説明

重症筋無力症の診断方法およびそのキット

【課題】げっ歯類動物の臓器特異的な自己免疫疾患である重症筋無力症を診断する改善された方法を提供する。また、重症筋無力症を持つ対象を同定するための診断キットも提供する。
【解決手段】げっ歯類の体液中の熱ショックタンパク質60(hsp60)、アルファアイソフォームの熱ショックタンパク質90(hsp90α)、ベータアイソフォームの熱ショックタンパク質90(hsp90β)から選ばれた1種または複数の自己抗原に特異的に結合する少なくとも1種の自己抗体の量を測定することによって、対象における重症筋無力症を診断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫寛容の発現および自己免疫疾患の病理を含む免疫学の分野に関するものである。本発明は概して、臓器特異的な自己免疫疾患である重症筋無力症を診断する改善された方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自己免疫疾患は、不正常に活性化されたT細胞が自己組織に対して反応するようになることで病気の原因と進行に関与するサイトカインおよび/または自己抗体の産生が誘発されるといった異常な免疫細胞機能または活性を起因として生じる。コトランら(COTRAN ET AL.)、疾患の病理学基礎(PATHOLOGIC BASIS OF DISEASE)、(第6版、1999年)、p.211〜212;スコフィールド(Scofield)、「疾患の預言者としての自己抗体(Autoantibodies as predictors of disease)」、ランセット(Lancet)、2004年、第363巻、p.1544〜1546。自己免疫は、その発症の機序は完全にわかってはいないが、自己寛容の破綻の表れである(同上)。自己免疫疾患には、多臓器もしくは組織に影響する全身性、または、単一の臓器、臓器系もしくは組織に影響する限局性のものがある(同上)。
【0003】
自己免疫疾患の特徴は、自己タンパク質に対する高親和性自己抗体の産生にある。(ロビンソンら(Robinson et al.)、「自己抗体応答の多機能特性決定ための自己抗原マイクロアレイ(Autoantigen microarrays for multiplex characterization of autoantibody responses)」、ネイチャーメディシン(Nature Medicine)、2002年、第8巻、第3号、p.295〜301)。一部の自己抗体は、特定の疾病に伴う細胞および組織損傷の進行に関わりがあると認識されているあるいは強く疑われているが、しかし大部分については、疾病の根本的な原因に対するその病理的役割または関係のどちらもわかっていない(同上)。このようではあるが、例えば重症筋無力症など特定の疾病における自己抗体反応の特異性と病原性は、これらが自己免疫疾患の診断、分類および治療の改善に有用であることを強く示唆する(同上)。多くの場合、血清自己抗体は臨床症状が発現するかなり前に現れるため、特定の自己免疫疾患に関与する自己抗体を迅速かつ精確に検出する能力は、疾患の経過におけるより早期の予防的治療の実施を可能とし、結果的に、疾病の発現を完全に抑制するに十分な免疫学的診療行為を可能にする(スコフィールド、上記参照)。
【0004】
重症筋無力症(MG)は、骨格筋の神経筋接合部にあるアセチルコリン受容体の免疫介在性障害により引き起こされる神経筋疾患である(コトランら、上記p.1289参照)。世界的に、人口におけるMGの推定発症率は100,000人あたり約3〜20人以上となっている(コトランら、上記参照;ソムニエール(Somnier)、「遅発型抗AChR自己抗体血清反応陽性の筋無力症の発生の増加(Increasing incidence of late-onset anti-AChR antibody-seropositive myasthenia gravis)」、ニューロロジー(Neurology)、2005年、第65巻、p.928〜930)。米国におけるMGの患者数は、全国で年間に診断される約36,000のケースを含め、100,000人あたりおよそ14人であると推定されている(ハワード(Howard)、「筋無力症:概要(Myasthenia gravis: a summary)」、[online]、[最終アクセス日2005年10月23日]、インターネット<URL:http://www.myasthenia.org/infrmation/summary.htm>)。
【0005】
40歳前または50歳前の発症として定義される早期発症型の重症筋無力症は、主に女性に生じる傾向にあるが、晩期発症型のMGは男女の区別なく罹り得る(コトランら、上記参照、「注目すべきは、発症が40歳前である場合については、MGは最も多く女性に観察されるという点である。」;ソムニエール、上記参照、「早期および晩期発症型MGの区別は50歳が境となる」)。通常、女性は20から40歳の間に発病し、一方、男性では概ね50から60歳の間に現れるが、男女ともにより早期に発病することもあり、またより後期に発病するということもあり得る(コトランら、上記参照)。
【0006】
臨床上、患者の約3分の2において、MGは初め不定期的な筋力低下として外眼筋に最も多く現れる(同上;ハワード、上記参照)。こうした初期症状は次第に悪化し、眼瞼下垂(drooping eyelids、ptosis)および/または複視(double vision、diplopia)を生じ、たいていの場合患者は医療的処置を受けなければならなくなる(同上)。約10%のケースでは、筋力低下が眼筋のみにとどまる(ハワード、上記参照)。多くの患者は最終的に、週内、日内、さらにはより頻繁に変動し得る全身的な筋力低下を起こす(同上)。全身性MGは、咀嚼、会話、嚥下、および呼吸といった表情をコントロールする筋に影響することも多く、近年の治療の進歩以前には、呼吸不全がその死因のトップであった(同上)。しかしながら、治療法と救命救急医療の発達に伴い、現在では患者の95%以上が診断後5年もしくはそれ以上生存するようになった(同上)。MGにはしばしば、患者の約65%に見られるように胸腺肥大が伴い、また、それほど多くはないが、患者の約15%に見られるように胸腺腫が伴う(同上)。
【0007】
MG患者の長期転帰は、コリンエステラーゼ阻害剤のより効果的な使用と進歩した救命救急診療によって改善したが、自己免疫反応を直接抑える、またはそのアセチルコリン受容体および周囲の神経筋接合部への影響を緩和するような治療法は、長い期間でより効果が出るものである(リッチマンら(Richman et al.)、「自己免疫筋無力症の治療(Treatment of autoimmune myasthenia gravis)」ニューロロジー(Neurology)、2003年、第61巻、p.1652〜1661)。一般的に治療はコリンエステラーゼ阻害剤などの抗コリンエステラーゼ薬の投与から開始する(同上)。治療計画は通常、静注免疫グロブリンまたはプラスマフェレーシスをしばしば併用しての、高用量のコルチコステロイドによる免疫学的寛解の誘発を目標としている(同上)。たいていの場合、寛解の維持は、例えばアザチオプリンまたはミコフェノレートなどの「ステロイド減量」剤の使用を組み合わせたコルチコステロイドの漸減によって達成される(同上)。一部の症例には胸腺摘出術が有効なこともある(同上)。
【0008】
