説明

金型とそれを用いた成型品の製造方法

【課題】光学部品など、ナノレベルでの精度を必要とする金型成形において、従来のような形状の改良や離型剤をスプレー塗布するような方法では、離型剤膜厚にばらつきが生じるため、精度が悪くなる。さらに、成型品に離型剤が付着すると不都合な場合もある。しかしながら、離型剤を使用しない金型は、未だ実用化されていない。
【課題を解決するための手段】
本発明の金型は、ナノレベルで膜厚が均一で、且つ表面エネルギーを制御した撥水撥油性のフッ化炭素系化学吸着膜を、離型膜として金型表面に形成したものである。このことにより、ナノメートルレベルの超微細形状を有していても、成型物の流動性や入り込み性に優れ、高精度の成形を行えるようになる。さらに離型剤塗布が不要となり、離型剤が成型品に付着するのを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に離型性複合膜が形成された金型に関するものである。
【0002】
なお、ここでいう金型とは、精度の上で離型剤が使用できない光学部品や機械部品、記録媒体、電子部品、バイオケミカルチップ、医療用品等の成型に用いる高精細金型や、成型品に離型剤が付着すると都合が悪い離型剤を適用できない離型性金型に関するものである。
【背景技術】
【0003】
一般にフッ化炭素基含有クロロシラン系の吸着剤と非水系の有機溶媒よりなる化学吸着液を用い、液相で化学吸着して単分子膜状の撥水性化学吸着膜を形成できることはすでによく知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
このような溶液中での化学吸着単分子膜の製造原理は、基材表面の水酸基などの活性水素とクロロシラン系の吸着剤のクロロシリル基との脱塩酸反応を用いて単分子膜を形成することにある。
【特許文献1】特開平05−193056号 公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来から、金型成形における離型性の改良は、金型そのものの形状や離型剤の改良に重点が置かれていた。しかしながら、光学部品など、ナノレベルでの精度を必要とする金型成形において、従来のような形状の改良や離型剤をスプレー塗布するような方法では、図1(a)に示したように、金型1表面に塗布された離型剤2の膜厚に数十〜数百ナノメートル程度のばらつきが生じるため、金型の誤差は成形毎に常時生じてしまい、現実的でない。さらに、成型品に離型剤が付着すると不都合な場合もかなりある。しかしながら、離型剤を使用しない高精細金型は、未だ実用化されていない。
【0006】
一方、従来の化学吸着膜は吸着剤と基材表面との化学結合のみを用いているため、そのまま金型に用いると、耐摩耗性に乏しい。また、フッ化炭素系のみで出来た単分子膜を用いると表面エネルギーが小さすぎて成形材料の入り込み流動性及び入り込み性が悪くなるという課題があった。
【0007】
本発明は、前記課題に鑑み、高精細金型の加工形状を損なわず、表面エネルギーを制御した適度な離型機能を備え、且つ成形耐久性が高い離型剤不要金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明の金型は、図1(b)に示したように、ナノレベルで膜厚が均一で、且つ表面エネルギーを制御した撥水撥油性のフッ化炭素系化学吸着膜を離型膜3として金型表面に形成することを要旨とする。このことにより、ナノメートルレベルの超微細形状を有した金型でも、成型物の流動性及び入り込み性が優れ、高速、高精度の成形を行えるようにする。さらに、このような離型膜を形成しておくことにより、離型剤塗布が不要となり、離型剤が成型品に付着するのを防止できる。
【0009】
具体的に提供される第1の発明は、表面に高耐久性の離型性複合膜が形成された金型であって、前記被膜が、フッ化炭素基と炭化水素基を含む(以下、主成分とするという。)長鎖物質とフッ化炭素基と炭化水素基とシリル基を主成分とする短鎖物質とシロキサン基を主成分とする物質を含む複合膜であることを特徴とする離型性金型である。
【0010】
第2の発明は、第1の発明に於いて、フッ化炭素基と炭化水素基を主成分とする長鎖物質の分子長がフッ化炭素基と炭化水素基とシリル基を主成分とする短鎖物質の分子長の2倍以上であることを特徴とする離型性金型である。
【0011】
第3の発明は、第1および2の発明に於いて、フッ化炭素基と炭化水素基を主成分とする長鎖物質がフッ化炭素基と炭化水素基を含む側鎖を持っていることを特徴とする離型性金型である。
【0012】
第4の発明は、第1乃至3の発明に於いて、フッ化炭素基と炭化水素基を主成分とする長鎖物質とフッ化炭素基と炭化水素基とシリル基を主成分とする短鎖物質が、シロキサン基を主成分とする物質よりなるシリカ膜中で前記シリル基を介して前記シリカ膜および/または金型表面に結合固定されていることを特徴とする離型性金型である。
【0013】
第5の発明は、第1乃至3の発明に於いて、フッ化炭素基と炭化水素基を主成分とする長鎖物質とフッ化炭素基と炭化水素基とシリル基を主成分とする短鎖物質とシロキサン基を主成分とする物質が、それぞれシリル基およびシロキサン基を介して互いにまたは個々に金型表面に結合固定されていることを特徴とする離型性金型である。
【0014】
第6の発明は、第1乃至5の発明に於いて、離型性複合膜に含まれるフッ化炭素基と炭化水素基を主成分とする長鎖物質とフッ化炭素基と炭化水素基とシリル基を主成分とする短鎖物質とシロキサン基を主成分とする物質の分子組成比が、1:10:10〜1:0.1:0.1であることを特徴とする離型性金型である。
【0015】
第7の発明は、第1乃至6の発明に於いて、表面に離型性複合膜が形成された金型であって、前記被膜が、少なくともフッ化炭素基と炭化水素基を主成分とする長鎖物質を含み前記被膜の臨界表面エネルギーが5〜20mN/mに制御されていることを特徴とする離型性金型である。
【0016】
第8の発明は、第1乃至7の発明に於いて、フッ化炭素基と炭化水素基を主成分とする長鎖物質が有機含フッ素エーテル基または有機含フッ素ポリエーテル基を主成分とする長鎖物質であることを特徴とする離型性金型である。
【0017】
第9の発明は、第1乃至8の発明に於いて、有機含フッ素エーテル基または有機含フッ素ポリエーテル基が下記式(化1または化2)に示した官能基であることを特徴とする離型性金型である。
【0018】
【化1】


