説明

重金属耐性が強化された植物体

【課題】重金属などの環境汚染物質に対する耐性が付与された形質転換植物体を得、当該形質転換植物体により環境修復を行う。
【解決手段】重金属吸収・蓄積能を有する植物体とヘビノネゴザとの交雑により、あるいは、重金属吸収・蓄積能を有する植物細胞とヘビノネゴザ細胞との細胞融合により生じたキメラ細胞を生育し、細胞質への重金属蓄積阻害機能が付与された形質転換植物体とその繁殖体及び子孫を得、効率よく重金属を除去して環境修復を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属耐性が強化された植物体に関する。さらに詳述すると、本発明は、ヘビノネゴザが有している細胞質への重金属蓄積阻害機能を付与することにより重金属耐性が強化された植物体並びにこれを利用した環境修復方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、広範囲に拡散した比較的低濃度の様々な汚染物質を、長期間にわたり低コストで穏やかに処理できる新しい技術としてファイトリメディエーション(植物による環境修復)が注目されている。理論的にはハイパーアキュームレーター(特定元素高濃度蓄積種)と呼ばれる数種類の既存の植物を用いて重金属の吸収・除去が可能であると考えられており、実用化に向けて様々な汚染物質に対する適用植物種の拡大、処理能力の向上を目的とした研究が行われている。
【0003】
例えば特許文献1〜3では、重金属吸収・蓄積能の高い植物を用いて、ファイトリメディエーションを行うことが提案されている。
【特許文献1】特開2002−336837
【特許文献2】特開2002−331281
【特許文献3】特開2002−331282
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、重金属吸収・蓄積能が高くても、重金属に対する耐性が低い植物は高濃度の重金属汚染環境で生育した場合には短期間で枯れてしまうため、植え替え等の手間が非常に煩雑であり、効率よく重金属の除去ができない。したがって、高濃度の重金属汚染環境においても長期間良好に生育し、しかも、効率よく重金属の除去ができる植物体、即ち、重金属吸収・蓄積能に加えて重金属耐性を持つ植物体の作出が望まれている。
【0005】
そこで、本発明は、重金属などの環境汚染物質に対する耐性が付与された形質転換植物体を提供することを目的とする。
【0006】
さらに本発明は、当該形質転換植物体により環境修復を行う方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、重金属等の環境汚染物質に対する植物の耐性機構について明らかにすべく、高カドミウム耐性を有することで知られているヘビノネゴザ(Athyrium yokoscense)を供試植物として、組織培養法を確立し、鋭意研究を重ねた。その結果、ヘビノネゴザには、細胞質へのカドミウム蓄積阻害機能が備わっており、当該機能により細胞質を保護してカドミウム耐性を得ていることが考えられた。そこで、当該機能を植物体に付与することによりカドミウム等の重金属に対する耐性を付与することが可能であることを知見し、本願発明に至った。
【0008】
かかる知見に基づく本発明の植物体は、ヘビノネゴザとの交雑により得られる、細胞質への重金属蓄積阻害機能が付与された形質転換植物体とその繁殖体及び子孫である。
【0009】
また、本発明の植物体は、ヘビノネゴザ細胞との細胞融合により生じたキメラ細胞を生育して得られる、細胞質への重金属蓄積阻害機能が付与された形質転換植物体とその繁殖体及び子孫である。
【0010】
ここで、本発明における重金属とは、植物が本来必要としない非必須元素である、カドミウム、鉛、水銀、クロム、ヒ素、セレン、スズ、アンチモンを意味するものであり、これらの重金属は細胞質に対しては毒である。そこで、ヘビノネゴザが有している細胞質への重金属蓄積阻害機能、即ち、これらの重金属が細胞質に吸収され難くなる機能と細胞外(細胞壁あるいはアポプラズマ領域)に排出される機能のうちの一方あるいは両方の機能が付与されることによって、これらの重金属が細胞質に対して毒性を呈しなくなり、重金属耐性が強化される。したがって、本発明の植物体をこれらの重金属により汚染された土壌等で生育しても、その生育が阻害され難くなる。
