説明

金型構造と鋳造方法

【課題】 シリンダブロックを2つ一度に鋳造することができる小型で耐久性のある金型構造を提供する。
【解決手段】 シリンダブロックWを2つ一度に鋳造する金型構造であって、2つのシリンダブロックWに挟まれる左右の内側スライドコア5a,5bと、これらの左右の内側スライドコア5a,5bを夫々移動させる油圧シリンダユニット10,11と、左右の内側スライドコア5a,5bに夫々設けた傾斜孔12,13と、これらの傾斜孔12,13に夫々所定のクリアランスC1,C2で挿入される上型2に設けた傾斜ピン14,15とを備え、上型2が動作すると傾斜ピン14,15が傾斜孔12,13の壁面を押圧することにより、左右の内側スライドコア5a,5bが夫々型開きの方向へ移動する。クリアランスC1,C2が左右の内側スライドコア5a,5bで異なることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックを2つ一度に鋳造する金型構造と、この金型構造による鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2つのシリンダブロックを一度に鋳造する金型構造としては、特許文献1に記載のように、固定型に設けた傾斜ピンにより、シリンダブロックの間に設けたスライドコアを作動させる構造が知られている。また、特許文献2に記載のように、シリンダ装置により、スライドコアを作動させる構造が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−95741号公報
【特許文献2】特開2007−152382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の発明においては、傾斜ピンが長くなり、折損する虞がある。また、特許文献2に記載の発明においては、初期離型の時に生じる大きな離型抵抗に抗するため、シリンダ装置に大きな駆動力が必要とされ、装置が巨大化してしまう。
【0005】
本発明は、従来の技術が有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、シリンダブロックを2つ一度に鋳造することができる小型で耐久性のある金型構造と鋳造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく請求項1に係る発明は、シリンダブロックを2つ一度に鋳造する金型構造であって、2つのシリンダブロックに挟まれる左右の内側スライドコアと、これらの左右の内側スライドコアを夫々移動させる駆動手段と、前記左右の内側スライドコアに夫々設けた傾斜孔と、これらの傾斜孔に夫々所定のクリアランスで挿入される固定型に設けた傾斜ピンとを備え、前記固定型が動作すると前記傾斜ピンが前記傾斜孔の壁面を押圧することにより、前記左右の内側スライドコアが夫々型開きの方向へ移動するものである。
【0007】
また、傾斜孔と傾斜ピンとのクリアランスは、左右の内側スライドコアで異なるようにするとよい。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の金型構造により、2つのシリンダブロックを一度に鋳造する鋳造方法であって、固定型が動作して傾斜ピンが傾斜孔の壁面を押圧することにより、左右の内側スライドコアが夫々型開きの方向へ移動する第1工程と、この第1工程が終了後に左右の内側スライドコアが夫々駆動手段により型開きの方向へ移動する第2工程からなるものである。
【0009】
また、請求項4に係る発明は、請求項2に記載の金型構造により、2つのシリンダブロックを一度に鋳造する鋳造方法であって、固定型が動作して一方の傾斜ピンが傾斜孔の壁面を押圧することにより、一方の内側スライドコアが型開きの方向へ移動する第1工程と、この第1工程が終了後に固定型が動作して他方の傾斜ピンが傾斜孔の壁面を押圧することにより、他方の内側スライドコアが型開きの方向へ移動する第2工程と、この第2工程が終了後に左右の内側スライドコアが夫々駆動手段により型開きの方向へ移動する第3工程からなるものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によれば、初期離型時には傾斜ピンが傾斜孔の壁面を押圧して左右の内側スライドコアを動かし、その後駆動手段で左右の内側スライドコアを動かすため、駆動手段には初期離型時に要する巨大な駆動力を必要としないので、駆動手段を小型化することができる。
【0011】
また、左右の内側スライドコアで傾斜孔と傾斜ピンとのクリアランスを異ならせれば、左の内側スライドコアと右の内側スライドコアで初期離型のタイミングをずらすことができ、初期離型時に固定型を動かすのに要する力を小さくすることができる。
【0012】
請求項3に係る発明によれば、初期離型時には第1工程において傾斜ピンが傾斜孔の壁面を押圧して左右の内側スライドコアを動かし、その後第2工程において駆動手段で左右の内側スライドコアを動かすため、駆動手段には初期離型時に要する巨大な駆動力を必要としないので、駆動手段を小型化することができる。