【化2】

【0019】
第10の発明は、第1乃至9の発明に於いて、離型性複合膜がシリカ膜を介して形成されていることを特徴とする離型性金型である。
【0020】
第11の発明は、第1乃至10の発明に於いて、複合膜がさらにメチルシリル基を含んでいることを特徴とする離型性金型である。
【0021】
第12の発明は、少なくともフッ化炭素基と炭化水素基を主成分とし且つアルコキシシリル基を含む長鎖物質(1)とフッ化炭素基および炭化水素基およびアルコキシシリル基を主成分とする短鎖物質(2)とアルコキシシリル基を主成分とする物質(3)とシラノール縮合触媒とを有機溶媒で希釈した複合膜形成溶液に金型表面を接触させて反応させ離型性複合膜を形成する工程を含むことを特徴とする離型性金型の製造方法である。
【0022】
第13の発明は、少なくともフッ化炭素基と炭化水素基を主成分とし且つアルコキシシリル基を含む長鎖物質(1)とフッ化炭素基および炭化水素基およびアルコキシシリル基を主成分とする短鎖物質(2)とアルコキシシリル基を主成分とする物質(3)とシラノール縮合触媒とを有機溶媒で希釈した複合膜形成溶液に金型表面を接触させて反応させ被膜を形成する工程と、前記金型表面の余分な溶液を有機溶媒を用いて洗浄除去またはふき取り除去する工程とを含むことを特徴とする離型性金型の製造方法である。
【0023】
第14の発明は、第12および13の発明に於いて、フッ化炭素基と炭化水素基を主成分とし且つアルコキシシリル基を含む長鎖物質(1)とフッ化炭素基および炭化水素基およびアルコキシシリル基を主成分とする短鎖物質(2)とアルコキシシリル基を主成分とする物質(3)の分子混合比を、1:10:10〜1:0.1:0.1にしておくことを特徴とする離型性金型の製造方法である。
【0024】
第15の発明は、第12乃至14の発明に於いて、少なくともフッ化炭素基と炭化水素基を主成分とし且つアルコキシシリル基を含む長鎖物質(1)として有機含フッ素エーテル基または有機含フッ素ポリエーテル基およびアルコキシシリル基を含む長鎖物質を用いることを特徴とする離型性金型の製造方法である。
【0025】
第16の発明は、第15の発明に於いて、有機含フッ素エーテル基または有機含フッ素ポリエーテル基およびアルコキシシリル基を含む長鎖物質として下記式(化3または4)に示した物質を用い、
【0026】
【化3】

【0027】
【化4】

【0028】
フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする短鎖物質(2)としてCF3−(CF2−(CH−Si(OA)3(添え字のoは整数、Aはアルキル基、OAはClまたはNCOでも良い。)を用い、アルコキシシリルキ基を主成分とする物質(3)として(AO)Si(OSi(OA)OA(pは0または整数、Aはアルキル基、OAはClまたはNCOでも良い。)を用いることを特徴とする離型性金型の製造方法である。
【0029】
第17の発明は、第15の発明に於いて、有機含フッ素エーテル基または有機含フッ素ポリエーテル基およびアルコキシシリル基を含む長鎖物質として、下記式(化5)に示した物質を用い、
【0030】
【化5】

