説明

金属イオン含有排水の処理装置

【課題】マグネシウム又はマグネシウム合金を主成分とする分離材を用いて低濃度排水処理を行う際に、分離材表面に発生する水素ガスや水酸化マグネシウムといった反応阻害物質を連続的に剥離し、安定して、確実に分離材であるマグネシウム表面に対象となる排水が接触でき、排水中の金属イオンを長時間連続して分離できる金属イオン含有排水処理装置を提供する。
【解決手段】回転軸が水平面に対して傾斜する状態で配置された回転ドラム内に装填したマグネシウム又はマグネシウム合金を主成分とする分離材がドラムの回転によって転動し、被処理排水との反応により分離材の表面に形成する反応物の連続剥離により分離材を再生し、剥離した反応物を固液分離することを特徴とする金属イオン含有排水の連続処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害な金属イオンあるいは有用な金属イオンを含む排水から、これらの金属イオンを効率的かつ連続的に分離除去あるいは分離回収する転動式回転ドラム型処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
めっき工場、製錬工場、ゴミ焼却場等の排水(以下、特に区別しない限り廃水、地下水、溶出液等金属イオンを含む水性液を意味する)には、人体に有毒な、例えば、水銀、鉛、カドミニウム、砒素、クロム、銅、ニッケル等の重金属が含まれている。また、生物にとって有毒の元素である砒素は、通常、熱水・熱気鉱床の旧鉱山廃水、温泉水や地熱発電所等の排温水等の地下水や、産業廃棄物、都市ゴミ焼却灰・飛灰、電気炉製鋼ダスト等にも含有されている。これら金属の除去のためには、通常、金属イオンを含む排水あるいは金属イオンを溶出した排水から、金属を分離除去する方法がとられている。また、例えば、産業的に有用・有価な、亜鉛、銀、金、ニッケル、クロムの回収にも、通常、これらの金属イオンを溶出した排水から、金属を分離回収する方法が採用されている。
【0003】
従来、このような排水の処理には、中和剤や沈殿剤を添加することによって化合物を生成させ沈殿凝集させる方法、無機イオン交換体または有機イオン交換体を用いる方法、吸着剤を用いる方法がある。沈殿凝集法は、水酸化物、硫化物、炭酸塩といった難溶性の化合物を析出させ、固液分離することで排水中に溶解している物質を分離除去するものである。無機イオンまたは有機イオン交換体を用いる方法を用いる方法は、排水中に含まれるイオン成分が無機イオンまたは有機イオン交換体が持つイオンとの置換反応によって分離するものである。吸着剤を用いる方法は、活性炭に代表される多孔性吸着剤表面に排水中に溶解している物質を取り去る吸着現象によって分離するものである。
【0004】
多量に発生する低濃度排水の処理を行う場合、コストや固液分離後に発生する固体分(スラッジ)処理の観点から、沈殿凝集法は排水処理分野でもっとも広く利用されており、無機系沈殿凝集剤としてはカルシウム系、アルミニウム系、鉄系、マグネシウム系が知られている。なかでも、マグネシウム系の沈殿凝集剤を用いると、析出する粒子が微細なため、固液分離後に発生するスラッジを減容化することができる(非特許文献1)。
【0005】
近年、パソコン等の筐体にマグネシウム合金が使用されるようになったが、マグネシウム合金のリサイクルが課題となっている。この課題に対して、本発明者らが知見した、マグネシウムが水溶液中で変化生成するMg(OH)により、種々の金属イオンを分離できるという事実を組み合わせて、本発明者らは、金属イオンを含む排水中に、マグネシウム又はマグネシウム合金を主成分とする分離材を添加し、水とマグネシウムの反応により排水のpH中和を進めるとともに、マグネシウム表面に生成する水酸化マグネシウム層に、金属イオンを吸着させ、金属イオンを排水から分離することを特徴とする金属イオンの分離方法を発明した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Schiller,J.E. & Khalafalla,S.E.:MAGNESIUM−OXIDE FOR IMPROVED HEAVY−METALS REMOVAL, Min.Eng.,Vol.36,p.171−173,(1984)
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−167564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、マグネシウム又はマグネシウム合金を主成分とする分離材を添加するだけの方法では、マグネシウム表面に水とマグネシウムの反応により発生する水素ガスの付着および水酸化マグネシウムの堆積により排水処理の効率が次第に低下する。また、バッチ式の反応槽方式では、槽内底部に分離材が沈降するため、排水との接触効率が低く、排水処理能力に限界があり作業能率も低いという課題を有している。