患者の約80〜85%において、MGはニコチン性アセチルコリン受容体(AChR)に対する抗体を特徴とする(リッチマンら、上記参照;ロサーニら(Roxanis et al.)、「筋無力症における胸腺筋様細胞および胚中心形成;病因における可能な役割(Thymic myoid cells and germinal center formation in myasthenia gravis; possible role in pathogenesis)」、ジャーナル オブ ニューロイムノロジー(JOURNAL OF NEUROIMMUNOLOGY)、2002年、第125巻、p.185〜197)。このような抗体は、アセチルコリン受容体の欠損と、成熟した(mature)神経筋接合部の筋終板における受容体の機能低下とをもたらし、そしてこれらが合わさって、全身性MGの筋力低下という特徴として現れる神経筋の信号伝達障害が引き起こされる(ホックら(Hoch et al.)、「アセチルコリン受容体抗体をもたないで、筋無力症の患者のチロシンキナーゼMsSK受容体に対する自己抗体(Auto-antibodies to the receptor tyrosine kinase MsSK in patients with myasthenia gravis without acetylcholine receptor antibodies)」、ネイチャーメディシン、2001年、第7巻、第3号、p.365〜368)。抗AChR抗体の血清濃度は、同程度の筋力低下がある患者のあいだでばらつきが大きいため、これによって個々の患者の疾患重症度を予測することはできない(ハワード、上記参照)。
【0009】
しかし、全身性MGの症状が見られる患者全てが抗AChR抗体を産生するわけではない(ロサーニら、上記参照)。ケースによっては、症状のある患者でも、症状の発現から数ヵ月後もしくはもっと後になるまで抗AChR抗体が十分に検出されないこともある(同上)。抗AChR抗体は、眼筋のみのMG患者よりも、全身性MGを患う患者においてより多く観察され、全身性MG患者のうち約74%、眼筋MG患者のうち約54%が血清中に検出可能な抗AChR抗体を有している(ハワード、上記参照)。残りの全身性MG患者の10〜20%は検出可能な抗AChR抗体を産生することはないのだが、その代わりに、抗AChR抗体を持たない患者のうち90%もが筋特異的受容体チロシンキナーゼ(MuSK)に対する血清自己抗体を持っている(ホックら、およびロサーニら、上記参照)。MuSKは、シナプス形成時にアグリンに誘導される抗AChR抗体の凝集を媒介し、成熟した神経筋接合部に発現する(ホックら、上記参照)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、この疾病の新たな診断方法が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、神経筋自己免疫疾患である重症筋無力症(MG)の診断方法を提供する。本発明は、初期段階のMG患者の多くが、これまでMGの原因と進行に関係がないとされていた2種のタンパク質、60kD熱ショックタンパク質(hsp60)および90kD熱ショックタンパク質(hsp90)に特異な自己抗体を有するという発見に、少なくとも部分的に基づいたものである。したがって、本発明は、所定の対象におけるMGを診断する方法であって、対象から生体サンプルを得る工程、ならびに、熱ショックタンパク質60(hsp60)(配列番号1)、アルファアイソフォームの熱ショックタンパク質90(hsp90α)(配列番号2)、およびベータアイソフォームの熱ショックタンパク質90(hsp90β)(配列番号3)から選ばれたMGに特有な自己抗原に特異的に結合する少なくとも1種の自己抗体の量を測定する工程、を含む方法を提供する。
【0012】
自己抗体の量は各種定性および定量法によって測定することができる。本発明の一部実施形態において、自己抗体の量はウェスタンブロット法により検出される。他の実施形態では、自己抗体の量は酵素免疫測定法により検出される。
【0013】
別な態様において、本発明は、本発明の方法を実施するための診断キットを提供する。この本発明のキットには、MGに特有な自己抗原に特異的に結合する少なくとも1種の自己抗体の量を測定するための上述した技術が、1つまたは複数取り入れられる。1態様において、このキットは、熱ショックタンパク質60(hsp60)(配列番号1)、アルファアイソフォームの熱ショックタンパク質90(hsp90α)(配列番号2)、およびベータアイソフォームの熱ショックタンパク質90(hsp90β)(配列番号3)から選ばれた自己抗原に特異的に結合する少なくとも1種の自己抗体の量を測定するのに必要な全ての試薬を含む。
【0014】
本発明のさらなる目的および長所は、一部は以下に記載されており、一部は当該記載から明らかとなる、あるいは本発明を実施することによりわかることとなろう。本発明の目的と長所は、添付の特許請求の範囲にて特に示した構成要素および組み合わせにより実現され、達成され得る。上記の概要と下記の詳細な記載は、例示および説明のためのものにすぎず、特許請求の範囲に記載した本発明を限定するものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本明細書に組み込まれてその一部を成す添付の図面は、本発明のいくつかの実施形態を図解すると共に、明細書の記載と共に本発明の原理を説明する役割を果たす。
【0016】
I.自己免疫疾患の診断方法
1態様において、本発明は、所定の対象におけるMGを診断する方法であって、対象から生体サンプルを得る工程、ならびに、熱ショックタンパク質60(hsp60)、アルファアイソフォームの熱ショックタンパク質90(hsp90α)、およびベータアイソフォームの熱ショックタンパク質90(hsp90β)から選ばれた少なくとも1種のタンパク質に特異的に結合する少なくとも1種の自己抗体の量を測定する工程、を含む方法を提供する。
【0017】
自己免疫疾患は、異常な免疫機能を、そして多くの場合自己抗体の存在を特徴とする疾病または障害である。自己抗体はIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgD、IgEまたはIgMといった全てのアイソタイプの免疫グロブリンタンパク質(「Ig」。「抗体」と称することもある。)のことであり、該Igタンパク質または抗体を産生するのと同じ生物により生成されるタンパク質由来のターゲット抗原に特異的に結合する。自己抗体を特徴とする自己免疫疾患の例には、アジソン病(21−ヒドロキシラーゼに対する自己抗体)、セリアック病(組織トランスグルタミナーゼに対する自己抗体)、1型のインシュリン依存糖尿病(GAD−65および/またはインシュリンに対する自己抗体)、グレーブス病/甲状腺機能亢進症(甲状腺刺激ホルモン受容体に対する自己抗体)、橋本甲状腺炎(甲状腺ペルオキシダーゼおよび/またはチログロブリンに対する自己抗体)、重症筋無力症(ニコチン性アセチルコリン受容体および/または筋特異的受容体チロシンキナーゼに対する自己抗体)、グッドパスチャー症候群(糸球体基底膜におけるIV型コラーゲンに対する自己抗体)、尋常性天疱瘡(デスモグレイン3に対する自己抗体)、悪性貧血(H/K ATPaseに対する自己抗体)、原発性胆汁性肝硬変(E2 PDSに対する自己抗体)、白斑(チロシナーゼおよび/またはSOX−10に対する自己抗体)、多発性硬化(ミエリン塩基性タンパク質および/またはミエリンオリゴ樹状(oligodendritic)糖タンパク質に対する自己抗体)、全身性エリテマトーデス(スプライセオソームのsnRNP、Ro/Laリボ核粒子、ヒストン、および/または天然DNAに対する自己抗体)、シューグレン症候群(Ro/Laリボ核粒子および/またはムスカリン受容体に対する自己抗体)、ならびに、関節リウマチ(環状シトルリン化ペプチドおよび/またはIgMに対する自己抗体)がある(スコフィールド、上記p.1545参照)。
【0018】
本明細書で用いる「対象」とは、ヒト、または、例えばイヌ、ネコ、マウス、ラット、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギであるヒト以外の哺乳類、もしくは、ヒト以外の霊長類を含む動物のことを意味し、特に、実験用の哺乳動物、家畜、および家畜哺乳動物を含む。いくつかの実施形態において哺乳類はヒトであり、別な実施形態では哺乳類は例えばマウスまたはラットなどのげっ歯動物であり得る。
【0019】
生体サンプルは、対象の細胞、組織または臓器から採取した任意の生体材料である。生体サンプルの採取源は、診断される対象に存在する所定の症状に応じて変えることができる。生体サンプルは、採取後すぐに分析することもできるし、または保存しておくこともできる。保存する場合は、適した保存バッファで平衡化すると共に、4℃、−20℃、−70℃下に、または、例えば液体窒素もしくは液体ヘリウムなどの低温液体中に置いておくことができる。1実施形態において、生体サンプルには血液、血清または血漿が含まれ得る。別な実施形態において、生体サンプルには羊水または乳汁が含まれ得る。また別な実施形態では、生体サンプルには生検もしくは組織サンプル、または細胞浮遊液が含まれ得る。本発明のさらに別な実施形態において、生体サンプルには唾液、脳脊髄液、リンパ液、汗、粘液、滑液、涙液またはその他臨床材料もしくはサンプルが含まれ得る。