【0031】
フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする短鎖物質(2)としてCF3−(CF2−(CH−Si(OA)3(添え字のoは整数、Aはアルキル基。)を用い、アルコキシシリルキ基を主成分とする物質(3)として(AO)Si(OSi(OA)OA(Pは0または整数、Aはアルキル基)を用いることを特徴とする離型性金型の製造方法である。
【0032】
第18の発明は、第12乃至17の発明に於いて、シラノール縮合触媒の代わりに、ケチミン化合物、又は有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物、あるいはTiO等の金属酸化物を用いることを特徴とする離型性金型の製造方法である。
【0033】
第19の発明は、第12乃至17の発明に於いて、シラノール縮合触媒にケチミン化合物、又は有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物および/あるいはTiO等の金属酸化物を混合して用いることを特徴とする離型性金型の製造方法である。
【0034】
第20の発明は、第12乃至19の発明に於いて、有機溶媒としてフッ化炭素系有機溶媒を用いることを特徴とする離型性金型の製造方法である。
【0035】
第21の発明は、第12乃至20の発明に於いて、複合膜形成前にあらかじめ金型表面にシリカ膜を形成しておくことを特徴とする離型性金型の製造方法である。
【0036】
第22の発明は、第12乃至21の発明に於いて、複合膜形成後、250〜450℃で加熱することを特徴とする離型性金型の製造方法である。
【0037】
第23の発明は、第12乃至21の発明に於いて、複合膜形成後、さらにメチルシリル基を含んだ物質を溶かした溶液で処理することを特徴とする離型性金型の製造方法である。
【0038】
第24の発明は、請求項1乃至11の金型を用いて作製した離型剤が付着してない成型品である。
【0039】
さらに具体的説明すると、本発明は、少なくともフッ化炭素基と炭化水素基を主成分とし且つアルコキシシリル基を含む長鎖物質(1)とフッ化炭素基および炭化水素基およびアルコキシシリル基を主成分とする短鎖物質(2)とアルコキシシリル基を主成分とする物質(3)とシラノール縮合触媒とを有機溶媒で希釈した複合膜形成溶液に金型表面を接触させて反応させ離型性複合膜を形成する工程、あるいはフッ化炭素基と炭化水素基を主成分とし且つアルコキシシリル基を含む長鎖物質(1)とフッ化炭素基および炭化水素基およびアルコキシシリル基を主成分とする短鎖物質(2)とアルコキシシリル基を主成分とする物質(3)とシラノール縮合触媒とを有機溶媒で希釈した複合膜形成溶液に金型表面を接触させて反応させ被膜を形成する工程と、前記金型表面の余分な溶液を有機溶媒を用いて洗浄除去またはふき取り除去する工程とにより、表面に高耐久性の離型性複合膜が形成された金型であって、前記被膜が、フッ化炭素基と炭化水素基を主成分とする長鎖物質とフッ化炭素基と炭化水素基とシリル基を主成分とする短鎖物質とシロキサン基を主成分とする物質を含む複合膜であることを特徴とする離型性金型を提供することを要旨とする。
【0040】
ここで、フッ化炭素基と炭化水素基を主成分とする長鎖物質の分子長がフッ化炭素基と炭化水素基とシリル基を主成分とする短鎖物質の分子長の2倍以上にしておくと、離型性を向上できて都合がよい。
【0041】
また、フッ化炭素基と炭化水素基を主成分とする長鎖物質がフッ化炭素基と炭化水素基を含む側鎖を持っていると、さらに離型性を向上できて都合がよい。
また、フッ化炭素基と炭化水素基を主成分とする長鎖物質とフッ化炭素基と炭化水素基とシリル基を主成分とする短鎖物質が、シロキサン基を主成分とする物質よりなるシリカ膜中で前記シリル基を介して前記シリカ膜および/または金型表面に結合固定されていると、成形耐久性を向上できて都合がよい。
【0042】
また、フッ化炭素基と炭化水素基を主成分とする長鎖物質とフッ化炭素基と炭化水素基とシリル基を主成分とする短鎖物質とシロキサン基を主成分とする物質が、それぞれシリル基およびシロキサン基を介して互いにまたは個々に金型表面に結合固定されていると、成形耐久性を向上できて都合がよい。
【0043】
さらに、離型性複合膜に含まれるフッ化炭素基と炭化水素基を主成分とする長鎖物質とフッ化炭素基と炭化水素基とシリル基を主成分とする短鎖物質とシロキサン基を主成分とする物質の分子組成比が、1:10:10〜1:0.1:0.1であると、離型性能の制御と共に成形物の流動性を制御でき、且つ成形耐久性を向上できて都合がよい。
【0044】
また、表面に離型性複合膜が形成された金型であって、前記被膜が、少なくともフッ化炭素基と炭化水素基を主成分とする長鎖物質を含み前記被膜の臨界表面エネルギーが5〜20mN/mに制御されていると、離型性能の制御と共に成形物の流動性を制御でき、且つ成形耐久性を向上できて都合がよい。
【0045】
さらにまた、フッ化炭素基と炭化水素基を主成分とする長鎖物質が有機含フッ素エーテル基または有機含フッ素ポリエーテル基を主成分とする長鎖物質であると、成形耐久性を向上できて都合がよい。
【0046】
また、有機含フッ素エーテル基または有機含フッ素ポリエーテル基が下記式(化1または化2)に示した官能基であると、離型性能の制御と共に成形物の流動性を制御でき、且つ成形耐久性を向上できて都合がよい。
【0047】
【化1】

【0048】
【化2】

【0049】
また、離型性複合膜がシリカ膜を介して形成されていると、さらに成型耐久性を向上できて好都合である。
【0050】
さらにまた、複合膜がさらにメチルシリル基を含んでいると、離型性能の制御と共に成形物の流動性を制御でき、且つ成形耐久性を向上できて都合がよい。を特徴とする離型性金型である。
【0051】
さらにこのとき、フッ化炭素基と炭化水素基を主成分とし且つアルコキシシリル基を含む長鎖物質(1)とフッ化炭素基および炭化水素基およびアルコキシシリル基を主成分とする短鎖物質(2)とアルコキシシリル基を主成分とする物質(3)の分子混合比を、1:10:10〜1:0.1:0.1にしておくと、離型性能の制御と共に成形物の流動性を制御でき、且つ成形耐久性を向上できて都合がよい。
【0052】
また、少なくともフッ化炭素基と炭化水素基を主成分とし且つアルコキシシリル基を含む長鎖物質(1)として有機含フッ素エーテル基または有機含フッ素ポリエーテル基およびアルコキシシリル基を含む長鎖物質を用いると、離型性能を制御でき且つ成形耐久性を向上できて都合がよい。
【0053】
さらに、有機含フッ素エーテル基または有機含フッ素ポリエーテル基およびアルコキシシリル基を含む長鎖物質として下記式(化3または4)に示した物質を用い、
【0054】
【化3】

