説明

金属シリコンからのボロン除去方法

【課題】金属シリコンから速い速度でボロンを除去する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、ボロンを含有する金属シリコン多孔質体にプラズマを照射して溶融し、非酸化性雰囲気で冷却することを特徴とする金属シリコンからのボロン除去方法である。前記金属シリコン多孔質体は、充填率が60%以上であること、金属シリコン粉末を還元性ガス雰囲気下で焼結することによって調製されること、又は金属シリコン粉末を800℃以上で焼結することによって調製されること、などが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属シリコンから不純物元素であるボロンを除去する方法に関し、特に太陽電池用シリコン基板を製造するに際し、出発原料となる金属シリコンからボロンを除去するのに適した方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池用シリコン基板は、所望の半導体特性を発揮するために、ボロン含有量を質量基準で0.3ppm以下程度に低減する必要がある。したがって、原料となる金属シリコンからボロンを除去する方法について、従来から研究がなされてきた。
【0003】
例えば特許文献1〜4は、シリコンの精製方法を開示している。特許文献1は、粉末、顆粒、削りくずなどの分割された形のけい素を、プラズマ発生用ガスの高周波励起によって得られる熱プラズマの下で溶融する方法を開示している。特許文献2はシリコンを、底部にガス吹込み羽口を有する容器内で溶融し、該羽口からAr若しくはH2又はこれらの混合ガスを吹き込む方法を開示している。特許文献3は、シリカあるいはシリカを主成分とする容器内に溶融シリコンを保持し、該溶融シリコンの溶湯面に不活性ガスのプラズマガスジェット流を噴射するとともに、該容器の底部より不活性ガスを吹き込む方法を提案している。また、特許文献4は、溶融した金属シリコンを高圧水で噴霧して微粒粉末とし、該微粒粉末の表面にボロン及びシリコンの酸化物層を形成させ、その後、該酸化物層を酸溶液で処理して溶解除去する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−218506号公報
【特許文献2】特開平4−193706号公報
【特許文献3】特開平5−139713号公報
【特許文献4】特開平10−130011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1、2に開示される方法では、ボロンの除去速度が非常に遅く、目標とするボロン濃度に達するまでに長時間を要するという問題があった。特許文献3の方法によって達成できるボロン除去速度は、特許文献1、2に比べれば速くなるものの、実用化するには不十分であった。また、特許文献4の方法では、金属シリコンを溶融した状態で酸化物層を形成させるため、金属シリコンの温度をせいぜいシリコンの融点程度までしか上げることができず、ボロン除去速度が未だ不十分であった。また、形成させた酸化物層を、人体に有害なフッ酸などの酸溶液で処理するため、その処理は複雑であった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、金属シリコンから速い速度でボロンを除去する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成した本発明は、ボロンを含有する金属シリコン多孔質体にプラズマを照射して溶融し、非酸化性雰囲気で冷却することを特徴とする金属シリコンからのボロン除去方法である。前記金属シリコン多孔質体は、金属シリコン粉末の焼結体であることが好ましい。
【0008】
前記金属シリコン多孔質体は、充填率が60%以上であること、金属シリコン粉末を還元性ガス雰囲気下で焼結することによって調製されること、又は金属シリコン粉末を800℃以上で焼結することによって調製されること、などが好ましい。前記金属シリコン粉末の最大粒径は3mm以下であることも好ましい。
【0009】
前記プラズマが直流アークプラズマであること、プラズマ発生用ガスが水素、水蒸気、二酸化炭素、及び酸素のうち少なくとも一種を含有することなどが好ましい。
【0010】
