説明

金属および生体吸収性材料の複合材料による医療用ステント、その製法及びこれに用いる編機

【課題】 ステント留置後、ステント本来の拡張力を保持し、しかも任意の時期に生体内より抜去することができ、かくして脈管再狭窄の原因となる炎症や過剰肥厚などの問題を生じるおそれをできるだけ回避した改良されたステントを提供する。
【解決手段】 縮径可能な中空管構造を有する医療用ステントであって、管の外部方向に対して拡張力を保持するためのスパイラル構造の金属線と、該金属線と交絡された生体吸収性樹脂繊維とからなり、該生体吸収性樹脂繊維はその分解によって金属線に生体からの抜去性を付与するものである医療用ステント;その製造法;及び該製造法のためのステント編機を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用ステント、その製法およびその製造のためのステント編機に関する。
【背景技術】
【0002】
脈管(食道、胆管、尿管、血管など)に挿着してその管の形態を保持するステントおよびその脈管内への留置術は知られている(例えば非特許文献1-8など参照)。特に、窒息、呼吸不全などを及ぼす可能性のある気道病変、閉塞性黄疸をきたす恐れのある胆道狭窄病変、組織壊死を起こす恐れのある血管狭窄病変、機能不全を招来する可能性のある管腔臓器の狭窄、閉塞は、例えば腫瘍性疾患の圧迫、外傷などの様々な原因で起こる。これら管腔臓器の狭窄、閉塞などは、内容物の鬱滞を招きこれに伴って臓器機能不全、穿孔、感染などの合併症を引き起こす。より具体的には、例えば外傷による気道損傷やこれに引き続く肉芽増殖、および悪性疾患の気管、気管支内増殖に起因する気道狭窄、閉塞は、これを放置すると呼吸不全、窒息を合併して致死的経過を招来する可能性がある。従って、これらの病態では、管腔の狭窄、閉塞を速やかに解除する必要がある。かかる管腔の狭窄、閉塞の解除には、従来から、自ら拡張力を有する中空管(ステント)の管腔への留置術が行われてきている。
【0003】
このステント留置術に利用される医療用ステントは、その多くがシリコン中空管であるか、ステンレスなどの金属製の経線材と緯線材とを交叉させて形成したメッシュ状の筒状・管状体乃至は金属線を編み上げてなる筒状編成物である(前記各非特許文献及び特許文献1-4など参照)。
【0004】
しかるに、シリコン中空管のステントは、実用上充分な強度を確保するためには肉厚を厚くする必要があり、このため、内径/外径比を小さくして必要な管腔断面積を確保することが困難である難点がある。更に、このステントは留置後に、その位置がずれやすい、また気道用ステントの場合は喀痰の排出が困難となるなどの短所もある。
【0005】
金属製のステントは、上記シリコン中空管に認められる如き欠点はないため、現在、脈管内留置によく用いられている。しかしながら、この金属製のステントは体内留置後には通常抜去困難であり、生体内に異物として半永久的に残るという致命的欠点がある。このような生体にとって異物であるステントを生体内に残存させておくことは、それ自体生体にとっては好ましくないのみならず、その残存は、特に金属製のステントではこれが硬質であるために、脈管にストレスを与え、脈管再狭窄の原因となる炎症や過剰肥厚などの問題を生じる不利がある。また長期使用において発生する金属疲労に起因したステントの破損が臓器損傷を引き起こす欠点もある。
【0006】
即ち、医療用ステントは、例えば、ステント留置に起因する合併症が発生した時や、病巣の治療終了によって管腔の開存が回復した場合などには、できるだけ速やかに、生体からその抜去を行うのが望ましいが、従来の医療用金属ステントはこのような必要な時期に容易には抜去できないという致命的な欠点を有している。
【0007】
近年、上記金属製ステントに見られる重大な欠点である、一旦生体内に留置後は容易に抜去できないという欠点を改善した医療用ステントとして、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)などの生体吸収性樹脂繊維を編み上げて作製したステントが提案されている(特許文献5-8など参照)。
【0008】
これらのステントは、生体内留置後一定期間で樹脂繊維が分解し、生体に吸収され、かくして、該ステントが異物として生体内に残存しないというものである。
【0009】
しかしながら、提案されたステントは、生体内留置後、これを構成する生体吸収性樹脂の分解速度を人為的に制御することが不能であり、しかもその分解速度は生体内の環境条件などに左右されるため、予期せぬ時期にステントの拡張力が低下する欠点がある。ステント使用中における拡張力の低下は、ステントがそれ自体の強度を保てなくなり、脈管が閉塞するという弊害を招く。また、例えば病巣治癒後にも尚樹脂の分解が速やかには起こらない場合は、前述した金属製のステントと同様に、炎症や過剰肥厚などの問題を生じるおそれが多分にある。
【非特許文献1】先端医療シリーズ20・癌 肺癌の最新医療、株式会社寺田国際事務所/先端医療技術研究所発行、2003年4月初版1版刷、末舛恵一監修、P189 -195
【非特許文献2】延山誠一他、The Journal of the Japan Society for Broncholgy, Vol.26, No. 2, March 2004, p.132-137
【非特許文献3】棚橋雅幸他、The Journal of the Japan Society for Broncholgy, Vol.26, No. 1, Jan 2004, p. 33-38
【非特許文献4】三輪啓介他、The Journal of the Japan Society for Broncholgy, Vol.25, No. 7, Nov 2003, p. 497-502