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、マグネシウム又はマグネシウム合金を主成分とする分離材を用いて低濃度排水処理を行う際に、分離材表面に発生する水素ガスや水酸化マグネシウムといった反応阻害物質を連続的に剥離し、安定して、確実に分離材であるマグネシウム表面に対象となる排水が接触でき、排水中の金属イオンを長時間連続して分離できる金属イオン含有排水処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的に沿う本発明の構成は、装置に充填したマグネシウム又はマグネシウム合金を主成分とする分離材が、回転ドラム内で回転に伴い転動し、相互にまたは回転ドラム壁と衝突することで、表面に生成したガスおよび分離対象の金属イオンを含む水酸化マグネシウムなどの不溶性化合物を剥離し、反応性の高い金属性表面を新生し続け、連続的に金属イオンを分離処理することを特徴とする。
【0011】
また本発明の構成は、分離材充填部が通水孔をもつ隔壁で区分けされた2つ以上の区画が連続する形態であり、当該処理装置を通る排水の流路を長くすることで排水が分離材と接触する確率を向上させるとともに、多段の反応槽とすることで金属イオン濃度の高い上流側の排水と金属イオン濃度の低い下流側の処理排水の混合を避け、効率的に金属イオンの分離処理することを特徴とする。
【0012】
また本発明の構成は、回転ドラム内壁に突起や凹凸を設け、装置に充填したマグネシウム又はマグネシウム合金を主成分とする分離材を効率よく転動させることにより、表面に生成したガスおよび分離対象の金属イオンを含む水酸化マグネシウムなどの不溶性化合物を効率的に剥離し、反応性の高い金属性表面を確実に新生し続け、連続的に金属イオンの分離処理することを特徴とする。
【0013】
また本発明の構成は、装置に充填したマグネシウム又はマグネシウム合金を主成分とする分離材とともに金属製あるいはセラミックス製の硬質体を入れ、回転ドラム内で回転に伴い分離材と硬質体が共に転動し相互の衝突により、表面に生成したガスおよび分離対象の金属イオンを含む水酸化マグネシウムなどの不溶性化合物を効率的に剥離し、確実に反応性の高い金属性表面を新生し続け、連続的に金属イオンの分離処理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、上記した構成を採用することにより、マグネシウム又はマグネシウム合金を分離材として用いて低濃度排水処理を行う際に、分離材表面に発生する水素ガスや水酸化マグネシウムといった反応阻害物質を連続的に剥離し、安定して、確実に分離材であるマグネシウム表面に対象となる排水が接触でき、排水中の金属イオンを長時間連続して分離できる。
【0015】
本発明に用いるマグネシウム又はマグネシウム合金分離材としては、今後多量の発生が予想されるマグネシウムスクラップの利用も可能であり、経済的、環境負荷的にも意義深い。マグネシウム合金としては、マグネシウムを質量%で50%以上含有するものであれば良く、ASTM記号を基準とすればAZ31C、AZ61A、AZ80A、AZ91D、AM50A、AM60B、AM100A、EZ33、ZE41、QE22A、WE54A、WE43、ZK51A、ZK60A、ZK61A等の合金があげられる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明を具体化した実施の形態にかかる転動式回転ドラム型排水処理装置を図面に基づき説明し、本発明の理解に供する。
【0017】
本発明における排水処理装置は、回転するドラム内に、金属イオンを含む廃水、地下水、溶出液等の排水を通水することで、金属イオンを効率的かつ連続的に分離除去あるいは分離回収できる排水処理装置である。
【0018】
本発明における排水処理装置は、図1に示すように、回転軸が水平面に対して傾斜する状態で配置された回転ドラム10を有する回転ドラム装置であり、回転ドラム10の両端面のうち傾斜して上側となった端面に、被処理排水を上方から回転ドラム10内に注入する被処理排水注入孔11と、回転ドラム10の両端面のうち傾斜して下側となった端面に、被処理排水を下方から回転ドラム10外に排出する被処理排水排出孔12を有し、回転ドラム10を経由して排出される被処理排水を固液分離する固液分離装置13を有する。
【0019】
