説明

金型鋳造用潤滑離型剤及びその塗布方法

【課題】本発明は、鋳造製品の肌の巣がなくかつ良好な光沢を有する金型鋳造用潤滑離型剤及び作業時間の短縮等を図った塗布方法を提供することを課題とする。
【解決手段】(A)40℃における動粘度が2〜10mm/sで引火点が70℃〜160℃の範囲の溶剤を50〜90質量%、(B)40℃における動粘度が100mm/s以上600mm/s以下の高粘度の鉱油及び/又は合成油を1〜10質量%、(C)濡れ性を向上するためのアクリル・コポリマー、引火点が100℃以下のアクリル変性ポリシロキサン及び極圧剤の群れから選ばれる1種または2種以上の成分を0.1〜3質量%、(D)高温で焼付を防止するための40℃における動粘度が150mm/s以上のシリコーン油(D-1成分)を15質量%以下及び潤滑性能を有する1種類以上の添加剤(D-2成分)を1〜10質量%含み、引火点が70〜160℃であることを特徴とする金型鋳造用潤滑離型剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛等の非鉄金属の重力鋳造及び低圧鋳造に用いる金型鋳造用潤滑離型剤及びその塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のごとく、卵焼きは、フライパンに油を塗り、かき混ぜた玉子をその上に流し込むことにより作るのが一般的である。同様に、非鉄金属を鋳造する際には、金型と溶湯の固着を防止するため離型剤を金型に塗布し、溶解した高温(例えば、450℃以上)の溶湯を金型に流し込み、固化後、製品を取り出す。現在、この鋳造には各種の方法がある。溶湯の流し込み速度で見ると重力鋳造、低圧鋳造、スクイズ、高速ダイカストがあり、溶湯温度から見て半凝固鋳造も加わる。
【0003】
金型鋳造用潤滑離型剤から考えると、鋳造時の溶湯の流速は大きな因子であり、重力鋳造のように鋳造時の溶湯の流速が小さいと、高温の金属溶湯に金型鋳造用潤滑離型剤が接している時間は長く、金型鋳造用潤滑離型剤の劣化が進行する。その結果、塗布膜が薄くなり、溶湯が固化した際、金型に固着することもある。そこで、劣化に影響を受けないよう、無機粉末に水を加えた「塗型剤」なるものが主に使われている(例えば、特許文献1参照)。しかし、塗型剤は劣化しないが、水を含有しているので、乾燥前に溶湯を流し込むと水蒸気爆発を起こす可能性がある。そのため、塗布後、数十分から数時間の乾燥工程が不可欠であり、「鋳造ごとに塗布し、生産する」と生産効率が極端に低くなる。
【0004】
そこで、「数十個または数百個生産毎に1回塗布する」のが現在の状況である。しかも、塗型剤の塗布は職人芸と言われ、優れた職人は1回塗布当たりの生産個数が多い。また、塗型剤で作られた粉体膜は部分的に剥離して製品の中に紛れ込み、製品の強度を極端に低下させる。しかし、いつ剥離が発生したか不明確なため、一般には剥離を起こした該当ロットの全製品を不合格とし、回収している。また製品意匠面の塗型が剥離すると、剥離した製品部が凸となり、外観不良となる。
【0005】
ところで、鋳造工程の中で、固着防止ばかりでなく、細かく刻み込まれた金型の部分に完全に湯が流れ、期待する型の製品に仕上がることも重要である。この湯流れを確保するため、塗型剤を厚く塗って、溶湯の冷却を遅め、湯の粘度を低く保ち、金型の細部に湯がいきわたるようにしている。前述のように数十回に1回塗布し、厚い塗布膜(数十から数百ミクロンの厚さ)を確保しているが、鋳造ごとに微量の無機粉体が製品中に持っていかれ、断熱のための塗布膜が徐々に薄くなり、湯流れを確保できなくなる。その結果、初期の製品の冷却速度と塗布直前の冷却速度の違いによる金属の結晶組織が異なり、塗布初期と後期で製品の品質が異なる欠点がある。即ち、製品の品質を安定させるには頻繁な塗布が必要となるが、塗布後の乾燥が必要となり、生産効率が低下する。
【0006】
また、粉体膜で作られた製品の表面は一般に梨地状となり、製品によっては外観品質要求を満たさないため、艶出を目的とした後処理が必要になる。加えて、塗布膜は無機粉体であるので、飛散は避けられず、作業環境にも注意が必要である。
【0007】
なお、従来、400℃以上でも劣化しない無機粉体を配合した油性離型剤として、例えば特許文献2に記載されたものが知られている。
【特許文献1】特開昭59−169642号公報
【特許文献2】特開平2−117992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の水溶性塗型剤の場合、「塗布後、数十分から数時間の乾燥」が不可欠である。生産効率向上を目指し、乾燥回数を減らす努力が行われている。生産ごとに溶湯に巻き込まれて減少する膜厚を考慮し、初期塗布膜を過剰に厚くし、「数十個または数百個生産毎に1回塗布」を行っている。
【0009】
