説明

金ナノ粒子及びその製造方法

【課題】新しい金ナノ粒子の製造方法、その製造に用いる溶液、その方法で製造された金ナノ粒子を提供する。
【解決手段】粒径が1〜5μmの金ナノクラスターと熱応答性高分子(カルボキシル基等のアニオン基を含む熱応答性高分子を除く。)とを含む混合溶液を準備する工程と、該混合溶液を加熱し冷却する工程とを有する方法によって金ナノ粒子を製造する。熱応答性高分子が、少なくともN−イソプロピルアクリルアミド類を構成単位として含むポリマー、ポリ(メチルビニルエーテル)、又はヒドロキシプロピルセルロースであることが好ましい。製造された金ナノ粒子は、TEM像から計測できる粒径が50〜100nmの範囲であり、動的光散乱法での測定で粒径100〜500nmにピークを示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金ナノ粒子及びその製造方法に関し、更に詳しくは、金ナノクラスターと熱応答性高分子とを用いた金ナノ粒子の製造方法及びその方法で得られた金ナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1では、粒径約13nm前後の金ナノ粒子にポリアミノ基を有する熱応答性高分子を被覆して凝集状態とすること、及びその凝集状態に熱刺激を与えることにより再び分散状態に戻ること(再分散現象)が報告されている。同文献1の金ナノ粒子は、金(III)イオンを還元することにより得られるが、金ナノ粒子の粒径の制御は、金(III)イオンの濃度と生成した金ナノ粒子の安定化剤の濃度との比で行っている。そのため、得られる金ナノ粒子の平均粒径の制御、分散性の制御、及び形状の制御を十分に行うことができないという問題があった。また、非特許文献2では、金ナノ粒子を種粒子として金(III)イオンを還元し、粒径が50nmを超える金ナノ粒子やロッド状の金ナノ粒子を作製する方法が提案されている。
【0003】
なお、特許文献1は、本出願人の関連する技術である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】T.Shimada, K.Ookubo, N.Komuro, T.Shimizu, N.Uehara, Langmuir, 23, 11225-11232(2007).
【非特許文献2】Liao,H.W; Hafner,J.H., Chem.Mater., 2005, 17, 4636.
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−229147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、新しい金ナノ粒子の製造方法を提供すること、及びその方法で製造された金ナノ粒子を提供することにある。特に、熱応答性高分子を用い、粒径数ナノメートルの金ナノクラスターから粒径数十ナノメートルの金ナノ粒子を製造する方法及びその製造用溶液、並びにその製造方法で得られた金ナノ粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、クエン酸還元法による粒径約13nmの金ナノ粒子を用いて再分散現象について検討してきたが、その後、その再分散現象とは異なるアプローチとして、テトラエチレングリコール(TEG)共存下で粒径数nmの金ナノ粒子を合成し、その金ナノ粒子に熱応答性高分子を被覆したのちに熱刺激を加えたところ、溶液の赤みが増し、約550nm付近の吸光度が上昇する現象を発見した。本発明はこうした知見に基づいてなされたものである。
【0008】
すなわち、上記課題を解決するための本発明に係る金ナノ粒子の製造方法は、粒径が1〜5μmの金ナノクラスターと熱応答性高分子(カルボキシル基等のアニオン基を含む熱応答性高分子を除く。)とを含む混合溶液を準備する工程と、該混合溶液を加熱し、冷却する工程とを有することを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、従来のように金(III)イオンを還元して粒径が50nmを超える金ナノ粒子やロッド状の金ナノ粒子を製造するのではなく、粒径1〜5μmの金ナノクラスターと熱応答性高分子との混合溶液を加熱、冷却するという簡単な操作で、粒径が50〜100nmの範囲の金ナノ粒子を得るという新しい方法を提供することができる。また、本発明では熱応答性高分子を用いるが、カルボキシル基等のアニオン基を含む熱応答性高分子以外であれば本発明の製造方法に適用できる。
【0010】
本発明に係る金ナノ粒子の製造方法において、前記熱応答性高分子としては、少なくともN−イソプロピルアクリルアミド類を構成単位として含むポリマー、ポリ(メチルビニルエーテル)、又はヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
【0011】
特に、前記N−イソプロピルアクリルアミド類を構成単位として含むポリマーが、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(以下、P−NIP)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−AC−アミン)(以下、pNIP−AC)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−AC−シスタミン)(以下、pNIP−Cys)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−AC−アラニン)(以下、pNIP−Ala)、及びポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−グリシジルメタクリル酸−乳酸)(以下、pNIP−GMA−乳酸)から選ばれる1又は2以上であることが好ましい。
【0012】
