説明

重金属不溶化材及び重金属不溶化方法

【課題】高アルカリ条件下でも重金属の不溶化効果が高く、大量のスラッジの処理や前処理が不要で、不溶化処理が容易に行える重金属不溶化材及び重金属不溶化方法を提供することを課題としている。
【解決手段】次亜リン酸、次亜リン酸塩、亜リン酸及び亜リン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも一種類の化合物を含有することを特徴とする重金属不溶化材および重金属不溶化方法を提供することにある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属を含む汚染水、汚染土壌等の処理対象物に混合することで、前記重金属を不溶化させる重金属不溶化材及び、該重金属不溶化材を用いた重金属不溶化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工場排水、鉱山廃水等の汚染水や、汚染土壌、各種廃棄物の焼却灰、あるいは煤じん等の汚染物には、六価クロム、鉛、砒素、水銀、セレン、カドミウム、モリブデン、銅、アンチモン、亜鉛、ニッケル、フッ素等の有害な重金属が含まれていることがある。
これらの重金属で汚染された汚染物は、環境に与える影響が大きいため、その処理にあたり環境基準等が定められており、環境に影響を与えないように処理する技術が求められている。
【0003】
このような、重金属を含む汚染物を処理する技術としては、例えば、アルミン酸カルシウム(カルシウムアルミネート;CaO・Al23、CaO・2Al23、3CaO・Al23、12CaO・7Al23等)、ハロアルミン酸カルシウム(11CaO・7Al23・CaF2など)やこれらの水和物を固化材として、汚染土壌等に混合して、土壌等を固化することが知られている(特許文献1及び特許文献2)。
【0004】
これらの固化材は、前記重金属を吸着することで不溶化することができる。
特に、六価クロムについては、セメントなどの水硬性化合物と共同的に作用して、エトリントガイトの生成を制御して六価クロムを迅速に固定化することによって環境への溶出を防止する。
【0005】
しかしながら、アルミン酸カルシウムやハロアルミン酸カルシウムは、処理対象物に混合した場合に高アルカリ性となるが、鉛等の両性金属は、高アルカリ条件下では、亜鉛酸イオンや鉛酸イオンとして処理対象物中において再度溶解することがあり、これらの重金属の不溶化するには不十分であった。
【0006】
また、六価クロムやモリブデンについても、高アルカリ性下では、クロム酸イオン(CrO42-)、ニクロム酸イオン(Cr272-)、モリブデン酸イオン(MoO42-)等の非常に安定なアニオン(陰イオン)の状態で存在するため、難溶性の水酸化物を形成できず、不溶化が十分に行なえない。
【0007】
さらに、特許文献2では、エトリントガイトの生成を制御して、このエトリントガイトによって六価クロムを吸着・固定させることが記載されている。
しかし、エトリンガイトによるクロム酸イオン、ニクロム酸イオン、モリブデン酸イオンの吸着量は低く、またエトリンガイトは熱及び化学的に不安定であるため、いずれも実用上十分な重金属不溶化能力を有するものではない。
【0008】
そこで、六価クロムを含む対象物を処理する方法として、亜硫酸塩や第二硫酸鉄等の還元剤を添加して、六価クロムを毒性の低い三価クロムに還元する方法が知られている(非特許文献1)。
【0009】
しかしながら、亜硫酸塩を添加する場合には、最適添加量の調整が難しく、過剰に添加すると、還元した三価クロムがコロイドとなって再溶解してしまう。
さらに、第二硫酸鉄を添加する場合には、水酸化ナトリウム等を添加してpHをアルカリ性にして、還元した三価クロムを水酸化クロムとして沈殿させるが、この沈殿物が大量のスラッジとして発生するため、スラッジの処理にさらに手間とコストがかかるという問題もある。
【0010】
さらに、硫酸鉄は高アルカリ性において還元能力が低いため、処理対象物が高アルカリ性の場合には、前処理としてpHを調整する必要があり手間がかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭53−11758号公報