【0055】
【化4】

【0056】
フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする短鎖物質(2)としてCF3−(CF2−(CH−Si(OA)3(添え字のoは整数、Aはアルキル基、OAはClまたはNCOでも良い。)を用い、アルコキシシリルキ基を主成分とする物質(3)として(AO)Si(OSi(OA)OA(pは0または整数、Aはアルキル基、OAはClまたはNCOでも良い。)を用いると、離型性能の制御と共に成形物の流動性を制御でき、且つ成形耐久性を向上できて都合がよい。
【0057】
また、有機含フッ素エーテル基または有機含フッ素ポリエーテル基およびアルコキシシリル基を含む長鎖物質として、下記式(化5)に示した物質を用い、
【0058】
【化5】

【0059】
フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする短鎖物質(2)としてCF3−(CF2−(CH−Si(OA)3(添え字のoは整数、Aはアルキル基。)を用い、アルコキシシリルキ基を主成分とする物質(3)として(AO)Si(OSi(OA)OA(Pは0または整数、Aはアルキル基)を用いると、離型性能の制御と共に成形物の流動性を制御でき、且つ成形耐久性を向上できて都合がよい。
【0060】
さらにまた、シラノール縮合触媒の代わりに、ケチミン化合物、又は有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物、あるいはTiO等の金属酸化物を用いると、製造時間を短縮できて都合がよい。
【0061】
また、シラノール縮合触媒にケチミン化合物、又は有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物および/あるいはTiO等の金属酸化物を混合して用いると、さらに製造時間を短縮できて都合がよい。
【0062】
また、有機溶媒としてフッ化炭素系有機溶媒を用いると、被膜均一性を向上できて都合がよい。
さらにまた、複合膜形成前にあらかじめ金型表面にシリカ膜を形成しておくこを、離型性複合膜の密度を向上できて都合がよい。
【0063】
また、複合膜形成後、250〜450℃で加熱すると、成形耐久性を向上する上で都合がよい。
また、複合膜形成後、さらにメチルシリル基を含んだ物質を溶かした溶液で処理すると、成形物流動性を制御する上で都合がよい。
【0064】
一方、本発明の金型を用いて作製した成型品は離型剤が付着しないので、食品包装資材や衣料品、医療品として好都合である。
【発明の効果】
【0065】
以上説明したように、本発明の離型性金型およびその製造方法では、金型表面に、フッ化炭素基と炭化水素基を主成分とする長鎖物質とフッ化炭素基と炭化水素基とシリル基を主成分とする短鎖物質とシロキサン基を主成分とする物質を含む離型性複合膜を形成することにより、高い成形耐久性と、高い成型物流動性及び入り込み性と離型性を同時に満足させた金型を提供できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0066】
本発明は、高成形耐久性で且つ高い成型物流動性及び入り込み性があり、離型剤を用いなくとも離型性に優れた金型を提供するものであり、少なくともフッ化炭素基と炭化水素基を主成分とし且つアルコキシシリル基を含む長鎖物質(1)とフッ化炭素基および炭化水素基およびアルコキシシリル基を主成分とする短鎖物質(2)とアルコキシシリル基を主成分とする物質(3)とシラノール縮合触媒とを有機溶媒で希釈した複合膜形成溶液に金型表面を接触させて反応させ離型性複合膜を形成する工程、あるいはフッ化炭素基と炭化水素基を主成分とし且つアルコキシシリル基を含む長鎖物質(1)とフッ化炭素基および炭化水素基およびアルコキシシリル基を主成分とする短鎖物質(2)とアルコキシシリル基を主成分とする物質(3)とシラノール縮合触媒とを有機溶媒で希釈した複合膜形成溶液に金型表面を接触させて反応させ被膜を形成する工程と、前記金型表面の余分な溶液を有機溶媒を用いて洗浄除去またはふき取り除去する工程とにより、表面に高耐久性の離型性複合膜が形成された金型であって、前記被膜が、フッ化炭素基と炭化水素基を主成分とする長鎖物質とフッ化炭素基と炭化水素基とシリル基を主成分とする短鎖物質とシロキサン基を主成分とする物質を含む複合膜である離型性金型を提供するものである。
【0067】
前記離型性金型によれば、従来の化学吸着膜の摩耗に弱いという欠点を改良して、成形耐久性に優れ、且つ金型内での成型物流動性と入り込み性、および離型性に優れた金型を提供できる作用がある。また、前記製造方法によれば、膜厚均一性に優れた超薄膜が得られるため、ナノメートルレベルの精細度が必要な光学部品等の金型製造に適用できる作用もある。
【0068】
以下、本発明の離型剤が不要で且つ離型性に優れた金型(離型性金型)の詳細を実施例を用いて説明する。
【0069】
なお、以下の実施例においては、とくに記載していない限り分子組成比はモル比を意味する。また、特に記載のない%は重量%を意味する。なお、本願発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0070】
まず、ステンレス製の金型1を用意し、よく洗浄して乾燥した。一方、有機含フッ素エーテル基、または有機含フッ素ポリエーテル基およびアルコキシシリル基を含む物質(1)として下記式(化6)に示した物質を用い、
【0071】
【化6】

