説明

量子化器及び超電導アナログ−デジタル変換回路

【課題】量子化器及び超電導アナログ−デジタル変換回路に関し、負帰還回路を用いることなく出力信号におけるオフセット成分を除去して、非線形性及び非対称性を解消する。
【解決手段】オフセット成分を相殺するために2個の超電導量子干渉素子(SQUID)2,3を入力信号4に対して相補的に配置して量子化器1を構成する。また、オフセット成分を相殺する際に信号成分を相殺しないようにするために、2個の超伝導量子干渉素子の出力の位相を互いにずらす必要があり、そのために、位相調整用バイアス端子を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は量子化器及び超電導アナログ−デジタル変換回路に関するものであり、特に、通信ネットワークや様々な計測分野で使用される高速且つ高帯域の超電導アナログ−デジタル変換回路におけるオフセット成分を打ち消すための構成に特徴のある量子化器及び超電導アナログ−デジタル変換回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の通信ネットワーク等の分野における高速化の要請の高まりに対して、信号入出力素子として、高速且つ高帯域での信号サンプリング機能を有する超電導アナログ−デジタル変換回路の利用が期待されている。
【0003】
超電導量子干渉素子(SQUID)の周期性と単一磁束量子(SFQ)のパルス特性を利用した量子化器を用いた超電導アナログ−デジタル変換回路(ADC)の内でも高速性能からフラッシュ型ADCへの応用研究が広く行われている。
【0004】
この中でいつかの回路方式が提案されており、例えば、単接合SQUIDを用いたQOS(Quasi−One−junction SQUID)コンパレータ(例えば、非特許文献1参照)や、それらを入力インダクタンスを軸として複数個並列に配置したSQUIDホイール(例えば、非特許文献2参照)等の方式が提案されており、基本的な実証試験や実用化のための周辺制御回路等の検討が行われている。
【0005】
ここで、図15乃至図19を参照して、上述の2つの提案を説明する。
図15参照
図15は、従来のQOSコンパレータの回路構成図であり、入力インダクタ81とジョセフソン接合82からなるrf−SQUID、即ち、量子化器80の出力段に2個のジョセフソン接合84,85からなる比較器83を接続し、一方のジョセフソン接合85をSFQパルス発生器で構成されるクロックドライバ86に接続するとともに、他方のジョセフソン接合84を接地し、2個のジョセフソン接合84,85の結節点に出力回路87を接続する。
【0006】
図16参照
図16は、QOSコンパレータからの出力電流の説明図であり、アナログ信号源88からの入力信号が単調増加する場合、あるしきい値でジョセフソン接合82がオンして電流が流れるが、そうするとこの電流を打ち消すように逆方向の電流が流れる。
【0007】
そして、入力信号が増大して次のしきい値に達すると再びジョセフソン接合82がオンして電流が流れる。
入力信号が単調増加を続ける間、このような動作を周期的に繰り返すことによって、量子化器80からは正弦波状の出力電流が出力される。
【0008】
この出力が比較器83に入力されると、電流があるしきい値より大きな場合、接地側のジョセフソン接合84がオンして出力回路87に“1”が出力される。
一方、電流があるしきい値より小さな場合、接地側のジョセフソン接合84がオンせず、他方のジョセフソン接合85がオンするので出力回路87には電流が流れず、したがって、“0”が出力されることによって、アナログ−デジタル変換がなされる。
【0009】
しかし、このようなQOSコンパレータにおいては、スルーレートの大きな信号に対して非線形特性が問題となるのでこの事情を図17を参照して説明する。
図17参照
図17は、量子化器の等価回路図であり、上図に示すように量子化器の等価回路を構成するインダクタンスLとジョセフソン接合の臨界電流Ic の積LIc が大きいと、本来、正弦波状に得られる出力電流の周期波形がのこぎり波状に歪む非線形特性が大きくなるとともに、位相遅れも発生し、また、入力信号の立ち上がりと立ち下がりにおける波形が非対称になるという問題がある。
【0010】
また、下図に示すように、ジョセフソン接合はシャント抵抗成分Rを含んでいるので、シャント抵抗成分Rに起因するL/R時定数により高周波信号はジョセフソン接合がオンする前にシャント抵抗成分Rをバイパスして流れる成分があるので、量子化された電流にオフセット成分が重畳される。
【0011】
このようなオフセット成分が重畳されると、信号の立ち上がりと立ち下がりとでは動作点が変動するので非線形特性が現れ、アナログ−デジタル変換回路としての性能を大きく低下させる原因となる。
【0012】
図18参照