【特許文献2】特開平10−279937号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】五訂・公害防止の技術と法規[水質編]、社団法人産業管理協会、1995年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記のような従来の問題を鑑みてなされたものであり、高アルカリ条件下でも重金属の不溶化効果が高く、大量のスラッジの処理や前処理が不要で、不溶化処理が容易に行える重金属の不溶化材及び不溶化方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の重金属不溶化材は、次亜リン酸、次亜リン酸塩、亜リン酸及び亜リン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも一種類の化合物を含有することを特徴としている。
【0015】
前記各リン酸化合物を含む重金属不溶化材は、重金属を含む液体または粉体等の固体からなる処理対象物に混合するだけで、広いpH域において重金属を不溶化することができる。
特に、重金属を不溶化しにくいpH12以上の高アルカリ条件下でも、pHを調整することなく効果的に不溶化することができる。
【0016】
なお、本発明でいう重金属の不溶化とは、還元作用によって重金属を還元し、該還元物を沈殿させること、あるいは、重金属を水に不溶性の化合物とすることを意味する。
【0017】
また、本発明でいう重金属とは、六価クロム、水銀、鉛、砒素、セレン、カドミウム、モリブデン、銅、アンチモン、亜鉛、ニッケル等の毒性の高い重金属をいう。
【0018】
また、本発明においては、セメント、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、製鋼スラグ、非鉄スラグ、非晶質シリカ、ゼオライト、粘土鉱物、鉄、活性炭からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む助材を含有することが好ましい。
【0019】
前記リン酸化合物に加えて前記のような助材を併用することで、さらに、不溶化効果が向上する。
【0020】
さらに、本発明の重金属不溶化方法は、前記いずれかの重金属不溶化材を、重金属を含有する処理対象物に混合することを特徴としている。
【0021】
本発明の重金属不溶化材を、重金属を含有する処理対象物に混合することで、容易に処理対象物中の重金属を不溶化することができる。
なお、処理対象物は、工場廃水等の液体であってもよく、あるいは汚染土壌等の固体であってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高アルカリ条件下でも、有害な重金属を容易に不溶化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。
本発明は、重金属不溶化材及び重金属不溶化材を用いた重金不溶化方法に関するものである。
【0024】
まず、重金属不溶化材について説明する。
本実施形態の重金属不溶化材は、次亜リン酸、次亜リン酸塩、亜リン酸及び亜リン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも一種類の化合物を含有するものである。
【0025】
前記各リン酸化合物は、高アルカリ性雰囲気下で還元性を有し、例えば、pH12以上の高アルカリ性雰囲気下でも、重金属と反応して沈殿、あるいは不溶化化合物を形成することができる。
【0026】
前記次亜リン酸塩としては、次亜リン酸ナトリウム(NaH2PO2)、次亜リン酸カリウム(KH2PO2)等が挙げられる。
【0027】
前記亜リン酸塩としては、亜リン酸ナトリウム(NaH2PO3)、亜リン酸カリウム(KH2PO3)、亜リン酸水素二ナトリウム(Na2HPO3)等が挙げられる。
【0028】