回転ドラム10は、隔壁14によって複数に区切られた反応槽で構成されており、その少なくとも1つの区画にマグネシウム又はマグネシウム合金を主成分とする分離材15を装填する。隔壁14は、図2に示すように、浄化材が通過できない大きさの開口径をもつメッシュ部材を配した通水孔16を1つ以上有する。分離材15が回転ドラム10の回転によって転動し、被処理排水との反応により分離材15の表面に形成する反応物の連続剥離により分離材15を再生する。
【0020】
本発明の回転機構としては、回転ドラムを制御しつつ回転できるものであれば、特に限定されるものではないが、例えば回転ドラムの下部に接して回転するローラーが好適である。回転ドラム10をローラー17などの外部駆動力により回転させ、注入孔11より排水を注ぎ入れると、回転ドラム10の傾斜に従い排水は回転ドラム10内の分離材15に接触しながら進み、排出孔12より回転ドラム10外に出る。このとき、槽内での分離反応に伴い発生した水酸化マグネシウムなどの不溶性化合物も混在して排出されるため、固液分離装置13にて被処理排水を固液分離する。
【0021】
固液分離装置は、回転ドラム装置の排出孔の下流に設けるもので、回転ドラム装置との一体型、あるいは個別型として設けることができる。固液分離方法としては、沈殿分離、浮上分離、遠心分離、膜分離など既知の固液分離方法を使用することができる。
【0022】
本発明で用いる分離材の形状は特に制限されるものではなく、例えば、マグネシウム又はマグネシウム合金の粉末、薄片、粒体状が含まれる。マグネシウムの表面は著しく活性が大きいことから、分離材のサイズが細かいほど分離特性は高いが短時間で反応性を失う傾向があるため、反応を長時間持続するために数ミリメートル以上のサイズの分離材であることが好ましい。また、分離材同士が相互あるいは回転ドラム壁に衝突することで金属性表面が新生されるため、反応槽内で分離材同士が付着してだま(塊)が形成されにくい大きさの分離材であることが好ましい。
【0023】
本発明においては、金属イオンの種類および濃度と金属イオンを含む排水のpHによって金属イオンの分離の状況が変化する。分離材の主成分であるマグネシウム又はマグネシウム合金が水と反応し、マグネシウムイオンが発生することで分離反応が進行するため、pHは酸性領域であることが好ましいが、中性領域、アルカリ性領域においても分離材と水との反応が進行することで分離可能である。
【0024】
また、金属イオンを含む排水処理を行う際の回転ドラム径、回転速度、回転ドラム傾斜角度、分離材充填量は、特に限定されるものではないが、充填した分離材が回転によって十分に転動する条件に設定することが望ましい。
【0025】
また、金属イオンを含む排水処理を行う際の通水速度は、被処理排水中の金属イオン濃度、回転ドラム径、回転ドラム傾斜角度、分離材充填量に応じて任意に設定することができる。
【実施例】
【0026】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
実施例1:ニッケルの分離回収
稼働中のニッケルめっきラインの洗浄工程より排水を採取し、本発明の排水処理装置にて金属イオン分離を試みた。本実施例の排水処理装置は、直径354mm、長さ310mmの回転ドラム内部を6区画に区切り、これを水平面に対して15度傾斜させ、23rpmの速度で回転させた。
【0027】
最も高い位置にある区画は排水注入孔とバッファ槽の役割を持ち、被処理排水はその下に続く4区画の反応槽を通過後、最も低い位置にある区画に設置された排出口を経て槽外へと出る。4区画のうち1区画にマグネシウム合金を800g入れて排水処理を行った。ここで用いたマグネシウム合金は比較的形状の整ったチップ状(約1×1×4mm)のAZ91Dである。被処理排水は酸性(pH=2.5)でありpH調整することなく直接150ml/minの流量で回転する反応槽に連続注入するとともに、回転ドラム内の反応層を経由して回転ドラム外に注ぎ出る被処理排水を濾紙(5A)にて固液分離した。
【0028】
本実施例の排水処理装置を経て採取された処理水のイオン濃度およびpHの経時変化を図3に示した。注入前の被処理排水はpH=2.5、Ni濃度=105ppm、Mg濃度=3.5ppmであったが、反応槽内でMg合金と反応後は採取開始時当初からNiはICP(Inductively Coupled Plasma、誘導結合プラズマ)発光分光分析で検知限界以下であり、すべてのNiイオンが被処理排水中より除去されていることが明らかとなった。また、約60Lの洗浄排水を連続して反応槽に注入したが、すべての処理水が検知限界以下のNi濃度となり、安定して除去反応が起こっていることが確認できた。このことから、転動式では、Mg合金の水和反応に伴い表面に生成したガスおよび分離対象の金属イオンを含む水酸化マグネシウムなどの不溶性化合物を剥離し、反応性の高い金属性表面を新生し続け、連続的に金属イオンを分離処理できていることが示された。
【0029】