本発明はこうした事情を考慮してなされたもので、40℃における動粘度が2〜10mm/sで引火点が70℃〜160℃の範囲の溶剤、40℃における動粘度が100mm/s以上600mm/s以下の高粘度の鉱油及び/又は合成油、濡れ性を向上するためのアクリル・コポリマー,引火点が100℃以下のアクリル変性ポリシロキサン及び極圧剤のうち1種以上、40℃における動粘度が150mm/s以上のシリコーン油及び潤滑性能を有する1種類以上の添加剤を適宜含み、引火点が70〜160℃の構成とすることにより、鋳造製品の肌の巣がなくかつ良好な光沢を有する金型鋳造用潤滑離型剤を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、前記金型鋳造用潤滑離型剤を、鋳造毎あるいは1回置きあるいは2回置きに金型内面に塗布することにより、従来と比べ離型剤の塗布・乾燥時間を著しく減少させ、もって作業時間を短縮するとともに、塗布膜の過剰な膜厚に伴う膜剥離による問題を回避でき、もって鋳造製品の肌の巣がなくかつ良好な光沢を有する金型鋳造用潤滑離型剤の塗布方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る金型鋳造用潤滑離型剤は、(A)40℃における動粘度が2〜10mm/sで引火点が70℃〜160℃の範囲の溶剤を50〜90質量%、(B)40℃における動粘度が100mm/s以上600mm/s以下の高粘度の鉱油及び/又は合成油を1〜10質量%、(C)濡れ性を向上するためのアクリル・コポリマー、引火点が100℃以下のアクリル変性ポリシロキサン及び極圧剤の群れから選ばれる1種または2種以上の成分を0.1〜3質量%、(D)高温で焼付を防止するための40℃における動粘度が150mm/s以上のシリコーン油(D−1成分)を15質量%以下及び潤滑性能を有する1種類以上の添加剤(D−2成分)を1〜10質量%含み、引火点が70〜160℃であることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る金型鋳造用潤滑離型剤の塗布方法は、前記金型鋳造用潤滑離型剤を、鋳造毎あるいは1回置きあるいは2回置きに金型内面に塗布することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、鋳造製品の肌の巣がなくかつ良好な光沢を有する金型鋳造用潤滑離型剤を提供できる。また、本発明によれば、従来と比べ、離型剤の塗布・乾燥時間を著しく減少させ、もって作業時間を短縮するとともに、塗布膜の過剰な膜厚に伴う膜剥離による問題を回避でき、もって良好な鋳造製品の肌の巣がなくかつ良好な光沢を有する金型鋳造用潤滑離型剤の塗布方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
1.金型鋳造用潤滑離型剤の品質
1)重力鋳造では、溶湯を金型の隅々まで押す力は溶湯の自重だけであり、本来、湯流れ性が悪い。そこで、金型面上に厚い断熱膜を形成し、溶湯が冷えず、溶湯が金型の隅々まで流れる工夫が必要となる。そのため、塗布膜の厚さを確保し、湯流れ性を良くする必要がある。即ち、塗布膜の厚さを確保するため、金型鋳造用潤滑離型剤の金型への付着量を増加させる工夫が必要である。ところで、金型には水平部分と垂直部が混在し、垂直部分の塗布膜が薄くなる嫌いがある。垂直部分の塗布膜を厚くする工夫として、ペンキ業界が採用している速乾性を活用し、溶剤を混合して本金型鋳造用潤滑離型剤に揮発性を付与することが考えられる。水平面を含め塗布膜を厚くする方法として、後述する付着力の高い各種添加剤を配合することが好ましい。
【0015】
2)湯流れ性を確保し、かつ、鋳造製品取り出し時、焼付・固着問題を起こさせないためには、潤滑性・離型性を高める必要がある。潤滑性の有る添加剤(例、低温に効果のある植物油、中間温度(例えば金型温度250〜300℃)に効果のあるモリブデン、高温(例えば金型温度300〜370℃)に効果のあるシリコーン油や極圧剤)を配合する。
3)前述した技術的長短を勘案し、本発明者らは、(A)40℃における動粘度が2〜10mm/sで引火点が70℃〜160℃の範囲の溶剤を50〜90質量%、(B)40℃における動粘度が100mm/s以上600mm/s以下の高粘度の鉱油及び/又は合成油を1〜10質量%、(C)金型面への濡れ性を向上し、スプレー粒子の金型への付着性を向上するため、アクリル・コポリマー、引火点が100℃以下のアクリル変性ポリシロキサンや極圧添加剤を0.1〜3質量%、(D)高温で焼付を防止するための40℃における動粘度が150mm/s以上のシリコーン油(D−1成分)を15質量%以下及び潤滑性能を有する1種類以上の添加剤(D−2成分)を1〜10質量%含み、引火点が70〜160℃であることを特徴とする、水を含まない金型鋳造用潤滑離型剤を探求するに至った。
【0016】
金型鋳造用潤滑離型剤のスプレー可能な粘度はかなり幅広いが、40℃で2〜450mm/sが好ましい。ここで、動粘度が450mm/sを超えると、粒子径が大きくなり塗布量が増える。一方、動粘度が2mm/s未満になると、スプレー用のポンプが磨耗し易くなる。従って、灯油の粘度の2mm/sを下限とするのが実用的である。また、作業性の観点から、自動車用軽油の引火点である70℃より高く、乾燥性の観点から160℃以下の引火点を有する揮発性が好ましい。
【0017】
また、使用条件に応じ、前述の金型鋳造用潤滑離型剤配合に(E)酸化防止剤を加えて塗布膜の酸化劣化を抑え、より長時間厚い塗布膜を維持することで湯流れを保つことが好ましい。
【0018】
更に、塗布膜の高温接触時間が長い場合や溶湯温度が高い(例えば450℃以上)場合、(F)無機粉体を加え、塗布膜を更に補強しても良い。なお、無機粉体として、黒くない粉体(F−1成分)と黒い黒鉛(F−2成分)が挙げられる。また、上記特許文献2には油性離型剤が記載されているが、ボロナイト粉体、粘土系沈降防止剤とシリコーンオイルの組成であり、本発明とは大きく異なる。
【0019】
2.金型鋳造用潤滑離型剤の成分
1)A成分