【非特許文献5】高木敬吾他、The Journal of the Japan Society for Broncholgy, Vol.26, No. 2, Mar 2004, p. 138-144
【非特許文献6】伊東真哉他、The Journal of the Japan Society for Broncholgy, Vol.26, No. 2, Mar 2004, p. 145-148
【非特許文献7】荒木潤他、The Journal of the Japan Society for Broncholgy, Vol.25, No. 8, Dec 2003, p. 622-631
【非特許文献8】伊垣敬二他、日本機械学会論文集(A編)、65巻639号(1999-11)、187-192頁
【特許文献1】特許第2842943号公報
【特許文献2】特開2002-95756号公報
【特許文献3】特開2003-334255号公報
【特許文献4】特表平8-502428号公報
【特許文献5】特許第2961287号公報
【特許文献6】特開平9-308693号公報
【特許文献7】特開平11-137694号公報
【特許文献8】特開2004-166807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明は、公知の医療用ステントに見られる欠点を悉く解消した改良された医療用ステントを提供することを目的とする。より詳しくは、本発明の目的は、ステント留置後は、ステント本来の拡張力を保持しており、しかも任意の時期に生体内より抜去することができ、かくして脈管再狭窄の原因となる炎症や過剰肥厚などの問題を生じるおそれをできるだけ回避した、改良されたステントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、例えば、金属線と生体吸収性樹脂繊維とを用いて両者を段柄に編みあげてスパイラル構造の編成物とするなどの操作によって、金属線のスパイラルと生体吸収性樹脂繊維とを交絡させる時には、金属線のスパイラル構造が拡張力を保持し、しかもこれとニット結合などによって交絡する生体吸収性樹脂繊維は、得られるステントを生体内留置後に分解し生体に吸収されて消失し、この消失によって上記金属線は容易に抜去可能となることを見出した。本発明はこの知見を基礎として更に研究を重ねた結果完成されたものである。
本発明は下記項1〜11に記載の発明を提供する。
【0012】
項1. 縮径可能な中空管構造を有する医療用ステントであって、管の外部方向に対して拡張力を保持するためのスパイラル構造を有する金属線と、該金属線と交絡された生体吸収性樹脂繊維とからなり、該生体吸収性樹脂繊維はその分解によって金属線に生体からの抜去性を付与するものである医療用ステント。
【0013】
項2. 金属線が、管の長さ方向に伸長可能なスパイラル構造(コイル状)を有し、生体吸収性樹脂繊維が、上記金属線のスパイラル構造の管の長さ方向への伸長を制御するように交絡されている項1に記載のステント。
【0014】
項3. 金属線のスパイラル構造が、ニット編み目を有しており、該編み目部分が生体吸収性樹脂繊維によって編成されてなる項1または2に記載のステント。
【0015】
項4. ニット編み目を有する金属線のスパイラル構造と、ニット編み目を有する生体吸収性樹脂繊維のスパイラル構造とが、両ニット編み目によって段柄に(交互に)編成されてなる項1〜3のいずれかに記載のステント。
【0016】
項5. 少なくとも金属線の有するニット編み目が、ニードルループと該ニードルループよりも大なるコース方向長さのシンカーループを有するものである項4に記載のステント。
【0017】
項6. 金属線が、ステンレス鋼(SUS)製またはニッケルチタン合金(NiTi)製である項1〜5のいずれかに記載のステント。
【0018】
項7. 生体吸収性樹脂繊維が、ポリ乳酸(PLA)モノフィラメント、PLAマルチフィラメント、ポリグリコール酸(PGA)モノフィラメントまたはPGAマルチフィラメントである項1〜6のいずれかに記載のステント。
【0019】
項8. 金属線および生体吸収性樹脂繊維の少なくとも一方が、更に医療用薬物を保持するものである項1〜7のいずれかに記載の医療用ステント。
【0020】
項9. 食道、胆管、尿管、前立腺尿道、尿道、結腸、気管支/気管管腔、胃腸管腔、血管、膵管、小腸及び大腸からなる群から選ばれる脈管用である項1〜8のいずれかに記載のステント。
【0021】
項10. 項4に記載のステントの製造方法であって、金属線を供給するための少なくとも1の給糸口と、生体吸収性樹脂繊維を供給するための少なくとも1の給糸口とを設けたステント編機を用いて、金属線と生体吸収性樹脂繊維とを段柄に製編する工程を含む方法。
【0022】
項11. 項4に記載のステントの製造方法のためのステント編機であって、金属線を供給するための少なくとも1の給糸口と、生体吸収性樹脂繊維を供給するための少なくとも1の給糸口とを設けたステント編機。
【0023】
更に、本発明は、上記各項1-9に記載の本発明ステントを処置が要求される脈管内に留置して、該脈管の形態を保持する方法、特に脈管内の狭窄部に留置してこれを拡張し、かくしてその閉塞などを防止する方法をも提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明ステントは、前記構成としたことに基づいて、次のような利点を有している。
【0025】