【0020】
「特異的に結合」またはこれに類似する表現は、2つの分子が、生理学的条件において比較的安定な複合体(例えば、安定な抗原/抗体複合体)を形成するということを意味する。この表現は、例えば、分子の数に見出されるような、抗原結合ドメインが特定のエピトープに特異であるという場合にも用いることができる。したがって、抗体は、多種のタンパク質それぞれに存在するエピトープに結合することで、それら多数のタンパク質と特異的に結合することができる。特異的な結合は、多くの場合低から中容量の高親和性結合を含む選択的相互作用を特徴とする。概して、非特異的な結合は選択性に乏しい相互作用であり、かつ、中から高容量の低親和性を有する。通常、親和性が少なくとも105-1、106-1、107-1または108-1である場合に、その結合は特異的であると認められる。必要であれば、特異的結合に実質上影響を与えることなく結合条件を変えることによって、非特異的結合を減少させてもよい。こうした条件は当該分野では周知であり、かつ当業者は適した条件を選択することができる。該条件は通常、抗体の濃度、溶液のイオン強度、温度、結合の時間、非関連分子(例えば、血清アルブミン、ミルクカゼインなどのブロッキング剤)の濃度などに関して定められるものである(例としてモルガンら(Morgan et al.)、「The Matrix Effects on Kinetic Rate Constants of Antibody-Antigen Interactions Reflect Solvent Viscosity」、ジャーナル オブ イムノロジカル メソッズ(Journal of Immunological Methods)、1998年、第217巻、p.51−60;およびジュワンら(Zhuang et al.)、「Measurement of Association Rate Constant of Antibody-Antigen Interaction in Solution Based on Enzyme-Linked Immunosorbent Assay」、ジャーナル オブ バイオサイエンス アンド バイオエンジニアリング(JOURNAL OF BIOSCIENCE AND BIOENGINEERING)、2001年、第92巻、第4号、p.330-336参照)。
【0021】
A.自己抗体の検出
本発明の方法による自己抗体の量の測定には、定性的および定量的な検出方法の両方が含まれる。定性的な検出方法は、生体サンプル中に特定の自己抗体が存在するかを単純に判断するものである。定量的な検出方法は、生体サンプル中に特定の自己抗体が存在するかということと、その量との両方を測定するものである。定性的および定量的な検出方法はいずれも当該分野では周知なものである。このような方法には、ウェスタンブロット法、免疫ブロット法、免疫蛍光法、酵素免疫測定法(ELISA)およびその他の類似する方法が含まれる。
【0022】
1.ウェスタンブロット法
ウェスタンブロット法は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法を用いて目的のタンパク質をサイズおよび電荷で分けたのちに、ゲルから荷電膜にタンパク質を転写する電気泳動ステップから開始する。転写が完了したのち、ハイブリダイゼーションを、膜における未反応の結合部位全てをブロックして自己抗体の非特異的吸着を抑制するブロッキングステップから開始し、引き続いて1種または複数のターゲット抗原を結合させるための一次抗体インキュベーションを行い、一次インキュベーションをX線(radiographic)、発色(chromogenic)または化学発色(chemiluminescent)手段によって検出しているあいだに、抗原−抗体複合体を形成させる二次抗体インキュベーションで終了する。概して二次抗体は、全ての免疫グロブリンタンパク質のアイソタイプに共通する定常領域(Fc)に特異的である。二次抗体はウサギ、ヒツジ、ヤギ、マウスおよびラットなど各種哺乳動物である採取源から得ることができるが、これらだけに限定されることはない。
【0023】
ウェスタンブロット法によりでMGに特有な自己抗原に特異的である自己抗体の量を測定するにあたり、先ず、MGに特有な1種または複数の自己抗原の精製または組み換え標品を、当該分野では周知の標準的方法にしたがい、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)にかける(例としてサムブルックら(SAMBROOK et al.)、「3 MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL」、2001年、A8.40−A8.45参照。SDS−PAGEによるタンパク質電気泳動の各種試薬および方法が記述されている)。次に、ゲルに含まれている物質を、同じく当該分野においては周知である標準的方法により、ニトロセルロース、ナイロン、PVDF、または固定およびウェスタンブロットに適したその他の膜もしくはフィルターに転写する。転写は、浸漬、セミドライブロッティングにより、またはその他当該分野で知られている類似の方法により行うことができる。
【0024】
あるいは、1種または複数の自己抗原の精製または組み換え標品を、ニトロセルロース、ナイロン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、または固定およびウェスタンブロットに適したその他のフィルターもしくは膜上に直接スポットしてもよい。所望の自己抗原の精製または組み換え標品が入手できない場合には、当該分野において知られた標準的な方法により作製される細胞溶解物または組織ホモジネート中から自己抗原を得ることができる。
【0025】
続いて、ウェスタンブロット法を構成するいくつかのハイブリダイゼーション、洗浄および染色ステップ時におけるターゲットタンパク質のロスを防ぐため、フィルターまたは膜を固定する。固定は、熱、紫外線による架橋、またはその他当該分野で知られる類似の方法によって実現され得る(例として、サムブルックら、「3 MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL」、A8.52〜A8.55参照。抗原/抗体複合体の免疫ブロットおよび検出に用いられる各種試薬と方法が記述されている)。
【0026】
固定されたフィルターまたは膜上の非特異的抗体結合部位を、例えば0.5%(w/v)低脂肪粉乳または5%(w/v)ウシ血清アルブミン(BSA)であるブロッキング剤を含有した緩衝液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)またはこれに類似のもの)によりブロッキングする。ブロッキング後、引き続いて、自己免疫疾患と診断されるべき対象からの生体サンプルでそのフィルターまたは膜をインキュベートする、一次抗体インキュベーションを行う。
【0027】
一次抗体インキュベーションが終わったら、そのフィルターまたは膜を洗浄してから、発色(chromogenic)、蛍光(fluorogenic)または化学発光(chemiluminescent)手段で標識された二次抗体を用いて自己抗体−自己抗原複合体の存在を検出する。次に、自己抗体−自己抗原複合体を比色分析(例えば、ホースラディシュペルオキシダーゼおよびTMB)、またはオートラジオグラフィー(例えばアルカリホスファターゼ)により検出する。比色分析または化学発光によりに検出する場合、その発色または蛍光量はルミノメータ、分光光度計またはその他類似の計器を用いて測定することができる。オートラジオグラフィーで検出する場合には、結合抗体の量は、デンシトメータまたは類似の計器を用い、露光させたエックス線フィルムにより測定することが可能である(例として、サムブルックら、「3 MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL」、A8.52−A8.55参照。抗原/抗体複合体の免疫ブロットおよび検出に用いられる各種試薬と方法が記述されている)。