金型面で厚い油膜を形成させるには、一旦付着した高粘度成分が金型から垂流れないよう早急に溶剤を気化させるほうが良いので、速乾性のペンキに見られるように揮発速度の速い溶剤(A成分)が良い。しかし、揮発が速いと、引火点が低くなるので、火災の危険が高くなる。従って、ガソリンのような揮発の速すぎるものは好ましくない。実用的には、旧油性離型剤に多用された灯油の引火点である43℃よりは高く、自動車用燃料の軽油の引火点(70℃)以上が好ましい。また、揮発性が低い(引火点が高い)と、乾燥しにくいので低粘度のA成分が残り塗布膜の粘度が低くなり、金型垂直面からの垂れ流れが起こり、塗布膜が薄くなる。引火点で表した揮発性として、160℃以下の溶剤(A成分)が好ましい。
【0020】
A成分である溶剤の配合量は粘度、揮発性に加え、他の成分(B,C,D成分)の配合量にも影響され、50〜90質量%が好ましい。ここで、A成分の溶剤は必ずしも1種類の溶剤だけではなく、複数の揮発性を有する溶剤を適宜混合しても良い。
【0021】
A成分は高揮発・低粘度成分であり、金型面で蒸発する部分である。なお、人体への影響を考慮し、アルコール、エステル、ケトン等の極性の強い溶剤は使うべきではない。石油系で、かつ、殆どがパラフィン系飽和分の溶剤(溶剤―1)で硫黄、窒素分を極端に低く抑えた高度精製溶剤、あるいは溶剤−1よりも沸点がやや高い低粘度基油(溶剤―2)が好ましい。上記A成分を「40℃における動粘度が2〜10mm/s」とするのは、2mm/s未満では金型鋳造用潤滑離型剤全体の粘度が下がり過ぎ噴霧用ポンプの磨耗耐久性に悪影響があるからであり、A成分が10mm/sを超えると金型鋳造用潤滑離型剤全体の粘度が上がり、本組成物をスプレーで適正に噴霧できないからである。
【0022】
2)B成分
B成分は高粘度基油であり、他の成分を付着させるための糊(バインダー)の役目をする。B成分は、高温で蒸発しにくい高粘度炭化水素が好ましく、40℃における動粘度が100mm/s以上600mm/s以下の高粘度の鉱油及び/又は合成油を配合する。鉱油としてはギヤ油に使われる様な高粘度基油やシリンダー油を例示でき、合成油としてはPAO(ポリアルファー・オレフィン)やエステル系基油を例示できる。ここで、B成分の動粘度が100mm/s未満の場合、付着油膜が薄く糊の役目が弱くなる。一方、動粘度が600mm/sを超えると、金型鋳造用潤滑離型剤の粘度が高くなりスプレーし難くなるし、金型鋳造用潤滑離型剤を生産する際、混合作業が困難になる。また、B成分の配合量は1〜10質量%が好ましい。ここで、配合量が1質量%未満の場合、糊の役目が弱くなる。逆に、配合量が10質量%を越えると、鋳造後「糊」が炭化した「オイルマーク」と呼ばれる色残り現象が起き、鋳造製品の不良となる。
【0023】
3)C成分
C成分は濡れ性向上剤であり、弱い極性を有する炭化水素及びその化合物が挙げられる。例えばアクリル・コポリマー、引火点が100℃以下のアクリル変性ポリシロキサン及び硫化エステルのような極圧剤(極圧添加剤)の群れから選ばれる1種以上の成分を合計0.1〜3質量%含ませることができる。濡れ性向上剤を添加すると、金型面への金型鋳造用潤滑離型剤の濡れ性が良くなり、金型面へ金型鋳造用潤滑離型剤が載りやすくなる。特に金型面が高温になると、金型鋳造用潤滑離型剤の軽質成分の急激な沸騰により油滴が金型面を濡らせない現象(ライデンフロスト現象)を起こし、金型面上での油膜形成を阻害する。ところが、濡れ性向上剤があると、濡れ性が良くなるので、この現象は抑えられ、油膜が厚く形成される。アクリル・コポリマー自体は分散能力もありF成分の粉体を分散させる能力もある。
【0024】
4)D成分
D成分は摩擦を低減する潤滑剤である。金型で焼付を起こす温度は操業条件で異なり、重力鋳造では、約200〜450℃が操業温度範囲であるので、金型鋳造用潤滑離型剤の添加剤には幅広い温度領域で潤滑性を付与する必要がある。しかし、粉体を除くと、1種類の添加剤でこの幅広い領域をカバーできない。従って、温度領域を分けて、2種類ほどの添加剤でカバーする必要がある。
【0025】
第一の添加剤群(D−1成分)として、摩擦係数はあまり低くはないが約300〜370℃で焼付を防止する効果のあるシリコーン油を15質量%以下配合する。ここで、シリコーン油は高温での潤滑性が期待されるので、「40℃における動粘度が150mm/s以上」の高粘度のシリコーン油が好ましい。鋳造製品に塗装しない場合はジメチル・シリコーンを含めたどの市販のシリコーン油でも良い。しかし、塗装する場合は塗装が載りにくいので、塗布量によってはジメチル・シリコーン油が好ましくない時がある。塗装する場合、シリコーン油としては、例えばアルキル・アラルキルまたはジメチルより長鎖のアルキル基を有するアルキル・シリコーン油が好ましい。
前記D−1成分を「15質量%以下」としたのは、15質量%を超えると金型にシリコーン又はシリコーン分解物が堆積し、鋳造製品の形状に悪影響を及ぼすからである。但し、シリコーン油はコストの観点からは配合量を低減することが好ましい。
【0026】
第二の添加剤群(D−2成分)としては、例えば、150〜300℃付近で低い摩擦を与える動植物系の油脂(例えば菜種油、大豆油、ヤシ油、パーム油、牛油、豚脂等の動植物油脂、脂肪酸エステル)、有機酸(ヤシ油脂肪酸、オレイン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、パルチミン酸)、アルコールエステル(牛脂脂肪酸等の高級脂肪酸のエステル)、有機モリブデン、油溶性の石鹸、油性ワックスが挙げられる。
