金型装置及び鋳造方法
【課題】L字型構造物を鋳造することができる鋳造技術を提供することを課題とする。
【解決手段】金型装置110は、固定型111と可動型112とからなり、固定型111でモータ取付け側面72を形成し、可動型112で減速機取付け面73及び突出部42を形成し、第2の入れ子型116で突出部42の下半部を形成し、第3の入れ子型117で突出部42の上半部を形成する。
【効果】直線状の本体部は、固定型、可動型本体、第2の入れ子型及び第3の入れ子型により形成される。本体部の一端から直角に突出する突出部は、第2の入れ子型及び第3の入れ子型で形成される。すなわち、固定型、可動型本体、第2の入れ子型及び第3の入れ子型によってL字型構造物を容易に鋳造することができる。
【解決手段】金型装置110は、固定型111と可動型112とからなり、固定型111でモータ取付け側面72を形成し、可動型112で減速機取付け面73及び突出部42を形成し、第2の入れ子型116で突出部42の下半部を形成し、第3の入れ子型117で突出部42の上半部を形成する。
【効果】直線状の本体部は、固定型、可動型本体、第2の入れ子型及び第3の入れ子型により形成される。本体部の一端から直角に突出する突出部は、第2の入れ子型及び第3の入れ子型で形成される。すなわち、固定型、可動型本体、第2の入れ子型及び第3の入れ子型によってL字型構造物を容易に鋳造することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L字型構造物の鋳造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車体フレームの後部にスイングアームを取付け、このスイングアームに後輪を取付けてなる自動二輪車が広く普及している。スイングアームは、パイプ、プレート又は鋳造で造られる。そのため、スイングアームを製造する鋳造技術が各種提案されている(例えば、特許文献1(図4)参照。)。
【0003】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図16は従来の鋳造技術を説明する図であり、スイングアーム200を鋳造する金型201は、下型202と、上型203と、中子204、205により、中空部を作成することができる。
【0004】
ところで、スイングアームには、後輪軸を単に支持するものの他、ユニットスイング式パワーユニットと呼ばれるものがある。このユニットスイング式パワーユニットは、パワーユニットケースが、スイングアームの役割を果たす。そして、パワーユニットケースに、エンジン等の駆動源を備え、減速機等の伝動機構を内蔵する。
【0005】
車体フレームとの連結部が車幅方向に延び、伝動機構の収納部が長手方向に延びるため、パワーユニットケースは、平面視でL字形状となる。
【0006】
L字形状のパワーユニットケースを金型201で鋳造することは困難である。金型201は、比較的平板状の鋳造品には適しているが、L字形状のパワーユニットケースの様な立体的な鋳造品には適していないからである。
【0007】
しかし、パワーユニットケースの需要が増加する中、このような立体的な鋳造品を容易に鋳造することができる技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−351056公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、L字型構造物を鋳造することができる鋳造技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、直線状の本体部と、この本体部の一端から直角方向へ突出する突出部と、からなるL字型構造物を鋳造する金型装置であって、
この金型は、固定型と可動型とからなり、
前記固定型で前記本体部の一方の面を形成させ、前記可動型で前記本体部の他方の面及びこの他方の面から延びる前記突出部を形成させ、
前記可動型は、L字型の可動型本体と、この可動型本体に組み合わせて使用される第1〜第3の入れ子型と、からなり、
前記第1の入れ子型は、前記可動型本体に側方から挿入され前記突出部の側面に接する移動分割型であり、
前記第2の入れ子型は、前記可動型本体に下から挿入され前記突出部の下半部及び前記本体部の他方の面の一部を形成する移動分割型であり、
前記第3の入れ子型は、前記可動型本体に上から挿入され前記突出部の上半部及び前記本体部の他方の面の一部を形成する移動分割型であり、
前記第1の入れ子型は、前記第2の入れ子型と前記第3の入れ子型の少なくとも一方が前記可動型本体から離型されるときに前記突出部を押さえることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明では、突出部は、第1の入れ子型に沿って延びる突条部を有しており、この突条部に嵌合する溝が第1の入れ子型に設けられていることを特徴する。
【0012】
請求項3に係る発明では、L字型構造物は自動二輪車に備えられるパワーユニットケースであって、本体部は自動二輪車の長手方向に延び、突出部は自動二輪車の車幅方向に延びていることを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明は、直線状の本体部と、この本体部の一端から直角方向へ突出する突出部と、からなるL字型構造物を鋳造する鋳造方法であって、
前記本体部の一方の面を形成させる固定型と、前記本体部の他方の面及びこの他方の面から延びる前記突出部を形成させる可動型と、からなる金型を用い、
前記突出部の側面に接する第1の入れ子型と、前記突出部の下半部を形成する第2の入れ子型と、前記突出部の上半部を形成する第3の入れ子型と、を可動型本体に合わせて前記可動型を構成した後、この可動型を前記固定型に合わせてキャビティを形成する型組み工程と、
前記キャビティに溶湯を充填する注湯工程と、
前記キャビティ内で溶湯を凝固させる凝固工程と、
前記固定型から前記可動型を離型させた後、前記可動型本体から前記第1〜第3の入れ子型を離型させる離型工程と、からなり、
この離型工程において、
前記第2の入れ子型と前記第3の入れ子型の少なくとも一方を前記可動型本体から離型させるときに、前記第1の入れ子型によって前記突出部を押さえるようにしたことを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る発明は、突出部に、第1の入れ子型に沿って延びる突条部を設けると共に、この突条部に嵌合する溝を第1の入れ子型に設け、
離型工程で、第2の入れ子型と前記第3の入れ子型の少なくとも一方を可動型本体から離型させるときに、突条部を溝部に嵌合させて押さえるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明では、直線状の本体部は、固定型、可動型本体、第2の入れ子型及び第3の入れ子型により、形成される。また、本体部の一端から直角に突出する突出部は、第2の入れ子型及び第3の入れ子型で形成される。すなわち、固定型、可動型本体、第2の入れ子型及び第3の入れ子型によって、L字型構造物を容易に鋳造することができる。
【0016】