図18は、従来のSQUIDホイールの回路構成図であり、一つの入力インダクタ81に対して2つのジョセフソン接合821 ,822 を並列に接続して、一方のジョセフソン接合821 に対してQOSコンパレータと同様に、比較器83を接続するとともに、他方のジョセフソン接合822 に対してインダクタ89と位相調整用バイアス源90を接続する。
【0013】
このように、量子化器を並列配置した2つのジョセフソン接合821 ,822 で構成することによって、入力信号から見たインダクタンスは1/2に見えるのでLIc 積を1/2にすることができる。
【0014】
図19参照
図19は、従来のSQUIDホイールの回路特性のシミュレーション結果の説明図であり、上図はサンプリングクロック周波数を10GHzにした場合の回路特性であり、下図はサンプリングクロック周波数を25GHzにした場合の回路特性である。
図から明らかなように、10GHzの場合には、LSB(Least Significant Bit)幅の不均等性は40%程度であるが、25GHzになるとLSB幅の不均等性は85%以上になり、周波数が高くなるにつれて出力特性が大幅に劣化することが分かる。
【0015】
このような問題を解決するために、SQUIDホイールの比較器の結節点に抵抗体を含む負帰還回路を付加することによってオフセット成分を打ち消すことが提案されている(例えば、非特許文献3参照)。
【非特許文献1】IEEE Transactions on Applied Superconductivity,Vol.1,No.3,p.134,1991
【非特許文献2】IEEE Transactions on Applied Superconductivity,Vol.7,No.2,p.2677,1997
【非特許文献3】IEEE Transactions on Applied Superconductivity,Vol.9,No.2,p.3020,1999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかし、負帰還回路を付加した場合にも、負帰還回路自体も有限の時定数を有するので、信号の周波数が高くなると高周波信号に対して負帰還が適切にかからなくなる虞があり、その有効性の限界が懸念材料になっている。
【0017】
また、従来のADC回路においては、読出用の比較器を構成する接地側のジョセフソン接合が量子化器を構成するSQUIDループ上に直接配置されているので、読出動作と量子化動作の間の干渉が避けられず、ダイナミックエラー等の誤動作やクロック速度の低下の原因になるという問題がある。
【0018】
したがって、本発明は、負帰還回路を用いることなく出力信号におけるオフセット成分を除去して、非線形性及び非対称性を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
ここで図1を参照して、本発明における課題を解決するための手段を説明する。
なお、図における符号8は、出力回路である。
図1参照
上記の課題を解決するために、本発明は、量子化器1において、少なくとも2個の超電導量子干渉素子2,3を入力信号4に対して相補的に配置したことを特徴とする。
【0020】
このように、従来、1個の超電導量子干渉素子で構成していた或いは2個の超電導量子干渉素子を並列に配置して構成していた量子化器1を、少なくとも2個の超電導量子干渉素子2,3を入力信号4に対して相補的に配置することによって、フィードバック回路を要することなく、シャント抵抗成分等に起因するL/R時定数によるオフセット電流を相殺することができる。
【0021】
また、各超電導量子干渉素子2,3の出力におけるLIc 積に起因する非線形性も相補的に配置した2個の超電導量子干渉素子2,3の出力を足し合わせることによって解消することができる。
【0022】
また、並列配置した2個の超電導量子干渉素子2,3が入力信号4に対して相補的にするためには、入力信号4を各超電導量子干渉素子2,3の入力端子に直接接続しても良いし、信号入力部をトランス結合方式で構成しても良い。
【0023】
また、この場合、オフセット電流を相殺する際に信号成分を相殺しないようにするためには、2個の超電導量子干渉素子2,3の出力の位相を互いにずらす必要があるが、位相調整用バイアス端子は、少なくとも一方の超電導量子干渉素子ループ上に設ければ良く、また、信号入力部をトランス結合方式で構成する場合には、位相調節用バイアス端子を、信号入力部に設けても良い。
【0024】
また、少なくとも一方の超電導量子干渉素子2を、並列配置した2個の超電導量子干渉素子に置き換えても良く、SQUIDホイール構成を採用することによって、量子化器ループの実効的なインダクタンスを抑制することができるので、LIc 積に起因する出力の非対称性を低減することができる。
【0025】
また、上述の量子化器1の出力段に、ジョセフソン接合6,7を含む比較器5を接続することによって、高速且つより高帯域の超電導アナログ−デジタル変換回路を構成することができる。
【0026】