【0027】
有機モリブデンとしては、例えばMoDDCやMoDTCが好ましく、アルミニウムとリン分が反応する可能性のあるMoDDPやMoDTPはあまり好ましくない。油溶性の石鹸としては、例えばCaまたはMgのスルフォネート塩、フィネート塩、サリシレート塩が挙げられ、また溶解性に難点はあるが、有機酸金属塩が挙げられる。更に、若干腐食性はあるが、高温での焼付を防止できる極圧剤が挙げられる。硫黄系の硫化油、硫化エステルが好ましい。S−P系のZnDDPは臭く、塩素系は金属との反応による腐食があり、避けるべきである。これらの潤滑性を有する1種類以上の添加剤(D−2成分)を1〜10質量%添加する。
【0028】
5)E成分
E成分は酸化防止剤である。後述する酸化防止剤を0.2〜2質量%配合することで、金型鋳造用潤滑離型剤の劣化が抑えられる。その結果、初期油膜厚さが維持でき、断熱性が向上し、最終的には湯流れが向上する。酸化防止剤は3種類に類別でき、1種または2種以上を配合することができる。
【0029】
第一類群のアミン系酸化防止剤として、例えば、モノノニルジフェニルアミン等のモノアルキルジフェニルアミン系、4,4’−ジブチルフェニルアミン、4,4’−ジペンチルジフェニルアミン、4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン、4,4’−ジヘプチルジフェニルアミン、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン、4,4’−ジノニルジフェニルアミン等のジアルキルジフェニルアミン系、テトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミン等のポリアルキルジフェニルアミン系、a−ナフチルアミン、フェニル−a−ナフチルアミン、ブチルフェニル−a−ナフチルアミン、ペンチルフェニル−a−ナフチルアミン、ヘキシルフェニル−a−ナフチルアミン、ヘプチルフェニル−a−ナフチルアミン、オクチルフェニル−a−ナフチルアミン等が挙げられる。
【0030】
第二類群のフェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、4,4−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2−メチレンビス(4−エチル−6−ブチルフェノール)、高分子量単環フェノリック、多環ターシャリーブチル・フェノール、BHT(Butylated Hydroxy Toluene)、BHA(Butylated Hydroxy Anisole)が挙げられる。
第三類群のクレゾール系酸化防止剤としては、例えば、ジターシャリーブチルパラクレゾール、2−6−ジーターシャリーブチル・ジメチルアミノ−p−クレゾールが挙げられる。
【0031】
6)F成分
F成分は無機粉体であり、F−1成分群とF−2成分群からなる。400℃を超える温度領域では、上記のB,C,D、E成分は短時間で分解する。分解しても離型性を保持する添加剤はあるが、塗布膜は薄くなり、断熱性が低下する。後述の無機粉体は高温で劣化しにくく、厚い粉体膜を形成し断熱性を発揮する。
【0032】
F−1成分群は比較的黒くない(即ち、白色又は灰色又は赤色等の少なくとも1種類)無機粉体であり、配合量は、1〜10質量%が好ましい。無機粉体の配合量が10質量%を超えると、金型鋳造用潤滑離型剤を使用する前に沈降し品質問題を起こすし、鋳造製品の艶が悪くなる。また、作業現場が粉体で汚れる。配合量が1質量%未満の場合、高温での効果が少ない。無機粉体としては、例えば、タルク、マイカ、雲母、粘土、有機クレイ(粘土に微量の有機物を付加したもの)、耐火モルタル、ボロンナイト、セリサイト、CaCO,ホウ酸塩、アルミナ粉、ピロリン酸塩、重曹、酸化チタン、ベンガラ、ラジオライト、酸化ジルコニウムが挙げられる。
【0033】
F−2成分群として、黒鉛、カーボンブラック、ダイヤモンド粉の少なくとも1種類の無機粉体が挙げられる。潤滑性はF−1成分より優れているが、作業現場の汚れはひどい。従って、これらの無機粉体を10質量%以下配合すると良い。D成分のシリコーン油が存在する領域で、黒鉛を2質量%以上配合しても潤滑性はあまり改良されないが、粉体膜を厚くするため、10質量%まで配合しても良い。
【0034】
加えて、F−1,F−2成分である無機粉体を油に均一に分散させるため、分散剤を添加すると良い。
上記のB,C,D、E成分の配合量を最大にし、F成分の無機粉体を最小限に抑えると、作業現場の汚れが低減し、ユーザーのメリットとなる。
【0035】
3.塗布方法
本願第2の発明である金型鋳造用潤滑離型剤の塗布方法は、上述したように、金型鋳造用潤滑離型剤を、鋳造毎あるいは1回置きあるいは2回置きに金型内面に塗布することを特徴とする。以下、この塗布方法について説明する。
1)従来の水溶性塗型剤の場合、上述したように、生産ごとに無機粉体が溶湯に巻き込まれて減少する膜厚を考慮し、初期塗布膜を過剰に厚くし、「数十個または数百個生産毎に1回塗布」を行っていた。本発明の場合は、水溶性塗型剤と違って油性の金型鋳造用潤滑離型剤を鋳造毎(毎回塗布)あるいは1回置きあるいは2回置きに金型内面に塗布する。ここで、本発明では、例えば「1〜2秒塗布後、数秒の乾燥」のため「毎回塗布」が可能となる。本発明の場合、百回鋳造しても塗布・乾燥の合計は10分程度であり、水溶性塗型剤の数十分から数時間より遥かに短い作業時間である。なお、金型鋳造用潤滑離型剤を塗布するときはその塗布量を最小限にとどめることが好ましい。