前記リン酸化合物は粉末状のものをそのまま用いてもよく、あるいは水やエチルアルコール等のアルコール溶媒に溶解させた溶液として使用してもよい。
尚、前記リン酸化合物は単独で用いても、二種類以上を任意の混合比率で混合して用いてもよい。
【0029】
本実施形態の重金属不溶化材には、前記リン酸化合物に加えて、さらに不溶化効果を高めるための助材を添加してもよい。
【0030】
前記助材としては、例えば、セメント、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、製鋼スラグ、非鉄スラグ、非晶質シリカ、ゼオライト、粘土鉱物、鉄、活性炭からなる群より選ばれる少なくとも一種を選択して用いることができる。
【0031】
前記助材は、水酸化物、水和物もしくは塩の形成を促進する作用、共沈作用、吸着作用、イオン交換作用または還元促進作用を有するものであり、これらの助剤の作用によって、前記重金属と前記リン酸化合物との反応による沈殿物あるいは不溶化物の形成を促進する。
【0032】
前記助材を添加した場合には、特に、処理対象物に含まれる重金属が2種類以上である場合、前記各リン酸化合物の不溶化効果との相乗効果によって効果的に不溶化を促進できる。
重金属の組み合わせとしては、特に、六価クロムと、他の重金属とが含まれている処理対象物を処理する場合に効果的に不溶化を促進できる。
【0033】
前記各助材のうち、セメント、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、製鋼スラグは、水酸化物またはカルシウム塩を形成することで、沈殿や不溶性の反応物の生成を促進することができる。
【0034】
前記セメントとしては、ポルトランドセメント、その他の混合セメント、超速硬系セメント等が挙げられる。ポルトランドセメントとしては、低熱、中庸熱、普通、早強、超早強、耐硫酸塩等の各種ポルトランドセメントが挙げられる。
また、混合セメントとしては、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント等が挙げられる。超速硬系セメントとしては、アルミナセメント、11CaO・7Al23・CaX2系(XはF等のハロゲン元素)セメント、アウイン−カルシウムサルフォアルミネート系セメント等が挙げられる。
これらの中でも、ポルトランドセメントの使用がコストの面からみて好ましい。
【0035】
さらに、前記セメントを助材として使用した場合には、高炉水砕スラグ微粉末、石灰石微粉末、フライアッシュ、シリカフューム、ニ水石膏、無水石膏、半水石膏、膨張材等のセメント組成物用の添加材として一般的に使用されているセメント混合材料及びコンクリート用混和材料を併用しても良い。
前記セメントを助材として用いた場合には、特に、カドミウム、鉛、砒素、フッ素を含む処理対象物に対して、効果的に不溶化を促進することができる。 さらに、前記各重金属を含む土壌等の固体の処理対象物に対して、効果的に不溶化を促進することができる。
【0036】
前記酸化カルシウムとしては、市販の製銑焼結用生石灰、製鋼転炉用生石灰、乾燥材等に使用される硬焼(死焼)生石灰、土質改良用生石灰、農業用生石灰、製鋼時の副産物で酸化カルシウムを多量に含む転炉スラグ及び電気炉還元スラグ等が挙げられる。
これらの中では、酸化カルシウムを多量に含む転炉スラグ及び電気炉還元スラグなどを使用することが廃棄物の有効利用になるため好ましい。
前記酸化カルシウムを助材として用いた場合には、特に、カドミウム、鉛、砒素、フッ素を含む処理対象物に対して、効果的に不溶化を促進することができる。さらに、前記各重金属を含む土壌などの固体の処理対象物に対して、効果的に不溶化を促進することがでる。
【0037】
前記水酸化カルシウムとしては、市販の酸性ガス中和用の特号消石灰、食品添加用消石灰、土質改良用消石灰、農業用消石灰、アセチレン(C22)ガスを発生させた後に残る水酸化カルシウムを多量に含んだカルシウムカーバイド等が挙げられる。
