説明

金属めっき方法

【課題】めっき付着量の均一性に優れ、かつ薄膜のめっきを金属板に金属めっき処理する金属めっき方法を提供する。
【解決手段】平均粒径が平均めっき膜厚値の1/3以下である金属めっき微粒子を金属板に被覆させた後、該金属板を前記金属めっき微粒子の融点以上の温度に加熱し、金属板に金属めっき処理を行う。もしくは、平均粒径が平均めっき膜厚値の1/3以下である金属めっき微粒子を、前記金属めっき微粒子の融点以上の温度に予め加熱した金属板に被覆させて、金属板に金属めっき処理を行う。この時、金属めっき微粒子を金属板に被覆させるに際し、ノズルを用いて前記金属めっき微粒子を金属板に噴射する、もしくは、金属めっき微粒子を帯電させ、静電スプレー法を用いることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板に金属めっき処理を行う金属めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属板に母材とは異なる素材の金属めっきを施し、耐食性等を向上させ、品質価値を高める表面処理方法が行われている。例えば、鋼板表面に亜鉛めっきを施した亜鉛めっき鋼板は自動車、建材、家電製品等の幅広い用途に使用されており、その目的に適しためっき処理が行われている。中でも、溶融めっき浴に鋼板を浸漬させ、その後めっき付着量を制御する溶融金属めっき方法により製造される溶融亜鉛めっき鋼板の需要は著しく増加しており、生産性向上が不可欠となっている。
【0003】
さらに、溶融金属めっき方法、例えば溶融亜鉛めっき方法では、溶融亜鉛めっき浴に浸漬させた後では過剰の溶融亜鉛が鋼板に付着するため、スリットノズルから噴射するガスにより溶融亜鉛をかきおとし、めっき付着量を制御するガスワイピング法が一般的に用いられている。ガスワイピング法は、スリットノズルからのガスの衝突圧力の大きさに応じてめっき付着量を制御する技術である。しかし、高速化になるほどガス圧力を高めなければならず、スプラッシュと呼ばれるガスの衝突による溶融亜鉛の飛散が激しくなり、品質低下を招いてしまい、高速生産には限界がある。
【0004】
これを受け、高速化を実現する方法としては液相の溶融亜鉛をスプレーめっきする方法があり、例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3が開示されている。これらのスプレーめっき方法では、スプレーする量によりめっき付着量が決まるため、めっき後に付着量制御の目的でガスワイピングを用いる必要がないため、高速化に適しためっき方法である。
【0005】
一方、溶融金属浴を用いることなく、金属板に連続金属めっきする方法として、特許文献4が開示されている。特許文献4では、めっき金属材の融点以上に加熱した金属板にめっき金属粉末をキャリアガスによって噴射して溶融させ、金属板に付着させるものである。
【特許文献1】特開平7-138730号公報
【特許文献2】特開平7-138731号公報
【特許文献3】特開平7-173600号公報
【特許文献4】特開平5-311388号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜3に記載のスプレーめっき方法では、薄膜のめっき膜厚を得ることが困難である。スプレーめっき方法は液相の溶融亜鉛を空気等の気体と高圧で混合させることにより微細化し、その粒子を鋼板に付着させるものであるが、スプレーによる微細化では、平均粒径10μm程度が限界であり、均一なめっき膜厚を得ようとすると、20〜30μm程度のめっき膜厚にならざるを得ない。しかし、例えば自動車等に利用されるめっき膜厚は溶接性、めっき後の合金化処理等から6〜10μm程度のものも必要とされるため、従来のスプレーめっき方法ではこのような薄膜のめっき処理は困難である。
【0007】
特許文献4に記載の技術では、亜鉛粉末の粒径は明記されていないが、亜鉛付着量かから換算しためっき膜厚は8.6±1.4μmとめっき膜厚のばらつきが大きく、均一なめっき膜厚が得られていない。
【0008】
そこで、本発明は、前記課題を解決し、めっき付着量の均一性に優れ、かつ薄膜のめっきを金属板に金属めっき処理する金属めっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた。その結果、金属板に金属めっき微粒子を被覆させることによる金属めっき方法に着目し、かつその金属めっき微粒子の平均粒径を規定することにより、薄膜であり、かつ、均一なめっき膜厚を得ることができることを見出した。
【0010】
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
[1]金属板に金属めっき処理を行うに際し、平均粒径が平均めっき膜厚値の1/3以下である金属めっき微粒子を金属板に被覆させた後、該金属板を前記金属めっき微粒子の融点以上の温度に加熱することを特徴とする金属めっき方法。
[2]金属板に金属めっき処理を行うに際し、平均粒径が平均めっき膜厚値の1/3以下である金属めっき微粒子を、前記金属めっき微粒子の融点以上の温度に予め加熱した金属板に被覆させ、金属めっきすることを特徴とする金属めっき方法。