【0036】
その結果、次のa)〜f)のメリットが期待できる。
a)乾燥工程が短く、金型を生産に使え、ダウンタイムが減少する。
b)毎回スプレーにより、塗型職人の技量の差が最小限に抑えられ、品質が安定する。
c)毎回スプレーにより塗布膜の厚みが均質となり、鋳造製品の品質が安定する。
d)従来法のように塗布膜を過剰の厚みにする必要が無くなるため、剥離による不合格のリスクを低減できる。
e)過剰な膜厚さがなくなり、膜の厚さは必要最小限のため、冷却性が良くなる。
f)凝固が短い時間で起こり、金属結晶が微細となり、強靭な製品となる。
【0037】
本発明の「毎回塗布」に換え、本発明の金型鋳造用潤滑離型剤を1回置きあるいは2回置きに塗布する(間欠的に塗布する)場合が考えられ、この場合、ゆとりを持って塗布膜を若干厚くする必要がある。ここで、過剰な塗布膜は、一部熱分解によるガスの発生、鋳巣の問題、製品の強度低下に至る可能性がある。従って、必要最小限の塗膜厚さとするため、毎回塗布することが最も好ましい。
【0038】
2)上記したように、毎回スプレーした場合、毎回乾燥が速くなければならない。そこで、本発明の金型鋳造用潤滑離型剤から水を排除し、かつ、乾燥性を速めるため高い揮発性を付与している。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例について説明する。
(A)図の説明
まず、本発明の実施例で使用するアルミ溶湯の湯流れ性評価試験器、及び重力鋳造を模した成形性評価試験器について説明する。
図1は、湯流れ試験器の概略的な斜視図を示す。図2(A)は図1の湯流れ試験器の一構成である台の正面図、図2(B)は図2(A)の側面図、図3(A)は図1の湯流れ試験器の一構成である蓋の正面図、図3(B)は図3(A)の側面図、図3(C)は図3(A)の底面図、図3(D)は図3(C)のX−X線に沿う断面図を示す。図4(A)は図1の湯流れ試験器の一構成である枡の斜視図、図4(B)は図4(A)の底面図、図5は図1の湯流れ試験器の一構成である棒の正面図を示す。
【0040】
前記湯流れ試験器は、鉄製の台1と、この台1の上に載置される鉄製の蓋2と、この蓋2の上に載置されるイソライト・レンガ製の枡3と、イソライト・レンガ製の棒4と、ガスバーナー5とから構成されている。台1は、図1及び図2に示すように、長手方向に沿う一端側に上部方向に突出する突出部1aを備え、その突出部1aにはテーパ面1bが形成されている。蓋2の一端側で台1と接する部分には、図1及び図3(A)に示すようにテーパ面2aが形成されている。図3(C),(D)に示すように、蓋2のテーパ面2aには溶湯を流すための溝2bが形成され、下面には溝2bに連通する溝2cが形成されている。
【0041】
蓋2の上部には、把手6が取り付けられている。枡3には、溶湯を供給するための開口部7と該開口部7に連通する穴8が形成されている。枡3は、枡3の穴8が蓋の溝2bに位置するように蓋2上に載置される。棒4の先端は図5に示すように円錐形状になっており、この部分が枡3の穴8を塞ぐように枡3にセットされる。棒4は、溶湯を枡3に収容する前は棒4の先端を穴8に差し込んだ状態にし、溶湯を蓋2の溝2b、2c側に流す時は棒4を上方に持ち上げるようになっている。
【0042】
前記成形性評価試験器は、図6、図7及び図8に示すようになっている。ここで、図6(A)は第1の金型の正面図、図6(B)は第1の金型の平面図を示す。図7(A)は第2の金型の正面図、図7(B)は第2の金型の平面図を示す。図8は第1の金型及び第2の金型を加熱する時の説明図を示す。
【0043】
鉄製の第1の金型11には、図6に示すように、溶湯を注ぐための湯口12を構成するための断面半円形状の切欠け部12aと、この切欠け部12aに連通された,製品形状のキャビティ部13が刻み込まれている。キャビティ部13は左右に分岐する6本のあばら骨状になっており、合計18個のセル14a,14b,14c,14d,14e,14f…からなっている。図6(B)のセル中の数字は各セルの厚みを示しており、左側と右側で厚みが異なっている。例えば、左側のセル14a,14b,14cの厚みは夫々10mm,8mm,6mmであるが,右側のセル14d,14e,14fの厚みは夫々6mm,4mm,2mmである。鉄製の第2の金型15は、図7に示すように、断面半円形状の切欠け部12bを除いて平坦である。なお、切り欠け部12a,12bが合わさって図9に示す湯口12が構成される。第1の金型11の内面、第2の金型15の内面は、図8に示すようにバーナー16により所定の温度まで加熱される。
【0044】
(B)製造方法
高粘度基油、シリコーン油、濡れ性向上剤、潤滑添加剤を下記表1に示す質量%で混合した後、40℃に加温し、10分間攪拌した。次に、これらの混合物に溶剤を表1に示す質量%添加し、再度10分間攪拌して、重力鋳造用の潤滑離型剤を試料として製造した。目的に応じ、初めの工程で、酸化防止剤、粉体、黒鉛を混合した。
【表1】

【0045】
但し、表1において、
溶剤−1:Shell Chemicalの商品名:Shellzol TM
溶剤―2:UBJ社の商品名:Y−base−2
高粘度鉱油:ジャパン・エナジーの商品名:ブライストック
シリコーン油:旭化成ワッカーシリコーンの商品名:Release agentTN
