説明

金属の表面処理用組成物、表面処理用処理液、表面処理方法、及び表面処理金属材料

【課題】従来技術では困難であった環境に有害な成分を含まない処理液で鉄系金属材料等の金属材料表面に、塗装後の耐食性に優れる表面処理皮膜を析出させる表面処理用組成物の提供。
【解決手段】次の成分(A)、成分(B)、及び成分(C):
(A)Ti、Zr、Hf、及びSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物
(B)Y及び/又はランタノイド元素を含む化合物
(C)硝酸及び/又は硝酸化合物
を含有し、前記成分(A)中の前記元素の合計質量濃度Aに対する前記成分(B)中の前記Y及び/又はランタノイド元素の合計質量濃度Bの比であるK1=B/Aが0.05≦K1≦50であり、前記合計質量濃度Aに対する前記成分(C)中の窒素原子のNO換算した合計質量濃度Cの比であるK2=C/Aが0.01≦K2≦200である鉄及び/又は亜鉛を含む金属の表面処理用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建材及び家電等に代表される様な金属材料表面に、塗装後の耐食性、もしくは裸耐食性に優れる表面処理皮膜を析出させることを可能とする表面処理組成物、表面処理用処理液、及び表面処理方法、並びに該処理方法で得られる金属材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属表面に塗装後の耐食性に優れる表面処理皮膜を析出させる手法としては、りん酸亜鉛処理法やクロメート処理法が現在一般に用いられている。りん酸亜鉛処理法は、熱延鋼板や冷延鋼板等の鋼や、亜鉛めっき鋼板に耐食性に優れる皮膜を析出させることができる。
【0003】
しかしながら、りん酸亜鉛処理を行う際には、反応の副生成物であるスラッジの発生が避けられない。また、クロメート処理を施すことによっても十分な塗装後の性能を確保することが可能であるが、昨今の環境規制から処理液中に有害な6価クロムを含むクロメート処理は敬遠される方向にある。
【0004】
そこで、最近の技術として、素材表面をジルコニウムのような金属薄膜で被覆することによって耐食性を付与し、さらに処理液中に有害成分を含まず、スラッジの発生を抑制した技術が開発されてきている。それら表面処理方法として、以下に示す方法が提案されている。
【0005】
例えば特許文献1には、孤立電子対を持つ窒素原子を含有する化合物、及び前記化合物とジルコニウム化合物を含有する金属表面用ノンクロムコーティング剤が記載されている。この方法は、前記組成物を塗布することによって、有害成分である6価クロムを含まずに、塗装後の耐食性、及び密着性に優れた表面処理皮膜を得ることを目的とするものである。
【0006】
しかしながら、対象とされる金属素材がアルミニウム合金に限られており、且つ、塗布乾燥によって表面処理皮膜を形成せしめるため、複雑な構造物に塗布することは困難である。
【0007】
そこで、化成反応によって塗装後の密着性、及び耐食性に優れる表面処理皮膜を析出させる方法として、特許文献2には、セリウム、ジルコニウム、りん酸、フッ素化合物を用いた表面処理剤、及び処理浴が記載されている。
【0008】
しかしながら、この方法も、特許文献1に記載された発明と同様に、対象とされる金属材料が素材そのものの耐食性に優れるアルミニウムまたはアルミニウム合金に限定されており、鉄系材料や亜鉛系材料表面に表面処理皮膜を析出させることは不可能であった。
【0009】
特許文献3には、金属アセチルアセトネートと、水溶性無機チタン化合物、または水溶性無機ジルコニウム化合物とからなる表面処理組成物で、塗装後の耐食性、及び密着性に優れる表面処理皮膜を析出せしめる手法が記載されている。この方法を用いることによって、適用される金属材料がアルミニウム合金以外にマグネシウム、マグネシウム合金、亜鉛、及び亜鉛めっき合金にまで拡大された。
【0010】
しかしながら、この方法では熱延鋼板や冷延鋼板等の鉄系金属材料表面に表面処理皮膜を析出させることは不可能であった。
【0011】
更に、特許文献4には、クロムフリー塗布型酸性組成物による金属表面処理方法が記載されている。前記金属表面処理方法は、耐食性に優れる皮膜となり得る成分の水溶液を金属表面に塗布した後、水洗工程を行わずに焼き付け乾燥することによって皮膜を固定化するものである。従って、皮膜の生成に化学反応を伴わないため、熱延鋼板、冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板及びアルミニウム合金等の金属表面に皮膜処理を施すことが可能である。
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載された発明と同様に、塗布乾燥によって皮膜を生成させるため、複雑な構造物に均一な皮膜処理を施すことは困難である。
【0013】
更に、特許文献5には、ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオン、並びに、フッ素イオンを処理浴に含有した金属化成処理方法が開示されている。この方法を用いることによって対象となる金属材料は鉄系、アルミニウム、亜鉛まで適用が可能である。
【0014】
しかしながら、処理中に化成処理剤中の鉄イオン濃度を酸化剤により制御しなければならないとの制約条件がある。
【0015】
従って、従来技術では環境に有害な成分を含まない処理液で、且つ、鉄系金属材料、亜鉛系金属材料等の金属材料を対象とした、耐食性と密着性に優れ、更に操業性にも優れた表面処理を行うことは不可能であった。
【特許文献1】特開2000−204485号公報
【特許文献2】特開平2−25579号公報
【特許文献3】特開2000−199077号公報
【特許文献4】特開平5−195244号公報
【特許文献5】特開2004−43913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、従来技術では困難であった、環境に有害な成分を含まない処理液で、建材、及び家電等に使用されているような熱延鋼板や冷延鋼板等の鉄系金属材料、亜鉛めっき鋼板等の亜鉛系金属材料などの金属材料等の金属材料表面に、塗装後の耐食性、もしくは裸耐食性に優れる表面処理皮膜を析出させることを可能とする表面処理用組成物、表面処理用処理液、表面処理方法、及び表面処理金属材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは前記課題を解決するための手段について鋭意検討した結果、従来技術にはない表面処理用組成物、表面処理用処理液、表面処理方法、及び表面処理金属材料を完成するに至った。
【0018】
このような課題は、下記(1)〜(17)の本発明により達成される。
【0019】
(1)次の成分(A)、成分(B)、及び成分(C):