[3]前記[1]または[2]において、ノズルを用いて前記金属めっき微粒子を金属板に噴射し、金属めっき微粒子を金属板に被覆させることを特徴とする金属めっき方法。
[4]前記[1]または[2]において、前記金属めっき微粒子を帯電させ、静電スプレー法により金属めっき微粒子を金属板に被覆させることを特徴とする金属めっき方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、非常に小さい粒径をもつ金属めっき微粒子を用いるため、薄膜であり、かつ、均一なめっき膜厚を得ることができる。さらに、金属板に付着させる金属めっき微粒子の量をコントロールするだけでめっき膜厚を制御できるため、めっき後に付着量制御を行う必要がなく、高速化することが可能となり、生産性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
まず、本発明において、金属板に被覆する金属微粒子の平均粒径は平均めっき膜厚値の1/3以下とする。これは本発明の特徴であり、重要な要件である。このように金属板に被覆する金属微粒子の平均粒径を規定することにより、薄膜でありながら、かつ、均一なめっき膜厚を得ることが可能となる。金属めっき微粒子の平均粒径が平均めっき膜厚値の1/3超えでは、薄膜のめっき膜厚にしようとすると、不均一なめっき膜厚になるといった問題や、均一なめっき膜厚にしようとするとめっき膜厚が大きくなるという問題が生じる。平均めっき膜厚値の1/3以下の微粒子を用いることにより、めっき膜厚の凹凸を小さくするとともに、金属板に付着した金属めっき微粒子を溶解し、レベリングさせることで均一なめっき膜厚を得ることができる。
なお、本発明において、金属めっき微粒子とは、亜鉛、アルミニウム、鉄、銅、ニッケル、マンガン、モリブデン、銀、金、タングステン、ジルコニウム、ニオブ、コバルト、チタン等の金属、前記の各種化合物や前記の混合物等であり、例えば、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン等の酸化物を含むものである。また、金属めっき微粒子は、用途に応じて選択すればよい。
【0013】
次に、本発明においては、以上のように規定した金属めっき微粒子を金属板に被覆させた後、該金属板を前記金属めっき微粒子の融点以上の温度に加熱する。もしくは金属めっき微粒子を、前記金属めっき微粒子の融点以上の温度に予め加熱した金属板に被覆させる。これらは本発明の2つめの特徴である。金属めっき微粒子を金属板に付着させた後に金属板を金属めっき微粒子の融点以上に加熱する、あるいは予め金属板の温度を金属めっき微粒子の融点以上に加熱することで、金属めっき微粒子と金属板の密着性が高まる。
【0014】
金属めっき微粒子を金属板に被覆させる方法は特に限定しない。中でも、スプレーノズルを用いて、金属板に金属めっき微粒子は噴射し、金属板に金属めっき微粒子を付着させることが好ましい。スプレーノズルの圧力を調整することにより金属めっき微粒子の流量を制御することができ、めっき膜厚をコントロールすることができるからである。また、金属めっき微粒子を帯電させ、静電スプレー法により金属板に被覆させることも可能である。この場合は、金属めっき微粒子が帯電し、金属板に付着しやすくなるために、噴射した微粒子が金属板に付着する割合が高まり、過剰な微粒子を供給する必要性がなくなり、より効率的なめっきが行える。
【0015】
金属板の種類は、鋼板、アルミ板等、特に限定はされない、また、金属板は連続的に通板させ、連続めっき処理を行うことができる。
【0016】
また、金属めっき微粒子の飛散を防止するために、金属めっき微粒子を金属板に付着させる部分をパージしてもよく、さらに、酸化雰囲気を好まないめっき処理の場合は、パージした内部の酸素濃度を下げた構造にしてもよい。
【実施例1】
【0017】
本発明を以下の実施例及び比較例により詳細に説明する。
【0018】
図1は本発明の一実施態様を示す図である。図1において、冷延鋼板1は非酸化性雰囲気に調節されている熱処理炉2内を通り、めっき処理室3に搬送される。めっき処理室3内では、スプレーノズル4を介して亜鉛微粒子5を冷延鋼板1に吹き付けることにより亜鉛めっき処理が施される。
図1の装置を用いて、板厚0.8mm、板幅200mmの冷延鋼板に対して、亜鉛めっき処理を行った。熱処理炉2により冷延鋼板の温度を430〜440℃に加熱した。また、めっき処理室3内で、亜鉛微粒子5を冷延鋼板1に吹き付けるに際し、スプレーノズル4からの亜鉛微粒子の流量をコントロールすることにより、所定の亜鉛めっき膜厚が得られるようにした。
以上より得られためっき鋼板に対して、亜鉛めっき膜厚の平均膜厚値と標準偏差値を計測した。また、比較例として、従来法である溶融亜鉛をスプレーによりめっきしためっき鋼板を製造し、本発明例と同様に亜鉛めっき膜厚の平均膜厚値と標準偏差値を計測した。得られた結果をめっき微粒子の平均粒径と併せて示す。なお、平均粒径は粒度分析器で求めた。
【0019】
【表1】