菜種油:名糖油脂工業の商品名:ナタネ油
有機モリブデン:旭電化工業の商品名:サクラルブ165
アクリル・コポリマー:ウイルバ・エリス社の商品名:EFKA−3778
Ca石鹸:インフィニュームの商品名:M7101
硫化エステル:小桜商会の商品名:GS−230
(C)試験方法
(C−1)引火点の測定方法
試料の引火点の測定はJIS−K−2265に沿って、ペンスキーマルテン法で測定した。
(C−2)動粘度の測定方法
粉体を含まない潤滑離型剤の40℃の動粘度は、JIS−K−2283に沿って測定した。また、粉体を含む潤滑離型剤の場合、JIS−K−7117−1に準拠した回転粘度計で測定した40℃の絶対粘度(cP)と比重から40℃の動粘度を算出した。
【0046】
(C−3)ラボ酸化試験、ROBT法
JIS−K−2514に沿って、回転式密閉型ポンプに試料を採取し、その後酸素を封入し、150℃条件下で酸化し、急激に酸素圧力の低下を起こすまでの時間を測定した。
【0047】
(C−4)湯流れ性評価試験
図1の湯流れ性評価試験器による湯流れ性評価性試験の操作は次のとおりである。
まず、鉄製の自家製試験の台1と蓋2を別々にバーナー5の上に置き、所定の温度(実施例では230℃)まで加熱する。また、別のバーナー5で枡3と棒4を500℃付近まで加熱する。台1と蓋2が所定の温度に達したなら、台1及び蓋2の溝2cに金型鋳造用潤滑離型剤を塗布し、蓋2の把手6をつかんで台1の上に蓋2を乗せる。蓋2の溝2a部分に穴8が合致するように枡3を置き、穴8を棒4で塞いで栓をする。別途、陶芸用溶解炉に溶かしてあるアルミ溶湯(AC4CH材、温度700℃)90ccを鉄製の柄杓で採取し、直ちに枡3に注ぐ。2秒後、穴8から棒4の栓を抜き、試験器内に溶湯を流す。30秒後、蓋2を台1から離し、台1の上で固化したアルミの長さを測定する。長く流れると湯流れ性が良いと判断する。
【0048】
(C−5)成形性評価試験
図6〜図8の成形性評価試験器による成形性評価試験の操作は、次の通りである。
まず、図8に示すように、第1の金型11及び第2の金型15を別々のバーナー16で所定の温度まで加熱する。次に、第1の金型11及び第2の金型15の内面に金型鋳造用潤滑離型剤を塗布し、数秒後、図9に示すように第1の金型11と第2の金型15を合わせる。つづいて、直ちに、溶解炉より鉄製の柄杓17でアルミ溶湯18(AC4CH、700℃)を汲みだし、湯口12よりアルミ溶湯18(約2.8kg)を注湯する。アルミ凝固後(約2分)、第1の金型11と第2の金型15を分割し、第1の金型11で固化した鋳造品19(図10図示)を取り出す。アルミが完全にキャビティを充填した形状になっているセルから転写した厚みの異なる部位20の数を求める。完全な形状の部位20の数が多ければ、成形性がよく、湯流れ性が良いと判断する。
【0049】
(D−1)試験測定結果:酸化防止剤なし・粉体なしの場合
上記表1には、実施例1,2,3の成分、物性値、湯流れ性評価試験結果、塗布量及び成形性評価試験の結果を示す。
下記表2は、比較例1〜4における成分、物性、湯流れ性評価試験、塗布量及び成形性評価試験を示す。表2において、比較例1には本出願人製のダイカスト用油性離型剤,比較例2には重力鋳造で現在使用されている代表的な他社製の水溶性塗型剤,比較例3には本出願人製のラドル・コート剤で一部の会社で塗型剤の修理・補強剤として使われている一種の塗型剤(自社製なので入手性が良、比較例とする)、比較例4として「塗型剤なし・潤滑離型剤なし」のブランクを示す。
【表2】

【0050】
但し、表2において、
「−」印:測定なし
油性離型剤:青木科学研究所の商品名:WFR−3R
水溶性塗型剤:三和油化の商品名:サンバリューMR−W14
ラドル・コート剤:青木科学研究所の商品名:スリック・ライナー#3であり、無機金属を多量に含有。水溶性塗型剤と類似し、ラドルと溶湯の固着防止用薬剤。
【0051】
実施例1,2,3及び比較例1は水を含まない油性であり、引火点は70℃以上、40℃における動粘度は450(mm/s)以下と好ましい範囲にある。比較例2,3は水溶性であり、乾燥工程が数十分から数時間かかる、あるいは推定粘度が数百から数千(mm/s)とスプレーしにくく自動化しにくい等、実用上好ましくない問題点がある。
【0052】
何も塗布していない比較例4の場合、30mmしか溶湯は流れないが、代表的な水溶性塗型剤の比較例2の場合は400mmも流れた。鋳造を連続すると、徐々に粉体が鋳造製品に取られ膜厚が薄くなる。例えば、不良品が出てくるのは約50μmであるので、初期膜厚は150μm、と約3倍も厚く塗る。即ち、初期は過剰に塗膜を厚くするので断熱膜が厚く、溶湯の温度が低下せず高く保たれ、溶湯の粘度が低く保たれ、その結果、400mmと溶湯は長く流れた。本研究の目標は不良品が出る直前の油膜厚さで、毎回塗布することである。入手性の良い本出願人製のラドル・コート剤を使って湯流れ性評価試験を実施したところ、比較例3に示すように240mmほど流れた。このレベルを本研究の目安とした。比較例1に示すように、ダイカスト用油性離型剤では50mmの湯流れであり、殆どブランクと同じであった。油膜が極端に薄いのが理由と言える(高額な油膜厚さ計で1回だけ測定したところ3μmの油膜厚さであった)。比較例1と比べ、実施例1,2,3は多くの油溶性の添加剤を含有しており、アクリル・コポリマー、Ca石鹸や硫化エステルを添加すると湯流れが良くなった。
【0053】