【0011】
さらに、本発明の植物体は、これら植物体が重金属吸収・蓄積能をさらに有する形質転換植物体とその繁殖体及び子孫である。
【0012】
この植物体は、重金属吸収・蓄積能を有しつつも、細胞質には重金属が蓄積され難い。したがって、植物体を重金属汚染土壌で栽培しても、その生育が阻害され難いので短期間で枯れることなく重金属汚染土壌から効率よく重金属を除去することが可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の植物体によれば、細胞質への重金属蓄積阻害機能が付与されているので、重金属耐性が高い。したがって、重金属汚染土壌で栽培しても、その生育が阻害され難い。
【0014】
また、細胞質への重金属蓄積阻害機能に加えて重金属吸収・蓄積能をさらに有する植物体は、重金属汚染土壌で栽培しても、その生育が阻害され難いので短期間で枯れることがない。したがって、植え替え等の手間を最小限にして、重金属汚染土壌から重金属を効率よく除去することが可能であり、ファイトリメディエーションに供する植物として非常に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0016】
本発明の植物体は、ヘビノネゴザとの交雑、あるいはヘビノネゴザ細胞との細胞融合により生じたキメラ細胞を生育して得られる、細胞質への重金属蓄積阻害機能が付与された形質転換植物体とその繁殖体及び子孫である。
【0017】
ヘビノネゴザは、細胞質への重金属蓄積阻害機能を有している。つまり、細胞質に重金属が吸収されるのを防ぐ機能と細胞質に存在する重金属を細胞外(細胞壁あるいはアポプラズマ領域)に排出する機能のうちの一方あるいは両方の機能が細胞質への重金属蓄積阻害機能として作用している。この作用は、ヘビノネゴザ特有のタンパク質に由来し、当該タンパク質をコードする遺伝子を他の植物において発現させることで、細胞質への重金属蓄積阻害機能を付与することができる。このような方法として、交雑、細胞融合等が挙げられる。
【0018】
ヘビノネゴザとの交雑は一般的に知られている方法により行えばよい。また、細胞質への重金属蓄積阻害機能を付与したい植物に対してヘビノネゴザを直接交雑することが不可能な場合には、ヘビノネゴザを他の近親の植物と交雑させることにより雑種を得て、当該雑種を最終的に所望の植物と近い種となるように交雑を重ねた上で、細胞質への重金属蓄積阻害機能を付与した植物を得るようにしても良い。
【0019】
次に、ヘビノネゴザ細胞との細胞融合は、例えば以下のようにして行う。ヘビノネゴザ細胞と融合させたい植物細胞の細胞壁を酵素により分解し、プロトプラスト化する。次に、細胞融合促進剤としてポリエチレングリコールを加えて、二つのプロトプラストを効率よく融合させることにより、二つの細胞核も融合して一つになる。これにより、ヘビノネゴザ及び融合させたい植物細胞の遺伝子を併せ持つ核が生じて、この融合細胞を培養、生育することにより、所望の植物体が得られる。
【0020】
このようにして得られた植物体は、細胞質への重金属蓄積阻害機能が付与されていることにより重金属汚染環境下においても良好に生育し、重金属汚染された土壌の飛散を防いで重金属汚染の拡散を防ぐことが可能である。さらに、重金属汚染土壌を緑で覆うことにより、景観を良好なものに保って、人々に安心感を与えることもできる。
【0021】
次に、重金属吸収・蓄積能を有し、且つ細胞質への重金属蓄積阻害機能が付与された植物体について説明する。
【0022】
重金属吸収・蓄積能を有する植物は、例えば、本願発明者が先に出願した特願2004−260091のファイトリメディエーション用植物種の選抜方法や、Yoshihara, T., Shoji K., Goto F., Screening for the Cd hyperaccumulator/ Ultra-low-accumulator from major herbal angiosperms in Japan. In: Plant nutrition for food security, human health and environmental protection (Eds. Li, CJ et al., Proc. 2005 IPNC, Beijing, China) pp.750-751.に記載の方法、電中研報告書U03521(吉原利一、後藤文之、庄子和博、カドミウムやホウ素に耐性・蓄積能をもつ草本性被子植物の探索)に記載の方法により選抜することができる。
