説明

金属の回収方法とその装置

【課題】重金属等を含む廃液等の被処理液から、それらを有価物である金属として回収する方法と装置に関し、被処理液から回収対象金属のみを有価物である金属として回収することができ、且つ回収対象金属以外の不純物を含有する可能性が少なく、回収率が高く回収対象金属の純度が高い回収方法と装置を提供することを課題とする。
【解決手段】 回収すべき金属がイオン状態で含有されている被処理液をリアクター本体内に流入するとともに、該リアクター本体内に回収すべき金属よりもイオン化傾向が大きい金属からなる金属線を収容し、イオン化傾向の差異により前記被処理液中に含有される金属を前記金属線の表面に析出させ、その後、衝突部材を前記金属線に衝突させることにより前記金属線から前記析出した金属を剥離して回収することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の回収方法とその装置、さらに詳しくは、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Sn(錫)、In(インジウム)、Ga(ガリウム)等の重金属を含む廃液等の被処理液から、それらを有価物である金属単体あるいは合金として回収する方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、産業廃液には種々の金属が含有されていることがあり、それらを有価物である金属単体として回収することが試みられている。たとえば、メッキ工場廃液にはNi、Cu、Zn等が含有され、半導体製造工場廃液には、Cu、Ga等が含有され、液晶製造工場廃液にはIn等が含有され、これらを金属単体あるいは合金として回収できれば、それらの金属を再利用すること等も可能となる。
【0003】
重金属類を回収する廃液の処理技術として、従来では薬剤を用いた凝集沈殿処理、共沈処理等が一般に採用されており、濃度が低い場合には吸着剤を用いて金属類を除去することも行なわれている。また廃メッキ液からの金属回収では、鉄スクラップを廃メッキ液に投入し、Cu等の回収対象金属をセメンテーション法で回収する方法がある。たとえば共沈処理を利用する技術として下記特許文献1に係る発明がある。
【0004】
【特許文献1】特開2002−126758号公報
【0005】
しかしながら、薬剤を用いた凝集沈殿処理では、水酸化物の沈殿物がスラッジとして発生するという問題点がある。また鉄スクラップを廃メッキ液に投入し、セメンテーション法によりCu等を析出させる方法では、析出したCuが鉄スクラップ表面を覆った時点で析出反応が終了し、鉄をCuでコーティングしたものが回収されることとなり、目的とする金属のみを回収対象金属として回収することができない。また回収率が低く純度も低いものしか得られないという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、廃液等の被処理液から回収対象金属のみを有価物である金属単体あるいは合金として回収することができ、且つ回収対象金属以外の不純物を含有する可能性が少なく、回収率が高く回収対象金属の純度が高い回収方法と装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、金属の回収方法に係る請求項1記載の発明は、回収すべき金属がイオン状態で含有されている被処理液をリアクター本体1内に流入するとともに、該リアクター本体1内に回収すべき金属よりもイオン化傾向が大きい金属からなる金属線2を収容し、イオン化傾向の差異により前記被処理液中に含有される金属を前記金属線2の表面に析出させ、その後、衝突部材14を前記金属線2に衝突させることにより前記金属線2から前記析出した金属を剥離して回収することを特徴とする。
【0008】
また請求項2記載の発明は、請求項1記載の金属の回収方法において、多数の金属線2で回収金属析出体3が構成されていることを特徴とする。さらに請求項3記載の発明は、請求項2記載の金属の回収方法において、回収金属析出体3が、多数の金属線2を縦横に交差して構成された金網4を複数個具備して構成されている。さらに請求項4記載の発明は、請求項2又は3記載の金属の回収方法において、回収金属析出体3がリアクター本体1内に固定されていることを特徴とする。
【0009】