この時、比較器5を構成する一個のジョセフソン接合7を、超電導量子干渉素子により置き換えても良く、それによって、量子化器ループに入り込んだ比較器5を構成する接地側のジョセフソン接合7を排除することができ、読出動作と量子化動作の間の干渉を排除することができるので、ダイナミックエラー等の誤動作やクロック速度の低下を回避することができる。
【0027】
また、比較器5を駆動するパルス発生器9を、分配器と集合器とからなる並列構造で構成しても良く、それによって、クロックドライバの駆動力を並列接続した数に応じて増加することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、量子化器を入力信号に対して相補的に配置して2個の超電導量子干渉素子で構成しているので、負帰還回路を付加することなくオフセット成分を相殺することができ、負帰還回路の有する時定数の影響を受けることがないので、より高周波の帯域においても高い回路特性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
ここで、図2及び図3を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
本発明は、オフセット成分を相殺するために量子化器を入力信号に対して相補的に配置して2個の超電導量子干渉素子(SQUID)で構成するものである。
なお、オフセット成分を相殺する際に信号成分を相殺しないようにするためには、2個の超電導量子干渉素子の出力の位相を互いにずらす必要があり、そのために、位相調整用バイアス端子を、少なくとも一方の超電導量子干渉素子ループ上に設ける必要がある。
【0030】
図2参照
図2は、相補型rf−SQUIDを用いた量子化器のLIc 積が小さい場合のシミュレーション結果の説明図であり、上図はシミュレーションに用いた等価回路であり、下図は上から順に、アナログ入力信号、上側のrf−SQUIDからの量子化信号、下側のrf−SQUIDからの量子化信号、及び、重ね合わせ出力である。
【0031】
図から明らかなように、LIc 積が小さい場合には、量子化信号の非線形性は小さく、また、グラフ上で原点対称な非線形性も、両方の量子化信号を重ね合わせることによって解消されて正弦波に近い形状の重ね合わせ出力が得られることが分かる。
また、オフセット成分も両方の量子化信号を重ね合わせることによってキャンセルされる。
【0032】
図3参照
図3は、相補型rf−SQUIDを用いた量子化器のLIc 積が大きい場合のシミュレーション結果の説明図であり、上図はシミュレーションに用いた等価回路であり、下図は上から順に、アナログ入力信号、上側のrf−SQUIDからの量子化信号、下側のrf−SQUIDからの量子化信号、及び、重ね合わせ出力である。
【0033】
図から明らかなように、LIc 積が大きい場合には、量子化信号の非線形性は大きくなるが、両方の量子化信号を重ね合わせることによって、グラフ上で原点対称な非線形性は解消されて方形波に近い形状の重ね合わせ出力が得られることが分かる。
また、オフセット成分も両方の量子化信号を重ね合わせることによってキャンセルされる。
【0034】
また、必要に応じて各SQUIDをSQUIDホイールに置き換えて見かけ上のインダクタンスを低減する。
また、オフセット成分を相殺する際に信号成分を相殺しないようにするために、信号入力部をトランス結合方式で構成する場合には、位相調節用バイアス端子を、信号入力部に設ける。
【0035】
また、量子化器の出力段に2つのジョセフソン接合を直列接続した比較器を接続することによって、超電導アナログ−デジタル変換回路を構成することができ、この比較器を構成する接地側のジョセフソン接合を超電導量子干渉素子に置き換えても良く、それによって、量子化器ループに入り込んだ比較器を構成する接地側のジョセフソン接合を排除することができる。
【0036】
また、クロックドライバの駆動力を増加するために、比較器を駆動するパルス発生器を、分配器と集合器とからなる並列構造で構成しても良く、特に、分配器と集合器とを一段の梯子状構造で構成することによって、並列構造を流れるSFQパルス信号のタイミングのずれを最小にすることができる。
【0037】
また、この様な相補SQUID型ADC回路を抵抗ラダー、インダクタ・ラダー、或いは、トランス・ラダーに接続することによって、高性能の多ビット出力超電導アナログ−デジタル変換回路を構成することができる。
【実施例1】
【0038】
以上を前提として、次に、図4乃至図6を参照して本発明の実施例1の超電導アナログ−デジタル変換回路を説明する。
図4参照
図4は、本発明の実施例1の超電導アナログ−デジタル変換回路の回路構成図であり、入力インダクタ111 ,112 とジョセフソン接合121 ,122 からなる量子化器101 ,102 を信号入力端子13からの入力信号に対して相補的に配置する。