即ち、本発明ステントは、前記構成としたことに基づいて、生体内留置後にはこれを構成する生体吸収性樹脂繊維が分解、消失して、金属線から構成されるスパイラル構造(中空螺旋構造)のみが管腔内に留置されることとなる。しかるに、ステントは、一般にその留置後比較的速やかに管腔臓器の内膜細胞が該ステントを裏打ちするため、本発明ステントは上記生体吸収性樹脂繊維の分解後も、金属線の螺旋構造の崩壊や位置ずれは起こらず、このため十分な拡張力を維持することができる。一方、ステントを留置したことに起因して合併症などが発症する場合や、病巣の治療により管腔の開存が回復した場合には、ステントの抜去が望まれる。本発明ステントは、前記金属線の螺旋構造が、もはや生体吸収性樹脂繊維とは交絡しておらず、その長さ方向に自由に伸長し得るものであるため、このような抜去が望まれる場合に、螺旋構造の一端を引っ張るのみで容易に一本の金属線として体外に摘出可能である。
【0026】
勿論、本発明ステントは、縮径可能な中空間構造を有することに基づいて、ステント本来の特性、即ち、各種脈管内に容易に留置でき、留置後は前述したように脈管の狭窄部の拡張及び形態保持を図る特性を備えている。
【0027】
本発明ステントの上記利点およびその他の主な利点を羅列すると次の通りである。
(1) 脈管に留置前に縮径時、拡径時の径を安定させるためヒートセットなどの操作が不要である。
(2) 各種径のあらゆる生体管腔の何れにも容易に適用できる、
(3) 管の長さ方向への曲げが容易であり、曲がった脈管に対しても適用できる、
(4) 柔軟性および形態保持性に優れている、
(5) これを留置される生体脈管内壁に与えるストレスを極小化できる、
(6) 用いる金属線と生体内吸収性樹脂繊維の種類、配合比率などを適宜変更することによって、拡張力、伸縮性、生体吸収消失期間などを容易に制御できる、
(7) これを留置された脈管の炎症や過剰肥厚などをできるだけ回避して、再狭窄を防止できると共に、任意の時期に生体から抜去可能である
(8) 抗癌剤などの治療薬物を金属線の表面にコーティングなどにより保持させたり、生体内吸収性樹脂繊維に含有させたりすることができ、これらによって治療薬物を病巣に選択的に放出可能である、
(9) 上記(8)に示す治療薬物による治療法は、ステントが抜去可能であることから繰り返し施行可能である。即ち、この治療法はドラッグデリバリーシステムとして使用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明医療用ステントにつき詳述する。
【0029】
(1) 金属線
金属線としては、従来よりこの種ステントの構築に利用されることの知られている各種の金属線を何れも使用することができる。その具体例としては、例えばステンレス鋼、タンタルム、プラチナもしくはプラチナ合金、金もしくは金合金、コバルト−クロム−ニッケル合金などのコバルトベース合金、ニッケルチタン合金などを挙げることができる。これらの内では、ステンレス鋼、ニッケルチタン合金などが好ましい。特に好ましいステンレス鋼としては、SUS304、SUS716などを挙げることができる。これらの金属線はその一種を単独で用いることもでき、また2種以上を併用することも可能である。
【0030】
これらの金属線の太さは、作製するステントに要求される拡張力などに応じて適宜決定でき、特に制限されるものではない。通常金属線の種類、利用の形態、即ちこれを用いて作製するステント大きさ、形状、これと交絡させる生体吸収性樹脂繊維の種類、使用比率などに応じて、適宜選択される。一般には、約20〜300μmの範囲から選ばれるのが普通である。
【0031】
金属線は、適当な医療用薬物(治療薬物)を保持(含有)するものであってもよい。この医療用薬物の保持は、例えばコーティングなどの手法に従って、金属線を医療用薬物又はこれを含む被膜にて被覆させることにより実施できる。この薬物としては、ヘパリン、ウロキナーゼ、t-PA(組織プラスミノーゲンアクチベーター)などの血栓溶解剤や抗血栓剤を挙げることができる。更にこの薬物には、シロリムス(Sirolimus, 商品名ラパマイシン(Rapamycin))などの免疫抑制剤、パクリタクセルなどの抗悪性腫瘍剤なども包含される。これらを保持する金属線を利用して得られる本発明ステントは、薬剤溶出性ステント(drug-eluting stent, DES)として有用である。即ち、上記薬物は、本発明ステントを脈管内に留置後、その生体内環境に応じて、ステント表面より徐々に溶出して、薬物本来の機能を発揮することができる。各薬物の金属線への保持量は、これらの薬物がその溶出によって薬物本来の治療効果などを発揮できる有効量とされ、これは利用する薬物の種類、得られるステントの種類、処置を要求される脈管及びその疾患の程度などに応じて、当業者にとり適宜決定できる。
【0032】
(2) 生体吸収性樹脂繊維
生体吸収性樹脂繊維は、生体吸収性乃至生体分解性ポリマーの繊維である。ここで、生体吸収性及び生体分解性とは、生体内で利用される通常の代謝物に転化される非毒性の分解生成物に完全に分解することができることを意味する。該ポリマーとしては、従来より、この種ステントの材料や外科手術用縫合糸として提案されている各種のポリマーを何れも利用することができる。これには、例えばポリ乳酸(PLA、ポリ-L-ラクチド(PLLA)及びポリ-D-ラクチド(PDLA)を含む)、ポリグリコール酸(PGA、ポリグリコリドともいう)、ポリグラクチン(ポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体)、ポリジオキサノン、ポリカプロラクチン、ポリグリコネート(トリメチレンカーボネート−グリコリド共重合体)、ポリグリコール酸またはポリ乳酸とεカプロラクトンとの共重合体、ポリ乳酸とポリオキシエチレンオキシドとの共重合体、変成セルロース、コラーゲン、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリホスホエステル、ポリ(アミノ酸)などが含まれる。これらの内ではPLA、特にPLLA、PGAなどが好ましい。これらの生体内吸収性樹脂繊維は、その一種を単独で利用することもでき、また2種以上を組み合わせて利用することもできる。