さらに請求項5記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の金属の回収方法において、衝突部材14が粒子状であることを特徴とする。さらに請求項6記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の金属の回収方法において、衝突部材14が回収すべき金属よりもイオン化傾向が小さい金属で構成されていることを特徴とする。さらに請求項7記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の金属の回収方法において、衝突部材14が樹脂で構成されていることを特徴とする。
【0010】
さらに金属の回収装置に係る請求項8記載の発明は、回収すべき金属がイオン状態で含有されている被処理液を流入するとともに、回収すべき金属よりもイオン化傾向が大きい金属からなる金属線2を収容して、イオン化傾向の差異により前記被処理液中に含有される金属を前記金属線2の表面に析出させる金属析出反応を行なうためのリアクター本体1と、前記金属線2に析出した金属を回収すべく、前記金属線2に衝突させて該金属線2から前記析出した金属を剥離させるための衝突部材14とを具備することを特徴とする。
【0011】
さらに請求項9記載の発明は、請求項8記載の金属の回収装置において、多数の金属線2で回収金属析出体3が構成されていることを特徴とする。さらに請求項10記載の発明は、請求項9記載の金属の回収装置において、回収金属析出体3が、多数の金属線2を縦横に交差して構成された金網4を複数個具備して構成されていることを特徴とする。さらに請求項11記載の発明は、請求項9又は10記載の金属の回収装置において、
回収金属析出体3がリアクター本体1内に固定されていることを特徴とする。
【0012】
さらに請求項12記載の発明は、請求項8乃至11記載の金属の回収装置において、衝突部材14が粒子状であることを特徴とする。さらに請求項13記載の発明は、請求項8乃至12のいずれかに記載の金属の回収装置において、衝突部材14が回収すべき金属よりもイオン化傾向が小さい金属で構成されていることを特徴とする。さらに請求項14記載の発明は、請求項8乃至12のいずれかに記載の金属の回収装置において、衝突部材14が樹脂で構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、上述のように、回収すべき金属を含有する廃液等の被処理液をリアクター本体内に流入するとともに、該リアクター本体内に金属線を収容し、イオン化傾向の差異により前記廃液中に含有される金属を前記金属線の表面に析出させ、その後、衝突部材を前記金属線に衝突させて該金属線から前記析出した金属を剥離して回収する方法であるため、このような金属線を用いることで従来の鉄のスクラップを用いる方法に比べて反応のための金属の総表面積が増加し、析出反応速度が向上し、またある程度成長した析出金属を衝突部材を衝突させて剥離させることで常に新しい金属表面を露出させ反応速度を維持することができるので、金属の回収効率を高めることができるという効果がある。
【0014】
また、多数の金属線で回収金属析出体を構成した場合には、その金属線の組み立てを自在に変更することによって、リアクター本体内の被処理液の濃度に応じて回収金属析出体の形状を自在に変更することができる。さらに回収金属析出体が、多数の金属線を縦横に交差して構成された金網を複数個具備して構成されている場合には、リアクター本体内の被処理液の流通流路を均等にすることができるという効果がある。さらに多数の金属線で回収金属析出体を構成し、その回収金属析出体をリアクター本体内に固定した場合には、金属線がリアクター本体から不用意に放出されるのが防止される。また金属線が固定されることになるので、衝突部材による析出金属の剥離効果が高まることになる。
【0015】
さらに衝突部材が粒子状である場合には、金属線への衝突による剥離効果がより良好になるという利点がある。さらに衝突部材が回収対象金属よりもイオン化傾向が小さい金属で構成されている場合には、回収対象金属が衝突部材側に不用意に析出するようなことも防止され、また衝突部材を構成する金属が不用意に被処理液中に溶出されるようなことも防止される。さらに衝突部材が樹脂で構成されている場合には、樹脂の比重を変えることによって流速に応じた衝突部材の浮遊状態を作り出すことができ、また回収対象金属以外の金属がリアクター本体の外部に流出するようなことも防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面に従って説明する。
(実施形態1)
本実施形態の金属の回収装置は、図1に示すように、縦長のリアクター本体1を具備したものである。本実施形態では被処理液として廃液を対象とする場合について説明する。前記リアクター本体1は、上下の全体で断面積が同じとなるように形成されている。