(A)Ti、Zr、Hf、及びSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物
(B)Y及び/又はランタノイド元素を含む化合物
(C)硝酸及び/又は硝酸化合物
を含有し、前記成分(A)中の前記元素の合計質量濃度Aに対する前記成分(B)中の前記Y及び/又はランタノイド元素の合計質量濃度Bの比であるK1=B/Aが、0.05≦K1≦50であり、前記合計質量濃度Aに対する前記成分(C)中の窒素原子のNO換算した合計質量濃度Cの比であるK2=C/Aが、0.01≦K2≦200である、鉄及び/又は亜鉛を含む金属の表面処理用組成物。
【0020】
(2)更に、次の成分(D):
(D)フッ素含有化合物の少なくとも1種
を含有する、上記(1)に記載の表面処理用組成物。
【0021】
(3)次の成分(A)、成分(B)、及び成分(C):
(A)Ti、Zr、Hf、及びSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物
(B)Y及び/又はランタノイド元素を含む化合物
(C)硝酸及び/又は硝酸化合物
を含有し、前記成分(A)中の前記元素の合計質量濃度Aに対する前記成分(B)中の前記Y及び/又はランタノイド元素の合計質量濃度Bの比であるK1=B/Aが、0.05≦K1≦50であり、前記合計質量濃度Aに対する前記成分(C)中の窒素原子のNO換算した合計質量濃度Cの比であるK2=C/Aが、0.01≦K2≦200であり、前記合計質量濃度Aが、10ppm≦A≦10000ppmである、鉄及び/又は亜鉛を含む金属の表面処理用処理液。
【0022】
(4)更に、次の成分(D):
(D)フッ素含有化合物の少なくとも1種
を含有し、遊離フッ素イオン濃度Dが0.001ppm≦D≦300ppmである、上記(3)に記載の表面処理用処理液。
【0023】
(5)pHが6.0以下である、上記(3)または(4)に記載の表面処理用処理液。
【0024】
(6)更に、HCl、H2SO4、HClO3、HBrO3、HNO2、HMnO4、HVO3、H2O2、H2WO4、H2MoO4及びこれらの塩類からなる群から選ばれる少なくとも1種を、10〜20000ppm含有する、上記(3)〜(5)のいずれかに記載の表面処理用処理液。
【0025】
(7)更に、エチレンジアミン四酢酸、グルコン酸、ヘプトグルコン酸、グリコール酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸、アスパラギン酸、酒石酸、マロン酸、リンゴ酸、サリチル酸、及びこれらの塩類からなる群から選ばれる少なくとも1種を、1〜10000ppm含有する、上記(3)〜(6)のいずれかに記載の表面処理用処理液。
【0026】
(8)更に、水溶性高分子化合物及び/又は水分散性高分子化合物を含有する、上記(3)〜(7)のいずれかに記載の表面処理用処理液。
【0027】
(9)更に、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤及びカチオン系界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、上記(3)〜(8)のいずれかに記載の表面処理用処理液。
【0028】
(10)鉄及び/又は亜鉛を含む金属材料に、上記(3)〜(8)のいずれかに記載の表面処理用処理液を接触させる処理液接触工程を有する、鉄及び/又は亜鉛を含む金属の表面処理方法。
【0029】
(11)鉄及び/又は亜鉛を含む金属材料に、上記(9)に記載の表面処理用処理液を接触させ、前記金属材料の脱脂処理と被膜化成処理とを同時に行う処理液接触工程を有する、鉄及び/又は亜鉛を含む金属の表面処理方法。
【0030】
(12)前記鉄及び/又は亜鉛を含む金属材料が、脱脂処理により清浄化された金属材料である、上記(10)または(11)に記載の表面処理方法。
【0031】
(13)前記処理液接触工程において、前記鉄及び/又は亜鉛を含む金属材料を陰極として電解処理する、上記(10)〜(12)のいずれかに記載の表面処理方法。
【0032】
(14)更に、前記処理液接触工程後に、
前記鉄及び/又は亜鉛を含む金属材料に、コバルト、ニッケル、すず、銅、チタニウム、及びジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む水溶液を接触させる工程を有する、上記(10)〜(13)のいずれかに記載の表面処理方法。
【0033】
(15)更に、前記処理液接触工程後に、
前記鉄及び/又は亜鉛を含む金属材料に、水溶性高分子化合物及び/又は水分散性高分子化合物を含む水溶液を接触させる工程を有する、上記(10)〜(13)のいずれかに記載の表面処理方法。
【0034】
(16)鉄を含む金属材料表面に、上記(10)〜(15)のいずれかに記載の表面処理方法によって形成された、前記成分(A)の前記元素を含有し、かつ、前記元素換算の付着量が20mg/m2以上である表面処理被膜層を有する、鉄を含む金属材料。
【0035】
(17)亜鉛を含む金属材料表面に、上記(10)〜(15)のいずれかに記載の表面処理方法によって形成された、前記成分(A)の前記元素を含有し、かつ、前記元素換算の付着量が15mg/m2以上である表面処理被膜層を有する、亜鉛を含む金属材料。
【発明の効果】
【0036】
本発明の金属の表面処理用組成物、表面処理用処理液、表面処理方法、及び表面処理金属材料は、従来技術では困難であった、環境に有害な成分を含まない処理浴で、金属材料表面に、塗装後の耐食性に優れる表面処理皮膜を析出させることを可能とする画期的な技術である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の金属表面処理用組成物(以下、単に「本発明の組成物」ともいう)、本発明の金属表面処理用処理液(以下、単に「本発明の処理液」ともいう)、本発明の金属表面処理方法(以下、単に「本発明の処理方法」ともいう)および本発明の鉄及び/又は亜鉛を含む金属材料(以下、単に「本発明の金属材料」ともいう)について詳細に説明する。初めに、本発明の組成物および処理液について説明する。
【0038】
本発明の組成物は、使用時に、水で希釈され、または水に溶解されて本発明の処理液とされる。
本発明の処理液による表面処理の対象は、鉄系金属材料又は亜鉛系金属材料である。
鉄系金属材料とは、鉄を含有していれば特に限定されないが、例えば、冷間圧延鋼板、及び熱間圧延鋼板等の鋼板や、鋳鉄、及び焼結材等を示す。
亜鉛系金属材料とは、亜鉛を含有していれば特に限定されないが、例えば、亜鉛ダイキャストや亜鉛含有めっきを施した材料等を示す。更に、亜鉛含有めっきとは、亜鉛、又は亜鉛と他の金属、例えばニッケル、鉄、アルミニウム、マンガン、クロム、マグネシウム、コバルト、鉛、及びアンチモン等の少なくとも1種との合金、及び、不可避不純物によるものであり、そのめっき方法、例えば電気めっき、溶融めっき、蒸着めっき等の制限はない。
