタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−ジメチルアニリンなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0043】
本発明の重合性組成物には、必要に応じて、(a)熱可塑性樹脂、(b)脱臭剤、(c)シランカップリング剤、チタンカップリング剤等の密着性向上剤、(d)ヒンダードアミン類、ハイドロキノン類、ヒンダードフェノール類等の酸化防止剤、(e)ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、サリチル酸エステル類、金属錯塩類等の紫外線吸収剤、(f)金属石けん類、重金属(例えば亜鉛、錫、鉛、カドミウム等)の無機および有機塩類、有機錫化合物等の安定剤、(g)フタル酸エステル、リン酸エステル、脂肪酸エステル、エポキシ化大豆油、ひまし油、流動パラフィンアルキル多環芳香族炭化水素等の可塑剤、(h)パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、重合ワックス、密ロウ、鯨ロウ低分子量ポリオレフィン等のワックス類、(i)ベンジルアルコール、タール、ピチューメン等の非反応性希釈剤、(j)炭酸カルシウム、カオリン、タルク、マイカ、ベントナイト、クレー、セリサイト、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ガラス粉、ガラスバルーン、シラスバルーン、石炭粉、アクリル樹脂粉、フェノール樹脂粉、金属粉末、セラミック粉末、ゼオライト、スレート粉等の充填剤、(k)カーボンブラック、酸化チタン、赤色酸化鉄、パラレッド、紺青等の顔料または染料、(l)酢酸エチル、トルエン、アルコール類、エーテル類、ケトン類等の溶剤、(m)発泡剤、(n)シランカップリング剤、モノイソシアネート化合物、カルボジイミド化合物等の脱水剤、(o)帯電防止剤、(p)抗菌剤、(q)防かび剤、(r)粘度調製剤、(s)香料、(t)難燃剤、(u)レベリング剤、(v)分散剤等を添加することができる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の割合で組み合わせて用いることもできる。
【0044】
本発明の重合性組成物の硬化方法は特に限定しないが一般的に行われている重合性組成物の硬化方法を用いることができる。硬化方法としては、コーティングを行う場合は、ベースフィルム上に本発明の重合性組成物を塗布し、紫外線照射を行うことにより塗膜を硬化しコーティングを行う。フィルムやシートを作成する場合は、ベースフィルムとカバーフィルムの間に本発明の重合性組成物をはさみ、紫外線照射を行うことによりフィルムやシートを作成することができる。ベースフィルムやカバーフィルムの代わりにガラス板を用いてもよい。硬化時の酸素阻害を防止するために、硬化を不活性ガス雰囲気下で行うこともできる。
【実施例】
【0045】
以下、チオール化合物の合成例、本発明の実施例及び比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明は下記の例により何ら制限されるものではない。なお、下記の例中、部及び%はそれぞれ質量を基準とするものである。
【0046】
合成例:トリス(4−(2−メルカプトプロポキシ)フェニル)メタン(TPT)の合成工程1:トリス(4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)メタン(TPK)の合成 トリス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(東京化成(株)製試薬)1.0g(3.4mmol)、炭酸カリウム1.7g(12.1mmol)、ヨウ化カリウム2.0g(12.1mmol)、クロロアセトン1.1g(12.1mmol)アセトン20mlを2口100ml容ナスフラスコに仕込み、内容物を窒素雰囲気下、室温にて15時間撹拌した。液体クロマトグラフィ及び薄層クロマトグラフィにより原料消失を確認した後、反応液中に析出した塩を桐山漏斗にてろ過し、アセトンにて洗浄した。次に、ろ液からアセトンを留去し、残分をシリカゲルによるカラムクロマトグラフィーにて、溶出溶媒n−ヘキサン/酢酸エチルを用いて精製してTPKを得た。精製して得られたTPKは黄色液体であり、収量は1.4g、収率は90%であった。TPKの組成式はC28H28O6、分子量は296.36である。
【0047】
工程2:トリス(4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)メタン(TPA)の合成 300ml容ナスフラスコにTPK1.2g(2.6mmol)、エタノール30mlを仕込み、水素化硼素ナトリウム0.12g(3.1mmol)を少しずつ添加した。冷却管を装着し、窒素雰囲気下にてオイルバス温度80℃で加熱撹拌した。反応開始3時間後、液体クロマトグラフィ及び薄層クロマトグラフィにて原料の消失を確認し、室温まで放冷した。水250mlを入れた三角フラスコに反応液を上げ、さらに1規定塩酸を2ml加え中和処理を行った。その後、酢酸エチルを用い有機層を抽出し、無水硫酸ナトリウムにて脱水・乾燥を行い、白色結晶状のTPA1.3gを得た。還元体の組成式はC28H34O6、分子量は466.57である。
【0048】
工程3−1−1:トリス(4−(2−(p−トルエンスルホニルオキシ)プロポキシ)フェニル)メタン(TPTs)の合成