【0017】
リアクター本体1の下部側には、処理対象である廃液を流入するための流入用チャンバー7が設けられているとともに、リアクター本体1の上部側に上部チャンバー9が設けられている。上部チャンバー9は、回収された金属を排出するための部分であるとともに、後述する衝突部材14を投入する部分でもある。
【0018】
上部チャンバー9は、図1及び図2に示すように浅い円筒状に形成されており、流入用チャンバー7は、図3及び図4に示すように、中央筒部20と、該中央筒部20に連通して左右に設けられた側筒部21、21とからなる形状に形成されている。
【0019】
また上部チャンバー9は、図2に示すように内筒9a及び外筒9bで構成されており、
同図のように内筒9aがリアクター本体1の上部に外嵌合されることによって、上部チャンバー9がリアクター本体1に取り付けられている。そして、上部チャンバー9の下部であって、前記内筒9aと外筒9bとの間の位置に、回収されたフレーク状や微粒子状の金属を排出するための排出管10が取り付けられている。このように構成されている結果、リアクター本体1の内部を上向きに流通する被処理液は、内筒9aの上部開口部から、外筒9bと内筒9a間に溢流し、前記排出管10から外部に排出されることとなる。
【0020】
さらに、前記流入用チャンバー7の側筒部21、21の先端側にそれぞれ流入管8、8が設けられている。そして、流入用チャンバー7の側筒部21、21には邪魔板22、23が2条ずつ縦方向に設けられており、流入管8、8から流入される被処理液が、これらの邪魔板22、23によって流れが乱されるように構成されている。
【0021】
さらにリアクター本体1の内部には、金属線2が収容されている。より具体的には図5に示すように、多数の金属線2でメッシュ状に構成された回収金属析出体3がリアクター本体1の内部に固定して設けられている。その固定手段は特に限定されるものではなく、たとえば固定部材を介して内壁面に取り付ける手段、或いはリアクター本体1の
略中央に杆状体を立設させ、その杆状体に回収金属析出体3を掛止する等の手段によって固定することが考えられ、従来公知の種々の固定手段を採用することが可能である。
この回収金属析出体3は、図6に示すように、金属線2を縦横に交差させて矩形のプレート状に形成した複数枚の金網4を略等間隔に配置し、且つその金網4の四角のコーナー部に他の金属線2を結着させることにより、全体がブロック状かつ立体的なメッシュ状に形成されたものである。
【0022】
さらに本実施形態の金属の回収装置は、上記リアクター本体1の他に、図5に示すように、フィルター5及びポンプ6を具備している。そしてリアクター本体1の排出管10とフィルター5間、フィルター5とポンプ6間、及びポンプ6とリアクター本体1の流入管8間には、それぞれ流路11、12、13が設けられている。尚、この図5においては、排出管10と流入管8とは模式的に示しており、上部チャンバー9及び流入用チャンバー7は図示していない。
【0023】
上記のように多数の金属線2でメッシュ状に構成された回収金属析出体3に、回収対象金属が析出されることとなるが、その析出した回収対象金属を剥離させるための衝突部材14は、上部チャンバー9からリアクター本体1内に投入されることとなる。より具体的には、上部チャンバー9の内筒9aの上部開口部から投入されることとなる。
【0024】
本実施形態では、金属線2を構成する金属としてアルミニウム(Al)又は亜鉛(Zn)が用いられる。また処理対象となる廃液としては、インジウム(In)イオンを含有するフラット・パネル・ディスプレイ(FPD)製造工場廃液等が用いられる。この場合には、Inが金属として回収されることになる。
【0025】
さらに衝突部材14としては、金属製の粒状のものが用いられる。本実施形態では銅(Cu)が用いられる。この衝突部材14を構成する金属の種類は問わないが、廃液中の金属を衝突部材14側に析出させず、あくまで金属線2側に析出させる必要があるので、金属線2を構成するAl又はZnよりもイオン化傾向の小さい金属を用いる必要があり、さらに回収対象金属よりもイオン化傾向の小さい金属を用いることが好ましい。
【0026】
そして、このような構成からなる金属の回収装置によって金属を回収する方法について説明すると、先ず処理対象である廃液を流入管8から流入用チャンバー7を介してリアクター本体1内に流入する。この場合において、流入用チャンバー7は、上述のように中央筒部20と側筒部21、21とで構成され、側筒部21、21には邪魔板22、23が2条ずつ縦方向に設けられているため、側筒部21に対して横向きに取り付けられている流入管8、8から流入する廃液は、横方向に一気に流入するのではなく、縦方向に設けられた邪魔板22、23に沿って側筒部21内を上下に交互に流れながら中央筒部20内に流入し、その中央筒部20からリアクター本体1に向かって上向きに流通することとなる。