なお、入力信号はトランス14を介して量子化器101 ,102 に相補的に入力されるが、この時に、2つの量子化器101 ,102 に入力される信号の位相をずらすために、位相調整用バイアス源15をトランス14の出力側に接続する。
なお、トランス14の出力側の中点が接地されている場合には、位相調整用バイアス源15をトランス14の入力側に接続しても良い。
【0039】
また、この2つの量子化器101 ,102 の出力は合成されて2つのジョセフソン接合21,22を直列接続した比較器20の結節点に接続した出力回路23に出力される。
この比較器20を構成する一方のジョセフソン接合21はSFQパルス発生器からなるクロックドライバ24に接続されるとともに、他方のジョセフソン接合21は接地される。
【0040】
図5参照
図5は、2つの量子化器からの出力電流の概念的説明図であり、各量子化器における基本的な量子化動作は従来のQOSコンパレータと同様であるが、2つの量子化器からの出力電流は互いに反対向きであるため、シャント抵抗成分に起因して出力電流に重畳されているオフセット成分は合成出力においては相殺される。
この時、2つの量子化器からの出力電流は互いに位相がずれているので、信号成分は相殺されることなく出力されることになる。
【0041】
図6参照
図6は、本発明の実施例1の超電導アナログ−デジタル変換回路の回路特性のシミュレーション結果の説明図であり、上図はサンプリングクロック周波数を50GHzとした場合のデジタル出力信号の説明図であり、下図はサンプリングクロック周波数を150GHzとした場合のデジタル出力信号の説明図である。
【0042】
上図から明らかなように、サンプリングクロック周波数を50GHzの場合には、LSB幅の不均等性は8%程度であり、従来の超電導ADC回路に比べて大幅な特性の向上が確認された。
また、下図に示すように、サンプリングクロック周波数が150GHzになると周期性を有するデジタル出力信号が得られなくなり、クロック周波数の限界となる。
【0043】
このように、本発明の実施例1によれば、量子化器を入力信号に対して2つのrf−SQUIDを相補的に配置しているので、負帰還回路を付加することなくオフセット成分をキャンセルすることができ、それによって、従来よりも高周波特性を大幅に向上することができる。
また、2つのrf−SQUIDからの量子化信号を重ね合わせることによって、原点対称な非線形特性も解消することができる。
【実施例2】
【0044】
次に、図7及び図8を参照して本発明の実施例2の超電導アナログ−デジタル変換回路を説明する。
図7参照
図7は、本発明の実施例2の超電導アナログ−デジタル変換回路の回路構成図であり、入力インダクタ111 ,112 とジョセフソン接合121 ,122 からなる量子化器101 ,102 を信号入力端子13からの入力信号に対して相補的に配置する。
なお、入力信号はトランス14を介して量子化器101 ,102 に相補的に入力されるが、この時に、2つの量子化器101 ,102 に入力される信号の位相をずらすために、位相調整用バイアス源15をトランス14の出力側に接続する。
なお、トランス14の出力側の中点が接地されている場合には、位相調整用バイアス源15をトランス14の入力側に接続しても良い。
【0045】
また、この2つの量子化器101 ,102 の出力は合成されて1つのジョセフソン接合21とdc−SQUID25を直列接続した比較器30の結節点に接続した出力回路23に出力される。
この比較器30を構成するジョセフソン接合21はSFQパルス発生器からなるクロックドライバ24に接続されるとともに、dc−SQUID25は接地される。
【0046】
この場合、dc−SQUID25は、並列接続された一対のジョセフソン接合26,27とインダクタンスを有する制御線28とからなり、量子化器101 ,102 からの重ね合わせ出力があるしきい値を越えた場合には、制御線28を流れる電流によって発生する磁界とサンプリングクロックによりジョセフソン接合26,27がオンするので、出力回路23にSFQパルスが出力される。
【0047】
一方、量子化器101 ,102 からの重ね合わせ出力があるしきい値より小さい場合には、クロックドライバ24に接続されたジョセフソン接合21がオンしてSFQパルスは出力されないことになる。
【0048】
図8参照
図8は、本発明の実施例2の超電導アナログ−デジタル変換回路の回路特性のシミュレーション結果の説明図であり、上図はサンプリングクロック周波数を50GHzとした場合のデジタル出力信号の説明図であり、下図はサンプリングクロック周波数を150GHzとした場合のデジタル出力信号の説明図である。
【0049】
上図から明らかなように、サンプリングクロック周波数を50GHzの場合には、LSB幅の不均等性は7%程度であり、従来の超電導ADC回路に比べて大幅な特性の向上が確認されとともに、上記の実施例1に対しても若干の改善が見られた。
【0050】