【0039】
本発明は、このような金属材料の表面に表面処理を行う。また、被処理金属材料は単独、もしくは2種以上を同時に表面処理をすることが出来る。ここで、2種以上の金属材料を同時に処理する場合は、その内の少なくとも1種の金属材料が鉄、もしくは亜鉛系金属材料であれば他の金属材料は、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル及びそれら合金など、いかようなものであっても構わない。また、異種金属同士が接触しない状態であっても構わないし、溶接、接着、リベット止め等の接合方法によって異種金属同士が接合接触した状態でも構わない。
以下に本発明の作用を詳細に説明する。
【0040】
本発明の組成物は、次の成分(A)、成分(B)、及び成分(C)を含有する。
成分(A)はTi、Zr、Hf、及びSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物である。このような化合物としては、例えば、TiCl4、Ti(SO4)2、TiOSO4、Ti(NO3)4、TiO(NO3)2、Ti(OH)4、TiO2OC2O4、H2TiF6、H2TiF6の塩、TiO、TiO2、Ti2O3、TiF4、ZrCl4、ZrOCl2、Zr(OH)2Cl2、Zr(OH)3Cl、Zr(SO4)2、ZrOSO4、Zr(NO3)4、ZrO(NO3)2、Zr(OH)4、H2ZrF6、H2ZrF6の塩、H2(Zr(CO3)2(OH)2)、H2(Zr(CO3)2(OH)2)の塩、H2Zr(OH)2(SO4)2、H2Zr(OH)2(SO4)2の塩、ZrO2、ZrOBr2、ZrF4、HfCl4、Hf(SO4)2、H2HfF6、H2HfF6の塩、HfO2、HfF4、H2SiF6、H2SiF6の塩、及びAl2O3(SiO2)3が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。
【0041】
また、成分(B)は、Y及び/又はランタノイド元素を含む化合物である。つまり、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む化合物である。このような化合物としては、これらの元素の酸化物、硫酸塩、硝酸塩、及び塩化物などが挙げられる。具体的には、例えば、塩化イットリウム、塩化ランタン、塩化セリウム、塩化プラセオジム、塩化ネオジム、塩化プロメチウム、塩化サマリウム、塩化ユウロピウム、塩化ガドリニウム、塩化テルビウム、塩化ジスプロシウム、塩化ホルミウム、塩化エルビウム、塩化ツリウム、塩化イッテルビウム、塩化ルテチウム、硫酸イットリウム、硫酸ランタン、硫酸セリウム、硫酸プラセオジム、硫酸ネオジム、硫酸プロメチウム、硫酸サマリウム、硫酸ユウロピウム、硫酸ガドリニウム、硫酸テルビウム、硫酸ジスプロシウム、硫酸ホルミウム、硫酸エルビウム、硫酸ツリウム、硫酸イッテルビウム、硫酸ルテチウム、硝酸イットリウム、硝酸ランタン、硝酸セリウム、硝酸プラセオジム、硝酸ネオジム、硝酸プロメチウム、硝酸サマリウム、硝酸ユウロピウム、硝酸ガドリニウム、硝酸テルビウム、硝酸ジスプロシウム、硝酸ホルミウム、硝酸エルビウム、硝酸ツリウム、硝酸イッテルビウム、硝酸ルテチウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化プラセオジム、酸化ネオジム、酸化プロメチウム、酸化サマリウム、酸化ユウロピウム、酸化ガドリニウム、酸化テルビウム、酸化ジスプロシウム、酸化ホルミウム、酸化エルビウム、酸化ツリウム、酸化イッテルビウム、酸化ルテチウムが挙げられる。また、これらは2種以上を併用してもよい。
【0042】
また、成分(C)は、硝酸及び/又は硝酸化合物である。このようなものとして、例えば、硝酸や金属硝酸塩などが挙げられる。金属硝酸塩としては、例えば、硝酸鉄、硝酸マンガン、硝酸ニッケル、硝酸コバルト、硝酸銀、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウムが挙げられる。また、これらは2種以上を併用してもよい。
【0043】
本発明の組成物は、金属の表面処理を行うに当たって、水で希釈し、或いは水に溶解して使用される。すなわち、金属表面処理用処理液を調製して使用される。金属表面処理用処理液を調製するには、表面処理用組成物に水を加え、前記成分(A)中の前記元素(Ti、Zr、Hf、及びSi)の合計質量濃度Aが10ppmから10000ppmの範囲になるようにする。
【0044】
尚、「前記成分(A)中の前記元素の合計質量濃度A」とは、「本発明の組成物(場合によっては処理液)中における、前記成分(A)中の前記元素の濃度」を示す。
「合計質量濃度B」、「合計質量濃度C」も同様である。
【0045】
本発明は、表面処理用組成物、及び表面処理用処理液中の、前記成分(A)中の前記元素の合計質量濃度Aに対する前記成分(B)中の前記Y及び/又はランタノイド元素の合計質量濃度Bの比であるK1=B/Aが、0.05≦K1≦50であり、前記合計質量濃度Aに対する前記成分(C)中の窒素原子のNO換算した合計質量濃度Cの比であるK2=C/Aが、0.01≦K2≦200である。
【0046】
ここで、成分(A)は優れた耐酸性、及び耐アルカリ性を有している物質であり、本発明の表面処理皮膜の主成分となるものである。
また、成分(B)は、成分(A)の皮膜析出を促進する効果がある。更に、成分(B)は表面処理皮膜に含有させることも可能であり、これにより塗装後の耐食性、及び裸耐食性が向上することも期待できる。
また、成分(C)は表面処理用処理液中において、成分(A)と成分(B)の溶解度を高めることによって処理液の安定性を保つ働きがある。更に成分(C)は、成分(B)ほどではないが成分(A)の皮膜析出を補助する効果も有している。
【0047】
ここで、前記K1=B/Aが小さすぎると、成分(B)の割合が少ないために成分(B)による成分(A)の皮膜析出の促進効果が期待できない。そのため成分(A)と成分(B)の合計質量濃度の比であるK1が0.05≦K1≦50であるときと比べて、成分(A)の皮膜付着量が減少し、被処理金属材料の耐食性は低下する場合がある。
また、前記K1が大きすぎると被処理金属材料表面の成分(A)の反応起点自体が減少してしまい、成分(B)による促進効果はあるものの皮膜の主成分であり皮膜に耐食性を付与している成分(A)の皮膜付着量が減少するため、優れた耐食性を示さないばかりか密着性にも悪影響を及ぼす場合がある。
【0048】
また、前記K2=C/Aが小さすぎても、被処理金属材料の耐食性を得ることができるが、表面処理用処理液の処理液安定性が損なわれる可能性があり、これより連続操業上の支障を生じる可能性がある。更に成分(C)の処理液中での比率が低いため成分(C)による成分(A)の皮膜析出の補助効果は期待できなくなる。