水酸化カルシウムは、工業用消石灰等の高純度で粒度が小さく比表面積が大きな反応性の高いものが好ましいが、重金属を含有していない水酸化カルシウムであれば、ケイ素、アルミニウム、鉄、マグネシウム等の多少の不純物を含有していても問題なく使用できる。
【0038】
また、通常廃棄物として処理されるホタテやカキ等の貝殻を900〜1000℃程度の温度で焼成した後に、水と反応させて得た水酸化カルシウムや、安価な工業用生石灰を水と反応させて得た水酸化カルシウムを使用すると廃棄物の有効利用になるため好ましい。
前記水酸化カルシウムを助材として用いた場合には、特に、カドミウム、鉛、砒素、フッ素を含む処理対象物に対して、効果的に不溶化を促進することができる。
【0039】
前記炭酸カルシウムとしては、炭酸カルシウム(CaCO3)を主成分とする石灰石、サンゴ、貝殻等を微粉砕した重質タンカル、あるいは水酸化カルシウムの懸濁液に二酸化炭素を導入して製造される軽質タンカルが挙げられる。
重質タンカルとしては、廃棄物由来の貝殻を微粉砕した重質タンカルを使用すると廃棄物の有効利用になるため好ましい。
前記炭酸カルシウムを助材として用いた場合には、特に、カドミウム、鉛、砒素を含む処理対象物に対して、効果的に不溶化を促進することができる。さらに、前記各重金属を含む酸性の廃水などの液体の処理対象物に対して、効果的に不溶化を促進することができる。
【0040】
前記製鋼スラグとしては、製鋼時の副産物である高炉水冷スラグ、高炉除冷スラグ、転炉スラグ、電気炉酸化スラグ、電気炉還元スラグ等が挙げられる。
これらの中では、還元性を有する多硫化物を含有する高炉水冷スラグ及び高炉除冷スラグを使用すると、六価クロムや鉛等に対する不溶化効果が向上し、かつ安価であるため好ましい。
前記製鋼スラグを助材として用いた場合には、特に、鉛、六価クロムを含む処理対象物に対して、効果的に不溶化を促進することができる。さらに、前記各重金属を含む土壌などの固体の処理対象物に対して、効果的に不溶化を促進することができる。
【0041】
前記各助材のうち、非鉄スラグ、非晶質シリカ、ゼオライト、粘土鉱物、活性炭は、吸着作用によって重金属と前記リン酸化合物と反応物を吸着することができ、沈殿物の生成を促進することができる。
【0042】
前記非鉄スラグとしては、フェロニッケル製造時の副産物であるフェロニッケル急冷スラグ及びフェロニッケル除冷スラグ、銅精錬時の副産物である銅スラグ等が挙げられる。
これらの中では、安価で、かつマグネシウムを多量に含有するフェロニッケル急冷スラグ及びフェロニッケル除冷スラグを使用することが、マグネシウムの共沈作用によってより不溶化促進ができるため好ましい。
前記非鉄スラグを助材として用いた場合には、特に、砒素を含む処理対象物に対して、効果的に不溶化を促進することができる。
さらに、前記各重金属を含む強アルカリ性の液体の処理対象物に対して、効果的に不溶化を促進することができる。
【0043】
前記非晶質シリカとしては、シリカフューム;電融ジルコニア製造時に回収されるシリカ質微粉末;光ファイバー等のシリカガラス製造時に回収されるシリカ質微粉末;金属シリコンを酸化させて製造する合成シリカ質微粉末;ケイ素塩化物を気化し高温の水素炎中において気相反応によって合成するシリカ質微粉末;ケイ酸ソーダ水溶液のpHを調整して合成する沈降性シリカまたはシリカゲル;もみ殻または稲わらの燃焼灰;カオリナイト(Al23・2SiO2・2H2O)、ディカイト(Al23・2SiO2・2H2O)、ハロイサイト(Al23・2SiO2・4H2O)等のカオリン鉱物を500〜900℃程度で焼成したメタカオリン等に代表される焼成粘土;窯業から発生する廃瓦、廃煉瓦、廃陶器、廃陶磁器等の廃材;製鋼時に発生する高炉フューム等のシリカ含有量の高い人工ポゾラン又はシラス;珪酸質白土;流紋岩質凝灰岩、ゼオライト質凝灰岩等の凝灰岩;珪藻土;酸性火山岩;火山性ガラス等の天然ポゾラン等が挙げられる。
これらの中では、安価で非晶質シリカを多量に含むシラス、珪酸質白土、凝灰岩(流紋岩質凝灰岩、ゼオライト質凝灰岩等)、珪藻土、酸性火山岩、火山性ガラス等の天然ポゾラン含有鉱物等が好ましい。
前記非晶質シリカを助材として用いた場合には、特に、鉛を含む処理対象物に対して、効果的に不溶化を促進することができる。