ところで、鋳造後に突出部から第2の入れ子型を外そうとすると、第2の入れ子型が突出部に密着するため、可動型本体を基点として突出部が僅かに撓むことがある。第3の入れ子型についても同様である。
【0017】
そこで、本発明では、第1の入れ子型で突出部を押さえるようにした。結果、突出部の変形を防止することができる。
【0018】
請求項2に係る発明では、突出部は、第1の入れ子型に沿って延びる突条部を有しており、この突条部に嵌合する溝が第1の入れ子型に設けられている。
突条部は突出部の外面に形成され、突出部を補強する補強リブの作用を発揮する。すなわち、本発明では、補強リブを利用して突出部を押さえるようにした。
【0019】
請求項3に係る発明では、L字型構造物は自動二輪車に備えられるパワーユニットケースであって、本体部は自動二輪車の長手方向に延び、突出部は自動二輪車の車幅方向に延びている。
L字型構造物を自動二輪車用のパワーユニットケースとしたので、L字型のパワーユニットケースを容易に鋳造することができる。
【0020】
請求項4に係る発明では、第2の入れ子型と前記第3の入れ子型の少なくとも一方を可動型本体から離型させるときに、第1の入れ子型によって突出部を押さえるようにした。
第1の入れ子型によって突出部を押さえるので、鋳造後に突出部から第2の入れ子型と第3の入れ子型を外しても、可動型本体を基点として突出部が撓むこともなく、突出部の変形を防止することができる。
【0021】
請求項5に係る発明では、突出部に、第1の入れ子型に沿って突条部を設けると共に、この突条部に嵌合する溝を第1の入れ子型に設け、第2の入れ子型と第3の入れ子型の少なくとも一方を可動型本体から離型させるときに、突条部を溝部に嵌合させて押さえる。
突条部は突出部の外面に形成され、突出部を補強する補強リブの作用を発揮する。すなわち、本発明では、補強リブを利用して突出部を押さえるようにした。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】自動二輪車の左側面図である。
【図2】パワーユニットの平面図である。
【図3】パワーユニットケースの斜視図である。
【図4】図3の4矢視図である。
【図5】図3の5矢視図である。
【図6】鋳造品の斜視図である。
【図7】本発明に係る金型装置の分解斜視図である。
【図8】金型装置の斜視図である。
【図9】固定型から可動型を離した形態を示す図である。
【図10】可動型本体から第2の入れ子型を離した形態を示す図である。
【図11】突条部と溝との嵌合状態を説明する図である。
【図12】可動型本体から第3の入れ子型を離した形態を示す図である。
【図13】可動型本体から第1の入れ子型を離した形態を示す図である。
【図14】第1の入れ子型の作用を説明する図である。
【図15】図11の変更例を示す図である。
【図16】従来の金型装置の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例】
【0024】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1に示されるように、自動二輪車10は、電動で走行するスクータ型車両であって、車体フレーム11のヘッドパイプ12に操向自在にフロントフォーク13を設け、このフロントフォーク13の下部に前輪14を回転自在に取付け、フロントフォーク13の上端にハンドル16を設け、車体フレーム11にパワーユニット17を上下に揺動可能に取付け、パワーユニット17の後端に後輪18を回転自在に取付け、パワーユニット17の後端と車体フレーム11の後部との間にリヤクッションユニット19を取付け、ヘッドパイプ12より後方にて車体フレーム11上に運転者シート21を備えてなる車両である。
【0025】
車体フレーム11は、ヘッドパイプ12と、このヘッドパイプ12から下方に延びるダウンフレーム22と、ダウンフレーム22下端部から後方に延び、後部で後上方に延び、さらに後方に延びる左右のメインフレーム23と、左右のメインフレーム23の下部を連結するロアフレーム24と、からなる。
【0026】
フロントフォーク13に前輪14の上方を覆うフロントフェンダ26が取付けられ、運転者シート21から後方へ後輪18の上方を覆うリヤフェンダ27が延ばされており、フロントフェンダ26及びリヤフェンダ27で泥水が上方へ飛散することを防止する。
【0027】
ヘッドパイプ12の上方にハンドルカバー28が設けられ、ヘッドパイプ12の後側にレッグシールド29が設けられている。レッグシールド29の下端部から運転者シート21の下方にかけてフロアステップ31が設けられ、フロアステップ31の下部から運転者シート21の下部にかけてボディカバー32が設けられている。フロアステップ31の下方にバッテリー33が配置される。
【0028】
リヤクッションユニット19は、上端がメインフレーム23の後部に取付けられ、下端がクッションユニット取付け軸36を介してパワーユニット17の後端に取付けられ、後輪18から車体フレーム11に伝わるショックを吸収する。
【0029】
パワーユニット17は、メインフレーム23の中間部にピボット軸37を介して取付けられており、パワーユニット17の前下部に、スタンド軸38を介してスタンド39が取付けられている。
【0030】
パワーユニット17の詳細を次に述べる。
図2に示されるように、パワーユニット17は、L字型構造物としてのパワーユニットケース40を備え、パワーユニットケース40は、自動二輪車の長手方向に延びる本体部41と、自動二輪車の車幅方向に延びている突出部42と、からなる。
【0031】
また、パワーユニット17は、車幅方向外側から本体部41に取付けられる電動モータ43と、電動モータ43を側方から覆うモータカバー46と、車幅方向内側から本体部41に設けられ、電動モータ43と後輪軸44との間に介在する減速機構47と、減速機構47を覆うと共に後輪軸44をベアリング48を介して支持する減速機カバー49と、突出部42に収納されて電動モータ43を駆動制御するPDU(Power Drive Unit)と呼ばれる制御装置51と、を備えている。
【0032】
電動モータ43は、後輪軸44への動力を伝達・遮断する遠心クラッチ52と、この遠心クラッチ52に連結され後輪軸44へ動力を伝達する駆動軸53と、駆動軸53の端部に設けられたピニオン54と、を備えている。
【0033】
モータカバー46は、遠心クラッチ52の外側を覆うように車幅方向外側へ膨らんだ形状を呈しており、複数のボルト56で本体部41に締結されている。
【0034】
減速機構47は、減速機カバー49にベアリング48を介して回転自在に支持される減速軸57と、減速軸57に設けられピニオン54と噛み合う減速ギヤ58と、減速軸57に設けられるドライブギヤ59と、後輪軸44に設けられドライブギヤ59と噛み合うドリブンギヤ61と、からなる。
【0035】
後輪18は、後輪軸44にナット62で締結されるホイール部63と、ホイール部63の外周に設けられるタイヤ部64とからなり、ホイール部63と減速機カバー49との間にドラムブレーキ66が配置されている。
【0036】