また、本発明の処理液の安定性を保つためにはK2=C/Aが0.01≦K2≦200の範囲内であれば十分であり、K2が大きすぎても耐食性が向上することはなく、経済的に不利になるだけである。
【0049】
また、本発明の処理液に用いられる前記成分(A)の前記合計質量濃度Aは10ppmから10000ppmに調整することが好ましく、より好ましくは50ppmから5000ppmである。前記合計質量濃度Aが小さすぎると、たとえ前記K1、及び前記K2が規定範囲内であっても皮膜主成分濃度が低いために耐食性を得るために十分な付着量を実用的な処理時間で得ることが困難となる。また、前記合計質量濃度Aが大きすぎると、十分な付着量は得られるが、それ以上耐食性を向上させる効果はなく、経済的に不利なだけである。
【0050】
また、本発明の組成物、及び処理液は、更に、成分(D)として、フッ素含有化合物の少なくとも1種を含むことが好ましい。例えば、フッ化水素酸、H2TiF6、H2TiF6の塩、TiF4、H2ZrF6、H2ZrF6の塩、ZrF4、H2HfF6、H2HfF6の塩、HfF4、H2SiF6、HBF4、HBF4の塩、NaHF2、KHF2、NH4HF2、NaF、KF、及びNH4Fなどが挙げられる。また、これらのフッ素含有化合物は2種以上を併用してもよい。
【0051】
また、本発明の処理液に成分(D)を入れる場合、遊離フッ素イオン濃度Dを0.001ppmから300ppmとなるように成分(D)のフッ素含有化合物の少なくとも1種を調整することが好ましく、より好ましくは0.1ppmから100ppmとなるように調整することが好ましい。ここで言う遊離フッ素イオン濃度Dとは、市販のイオン電極を用いて測定されるフッ素イオン濃度を示す。遊離フッ素イオン濃度Dが大きすぎると、HFによる素材表面のエッチング反応が過剰となり、被処理金属材料表面に耐食性を得るのに十分な皮膜量を析出させることが難しくなる傾向にある。また、成分(D)のフッ素含有化合物による遊離フッ素イオン濃度Dが小さすぎても被処理金属材料の耐食性を得ることはできるが、表面処理用処理液の処理液安定性が損なわれる可能性があり、連続操業上の支障を生じる可能性がある。
【0052】
また、本発明の処理液は、素材金属のエッチングを伴う化成反応により皮膜を析出させることが好ましい。従って、一般的にエッチング反応が起こりうるpH領域であるpH6.0以下で用いることが好ましく、より好ましくはpH5.0以下で用いることが好ましく、更に好ましくはpH4.0以下で用いることが好ましい。
【0053】
ここで、本発明の処理液のpHを調整する必要がある場合、使用する薬剤については特に規定は無く何れを使用しても構わない。例えば、塩酸、硫酸、硼酸、及び有機酸等の酸や、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、アルカリ金属塩、アンモニア、アンモニウム塩、及びアミン類等のアルカリがある。
【0054】
また、本発明の処理液には、素材のエッチング反応により溶出した素材に含まれる金属や、水道水、及び工業用水に含まれる金属や化合物が処理液へ混入しても構わない。成分(B)が成分(A)の皮膜析出を促進する効果により、成分(A)の皮膜析出が他の金属元素や化合物で影響されないためである。
【0055】
また、本発明の処理液には皮膜形成反応を更に促進するためにアニオン成分を添加することが好ましい。本発明の表面処理用処理液に用いることのできるアニオン成分として、例えば、HCl、H2SO4、HClO3、HBrO3、HNO2、HMnO4、HVO3、H2O2、H2WO4、H2MoO4及びこれらの塩類等が挙げられる。これらのアニオン成分の添加濃度には特に規定を持たないが、10ppm〜20000ppm程度の添加量で十分な効果を発揮する。
【0056】
更に、本発明の処理液に対する被処理金属材料の処理負荷が高い場合は、エッチング反応によって溶出した金属イオンをキレートすることが可能なキレート剤を添加することが好ましい。本発明の処理液に用いることのできるキレート剤の例としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グルコン酸、ヘプトグルコン酸、グリコール酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸、アスパラギン酸、酒石酸、マロン酸、リンゴ酸、サリチル酸、及びこれらキレート剤の塩類等がある。これらのキレート剤の含有量は特に限定されないが、1ppm〜10000ppm程度の添加量で十分な効果を発揮する。
【0057】
また、本発明の処理液には、分子内にイオン性の反応基を有する水溶性高分子化合物及び/又は水分散性高分子化合物を添加することが好ましい。このような化合物の例としては、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体、エチレンと(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリルレートなどのアクリル系単量体との共重合体、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体、ポリウレタン、アミノ変性フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミドアミン、ポリアミン、ポリアミン誘導体、ポリアリルアミン、ポリアリルアミン誘導体、ポリアミドアミン誘導体、ポリビニルアミン、ポリビニルアミン誘導体、タンニン及びタンニン酸とその塩、及びフィチン酸などが挙げられる。上記化合物の添加濃度には特に規定を持たないが、好ましくは1ppm〜10000ppm程度であり、このようなの添加量で十分な効果を発揮する。
【0058】
また、本発明の処理液に、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤及びカチオン系界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤を添加することが好ましい。この表面処理用処理液を用いて金属素材を表面処理する場合は、後述するような、処理金属材料を予め脱脂処理し、清浄化しなくとも良好な皮膜を形成させることができる。すなわち、この表面処理用処理液は脱脂化成兼用表面処理剤として使用できるものである。
【0059】
本発明の処理方法は、鉄及び/又は亜鉛を含む金属材料に、上記の本発明の処理液を接触させる処理液接触工程を有する、鉄及び/又は亜鉛を含む金属の表面処理方法である。
【0060】
本発明の表面処理方法は、前記鉄及び/又は亜鉛を含む金属材料に、上記本発明の処理液を接触させるだけでよい。これによって、金属素材表面に前記成分(A)の前記元素の酸化物及び/又は水酸化物からなる皮膜が析出し、密着性及び耐食性に優れた表面処理皮膜層が形成される。