【0044】
前記ゼオライトとしては、天然ゼオライト、人工ゼオライトまたは合成ゼオライトが挙げられるが、鉛等の重金属の陽イオンの交換(不溶化)能力を有するものであれば、天然ゼオライト、人工ゼオライトまたは合成ゼオライトのいずれも使用することが可能である。
【0045】
前記天然ゼオライトとしては、クリノプチロライト(斜プチロル沸石)、モルデナイト(モルデン沸石)、あるいはこれらを含有するゼオライト質凝灰岩等が挙げられる。
【0046】
また人工(改質)ゼオライトとしては、石炭灰、製紙スラッジ焼却灰、廃棄物焼却灰、RDF(ごみ固形化燃料)焼却灰、アルミドロス残灰、製鋼スラグ、パーライト(真珠岩)、鋳物廃砂、火山灰、シラス等の火山灰堆積物及びRDF焼却灰等の産業副生成物あるいは廃棄物等の微粉末を主原料として、水酸化ナトリウム等を用いてアルカリ水熱処理す ることにより得られる人工ゼオライト等が挙げられる。
発明において好適な人工ゼオライトは、粒径が100μm以下の粉末状であり、石炭灰から得たものが好ましく、特に石炭火力発電で発生するフライアッシュ及びボトムアッシュ等の石炭灰に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ性化合物で水熱処理を行った後、さらにpHを6〜9の中性域に調整してゼオライト化したものが好ましい。
【0047】
また、合成ゼオライトとしては、A型、β型、L型、Y型、フェリエライト型、モルデナイト型等の合成ゼオライト等が挙げられる。
【0048】
前記ゼオライトを助材として用いた場合には、特に、鉛、亜鉛を含む処理対象物に対して、効果的に不溶化を促進することができる。
【0049】
前記粘土鉱物としては、カオリン族に属するカオリナイト、ハロイサイト、ディッカイト、ナクライト、オーディライト、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、ボルコンスコアイト等が挙げられる。
【0050】
前記カオリン族の粘土鉱物の中では、特に、モンモリロナイト((Na,Ca)0.33(Al,Mg)2Si410(OH)2・nH2O、n=不定)の使用が好ましい。
さらにモンモリロナイトの中でもNa−ベントナイト、Ca−ベントナイト、酸性白土及びこれを硫酸で改質した活性白土は、鉛等の二価陽イオンの形態をもつ重金属に対する不溶化能力を有するため、これらの二価陽イオンの形態をもつ重金属を不溶化する目的に用いる場合には特に好ましい。
【0051】
また、前記粘土鉱物としては、前記に例示した粘土鉱物を単体で又は任意の組み合わせでかつ任意の混合割合で混合したものを使用することもできる。
前記粘土鉱物を助材として用いた場合には、特に、鉛を含む処理対象物に対して、効果的に不溶化を促進することができる。
【0052】
前記活性炭としては、工業用に市販されているヤシ殻活性炭、石炭系活性炭等が挙げられ、この中では、水銀の吸着作用に優れた石炭系活性炭の使用が好ましい。
前記活性炭を助材として用いた場合には、特に、水銀を含む処理対象物に対して、効果的に不溶化を促進することができる。
【0053】
前記各助材のうち、鉄(金属鉄)は、砒素、六価クロム、鉛、カドミウム、セレン等との反応性を有するため、これらの重金属の不溶化を促進することができる。
また、鉄は、酸化される際にトリクロロエチレンやジクロロエチレン等の揮発性有機化合物(VOC)を脱塩化物と塩化物イオンに還元分解する分解作用も有するため、汚染土壌などの処理対象物が重金属に付随して揮発性有機化合物も含む場合には、鉄を助材として用いることが好ましい。
【0054】
前記鉄としては、還元鉄、アトマイズ鉄、電解鉄等が挙げられる。
これらの中では、アドマイズ鉄あるいは還元鉄が、含有する0価の金属鉄及び二価の鉄イオンにより、砒素、六価クロム等の重金属に対して還元作用や共沈作用による不溶化能力を有し、かつ水素の発生量が少ないため 特に、砒素を不溶化する目的に用いる場合には好ましい。
また、内部に空隙を有する多孔質型の鉄は、各種重金属の還元作用に優れているため特に好ましい。