減速機カバー49は、減速機構47を覆うように本体部41に取付けられる。減速機カバー49の後部に、運転者に操作されてドラムブレーキ66を作動させるカム軸67が支持されている。
【0037】
制御装置51は、突出部42に収納されており、PDUカバー68によって塞がれている。PDUカバー68は、複数のボルト56によって突出部42に締結されている。PDUカバー68の上面にコード取出し部69が設けられ、コード取出し部69から、コード71が導出されている。
【0038】
次に、パワーユニットケース40の詳細構造を説明する。
図3に示されるように、パワーユニットケース40は、直線状の本体部41と、この本体部41の一端から直角方向へ突出する突出部42と、からなり、鋳造で製造される。
【0039】
本体部41は、モータ取付け面72と、減速機取付け面73とを有する。
モータ取付け面72には、外周全体に渡ってモータ側の周壁74が形成されており、このモータ側の周壁74の内側に、円筒状のモータ取付け部76が設けられている。モータ取付け部76の内側に、駆動軸(図2、符号53)を支持する駆動軸孔77と、減速軸(図2、符号57)を支持する減速軸孔78とが設けられ、モータ取付け部76の外側に、後輪軸(図2、符号44)を支持する後輪軸孔79が設けられている。
【0040】
また、モータ取付け面72に、複数の補強用リブ81が形成されている。さらに、モータ側の周壁74に、モータカバー(図2、符号46)を締結するための複数のボルト孔82が設けられている。
【0041】
突出部42は、直方体形状を呈すると共に、制御装置(図2、符号51)が収納される収納凹部83を有している。収納凹部83に、複数の補強用リブ81が格子状に形成されている。突出部42の外周部に、PDUカバー((図2、符号68)を締結するための複数のボルト孔84が設けられている。
【0042】
本体部41および突出部42のそれぞれの前端に、ピボット軸(図2、符号37)を支持する円筒状のピボット軸取付け部86が設けられている。
【0043】
一対のピボット軸取付け部86で挟まれる突出部42の側面87(図では車両進行方向に向く面)は、中央部がやや膨らんだ湾曲面である。この側面87に、車幅方向に沿って(湾曲面に沿って)突条部88が設けられている。突条部88は、断面コの字状を呈する。
【0044】
図4に示されるように、本体部41の後端部には、クッションユニット取付け軸(図1、符号36)を支持するクッションユニット取付け部89が突出して設けられる一方、本体部41の前端下部には、スタンド軸(図1、符号36)を支持するスタンド軸取付け部91が設けられている。
【0045】
図5に示されるように、減速機取付け面73に、駆動軸孔77、減速軸孔78及び後輪軸孔79を囲むように減速機側の周壁92が形成されており、この減速機側の周壁92に、減速機カバー(図2、符号49)を締結するための複数のボルト孔93が設けられている。
【0046】
以上に述べたパワーユニットケース40は、鋳造法により製造される。
そこで、鋳造法について以下に説明する。
図6に示されるように、パワーユニットケース(図3、符号40)は、天地を逆にした形態で鋳造される。得られた鋳造品100では、収納凹部(図3、符号83)は、下方に開放しており、収納凹部は見えず、突出部42の裏面が見えている。
【0047】
鋳造品100は、スプル部(金型におけるスプルで形成される鋳造品側の部位をスプル部と呼ぶ。以下、同様)101と、このスプル部101に繋がるランナー部102と、ランナー部102から分岐して本体部41に繋がる複数のゲート部103と、クッションユニット取付け部89及び減速機取付け面73の中央部のそれぞれに形成されたオーバーフロー部104と、を有している。その他は、図3に示すパワーユニットケースの構成と同じであるため、図3の符号を引用して説明を省略する。
【0048】
これらスプル部101、ランナー部102、ゲート部103及びオーバーフロー部104の不要部分は、鋳造品100の鋳造後に、除去される。不要部分が除去された鋳造品100は、切削加工、研削加工などの工程を経て仕上げられ、パワーユニットケース(図3、符号40)となる。
【0049】
続いて、鋳造品100を成形する金型装置及び鋳造方法を図7〜図13に基づいて説明する。
【0050】
先ず、金型装置について説明する。
図7に示されるように、金型装置110は、固定型111と可動型112とからなる。固定型111は、本体部41のモータ取付け面(一方の面)72を形成させる。可動型112は、本体部41の減速機取付け面(他方の面)73及び突出部42を形成させる。
【0051】
可動型112は、L字型の可動型本体113と、この可動型本体113に組合わせて使用される第1の入れ子型115、第2の入れ子型116及び第3の入れ子型117と、からなる。
【0052】
第1の入れ子型115は、側方から矢印(1)で示す方向に挿入され突出部42の側面87に接する。
【0053】
第2の入れ子型116は、可動型本体113に下から矢印(2)で示す方向に挿入され突出部42の下半部及び本体部41の減速機取付け面73の一部を形成する移動分割型である。第2の入れ子型116は、突出部42の収納凹部(図3、符号83)を形成する直方体形状の凹部形成部118を有している。
【0054】
第3の入れ子型117は、可動型本体113に上から矢印(3)で示す方向に挿入され突出部42の上半部及び本体部41の減速機取付け面73の一部を形成する移動分割型である。
【0055】
また、第1の入れ子型115の先端部に、ピボット軸取付け部86の一部(図では上面)を形成する第1段部121と、突出部42の側面87に臨む第2段部122とが設けられている。第2段部122の先端に、突条部88に嵌合する断面コの字形の溝123が形成されており、この溝123は、第2の入れ子型116と第3の入れ子型117とが可動型本体113から離型されるときに突条部88を押さえる役割を果たす。
【0056】
次に、鋳造品の鋳造方法を説明する。
鋳造方法は、金型装置110を用い、型組み工程、注湯工程、凝固工程および離型工程の順に行われる。
【0057】
型組み工程では、矢印(1)で示す向きに第1の入れ子型115を可動型本体113に挿入し、矢印(2)で示す向きに第2の入れ子型116を可動型本体113に挿入し、矢印(3)で示す向きに第3の入れ子型117を可動型本体113に挿入して、可動型112を構成する。
【0058】
そして、この可動型112を矢印(4)で示す向きに移動させて、可動型112を固定型111に合わせる。
すると、図8に示されるように、型組みが終わり、金型内に鋳造品(図6、符号100)を成形するためのキャビティが形成される。
【0059】
注湯工程では、金属材料からなる溶湯をスプル124からキャビティに充填する。
凝固工程では、キャビティ内で溶湯を凝固させ、鋳造品(図6、符号100)を成形する。
【0060】
離型工程では、図9に示されるように、矢印(5)で示す向きに、固定型111から可動型112を移動させ、鋳造品100を固定型111から離す。
【0061】
そして、図10に示されるように、矢印(6)で示す向きに、可動型本体113から第2の入れ子型116を移動させ、鋳造品100から第2の入れ子型116を離す。
【0062】