TPA1.5g(3.2mmol)、p−トルエンスルホニルクロライド2.2g(11.6mmol)、脱水ピリジン10mlを100ml容ナスフラスコに仕込み、窒素雰囲気下室温撹拌した。反応開始16時間後、薄層クロマトグラフィにて原料消失を確認し、反応液中に析出した塩を桐山漏斗にてろ過、ジクロロメタンにて洗浄した。次にジクロロメタンを留去し、残分を飽和炭酸水素ナトリウム溶液にて洗浄、有機層をジクロロメタンで抽出した。ジクロロメタンを留去し、残分をシリカゲルによるカラムクロマトグラフィーにて、溶出溶媒n−ヘキサン/酢酸エチルを用いて精製した。精製して得られたTPTsは白色結晶であり、収量は1.9g、収率は64%であった。TPTsの組成式はC49H52O12S3、分子量は929.125である。
【0049】
工程3−1−2:トリス(4−(2−(アセチルスルファニル)プロポキシ)フェニル)メタン(TPTA)の合成
TPTs32.4g(35mmol)、チオ酢酸s−カリウム16.7g(146mmol)、脱水ジメチルホルムアミド120mlを1000ml容ナスフラスコに仕込み、冷却管を装着した。内容物を撹拌しながら、窒素雰囲気下にてオイルバス温度90℃にて加熱した。反応開始4時間後、薄層クロマトグラフィにて原料消失を確認し、水800mlを加えた。油状物質のみをろ過した後、酢酸エチルに溶解、無水硫酸マグネシウムにて脱水・乾燥した。酢酸エチルを留去後、残分をシリカゲルによるカラムクロマトグラフィーにて、溶出溶媒n−ヘキサン/酢酸エチルを用いて精製した。精製して得られたTPTAは茶色液体であり、収量は8.6g、収率は39%であった。チオ酢酸付加体の組成式はC35H42O5S3、分子量は638.900である。
【0050】
工程3−1−3:トリス(4−(2−メルカプトプロポキシ)フェニル)メタン(TPT)の合成
500ml容ナスフラスコに上記反応生成物8.6g(12.2mmol)、脱水ジエチルエーテル150gを仕込み、窒素雰囲気下で内容物を撹拌しながら氷冷し、リチウムアルミニウムハイドライド0.76g(20mmol)を氷冷下にてゆっくり添加し、その後室温まで昇温した。反応開始40分後にリチウムアルミニウムハイドライド0.38gを追添し、さらに反応開始3時間半後にリチウムアルミニウムハイドライド0.23g及び脱水ジエチルエーテル30mlを追添した。反応開始15時間後、液体クロマトグラフィ及び薄層クロマトグラフィにて原料消失を確認し、水を加えリチウムアルミニウムハイドライドを失活させた。0.1規定塩酸にて中和し、酢酸エチルにて抽出後、無水硫酸マグネシウムにて脱水・乾燥した。酢酸エチルを留去後、残分を残分をシリカゲルによるカラムクロマトグラフィーにて、溶出溶媒n−ヘキサン/酢酸エチルを用いて精製した。精製して得られたTPTは無色液体であり、収量は4.1g、収率は59%であった。TPTの組成式はC28H34O3S3、分子量は514.76である。
【0051】
実施例1:
上記合成例で製造した多官能チオール化合物とポリエン化合物を光重合開始剤存在下、紫外線硬化させることにより硬化物を作成し、その引張り強度について検討した。
TPT(0.50g)とTMP3A(共栄社化学(株)製,トリメチロールプロパントリアクリレート,商品名「ライトアクリレートTMPA」)0.50gとIrg184(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製,商品名「イルガキュア(登録商標)184」)0.02gを混合し均一に溶解させた。この液を、フッ素コートした2枚のガラス板にはさみ、ウシオ電機(株)製超高圧水銀ランプにて紫外線照射(3J/cm2)することにより厚さ0.7mmの硬化物を作成した。この硬化物をコマックス製レーザー加工機(VD7050−15W)でカットし、幅10mm長さ20mmの試験片を作成した。試験片のガラス転移温度(Tg)を、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製、熱・応力・歪測定装置(DMS6100)にて測定した。結果を表1に示す。
上記合成例で製造した多官能チオール化合物とポリエン化合物を光重合開始剤存在下、紫外線硬化させることにより硬化物を作成し、その硬化収縮率を測定した。TPT(0.50g)とTMP3A(共栄社化学(株)製,トリメチロールプロパントリアクリレート,商品名「ライトアクリレートTMPA」)0.50gとIrg184(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製,商品名「イルガキュア(登録商標)184」)0.02gを混合し均一に溶解させた。この液を、シリコン基盤上に塗り、(株)ダルトン製,アクティブ・スピンコーター(Active Spincoater)にて均一に塗布後、フィルメトリクス(株)製光学式膜圧計にて膜厚を測定した。続いてウシオ電機(株)製超高圧水銀ランプにて紫外線照射(3J/cm2)することで硬化させた後、再度膜厚を測定し、硬化前後の膜圧の差から硬化収縮率を算出した。結果を表1に示す。
【0052】
比較例1〜2:
TPTの代わりにPE1(昭和電工(株)製,ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート),商品名「カレンズ(登録商標)PE1」,チオール基当量139g/eq)0.50gあるいは3−800(コグニスジャパン(株)製,商品名「キャップキュア(登録商標)3−800」,チオール基当量278g/eq)0.50gを用いた以外は実施例1と同様の操作により引張り試験を行った。結果を表1に示す。
【表1】