本発明に係る金ナノ粒子の製造方法において、前記金ナノクラスターは、塩化金酸溶液とポリオキシエチレン溶液を混合した後にテトラヒドロホウ酸ナトリウム溶液を添加して得る。
【0013】
この発明によれば、粒径が1〜5μmの金ナノクラスターを得ることができる。
【0014】
上記課題を解決するための本発明に係る金ナノ粒子の製造用溶液は、粒径が1〜5μmの金ナノクラスターと熱応答性高分子(カルボキシル基等のアニオン基を含む熱応答性高分子を除く。)とを含むことを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、加熱、冷却するという簡単な操作で、粒径が50〜100nmの範囲の金ナノ粒子を得ることができる溶液を提供できる。
【0016】
上記課題を解決するための本発明に係る金ナノ粒子は、TEM像から計測できる粒径が50〜100nmの範囲であり、動的光散乱法での測定で粒径100〜500nmにピークを示すことを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、従来にない上記粒径範囲の金ナノ粒子を提供できる。
【0018】
上記課題を解決するための本発明に係るチオール基の検出方法は、上記本発明に係る金ナノ粒子の製造用溶液を準備し、該溶液に試験試料を添加して加熱、冷却し、該冷却後の溶液を波長550nmで吸光度測定することを特徴とする。
【0019】
この発明によれば、上記本発明に係る金ナノ粒子の製造溶液に試験試料を添加した溶液を加熱冷却した後、波長550nmでの吸光度が減少した場合は、その試験試料には、チオール基含有化合物が含まれている可能性が高いということができる。こうしたことから、金ナノ粒子の製造用溶液をチオール基含有化合物の検出溶液として利用できる。なお、そうした吸光度の減少は、チオール基含有化合物が金ナノ粒子に吸着することで、金ナノ粒子同士の接触及び融合が阻害されるものと推察される。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る金ナノ粒子の製造溶液によれば、従来のように金(III)イオンを還元して粒径が50nmを超える金ナノ粒子やロッド状の金ナノ粒子を製造するのではなく、粒径1〜5μmの金ナノクラスターと熱応答性高分子との混合溶液を加熱、冷却するという簡単な操作で、粒径が50〜100nmの範囲の金ナノ粒子を得るという新しい方法を提供することができる。また、本発明では熱応答性高分子を用いるが、カルボキシル基等のアニオン基を含む熱応答性高分子以外であれば本発明の製造方法に適用できる。
【0021】
本発明に係る金ナノ粒子の製造用溶液によれば、加熱、冷却するという簡単な操作で、粒径が50〜100nmの範囲の金ナノ粒子を得ることができる溶液を提供できる。
【0022】
本発明に係る金ナノ粒子によれば、従来にない上記粒径範囲の金ナノ粒子を提供できる。
【0023】
本発明に係るチオール基の検出方法によれば、上記本発明に係る金ナノ粒子の製造溶液に試験試料を添加した溶液を加熱冷却した後、波長550nmでの吸光度が減少した場合は、その試験試料には、チオール基含有化合物が含まれている可能性が高いということができる。こうしたことから、金ナノ粒子の製造用溶液をチオール基含有化合物の検出溶液として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】金ナノ粒子の製造メカニズムを示す模式図、及び、チオール化合物が金ナノ粒子の製造を阻害するメカニズムを示す模式図である。
【図2】混合溶液A中のP−NIPの濃度を変えたときの波長190〜900nmで吸収スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図3】混合溶液Aにおいて加熱温度を変化させたときの金ナノ粒子のTEM写真である。
【図4】動的光散乱(DLS)による粒径の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係る金ナノ粒子の製造方法、その方法に用いる溶液及びその方法で製造された金ナノ粒子について図面を参照して説明する。また、金ナノ粒子の製造用溶液を用いてチオール基の検出を行う方法についても説明する。
【0026】
[金ナノ粒子の製造方法]
本発明に係る金ナノ粒子の製造方法は、粒径が1〜5μmの金ナノクラスターと熱応答性高分子(カルボキシル基等のアニオン基を含む熱応答性高分子を除く。)とを含む混合溶液を準備する工程と、その混合溶液を加熱し冷却する工程とを有する。以下、本発明の製造方法の各工程について詳しく説明する。
【0027】
(混合溶液の準備工程)
混合溶液は、金ナノ粒子を製造するための水溶液であって、金ナノクラスターと熱応答性高分子とを少なくとも含んでいる。
【0028】
金ナノクラスターは、透過型電子顕微鏡像(TEM像と略す。)で測定した粒径が1〜5μmの金粒子のことである。金ナノクラスターの形状は、粒形状又は球形状であることが望ましい。金ナノクラスターは各種の方法で製造でき、後述する実験例に記載のように、テトラヒドロホウ酸ナトリウム溶液を用いる方法等で製造することができる。具体的には、塩化金酸溶液にポリオキシエチレン溶液を添加した後に水を加え、pH調整した後にNaBH(テトラヒドロホウ酸ナトリウム)溶液を添加し、その後反応させて合成することができる。なお、ポリオキシエチレン溶液としては、テトラエチレングリコール等を挙げることができる。こうした合成方法によって、粒径が1〜5μmの金ナノクラスターを得ることができる。
【0029】
熱応答性高分子としては、少なくともN−イソプロピルアクリルアミド類を構成単位として含むポリマー、ポリ(メチルビニルエーテル)、又はヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
【0030】
