説明

金型修正方法

【課題】板厚の減少に伴う成形誤差の発生を抑制できる金型修正方法を得る。
【解決手段】金型4により板材をプレス成形して成形品1を作成し、成形品1の表面と裏面との面形状をそれぞれ3次元測定して表面測定データと裏面測定データとを取得する。表面測定データと裏面測定データとに基づいてプレス成形前の板厚に対するプレス成形後の板厚の偏差を求めると共に、偏差分布を求める。偏差分布に基づく金型修正エリア内の偏差により金型修正エリアの金型4を修正する。金型加工装置6により形成した金型4の数値制御データのうち、金型修正エリアに応じた数値制御データを偏差に基づいて修正し、修正した数値制御データにより金型4を修正する。修正した金型4により板材をプレス成形して成形品1を作成して、再度偏差と偏差分布とを求めて、金型4を再修正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型でプレス成形した成形品を3次元測定して金型を修正する金型修正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、特許文献1に示すように、金型の形状を3次元測定した金型測定データと、金型でプレス成形した成形品の形状を3次元測定した成形品測定データとを求める。そして、成形品CADモデルの対応点と成形品測定データの対応点とに基づき成形品誤差量を算出すると共に、金型CADモデルの補正基準点と金型測定データの対応点とに基づき金型誤差量を算出する。この成形品誤差量と金型誤差量とに基づき金型CADモデルの補正量を算出して、金型を修正する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−313852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうした従来の方法によると、成形品誤差量が金型でプレス成形した成形品のスプリングバックにより発生し、金型誤差量が金型加工時の工具の撓み等により発生し、成形品誤差量と金型誤差量とに基づいて金型を修正すると、スプリングバックや工具の撓み等による誤差量を補正できる。
【0005】
しかし、金型によるプレス成形時に成形品の部分的な板厚の減少が発生する場合がある。例えば、金型の上型と下型とが部分的に成形品に強く当たり、部分的に板厚が減少すると共に、成形品の成形形状にも影響を与え、誤差量の発生の原因ともなる。成形品誤差量と金型誤差量とに基づいて金型を修正しても、部分的な板厚の減少による誤差量を補正できない場合があるという問題があった。
【0006】
本発明の課題は、板厚の減少に伴う成形誤差の発生を抑制できる金型修正方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を達成すべく、本発明は課題を解決するため次の手段を取った。即ち、
金型により板材をプレス成形して成形品を作成し、
前記成形品の表面と裏面との面形状をそれぞれ3次元測定して表面測定データと裏面測定データとを取得し、
前記表面測定データと前記裏面測定データとに基づいてプレス成形前の板厚に対するプレス成形後の板厚の偏差を求めると共に、偏差分布を求め、
前記偏差分布に基づく金型修正エリア内の前記偏差により前記金型修正エリアの前記金型を修正することを特徴とする金型修正方法がそれである。
【0008】
前記表面測定データと前記裏面測定データとは点群データからなってもよい。また、金型加工装置により形成した前記金型の数値制御データのうち、前記金型修正エリアに応じた前記数値制御データを前記偏差に基づいて修正し、修正した前記数値制御データにより前記金型を修正するようにしてもよい。更に、修正した前記金型により板材をプレス成形して成形品を作成して、再度前記偏差と前記偏差分布とを求めて、前記金型を再修正するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の金型修正方法は、取得した成形品の表面測定データと裏面測定データとに基づいてプレス成形前の板厚に対するプレス成形後の板厚の偏差を求めると共に、偏差分布を求め、偏差により偏差分布に基づく金型修正エリアの金型を修正するので、板厚の減少に伴う成形誤差の発生を抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態としての金型修正方法に用いたシステムの全体図である。
【図2】本実施形態としての成形品の斜視図である。
【図3】本実施形態の金型修正方法の工程順を示すフローチャートである。