更に実機により近い条件の成形性評価試験器(C−5項参照)で評価した。この試験器で鋳造された製品の形状は「3対合計6本のアバラ骨」であり、左側の各あばら骨は、先端に向かって10,8,6mmの3段階の厚みであり、右側は先端に向かって6,4,2mmの厚みとなっている。合計で18区分のセルに分かれているので、測定結果は、「その区分の個数」で表し、「18」が最良である。比較例2の水溶性塗型剤の場合、18個と良好な値である。一方、ダイカスト用油性離型剤の比較例1では、5個分しか流れない。明らかに、湯流れ性が劣る。アクリル・コポリマー、Ca石鹸を含有する実施例2では、まだ、12個と湯流れ性は不十分であるが、比較例1よりかなり良い。実施例2は「塗布量2ccの塗布回数が1回」であるが、実施例1は同じ配合で「塗布量2ccの塗布回数を3回(合計塗布量6cc)」とした結果、湯流れが「18個」と良好になった。また、実施例3は、実施例1,2と配合は異なるが、「塗布量2ccの塗布回数を2回(合計塗布量4cc)」とした場合、湯流れが「18個」と良好であった。なお、比較例2、3の水溶性塗型剤とラドル・コート剤の塗布量は比較例1の6ccより数倍も多かった。
【0054】
図11は、上記実施例2により得られた部位の写真を模式的に描いた図を示す。図11より、実施例2によれば、各セルから転写された厚みが異なりかつ欠けのない12個の部位20〜2012が得られることが確認できた。
【0055】
鋳造製品の肌の光沢に関し、比較例2の代表的な塗型剤の場合は灰色で良くないが、実施例1,2,3の油性潤滑離型剤の場合は艶が増え良くなった。一方、鋳造製品の肌の巣に関しては、有機物を殆ど含有していない比較例2(水溶性塗型剤)が最良であり、実施例1,2,3の油性潤滑離型剤の場合は比較例2に比べて若干劣るが、良好な外観を示す。
【0056】
(D−2)試験測定結果:酸化防止剤の効果
下記表3は、実施例4,5、比較例5の成分、物性、及び湯流れ性評価試験の結果を示す。
【表3】

【0057】
但し、表3において、
フェノール系酸化防止剤:第一工業製薬の商品名:ラスミットBHT
アミン系酸化防止剤:アフトンケミカル社の商品名:HiTEC−569
その他の成分は表1と同じ
表3に示すように、実施例4の引火点は70℃以上、40℃における動粘度は450(mm/s)以下と好ましい範囲にある。また、ラボ酸化試験における耐酸化性能を測定したところ、比較例5(有機モリブデン、酸化防止剤ともになし)の場合、劣化時間の測定値は15分と短く、すぐに酸化していた。実施例4(有機モリブデン、酸化防止剤ともに有り)の場合、劣化時間は890分と比較例5に比べ約60倍長持ちし、劣化しにくい。従って、実施例4の場合、酸化防止剤は油性潤滑離型剤の酸化劣化を抑制していることがラボ酸化試験で確認できた。
【0058】
一方、湯流れ性評価試験における湯流れ長さに関し、比較例5(有機モリブデン、酸化防止剤ともになし)の場合は50mmと短く、実施例4(有機モリブデン、酸化防止剤ともに有り)の場合は120mmと長く流れるようになった。
【0059】
酸化防止剤を配合し金型鋳造用潤滑離型剤の酸化防止性を高めると、湯流れ性評価試験器に付着した塗布膜が酸化しにくくなり、塗布膜の厚さが維持され断熱性が向上し、溶湯の温度が低下しにくくなり、溶湯の粘度が低く保たれ、その結果、溶湯が長くまで流れたものと推定する。しかし、酸化防止剤の添加だけではまだまだ湯流れは不十分であり、極圧剤や粉体などの他の添加剤と併用することが望まれる。
【0060】
(D−3)試験測定結果:無機粉体を含有する場合
下記表4は、粉体を含有する金型鋳造用潤滑離型剤である実施例6,7,8の成分、物性、湯流れ性評価試験及び成形性評価試験の結果を示す。下記表5は、粉体を含有する金型鋳造用潤滑離型剤である実施例9,10,11,12の成分、物性、湯流れ性評価試験及び成形性評価試験の結果を示す。表4及び表5に示すように、実施例6〜12の引火点は70℃以上、40℃における動粘度は450(mm/s)以下と好ましい範囲にある。
【表4】

【0061】
但し、表4において、
有機クレイ:ウイルバ・エリスの商品名:ガラマイト 1598
黒鉛:中越黒鉛の商品名:96L-3(鱗状)3部と150F(土状)7部の混合物
【表5】

【0062】
但し、表5において、
アルミ粉:アジア・アルミの商品:アルペースト100M
ダイヤモンド粉:樋口商会の商品名:クラスター・ダイアモンドの溶剤液
その他は表1及び表4と同じ
湯流れ性評価試験に関し、同じ配合でも塗布量を増すことで湯流れ性は良くなった。黒鉛、有機クレイを含有している金型鋳造用潤滑離型剤でも実施例10の1ccで150mm、実施例9の2ccで200mmであったが、実施例6の6ccで260mmであった。更に黒鉛を増量した実施例7では、300mmと湯流れ性が更に長くなった。黒鉛に換えて、Ca石鹸や硫化エステルとした実施例8では湯流れ性は若干落ちる。黒鉛の良さが確認されたが、黒鉛を使わなくとも湯流れ性が250mmと良いので、有機クレイ、石鹸、硫化エステルで油膜は厚くなっていると予測される。一方、実施例11では実施例9の黒鉛に換えて、ナノミクロンサイズのダイヤモンド粉を評価した。湯流れ性は実施例9の黒鉛の方が良いことから、粒子がある程度大きいと、厚い膜が形成され、湯流れ性が良くなるものと推定される。また、黒鉛とアルミ粉を比べた実施例9と実施例12の結果を見ると、アルミ粉より黒鉛の方が湯流れ性が良かった。アルミ粉より黒鉛は金型に付着し易く、かつ、熱伝達が小さいため断熱性が良かったことも寄与している可能性がある。