従って、流入管8、8から流入される廃液は、邪魔板22、23によって流れが乱され、偏流を生じさせずにリアクター本体1内を上向きに流通し易い状態となる。また必要があれば、流入チャンバー7内に、たとえば円筒状のかごにガラスあるいはセラミック製のボールを入れたものを設置することができ、これによって、より確実に偏流を防ぐことが可能となる。
【0027】
そして廃液がリアクター本体1内を流通すると、廃液中に含有されているInと、金属線2を構成するZn又はAlとのイオン化傾向の相違に基づく、いわゆるセメンテーション反応を生じさせる。これをより詳細に説明すると、各金属イオンの還元反応は次式のとおりであり、各金属イオンの標準電極電位(E°)をそれぞれに示している。
【0028】
In3++3e→In …(1) −0.34V
Zn2++2e→Zn …(2) −0.76V
Al3++3e→Al …(3) −1.66V
Cu2++2e→Cu …(4) +0.34V
【0029】
上記(1)〜(4)からも明らかように、In3+に比べて、Zn2+やAl3+の標準還元電位が小さい。換言すれば、Inに比べて、ZnやAlのイオン化傾向が大きいことになる。そのため、上記のような廃液の流通によって、イオン化傾向の大きいZnやAlがZn2+或いはAl3+となって廃液中に溶出し、それとともに廃液中に含有されていたIn3+がInとなって、ZnやAlの金属線の表面上に析出する。また、Cu2+に比べてZn2+やAl3+の標準還元電位が小さい。換言すれば、Cuに比べて、ZnやAlのイオン化傾向が大きいことになる。従って、廃液中のIn3+は、衝突部材14を構成するCuよりも、金属線2を構成するZnやAl側に析出し易い状態となり、回収金属であるInが衝突部材14であるCu側に不用意に析出することが防止される。また、Cu2+に比べIn3+の標準還元電位は小さいことから衝突部材14であるCuが不用意に被処理液中に溶出されるようなことも防止されることとなる。
【0030】
このようなセメンテーション反応によってInをZn金属線或いはAl金属線の表面上に析出させた後、このように析出した回収対象金属を剥離させるための衝突部材14を上部チャンバー9からリアクター本体1内に投入する。リアクター本体1内においては、流入された廃液が垂直方向に上昇する一方で、上部チャンバー9から投入された衝突部材14が流動状態となる。このように流動状態となった衝突部材14が回収金属析出体3を構成する金属線2に衝突し、その結果、金属線2に析出したInが金属線2から剥離され、剥離されたInは、上部チャンバー9から排出管10を経てリアクター本体1の外部に排出され、回収されることとなるのである。
【0031】
この場合において、本実施形態では、回収対象金属を析出させるための回収金属析出体3を多数の金属線2で構成しているので、たとえば亜鉛のスクラップを用いるような場合に比べると、セメンテーション反応を生じさせるための金属(Zn又はAl)の表面積が増加し、Inの析出反応の速度が向上することとなる。
【0032】
また、ある程度成長した金属の析出が認められた後に、上記のような衝突部材14を衝突させることによって、常に新しい金属線2の表面を露出させ、反応速度を維持することができる。また、従来行われていた亜鉛のスクラップを投入するような方法に比べると、剥離した析出金属中にはIn以外の不純物が非常に少ないものとなる。
【0033】
さらに回収金属析出体3が、金属線2を縦横に交差させて構成された金網4を複数個具備させ、全体がメッシュ状に形成されているので、金属線2間の網目の空隙面積が全体においてほぼ均等であり、その結果、衝突部材14が回収金属析出体3に衝突した後においても、その衝突部材14によって目詰まりが生ずるおそれもなく、さらにはリアクター本体内の被処理液の流通流路を均等にすることができる。
【0034】
さらに回収金属析出体がリアクター本体1内に固定して設けられているので、金属線がリアクター本体1から不用意に放出されるのが防止され、また金属線が固定されることになるので、衝突部材による析出金属の剥離効果が高まることになる。また、金属線がリアクター本体1から不用意に放出されないため、回収した回収金属への析出体の混入を低減できる。
【0035】
(実施形態2)