第2の入れ子型116が鋳造品100から離れるとき、収納凹部(図3、符号83)の内面から凹部形成部118が離れるが、図11に示されるように、第1の入れ子型115の溝123と突条部88とが嵌合しているので、溝123が突条部88を押さえている。すなわち、収納凹部83の表面と凹部形成部118とが密着するため、収納凹部83は、第2の入れ子型116の移動方向(6)に摩擦力Fで引張られるが、溝123が突条部88を押さえているので、突出部42の変形が防止されている。
【0063】
次に、図12に示されるように、矢印(7)で示す向きに、可動型本体113から第3の入れ子型117を移動させ、鋳造品100から第3の入れ子型117を離す。
【0064】
このとき、第3の入れ子型117が突出部42の上半部から離れるが、第2の入れ子型116の場合と同様に、第1の入れ子型115の溝(図11、符号123)と突条部(図11、符号88)とが嵌合しており、溝(図11、符号123)が突条部(図11、符号88)を押さえている。
【0065】
続いて、図13に示されるように、矢印(8)で示す向きに、可動型本体113から第1の入れ子型115を移動させ、鋳造品100から第1の入れ子型115を離す。
【0066】
そして、鋳造品100を可動型本体113から離して、金型装置110から取出し、スプル部(図6、符号101)、ランナー部(図6、符号102)、ゲート部(図6、符号103)、オーバーフロー部(図6、符号104)及び合わせ面のバリなどを除去し、機械加工などを施して、パワーユニットケース(図3、符号40)を得る。
【0067】
矢印(8)に係る突条部88と溝123との作用を次に述べる。
仮に、比較例を示す図14(b)において、第2の入れ子型116を鋳造品100から離すことを考えると、第2の入れ子型116が鋳造品100から離される際に、第2の入れ子型116と鋳造品100との間に摩擦力Fが発生する。この摩擦力Fによって、突出部42には、可動型本体113に一端が固定される片持ちばりのような曲げが起きる。結果、第2の入れ子型116の離型方向(矢印(6))に撓みδが発生し易くなる。すなわち、突出部42が変形し易い虞れがある。
【0068】
この点、実施例を示す図14(a)では、溝123に突条部88が嵌っている。溝123が撓みの発生を抑制する。摩擦力Fが発生しても、突出部42が撓むことはなく、突出部42の変形が防止されるので、鋳造品100の鋳造品質を高めることができる。
【0069】
また、突条部88は、突出部42の外面87に形成され、突出部42を補強する補強リブの作用を発揮する。すなわち、補強リブを利用して突出部42を押さえることができる。
【0070】
次に、実施例の変更例を図面に基づいて説明する。
図15は図11の変更例を示す図である。図11との相違点は、第1の入れ子型115に段差部126を設け、この段差部126と第3の入れ子型117の下面で溝123Bを形成した点である。その他は図11と同じであるため、図11の符号を流用して詳細な説明を省略する。
【0071】
凹部形成部118は、収納凹部83に嵌るため、収納凹部83から離れ難い。そのため、第2の入れ子型116が受ける摩擦力Fは大きい。変更例では、特に大きな摩擦力を受ける第2の入れ子型116のみを溝123Bで押さえるようにした。
【0072】
そして、変更例では、突条部88の上下両面と溝(図11、符号123)とが接する構造に比べ、第1の入れ子型115を可動型本体(図13、符号113)から離す際、第1の入れ子型115に与える負荷を小さくできる。また、第1の入れ子型115を可動型本体(図13、符号113)から離す際に突条部88に与える負荷も小さくできる。
【0073】
尚、本発明の鋳造技術は、実施の形態では自動二輪車に備えられるパワーユニットケースに適用したが、本体部と、この本体部の一端から直角方向へ突出する突出部とからなる一般のL字型構造物に適用することは差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の鋳造技術は、自動二輪車に備えられるパワーユニットケースに好適である。
【符号の説明】
【0075】
10…自動二輪車、40…パワーユニットケース、41…本体部、42…突出部、72…モータ取付け面(一方の面)、73…減速機取付け面(他方の面)、87…突出部の側面、88…突条部、100…鋳造品、110…金型装置、111…固定型、112…可動型、113…可動型本体、115…第1の入れ子型、116…第2の入れ子型、117…第3の入れ子型、123…溝、123B…溝。
【技術分野】
【0001】
本発明は、L字型構造物の鋳造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車体フレームの後部にスイングアームを取付け、このスイングアームに後輪を取付けてなる自動二輪車が広く普及している。スイングアームは、パイプ、プレート又は鋳造で造られる。そのため、スイングアームを製造する鋳造技術が各種提案されている(例えば、特許文献1(図4)参照。)。
【0003】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図16は従来の鋳造技術を説明する図であり、スイングアーム200を鋳造する金型201は、下型202と、上型203と、中子204、205により、中空部を作成することができる。
【0004】
ところで、スイングアームには、後輪軸を単に支持するものの他、ユニットスイング式パワーユニットと呼ばれるものがある。このユニットスイング式パワーユニットは、パワーユニットケースが、スイングアームの役割を果たす。そして、パワーユニットケースに、エンジン等の駆動源を備え、減速機等の伝動機構を内蔵する。
【0005】
車体フレームとの連結部が車幅方向に延び、伝動機構の収納部が長手方向に延びるため、パワーユニットケースは、平面視でL字形状となる。
【0006】
L字形状のパワーユニットケースを金型201で鋳造することは困難である。金型201は、比較的平板状の鋳造品には適しているが、L字形状のパワーユニットケースの様な立体的な鋳造品には適していないからである。
【0007】
しかし、パワーユニットケースの需要が増加する中、このような立体的な鋳造品を容易に鋳造することができる技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−351056公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、L字型構造物を鋳造することができる鋳造技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、直線状の本体部と、この本体部の一端から直角方向へ突出する突出部と、からなるL字型構造物を鋳造する金型装置であって、
この金型は、固定型と可動型とからなり、
前記固定型で前記本体部の一方の面を形成させ、前記可動型で前記本体部の他方の面及びこの他方の面から延びる前記突出部を形成させ、
前記可動型は、L字型の可動型本体と、この可動型本体に組み合わせて使用される第1〜第3の入れ子型と、からなり、
