説明

重金属類含有水の処理方法

【課題】工程が簡単で実用性に優れ、強固な錯体を形成している重金属類についても効率よく排水等から除去することができる重金属類含有水の処理システムを提供する。
【解決手段】重金属類含有水に還元性鉄化合物を添加する工程、還元性鉄化合物を添加した重金属類含有水を反応槽に導いて沈澱を生成させる工程、生成した沈澱(汚泥)を固液分離する工程、分離した汚泥の全部または一部をアルカリ性にして反応槽に返送する工程を有し、返送汚泥をpH11〜13に調整し、反応槽をpH8.5以上のアルカリ性に調整し、密閉した非酸化性雰囲気下でグリーンラストと鉄フェライトを主体とする還元性鉄化合物沈澱に重金属類を取り込ませて沈澱化する処理方法において、鉄化合物添加工程に先立ち、重金属類含有水に第1鉄化合物の存在下で過酸化水素を加えてフェントン酸化によって重金属類錯体を分解する工程を有することを特徴とする重金属類含有水の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強固な錯体を形成している重金属類についても排水などから効率よく除去することができる経済性に優れた処理システムに関する。より詳しくは、本発明は工程が簡単で実用性に優れ、強固な錯体を形成している重金属類についても効率よく排水などから除去することができる経済性に優れた重金属類含有水の処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
重金属類を含む排水に2価鉄イオンを添加し、次いで液温を30℃以上に加温維持しつつ空気遮断環境下とし、アルカリを添加して澱物を生成させて除去する処理方法が知られている(特許文献1)。また、重金属類を含む排水にアルカリを添加して重金属類の水酸化物を沈澱させ、この処理液に不活性ガスを導入して溶存酸素を除去した後にアルカリ域で第一鉄塩を添加して重金属類を沈澱化し、さらに空気を吹き込んで液中に残留する重金属類を鉄含有沈澱に取り込んで沈澱化する処理方法が知られている(特許文献2)。この他に、排水に水酸化第一鉄とアルカリを加えて重金属類を沈澱化する一方、そのスラッジの一部をアルカリ添加後の反応槽に循環して処理効率を高める処理方法が知られている(特許文献3)。
【0003】
しかし、従来の上記処理方法は何れも排水中の重金属類濃度を環境基準値0.01mg/L以下に低減するのが難しい。また、単に水酸化第一鉄を添加する方法では、排水中の酸素が第一鉄イオンと反応するため、予め排水中の溶存酸素を除去する必要があり処理工程が煩わしい。さらに、水酸化第一鉄の沈澱は含有水率が大きく嵩高くなるので、このままではスラリー処理の負担が大きい。
【0004】
また、重金属類排水に第一鉄イオン等を添加し、pH5以上に調整して鉄フェライトまたは疑似鉄フェライトを生成させ、生成したフェライト汚泥を固液分離すると共に、その一部を反応槽に返送して汚泥循環することによって重金属類を排水から除去する処理方法が知られている(特許文献4)。この方法は、フェライト汚泥(FeO・Fe23)が第一鉄と第二鉄を含むことに注目し、第一鉄単独よりも第一鉄と第二鉄を有するほうが容易にフェライト汚泥化することを利用して沈澱を生成させているが、この処理方法のフェライト汚泥は還元力が弱く、この汚泥を反応槽に返送しても重金属類の除去効果には限界がある。
【0005】
さらに、重金属類含有水にアルカリを添加して汚泥を沈澱させ、この汚泥を分離する排水の処理方法において、分離した汚泥の一部にアルカリを添加し、このアルカリ汚泥を反応槽に返送する処理方法が知られている(特許文献5、特許文献6)。しかし、アルカリ汚泥単独では重金属類を環境基準値以下に低減するのは難しい。
【0006】
また、有機性排水を処理する方法としてフェントン反応を利用した処理方法が知られている。この方法は第1鉄イオンの存在下で過酸化水素を添加してヒドロキシラジカルを生成させ、この酸化力によって有機物を分解する方法であるが(特許文献7等)、この方法を単独に適用しても重金属類を環境基準値以下に低減するのは難しい。
【特許文献1】特開平08−267076号公報
【特許文献2】特開2002−326090号公報