【0033】
これらポリマーの繊維は、各ポリマーを紡糸(押し出し成形)してなる一本の糸状形態(モノフィラメント)であってもよく、また各ポリマー繊維製フィラメントの複数本(異なるポリマー繊維であってもよい)、通常10-36本を編み合わせてなる撚糸状形態(マルチフィラメント)であってもよい。具体的な市販品としては、例えば、バーミンガムポリマー社製(米国)の各種ポリマー繊維や、外科手術用の縫合糸の材料として商品化されている「バイクリル」(Ethicon社製)などのマルチフィラメント吸収性糸、「マクソン」(Tyco health care社製)などのモノポリーマ吸収糸などを挙げることができる。
【0034】
上記生体内吸収性樹脂繊維(モノフィラメント及びマルチフィラメントの両者を含む、以下同じ)の線径は、所望されるステントの拡張力、生体内における分解速度に影響を与える。従って、これらの要件及び該ステントを適用して処置される脈管の種類などに応じて、適宜に決定することができる。一般には、約0.1mm〜1.0mmの範囲で選択されるのが普通である。
【0035】
本発明においては、この生体吸収性樹脂繊維に、必要に応じて、例えば抗生物質、抗癌剤などの種々の医療用薬物を保持させることができる。この医療用薬物の保持は、生体吸収性樹脂の製造時に又は該樹脂を所望の繊維形状に成形する際に、樹脂材料又は繊維中に該薬物を練り込んで混入させたり、繊維表面にコーティングなどによって付着させたりすることによって実施できる。上記繊維表面への付着は、最も単純には、例えば医療用薬物を溶解させた適当な溶液中に単に繊維を浸すか、同様の溶液を繊維に吹きかけることによって実施できる。
【0036】
上記医療用薬物には、再狭窄の処置(予防)に有用と考えられる各種の薬剤、例えば抗凝固因子薬剤、抗血小板物質薬剤、代謝拮抗物質薬剤、抗炎症性薬剤、有糸分裂阻害薬なども含まれる。それらの詳細については、例えば国際特許公開WO91/12779号パンフレットの記載が参照される。より具体的には、例えばトラニラスト(商品名リザベン、アレルギー性疾患/ケロイド・肥厚性瘢痕治療薬)、デクサメタゾン(合成副腎皮質ホルモン、炎症治療剤)、トコフェロール(ビタミンE)などを挙げることができる。各薬物の使用量は、これらの薬物がその本来の治療効果などを発揮できる有効量とされ、これは利用する薬物の種類、得られるステントの種類、処置を要求される脈管及びその疾患の程度などに応じて、当業者にとり適宜決定できる。
【0037】
医療用薬物を保持させた生体吸収性樹脂繊維の利用によれば、該薬物を患部に集中的に投与することができる。即ち、生体吸収性樹脂繊維に保持された医療用薬物は、本発明ステントを生体内に留置後、該ステントからの生体吸収性樹脂繊維の分解に伴って、体内に徐放され、かくして、該薬物本来の治療効果を発揮することができる。
【0038】
(3) 本発明ステント
以下、本発明ステントを、添付図面を参照して更に詳細に説明する。
【0039】
本発明ステントは、上記金属線と生体吸収性樹脂繊維とを用いて、これらを交絡させることにより製造できる。
【0040】
(3-1) ニット編みステント
特に好ましい本発明ステントの一実施態様は、図1に示されている。この図に示された本発明ステント1は、ニット編み目を有する金属線10のスパイラル構造と、ニット編み目を有する生体吸収性樹脂繊維20のスパイラル構造とが、両ニット編み目によって段柄に(交互に)編成されてなる縮径可能な中空間構造を有している。
【0041】
図1に示される本発明ステントの編成の態様は、図2(拡大図)に示されている。図2の(a)によれば、金属線10と生体内吸収性樹脂繊維20とのそれぞれは、ニードルループ11,11'とシンカーループ12,12'とからなる編み目を備えており、金属線10のシンカーループ11が、生体内吸収性樹脂繊維20のシンカーループ11'に絡み合って編成されている。ここで、金属線10のニードルループ11のウェール方向高さ(HN)に対するコース方向長さ(LN)の比は、該金属線の塑性曲げ領域内の曲率が得られるものとするのが好ましい。また、シンカーループ12のコース長さ(LS)を、ニードルループ11のコース方向長さ(LN)よりも大とする(長くする)ことによって、シンカーループ11の長さの範囲において、金属線10が弾性変形域を保つことができ、かくして、本発明ステントの管の外部方向に対する拡張力を保持することができる。
【0042】
上記図2-aに示す編成態様の本発明ステントは、そのウェール方向、即ち軸長方向(管の長さ方向)に伸張力が加えられた場合、ニードルループ11の内側にシンカーループ12がその内側から引き込まれ、図2の(b)に示されるように、ウェール方向に伸張し、これに伴ってコース方向に縮径する。即ち、図1に示す軸方向長さLを増し、直径Dを減じる。
【0043】
本発明ステントは、このような状態で脈管の所望部位に挿入、留置することができる。挿入後は、その管の内側から外部方向向きに、例えばバルーンを膨らませるなどの操作によって、力を加えることにより拡径することができる。この拡径は、例えば、図2の(b)に示す状態から(a)に示す状態(編成時)への復帰であり、シンカーループ12のニードルループ11両側への引き出しに相当する。この引き出しは、ニードルループ11,11'が絡み合うまで可能であり、この引き出し及び絡み合いによって、本発明ステントはその管の外部方向に対して強い拡張力を発揮する。特に、引き出されたシンカーループ12は図2の(a)に示されるように隣接するニードルループ11,11間にほぼ直線状に延びる形となり、これが上記拡張力の発現に大きく寄与するのである。この拡張力は、特に金属線の場合に大きく、生体内吸収性樹脂繊維では比較的小さいが、塑性曲げ加工が可能な生体内吸収性樹脂繊維の場合は、例えば繊維の径を太くすることなどによってほぼ金属線と同様のものとすることができる。