熱応答性高分子のうち、N−イソプロピルアクリルアミド類を構成単位として含むポリマーの例としては、下記一般式1〜5に記載のものを好ましく挙げることができる。
【0031】
【化1】

【0032】
上記化学式1のポリマーは、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)類である。化学式1において、RとRはそれぞれ独立にアルキル基、好ましくは炭素数1〜4程度の直鎖状のアルキル基、より好ましくはメチル基を表す。Rはそれぞれ独立に水素又はメチル基、好ましくは水素を表す。nは1000〜100000の整数である。RとRをメチル基とし、Rを水素としたポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)は「P−NIP」で表す。
【0033】
【化2】

【0034】
上記化学式2のポリマーは、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−アクリロイル−アミン)類である。化学式2において、RとRはそれぞれ独立にアルキル基、好ましくは炭素数1〜4程度の直鎖状のアルキル基、より好ましくはメチル基を表す。RとRはそれぞれ独立に水素又はメチル基、好ましくは水素を表す。また、x/yは95/5〜70/30であり、好ましくは90/10〜85/15の範囲である。x+yは100であり、nは1〜4である。RとRをメチル基とし、RとRを水素としたポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−アクリロイル−アミン)は「pNIP−AC」で表す。
【0035】
化学式2のポリマーの右側の側鎖は、エチレンイミン鎖の繰り返し単位を含むアクリロイルアミン(以下、ACという。)である。より具体的には、右側の側鎖のエチレンイミン鎖の繰り返し単位であるn=0の場合には、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−アクリロイルエチレンジアミン)[以下、poly(NIPAAm−co−(AC−EDA))という。]となり、n=1の場合には、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−アクリロイルジエチレントリアミン)[以下、poly(NIPAAm−co−(AC−DETA))という。]となり、n=2の場合には、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−アクリロイルトリエチレンテトラミン)[以下、poly(NIPAAm−co−(AC−TETA))という。]となり、n=3の場合には、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−アクリロイルテトラエチレンペンタミン)[以下、poly(NIPAAm−co−(AC−TEPA))という。]、n=4の場合には、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−アクリロイルペンタエチレンヘキサミン)[以下、poly(NIPAAm−co−(AC−PEHA))という。]となる。
【0036】
【化3】

【0037】
上記化学式3のポリマーは、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−アクリロイル−シスタミン)類である。化学式3において、RとR及びRとRはそれぞれ独立にアルキル基、好ましくは炭素数1〜4程度の直鎖状のアルキル基、より好ましくはメチル基を表す。RとR及びRとRはそれぞれ独立に水素又はメチル基、好ましくは水素を表す。また、x/y/zは95/2.5/2.5〜80/10/10である。なお、x+y+zは100である。RとR及びRとRをメチル基とし、RとR及びRとRを水素としたポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−アクリロイル−アミン)は「pNIP−Cys」で表す。
【0038】
【化4】

【0039】
上記化学式4のポリマーは、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−アクリロイル−アラニン)類である。化学式4において、RとR及びRはそれぞれ独立にアルキル基、好ましくは炭素数1〜4程度の直鎖状のアルキル基、より好ましくはメチル基を表す。RとRはそれぞれ独立に水素又はメチル基、好ましくは水素を表す。また、x/yは90/10〜80/20である。なお、x+yは100である。RとR及びRをメチル基とし、RとRを水素としたポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−アクリロイル−アミン)は「pNIP−AC」で表す。
【0040】
【化5】

【0041】
上記化学式5のポリマーは、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−グリシジルメタクリル酸−乳酸)類である。化学式5において、RとR及びRはそれぞれ独立にアルキル基、好ましくは炭素数1〜4程度の直鎖状のアルキル基、より好ましくはメチル基を表す。RとRはそれぞれ独立に水素又はメチル基、好ましくは水素を表す。また、x/yは95/5〜80/20である。なお、x+yは100である。RとR及びRをメチル基とし、RとRを水素としたポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−アクリロイル−アミン)は「pNIP−GMA−乳酸」で表す。
【0042】
上記化学式1〜5のポリマーの分子量は、重量平均分子量で8000以上100000以下のものを用いることができ、10000以上20000以下のものが好ましい。また、各ポリマーは、通常それぞれ単独で用いられるが、2以上を併せて用いてもよい。また、本発明の趣旨の範囲内であれば、上記化学式1〜5のポリマーと同様の効果を奏する他の熱応答性高分子、例えば、ポリ(メチルビニルエーテル)、ヒドロキシプロピルセルロース等を用いてもよい。