反応当初より処理水のpHは9.25と高くなり、その後は若干pH値が下がりながらも約8.9で安定する傾向があった。また、処理水中のMg濃度は120.4ppmまで著しく増大し、その後すぐに約100ppmで安定する。これは、被処理排水注入直後のMg合金表面はほぼ100%金属性の状態であるので、活性が強く、水和反応に伴うMgの溶解、水素ガスの発生、OHイオン濃度の増加が速いためである。その後、Mg合金表面にMg(OH)2を主成分とする反応層が形成されるので活性自体は弱くなるものの、転動によるMg合金チップ同士の衝突によって反応層が剥離されるため、金属性の表面が現れ安定的に反応が継続するものと考えられる。
【0030】
比較例1(実施例1の比較例)
この比較例は実施例1の比較例である。実施例1と同様に、稼働中のニッケルめっきラインの洗浄工程より採取した排水を被処理排水とした。
【0031】
排水処理装置は実施例1と同様のものを用いた。ただし、回転ドラムを回転させず被処理排水を通水させた。排水処理装置を経て採取された処理水のNiイオン濃度は、初期採取ではICPで検出限界以下であったが、500ml処理後には数ppmのNiイオンが検出され、1000ml処理後では10ppm以上のNiイオン濃度となり、処理量の増加に伴い次第に処理されずに処理水に残留するNiイオン濃度が増える傾向が示された。この場合、分離材の表面反応により初期に注入された被処理排水中のNiイオンは分離除去されるものの、分離材が転動しないため、反応の進行に伴い分離材表面に堆積する反応生成物は剥離することなく安定に存在することによって分離性能が徐々に低下していくものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の構成にかかる転動式回転ドラム型処理装置を示す正面断面図である。
【図2】図1のII−II断面を示す断面図である。
【図3】ニッケル分離除去の例で、マグネシウム合金を主成分とする分離材を用いて本発明の転動式回転ドラム型処理装置でニッケルめっき排水を連続処理した場合の、処理水濃度の時間変化を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
10:回転ドラム
11:被処理排水注入孔
12:被処理排水排出孔
13:固液分離装置
14:隔壁
15:マグネシウム又はマグネシウム合金を主成分とする分離材
16:隔壁上の通水孔
17:駆動用ローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を水平面に対して傾斜して配置した回転ドラムと、該ドラムの両端面のうち傾斜して上側となった端面に設けられた被処理排水注入孔と、該ドラムの両端面のうち傾斜して下側となった端面に設けられた被処理排水排出孔と、該ドラムの軸線方向に設けられた回転軸と、前記回転ドラムを回転させる駆動機構と、前記被処理排水排出孔の下流に設けられた固液分離装置とを備え、
前記回転ドラム内に分離材として装填したマグネシウム又はマグネシウム合金を、ドラムの回転によって転動させ、
被処理排水との反応により前記分離材の表面に形成する反応生成物の剥離により前記分離材表面を再生し、
前記回転ドラムから排出する被処理排水を固液分離することで、前記剥離した分離材表面の固体反応生成物に吸着されている金属イオンを分離除去あるいは分離回収することを特徴とする金属イオン含有排水の連続処理装置。
【請求項2】
前記回転ドラム内を複数の区画に分けるための通水孔を有する隔壁を設けていることを特徴とする請求項1記載の金属イオン含有排水の連続処理装置。
【請求項3】
前記回転ドラム内壁に突起及び/又は凹凸を設けていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の金属イオン含有排水の連続処理装置。
【請求項4】
請求項1において、前記回転ドラム内に装填される分離材とともに硬質体が混在していることを特徴とする請求項1乃至3記載の金属イオン含有排水の連続処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−106221(P2012−106221A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271977(P2010−271977)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年9月1日発行 社団法人 日本鉄鋼協会 「材料とプロセスVol.23(2010)No.2、第160回秋季講演大会 論文集」
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【出願人】(510321583)
【Fターム(参考)】