【0044】
また、上記において、金属線の線経及び生体吸収性樹脂繊維の線経の組合せを変化させれば、得られる本発明ステントは、それ自体で自己拡張を達成することも可能である。即ち、本発明ステントは、これを構成する金属線と生体内吸収性樹脂繊維との組合せを適宜変更することによって、セルフエクスパンダブルステントとしても、またバルーンエクスパンダブルステントとしても調製可能である利点がある。従って、本発明ステントは、これを適用すべき管腔臓器の特性に応じて、好ましい留置方法に適したステントとして、バルーン拡張式及び自己拡張式のいずれとしても有効に利用することができる。
【0045】
以上で説明したニット編み形態の本発明ステントにおける、金属線と生体内吸収性樹脂繊維との交絡は、図1では、それぞれ一本の糸が交互にニット編みされる態様として示されている。しかしながら、この交絡は、このような各一本ずつを交互にニット編みする態様に限ることなく、金属線と生体内吸収性樹脂繊維とがそれぞれ拡張力保持及び金属線の抜去性付与を行い得る限り、任意の変化が可能である。
【0046】
上記金属線の抜去性は、本発明ステントを構成するもう一方の生体内吸収性樹脂繊維が生体内で分解、消失することによって、該金属線がほぐれて、その結果、体外に容易に引き抜くことができることを前提としているから、ニット編みされた本発明ステントでは、金属線同士がニット結合されてないことが望ましい。このような本発明ステントの他の態様としては、例えばニット編み目を有する一本の金属線のスパイラル構造間に、ニット編み目を有する二本以上の生体内吸収性樹脂繊維のスパイラル構造を介在させた態様、即ち一本の金属線と、二本以上の生体内吸収性樹脂とを段柄に編み上げた態様を挙げることができる。また、複数本の金属線と複数本の生体内吸収性樹脂繊維とを利用して、これらを交互に交絡させて本発明ステントを構築することも可能である。
【0047】
上述した本発明ステントは、これを脈管に留置するために目的部位まで運ぶ際、種々の蛇行した脈管を通過させる場合があるが、このような運搬が容易である利点をも有している。即ち、ニット編みされた本発明ステントは、構成素材の組成、線経、組合せなどを変更することによって、その拡張力、収縮力、さらには外力に対する寸法復元力などを容易に調整できる利点がある。またこれらの調整によって、かなりの程度で任意に蛇行させ得るものとすることができると共に、脈管の屈曲部にも挿着、留置可能なものとすることができる自由度を有している。特にこの自由度は、生体内吸収性樹脂繊維として複数本のフィラメントを撚り合わせたマルチフィラメントを利用する場合や、可撓性の高い繊維を選択する場合や、繊維の径を小さくすることによって、より高いものとすることができる。
【0048】
(3-2) ブレード(組物)ステント及び織物ステント
図3は、本発明ステントの他の一実施態様を示す概略図である。
【0049】
この図に示される本発明ステントは、複数本の金属線を左回り又は右回りのいずれかの方向周りに、複数本の生体内吸収性樹脂繊維をその逆方向周りに、それぞれスパイラル状で交絡させてなる円筒状ステントである。このステントは、通常の組紐などの製造技術によって、容易に製造することができる。より詳しくは、公知の組紐機に組み込みたい本数の糸が巻かれたボビンをセットし、それらの内の金属線を例えば右回りに、生体内吸収性樹脂繊維を左回りに、それぞれスパイラル状に交絡させて円筒を得ることにより製造することができる。
【0050】
このステントは、その軸方向(管の長さ方向)に伸長力を加えることによって縮径し、その状態で容易に脈管内に留置できる。脈管内留置後は、例えばバルーンなどを利用した拡径によって、ステント本来の管の外部方向に対する拡張力を保持する。また、金属線と生体吸収性繊維との組合せによっては、自己拡張形とすることもできる。このステントは、生体内留置後一定期間を要して、生体内吸収性樹脂繊維が生体内で分解し、生体に吸収されて消失する。これによって、該生体内吸収性樹脂繊維と交絡されていた金属線は、それぞれ独立した(結合のない)スパイラル構造として生体に残存する。この残存する縦糸は、それ自体で拡張力を維持することができ、また、必要な時に体外から引き抜くことができる。
【0051】
上記ブレードステントと類似の構造を有するステントとして、例えば、一本の金属線を横糸とし、複数本の生体内吸収性樹脂繊維を縦糸として使用して、横糸をスプリングコイル状(スパイラル構造)となし、該コイルを複数本の縦糸で縫うように織り上げてなる織物形態の金網状円筒構造もまた、本発明ステントの他の一実施態様に包含される。このステントは、例えば円筒織り機を利用して製造することができる。
【0052】
このステントは、脈管内留置後、例えばバルーンなどを利用した拡径によって、ステント本来の管の外部方向に対する拡張力を保持する。また、生体内留置後は、縦糸を構成する生体内吸収性樹脂繊維が、一定期間を要して生体内で分解し、生体に吸収されて消失する。これによって、横糸は独立した(結合のない)スパイラル構造として生体に残存する。この縦糸は、それ自体で拡張力を維持することができ、また、必要な時に体外から引き抜くことができる。
【0053】
(3-3) ジグザグ状ステント
図4は、本発明ステントの他の一実施態様を示している。
【0054】
この図に示されたステントは、図1に示されるニット編みステントにおける編み目を有する金属線の代わり、相当する編み目(ループ)を有するジグザグ状の金属線10を利用して、スパイラル構造を形成させ、該スパイラル構造の編み目を、生体内吸収性樹脂繊維20にて編み込んだ形態を有している。
【0055】