表1より、本発明の多官能チオールを用いることにより、ガラス転移温度が高く硬化収縮率の小さい硬化物を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、Aはn官能性の芳香族基を表わし、R1炭素数1〜3のアルキル基を表わし、mは1〜4の整数であり、nは2〜4の整数である。)
で示される芳香族エーテル系多官能二級チオール化合物とエチレン性不飽和二重結合を有する化合物を含むことを特徴とする重合性組成物。
【請求項2】
前記一般式(1)で示されるチオール化合物が、一般式(2)
【化2】

(式中、R1は炭素数1〜3のアルキル基を表わし、R2は水素原子または置換基を有してもよい炭素数1〜3のアルキル基を表わし、R3は、置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基または置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルコキシ基をを表わし、mは1〜4の整数であり、aは0または1〜2の整数であり、bは2〜4の整数であり、cは0または1〜2の整数であり、a+bは4である。)
で示される請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項3】
前記一般式(2)で示されるチオール化合物が、一般式(3)
【化3】

(式中、R1は炭素数1〜3のアルキル基を表わし、R2は水素原子または置換基を有してもよい炭素数1〜3のアルキル基を表わし、R3は、置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基または置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルコキシ基を表わし、mは1〜4の整数であり、cは0または1〜2の整数である。)
で示される請求項2に記載の重合性組成物。
【請求項4】
前記一般式(2)で示されるチオール化合物が、一般式(4)
【化4】

(式中、R1は炭素数1〜3のアルキル基を表わし、R2は水素原子または置換基を有してもよい炭素数1〜3のアルキル基を表わし、R3は、置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基または置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルコキシ基を表わし、mは1〜4の整数であり、cは0または1〜2の整数である。)
で示される請求項2に記載の重合性組成物。
【請求項5】
前記一般式(1)で示されるチオール化合物が、一般式(5)
【化5】

(式中、Bは単結合または酸素原子を表わし、R1は炭素数1〜3のアルキル基を表わし、R3は、置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基または置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルコキシ基を表わし、mは1〜4の整数であり、cは0または1〜2の整数である。)
で示される請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項6】
前記一般式(2)で示されるチオール化合物が、一般式(6)
【化6】

(式中、R1は炭素数1〜3のアルキル基を表わし、R2は水素原子または置換基を有してもよい炭素数1〜3のアルキル基を表わし、R3は、置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基または置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルコキシ基を表わし、aは0または1〜2の整数であり、bは2〜4の整数であり、cは0または1〜2の整数であり、a+bは4である。)
で示される請求項2に記載の重合性組成物。
【請求項7】
前記一般式(6)で示されるチオール化合物が、一般式(7)
【化7】

(式中、R2は水素原子または置換基を有してもよい炭素数1〜3のアルキル基を表わし、R3は、置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基または置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルコキシ基を表わし、aは0または1〜2の整数であり、bは2〜4の整数であり、cは0または1〜2の整数であり、a+bは4である。)
で示される請求項6に記載の重合性組成物。
【請求項8】
エチレン性不飽和二重結合を有する化合物が、アクリル基、メタクリル基、アリル基、ビニルオキシ基、スチリル基からなる群から選ばれる官能基を少なくとも2個有する化合物である請求項1〜7のいずれかに記載の重合性組成物。
【請求項9】
光重合開始剤を含む請求項1〜7のいずれかに記載の重合性組成物。
【請求項10】
重合禁止剤を含む請求項1〜9のいずれかに記載の重合性組成物
【請求項11】
二級アミンまたは三級アミンを含む請求項1〜7のいずれかに記載の重合性組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の重合性組成物を重合して得られる硬化物。

【公開番号】特開2011−32351(P2011−32351A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−179188(P2009−179188)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】