説明

野菜の黒色化方法

【課題】ねぎ属に属する野菜を醗酵反応を利用することなく、無臭化する方法および該方法により無臭化され、かつ抗酸化力を維持できる。
【解決手段】ニンニク、ジャンボリーキ、エレファントガーリック、または玉ねぎなどのねぎ属に属する野菜を水に分散させる工程と、この水に分散させた野菜を常圧で温度80℃以上で加熱撹拌する工程とを備え、上記加熱撹拌工程が加熱により蒸発する水を追加しながら加熱撹拌し、得られたねぎ属野菜の抗酸化力が17DPPH/g以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は野菜の黒色化方法に関し、特にねぎ属を含む野菜の黒色化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特有の刺激臭を有するニンニク、玉ねぎなどのねぎ属に属する野菜を無臭化する方法は、多くの方法が提案されている。
例えば、ニンニクの無臭化としては、海藻または海藻抽出物を消臭剤として、海藻乾物換算値がニンニクと水または調味液の合計重量の0.001〜3.0重量%になるように混合した後、30℃以下の温度で浸漬する方法(特許文献1)、遠赤外線加熱式蒸し焼き器を使用して生ニンニクを30〜40℃の温度に30〜50時間維持して発酵を進行させる第1工程、50〜60℃の温度に30〜50時間維持して乾燥を進行させる第2工程、60〜75℃ の温度で100時間以上維持して糖化を進行させる第3工程及び60〜75℃の温度に維持されたニンニクの炭化開始前に加熱を終了する第4工程を含む方法(特許文献2)が知られており、また、玉ねぎの無臭化としては、生玉ねぎを温度が50〜85℃の範囲内、湿度が70〜95%の範囲内で醗酵させ、熟成する方法(特許文献3)が知られている。これらの方法は、無臭化の過程でニンニクが黒色化することが多い。
【0003】
野菜類は、劣化変質すると黒色化する傾向にある。例えば、含まれているポリフェノール類や油脂類が酸化反応により褐変する現象、糖類がカラメル化反応により褐変する現象等があり、これらは褐変反応とも言われ食品を劣化または変質させるものとされている。
一方、褐変反応を利用した野菜類の改質方法として、にんじん類の黒色化が知られている。この方法は、葡萄および/または山葡萄10〜99.5重量%と人参0.5〜90重量%を混合し、この混合物に対して1〜10倍重量の水を添加して45〜130℃で1〜70時間熱処理した後、室温で冷却する段階を含む方法である(特許文献4)。
しかしながら、人参とは異なり、ニンニク、玉ねぎなどのねぎ属は、褐変反応により変質する場合が多く、有用な食品として、特に、ニンニクを醗酵反応を利用しないで黒色化する方法は知られていない。また、醗酵反応を利用するニンニクの黒色化方法は、長時間かかるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−53980
【特許文献2】特開2005−341912
【特許文献3】特開2008−109894
【特許文献4】特表2000−503535
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、ねぎ属に属する野菜を醗酵反応を利用することなく、無臭化する方法および該方法により無臭化され、かつ抗酸化力を有する無臭化された野菜の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のねぎ属野菜の黒色化方法は、ねぎ属に属する野菜を水に分散させる工程と、この水に分散させた野菜を加熱撹拌する工程とを備え、上記加熱撹拌工程が加熱により蒸発する水を追加しながら加熱撹拌することを特徴とする。
また、上記加熱撹拌工程における加熱温度が常圧で80℃以上であることを特徴とする。
【0007】
本発明のねぎ属野菜は、上記本発明方法により得られる加工されたねぎ属野菜であって、抗酸化力が17DPPH/g以上であることを特徴とする。また、硫黄分の含有量が加熱撹拌処理前の硫黄分の50重量%以下であることを特徴とする。
特にねぎ属野菜がニンニク、ジャンボリーキ、エレファントガーリック、または玉ねぎであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の黒色化方法は、ねぎ属に属する野菜を水に分散させる工程と、この水に分散させた野菜を、加熱により蒸発する水を追加しながら加熱撹拌する工程とを備えるので、醗酵法に比較して、短時間でニンニクなどの黒色化ができる。また、硫黄分の含有量を少なく、無臭化できるとともに、抗酸化力を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】においの類似度を示すレーダーチャート図である。
【図2】臭気寄与値を示すレーダーチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ニンニク、玉ねぎなどのねぎ属に属する野菜は、例えばニンニクの主な有効成分であるアリシンなどの特有な刺激臭があり、そのまま食するのが敬遠される場合がある。そのため、無臭化方法が検討されているが、醗酵法により黒色化して無臭とする方法では、ニンニクを水洗した後、熟成棚に並べて熟成室の温度を55〜80℃、相対湿度を70〜90%に設定し、10〜30日間放置し自己醗酵させる必要があり、長い処理時間を要している。また、無臭化が十分でない場合がある。