【特許文献3】特開2001−9467号公報
【特許文献4】特開2001−321781号公報
【特許文献5】特公昭61−156号公報
【特許文献6】特開平05−57292号(特許第2910346号)公報
【特許文献7】特開2004−181446号公報
【特許文献8】特許第3956978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のフェライト法に基づく処理方法を改善して上記問題を解決した重金属含有水の処理方法が知られている(特許文献8:特許第3956978号)。この処理方法は、グリーンラストと鉄フェライトを含む沈澱が形成されるので、沈澱が圧密化され、固液分離性が良く、かつ常温でフェライト処理が可能であり、重金属類の濃度を環境基準値0.01mg/L以下に低減することができる利点を有している。
【0008】
グリーンラストと鉄フェライトを含む沈澱を形成して重金属類を除去する上記処理方法は、排水等に含まれる重金属類がキレート剤や有機酸等と反応して強固な錯体を形成していると、重金属類の除去効果が向上しない傾向があった。本発明はこの点を改善し、排水等に含まれる重金属類が強固な錯体を形成している場合でも、重金属類の除去効果に優れた処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の[1]〜[4]に示す構成によって上記問題を解決した重金属類含有水の処理方法に関する。
〔1〕重金属類含有水に還元性鉄化合物を添加する工程〔鉄化合物添加工程〕、還元性鉄化合物を添加した重金属類含有水を反応槽に導いて沈澱を生成させる工程〔沈澱化工程〕、生成した沈澱(汚泥)を固液分離する工程〔固液分離工程〕、分離した汚泥の全部または一部をアルカリ性にして反応槽に返送する工程〔汚泥返送工程〕を有し、反応槽に返送する汚泥をpH11〜13に調整し、沈澱化工程の反応槽をpH8.5以上のアルカリ性に
調整し、密閉した非酸化性雰囲気下でグリーンラストと鉄フェライトを主体とする還元性の鉄化合物沈澱を生成させ、該鉄化合物沈澱に重金属類を取り込ませて沈澱化し、この沈澱を固液分離して重金属類を除去する処理方法において、鉄化合物添加工程に先立ち、重金属類含有水に第1鉄化合物の存在下で過酸化水素を加えてフェントン酸化によって重金属類錯体を分解し〔フェントン酸化工程〕、この処理した重金属類含有水を鉄化合物添加工程に導入することを特徴とする重金属類含有水の処理方法。
〔2〕フェントン酸化工程の後に還元剤を加えて過酸化水素の残留分を除去し〔過酸化水素除去工程〕、この処理後に重金属類含有水を鉄化合物添加工程に導入する上記[1]に記載する重金属類含有水の処理方法。
〔3〕上記[2]の処理方法において、フェントン酸化工程で残留した過酸化水素を除去する還元剤、および鉄化合物添加工程の還元性鉄化合物として硫酸第1鉄を用い、過酸化水素除去工程と鉄化合物添加工程とが兼用される重金属類含有水の処理方法。
〔4〕フェントン酸化工程の酸化分解槽をpH2〜5に調整して処理する上記[1]〜上記[3]の何れかに記載する重金属類含有水の処理方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の処理方法は、鉄化合物添加工程に先立ち、重金属類含有水に第1鉄化合物および過酸化水素を加えてフェントン酸化によって重金属類錯体を分解するので、排水等に含まれる重金属類がキレート剤や有機酸等と反応して強固な錯体を形成している場合でも、この重金属類錯体が酸化分解された後にグリーンラストと鉄フェライトを含む沈澱形成工程に導入され、重金属類の除去効果を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の処理方法について、実施形態に基づいて具体的に説明する。