上記スパイラルのステント軸方向に対する間隔は、用いる金属線の種類、所望の拡張力、留置されるステントの長さなどに応じて、適宜決定でき、特に制限されるものではないが、通常0.05-0.5mm程度の範囲内から選ぶのが普通である。スパイラルのステント軸方向に対する角度(ピッチ)も、任意に選択できるが、一般には60°以上、90°未満の範囲から選択され得る。金属線の曲率半径は、抜去性を確保する観点から弾性変形範囲以内であることが望ましい。ジグザグ状に折り曲げられた金属線10の直線部分の長さは、該金属線の線径、所望の拡張力、ステントの管径などに応じて適宜選択できる。例えば消化管、気管などの比較的径の大きい脈管用のステントの場合、通常0.2〜1.0mm程度の範囲から選択することができる。また、隣り合う直線部分のなす角度(θ)は、約10-110°の範囲から適宜選択することができる。本ステントは自己拡張により拡経し拡張力を得るものである。
【0056】
(3-4) 本発明ステントの製造
本発明ステントは、従来より繊維製品分野(織物、編物、組物分野)で知られている各種の技術に従って、製造することができる。
【0057】
その製造の具体例を前記図1に示す本発明ステントを例に挙げて詳述すると、該ステントは、例えばパンティストッキングなどの製造のために広く利用されている円形編機(筒編機)を使用して編成することができる。該円筒編機は、縦軸周りに回転するシリンダと、該シリンダの周上で回転に応じて各別に上下動する複数の編み針とを備えている。この編機による編成の基本は次の通りである。即ち、前記シリンダの周上に金属線10を供給すると、上動する編み針がこれを捉え、下動してシンカーラインの下方に引き込む。シリンダ周上に並ぶ各針の上下動により、引き込み部に形成されるニードルループ11が、シンカーライン上のシンカーループ12の両側において図2の(a)に示すよう絡み合ってニット編み目を編成する。
【0058】
通常の筒編機は給糸口が1口であるが、本発明ステントの製造には、該給糸口を2口又はそれ以上設けた複合編機を利用する。該編機のそれぞれの給糸口に対応してカム山を設けることにより、同時に2段又はそれ以上の編み目を形成するものとする。即ち、例えば給糸口を2口設ける場合は、その一方の給糸口から金属線10を供給し、もう一方の給糸口から生体内吸収性樹脂繊維20を供給しながら編機を駆動させる。これによって、金属線10と生体内吸収性樹脂繊維20とを段柄に(交互に)製編させ得る。
【0059】
上記において、それぞれの給糸口に対応する双方の上カムを一体ものではなく、分割構造とすることにより、金属線10と生体内吸収性樹脂繊維20との編み目の大きさを異ならせることができる。また、編み機のシリンダの中に所望の内径と同寸法の丸棒を挿入し、これに編み地を巻き付けるようにして編むことにより、所望のステント径を得ることが可能である。
【0060】
一般に小径筒編機では編針が作動するシリンダは固定されており、針を上下させるカムと給糸口を有するハウジングがシリンダの周りを回転し、糸を供給しながら針の上下運動をさせる構造となっている。給糸口が一口の編機の場合、製編する糸は編機とは別の場所に設置し、編機の真上方向より給糸口へ糸を供給するが、本発明ステントの製造のための前記複合編機では、給糸口を2口又はそれ以上とするため、上記と同様に編機の真上方向から糸を供給すると、給糸口に到る前に各糸が絡み合って編めなくなる。従って、該複合編機では、それぞれの糸を給糸口と同期させて回転させるのが望ましく、これによって、上記欠点を回避できる。
【0061】
更に、金属線及び生体内吸収性樹脂繊維(モノフィラメント)は、通常そのもの自体には撚りがないが、このような糸を、垂直に立てたボビンから上下方向に繰り出す(解除する)と、撚りが発生する。このような撚りは、製編後の編み地に捻れを生じる不利がある。この撚りの発生を防ぐため、本発明に利用する複合編機では、各糸を巻いたボビンを水平に設置して、その回転に応じて巻かれた糸を解除する(引っ張る)ことによって供給するのが望ましい。
【0062】
本発明ステントにおいては、これを構成する金属線(場合によっては生体内吸収性樹脂繊維も含む)のシンカーループ12が、図1及び2に示されるように、ニードルループ11よりも大なるコース方向長さを有するのが望ましい。このシンカーループのコース長さ(LS)は、上記複合編み機のシリンダの周方向の編み針の並設間隔によって決定される。従って、この編み針の併設間隔を適宜選択することによって、上記望ましいコース長さ(LS)を得ることができる。通常、一般的な円形編機を用いてニット編みを行う場合、ニードルループ11のコース方向長さ(LN)とシンカーループ12のコース長さ(LS)とは略等しくなる。シンカーループ12のコース方向長さ(LS)をニードルループ11のコース長さ(LN)より長くするための一つの好ましい態様としては、例えば、通常の円筒編機の複数の編み針を、シリンダの周方向に1〜3本飛ばして配置して、この部分に対応する位置にニットミス編みを形成させる態様を挙げることができる。また、他の好ましい態様としては、編み針を上下動させるカムの設計を変更して、シリンダの周方向に並ぶ編み針を1〜3本飛ばして上下動させて、上下動しない編み針に対応する位置にニットミス編み目を形成させる態様を挙げることができる。かくして、本発明のステントを編成できる。
【0063】
他の実施態様に係る本発明ステントも、上記と同様にして、従来より繊維製品分野で知られている各種の編物技術、組み物技術、織物技術に従って、製造することができる。
【0064】
尚、本発明ステントにおける金属線と生体内吸収性樹脂繊維との使用比率は、これらの種類や得られるステントの拡張力及び抜去性に応じて、任意に決定できるものであり、特に制限されるものではない。
【0065】
(4) 本発明ステントの適用