【0023】
具体的には、種々の植物の種子を、植物の生育に必要な栄養塩、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられる微量金属元素およびほとんどの植物において成長を阻害される濃度の前記環境汚染物質を含む培地または土壌、並びに植物の生育に必要な栄養塩、環境汚染物質の吸収・蓄積に影響を及ぼすと考えられる微量金属元素を含む培地または土壌にそれぞれ播種し、発芽生育後、植物の地上部および根部について環境汚染物質の蓄積量を測定し、環境汚染物質を含む場合と含まない場合における環境汚染物質の植物の地上部および根部における蓄積量の比から環境汚染物質の蓄積能を評価して選抜する。
【0024】
環境汚染物質がカドミウムの場合について例を挙げると、上記選抜方法により、地上部に高いカドミウム蓄積能力を有する種はアキノノゲシなどのキク科植物であり、根部に高いカドミウム蓄積能力を有する種はイグサであることが確認されているが、これらの植物はカドミウム耐性が低いことも確認されている。したがって、これら植物とヘビノネゴザの雑種を交雑あるいは細胞融合等を用いて作出することで、高濃度のカドミウム汚染環境下において、多量のカドミウムを吸収しつつ、しかも、吸収されたカドミウムの細胞質への蓄積を阻害して生育状態を良好に保つことができるハイパーアキュームレーターを得ることが可能となる。
【0025】
また、本願発明者が先に出願した特開2004−016130に開示の技術を用いてもよい。具体的には、環境汚染物質に対して結合能を有するオリゴまたはポリペプチドおよびアポプラズマ輸送シグナルを含むポリペプチドをコードする核酸分子を構築し、これを用いてトランスジェニック植物を作製することにより、高い環境汚染物質蓄積能を有する植物体を得ることができる。環境汚染物質に対して結合能を有するオリゴまたはポリペプチドとしては、ファイトキレーチン(カドミウム、鉛に対する結合能)、Zα4人工ペプチド(カドミウムに対する結合能)が挙げられる。
【0026】
このようにして得られる重金属吸収・蓄積能を有する植物体にヘビノネゴザが有する細胞質への重金属蓄積阻害機能を付与することにより、あるいは、ヘビノネゴザが有する細胞質への重金属蓄積阻害機能を付与された植物体を、特開2004−016130に開示された技術を用いて形質転換することにより、重金属を多量に吸収しつつ、重金属汚染環境下においても生育状態を良好に保つ非常に優れたハイパーアキュームレーターを得ることが可能となる。
【0027】
尚、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【実施例】
【0028】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0029】
<1:カルス及び再分化植物体培養>
ヘビノネゴザ(Athyrium yokoscense)は、栃木県足尾町の足尾銅山跡において採集したものを供試植物とした。また、対照植物として、カドミウムに対する耐性・蓄積能に関して一般的な性質を持つと考えられているタバコ(Nicotiana tabacum L. BY-2)を用いた。
【0030】