【0043】
上記化学式1〜5のポリマーは、後述する実験例に示す方法で合成することができる。例えば、化学式1のポリマーは、モノマー成分であるN−イソプロピルアクリルアミド類を水に溶解し、重合開始剤と重合促進剤を加えて重合し、生成物を精製し、その後凍結乾燥して得ることができる。また、化学式2〜5のポリマーも、重合させるモノマー成分を溶媒に溶解し、重合開始剤と重合促進剤を加えて重合し、生成物を精製し、その後凍結乾燥して各ポリマーを得ることができる。
【0044】
なお、同じ熱応答性高分子であっても、金ナノ粒子を製造できないものがある。その代表的な例としては、下記化合物6に示すカボキシル基等のアニオン基を有する熱応答性高分子(ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−メタクリル酸)類(pNIP−MA))を挙げることができる。また、熱応答性高分子ではないポリエチレングリコール(PEG)やポリアクリルアミドは、金ナノ粒子を製造できない。
【0045】
【化6】

【0046】
(混合溶液)
金ナノ粒子の製造用溶液は、上記した金ナノクラスターと上記した熱応答性高分子(カルボキシル基等のアニオン基を含む熱応答性高分子を除く。)とを含む水溶液である。混合溶液には、金ナノクラスターが0.0018〜0.0090質量%の範囲で含まれることが好ましく、熱応答性高分子が0.25〜2.0質量%の範囲で含まれることが好ましい。また、金ナノクラスターと熱応答性高分子を質量比で表すと、金ナノクラスター/熱応答性高分子の質量比が9/10000〜36/1000の範囲であることが好ましい。
【0047】
混合溶液に含有させる熱応答性高分子は、通常、1種の熱応答性高分子であるが、金ナノ粒子を製造することが可能であれば2種以上の熱応答性高分子であってもよい。また、混合溶液のpHは含有させる熱応答性高分子の種類にもよるが、通常、2.9〜10.0の範囲であることが好ましい。
【0048】
(加熱、冷却工程)
調整された金ナノ粒子の製造用溶液(混合溶液)を加熱し、冷却することによって、金ナノ粒子が製造される。加熱は、熱応答性高分子に相転移を起こさせ、金ナノクラスターを融合させる操作である。加熱温度は、40℃〜95℃、好ましくは70〜95℃である。温度が高いほど大きな粒径の金ナノ粒子を得ることができる。加熱時間は、30分〜2時間が好ましい。なお、加熱時間が長くなると大きな粒子の個数が増えて平均粒径が見かけ上大きくなる。しかし、粒子が成長して大きい粒子になるわけではない。また、吸光度の変化は、30分以上ではあまり変わらない。
【0049】
冷却は、加熱されて熱応答性高分子が析出し濁った溶液を、再度透明にする操作である。冷却温度は、0〜30℃、好ましくは4〜10℃である。冷却温度が低くなるほど早く溶液は透明となる。冷却時間は、30分以上で十分であり、上限は特に限定されない(1時間又は2時間程度)。
【0050】
こうした加熱冷却手段により、混合溶液から金ナノ粒子を製造することができる。製造された金ナノ粒子は、TEM像から計測できる粒径が50〜100nmの範囲であり、動的光散乱法での測定で粒径100〜500nmにピークを示す。なお、TEM像からの計測は、TEM写真を撮影し、その写真から計測したものである。一方、動的光散乱法による粒径の測定は、動的光散乱測定装置で測定されたものである。
【0051】
また、加熱冷却後の溶液は、約550nm付近での吸光度が大きくなり、溶液の赤みが増した。また、こうした吸光度が大きくなるのは、熱応答性高分子の作用により、金ナノ粒子が大きくなっている場合に見られた。
【0052】
以上説明したように、本発明に係る金ナノ粒子の製造溶液によれば、従来のように金(III)イオンを還元してロッド状の金ナノ粒子を製造するのではなく、粒径1〜5μmの金ナノクラスターと熱応答性高分子との混合溶液を加熱、冷却するという簡単な操作で、粒径が50〜100nmの範囲の金ナノ粒子を得るという新しい方法を提供することができる。また、本発明では熱応答性高分子を用いるが、カルボキシル基等のアニオン基を含む熱応答性高分子以外であれば本発明の製造方法に適用できる。
【0053】
[チオール基の検出方法]
次に、チオール基の検出方法について説明する。本発明に係るチオール基の検出方法は、上記した本発明に係る金ナノ粒子の製造用溶液を準備し、その溶液に試験試料を添加して加熱、冷却し、冷却後の溶液を波長550nmで吸光度測定する方法である。
【0054】
金ナノ粒子の製造用溶液にチオール基を有する化合物(チオール化合物という。)を添加すると、チオール基が金ナノ粒子の製造を阻害する。こうした阻害作用は、チオール化合物が図1に示す凝集体を構成する金ナノクラスターに吸着することで、金ナノクラスター同士の接触・融合が阻まれる。その結果、金ナノ粒子の製造が阻害され、吸光度での550nmの吸収ピークが小さくなり、赤みが弱くなる。こうしたことは、換言すれば、金ナノ粒子の製造用溶液を、チオール化合物の選択的な検出溶液として応用できる。
【0055】
チオール化合物としては、L−システイン、DL−ホモシステイン、システイニルグリシン、還元型グルタチオン、3−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸エチル等を挙げることができる。これらのチオール化合物は、添加濃度の上昇とともに550nm付近の吸収ピークの減少が見られた。
【0056】
この検出方法で用いる混合溶液の種類は、上記した本発明に係る金ナノ粒子の製造方法で用いる混合溶液と同じものを用いることができるので、ここではその説明を省略する。
【0057】
測定できるチオール化合物の濃度は、0〜1.0×10−3mol/L、好ましくは0.05×10−4〜1.0×10−4mol/Lである。