【0055】
前記各助材の形状は液体であっても固体であってもよいが、特に、粒子状に粉砕したものを用いることが、効率良く重金属不溶化を促進できる観点から好ましい。
粉砕の程度は、助材の種類によって異なるが、例えば、前記ゼオライトのうち人工ゼオライトは100μm程度以下、前記鉄は20〜200μm程度、前記活性炭は100μm程度以下、その他の助材の場合には45μm以下の粒子径の微粒子となるように粉砕することが、効率良く重金属不溶化を促進する観点から好ましい。
尚、前記各粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(装置名:Microtrac MT3300EX、NIKKISO社製)を用いて測定した粒子径をいう。
【0056】
前記各助材の中でも、特に、鉄、粘土鉱物、活性炭が不溶化を促進する効果が高いため好ましい。
【0057】
前記リン酸化合物に対する前記助材の混合量は、不溶化処理をする対象物中の重金属の種類及び含有量によって異なるが、例えば、通常、前記リン酸化合物1質量部に対して、前記助材を1〜10質量部程度であれば、一般的な処理対象物中の重金属の不溶化を促進することができる。
【0058】
次に、前記のような重金属不溶化材を用いて重金属を不溶化する方法について説明する。
【0059】
本実施形態の重金属不溶化方法で処理される処理対象物は、例えば、有害な重金属を含む工場排水、鉱山廃水、汚染土壌、焼却灰(残渣)及びばいじん(飛灰、溶融飛灰)等が挙げられる。
前記処理対象物は液体であっても、あるいは粉体等の固体であってもよいが、特に、前記各排水または廃水などの重金属を含む液体を前記重金属不溶化材を用いて不溶化した場合には、還元作用によって生じた沈殿物や生成した化合物を不溶化後に除去することで、容易に重金属が除去できるため好ましい。
【0060】
本実施形態の重金属不溶化材を処理対象物に混合する方法は特に限定されないが、攪拌、混練など均一に混合できる方法であれば任意の方法を用いることができる。
【0061】
また、前記重金属不溶化材を処理対象物に混合する量は、処理対象物に含有される重金属の種類及び量等によって異なるが、例えば、通常、処理対象物100質量部に対して、重金属不溶化材を10〜100質量部混合することで、十分に重金属を不溶化処理することができる。
尚、前記重金属不溶化材は処理対象物中の重金属の種類および濃度によって、不溶化できる量が異なるため、重金属不溶化材中の前記リン酸化合物、助材と重金属とが反応するのに十分な量として、過剰量となるように混合することが、確実に不溶化処理を行う観点から好ましい。
【0062】
本実施形態の重金属不溶化材を用いて排水などの液体の処理対象物を処理した場合には、沈殿、あるいは不溶化した重金属を含む化合物を濾過等によって除去するような後処理を行なっても良い。
このような後処理によって、重金属を含まない処理水を得ることができる。
【0063】
また、本実施形態の重金属不溶化材を用いて土壌等の固体の処理対象物を処理した場合には、土壌中の重金属は、水に不溶性の化合物として土壌中に含まれているため、環境に重金属が溶出することがなく、廃棄処分が容易にできる。
【実施例】
【0064】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0065】
(材料)
本実施例の重金属不溶化材の材料として下記のものを準備した。
(1)還元性リン酸化合物
A)次亜リン酸ナトリウム五水和物(ホスフィン酸ナトリウム五水和物、Na2HPO2・5H2O、工業用、太洋化学産業株式会社製)
B)亜リン酸ナトリウム一水和物(ホスホン酸ナトリウム一水和物、NaH2PO3・H2O、工業用、太洋化学産業株式会社製)
C)次亜リン酸(ホスフィン酸、H3PO2、工業用、太洋化学産業株式会社製)
D)亜リン酸(ホスホン酸、H3PO3、工業用、太洋化学産業株式会社製)
【0066】
(2)助材
a)セメント:普通ポルドランドセメント(日本工業規格JIS R 5210「ポルトランドセメント」適合品、密度=3.15g/cm3、ブレーン比表面積=3300cm2/g、住友大阪セメント株式会社製)