また、下図に示すように、サンプリングクロック周波数が150GHzになっても、ややエラーはあるものの、周期性を有するデジタル出力信号が得られ、上記の実施例1に比べて、150GHz程度の高周波特性における特性が大幅に改善されることが分かる。
【0051】
このように、本発明の実施例2によれば、量子化器を入力信号に対して2つのrf−SQUIDを相補的に配置するとともに、比較器を構成するジョセフソン接合をdc−SQUIDに置き換えることによって、rf−SQUIDループ上にジョセフソン接合が加わることがないので、読出動作と量子化動作の間の干渉を排除することができ、それによって、ダイナミックエラー等の誤動作やクロック速度の低下を回避することができる。
【実施例3】
【0052】
次に、図9を参照して本発明の実施例3の超電導アナログ−デジタル変換回路を説明する。
図9参照
図9は、本発明の実施例3の超電導アナログ−デジタル変換回路の回路構成図であり、上記の実施例1の超電導アナログ−デジタル変換回路における各rf−SQUIDをSQUIDホイールに置き換えたものである。
【0053】
即ち、入力インダクタ111 ,112 に対して、それぞれ並列接続された一対のジョセフソン接合121 ,123 及び一対のジョセフソン接合122 ,124 を接続して構成した量子化器103 ,104 を信号入力端子13からの入力信号に対して相補的に配置する。
なお、入力信号はトランス14を介して量子化器103 ,104 に相補的に入力されるが、この時に、2つの量子化器103 ,104 に入力される信号の位相をずらすために、位相調整用バイアス源15をトランス14の出力側に接続する。
なお、トランス14の出力側の中点が接地されている場合には、位相調整用バイアス源15をトランス14の入力側に接続しても良い。
【0054】
また、この2つの量子化器103 ,104 の出力は合成されて2つのジョセフソン接合21,22を直列接続した比較器20の結節点に接続した出力回路23に出力される。
この比較器20を構成する一方のジョセフソン接合21はSFQパルス発生器からなるクロックドライバ24に接続されるとともに、他方のジョセフソン接合22は接地される。
また、比較器20の結節点に接続されないジョセフソン接合123 124 に対しては位相調整用インダクタ161 ,162 と位相調整用バイアス源171 ,172 がそれぞれ接続される。
【0055】
この場合の基本的動作は、上記の実施例1の超電導アナログ−デジタル変換回路と同様であるが、量子化器をSQUIDホイールを用いて構成しているので、従来のSQUIDホイールと同様に、量子化器ループの実効的なインダクタンスを抑制することができ、それによって、LIc 積が小さくなるので、高周波特性を改善することができる。
【実施例4】
【0056】
次に、図10を参照して本発明の実施例4の超電導アナログ−デジタル変換回路を説明する。
図10参照
図10は、本発明の実施例4の超電導アナログ−デジタル変換回路の回路構成図であり、上記の実施例1の超電導アナログ−デジタル変換回路におけるクロックドライバを梯子構造の分配器と集合器とにより構成したものである。
【0057】
まず、上記の実施例1と全く同様に、入力インダクタ111 ,112 とジョセフソン接合121 ,122 からなる量子化器101 ,102 を信号入力端子13からの入力信号に対して相補的に配置する。
この場合も入力信号はトランス14を介して量子化器101 ,102 に相補的に入力されるが、この時に、2つの量子化器101 ,102 に入力される信号の位相をずらすために、位相調整用バイアス源15をトランス14の出力側に接続する。
なお、トランス14の出力側の中点が接地されている場合には、位相調整用バイアス源15をトランス14の入力側に接続しても良い。
【0058】
また、この2つの量子化器101 ,102 の出力は合成され、接地されたジョセフソン接合22とクロックドライバ41を直列接続した比較器40の結節点に接続した出力回路23に出力される。
【0059】
この場合、クロックドライバ41は、SFQパルス発生器42と、接地されたジョセフソン接合44と並列接続されたジョセフソン接合451 ,452 と、インダクタ461 ,462 と直流バイアス源471 ,472 とからなる分配器43、2個のジョセフソン接合491 ,501 (492 ,502 )の直列接続体を並列接続するともに、直流バイアス源511 ,512 を接続した集合器48とにより構成され、この分配器43と集合器48とは両方の機能に組み込まれる接地されたジョセフソン接合521 ,522 を介して1段構造で接続されている。
【0060】
このクロックドライバ41は、SFQパルス発生器42からのSFQパルスが上下の伝送路に分配されて伝送されるので、それを集合器48で集合することによって1クロックに2個のSFQ(ツインクロック)を使用することができ、クロックドライバ41の駆動能力を2倍にすることができる。
【0061】