本発明ステントは、食道、胆管、尿管、前立腺尿道、尿道、結腸、気管支/気管管腔、胃腸管腔、血管、膵管、小腸、大腸などの各種の脈管、即ち狭窄の起こり得る生体管路のおよそ全てに適用することができる。特に、本発明ステントは、閉塞、狭窄によって窒息、呼吸不全などを及ぼすおそれのある気道病変に対して、有利に適用でき、かくして気道開存による姑息的治療の実施を行い得る。
【0066】
また、本発明ステントは、良性疾患による管腔臓器の狭窄に対して、一時的管腔開存を目的として、これを留置、適用することができる。この場合、本発明ステントは、当該疾患の治癒後にこれを抜去することによって、該ステント留置(異物反応)による再狭窄などを回避することができる。
【0067】
更に、本発明ステントは、小児を患者とする管腔臓器の狭窄などの病態に対しては、患者の成長に伴われる臓器の増大に対応して、最適経のステントの入れ替えが可能である利点がある。
【0068】
本ステントに治療薬物を含有させた場合には、病巣部位に選択的に治療薬物を分布させて、該薬物治療の効果増強が可能になる。またその治療形態を病勢に応じて複数回施行することも可能である。
【0069】
本発明ステントの適用方法は、例えば、脈管形成術実施部にバルーン付きカテーテルを介して挿入し、バルーンの膨張によって拡張させることにより、或いはバルーン付きカテーテルにより病巣を拡張させた後、本ステントの自己拡張により挿着(留置)する方法を挙げることができる。
【0070】
これらの方法に適した本発明ステントの拡張時の外径は、これを適用する脈管の大きさに応じて適宜決定できる。通常、脈管の狭窄部に適用される場合、該狭窄部を押し広げて管腔の内腔を確保する必要があるため、留置する管腔の内径より約5〜20%程度大きい外径を有するのが望ましい。また、本発明ステントの収縮時の外径は特に限定されないが、その留置時における患者の侵襲(ストレス)などを考慮すると、できるだけ小さい方が好ましい。一般には、拡張時外径の1/2〜1/5程度の外径であるのが好ましい。
【0071】
本発明ステントを生体に留置し拡張させた時の長さは、拡張させる管腔の種類およびその狭窄部の長さに応じて適宜決定できる。通常、約20mm〜200mm程度が一般的である。
【0072】
尚、本発明ステントは、上記管腔内に挿着後、数週間ないし数ヵ月で、該ステントを構成する生体内吸収性樹脂繊維が、生体組織に吸収されて消失するものとするのが好ましい。
【0073】
実施例
以下本発明を更に詳細に説明するため、実施例を挙げる。
【0074】
実施例1
金属線としてSUS (SUS304W1、日本精線株式会社製、直径0.2mm)を用い、また生体内吸収性樹脂繊維としてPLAモノフィラメント (520T、中興化成株式会社製、直径0.23mm)を用いて、これらを図1に示すように交互に交絡させてなる本発明ステントを作製した。このものは、ステント径20mm、ステント長さ60mmであった。
【0075】
即ち、前記(3-4)項に記載した2口の給糸口、各給糸口に対応するカム山及び各給糸口と同期させて回転する水平に設置されたボビンとを備えた複合編機を利用して、一方の給糸口から金属線10を供給し、もう一方の給糸口から生体内吸収性樹脂繊維20を供給しながら編機を駆動させることによって、金属線10と生体内吸収性樹脂繊維20とを段柄に(交互に)製編させてなる本発明ステント試料を作製した。
【0076】
実施例2
実施例1において、PLAモノフィラメントに代えてPLAマルチフィラメント ( 中興化成株式会社製、150デニール)を用いて、同様にして、本発明ステント試料を作製した。
【0077】
試験例1
(1) 供試ステント試料
実施例1及び2で得た本発明ステント試料について、特に実用上必要となるステントを変形させるときの力(反発力)および拡張力を検討した。
【0078】
比較対象として市販されているステントから、Spiral Z stent (Medico’s Hirata社)試料(比較1)及びUltraflex stent (Boston Scientific社)試料(比較2)の二種(何れもステント径20mm、ステント長さ60mm)を選定した。
【0079】
また、対照のため、各実施例と同様にして(但し、複合編機の一方の給糸口は利用しない)PLAモノフィラメント繊維(520T、中興化成株式会社製、直径0.23mm)のみで構成されるステント(対照品、ステント径20mm、ステント長さ60mm)を作製して、試験に供した。
【0080】
(2) 反発力試験
各試料の反発力は、ステントの横圧縮荷重として評価した。ステントを上下2枚の金属平板に挟み、オートグラフを用いて横圧縮変形を与えた。各種ステントを断面方向に圧縮した際の荷重と変位を測定し、ステントが半径まで圧縮された時の荷重を比較した。下記表1に横圧縮試験の結果(反発力、kN)を示す。
【0081】
【表1】

【0082】
表1に示される結果から明らかなとおり、市販品であるSpiral Z stent及びUltraflex stent並びに対照品であるPLAモノフィラメントステントは、何れも20〜37kNと低い反発力値を示したのに対して、実施例1及び2で得た本発明ステント試料は何れも80kNの高い反発力値を示した。本発明ステントにおけるこれらの反発力値は、市販品の約4倍に相当する。
【0083】
(3) 拡張力試験
長方形の不織布を筒状に巻き、その円筒の一端を固定し、その円筒内に各ステント試料を挿入して、固定していない不織布の他端にプラスティック板を介してプッシュプルゲージ(イマダ社)を装着し、引張荷重を加え、ステント試料の直径変化を測定した。即ち、不織布の他端を引っ張ることによる不織布の円筒の縮径に伴うステントの縮径と荷重の関係を評価した。(三浦、吉岡、古市、田中、吉川、大石、「各種胆道ステントの物性比較に関する基礎的研究」、日本医放会誌、平成15年、63巻、5号、201-209参照)。得られた荷重測定値(Radial Force (gf))を供試ステントの拡張力(Radial Force (gf))として評価した。