【0013】
請求項4に係る発明によれば、固定型が動作して傾斜ピンが傾斜孔の壁面を押圧して左右の内側スライドコアを夫々移動させる工程を、一方の内側スライドコアが移動する第1工程と、他方の内側スライドコアが移動する第2工程とに分けたので、初期離型時に固定型を動かすのに要する力を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る金型構造を備えた鋳造装置の概要説明図で、(a)は型閉状態の側面図、(b)は型閉状態の平面図
【図2】型閉状態における傾斜孔と傾斜ピンの関係を示す説明図
【図3】本発明に係る金型構造の作用説明図で、(a)は型閉状態、(b)は右の内側スライドコアの移動開始状態、(c)は左の内側スライドコアの移動開始状態、(d)は傾斜孔と傾斜ピンによる内側スライドコアの移動終了状態
【図4】本発明に係る金型構造を備えた鋳造装置の概要説明図で、(a)は型開状態の側面図、(b)は型開状態の平面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。本発明に係る金型構造を備えた鋳造装置1は、図1に示すように、シリンダブロックWを2つ一度に鋳造する装置で、昇降する上型(固定型)2と、上型2に対向する左右の下型3a,3bと、下型3a,3bに摺動して左右にスライドする左右の外側スライドコア4a,4bと、下型3a,3bに摺動して左右にスライドする左右の内側スライドコア5a,5bと、左の外側スライドコア4aと左の内側スライドコア5aでキャビティを形成する前後にスライドする端部スライドコア6a,6bと、右の外側スライドコア4bと右の内側スライドコア5bでキャビティを形成する前後にスライドする端部スライドコア7a,7bを備えている。
【0016】
また、鋳造装置1には、左右の外側スライドコア4a,4bをスライドさせる油圧シリンダユニット8,9と、左右の内側スライドコア5a,5bをスライドさせる油圧シリンダユニット10,11が設けられている。なお、図1は型閉状態を示し、図1(a)では、端部スライドコア6a,6b,7a,7bの記載を、図1(b)では、上型2の記載を省略している。
【0017】
更に、上型2には、図2にも示すように、左右の内側スライドコア5a,5bに夫々開けた傾斜孔12,13に、所定のクリアランスC1,C2で挿入される傾斜ピン14,15が設けられている。傾斜孔12の傾斜角度と傾斜ピン14の傾斜角度は、ほぼ同じである。また、傾斜孔13の傾斜角度と傾斜ピン15の傾斜角度も、ほぼ同じである。
【0018】
そして、左の内側スライドコア5aに開けた傾斜孔12と傾斜ピン14とのクリアランスC1の大きさと、右の内側スライドコア5bに開けた傾斜孔13と傾斜ピン15とのクリアランスC2の大きさを異ならせている。更に、傾斜孔12の深さと傾斜孔13の深さを異ならせ、傾斜孔12,13に挿入される傾斜ピン14の長さと傾斜ピン15の長さも異ならせている。
【0019】
本発明の実施の形態では、図2に示すように、傾斜孔12と傾斜ピン14とのクリアランスC1の方が、傾斜孔13と傾斜ピン15とのクリアランスC2よりも大きくなるように設定している。また、傾斜孔12の深さを傾斜孔13の深さよりも深く設定し、傾斜ピン14の長さを傾斜ピン15の長さよりも長く設定している。
【0020】
このように、傾斜孔12,13と傾斜ピン14,15とのクリアランスC1,C2、傾斜孔12,13の深さ、傾斜ピン14,15の長さを設定したことにより、型閉状態から上型2が上昇し始めると、先ず傾斜孔13と傾斜ピン15の働きにより右の内側スライドコア5bが型開き方向へ所定距離だけ移動し、次いで傾斜孔12と傾斜ピン14の働きにより左の内側スライドコア5aが型開き方向へ所定距離だけ移動することになる。
【0021】
そして、傾斜孔12と傾斜ピン14の働きによる左の内側スライドコア5aの型開き方向への移動量と、傾斜孔13と傾斜ピン15の働きによる右の内側スライドコア5bの型開き方向への移動量は、ほぼ等しい。
【0022】
以上のように構成された本発明に係る金型構造を備えた鋳造装置1の動作及び金型構造による鋳造方法について説明する。図3(a)に示すように、型閉状態で、傾斜孔12と傾斜ピン14とのクリアランスC1を所定量(例えば、5.5mm)に設定し、傾斜孔13と傾斜ピン15とのクリアランスC2も所定量(例えば、0.5mm)に設定しておく。
【0023】
次いで、型閉状態から上型2が矢印A方向へ上昇し始めると、図3(b)に示すように、傾斜ピン15の外周面が傾斜孔13の壁面に当接し、その後傾斜ピン15の外周面が傾斜孔13の壁面を摺動し始める。そして、更なる上型2の上昇により、傾斜ピン15の外周面が傾斜孔13の壁面を摺動しながら作用する右の内側スライドコア5bに対する傾斜ピン15の押圧力により、右の内側スライドコア5bが、図3(c)に示すように、型開き方向(矢印B方向)へ(例えば、5mm)移動する(第1工程)。