前記第1の入れ子型は、前記可動型本体に側方から挿入され前記突出部の側面に接する移動分割型であり、
前記第2の入れ子型は、前記可動型本体に下から挿入され前記突出部の下半部及び前記本体部の他方の面の一部を形成する移動分割型であり、
前記第3の入れ子型は、前記可動型本体に上から挿入され前記突出部の上半部及び前記本体部の他方の面の一部を形成する移動分割型であり、
前記第1の入れ子型は、前記第2の入れ子型と前記第3の入れ子型の少なくとも一方が前記可動型本体から離型されるときに前記突出部を押さえることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明では、突出部は、第1の入れ子型に沿って延びる突条部を有しており、この突条部に嵌合する溝が第1の入れ子型に設けられていることを特徴する。
【0012】
請求項3に係る発明では、L字型構造物は自動二輪車に備えられるパワーユニットケースであって、本体部は自動二輪車の長手方向に延び、突出部は自動二輪車の車幅方向に延びていることを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明は、直線状の本体部と、この本体部の一端から直角方向へ突出する突出部と、からなるL字型構造物を鋳造する鋳造方法であって、
前記本体部の一方の面を形成させる固定型と、前記本体部の他方の面及びこの他方の面から延びる前記突出部を形成させる可動型と、からなる金型を用い、
前記突出部の側面に接する第1の入れ子型と、前記突出部の下半部を形成する第2の入れ子型と、前記突出部の上半部を形成する第3の入れ子型と、を可動型本体に合わせて前記可動型を構成した後、この可動型を前記固定型に合わせてキャビティを形成する型組み工程と、
前記キャビティに溶湯を充填する注湯工程と、
前記キャビティ内で溶湯を凝固させる凝固工程と、
前記固定型から前記可動型を離型させた後、前記可動型本体から前記第1〜第3の入れ子型を離型させる離型工程と、からなり、
この離型工程において、
前記第2の入れ子型と前記第3の入れ子型の少なくとも一方を前記可動型本体から離型させるときに、前記第1の入れ子型によって前記突出部を押さえるようにしたことを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る発明は、突出部に、第1の入れ子型に沿って延びる突条部を設けると共に、この突条部に嵌合する溝を第1の入れ子型に設け、
離型工程で、第2の入れ子型と前記第3の入れ子型の少なくとも一方を可動型本体から離型させるときに、突条部を溝部に嵌合させて押さえるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明では、直線状の本体部は、固定型、可動型本体、第2の入れ子型及び第3の入れ子型により、形成される。また、本体部の一端から直角に突出する突出部は、第2の入れ子型及び第3の入れ子型で形成される。すなわち、固定型、可動型本体、第2の入れ子型及び第3の入れ子型によって、L字型構造物を容易に鋳造することができる。
【0016】
ところで、鋳造後に突出部から第2の入れ子型を外そうとすると、第2の入れ子型が突出部に密着するため、可動型本体を基点として突出部が僅かに撓むことがある。第3の入れ子型についても同様である。
【0017】
そこで、本発明では、第1の入れ子型で突出部を押さえるようにした。結果、突出部の変形を防止することができる。
【0018】
請求項2に係る発明では、突出部は、第1の入れ子型に沿って延びる突条部を有しており、この突条部に嵌合する溝が第1の入れ子型に設けられている。
突条部は突出部の外面に形成され、突出部を補強する補強リブの作用を発揮する。すなわち、本発明では、補強リブを利用して突出部を押さえるようにした。
【0019】
請求項3に係る発明では、L字型構造物は自動二輪車に備えられるパワーユニットケースであって、本体部は自動二輪車の長手方向に延び、突出部は自動二輪車の車幅方向に延びている。
L字型構造物を自動二輪車用のパワーユニットケースとしたので、L字型のパワーユニットケースを容易に鋳造することができる。
【0020】
請求項4に係る発明では、第2の入れ子型と前記第3の入れ子型の少なくとも一方を可動型本体から離型させるときに、第1の入れ子型によって突出部を押さえるようにした。
第1の入れ子型によって突出部を押さえるので、鋳造後に突出部から第2の入れ子型と第3の入れ子型を外しても、可動型本体を基点として突出部が撓むこともなく、突出部の変形を防止することができる。
【0021】
請求項5に係る発明では、突出部に、第1の入れ子型に沿って突条部を設けると共に、この突条部に嵌合する溝を第1の入れ子型に設け、第2の入れ子型と第3の入れ子型の少なくとも一方を可動型本体から離型させるときに、突条部を溝部に嵌合させて押さえる。
突条部は突出部の外面に形成され、突出部を補強する補強リブの作用を発揮する。すなわち、本発明では、補強リブを利用して突出部を押さえるようにした。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】自動二輪車の左側面図である。
【図2】パワーユニットの平面図である。
【図3】パワーユニットケースの斜視図である。
【図4】図3の4矢視図である。
【図5】図3の5矢視図である。
【図6】鋳造品の斜視図である。
【図7】本発明に係る金型装置の分解斜視図である。
【図8】金型装置の斜視図である。
【図9】固定型から可動型を離した形態を示す図である。
【図10】可動型本体から第2の入れ子型を離した形態を示す図である。
【図11】突条部と溝との嵌合状態を説明する図である。
【図12】可動型本体から第3の入れ子型を離した形態を示す図である。
【図13】可動型本体から第1の入れ子型を離した形態を示す図である。
【図14】第1の入れ子型の作用を説明する図である。
【図15】図11の変更例を示す図である。
【図16】従来の金型装置の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例】
【0024】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1に示されるように、自動二輪車10は、電動で走行するスクータ型車両であって、車体フレーム11のヘッドパイプ12に操向自在にフロントフォーク13を設け、このフロントフォーク13の下部に前輪14を回転自在に取付け、フロントフォーク13の上端にハンドル16を設け、車体フレーム11にパワーユニット17を上下に揺動可能に取付け、パワーユニット17の後端に後輪18を回転自在に取付け、パワーユニット17の後端と車体フレーム11の後部との間にリヤクッションユニット19を取付け、ヘッドパイプ12より後方にて車体フレーム11上に運転者シート21を備えてなる車両である。
【0025】
車体フレーム11は、ヘッドパイプ12と、このヘッドパイプ12から下方に延びるダウンフレーム22と、ダウンフレーム22下端部から後方に延び、後部で後上方に延び、さらに後方に延びる左右のメインフレーム23と、左右のメインフレーム23の下部を連結するロアフレーム24と、からなる。
【0026】