【0028】
定性的または定量的な検出方法に使用される二次抗体は、ポリクローナルまたはモノクローラルのいずれであっても、従来の技術により、リガンド(例えばビオチン)または検出可能なマーカー(例えば蛍光基もしくは酵素)で標識することができる。好ましい標識には、蛍光プローブ、発色団、高電子密度の試薬(例えば銀または金)、酵素、および特異結合パートナーを有するリガンドが含まれる。例えばホースラディシュペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼなどの酵素は、通常その活性によって検出される。例として、ホースラディッシュペルオキシダーゼは、テトラメチルベンジジン(TMB)を青色素に変換する能力によって検出され、分光光度計で定量化できるようになる。他の好ましいリガンドおよび/または検出可能なマーカーには、ビオチンとアビジンまたはストレプトアビジン、IgGとプロテインA、および当該分野で知られた多数のさらなる受容体−リガンド対がある。その他の置換や可能性は、当業者には容易に明らかとなるはずであり、かつ本発明の範囲において均等であると見なされる。
【0029】
本発明の1実施形態において、熱ショックタンパク質60(hsp60)、アルファアイソフォームの熱ショックタンパク質90(hsp90α)、およびベータアイソフォームの熱ショックタンパク質90(hsp90β)から選ばれた自己抗原に特異的に結合する少なくとも1種の自己抗体の量は、ウェスタンブロット法により測定される。
【0030】
標準ウェスタンブロットプロトコールには、ファーウェスタンブロット、そして定量的なブロット法やその他多くの方法など、多数の広く用いられているバリエーションがある。当業者は、検出すべき自己抗体、使用する自己抗原、アッセイに用いる自己抗原および/または一次抗体の採取源、ならびにその他関連する実験パラメータに応じて、使用に適したプロトコールを選択することができよう。これらおよびその他多くの置換や可能性は、当業者には容易に明からとなるはずであり、かつ本発明の範囲において均等であると見なされる。
【0031】
2.酵素免疫測定法(ELISA)
幾種かのELISAは定性的であり、それは単に特定の抗原または抗体の存在または非存在を測定するのに用いられ、一方、別のELISAは定量的であり、それは抗原または抗体の濃度の精確な測定を可能とする。ELISAは、操作が簡単で、しかも容易に自動化されるため、特定の特異的結合を行う抗原または抗体を大量にスクリーニングするのによく用いられる。
【0032】
ELISAは、抗原または抗体をマイクロタイタープレートのウェルに吸着させる抗原吸着ステップから始める(例えば、KPL社(KIRKEGAARD & PERRY LABORATORIES,Inc.)、「TECHNICAL GUIDE FOR ELISA 、[online]、2003年、p.9−13、[最終アクセス日2005年11月3日]、インターネット、<URL:http://www.kpl.com./home.cfm#>参照。ELISAに用いるマイクロタイタープレートのタイプ、さらにこれらプレートにタンパク質を吸着させるための方法と試薬について記載されている)。最もよく用いられている抗体の吸着バッファーは、pH=9.6の50mM炭酸塩、pH=8.5の10mMトリス塩酸、およびpH=7.2の10mM PBSである。これらバッファーは多くのタンパク質に対して有効に作用する。1種または複数のターゲット抗原がマイクロタイタープレートの表面に容易に吸着しない場合には、各種化学的手段によってタンパク質が共有結合するように表面を修飾または誘導体化したプレートが広く市販されているので、入手することができる。時間と温度はタンパク質の吸着量に影響を与える最も重要な因子である。
【0033】
マイクロタイタープレートのウェルに所望の1種または複数の抗原を塗布したら、それらをブロッキングバッファーで洗浄することで、非特異的な抗体の結合を阻止すると共に、偽陽性の結果を最小限に抑える(例えば同上のp.13−14参照。マイクロタイタープレートをブロッキングする方法および試薬について記載されている)。一般に用いられるブロッキング剤は、例えばBSA(通常、PBS中にて濃度1%から5%(w/v)、pH=7.0で用いられる)、脱脂粉乳、カゼイン(脱脂粉乳の主要タンパク質成分)もしくはカゼイン塩(caseinate)(より溶解性が高いカゼインであり、水酸化ナトリウムを加え部分分解して作られる)、正常血清(通常、濃度1%から5%(v/vで用いられる)、およびゼラチン(通常、濃度1%から5%(w/v)で用いられる)などのタンパク液か、またはTween−20(登録商標)やTrioton X−100(登録商標)などの非イオン性界面活性剤である。
【0034】
一般によく用いられる洗浄剤は、特異な抗原−抗体相互作用を検出する能力に影響を及ぼし得る各種反応成分間の低親和性相互作用を妨げる能力によって選ばれている(例えば、同上のp.14−15参照。マイクロタイタープレートを洗浄する方法および試薬について記載されている)。洗浄溶液は通常、抗原およびその同種抗原の変性を阻止し、かつ、酵素活性を維持させる生理学的バッファーを含んでいる。例として、中性pHのPBS、トリス−生理食塩、またはイミダゾール緩衝生理食塩などのバッファーが広く用いられている。具体的なバッファーは、普通、所定のアッセイに採用される測定方法に基づいて選ばれる。洗浄バッファーにはさらに、反応成分間の低親和性、非特異的相互作用を阻止する目的で、濃度0.01%から0.05%(v/v)の非イオン性洗浄剤、例えばTween−20(登録商標)、Triton X−100(登録商標)またはこれらに類似したものなどが含まれていなければならない。
【0035】
ブロッキングステップが終わったら、マイクロタイタープレートのウェルを洗浄し、次いで、吸着された抗原を自己免疫疾患と診断される対象からの生体サンプルでインキュベートする、一次抗体インキュベーションを行う。一次抗体インキュベーション後、そのウェルを洗浄してから、発色(例えばホースラディッシュペルオキシダーゼおよびTMB)、蛍光または化学発光(例えばアルカリホスファターゼ)手段で標識された二次抗体を用いて、自己抗体−自己抗原複合体の存在を検出する(例えば、同上のp.15〜21参照。抗原の調製および扱いの他、一般によく用いられる検出分子(detection molecules)について記載されている)。発色または蛍光量はルミノメータ、分光光度計またはその他類似する計器を用いて測定することができる。
【0036】
標準ELISAプロトコールには、競合ELISA、サンドイッチELISAや、その他多くのELISAを含め、多数の広く用いられているバリエーションがある。当業者は、検出すべき抗体、使用する抗原、アッセイで用いる抗原および/または一次抗体の採取源、ならびにその他関連する実験パラメータに応じて、使用に適したプロトコールを選択することができよう。これらおよびその他多くの置換や可能性は、当業者には容易に明からとなるはずであり、かつ本発明の範囲において均等であると見なされる。
【0037】
B.重症筋無力症の臨床型
成人重症筋無力症は、オッサーマンおよびジェンキンスによって分類されているような、4つのグループに分けられる(オッサーマン,K.E.(Osserman,K.E.)およびジェンキンス,G. (Genkins,G.)、「Studies in myasthenia gravis : review of a twenty-year experience in over 1200 patients」、マウント シナイ ジャーナル オブ メディシン(Mount Sinai Journal of Medicine)、1971年、第38巻、第6号、p.497〜537;「Myasthenia Gravis」、[online]、[最終アクセス日2005年12月1日]、インターネット、<URL:http://www.neuroland.com/nm/myas_gra.htm>)。患者の約20%がI型MG、30%がIIA型、20%がIIB型、11%がIII型、そして9%がIV型であると診断される。残り10%のケースは大体が小児発生である(オッサーマンおよびジェンキンス、上記p.502参照)。