【0072】
フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質(2)としてCF3−(CF2−(CH−Si(OCH33を用い、アルコキシシリルキ基を主成分とする物質(3)としてSi(OCH3を用い、シラノール縮合触媒としてジブチル錫オキサイドを用い、それぞれ0.01、0.01、0.003、0.00005M/Lとなるようにジクロロペンタフルオロプロパン(塩素含有フッ化炭素系溶媒)30%含有ペンタフルオロブタン溶媒に溶解して複合膜形成溶液を作成した。
【0073】
この複合膜形成溶液に、普通の空気中で(相対湿度53%、別の実験では65%でも問題なかった。)で前記ステンレス製の金型1を漬浸して1時間反応させ、溶液から取り出してすぐに表面の余分な複合膜形成溶液をクロロホルムで洗浄除去し空気中に取り出すと、図2に示したような有機含フッ素ポリエーテル基とシリル基を主成分とする物質4とフッ化炭素基と炭化水素基とシリル基を主成分とする物質5とシロキサン基を主成分とする物質6の組成比が略1:1:0.3であり、フッ化炭素基間にシロキサン記が網目状に入った膜厚が略5nm程度の複合膜を前記ステンレス製の金型1の表面に形成できた。
【0074】
なお、ここで、ステンレス製の金型表面には、吸着水やナチュラルオキサイドの水酸基が多数含まれているので、前記有機含フッ素エーテル基、または有機含フッ素ポリエーテル基およびアルコキシシリル基を含む物質(1)とフッ化炭素基および炭化水素基およびアルコキシシリル基を主成分とする物質(2)とアルコキシシリル基を主成分とする物質(3)の≡Si(OCH)基は、前記ステンレス製の金型表面の水酸基や吸着水がシラノール縮合触媒の存在下で脱アルコール(この場合は、脱CHOH)反応して、金型表面全面に亘り互いにあるいは表面と化学結合した有機含フッ素エーテル基、または有機含フッ素ポリエーテル基とシリル基を主成分とする物質とフッ化炭素基と炭化水素基とシリル基を主成分とする物質とシロキサン基を主成分とする物質を含む複合膜が前記ステンレス製の金型表面に形成された。
【0075】
このときの複合膜の膜厚は、ナノメートル程度であったので、金型の加工精度を損なうことは全くなかった。また、ステンレス製の金型表面の水滴接触角は、洗浄工程の有無に関わらず、略112度(臨界表面エネルギーは8mN/m程度)であり、テフロン(登録商標)コート以上の離型性を付与できた。
【0076】
また、この複合膜は、金型表面とシロキサン結合を介して共有結合しているため、図3に示したように、摩耗試験では、加重600g/cmの条件下で往復6000回のこすり後でも、水滴接触角は、110度以上を維持できた。この条件は、布地で表面を数十万回拭う条件に相当する。
【0077】
(比較例1)
参考として、実施例1に於いて、有機含フッ素エーテル基、または有機含フッ素ポリエーテル基およびアルコキシシリル基を含む物質(1)を含めず、フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質(2)がCF3−(CF2−(CH−Si(OCHであり、アルコキシシリルキ基を主成分とする物質(3)がSi(OCHであり、フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質(2)とアルコキシシリルキ基を主成分とする物質(3)の濃度をそれぞれ0.01と0.003M/Lとし、他の条件は実施例1と全て同条件で試作した場合の被膜の耐摩耗試験における水滴接触角変化の結果を図3に比較して示す。
【0078】
(比較例2)
さらに、実施例1に於いて、有機含フッ素エーテル基、または有機含フッ素ポリエーテル基およびアルコキシシリル基を含む物質(1)とアルコキシシリルキ基を主成分とする物質(3)を含めず、フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質(2)がCF3−(CF2−(CH−Si(OCHであり、他の条件は実施例1と全て同条件で試作した場合の被膜の耐摩耗試験における水滴接触角変化の結果を図3に比較して示す。
【0079】
図3より、有機含フッ素エーテル基、または有機含フッ素ポリエーテル基およびアルコキシシリル基を含む物質(1)を除けば、初期値の水滴接触角はほぼ同じであるが、耐摩耗性がかなり劣化することが判る。
また、有機含フッ素エーテル基、または有機含フッ素ポリエーテル基およびアルコキシシリル基を含む物質(1)とアルコキシシリルキ基を主成分とする物質(3)の両方を除けば、さらに耐摩耗性が大幅に劣化することが判る。
【0080】
また、余分な複合膜形成溶液をエタノールを含むウエスでふき取った場合には、膜厚が略15nmとなり、初期水滴接触角が略110度(臨界表面エネルギーは8mN/m程度)の複合膜を形成できた。また、このときの、耐摩耗性は、洗浄した場合と大きな違いはなかった。
また、メトキシ基の代わりにエトキシ基、あるいは反応は異なるがClやNCO基でもほぼ同様に製膜できた。
【実施例2】
【0081】
それぞれの濃度を0.01、0.01、0.01、0.00005M/Lとし、その他の条件を同じとして作成した場合には、組成比が略1:1:1であり、膜厚が略5nm程度で、初期水滴接触角が略102度(臨界表面エネルギーは20mN/m程度)の耐摩耗性に優れた複合膜を形成できた。
【0082】
ここで、離型性複合膜を形成したステンレス金型の表面エネルギーは、有機含フッ素エーテル基、または有機含フッ素ポリエーテル基およびアルコキシシリル基を含む物質(1)とフッ化炭素基および炭化水素基およびアルコキシシリル基を主成分とする物質(2)とアルコキシシリル基を主成分とする物質(3)の組成にほぼ依存するので、1:1:1〜1:0.1:0.1の範囲で仕込み組成を変えれば、表面エネルギーを20〜5mN/m程度に制御でき、成形素材に合わせて成型物の流動性と入り込み性を調節できた。