フロントフォーク13に前輪14の上方を覆うフロントフェンダ26が取付けられ、運転者シート21から後方へ後輪18の上方を覆うリヤフェンダ27が延ばされており、フロントフェンダ26及びリヤフェンダ27で泥水が上方へ飛散することを防止する。
【0027】
ヘッドパイプ12の上方にハンドルカバー28が設けられ、ヘッドパイプ12の後側にレッグシールド29が設けられている。レッグシールド29の下端部から運転者シート21の下方にかけてフロアステップ31が設けられ、フロアステップ31の下部から運転者シート21の下部にかけてボディカバー32が設けられている。フロアステップ31の下方にバッテリー33が配置される。
【0028】
リヤクッションユニット19は、上端がメインフレーム23の後部に取付けられ、下端がクッションユニット取付け軸36を介してパワーユニット17の後端に取付けられ、後輪18から車体フレーム11に伝わるショックを吸収する。
【0029】
パワーユニット17は、メインフレーム23の中間部にピボット軸37を介して取付けられており、パワーユニット17の前下部に、スタンド軸38を介してスタンド39が取付けられている。
【0030】
パワーユニット17の詳細を次に述べる。
図2に示されるように、パワーユニット17は、L字型構造物としてのパワーユニットケース40を備え、パワーユニットケース40は、自動二輪車の長手方向に延びる本体部41と、自動二輪車の車幅方向に延びている突出部42と、からなる。
【0031】
また、パワーユニット17は、車幅方向外側から本体部41に取付けられる電動モータ43と、電動モータ43を側方から覆うモータカバー46と、車幅方向内側から本体部41に設けられ、電動モータ43と後輪軸44との間に介在する減速機構47と、減速機構47を覆うと共に後輪軸44をベアリング48を介して支持する減速機カバー49と、突出部42に収納されて電動モータ43を駆動制御するPDU(Power Drive Unit)と呼ばれる制御装置51と、を備えている。
【0032】
電動モータ43は、後輪軸44への動力を伝達・遮断する遠心クラッチ52と、この遠心クラッチ52に連結され後輪軸44へ動力を伝達する駆動軸53と、駆動軸53の端部に設けられたピニオン54と、を備えている。
【0033】
モータカバー46は、遠心クラッチ52の外側を覆うように車幅方向外側へ膨らんだ形状を呈しており、複数のボルト56で本体部41に締結されている。
【0034】
減速機構47は、減速機カバー49にベアリング48を介して回転自在に支持される減速軸57と、減速軸57に設けられピニオン54と噛み合う減速ギヤ58と、減速軸57に設けられるドライブギヤ59と、後輪軸44に設けられドライブギヤ59と噛み合うドリブンギヤ61と、からなる。
【0035】
後輪18は、後輪軸44にナット62で締結されるホイール部63と、ホイール部63の外周に設けられるタイヤ部64とからなり、ホイール部63と減速機カバー49との間にドラムブレーキ66が配置されている。
【0036】
減速機カバー49は、減速機構47を覆うように本体部41に取付けられる。減速機カバー49の後部に、運転者に操作されてドラムブレーキ66を作動させるカム軸67が支持されている。
【0037】
制御装置51は、突出部42に収納されており、PDUカバー68によって塞がれている。PDUカバー68は、複数のボルト56によって突出部42に締結されている。PDUカバー68の上面にコード取出し部69が設けられ、コード取出し部69から、コード71が導出されている。
【0038】
次に、パワーユニットケース40の詳細構造を説明する。
図3に示されるように、パワーユニットケース40は、直線状の本体部41と、この本体部41の一端から直角方向へ突出する突出部42と、からなり、鋳造で製造される。
【0039】
本体部41は、モータ取付け面72と、減速機取付け面73とを有する。
モータ取付け面72には、外周全体に渡ってモータ側の周壁74が形成されており、このモータ側の周壁74の内側に、円筒状のモータ取付け部76が設けられている。モータ取付け部76の内側に、駆動軸(図2、符号53)を支持する駆動軸孔77と、減速軸(図2、符号57)を支持する減速軸孔78とが設けられ、モータ取付け部76の外側に、後輪軸(図2、符号44)を支持する後輪軸孔79が設けられている。
【0040】
また、モータ取付け面72に、複数の補強用リブ81が形成されている。さらに、モータ側の周壁74に、モータカバー(図2、符号46)を締結するための複数のボルト孔82が設けられている。
【0041】
突出部42は、直方体形状を呈すると共に、制御装置(図2、符号51)が収納される収納凹部83を有している。収納凹部83に、複数の補強用リブ81が格子状に形成されている。突出部42の外周部に、PDUカバー((図2、符号68)を締結するための複数のボルト孔84が設けられている。
【0042】
本体部41および突出部42のそれぞれの前端に、ピボット軸(図2、符号37)を支持する円筒状のピボット軸取付け部86が設けられている。
【0043】
一対のピボット軸取付け部86で挟まれる突出部42の側面87(図では車両進行方向に向く面)は、中央部がやや膨らんだ湾曲面である。この側面87に、車幅方向に沿って(湾曲面に沿って)突条部88が設けられている。突条部88は、断面コの字状を呈する。
【0044】
図4に示されるように、本体部41の後端部には、クッションユニット取付け軸(図1、符号36)を支持するクッションユニット取付け部89が突出して設けられる一方、本体部41の前端下部には、スタンド軸(図1、符号36)を支持するスタンド軸取付け部91が設けられている。
【0045】
図5に示されるように、減速機取付け面73に、駆動軸孔77、減速軸孔78及び後輪軸孔79を囲むように減速機側の周壁92が形成されており、この減速機側の周壁92に、減速機カバー(図2、符号49)を締結するための複数のボルト孔93が設けられている。
【0046】
以上に述べたパワーユニットケース40は、鋳造法により製造される。
そこで、鋳造法について以下に説明する。
図6に示されるように、パワーユニットケース(図3、符号40)は、天地を逆にした形態で鋳造される。得られた鋳造品100では、収納凹部(図3、符号83)は、下方に開放しており、収納凹部は見えず、突出部42の裏面が見えている。
【0047】
鋳造品100は、スプル部(金型におけるスプルで形成される鋳造品側の部位をスプル部と呼ぶ。以下、同様)101と、このスプル部101に繋がるランナー部102と、ランナー部102から分岐して本体部41に繋がる複数のゲート部103と、クッションユニット取付け部89及び減速機取付け面73の中央部のそれぞれに形成されたオーバーフロー部104と、を有している。その他は、図3に示すパワーユニットケースの構成と同じであるため、図3の符号を引用して説明を省略する。
【0048】
これらスプル部101、ランナー部102、ゲート部103及びオーバーフロー部104の不要部分は、鋳造品100の鋳造後に、除去される。不要部分が除去された鋳造品100は、切削加工、研削加工などの工程を経て仕上げられ、パワーユニットケース(図3、符号40)となる。
【0049】