本発明の処理方法は、重金属類含有水に還元性鉄化合物を添加する工程〔鉄化合物添加工程〕、還元性鉄化合物を添加した重金属類含有水を反応槽に導いて沈澱を生成させる工程〔沈澱化工程〕、生成した沈澱(汚泥)を固液分離する工程〔固液分離工程〕、分離した汚泥の全部または一部をアルカリ性にして反応槽に返送する工程〔汚泥返送工程〕を有し、反応槽に返送する汚泥をpH11〜13に調整し、沈澱化工程の反応槽をpH8.5以上のアルカリ性に調整し、密閉した非酸化性雰囲気下でグリーンラストと鉄フェライトを主体とする還元性の鉄化合物沈澱を生成させ、該鉄化合物沈澱に重金属類を取り込ませて沈澱化し、この沈澱を固液分離して重金属類を除去する処理方法において、鉄化合物添加工程に先立ち、重金属類含有水に第1鉄化合物の存在下で過酸化水素を加えてフェントン酸化によって重金属類錯体を分解し〔フェントン酸化工程〕、この処理した重金属類含有水を鉄化合物添加工程に導入することを特徴とする重金属類含有水の処理方法である。
【0012】
本発明において、重金属類含有水とは重金属類を含む水を広く意味し、自然発生的および人為的に生じた各種の廃水や排水等を含み、例えば、工場排水や下水、海水、河川水、沼や湖池の水、地表の溜り水、河川等の堰止域の水、地下の流水や溜り水、暗渠の水などであって重金属類を含有するものを云う。なお、以下の説明において、これらの水を含めて排水等と云い、重金属類含有水について重金属類を含有する排水等と云う場合がある。
【0013】
また、本発明において重金属類とは、例えば、セレン、カドミウム、六価クロム、鉛、亜鉛、銅、ニッケル、ヒ素、アンチモンなどの重金属元素や金属元素などを云う。本発明の処理システムは排水等に含まれるこれらの汚染源となる重金属類の何れか1種および2種以上に対して優れた除去効果を有する。
【0014】
なお、本発明において、pHの測定はJIS規格(JIS K0102 12.1)のガラス電極法によるpH測定法によって測定すればよい。
【0015】
本処理システムの概略を図1に示す。図示するように本処理システムは、重金属類含有水に還元性鉄化合物を添加する槽10〔鉄化合物添加工程〕、還元性鉄化合物を添加した重金属類含有水を反応させる非酸化性雰囲気の密閉反応槽20〔沈澱化工程〕、該反応槽20から抜き出したスラリーを固液分離する手段30〔固液分離工程〕、分離した汚泥にアルカリを添加する槽40、アルカリ性汚泥を反応槽20に返送する管路〔汚泥返送工程〕、これらの各槽および固液分離手段を連通する管路を備えた循環処理系が形成されている。
【0016】
本発明の処理システムは、さらに上記鉄化合物添加工程に先立ち、重金属類含有水に第1鉄化合物の存在下で過酸化水素を加えてフェントン酸化によって重金属類錯体を分解する酸化分解槽50〔フェントン酸化工程〕が設けられている。第1鉄化合物は排水等を酸化分解槽50に導入する途中で添加してもよく、酸化分解槽50に第1鉄化合物を添加した後に過酸化水素を加えてもよい。
【0017】
フェントン酸化工程の酸化分解槽50はpH2〜5に調整し、好ましくはpH3〜4に調整すると良い。反応中にpHが上昇する場合には硫酸または塩酸を添加してpHを下げればよい。
【0018】
酸化分解槽50では、第1鉄イオン[Fe2+]の存在下で、過酸化水素[H2O2]を加えると、過酸化水素がヒドロキシラジカル[HO+]とヒドロキシイオン[OH-]に分解するフェントン反応を生じ、このヒドロキシラジカル[HO+]によって重金属類の錯体が分解される。ヒドロキシラジカルの酸化力は強いので、排水等に含まれる重金属類がキレート剤や有機酸等と反応して強固な錯体を形成している場合でも、この重金属類錯体を酸化分解することができる。さらに、排水中に有機物が含まれているときには、この有機物も分解される。
【0019】
さらに、図1の処理システムでは、酸化分解槽50の次に、残留した過酸化水素を除去する過酸化水素除去槽51〔過酸化水素除去工程〕が設けられている。上記除去槽51には還元剤を添加して残留した過酸化水素が除去される。還元剤としては、亜硫酸イオン[SO32-]、蓚酸、アスコルビン酸,硫酸鉄、鉄粉などを用いることができる。残留した過酸化水素はこれらの還元剤と反応して分解される。
【0020】
上記フェントン反応によってヒドロキシラジカルが生じる際に、第1鉄イオン[Fe2+]が第2鉄イオン[Fe3+]に酸化され、水酸化第2鉄の沈澱が生じる。また、上記過酸化水素除去工程において水酸化第2鉄の沈澱が形成される。これらの沈澱は後段のグリーンラスト/鉄フライト沈澱に取り込まれるので、上記酸化分解工程および過酸化水素除去工程において除去しなくてもよい。なお、これらの沈澱の吸着物が後段のグリーンラスト/鉄フライト沈澱にダメージを与えるようであれば、上記沈澱を除去する。