供試植物であるヘビノネゴザは、カルスを誘導した後、2001年9月以来液体振とう培養により継代を続けているもの、あるいは誘導したカルスから再び植物体に再分化させたものを用いた(Yoshihara, T. et al. (2005a) Plant Cell Rep 23 p579-585 )。対照植物であるタバコは、植物体を滅菌後、5mm角程度の葉片をMS固形培地に定置して約1ヶ月間培養することによってカルスを誘導した後、ゲランガムを除いたMS液体培地(増殖用MS培地)を用いて振とう培養(100rpm)により増殖させたものを用いた。尚、培養環境条件は全て周期光照射(約4000lux、12時間明期/12時間暗期)、温度は25±1℃とした。また、培地は約10日〜2週間に1回の頻度で交換した。尚、MS固形培地には、カイネチン0.1ppm、2,4−D 1ppm、3%シュークロースと0.2%ゲランガムを添加し、pH6.0としたものを用いた(Murashige T, Skoog F (1962) Physiol Plant 15 p473-497)。
【0031】
<2:カドミウム曝露下におけるカルス生育>
上述の培養方法により得られたヘビノネゴザカルスとタバコカルスを、0μM、100μMの2種類のCdSO添加増殖用MS培地によりそれぞれ6週間培養し、その増殖量を調査した結果を図1に示す。培養開始時のカルス量は、ヘビノネゴザカルスについては生鮮重量として3g均一、タバコカルスについては極端に軟弱で水分含有量が多いため容積として20ml均一とした。増殖量の算定は、ヘビノネゴザカルスは生鮮重量として秤量、タバコカルスは15000gの遠心操作により容積として、あるいは吸引濾過後により生鮮重量として秤量するとともに、得られたカルスについて65℃、3日間の乾燥後、乾燥重量として再度秤量した。培養環境条件は上述したものと同様とした。
【0032】
図1において、◇はヘビノネゴザカルス、■はタバコカルスの相対的生育量を示す。ここで、相対的生育量とはカドミウムを添加しない増殖用MS培地で生育した量を1として換算した場合の生育量を意味する。尚、本実施例におけるデータは、それぞれ平均値と標準偏差を求め、各実験区間の差異についてStudentのt検定法、Tukeyの多重比較検定法のいずれかの方法により有意性を判定した。これらの計算には統計形算用ソフトウェア(KyplotR ver.3.0, (株)カイエンス)を用いた。対照に用いたタバコカルスはカドミウム曝露により増殖が著しく抑制され、6週間後には相対的生育量が0.2、つまり、カドミウム曝露を行わない場合に比べて20%程度しか増殖しなかった。一方、ヘビノネゴザカルスは、6週間後においても、カドミウム曝露を行わない場合と変わらない生育量を示した。したがって、誘導、増殖させたヘビノネゴザカルスは、その生育において、カドミウムの影響を全く受けていないことが確認された。
【0033】
<3:ファイトキレーチン合成酵素(PCS)遺伝子の発現に及ぼすカドミウムの影響>
100μMのCdSOを添加した培地において0日、1日、3日、5日、7日および12日生育させたヘビノネゴザカルスおよびタバコカルス、あるいは0μM、100μM、300μM、500μM、1000μMおよび3000μMのCdSOをそれぞれ添加した培地において1週間生育させたヘビノネゴザカルスおよびタバコカルスからtotalRNAを抽出し、RT−PCR法によってファイトキレーチン合成酵素(PCS)遺伝子の発現に及ぼすカドミウムの影響を調べた。尚、ファイトキレーチンは、カドミウムをキレート化可能な低分子の非タンパク質性ポリペプチドであり、カドミウム耐性に関与するポリペプチドである。ヘビノネゴザカルスのtotalRNA抽出は、CTABとPVPを用いたJaakolaらの多糖質の材料からの高品質totalRNA抽出法より行った(Jaakola L. et al. (2001) Mol Biotechnol. 19 p201-3)。タバコカルスのtotalRNA抽出は、市販のTrizol試薬(Invitrogen、USA)により行った。これらのtotalRNAとOligo−dTプライマーを用いて、市販のキット(Rever-tra Ace kit、TOYOBO)により逆転写反応を行い、それぞれのcDNAを得て、これらcDNAとGenBankに登録されている既知の配列であるAY235426、AB057412から設計したそれぞれのPCS遺伝子に特異的なプライマーセットを用いてPCRを行い、発現量の解析に用いた。発現量の解析には、画像解析装置(Image Reader LAS-2000、FUJIFILM)を用いた。尚、別途同様にそれぞれのアクチン(ACT)遺伝子の発現量を解析しておき、PCS遺伝子の発現量を標準化した。以下にそれぞれのPCS遺伝子、ACT遺伝子の発現量を解析するための特異プライマーセットの配列を列挙する。