続いて、鋳造品100を成形する金型装置及び鋳造方法を図7〜図13に基づいて説明する。
【0050】
先ず、金型装置について説明する。
図7に示されるように、金型装置110は、固定型111と可動型112とからなる。固定型111は、本体部41のモータ取付け面(一方の面)72を形成させる。可動型112は、本体部41の減速機取付け面(他方の面)73及び突出部42を形成させる。
【0051】
可動型112は、L字型の可動型本体113と、この可動型本体113に組合わせて使用される第1の入れ子型115、第2の入れ子型116及び第3の入れ子型117と、からなる。
【0052】
第1の入れ子型115は、側方から矢印(1)で示す方向に挿入され突出部42の側面87に接する。
【0053】
第2の入れ子型116は、可動型本体113に下から矢印(2)で示す方向に挿入され突出部42の下半部及び本体部41の減速機取付け面73の一部を形成する移動分割型である。第2の入れ子型116は、突出部42の収納凹部(図3、符号83)を形成する直方体形状の凹部形成部118を有している。
【0054】
第3の入れ子型117は、可動型本体113に上から矢印(3)で示す方向に挿入され突出部42の上半部及び本体部41の減速機取付け面73の一部を形成する移動分割型である。
【0055】
また、第1の入れ子型115の先端部に、ピボット軸取付け部86の一部(図では上面)を形成する第1段部121と、突出部42の側面87に臨む第2段部122とが設けられている。第2段部122の先端に、突条部88に嵌合する断面コの字形の溝123が形成されており、この溝123は、第2の入れ子型116と第3の入れ子型117とが可動型本体113から離型されるときに突条部88を押さえる役割を果たす。
【0056】
次に、鋳造品の鋳造方法を説明する。
鋳造方法は、金型装置110を用い、型組み工程、注湯工程、凝固工程および離型工程の順に行われる。
【0057】
型組み工程では、矢印(1)で示す向きに第1の入れ子型115を可動型本体113に挿入し、矢印(2)で示す向きに第2の入れ子型116を可動型本体113に挿入し、矢印(3)で示す向きに第3の入れ子型117を可動型本体113に挿入して、可動型112を構成する。
【0058】
そして、この可動型112を矢印(4)で示す向きに移動させて、可動型112を固定型111に合わせる。
すると、図8に示されるように、型組みが終わり、金型内に鋳造品(図6、符号100)を成形するためのキャビティが形成される。
【0059】
注湯工程では、金属材料からなる溶湯をスプル124からキャビティに充填する。
凝固工程では、キャビティ内で溶湯を凝固させ、鋳造品(図6、符号100)を成形する。
【0060】
離型工程では、図9に示されるように、矢印(5)で示す向きに、固定型111から可動型112を移動させ、鋳造品100を固定型111から離す。
【0061】
そして、図10に示されるように、矢印(6)で示す向きに、可動型本体113から第2の入れ子型116を移動させ、鋳造品100から第2の入れ子型116を離す。
【0062】
第2の入れ子型116が鋳造品100から離れるとき、収納凹部(図3、符号83)の内面から凹部形成部118が離れるが、図11に示されるように、第1の入れ子型115の溝123と突条部88とが嵌合しているので、溝123が突条部88を押さえている。すなわち、収納凹部83の表面と凹部形成部118とが密着するため、収納凹部83は、第2の入れ子型116の移動方向(6)に摩擦力Fで引張られるが、溝123が突条部88を押さえているので、突出部42の変形が防止されている。
【0063】
次に、図12に示されるように、矢印(7)で示す向きに、可動型本体113から第3の入れ子型117を移動させ、鋳造品100から第3の入れ子型117を離す。
【0064】
このとき、第3の入れ子型117が突出部42の上半部から離れるが、第2の入れ子型116の場合と同様に、第1の入れ子型115の溝(図11、符号123)と突条部(図11、符号88)とが嵌合しており、溝(図11、符号123)が突条部(図11、符号88)を押さえている。
【0065】
続いて、図13に示されるように、矢印(8)で示す向きに、可動型本体113から第1の入れ子型115を移動させ、鋳造品100から第1の入れ子型115を離す。
【0066】
そして、鋳造品100を可動型本体113から離して、金型装置110から取出し、スプル部(図6、符号101)、ランナー部(図6、符号102)、ゲート部(図6、符号103)、オーバーフロー部(図6、符号104)及び合わせ面のバリなどを除去し、機械加工などを施して、パワーユニットケース(図3、符号40)を得る。
【0067】
矢印(8)に係る突条部88と溝123との作用を次に述べる。
仮に、比較例を示す図14(b)において、第2の入れ子型116を鋳造品100から離すことを考えると、第2の入れ子型116が鋳造品100から離される際に、第2の入れ子型116と鋳造品100との間に摩擦力Fが発生する。この摩擦力Fによって、突出部42には、可動型本体113に一端が固定される片持ちばりのような曲げが起きる。結果、第2の入れ子型116の離型方向(矢印(6))に撓みδが発生し易くなる。すなわち、突出部42が変形し易い虞れがある。
【0068】
この点、実施例を示す図14(a)では、溝123に突条部88が嵌っている。溝123が撓みの発生を抑制する。摩擦力Fが発生しても、突出部42が撓むことはなく、突出部42の変形が防止されるので、鋳造品100の鋳造品質を高めることができる。
【0069】
また、突条部88は、突出部42の外面87に形成され、突出部42を補強する補強リブの作用を発揮する。すなわち、補強リブを利用して突出部42を押さえることができる。
【0070】
次に、実施例の変更例を図面に基づいて説明する。
図15は図11の変更例を示す図である。図11との相違点は、第1の入れ子型115に段差部126を設け、この段差部126と第3の入れ子型117の下面で溝123Bを形成した点である。その他は図11と同じであるため、図11の符号を流用して詳細な説明を省略する。
【0071】
凹部形成部118は、収納凹部83に嵌るため、収納凹部83から離れ難い。そのため、第2の入れ子型116が受ける摩擦力Fは大きい。変更例では、特に大きな摩擦力を受ける第2の入れ子型116のみを溝123Bで押さえるようにした。
【0072】
そして、変更例では、突条部88の上下両面と溝(図11、符号123)とが接する構造に比べ、第1の入れ子型115を可動型本体(図13、符号113)から離す際、第1の入れ子型115に与える負荷を小さくできる。また、第1の入れ子型115を可動型本体(図13、符号113)から離す際に突条部88に与える負荷も小さくできる。
【0073】
尚、本発明の鋳造技術は、実施の形態では自動二輪車に備えられるパワーユニットケースに適用したが、本体部と、この本体部の一端から直角方向へ突出する突出部とからなる一般のL字型構造物に適用することは差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の鋳造技術は、自動二輪車に備えられるパワーユニットケースに好適である。
【符号の説明】