この接触処理はスプレー処理、浸漬処理及び流しかけ処理などのいかなる工法も用いることができ、この接触方法は性能に影響を及ぼさない。
前記成分(A)の皮膜に含まれる金属の水酸化物を純粋な水酸化物として得ることは化学的に困難であり、一般には、前記金属の酸化物に水和水が付いた形態も水酸化物の範疇に入れている。従って、前記金属の水酸化物は熱を加えることによって、最終的には酸化物となる。本発明における表面処理皮膜層の構造は、表面処理を施した後に常温又は低温で乾燥した場合は、酸化物と水酸化物が混在した状態、更に、表面処理後に高温で乾燥した場合は、酸化物のみ或いは酸化物が多い状態になっていると考えられる。
【0061】
前記鉄及び/又は亜鉛を含む金属材料は、脱脂処理により清浄化されているのが好ましい。脱脂処理の方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
尚、上述したように、本発明の処理液が上記界面活性剤を含有する場合は、前記鉄及び/又は亜鉛を含む金属材料を予め脱脂処理し、清浄化しておかなくても、良好な皮膜を形成させることができる。即ち、この場合は、処理液接触工程において、前記鉄及び/又は亜鉛を含む金属材料の脱脂処理と皮膜化成処理とが同時に行われる。
【0062】
本発明の処理液の使用条件には、特に限定はない。
本発明の処理液の反応性は、前記合計質量濃度Aに対する前記合計質量濃度Bの比であるK1=B/Aと、前記合計質量濃度Aに対する前記合計質量濃度Cとの比であるK2=C/Aを変えることにより自在にコントロールできる。
更に、前記成分(D)フッ素含有化合物の少なくとも1種を用いた場合も、遊離フッ素イオン濃度Dを変えることにより、コントロールすることが可能である。そのため処理温度及び処理時間は処理浴の反応性との組合せで、いかようにも変えることが可能である。
【0063】
本発明の処理方法においては、本発明の処理液を接触させた状態で、前記鉄及び/又は亜鉛を含む金属材料を陰極として電解処理することもできる。
この場合、陰極である前記鉄及び/又は亜鉛を含む金属材料の界面で水素の還元反応が起こり、pHが上昇する。pHの上昇に伴い、陰極界面での成分(A)の元素を含む化合物の安定性が低下し、酸化物又は水を含む水酸化物として、表面処理皮膜が析出する。
【0064】
本発明の処理液を前記鉄及び/又は亜鉛を含む金属材料に接触させ、または、接触させて電解処理した後には、コバルト、ニッケル、すず、銅、チタニウム、及びジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む酸性水溶液、または、水溶性高分子化合物及び水分散性高分子化合物のうち少なくとも1種を含有する処理液と接触させることができる。これにより、本発明の効果を更に高めることができる。
【0065】
本発明によって得られた表面処理皮膜層は薄膜で優れた塗装性能を示す。仮に、被処理金属材料の表面状態に異常がある時は、表面処理皮膜層に微細な欠陥部が存在する可能性がある。そこで、前記、コバルト、ニッケル、すず、銅、チタニウム、及びジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む酸性水溶液、又は水溶性高分子化合物及び水分散性高分子化合物から選ばれる少なくとも1種の高分子化合物を含む処理液と接触させることによって、欠陥部が被覆され耐食性が更に高まるのである。
【0066】
ここで、前記のコバルト、ニッケル、すず、銅、チタニウム、及びジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の供給源としては特に限定はないが、入手が容易である前記金属元素の酸化物、水酸化物、フッ化物、錯フッ化物、塩化物、硝酸塩、オキシ硝酸塩、硫酸塩、オキシ硫酸塩、炭酸塩、オキシ炭酸塩、りん酸塩、オキシりん酸塩、蓚酸塩、オキシ蓚酸塩、及び有機金属化合物等を用いることができる。また、前記金属元素を含む酸性水溶液のpHは2〜6であることが好ましく、りん酸、硝酸、硫酸、フッ化水素酸、塩酸、及び、有機酸等の酸や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アルカリ金属塩、アンモニア、アンモニウム塩、及びアミン類等のアルカリで調整することができる。
【0067】
また、前記の水溶性高分子化合物及び水分散性高分子化合物から選ばれる少なくとも1種の高分子化合物としては、例えばポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体、エチレンと(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリルレートなどのアクリル系単量体との共重合体、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体、ポリウレタン、アミノ変性フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミドアミン、ポリアミン、ポリアミン誘導体、ポリアリルアミン、ポリアリルアミン誘導体、ポリアミドアミン誘導体、ポリビニルアミン、ポリビニルアミン誘導体、タンニン及びタンニン酸とその塩、及びフィチン酸等を用いることができる。
【0068】
以上、詳細に説明したように、本発明は、被処理金属材料表面に前記成分(A)の酸化物及び/又は水酸化物からなる皮膜層、もしくは前記成分(A)の皮膜層と前記成分(B)の金属元素の酸化物及び/又は水酸化物からなる皮膜層が混合した皮膜層を設けることで、金属材料の耐食性を飛躍的に高めることを可能としたものである。ここで、前記成分(A)の酸化物及び/又は水酸化物からなる皮膜は、酸やアルカリに侵され難く化学的に安定な性質を有している。
【0069】
ここで、実際の金属の塗膜下腐食環境では、金属の溶出が起こるアノード部ではpHの低下が、また還元反応が起こるカソード部ではpHの上昇が起こる。従って、耐酸性及び耐アルカリ性に劣る表面処理皮膜は、腐食環境下で溶解しその効果が失われていく。本発明における前記成分(A)の酸化物及び/又は水酸化物からなる皮膜は、酸やアルカリに侵されにくく、且つ、本発明は被処理金属表面に薄膜で均一な表面処理皮膜を形成することができるため、腐食環境下においても優れた効果が持続する。
【0070】
また、皮膜に含まれる金属元素の酸化物及び水酸化物は、金属と酸素を介したネットワーク構造を作るため、非常に良好なバリヤー皮膜となる。金属材料の腐食は、使用される環境によっても異なるが、一般には水と酸素が存在する状況での酸素要求型腐食であり、その腐食スピードは塩化物等の成分の存在によって促進される。ここで、本発明の皮膜層は、水、酸素、及び腐食促進成分に対するバリヤー効果を有するため、優れた耐食性を発揮できる。
【0071】