【0058】
この発明を利用すれば、金ナノ粒子の製造溶液に試験試料を添加した溶液を加熱冷却した後、波長550nmでの吸光度が減少した場合は、その試験試料には、チオール基含有化合物が含まれている可能性が高いということができる。こうしたことから、金ナノ粒子の製造用溶液をチオール基含有化合物の検出溶液として利用できる。
【実施例】
【0059】
以下の実験によって、本発明をさらに詳しく説明する。
【0060】
[混合溶液の調製]
(金ナノクラスターの合成)
100mLメスフラスコに0.1質量%の塩化金酸溶液を10mL採り、1質量%のポリオキシエチレン溶液を10,25,50mLそれぞれ添加したのちに水を加えて100mLとした。溶液のpHを1M塩酸溶液を用いてpH2.5に調整した。この溶液を25℃水浴中で攪拌しつつ、0.1MNaBH(テトラヒドロホウ酸ナトリウム)溶液を10μLゆっくりと添加した。その後、25℃水浴中で6時間反応させて、金ナノクラスターを合成した。
【0061】
(化学式1/P−NIPの合成)
500mL三つ口セパラブルフラスコにN−イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)30gを採り、水100mLで溶解した。オイルバスを用いてフラスコを60℃に加温し、攪拌しながら、重合開始剤としてペルオキソ二硫酸カリウム1.0g及び重合促進剤としてN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)1.5mLを添加し、4時間重合した。合成したP−NIPの構造式は、上記化学式1のRとRをメチル基としRを水素原子としたものである。重合終了後、メタノール100mLを加えて沈殿したポリマーを取り出し、メタノール100mLに溶解した。この溶液に、水100mLを加え、沈殿したポリマー取り出して水100mLに溶解した。この操作を二回繰り返し行い、精製したP−NIPを水に溶解し、凍結乾燥を行った。さらに、得られたポリマーを水に溶解して凍結乾燥を行い、冷暗所に保存した。この熱応答性高分子の下限臨界溶液温度(LCST)は33.2℃であった。
【0062】
(化学式2/pNIP−ACの合成)
DETAを含む1,4−ジオキサンの混合溶液(20.63g/200mL)に、ACと1,4−ジオキサンの混合溶液(1.625mL/50mL)を一滴ずつ滴下して反応させた(DETAの物質量:ACの物質量=10:1)。滴下終了後、白色の沈殿を濾別し、少量(約40mL)のメタノールに溶解した。これにKOH−メタノール溶液を加えて攪拌、濾別し、得られた濾液をNIPAAmとの共重合に用いた。500mL三つ口セパラブルフラスコにモノマーの供給比(NIPAAmの物質量:DETAの物質量)がモル比で90:10(mol%)となるようにN−イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)とAC−DETAを含むメタノール溶液を加えた。これに重合促進剤と重合開始剤を添加し、油浴中でフラスコ内の溶液を攪拌しながら窒素雰囲気下で脱酸素を行った。その後、窒素を通気しながら、油浴で60℃とし、窒素雰囲気下で4時間重合を行った。
【0063】
また、エチレンイミン鎖長の異なるエチレンジアミン(EDA)12.02g(0.2mol)、トリエチレンテトラミン(TETA)20.63g(0.2mol)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)37.86g(0.2mol)、ペンタエチレンヘプタミン(PEHA)46.49g(0.2mol)をそれぞれ用いて、NIPAAmの物質量とDETAの物質量がモル比で90:10mol%としたpoly(NIPAAm−co−(AC−DETA))の合成と同様の操作を行い、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−アクリロイルエチレンジアミン)[以下、poly(NIPAAm−co−(AC−EDA))]、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−アクリロイルトリエチレンテトラミン)[以下、poly(NIPAAm−co−(AC−TETA))]、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−アクリロイルテトラエチレンペンタミン)[以下、poly(NIPAAm−co−(AC−TEPA))]、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−アクリロイルペンタエチレンヘプタミン)[以下、poly(NIPAAm−co−(AC−PEHA))]を合成した。合成した各熱応答性高分子の構造式は、上記化学式2のRとRをメチル基としRとRを水素原子としたものである。
【0064】
重合終了後、生成物を含むメタノール溶液を室温まで冷却する。メタノール100mLに対して2Lの冷ジエチルエーテルを用い、生成物を含むメタノール溶液を冷ジエチルエーテルに1滴ずつゆっくり滴下し、攪拌する。これにより析出したガム状の生成物を回収し、再びメタノール約50mLに溶解する。この精製を2回行った後、得られたポリマーを水に溶解し、溶液を凍結させた。溶液が完全に凍結した後、凍結乾燥を行い、冷暗所に保存した。こうしてポリマーを合成した。この熱応答性高分子(NIP−TETA)の下限臨界溶液温度(LCST)は35.5℃であった。
【0065】
(化学式3/pNIP−Cysの合成)