本実施形態は、回収金属析出体3の形状が上記実施形態1と相違する。すなわち、本実施形態では、図7に示すように略円筒状に形成された複数の金網4が同心円状に配置され、その同心円状に配置された複数の金網4が、他の金属線(図示せず)で結着されている。
金網4が略円筒状に形成されている点で、金網4が略プレート状に形成された実施形態1の場合と相違しているが、金網4自体が金属線2を縦横に交差させて構成されている点で実施形態1と共通する。また回収金属析出体3がリアクター本体1に固定して設けられている点でも実施形態1と共通する。
【0036】
本実施形態においても、回収金属析出体3が多数の金属線2で構成されているので、セメンテーション反応を生じさせるための金属(Zn又はAl)の表面積が増加し、Inの析出反応の速度が向上することとなる。
【0037】
また本実施形態においても、回収金属析出体3が、金属線2を縦横に交差させて構成された金網4を複数個具備させ、全体がメッシュ状に形成されているので、実施形態1と同様にリアクター本体内の被処理液の流通流路を均等にすることができ、また回収金属析出体をリアクター本体内に固定することで、金属線がリアクター本体から不用意に放出されるのが防止されることになる。
【0038】
(実施形態3)
本実施形態は、回収金属析出体3の形状が上記実施形態1、2と相違する。すなわち、本実施形態では、図8に示すように金属線2が無作為に束ねられて全体が略金網たわし状に構成されている。この略金網たわし状の回収金属析出体3は、上記実施形態1、2のようにリアクター本体1に固定されているのではなく、該リアクター本体1内の被処理液に浮遊させるような状態で収容して使用される。本実施形態においても、回収金属析出体3が多数の金属線2で構成されているので、セメンテーション反応を生じさせるための金属(Zn又はAl)の表面積が増加し、Inの析出反応の速度が向上することとなる。また、本実施形態の回収金属析出体3はリアクター本体1に固定されていないため、リアクター本体1内で自由に移動し、衝突部材14との接触のみならず、回収金属析出体3同士の接触によっても金属の剥離を促進できる。
【0039】
ただし上記実施形態1及び2とは異なり、金属線2が無作為に束ねられて構成されているので、析出した金属が中央付近において目詰まりするおそれがある。
【0040】
(実施形態4)
本実施形態では、衝突部材14として樹脂製のものを用いており、この点で金属製のものを用いた実施形態1と相違している。樹脂としては、主として合成樹脂が使用され、たとえばポリエステル、ポリアミド等の比重が水よりも大きいものを使用することができる。
【0041】
衝突部材14を本実施形態のように樹脂で構成した場合には、その樹脂の比重を変えることによって、流速に応じた衝突部材14の浮遊状態を作り出すことができ、その結果、衝突部材14がリアクター本体1の外部に不用意に流出するのを防止することができる。
また、衝突部材14を金属で構成する場合に比べると、浮力の調整や衝突部材の大きさ、形状の変更が容易である。尚、樹脂の比重が水よりも小さい場合はリアクター本体1内で上部に浮遊するため、析出金属体との衝突をさせにくく利用し難い。
【0042】
(実施形態5)
本実施形態では、対象となる廃液の種類が上記実施形態1と相違する。すなわち、本実施形態では廃液としてCu、Sn等の金属イオンを含有する金属表面処理工場廃液を用いており、この点で、Inイオンを含有するFPD製造工場廃液を対象とする実施形態1の場合と相違している。金属線2としてはZnからなるものが用いられる。この場合には、Cu、Snが金属として回収されることになる。さらに衝突部材14としては合成樹脂からなるものが用いられる。
【0043】
そして廃液中に含有されているCu、Sn等の金属と、金属線2を構成するZnとのイオン化傾向の相違に基づく、いわゆるセメンテーション反応を生じさせる。これをより詳細に説明すると、Snイオンの還元反応は次式(5)のとおりであり、また標準電極電位(E°)も示している。
【0044】
Sn2++2e→Sn …(5) −0.14V
【0045】
上記(2)、(4)、(5)式からも明らかように、Cu2+、Sn2+に比べて、Zn2+の標準還元電位が最も小さい。換言すれば、Cu、Snに比べて、Znのイオン化傾向が最も大きいことになる。そのため、上記のような流動状態となった状態で、イオン化傾向の大きいZnがZn2+となって(上記(2)式と逆の反応)廃液中に溶出し、それとともに廃液中に含有されていたCu2+、Sn2+がCu、Snとなって、Znの金属線2の表面上に析出する。
【0046】
このようにして析出されたCu、Snを衝突部材14によって剥離させる作用等は上記実施形態1と同じであるため、その詳細な説明は省略する。