b)酸化カルシウム:転炉スラグ微粉砕品(CaO含有量=42%、密度=3.3g/cm3、日本国内の製鉄所から得たものを鋼鉄製ボールミルで粒径45μm以下に微粉砕したもの。)
c)水酸化カルシウム:特号消石灰(日本工業規格JIS R 9001「工業用石灰」適合、CaO含有量=75%、密度=2.2g/cm3、入交石灰工業株式会社製)
d)炭酸カルシウム:ホタテ貝殻の微粉砕品(青森県産ホタテの貝殻を水洗脱塩後、105℃乾燥し、鋼鉄製ボールミルで粒径45μm以下に微粉砕したもの)
e)製鋼スラグ:高炉水砕スラグ微粉末(日本工業規格JIS A 6206「コンクリート用高炉スラグ微粉末」の4000適合品、密度=2.9g/cm3、ブレーン比表面積=4300cm2/g、神鋼スラグ製品株式会社製)
f)非鉄スラグ:フェロニッケルスラグ細骨材の微粉砕品(日本工業規格JIS R 5011−2「コンクリート用スラグ骨材第二部、フェロニッケルスラグ骨材」のFNS1.2適合品、密度=2.96g/cm3、株式会社日向精錬所製、105℃乾燥後、鋼鉄製ボールミルで粒径45μm以下に微粉砕したもの)
g)非晶質シリカ:火山灰ガラス質白土の微粉末(SiO2含有量=73%、北海道美瑛産、105℃乾燥後、鋼鉄製ボールミルで粒径45μm以下に微粉砕したもの)
h)ゼオライト:天然ゼオライト(モルデナイト)の微粉砕品(MGイワミライト、三井金属資源開発株式会社製、105℃乾燥後、鋼鉄製ボールミルで粒径45μm以下に微粉砕したもの)
i)粘土鉱物:粉状酸性白土(ニッカナイトS−200、東新化成株式会社製)
j)鉄粉:脱酸素材用アトマイズ鉄粉(JIP 303A−60、JFEスチール株式会社製)
k)活性炭:粉末活性炭(クラレコールPK、浄水用、クラレケミカル株式会社製)
【0067】
(実施例1〜4)
蒸留水に水酸化ナトリウム(NaOH、特級試薬、関東化学社製)を添加して0.1mol/リットルとなるように調整した後、二クロム酸カリウム(K2Cr27、試薬、関東化学社製)及び塩化水銀(II)(HgCl2、試薬、関東化学社製)を溶解し、六価クロム(濃度;100.4mg/l)及び水銀(濃度;1.120mg/l)の2種類の重金属を含有する溶液全体のpHが13である重金属溶液Iを調製した。
【0068】
一方、実施例1〜4の重金属不溶化材として表1に示すA〜Dのものをそれぞれ1g準備した。
各重金属不溶化材と重金属溶液50mlとを、100mlポリエチレン瓶に密封し、振とう機で4時間撹拌後、0.45μmのメンブランフィルターでろ過して、六価クロム及び水銀の残存濃度と不溶化率とを測定した。
【0069】
なお、六価クロムの残存濃度は、日本工業規格JIS K 0102「工場排水試験方法」に準拠し、六価クロムは、パーキンエルマージャパン株式会社製ICP発光分光装置Optima DV3300を用いてICP−AES(誘導結合型プラズマ発光分光法)により測定した、
水銀の残存濃度は、日本インスツルメンツ株式会社製加熱気化全自動水銀測定装置マーキュリーMA−2000を用いて、還元気化原子吸光光度法(循環−開放送気方式)で測定した。
また、各不溶化率は、ブランク(重金属溶液I:比較例1)の六価クロム及び水銀の濃度に対する上記残存濃度の減少量から算出したものである。
結果を表1に示す。
【0070】
(実施例5〜11)
実施例5〜11の重金属不溶化材として、表1に示すAと、各助材a〜kとを、それぞれ質量比率で重金属不溶化材1に対して助材9の割合で混合したものを準備した。
実施例1と同様にして、重金属不溶化材1gと前記重金属溶液I 50mlとを、100mlポリエチレン瓶に密封し、振とう機で4時間撹拌後、0.45μmのメンブランフィルターでろ過して、六価クロム及び水銀の残存濃度と不溶化率とを測定した。
その結果を表1に示す。
【0071】
(比較例1)
上記実施例1で使用した重金属溶液Iに、重金属不溶化材を添加しない以外は、実施例1と同様にして、ブランク溶液としての六価クロム及び水銀の残存濃度と不溶化率とを測定した。