【0083】
さらに、あらかじめ0:0:1の組成で形成した被膜(以後、シリカ膜8という。)を介して複合形を形成した(図4)場合、シリカ膜がない場合に比べて複合膜のフッ化炭素基の密度を向上でき、さらに2〜3倍耐摩耗性が向上した。
【0084】
またここで、複合膜形成後、250〜450℃で30分程度加熱するとさらに耐摩耗性を向上できた。なお、加熱温度が250〜300℃であれば、通常の空気中で加熱しても問題なかったが、320〜450℃であれば、被膜の酸化を防ぐため実質的に酸素を含まない雰囲気中で行う必要があった。
【実施例3】
【0085】
実施例1に於いて、漬浸反応後、溶液から取り出して洗浄せずに前記非水系有機溶媒を蒸発させる(この場合、60乃至100℃でステンレス製の金型を加熱すると、溶媒の蒸発を早めることが可能であり、蒸発時間を短縮できた。)と、有機含フッ素エーテル基、または有機含フッ素ポリエーテル基とシリル基を主成分とする物質とフッ化炭素基と炭化水素基とシリル基を主成分とする物質とシロキサン基を主成分とする物質の組成比が略1:1:0.3であり、膜厚が略30nmの複合膜が前記ステンレス製の金型表面に形成できた。
【0086】
なお、ここで、複合膜形成用溶液中では、ステンレス製の金型表面には、吸着水やナチュラルオキサイドの水酸基が多数含まれているので、前記有機含フッ素エーテル基、または有機含フッ素ポリエーテル基およびアルコキシシリル基を含む物質(1)とフッ化炭素基および炭化水素基およびアルコキシシリル基を主成分とする物質(2)とアルコキシシリル基を主成分とする物質(3)の≡Si(OCH)基は、前記ステンレス製の金型表面の水酸基や吸着水がシラノール縮合触媒の存在下で脱アルコール(この場合は、脱CHOH)反応して、金型表面全面に亘り互いにあるいは表面と化学結合した有機含フッ素エーテル基、または有機含フッ素ポリエーテル基とシリル基を主成分とする物質とフッ化炭素基と炭化水素基とシリル基を主成分とする物質とシロキサン基を主成分とする物質を含む複合膜が前記ステンレス製の金型表面に形成した。
【0087】
さらに、空気中に取り出し溶媒を蒸発させると、金型表面に残った有機含フッ素エーテル基、または有機含フッ素ポリエーテル基およびアルコキシシリル基を含む物質(1)とフッ化炭素基および炭化水素基およびアルコキシシリル基を主成分とする物質(2)とアルコキシシリル基を主成分とする物質(3)は、空気中の水分と互いに加水分解して、前記金型表面に形成された有機含フッ素エーテル基、または有機含フッ素ポリエーテル基とシリル基を主成分とする物質とフッ化炭素基と炭化水素基とシリル基を主成分とする物質とシロキサン基を主成分とする物質を含む複合膜と一体化して、有機含フッ素エーテル基、または有機含フッ素ポリエーテル基とシリル基を主成分とする物質とフッ化炭素基と炭化水素基とシリル基を主成分とする物質とシロキサン基を主成分とする物質を含むポリマー状の複合膜が前記ステンレス製の金型表面に形成した。
【0088】
このとき得られる複合膜の膜厚は、数十ナノメートルレベルとなるので、金型の加工精度を多少損なうが光学部品の成形でも問題ないレベルであった。また、ステンレス製の金型表面の水滴接触角は、洗浄工程の有無に関わらず、略105度(臨界表面エネルギーは15mN/m程度)であり、テフロン(登録商標)コート以上の離型性を付与できた。
【0089】
また、摩耗試験結果は、実施例1に比べて10倍程度改善されていた。
【実施例4】
【0090】
実施例1において、フッ化炭素基および炭化水素基およびアルコキシシリル基を主成分とする物質(2)を除いて同様の方法で被膜を製造した。
この場合、やはり有機含フッ素エーテル基、または有機含フッ素ポリエーテル基とシリル基を主成分とする物質とシロキサン基を主成分とする物質を含む膜厚が略5nmの複合膜が前記ステンレス製の金型表面に形成できた。
【0091】
このとき、複合膜の膜厚は、ナノメートル程度であったので、金型の加工精度を損なうことは全くなかった。また、ステンレス製の金型表面の水滴接触角は、洗浄工程の有無に関わらず、略108度(臨界表面エネルギーは12mN/m程度)であり、テフロン(登録商標)コート以上の離型性を付与できた。
【0092】
また、摩耗試験では、実施例1と同様の結果を得た。
【実施例5】
【0093】
実施例1において、アルコキシシリル基を主成分とする物質(3)を除いて同様の方法で被膜を製造した。
この場合、当然有機含フッ素エーテル基、または有機含フッ素ポリエーテル基とシリル基を主成分とする物質とフッ化炭素基と炭化水素基とシリル基を主成分とする物質を含む膜厚が略4nmの複合膜が前記ステンレス製の金型表面に形成できた。
【0094】
このとき、複合膜の膜厚は、やはりナノメートル程度であったので、金型の加工精度を損なうことは全くなかった。また、ステンレス製の金型表面の水滴接触角は、洗浄工程の有無に関わらず、略114度(臨界表面エネルギーは6mN/m程度)であり、テフロン(登録商標)コーに比べると格段に優れた離型性を付与できた。
【0095】
また、摩耗試験では、実施例1と比べて多少劣化が早かったが、ほぼ同様の結果を得た。
【実施例6】
【0096】
実施例1において、フッ化炭素基および炭化水素基およびアルコキシシリル基を主成分とする物質(2)とアルコキシシリル基を主成分とする物質(3)を除いて同様の方法で被膜を製造した。
【0097】
この場合、当然有機含フッ素エーテル基、または有機含フッ素ポリエーテル基とシリル基を主成分とする物質(1)で膜厚が略3nmの被膜が前記ステンレス製の金型表面に形成できた。
【0098】