本発明は、上記方法によってボロンを除去した金属シリコンも包含する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、金属シリコンを多孔質体にしてプラズマを照射するため、金属シリコンの表面積が増大し、ボロンを効率よく除去することができるとともに、プラズマを照射した金属シリコン多孔質体が溶融することで金属シリコンの表面積が減少し、その内部の酸化を抑制することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、金属シリコンを多孔質体にしてプラズマを照射する点に特徴を有している。プラズマを照射することによって、ボロンが金属シリコンの表面に迅速に拡散し、蒸気圧の高い物質となって効率よく除去できる。また、金属シリコンを多孔質体とすることによって、プラズマとの接触面積を大きくすることができ、ボロンの除去効率を一層向上できる。
【0013】
また、本発明は、プラズマを照射した前記金属シリコン多孔質体を溶融する点にも特徴を有している。金属シリコン多孔質体を溶融すると、気体との接触面積が減少するため、金属シリコンの酸化を抑制できる。さらに、溶融した金属シリコンを非酸化性雰囲気で冷却することが重要である。溶融した金属シリコンを非酸化性雰囲気で冷却すると、冷却中の雰囲気からの酸素の混入を防止できるため、金属シリコンの酸化を抑制できる。
【0014】
本発明におけるプラズマは熱プラズマであり、熱プラズマの発生方法としては、直流アーク放電による方法、高周波電圧による方法、マイクロ波による方法などが挙げられる。本発明のプラズマは、最も装置が簡便な直流アークプラズマであることが好ましい。
【0015】
プラズマの表面温度は、1800℃以上が好ましく、より好ましくは2000〜2500℃程度である。
【0016】
プラズマ発生用ガスは、例えば水素、水蒸気、二酸化炭素、及び酸素のうち少なくとも一種を含有するものが挙げられ、これらのガスのみで構成されていても良いし、これらのガスと不活性ガス(アルゴンなどの希ガス、窒素など)との混合ガスでも良い。プラズマ発生用ガスが水素、水蒸気、二酸化炭素、及び酸素のうち少なくとも一種を含有することによって、金属シリコン中のボロンが水素及び/又は酸素と結合して蒸気圧の高い物質を形成し、ボロンを効率良く除去できる。プラズマ発生用ガスは、少なくとも水蒸気を含むことがより好ましく、水蒸気のみであることがさらに好ましい。
【0017】
プラズマ照射によって溶融した金属シリコンの温度は、通常、シリコンの融点(約1414℃)以上である。金属シリコンの温度が融点以上となると、金属シリコンが溶融し、ボロンを除去後に直ちに表面積が減少して酸化を防止することができる。プラズマ照射後の金属シリコンの温度は、好ましくは1450℃以上であり、より好ましくは1500℃以上である。一方、該金属シリコンの温度が沸点近くになると、シリコンの蒸発量が多くなるため、シリコンの沸点を超えないことが好ましい。具体的には2200℃以下であり、より好ましくは1800℃以下である。
【0018】
溶融した金属シリコンは、非酸化性雰囲気で冷却する。非酸化性雰囲気は、例えばアルゴンなどの希ガスや、窒素などである。また、多孔質体を溶融状態のまま、外気にほとんど触れないよう開口部を小さくした形状を持つルツボ、又は外気との境に反応により形成した二酸化ケイ素などでキャップされたルツボなどに溜め込むことで実質的に酸化を防ぐことも可能である。
【0019】
本発明で用いる金属シリコン多孔質体は、充填率が60%以上であることが好ましい。このようにすることによって、プラズマが照射される面積を増やすことができ、ボロンを効率良く除去できる。充填率は、好ましくは80%以上であり、より好ましくは90%以上である。充填率の上限は、通常99%である。なお、充填率はアルキメデス法によって測定できる。また、かさ密度を測定して見積もることも可能である。
【0020】
金属シリコン多孔質体は、例えば金属シリコン粉末を焼結することによって調製できる。焼結の雰囲気は、還元性雰囲気とすることが好ましい。還元性雰囲気で金属シリコン粉末を焼結することによって、金属シリコン粉末の表面の酸化膜が還元され、反応性の高い状態となるので、焼結しやすくなる。還元性雰囲気は、例えば不活性ガス(アルゴンなどの希ガス、窒素など)と、一酸化炭素又は水素との混合ガスである。混合ガス中の一酸化炭素又は水素の割合は、これらの合計で例えば1体積%以上であり、好ましくは20体積%以上であり、30体積%以上がより好ましい。また、前記割合は、通常80体積%以下であり、好ましくは60体積%以下であり、より好ましくは50体積%以下である。
【0021】
また金属シリコン粉末の焼結温度は800℃以上とすることが好ましい。焼結温度を800℃以上とすることによって、焼結体の強度を向上させることができ、プラズマを照射した際に焼結体(多孔質体)が破壊するのを防止できる。焼結温度は、好ましくは900℃以上であり、より好ましくは1000℃以上である。焼結温度の上限は、例えば1400℃以下であり、好ましくは1300℃以下であり、1200℃以下であることがより好ましい。焼結時間は、通常30分〜5時間である。