【0024】
この時、図3(c)に示すように、傾斜ピン14の外周面も傾斜孔12の壁面に当接し、その後傾斜ピン14の外周面が傾斜孔12の壁面を摺動し始める。そして、更なる上型2の上昇により、傾斜ピン14の外周面が傾斜孔12の壁面を摺動しながら作用する傾斜ピン14の押圧力により、左の内側スライドコア5aも型開き方向(矢印C方向)へ移動する。同様に、傾斜ピン15の外周面が傾斜孔13の壁面を摺動しながら作用する傾斜ピン15の押圧力により、右の内側スライドコア5bも引き続き型開き方向(矢印B方向)へ移動する。
【0025】
次いで、図3(d)に示すように、更なる上型2の上昇により、傾斜ピン15が傾斜孔13から抜けることによって、右の内側スライドコア5bは、傾斜ピン15の押圧力による移動を停止し、離型初期から所定量(例えば、10mm)だけ移動することになる。
【0026】
また、左の内側スライドコア5aも、傾斜ピン14が傾斜孔12から抜けるまで、傾斜ピン14の外周面が傾斜孔12の壁面を摺動しながら作用する傾斜ピン14の押圧力により移動し、離型初期から所定量(例えば、10mm)だけ移動することになる(第2工程)。
【0027】
次いで、傾斜孔12,13と傾斜ピン14,15による離型動作が終了すると、図4に示すように、油圧シリンダユニット8,9により左右の外側スライドコア4a,4bを型開き方向へ移動させる。また、油圧シリンダユニット10,11により左右の内側スライドコア5a,5bを更に型開き方向へ移動させる(第3工程)。端部スライドコア6a,6b,7a,7bについても、油圧シリンダユニット(不図示)により型開き方向へ移動させる。
【0028】
このように、初期離型時には傾斜ピン14,15が傾斜孔12,13の壁面を押圧して左右の内側スライドコア5a,5bを動かし、その後油圧シリンダユニット10,11で左右の内側スライドコア5a,5bを動かすため、油圧シリンダユニット10,11には初期離型時に要する巨大な駆動力を必要としないので、油圧シリンダユニット10,11を小型化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によれば、初期離型時に左右の内側スライドコア及び固定型を動かすのに要する力を小さくすることができるので、省エネルギーに寄与するシリンダブロックを2つ一度に鋳造する金型構造と、この金型構造による鋳造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0030】
1…鋳造装置、2…上型(固定型)、3a,3b…下型、4a…左の外側スライドコア、4b…右の外側スライドコア、5a…左の内側スライドコア、5b…右の内側スライドコア、6a,6b,7a,7b…端部スライドコア、8,9,10,11…油圧シリンダユニット(駆動手段)、12,13…傾斜孔、14,15…傾斜ピン、C1,C2…クリアランス、W…シリンダブロック。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックを2つ一度に鋳造する金型構造であって、2つのシリンダブロックに挟まれる左右の内側スライドコアと、これらの左右の内側スライドコアを夫々移動させる駆動手段と、前記左右の内側スライドコアに夫々設けた傾斜孔と、これらの傾斜孔に夫々所定のクリアランスで挿入される固定型に設けた傾斜ピンとを備え、前記固定型が動作すると前記傾斜ピンが前記傾斜孔の壁面を押圧することにより、前記左右の内側スライドコアが夫々型開きの方向へ移動することを特徴とする金型構造。
【請求項2】
請求項1に記載の金型構造において、前記クリアランスが前記左右の内側スライドコアで異なることを特徴とする金型構造。
【請求項3】
請求項1に記載の金型構造により、2つのシリンダブロックを一度に鋳造する鋳造方法であって、固定型が動作して傾斜ピンが傾斜孔の壁面を押圧することにより、左右の内側スライドコアが夫々型開きの方向へ移動する第1工程と、この第1工程が終了後に左右の内側スライドコアが夫々駆動手段により型開きの方向へ移動する第2工程からなることを特徴とする鋳造方法。
【請求項4】
請求項2に記載の金型構造により、2つのシリンダブロックを一度に鋳造する鋳造方法であって、固定型が動作して一方の傾斜ピンが傾斜孔の壁面を押圧することにより、一方の内側スライドコアが型開きの方向へ移動する第1工程と、この第1工程が終了後に固定型が動作して他方の傾斜ピンが傾斜孔の壁面を押圧することにより、他方の内側スライドコアが型開きの方向へ移動する第2工程と、この第2工程が終了後に左右の内側スライドコアが夫々駆動手段により型開きの方向へ移動する第3工程からなることを特徴とする鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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