このとき、複合膜の膜厚は、やはりナノメートル程度であったので、金型の加工精度を損なうことは全くなかった。また、ステンレス製の金型表面の水滴接触角は、洗浄工程の有無に関わらず、略116度(臨界表面エネルギーは5mN/m程度)であり、テフロン(登録商標)コーに比べると格段に優れた離型性を付与できた。
【0099】
摩耗試験では、実施例1と比べて多少劣化が早かったが、実用レベルで使用できる被膜であった。
なお、この被膜は、離型性は優れていたが、実施例1で得た複合膜に比べて、金型内での成型物流動性と入り込み性が多少悪くなることが判明した。
【実施例7】
【0100】
さらに、実施例1において、上述のシラノール縮合触媒の代わりに、ケチミン化合物、又は、TiO等の金属酸化物、有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物が利用できた。
【0101】
例えば、実施例1に置いて前述のシラノール縮合触媒の代わりに、ケチミン化合物(ジャパンエポキシレジン社のH3、およびチッソ社のサイラエースS340を用いてみたが、性能はほぼ同じであった。)を同じ濃度で用いた場合、反応時間を30分まで短縮できた。
【実施例8】
【0102】
さらに、実施例1において、前述のシラノール縮合触媒とケチミン化合物、又は、TiO等の金属酸化物、有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物を1:9〜9:1で混合して用いると、さらにさらに反応時間を短縮できた。
具体的には、実施例1に置いて上述のシラノール縮合触媒濃度を半分にして、上述のケチミン化合物(例えば、S340)を等モル混合した場合(1:1)、反応時間を20分まで短縮できた。
【0103】
以上に述べた全ての実施例に於いて、シラノール縮合触媒として、カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステル及びチタン酸エステルキレート類が利用可能である。さらに具体的には、酢酸第1錫、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクテート、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジオクテート、ジオクチル錫ジアセテート、ジオクタン酸第1錫、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、2−エチルヘキセン酸鉄、ジオクチル錫ビスオクチリチオグリコール酸エステル塩、ジオクチル錫マレイン酸エステル塩、ジブチル錫マレイン酸塩ポリマー、ジメチル錫メルカプトプロピオン酸塩ポリマー、ジブチル錫ビスアセチルアセテート、ジオクチル錫ビスアセチルラウレート、テトラブチルチタネート、テトラノニルチタネート、及びビス(アセチルアセトニル)ジープロピルチタネートを用いることが可能である。
【0104】
また、利用できるケチミン化合物は特に限定されるものではないが、例えば、2,5,8−トリアザ−1,8−ノナジエン、3,11−ジメチル−4,7,10−トリアザ−3,10−トリデカジエン、2,10−ジメチル−3,6,9−トリアザ−2,9−ウンデカジエン、2,4,12,14−テトラメチル−5,8,11−トリアザ−4,11−ペンタデカジエン、2,4,15,17−テトラメチル−5,8,11,14−テトラアザ−4,14−オクタデカジエン、2,4,20,22−テトラメチル−5,12,19−トリアザ−4,19−トリエイコサジエン等がある。
【0105】
また、利用できる有機酸としても特に限定されるものではないが、例えば、ギ酸、あるいは酢酸、プロピオン酸、ラク酸、マロン酸等があり、ほぼ同様の効果があった。
【0106】
なお、複合膜形成溶液の溶媒を蒸発させて被膜を形成する場合には、複合膜形成溶液に用いる非水系の溶媒の沸点は、低いほど早く蒸発除去できるので都合がよいが、取扱いの上では50〜150℃程度がよかった。
【0107】
一方、後洗浄を行う場合には、複合膜形成溶液に用いるフッ化炭素系有機溶媒の沸点は、高いほど安定しているが、取扱いの上では150〜350℃程度がよかった。
【0108】
なお、前記フッ化炭素系有機溶媒には、フロン系溶媒や、フロリナート(3M社製品)、アフルード(旭ガラス社製品)等があるが、これらは1種単独で用いても良いし、良く混ざるものなら2種以上を組み合わせてもよい。さらに、クロロホルム等有機塩素系の溶媒を添加しても良かった。さらにまた、吸着溶媒として、水とアルコール(水とアルコールの組成比は、体積比で2:1〜10:1で、アルコールの種類は、エタノールが良かったが、プロパノールやブタノール、エチレングリコールでも使用可能であった。)の混合溶媒を用いる場合には、シラノール縮合触媒や助触媒であるケチミン等は使用できないが、触媒無しでも超音波分散しておけば1時間程度で良好な化学吸着単分子膜を形成できた。
【0109】
さらに、洗浄用の有機溶媒としては、水を含まない炭化水素系溶媒、あるいはフッ化炭素系溶媒やシリコーン系溶媒を用いることが可能であるが、特に沸点が50〜300℃のものが使用に適していた。
【0110】
具体的に使用可能なものは、石油ナフサ、ソルベントナフサ、石油エーテル、石油ベンジン、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、デカリン、工業ガソリン、灯油、ジメチルシリコーン、フェニルシリコーン、アルキル変性シリコーン、ポリエーテルシリコーン等を挙げることができる。
【0111】
さらにまた、有機含フッ素エーテル基、または有機含フッ素ポリエーテル基およびアルコキシシリル基を含む物質(1)には、下記式(化3または4)が利用できた。また、耐光性は多少悪くなるが、下記式(化5)で示される物質が利用できたが、何れも平均分子量は2000〜5000程度のものが利用しやすかった。
【0112】
【化3】