まず合成の中原料であるアクリロイルシスタミン[以下AC−Cys]溶液を以下の手順で合成した。50mL遠心沈殿管に水5mL、シスタミン硫酸塩を0.250g添加し、溶解させた。その後、10M水酸化カリウム溶液を用いてpHを約10に調整した。この溶液にアセトニトリル5mL及び塩化ナトリウムを添加して水相とアセトニトリル相に分離させた。このとき塩化ナトリウムは0.1gずつを2相に分かれるまで添加した。2相のうちアセトニトリル相だけを分取して300mL三角フラスコに移した。水相にはアセトニトリル5mLを添加して攪拌し、再び2相に分離させ、アセトニトリル相を分取して先ほどの300mL三角フラスコに加え、攪拌しつつ冷却した。ここに1.4−ジオキサン50mL及び塩化アクリロイル1.625mLの混合溶液を滴下して攪拌を続けた。滴下終了後に生じた白色沈殿を濾別して、沈殿に水100mLを添加して溶解したのちに1M 水酸化カリウム溶液を用いてpHを5に調整した。この溶液に含まれるAC−Cysはそれ以上生成せずに重合に用いた。
【0066】
500mL三つ口セパラブルフラスコにモノマーの供給比(NIPAAmの物質量:シスタミンの物質量)がモル比で99:1(mol%)となるようにN−イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)22.41g(0.198mol)とAC−Cys溶液を加えた。攪拌しながら脱酸素ライン(5w/v% ピロガロール−10w/v% 水酸化ナトリウム溶液100mL)に通気した窒素をフラスコ内に通気し、オイルバスを用いてフラスコを60℃に加温した。重合開始剤としてN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)0.5mL及び重合促進剤としてペルオキソ二硫酸カリウム0.5406gを添加して、窒素雰囲気下で4時間重合を行った。重合終了後、冷ジエチルエーテルを用いて沈殿法によりポリマーの精製を2回行った。その後、得られたポリマーを水に溶解して凍結乾燥を行い冷暗所で保存した。合成した熱応答性高分子の構造式は、上記化学式3のRとR及びRとRをメチル基としRとR及びRとRを水素原子としたものである。この熱応答性高分子の下限臨界溶液温度(LCST)は32.9℃であった。
【0067】
(化学式4/pNIP−Alaの合成)
100mLビーカーにアラニンを2.138g及び塩化アクリロイルを1.848g添加して攪拌したのちに、一晩放置した。その後、水50mLを添加して溶解したのちに1M水酸化ナトリウムを用いてpHを5.0に調整した。この溶液を500mL三つ口セパラブルフラスコに移し、水50mL及びNIPAAm20.37gを加えた。攪拌しながら脱酸素ライン(5w/v%ピロガロール−10w/v% 水酸化ナトリウム溶液100mL)に通気した窒素をフラスコ内に通気し、オイルバスを用いてフラスコを60℃に加温した。重合開始剤としてN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)0.5mL及び重合促進剤としてペルオキソ二硫酸カリウム0.5406gを添加して、窒素雰囲気下で4時間重合を行った。重合終了後、冷ジエチルエーテルを用いて沈殿法によりポリマーの精製を2回行った。その後、得られたポリマーを水に溶解して凍結乾燥を行い冷暗所で保存した。合成した熱応答性高分子の構造式は、上記化学式4のRとR及びRをメチル基としRとRを水素原子としたものである。この熱応答性高分子の下限臨界溶液温度(LCST)は33.2℃であった。
【0068】
(化学式5/pNIP−GMA−乳酸の合成)
まず、pNIP−GMAを合成した。500mL三つ口セパラブルフラスコにNIPAAmを21.50g、酸化アルミニウムで重合禁止剤を除去したグリシジルメタクリル酸(GMA)を1.42g、1,4−ジオキサンを100mL、重合促進剤として3−MPAを0.1mL及び重合開始剤としてAIBNを1.6g加えた。攪拌しながら脱酸素ライン(5w/v%ピロガロール−10w/v%水酸化ナトリウム溶液100mL)に通気した窒素をフラスコ内に通気し、オイルバスを用いてフラスコを55℃まで加温した。その後、加温を止めて室温まで放冷して2時間放置した。pNIP−GMA溶液を500mLビーカーに移して乳酸72gを添加したのちに密閉して室温で一晩放置した。攪拌しながら脱酸素ライン(5w/v%ピロガロール−10w/v%水酸化ナトリウム溶液100mL)に通気した窒素をフラスコ内に通気し、オイルバスを用いてフラスコを80℃まで加温して8時間重合した。その後、密閉状態のまま室温で一晩放置し、精製した。合成した熱応答性高分子の構造式は、上記化学式5のRとR及びRをメチル基としRとRを水素原子としたものである。この熱応答性高分子の下限臨界溶液温度(LCST)は34.3℃であった。
【0069】
(化学式6/pNIP−MAの合成)
500mL三つ口セパラブルフラスコに、モノマーの供給比(NIPAAmの物質量:MAの物質量)をモル比で(90:10)(mol%)となるようにNIPAAm20.37g(0.18mol)とメタクリル酸(MA)1.72g(0.02mol)を入れた。NIPAAmとMAの含量が両者の和として30質量%となるようにメタノール65.2mLを添加してモノマーを溶解した。オイルバスを用いてフラスコを60℃に加温し、攪拌しながら、重合促進剤として3−MPA(メタノール20mLに対して0.1mL)を、重合開始剤としてAIBN0.8211g(0.005mol)を添加して、脱酸素ライン(5w/v%ピロガロール−10w/v%水酸化ナトリウム溶液100mL)に通気した窒素をフラスコ内に通気し、窒素雰囲気下で4時間重合を行った。重合終了後、生成物を含むメタノール溶液を室温まで冷却する。メタノール100mLに対して2Lの冷ジエチルエーテルを用い、生成物を含むメタノール溶液を冷ジエチルエーテルに1滴ずつゆっくり滴下し、攪拌する。これにより析出したガム状の生成物を回収し、再びメタノール約50mLに溶解する。この精製を2回行った後、得られたポリマーを水に溶解し、溶液を凍結させた。溶液が完全に凍結した後、凍結乾燥を行い、冷暗所に保存した。合成したpNIP−MAの構造式は上記化学式6のRとRをメチル基としRとRを水素原子としたものである。