【図4】本実施形態の表面測定データと裏面測定データとから偏差と偏差分布とを求め、金型修正エリアを指定する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を実施するための形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1に示すように、1はプレス成形された成形品で、成形品1はパソコン等からなる設計支援システム2を用いて成形品設計が行われ、設計支援システム2により成形品CADデータが作成される。この成形品CADデータに応じて、プレス成形用の金型4が製作される。例えば、成形品CADデータに基づいて、数値制御データが作成され、数値制御データによりマシニングセンター等の金型加工装置6が制御されて、金型4が製作される。この金型4をプレス機8にセットして、この金型4を用いて図示しない板材からプレス成形することにより、図1、図2に示す成形品1がプレス成形される。
【0012】
プレス成形された成形品1の面形状を3次元測定する3次元測定機10は、本実施形態では、成形品1の3次元形状を光学的に測定する形状測定器12を備え、この形状測定器12は、図示しないCCDカメラとフリンジプロジェクターと制御装置とを備えている。
【0013】
形状測定器12は、フリンジプロジェクターが複数の格子を成形品1の表面に投影し、CCDカメラがこの成形品1の外形形状に応じて変形した格子を撮像する。そして、この変形格子と基準格子とに基づいて、成形品1の3次元形状を測定し、測定データを得るものである。
【0014】
3次元測定機10は、形状測定器12を直交する3方向に移動するマニプレータ14を備えており、テーブル16上に載置された成形品1を形状測定器12により3次元測定できるように構成されている。尚、3次元測定機10は、フリンジプロジェクターを用いたものに限らず、成形品1の形状を3次元測定できるものであればよく、レーザ光を成形品1に照射して、レーザ光により成形品1を走査し、その反射光を受光して、成形品1の形状を3次元測定するものでもよい。
【0015】
前述した金型加工装置6は、本実施形態では、いわゆる門型のもので、前後方向に直線的に移動するテーブル18を備えると共に、門型のフレーム20上を左右方向に直線的に移動する主軸ヘッド22を備えている。主軸ヘッド22は上下方向に移動し、主軸ヘッド22を直交する3方向に移動して、主軸ヘッド22により回転される工具としてのボールエンドミル24等により金型4を3次元加工できるように構成されている。
【0016】
次に、本実施形態の金型修正方法を工程順に、図3に示すフローチャートによって説明する。
まず、設計支援システム2を用いて成形品設計が行われ、設計支援システム2により成形品1の成形品CADデータが作成される(S50)。この成形品CADデータに基づいて、数値制御データが作成され(S52)、数値制御データにより金型加工装置6が制御されて、プレス成形用の金型4が製作される(S54)。
【0017】
そして、この金型4がプレス機8にセットされ、金型4を用いて図示しない板材から成形品1がプレス成形される(S56)。次に、このプレス成形した成形品1の面形状を3次元測定機10により3次元測定する(S58)。3次元測定機10による成形品1の測定データは3次元測定機10の座標系の点群データとして得られる。
【0018】
3次元測定の際には、図4に示すように、成形品1の表裏の両面をそれぞれ測定する。テーブル16上に成形品1を表面を上にして載置し、成形品1の表面の面形状を形状測定器12により測定して、表面測定データを得る(図4(イ))。また、成形品1を裏返して、テーブル16上に裏面を上にして載置し、成形品1の裏面の面形状を形状測定器12により測定して、裏面測定データを得る(図4(ロ))。図4(ロ)に示すように、裏面測定データを裏返して、重ね合わせのために、表面測定データと同じ方向からのデータに変換する。
【0019】
成形品1の表裏両面の測定の際には、表面測定データと裏面測定データとを重ね合わせることができるようにする。例えば、成形品1に基準となる複数の球状のターゲットを表裏両側から測定できるように取り付けて、複数のターゲットを表面側と裏面側とで面形状と同時に測定し、複数のターゲットが一致するように、表面測定データと裏面測定データとを重ね合わせる。あるいは、成形品1に形成される複数の孔1a,1bを、孔1a,1bの深さを含めて表裏面で測定して、複数の孔1a,1bを基準にして、表面測定データと裏面測定データとを重ね合わせる。
【0020】
表面測定データと裏面測定データとを取得した後、前述したように、表面測定データと裏面測定データとを重ね合わせる(図4(ハ))。表面測定データによる面形状と裏面測定データによる面形状とを重ね合わせると、その間には板厚に応じた間隔が空く。プレス成形の際に、板材が金型4の上型と下型とにより強く挟まれると、板厚が減少する。表面測定データと裏面測定データとの重ね合わせに基づいて、プレス成形前の板材の板厚に対する偏差を求め、成形品1の全面にわたる偏差分布を作成する(S60)。