ニンニクなどを醗酵法よりも短い時間で無臭化する方法を検討した結果、水に分散させて、蒸発に伴う水を適宜加えながらペースト状になるまで加熱攪拌することにより、黒色に変化するとともに無臭となり、かつ、黒色に変化したニンニクの抗酸化力が低下しないことを見出した。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0011】
本発明で使用できる野菜はねぎ属に属する野菜である。ねぎ属(学名:Allium)は臭いの程度に差はあるものの全体に強い「ねぎ臭さ」を有している。
ねぎ属の野菜としては、ニンニク、玉ねぎ、ねぎ、リーキ、ガーリック、にら、らっきょう、のびる、あさつき等が挙げられる。
本発明において、黒色化しても抗酸化力が低下しないものとして、ニンニク、玉ねぎ、リーキ、ガーリックが好ましい。
ニンニク、玉ねぎは、人参に比較すると、イヌリンなどの多糖類、クエン酸やピルビン酸が多く含まれているので、本発明の方法での黒色化により抗酸化力の上昇に寄与するものと考えられる。
【0012】
ニンニク、玉ねぎ等は、表皮を剥がして細片もしくは微細片化して水に分散させる。または大量に処理する場合は、細片化することなく原料として入手したニンニク、玉ねぎ等の形態そのままで水に分散させる。
ニンニク、玉ねぎ等(水分含有量:約65〜90重量%)100重量部に対して、水を約100重量部添加して、ニンニク、玉ねぎ等を分散させることが好ましい。
用いる水は水道水、純水等、pHが7付近の水であれば使用できる。分散方法としては、水が満たされ、撹拌装置が設けられた反応容器にニンニク、玉ねぎ等を投入する、またはその逆の順で行なうことができる。
【0013】
分散させる反応容器としては、撹拌装置が設けられるとともに、内容物を加熱する加熱装置、加熱に伴い蒸発する水分、およびニンニク、玉ねぎ等から発生する揮発性成分を反応容器外に溜去できる装置、および反応容器内の水量を略一定に保つための水供給装置を有している反応容器であることが好ましい。
水分および揮発性成分を反応容器外に溜去する方法としては、常圧下において、強制的に排気する方法、自然排気する方法等が挙げられる。
【0014】
反応容器内に水とともに投入されたニンニク、玉ねぎ等は、加熱しながら撹拌される。加熱温度としては、常圧下において、80℃以上、好ましくは80〜100℃、より好ましくは90〜100℃以上である。
撹拌手段としては、特に制限なく、ペースト状になるまで混合撹拌できる装置であればよい。例えばニーダーなどが例示できる。
水分および揮発性成分が反応容器外に溜去されるので、定期的、または連続的に注水を行ない、水の含有量を略一定に保ちながら内容物を加熱・混合撹拌する。加熱・混合撹拌時に反応容器は特に密閉することなく開放系で反応させる。
加熱・混合撹拌により、内容物は原料またはその細片の形態からペースト状になり、また色相は徐々に褐色から黒色に変化するので、所定の黒色化が進行するまで、加熱・混合撹拌する。黒色化の進行は抗酸化力で判断できる。すなわち、内容物の組成の変化が大きくなり、抗酸化力が所定の値に低下しない範囲内で加熱・混合撹拌を行なう。好ましくは抗酸化力が17DPPH/g以上を保持できる範囲で行なう。なお、抗酸化力は、ラジカル状態で525nmの極大吸収を持つDPPHが抗酸化物質によって還元されることによりこの525nmにおける吸光度の減少を捕らえて抗酸化能を評価する方法であるDPPHラジカル消去法で測定できる。
【0015】
本発明方法によると、醗酵法などに比較して短時間で、ペースト状に黒色化した、ニンニク、玉ねぎ等が得られる。得られるペースト状製品は、原料が有する強い「ねぎ臭さ」がなく、また、甘酸っぱい旨みを有している。さらに、抗酸化力が高い。このため、ペーストを乾燥することで食品の配合物または添加物として利用できる。
また、揮発性成分が反応容器外に溜去されるので、硫黄成分が少ない黒色ペーストが得られる。この硫黄成分が少ないことが「ねぎ臭さ」を抑えているものと考えられる。
上記本発明方法によれば、硫黄分の含有量は、固形分換算で、加熱撹拌処理前の硫黄分の50重量%以下である。
【実施例】
【0016】
実施例1
青森産生ニンニク(青森天間林産むきニンニク)50kgおよび水50kgを容量200リットルの加熱ニーダに投入した。内容物の温度を90℃以上を維持しながら4日間加熱撹拌した。加熱撹拌開始後2日間は強制排気を行なった。加熱撹拌は、水を加えながら内容物の水分量を一定に保ちながら行なった。加えた水の総量は230kgであった。
加熱撹拌に伴い内容物のニンニクはペースト状になり色相も褐色から黒色に変化した。水分含量の調整を行ない、得られた黒色ペースト状製品の抗酸化力、水分含量、味を測定した。抗酸化力はDPPHラジカル消去法で、水分含量はペースト状製品全体に対する水分量(重量%)で、味は官能試験で判別した。結果を表1に示す。
【0017】
実施例2〜6
表1に示す原料を用いる以外は、実施例1と同様にして黒色ペースト状製品を得た。得られた黒色ペースト状製品の特性を実施例1と同様の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0018】