この場合、上下の伝送路における伝送タイミングがずれると集合出力のパルス幅が広がるので、伝送タイミングがずれないように1段構造としている。
即ち、インダクタやジョセフソン接合を形成する場合に、どうしても製造バラツキが発生して、各インダクタや各ジョセフソン接合の特性が設計値に対してランダムにずれるため、多段構造にした場合には、伝送タイミングがずれやすくなるためである。
【0062】
このように、本発明の実施例4においては、クロックドライバ41を分配器と集合器を用いて構成しているので、クロックドライバ41の駆動能力を2倍にすることができる。
【実施例5】
【0063】
次に、図11を参照して本発明の実施例5の多相交流信号入力型超電導アナログ−デジタル変換回路を説明する。
図11参照
図11は、本発明の実施例5の多相交流信号入力型超電導アナログ−デジタル変換回路の回路構成図であり、入力インダクタ111 〜11n とジョセフソン接合121 〜12n からなるn個の量子化器101 〜10n を並列に接続するとともに、量子化された出力信号に位相差を設けるための位相調整用バイアス源152 〜15n が接続される。
この場合、各信号入力端子131 〜13n に入力される入力信号は、位相が順次2π/nだけずれた多相交流信号源が用いられる。
【0064】
また、n個の量子化器101 〜10n の出力は合成されて2つのジョセフソン接合21,22を直列接続した比較器20の結節点に接続した出力回路23に出力される。
この比較器20を構成する一方のジョセフソン接合21はSFQパルス発生器からなるクロックドライバ24に接続されるとともに、他方のジョセフソン接合21は接地される。
【0065】
この場合も上述の2個の量子化器を入力に対して相補的に配置した超電導アナログ−デジタル変換回路と同様な動作原理でオフセットをキャンセルすることができる。
即ち、位相が均等にずれた多相交流信号のオフセット成分は、多相交流信号を時間微分した波形になり、したがって、各オフセット成分も位相が均等にずれた波形になるので、それらを足し合わせると値は常にゼロとなり、キャンセルされる。
このように、実施例5においては、オフセット成分が互いに打ち消し合うという意味において「相補的」な配置になっている。
【実施例6】
【0066】
次に、図12を参照して本発明の実施例6の多ビット出力超電導アナログ−デジタル変換回路を説明する。
図12参照
図12は、本発明の実施例6の多ビット出力超電導アナログ−デジタル変換回路の回路構成図であり、nビットの出力を出力するために、n個の抵抗Rとn+1個の抵抗2Rとの直並列接続回路からなる抵抗ラダー61に対してn個の相補SQUID型ADC回路601 〜60n を接続したものである。
なお、この場合の相補SQUID型ADC回路601 〜60n としては、上述の実施例1乃至実施例5のいずれかの相補SQUID型ADC回路を用いる。
【0067】
但し、実施例5の相補SQUID型ADC回路を用いる場合には、信号入力端子と同数の複数の抵抗ラダー61を用いる必要がある。
例えば、m相交流信号の場合に、位相が順次2π/mだけずれた信号入力が入力されるm個の抵抗ラダー61に対して各ビットを構成する各相補SQUID型ADC回路601 〜60n の信号入力がm個になるように接続する。
【0068】
この場合、信号入力端子13に印加される入力信号の振幅は、第1ビットでは1/2、第2ビットでは1/4、即ち、第nビットでは1/2n の割合で各ビットの相補SQUID型ADC回路601 〜60n に分配される。
その結果、各ビット出力からは、全体としてnビットにグレイ・コード化されたデジタル信号が出力される。
【実施例7】
【0069】
次に、図13を参照して本発明の実施例7の多ビット出力超電導アナログ−デジタル変換回路を説明する。
図13参照
図13は、本発明の実施例7の多ビット出力超電導アナログ−デジタル変換回路の回路構成図であり、nビットの出力を出力するために、n個のインダクタLとn+1個のインダクタ2Lとの直並列接続回路からなるインダクタ・ラダー62に対してn個の相補SQUID型ADC回路601 〜60n を接続したものである。
なお、この場合の相補SQUID型ADC回路601 〜60n としても、上述の実施例1乃至実施例5のいずれかの相補SQUID型ADC回路を用いる。
【0070】
但し、実施例5の相補SQUID型ADC回路を用いる場合には、信号入力端子と同数の複数のインダクタ・ラダー62を用いる必要がある。
例えば、m相交流信号の場合に、位相が順次2π/mだけずれた信号入力が入力されるm個のインダクタ・ラダー62に対して各ビットを構成する各相補SQUID型ADC回路601 〜60n の信号入力がm個になるように接続する。
【0071】
この場合も、信号入力端子13に印加される入力信号の振幅は、第1ビットでは1/2、第2ビットでは1/4、即ち、第nビットでは1/2n の割合で各ビットの相補SQUID型ADC回路601 〜60n に分配される。