本発明の組成物及び本発明の処理液において、前記成分(A)、及び前記成分(B)の他に、前記成分(C)を含有させ、これらの量比を特定の範囲としている。このため表面処理皮膜析出時に化成反応を伴う。化成反応を伴うことにより、皮膜の密着性が極めて高くなる。
【0072】
ここで、前記バリヤー効果を利用して、冷間圧延鋼板、熱間圧延鋼板、鋳鉄及び焼結材等の鉄系金属材料の耐食性を高めるには、表面処理皮膜層の付着量が、成分(A)の元素換算で、20mg/m2以上であるのが好ましく、30mg/m2以上であるのがより好ましく、40mg/m2以上であるのが更に好ましい。
【0073】
また、亜鉛又は亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板等の亜鉛系金属材料の耐食性を高めるには、表面処理皮膜層の付着量が、成分(A)の元素換算で、15mg/m2以上であるのが好ましく、20mg/m2以上であるのがより好ましい。
付着量が小さすぎると、前記バリヤー効果が十分に発揮できなくなり、優れた耐食性を得ることが困難となる。
【0074】
更に、鉄系金属材料、及び亜鉛系金属材料の付着量の上限に関しては特に制限はないが、付着量が大きすぎると、表面処理皮膜層にクラックが発生し易くなり、均一な皮膜を得る作業が困難となる。従って、鉄系材料、亜鉛系材料ともに、付着量は、成分(A)の元素換算で、1g/m2以下であるのが好ましく、800mg/m2以下であるのがより好ましい。
【実施例】
【0075】
以下に実施例を比較例とともに挙げ、本発明の表面処理用処理液、及び表面処理方法の効果を具体的に説明する。尚、実施例で使用した被処理素材、脱脂剤、及び塗料は市販されている材料の中から任意に選定したものであり、本発明の表面処理用処理液、及び表面処理方法の実際の用途を限定するものではない。
【0076】
(供試板)
実施例と比較例に用いた供試板の略号と内訳を以下に示す。
・ SPC(冷延鋼板:JIS−G−3141)
・ EG(電気亜鉛メッキ鋼板:メッキ目付量20g/m
【0077】
(処理工程)
実施例1〜5、及び比較例1〜3は以下の処理工程で表面処理を行った。
アルカリ脱脂→水洗→皮膜化成処理→水洗→純水洗→乾燥。
【0078】
実施例6は、以下の処理工程で表面処理を行った。
アルカリ脱脂→水洗→皮膜化成処理→水洗→後処理→純水洗→乾燥。
【0079】
実施例7は、以下の処理工程で表面処理を行った。
アルカリ脱脂→水洗→電解化成処理→水洗→純水洗→乾燥。
【0080】
また、比較例4は以下の処理工程で処理を行った。
アルカリ脱脂→水洗→表面調整→りん酸亜鉛処理→水洗→純水洗→乾燥。
【0081】
アルカリ脱脂は、実施例、比較例ともにファインクリーナーL4460A(登録商標:日本パーカライジング(株)製)を2%、ファインクリーナーL4460B(登録商標:日本パーカライジング(株)製)を1.4%に水道水で希釈し、40℃、120秒間、被処理板にスプレーして使用した。
【0082】
皮膜処理後の水洗、及び純水洗は、実施例、比較例ともに室温で30秒間、被処理板にスプレーした。
また、乾燥は、常温の室内で放置することで行った。
【0083】
<実施例1>
硫酸ジルコニウム水溶液と硫酸ランタンと硝酸を用いて、合計質量濃度比K1=B/A=0.1、合計質量濃度比K2=C/A=0.01である表面処理用組成物を調整した。前記表面処理用組成物をイオン交換水で希釈し、ジルコニウム元素の質量濃度を8000ppmとし、更に水酸化ナトリウムを用いてpHが3.2である表面処理用処理液を調整した。脱脂後に水洗を施した供試板を、50℃に加温した上記表面処理用処理液に180秒間浸漬して表面処理を行った。
【0084】
<実施例2>
ヘキサフルオロジルコニウム水溶液と硝酸サマリウムと硝酸を用いて、合計質量濃度比K1=B/A=2.0、合計質量濃度比K2=C/A=50である表面処理用組成物を調整した。前記表面処理用組成物をイオン交換水で希釈し、ジルコニウム元素の質量濃度を100ppmとし、更にフッ化水素酸、アンモニアを用いて遊離フッ素イオン濃度が25ppm(フッ素イオンメーター:東亜電波工業株式会社製IM-55G)、pHが3.6である表面処理用処理液を調整した。脱脂後に水洗を施した供試板を、45℃に加温した上記表面処理用処理液に150秒間浸漬して表面処理を行った。
【0085】
<実施例3>
硝酸ジルコニウム水溶液と酸化ハフニウムと酸化ガドリニウムと硝酸カリウムを用いて、合計質量濃度比K1=B/A=5.0、合計質量濃度比K2=C/A=20である表面処理用組成物を調整した。前記表面処理用組成物をイオン交換水で希釈し、ジルコニウム元素の質量濃度とハフニウム元素の質量濃度の合計質量濃度を50ppmとし、この液にコハク酸を100ppm添加し、更にフッ化カリウム、水酸化リチウムを用いて遊離フッ素イオン濃度が20ppm(フッ素イオンメーター:東亜電波工業株式会社製IM-55G)、pHが4.0である表面処理用処理液を調整した。脱脂後に水洗を施した供試板を、60℃に加温した上記表面処理用処理液に120秒間浸漬して表面処理を行った。
【0086】
<実施例4>
硝酸ジルコニウム水溶液と塩化ランタン水溶液と酸化エルビウムと硝酸ナトリウムと硝酸ソーダを用いて、合計質量濃度比K1=B/A=35、合計質量濃度比K2=C/A=100である表面処理用組成物を調整した。前記表面処理用組成物をイオン交換水で希釈しジルコニウム元素の質量濃度を20ppmとし、更にフッ化水素酸、水酸化カルシウムを用いて遊離フッ素イオン濃度が15ppm(フッ素イオンメーター:東亜電波工業株式会社製IM-55G)、pHが3.0である表面処理用処理液を調整した。脱脂後に水洗を施した供試板を、55℃に加温した上記表面処理用処理液で120秒間スプレー噴霧して表面処理を行った。
【0087】
<実施例5>
硝酸チタン水溶液とヘキサフルオロ珪酸水溶液と酸化プラセオジウムと硝酸カリウムを用いて、合計質量濃度比K1=B/A=0.4、合計質量濃度比K2=C/A=8.0である表面処理用組成物を調整した。前記表面処理用組成物をイオン交換水で希釈し、チタニウム元素の質量濃度と珪素元素の質量濃度の合計質量濃度を2500ppmとし、更にフッ化アンモニウム、アンモニアを用いて遊離フッ素イオン濃度が100ppm(フッ素イオンメーター:東亜電波工業株式会社製IM-55G)、pHが2.9である表面処理用処理液を調整した。脱脂後に水洗を施した供試板を、65℃に加温した上記表面処理用処理液で300秒間スプレー噴霧して表面処理を行った。
【0088】
<実施例6>