その結果を表1に示す。
【0072】
(比較例2〜8)
表1に示す助材のみを重金属溶液Iに混合して、実施例1と同様にして、六価クロム及び水銀の残存濃度と不溶化率とを測定した。
その結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
上記各実施例は、各比較例に比べて、六価クロム及び水銀の残存濃度が低く、不溶化率が著しく高かった。
【0075】
(実施例12〜15)
蒸留水に水酸化ナトリウム(NaOH、特級試薬、関東化学社製)を添加して0.1mol/リットルとなるように調整した後、塩化鉛(II)(PbCl2、試薬、関東化学社製)、三酸化砒素( As23、試薬、関東化学社製)を溶解し、鉛(濃度;11.5mg/l)及び砒素(濃度;10.8mg/l)の2種の重金属を含有する溶液全体のpHが13である重金属溶液IIを調製した。
【0076】
実施例12〜15として、前記実施例1〜4と同様の重金属不溶化材と、前記重金属溶液II 250mlとを、100mlポリエチレン瓶に密封し、振とう機で4時間撹拌後、0.45μmのメンブランフィルターでろ過して、鉛及び砒素の残存濃度と不溶化率とを測定した。
【0077】
尚、鉛及び砒素の残存濃度は、日本工業規格JIS K 0102「工場排水試験方法」に準拠し、日立ハイテク株式会社製、偏光ゼーマン原子吸光光度計Z−5000を使用し、鉛はGF−AASD(黒鉛炉加熱原子吸光法)、砒素はHG−AAS(水素化物発生原子吸光法)により測定した。
また不溶化率は、ブランク(重金属溶液II:比較例9)の鉛及び濃度に対する上記残存濃度の減少量から算出したものである。
その結果を表2に示す。
【0078】
(実施例16〜21)
実施例16〜21として、表2に示す重金属不溶化材を用いて、各重金属不溶化材と前記重金属溶液II 50mlとを、100mlポリエチレン瓶に密封し、振とう機で4時間撹拌後、0.45μmのメンブランフィルターでろ過して、鉛及び砒素の残存濃度と不溶化率とを前記実施例12〜15と同様に測定した。
その結果を表2に示す。
【0079】
(比較例9)
上記重金属溶液IIに、重金属不溶化材を添加しない以外は、実施例12と同様にして、ブランク溶液としての鉛及び砒素の残存濃度と不溶化率とを測定した。
その結果を表2に示す。
【0080】
(比較例10〜15)
前記表2に示す助材をそれぞれ単独で用いた以外は、実施例12〜21と同様にして、鉛及び砒素の残存濃度と不溶化率とを測定した。
その結果を表2に示す。
【0081】
【表2】

【0082】
上記各実施例は、各比較例に比べて、鉛及び砒素の残存濃度が低く、不溶化率が著しく高かった。
【0083】
以上の結果より、本発明の重金属不溶化材を用いると種々の重金属を効果的に不溶化することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜リン酸、次亜リン酸塩、亜リン酸及び亜リン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも一種類の化合物を含有することを特徴とする重金属不溶化材。
【請求項2】
セメント、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、製鋼スラグ、非鉄スラグ、非晶質シリカ、ゼオライト、粘土鉱物、鉄、活性炭からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む助材を含有することを特徴とする請求項1に記載の重金属不溶化材。
【請求項3】
請求項1乃至2のいずれかに記載の重金属不溶化材を、重金属を含有する処理対象物に混合することを特徴とする重金属不溶化方法。

【公開番号】特開2012−188544(P2012−188544A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53102(P2011−53102)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】