【0021】
残留過酸化水素を除去する還元剤として硫酸第1鉄を用い、これを次工程で排水等に添加する還元性鉄化合物として兼用することができる。この場合、図2に示すように上記除去槽51を省略し、酸化分解槽50で処理した重金属類含有排水等を直接に添加槽10に導入し、該排水等に含まれている残留過酸化水素分解する量の硫酸第1鉄を増加して加えればよい。
【0022】
本発明の処理システムでは、重金属類含有水を添加槽10に導き、還元性鉄化合物を添加する。還元性鉄化合物としては、硫酸第一鉄(FeSO4)、塩化第一鉄(FeCl2)などの第一鉄化合物を用いることができる。第一鉄化合物の添加量はFe2+イオン濃度400〜600mg/Lになる量が適当である。還元性鉄化合物を添加した重金属類含有水を反応槽20に導入する。
【0023】
反応槽20には、還元性鉄化合物を添加した重金属類含有水と共に固液分離工程からアルカリ性汚泥が返送され、重金属類含有水と混合される。このアルカリ性汚泥は後工程において固液分離された沈澱(汚泥)の一部または全部にアルカリを添加してpH11〜13に調整したものである。添加するアルカリ物質としては消石灰、生石灰、水酸化ナトリウムなどを用いることができる。アルカリ性汚泥を混合することによって反応槽20のpHは8.5〜11、好ましくはpH9.0〜10に調整される。
【0024】
反応槽20において、還元性鉄化合物を添加した重金属類含有水とアルカリ性返送汚泥とを混合し、非酸化性雰囲気下で反応させることによって、還元性の鉄化合物沈澱を生成させる。この鉄化合物沈澱は、グリーンラストと鉄フェライトの混合物であり、還元性の沈澱である。
【0025】
グリーンラストは第一鉄と第二鉄の水酸化物が層状をなす青緑色の物質であり、層間に重金属類のアニオンを取り込んだ構造を有し、例えば次式(1)によって表される。
〔FeII(6-x)FeIIIx(OH)12x+〔Ax/n・yH2O〕x- …(1)
(0.9<x<4.2、Fe2+/全Fe=0.3〜0.85)
【0026】
また、鉄フェライトはFeIIの鉄酸塩であり、マグネタイト(FeIIFeIII34)を主体とするが、一部に重金属類の鉄酸塩を含むものでもよい。本発明の還元性の鉄化合物沈澱は、例えば、重金属類含有水中の重金属類イオンがグリーンラストの層間に取り込まれ、重金属類を一部に含んだ状態で鉄フェライト化する。具体的には、例えば、排水等に含まれる6価セレン(SeO42-)は第一鉄化合物によって還元されて4価セレン(SeO32-)および元素セレンになり、これらはグリーンラストの層間に取り込まれた状態で沈澱化する。
【0027】
本発明の処理方法は、反応槽20で上記還元性鉄化合物沈澱を生成させるために、空気の流入を遮断した密閉反応槽を用い、非酸化性雰囲気下、pH8.5〜11、好ましくはpH9.0〜10のアルカリ性下で反応させる。液温は10℃〜30℃程度で良く、加熱する必要はない。反応時間は30分〜3時間程度で良い。
【0028】
なお、重金属類含有水に第一鉄化合物とアルカリとを添加して、鉄化合物沈澱を生成させる処理方法であっても、従来のように反応槽が密閉されておらず、非酸化性雰囲気下ではないもの、またアルカリの程度が弱いものは、上記還元力を有する沈澱が生成せず、本発明と同様の効果を得ることはできない。
【0029】
本発明の処理方法においては、グリーンラストと鉄フェライトの混合物からなる上記鉄化合物沈澱が還元力を有するように、該沈澱の2価鉄イオンと全鉄イオンの比〔Fe2+/Fe(T)〕が0.4〜0.8であるように沈澱を生成させることが好ましく、上記鉄イオン比を0.55〜0.65に制御するのが更に好ましい。この比が上記範囲を外れると重金属類の還元が不十分になり、あるいは澱物の沈降性が劣化するので好ましくない。上記還元性の鉄化合物沈澱を生成させることによって、含有重金属類が還元され、容易に沈澱に取り込まれる。
【0030】