硝酸ジルコニウム水溶液とヘキサフルオロチタニウム水溶液と塩化ランタンと硝酸鉄を用いて、合計質量濃度比K1=B/A=1.0、合計質量濃度比K2=C/A=0.5である表面処理用組成物を調整した。前記表面処理用組成物をイオン交換水で希釈しジルコニウム元素の質量濃度とチタニウム元素の質量濃度の合計質量濃度を200ppmとし、更にフッ化アンモニウム、水酸化カリウムを用いて遊離フッ素イオン濃度が50ppm(フッ素イオンメーター:東亜電波工業株式会社製IM-55G)、pHが4.2である表面処理用処理液を調整した。脱脂後に水洗を施した供試板を、60℃に加温した前記表面処理用処理液で200秒間浸漬して表面処理を行い、その後、水洗、後処理を施した。この時用いた後処理液は、ヘキサフルオロチタン水溶液と硝酸ニッケルを用いて、チタニウム質量濃度が200ppm、ニッケル質量濃度が金属元素として50ppmである水溶液を調整し、更に前記水溶液を45℃に加温した後、水酸化ナトリウムでpHを4.5に調整したものを使用した。
【0089】
<実施例7>
ヘキサフルオロジルコニウム水溶液と硫酸イットリウムと硝酸を用いて、合計質量濃度比K1=B/A=3.0、合計質量濃度比K2=C/A=3.0である表面処理用組成物を調整した。前記表面処理用組成物をイオン交換水で希釈しジルコニウム元素の質量濃度を200ppmとし、この液にEDTAを50ppm添加し、更にフッ化水素酸、水酸化ナトリウムを用いて遊離フッ素イオン濃度が80ppm(フッ素イオンメーター:東亜電波工業株式会社製IM-55G)、pHが2.8である表面処理用処理液を調整した。脱脂後に水洗を施した供試板を陰極とし、陽極にカーボン電極を用いて、室温の前記表面処理用処理液中で5A/dmの電解条件で10秒間電解して表面処理を行った。
【0090】
<比較例1>
硝酸ジルコニウム水溶液と硝酸ホルミウムと硝酸を用いて、合計質量濃度比K1=B/A=0.01、合計質量濃度比K2=C/A=10である表面処理用組成物を調整した。前記表面処理用組成物をイオン交換水で希釈し、ジルコニウム元素の質量濃度を100ppmとし、更に水酸化ナトリウムを用いてpHが3.0である表面処理用処理液を調整した。脱脂後に水洗を施した供試板を、55℃に加温した上記表面処理用処理液に180秒間浸漬して表面処理を行った。
【0091】
<比較例2>
ヘキサフルオロジルコニウム水溶液と酸化ユウロピウムと硝酸ナトリウムを用いて、合計質量濃度比K1=B/A=5.0、合計質量濃度比K2=C/A=200である表面処理用組成物を調整した。前記表面処理用組成物をイオン交換水で希釈しジルコニウム元素の質量濃度を4ppmとし、更にフッ化カリウム、水酸化カリウムを用いて遊離フッ素イオンが20ppm(フッ素イオンメーター:東亜電波工業株式会社製IM-55G)、pHが3.8である表面処理用処理液を調整した。脱脂後に水洗を施した供試板を、60℃に加温した上記表面処理用処理液に120秒間浸漬して表面処理を行った。
【0092】
<比較例3>
ヘキサフルオロチタニウム水溶液と硫酸ガリウムと硝酸カリウムと硝酸アンモンを用いて、合計質量濃度比K1=B/A=70、合計質量濃度比K2=C/A=50である表面処理用組成物を調整した。前記表面処理用組成物をイオン交換水で希釈しチタニウム元素の質量濃度を50ppmとし、更にフッ化アンモニウム、アンモニアを用いて遊離フッ素イオン濃度が400ppm(フッ素イオンメーター:東亜電波工業株式会社製IM-55G)、pHが2.8である表面処理用処理液を調整した。脱脂後に水洗を施した供試板を、50℃に加温した上記表面処理用処理液で150秒間スプレー噴霧して表面処理を行った。
【0093】
<比較例4>
脱脂後に水洗を施した供試板に、表面調整処理剤であるプレパレンZN(登録商標:日本パーカライジング(株)製)を0.1%に水道水で希釈した液を室温で30秒間スプレーで噴霧した後に、パルボンドL3020(登録商標:日本パーカライジング(株)製)を4.8%に水道水で希釈し、更に、フッ化水素ナトリウム試薬をフッ素として200ppm添加した後に、全酸度、遊離酸度をカタログ値の中心に調整した43℃のりん酸亜鉛化成処理液に浸漬してりん酸亜鉛皮膜を析出させた。
【0094】
(表面処理皮膜の評価、及び付着量測定)
実施例、及び比較例の表面処理後の供試板の外観を目視で評価し、表面処理皮膜層の付着量を蛍光X線分析装置(システム3270;理学電気工業(株)製)を用いて測定した。
【0095】
(塗装性能評価板の作製)
実施例、及び比較例の表面処理板の塗装性能を評価するため、以下に示す工程で塗装を行った。カチオン電着塗装→純水洗→焼き付け→中塗り→焼き付け→上塗り→焼き付け。
【0096】
カチオン電着塗装:エポキシ系カチオン電着塗料(エレクロン9400:関西ペイント(株)製)、電圧200V、膜厚20μm、175℃20分焼き付け
【0097】
中塗り塗装:アミノアルキッド系塗料(アミラックTP−37グレー:関西ペイント(株)製)、スプレー塗装、膜厚35μm、140℃20分焼き付け
【0098】
上塗り塗装:アミノアルキッド系塗料(アミラックTM−13白:関西ペイント(株)製)、スプレー塗装、膜厚35μm、140℃20分焼き付け
【0099】
(塗装性能評価)
実施例、及び比較例の塗装性能の評価をJIS規格に準じて実施した。評価項目を以下に示す。尚、電着塗装完了時点での塗膜を電着塗膜、上塗り塗装完了時点での塗膜を3coats塗膜と称することとする。
(i) 塩水噴霧試験:電着塗膜
(ii) 付着性試験:3coats塗膜
【0100】
(塩水噴霧試験(SST試験))
鋭利なカッターでクロスカットを入れた電着塗装板に5%塩水を720時間噴霧(JIS−Z−2371に準ずる)した。噴霧終了後にクロスカット部からの両側最大膨れ幅を測定し、以下に示す評価基準に従って評価した。
<両側最大膨れ幅>
5mm未満 : ◎
5mm以上7mm未満 : ○
8mm以上9mm未満 : △
9mm以上 : ×
【0101】
(付着性試験(クロスカット法))
3coats塗膜に鋭利なカッターを用い、2mm間隔で縦及び横方向に6個のカットを入れて碁盤目を25個切った(JIS−K−5600−5−6に準ずる)。碁盤目部をテープ剥離し、前記JIS規格に準じた評価方法により評価した。
【0102】
表1、及び表2に、実施例、及び比較例で得られた表面処理皮膜の外観評価結果、及び表面処理皮膜の付着量を示す。実施例は、SPC材、EG材ともに均一な皮膜を得ることができ、且つ、目標とした皮膜付着量を得ることが出来た。対して、比較例1では合計濃質量度比K1が小さかったため、SPC材、EG材ともに表面処理皮膜を析出させることができなかった。比較例2では成分(A)の含有量が少なかったため、SPC材、EG材ともに表面処理皮膜を析出させることができなかった。また、比較例3については合計質量濃度比K1が大きく、且つ遊離フッ素イオン濃度Dが高いため、SPC材、EG材ともに表面処理皮膜を析出させることができなかった。また、比較例4は従来のりん酸亜鉛処理であるためSPC材、EG材ともに表面処理皮膜を形成させることはできた。
【0103】