その結果、各ビット出力からは、全体としてnビットにグレイ・コード化されたデジタル信号が出力される。
【実施例8】
【0072】
次に、図14を参照して本発明の実施例8の多ビット出力超電導アナログ−デジタル変換回路を説明する。
図14参照
図14は、本発明の実施例8の多ビット出力超電導アナログ−デジタル変換回路の回路構成図であり、nビットの出力を出力するために、n個のトランスの直列接続回路からなるトランス・ラダー63に対してn個の相補SQUID型ADC回路601 〜60n を接続したものである。
この場合、各トランスの結合係数の比を、第1ビット目のトランスの結合係数を1とした場合に、順に1/2の比で減じて行くものであり、したがって、第nビット目のトランスの結合係数の比は1/2n-1 となる。
なお、この場合の相補SQUID型ADC回路601 〜60n としては、上述の実施例1乃至実施例5のいずれかの相補SQUID型ADC回路を用いる。
【0073】
但し、実施例5の相補SQUID型ADC回路を用いる場合には、信号入力端子と同数の複数のトランス・ラダー63を用いる必要がある。
例えば、m相交流信号の場合に、位相が順次2π/mだけずれた信号入力が入力されるm個のトランス・ラダー63に対して各ビットを構成する各相補SQUID型ADC回路601 〜60n の信号入力がm個になるように接続する。
【0074】
この場合も、信号入力端子13に印加される入力信号の振幅は、第1ビットでは1/2、第2ビットでは1/4、即ち、第nビットでは1/2n の割合で各ビットの相補SQUID型ADC回路601 〜60n に分配される。
その結果、各ビット出力からは、全体としてnビットにグレイ・コード化されたデジタル信号が出力される。
【0075】
以上、本発明の各実施例を説明してきたが、本発明は各実施例に記載された構成・条件等に限られるものではなく各種の変更が可能であり、例えば、上記の各実施例においては、信号入力部をトランス結合方式で構成しているが、トランス結合方式に限られるものではなく、図5に示したように、一対の相補的に配置したrf−SQUIDに直接アナログ入力信号を接続しても良いものである。
この場合、位相調整用バイアス源は、上記の図2或いは図3に示した等価回路のように、一対の相補的に配置したrf−SQUIDの一方に接続すれば良いものである。
【0076】
また、本発明の実施例3においては、SQUIDホイールを2つのrf−SQUIDを並列接続して構成しているが、3つ以上のrf−SQUIDを並列接続して構成しても良く、その場合には、量子化器ループの実効的なインダクタンスをさらに低減することができる。
【0077】
また、本発明の実施例4においては、クロックドライバを1段構成で構成しているが、プロセス管理が向上して素子のバラツキが小さくなった場合に、2段以上の多段構造で構成しても良いものである。
【0078】
さらに、本発明の実施例4においては、分配器を2分岐構造で構成しているが、3分岐構造等の多分岐構造で構成しても良く、例えば、n分岐構造にした場合には1クロックにn個のSFQを用いることができるので、クロックドライバの駆動能力が大幅に向上する。
なお、この場合には、集合器も分配器の分岐数に応じて集合数を増加する必要がある。
【0079】
また、本発明の実施例2のdc−SQUIDを用いた比較器の構成は、上記の実施例3乃至実施例5、あるいは、それらを合わせた変形実施例の構成にも適用されるものである。
また、本発明の実施例4のクロックドライバの構成には、上記の実施例2、実施例3及び実施例5、或いは、それらを合わせた変形実施例の構成にも適用されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の活用例としては、通信ネットワークや各種の計測器における超電導ADC回路が典型的なものであるが、通信ネットワークや計測器に限られるものではなく、高速性及び高帯域が求められる各種の分野に適用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の原理的構成図である。
【図2】相補型rf−SQUIDを用いた量子化器のLIc 積が小さい場合のシミュレーション結果の説明図である。
【図3】相補型rf−SQUIDを用いた量子化器のLIc 積が大きい場合のシミュレーション結果の説明図である。
【図4】本発明の実施例1の超電導アナログ−デジタル変換回路の回路構成図である。
【図5】2つの量子化器からの出力電流の概念的説明図である。
【図6】本発明の実施例1の超電導アナログ−デジタル変換回路の回路特性のシミュレーション結果の説明図である。
【図7】本発明の実施例2の超電導アナログ−デジタル変換回路の回路構成図である。
【図8】本発明の実施例2の超電導アナログ−デジタル変換回路の回路特性のシミュレーション結果の説明図である。
【図9】本発明の実施例3の超電導アナログ−デジタル変換回路の回路構成図である。