【0038】
I型MGまたは眼筋MGでは、症状は主に片眼もしくは両眼の眼筋のみに限局される。それは下垂と複視を特徴とするが、症状が2年以内に他の筋群へ広がらなければ、この型のMGはたいていの場合非進行性に止まる。この型のMG患者のうち、55%のみがAChRに特異な自己抗体を有している(オッサーマン,K.E.およびジェンキンス,G.、上記p.501;「Myasthenia Gravis」、[online]、[最終アクセス日2005年12月1日]、インターネット、<URL:http://www.neuroland.com/nm/myas_gra.htm>参照)。
【0039】
IIa型MGまたは軽症の全身性MGでは、症状はゆっくり進行する傾向にあり、時に眼筋から始まることもあるが、骨格および球性(bulbar)筋組織へと徐々に広がっていく。呼吸筋は普通影響を受けない。この型のMG患者のうち約80%がAChRに特異な自己抗体を有している。IIb型MGまたは中等度の全身性MGでは、症状は同じくゆっくり進行し、眼筋から始まる場合が多く、かつ、骨格および球性筋組織へと徐々に広がっていく。その症状は、IIA型MGの患者におけるよりも重いが、同じく呼吸筋に影響することは普通ない(オッサーマン,K.E.およびジェンキンス,G.、上記p.501〜02;「Myasthenia Gravis」、[online]、[最終アクセス日2005年12月1日]、インターネット、<URL:http://www.neuroland.com/nm/myas_gra.htm>参照)。
【0040】
III型MGまたは急性激症型MGにおいて、この疾患は、骨格および球性筋における症状の急激な発生と早期の呼吸筋障害とを伴う中等症または急性のものである。III型MG患者は胸腺腫を発症することが多い。病気の進行は通常6ヶ月以内に完結する。III型MG患者の死亡率は高い。この型のMG患者の実質100%がAChRに特異な自己抗体を持っている(オッサーマン,K.E.およびジェンキンス,G.、上記p.502、「Myasthenia Gravis」、[online]、[最終アクセス日2005年12月1日]、インターネット、<URL:http://www.neuroland.com/nm/myas_gra.htm>)。
【0041】
IV型MGまたは晩期重症MGにおいて、この疾患は、IまたはII型のような症状の発現後2年以上経ってから慢性かつ重症となる。この型のMG患者の約89%がAChRに特異な自己抗体を有する(オッサーマン,K.E.およびジェンキンス,G.、上記p.502、「Myasthenia Gravis」、[online]、[最終アクセス日2005年12月1日]、インターネット、<URL:http://www.neuroland.com/nm/myas_gra.htm>参照)。
【0042】
MG患者においては、少なくとも2タイプの胸腺病変がコンスタントに見られる。患者の約50%は一定程度の胸腺肥大を示す。患者のおよそ15%は最終的に胸腺腫に進行する。一部のケースでは、MGは胸腺摘出手術により治療が成功し、50%以上の患者に症状の持続的改善をもたらすが、高齢の患者にはさほど有効ではない(オッサーマン,K.E.およびジェンキンス,G.、上記p.515〜23参照)。
【0043】
C.重症筋無力症に関連する自己抗原
特定の自己免疫疾患に関連する自己抗原候補は、各種方法、例えば、参照することにより本明細書に組み込まれる2005年6月9日公開の米国特許出願公開第2005/0124076号明細書に記載された方法などによって同定することができる。この方法によると、血清自己抗体を、健常な個体と、例えばMGなど目的の自己免疫疾患を患う個体とより採取した血清サンプルから精製する。精製した免疫グロブリンをクロマトグラフ媒体に共有結合し、アフィニティーカラムとして用いる。次いで、例えばこの疾患の病因または進行に関与する臓器、組織または細胞型より採取した、MGを持つ対象から単離したタンパク質サンプルを分析する。
【0044】
例として、MGに関連する自己抗原候補を同定するために、MGに特有な免疫介在性のアセチルコリン受容体障害が生じる、成熟した神経筋接合部の筋終板からのタンパク質サンプルを用いることができる。通常は、先ず、このタンパク質サンプルを、健常な個体から単離した免疫グロブリンを含むカラムに通す。次いで、非結合タンパク質を、MG患者から単離した免疫グロブリンを含むカラムに通す。第2のカラムに結合した全てのタンパク質は、単離された各タンパク質を同定するために、引き続きカラムから溶出されると共に例えば質量分析といったさらなる分析に用いられることとなる自己抗原候補である。
【0045】
この方法により、hsp60およびhsp90がMG患者における新規な2種の自己抗原候補であると同定された。ELISAデータは、AChRに特異的に結合する自己抗体を持たない初期段階のMG(ステージIまたはステージIIaと定義される)が、hsp60およびhsp90を特異的に結合する自己抗体を有することを実証している。したがって、このような自己抗体の存在をアッセイすることで、MG、特に、この疾患に関連することの最も多い自己抗原であるAChRに対し自己抗体を持たない初期段階患者におけるMGを診断する新規な方法が提供される(例えば図5参照)。
【0046】
自己抗原候補は、例えばcDNA発現ライブラリーのスクリーニング、またはサブトラクティブファージディスプレイなどその他の方法によって同定することもできる。これらの方法によって自己抗原の有力候補を同定するにあたっては、ファージディスプレイまたはその他のタンパク質発現ライブラリーを、MGの病因と進行に関わる臓器、組織または細胞型(例えば、成熟した神経筋接合部の筋終板)から単離したmRNAによって構築する。続いて、かかるライブラリーを、目的の自己免疫疾患に罹っている個体より採取した血清サンプルから精製した免疫グロブリンでスクリーニングしたのち、その結果を、健常な個体より採取した血清サンプルから精製した免疫グロブリンを用いて得たものと比較する。
【0047】
上述に提示したものに加え、標準的な自己抗原スクリーニングプロトコールにはその他多くのバリエーションがある。当業者は、研究対象である自己免疫疾患、自己抗原候補を得るべくスクリーニングされる生体サンプルの採取源、およびその他任意の関連する実験パラメータに応じて、使用に適したプロトコールを選択することができよう。これらおよびその他多くの置換や可能性は、当業者には容易に明からとなるはずであり、かつ本発明の範囲において均等であると見なされる。
【0048】
1.熱ショックタンパク質
温度の急激な上昇またはその他の形式の環境ストレスに対し、進化的に保存された小さな一群のタンパク質を合成することにより応答する有機体は、熱ショックタンパク質と呼ばれる。熱ショック応答の性質と各熱ショックタンパク質ファミリーのメンバーのアミノ酸配列は、いずれも進化を通して高度に保存されている。例えば、原核生物および真核生物の熱ショックタンパク質70(hsp70)は、アミノ酸レベルで略50%同一である(パーセルら(Parsell et al.)、「The function of heat-shock proteins in stress tolerance: degradation and reactivation of damaged proteins」、アニュアル レビュー オブ ジェネティクス(Annual Review of Genetics)、1993年、第27巻、p.437〜496)。熱ショックタンパク質ファミリーの個々のメンバーは、環境ストレスから生物を保護するにあたってそれぞれ異なる役割を果たす。
【0049】
a.60kD熱ショックタンパク質
60kD熱ショックタンパク質(hsp60)は主に、ミトコンドリアマトリクスに見出され、全ミトコンドリアマトリクスタンパク質の約1%を占める(パーセルら、上記p.465)。ヒトhsp60(配列番号1)は、その大腸菌ホモログ(E.coli homolog)であるGroELと約60%のアミノ酸配列同一性を持つ(同上)。どちらのタンパク質も、単一の7員環から構成される共通のオリゴマー構造をとるが、2つの7員環からなる「ダブルドーナツ」として観察されることもある(同上)。Hsp60は温度上昇に伴って高まるATPアーゼ活性を有しており、ATPの結合は、オリゴマーの著しい構造変化を誘発する(同上)。