なお、上記[Fe2+/T-Fe]の測定について、[T-Fe]濃度は鉄化合物沈澱を酸溶解してJIS規格(JIS K0102 57.1)の「1,10フェナントロリン吸光光度法」によって測定すればよく、同様に[Fe2+]濃度は還元剤を添加せずに、上記フェナントロリン吸光光度法によって測定すればよい。両者の吸光度の比から[Fe2+/T-Fe]を算出する。
【0031】
反応槽20にアルカリ性汚泥の返送を繰り返し、還元性鉄化合物を添加した重金属類含有水との反応を繰り返すことによって、グリーンラストが酸化して鉄フェライト化することによって最初は深青緑色であった沈澱がしだいに黒色に変化する。グリーンラストの大部分が鉄フェライトになると還元性がなくなるので、本発明の処理方法では、上記鉄化合物沈澱の2価鉄イオンと全鉄イオンの比〔Fe2+/Fe(T)〕を上記範囲内に制御して還元性のある沈澱を生成させる。
【0032】
本発明の処理方法では、上記還元性汚泥(鉄化合物沈澱)を分離してその一部または全部をアルカリ化して反応槽に返送し、非酸化性雰囲気下で反応させ、再び還元性汚泥を沈澱させることを繰り返すことによって、汚泥(沈澱)の還元性を維持しつつ鉄フェライト化するので沈澱の圧密化が進み、澱物の濃度が格段に高まるので重金属類の除去効果が向上する。因みに、水酸化鉄を主体とした沈澱(汚泥)は嵩高く、脱水処理の負担が大きい。また、本発明の処理方法では、沈澱を形成している鉄フェライトはマグネタイトを主体とするため磁性を帯びており、分離した沈澱を磁石に吸着させて処理することができる。
【0033】
反応槽20から排出されたスラリーは、例えばシックナーなどの固液分離手段に導き、汚泥を槽底に沈降させて分離する。この澱物を固液分離して重金属類を系外に除去することができる。また、既に述べたように、汚泥の一部または全部にアルカリを添加してpH11〜13に調整して反応槽20に戻し、反応槽20において沈澱生成反応を繰り返す。返送する汚泥の割合(返送汚泥の循環比)は反応槽20で生成する沈澱の2価鉄イオンと全鉄イオンの比〔Fe2+/Fe(T)〕が上記範囲内になるように定めればよい。なお、本発明の処理方法は、バッチ式または連続式の何れの形式でも実施することができる。
【0034】
また、先に述べたように、固液分離手段において分離した汚泥の全部または一部はアルカリ性にして反応槽に返送されるが、反応槽に返送されない汚泥はフィルタープレスなどによって濾過脱水し、水分は系外に排水する。一方、濾渣は還元力が残存しており、しかもこの濾渣は透水性が良いので、必要に応じ、図3に示すように、この濾渣に汚染度の高くない別系統の排水等を通水し、濾渣に残存する還元力を利用して排水等に含まれる汚染を分解し、排水等から除去することができる。
【0035】
本発明の処理方法によれば、排水等に含まれる重金属類の濃度を排水基準値の0.01mg/L以下に低減することができる。さらに本処理方法は加熱する必要がなく、常温で鉄フェライト化を進めることができ、圧密されたコンパクトな澱物を形成するので脱水性が格段に良く、重金属類の除去効果も高く、経済性および取扱性に優れた処理方法である。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例および比較例によって具体的に示す。なお、澱物のフェライトは磁性によって判定し、澱物の圧密性は嵩高さと沈降性によって判定した。また、重金属類の測定方法について、CdはJIS規格(JIS K0102 55.3)、PbはJIS規格(JIS K0102 54.3)、CuはJIS規格(JIS K0102 52.4)、ZnはJIS規格(JIS K0102 53.3)、Cr(VI)はJIS規格(JIS K0102 65.2.4)のICP発光分光分析法によって測定した。AsはJIS規格(JIS K0102 61.2)の水素化合物発生原子吸光法によって測定した。
【0037】
〔実施例〕