【0020】
表1より、本発明例では、平均めっき膜厚の1/3以下のめっき微粒子を用いることにより、標準偏差値が小さく、十分均一なめっき膜厚分布が得られている。
一方、比較例では、薄膜のめっき膜厚にすると、標準偏差値が大きく、均一なめっき膜厚が得られず、逆に、均一なめっき膜厚を得ようとすると、めっき膜厚が大きくなり、薄膜性と均一性の両立が得られなかった。
【実施例2】
【0021】
図2は、本発明の他の実施態様を示す図である。図2において、めっき処理室3内に静電スプレー6を配置させ、亜鉛微粒子5を帯電させた。
【0022】
図2の装置を用いて、板厚0.8mm、板幅200mmの冷延鋼板に対して、実施例1と同様に、亜鉛めっき処理を行った。熱処理炉2により冷延鋼板の温度を430〜440℃に加熱した。また、めっき処理室3内で、亜鉛微粒子5を冷延鋼板1に吹き付けるに際し、静電スプレー6からの亜鉛微粒子の流量をコントロールすることにより、所定の亜鉛めっき膜厚が得られるようにした。
以上より得られためっき鋼板に対して、亜鉛めっき膜厚の平均膜厚値と標準偏差値を計測した。得られた結果を表2に示す。なお、亜鉛めっき膜厚の平均膜厚値と標準偏差値、平均粒径の測定方法は実施例1と同様である。
【0023】
【表2】

【0024】
表2より、本発明例においては、何れの条件においても薄膜かつ均一なめっき膜厚が得られ、さらに、静電スプレーを用いることにより、めっき効率も良好であった。
【実施例3】
【0025】
図3は、本発明の他の実施態様を示す図である。図3において、冷延鋼板1は非酸化性雰囲気の炉7内を通り(加熱せず)、めっき処理室3に搬送される。めっき処理室3内では、スプレーノズル4を介して亜鉛微粒子5を冷延鋼板1に吹き付けることにより亜鉛めっき処理が施される。次いで、誘導加熱炉8にて、鋼板を430〜440℃に加熱する。
図3の装置を用いて板厚0.8mm、板幅200mmの冷延鋼板に対して、実施例1と同様に、亜鉛めっき処理を行った。めっき処理室3内で、亜鉛微粒子5を冷延鋼板1に吹き付けるに際し、スプレーノズル4からの亜鉛微粒子の流量をコントロールすることにより、所定の亜鉛めっき膜厚が得られるようにした。以上より得られためっき鋼板に対して、亜鉛めっき膜厚の平均膜厚値と標準偏差値を計測した。なお、亜鉛めっき膜厚の平均膜厚値と標準偏差値、平均粒径の測定方法は実施例1と同様である。
実験の結果、実施例1と同程度の平均膜厚値と標準偏差値が得られ、均一な薄膜めっき鋼板を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明により得られるめっき鋼板は、そのめっき膜厚が均一であり、耐食性に優れているので、自動車、建材、家電製品等を中心に幅広い用途での使用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態を示す図である。(実施例1)
【図2】本発明の他の実施形態を示す図である。(実施例2)
【図3】本発明の他の実施形態を示す図である。(実施例3)
【符号の説明】
【0028】
1 冷延鋼板
2 熱処理炉
3 めっき処理室
4 スプレーノズル
5 亜鉛微粒子
6 静電スプレー
7 炉
8 誘導加熱炉





【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板に金属めっき処理を行うに際し、平均粒径が平均めっき膜厚値の1/3以下である金属めっき微粒子を金属板に被覆させた後、該金属板を前記金属めっき微粒子の融点以上の温度に加熱することを特徴とする金属めっき方法。
【請求項2】
金属板に金属めっき処理を行うに際し、平均粒径が平均めっき膜厚値の1/3以下である金属めっき微粒子を、前記金属めっき微粒子の融点以上の温度に予め加熱した金属板に被覆させ、金属めっきすることを特徴とする金属めっき方法。
【請求項3】
ノズルを用いて前記金属めっき微粒子を金属板に噴射し、金属めっき微粒子を金属板に被覆させることを特徴とする請求項1または2に記載の金属めっき方法。
【請求項4】
前記金属めっき微粒子を帯電させ、静電スプレー法により金属めっき微粒子を金属板に被覆させることを特徴とする請求項1または2に記載の金属めっき方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−31729(P2007−31729A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−212065(P2005−212065)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】