【図10】本発明の実施例4の超電導アナログ−デジタル変換回路の回路構成図である。
【図11】本発明の実施例5の多相交流信号入力型超電導アナログ−デジタル変換回路の回路構成図である。
【図12】本発明の実施例6の多ビット出力超電導アナログ−デジタル変換回路の回路構成図である。
【図13】本発明の実施例7の多ビット出力超電導アナログ−デジタル変換回路の回路構成図である。
【図14】本発明の実施例8の多ビット出力超電導アナログ−デジタル変換回路の回路構成図である。
【図15】従来のQOSコンパレータの回路構成図である。
【図16】QOSコンパレータからの出力電流の説明図である。
【図17】量子化器の等価回路図である。
【図18】従来のSQUIDホイールの回路構成図である。
【図19】従来のSQUIDホイールの回路特性のシミュレーション結果の説明図である。
【符号の説明】
【0082】
1 量子化器
2 超電導量子干渉素子
3 超電導量子干渉素子
4 入力信号
5 比較器
6 ジョセフソン接合
7 ジョセフソン接合
8 出力回路
9 パルス発生器
101 〜10n 量子化器
111 〜11n 入力インダクタ
121 〜12n ジョセフソン接合
13,131 〜13n 信号入力端子
14 トランス
15,152 〜15n 位相調整用バイアス源
161 ,162 位相調整用インダクタ
171 ,172 位相調整用バイアス源
20 比較器
21,22 ジョセフソン接合
23 出力回路
24 クロックドライバ
25 dc−SQUID
26,27 ジョセフソン接合
28 制御線
30 比較器
40 比較器
41 クロックドライバ
42 SFQパルス発生器
43 分配器
44 ジョセフソン接合
451 ,452 ジョセフソン接合
461 ,462 インダクタ
471 ,472 直流バイアス源
48 集合器
491 ,492 ,501 ,502 ジョセフソン接合
511 ,512 直流バイアス源
521 ,522 ジョセフソン接合
601 〜60n 相補SQUID型ADC回路
61 抵抗ラダー
62 インダクタ・ラダー
63 トランス・ラダー
80 量子化器
81 入力インダクタ
82,821 ,822 ジョセフソン接合
83 比較器
84,85 ジョセフソン接合
86 クロックドライバ
87 出力回路
88 アナログ信号源
89 インダクタ
90 位相調整用バイアス源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2個の超電導量子干渉素子を入力信号に対して相補的に配置したことを特徴とする量子化器。
【請求項2】
前記信号入力部をトランス結合方式で構成したことを特徴とする請求項1記載の量子化器。
【請求項3】
位相調節用バイアス端子を、前記信号入力部に設けたことを特徴とする請求項2記載の量子化器。
【請求項4】
前記少なくとも一方の超電導量子干渉素子ループ上に、位相調節用バイアス端子を設けたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のの量子化器。
【請求項5】
前記少なくとも一方の超電導量子干渉素子を、並列配置した2個の超電導量子干渉素子に置き換えたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の量子化器。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の量子化器の出力段に、ジョセフソン接合を含む比較器を接続したことを特徴とする超電導アナログ−デジタル変換回路。
【請求項7】
前記比較器を構成する一個のジョセフソン接合を、超電導量子干渉素子により置き換えたことを特徴とする請求項6記載の超電導アナログ−デジタル変換回路。
【請求項8】
前記比較器を駆動するパルス発生器を、分配器と集合器とからなる並列構造で構成したことを特徴とする請求項6または7に記載の超電導アナログ−デジタル変換回路。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれか1項に記載の超電導アナログ−デジタル変換回路を設定したビット数の数だけ、抵抗ラダー、インダクタ・ラダー或いはトランス・ラダーのいずれかに接続したことを特徴とする多ビット超電導アナログ−デジタル変換回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−164819(P2009−164819A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−340949(P2007−340949)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業総合開発機構「次世代高効率ネットワークデバイス技術開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】