【0050】
その他の熱ショックタンパク質ファミリーのメンバーとは異なり、hsp60は常温で機能する(同上、p.465〜66)。このことは、あらゆる温度において成長するために必要不可欠な要素である(同上)。hsp60は、アンフォールドした(unfolded)または変性した(denatured)タンパク質に高い親和性をもって結合すると共に、それらの正常なフォールディングを促す(同上)。変性した基質は、hsp60に結合しているあいだに二次構造のエレメントを獲得し始めるが、より複雑な構造エレメントの形成は抑制される(同上)。
【0051】
b.90kD熱ショックタンパク質
90kD熱ショックタンパク質(hsp90)は、これまでの検証により全ての真核生物の細胞質と細胞核中に発見されているが、細胞小器官の種(species)は未だ同定されていない(パーセルら、上記p.470)。hsp90の主な細胞質アイソフォームには、誘導型の、主要なフォームであるhsp90α(配列番号2)と、構成的発現型の、副次的なフォームであるhsp90β(配列番号3)の2つがある(スリードハーら(Sreedhar et al.)、「Hsp90 isoforms: functions, expression and clinical importance」、フェデレーション オブ ヨーロピアン バイオケミカル ソサイエティーズ レターズ(Federation of European Biochemical Societies Letters)、2004年、第562巻、p.11〜15)。αおよびβアイソフォームの生化学的分離は困難であるので、hsp90の生化学的役割を研究する実験のほとんどが、両方の混合体を用いて行われている(同上)。
【0052】
ヒトhsp90αは、その大腸菌ホモログ(E.Coli homolog)であるHtpGと約40%のアミノ酸配列同一性を持つ(パーセル、上記参照)。HtpGは常温において中程度に豊富であり、かつ、熱によって強く誘発されるが、これは重要なことではない。これをコード化する遺伝子の欠失により常温における成長が影響を受けることはなく、高温でもわずかな影響しか受けないからである(同上)。これとは対照的に、hsp90は真核細胞において最も豊富なタンパク質の1つであり、ストレスのない状況下で全細胞タンパク質の1〜2%を占める。真核生物におけるhsp90遺伝子の欠失は致命的であり、このことは、真核生物のhsp90が、その原核生物ホモログにはない、新規で重要な機能を得たということを示唆する(スリードハーら、上記参照;パーセルら、上記参照)。
【0053】
hsp90は、カゼイン、キナーゼII、ヘム調節elF−2αキナーゼ、エストロゲン、プロステロン、アンドロゲン、グルココルチロイドなどの各種ステロイドホルモン受容体およびダイオキシン受容体、srcファミリーの発癌性チロシンキナーゼ、カルモジュリン、アクチン、ならびにチューブリンを含む他の多くの細胞タンパク質と相互に作用する(パーセルら、上記p.471)。hsp90が細胞の分化および発達において筋発生の調節から初期胚発生およびプログラム細胞死またはアポトーシスの調節にいたるまで様々な役割を果たすということが、実験からわかっている(スリードハーら、上記p.12参照)。さらに、いくつかの証拠は、hsp90の発現がすい臓や乳腺など数種の腫瘍および白血病に関わっていることを示唆している(同上p.13)。また、上昇したhsp90βの転写は、スプライセオソーム型snRNP、Ro/Laリボ核粒子、ヒストンおよび/または天然DNAに対する自己抗体を特徴とする自己免疫疾患、全身性エリテマトーデスに関与する(同上)。
【0054】
II.自己免疫疾患の診断用キット
本発明の方法は、重症筋無力症に特有な少なくとも1種の自己抗原に特異的に結合する自己抗体を検出するための上記技術のうち、1つまたは複数を取り入れる診断キットによって実施され得る。例えば1実施形態において、該キットは、自己抗体の量をウェスタンブロット法によりアッセイするものである。1態様において、該キットは、本発明の新規な2種の自己抗原であるhsp60とhsp90α/hsp90βそれぞれのアリコートが固定されている複数のテストストリップを含む。
【0055】
この実施形態では、該キットはさらに、各自己抗原に対して特異な制御抗体と、自己抗原−自己抗体複合体の視覚化に有用なホースラディッシュペルオキシダーゼやその他任意の物質に直接的または間接的に結合する二次抗体と、ウェスタンブロット法の各種ブロッキング、洗浄、ハイブリダイゼーションおよび検出ステップを実施するのに必要なあらゆるチューブ、容器または反応容器、バッファーおよび試薬と、を含む。上述の制御抗体タンパク質は、適したバッファーもしくは溶剤中に、または凍結乾燥粉末として提供され得る。同じように、上述のバッファーおよびその他の試薬も、予混合された、または該キットの使用者がもどす(reconstitute)必要がある乾燥状態で提供され得る。かかるキットには、他の構成要素、包装、使用説明書、または自己抗体の検出に役立つその他の材料が含まれていてもよい。
【0056】
別な実施形態において、該キットは、上述した自己抗体の量をELISAによりアッセイするものである。1態様において、該キットは、本発明の新規な2種の自己抗原であるhsp60とhsp90α/hsp90βがそれぞれコーティングされた複数のマイクロタイタープレートを含む。
【0057】
この実施形態では、該キットはさらに、各自己抗原に対して特異な制御抗体と、自己抗原−自己抗体複合体の視覚化に有用なホースラディッシュペルオキシダーゼまたはその他任意の物質と直接的または間接的に結合する二次抗体と、ELISAの各種ブロッキング、洗浄、ハイブリダイゼーションおよび検出ステップを実施するのに必要な全てのチューブ、容器または反応容器、バッファーおよび試薬と、を含む。上述の制御抗体タンパク質は、適したバッファーもしくは溶剤中に、または凍結乾燥粉末として提供され得る。同じように、上述のバッファーおよびその他の試薬も、予混合された、または該キットの使用者がもどす必要がある乾燥状態で提供され得る。かかるキットには、他の構成要素、包装、使用説明書、または自己抗体の検出に役立つその他の材料が含まれていてもよい。
【実施例】
【0058】
実施例1:ウェスタンブロット法による自己抗体の同定
中華民国台湾・新光医院(Shin-Kong Hospital)の重症筋無力症患者209人から血清サンプルを採取した。これら患者をその胸腺病理に基づいて、一定程度の胸腺萎縮を示す37人の患者、胸腺腫に進行した121人の患者、一定程度の胸腺肥大を示す40人の患者、および未知の胸腺の病状を持つ11人の患者、の4グループに分けた。患者の76人がI型MG、81人がIIa型、38人がIIb型、そして40人がIII型かIV型MGのいずれかであった。ネガティブコントロールには、その全員が自己免疫を原因としない無関連の疾患、膜性糸球体腎炎(MGN)を患う台中栄民総医院(Taichung Veterans General Hospital)の患者54人から採取した血清を使った。
【0059】
1レーンあたり20μgの細胞抽出物、および1レーンあたり2μgのhsp60またはhsp90タンパク質をのせた10%SDS−PAGEゲル上でhepG2/C3A細胞溶解物を分離した。そのサンプルを、スタッキングゲル中80ボルト、および分解ゲル中120ボルトで電気泳動させた。TE70シリーズ セミドライ トランスファー ユニット(アマシャム バイオサイエンス)を用い、該メーカーの使用説明書にしたがって分画タンパク質をPVDFに転写した。転写バッファーはTowbinバッファーとした(1×は、25mM Tris−Hcl、pH=8.30、192mMグリシン、および20%(v/v)メタノール)。
【0060】