【0022】
前記金属シリコン粉末は、最大粒径が3mm以下であることが好ましい。金属シリコン粉末の最大粒径を3mm以下とすることによって、ボロンの除去効率を上昇させることができる。金属シリコン粉末の最大粒径は、好ましくは1mm以下であり、より好ましくは100μm以下(特に50μm以下)である。金属シリコン粉末の最大粒径は、通常1μmを下回らない。
【0023】
なお、金属シリコン粉末は所定形状にプレス成形してから焼結しても良い。
【0024】
本発明によれば、短時間でボロンを効率良く除去することができる。
【0025】
また、本発明は、上記方法によってボロン濃度が低減された金属シリコンも包含する。
本発明の方法によって処理した後の金属シリコン中のボロン濃度は、0.4ppm以下であることが好ましい。処理後の金属シリコン中のボロン濃度は、処理前のボロン濃度に影響され、ボロン濃度が数ppmの金属シリコンを本発明の方法で1回処理すれば、ボロン濃度を0.4ppm以下まで低減できる。また、ボロン濃度が高い金属シリコンを処理する場合には、本発明の方法を複数回繰り返すことによって、ボロン濃度を0.4ppm以下まで低減できる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0027】
実施例1
最大粒径が45μm、ボロン含有量が87ppmのシリコン粉末4gを、アルミナ製のボートに乗せ、アルゴンと3体積%の水素との混合ガス雰囲気下、1100℃で1時間焼結し、シリコン多孔質体を得た。得られたシリコン多孔質体の充填率は、体積と重量よりかさ密度を求めた結果、70%程度と見積もられた。
【0028】
次にプラズマ発生用ガスとして水蒸気のみを用い、高周波誘導加熱によりプラズマジェットを発生させた。プラズマの表面温度は2000〜2500℃程度であった。
【0029】
シリコン多孔質体をルツボに入れ、ルツボを一方向に移動させてプラズマ照射し、5分でシリコン多孔質体を溶解した後(金属シリコンの温度は1800℃)、アルゴン雰囲気で冷却した。冷却後のボロンの含有量は52ppmであった。
【0030】
実施例2
最大粒径が100μm(最小粒径は75μm程度)のシリコン粉末を用いたこと以外は実施例1と同様にして、シリコンからボロンを除去したところ、ボロンの含有量は59ppmまで低減した。
【0031】
比較例1
シリコンを粉末のままルツボに入れ、実施例1と同様にしてプラズマを照射したところ、シリコン粉末がプラズマジェットにより飛散してしまい、シリコンの溶融及び回収ができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の方法は、金属シリコンから効率良くボロンを除去できるため、太陽電池用シリコン基板に用いる金属シリコンの精製方法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボロンを含有する金属シリコン多孔質体にプラズマを照射して溶融し、非酸化性雰囲気で冷却することを特徴とする金属シリコンからのボロン除去方法。
【請求項2】
前記金属シリコン多孔質体は、金属シリコン粉末の焼結体である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属シリコン多孔質体の充填率が60%以上である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記プラズマは直流アークプラズマである請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
プラズマ発生用ガスが、水素、水蒸気、二酸化炭素、及び酸素のうち少なくとも一種を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記金属シリコン多孔質体は、金属シリコン粉末を還元性ガス雰囲気下で焼結することによって調製される請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記金属シリコン多孔質体は、金属シリコン粉末を800℃以上で焼結することによって調製される請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記金属シリコン粉末の最大粒径は3mm以下である請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の方法によってボロンを除去した金属シリコン。