【0047】
(実施形態6)
本実施形態では、図9に示すように、リアクターが2個配設されており、その点で1個のみからなる実施形態1乃至5の場合と相違する。すなわち、本実施形態では、1段目のリアクター本体1aの後段側であって2段目のリアクター本体1bの前段側にフィルター17が設けられ、さらに2段目のリアクター本体1bの後段側にフィルター18が設けられている。フィルターとしては、例えば、カートリッジフィルター、ドラムフィルター等が用いられる。また、フィルターに代えて、ベルトプレス、フィルタープレス等の固液分離手段を用いることも可能である。
【0048】
本実施形態においては、たとえば対象となる廃液にCuとSnが含有されている場合、1段目のリアクター本体1aには鉄(Fe)からなる金属線2を具備させ、その金属線2
にCuを析出させて1段目のフィルター17でCuを回収し、2段目のリアクター本体1bにはZnからなる金属線2を具備させ、その金属線2にSnを析出させて2段目のフィルター18でSnを回収するようなことが可能となる。
【0049】
ここで、鉄(Fe)イオンの還元反応と標準電極電位は次のとおりである。
Fe2++2e→Fe …(6) −0.44V
これに対して、CuやSnの還元反応や標準電極電位は、上記(4)、(5)式のとおりであり、標準電極電位の数値がFeはCuやSnよりも小さく、従って、Feのイオン化傾向はCuやSnのイオン化傾向よりも大きいため、理論上はFeからなる金属線2にCuやSnが析出することとなるが、そのイオン化傾向の差は、FeとSnとの差よりもFeとCuとの差の方がはるかに大きく、従って1段目のリアクター本体1aにおいては、Cuが優先的にFe粒子に析出することとなる。
【0050】
一方、上記(2)式で示されている標準電極電位の数値から、Znのイオン化傾向はCu、Snのイオン化傾向よりも大きく、従って2段目のリアクター本体1bにおいては、Cu、SnともにZnからなる金属線2に析出するはずであるが、Cuはすでに1段目のリアクター本体1aのFeからなる金属線2に析出しているので、2段目のリアクター本体1bにおいては、Snが主としてZnからなる金属線2に析出することとなるのである。従って、本実施形態では、異なる2種の金属線2を用いて廃液から2種の金属を選択的に回収することができるという利点がある。
【0051】
また、衝突部材14としては他の実施形態と同様に回収対象金属よりもイオン化傾向の小さい金属又は樹脂を用いることができる。さらに本実施形態においては、たとえば1段目のリアクターで衝突部材としてCuを利用し、2段目のリアクターで樹脂を利用することもできる。このように1段目のリアクターと2段目のリアクターにおいて、金属線2のみならず、衝突部材14の種類を変えてもよい。また、1段目のリアクターに利用する衝突部材14として、後段で回収する回収対象金属と同じ金属を利用することで、回収対象金属へのコンタミを防止しつつ、衝突部材から溶出が起こったとしても後段で回収できる構成となる。
【0052】
(実施形態7)
本実施形態では、図10に示すようにリアクターが3個配設されており、その点で1個のみからなる実施形態1や2個配設されていた実施形態6の場合と相違する。本実施形態では、これら3個のリアクター本体1a、リアクター本体1b、リアクター本体1cの後段側にフィルター17、フィルター18、フィルター19が設けられている。本実施形態では、上記実施形態6と同様に1段目のリアクター本体1aにFeからなる金属線2が具備され、2段目のリアクター本体1bにZnからなる金属線2が具備されるが、3段目のリアクター本体1cではAlからなる金属線2が具備される。
【0053】
本実施形態を、上記実施形態6と同様にCuとSnが含有されている廃液に適用すると、
1段目のリアクター本体1aでは実施形態6と同様にFeからなる金属線2にCuが析出されて1段目のフィルター17でCuが回収され、2段目のリアクター本体1bにおいても実施形態6と同様にZnからなる金属線2にSnが析出されて2段目のフィルター18でSnが回収される。
【0054】
しかしながら、3段目のリアクター本体1cにおいては、実施形態6からは予期できない作用が生じる。すなわち、上記のように1段目のリアクター本体1aでセメンテーション反応により溶出したFeと、2段目のリアクター本体1bでセメンテーション反応により溶出したZnは、3段目のリアクター本体1cに具備されているAlからなる金属線2に析出する。
【0055】