図1に示す本発明の処理フローに従い、重金属類とキレート剤エチレンジアミン4酢酸(EDTA)を含む排水を回分式で以下のように処理した。まず、上記排水(Cd,Pb,Cu,Zn,As,Cr(VI)の濃度:各々2mg/L,EDTA:75mg/L)2.0Lを、酸化分解槽50に導入し、硫酸第1鉄をFe(II)として50mg/Lになるように添加し、これに3.5質量%濃度の過酸化水素13mLを2時間かけて添加した。この排水を除去槽51に導入して硫酸第1鉄100mg/Lを加え、残留過酸化水素を分解除去した後に、添加槽10に導入して、硫酸第一鉄を500mg/Lになるように添加した。添加槽10で硫酸第1鉄を加えた排水を反応槽20に導入して20分反応させ、沈殿を形成させた。次いで、反応槽20から抜き出したスラリーをシックナーで18時間静置して沈殿を沈降させて固液分離した。この固液分離した沈殿の全量をアルカリ添加槽40に導き、25質量%濃度の苛性ソーダを加えてpH11〜13に調整したものを反応槽20に戻して沈殿の生成分離を繰り返した。フェントン酸化分解工程の有無による重金属類の処理結果の比較を表1に示した。
【0038】
表1に示すように、フェントン酸化工程を有する本発明の処理方法と、フェトン酸化工程がない比較例の処理方法と比較すると、EDTA錯体を形成しないAs,Cr(VI)については、何れも処理後の排水中の濃度は0.01mg/L未満であり、同様の濃度であった。一方、EDTAと錯体を形成しやすいCd,Pb,Znについては、本発明の処理方法ではフェントン酸化により処理濃度が大幅に低減された。比較例の処理方法と比較すると、特に、Cdは除去率20%が96%に,Pbは除去率70%から99.5%以上に向上し、排水基準を下回る水質を得た。なお、フェントン酸化工程はpH2〜5の範囲に調整するのが好ましく、pH3〜4の範囲がより好ましいことが実験によって確認された。
【0039】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の処理工程図
【図2】本発明に係る他の処理工程図
【符号の説明】
【0041】
10−添加槽、20−反応槽、30−固液分離槽、40−アルカリ添加槽、50−酸化分解槽、51−残留過酸化水素除去槽。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属類含有水に還元性鉄化合物を添加する工程〔鉄化合物添加工程〕、還元性鉄化合物を添加した重金属類含有水を反応槽に導いて沈澱を生成させる工程〔沈澱化工程〕、生成した沈澱(汚泥)を固液分離する工程〔固液分離工程〕、分離した汚泥の全部または一部をアルカリ性にして反応槽に返送する工程〔汚泥返送工程〕を有し、反応槽に返送する汚泥をpH11〜13に調整し、沈澱化工程の反応槽をpH8.5以上のアルカリ性に調整し
、密閉した非酸化性雰囲気下でグリーンラストと鉄フェライトを主体とする還元性の鉄化合物沈澱を生成させ、該鉄化合物沈澱に重金属類を取り込ませて沈澱化し、この沈澱を固液分離して重金属類を除去する処理方法において、鉄化合物添加工程に先立ち、重金属類含有水に第1鉄化合物の存在下で過酸化水素を加えてフェントン酸化によって重金属類錯体を分解し〔フェントン酸化工程〕、この処理した重金属類含有水を鉄化合物添加工程に導入することを特徴とする重金属類含有水の処理方法。
【請求項2】
フェントン酸化工程の後に還元剤を加えて過酸化水素の残留分を除去し〔過酸化水素除去工程〕、この処理後に重金属類含有水を鉄化合物添加工程に導入する請求項1に記載する重金属類含有水の処理方法。
【請求項3】
請求項2の処理方法において、フェントン酸化工程で残留した過酸化水素を除去する還元剤、および鉄化合物添加工程の還元性鉄化合物として硫酸第1鉄を用い、過酸化水素除去工程と鉄化合物添加工程とが兼用される重金属類含有水の処理方法。
【請求項4】
フェントン酸化工程の酸化分解槽をpH2〜5に調整して処理する請求項1〜請求項3の何れかに記載する重金属類含有水の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−148749(P2009−148749A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−304262(P2008−304262)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】