AyPCs1F 5'-GCAAGGTTGCTGCCAAGGTG-3'(配列番号1)
AyPCs1R 5'-CTAGGTTTCCTCACTGCATGACC-3'(配列番号2)
NtPCs1F 5'-GCTTTTCGCCCTAATCATAGTA-3'(配列番号3)
NtPCs1R 5'-TGACCCAACTCTCATGTTTA-3'(配列番号4)
AyAc1F 5'-CGACATACAGGTGTGATGGGT-3'(配列番号5)
AyAc1R 5'-GCTTGAATAGCGACATACAT-3'(配列番号6)
NtAc1F 5'-TCAGAAAGATGCCTATGTGGGA-3'(配列番号7)
NtAc1R 5'-TGGCAACGTACATAGCTGGG-3'(配列番号8)
【0034】
図2にヘビノネゴザカルス及びタバコカルスにおけるPCS遺伝子の発現に及ぼすカドミウム(100μM)の影響を示す。図2において、(B)は画像解析装置によりえられた発現量データであり、(A)は(B)の画像に基づいて数値化したデータである。□はタバコカルス、◆はヘビノネゴザカルスのACT遺伝子発現量を1としたときのPCS発現量(相対的PCS発現量)を表す。100μMのカドミウム曝露条件下においてヘビノネゴザカルスではほとんどPCS遺伝子の発現量に変化が認められなかったのに対して、タバコカルスでは曝露開始後1日目にPCS遺伝子の発現量が2倍以上に増加した後、漸減して12日目にはほぼ元の発現量に戻るという変化を示した。
【0035】
図3に0μM、100μM、300μM、500μM、1000μMおよび3000μMのカドミウム曝露条件下で1週間培養したヘビノネゴザカルスのPCS遺伝子の発現量を示す。0μM、100μM、300μM、500μM、1000μMおよび3000μMのカドミウム曝露条件下で1週間培養した場合にも、ヘビノネゴザではPCS遺伝子の発現量にはほとんど変化が認められなかった。したがってヘビノネゴザではPCSがカドミウムの耐性に関与している可能性は低く、カドミウム耐性をPCS以外の別の機構により得ていることが考えられた。
【0036】
<4:ヘビノネゴザにおけるカドミウムの蓄積能に関する細胞生理学的検討>
100μMのCdSOを添加した培地において1週間生育させたヘビノネゴザあるいはタバコのカルスをプロトプラスト化溶液(0.6Mマンニトール、0.1%(W/V)セルラーゼオノヅカ−RS(Yakult)、及び0.1%(W/V)ペクトリアーゼ(Sigma))に浸漬し、25℃、暗黒下にて1晩ゆっくりと振とうしてプロトプラストを得た。得られたプロトプラストは、ミラクロス(Calbiochem)と133μmのポリエチレン膜による濾過、および100g/15分間(5℃)の遠心操作によってプロトプラスト化溶液を取り除いた後に0.7Mマンニトール溶液に再懸濁する操作を数回繰り返して精製した。最終的に得られたプロトプラスト数を顕微鏡下にて血球計算板を用いて算出した後、収集して金属元素の分析のための試料とした。
【0037】
100μMのCdSOを添加した培地において1週間生育させたヘビノネゴザ及びタバコのカルスを用いてHartらの示す方法(Hart JJ et al. (1992) Pestic Biochem Physiol 43, p212-222)により細胞壁を分画した。すなわち、秤量したそれぞれのカルスを超純水で洗浄した後、メタノールとクロロフォルムを体積比で2:1に混合した溶液に3日間浸漬し、さらに超純水で洗浄した。これらの操作により、細胞膜内の水溶性成分、および有機溶媒溶解性成分を洗い流して、細胞壁成分のみの構造を保ちつつ残存させた。同操作によって得られた細胞壁画分は、吸引濾過による収集後、金属元素の分析のための試料とした。
【0038】