この点をより詳細に説明すると、1段目のリアクター本体1aに具備されている金属線2を構成するFeと、2段目のリアクター本体1bに具備されている金属線2を構成するZnは、上述のように回収対象金属よりもイオン化傾向が大きいが、上記(2)、(3)、(6)式で示される標準電極電位の数値の比較から、Alのイオン化傾向は、Fe、Znのイオン化傾向よりさらに大きいことは明らかである。従って、1段目のリアクター本体1aで溶出したFeと、2段目のリアクター本体1bで溶出したZnは、ともに3段目のリアクター本体1cでAlからなる金属線2に析出されることとなるのである。そして、Alからなる金属線2によってFe−Znの合金として回収することが可能となる。
【0056】
従って、1段目のリアクター本体1aと2段目のリアクター本体1bでそれぞれ溶出したFeとZnとを、後段で凝集沈殿させる等の作業が不要となり、スラッジ発生量を抑制することが可能となる。尚、3段目のリアクター本体1cではAlが溶出するが、3価のAlは2価のZnやFeより少ない溶出量で済み、Alの比重も軽く、スラッジ重量を減少させることができることから、スラッジ発生量が増大することはない。
【0057】
本実施形態においても実施形態6と同様に衝突部材14の種類を変えて用いることができる。また、金属線2によって上記実施形態1乃至3のような種々の形態の回収金属析出体を構成することができる。
【0058】
(その他の実施形態)
尚、上記実施形態では、廃液(被処理液)としてInイオンを含有するFPD製造工場廃液や、Cu、Snのイオンを含有する金属表面処理工場の廃液に適用する場合について説明したが、対象となる廃液の種類はこれに限定されるものではなく、メッキ工場廃液、半導体製造工場廃液等に適用することも可能である。また被処理液として、本発明においては廃液を用いることを主眼としているが、廃液以外の被処理液、たとえば金属含有液に酸等の薬品を用いて回収すべき金属を溶解してイオン化した水溶液に適用可能である。この場合、かかる金属含有液として、廃液を用いることもむろん可能である。
【0059】
従って、回収の対象となる金属の種類も該実施形態のIn、Cu、Snに限らず、たとえばNi、Ga、Zn等を回収の対象とすることも可能であり、回収対象金属の種類は問わない。また、金属線2で構成される回収金属析出体3の形状も上記各実施形態に限定されるものではなく、その形状は問わない。さらに回収金属析出体3は上記実施形態1、2のようにリアクター本体1に固定してもよく、また実施形態3のように固定させずにリアクター本体1内の被処理液中に浮遊させてもよい。
【0060】
さらに、上記各実施形態では多数の金属線2で回収金属析出体3を構成し、この回収金属析出体3に回収対象金属を析出させることとしたが、このような回収金属析出体3を構成することは本発明に必須の条件ではなく、たとえば多数の金属線2をそのままリアクター本体1内の被処理液中に浮遊させてもよい。要は回収対象金属よりもイオン化傾向が大きい金属からなる金属線2が、リアクター本体1内に収容されていればよいのである。ここで「収容する」とは、上記のように金属線2で回収金属析出体3を構成し、リアクター本体1に固定して設けること、又は回収金属析出体3を構成してリアクター本体1内の被処理液に浮遊させ、若しくは金属線2で金網4を構成してリアクター本体1内の被処理液に浮遊させ、若しくは金属線2のままの状態でリアクター本体1内の被処理液に浮遊させるようなことを広く含む意味である。従って金属線2は、被処理液がリアクター本体1内に流入される前に固定して収容されていてもよく、また被処理液が流入されるのと同時に収容されてもよく、さらには被処理液が流入された後に金属線2が添加されて収容されてもよい。
【0061】
さらに、該実施形態では、金属線は、金属単体を利用したが、合金であってもよい。合金としては、鉄−アルミニウム合金、カルシウム−シリコン合金等を用いることができる。
【0062】
さらに、上記実施形態1では、リアクター本体1の断面積が全体で略同じになるように形成したが、このようにリアクター本体1を形成することは本発明に必須の条件ではなく、たとえばリアクター本体1の上部に向かうほど断面積が大きくなるように形成することも可能である。
【0063】
また上記実施形態1乃至7においては、反応途中で衝突部材14を投入するようにしたが、これに限定されるものではなく、最初から衝突部材14をリアクター本体1内に投入してもよい。
【0064】
さらに、流入用チャンバー7の底面中央部に衝突部材取出口を設け、反応終了後や反応途中で運転を停止し、衝突部材14を回収する構成としても良い。衝突部材14の回収を行わない場合には、衝突部材14がリアクター本体1内に常時収容された状態となっているため、金属線2に析出した回収対象金属がある一定以上の大きさになる前に衝突部材14によって順次剥離されることとなり、従って一定以上の大きさの回収対象金属が回収されにくいが、上記のように衝突部材14を回収する構成とすることで、衝突部材の回収と投入のタイミングを調整することにより、ある一定以上の大きさの金属を回収しやすくなるという利点がある。