【0084】
上記試験において、測定した各ステント試料の直径の変化量(縮径量、deformation, 単位:mm)と、上記拡張力との関連をグラフ化した。即ち、各試料の拡張力(荷重測定値)を縦軸とし横軸に直径の変化量をとって、上記試験の結果得られた直径が0.5mmずつ変化する(縮径する)時の各試料の拡張力(荷重測定値)をプロットした。
【0085】
各試料について得られた結果を図5に示す。
【0086】
図中、線(1)は実施例1で得た本発明ステント試料の結果であり、線(2)は実施例2で得た本発明ステント試料の結果であり、線(3)は対照品であるPLAモノフィラメントステント試料の結果であり、線(4)は市販品Ultraflex stent試料の結果であり、線(5)は市販品Spiral Z stent試料の結果である。
【0087】
図5に示される結果から次のことが明らかである。即ち、拡張力については、実施例1で得た本発明ステント試料(SUS + PLA モノフィラメント)(線(1))が最も高い拡張力を示し、次いで、実施例2で得た本発明ステント試料(SUS + PLA マルチフィラメント)(線(2))がこれと略同等の高い拡張力を示した。これらの値は、優れた拡張力を有するものの一つとして知られている市販品であるUltraflex stent試料(線(4))に比しても、尚一層優れたものであった。また、市販品であるSpiral Z stent試料(線(5))は最も低い値を示した。更に、PLAステント試料(線(3))は、変形初期は、本発明ステント試料にほぼ匹敵する拡張力を示すが、荷重の増加とともに傾きが低下し、直径の約15%(3mmに相当)を縮径する荷重が加わった場合に、キンクが発生して拡張力を保持できないことが判った。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明ステントの一実施態様を示す概略図である。
【図2】図1に示す本発明ステントにおける金属線と生体吸収性樹脂繊維の編成態様を示す拡大図である。
【図3】本発明ステントの他の一実施態様を示す概略図である。
【図4】本発明ステントの他の一実施態様を示す概略図である。
【図5】実施例で得られた本発明ステント試料について、試験例1の(3)拡張力試験を行った結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0089】
(1) 本発明ステント
(10) 金属線
(11),(11') ニードルループ
(12),(12') シンカーループ
(20) 生体内吸収性樹脂繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縮径可能な中空管構造を有する医療用ステントであって、管の外部方向に対して拡張力を保持するためのスパイラル構造の金属線と、該金属線と交絡された生体吸収性樹脂繊維とからなり、該生体吸収性樹脂繊維はその分解によって金属線に生体からの抜去性を付与するものである医療用ステント。
【請求項2】
金属線が、管の長さ方向に伸長可能なスパイラル構造を有し、生体吸収性樹脂繊維が上記金属線のスパイラル構造の管の長さ方向への伸長を制御するように交絡されている、請求項1に記載のステント。
【請求項3】
金属線のスパイラル構造が、ニット編み目を有しており、該編み目部分が生体吸収性樹脂繊維によって編成されてなる、請求項2に記載のステント。
【請求項4】
ニット編み目を有する金属線のスパイラル構造と、ニット編み目を有する生体吸収性樹脂繊維のスパイラル構造とが、両ニット編み目によって段柄に編成されてなる、請求項1に記載のステント。
【請求項5】
少なくとも金属線の有するニット編み目が、ニードルループと該ニードルループよりも大なるコース方向長さのシンカーループを有するものである、請求項4に記載のステント。
【請求項6】
金属線が、ステンレス鋼(SUS)製またはニッケルチタン合金(NiTi)製である、請求項1に記載のステント。
【請求項7】
生体吸収性樹脂繊維が、ポリ乳酸モノフィラメント、ポリ乳酸マルチフィラメント、ポリグリコール酸(PGA)モノフィラメントまたはPGAマルチフィラメントである、請求項1に記載のステント。
【請求項8】
金属線及び生体吸収性樹脂繊維の少なくとも一方が、更に医療用薬物を保持するものである、請求項1に記載の医療用ステント。
【請求項9】
食道、胆管、尿管、前立腺尿道、尿道、結腸、気管支/気管管腔、胃腸管腔、血管、膵管、小腸及び大腸からなる群から選ばれる脈管用である、請求項1に記載のステント。
【請求項10】
請求項4に記載のステントの製造方法であって、金属線を供給するための少なくとも1の給糸口と、生体吸収性樹脂繊維を供給するための少なくとも1の給糸口とを設けたステント編機を用いて、金属線と生体吸収性樹脂繊維とを段柄に製編する工程を含む方法。
【請求項11】
請求項4に記載のステントの製造方法のためのステント編機であって、金属線を供給するための少なくとも1の給糸口と、生体吸収性樹脂繊維を供給するための少なくとも1の給糸口とを備えたステント編機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−296559(P2006−296559A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−119762(P2005−119762)
【出願日】平成17年4月18日(2005.4.18)
【出願人】(500409219)学校法人関西医科大学 (36)
【出願人】(502302271)圓井繊維機械株式会社 (3)
【Fターム(参考)】