【0113】
【化4】

【0114】
【化5】

【0115】
さらに具体的には、下記式(化7)や式(化8)で示される物質が利用できた。
【0116】
【化7】

【0117】
【化8】

【0118】
また、フッ化炭素基と炭化水素基とアルコキシシリル基を主成分とする物質(2)としてCF3−(CF2−(CH−Si(OA)3(添え字のoは1〜10の整数、Aは、メチル基やチル基のアルキル基。)が挙げられるが、具体的には、以下に示す物質(1)-(18)が使用しやすかった。
【0119】
(1) CF3CH2O(CH215Si(OCH3
(2) CF3(CH22Si(CH32(CH215Si(OCH3
(3) CF3(CH26Si(CH32(CH29 Si(OCH3
(4) CF3COO(CH215Si(OCH3
(5) CF3(CF27(CH22Si(OCH3
(6) CF3(CF25(CH22Si(OCH3
(7) CF3(CF2764Si(OCH3
(8) CF3CH2O(CH215Si(OC3
(9) CF3(CH22Si(CH32(CH215Si(OC3
(10) CF3(CH26Si(CH32(CH29 Si(OC3
(11) CF3COO(CH215Si(OC3
(12) CF3(CF27(CH22Si(OC3
(13) CF3(CF25(CH22Si(OC3
(14) CF3(CF2764Si(OC3
(15) (CF3(CF27(CH222Si(OCH
(16) (CF3(CF25(CH222Si(OCH
(17) (CF3(CF27(CH22SiOCH
(18) (CF3(CF25(CH22SiOCH
【0120】
さらにまた、アルコキシシリル基を主成分とする物質(3)として(AO)Si(OSi(OA)OA(pは0〜10、Aは、メチル基やチル基のアルキル基、OAはClまたはNCOでも良い。)が挙げられるが、以下に示す物質(1)-(14)が使用しやすかった。
【0121】
(1)Si(OCH
(2)SiH(OCH3
(3)SiH2(OCH2
(4)(CHO)3Si(OSi(OCH2OCH
(5)Si(OC3
(6)SiH(OC3
(7)SiH2(OC2
(8)(HO)3Si(OSi(OC2OC
ここで、mは、1〜6整数を表す。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】従来の金型断面(a)と本発明の金型断面(b)の概念図。(a)は、金型表面に離型剤を塗布した状態、(b)は、金型表面に離型性単分子膜を形成した状態を示す。
【0123】
【図2】実施例1において、離型性の複合膜が形成された金型断面を分子レベルまで拡大した概念図。
【0124】
【図3】本発明の実施例1で得られた離型性金型と比較例1および2で得られた離型性金型の耐摩耗性試験結果を水滴接触角の変化で比較して示した図。
【0125】
【図4】実施例2において、シリカ膜を介して離型性の複合膜が形成された金型断面を分子レベルまで拡大した概念図。
【符号の説明】
【0126】
1 金型
2 塗布された離型剤
3 本発明の離型膜
4 有機含フッ素エーテル基、または有機含フッ素ポリエーテル基とシリル基を主成分とする物質(1)
5 フッ化炭素基および炭化水素基およびアルコキシシリル基を主成分とする物質(2)
6 アルコキシシリル基を主成分とする物質(3)
離型性の複合膜
シリカ膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に高耐久性の撥水撥油防汚性被膜が形成されたガラス板であって、前記被膜が、有機含フッ素エーテル基または有機含フッ素ポリエーテル基を含むフッ化炭素基と炭化水素基とシリル基を含む第1の物質とフッ化炭素基と炭化水素基とシリル基を含み且つ前記第1の物質とは異なる第2の物質とシロキサン基のみを含む第3の物質が混合してなる複合膜であり、前記第2の物質の分子長が前記第1の物質の分子長より短いことを特徴とする離型性金型。
【請求項2】
請求項1記載の離型性金型を用いた成型品の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−49287(P2013−49287A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−260510(P2012−260510)
【出願日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【分割の表示】特願2006−326659(P2006−326659)の分割
【原出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(503002662)
【Fターム(参考)】