【0021】
作成した偏差分布を設計支援システム2のCRTに偏差に応じたカラーマップ等により表示する。特に、板厚がプレス成形前の板材の板厚よりも減少している程度に応じて、段階的にカラーを変えて表示するようにするとよい。プレス成形後の板厚は、金型4の上型と下型とにより板材が強く挟まれた箇所で減少し、プレス成形時に上型と下型との間に板厚以上の隙間が生じる箇所では、プレス成形後の板厚の変化はない。
【0022】
次に、CRTに表示された偏差分布に基づいて、金型4を修正する金型修正エリアAを指定する(S62)。金型修正エリアAの指定は、CRTの偏差分布の表示を操作者が見て、偏差があるエリアを矩形に囲んで指定するとよい。あるいは、設計支援システム2が偏差分布に基づいて、偏差のある箇所を金型修正エリアAとして指定するようにしてもよい。
【0023】
金型修正エリアAを指定した後、金型修正エリアA内の数値制御データを、偏差に基づいて修正する(S64)。数値制御データの修正は、設計支援システム2により、金型修正エリアA内の数値制御データを偏差分だけ金型4を削るように、数値制御データを修正して行なう。
【0024】
修正後、金型4を金型加工装置6のテーブル18上に載置して、修正した数値制御データに基づいて金型加工装置6を制御し、金型4を修正する切削加工を行なう(S66)。これにより、偏差のある箇所の金型4が削られ、この修正した金型4を再びプレス機8にセットして、板材をプレス加工して成形品1をプレス成形する(S68)。
【0025】
この修正後の金型4でプレス成形した成形品1を、S58と同様に、3次元測定機10によりその表裏両面を3次元測定する(S70)。次に、S60と同様に、表面測定データと裏面測定データとを重ね合わせ、プレス成形前の板材の板厚に対する偏差を求め、偏差分布を作成する(S72)。
【0026】
偏差分布が、合格であれば(S74:YES)、偏差分布に基づく金型4の修正作業を終了し、不合格であれば(S74:NO)、再び、S62以下の処理工程を繰り返し、偏差分布に基づいて金型修正エリアAを指定し、金型4を偏差に基づいて修正する。これにより、プレス成形品1の全面で、プレス成形前の板材の板厚に対する偏差を小さくできるので、プレス成形時に金型4の上型と下型とが板材にほぼ均等に当たる。よって、プレス成形時に金型4の上型と下型とが局部的に強く板材に当たることによる板厚の減少に伴う成形誤差の発生を抑制できる。
【0027】
以上本発明はこの様な実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得る。
【符号の説明】
【0028】
1…成形品 2…設計支援システム
4…金型 6…金型加工装置
8…プレス機 10…3次元測定機
12…形状測定器 14…マニプレータ
22…主軸ヘッド 24…ボールエンドミル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型により板材をプレス成形して成形品を作成し、
前記成形品の表面と裏面との面形状をそれぞれ3次元測定して表面測定データと裏面測定データとを取得し、
前記表面測定データと前記裏面測定データとに基づいてプレス成形前の板厚に対するプレス成形後の板厚の偏差を求めると共に、偏差分布を求め、
前記偏差分布に基づく金型修正エリア内の前記偏差により前記金型修正エリアの前記金型を修正することを特徴とする金型修正方法。
【請求項2】
前記表面測定データと前記裏面測定データとは点群データからなることを特徴とする請求項1に記載の金型修正方法。
【請求項3】
金型加工装置により形成した前記金型の数値制御データのうち、前記金型修正エリアに応じた前記数値制御データを前記偏差に基づいて修正し、修正した前記数値制御データにより前記金型を修正することを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の金型修正方法。
【請求項4】
修正した前記金型により板材をプレス成形して成形品を作成して、再度前記偏差と前記偏差分布とを求めて、前記金型を再修正することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の金型修正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−30376(P2012−30376A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169333(P2010−169333)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000150213)株式会社オプトン (16)
【Fターム(参考)】