【0065】
また、本実施形態においては、衝突部材14を廃液流入による上向流によって浮遊させ、金属線2と衝突部材14を衝突させる構成としているが、撹拌装置をリアクター本体1内に保持し強制的に撹拌、衝突させる構成としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】一実施形態としての金属の回収装置の概略斜視図。
【図2】同実施形態の金属の回収装置の概略断面図。
【図3】同実施形態の金属の回収装置における流入用チャンバーの概略平面図。
【図4】図3のA−A線拡大断面図。
【図5】同実施形態の金属の回収装置の概略ブロック図。
【図6】回収金属析出体を示す斜視図。
【図7】他実施形態の回収金属析出体を示す斜視図。
【図8】他実施形態の回収金属析出体を示す概略斜視図。
【図9】他実施形態の金属の回収装置の概略ブロック図。
【図10】他実施形態の金属の回収装置の概略ブロック図。
【符号の説明】
【0067】
1…リアクター本体 2…金属線
3…回収金属析出体 4…金網

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回収すべき金属がイオン状態で含有されている被処理液をリアクター本体(1)内に流入するとともに、該リアクター本体(1)内に回収すべき金属よりもイオン化傾向が大きい金属からなる金属線(2)を収容し、イオン化傾向の差異により前記被処理液中に含有される金属を前記金属線(2)の表面に析出させ、その後、衝突部材(14)を前記金属線(2)に衝突させることにより前記金属線(2)から前記析出した金属を剥離して回収することを特徴とする金属の回収方法。
【請求項2】
多数の金属線(2)で回収金属析出体(3)が構成されている請求項1記載の金属の回収方法。
【請求項3】
回収金属析出体(3)が、多数の金属線(2)を縦横に交差して構成された金網(4)を複数個具備して構成されている請求項2記載の金属の回収方法。
【請求項4】
回収金属析出体(3)がリアクター本体(1)内に固定されている請求項2又は3記載の金属の回収方法。
【請求項5】
衝突部材(14)が粒子状である請求項1乃至4のいずれかに記載の金属の回収方法。
【請求項6】
衝突部材(14)が回収すべき金属よりもイオン化傾向が小さい金属で構成されている請求項1乃至5のいずれかに記載の金属の回収方法。
【請求項7】
衝突部材(14)が樹脂で構成されている請求項1乃至5のいずれかに記載の金属の回収方法。
【請求項8】
回収すべき金属がイオン状態で含有されている被処理液を流入するとともに、回収すべき金属よりもイオン化傾向が大きい金属からなる金属線(2)を収容して、イオン化傾向の差異により前記被処理液中に含有される金属を前記金属線(2)の表面に析出させる金属析出反応を行なうためのリアクター本体(1)と、前記金属線(2)に析出した金属を回収すべく、前記金属線(2)に衝突させて該金属線(2)から前記析出した金属を剥離させるための衝突部材(14)とを具備することを特徴とする金属の回収装置。
【請求項9】
多数の金属線(2)で回収金属析出体(3)が構成されている請求項8記載の金属の回収装置。
【請求項10】
回収金属析出体(3)が、多数の金属線(2)を縦横に交差して構成された金網(4)を複数個具備して構成されている請求項9記載の金属の回収装置。
【請求項11】
回収金属析出体(3)がリアクター本体(1)内に固定されている請求項9又は10記載の金属の回収装置。
【請求項12】
衝突部材(14)が粒子状である請求項8乃至11記載の金属の回収装置。
【請求項13】
衝突部材(14)が回収すべき金属よりもイオン化傾向が小さい金属で構成されている請求項8乃至12のいずれかに記載の金属の回収装置。
【請求項14】
衝突部材(14)が樹脂で構成されている請求項8乃至12のいずれかに記載の金属の回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−217760(P2007−217760A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−40855(P2006−40855)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】