説明

金型装置及びこれに用いられる治具

【課題】入子駒を再製作したり、ミラー受部を研削又は研磨することなく、正確にミラーダハ角を調整する。
【解決手段】パンチスライダ21を上下方向に変位させることにより、キャリッジ部品における各ミラー受部TA、TB、TC、TD、TE、TFを形成するためのパンチ22を前後方向に変位させて、パンチ22の位置を調整するようにしている。パンチ22の位置が調整されると、パンチ22により形成される各ミラー受部の位置も調整される。そうすると、各ミラー受部により決定される2枚のミラーがなす角度、すなわち、ミラーダハ角も調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像読取装置に内蔵されて2つのミラーを保持するキャリッジ部品を形成するためのプレス金型装置及びこれに用いられる治具に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機やスキャナ装置等の画像読取装置は、ランプからの光を、レンズ及びCCD側に反射させるミラーを保持するキャリッジ部品が内蔵されている。このキャリッジ部品は、詳しくは、ランプに近接して1枚のミラーを保持する第1キャリッジ部品と、この1枚のミラーからの反射光を更に反射させる2枚のミラーを保持する第2キャリッジ部品と、から構成される(特許文献1参照)。
【0003】
上記2枚のミラーはそれぞれ、図8に示すように、第2キャリッジ部品のミラーブラケットに穿設された2山側穴部H1及び1山側穴部H2にて保持される。詳しくは、2山側穴部H1は、2つの凸状のミラー受部TA、TB(TC、TD)を有し、1山側穴部H2は、1つの凸状のミラー受部TE(TF)を有する。すなわち、2枚のミラーはそれぞれ、3点で保持される。なお、2山側穴部H1において、ミラー受部TA及びTBのそれぞれの頂点を結ぶ線と、ミラー受部TC及びTDのそれぞれの頂点を結ぶ線と、がなす角θを、ミラーダハ角とよぶ。1山側穴部H2のミラーダハ角は、2山側穴部H1のミラーダハ角にならう。
【0004】
ところで、正確な画像読み取りのために、上記ミラーダハ角は非常に高精度の調整が求められている。このため、従来、ミラーダハ角を調整するために、一旦、各ミラー受部を有するキャリッジ部品を成形して部品精度を確認した後に、各ミラー受部TA、TB、TC、TD、TE、TFを形成するための金型であるパンチを必要に応じて研削又は研磨したり、入子駒を再製作したりして、求められる精度を出すようにしていた。
【0005】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては次のものがある。
【特許文献1】特開2002−165070号公報
【特許文献2】特開2000−263152号公報
【0006】
特許文献1は、本発明の前提となる画像読取装置において、第1キャリッジ部品と第2キャリッジ部品との位置関係を調整可能な装置を示し、特許文献2は、パンチとダイとの位置合わせを容易に行うことができるプレス金型装置を示すものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のような従来のミラーダハ角の調整方法によると、多くのミラー受部を形成するためのパンチをそれぞれ、試行錯誤的に研削又は研磨したり、入子駒を再製作したりする必要があるため、多大な工数を要するうえに、高精度の調整も困難であった。また、特許文献1及び特許文献2を用いても、この問題を解決することはできない。
【0008】
よって本発明は、上述した現状に鑑み、従来のように、入子駒を再製作したり、ミラー受部を研削又は研磨することなく、容易且つ正確にミラーダハ角を調整することができるプレス金型装置及びこれに用いられる治具を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載された発明は、画像読取装置に内蔵されて2つの保持穴により2枚のミラーをそれぞれ保持する、キャリッジ部品を成形するための金型装置であって、前記2つの保持穴のそれぞれの内壁にあって、該2つの保持穴にそれぞれ保持された、前記2枚のミラーがなす角度を決定する断面凸状のミラー受部を形成するための金型と、少なくとも前記金型を支持する金型プレートと、前記金型プレートに支持されている前記金型の位置を変位させる金型位置調整部材と、を備えたことを特徴とする金型装置である。
【0010】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記金型が、複数の前記ミラー受部にそれぞれ対応して複数に分割されていると共に、前記金型位置調整部材が、該分割された金型に対応して複数に分割されている、ことを特徴とする金型装置である。
【0011】