PVDF膜を、5%(w/v)脱脂粉乳含有PBSTバッファー(80mM Na2HPO4、20mM NaH2PO4、100mM NaCl、0.05〜0.1%(v/v)Tween−20)中にて、室温で1時間、または4℃で一晩ブロッキングした。次いで、ブロッキングした膜を、1:1000に希釈した患者の血清を含む5%(w/v)脱脂粉乳含有PBSTバッファー中にて、室温で1時間インキュベートした。一次抗体でのインキュベート後、膜をPBSTで洗浄した。続いて、その膜を、5%(w/v)脱脂粉乳含有PBSTバッファー中、1:5000に希釈されたホースラディッシュペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgGである二次抗体で、室温下1時間インキュベートした。該二次抗体は、Fcγ(ジャクソン イムノリサーチ ラボラトリーズ社製)に特異なホースラディッシュペルオキシダーゼ結合マウス抗ヒトIgGであり、米国カリフォルニア州カマロのバイオソース インターナショナル社から購入したものである。固定化抗原に結合した自己抗体を、アマシャム ファーマシア バイオテックのECLブロッティング基板を用い、該メーカーの使用説明書にしたがって、酵素結合化学発光(enzyme-linked chemiluminescence)により検出した。
【0061】
これら実験の結果が図1および2に示してある。サンプルは、胸腺肥大の女性患者(HF)、胸腺肥大の男性患者(HM)、胸腺腫の女性患者(TF)、および胸腺腫の男性患者(TM)から採取したものである。hsp60またはhsp90に特異な自己抗体に陽性のサンプルをドットで示した。これら実験は、MG晩期にある患者の多くがhsp60またはhsp90に特異な自己抗体を有することを証明している。
【0062】
実施例2:酵素免疫測定法(ELISA)による自己抗体の同定
上述の実施例1において説明した血清サンプルのアリコートを、ELISAによりさらに評価した。マイクロウェルELISAプレート(米国ニューヨーク州ニューヨーク、コーニング ライフ サイエンス社製)を、pH8.6の0.1M NaHCO3中、組み換えヒトhsp60(大腸菌から精製したもの)またはhsp90(サッカロミセス・セレヴィシエから精製したもの)0.2μgで、4℃にて一晩コーティングした。これら2つの組み換え熱ショックタンパク質はシグマ−アルドリッチ株式会社から購入したものである。次いで、コーティングされたプレートをPBSでそれぞれ3回、1分ずつ洗浄してから、200μlのブロッキング溶液(5mg/mlウシ血清アルブミン(BSA)含有PBST)で、37℃1時間インキュベートした。各ウェルをPBSTでそれぞれ6回、1分ずつ洗浄した。続いて、そのプレートを、ブロッキング溶液中にて1:100から1:800に希釈した患者の血清で1時間半37℃でインキュベートした。一次抗体でのインキュベート後、そのプレートを再びブロッキング溶液でそれぞれ6回、1分ずつ洗浄してから、PBST+5mg/ml BSA中にて1:10000に希釈した二次抗体であるFcγ(ジャクソン イムノリサーチ ラボラトリーズ社製)に特異なホースラディッシュペルオキシダーゼ結合マウス抗ヒトIgGで室温下1時間インキュベートした。そのプレートを再び室温にてPBST+5mg/ml BSAで6回洗浄してから、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMB)溶液100μlを加えることにより発色させ、50mMリン酸クエン酸塩(citrate phosphate)で処理した。TMBの添加後、プレートを室温で30分インキュベートしてから、MPXマイクロプレートリーダー(ダイネックス テクノロジーズ社製)を用い、該メーカーの使用説明書にしたがって、450nmで吸光度を測定した。
【0063】
これら実験の結果が図3(hsp60)および図4(hsp90)に示されており、ここに、コントロールグループのELISAの結果と、全ての病期における患者を含むMGグループのELISAの結果とが比較されている。450nmにおける平均吸光度は水平線で示してある。これら実験では、hsp90のアイソフォーム、アルファとベータを区別していない。このデータは、いかなる病期におけるMG患者もhsp60およびhsp90に特異な自己抗体を有するということを示している。
【0064】
表1は、AChRの自己抗体を持たないステージIまたはステージIIaMG患者において、ELISAによりhsp60またはhsp90自己抗体が測定されたことを示すものである。
【0065】
表1は、hsp60またはhsp90に特異的に結合する自己抗体の存在をアッセイすることによれば、AChR自己抗体を持たないIまたはIIa型MG患者におけるMGが正確に診断され得るということを示す。患者40人においてhsp60およびhsp90に特異な自己抗体をELISAでアッセイしたところ、24人がI型MGと診断され、16人がIIa型MGと診断された。アッセイは、実施例2において説明したプロトコールによって行った。吸光度の測定値は標準法によりタンパク質濃度に換算した。カットオフポイントは、(1)OD450=0.2(AChR)、(2)OD450=0.375(hsp60)、および(3)OD450=0.232(hsp90)であった。40人の患者全てが検出可能なAChR自己抗体(「AChR」と表示された列)を持っていなかった。28人の患者が測定可能レベルのhsp60自己抗体を有していた(「hsp60」と表示された列のI型24人のうち18人、IIa型16人のうち10人)。33人の患者が測定可能レベルのhsp90自己抗体を有していた(「hsp90」と表示された列のI型24人のうち21人、IIa型16人のうち12人)。
【0066】
【表1】

【0067】
図5には、本発明の方法が、「高感度」および「特異的」なMGの診断を提供することが示されている。「感度」は、hsp60(タンパク質_1)またはhsp90(タンパク質_2)に特異的に結合する自己抗体に対し検査で陽性を示したMG患者の割合である(ヘネケンズら(HENNEKENS ET AL.)、「EPIDEMIOLOGY IN MEDICINE」 第1版、1987年、p.331〜335)。「特異度」は、hsp60(タンパク質_1)またはhsp90(タンパク質_2)自己抗体に対して検査で陰性を示した非MG患者の割合である(同上)。この実験によって、AChRに特異的に結合する自己抗体を持たない眼筋(I型)または軽度、全身性(IIa型)MGと診断された患者のうち、76%がhsp60に特異的に結合する自己抗体を持ち、86%がhsp90に特異的に結合する自己抗体を持つということが実証された。また、非MG患者の91%がhsp60自己抗体に対して検査で陰性を示し、かつ、非MG患者の86%がhsp90自己抗体に対して検査で陰性を示した。
【0068】
表2では、(1)AChR、(2)hsp60、(3)hsp90、(4)hsp60+hsp90、(5)AChR+hsp60、または(6)AChR+hsp90に対する特異性についてのアッセイの診断感度を比較している。AChRに特異な自己抗体のみのアッセイはステージI(眼筋)MGの患者に対する感度が最も低い。
【0069】
表2は、hsp60、hsp90、hsp60+hsp90、AChR+hsp60、またはAChR+hsp90に特異的に結合する自己抗体の分析が、AChRに特異な自己抗体のみをアッセイするのに比べて、I期(眼筋)MG患者をより高感度に同定する方法を提供するということを示している。表2に要約されたデータは、表1について上述したELISA分析とカットオフ値を用い、I期のMG患者73人から得たものである。
【0070】
【表2】

【0071】
このように、hsp60および/またはhsp90自己抗体の存在をアッセイすることにより、特に、最も一般的にMGと関与するとされる臨床的指標、AChRに対する自己抗体を持たない早期患者について、新規で、高感度、かつ特異的なMGの診断方法が提供される。
【0072】
本明細書は、ここに挙げた諸参考文献の開示に照らすことで、最も完全に理解される。本明細書における諸実施形態は、本発明の具体例を説明するものであり、本発明の範囲を制限するものと見なされるべきではない。当業者は、その他多くの実施形態が本発明に包含されるということを容易に認識できる。本明細書に挙げた全ての刊行物および特許は、参照することにより全体として組み込まれる。あらゆる一般的な辞書、専門辞典、または参照することにより組み込まれる文献が、本明細書と相反するまたは矛盾する場合に限って、本明細書は全てのこうした文献よりも優先されることとなる。ここに挙げたいかなる参照文献の引用も、かかる参照文献が本発明の先行技術であるということの承認ではない。