比較例1
実施例1で用いた青森産生ニンニクをトレイに載せて熟成室に入れ、温度65℃、相対湿度85%の条件で30日間醗酵させた。その後、温度20℃、相対湿度60%の条件で7日間乾燥して黒ニンニクを得た。得られた黒ニンニクを実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
比較例1と比較して、各実施例は1/6〜1/9の短時間で黒色ペースト状の製品が得られ、実施例1〜4の味はニンニク臭、実施例5および6は玉ねぎ臭がなく、甘酸っぱい味の製品が得られた。また、その製品の抗酸化力もそれぞれ比較例1と同等の値を示した。
【0021】
実施例7
青森産生ニンニクを三重嬉野産ニンニクに代える以外は、実施例1と同一の方法で黒色ペースト状の製品を得た。
原料として用いた青森産生ニンニクと、実施例1および実施例7で得られた黒色ペーストと、比較例1で得られた黒ニンニクをペースト状にした試料とを用いて、含まれている硫黄分を測定した。測定は硫酸バリウム重量法で行なった。その結果、実施例1の黒色ペースト状製品は固形分換算後の値で0.45g/100gであり、実施例7の黒色ペースト状製品は固形分換算後の値で0.25g/100gであり、比較例1の醗酵法で得られたニンニクは固形分換算後の値で0.71g/100gであり、青森産生ニンニクは固形分換算後の値で0.93g/100gであった。
実施例1および実施例7の黒色ペースト状製品は、青森産生ニンニクと比較して、硫黄分の含有量がそれぞれ50重量%以下であった。
【0022】
また、実施例7で硫黄分を測定した試料について、財団法人日本食品分析センターに依頼して、におい識別試験を行なった(財団法人日本食品分析センター報告第309010005−001号)。
試験方法は、検体をサンプルバッグに入れ、窒素ガスで袋内を置換する。その後、室温に約3時間静置し袋内ガスのにおいをにおい識別装置FF−2Aで測定する。結果の解析は装置付属の解析ソフトを用い、基準ガスに対する類似度、臭気寄与値および臭気指数相当値ならびに検体間のにおいの類似度を算出する。
ここで、においの類似度とは、においの質がどの系統のにおいに近いかを示す。仮にアルデヒド系の類似度が50%と算出された場合、アルデヒド類が50%入っているという意味ではなく、アルデヒド系との類似性が50%という意味である。
臭気寄与値とは、各系統のにおいの強さを臭気指数相当値で示した値であり、臭気指数とは、悪臭防止法で規定された臭気強度の表示方法で、測定したいにおいを段階的に希釈して,においが無くなったときの希釈倍率(臭気濃度)から、[臭気指数=10×log10(臭気濃度)]の式により算出した値であり、臭気指数相当値とは、におい識別装置で測定した試料ガスのにおいの強さを臭気指数に相当する値として数値化したものである。
【0023】
結果を図1および図2に示す。図1は、においの類似度を示すレーダーチャート図であり、図2は、臭気寄与値を示すレーダーチャート図である。
なお、におい識別試験結果による、臭気指数相当値(においの総合的な強さ)は、実施例1が26.1、実施例7が25.1、比較例1が34.0、青森産生ニンニクが39.2であった。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明のねぎ属野菜の黒色化方法およびこの方法で得られるねぎ属野菜は、短時間で多量の黒色ペースト状の製品が得られるので、特有な刺激臭を抑え、多くの食品への配合剤、または添加剤として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねぎ属に属する野菜を水に分散させる工程と、この水に分散させた野菜を加熱撹拌する工程とを備えたねぎ属野菜の黒色化方法であって、
前記加熱撹拌工程は加熱により蒸発する水を追加しながら加熱撹拌することを特徴とするねぎ属野菜の黒色化方法。
【請求項2】
前記加熱撹拌工程における加熱温度は常圧で80℃以上であることを特徴とする請求項1記載のねぎ属野菜の黒色化方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の方法により得られるねぎ属野菜であって、抗酸化力が17DPPH/g以上であることを特徴とするねぎ属野菜。
【請求項4】
請求項1または請求項2記載の方法により得られるねぎ属野菜であって、硫黄分の含有量が加熱撹拌処理前の硫黄分の50重量%以下であることを特徴とするねぎ属野菜。
【請求項5】
ねぎ属野菜がニンニク、リーキ、ガーリック、または玉ねぎであることを特徴とする請求項3または請求項4記載のねぎ属野菜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−284103(P2010−284103A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139976(P2009−139976)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(591193037)辻製油株式会社 (12)
【Fターム(参考)】