請求項3に記載された発明は、請求項1又は請求項2に記載された発明において、前記金型が、前記ミラー受部を形成するための面とは反対面に傾斜面を有する角柱形状に形成され、前記金型位置調整部材が、前記傾斜面にスライド可能なスライド面を有する角柱形状に形成され、前記傾斜面及び前記スライド面がそれぞれ、前記金型プレートの上面に対する前記金型位置調整部材の1単位の垂直変位に対して、前記金型が前記垂直変位の1/100単位だけ、前記金型プレートの上面に対して平行変位するような関係に形成され、前記金型位置調整部材の表面に、前記金型位置調整部材の変位量を目視するための1ミリメートル単位の目盛りが形成されている、ことを特徴とする金型装置である。
【0012】
請求項4に記載された発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の金型装置に用いられる治具であって、断面凸状の細長いかまぼこ型をした前記ミラー受部と同等の断面形状をし、且つ、前記ミラー受部よりもやや長いかまぼこ型のマグネット製治具と、前記マグネット製治具の頂点に接して前記2枚のミラーがなす角度を測定するために平板状をしており、前記マグネット製治具に吸引可能な金属製プレート治具と、を備えたことを特徴とする治具である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明によれば、金型位置調整部材により、キャリッジ部品におけるミラー受部を形成するための金型の位置が調整されると、金型により形成されるミラー受部の位置も調整される。そうすると、ミラー受部により決定される2枚のミラーがなす角度、すなわち、ミラーダハ角も調整される。したがって、従来のように、入子駒を再製作したり、ミラー受部を研削又は研磨することなく、容易且つ正確にミラーダハ角を調整することができる。この結果、ミラーダハ角の調整に要する工数を大幅に短縮することができる。
【0014】
請求項2記載の発明によれば、金型及び金型位置調整部材は、複数のミラー受部にそれぞれ対応して複数に分割されているので、キャリッジ部品にある複数のミラー受部を個別に調整できる。したがって、どのようなミラーダハ角の調整にも対応することができる。
【0015】
請求項3記載の発明によれば、金型及び金型位置調整部材は傾斜面によりスライド可能に接合され、傾斜面は金型位置調整部材の上下変位に対して、金型がその1/100だけ前後変位するような角度に設定されており、金型位置調整部材の変位量を目視するための1ミリメートル単位の目盛りが設けられているので、具体的な変位量を把握しながら調整作業を行うことができる。したがって、ミラー受部の変位量をより容易且つ正確に調整することができる。また、傾斜面は金型位置調整部材の上下変位に対して、金型がその1/100だけ前後変位するような角度に設定されているので、微調整が可能になり、求められている規格を満足するように調整することができる。
【0016】
請求項4記載の発明によれば、ミラー受部と同形状のマグネット製治具と、マグネット製治具に吸引可能な金属製プレート治具と、を備えているので、キャリッジ部品を成形する前に、ミラーダハ角を確認することができる。また、金属製プレート治具は、マグネット製治具により吸引されるので、両者が確実に接触し、接触した状態がそのまま保持される。したがって、確実にミラーダハ角を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の前提となるキャリッジ部品を説明するための図である。
【0018】
図1に示すように、画像読取装置に内蔵される第2キャリッジ部品のミラーブラケットBには、2枚のミラーMを保持するための2山側穴部H1及び1山側穴部H2が穿設されている。2山側穴部H1は、2つの凸状のミラー受部TA、TB(TC、TD)を有し、1山側穴部H2は、1つの凸状のミラー受部TE(TF)を有する。図中上側のミラーMは、2山側穴部H1のミラー受部TA、TB及び1山側穴部H2のミラー受部TEに接触して保持される。
【0019】
また、図中下側のミラーMは、2山側穴部H1のミラー受部TC、TD及び1山側穴部H2のミラー受部TFに接触して保持される。すなわち、2枚のミラーMは、合計6つの点が接触して保持されることになる。このため、6つの点により、ミラーダハ角θが決定されることになる。
【0020】
図2は、本発明の一実施形態の概要を説明するための図である。すなわち、本発明の実施形態では、プレス金型装置の機構(後述の金型位置調整部材)により、図2中矢印で示すように、キャリッジ部品における各ミラー受部TA、TB、TC、TD、TE、TFを形成するためのパンチの位置を調整するようにしている。パンチの位置が調整されると、パンチにより形成される各ミラー受部の位置も調整される。そうすると、各ミラー受部により決定される2枚のミラーがなす角度、すなわち、ミラーダハ角も調整される。したがって、従来のように、入子駒を再製作したり、ミラー受部を研削又は研磨することなく、容易且つ正確にミラーダハ角を調整することができる。
【0021】