【0063】
成形性評価試験器での評価でも、実施例6,7,8の粉体を含有する金型鋳造用潤滑離型剤は18個分流れ、良好な性能が確認できた。しかも、鋳造製品の肌は黒鉛を含有する実施例6、7が優れていた。粉体を含有しない実施例1,2,3の場合より、粉体を含有する実施例6,7の方が鋳造製品の肌には良い。粉体を含有する金型鋳造用潤滑離型剤の場合、油分と鋳造製品の間に空隙ができ、油分で生成したガスが逃げたことによる鋳巣生成の低下が鋳造製品の肌に現れたと考えられる。特に、黒鉛の場合、光沢が良かった。他の粉体(F−1成分)は硬く、鋳造製品の表面に若干梨地模様が形成され曇り気味となり、若干光沢が減ったものと推定される。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の金型鋳造用潤滑離型剤は、重力鋳造する際の自動連続スプレー及び原液・微量塗布に適し、金型表面の潤滑にも適している。また、水溶性塗型剤を使っている低圧鋳造では、溶湯の速度が重力鋳造より若干速いため、潤滑離型剤が高温に接する時間は短くなるので、低圧鋳造にも、本油性潤滑離型剤は適している。更に、本金型鋳造用潤滑離型剤は、鋳造毎或いは1回置き或いは2回置きに金型内面に塗布するのに適している。
【0065】
なお、本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除しても良い。具体的には、金型鋳造用潤滑離型剤に使用した各種の材料や配合量は、上述した「発明を実施するための最良の形態」の欄に記載した範囲内で適宜設定することができる。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を削除しても良い。更には、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は、湯流れ試験器の概略的な斜視図を示す。
【図2】図2は、図1の湯流れ試験器の一構成である台の説明図を示す。
【図3】図3は、図1の湯流れ試験器の一構成である蓋の説明図を示す。
【図4】図4は、図1の湯流れ試験器の一構成である枡の説明図を示す。
【図5】図5は、図1の湯流れ試験器の一構成である棒の説明図を示す。
【図6】図6は、成形性評価試験器に使用される第1の金型の説明図を示す。
【図7】図7は、成形性評価試験器に使用される第2の金型の説明図を示す。
【図8】図8は、第1の金型及び第2の金型を加熱する時の説明図を示す。
【図9】図9は、第1の金型及び第2の金型を一体化したときの状態を示す。
【図10】図10は、第1の金型に固化した製品の平面図を示す。
【図11】図11は、実施例2により得られた製品の写真を模式的に描いた図を示す。
【符号の説明】
【0067】
1…台、1a…突出部、1b,2a…テーパ面、2…蓋、2b,2c…溝、3…枡、4…棒、5…ガスバーナー、6…把手、7…開口部、8…穴、11…第1の金型、12…湯口、13…キャビティ部、14,14a,14b,14c,14d,14e…セル、15…第2の金型、16…ガスバーナー、17…柄杓、18…溶湯、19…鋳造品、20,20〜2012…部位。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)40℃における動粘度が2〜10mm/sで引火点が70℃〜160℃の範囲の溶剤を50〜90質量%、(B)40℃における動粘度が100mm/s以上600mm/s以下の高粘度の鉱油及び/又は合成油を1〜10質量%、(C)濡れ性を向上するためのアクリル・コポリマー、引火点が100℃以下のアクリル変性ポリシロキサン及び極圧剤の群れから選ばれる1種または2種以上の成分を0.1〜3質量%、(D)高温で焼付を防止するための40℃における動粘度が150mm/s以上のシリコーン油(D−1成分)を15質量%以下及び潤滑性能を有する1種類以上の添加剤(D−2成分)を1〜10質量%含み、引火点が70〜160℃であることを特徴とする金型鋳造用潤滑離型剤。
【請求項2】
(E)成分として、アミン系、フェノール系、クレゾール系酸化防止剤からなる群から選ばれる1種又は2種以上を0.2〜2質量%含むことを特徴とする請求項1記載の金型鋳造用潤滑離型剤。
【請求項3】
(F)成分として、白色又は灰色又は赤色の少なくとも1種類の無機粉体を1〜10質量%と、黒鉛又はカーボンブラック又はダイヤモンド粉の少なくとも1種類の無機粉体を10質量%以下含有することを特徴とする請求項1若しくは請求項2記載の金型鋳造用潤滑離型剤。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3いずれか記載の金型鋳造用潤滑離型剤を、鋳造毎あるいは1回置きあるいは2回置きに金型内面に塗布することを特徴とする金型鋳造用潤滑離型剤の塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−253204(P2007−253204A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82127(P2006−82127)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(304028645)株式会社青木科学研究所 (10)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)
【Fターム(参考)】