上記処理により得られた試料のカドミウム蓄積量をICP(P4000、Hitachi、Japan)を用いて分析した結果を表1に示す。ヘビノネゴザカルスは、細胞全体(細胞壁成分のカドミウム蓄積量+プロトプラストのカドミウム蓄積量)に7.94±0.40μg/g−FW、細胞壁に7.28±0.45μg/g−FW、タバコカルスは細胞全体(細胞壁成分のカドミウム蓄積量+プロトプラストのカドミウム蓄積量)に8.45±0.43μg/g−FW、細胞壁に3.14±0.23μg/g−FWのカドミウムが蓄積していた。これらを細胞全体における細胞壁に蓄積したカドミウムの割合として比較するとヘビノネゴザでは、91.6%、タバコでは37.2%となり、ヘビノネゴザではタバコに比べて明らかに多くのカドミウムが細胞壁画分に存在していることが確認された。次に、プロトプラスト化した細胞(細胞壁を取り除いた細胞、即ち、細胞質)におけるカドミウムの蓄積量を調べた結果を図4に示す。ヘビノネゴザでは5x10プロトプラストあたり約0.02±0.01μgのカドミウムが蓄積していたのに対して、タバコでは同じく0.09±0.01μgのカドミウムが蓄積していることが確認された。尚、このときヘビノネゴザとタバコのプロトプラストの大きさは、ほとんど差異が認められなかった。このことから、ヘビノネゴザでは同じプロトプラスト数あたりのカドミウム蓄積量、即ち、細胞質におけるカドミウム蓄積量がタバコよりも有意に少ないことが明らかとなった。この結果からヘビノネゴザが、細胞質にカドミウムを蓄積しないことによりカドミウム耐性を得ていることが示唆される。即ち、細胞質にカドミウムが吸収されるのを防ぐ機能と細胞質に存在するカドミウムを細胞外(細胞壁あるいはアポプラズマ領域)に排出する機能のうちの一方あるいは両方の機能が作用して、カドミウムが細胞質に対して毒性を呈することが無くなることにより、カドミウム耐性が獲得されていると考えられる。また、ヘビノネゴザは高濃度の重金属汚染環境下においても良好に生育することが一般的に知られており、カドミウム以外の重金属、例えば、鉛、水銀、クロム、ヒ素、セレン、スズ、アンチモンに対しても、同様の機能による耐性を有していることが考えられる。
【0039】
また、細胞質への重金属蓄積阻害機能は、細胞質にカドミウムが吸収されるのを防ぐ機能を有するタンパク質と細胞質に存在するカドミウムを細胞外(細胞壁あるいはアポプラズマ領域)に排出する機能を有するタンパク質のうちの一方あるいは両方の機能に由来するものであると考えられ、当該タンパク質をコードする遺伝子を他の植物体において発現させることにより、細胞質への重金属蓄積阻害機能を付与させて、重金属耐性を持たせることが可能となる。
【0040】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】カドミウム(100μM)曝露条件下におけるヘビノネゴザカルスとタバコカルスの生育を示す図である。◇はヘビノネゴザカルスの相対的生育量、■はタバコの相対的生育量を示す。
【図2】ヘビノネゴザカルスとタバコカルスにおけるPCS遺伝子の発現に及ぼすカドミウム(100μM)の影響を示す図である。
【図3】種々のカドミウム曝露条件下において生育したヘビノネゴザカルスにおけるPCS遺伝子の発現を示す。
【図4】ヘビノネゴザとタバコのプロトプラストにおけるカドミウムの含有量を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘビノネゴザとの交雑により得られる、細胞質への重金属蓄積阻害機能が付与された形質転換植物体とその繁殖体及び子孫。
【請求項2】
ヘビノネゴザ細胞との細胞融合により生じたキメラ細胞を生育して得られる、細胞質への重金属蓄積阻害機能が付与された形質転換植物体とその繁殖体及び子孫。
【請求項3】
重金属吸収・蓄積能をさらに有することを特徴とする請求項1又は2に記載の形質転換植物体とその繁殖体及び子孫。
【請求項4】
請求項3に記載の植物体を重金属汚染土壌で栽培し、前記重金属汚染土壌から重金属を除去することを特徴とする環境修復方法。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−195471(P2007−195471A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−18481(P2006−18481)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】