図3及び図4は、本発明の一実施形態のプレス金型装置の要部及び治具を示す斜視図である。なお、図3及び図4はそれぞれ、2山側穴部及び1山側穴部に対応するものである。図3に示すように、本プレス金型装置は、2山側穴部の形成用に、パンチスライダ11、パンチ12、ボルト13及びパンチプレート14を備えている。また、ミラーダハ角の調整用に、マグネット製治具15、鉄製プレート治具16を備えている。
【0022】
パンチプレート14に穿設される2つの穴部14Hにはそれぞれ、2組のパンチスライダ11及びパンチ12が組み合わされボルト13により固定されてセットされる。パンチスライダ11及びパンチ12は共に、傾斜面を有する台形柱状をしている。パンチスライダ11及びパンチ12は、それらの傾斜面を介してスライド可能であるが、適当なスライド位置でボルト13により固定される。また、各パンチ12には、凸状のミラー受部を形成するための凹部が設けられている。
【0023】
また、図4に示すように、本プレス金型装置は、1山側穴部の形成用に、パンチスライダ21、パンチ22、ボルト23及びパンチプレート24を備えている。また、ミラーダハ角の調整用に、マグネット製治具25、鉄製プレート治具26を備えている。
【0024】
パンチプレート24に穿設される穴部24Hにはそれぞれ、1組のパンチスライダ21及びパンチ22が組み合わされボルト23により固定されてセットされる。パンチスライダ21及びパンチ22は共に、傾斜面を有する台形柱状をしている。パンチスライダ21及びパンチ22は、それらの傾斜面を介してスライド可能であるが、適当なスライド位置でボルト23により固定される。また、各パンチ22には、凸状のミラー受部を形成するための凹部が設けられている。
【0025】
次に、図5及び図6を用いて、上記パンチスライダ及びパンチセットの仕方について説明する。図5及び図6は、本発明の一実施形態のプレス金型装置におけるパンチスライダ及びパンチセットの仕方を説明するための図である。なお、ここでは代表して、1山側穴部の形成用のパンチスライダ、パンチを用いて説明するが、2山側穴部の形成用のパンチスライダ、パンチも同様である。
【0026】
図5に示すように、パンチプレート24にセットされるパンチスライダ21及びパンチ22は、それらの傾斜面を介して接合される。パンチスライダ21に穿設されるボルト23の貫通穴は、パンチスライダ21及びパンチ22の位置関係の変位量を考慮して楕円形状をしている。パンチスライダ21及びパンチ22は図中上下矢印で示す方向に位置関係が調整可能であり、これにしたがって、パンチ22が図中前後矢印で示す方向に調整可能となる。パンチ22が前後方向に調整されると、上述したミラー受部が前後方向に調整されるため、結果として、ミラーダハ角も調整されることになる。そして、適当なところでボルト23により両者が固定される。
【0027】
パンチ22の位置、つまりは、ミラーダハ角を容易且つ正確に調整するために、図6(A)及び図6(B)に示すように、パンチスライダ21の前面には1ミリメートル単位の目盛り21Bが刻設されている。そして、パンチプレート24の下縁部により指示される目盛り21Bの値を目視することができる。
【0028】
パンチスライダ21及びパンチ22が接合される傾斜面は、パンチスライダ21の上下変位に対して、パンチ22がその1/100だけ前後変位するような角度に設定されている。例えば、パンチスライダ21を上下に1ミリメートル変位させることにより、パンチ22を前後に0.01ミリメートル変位させることができる。
【0029】
このため、具体的な変位量を把握しながら調整作業を行うことができる。したがって、ミラー受部の変位量をより容易且つ正確に調整することができる。また、傾斜面はパンチ位置調整部材の上下変位に対して、パンチがその1/100だけ前後変位するような角度に設定されているので、微調整が可能になり、求められている規格を満足するように調整することができる。
【0030】
2山側穴部の形成用のパンチスライダも同様の目盛りを有し、パンチスライダ及びパンチのセットの仕方も同様である。パンチスライダは、請求項の金型位置調整部材に対応する。
【0031】
なお、上述した2山側穴部の形成用のパンチスライダ及びパンチ、2山側穴部の形成用のパンチスライダ及びパンチは、複数あるミラー受部にそれぞれ1対1に対応して複数に分割されている。このため、複数のミラー受部を個別に調整できる。したがって、どのようなミラーダハ角の調整にも対応することができる。
【0032】
最後に、図7を用いて、マグネット製治具及び鉄製プレート治具を用いた、ミラーダハ角の測定方法について説明する。図7は、本発明の実施形態の治具を用いたミラーダハ角の測定方法を説明するための図である。なお、ここでは、2山側穴部の形成用のパンチを用いて説明する。
【0033】