【0070】
(混合溶液の調製)
10mLメスフラスコに金ナノクラスター溶液を3mL採り、2質量%の熱応答性高分子溶液を5.0mL加えて10mL定容とした。さらに、この実験で用いた基本的な条件は、水浴を用いた加熱条件を90℃、30分とし、放冷後の冷却条件は冷暗所で4℃、1時間とした。
【0071】
P−NIPを熱応答性高分子として用いたものを「混合溶液A」、pNIP−ACを熱応答性高分子として用いたものを「混合溶液B」、pNIP−Cysを熱応答性高分子として用いたものを「混合溶液C」、pNIP−Alaを熱応答性高分子として用いたものを「混合溶液D」、pNIP−GMA−乳酸を熱応答性高分子として用いたものを「混合溶液E」、pNIP−MAを熱応答性高分子として用いたものを「混合溶液F」とした。
【0072】
なお、上記の熱応答性高分子合成において、合成した熱応答性高分子の限外濾過には、Millipore製の限外ろ過膜(排除限界分子量:10000)を装備したプラスチック製ウルトラフィルター用限外濾過器(アドバンテック株式会社製、MODEL−UHP−K)を使用した。合成した熱応答性高分子の凍結乾燥には、オイルミストトラップ(アルバック機工製株式会社、OMT−050A型)を備え付けた直結型油回転真空ポンプ(アルバック機工株式会社製)、ユニトラップ(東京理科器械株式会社製、UT−1000型)、及び水分トラップ(東京理科器械株式会社製、CMW−1型)を装備した凍結乾燥機(東京理科器械株式会社製、FD−5N型)を使用した。
【0073】
[評価方法]
得られた各混合溶液について、濃度、加熱時間、加熱温度等を変化させたとき、金ナノ粒子の平均粒径と混合溶液の吸光度を測定した。金ナノ粒子の平均粒径は、DLS(動的光散乱)測定装置(Malvern Instruments株式会社製、Zetasizer nano ZS)で測定した。また、TEM写真から計測した粒径も必要に応じて評価した。吸光度は、光路長1cmのプラスチックセルを装備した紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製、V−560型)を使用し、波長190〜900nmで吸収スペクトルを測定した。また、pHの測定には、pHメーター(株式会社堀場製作所製、F−13)を使用した。熱応答性高分子の下限臨界溶液温度(LCST)は、熱応答性高分子の透過率曲線から求め、透過率が50%での温度をそれぞれの熱応答性高分子のLCSTとした。なお、透過率の測定には、光路長1cmプラスチックセルを装備したダブルビーム分光光度計(日立製作所製、U−2000A型)を使用した。
【0074】
なお、下記の結果において、TEM写真から計測した粒径と、DLSで計測した粒径との相違は、TEM写真では実際の金ナノ粒子の塊の範囲を示しているが、DLSでは、流体力学的な直径としての大きさ、すなわち熱応答性高分子と水和物とを含む流体粒子の大きさを示していることによる相違である。
【0075】
[結果]
(混合溶液Aからの金ナノ粒子の製造)
表1は混合溶液Aでの結果である。図2は混合溶液中のP−NIPの濃度を変えたときの波長190〜900nmで吸収スペクトルの測定結果である。図3は加熱温度を変化させたときの金ナノ粒子のTEM写真である。図4は動的光散乱(DLS)による粒径の測定結果である。混合溶液Aを加熱冷却すると550nm付近に吸収ピークが生じた。この吸収ピークはP−NIPの濃度の増加によって増加した。この吸収ピークの増加は、目視でほぼ透明な溶液が加熱により赤みを帯びることでも確認できた。このとき、粒径が60〜90nm程度の大きな金ナノ粒子の存在がTEM像により確認できた。P−NIPを添加していない条件では、混合溶液Aを加熱冷却してもこうした挙動は見られなかった。
【0076】
【表1】

【0077】
また、加熱温度の上昇及び加熱温度の増加にともない、吸光度は増加した。また、DLSでの粒径測定結果では、濃度とともに粒径が大きくなった。平均粒径の増加と最大吸光度の増加との間に相関が見られた。これらの結果から、混合溶液Aを加熱冷却することにより、P−NIP鎖の収縮によって所定の大きさの金ナノ粒子を製造することができ、金ナノ粒子の大きさを制御できることがわかった。なお、TEM像での粒径計測は温度変化の実験時に行ったが、濃度変化の実験及び時間変化の実験でも同様の吸光度の結果が得られているので、同程度の粒径の金ナノ粒子が製造されていると推察できる。
【0078】
(混合溶液B〜Eからの金ナノ粒子の製造)
表2は混合溶液B〜Eの加熱前後の結果である。加熱条件としては、熱応答性高分子の濃度1.0質量%、加熱温度90℃、加熱時間30分とした。混合溶液B〜Eにおいても、上記混合溶液Aの場合と同様の吸光度結果が得られた。この結果は、表1の結果と同様の結果を示すものであり、同程度の粒径の金ナノ粒子が製造されていると推察できる。また、加熱冷却により目視でほぼ透明な溶液が加熱により赤みを帯びたことからも、同程度の粒径の金ナノ粒子が製造されていると推察できる。
【0079】
【表2】

【0080】
(混合溶液Fからの金ナノ粒子の製造)
熱応答性高分子であるにもかかわらず、pNIP−MAでは金ナノ粒子を製造できなかった。これは、カルボキシル基が分散安定剤として作用し、pNIP−MA中のカルボキシル基が粒径50nm以上の大きな粒子の製造を阻害したことが考えられる。
【0081】
(安定性)
製造した各金ナノ粒子は、凝集や沈殿を生じることなく長期間安定であり、簡易診断キット等、医療用途や診断薬分野への適用が期待される。
【0082】
[ポリ(メチルビニルエーテル)とヒドロキシプロピルセルロースの実験例]