【0073】
特に指示のない限り、特許請求の範囲も含め本明細書で用いられる成分、反応条件などの量を表わす全ての数は、あらゆる場合において、「約」という語で修飾されると理解されるべきである。したがって、そうではないとの指示がなければ、数値パラメータは、近似値であると共に、本発明により得ようとする所望の特性に応じて変えることができる。少なくとも、かつ、均等論に基づく本出願を特許請求の範囲に限定するようなことなく、各数値パラメータは、有効桁または通常の四捨五入を行った数をも考慮に入れて、解釈されるべきである。
【0074】
特に指示のない限り、一連の構成要素の前に置かれる「少なくとも」という語は、そのうちの全ての構成要素にそれぞれ言及していると理解されるべきである。当業者であれば通常の実験を利用するだけで、ここに説明した本発明の特定の実施形態の均等物を多数認め、あるいは確認することができるであろう。かかる均等物は、添付の特許請求の範囲に包含されるよう意図されている。
【0075】
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ソムニエール(Somnier)、「Increasing incidence of late-onset anti-AChR antibody-seropositive myasthenia gravis」、ニューロロジー(Neurology)、2005年、第65巻、p.928〜930
スリードハーら(Sreedhar et al.)、「Hsp90 isoforms: functions, expression and clinical importance」、フェデレーション オブ ヨーロピアン バイオケミカル ソサイエティーズ レターズ(Federation of European Biochemical Societies Letters)、2004年、第562巻、p.11〜15
ジュワンら(Zhuang et al.)、「Measurement of Association Rate Constant of Antibody-Antigen Interaction in Solution Based on Enzyme-Linked Immunosorbent Assay」、ジャーナル オブ バイオサイエンス アンド バイオエンジニアリング(JOURNAL OF BIOSCIENCE AND BIOENGINEERING)、2001年、第92巻、第4号、p.330〜336
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】熱ショックタンパク質60(hsp60)に特異な自己抗体同定のための、実施例1のプロトコールによる、全身性重症筋無力症患者の血清でプローブした細胞溶解物のウェスタンブロットを示すものである。陽性のブロットはドットで示されている。サンプルは、胸腺肥大の女性患者(HF)、胸腺肥大の男性患者(HM)、胸腺腫の女性患者(TF)、および胸腺腫の男性患者(TM)から採取している。
【図2】熱ショックタンパク質90(hsp90)に特異な自己抗体同定のための、実施例1のプロトコールによる、全身性重症筋無力症患者の血清でプローブした細胞溶解物のウェスタンブロットを示すものである。これらの実験ではhsp90のアイソフォーム、アルファとベータを区別していない。陽性のブロットはドットで示されている。サンプルは、胸腺肥大の女性患者(HF)、胸腺肥大の男性患者(HM)、胸腺腫の女性患者(TF)、および胸腺腫の男性患者(TM)から採取している。
【図3】実施例2のプロトコールによりhsp60を同定するために全身性MG患者の血清を用いて行った酵素免疫測定法(ELISA)の結果を示すものである。棒は平均OD450値を示す。
【図4】実施例2のプロトコールによりhsp90を同定するために全身性MGの患者の血清を用いて行った酵素免疫測定法(ELISA)の結果を示すものである。棒は平均OD450値を示す。これらの実験ではhsp90のアイソフォーム、アルファとベータを区別していない。
【図5】検査で陽性のMG患者と検査で陰性の非MG患者とを正確に分類する本発明の方法の診断能力を示すものである。検査で陽性の患者はhsp60(タンパク質_1)および/またはhsp90(タンパク質_2)に特異的に結合する自己抗体を有しているのに対し、検査で陰性の患者はhsp60およびhsp90に特異な自己抗体を有していない。
【配列表フリーテキスト】
【0077】
配列番号1は、ヒト熱ショックタンパク質60(hsp60)のアミノ酸配列である。
【0078】
配列番号2は、アルファアイソフォームのヒト熱ショックタンパク質90(hsp90)のアミノ酸配列である。
【0079】
配列番号3は、ベータアイソフォームのヒト熱ショックタンパク質90(hsp90)のアミノ酸配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
げっ歯動物である対象の重症筋無力症を診断する方法であって、
(a)前記対象から生体サンプルを得る工程、および
(b)前記生体サンプルにおける少なくとも1種の自己抗体の量を測定する工程、を含み、
前記自己抗体は、熱ショックタンパク質60(hsp60)(配列番号1)、アルファアイソフォームの熱ショックタンパク質90(hsp90α)(配列番号2)、およびベータアイソフォームの熱ショックタンパク質90(hsp90β)(配列番号3)から選ばれた少なくとも1種のタンパク質に特異的に結合し、
前記生体サンプルに前記自己抗体が存在することが、前記対象が重症筋無力症を有するということを示す方法。
【請求項2】
前記げっ歯動物がマウスである請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記げっ歯動物がラットである請求項1記載の方法。
【請求項4】
重症筋無力症を有する対象を同定するキットであって、熱ショックタンパク質60(hsp60)(配列番号1)、アルファアイソフォームの熱ショックタンパク質90(hsp90α)(配列番号2)、およびベータアイソフォームの熱ショックタンパク質90(hsp90β)(配列番号3)から選ばれた1種または複数のタンパク質に特異的に結合する、生体サンプルにおける少なくとも1種の自己抗体の量を測定するための試薬を含むキット。
【請求項5】
前記生体サンプルが、血清、血液、血漿、唾液、羊水、滑液、涙液、乳汁、リンパ液、尿、および汗から選ばれたものである請求項4記載のキット。
【請求項6】
前記自己抗体が、
(a)ウェスタンブロット法、および
(b)酵素免疫測定法(ELISA)
から選ばれた1つまたは複数の方法により検出される請求項5記載のキット。
【請求項7】
前記対象が哺乳動物である請求項6記載のキット。
【請求項8】
前記哺乳動物がヒトである請求項7記載のキット。
【請求項9】
前記哺乳動物がげっ歯動物である請求項7記載のキット。
【請求項10】
前記げっ歯動物がマウスである請求項9記載のキット。
【請求項11】
前記げっ歯動物がラットである請求項9記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−183176(P2007−183176A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−1642(P2006−1642)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【出願人】(390023582)財団法人工業技術研究院 (524)
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】195 Chung Hsing Rd.,Sec.4,Chutung,Hsin−Chu,Taiwan R.O.C
【出願人】(506008984)財団法人國家衛生研究院 (2)
【Fターム(参考)】