ミラーダハ角θを測定するために、図7に示すように、ミラー受部と同形状(同R形状)のマグネット製治具15と、マグネット製治具15の背面に吸引可能な金属製プレート治具16と、を備えた治具を用いる。そして、各マグネット製治具15を対応する各パンチ2の凹部にセットする。その後に、金属製プレート治具16をマグネット製治具15に押しあてる。マグネット製治具15の吸引力により、セットされた状態がそのまま保持される。このようにして、2組の金属製プレート治具16をセットし、これら金属製プレート治具16でできた2つの直線の交点における角度を測定することにより、ミラーダハ角θを測定することができる。
【0034】
以上のように、本発明の実施形態によれば、従来のように、入子駒を再製作したり、ミラー受部を研削又は研磨することなく、キャリッジ部品を成形する前に、容易且つ正確にミラーダハ角を調整することができる。したがって、ミラーダハ角の調整に要する工数を大幅に短縮することができる。
【0035】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されず、高精度の寸法出しが求められる部品を成形するためのプレス金型装置に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の前提となるキャリッジ部品を説明するための図である。
【図2】本発明の一実施形態の概要を説明するための図である。
【図3】本発明の一実施形態のプレス金型装置の要部及び治具を示す斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態のプレス金型装置の要部及び治具を示す斜視図である。
【図5】本発明の一実施形態のプレス金型装置におけるパンチスライダ及びパンチセットの仕方を説明するための図である。
【図6】図6(A)及び図6(B)は、本発明の一実施形態のプレス金型装置におけるパンチスライダ及びパンチセットの仕方を説明するための図である。
【図7】本発明の実施形態の治具を用いたミラーダハ角の測定方法を説明するための図である。
【図8】従来例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0037】
11、21 パンチスライダ(金型位置調整部材)
12、22 パンチ(金型)
13、23 ボルト
14、24 パンチプレート(金型プレート)
15、25 マグネット製治具
16、26 鉄製プレート治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像読取装置に内蔵されて2つの保持穴により2枚のミラーをそれぞれ保持する、キャリッジ部品を成形するための金型装置であって、
(イ)前記2つの保持穴のそれぞれの内壁にあって、該2つの保持穴にそれぞれ保持された、前記2枚のミラーがなす角度を決定する断面凸状のミラー受部を形成するための金型と、
(ロ)少なくとも前記金型を支持する金型プレートと、
(ハ)前記金型プレートに支持されている前記金型の位置を変位させる金型位置調整部材と、
を備えたことを特徴とする金型装置。
【請求項2】
前記金型が、複数の前記ミラー受部にそれぞれ対応して複数に分割されていると共に、前記金型位置調整部材が、該分割された金型に対応して複数に分割されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の金型装置。
【請求項3】
(イ)前記金型が、前記ミラー受部を形成するための面とは反対面に傾斜面を有する角柱形状に形成され、
(ロ)前記金型位置調整部材が、前記傾斜面にスライド可能なスライド面を有する角柱形状に形成され、
(ハ)前記傾斜面及び前記スライド面がそれぞれ、前記金型プレートの上面に対する前記金型位置調整部材の1単位の垂直変位に対して、前記金型が前記垂直変位の1/100単位だけ、前記金型プレートの上面に対して平行変位するような関係に形成され、
(ニ)前記金型位置調整部材の表面に、前記金型位置調整部材の変位量を目視するための1ミリメートル単位の目盛りが形成されている、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の金型装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の金型装置に用いられる治具であって、
(イ)断面凸状の細長いかまぼこ型をした前記ミラー受部と同等の断面形状をし、且つ、前記ミラー受部よりもやや長いかまぼこ型のマグネット製治具と、
(ロ)前記マグネット製治具の頂点に接して前記2枚のミラーがなす角度を測定するために平板状をしており、前記マグネット製治具に吸引可能な金属製プレート治具と、
を備えたことを特徴とする治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−75868(P2006−75868A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−261971(P2004−261971)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】