電着塗膜の塗装性能評価結果(塩水噴霧試験)を表3に示す。実施例はSPC材、EG材ともに良好な耐食性を示した。対して、比較例1では、合計濃質量度比K1がK1が小さかったため、成分(B)よる成分(A)の皮膜促進効果が十分に得られなかった。これよりSPC材、EG材ともに表面処理皮膜が多く析出せず耐食性が劣っていた。比較例2は成分(A)含有量が少なかったため、SPC材、EG材ともに目標とした皮膜付着量が得られず耐食性が劣っていた。また、比較例3は合計質量濃度比K1がK1が大きく、且つ遊離フッ素イオン濃度Dが高いため、SPC材、EG材ともに目標とした皮膜付着量が得られず耐食性が劣っていた。比較例4は、現在、カチオン電着塗装下地として一般に用いられているりん酸亜鉛処理である。実施例は比較例4と比べても全ての水準で優れた塗装性能を示していた。
【0104】
3coats板の付着性の評価結果を表4に示す。実施例は、全ての供試板に対して良好な密着性を示した。比較例は、電着塗装板の耐食性と同様に比較例4を除く全ての比較例で供試板に対して良好な密着性を示す水準はなかった。
【0105】
以上の結果から、本発明品である表面処理用組成物、表面処理用処理液、表面処理方法、及び表面処理金属材料を用いることによって、密着性と耐食性に優れる表面処理皮膜を析出させることが可能であることが明らかである。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
【表3】

【0109】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)、成分(B)、及び成分(C):
(A)Ti、Zr、Hf、及びSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物
(B)Y及び/又はランタノイド元素を含む化合物
(C)硝酸及び/又は硝酸化合物
を含有し、
前記成分(A)中の前記元素の合計質量濃度Aに対する前記成分(B)中の前記Y及び/又はランタノイド元素の合計質量濃度Bの比であるK1=B/Aが、0.05≦K1≦50であり、
前記合計質量濃度Aに対する前記成分(C)中の窒素原子のNO換算した合計質量濃度Cの比であるK2=C/Aが、0.01≦K2≦200である、
鉄及び/又は亜鉛を含む金属の表面処理用組成物。
【請求項2】
更に、次の成分(D):
(D)フッ素含有化合物の少なくとも1種
を含有する、請求項1に記載の表面処理用組成物。
【請求項3】
次の成分(A)、成分(B)、及び成分(C):
(A)Ti、Zr、Hf、及びSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物
(B)Y及び/又はランタノイド元素を含む化合物
(C)硝酸及び/又は硝酸化合物
を含有し、
前記成分(A)中の前記元素の合計質量濃度Aに対する前記成分(B)中の前記Y及び/又はランタノイド元素の合計質量濃度Bの比であるK1=B/Aが、0.05≦K1≦50であり、
前記合計質量濃度Aに対する前記成分(C)中の窒素原子のNO換算した合計質量濃度Cの比であるK2=C/Aが、0.01≦K2≦200であり、
前記合計質量濃度Aが、10ppm≦A≦10000ppmである、
鉄及び/又は亜鉛を含む金属の表面処理用処理液。
【請求項4】
更に、次の成分(D):
(D)フッ素含有化合物の少なくとも1種
を含有し、遊離フッ素イオン濃度Dが0.001ppm≦D≦300ppmである、請求項3に記載の表面処理用処理液。
【請求項5】
pHが6.0以下である、請求項3または4に記載の表面処理用処理液。
【請求項6】
更に、HCl、H2SO4、HClO3、HBrO3、HNO2、HMnO4、HVO3、H2O2、H2WO4、H2MoO4及びこれらの塩類からなる群から選ばれる少なくとも1種を、10〜20000ppm含有する、請求項3〜5のいずれかに記載の表面処理用処理液。
【請求項7】
更に、エチレンジアミン四酢酸、グルコン酸、ヘプトグルコン酸、グルコール酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸、アスパラギン酸、酒石酸、マロン酸、リンゴ酸、サリチル酸、及びこれらの塩類からなる群から選ばれる少なくとも1種を、1〜10000ppm含有する、請求項3〜6のいずれかに記載の表面処理用処理液。
【請求項8】
更に、水溶性高分子化合物及び/又は水分散性高分子化合物を含有する、請求項3〜7のいずれかに記載の表面処理用処理液。
【請求項9】
更に、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤及びカチオン系界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項3〜8のいずれかに記載の表面処理用処理液。
【請求項10】
鉄及び/又は亜鉛を含む金属材料に、請求項3〜8のいずれかに記載の表面処理用処理液を接触させる処理液接触工程を有する、鉄及び/又は亜鉛を含む金属の表面処理方法。
【請求項11】
鉄及び/又は亜鉛を含む金属材料に、請求項9に記載の表面処理用処理液を接触させ、前記金属材料の脱脂処理と被膜化成処理とを同時に行う処理液接触工程を有する、鉄及び/又は亜鉛を含む金属の表面処理方法。
【請求項12】
前記鉄及び/又は亜鉛を含む金属材料が、脱脂処理により清浄化された金属材料である、請求項10または11に記載の表面処理方法。
【請求項13】
前記処理液接触工程において、前記鉄及び/又は亜鉛を含む金属材料を陰極として電解処理する、請求項10〜12のいずれかに記載の表面処理方法。
【請求項14】
更に、前記処理液接触工程後に、
前記鉄及び/又は亜鉛を含む金属材料に、コバルト、ニッケル、すず、銅、チタニウム、及びジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む水溶液を接触させる工程を有する、請求項10〜13のいずれかに記載の表面処理方法。
【請求項15】
更に、前記処理液接触工程後に、
前記鉄及び/又は亜鉛を含む金属材料に、水溶性高分子化合物及び/又は水分散性高分子化合物を含む水溶液を接触させる工程を有する、請求項10〜13のいずれかに記載の表面処理方法。
【請求項16】
鉄を含む金属材料表面に、請求項10〜15のいずれかに記載の表面処理方法によって形成された、前記成分(A)の前記元素を含有し、かつ、前記元素換算の付着量が20mg/m2以上である表面処理被膜層を有する、鉄を含む金属材料。
【請求項17】
亜鉛を含む金属材料表面に、請求項10〜15のいずれかに記載の表面処理方法によって形成された、前記成分(A)の前記元素を含有し、かつ、前記元素換算の付着量が15mg/m2以上である表面処理被膜層を有する、亜鉛を含む金属材料。

【公開番号】特開2006−161117(P2006−161117A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−356059(P2004−356059)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】