【0075】
10…自動二輪車、40…パワーユニットケース、41…本体部、42…突出部、72…モータ取付け面(一方の面)、73…減速機取付け面(他方の面)、87…突出部の側面、88…突条部、100…鋳造品、110…金型装置、111…固定型、112…可動型、113…可動型本体、115…第1の入れ子型、116…第2の入れ子型、117…第3の入れ子型、123…溝、123B…溝。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線状の本体部と、この本体部の一端から直角方向へ突出する突出部と、からなるL字型構造物を鋳造する金型装置であって、
この金型は、固定型と可動型とからなり、
前記固定型で前記本体部の一方の面を形成させ、前記可動型で前記本体部の他方の面及びこの他方の面から延びる前記突出部を形成させ、
前記可動型は、L字型の可動型本体と、この可動型本体に組み合わせて使用される第1〜第3の入れ子型と、からなり、
前記第1の入れ子型は、前記可動型本体に側方から挿入され前記突出部の側面に接する移動分割型であり、
前記第2の入れ子型は、前記可動型本体に下から挿入され前記突出部の下半部及び前記本体部の他方の面の一部を形成する移動分割型であり、
前記第3の入れ子型は、前記可動型本体に上から挿入され前記突出部の上半部及び前記本体部の他方の面の一部を形成する移動分割型であり、
前記第1の入れ子型は、前記第2の入れ子型と前記第3の入れ子型の少なくとも一方が前記可動型本体から離型されるときに前記突出部を押さえることを特徴とする金型装置。
【請求項2】
前記突出部は、前記第1の入れ子型に沿って延びる突条部を有しており、この突条部に嵌合する溝が前記第1の入れ子型に設けられていることを特徴する請求項1記載の金型装置。
【請求項3】
前記L字型構造物は自動二輪車に備えられるパワーユニットケースであって、前記本体部は前記自動二輪車の長手方向に延び、前記突出部は前記自動二輪車の車幅方向に延びていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の金型装置。
【請求項4】
直線状の本体部と、この本体部の一端から直角方向へ突出する突出部と、からなるL字型構造物を鋳造する鋳造方法であって、
前記本体部の一方の面を形成させる固定型と、前記本体部の他方の面及びこの他方の面から延びる前記突出部を形成させる可動型と、からなる金型を用い、
前記突出部の側面に接する第1の入れ子型と、前記突出部の下半部を形成する第2の入れ子型と、前記突出部の上半部を形成する第3の入れ子型と、を可動型本体に合わせて前記可動型を構成した後、この可動型を前記固定型に合わせてキャビティを形成する型組み工程と、
前記キャビティに溶湯を充填する注湯工程と、
前記キャビティ内で溶湯を凝固させる凝固工程と、
前記固定型から前記可動型を離型させた後、前記可動型本体から前記第1〜第3の入れ子型を離型させる離型工程と、からなり、
この離型工程において、
前記第2の入れ子型と前記第3の入れ子型の少なくとも一方を前記可動型本体から離型させるときに、前記第1の入れ子型によって前記突出部を押さえるようにしたことを特徴とする鋳造方法。
【請求項5】
前記突出部に、前記第1の入れ子型に沿って延びる突条部を設けると共に、この突条部に嵌合する溝を前記第1の入れ子型に設け、
前記離型工程で、前記第2の入れ子型と前記第3の入れ子型の少なくとも一方を前記可動型本体から離型させるときに、前記突条部を前記溝部に嵌合させて押さえるようにしたことを特徴とする請求項4記載の鋳造方法。
【請求項1】
直線状の本体部と、この本体部の一端から直角方向へ突出する突出部と、からなるL字型構造物を鋳造する金型装置であって、
この金型は、固定型と可動型とからなり、
前記固定型で前記本体部の一方の面を形成させ、前記可動型で前記本体部の他方の面及びこの他方の面から延びる前記突出部を形成させ、
前記可動型は、L字型の可動型本体と、この可動型本体に組み合わせて使用される第1〜第3の入れ子型と、からなり、
前記第1の入れ子型は、前記可動型本体に側方から挿入され前記突出部の側面に接する移動分割型であり、
前記第2の入れ子型は、前記可動型本体に下から挿入され前記突出部の下半部及び前記本体部の他方の面の一部を形成する移動分割型であり、
前記第3の入れ子型は、前記可動型本体に上から挿入され前記突出部の上半部及び前記本体部の他方の面の一部を形成する移動分割型であり、
前記第1の入れ子型は、前記第2の入れ子型と前記第3の入れ子型の少なくとも一方が前記可動型本体から離型されるときに前記突出部を押さえることを特徴とする金型装置。
【請求項2】
前記突出部は、前記第1の入れ子型に沿って延びる突条部を有しており、この突条部に嵌合する溝が前記第1の入れ子型に設けられていることを特徴する請求項1記載の金型装置。
【請求項3】
前記L字型構造物は自動二輪車に備えられるパワーユニットケースであって、前記本体部は前記自動二輪車の長手方向に延び、前記突出部は前記自動二輪車の車幅方向に延びていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の金型装置。
【請求項4】
直線状の本体部と、この本体部の一端から直角方向へ突出する突出部と、からなるL字型構造物を鋳造する鋳造方法であって、
前記本体部の一方の面を形成させる固定型と、前記本体部の他方の面及びこの他方の面から延びる前記突出部を形成させる可動型と、からなる金型を用い、
前記突出部の側面に接する第1の入れ子型と、前記突出部の下半部を形成する第2の入れ子型と、前記突出部の上半部を形成する第3の入れ子型と、を可動型本体に合わせて前記可動型を構成した後、この可動型を前記固定型に合わせてキャビティを形成する型組み工程と、
前記キャビティに溶湯を充填する注湯工程と、
前記キャビティ内で溶湯を凝固させる凝固工程と、
前記固定型から前記可動型を離型させた後、前記可動型本体から前記第1〜第3の入れ子型を離型させる離型工程と、からなり、
この離型工程において、
前記第2の入れ子型と前記第3の入れ子型の少なくとも一方を前記可動型本体から離型させるときに、前記第1の入れ子型によって前記突出部を押さえるようにしたことを特徴とする鋳造方法。
【請求項5】
前記突出部に、前記第1の入れ子型に沿って延びる突条部を設けると共に、この突条部に嵌合する溝を前記第1の入れ子型に設け、
前記離型工程で、前記第2の入れ子型と前記第3の入れ子型の少なくとも一方を前記可動型本体から離型させるときに、前記突条部を前記溝部に嵌合させて押さえるようにしたことを特徴とする請求項4記載の鋳造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−240380(P2011−240380A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115535(P2010−115535)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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