次に、熱応答性高分子であるポリ(メチルビニルエーテル)とヒドロキシプロピルセルロースについても、上記したN−イソプロピルアクリルアミド類を構成単位として含むポリマーの場合と同様にして確認実験を行った。条件としては、金ナノクラスター0.043g−Au/Lと熱応答性高分子1.0質量%とを含む金ナノ粒子の製造用溶液を調製し、加熱条件としては90℃30分で行った。冷却条件は前記と同様にした。その結果、ポリ(メチルビニルエーテル)を熱応答性高分子として用いた金ナノ粒子の製造用溶液、及びヒドロキシプロピルセルロースを熱応答性高分子として用いた金ナノ粒子の製造用溶液のいずれも、加熱、冷却により、TEM像からの計測で、粒径約80nm前後の金ナノ粒子の形成を確認した。また、表3に示すように、上記混合溶液Aの場合と同様の吸光度結果が得られた。
【0083】
【表3】

【0084】
[チオール基の検出方法]
金ナノ粒子の製造用溶液を加熱冷却して金ナノ粒子を製造する過程で、チオール基を含むチオール化合物を添加したときに、吸光度に変化が見られたので検討した。
【0085】
表4は、混合溶液Aを用い、その溶液に各種の添加物質を加えたときの吸光度を測定した結果である。なお、加熱温度は90℃、加熱時間は30分である。添加物質としては、グリシン(Gly)、システイニルグリシン(Cys−Gly)、3−メルカプトプロピオン酸(3−MPA)、L−システイン(L−Cys)を用いた。表4の結果より、グリシン(Gly)吸収スペクトルに変化は見られなかった。一方、システイニルグリシン(Cys−Gly)、3−メルカプトプロピオン酸(3−MPA)、L−システイン(L−Cys)では添加濃度の上昇とともに550nm付近の吸光度が減少した。このことから、図1に示すように、チオール基が金ナノ粒子の製造に対して阻害作用を有していると考えられる。こうした阻害作用は、チオール化合物が金ナノ粒子に吸着することで、金ナノ粒子同士の接触・融合が阻んでいるためであると考えられる。
【0086】
【表4】

【0087】
この実験では、金ナノ粒子の製造溶液に試験試料を添加した溶液を加熱冷却した後、波長550nmでの吸光度が減少した場合は、その試験試料には、チオール基含有化合物が含まれている可能性が高いということができ、金ナノ粒子の製造用溶液をチオール基含有化合物の検出溶液として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径が1〜5μmの金ナノクラスターと熱応答性高分子(カルボキシル基等のアニオン基を含む熱応答性高分子を除く。)とを含む混合溶液を準備する工程と、該混合溶液を加熱し冷却する工程とを有することを特徴とする金ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記熱応答性高分子が、少なくともN−イソプロピルアクリルアミド類を構成単位として含むポリマー、ポリ(メチルビニルエーテル)、又はヒドロキシプロピルセルロースである、請求項1に記載の金ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記N−イソプロピルアクリルアミド類を構成単位として含むポリマーが、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−AC−アミン)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−AC−シスタミン)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−AC−アラニン)、及びポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−co−グリシジルメタクリル酸−乳酸)から選ばれる1又は2以上である、請求項2に記載の金ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記金ナノクラスターは、塩化金酸溶液とポリオキシエチレン溶液を混合した後にテトラヒドロホウ酸ナトリウム溶液を添加して得る、請求項1〜3のいずれか1項に記載の金ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
粒径が1〜5μmの金ナノクラスターと熱応答性高分子(カルボキシル基等のアニオン基を含む熱応答性高分子を除く。)とを含むことを特徴とする金ナノ粒子の製造用溶液。
【請求項6】
TEM像から計測できる粒径が50〜100nmの範囲であり、動的光散乱法での測定で粒径100〜500nmにピークを示すことを特徴とする金ナノ粒子。
【請求項7】
粒径が1〜5μmの金ナノクラスターと熱応答性高分子(カルボキシル基等のアニオン基を含む熱応答性高分子を除く。)とを含む溶液を準備し、該溶液に試験試料を添加して加熱、冷却し、該冷却後の溶液を波長550nmで吸光度測定することを特徴とするチオール基の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−179074(P2011−179074A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44792(P2010−44792)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物1 ・刊行物名 :東京コンファレンス2009 講演要旨集 ・巻号頁等 :354頁 ・発行年月日:2009年(平成21年)9月2日 ・発行者名 :社団法人 日本分析化学会 刊行物2 ・刊行物名 :日本分析化学会第58年会講演要旨集 ・巻号頁等 :330頁 ・発行年月日:2009年(平成21年)9月10日 ・発行者名 :社団法人 日本分析化学会 刊行物3 ・刊行物名 :平成21年度宇都宮大学大学院工学研究科化学系修士論文審査・発表会(第17回) 論文要旨集 ・巻号頁等 :第17回、No.219 ・発行年月日:2010年(平成22年)1月28日 ・発行者名 :宇都宮大学大学院工学研究科物質環境化学専攻
【出願人】(304036743)国立大学法人宇都宮大学 (209)
【Fターム(参考)】